(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ハチ捕獲用容器からのハチ脱出防止剤
(51)【国際特許分類】
A01M 1/10 20060101AFI20250107BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A01M1/10 M
A01M1/02 A
(21)【出願番号】P 2021112678
(22)【出願日】2021-07-07
(62)【分割の表示】P 2020143012の分割
【原出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019154664
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓之
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-016151(JP,A)
【文献】特開平01-156390(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0055870(US,A1)
【文献】特開2018-177686(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0173340(US,A1)
【文献】特開平06-016518(JP,A)
【文献】特開2018-177641(JP,A)
【文献】大矢勝,界面活性剤の作用[2]:表面張力とぬれの関係,洗浄・洗剤の科学,2015年12月07日,http://www.detergent.jp/kaisetsu/effect02.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/10
A01M 1/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン酸ポリグリセリル(10)、ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル、ラウリン酸ポリグリセリル(5)、ラウリン酸ポリグリセリル(10)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、ポリオキシエチレン(360)ポリオキシプロピレン(70)ブロックポリマー、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル(C12~14:80%)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン及び、ラウリルジメチルアミンオキシドから選択される1種以上を含有する、ガラス面に対する接触角が40度以下である液状組成物からなる、ハチ
捕獲用容器からのハチ脱出防止剤。
【請求項2】
ラウリン酸ポリグリセリル(10)、ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル、ラウリン酸ポリグリセリル(5)、ラウリン酸ポリグリセリル(10)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、ポリオキシエチレン(360)ポリオキシプロピレン(70)ブロックポリマー、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル(C12~14:80%)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン及び、ラウリルジメチルアミンオキシドから選択される1種以上を含有する、ガラス面に対する接触角が40度以下である液状組成物を使用することを特徴とする、ハチ
捕獲用容器からのハチ脱出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチ用スリップ剤、このハチ用スリップ剤を使用してハチを滑落させる方法およびこのハチ用スリップ剤が収納されているハチ捕獲用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、害虫捕獲用容器として様々なものが知られており、例えば、ゴキブリや、ハエなどの小型飛翔害虫等を対象とした害虫誘引捕獲用容器は、一般家庭、飲食店、工場等において汎用されている。
また、ハチ捕獲用容器としては、各種形状のものが提案されている。具体的には、特許文献1には、カップ状の容器内部にハチを誘引するための誘引捕獲組成物を収納し、容器上部にハチの侵入口を有する蓋を取り付けた捕獲用容器が記載されている。特許文献2、3には、捕獲用容器の可視光透過率や色を調整することにより、ハチの捕獲効率を向上させる技術が紹介されている。特許文献4には、一旦捕獲されたハチが捕獲用容器から脱出することを抑制するために、ハチ侵入口を捕獲用容器上部中心部に配置されたものが記載されている。さらに、特許文献5には、特定の糖分濃度のハチ誘引成分を使用することにより、腐敗による発酵臭を発生させて、捕獲効率を向上させることが記載されている。
しかしながら、これらのハチ捕獲用容器内に液状の誘引捕獲剤が使用されている場合には、ハチが液状の誘引捕獲剤中に落ちても、ハチは液状の誘引捕獲剤の中を泳ぎ、液面から這い上がり、容器から脱出してしまうという問題があった。
【0003】
