(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2020007612
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-11-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 剛徳
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-014893(JP,A)
【文献】特開2006-084821(JP,A)
【文献】特開2004-206105(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021716(WO,A1)
【文献】特開2019-191225(JP,A)
【文献】特開2019-128507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が樹脂である基材層を内周面に有する環状ベルトと、
前記環状ベルトの
前記内周面と対向する対向面を有
し、バインダ樹脂と、フッ素系樹脂からなる粒子と、を含む対向部材と、
前記環状ベルトの
内周側に設けられ、前記環状ベルトの回転方向と直交する幅方向に沿って並ぶ複数の発熱部を有する板状ヒータと、
前記板状ヒータと対向する第1面と、前記環状ベルトと対向する第2面とを有し、前記第2面に前記対向部材が設けられた金属の基材と、
前記環状ベルトと前記対向部材との間に位置する潤滑剤と
を有し、
前記環状ベルトは、前記潤滑剤を介して前記対向面上を摺動し、
前記対向面の算術平均粗さRaは0.27μm以上1.88μm以下である
定着装置。
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径は、1μm以上30μm以下である
請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記
粒子の動摩擦係数は、前記バインダ樹脂の動摩擦係数よりも小さい
請求項1または請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置には、熱方式の定着装置により記録媒体に形成された画像を定着させるものがある。例えば特許文献1では、定着装置における熱拡散部材により、ヒータにより発せられた熱を定着ベルトに拡散させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、定着装置では、ヒータにより発せられた熱を効率的に定着ベルト(環状ベルト)に伝達させ、記録媒体に形成された画像を良好に定着させることが期待されている。
【0005】
良好な定着性能が得られる定着装置および画像形成装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態としての定着装置は、主成分が樹脂である基材層を内周面に有する環状ベルトと、その環状ベルトの内周面と対向する対向面を有し、バインダ樹脂とフッ素系樹脂からなる粒子とを含む対向部材と、環状ベルトの内周側に設けられ、環状ベルトの回転方向と直交する幅方向に沿って並ぶ複数の発熱部を有する板状ヒータと、板状ヒータと対向する第1面と環状ベルトと対向する第2面とを有し第2面に対向部材が設けられた金属の基材と、環状ベルトと対向部材との間に位置する潤滑剤とを有する。ここで、環状ベルトは、潤滑剤を介して対向面上を摺動し、対向面の算術平均粗さRaは0.27μm以上1.88μm以下である。
【0007】
本発明の一実施の形態における画像形成装置は、上記定着装置を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施の形態における定着装置および画像形成装置によれば、環状ベルトの内周面と対向する対向面の算術平均粗さRaを0.27μm以上1.88μm以下としたので、環状ベルトの摩耗を防止しつつ良好な定着性能を確保することができる。
なお、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、以下に記載のいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施の形態に係る画像形成装置の全体構成例を表す模式図である。
【
図2】
図1に示した定着装置の要部の一構成例を表す斜視図である。
【
図3】
図1に示した定着装置の要部の一構成例を表す正面図である。
【
図4】
図3に示した定着装置の要部の一構成例を表す断面図である。
【
図5】
図4に示した定着装置の要部の一構成例の一部を拡大して表す拡大断面図である。
【
図6】
図2に示した環状ベルトユニットを表す分解斜視図である。
【
図7】
図5に示したヒータの概略を説明するための説明図である。
【
図8】
図5に示した熱拡散部材の概略を説明するための概略断面図である。
【
図9】
図8に示した対向部材(被摺動部材)を拡大して表す模式図である。
【
図10】
図9に示した対向部材(被摺動部材)の構成材料の特性値を表す説明図である。
【
図11】
図8に示した熱拡散部材およびその近傍を拡大して表す模式図である。
【
図12】
図4に示した環状ベルトの概略を説明するための概略断面図である。
【
図13】
図2に示した加圧ローラの概略を説明するための説明図である。
【
図14】
図13に示した加圧ローラの概略を説明するための概略断面図である。
【
図15】実験例における定着装置の特性を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の一具体例であって、本発明は以下の態様に限定されるものではない。また、本発明は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比などについても、それらに限定されるものではない。説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.実験例
3.変形例
【0011】
<1.実施の形態>
[画像形成装置1の概略構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る定着装置を備えた画像形成装置1の全体構成例を表す模式図である。画像形成装置1は、例えば電子写真方式を用いたプリンタであり、トナーなどの現像剤を用いて画像形成動作を行うことにより、紙などの記録媒体PMに白黒画像やカラー画像を形成するように構成される。なお、本明細書では、記録媒体PMが搬送される搬送経路上における任意の位置から見て給紙トレイ3に近い位置、または給紙トレイ3へ向かう方向を上流という。さらに、搬送経路上における任意の位置から見て、記録媒体PMが排出されて積載されるスタッカ9に近い位置、もしくはスタッカ9へ向かう方向を下流という。上流から下流に向かう方向を搬送方向Fという。
【0012】
画像形成装置1は、例えば装置本体の筺体である本体フレーム2の内部に、例えば給紙トレイ3と、ホッピングローラ4と、レジストローラ対5と、画像形成部10と、定着装置30と、排出ローラ対6とを備えている。
【0013】
