(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】製版装置および製版方法
(51)【国際特許分類】
B41C 1/10 20060101AFI20250107BHJP
B41F 35/02 20060101ALI20250107BHJP
B41F 35/00 20060101ALI20250107BHJP
B41N 1/14 20060101ALI20250107BHJP
B41M 1/06 20060101ALI20250107BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20250107BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20250107BHJP
G03F 7/26 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B41C1/10
B41F35/02
B41F35/00 B
B41N1/14
B41M1/06
G03F7/20 511
G03F7/00 503
G03F7/26
(21)【出願番号】P 2020118585
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】中島 一比古
(72)【発明者】
【氏名】生田 健悟
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-1900(JP,A)
【文献】特開2015-212080(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0042798(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第4329338(DE,A1)
【文献】特開2003-231371(JP,A)
【文献】特開2018-144478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/00-3/08
B41F 35/02
B41F 35/00
B41N 1/14
B41M 1/06
G03F 7/20
G03F 7/00
G03F 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するインク膜形成用刷版にパターンを形成するための製版装置であって、
前記刷版の表面に、画像データに基づいて前記表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えてパターンを形成させる第1刺激付与部と、
前記刷版の表面に、前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与部と、
前記刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング部と、
を有し、
前記第1刺激および前記第2刺激が互いに波長の異なる光であり、前記刺激応答性化合物が、親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物、親水性基を含むスピロピラン構造を有する化合物、親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物、および親水性基を含むジアリールエテン構造を有する化合物からなる群から選択される光応答性化合物であ
る、製版装置。
【請求項2】
前記クリーニング部は、前記刷版に当接する当接部材を備え、前記当接部材によって刷版を押圧することにより前記刷版上に残存しているインクを前記当接部材に付着させてインクを除去する、請求項1に記載の製版装置。
【請求項3】
前記当接部材は、クリーニングローラである、請求項2に記載の製版装置。
【請求項4】
前記クリーニング部は、前記クリーニングローラに付着したインクを回収するインク回収部をさらに有する、請求項3に記載の製版装置。
【請求項5】
前記インク回収部は、前記クリーニングローラに当接してインクを吸収する織布、不織布、およびスポンジからなる群から選択されるインク吸収性部材を含む、請求項4に記載の製版装置。
【請求項6】
前記インク回収部は、前記クリーニングローラに当接した押圧ローラと、前記クリーニングローラと前記押圧ローラとの間に通紙したクリーニング紙と、を含み、前記クリーニングローラに付着したインクを前記クリーニング紙に転写することにより回収する、請求項4に記載の製版装置。
【請求項7】
外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するインク膜形成用刷版にパターンを形成するための製版装置であって、
前記刷版の表面に、画像データに基づいて前記表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えてパターンを形成させる第1刺激付与部と、
前記刷版の表面に、前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与部と、
前記刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング部と、
を有し、
前記第1刺激および前記第2刺激が互いに波長の異なる光であり、前記刺激応答性化合物が、親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物、親水性基を含むスピロピラン構造を有する化合物、親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物、および親水性基を含むジアリールエテン構造を有する化合物からなる群から選択される光応答性化合物であるか、または、前記第1刺激および前記第2刺激が互いに異なる温度変化であり、前記刺激応答性化合物が温度応答性化合物であり、
前記クリーニング部は、インク除去の前およびインク除去と同時の少なくとも一方の段階において、前記刷版の表面および残存するインクの少なくとも一方に外部刺激を与える第3刺激付与部をさらに有する
、製版装置。
【請求項8】
前記第3刺激付与部で与える外部刺激が、前記第1刺激または前記第2刺激と同種の刺激である、請求項7に記載の製版装置。
【請求項9】
前記刷版の表面の物性は、前記第1刺激により疎水性から親水性へ変化し、前記第2刺激により親水性から疎水性へ変化するか、または、前記刷版の表面の物性は、前記第1刺激により親水性から疎水性へ変化し、前記第2刺激により疎水性から親水性へ変化する、請求項1~8のいずれか1項に記載の製版装置。
【請求項10】
前記刷版が、前記クリーニング部、前記第2刺激付与部、前記第1刺激付与部の順に通過するか、または、前記刷版が、前記第2刺激付与部、前記クリーニング部、前記第1刺激付与部の順に通過する、請求項1~9のいずれか1項に記載の製版装置。
【請求項11】
前記刷版が前記クリーニング部、前記第2刺激付与部、前記第1刺激付与部の順に通過する、請求項10に記載の製版装置。
【請求項12】
外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するインク膜形成用刷版の表面に、画像データに基づいて前記表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えてパターンを形成させる第1刺激付与工程と、
前記パターンが形成された刷版の画像部または非画像部のいずれかにインク膜を形成する工程と、
前記インク膜が形成された刷版を用いて印刷を行う工程と、
印刷後の刷版の表面に、前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与工程と、
前記パターンが消去された前記刷版の表面に前記第1刺激を与えて新たな画像パターンを形成する工程と、
前記印刷を行う工程の後であって前記第2刺激付与工程の前、または前記第2刺激付与工程の後であって前記新たな画像パターンを形成する工程の前に、印刷後の刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング工程と、
を有し、
前記第1刺激および前記第2刺激が互いに波長の異なる光であり、前記刺激応答性化合物が、親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物、親水性基を含むスピロピラン構造を有する化合物、親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物、および親水性基を含むジアリールエテン構造を有する化合物からなる群から選択される光応答性化合物であ
る、製版方法。
【請求項13】