一方、ハチの多くは、自らやコロニーに危険が迫ると警報フェロモンを発して、同種他個体を呼び寄せる習性を有する。この習性を利用した粘着剤ハチトラップは、生きたハチを粘着面に貼り付けて警報フェロモンを発生させることにより、多くのハチを捕獲する仕様となっている。スズメバチ等の駆除業者は、ハチのこのような習性を利用して駆除を行うこともある。しかしながら、ハチに対して無防備な一般人や一般家庭においてハチを駆除する場合は、この習性に特に注意をしなければ、駆除を行う人がハチに襲われるなど危険に晒される可能性がある。
従来のハチ捕獲用容器において、上述のように捕獲用容器から脱出したハチが警報フェロモンを発することにより、捕獲用容器周辺に非常に多くのハチが襲来する危険性の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-073144号公報
【文献】特開2007-174964号公報
【文献】特開2009-247236号公報
【文献】特開2014-103933号公報
【文献】特開2007-176853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハチ捕獲用容器からハチの脱出を阻止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の接触角に調整された液状組成物が、ハチの脚の褥盤機能を低下させることを見出し、この液状組成物からなるハチ用スリップ剤とすることにより、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.ガラス面に対する接触角が40度以下である液状組成物からなる、ハチ用スリップ剤。
2.ガラス面に対する接触角が40度以下である液状組成物を使用することを特徴とする、ハチを滑落させる方法。
3.ガラス面に対する接触角が40度以下である液状組成物が、開口部を有する容器に収納されていることを特徴とする、ハチ捕獲用容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハチ用スリップ剤は、ハチの脚先に付着することにより、その褥盤機能を低下させる。これにより、本発明のハチ用スリップ剤をハチ捕獲用容器に使用した場合には、ハチ捕獲用容器内部に入り込んだハチが、液中から這い上がることができず、または、ハチ捕獲用容器内部の平滑性の高い壁面から滑り落ちるなどして登ることができないため、当該容器内からハチが脱出することを阻止する効果を発揮する。さらに、ハチ捕獲用容器からハチが脱出できないため、従来のハチ捕獲用容器のように脱出したハチが警報フェロモンを発することにより周辺に非常に多くのハチが襲来するという危険な事態を引き起こす心配がない。すなわち、本発明のハチ用スリップ剤をハチ捕獲用液剤としてハチ捕獲用容器に収納する、またはハチ誘引液の収納されたハチ捕獲用容器の壁面に塗布して使用すると、ハチ捕獲用容器を設置した場所周辺のハチのみを捕獲することができ、使用者が安全に利用できる点において有用である。なお、本発明のハチ用スリップ剤の使用法は、ハチ捕獲用容器に収納する方法や塗布する方法に限定されない。例えば、家屋の壁面や窓面、軒下、屋根裏等に塗布することで、ハチがスリップ剤が塗布された箇所から滑り落ち、ハチの採餌や営巣を防止することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハチ用スリップ剤、このハチ用スリップ剤を使用するハチを滑落させる方法およびこのハチ用スリップ剤が収納されているハチ捕獲用容器について詳細に説明する。
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整された液状組成物からなるものである。
本発明におけるガラス面に対する接触角は、市販の接触角計を用いて、「JIS R 3257」の規格を参考にした下記方法により、検体を測定した値を意味する。
25℃の温度条件下において、温度25℃、湿度60%の環境下に5日間静置したスライドガラスに、所定量の液状組成物を滴下し、20秒後のガラス面に対する接触角を、測定機器(例えば、協和界面科学株式会社製のFACE接触角計CA-X型)を用いて測定する。
【0010】
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整された液状組成物からなることにより、ハチの脚の褥盤機能を低下させる機能を発揮する。
ハチの脚の先には一対の鋭い爪があり、その爪の間に吸盤の役目をする褥盤がある。一般的に、爪は粗面上の歩行に、褥盤は滑面上の歩行に適用できるように発達してきたものである。ハチは、この褥盤の存在により、窓ガラスのような平滑性の高い壁面にもピタリと吸い付いて止まることや登ることなど、当該壁面上を動き回ることができる。
本発明のハチ用スリップ剤は、ハチの脚先にある褥盤に付着することにより、褥盤が有する吸盤のような機能を低下させるため、平滑性の高い面上においてハチをスリップさせ、滑落させる効果を発揮するものである。
したがって、本発明のハチ用スリップ剤を、ハチ捕獲用液剤として開口部を有する容器に収納してハチ捕獲用容器とした場合やハチ誘引液の収納されたハチ捕獲用容器の壁面に塗布場合、当該容器内部に侵入したハチは、スリップ剤と接触する。そうすると、本発明のハチ用スリップ剤により褥盤が有する吸盤のような機能が働かなくなるため、スリップ剤の液中から這い上がることができず、または、ハチ捕獲用容器内部の平滑性の高い壁面から滑り落ちるなどして登ることができず、ハチ捕獲用容器からの脱出を阻止することが可能となる。
【0011】
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整された液状組成物であれば、その組成や組成比に特に制限はなく、何れの成分をも配合することができる。ガラス面に対する接触角を調整する点において、界面活性剤を含有することが好ましいものの、ガラス面に対する接触角を調整する方法には制限はない。