給紙トレイ3は、記録媒体PMを収容する収容部である。給紙トレイ3では、複数の記録媒体PMが積載される。給紙トレイ3の下流には、ホッピングローラ4が設けられている。
【0014】
ホッピングローラ4は、記録媒体PMの表面に圧接し、その記録媒体PMを搬送路であるガイド7に沿って下流へ繰り出す回転部材である。ホッピングローラ4は、ホッピングローラ4の中心軸を回転軸として、ホッピングモータ(図示せず)から伝達された動力により回転するようになっている。ホッピングローラ4の下流には、レジストローラ対5が設けられている。
【0015】
レジストローラ対5は、記録媒体PMを画像形成部10に向けて搬送するように構成される。レジストローラ対5は、記録媒体PMを搬送する際、記録媒体PMの先端部分が突き当てられることにより、記録媒体PMの斜行を矯正するようになっている。レジストローラ対5の下流には、画像形成部10が設けられている。
【0016】
(画像形成部10)
画像形成部10は、画像(トナー像)を形成し、その画像を記録媒体PMに転写する機構である。画像形成部10は、4つの現像ユニット11(現像ユニット11K,11Y,11M,11C)と、4つの露光ユニット17(露光ユニット17K,17Y,17M,17C)と、転写ベルトユニット18とを有している。
【0017】
4つの現像ユニット11(現像ユニット11K,11Y,11M,11C)は、パーソナルコンピュータなどの上位装置から送信される印刷データに基づいて、現像剤であるトナーを用いて画像を形成する機構である。4つの現像ユニット11は、画像形成装置1から着脱可能に構成される。具体的には、現像ユニット11Kは、黒色の画像を形成し、現像ユニット11Yは、黄色の画像を形成し、現像ユニット11Mは、マゼンタ色の画像を形成し、現像ユニット11Cは、シアン色の画像を形成するようになっている。この例では、現像ユニット11K,11Y,11M,11Cは、記録媒体PMの搬送方向Fにおいてこの順に配置される。現像ユニット11K,11Y,11M,11Cは、上記したように互いに異なる色のトナーを用いて画像を形成する点を除き、同じ構成を有している。
図1に示したように、各現像ユニット11は、例えば感光ドラム12と、帯電ローラ13と、現像ローラ14と、クリーニングブレード15と、トナー収容部16とを有している。
【0018】
感光ドラム12は、静電潜像を表面(表層部分)に担持する円柱状の部材であり、感光体(例えば有機系感光体)を用いて構成される。感光ドラム12は、感光体モータ(図示せず)から伝達された動力により、この例では時計回りで回転する。感光ドラム12は、帯電ローラ13により帯電し、対応する露光ユニット17により露光される。これにより、感光ドラム12の表面には、静電潜像が形成される。そして、現像ローラ14によりトナーが供給されることにより、感光ドラム12には、静電潜像に応じた画像が形成(現像)されるようになっている。
【0019】
帯電ローラ13は、感光ドラム12の表面(表層部分)を帯電させるように構成される。帯電ローラ13は、感光ドラム12の表面(周面)に接するように配置されるとともに、所定の押し付け量で感光ドラム12に押し付けられるように配置されている。帯電ローラ13は、感光ドラム12の回転に応じて、この例では反時計回りで回転する。帯電ローラ13には、所定の帯電電圧が印加されるようになっている。
【0020】
現像ローラ14は、帯電したトナーを表面に担持するように構成される。現像ローラ14は、感光ドラム12の表面(周面)に接するように配置されるとともに、所定の押し付け量により感光ドラム12に押し付けられるように配置されている。現像ローラ14は、感光体モータ(図示せず)から伝達された動力により、この例では、反時計回りで回転する。現像ローラ14には、所定の現像電圧が印加されるようになっている。
【0021】
クリーニングブレード15は、感光ドラム12の表面に残留するトナーを掻き取りクリーニングする部材である。クリーニングブレード15は、感光ドラム12の表面に対してカウンタで当接するように配置されるとともに、所定の押し付け量で感光ドラム12に押し付けられるように配置されている。
【0022】
トナー収容部16は、トナーを収容するように構成される。具体的には、例えば、現像ユニット11Kのトナー収容部16は黒色のトナーを収容し、現像ユニット11Yのトナー収容部16は黄色のトナーを収容し、現像ユニット11Mのトナー収容部16はマゼンタ色のトナーを収容し、現像ユニット11Cのトナー収容部16はシアン色のトナーを収容するようになっている。
【0023】
4つの露光ユニット17(露光ユニット17K,17Y,17M,17C)は、4つの現像ユニット11の感光ドラム12に対して光をそれぞれ照射する機構であり、例えば、LED(Light Emitting Diode)ヘッドを用いて構成される。具体的には、露光ユニット17Kは、現像ユニット11Kの感光ドラム12に対して光を照射し、露光ユニット17Yは、現像ユニット11Yの感光ドラム12に対して光を照射し、露光ユニット17Mは、現像ユニット11Mの感光ドラム12に対して光を照射し、露光ユニット17Cは、現像ユニット11Cの感光ドラム12に対して光を照射する。これにより、これらの感光ドラム12の表面には、静電潜像が形成される。そして、感光ドラム12には、静電潜像に応じた画像が形成されるようになっている。
【0024】
転写ベルトユニット18は、感光ドラム12の表面に形成された画像をクーロン力により記録媒体PMの表面に転写するとともに、記録媒体PMを搬送方向Fに向けて搬送する機構である。転写ベルトユニット18は、画像が転写された記録媒体PMを定着装置30に向けて搬送するようになっている。転写ベルトユニット18は、転写ベルト19と、駆動ローラ20と、従動ローラ21と、4つの転写ローラ22(転写ローラ22K,22Y,22M,22C)と、クリーニングブレード23とを有している。転写ベルト19は、継ぎ目なく形成された、記録媒体PMを担持可能な環状ベルトである。転写ベルト19は、駆動ローラ20および従動ローラ21により張設されている。駆動ローラ20は、ベルトモータ(図示せず)から伝達された動力により記録媒体PMを定着装置30に向けて搬送するように回転する回転部材であり、転写ベルト19を循環回転させるようになっている。従動ローラ21は、駆動ローラ20とともに転写ベルト19を張架しつつ転写ベルト19に付与される張力を調整する部材である。4つの転写ローラ22は、対応する現像ユニット11の感光ドラム12の表面に形成された画像を、記録媒体PMの被転写面上に転写する回転部材である。転写ローラ22Kは、転写ベルト19を介して現像ユニット11Kの感光ドラム12に対向配置されており、転写ローラ22Yは、転写ベルト19を介して現像ユニット11Yの感光ドラム12に対向配置されており、転写ローラ22Mは、転写ベルト19を介して現像ユニット11Mの感光ドラム12に対向配置されており、転写ローラ22Cは、転写ベルト19を介して現像ユニット11Cの感光ドラム12に対向配置されている。転写ローラ22K,22Y,22M,22Cのそれぞれには、所定の転写電圧が印加されることにより、画像形成装置1では、現像ユニット11により感光ドラム12に形成された画像が、記録媒体PMの被転写面上に転写されるようになっている。クリーニングブレード23は、転写ベルト19の表面上に残存した廃トナーを掻き取りクリーニングする部材である。画像形成部10の下流には、定着装置30が設けられている。
