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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】半導体装置およびその過電流保護機能
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/082 20060101AFI20250107BHJP
   H02H 7/20 20060101ALI20250107BHJP
   H03K 17/08 20060101ALI20250107BHJP
   H03K 17/567 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H03K17/082
H02H7/20 F
H03K17/08 C
H03K17/08 Z
H03K17/567
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2020049108
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021150820
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】皆川 啓
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039342(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/071994(WO,A1)
【文献】特開2009-232513(JP,A)
【文献】特開2002-43510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H7/08-7/127
H02H7/20
H03K17/00-17/70
H01L25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子を制御する、前記スイッチング素子の過電流検出回路を有した制御回路と、
前記スイッチング素子の温度検出用の第1の温度検出手段と、
前記制御回路の温度検出用の第2の温度検出手段と、
を備え、
前記制御回路は、前記第1の温度検出手段および前記第2の温度検出手段により検出された第1の検出値および第2の検出値を基に、前記過電流検出回路の過電流基準値を補正し、補正後の過電流基準値を出力する基準補正回路を備え、
前記基準補正回路は、前記第1の検出値および前記第2の検出値を入力とする第1の差動増幅回路と、前記第1の差動増幅回路の出力値および前記過電流検出回路の過電流基準値を入力とする第2の差動増幅回路を有する、半導体装置。
【請求項2】
前記基準補正回路は、前記第1の検出値と第2の検出値により前記スイッチング素子の温度と前記制御回路の温度の差が所定以上離れていると判断した場合に前記第1の検出値に基づいて前記過電流基準値を補正する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記スイッチング素子が、所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板で形成される第1の回路基板上に搭載されている、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記制御回路が、所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板で形成される第2の回路基板上に搭載されている、請求項1から3までのいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記スイッチング素子と前記制御回路が、所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板で形成される第3の回路基板上に搭載されている、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記スイッチング素子を覆うように第1の樹脂ケースが成形されている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記制御回路を覆うように第2の樹脂ケースが成形されている、請求項1から6までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記スイッチング素子と前記制御回路を覆うように第3の樹脂ケースが成形されている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記スイッチング素子に設けられた前記第1の温度検出手段が、前記スイッチング素子と同一素子内の、前記スイッチング素子温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項1から8までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記スイッチング素子に設けられた前記第1の温度検出手段が、前記第1の回路基板上の、前記スイッチング素子の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記スイッチング素子に設けられた前記第1の温度検出手段が、前記第3の回路基板上の、前記スイッチング素子の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記スイッチング素子に設けられた前記第1の温度検出手段が、前記第1の樹脂ケース内もしくは前記第1の樹脂ケース近傍の、前記スイッチング素子の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記スイッチング素子に設けられた前記第1の温度検出手段が、前記第3の樹脂ケース内もしくは前記第3の樹脂ケース近傍の、前記スイッチング素子の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記制御回路に設けられた前記第2の温度検出手段が、前記制御回路と同一素子内の、前記制御回路の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記制御回路に設けられた前記第2の温度検出手