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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】自己制限的ヒータ
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/02 20060101AFI20250107BHJP
   H01C 17/065 20060101ALI20250107BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H01C7/02
H01C17/065 100
H05B3/14 A
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021025208
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2021136448
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】62/981,650
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519226506
【氏名又は名称】リテルフューズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エフレム フェシャイエ
(72)【発明者】
【氏名】パウリウス カビシウス
(72)【発明者】
【氏名】ジアンフア チェン
(72)【発明者】
【氏名】リマンタス ミセヴィシウス
【審査官】花田 尚樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-018837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0297665(US,A1)
【文献】特開平04-049601(JP,A)
【文献】特開2015-198106(JP,A)
【文献】特開平11-116209(JP,A)
【文献】特開2004-014286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/02
H01C 17/065
H05B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧源と、
温度変化に対する抵抗変化が最小限である抵抗器と、
正温度係数(PTC)抵抗器と
を備える自己制限的ヒータであって、
前記抵抗器および前記PTC抵抗器は、
互いに直列に電気的に結合され、
互いに熱的に結合され、
金属系基板プリント回路基板(PCB)上に積層され、ここで前記金属系基板PCBは、
金属基板で構成されるベース層、ここで、前記金属基板は、アルミニウム系合金である;
前記抵抗器および前記PTC抵抗器を電流が流れる際に熱を吸収する誘電体層、ここで、前記熱は、前記ベース層に伝達される;および
銅箔を含む回路層;
を含み、
前記自己制限的ヒータは、温度制限条件までの温度上昇に応答して、電力出力を自動的に低減する、
自己制限的ヒータ。
【請求項2】
前記抵抗器および前記PTC抵抗器は、前記金属系基板PB上にはんだ付けされるチップ抵抗器である、請求項1に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項3】
前記抵抗器および前記PTC抵抗器は、前記金属系基板PB上塗布される抵抗インクを含む、請求項1に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項4】
前記抵抗器および前記PTC抵抗器は、直接接触して結合される、請求項1から3のいずれか一項に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項5】
前記抵抗器および前記PTC抵抗器は、前記金属系基板PCBにはんだ付けされる、請求項1または2に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項6】
前記抵抗器は第1オーム抵抗を有し、前記PTC抵抗器は第2オーム抵抗を有し、前記第1オーム抵抗の温度変化は、前記第2オーム抵抗の温度変化より小さい、請求項1からのいずれか一項に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項7】
前記第1オーム抵抗は、
前記第2オーム抵抗より高い、
請求項に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項8】