【0025】
(定着装置30)
定着装置30は、転写ベルトユニット18から搬送された記録媒体PM上に転写された画像に対し熱および圧力を付与することにより、その画像を記録媒体PM上に定着させる機構である。画像形成装置1では、定着装置30が画像を記録媒体PMに定着させるとともに記録媒体PMを搬送路であるガイド8に沿って排出ローラ対6に向けて搬送するようになっている。定着装置30の下流には、排出ローラ対6が設けられている。
【0026】
排出ローラ対6は、記録媒体PMをスタッカ9に向けて搬送するように構成される。この構成により、画像形成装置1は、記録媒体PMをスタッカ9に排出するようになっている。スタッカ9は、本体フレーム2の外側に設けられ、画像が定着された記録媒体PMを積載する部位である。
【0027】
[定着装置30の詳細な構成]
以下、
図2~
図6を参照して、定着装置30の詳細の構成について説明する。
図2は、定着装置30の主たる構成要素を表す斜視図である。
図3は、Z軸方向から見た場合における定着装置30の主たる構成要素を表す正面図である。
図4は、
図3に示したS4-S4に沿った定着装置30の主たる構成要素を表す断面図である。
図5は、
図4に示した領域Aを拡大して表す拡大断面図である。
図6は、環状ベルトユニット40(後述)を表す分解斜視図である。
図6は、環状ベルトユニット40に加えてさらにレバー33L,33R(後述)をも表す。
【0028】
図2に示したように、定着装置30は、サイドフレーム31L,31Rと、スプリング
32L,32Rと、レバー33L,33Rと、駆動ギア35と、環状ベルトユニット40と、加圧ローラ60とを有している。
【0029】
サイドフレーム31L,31Rは、例えば画像形成装置1の本体フレーム2にねじなどを用いて固定された部材である。
図2,4に示したように、スプリング32Lは、例えばばねなどの弾性部材であり、レバー33Lに付勢力を付与するように構成される。スプリング32Lの一端がサイドフレーム31Lに固定されており、スプリング32Lの他端がレバー33Lに固定されている。スプリング32Rは、スプリング32Lと同様に、ばねなどの弾性部材であり、レバー33Rに付勢力を付与するように構成される。レバー33Lは、スプリング32Lから付与される付勢力により、XZ平面において回転支点34Lを回転軸としてD1方向に回転するように構成される。レバー33Lは、サイドフレーム31Lに取り付けられている。レバー33Rは、レバー33Lと同様に、スプリング32Rから付与される付勢力により、XZ平面において回転支点34Rを回転軸としてD1方向に回転するように構成される。定着装置30が定着動作を行わない場合には、レバー33L,33Rは、レバー固定部材(図示せず)により、所定の位置に押さえ付けられる。すなわち、スプリング32Lは、レバー33Lを介してレバー固定部材により押し付けられているので、レバー33Lがレバー固定部材から解放された場合には、レバー33Lに付勢力を付与することができる。スプリング32Rについても同様である。駆動ギア35は、環状ベルトモータ(図示せず)からの動力を加圧ローラ60に伝達するように構成される。
【0030】
この構成により、定着装置30が定着動作を行う場合には、駆動ギア35は、環状ベルトモータからの動力を加圧ローラ60に伝達する。また、駆動ギア35の動作に応じてレバー33L,33Rがレバー固定部材から解放されることにより、レバー33L,33Rは、回転支点34L,34Rを回転軸としてD1方向に回転する。このため、レバー33L,33Rに取り付けられた環状ベルトユニット40が加圧ローラ60に押し付けられることにより、環状ベルトユニット40および加圧ローラ60においてニップ部Nが形成される。
図4は、環状ベルトユニット40および加圧ローラ60においてニップ部Nが形成された状態を表す。記録媒体PMがニップ部Nを通過することにより、記録媒体PM上に転写された画像には熱および圧力が付与され、画像が記録媒体PM上に定着するようになっている。
【0031】
(環状ベルトユニット40)
環状ベルトユニット40は、記録媒体PM上の画像に対して熱を付与するように構成される。
図4~6に示したように、環状ベルトユニット40は、ステー41と、保持部材43と、ヒータ44と、保熱板48と、熱拡散部材50と、環状ベルト53とを有している。ステー41は、環状ベルト53を支持する部材である。ステー41は、ねじ42Lによりレバー33Lに固定されるとともに、ねじ42Rによりレバー33Rに固定されている。保持部材43は、ヒータ44、保熱板48、および熱拡散部材50を保持する部材である。保持部材43は、ステー41に固定されている。
図5,6に示したように、保熱板48、ヒータ44、熱拡散部材50、および環状ベルト53は、略X軸方向に沿ってこの順に配置されている。すなわち、保熱板48は、ヒータ44に対向し、ヒータ44は、熱拡散部材50に対向し、熱拡散部材50は、環状ベルト53に対向する。
【0032】
図7は、ヒータ44の概略を説明するための説明図である。ヒータ44は、Y軸方向に延在する板状部材であり、環状ベルト53を加熱する熱源である。ヒータ44は、電線45と、発熱部46a~46eと、繋ぎ目47a~47dとを有している。電線45は、外部の電源から供給された電流を発熱部46a~46dのそれぞれに流すように構成される。電線45は、例えば銅(Cu)を含んで構成される。発熱部46a~46eは、環状ベルト53の回転方向と直交する幅方向(Y軸方向)に沿って並んでいる。環状ベルトユニット40では、例えば媒体PMの幅の広狭に応じて発熱部46a~46eを選択的に通電し、発熱させることができるようになっている。
【0033】
発熱部46a~46eのそれぞれは、抵抗発熱体を含んで構成される。抵抗発熱体は、例えばニッケルクロム合金(NiCr)または銀パラジウム合金(AgPd)を含んで構成される。ヒータ44は、例えば、A3用紙などの幅が広い記録媒体PMに画像が形成される場合には、発熱部46a~46eを発熱させる。また、例えば、はがきなどの幅が狭い記録媒体PMに画像が形成される場合には、発熱部46cを発熱させる。これにより、ヒータ44は、エネルギーの消費を抑えるようになっている。ここで、ヒータ44の長手方向(Y軸方向)とヒータ44の長手方向に直交する短手方向(略Z軸方向)からなる平面に直交する方向を以後、厚さ方向(略X軸方向)という。
【0034】
ヒータ44において、繋ぎ目47a~47dは、それぞれ発熱部46aのパターンと発熱部46bのパターンとの境界領域、発熱部46bのパターンと発熱部46cのパターンとの境界領域、発熱部46cのパターンと発熱部46dのパターンとの境界領域、発熱部46dのパターンと発熱部46eのパターンとの境界領域である。すなわち、ヒータ44が発熱する場合、繋ぎ目47a~47dでは、ヒータ44の長手方向(Y軸方向)における温度分布が不均一である。なお、この例では、ヒータ44は、発熱部46a~46eを有するようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、一以上の発熱部を有していればよい。また、ヒータ44は、繋ぎ目47a~47dを有するようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、継ぎ目がなくなるように1つの発熱部により構成されてもよい。