表面に刷版を装着することができる版胴と、前記刷版の表面に接するブランケットと、前記ブランケットとの間で被印刷媒体を挟んで、当該被印刷媒体を前記ブランケットの方向へ加圧する圧胴と、前記刷版にインクを供給するインクローラと、を有する印刷装置を用いた印刷方法であって、請求項1~11のいずれか1項に記載の製版装置を用いてパターンが形成されたインク膜形成用刷版を前記版胴の表面に装着することを含む、印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製版装置および製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、代表的には2種類の方法がある。一つは、親水部と疎水部とを平版表面上に設け、あらかじめ水に浸すことで親水部を水で濡らし、水と混和しないインクを該平版表面上に塗布することで疎水部のみにインクを有する液膜構造を形成し、これを転写することで印刷を実施する方法である。もう一つは、感光層とシリコーンゴム層とが順に積層された平版に対して、部分露光と現像とにより一部の感光層をシリコーンゴム層とともに、またはシリコーンゴム層のみを除去する。これにより、水を用いずに、シリコーンゴム層が表面になる非画像部と、少なくともシリコーンゴム層が除去された画像部とを有するパターンが形成された平版を用いて印刷する、水なし平版印刷の方法である。
【0003】
平版印刷では、刷版表面に凸形状または凹形状を有しないように一見思われるが、たとえば、水なし平版印刷法では、平版上に形成された画像部と非画像部との間には少なくともシリコーンゴム層の厚み以上の段差があり、厳密には平坦ということはできない。また、塗布、露光、および現像の工程を経て平版を形成するため、その工数は長大で、簡易な工程で形成できるものではない。さらにその製造工程からわかるように、該平版が有するパターンを容易に書き換えることはできない。
【0004】
すなわち、従来の平版印刷(アナログ印刷)の場合、一度印刷パターンを形成した平版を変更することは容易ではなく、異なる印刷物を印刷する度に、平版を新たに初めから作製する必要があり、平版作製の度に時間のロスが発生したりコストが増大したりするという問題がある。また、新しい版を作るたびに古い版を廃棄するという環境面からの短所を有していた。
【0005】
このような短所を克服するために、従来、2つの刺激により、刷版の書き換えを行う技術が提案されている。たとえば、特許文献1では、印刷版として、パターンの形成および消去可能なポリマー層を用いる。特許文献1に記載される技術では、ポリマー層を光触媒処理および/または光化学処理することによってパターンを形成する。一方、ポリマー層に形成されたパターンは、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用および/または研磨による除去によって消去可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用および/または研磨による除去などという外部からの刺激によって刷版上のパターンを消去可能としている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、刷版の上にインクが残存した状態で、外部刺激を与えてパターンの消去や再書き込みを行っている。このため、残存するインクが外部刺激を邪魔して、パターンを消去したり再書き込みができない部分が発生する。これにより、新たなパターンを書き込んだ刷版で印刷しても、前の刷版のパターンが印刷されてしまい、新たな刷版の画像に前の刷版の画像(以下、「前画像」とも称する)が重なる(かぶりと称する)などの問題が生じることがわかった。
【0009】
そこで本発明は、刷版を再使用でき、新たなパターンを書き込んだ刷版で印刷した際に、前画像のかぶりのない良好な印刷画像が得られる製版装置および製版方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、外部刺激に応答して表面の物性が可逆的に変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有する刷版に対して、刷版上にパターンを書き込むための第1刺激付与部および前記パターンを消去するための第2刺激付与部に加えて、印刷後に刷版上に残存するインクを除去するためのクリーニング部を設けた製版装置により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するインク膜形成用刷版にパターンを形成するための製版装置であって、前記刷版の表面に、画像データに基づいて前記表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えてパターンを形成させる第1刺激付与部と、前記刷版の表面に、前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与部と、前記刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング部と、を有する、製版装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製版装置では、外部刺激に応答して表面の物性が可逆的に変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有する刷版に対して、第1刺激および第2刺激の2つの外部刺激により、パターンの書き込みおよび消去をそれぞれ行うため、刷版を繰り返し使用できる。また、クリーニング部材を用いて刷版の表面に残存するインクを除去することで、残存するインクによる画像不良を抑制することができる。加えて、残存するインクが外部刺激による表面の物性の変化を阻害することを防ぐ。そのため、表面の物性が確実に変化し、前画像のかぶりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る印刷装置の要部を示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る製版装置を示す概略図である。
【
図10】評価に使用した初期印刷における刷版面の画像パターンを示す図である。
【
図11】評価に使用した再書き込みした刷版面の画像パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するインク膜形成用刷版にパターンを形成するための製版装置であって、前記刷版の表面に、画像データに基づいて前記表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えてパターンを形成させる第1刺激付与部と、前記刷版の表面に、前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与部と、前記刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング部と、を有する、製版装置である。当該構成を有する製版装置によれば、刷版を再使用でき、新たなパターンを書き込んだ刷版で印刷した際に、前画像のかぶりのない良好な印刷画像が得られうる。
【0015】
なぜ、本発明の製版装置により上記効果が得られるのか、詳細は不明であるが、下記のようなメカニズムが考えられる。なお、下記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は下記メカニズムに何ら制限されるものではない。
【0016】
上述の特許文献1に記載の技術では、刷版の上にインクが残存した状態で、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用および/または研磨による除去などという外部刺激(第2刺激)を与えてパターンの消去を行っている。刷版面にインクが残存していると、第2刺激によるパターン消去時、または光触媒処理および/または光化学処理などの外部刺激(第1刺激)による再書き込み時に、残存しているインクがこれらの外部刺激による表面物性変化を阻害する場合がある。そのため、パターン消去が十分にできない、または再書き込みが十分にできなくなり、前画像のかぶりが生じるものと考えられる。
【0017】
これに対して、本発明の製版装置は、刷版の表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えて前記刷版の表面にパターンを形成させる第1刺激付与部および前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与部に加えて、前記刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング部を備える。上記クリーニング部により刷版の表面に残存しているインクが十分に除去されることにより、残ったインクにより前画像のパターンが印刷されてしまうことや、残存したインク上にインクが乗りやすくかぶりが生じてしまうことを防ぐことができる。また、外部刺激による表面の物性の変化が確実に生じるため、再書き込みをした刷版で印刷した場合の前画像のかぶりをさらに抑制できる。
【0018】
加えて、本発明の製版装置は、画像パターンの形成および消去時に溶媒や処理液を使う必要がなく廃液が出ないため、環境負荷を低減することができる。
【0019】
以下、本発明の製版装置の構成について説明する。
【0020】