前記第1オーム抵抗は、
前記第2オーム抵抗と同様である、
請求項に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項9】
前記第1オーム抵抗は、
前記第2オーム抵抗より低い、
請求項に記載の自己制限的ヒータ。
【請求項10】
自己制限的ヒータを製造する方法であって、
金属系基板プリント回路ボード(PCB)に抵抗素子を結合する段階であって、ここで、前記金属系基板PCBは、
金属基板で構成されるベース層、ここで、前記金属基板は、アルミニウム系合金である;
誘電体層;および
銅箔を含む回路層;を含む、段階と、
前記金属系基板PCBに正温度係数(PTC)素子を結合する段階であって、ここで、前記抵抗素子および前記PTC素子は、互いに電気的に直列に結合される、段階と
を備え、
前記抵抗素子及び前記PTC素子は、互いに熱的に結合され、
電圧が電源から供給されると、前記誘電体層は、前記抵抗素子及び前記PTC素子を電流が流れる際に熱を吸収して、前記熱は、前記ベース層に伝達され、
前記自己制限的ヒータは温度が温度制限条件まで増加することに応じて、その電力出力を自動的に低減させる
方法。
【請求項11】
前記抵抗素子は抵抗チップである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記PTC素子は第2抵抗チップである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属系基板PCBに前記抵抗チップおよび前記第2抵抗チップをはんだ付けする段階を更に備える請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抵抗素子および前記PTC素子は、スクリーン印刷を使用して、前記金属系基板PCBに堆積される、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記金属系基板PCBに前記抵抗素子および前記PTC素子を結合する段階を更に備える請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記抵抗素子および前記PTC素子は、抵抗インクを使用して前記金属系基板PCBに塗布される、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2020年2月26日に出願された「SELF-LIMITING HEATER」と題する米国仮特許出願第62/981,650号に基づく優先権の利益を主張するものであり、この出願全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
正温度係数(PTC)デバイスは、温度に反応する初期抵抗を有する材料で作られる。PTCデバイスの温度が上昇するにつれて、抵抗も増加する。PTC素子を通過する電流が所定の制限を超えて増加すると、PTC素子が熱くなることで、PTC素子の抵抗が増加し、その抵抗により、保護されたデバイスを通る電流の流れが劇的に低減または阻止され得る。それにより、回路を流れる軽減されていない故障電流にさもなければ起因するであろう損傷が防止される。
【0003】
PTCデバイスは、寿命および温度に対する安定性がかなり低いため、加熱用途には適していない。温度係数が高いPTC加熱デバイスは、わずかな温度変化でも消費電力を急速に低減する。故に、係るPTCデバイスを使用するヒータの有効性は限られている。温度係数が低いPTCデバイスには、急峻な温度制限特性がない。
【0004】
本改善が有用であり得るのは、これらおよび他の考慮事項に対してである。
【発明の概要】
【0005】
この概要は、発明を実施するための形態において以下で更に説明する概念の選択を簡略化された形態で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の重要な特徴または本質的な特徴を特定するように意図されるわけでも、特許請求される主題の範囲の決定を助けるものとして意図されるわけでもない。
【0006】
本開示に係る自己制限的な加熱デバイスのある例示的な実施形態は、電圧源、温度変化に対する抵抗変化が最小限である抵抗器、正温度係数(PTC)抵抗器を含んでよく、当該抵抗器および当該PTC抵抗器は、互いに直列に結合され、互いに熱的に結合され、自己制限的ヒータは、所定の電力出力への到達に応答して、電力出力を自動的に低減する。
【0007】