【0035】
保熱板48は、ヒータ44により発せられた熱を蓄熱する部材である。この例では、保熱板48は、ヒータ44に沿ってY軸方向に延在する板状部材である。保熱板48は、ヒータ44により発せられた熱を、保熱板48におけるヒータ44に対向する面と反対面側に伝達させにくくするようになっている。
【0036】
ヒータ44と保熱板48との間には、ヒータ44により発せられた熱を効率よく伝達するために熱伝導グリスが塗布されている。同様に、ヒータ44と熱拡散部材50との間には、熱伝導グリスが塗布されている。ヒータ44と保熱板48とは、保持部材43と熱拡散部材50との間に挟み込まれるように配置され、保持部材43により固定されている。なお、この例では、ヒータ44と保熱板48との間に熱伝導グリスが塗布されるようにしたが、これに限定されるものではなく、熱伝導グリスが塗布されなくてもよい。また、ヒータ44と熱拡散部材50との間に熱伝導グリスが塗布されるようにしたが、これに限定されるものではなく、熱伝導グリスが塗布されなくてもよい。
【0037】
熱拡散部材50は、ヒータ44に沿ってY軸方向に延在する略平板状を有する部材であり、ヒータ44により発せられた熱を環状ベルト53に伝達するように構成される。熱拡散部材50は、XZ平面から見た場合に熱拡散部材50の両端部が厚さ方向に曲げられた形状を有する。すなわち、熱拡散部材50は、XZ平面から見た場合にヒータ44に対向する凹部を有する。
図5に示したように、XZ平面から見た場合における熱拡散部材50の凸部は、保持部材43に設けられた保持溝49L,49Rに差し込まれる。保持溝49L,49Rは熱拡散部材50の凸部よりも広い空間であるため、保持溝49L,49Rに差し込まれた熱拡散部材50は、環状ベルトユニット40が加圧ローラ60に押し付けられることにより厚さ方向(略X軸方向)に移動可能である。すなわち、定着装置30が定着動作を行う場合には、熱拡散部材50は、ヒータ44に押し付けられる。この際、熱拡散部材50は、ヒータ44により発せられた熱を環状ベルト53に伝達するようになっている。
【0038】
図8は、熱拡散部材50の概略を説明するための概略断面図である。
図9は、熱拡散部材50のうちの対向部材(被摺動部材)52を拡大して表す模式図である。
図10は、対向部材52の構成材料として好適な材料の各種特性値を表す説明図である。さらに、
図11は、熱拡散部材50の近傍を拡大して表す模式図である。
図8に示したように、熱拡散部材50は、ヒータ44と対向する第1面51Aと、第1面51Aと反対側の第2面51Bとを有する基材51と、対向部材52とを有している。すなわち、基材51には、基材51の第2面51Bに設けられた対向部材52が形成されている。対向部材52は、環状ベルト53の内周面56S(
図11)と対向する対向面SFを有している。本明細書において、対向部材52の対向面SFが環状ベルト53の内周面56Sと「対向する」、とは、対向面SFが内周面56Sと向かい合わせの配置関係となることを意味する。この場合、「対向する」は、対向面SFが内周面56Sと当接して向かい合わせの配置関係となることや、対向面SFが後述する摺動グリスGRなどの他の部材を介して内周面56Sと向かい合わせの配置関係となることをも意味する。ヒータ44は、基材51の、対向面SFと反対側に位置している。
【0039】
基材51は、例えば熱の伝わる速度を表す熱拡散率が大きい金属を含んで構成される。基材51の厚さTaは、例えば0.485mmである。基材51の熱拡散率Daは、例えば57.7mm2/sである。この例では、基材51の主成分はアルミニウム(Al)である。ここで、主成分とは基材51の全体の50重量%を占める成分を意味する。すなわち、基材51においてAlの含有率は他の材料よりも大きい。なお、この例では、基材51はAlを含むようにしたが、これに限定されるものではなく、熱拡散率が大きい他の金属を含むようにしてもよい。基材51は、例えば、ステンレス鋼(SUS)や銅や亜鉛(Zn)を含むようにしてもよい。なお、基材51の厚さTaは、例示した厚さに限られない。
【0040】
対向部材52は、例えば環状ベルト53の内周面56Sとの摺動性がよい樹脂を含んで構成される。対向部材52の厚さTbは、0.005mm以上であり、0.015mm以下であることが好ましく、例えば0.015mmである。対向部材52の熱拡散率Dbは、例えば1.53mm
2/sである。
図9に示したように、対向部材52は、バインダ樹脂52Bを主成分として含んでいる。対向部材52を構成するバインダ樹脂52Bは、例えば靭性が高いポリアミドイミド(PAI)である。ここで、主成分とは対向部材52の全体の50重量%を占める成分を意味する。すなわち、対向部材52においてPAIの含有率は他の材料よりも大きい。さらに、対向部材52は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの粒子状のフィラー(以下、フィラー粒子52F)を複数含んでいる。
図10は、PAIおよびPTFEにおける、耐熱温度[℃]、熱伝導率[W/mK]および動摩擦係数を例示している。
図10に示したように、フィラー粒子52Fを構成するPTFEの動摩擦係数は、バインダ樹脂52Bを構成するPAIの動摩擦係数よりも小さい。複数のフィラー粒子52Fは、
図9に示したように、バインダ樹脂52Bの内部に例えば離散的に分布している。複数のフィラー粒子52Fのうちの一部のフィラー粒子52Fは、対向面SFに露出した部分を含んでいる。このため、対向面SFには、微細な凹凸構造が形成されている。また、対向面SFが内周面56Sと摺動することによって対向面SFが摩耗した場合であっても、バインダ樹脂52Bに複数のフィラー粒子52Fが埋設されていることにより対向面SFは微細な凹凸構造を維持することができる。ここで、複数のフィラー粒子52Fの平均粒子径は、例えば1μm以上30μm以下であることが好ましい。複数のフィラー粒子52Fの平均粒子径が上述の範囲であることにより、対向面SFにおける微細な凹凸構造の表面粗さを適切に制御することが容易となるからである。対向面SFの算術平均粗さRaは0.27μm以上1.88μm以下であることが望ましい。そのような算術平均粗さRaを対向面SFが有することにより、対向面SFに対する内周面56Sの摺動性が適切に保たれるうえ、後述の摺動グリスGR(
図11)を対向面SF上に適切に保持することができる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013に規定されるものである。また、対向面SFの算術平均粗さRaは、例えばフィラー粒子52Fの平均粒子径を変更することにより制御可能である。すなわち、フィラー粒子52Fの平均粒子径を大きくすることで対向面SFの算術平均粗さRaを大きくすることができ、フィラー粒子52Fの平均粒子径を小さくすることで対向面SFの算術平均粗さRaを小さくすることができる。さらに、バインダ樹脂52Bに対するフィラー粒子52Fの添加量を変更することにより、対向面SFの算術平均粗さRaの微調整が可能である。例えば、バインダ樹脂52BがPAIであり、フィラー粒子52FがPTFEである場合には、例えば重量比でPAI:PTFEが、1:0.5から1:2までの範囲が好ましい。