段が、前記第2の回路基板上の、前記制御回路の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記制御回路に設けられた前記第2の温度検出手段が、前記第3の回路基板上の、前記制御回路の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記制御回路に設けられた前記第2の温度検出手段が、前記第2の樹脂ケース内もしくは前記第2の樹脂ケース近傍の、前記制御回路の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項7に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記制御回路に設けられた前記第2の温度検出手段が、前記第3の樹脂ケース内もしくは前記第3の樹脂ケース近傍の、前記制御回路の温度が計測可能な箇所に設置された事を特徴とする、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記スイッチング素子として、IGBTを用いた、請求項1から18までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記スイッチング素子として、MOSFETを用いた、請求項1から18までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記第1および前記第2の温度検出手段が負の温度特性を持つ事を特徴とした、請求項1から20までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項22】
前記第1および前記第2の温度検出手段が正の温度特性を持つ事を特徴とした、請求項1から20までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項23】
前記基準補正回路は、デジタル化回路が接続された、請求項1から22のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項24】
前記基準補正回路は、前記第1の差動増幅回路の反転入力信号として前記デジタル化回路の出力信号を入力する、請求項23に記載の半導体装置。
【請求項25】
前記基準補正回路は、前記第1の差動増幅回路の非反転入力信号として前記デジタル化回路の出力信号を入力する、請求項23あるいは24のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項26】
前記基準補正回路は、前記基準補正回路の出力側に、前記デジタル化回路の入力側を接続する、請求項23から25のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項27】
前記過電流検出回路は、前記スイッチング素子の通過電流に基づく電流検出値と、前記補正後の過電流基準値とを入力とし、比較する機能と、比較結果に基づく信号を出力する機能を有する、請求項1から26までのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項28】
スイッチング素子の温度検出用の第1の温度検出手段によって第1の検出値を検出し、
前記スイッチング素子を制御する、前記スイッチング素子の過電流検出回路を有した制御回路の温度検出用の第2の温度検出手段によって第2の検出値を検出し、
前記制御回路に備えた基準補正回路によって、前記第1の検出値および前記第2の検出値を基に、前記過電流検出回路の過電流基準値を補正し、補正後の過電流基準値を出力し、
前記基準補正回路は、前記第1の検出値および前記第2の検出値を入力とする第1の差動増幅回路と、前記第1の差動増幅回路の出力値および前記過電流基準値を入力とする第2の差動増幅回路を有する、半導体装置の過電流保護回路
【請求項29】
前記第1および前記第2の温度検出手段が負の温度特性を持つ事を特徴とし、
前記基準補正回路が、前記第1の検出値より前記第2の検出値の差を取る事で過電流基準補正値を算出し、更に前記過電流基準値より前記過電流基準補正値の差を取る事で、前記補正後の過電流基準値を算出する、請求項28に記載の半導体装置の過電流保護回路
【請求項30】
前記第1および前記第2の温度検出手段が正の温度特性を持つ事を特徴とし、
前記基準補正回路が、前記第2の検出値より前記第1の検出値の差を取る事で過電流基準補正値を算出し、更に前記過電流基準値より前記過電流基準補正値の差を取る事で、前記補正後の過電流基準値を算出する、請求項28に記載の半導体装置の過電流保護回路
【請求項31】
前記基準補正回路は、入力値をその大きさに応じて複数の段階にデジタル化して出力するデジタル化回路を有し、前記第1の検出値、前記第2の検出値、あるいは前記補正後の過電流基準値のいずれか、あるいはこれらのうち複数個の数値をデジタル化して処理する、請求項28から30のいずれか一項に記載の半導体装置の過電流保護回路
【請求項32】
前記スイッチング素子の通過電流に基づく電流検出値を前記過電流基準値と比較し、前記電流検出値が前記過電流基準値を超えた事によって過電流が発生したことを検出する、請求項28から31のいずれか一項に記載の半導体装置の過電流保護回路
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体装置に係り、特に制御回路およびIGBT等のスイッチング素子を有したモジュールにおける、保護機能に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-SemiConductor Field-Effect Transistor)等の電力用スイッチング素子をモジュール化した構成(以後、スイッチング素子モジュールと呼称)が知られている。
【0003】
これらのスイッチング素子モジュールは、様々な保護機能を備えており、その1つとして、過電流保護機能が設けられている。
【0004】
過電流保護機能は、スイッチング素子に付随したチップ温度検出用ダイオードと、保護動作をするICより構成されている。チップ温度検出用ダイオードは、スイッチング素子と一体化されている場合もあり(たとえば、特許文献1参照)、またスイッチング素子から分離され、同一回路基板上に設置されている場合も、スイッチング素子と同一樹脂ケース内に設置されている場合もある(たとえば、特許文献2の第2の実施例参照、本書図24にこれを示す)。ここで回路基板は所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板である。