なお、本明細書中、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書中、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0021】
[インク膜形成用刷版]
本発明の製版装置は、インク膜形成用刷版に繰り返し書き込み可能なパターンを形成するための製版装置であって、上記インク形成用刷版は、外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するものである。
【0022】
〔刷版の構成〕
本発明の製版装置に用いられるインク膜形成用刷版(刷版とも称する)は、好ましくは、支持体上に刺激応答性化合物および樹脂を含む表面層が配置されてなる。
【0023】
(支持体)
支持体の形状は、特に制限されず、平板状、円筒状等が挙げられる。
【0024】
支持体の材料も、特に制限されないが、たとえば、アルミニウム、アルミニウム合金(アルミニウムとマグネシウムまたは/およびケイ素との合金など)、鉄、ステンレス等の金属、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、スチレン-ブタジエンゴム等のプラスチックが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
支持体は、単層、多層のいずれの形態を有していてもよい。また、多層である場合、各層は異なる材料で構成されていてもよい。
【0026】
(表面層)
<樹脂>
表面層は、樹脂を含んでいてもよい。表面層に含まれる樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも用いることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂の例としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびこれらの共重合体等が挙げられる。
【0028】
熱硬化性樹脂の例としては、たとえば、固形エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂(尿素樹脂)、ベンゾグアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、架橋型アクリル樹脂(たとえば、架橋型ポリメチルメタクリレート樹脂)、架橋型ポリスチレン樹脂、およびポリアミック酸樹脂(加熱によりイミド化させポリイミド構造が形成される樹脂)等が挙げられる。
【0029】
上記樹脂は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。また、たとえば、ビニル重合セグメント(ビニル樹脂セグメント)とポリエステル重合セグメント(ポリエステル樹脂セグメント)とを有する樹脂など、2種以上の重合セグメント(樹脂セグメント)が互いに結合してなるハイブリッド樹脂を用いてもよい。
【0030】
これらの中でも、刺激応答性化合物の水との親和性の変化がより起こりやすいという観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、スチレンアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン樹脂がより好ましい。
【0031】
表面層に含まれる樹脂は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。樹脂の市販品の例としては、星光PMC株式会社製のVS-1063(重量平均分子量:5,500)、US-1071(重量平均分子量:10,000)、X-1(重量平均分子量:18,000)、YS-1274(重量平均分子量:19,000)、VS-1047(重量平均分子量:10,000)、RS-1191(重量平均分子量:6,500)等が挙げられる。
【0032】
表面層に含まれる樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、5,000~30,000であることが好ましく、8,000~20,000であることがより好ましい。
【0033】
表面層中の樹脂の含有量は、表面層に含まれる刺激応答性化合物および樹脂の合計質量に対して、30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。このような範囲であれば、速い刺激応答性を維持しつつ、表面層の強度を向上させることができる。
【0034】
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値を採用する。
【0035】
<刺激応答性化合物>
刺激応答性化合物とは、外部刺激に応答して、その性質を可逆的に変化させる化合物をいう。本発明においては、第1刺激と第2刺激との2つの外部刺激に応答して表面の物性が可逆的に変化する、すなわち、第1刺激により第1物性から第2物性に変化し、第2刺激により第2物性から第1物性に変化する刺激応答性化合物を用いる。好ましくは、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性化合物を用いる。
【0036】
また、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化するとは、外部刺激を与えられた化合物が、外部刺激に応答して、親水性と疎水性との間で可逆的に変化することをいう。
【0037】
ここで、「親水性と疎水性との間で可逆的に変化する」とは、具体的には、外部刺激に応答することで分子の存在状態が変わり、親水性と疎水性とが変化することである。上記の分子の存在状態とは、分子構造、分子の凝集状態のことを指す。たとえば、光応答性化合物であれば、光に応答して分子構造が変わることで、ヒドロキシ基が表面に配向するかしないかで親水性と疎水性とを制御することができ、温度応答性化合物であれば、温度に応答して分子の凝集状態が変わることで、親水性と疎水性とを制御することができる。
【0038】
上記のように、本発明においては、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性化合物を用いることが好ましい。そして、刷版の表面の物性は、第1刺激により疎水性から親水性へ変化し、第2刺激により親水性から疎水性へ変化するものであることが好ましい。または、刷版の表面の物性は、第1刺激により親水性から疎水性へ変化し、前記第2刺激により疎水性から親水性へ変化するものであることが好ましい。親水性、疎水性の変化により、画像パターンに応じたインクの制御性が高く、高画質の画像を得ることができる。
【0039】
上記外部刺激としては、特に限定されるものではないが、たとえば、光、温度変化、圧力、電場、pH等を挙げることができる。
【0040】
刺激応答性化合物の例としては、光に応答して水との親和性が可逆的に変化する光応答性化合物、温度変化に応答して水との親和性が可逆的に変化する温度応答性化合物、電場に応答して水との親和性が可逆的に変化する電場応答性化合物、pHに応答して水との親和性が可逆的に変化するpH応答性化合物等が挙げられる。
【0041】
該刺激応答性化合物は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。また、該刺激応答性化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。なかでも、水との親和性の変化速度が速いという観点から、光応答性化合物または温度応答性化合物が好ましい。
【0042】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、外部刺激である第1刺激および第2刺激が互いに波長の異なる光であり、刺激応答性化合物が光応答性化合物である。また、他の好ましい実施形態において、外部刺激である第1刺激および第2刺激が互いに異なる温度変化であり、刺激応答性化合物が温度応答性化合物である。
【0043】
以下、好適な刺激応答性化合物である光応答性化合物および温度応答性化合物について説明する。
【0044】
<光応答性化合物>
本発明に用いられる光応答性化合物は、光照射により立体異性化または構造異性化(シス-トランス異性化、光開環反応等)を起こし、水との親和性が可逆的に変化する化合物であることが好ましい。かような化合物としては、具体的には、親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物、親水性基を含むスピロピラン構造を有する化合物、親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物、親水性基を含むジアリールエテン構造を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、高分子または該高分子の架橋体の形態であってもよい。
【0045】
これらの中でも、水との親和性の変化速度が速いとの観点から、光照射によりシス-トランス異性化を起こす、親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物または親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物が好ましい。