液状組成物のガラス面に対する接触角を40度以下に調整できる界面活性剤であれば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも特に制限なく使用することができるが、中でも、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好適である。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。
好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。好適な陰イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。好適な陽イオン性界面活性剤としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドが挙げられる。好適な両性界面活性剤としては、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酸ベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
なお、これらの界面活性剤は、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0012】
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整された液状組成物であれば、上記の界面活性剤を単に水で希釈したものや、界面活性剤と、殺虫剤や一般的に製剤に添加される成分と共に製剤化したもの、さらには、製剤化したものを水で希釈したものなどが含まれる。中でも、本発明のハチ用スリップ剤として、上記界面活性剤とその他成分を製剤化したものが、コンパクトでありかつ保存安定性に優れるため、移送時や保管時において有利である。製剤型としては、例えば油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)等の液状製剤が挙げられ、希釈に使用する水としては、精製水、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水、井戸水等が用いられる。
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整された液状組成物であれば、上記界面活性剤の配合量は特に制限されない。一般的には、ハチ用スリップ剤全体に対して0.005重量%以上含有することが好ましく、0.01重量%以上含有することがより好ましく、0.05重量%以上含有することが特に好ましい。ハチ用スリップ剤全体に対して、上記界面活性剤の含有量が0.005重量%未満であると、ガラス面に対する接触角を40度以下に調整することが難しく、ハチの褥盤が有する吸盤のような機能を低下させることが出来ない。
【0013】
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整できる範囲内において、公知の殺虫剤を配合することができる。公知の殺虫剤を配合することにより、本発明のハチ用スリップ剤を、ハチ捕獲用液剤として収納したハチ捕獲用容器において、捕獲したハチを確実に致死させることができる。
配合できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン、エトキサゾール等のキチン合成阻害剤;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も使用することができる。忌避性の少ない、昆虫幼若ホルモン様化合物、抗幼若ホルモン様化合物、キチン合成阻害剤等の昆虫成長制御剤も、好適に使用することができる。
【0014】
これらの公知の殺虫剤の中でも、本発明のハチ用スリップ剤に殺虫剤を配合して使用する際には、ガラス面に対する接触角を40度以下に調整するために、水で希釈する可能性もあることも考慮すると、水溶性が高いものが製剤上好ましい場合がある。このような水溶解度を有する殺虫剤としては、例えば、アセフェート、バミドチオン、メチダチオン(DMTP)、フェノブカルブ(BPMC)、エチオフェンカルブ、カルタップ、チオシクラム、イミダクロプリド、チアクロプリド、シロマジン、ホスチアゼート、アセタミプリド、チアメトキサム、カルバリル(NAC)、クロチアニジン、ピメトロジン、ジノテフラン等が挙げられる。これらの中でも、例えば、ジノテフラン(20℃における水溶解度:約54000ppm)、チアメトキサム(20℃における水溶解度:約4100ppm)、イミダクロプリド(20℃における水溶解度:約510ppm)、フェノブカルブ(BPMC、20℃における水溶解度:約610ppm)等の20℃における水溶解度が500ppm以上のものが、本発明のハチ用スリップ剤に配合する殺虫剤としてより好適である。
【0015】
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整できる範囲内において、公知の誘引成分を配合することができる。配合できる公知の誘引成分としては、例えば、バルサミコ酢、リンゴ酢、米酢、玄米酢、粕酢、大豆酢、黒酢、ワインビネガー、すだち酢、赤酢、柿酢、麦芽酢、紫イモ酢、サトウキビ酢等の酢、乳酸製品(乳酸菌飲料等)、砂糖類、でんぷん糖類、はちみつ、果実、果実加工品、果汁、果汁飲料、果実酒等、酒類、酒粕、魚介類、魚介類加工品、魚介類抽出物、食肉、食肉加工品、食肉抽出物、香料等をベースとしたものであってもよい。上記誘引成分の中でも、特に液体のものが好ましい。さらに、グリセリン等の脂肪族多価アルコール、ソルビトール等の糖アルコール、キサンタンガム等の増粘多糖類等の保湿成分を含ませれば、長期にわたり誘引成分の効能を発揮させることができる。