本開示に係る自己制限的な加熱デバイスを製造する方法のある例示的な実施形態は、金属系基板プリント回路ボード(PCB)の銅層に抵抗素子を結合し、金属系基板PCBの銅層に正温度係数(PTC)素子を結合する段階であって、抵抗素子およびPTC素子は、互いに直列である、段階、金属系基板PCBの銅層に、第1端子および第2端子を含む電源を結合する段階であって、第1端子は抵抗素子に結合し、第2端子はPTC素子に結合する、段階を含んでよく、金属系基板PCBは、電源からの電圧の放出に応答して温度が上昇し、自己制限的ヒータの温度は、所定の温度を超えない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】複数の例示的な実施形態に係る、自己制限的ヒータの回路図を示す図である。
【0009】
図2A】複数の例示的な実施形態に係る、金属系基板PCB上の自己制限的ヒータの上面図である。
図2B】複数の例示的な実施形態に係る、金属系基板PCB上の自己制限的ヒータの側面図である。
【0010】
図3A】複数の例示的な実施形態に係る、図2の自己制限的ヒータの熱的結合方法を示す図である。
図3B】複数の例示的な実施形態に係る、図2の自己制限的ヒータの熱的結合方法を示す図である。
【0011】
図4】複数の例示的な実施形態に係る、PTCデバイスの電力特性を示すグラフである。
【0012】
図5A】複数の例示的な実施形態に係る、図2の自己制限的ヒータの電力特性を示すグラフである。
図5B】複数の例示的な実施形態に係る、図2の自己制限的ヒータの電力特性を示すグラフである。
図5C】複数の例示的な実施形態に係る、図2の自己制限的ヒータの電力特性を示すグラフである。
図5D】複数の例示的な実施形態に係る、図2の自己制限的ヒータの電力特性を示すグラフである。
【0013】
図6】複数の例示的な実施形態に係る、金属系基板PCB上の自己制限的ヒータの上面図および断面図を示す図である。
【0014】
図7】複数の例示的な実施形態に係る、自己制限的ヒータの試験データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
自己制限的ヒータ、および、自己制限的ヒータを構築するための方法が開示される。自己制限的ヒータは、電力供給装置と直列に結合される抵抗器およびPTC抵抗器で構成される。どちらの抵抗デバイスも良好な熱的結合を有する。抵抗器は温度変化に対する抵抗変化が最小限であるが、PTC抵抗器の抵抗は温度上昇に伴って増加する。抵抗器とPTC抵抗器との抵抗の比率は、PTC抵抗器の制限の幾つかが回避されることを保証するために選択される。
【0016】
自己制限的とは、ヒータが加熱電力出力を制限することを意味する。ヒータの自己制限的機能とは、ヒータへの電力が遮断されるか、または大幅に(ほぼゼロ電力まで)低減されることを意味する場合がある。あるいは、自己制限的とは、電力がある所定の制限まで減少することを意味する場合がある。
【0017】
図1は、複数の例示的な実施形態に係る、抵抗素子102がPTC素子104に結合された回路100の代表図である。以下では、本明細書において抵抗加熱デバイス100としても知られている回路100についてより詳細に説明する。回路100の抵抗素子102は、PTC素子104に直列に電気的に接続される。単一の抵抗素子102および単一のPTC素子104が示されているが、回路100を構成する抵抗素子および/またはPTC素子は複数あってよい。以下、これらの素子を「抵抗器102」および「PTC104」とそれぞれ称する。電源106が抵抗器102およびPTC104に結合され、電源108の第1端子が抵抗器に接続され、電源110の第2端子がPTCに接続される。
【0018】
回路100は、少なくとも2つの抵抗素子、すなわち、抵抗器102およびPTC104を使用して構築される抵抗加熱デバイスを表す。複数の例示的な実施形態では、これらの抵抗素子のうち第1のもの、すなわち、図1の抵抗器102は、温度変化に対する抵抗変化が非常に小さい、言い換えると、温度係数が低い。これは、回路100の温度に変化があったとしても、抵抗器102のオーム抵抗にはあまり変化がないことを意味する。複数の例示的な実施形態では、このオーム抵抗の変化は、温度が-40℃~+160℃変化した場合でも、セ氏1度(℃)あたり1000ppmより大きくは変化しない。
【0019】
抵抗加熱デバイス100内の抵抗素子のうち第2のもの、すなわち、図1のPTC104は、温度依存性が高く、かつ、温度係数が正である抵抗を有する。言い換えると、抵抗加熱デバイス100の温度が変化するにつれて、PTC104の抵抗も変化する。更に、複数の例示的な実施形態では、抵抗加熱デバイス100の温度が上昇するにつれて、PTC104の抵抗が増加し、抵抗加熱デバイスの温度が低下するにつれて、PTCの抵抗が減少する。複数の例示的な実施形態では、このオーム抵抗の変化は、元の値の数パーセントから最大で1000倍変化し、温度は、セ氏-40度(℃)~セ氏160度変化する。