【0005】
図18はスイッチング素子モジュールの一種である、従来のIPM(Intelligent Power Module)の内部構成の一例を示す図である。
【0006】
この図18に示したIPM300では、三相交流電圧を出力するインバータを構成している。そのため、IPM300は、正極電源端子P、負極電源端子Nおよび出力端子U,V,Wを有し、6個のIGBT301~306を内蔵している。IGBT301~306は、それぞれ同一の回路パターン上に搭載された保護用のダイオード311~316によって逆並列に接続されている。正極電源端子Pと負極電源端子Nとの間には、3組のアーム部を構成するようにIGBT301,302、IGBT303,304およびIGBT305,306がそれぞれ直列に接続されている。また、U,V,W相の各アーム部の中間接続部は、それぞれ出力端子U,V,Wに接続されている(特許文献1)。
【0007】
IGBT301~306は、それぞれの表面(エミッタ端子)の中央に絶縁層を介してPN接合を持つ温度検出用ダイオードが形成されている。これにより、IGBT301~306は、温度検出用ダイオードの温度依存性のある順方向電圧をモニタすることによって、ジャンクション温度に近いチップ温度が観測可能になっている。
【0008】
IGBT301~306は、また、それらのゲート端子および温度検出用ダイオードが制御IC321~326に接続されている。制御IC321~326は、IGBT301~306をスイッチング制御するとともに、温度検出用ダイオードに定電流を流してIGBT301~306の過熱状態を検出している。
【0009】
図19図24はスイッチング素子モジュールの一種である、半導体素子モジュールならびにこれを複数個複合させたモジュールユニットを示す。図19は半導体素子モジュール500の内部構造の鳥観図である。底面金属基板409上に設けられた絶縁基板403上に、エミッタパターン404、コレクタパターン405が設置され、それらの上に更にIGBT401およびダイオード素子402を設置し、IGBTとゲートパターン406、制御エミッタパターン408との間を金属ワイヤー407で電気的に結合した物で、ゲートパターン406および制御エミッタパターン408には、ゲート端子413および制御エミッタ端子414が接続されている。図20は半導体素子モジュール500を上面より見た図、図21図20を矢印Aより見た図である。図20および21は、図19に示す内部構造を樹脂ケース410に成形し、エミッタパターン404およびコレクタパターン405に各々主エミッタ端子411、主コレクタ端子412等を設置したものである。また図22は半導体素子モジュール500を8個複合させたモジュールユニット、図23図22を矢印Aより見た図である。IGBT401およびこれを含む半導体素子モジュール500と制御基板420が存在するが、制御基板420は半導体素子モジュール500の外に実装されている。501および502はユニット枠である。図24は第2の実施形態で、中継絶縁基板431上に、半導体素子モジュール600内の温度検出を目的としたサーミスタ435が設置され、樹脂ケースで覆われている(特許文献2)。
【0010】
以降の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。また、電力用半導体装置において想定されている稼働温度の最大値をTH、最低値をTLとする。
【0011】
図13に従来の電力用半導体装置の一例を示す。制御回路1、スイッチング素子2およびスイッチング素子温度検出用ダイオード8を有する。制御回路1は、過電流基準電圧回路5a、過電流検出コンパレータ6、センス電圧検出用抵抗7、過熱検出コンパレータ9および過熱基準電圧回路10、フィルタ13を有する。
【0012】
制御回路1は、図13に示したように、スイッチング素子2と接続されている。すなわち、制御回路1は、それぞれゲート電圧を出力する出力端子OUTと、過電流検出端子OCと、過熱検出端子OHとを備えている。
【0013】
出力端子OUTは、スイッチング素子2のゲート端子に接続され、過電流検出端子OCは、スイッチング素子2の電流センス用エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子2のエミッタ端子は、グランド電位に接続されている。
【0014】
過熱検出端子OHは、制御回路1内では、定電流源11と過熱検出コンパレータ9の反転入力端子とに接続され、過熱検出コンパレータ9の非反転入力端子は、過熱基準電圧回路10に接続されている。過熱検出端子OHは、スイッチング素子温度検出用ダイオード8のアノード端子に接続され、スイッチング素子温度検出用ダイオード8のカソード端子は、グランド電位に接続されている。
【0015】
スイッチング素子温度検出用ダイオード8には、定電流源11による定電流が常に流されており、スイッチング素子2のチップ温度に対応する順方向電圧が過熱検出コンパレータ9の反転入力端子に印加されている。ここで、スイッチング素子温度検出用ダイオード8の温度特性は、負の温度特性を有し、過熱基準電圧回路10がTHの温度に対応する過熱基準電圧VOH1を出力しているとする。これにより、チップ温度がTH未満のとき、過熱検出コンパレータ9は、ローレベルの保護動作信号を出力し、チップ温度がTH以上の高温になると、ハイレベルの保護動作信号を出力する。このハイレベルの保護動作信号が出力されると、制御回路1は、アラーム出力回路からアラーム信号を出力すると同時にスイッチング素子2をオフにする制御を行う。
【0016】
過電流検出端子OCは、制御回路1内では、センス電圧検出用抵抗7と過電流検出コンパレータ6の反転入力端子とに接続され、過電流検出コンパレータ6の非反転入力端子は、過電流基準電圧回路5aに接続されている。過電流検出コンパレータ6の出力部分はフィルタ13の入力部分に接続され、コレクタ電流に比例する電圧以外が除去される。
【0017】
通常、過電流を検出する方法として、スイッチング素子2でエミッタ電流の1万分の1程度の電流に分流させ、その電流をセンス電圧検出用抵抗7に流すことにより得られる電圧(センス電圧)を過電流検出コンパレータ6の過電流基準電圧回路5aで生成される過電流基準電圧VOCと比較することにより電流を検出し、そのセンス電圧の大きさにより、電流の大小を判断し、その後、保護動作発信用ロジック回路によりアラーム出力やゲート遮断を行うという方法が知られている。