【0016】
本発明のハチ用スリップ剤は、ガラス面に対する接触角が40度以下に調整できる範囲内において、一般的に製剤に添加される成分を配合することができる。一般的に製剤に添加される成分の例としては、安定化剤、防腐剤、着色料、誤飲防止剤、液体担体等が挙げられる。安定化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、アスコルビン酸等が挙げられる。防腐剤の例としては、ソルビン酸、ソルビン酸塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、チアベンダゾール等が挙げられる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、紅花色素、フラボノイド色素、赤色2号、赤色3号、黄色4号、黄色5号、等が挙げられる。誤飲防止剤としては、安息香酸デナトニウム等が挙げられる。
【0017】
製剤化の際に用いられる液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
【0018】
本発明のハチ用スリップ剤が優れたスリップ効果を発揮するハチは、スズメバチ科(Vespidae)に属するハチを主な対象とするものであるが、アリガタバチ類、クマバチ、ベッコウバチ、ジガバチ、ドロバチ等の膜翅目害虫に属するものが挙げられる。中でも、スズメバチ科ハチとしては、スズメバチ亜科(Vespinae)およびアシナガバチ亜科(Polistinae)に属するハチを挙げることができる。
スズメバチ亜科に属するハチとしては、例えば、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ、クロスズメバチ、シダクロスズメバチ、ヤドリスズメバチなどを挙げることができる。
また、アシナガバチ亜科に属するハチとしては、例えば、キアシナガバチ、セグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、トガリフタモンアシナガバチ、ヤマトアシナガバチ、キボシアシナガバチ、コアシナガバチ、ヤエヤマアシナガバチ、ムモンホソアシナガバチ、ヒメホソアシナガバチなどの土着種を挙げることができる。これら土着種に加えて、対馬や北九州市に侵入したツマアカスズメバチも挙げることができる。アシナガバチの攻撃性や毒性はスズメバチに比べて小さいものの、民家に営巣することがあり、また、それに刺されることによる死亡例もあるため、防除対象である点ではスズメバチと同様である。
【0019】
<ハチ捕獲用容器について>
本発明のハチ用スリップ剤は、ハチ捕獲用液剤として開口部を有する容器に収納してハチ捕獲用容器として使用することやハチ誘引液の収納されたハチ捕獲用容器の壁面に塗布することができる。
収納もしくは塗布する容器は、本発明のハチ用スリップ剤やハチ誘引液を内部に収容でき、ハチが容器内部に侵入できる開口部を有する形態であれば、形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等が挙げられる。特に、容器内部の壁面は、捕獲されたハチが脚の爪を使用して登り、容器から脱出することができないように、突起物がない滑面であることが好ましい。さらに、本発明のハチ用スリップ剤により、ハチの褥盤が有する吸盤のような機能を低下させるために、容器内部の壁面はガラスのような平滑面であることが、本発明の効果を最大限のものとするためにより好ましい。
開口部を有する容器の態様の1例として、容器の開口部を覆う蓋を有し、この蓋または容器の何れかにハチが侵入する開口部を有する態様が挙げられる。この開口部は、ハチが容器内に容易に侵入できる大きさや形状であればよく、開口部の寸法(径、幅、長さ)は、20mm以上35mm以下に設定することが好ましく、25mm以上30mm以下に設定することがより好ましい。開口部が20mmより小さくなると、オオスズメバチ等の大型のハチが開口部から侵入し難く捕獲効率が低下する。また、開口部が35mmより大きくなると、ハチ以外の蝶、蛾、甲虫等が容器内に侵入してしまう。ハチが容器内に侵入しやすいように、複数の開口部を容器に形成することが良いが、その数は容器の大きさにもよるが2個以上5個以下の開口部を形成することが好ましい。また、容器内に侵入したハチが容易に容器外に脱出することを防止するために、開口部は漏斗状等の形状であることが好ましい。
容器は、ハチ捕獲数を目視できるように、透明又は半透明の窓相当部を設けたもの、もしくは透明または半透明の容器としてもよく、捕獲したハチを見えにくくして不快感を抑えることもできる。
ハチ捕獲用容器を野外に設置する場合、雨水等が浸入して本発明のハチ用スリップ剤が希釈されることによる、効果の低減を防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
本発明のハチ捕獲用容器は、なるべく直射日光の当たらない、地面から1~3m辺りに吊るす、または柵などに固定して使用することが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、処方例および試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0021】
<ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験>