【0046】
親水性基の例としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メルカプト基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基等が挙げられる。これら親水性基は、1種でもまたは2種以上組み合わされてもよい。なかでも、水との親和性の変化速度が速いとの観点から、親水性基はヒドロキシ基であることが好ましい。
【0047】
親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物は、具体的には、下記化学式(1)で表される化合物が好ましい。
【0048】
【0049】
上記化学式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、親水性基であり、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基またはアルコキシ基であり、m1およびm2は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、ただしm1+m2は1~8の整数である。
【0050】
上記化学式(1)中のR1およびR2は、それぞれ独立して、親水性基である。親水性基の例は、上述の通りである。なお、m1+m2が2~8の整数である場合、複数の親水性基は互いに同じでもよいし異なっていてもよい。
【0051】
上記化学式(1)中のR3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基である。
【0052】
炭素数1~18のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソアミル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、t-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、1-メチルデシル基、1-ヘキシルヘプチル基などの分枝状のアルキル基;等が挙げられる。
【0053】
炭素数1~18のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基:イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、4-メチル-2-ペンチルオキシ基、3,3-ジメチルブチルオキシ基、2-エチルブチルオキシ基、1-メチルヘキシルオキシ基、t-オクチルオキシ基、1-メチルヘプチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、2-プロピルペンチルオキシ基、2,2-ジメチルヘプチルオキシ基、2,6-ジメチル-4-ヘプチルオキシ基、3,5,5-トリメチルヘキシルオキシ基、1-メチルデシルオキシ基、1-ヘキシルヘプチルオキシ基などの分枝状のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0054】
親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物のさらに具体的な例としては、下記化学式(2)~(3)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【0055】
【0056】
【0057】
親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物は、具体的には、下記化学式(4)で表される化合物が好ましい。
【0058】
【0059】
上記化学式(4)中、R5~R10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、または親水性基であり、この際、R5~R10の少なくとも1つは親水性基である。
【0060】
炭素数1~6のアルコキシ基の例としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec-ペンチルオキシ基、t-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0061】
親水性基の例は、上述の通りである。
【0062】
親水性基を含むスチルベン構造を有する化合物のさらに具体的な例としては、下記化学式(5)で表される化合物(イソラポンチゲニン、3,4’,5-トリヒドロキシ-3’-メトキシ-trans-スチルベン)が好ましく挙げられる。
【0063】
【0064】
また、高分子の形態である光応答性化合物の例としては、下記化学式(6)で表される高分子が好ましく挙げられる。
【0065】
【0066】
上記化学式(6)中、xは繰り返し単位の数であり、高分子領域であれば特に制限されないが、たとえば20~1000の範囲である。
【0067】
上記光応答性化合物は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記光応答性化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0068】
親水性基を含むアゾベンゼン構造を有する化合物の合成方法の例としては、以下の方法が挙げられる。
【0069】
たとえば、上記化学式(2)で表されるアゾベンゼン化合物の合成方法としては、下記反応式Aで示される方法が挙げられる。2-クロロ-4-アミノフェノールと亜硝酸ナトリウムとを冷却下で反応させてジアゾニウム塩を合成し、これと2-クロロフェノールと反応させたのちに、得られた中間体Aとn-ブロモヘキサンとを反応させて中間体Bを合成する。次いで、得られた中間体Bを高温高圧下で水酸化ナトリウム水溶液と反応させ、酸で処理することにより、上記化学式(2)で表されるアゾベンゼン化合物(アゾベンゼン誘導体(1))を得ることができる。
【0070】
【0071】
たとえば、上記化学式(3)で表されるアゾベンゼン化合物(アゾベンゼン誘導体(3))の合成方法としては、上記反応式A中の中間体Bを、液体アンモニア中カリウムアミドと反応させる方法が挙げられる(下記反応式B参照)。
【0072】
【0073】
たとえば、上記化学式(6)で表される高分子の合成方法としては、下記反応式Cで示される方法が挙げられる。上記反応式Aと同様の方法で、ジアゾニウム塩を合成し、2-クロロフェノールと反応させ中間体Cを得て、続いてn-ブロモヘキサノールと反応させることで、中間体Dを合成する。次いで、中間体Dとアクリル酸塩化物とを、トリエチルアミン存在下で反応させ、アゾベンゼン構造を含むアクリレートモノマー(中間体E)とした後、クロロ基をヒドロキシ基へと変換し、中間体Fを得る。得られた中間体Fを、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いる重合反応を行うことにより、上記化学式(6)で表されるアゾベンゼン化合物(アゾベンゼン誘導体(ポリマー2))を得ることができる。
【0074】
【0075】
<温度応答性化合物>
本発明に用いられる温度応答性化合物は、好ましくは、温度変化に応答して水との親和性が可逆的に変化する化合物である。温度応答性化合物は、好ましくは、水に対する臨界溶解温度(CST)において、疎水性(または親水性)から親水性(または疎水性)に可逆的に変化する。温度応答性化合物としては、
(1)臨界溶解温度未満(このときの臨界溶解温度を特に「下限臨界溶解温度(LCST)」という)の温度で親水性を示すが、同温度以上の温度で疎水性を示す温度応答性化合物
(2)臨界溶解温度以上(このときの臨界溶解温度を特に「上限臨界溶解温度(UCST)」という)の温度で親水性を示すが、同温度未満の温度で疎水性を示す温度応答性化合物
のいずれも用いることができる。
【0076】
温度応答性化合物としては、特に制限されないが、アクリル系高分子およびメタクリル系高分子等が挙げられる。具体例としては、たとえば、ポリ(N-n-プロピルアクリルアミド)(LCST:21℃)、ポリ(N-n-プロピルメタクリルアミド)(LCST:27℃)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(LCST:32℃)、ポリ(N-イソプロピルメタクリルアミド)(LCST:43℃)、ポリ(N-エトキシエチルアクリルアミド)(LCST:約35℃)、ポリ(N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド)(LCST:約28℃)、ポリ(N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド)(LCST:約35℃)、ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)(LCST:32℃)、ポリ-N,N-エチルメチルアクリルアミド(LCST:56℃)、ポリ(N-エチルアクリルアミド)、ポリ(N-シクロプロピルアクリルアミド)(LCST:45℃)、ポリ(N-シクロプロピルメタクリルアミド)等のN-置換(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を有する高分子、ポリ(N-アクリロイルピロリジン)、ポリ(N-アクリロイルピペリジン)、ポリメチルビニルエーテル、およびこれらの共重合体等が挙げられる。