【0041】
対向部材52は、さらにグラファイトなどのフィラーが添加されてもよい。対向部材52がグラファイトなどのフィラーを含むことにより、対向部材52の摺動性および熱伝導性がより向上するようになっている。この例では、例えば、PTFEを含むPAIの溶媒が基材51の一面にスプレーにより噴射され、加熱されることにより樹脂が硬化し、基材51に対向部材52が形成される。対向部材52の厚さTbは、例えば、照射するスプレーの回数を調整することにより制御される。この例では、対向部材52の長手方向(Y軸方向)における長さは、略264.9mmであり対向部材52の短手方向(略Z軸方向)における長さは、略17.55mmである。すなわち、対向部材52は、環状ベルト53の内周面56Sに対向する基材51の面の略全面を覆うようになっている。対向部材52の対向面SFは、上述したように環状ベルト53と対向しており、循環回転する環状ベルト53の内周面56Sが対向面SF上を摺動するようになっている。したがって、対向面SFに対する内周面56Sの摺動性を向上させるため、
図11に示したように、環状ベルト53と対向部材52の対向面SFとの間に、潤滑剤としての摺動グリスGRが設けられているとよい。摺動グリスGRは、例えば対向面SFに塗布されている。よって環状ベルト53は、摺動グリスGRを介して対向面SF上を摺動することとなる。摺動グリスGRは、例えば、ゲル状のグリスであり、シリコーン系の材料やフッ素系の材料を含む。なお、この例では、対向部材52のバインダ樹脂52BがPAIを含むようにしたが、これに限定されるものではなく、他の樹脂を含むようにしてもよい。そのような他の樹脂としては、環状ベルト53の摺動性が良好となるうえ、耐熱性および機械強度に優れたポリイミド(PI)が挙げられる。また、対向部材52は、PTFEのフィラー粒子52Fを含むようにしたが、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体(PFA)などの他のフッ素系樹脂をフィラー粒子52Fとして含むようにしてもよい。あるいは、例えば二硫化モリブデンなど他の材料種からなるフィラー粒子52Fを含むようにしてもよい。さらに、対向部材52にはグラファイトなどのフィラーが添加されるようにしたが、これに限定されるものではなく、フィラーが添加されていなくてもよい。また、対向部材52は、環状ベルト53の内周面56Sに対向する基材51の第2面51Bの略全面を覆うようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、基材51の第2面51Bの一部を覆うようにしてもよい。また、対向部材52の厚さTbは、例示した厚さに限られない。
【0042】
環状ベルト53は、ステー41により所定の張力で張架される環状ベルトであり、回転可能に保持されるように構成される。対向面SFと対向する内周面56Sを有し、この内周面56Sにおいて対向面SF上を摺動するように設けられている。環状ベルト53は、加圧ローラ60との間にニップ部N(
図5)を形成するようになっている。
【0043】
図12は、環状ベルト53の概略を説明するための概略断面図である。環状ベルト53は、表面層54と、弾性層55と、基材層56とを有している。すなわち、基材層56に弾性層55が形成され、弾性層55に表面層54が形成されている。
【0044】
表面層54は、この例では、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体(PFA)を含んで構成される。表面層54の厚さは、例えば20μmである。表面層54の厚さは、弾性層55の変形に対して追従できる大きさであることが望まれる。一方、表面層54の厚さが小さすぎると加圧ローラ60との摺動や記録媒体PMとの摺動により表面層54にしわが発生するため、表面層54の厚さは10μm~50μmであることが好ましい。また、表面層54は、定着温度に耐え得る耐熱性を有することおよび環状ベルト53に残存したトナーや記録媒体PM由来の紙粉を張り付きにくくする離型性を有することが望まれ、フッ素置換された材料からなることが好ましい。なお、表面層54の材料は例示した材料に限られず、表面層54の厚さは例示した厚さに限られない。
【0045】
弾性層55は、この例では、定着温度に耐え得る耐熱性を有するシリコーンゴムを含んで構成される。弾性層55のゴム硬度は例えば12度であり、弾性層55の厚さは例えば200μmである。弾性層55は、ニップ部Nを形成可能なゴム硬度と厚さを有することが望まれる。一方で、弾性層55は、ヒータ44から発せられた熱の熱量損失を抑制し、ヒータ44から発せられた熱を効率よく環状ベルト53の外周面(トナー接触面)に伝達させることが望まれる。弾性層55の厚さが大きいと均一なニップ部Nが形成されやすいが、熱容量が大きくなり熱損失が大きくなるため、好ましくない。弾性層55の厚さは、50~500μmであることが好ましい。また、弾性層55のゴム硬度は、ニップ部Nの均一性を高めるため10~60度であることが好ましい。なお、この例では、弾性層55はシリコーンゴムを含むようにしたが、これに限定されるものではなく、定着温度に耐え得る耐熱性を有する他の材料を含むようにしてもよい。弾性層55は、例えば、フッ素ゴムを含むようにしてもよい。なお、弾性層55の厚さは、例示した厚さに限られない。
【0046】
基材層56は、この例では、ポリイミド(PI)を含んで構成され、基材層56の主成分はPIである。ここで、主成分とは基材層56の全体の50重量%を占める成分を意味する。すなわち、基材層56においてPIの含有率は他の材料よりも大きい。基材層56の内径は例えば30mmであり、基材層56の厚さは例えば80μmである。基材層56は、環状ベルト53に耐久性および機械的強度を発現させ、機械的強度、耐繰り返し屈曲性および耐座屈耐久性に優れている。すなわち、基材層56は、ヤング率が大きく、座屈強度が高いので、環状ベルト53が破断しにくい。なお、この例では、基材層56はPIを含むようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、高い耐熱性、大きいヤング率、および高い座屈強度を有する他の材料を含むようにしてもよい。基材層56は、例えば、ステンレス鋼、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材を含むようにしてもよい。特に、耐熱性に優れた樹脂材料が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。また、基材層56は、カーボンブラックや亜鉛などの金属元素を含む導電性フィラーが添加された材料を含むようにしてもよく、この場合、基材層56に伝導性を発現させることができる。また、基材層56は、チッカホウ素などのフィラーが添加されたPTFEを含むようにしてもよく、この場合、基材層56の摺動性や熱伝導性を向上させることができる。なお、基材層56の厚さは、例示した厚さに限られない。