【0018】
図15に過電流検知判断の様子を示す。コレクタ電流とセンス電圧との関係は201の線で示される様に、コレクタ電流が高いほどセンス電圧も高くなる関係にあり、センス電圧を予め決められた基準電圧の値VBと比較し、これを超えた場合、両者の交点にあたるコレクタ電流値ICを超えたとみなし、過電流と判断する。
【0019】
センス電圧はスイッチング素子2の温度が高いほど高くなり、電流検出電圧は制御回路の温度が高いほど高くなる。
【0020】
図16に従来の電力用半導体装置における、過電流保護動作を示す。202は温度がTHの時のセンス電圧、204は温度がTLの時のセンス電圧である。またVBHは温度がTHの時の基準電圧、VBLは温度がTLの時の基準電圧である。
【0021】
通常、スイッチング素子と制御回路の温度はほぼ同じ、あるいはスイッチング素子の温度が若干高いものである。
【0022】
従って図16に示す様に、双方の温度がTHの時は、センス電圧は202の線で表され、基準電圧はVBHであるため、過電流保護値は両者の交点203となり、コレクタ電流ICTH以上が過電流保護範囲となる。同じく双方の温度がTLの時は、センス電圧は204の線で表され、基準電圧はVBLであるため、過電流保護値は両者の交点205となり、コレクタ電流ICTL以上が過電流保護範囲となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】WO2016/039342号公報
【文献】特開2002-184940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
スイッチング素子の温度と制御回路との温度が極端に異なる場合が起こり得る。特に特許文献2に記載されている様な、制御回路がスイッチング素子の外側に設置されている場合、一方の発熱が他方まで十分に伝達せず、この様な事が起こり得る。
【0025】
スイッチング素子の温度が制御回路の温度より極端に高い場合、従来技術で算出される過電流保護値は、本来要求されるより低い値となり、過剰な保護を行っている事になる。
【0026】
例えばスイッチング素子が温度TH、制御回路が温度TLの場合は、センス電圧202と基準電圧VBLとの交点206が過電流値とされ、コレクタ電流ICmin以上が過電流保護範囲となる。しかし、スイッチング素子温度を考慮すると本来はICTH以上が過電流保護範囲であり、コレクタ電流がICminからICTHまでは本来必要のない保護を行っている事になる。
【0027】
従って、従来技術において、過電流保護範囲は、207に示す冗長領域を持つことになる。
【0028】
本発明は上記課題に着目してなされたものであって、スイッチング素子保護機能を高精度化した半導体装置およびその保護機能を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するために、スイッチング素子と、スイッチング素子を制御する、過電流保護機能を有した制御回路と、スイッチング素子と制御回路の各々個別に温度検出手段を備え、双方の温度検出手段により検出された2つの検出値を基に過電流検出基準を補正する事を要旨とする。
【0030】
スイッチング素子は、所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板で形成される回路基板上に搭載されていてもよく、制御回路は、所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板で形成される回路基板上に搭載されていても良い。スイッチング素子と制御回路は、同じ回路基板上に搭載されていても良い。
【0031】
スイッチング素子は、これを覆うよう樹脂ケースが成形されていてもよく、制御回路は、同じくこれを覆うように樹脂ケースが成形されていても良い。スイッチング素子と制御回路は、同じ樹脂ケース内に搭載されていても良い。
【0032】
スイッチング素子の温度計測手段は、同じ素子内、あるいはスイッチング素子が搭載されている回路基板上もしくはスイッチング素子が収納されている樹脂ケース内あるいはその近傍の、スイッチング素子温度が計測可能な位置に設置される。
【0033】
また制御回路の温度計測手段は、同じ制御回路内、あるいは制御回路が搭載されている回路基板上もしくは制御回路が収納されている樹脂ケース内あるいはその近傍の、制御回路温度が計測可能な近傍に設置される。
【0034】
スイッチング素子としてMOSFETあるいはIGBTを使用してもよく、温度検出手段としてダイオードを用いても良い。
【0035】
過電流検出基準を補正する回路として、温度検出手段にダイオードの様な負の温度特性を持つ手段を使用する場合、スイッチング素子の温度検出手段によって得られた検出電圧を複数段階に判別し、また変換後の電圧を同数の複数段階設定し、検出電圧に対して大小関係を逆転させた出力電圧に変換し、これに対して、制御回路の温度検出手段によって得られた検出電圧との和を基に算出した値を過電流検出基準値として出力しても良い。
【0036】
または過電流検出基準を補正する回路として、温度検出手段に正の温度特性を持つ手段を使用する場合、制御回路の温度検出手段によって得られた検出電圧を複数段階に判別し、また変換後の電圧を同数の複数段階設定し、検出電圧に対して大小関係を逆転させた出力電圧に変換し、これに対して、スイッチング素子の温度検出手段によって得られた検出電圧との和を基に算出した値を過電流検出基準値として出力しても良い。
【0037】
あるいは過電流検出基準を補正する回路として、スイッチング素子および制御回路各々の温度検出手段に負の温度特性を持つ手段を使用する場合、スイッチング素子の温度検出手段によって得られた検出電圧に対して大小関係を逆転させた出力電圧に変換し、これに対して、制御回路の温度検出手段によって得られた検出電圧との和を基に算出した値を過電流検出基準値として出力しても良い。
【0038】
または過電流検出基準を補正する回路として、スイッチング素子および制御回路各々の温度検出手段に正の温度特性を持つ手段を使用する場合、制御回路の温度検出手段によって得られた検出電圧に対して大小関係を逆転させた出力電圧に変換し、これに対して、スイッチング素子の温度検出手段によって得られた検出電圧との和を基に算出した値を過電流検出基準値として出力しても良い。