(1)試験検体の調製
下記表1に示す各成分を試験検体として使用した。
(2)ガラス面に対する接触角の測定
温度25℃、湿度60%の環境下に5日間静置した、スライドガラス(26mm×76mm、松浪硝子工業株式会社製、S1226)に、FACE接触角計CA-X型(協和界面科学株式会社製)の付属のシリンジを用いて、各試験検体を約1.8μL滴下し、滴下から20秒後の接触角をFACE接触角計CA-X型(協和界面科学株式会社製)にて測定した。測定は全て室温25℃にて実施し、各3回行った。表1に、試験検体の成分詳細、ガラス面に対する接触角の測定値の平均値を併せて示す。
(3)スリップ試験
15mL試験チューブ(AGCテクノグラス株式会社製)に100μLの試験検体を滴下、振とうして壁面全体に塗布した。そこに捕獲後30分間馴化させたセイヨウミツバチ(以下、「試験ハチ」という。)を入れた後、垂直に立て、1分間試験ハチの様子を観察し、試験チューブを登れるかを、下記評価基準に従い評価した。
[評価基準]
〇:壁面を滑って登ることができず、1分後に天面に到達できていない。
×:壁面を登ることができ、1分以内に天面に到達できる。
【0022】
【表1】
表1中のシリコーン系化合物、エステル系溶剤、界面活性剤1~6の詳細は、以下のとおりである。
ジメチルポリシロキサン1:旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、「DM1 plus」
ポリエーテル変性シリコーン:ケーアイケミカル株式会社製、「SILSOFT 870」
ジメチルポリシロキサン2:旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、「AK1000」
乳酸エチル:株式会社武蔵野化学研究所製
ミリスチン酸イソプロピル:東京化成工業株式会社製
界面活性剤1:ラウリン酸ポリグリセリル(10)、HLB:15.5
界面活性剤2:ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル、HLB:13.5
界面活性剤3:ラウリン酸ポリグリセリル(5)、HLB:15.8
界面活性剤4:ラウリン酸ポリグリセリル(10)、HLB:17.1
界面活性剤5:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、HLB:14.0
界面活性剤6:ポリオキシエチレンフィトスチロール、HLB:18.0
【0023】
表1に示すとおり、試験検体の成分の種類に関わらず、ガラス面に対する接触角が40度以下である試験検体が壁面に存在すると、試験ハチが壁面を登ることができないことが確認された。試験検体が水のみの場合には、試験ハチは壁面を自由に歩き回るのに対して、ガラス面に対する接触角が40度以下である試験検体では、試験ハチは壁面に留まることができず、羽ばたきながら登ろうとする動作を繰り返す様子が目視にて確認することができた。このことから、ガラス面に対する接触角が40度以下である試験検体は、ハチの脚の褥盤機能を低下させる、もしくは機能させない作用を有することが明らかとなった。
【0024】
<ガラス面に対する接触角の測定2と脱出防止効果の確認試験>
(1)試験検体の調整
上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」に使用した界面活性剤1~6それぞれを、水と混合して0.06重量%の均一な水溶液を得、これを試験検体1~5、7とした。
清酒、食用酢、砂糖を重量比率2:1:1で混合したハチ用誘引液に、上記界面活性剤1の濃度が1.0重量%となるように添加したものを試験検体6とした。なお、この試験検体6は、上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」の表1中の「混合物」と同じである。
精製水のみを試験検体8とし、市販されているハチ誘引剤を、市販品に記載された使用方法に従い、水で5倍に希釈したものを試験検体9とした。
(2)ガラス面に対する接触角の測定
上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」と同様に、ガラス面に対する接触角を測定した。測定は全て室温25℃にて実施し、各3回行い、その平均値を表2に示す。
(3)ハチ捕獲用容器からの脱出防止効果の確認試験
市販されているハチ誘引液入りの捕獲用容器の空容器(ポリプロピレン製)に、各試験検体250mLを入れた。その試験検体液面にセイヨウミツバチ(以下、「試験ハチ」という。)1匹を投入し、一度液面下に試験ハチを溺れさせた後に、液面から脱出するか否かを観察した。試験は5回行い、脱出できなかった回数を試験回数5で除した値を脱出防止率(%)として表2に示す。
【0025】
【0026】
表2に示すとおり、ガラス面に対する接触角が40度以下である試験検体1~6は、ハチ捕獲用容器からの脱出防止効果が極めて高いことが明らかとなった。上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」の結果と総合すると、ガラス面に対する接触角が40度以下である試験検体は、ハチの脚の褥盤機能を低下または停止させて、捕獲用容器からの脱出を防止することが確認された。
【0027】
<ガラス面に対する接触角の測定3、スリップ試験および脱出防止効果の確認試験>
様々な種類の界面活性剤について、そのガラス面に対する接触角と、スリップ効果や脱出防止効果との関係を確認するために、確認試験を行った。
(1)試験検体の調製