【0047】
(加圧ローラ60)
図13は、加圧ローラ60の概略を説明するための説明図である。
図14は、
図13に示したXIV-XIV線に沿った矢視方向における加圧ローラ60の概略断面図である。加圧ローラ60は、環状ベルトユニット40との間にニップ部Nが形成されるように環状ベルトユニット40における環状ベルト53の外周面と当接可能に設けられ、記録媒体PM上の画像に対して圧力を付与する回転部材である。加圧ローラ60の外径は40mmであり、加圧ローラ60の硬度は50~65度であることが好ましい。加圧ローラ60は、表面層61と、接着層62と、弾性層63と、シャフト64とを有している。すなわち、シャフト64に弾性層63が形成され、弾性層63に接着層62が形成され、接着層62に表面層61が形成されている。なお、シャフト64と弾性層63との間に接着層が設けられてもよい。
【0048】
表面層61は、この例では、PFAを含んで構成される。表面層61の厚さは、例えば30μmである。表面層61は、記録媒体PMおよび環状ベルト53と摺動するようになっている。表面層61の厚さは、環状ベルト53の表面層54と同様に、弾性層63の変形に対して追従できる大きさであることが望ましい。一方、表面層61の厚さが小さすぎると環状ベルト53との摺動や記録媒体PMとの摺動により表面層61にしわが発生するため、表面層61の厚さは、15μm~50μmであることが好ましい。また、表面層61は、定着温度に耐え得る耐熱性を有することおよび環状ベルト53に残存したトナーや記録媒体PM由来の紙粉を張り付きにくくする離型性を有することが望まれ、フッ素置換された材料からなることが好ましい。表面層61の材料は例示した材料に限られず、表面層61の厚さは例示した厚さに限られない。
【0049】
接着層62は、この例では、接着力が十分であり、導電材が添加された、定着温度に耐え得るシリコーン接着剤を含んで構成される。接着層62は、表面層61が弾性層63から剥離することやしわの発生を抑制するため、弾性層63と表面層61とを接着する。接着層62は、導電性を有するため、例えば連続印刷において加圧ローラ60に帯電した電荷が蓄積し、静電的に紙粉などが付着することを抑制するようになっている。なお、この例では、接着層62は導電材が添加されるようにしたが、これに限定されるものではなく、導電材が添加されなくてもよい。なお、接着層62の材料は、例示した材料に限られない。
【0050】
弾性層63は、この例では、導電材が添加された、発泡セルを有するシリコーンスポンジを含んで構成される。弾性層63の厚さは、例えば4mmである。弾性層63は、導電性を有するため、例えば連続印刷において加圧ローラ60に帯電した電荷が蓄積し、静電的に紙粉などが付着することを抑制するようになっている。弾性層63は、ニップ部Nを形成可能なゴム硬度と厚さを有することが望まれる。また、弾性層63は、環状ベルト53から画像と記録媒体PMに伝達された熱量を損失しないように蓄熱性を有することが望まれる。また、加圧されたニップ部Nにおいてニップ痕が残存しないように、発泡セルのセル径が小さいことが好ましく、具体的には、発泡セルの平均セル径が20~250μmであることが好ましい。この例では、平均セル径は、100μmである。平均セル径の測定は、カミソリなどを用いてシリコーンスポンジを切断し、CCD(Charged-coupled devices)顕微鏡で観察し、観察視野角内でのセル径を10個測定しこれらの平均値を測定値とした。なお、この例では、弾性層63には導電材が添加されるようにしたが、これに限定されるものではなく、弾性層63には導電材が添加されなくてもよい。また、弾性層63はシリコーンスポンジを含むようにしたが、これに限定されるものではなく、他の材料を含むようにしてもよい。弾性層63は、例えば、ソリッドゴムを含むようにしてもよい。なお、弾性層63の厚さは、例示した厚さに限られない。
【0051】
シャフト64は、定着圧力により変形しない圧力耐性を有する部材であり、例えば、中実のステンレス鋼(SUS304)を含んで構成される。なお、この例では、シャフト64は、SUS304を含むようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、他の材料を含むようにしてもよい。また、この例では、中実のシャフトを用いるようにしたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、中空のシャフトを用いるようにしてもよい。
【0052】
ここで、環状ベルト53は、本発明における「環状ベルト」の一具体例に対応する。基材51は、本発明における「基材」の一具体例に対応する。対向部材52は、本発明における「対向部材」の一具体例に対応する。定着装置30は、本発明における「定着装置」の一具体例に対応する。ヒータ44は、本発明における「ヒータ」の一具体例に対応する。摺動グリスGRは、本発明における「潤滑剤」の一具体例に対応する。
【0053】
[作用・効果]
(A.基本動作)
画像形成装置1では、以下のようにして、記録媒体PMに対して画像が転写される。
【0054】
まず、
図1を参照して、画像形成装置1の全体の動作について説明する。画像形成装置1は、上位装置から印刷データを受信すると、現像ユニット11が、感光ドラム12を回転させて、画像形成処理を行う。
【0055】
画像形成装置1では、露光ユニット17が、現像ユニット11において表面が帯電した感光ドラム12に対して選択的に光を照射することにより、感光ドラム12の表面には、静電潜像が形成される。そして、感光ドラム12には、静電潜像に応じて画像が形成される。
【0056】
画像形成装置1が給紙トレイ3に積載された記録媒体PMに対して画像を転写する場合、ホッピングモータ(図示せず)から伝達された動力により、ホッピングローラ4は、記録媒体PMをレジストローラ対5に向けて繰り出す。レジストローラ対5は、記録媒体PMを画像形成部10に向けて搬送する。その際、記録媒体PMの前方端縁がレジストローラ対5に突き当てられることにより記録媒体PMの斜行が矯正する。
【0057】
こののち、画像形成部10において、転写ベルト19は、循環回転することにより、記録媒体PMを定着装置30に向けて搬送する。その際、記録媒体PMは、感光ドラム12と転写ローラ22との間を通過する。
【0058】
画像形成装置1では、画像が感光ドラム12の表面に形成されると、転写ベルトユニット18が転写処理を行う。その際、転写ベルトユニット18では、転写ベルト19が記録
媒体PMを搬送しながら、転写ローラ22が感光ドラム12の表面に形成された画像を引き寄せる。その結果、画像が、感光ドラム12から記録媒体PMへ転写される。
【0059】
画像形成装置1は、画像が感光ドラム12から記録媒体PMに転写されると、記録媒体PMを定着装置30に搬送する。定着装置30は、記録媒体PMが搬送されると、定着処理を行う。その際に、定着装置30は、記録媒体PMの表面に転写された画像に対する加熱および加圧を行い、その画像を溶融させて記録媒体PMに定着させる。