【0039】
または過電流検出基準を補正する回路として、スイッチング素子の温度検出手段に正の温度特性、制御回路の温度検出手段に負の温度特性を持つ手段を使用する場合、両者の温度検出手段によって得られた検出電圧の和を基に算出した値を過電流検出基準値として出力しても良い。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、過電流保護検出レベルを補正することにより、過電流保護電流の冗長範囲を縮小でき、過電流保護機能を高精度化する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係る電力用半導体装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
図2】本発明の過電流基準電圧補正回路の第1の例を示す回路図である。
図3】本発明の過電流基準電圧補正回路の第1の例における、T1、T2と入力VF1、VF2、補正値VOCaとの関係の一例を示す図である。
図4】本発明の過電流基準電圧補正回路の第1の例における、T1、T2と入力VF1、VF2、補正前の基準電圧VOCo、出力VOCとの関係の一例を示す図である。
図5】本発明の過電流基準電圧補正回路の第2の例を示す回路図である。
図6】本発明の過電流基準電圧補正回路の第3の例を示す回路図である。
図7】本発明の過電流基準電圧補正回路の第3の例における、T1、T2と入力VF1、VF2、補正値VOCaとの関係の一例を示す図である。
図8】本発明の過電流基準電圧補正回路の第3の例における、T1、T2と入力VF1、VF2、補正前の基準電圧VOCo、出力VOCとの関係の一例を示す図である。
図9】本発明の過電流基準電圧補正回路の第4の例を示す回路図である。
図10】本発明の過電流基準電圧補正回路の第5の例を示す回路図である。
図11】本発明の過電流基準電圧補正回路の第1の例における、T1、T2と入力VF1、VF2、補正値VOCaとの関係の一例を示す図(図3)の出力を、T2>T1の範囲まで拡大した図である。
図12】本発明の過電流基準電圧補正回路の第1の例における、T1、T2と入力VF1、VF2、補正前の基準電圧VOCo、出力VOCとの関係の一例を示す図(図4)の出力を、T2>T1の範囲まで拡大した図である。
図13】従来の電力用半導体装置の一例を示すブロック図である。
図14】本発明に係る電力用半導体装置の第2の実施形態を示すブロック図である。
図15】電力用半導体装置における、過電流保護の動作領域を示す図である。
図16】従来の電力用半導体装置における、過電流保護動作の冗長領域を示す図である。
図17】本発明の実施形態に係る電力用半導体装置における、過電流保護動作の冗長領域を示す図である。
図18】従来のスイッチング素子モジュール(IPM)内部構造の一例を示す図である。
図19】従来の、半導体素子と制御回路が分離された半導体素子モジュール内部構造の一例を示す図である。
図20】従来の、半導体素子と制御回路が分離された半導体素子モジュール内部構造の一例を示す図である。
図21】従来の、半導体素子と制御回路が分離された半導体素子モジュール内部構造の一例を示す図である。
図22】従来の、半導体素子と制御回路が分離されたモジュールユニットの一例を示す図である。
図23】従来の、半導体素子と制御回路が分離されたモジュールユニットの一例を示す図である。
図24】従来の、半導体素子と制御回路が分離され、温度検出手段が設置された半導体素子モジュール内部構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態に係る電力用半導体装置の第1の実施形態は、図1に示すように、制御回路1、スイッチング素子2およびスイッチング素子温度検出用ダイオード8を有する。スイッチング素子2は、本形態ではIGBTを使用する例を示す。スイッチング素子温度検出用ダイオード8は、スイッチング素子2に内蔵されていても良い。スイッチング素子2がIGBTの場合、表面(エミッタ端子)の中央に絶縁膜を介してポリシリコンにより形成される。また、スイッチング素子温度検出用ダイオード8は、スイッチング素子2の温度を計測可能な位置にスイッチング素子2と離れて配置されても良い。例えば、スイッチング素子2を搭載した回路基板に搭載しても良いし、あるいはスイッチング素子2と同一樹脂ケース内に配置しても良いし、あるいはスイッチング素子2が成形されている樹脂ケース近傍に配置されても良い。ここで回路基板は所定の回路パターンを有した絶縁基板である。
【0043】
制御回路1は、制御回路の温度検出用ダイオード3、過電流基準電圧補正回路4、過電流基準電圧回路5、過電流検出コンパレータ6、センス電圧検出用抵抗7、過熱検出コンパレータ9および過熱基準電圧回路10、定電流源11、12、フィルタ13を有する。制御回路1と制御回路の温度検出用ダイオード3は、同一半導体基板内に集積されていても良い。例えば、半導体基板の表面に絶縁膜を介してポリシリコンにより形成される。また、温度検出用ダイオード13は、制御回路1の温度を計測可能な位置に制御回路1と離れて配置されても良い。例えば、制御回路1を搭載した回路基板に搭載しても良いし、あるいは制御回路1と同一樹脂ケース内に配置しても良いし、あるいは制御回路1が成形されている樹脂ケース近傍に配置されていても良い。
【0044】
制御回路1は、図1に示したように、スイッチング素子2と接続されている。スイッチング素子2は、主電流を流すIGBTに並列に電流センス素子も内蔵している。制御回路1は、それぞれゲート電圧を出力する出力端子OUTと、過電流検出端子OCと、過熱検出端子OHとを備えている。更に制御回路1とスイッチング素子2は、制御回路の温度検出用ダイオード3およびスイッチング素子温度検出用ダイオード8を含めて、同一回路基板内に設置されていても、同一樹脂ケース内に設置されていても、別々に成形されていても良い。
【0045】
出力端子OUTは、スイッチング素子2のゲート端子に接続され、過電流検出端子OCは、スイッチング素子2の電流センス素子の電流センス用端子に接続されている。スイッチング素子2のエミッタ端子は、グランド電位に接続されている。
【0046】