【0020】
抵抗器102およびPTC104は、図1に示すように、直列に電気的に接続される。更に、複数の例示的な実施形態では、抵抗器102およびPTC104は、互いに対する良好な熱的結合を有する。この熱的結合については、以下でより詳細に説明する。
【0021】
プリント回路ボード(PCB)は従来、FR-4などの繊維ガラス材料を使用して製造されている。特定の高出力用途では、金属系基板PCBがより一般的になりつつある。金属系基板PCBは、PCB上の構成要素から熱を放散する。金属系基板(金属被覆)PCBの製造には、ほぼあらゆる金属が使用され得る。アルミニウムPCBは、以下に限定されるわけではないが、例えば、高出力の電力供給装置およびLED電球を含む、多くの業界で人気がある。
【0022】
回路100に係る抵抗加熱デバイスは、金属系基板PCBを使用して作られ得る。図2Aおよび図2Bは、複数の例示的な実施形態に係る、抵抗加熱デバイス200の上面図および側面図である。上面図(図2A)において、抵抗加熱デバイス200は、金属系基板または金属被覆PCB206上に配置され、抵抗器202a、抵抗器202b(総称して「抵抗器202」)、および、これら2つの抵抗器の間に配置されるPTC204を含む。
【0023】
金属系基板または金属被覆PCBは、銅箔回路層で覆われた金属系積層体で作られる。この金属は、アルミニウム、マグネシウム、および、シルミン(Al‐Mg‐Si)などの材料の組み合わせであってよい。金属系基板PCBは、アルミニウム系合金などの金属基板で構成される基層と、レガシPCBのFR-4であり得る誘電体(断熱)層と、銅箔から成る回路層とで構成される。全てのPCBボードには、少なくとも単一の金属層があり、この金属層は通常、以下に限定されるわけではないが、銅である。基板とは、金属系のPCBの本体を指す。代替的に、基板はFR-4で作られ得る。あるいは、PCBが銅インレイで構成されてもよいし、PCBがアルミナまたは窒化アルミニウムなどのセラミックPCBであってもよい。誘電体層は、電流が銅層上の回路を流れる際に熱を吸収し、その熱は、アルミニウム層に伝達されてから、そこで分散される。金属系基板PCBは、レガシPCBよりもはるかに優れた熱放散を行う。
【0024】
抵抗加熱デバイス200(図2B)の側面図は、上部(回路)層210、中間(誘電体)層212、および下部(金属基板)層214を示す。各層の厚みが異なり得るため、側面図は縮尺通りには描かれていない。FR-4は、かなり優れた断熱材である。厚みが薄いほど、熱源とヒートシンクとして機能する金属層(アルミニウム)との間の熱的結合および電力伝達が良好である。例えば、誘電体層212の厚みは、0.1mmと薄くてよく、アルミニウム層の厚みは、以下に限定されるわけではないが、0.4~3.2mmであってよい。
【0025】
複数の例示的な実施形態では、抵抗加熱デバイス200の抵抗器202とPTC204との間に良好な熱的結合があり、PCBは、両方のデバイスを結合するインタフェースである。良好な熱的結合によって、加熱されている回路/デバイスまたは媒体/デバイスの1または複数の構成要素の破壊をもたらし得る熱暴走、すなわち、ある温度上昇が、絶え間ない温度上昇を引き起こすようなやり方で状況を変化させる、一種の制御されていないフィードバックイベントが防止される。一実施形態では、抵抗加熱デバイス200の熱的結合は、アルミニウムであり得る下部金属基板層214上に抵抗器202およびPTC204の両方をはんだ付けすることにより達成される。PCB208のアルミニウム基板上にこれらのデバイスをはんだ付けすることにより、抵抗加熱デバイス200における熱暴走の発生が防止される。
【0026】
代替的に、別の実施形態では、抵抗加熱デバイス200の抵抗デバイスのうちの1つであるPTC204は、2つの導電性プレートの間に、例えば、抵抗膜を使用して、抵抗層と積層される。図3Aおよび図3Bは、このプロセス300を示す。PTC層304が抵抗膜302または抵抗加熱素子302と積層され、積層されたPTC層は、2つの導体層306aおよび306b(総称して「導体層306」)の間に配置される。導体層306は、以下に限定されるわけではないが、銅を含む任意の高伝導材料で構成され得る。PTC層304を抵抗膜302と積層し、かつ、これらを導体層306で囲むことにより、PTCと抵抗膜との良好な熱的結合が達成されるため、抵抗加熱素子302は熱暴走から保護される。図3Bは、このプロセスの図解を提供する。良好な熱的結合は、抵抗膜とPTCとの間に直接的接触を有することで達成される。
【0027】