【0077】
温度応答性化合物としては、他にも、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等のポリアルキレンオキサイドブロック共重合体等が例示できる。
【0078】
これら温度応答性化合物の中でも、末端をカルボン酸基、アミン基、マレイミド基などの官能基に変性することが容易であるという観点、あるいはメタクリル酸と共重合させることでpH応答性を付与することができるという観点などから、N-置換(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を有する高分子が好ましい。
【0079】
これらの温度応答性化合物は、特に制限されないが、単量体を放射線照射によって重合することにより、または溶液重合することにより得られうるものである。
【0080】
単量体としては、それを重合することにより得られる単独重合体が温度応答性を示すもの(以下「温度応答性単量体」とも称する)を用いることができる。温度応答性単量体としては、特に限定されないが、たとえば、N-(またはN,N-ジ)置換(メタ)アクリルアミド化合物、環状基を有する(メタ)アクリルアミド化合物、およびビニルエーテル化合物等が挙げられる。温度応答性化合物は、1種の温度応答性単量体を重合することにより得られる単独重合体であってもよいし、2種以上の温度応答性単量体を重合することにより得られる共重合体であってもよい。共重合体は、グラフト共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0081】
また、温度応答性化合物は、必要に応じて、上記の温度応答性単量体に加えて、温度応答性を阻害しない範囲内において、それ自体は温度応答性単量体に該当しない単量体成分を重合することにより得られる共重合体であってもよい。該共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、およびグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0082】
さらに、温度応答性化合物は、これらの高分子の架橋体であってもよい。温度応答性高分子が架橋体である場合、かかる架橋体としては、たとえば、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルイソプロピルアミド、N-ビニル-n-プロピルアミド、N-ビニル-n-ブチルアミド、N-ビニルイソブチルアミド、N-ビニル-t-ブチルアミド等のN-ビニルアルキルアミド;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルアルキルエーテル;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド;2-エチル-2-オキサゾリン、2-n-プロピル-2-オキサゾリン、2-イソプロピル-2-オキサゾリン等の2-アルキル-2-オキサゾリン等の単量体またはこれら単量体の2種以上を、架橋剤の存在下で重合して得られる高分子を挙げることができる。
【0083】
上記架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;カルシウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
上記の温度応答性化合物の分子量も特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量が3,000以上であることが好ましい。
【0085】
上記温度応答性化合物は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記温度応答性化合物は、市販品を用いてもよいし、上述のように合成によって得られたものを用いてもよい。
【0086】
表面層における刺激応答性化合物の含有量は、表面層に含まれる刺激応答性化合物および樹脂の合計質量を100質量%として、20~70質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましい。このような範囲であれば、表面層の強度を向上させることができるとともに、速い刺激応答性を維持することができる。
【0087】
(その他の成分)
表面層は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、可塑剤、金属酸化物粒子等をさらに含有していてもよい。表面層の厚さ(乾燥厚さ)は、特に制限されないが、3~30μmであることが好ましく、5~10μmであることがより好ましい。
【0088】
(接着層)
インク膜形成用刷版は、表面層が接着層を介して支持体上に配置されてなるものであってもよい。
【0089】
接着層の形成に用いられる接着剤(以下、接着層形成用接着剤とも称する)としては、特に制限されず、硬化性樹脂、および必要に応じて重合開始剤、溶媒等を含む硬化性組成物が好ましい。
【0090】
硬化性樹脂は、活性エネルギー線(たとえば、紫外線、可視光線、X線、電子線等)硬化型、熱硬化型であってもよいが、好ましくは活性エネルギー線硬化型であり、より好ましくは紫外線硬化型である。硬化性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、硬化性樹脂は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0091】
紫外線硬化型樹脂としては、たとえば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。中でも紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂が好ましい。
【0092】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂としては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂としては、市販品を用いてもよく、市販品としては、サートマー(登録商標)SR295、350、399(サートマー社製)などを挙げることができる。
【0093】
重合開始剤は、使用する硬化性樹脂の種類に応じて、公知の光重合開始剤、熱重合開始剤等を適宜選択して使用することができる。接着層形成用接着剤は、市販品、合成品のいずれを使用してもよい。
【0094】
活性エネルギー線を照射して接着剤を硬化させる場合、照射条件(光源の種類、照射強度、照射時間等)は適宜選択することができる。光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の公知の光源を使用することができる。照射強度は、特に制限されないが、たとえば、10~200mW/cm2である。また、照射時間も、特に制限されないが、たとえば1~10分である。加熱により接着剤を硬化させる場合も、加熱温度や加熱時間は適宜調節することができる。
【0095】
接着層の厚さ(乾燥厚さ)は、特に制限されないが、0.5~3μmであることが好ましい。
【0096】
[インク膜形成用刷版の製造方法]
インク膜形成用刷版の製造方法は、特に制限されないが、たとえば、刺激応答性化合物および樹脂を含む表面層形成用溶液を調製した後、支持体上に当該溶液を塗布し乾燥することによって、表面層を設ける方法が挙げられる。
【0097】
表面層形成用溶液に用いられる溶媒としては、特に制限されず、たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の極性溶媒などが挙げられる。これら溶媒は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0098】
表面層形成用溶液中の樹脂および刺激応答性化合物の合計含有量は、特に制限されないが、30~60質量%であることが好ましい。
【0099】
表面層を支持体上に塗布する方法としては、たとえば、回転塗布法;浸漬法;たれ流し法;ロールコーター、ロッドコーター、カーテンコーター、スライドコーター、ドクターナイフ、スクリーンコーター、スロットコーター、押出しコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、インクジェットコーター等の液体フィルムコーティング装置を使用する方法;等が挙げられる。
【0100】
塗布液を塗布した後、必要に応じて風乾し、次いで、真空乾燥機等を用いて乾燥することにより、インク膜形成用刷版を得ることができる。真空乾燥機を用いる場合の乾燥温度は、特に制限されないが、25~40℃が好ましい。また、乾燥時間も特に制限されないが、1~4時間が好ましい。