【0060】
画像形成装置1は、画像が記録媒体PMに定着されると、記録媒体PMをスタッカ9に向けて搬送し、記録媒体PMをスタッカ9の上に排出する。
【0061】
画像形成装置1の全体の動作は、以上の通りである。
【0062】
(B.定着動作における熱拡散部材50の挙動)
次に、画像が転写された記録媒体PMが画像形成部10から定着装置30に向かって搬送される場合における定着動作における熱拡散部材50の挙動について説明する。
【0063】
定着装置30が定着動作を行う場合には、駆動ギア35は、環状ベルトモータからの動力を加圧ローラ60に伝達する。この際、駆動ギア35の動作に応じてレバー33L,33Rがレバー固定部材から解放されることにより、レバー33L,33Rは、回転支点34L,34Rを回転軸としてD1方向(
図4)に回転する。このため、環状ベルトユニット40が加圧ローラ60に押し付けられることにより、環状ベルトユニット40および加圧ローラ60においてニップ部Nが形成される。この例では、ニップ部Nの長手方向(Y軸方向)における長さは227mmであり、ニップ部Nの長手方向に直交する短手方向(略Z軸方向)における長さは8~11mmである。また、環状ベルトユニット40にかかる荷重は、ニップ部Nの全体に対して33~39kgであり、例えば36kgである。36kgの荷重に対するニップ圧は、1.32~2.15kg/cm
2である。加圧ローラ60は、環状ベルトモータから伝達された動力により回転する。環状ベルト53は、加圧ローラ60の回転に応じて加圧ローラ60に連れ回る。これにより、環状ベルトユニット40において、熱拡散部材50における対向部材52の対向面SF上を環状ベルト53の内周面56Sが摺動グリスGRを介して摺動する。この際、環状ベルトユニット40において、熱拡散部材50は、ヒータ44に押し付けられる。また、定着動作では、電線45が外部の電源から供給された電流を発熱部46a~46eのそれぞれに流すことにより、ヒータ44は発熱する。ヒータ44により発せられた熱は熱伝導グリスを介して熱拡散部材50に伝達されたのち、摺動グリスGRを介して、環状ベルト53に伝達される。記録媒体PMがニップ部Nを通過することにより、記録媒体PM上に転写された画像には、環状ベルト53から熱が伝達されるとともにニップ部Nにより圧力が付与される。その結果、画像が記録媒体PM上に定着する。
【0064】
(C.効果)
このように、本実施の形態では、熱拡散部材50の対向部材52において、摺動グリスGRが塗布された対向面SFの算術平均粗さRaを0.27μm以上1.88μm以下とした。これにより、本実施の形態では、対向面SF上における摺動グリスGRの偏りを緩和できる。その結果、環状ベルト53の内周面56Sの摩耗や傷の発生を回避しつつ、良好な定着性能を確保することができる。すなわち、定着装置30では、対向面SFの算術平均粗さRaを0.27μm以上とすることにより、対向面SFに形成された微細な凹凸構造における凹部に摺動グリスGRが適切に保持される。そのうえ、対向部材52の対向面SFと環状ベルト53の内周面56Sとの接触面積は、算術平均粗さRaが0.27μm未満である場合と比較して適度に低下する。したがって、対向部材52の対向面SFに対する環状ベルト53の内周面56Sの摺動性が向上すると考えられる。特に、フィラー粒子52FがPTFEを含むようにしたので、フィラー粒子52Fの自己潤滑性に起因する摺動性の向上が期待できる。また、定着装置30では、対向部材52の対向面SFの算術平均粗さRaを1.88μm以下とすることにより、対向面SF上に広がる摺動グリスGRの厚さの偏りを緩和することができる。対向面SFが1.88μmを超えるような大きな算術平均粗さRaである場合、例えば凹凸構造における凸部の頂点と環状ベルト53の内周面56Sとが局所的に密着するようになり、介在する摺動グリスGRが面内方向において広がりにくくなってしまう。その結果、対向面SFと内周面56Sとの間に存在する摺動グリスGRは、厚さの厚い部分と厚さの薄い部分とを有することとなる。そうした場合、ヒータ44から環状ベルト53への熱伝導性にばらつきが生じてしまい、記録媒体PMに定着される印刷画像に縦すじ状の濃淡が発生する可能性が高まる。定着装置30では、対向面SFの算術平均粗さRaを1.88μm以下としているので、そのような定着性能のばらつきの発生を抑制することができる。
【0065】
また、本実施の形態の定着装置30では、対向部材52がバインダ樹脂52Bおよびフィラーを含有するようにしたので、例えばガラスコートなどからなる対向部材を採用した場合と比べて環状ベルト53に対する機械的負荷を軽減できる。
【0066】
また、本実施の形態の定着装置30では、バインダ樹脂52Bにフィラー粒子52Fを分散させた対向部材52を用いるようにしたので、上述の対向面SFの算術平均粗さRaを、より容易に適切な範囲に収めることができる。特に、フィラー粒子52Fをフッ素系樹脂により形成することにより、より高い耐熱性を確保できる。
【0067】
また、本実施の形態の定着装置30では、フィラー粒子52Fの平均粒子径を1μm以上30μm以下とすれば、環状ベルト53への良好な熱伝達性能を確保しつつ、適切な対向面SFの算術平均粗さRaを実現するのに好適である。
【0068】
また、本実施の形態の定着装置30では、フィラー粒子52Fの動摩擦係数を、バインダ樹脂52Bの動摩擦係数よりも小さくするようにしたので、対向面SFに対する内周面56Sの摺動性をより向上させることができる。
【0069】
また、本実施の形態の定着装置30では、環状ベルト53の主成分を樹脂としたので、例えば金属製の環状ベルトを用いる場合と比べて軽量化できるうえ、コストダウンに有利である。
【0070】
また、本実施の形態の定着装置30では、加熱部材における基材51の主成分をアルミニウムとしたので、例えばステンレス鋼を基材51の主成分として採用した場合と比べ、ヒータ44が発生した熱を、より効率的に環状ベルト53へ伝達することができる。アルミニウムの熱拡散率がステンレス鋼の熱拡散率よりも高いからである。さらに、基材51の主成分としてアルミニウムを採用することにより、ステンレス鋼を基材51の主成分として採用した場合と比べ、軽量化を図ることもできる。
【0071】
また、本実施の形態の定着装置30では、ヒータ44が、環状ベルト53の回転方向と直交する幅方向(Y軸方向)に沿って並ぶ複数の発熱部46a~46eを含むようにした。このため、媒体PMの幅の広狭に応じて発熱部46a~46eを選択的に通電し、発熱させることができる。ところで、複数の発熱部46a~46eの間には繋ぎ目47a~47dが発生する。繋ぎ目47a~47dでは、他の部分と比べて低温となりやすいことから、粘度の低下したグリスが生じやすい。その結果、摺動グリスGRの厚さの偏りができやすい状況となる。しかしながら、本実施の形態では、対向面SFの算術平均粗さRaを適切にコントロールすることで、そのような繋ぎ目47a~47dに起因する摺動グリスGRの厚さの偏りを十分に緩和できる。
【0072】
<2.実験例>
(実験例1-1~1-8)