当業者にはよく知られているように、抵抗加熱デバイス200の抵抗素子は、様々なやり方でPCB206に取り付けられ得る。抵抗器202およびPTC204は、従来の手法である、エッチングされた銅の上部回路層210上にはんだ付けされるチップ抵抗器であってよい。あるいは、抵抗器202およびPTC204は、例えば、スクリーン印刷を使用することにより、銅層上に堆積され得る。抵抗加熱デバイス200を作成するための別の手法は、抵抗インクを使用することであってよい。抵抗インクがPCBの銅層に塗布されると、導電性銅と抵抗インクとの間に電気的接触が形成される。はんだ付けは、導電性はんだ(金属)と抵抗材料との間に同じ種類のインタフェースを提供している。本開示の実施形態は、この点において限定されない。
【0028】
[温度係数]
【0029】
全ての抵抗器には関連付けられる温度係数があり、この温度係数は、温度が合意された基準温度から逸脱する際に抵抗器のオーム抵抗がどれだけドリフトするかを示すものである。抵抗器の基準温度がセ氏20度であり、かつ、抵抗器が使用されている温度が30度である場合は、抵抗器のオーム抵抗はある程度変化する。温度変化に対する抵抗変化が最小限である抵抗器のオーム抵抗、例えば、25ppm/℃は、温度が大幅に変化してもあまり変化しないが、温度係数が高い抵抗器のオーム抵抗、例えば、5000ppm/℃は、大幅に変化し得る。故に、温度係数が高い抵抗器は、それらが存在する回路の信頼性に影響を与え得る。
【0030】
その名が示すように、正温度係数抵抗器の略であるPTC抵抗器にも、関連付けられる温度係数がある。「P」は、温度が上昇するとPTC抵抗器のオーム抵抗も増加することを示す。(対照的に、温度係数が負である(NTC)抵抗器のオーム抵抗は、温度が上昇するにつれて減少する。
【0031】
PTC抵抗器は、寿命および温度に対する安定性がかなり低いため、加熱用途には適していない。温度に対する低い安定性は、同じ温度での抵抗を指しており、到達した温度に応じて異なる場合がある。例えば、PTCを含むヒータが非常に低い温度から20℃に達したとする。その場合、PTCの抵抗は、同じPTCデバイスを冷却することにより20℃の温度に達した場合より小さくなる。また、PTCデバイスの経年劣化は影響を及ぼす。長い動作時間の経過と共に、PTCデバイスの抵抗はゆっくりとドリフトするため、ヒータの電力出力が変化する。温度係数が高いPTC加熱デバイスは、わずかな温度変化でも影響を受け、温度が変化している間の消費電力を急速に低減する。故に、温度係数が高いPTCデバイスを使用するヒータの有効性は限られている。
【0032】
温度係数が低いPTCデバイスは、温度係数が高いPTCデバイスほど極端には温度変化の影響を受けない。それにもかかわらず、係る温度係数が低いPTCデバイスには、急峻な温度制限特性がない。係るPTCはまた、電力出力をすぐに低減するため効果的ではない。幾つかの用途では、オブジェクト/デバイスをできるだけ速く最適な動作温度にすることが重要である。それらの用途では、電力出力をできるだけ高くすべきである。しかし、オブジェクト/デバイスには通常、供給できる電力に制限がある。その結果、急峻なPTCデバイスは出力電力をすぐに失い、オブジェクト/デバイスが十分に加熱されない。一方で、急峻な温度制限特性を持たないPTCは、電力出力を低減しない場合があり、代わりに過熱を引き起こす場合がある。
【0033】
これらの対照的な特性は、図4のグラフ400に示されている。急峻な温度制限特性を持つ抵抗デバイスは、出力電力をすぐに失い、その結果、当該抵抗デバイスを含むオブジェクト/デバイスは、最高温度(Tmaxで示される)に到達しない。対照的に、急峻ではない温度制限特性を持つ抵抗デバイスは、出力電力をはるかによりゆっくりと失い、オブジェクト/デバイスが最高温度を超えて過熱領域に入るリスクがある。
【0034】
[消費電力]
【0035】
抵抗加熱デバイス200の場合は、消費電力は、これら2つ(またはそれより多く)の抵抗素子の全抵抗および印加される電圧に依存する。消費電力は、以下の式を使用して計算され得る。
(P=V/Rsum) (1)
ここで、Pはヒータの消費電力であり、Vは、加熱素子に印加される電圧であり、Rsumは、直列に接続される抵抗素子の全抵抗である。抵抗加熱デバイス200は2つ(組)の抵抗素子を有するため、これは数学的に以下のように表記され得る。
sum=(ΣR+ΣRPTC) (2)
ここで、Rは抵抗器202の抵抗であり、RPTCはPTC204の抵抗である。抵抗加熱デバイス200が、直列である複数の抵抗器202を含む場合は、これらの抵抗器の全抵抗は個々の抵抗の合計であり、同様に、互いに直列である複数のPTC204が存在する場合は、PTC204の全抵抗は個々の抵抗の合計である。当業者にはよく知られているように、抵抗加熱デバイス200は、単一の抵抗器202および単一のPTC204、または各々の倍数を採用し得る。