過熱検出端子OHは、制御回路1内では、定電流源11と過熱検出コンパレータ9の反転入力端子と過電流基準電圧補正回路4に接続され、過熱検出コンパレータ9の非反転入力端子は、過熱基準電圧回路10に接続されている。過熱検出端子OHは、スイッチング素子温度検出用ダイオード8のアノード端子に接続され、スイッチング素子温度検出用ダイオード8のカソード端子は、制御回路1のグランド電位に接続されている。
【0047】
スイッチング素子温度検出用ダイオード8には、定電流源11による定電流が常に流されており、スイッチング素子2のチップ温度に対応する順方向電圧が過熱検出コンパレータ9の反転入力端子に印加されている。ここで、スイッチング素子温度検出用ダイオード8の温度特性は、負の温度特性を有し、過熱基準電圧回路10がTHの温度に対応する過熱基準電圧VOH1を出力しているとする。これにより、チップ温度がTH未満のとき、過熱検出コンパレータ9は、ローレベルの保護動作信号を出力し、チップ温度がTH以上の高温になると、ハイレベルの保護動作信号を出力する。このハイレベルの保護動作信号が出力されると、制御回路1は、アラーム出力回路からアラーム信号を出力すると同時にスイッチング素子2をオフにする制御を行う。
【0048】
過電流検出端子OCは、制御回路1内では、センス電圧検出用抵抗7と過電流検出コンパレータ6の反転入力端子とに接続され、過熱検出コンパレータ9の非反転入力端子は、過電流基準電圧補正回路4に接続されている。過熱検出コンパレータ9の出力部分はフィルタ13の入力部分に接続され、コレクタ電流に比例する電圧以外が除去される。
【0049】
制御回路の温度検出用ダイオード3には、定電流源12による定電流が常に流されており、制御回路1の温度に対応する順方向電圧が過電流基準電圧補正回路4にVF2として印加されている。
【0050】
過電流基準電圧補正回路4は、スイッチング素子温度検出用ダイオード8より得られた信号VF1と、前記制御回路の温度検出用ダイオード3より取得された信号VF2を基に、過電流基準電圧回路5から出力される過電流基準電圧VOCoを補正する補正値VOCaを算出し、補正後の過電流基準電圧VOCをコンパレータ6の非反転入力端子へ送信する。
【0051】
過電流検出コンパレータ6は、スイッチング素子2のエミッタ電流の1万分の1程度の電流に分流させ、その電流をセンス電圧検出用抵抗7に流すことにより得られるセンス電圧と、過電流基準電圧VOCとを比較し、保護動作信号を送信する。
【0052】
本発明の実施形態に係る電力用半導体装置の第2の実施形態は、図14に示すように、制御回路1、スイッチング素子2aおよびスイッチング素子温度検出用ダイオード8を有する。スイッチング素子2aは、本実施形態ではMOSFETを使用する例を示す。スイッチング素子2aとスイッチング素子温度検出用ダイオード8は、1つのチップとして一体形成されていても、同一回路基板内あるいは同一樹脂ケース内あるいはスイッチング素子2aが成形されている樹脂ケース近傍の、スイッチング素子温度計測可能な位置に設置されていても良い。ここで回路基板は所定の回路パターンを有し、電子部品が搭載された絶縁基板である。
【0053】
制御回路1は、制御回路の温度検出用ダイオード3、過電流基準電圧補正回路4、過電流基準電圧回路5、過電流検出コンパレータ6、センス電圧検出用抵抗7、過熱検出コンパレータ9および過熱基準電圧回路10、定電流源11、12、フィルタ13を有する。制御回路1と制御回路の温度検出用ダイオード3は、1つのチップとして一体形成されていても、同一回路基板内あるいは同一樹脂ケース内あるいは制御回路1が成形されている樹脂ケース近傍の、制御回路温度計測可能な位置に設置されていても良い。
【0054】
制御回路1は、図14に示したように、スイッチング素子2aと接続されている。スイッチング素子2は、主電流を流すにMOSFETに並列に電流センス素子も内蔵している。制御回路1は、それぞれゲート電圧を出力する出力端子OUTと、過電流検出端子OCと、過熱検出端子OHとを備えている。スイッチング素子2aのドレイン端子は、グランド電位に接続されている。制御回路1とスイッチング素子2aは、制御回路の温度検出用ダイオード3およびスイッチング素子温度検出用ダイオード8を含めて、同一樹脂ケース内に形成されていても、別々に形成されていても良い。
【0055】
出力端子OUTは、スイッチング素子2aのゲート端子に接続され、過電流検出端子OCは、スイッチング素子2aのソース端子に接続されている。
【0056】
過熱検出端子OHは、制御回路1内では、定電流源11と過熱検出コンパレータ9の反転入力端子と過電流基準電圧補正回路4に接続され、過熱検出コンパレータ9の非反転入力端子は、過熱基準電圧回路10に接続されている。過熱検出端子OHは、また、スイッチング素子2aのスイッチング素子温度検出用ダイオード8のアノード端子に接続され、スイッチング素子温度検出用ダイオード8のカソード端子は、制御回路1のグランド電位に接続されている。
【0057】
スイッチング素子温度検出用ダイオード8には、定電流源11による定電流が常に流されており、スイッチング素子2aのチップ温度に対応する順方向電圧が過熱検出コンパレータ9の反転入力端子に印加されている。ここで、スイッチング素子温度検出用ダイオード8の温度特性は、負の温度特性を有し、過熱基準電圧回路10がTHの温度に対応する過熱基準電圧VOH1を出力しているとする。これにより、チップ温度がTH未満のとき、過熱検出コンパレータ9は、ローレベルの保護動作信号を出力し、チップ温度がTH以上の高温になると、ハイレベルの保護動作信号を出力する。このハイレベルの保護動作信号が出力されると、制御回路1は、アラーム出力回路からアラーム信号を出力すると同時にスイッチング素子2aをオフにする制御を行う。
【0058】
過電流検出端子OCは、制御回路1内では、センス電圧検出用抵抗7と過電流検出コンパレータ6の反転入力端子とに接続され、過熱検出コンパレータ9の非反転入力端子は、過電流基準電圧補正回路4に接続されている。過熱検出コンパレータ9の出力部分はフィルタ13の入力部分に接続され、コレクタ電流に比例する電圧以外が除去される。
【0059】
制御回路の温度検出用ダイオード3には、定電流源12による定電流が常に流されており、制御回路1の温度に対応する順方向電圧が過電流基準電圧補正回路4にVF2として印加されている。
【0060】