【0101】
支持体と表面層との間に接着層を有する刷版を製造する場合は、上記[接着層]の項で説明した方法により支持体上に接着層を設けた後、該接着層上に表面層を形成すればよい。
【0102】
[製版装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る製版装置A-1を示す概略図である。製版装置A-1は、インク膜形成用刷版12に繰り返し書き込み可能なパターンを形成するための製版装置である。
図1に示すような構成を有する製版装置A-1は、第1刺激付与部1、第2刺激付与部2、およびクリーニング部3を有し、搬送ベルト11上を刷版12が矢印の方向に、クリーニング部3、第2刺激付与部2、第1刺激付与部1の順で通過するものである。
【0103】
(第1刺激付与部)
本発明の一実施形態に係る製版装置においては、刷版12の表面層に対して、第1刺激付与部1から発せられる第1刺激(
図1の実線の矢印)が付与される。第1刺激は、刷版12の表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる。第1刺激付与部1は、第1刺激によって刷版12の表面の物性を変えることで、画線部および非画線部からなる刷版12のパターンを描く。刷版12のパターンは、たとえば、印刷する画像データに基づいて描かれる。例えば、親水性部位および疎水性部位からなるパターンが形成される。
【0104】
刷版12の表面層が光応答性化合物を含む場合、書き込み手段である第1刺激付与部1は、発光ダイオード(LED)、単色レーザー光源等の公知の光源でありうる。また、刷版12の表面層が温度応答性化合物を含む場合、書き込み手段である第1刺激付与部1は、赤外線ランプ、単色レーザー光源等でありうる。これらは、単独でもまたは2つ以上を組み合わせて設置してもよい。
【0105】
インク膜形成用刷版12に対して、第1刺激付与部1から部分的に外部刺激を付与することにより、刷版12の表面層に第1物性の部位および第2物性の部位からなるパターンが形成される。なお、本明細書において、「部分的に外部刺激を付与する」とは、書き込む画像パターンの画像部または非画像部のいずれかに外部刺激を付与することをいう。
【0106】
上述したように、刺激応答性化合物は、光応答性化合物または温度応答性化合物が好ましい。したがって、第1刺激付与部1により付与される外部刺激は、光または温度変化であることが好ましい。
【0107】
刷版12の表面層が光応答性化合物を含む場合、外部刺激は光である。その際、書き込み手段(好ましくは単色レーザー光源)から照射される光の波長領域は特に制限されない。例えば、上記化学式(1)の化合物を用いた場合、200~400nmの光を照射することで、トランス体からシス体への光異性化が生じ、表面の物性が疎水性から親水性へと変化する。この場合、非画像部に光照射すると、非画像部が親水性になる。そして、画像部である光照射されていない部分は疎水性になり、疎水性インクを用いて印刷を行うことができる。上記光の波長は、280~400nmであることがより好ましい。このような波長領域であれば、より細かい領域に光を照射でき、小さい文字や細かい画像をより鮮明に再現することができる。また、表面層が受けるエネルギーが大きすぎないため、表面層が劣化しにくく、繰り返しの書き換え操作にも耐えうるものとなる。
【0108】
また、例えば、上記化学式(1)の化合物を用いた場合、可視光(好ましくは波長400~600nmの領域の可視光)を照射することで、シス体からトランス体への光異性化が生じ、表面の物性が親水性から疎水性へと変化する。この場合、画像部に光照射すると、画像部が疎水性になり、疎水性インクを用いて印刷を行うことができる。刷版が未使用のものである場合、あらかじめ刷版12の表面全体に対して、例えば後述する第2刺激部による第2刺激を付与して表面の物性を親水性にしておくことが好ましい。
【0109】
第1刺激による照射光量は、たとえば1~30J/cm2の範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、小さい文字や細かい画像を鮮明に書き込むことができ、表面層にも負荷をかけ過ぎずに書き込みを行うことができる。
【0110】
刷版12の表面層が温度応答性化合物を含む場合、外部刺激は温度変化である。上述した温度応答性化合物は、臨界溶解温度を有するため、この臨界溶解温度を通過させるように、表面層に温度変化を付与し、刷版1の表面層に親水性部位および疎水性部位からなるパターンを形成させる。この際、用いられる書き込み手段である第1刺激付与部1は、波長700~900nmの光を発する単色レーザー光源であることが好ましい。この書き込み手段により部分的な加熱が行われ、パターンが形成される。
【0111】
第1刺激付与部1として各種の光源を用いる場合、外部刺激が付与された刺激応答性化合物のみ水との親和性が変化するように、光源からの光を微細な点(ピンスポット)または微細な線として刷版12の表面に照射することが好ましい。ピンスポットは、たとえば、光源からの光を光ファイバーで導光して照射する照射方式、複数の光源を刷版12の進行方向に配置し、レンズにより縮小して刷版12の進行方向に照射するレンズ縮小方式など様々な方法で形成することができる。また、微細な線は、たとえば、レーザー光の走査によって形成することもできる。さらに、必要な光量を供給できるものであれば、画像パターンの投影等による照射方式を採用することも可能である。刷版12の表面上での光の点の大きさや線の太さは、一般的なオフセット印刷で画線部を構成する点(ドット)の大きさと同様にすることが好ましい。画像パターンは、刷版12を移動させつつ、光照射することで刷版12の全体に形成される。
【0112】
書き込み手段である第1刺激付与部1は、少なくとも画像パターンを変化させて異なる印刷物を印刷する際に再度作動させることができればよく、同じ印刷物を複数枚印刷する場合には、再度の使用をしなくてもよい。すなわち、一度の書き込みにより、表面層に形成された画像パターンがそのまま維持される。そのため、画像パターンが書き込まれた刷版を、例えば印刷装置に設置し、印刷装置の転写手段により連続してインク膜を転写することにより、再書き込みを伴わずに複数枚の印刷を行うことができる。
【0113】
したがって、例えば、新しい刷版に最初に書き込みを行う場合は、印刷装置A-1において、クリーニング部3によるクリーニングおよび第2刺激付与部2による第2刺激の付与は行わずに、第1刺激付与部1による第1刺激の付与のみを行い、印刷用刷版を作製しることができる。そして、これを上記のように印刷装置に設置し、印刷を行うことができる。
【0114】
(第2刺激付与部)
第2刺激付与部2は、刷版12の表面に、刷版12の表面の物性を第2物性から第1物性へ変化させる第2刺激(
図1の点線の矢印)を与える。この際、刷版12は、上記の第1刺激付与部1により表面にパターンが形成されている刷版でありうる。第2刺激付与部2は、第2刺激によって、第2物性であった部分を、第1物性に変化させる。第2刺激付与部は、第2刺激によって刷版12の表面の物性を変えることで、刷版12の表面から、画線部および非画線部からなるパターンを消去する。
【0115】
刷版12の表面層が光応答性化合物を含む場合、消去手段である第2刺激付与部2は、発光ダイオード(LED)、単色レーザー光源等の公知の光源でありうる。光源からの光は、例えば、レンズなどで刷版12の進行方向に拡散光または線状の光として刷版12の表面に照射される。第2刺激となる光は、刷版12の進行方向に均一であることが好ましいが、第2刺激として刷版12の表面からパターンを消去できる強度があれば、多少のばらつきがあってよい。また、第2刺激となる光は、レーザー光を刷版12の進行方向に走査することによって照射してもよい。
【0116】
第2刺激付与部2から照射される第2刺激としての光の波長領域は特に制限されない。例えば、上記化学式(1)の化合物を用いた場合、水との親和性の変化速度の観点から、第1刺激付与部1からの第1刺激としての光の波長が200~400nmであった場合、第2刺激付与部2からの第2刺激としての光の波長は400~600nmであることが好ましい。同様に、第1刺激付与部1からの第1刺激としての光の波長が400~600nmであった場合、第2刺激付与部2からの第2刺激としての光の波長は200~400nmであることが好ましく、280~400nmであることがより好ましい。
【0117】
第2刺激による照射光量は、たとえば1~30J/cm2の範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、画像パターンを容易に消去することができ、表面層にも負荷をかけ過ぎずに消去を行うことができる。
【0118】
刷版12の表面層が温度応答性化合物を含む場合、第2刺激付与部2としては、たとえば、5~20℃の冷風を発生することができる冷風発生装置、5~20℃の恒温槽等が挙げられる。
【0119】
このような消去手段としての第2刺激付与部2によりパターンが消去され、刷版12の表面層は外部刺激を付与する前と同様の性状を有するようになる。その後、上記の書き込み工程を再び行うことで、表面層に新たなパターンを形成することができる。すなわち、本発明の製版装置によれば、デジタルでのパターンの書き換えが容易になる。