【0036】
PTC204は、抵抗器202と比較して室温での抵抗が比較的低い場合がある。結果として、電圧が抵抗加熱デバイス200に印加されると、これら2つの(直列に接続される)抵抗素子を流れる電流は、抵抗器202で消費される電力の大部分をもたらす。この電力消費によって抵抗器202は熱くなる。但し、PTC204は、消費電力が抵抗器202の消費電力と比較して小さいため、よりゆっくりと熱くなる。
【0037】
上記のように、特に低温での熱暴走を回避するために、抵抗素子とPTC素子との間の良好な熱的結合が保証される。良好な熱的結合がないと、抵抗器202(およびPTC204)は、抵抗加熱デバイス200による電力制限をトリガすることなく、安全限界を超えて熱くなる場合がある。これによって、抵抗加熱デバイス200に対して、例えば、ヒートスポット、または、更に深刻なことを引き起こす場合がある。抵抗器202の消費電力の結果としてPTC204が加熱されるため、PTCの抵抗が増加し、その結果、全ての素子の抵抗の合計(式2)が増加し、電力P(式1)が減少する。
【0038】
図5Aから図5Dは、4つのシナリオ、すなわち、典型的(図5A)、抵抗器202<PTC204(図5B)、抵抗器202=PTC204(図5C)、および抵抗器202>PTC204(図5D)における抵抗加熱デバイス200の温度に対する電力の特性を示す。これらの様々なシナリオにおける抵抗器202とPTC204との間の抵抗比の変化が実現され得る。
【0039】
3つのケース:
【0040】
ΣR>ΣRPTC
【0041】
低温範囲では、抵抗素子の抵抗の合計がPTC素子の抵抗の合計より高い(数学的にΣR>ΣRPTCと表記される)(図5B)限り、抵抗素子はPTC素子よりも消費電力の多くの部分を生成するが、ヒータ温度は温度制限条件よりもはるかに低い。ヒータ温度が上昇すると、PTC抵抗が増加し、かつ、ヒータの総電力が減少するため、温度制限が発生している。PTC特性(図4)が急峻であるほど、達成されるヒータの制限特性は急激である。
【0042】
ΣR=ΣRPTC
【0043】
抵抗素子の抵抗の合計がPTC素子の抵抗の合計と同じである(数学的にΣR=ΣRPTCと表記される)(図5C)場合は、ヒータ温度が温度制限条件よりもはるかに低いが、抵抗素子はPTC素子と同じ量の電力を生成する。ヒータ温度が上昇し、かつ、制限温度に近づくにつれて、PTC抵抗部分が優勢になり始め、制限条件が発生している。このシナリオの違いは、制限条件がΣR>ΣRPTCのシナリオ(図5B)ほど急激ではないことである。
【0044】
ΣR<ΣRPTC
【0045】
抵抗素子の抵抗の合計がPTC素子の抵抗の合計より小さい(数学的にΣR<ΣRPTCと表記される)(図5D)場合は、ヒータ温度が温度制限条件よりもはるかに低いが、PTC素子は抵抗素子より高い電力を生成し始める。故に、ヒータの電力出力制限特性は更に遅くなる。
【0046】
これら2つの抵抗の合計の比率(ΣR/ΣRPTC)が大きいほど、温度範囲にわたる消費電力応答が平坦になる。更には、PTC素子により引き起こされる総消費電力のばらつき/不安定性が小さくなる。同時に、PTC素子により消費されるピーク電力が低くなり、その逆もまた同様である。比率ΣR/ΣRPTCが小さいほど、温度制限が早く発生し、同時に、PTC素子のピーク電力が高くなる。故に、図5Aから図5Dのグラフは、ヒータ特性が必要に応じて調節され得る機構を伝える。
【0047】
図6は、複数の例示的な実施形態に係る、抵抗加熱デバイスまたは自己制限的ヒータ600の上面図および断面図を示す。銅層606上に抵抗素子または抵抗チップ602aおよび602b(総称して「抵抗器602」)が配置され、これらの抵抗器の間にPTC素子604が配置されて示されている。電圧が印加され、かつ、電流が抵抗器602およびPTC素子604を通過すると、熱がアルミニウム層608に散逸する。複数の例示的な実施形態では、抵抗器602とPTC素子604との間に良好な熱的結合がある。更に、複数の例示的な実施形態では、抵抗器602は、温度変化に対する抵抗変化が非常に小さい。これら2つの抵抗器602aおよび602bは同様の温度係数を有し得るが、これは必須ではない。代わりに、PTCの両側に2つの抵抗器を有することで、複数の例示的な実施形態では、熱の約半分が一方の側(抵抗器602a)から、半分がもう一方の側(抵抗器602b)から来るように熱的結合が改善される。更に、複数の例示的な実施形態では、PTC604は、温度依存性が高く、かつ、温度係数が正である抵抗を有する。
【0048】