過電流基準電圧補正回路4は、スイッチング素子温度検出用ダイオード8より得られた信号VF1と、前記制御回路の温度検出用ダイオード3より取得された信号VF2を基に、過電流基準電圧回路5から出力される過電流基準電圧VOCoを補正する補正値VOCaを算出し、補正後の過電流基準電圧VOCをコンパレータ6の非反転入力端子へ送信する。
【0061】
過電流検出コンパレータ6は、スイッチング素子2aのソース電圧と過電流基準電圧VOCとを比較し、保護動作信号を送信する。
【0062】
図2は、本発明の過電流基準電圧補正回路4の第1の例を示す。2段階の差動増幅回路121、131から成り、第1の差動増幅回路121はコンパレータ122と抵抗123~126から成り、VF2を反転入力、VF1を非反転入力とし、過電流基準電圧VOCoを補正する補正値VOCaを出力、第2の差動増幅回路131はコンパレータ132と抵抗133~136から成り、VOCaを反転入力、補正前の過電流基準電圧VOCoを非反転入力とし、補正後の過電流基準電圧VOCを出力する。
【0063】
ダイオードは負の温度特性を持つため、スイッチング素子の温度が低いほどVF1およびVF2は高くなる。
【0064】
第1の差動増幅回路121にてVF1-VF2が補正値VOCaとして算出され、第2の差動増幅回路131にてVOCo-VOCa=VOCo+VF2-VF1が、補正後の過電流基準電圧VOCとして出力される。
【0065】
制御回路の補正前の過電流基準電圧VOCoは正の温度特性を持ち、制御回路の温度が高い程高く、低い程低くなる。
【0066】
図3に過電流基準電圧補正回路4の第1の例における、スイッチング素子、制御回路とVF1、VF2ならびにVOCaの出力値の関係例、図4に、これらに加えてVOCoならびにVOCの関係例を示す。なお、これらの図の数値はT1、T2の単位は摂氏温度、VF1、VF2、VOCa、VOCo、VOCの単位はVを想定し、抵抗122、123の抵抗値は等しく、VF1=(150-T1)×10、VF2=(150-T2)×10、電源124の電圧が750V、VCC=1500V、VF0=1500V、VOCo=T1×8としているが、あくまで一例である。本図はT1=T2で補正値VOCa=0だが、ここから外れ、T1がT2より高い程、VOCaは絶対値の大きな負の値を出力し、制御装置の低い温度T2の影響を受けて低下したVOCoからVOCaを減算すると、過電流基準電圧VOCをほぼスイッチング素子温度にのみ依存する値とする。
【0067】
図5は、本発明の過電流基準電圧補正回路4の第2の例を示す。温度検出手段が正の温度特性を持つ場合を想定し、第1の例の第1の差動増幅回路121に対して、VF1とVF2の入力を逆転させたものである。
【0068】
第1の差動増幅回路121にてVF2-VF1が補正値VOCaとして算出され、第2の差動増幅回路131にてVOCo-VOCa=VOCo+VF1-VF2が、補正後の過電流基準電圧VOCとして出力され、T1がT2より高い程、補正値VOCaは絶対値の大きな負の値を出力し、過電流基準電圧VOCはほぼスイッチング素子にのみ依存する値となる。
【0069】
図6は、本発明の過電流基準電圧補正回路4の第3の例を示す。過電流基準電圧補正回路4の第1の例の第1の差動増幅回路121の反転入力側に、デジタル化回路101を挿入したもので、デジタル化回路101は、入力値を複数段階のデジタル化処理を行って出力するもので、図6のデジタル回路101は3段階のデジタル化を行うためのものである。なお、デジタル化の段数は、3段階に限定されるものでは無い。
【0070】
デジタル回路101は、VF1よりの信号を反転入力、2種類の基準電位を非反転入力とする2基のコンパレ-タ102、103と、3種類の電位に対する2基のスイッチ104、105、上流側3基、下流側4基の抵抗106~108、抵抗109~112から成り、抵抗109~112より得られる電位VF1aを出力する。
【0071】
デジタル化回路101のコンパレータ102、103の反転入力端子にはVF1が入力されている。抵抗106、107、108は、電位VCCに対してこの順番で直列に接続されており、抵抗108の、抵抗107と接続されていない一端はアース接続されている。コンパレータ102の非反転入力端子は抵抗106と抵抗107の間、コンパレータ103の非反転入力端子は抵抗107と抵抗108の間に、それぞれ接続されている。
【0072】
抵抗109、110、111、112は、電位VCCに対してこの順番で直列に接続されており、抵抗112の、抵抗111と接続されていない一端はアース接続されている。
【0073】
抵抗110と抵抗111の間からはスイッチ104が接続され、スイッチ104はコンパレータ102の出力信号の真偽によってオン/オフする。抵抗111と抵抗112の間からはスイッチ105が接続され、スイッチ105はコンパレータ103の出力信号の真偽によってオン/オフする。
【0074】
スイッチ104、105の残り一端と抵抗109と抵抗110の間は互いに接続され、VF1aとして第1の差動増幅回路121へ出力される。
【0075】
コンパレータ102、103においては、VF1に対して、抵抗106~108にて生成された過電流基準電圧との比較が行われ、コンパレータ102の真偽によってスイッチ104が、コンパレータ103の真偽によってスイッチ105が、それぞれオン/オフする。
【0076】
スイッチング素子の温度が標準の範囲である場合、VF1は高い値となり、コンパレータ102、103全てより偽の値が出力され、スイッチ104、105がオフとなり、抵抗109~112の直列接続において、抵抗109と110の間にて取得される、高い電位がVF1aとして出力される。
【0077】
しかし、スイッチング素子の温度が標準の範囲よりやや高い場合はコンパレータ102より真、103より偽の値が出力され、スイッチ104がオンとなり、抵抗109、111、112の直列接続において、抵抗109と111の間にて取得されるやや高い電位がVF1aとして出力される。
【0078】
さらに、スイッチング素子の温度が標準の範囲より高い場合、VF1は低い値となり、コンパレータ102、103全てより真の値が出力され、スイッチ104、105がオンとなり、抵抗109と112の直列接続において、抵抗109と112の間にて取得される、より高い電位がVF1aとして出力される。
【0079】
第1の差動増幅回路121にてVF1a-VF2が補正値VOCaとして算出され、第2の差動増幅回路131にてVOCo-VOCa=VOCo+VF2-VF1aが、補正後の過電流基準電圧VOCとして出力される。