下記表3に示す界面活性剤7~15それぞれを、水と混合して1重量%の均一な水溶液を得、これを試験検体10~18とした。
(2)ガラス面に対する接触角の測定
上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」と同様に、ガラス面に対する接触角を測定した。測定は全て室温25℃にて実施し、各3回行い、その平均値を表3に示す。
(3)上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」と同様に、スリップ試験を行い、その結果を同様に評価した。その評価結果を表3に示す。
(4)ハチ捕獲用容器からの脱出防止効果の確認試験
上記「ガラス面に対する接触角の測定2と脱出防止効果の確認試験」と同様に、ハチ捕獲用容器からの脱出防止効果の確認試験を行った。試験は5回行い、脱出できなかった回数を試験回数5で除した値を脱出防止率(%)として表3に示す。
【0028】
【表3】
表3中の界面活性剤7~15の詳細は、以下のとおりである。
<非イオン性界面活性剤>
界面活性剤7:ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド
界面活性剤8:モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン
界面活性剤9:ポリオキシエチレン(360)ポリオキシプロピレン(70)ブロックポリマー
<陰イオン性界面活性剤>
界面活性剤10:ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム
界面活性剤11:ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム
界面活性剤12:ラウリル硫酸ナトリウム
<陽イオン性界面活性剤>
界面活性剤13:アルキル(C12~14:80%)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド
<両性界面活性剤>
界面活性剤14:ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン
界面活性剤15:ラウリルジメチルアミンオキシド
【0029】
表3に示すとおり、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤と、水に溶解した時にイオンに解離するか否かの分類上の種類に関わらず、ガラス面に対する接触角が40度以下である試験検体が壁面に存在すると、試験ハチが壁面を登ることができず、ハチ捕獲用容器からの脱出防止効果が極めて高いことが明らかとなった。
【0030】
<アシナガバチに対するスリップ試験>
(1)試験検体
上記「ガラス面に対する接触角の測定2と脱出防止効果の確認試験」の試験検体6、8を使用した。
(2)試験方法
試験ハチをアシナガバチに変更し、15mL試験チューブ(AGCテクノグラス株式会社製)の代わりに、50mL試験チューブ(AGCテクノグラス株式会社製)を使用した以外は、上記「ガラス面に対する接触角の測定1とスリップ試験」と同じように試験した。
(3)試験結果
本発明のハチ用スリップ剤の具体例である試験検体6(ガラス面に対する接触角:32.9度)を使用した場合は、アシナガバチは、壁面を滑って登ることができず、1分後に天面に到達できないことが確認された。これに対して、本発明のハチ用スリップ剤とは異なる試験検体8(ガラス面に対する接触角:52.3度)を使用した場合は、アシナガバチは壁面を登ることができ、天面に到達できることが確認された。
この試験結果から、本発明のハチ用スリップ剤は、ハチの種類に関わらずハチの脚の褥盤機能を低下または停止させる作用を有することが明らかとなった。
【0031】
<屋外における確認試験>
本発明のハチ用スリップ剤を、ハチ捕獲用液剤として収納したハチ捕獲用容器を使用して、実際の使用態様におけるハチ捕獲効果を確認するために、屋外において確認試験を行った。
(1)試験検体
上記「ガラス面に対する接触角の測定2と脱出防止効果の確認試験」の試験検体6(ガラス面に対する接触角:32.9度、実施例)と、試験検体6に界面活性剤1が入っていない試験検体19(清酒:食用酢:砂糖=2:1:1(重量比率)、ガラス面に対する接触角:51.4度、比較例)を使用し、これを、市販されているハチ誘引液入りの捕獲用容器の空容器(ポリプロピレン製)に、試験検体6、19をそれぞれ250mL入れたものを使用した。
(2)試験方法
雑木林の中に、上記実施例と比較例を3m離し、地上から2mの高さに載置する試験区を2箇所(試験区1、2)設定し、容器内に捕獲されたハチの様子を確認するとともに、生存個体の有無について1週間後観察した。
【0032】
(3)観察結果
本発明のハチ用スリップ剤の具体例である試験検体6(ガラス面に対する接触角:32.9度)を使用した実施例においては、試験区1、2ともに、ハチ捕獲用容器内に捕獲されたスズメバチ等のハチは全て、試験検体6から這い上がることができず生存していなかった。これに対して、本発明のハチ用スリップ剤とは異なる試験検体19(ガラス面に対する接触角:51.4度)を使用した比較例においては、試験区1、2ともに、ハチ捕獲用容器内に捕獲されたスズメバチ等のハチは、生存している個体がみられた。また、比較例の試験区1、2では、ハチ捕獲用容器内に捕獲されたスズメバチ等のハチが容器外に脱出したこと、さらには、その後多くのハチが飛来したことが目視で確認された。この多くのスズメバチ等のハチの飛来は、ハチ捕獲用容器から脱出したスズメバチ等のハチが警報フェロモンを発したため、スズメバチ等のハチを呼び寄せたことに起因するものと推察している。