ある例示的な実施形態では、抵抗器は第1オーム抵抗を有するが、PTCは第2オーム抵抗を有し、第1オーム抵抗は制限条件から遠い。一実施形態では、第1オーム抵抗は、第2オーム抵抗より高い。第2実施形態では、第1オーム抵抗は、第2オーム抵抗と同様である。第3実施形態では、第1オーム抵抗は、第2オーム抵抗より小さい。故に、抵抗器とPTCとの間の抵抗比は、ヒータ特性を調節し、かつ、特徴的な鋭さを制限するために使用され得る。
【0049】
図7は、複数の例示的な実施形態に係る、自己制限的ヒータの試験結果のグラフ700を含む。グラフは、温度(℃)対全抵抗(オーム)を表し、全抵抗は、抵抗構成要素の抵抗(RResistor)とPTC構成要素の抵抗(RPTC)との合計である。ヒータ動作範囲(LTRまたは低温抵抗範囲)20℃から120℃の間では、抵抗はわずかに(0.08オームから0.10オームの間)変化するに過ぎない。温度が120℃を超えて上昇すると、抵抗は大幅に増加し始める。故に、設計通り、ヒータは自己制限的である。実線はPTCのみの抵抗対温度を示すが、点線は、PTCと抵抗器とを合わせた抵抗対温度を示す。故に、抵抗器を有するPTCが存在することで、温度が上昇する際に抵抗がより平坦(ほぼ同じ)に保たれることが保証される。
【0050】
自己制限的ヒータ600は、それぞれが同様の性能を示す、より小さなセグメント/ユニットに分割され得る。あるいは、自己制限的ヒータ600が形成される金属系基板PCBを他のヒータと並列に組み合わせて、適切な用途向けのより大きなヒータを形成することができる。
【0051】
複数の例示的な実施形態では、本明細書で開示する自己制限的ヒータは、抵抗素子とPTC素子との間の良好な熱的結合を構築するように設計される。これはPTCヒューズとは異なる。なぜなら、電流の増加ではなく回路の残りの部分の温度により、制限がトリガされるからである。
【0052】
故に、加熱電力出力を制限する能力を有する自己制限的ヒータが開示される。自己制限的ヒータは、電力を大幅に遮断してもよいし、電力をある所定の制限まで低減してもよい。多くの用途に過熱のリスクがある。従来の用途では、このリスクを軽減するために、温度監視デバイスが実装の一部になっている。係る温度監視は、例えば、リレー、トランジスタ、またはスイッチなどの何らかのスイッチング機構を使用して、ヒータ電力を断つことができる。過熱リスクを制御するための別の機構は、電力パルスの利用である。
【0053】
本明細書で開示する自己調節ヒータは、これらの更なる安全装置を回避することができる。これは、ヒータがある所定の温度に達すると、上記の抵抗素子およびPTC素子の原理に起因して出力電力を自動的に低下させることで、過熱を回避するからである。更には、更なる監視回路を回避できるため、自己制限的ヒータは、この回路で発生し得る障害の影響を受けない。
【0054】
自動車用途では、過熱のリスクが多数ある。例えば、水タンクは空になると溶けて変形する可能性があり、封止性の喪失、穴、または他の問題が生じ得る。危険な汚染物質からの保護に使用される尿素タンクは熱くなり、尿素が分解し始める場合がある。これは60℃を超える温度で急速に起こり、尿素タンクは排出量の削減に効果的ではなくなる。車両の外部取付部品であるカメラレンズは、過熱すると人間が触れたときに火傷を引き起こす場合がある。過熱したバッテリは発火し、爆発する可能性さえある。これは、燃料/ディーゼル経路でも起こり得る。自動車のこれら全ての構成要素などは、自己制限的ヒータを有することで利益を得る場合がある。自己調節機能を有することで、信頼性が高まり、かつ、これらのリスクが低減するため、より小型でより高出力のヒータを構築することができる。
【0055】
本明細書で使用する場合、単数で記載され「a」または「an」という語に続く要素または段階は、複数の要素または段階を除外するものと明示的に記載されない限り、複数の要素または段階を除外しないものと理解されたい。更に、本開示の「一実施形態」への言及は、記載されている特徴も組み込んだ更なる実施形態の存在を除外するものと解釈されることを意図していない。
【0056】
本開示は特定の実施形態に言及しているが、添付の特許請求の範囲で定義されるように、本開示の領域および範囲から逸脱することなく、記載されている実施形態に対して数々の修正、改変、および変更を行うことが可能である。従って、本開示は、記載されている実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲の文言およびその均等物により定義される完全な範囲を有することが意図されている。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7