上記実施の形態の定着装置30の定着性能評価を行った。ここでは、表1に示したように、対向面SFにおける算術平均粗さRaが0.10μm~2.87μmとなるようにそれぞれ対向部材52を作製し、そのような対向部材52を有する定着装置30を備えた画像形成装置1において、画像不良の発生の有無および環状ベルト53の内周面56Sにおける傷の発生の有無を確認した。
【表1】
【0073】
各実験例では、いずれにおいても、基材51として0.485mm厚のアルミニウムを用い、対向部材52のバインダ樹脂52BとしてPAIを用い、対向部材52のフィラー粒子52FとしてPTFEを用いた。対向部材52の厚さは、いずれも15μmとした。なお、
図15に、実験例1-6で使用した対向部材52のサンプルにおける赤外光(IR)分析による赤外線吸収スペクトルを示す。
図15において、符号C3を付した曲線が、バインダ樹脂52BとしてのPAIと、フィラー粒子52FとしてのPTFEとを含む対向部材52(実験例1-6)の赤外線吸収スペクトルである。他の実験例においてもほぼ同様の赤外線吸収スペクトルが得られた。
図15において、横軸は波数[cm
-1]を示し、縦軸は強度[任意単位]を示す。また、
図15において、符号C1を付した曲線はPTFEの赤外線吸収スペクトルを示し、符号C2を付した曲線はPAIの赤外線吸収スペクトルを示す。
図15の曲線C1,C3において、それぞれ1140[cm
-1]付近のピークおよび1200[cm
-1]付近のピークが見られることは、炭素とフッ素との結合の伸縮があることを反映している。これによりPTFEが含まれていることが推定できる。これに加えて、蛍光X線分析等の元素分析により、対向部材52におけるフッ素原子の存在および存在位置が特定できる。
【0074】
また、算術平均粗さRaの測定は、JIS B0601:2013に規定する方法により実施した。測定装置には小坂研究所製のサーフコーダSEF3500を用いた。測定方向は、記録媒体PMの搬送方向と直交する幅方向(Y軸方向)とした。各サンプルのうち、算術平均粗さRaの評価に用いた部分の長さは4mmとした。測定速度は0.5mm/sとした。カットオフ値(上限)は0.8mmとした。すなわち、0.8mm以下の周期変動を伴う凹凸を表面粗さとみなした。なお、表1に示した算術平均粗さRaの数値は、各実験例におけるサンプルの3か所についてそれぞれ測定した値を平均したものである。
なお、各実験例では、バインダ樹脂52BとしてのPAIと、フィラー粒子52FとしてのPTFEとの存在比率を適宜調整しつつ、さらにフィラー粒子52FとしてのPTFEの平均粒子径を表1に示したように変えることで算術平均粗さRaを調整した。
【0075】
画像不良の発生の有無については、全面100%ベタ印刷を1000回実施した際の1000回目の印刷画像における、縦すじ状の濃淡の発生の有無を評価した。表1には、印刷画像に幅1mm以上の縦すじ状の濃淡があるものを「有」、ないものを「無」と記載した。
【0076】
環状ベルト53の傷の発生の有無の評価においては、各実験例の印刷後の環状ベルト53の内周面56Sを拡大して目視観察し、幅1mm以上の傷の有無を確認した。表1には、内周面56Sに幅1mm以上の傷があるものを「有」、ないものを「無」と記載した。
【0077】
表1に示したように、実験例1-2~1-6においては、対向面SFの算術平均粗さRaを0.27μm以上1.88μm以下としたので、画像不良の発生も無く、環状ベルト53の内周面56Sの傷の発生も見られなかった。したがって、対向面SFの算術平均粗さRaを0.27μm以上1.88μm以下とすることにより、環状ベルト53の内周面56Sの摩耗や傷の発生を回避しつつ、良好な定着性能を確保することができることが確認できた。
【0078】
これに対し、実験例1-1では、算術平均粗さRaが0.27μm未満である0.10μmであることから対向面SFにおける十分な摺動性が得られず、環状ベルト53の内周面56Sに傷の発生が見られた。
【0079】
また、実験例1-7,1-8では、印刷画像における縦すじ状の濃淡の発生が認められた。算術平均粗さRaが1.88μmを超えているため、摺動グリスGRの分布に大きな偏りが生じたため、環状ベルト53への熱伝達においてばらつきが生じたものと考えられる。
【0080】
<3.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態等では4色のトナーを用いたカラー画像を形成可能な画像形成装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば5色以上のカラー画像を形成する画像形成装置であってもよい。
【0081】
また、上記実施の形態では、直接転写方式の画像形成装置を例示して本発明を説明したが、中間転写ベルトを備えた2次転写方式の画像形成装置にも適用可能である。
【0082】
さらに、上記実施の形態では、本発明における「画像形成装置」の一具体例として、印刷機能を有するプリンタについて説明したが、これには限られない。すなわち、そのような印刷機能に加え、例えば、スキャン機能やファックス機能を有する複合機として機能する画像形成装置においても、本発明を適用することが可能である。
【0083】
また、上記実施の形態では、対向部材52の対向面SFの算術平均粗さRaを、バインダ樹脂52Bにフィラー粒子52Fを混合することによりコントロールするようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。対向部材がフィラー(粒子)を含まなくとも、対向面に物理的手法もしくは化学的手法などを施すことにより、対向面に凹凸構造を形成し、所望の算術平均粗さRaを得るようにしてもよい。その場合にも、対向面に潤滑剤が適切に保持されるので、上記実施の形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0084】
1…画像形成装置、2…本体フレーム、3…給紙トレイ、4…ホッピングローラ、5…レジストローラ対、6…排出ローラ対、7,8…ガイド、9…スタッカ、10…画像形成部、11,11C,11K,11M,11Y…現像ユニット、12…感光ドラム、13…帯電ローラ、14…現像ローラ、15…クリーニングブレード、16…トナー収容部、17、17C,17K,17M,17Y…露光ユニット、18…転写ベルトユニット、19…転写ベルト、20…駆動ローラ、21…従動ローラ、22,22C,22K,22M,22Y…転写ローラ、23…クリーニングブレード、30…定着装置、31L,31R…サイドフレーム、32L,32R…スプリング、33L,33R…レバー、34L,34R…回転支点、35…駆動ギア、40…環状ベルトユニット、41…ステー、42L,42R…ねじ、43…保持部材、44…ヒータ、45…電線、46a,46b,46c,46d,46e…発熱部、47a,47b,47c,47d、47e…繋ぎ目、48…保熱板、49L,49R…保持溝、50…熱拡散部材、51…基材、52…対向部材、52B…バインダ樹脂、52F…フィラー粒子、53…環状ベルト、54,61…表面層、55,63…弾性層、56…基材層、56S…内周面、60…加圧ローラ、62…接着層、64…シャフト、GR…摺動グリス、SF…対向面。