【0120】
(クリーニング部)
本実施形態の製版装置は、印刷後の刷版12の表面に残存しているインクを除去するクリーニング部3を有する。好ましくは、クリーニング部3は、第2刺激付与部2による刷版12のパターン消去の前に、刷版12の表面に付着しているインクを除去する。
【0121】
クリーニング部3は、印刷に使用した刷版上に残存するインクを除去することができるものであれば特に制限されない。例えば、エアーナイフやエアーでインクを吸引する手段などを用いることができるが、本実施形態の製版装置においては、刷版12に当接する当接部材を備え、上記当接部材によって刷版を押圧することにより上記刷版上に残存しているインクを当該当接部材に付着させてインクを除去するものであることが好ましい。このようにすることで、インクをより効果的に除去することができる。なお、上記当接部材は、刷版12の表面に当接、離間可能となっていることが好ましい。例えば、新しい刷版に1回目に書き込む場合などは、前記当接部材を刷版の表面から離間させることが好ましい。
【0122】
前記当接部材としては、クリーニングローラ、クリーニングベルト、クリーニングブレード等を用いることができるが、
図1に示す製版装置A-1のように、クリーニングローラ6を用いるとインクをむらなく回収できるため好ましい。クリーニングローラ6は、高表面付着力を有する材料を含む部材を表面に有すると、インクを効率的に付着できる点でより好ましい。高表面付着力を有する材料としては、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂が特に好ましい。
【0123】
前記当接部材として、
図2に示す刷版装置A-3のように、クリーニングブレード7を用いる場合、クリーニングブレード7は、刷版12の表面に当接しているとき、ブレードの先端が、刷版12の進行方向に対して逆向き(カウンター方向)となるように配置されていることが好ましい。
【0124】
クリーニングブレード7は、たとえば、ポリウレタン、シリコーンゴムなどの弾性材からなるスクイーズブレードを使用できる。これらのスクイーズブレードは、刷版12の表面に当接してインクを搾り取って(こそぎ取って)除去する。
【0125】
図3に示す製版装置B-1のように、前記当接部材としてクリーニングローラ6を用いる場合、クリーニング部3は、クリーニングローラ6に付着したインクを回収するインク回収部4をさらに有することが好ましい。これにより、刷版12上に付着したインクをより確実に除去することができる。インク回収部4は、クリーニングローラ6の表面に当接するように、例えば金属製や樹脂製の支持部材(図示せず)に、インクの吸収性の高い部材(インク吸収性部材)8が取り付けられて、クリーニングローラ6の表面からインクを吸収し、またはぬぐい取って除去するものであることが好ましい。上記インクの吸収性の高い部材8としては、織布、不織布、またはスポンジが好ましく用いられうる。当該構成により、クリーニングローラ6に付着したインクを、インクの吸収性が高い部材8により吸い取ることができ、刷版12上に付着したインクをより確実に除去することができる。
【0126】
また、
図4に示す製版装置B-3のように、インク回収部4は、クリーニングローラ6に当接した押圧ローラ9と、クリーニングローラ6と押圧ローラ9との間に通紙したクリーニング紙10と、を含み、クリーニングローラ6に付着したインクをクリーニング紙10に転写することにより回収するものであってもよい。当該構成により、クリーニングローラ6に付着したインクを、クリーニング紙10により除去することができ、刷版12上に付着したインクをより確実に除去することができる。
【0127】
図5に示す製版装置Cのように、クリーニング部3は、インク除去の前およびインク除去と同時の少なくとも一方の段階において、前記刷版の表面および残存するインクの少なくとも一方に外部刺激(第3刺激)を与える第3刺激付与部5をさらに有することが好ましい。
【0128】
第3刺激付与部5から付与される第3刺激は、刷版12の表面または残存するインクの状態を変えるものであることが好ましい。具体的には、刷版12の表面の物性またはインクの物性を、表面とインクの親和性が低くなるように変化させるものであることが好ましい。例えば、第3刺激付与部5をクリーニングローラ6の下流に設置し、刷版12の表面において、第3刺激をクリーニングローラが刷版12と当接する位置またはその下流側に付与することにより、クリーニングローラ6に到達する前または同時に、刷版12の表面または残存するインクの状態を変えることができ、これによりインクの除去を補助することができる。
【0129】
第3刺激付与部5としては、UV光源や、熱源を設置することができる。これにより、残存するインクを硬化する、乾燥するなどの方法により、残存するインクの状態を変えることができる。
【0130】
また、第3刺激付与部5として、LED光源等の光源、熱源、電気刺激を付与する手段などを用いることができ、これによりインクの付着性を下げるように表面形状を変える、親水性・疎水性などの表面の物性を変えるなどの方法により、刷版12の表面の状態を変えることができる。
【0131】
特に、効果的に残存インクの除去を補助できることから、第3刺激付与部により付与される外部刺激が、上記第1刺激または第2刺激と同種の刺激であることが好ましい。ここで、同種の刺激とは、例えば、第1刺激または第2刺激が光であれば、第3刺激も光であり、第1刺激または第2刺激が熱(温度変化)であれば第3刺激も熱であることをいい、かつ、第1刺激または第2刺激のいずれかと同様に刷版の表面の物性の変化(第1物性から第2物性に、または第2物性から第1物性に)をもたらしうる波長の光、または温度変化であることをいう。例えば、第1刺激または第2刺激が光である場合、第3刺激は、上記のいずれかの光の中心波長±50nm程度の中心波長を有する光であることが好ましい。ただし、光源からの光は、例えば拡散光または線状の光として刷版12の表面の全体に照射されることが好ましく、照射光量については、たとえば0.1~30J/cm2の範囲であることが好ましい。例えば、第1刺激または第2刺激が熱である場合、第3刺激は、上記のいずれかの加熱温度±15℃程度の加熱であることが好ましい。好ましくは、第3刺激は、第1刺激または第2刺激のいずれか一方と同一の光源を用いた光または同一の波長の光である。また、好ましくは、第3刺激は、第1刺激または第2刺激のいずれか一方と同一の温度変化である。
【0132】
(刷版の書き換え)
刷版12が新品の場合は、刷版12の表面に、インクが供給されていない。したがって、刷版12が新品の場合は、刷版を移動させつつ、刷版12の表面に、第1刺激付与部1から第1刺激を与えて、所望するパターンを書き込む。これにより、刷版12にパターンが形成される。
【0133】
刷版12の書き換えの場合は、印刷後の刷版12を、
図1に示すように、搬送ベルト11などの公知の搬送手段を用いて、製版装置A-1のクリーニング部3、第2刺激付与部2、第1刺激付与部1の順に通過させて、クリーニング部3による印刷後の刷版に残存するインクの除去、第2刺激付与部2によるパターンの消去、および第1刺激付与部1によるパターンの再書き込みをこの順で行うことができる。
【0134】
または、印刷後の刷版12を、
図6に示すように、製版装置Dの第2刺激付与部2、クリーニング部3、第1刺激付与部1の順に通過させて、第2刺激付与部2によるパターンの消去、クリーニング部3による刷版に残存するインクの除去、および第1刺激付与部1によるパターンの再書き込みをこの順で行うことができる。
【0135】
しかしながら、本実施形態の製版装置は、刷版12がクリーニング部3、第2刺激付与部2、第1刺激付与部1の順に通過することが好ましい。このようにすることで、印刷後の刷版に残存するインクが低減された状態で第2刺激および第1刺激の両方を与えることができる。そのため、第2刺激による表面の状態の変化および第1刺激による表面の状態の変化の両方を確実に行うことができる。その結果、前画像のかぶりをより低減することができる。
【0136】
[製版方法]
本発明はまた、インク膜形成用刷版に繰り返し書き込み可能なパターンを形成するための製版方法を提供する。すなわち、本発明の一実施形態は、外部刺激に応答して可逆的に物性が変化する刺激応答性化合物を含む表面層を有するインク膜形成用刷版の表面に、画像データに基づいて前記表面の物性を第1物性から第2物性へ変化させる第1刺激を与えてパターンを形成させる第1刺激付与工程と、前記パターンが形成された刷版の画像部または非画像部のいずれかにインク膜を形成する工程と、前記インク膜が形成された刷版を用いて印刷を行う工程と、印刷後の刷版の表面に、前記表面の物性を前記第2物性から前記第1物性へ変化させる第2刺激を与えて前記パターンを消去する第2刺激付与工程と、前記パターンが消去された前記刷版の表面に前記第1刺激を与えて新たな画像パターンを形成する工程と、前記印刷を行う工程の後であって前記第2刺激付与工程の前、または前記第2刺激付与工程の後であって前記新たな画像パターンを形成する工程の前に、印刷後の刷版の表面に残存しているインクを除去するクリーニング工程と、を有する、製版方法である。