【0080】
図7に過電流基準電圧補正回路4の第3の例における、スイッチング素子、制御回路とVF1、VF2、VF1aならびにVOCaの出力値の関係例、図8に、これらに加えてVOCoならびにVOCの関係例を示す。なお、これらの図の数値はT1、T2の単位は摂氏温度、VF1、VF2、VF1a、VOCa、VOCo、VOCの単位はVを想定し、抵抗106~112の抵抗値R106~R112において、R106=R107=R108、R123=R124=R125=R126、R133=R134=R135=R136、R109:R110:R111:R112=1:4:20:5の関係が成り立ち、VF1=(150-T1)×10、VF2=(150-T2)×10、VCC=1500V、VF0=1500V、VOCo=T1×8としているが、あくまで一例である。本図はT1が50℃未満、50℃以上100℃未満、100℃以上の3段階、すなわちVF1が1000Vを超える範囲、500Vを超え1000V以下、500V以下の3段階に対して、各々VF1a=250W、750W、1250Wを出力し、過電流基準電圧VOCoの補正値VOCaはT1がT2に近いと0に近いが、ここから外れ、T1がT2より高い程、VOCaは絶対値の大きな負の値を出力し、制御装置の低い温度T2の影響を受けて低下したVOCoからVOCaを減算すると、過電流基準電圧VOCをほぼスイッチング素子温度にのみ依存する値とする。
【0081】
第1の形態および第2の形態がVF1およびVF2を連続的なアナログ値として扱っている事に対し、第3の形態は第1の差動増幅回路121の反転入力VF1aを標準、やや高位、高位の三段階もしくは複数段階の離散的な数値として扱い、従って出力である過電流基準電圧の補正値VOCaならびに過電流基準電圧VOCも、やや離散的な値となる。
【0082】
デジタル化回路101は、第1の差動増幅回路121の非反転入力側に接続、あるいは第2の差動増幅回路131の出力側に接続してもよく、もしくはこれら複数の複合形態であってもよい。また同様に、スイッチング素子及び制御回路の温度検出手段が正の温度特性を持つ場合にも、同様の接続を行って良い。
【0083】
図9に過電流基準電圧補正回路4の第4の例である、差動増幅回路121の非反転入力側にデジタル化回路101を挿入した例を示す。本形態では、デジタル化回路101はVF2を入力値、そのデジタル化後の値VF2aを出力値とし、第1の差動増幅回路121の反転入力側にVF1、反転入力側にVF2aを入力する。
【0084】
図10に過電流基準電圧補正回路4の第5の例である、第2の差動増幅回路131の出力側にデジタル化回路101を挿入した例を示す。第5の例では、デジタル化回路101は第2の差動増幅回路131の出力値VOCbを入力値、そのデジタル化後の値をVOCとして出力値する。
【0085】
これらの過電流基準電圧補正回路4は、いずれも制御回路の温度がスイッチング素子の温度より極端に高い状況、即ち従来技術において過電流保護値が本来要求されるより高い値となり、保護が必要な電流範囲で保護が行われていない状況、所謂過電流保護の不足範囲が発生する場合においても、前記不足範囲を狭くする事が可能である。
【0086】
図11および12に、スイッチング素子及び制御回路の温度検出手段が負の温度特性を持つ場合、即ち過電流基準電圧補正回路4の第1の例における、温度T1、T2とVOCa、ならびにVOCの関係図を示す。これらは図3および図4の表示範囲を、T2>T1まで拡張したもので、各値の定義は前記回路の第1の実施形態と同様である。本図が示す様に、たとえ制御回路温度がスイッチング素子温度より高い状況においても、前記回路が出力するVOCはほぼスイッチング素子温度のみに依存する値となる。
【0087】
本発明の、過電流基準電圧補正回路4の第1の例に係る電力用半導体装置における、過電流保護の動作領域を図17に示す。なお、電力用半導体装置において想定されている稼働温度の最大値をTH、最低値をTLとする。
【0088】
例えばスイッチング素子の温度がTH、制御回路の温度がTLの場合は、センス電圧202と過電流基準電圧VBHとの交点203すなわちコレクタ電流ICTHが過電流値となり、冗長範囲は208に示される様に狭くなる。
【符号の説明】
【0089】
1…制御回路
2…スイッチング素子
2a…スイッチング素子
3…制御回路の温度検出用ダイオード
4…過電流基準電圧補正回路
5…過電流基準電圧回路
5a…従来技術における過電流基準電圧回路
6…過電流検出コンパレータ
7…センス電圧検出用抵抗
8…スイッチング素子温度検出用ダイオード
9…過熱検出コンパレータ
10…過熱基準電圧回路
11、12…定電流源
13…フィルタ
101…デジタル化回路(3段階)
101a…デジタル化回路(4段階)
102~103、102a、103a…コンパレータ
104、105、104a、105a…スイッチ
106~112、123~126、133~136、106a、110a…抵抗
121、131…差動増幅回路
201…コレクタ電流に対する、センス電圧
202…スイッチング素子温度がTHにおける、センス電圧
203…スイッチング素子、制御回路ともに温度がTHにおける、過電流保護値
204…スイッチング素子温度がTLにおける、センス電圧
205…スイッチング素子、制御回路ともに温度がTLにおける、過電流保護値
206…従来設計において、スイッチング素子温度がTH、制御回路温度がTLにおける、過電流保護値
207…従来設計における、過電流保護の冗長範囲
208…本発明の実施例に係る電力用半導体装置における、過電流保護の冗長範囲
301~306…IGBT
311~316…保護用ダイオード
321~326…制御回路
401…IGBT素子
402…ダイオード素子
403…絶縁基板
404…エミッタパターン
405…コレクタパターン
406…ゲートパターン
407…金属ワイヤー
408…制御エミッタパターン
409…底面金属基板
410…樹脂ケース
411…主エミッタ端子
412…主コレクタ端子
413…ゲート端子
414…制御エミッタ端子
420…制御基板
431…中継絶縁基板
435…サーミスタ
500、600…半導体装置モジュール
501、502…ユニット枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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