【0137】
上記の第1刺激付与工程、第2刺激付与工程、クリーニング工程の具体的な形態は上記で説明した通りであるため、説明を省略する。なお、新たな画像パターンを形成する工程は、印刷後、パターンを消去した刷版に対して、新たな画像データに基づいて第1刺激を付与することを除いては第1刺激付与工程と同様の工程である。
【0138】
前記パターンが形成された刷版の画像部または非画像部のいずれかにインク膜を形成し、インク膜が形成された刷版を用いて印刷を行う工程については、一般的なオフセット印刷機による印刷方法のような、従来公知の手段が適宜採用されうる。
【0139】
インク膜を形成する工程では、第1刺激付与工程で形成したパターンに対し、インクを塗布して、インク膜を形成する。インクを塗布する手段も特に制限されない。なお、本明細書において、「インク膜を形成する」とは、インクが被印刷体に転写可能な状態でパターンの所定位置(例えば親水性部位または疎水性部位)に保持されることをいう。
【0140】
インクとしては、被印刷体に転写可能なものであれば特に制限されず、水性インク、油性インク、エマルションインク等の公知のインクを使用することができる。水性インクを用いた場合は、パターンの親水性部位にインク膜が形成される。油性インクやエマルションインクを用いた場合は、パターンの疎水性部位にインク膜が形成される。
【0141】
そして、少なくとも1枚の印刷を実行するごとに、上述の第2刺激付与工程、新たな画像パターンを形成する工程、クリーニング工程、インク膜を形成する工程、および印刷を行う工程を繰り返し行うことで、繰り返し刷版を書き換えて印刷を行うことができる。
【0142】
[印刷装置]
本実施形態による製版装置を用いてパターンを形成した刷版を印刷装置に装着して印刷を行なうことができる。
図7に、上記刷版を用いて印刷を行うための印刷装置の要部を示す斜視図を示す。
【0143】
図7に示す印刷装置は、オフセット印刷装置である。
図7に示すように、印刷装置100は、版胴101、ブランケット103、圧胴104、インクローラ105、および湿し水ローラ106を有する。
【0144】
版胴101の表面には、本発明の製版装置を用いて作製された、表面に画線部および非画線部よりなるパターンが形成されている刷版102が装着されている。なお、以下では、版胴101と刷版102は一体のものとして説明する。したがって、版胴101の表面は、すなわち刷版102の表面ということになる。
【0145】
例えば、画線部は疎水性インクが載る疎水性(親油性)の部分とし、非画線部は水が載る親水性の部分とすることができる。上述したように、刷版102の表面は、画線部および非画線部によって形成されるパターンの書き換えが可能である。
【0146】
ブランケット103は、版胴101に付着したインクが転写され、ブランケット103に付着したインクがさらに用紙200へ転写される。圧胴104は、ブランケット103との間を搬送される用紙200をブランケット103の方向へ加圧する。インクローラ105は、インク壺など(不図示)から供給されるインクを版胴101へ供給する。湿し水ローラ106は、版胴101を湿らせる水を版胴101へ供給する。版胴101、ブランケット103、圧胴104、インクローラ105、および湿し水ローラ106は、用紙200の搬送に同期して回転する(図示矢印方向)。なお、用紙200の搬送方向は、図示矢印SFで示した。刷版部分を除いて、版胴101、ブランケット103、圧胴104、インクローラ105、湿し水ローラ106の構成、および印刷動作は、一般的なオフセット印刷装置と同様である。
【0147】
すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の製版装置を用いてパターンが形成されたインク用形成用刷版が表面に装着された版胴と、前記刷版の表面に接するブランケットと、前記ブランケットとの間で被印刷媒体を挟んで、当該被印刷媒体を前記ブランケットの方向へ加圧する圧胴と、前記刷版にインクを供給するインクローラと、を有する印刷装置である。
【0148】
また、本発明の一実施形態は、表面に刷版を装着することができる版胴と、前記刷版の表面に接するブランケットと、前記ブランケットとの間で被印刷媒体を挟んで、当該被印刷媒体を前記ブランケットの方向へ加圧する圧胴と、前記刷版にインクを供給するインクローラと、を有する印刷装置を用いた印刷方法であって、本発明の製版装置を用いてパターンが形成されたインク用形成用刷版を前記版胴の表面に装着することを含む、印刷方法である。外部装置としての製版装置を用いて刷版の書き換えを行うことにより、
図7に示す印刷装置の要部において書き込み手段や消去手段を設置して書き換えを行う場合と比較して、作業性が向上しうる。また、刷版の書き換えに伴う印刷のタイムロスを少なくすることができる。
【実施例】
【0149】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
【0150】
<上記化学式(6)で表されるアゾベンゼン化合物(アゾベンゼン誘導体(ポリマー2))の合成>
3-クロロ-4-(ヘキシルオキシ)アニリン(13.66g、60mmol)に2.4N塩酸75mLを加えた後、0℃で冷却攪拌しながら、亜硝酸ナトリウム(4.98g、72mmol)を蒸留水6mLに溶解した溶液を加え、0℃で60分間攪拌を続けた。この溶液に、2-クロロフェノール(7.71g、60mmol)と20%水酸化ナトリウム水溶液24mLとの混合溶液を加え、20時間攪拌した。析出した沈殿を濾過し、固形物を水で洗浄した。得られた固体を、酢酸エチルとヘキサンとの混合液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、中間体C(構造は前記反応式Cを参照)を得た。この中間体C(7.35g、20mmol)にDMF100mL、3-ブロモ-1-ヘキサノール(10.9g、60mmol)、および炭酸カリウム(6.91g、50mmol)を加え、80℃で2時間攪拌した後、室温(25℃)で20時間攪拌を続けた。溶媒を減圧留去後、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。これを濾過した後、溶媒を減圧留去し、得られた固形物を酢酸エチルとヘキサンとの混合液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、中間体D(構造は前記反応式Cを参照)を得た。この中間体D(4.67g、10mmol)に、テトラヒドロフラン100mLを加え、中間体Dのテトラヒドロフラン溶液を調製した。別途、アクリロイルクロリド(1.09g、12mmol)とトリエチルアミン(2.43g、24mmol)とを加えたところに、中間体Dのテトラヒドロフラン溶液を0℃で滴下し、引き続き、0℃で30分攪拌した後、室温(25℃)まで昇温させ、さらに室温(25℃)で2時間攪拌した。得られた反応液を水、飽和食塩水で洗浄した後、溶媒を減圧留去し、メタノールで再結晶することにより、中間体Eを得た。この中間体E(2.61g、5mmol)に20%水酸化ナトリウム水溶液12mLを加え、340℃、150atmで2時間攪拌した後、1.2N塩酸 10mLを加え、室温(25℃)で1時間攪拌した。酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。これを濾過した後、溶媒を減圧留去し、得られた固形物を酢酸エチルとヘキサンとの混合液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、中間体Fを得た。この中間体F(1.45g、3mmol)に、テトラヒドロフラン5mLを加え、さらに、重合開始剤として2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を中間体Fに対して5質量%加え、70℃で20時間攪拌した。その後、エタノールを用いて再沈殿させることにより、アゾベンゼン誘導体(ポリマー2)(上記化学式(6)参照)を得た。得られたポリマー2は、上記化学式(6)中の繰り返し単位であるxが100程度であった。
【0151】
(インク膜形成用刷版(M-1)の作製)
ジクロロメタン 1200質量部、トルエン 1200質量部、光応答性化合物である上記で合成したアゾベンゼン誘導体(ポリマー2)950質量部、および熱可塑性樹脂であるスチレンアクリル樹脂(星光PMC株式会社製、US-1071)950質量部を50℃で1時間攪拌混合し、溶液を得た。この溶液を、ペイントシェーカーを用いて室温(25℃)で30分間よく分散させた後、支持体である電解研磨された平板状のアルミニウム基板(縦360mm×横180mm)に、ブレードコーターを用いて乾燥後の厚さが6μmになるように塗布した。塗布後30分間風乾し、次いで、真空乾燥機を用いて30℃で2時間乾燥し、インク膜形成用刷版(M-1)を得た。
【0152】
作製したインク膜形成用刷版(M-1)の表面の全面に水ローラを用いて水を塗布したところ、水をはじいたことから、疎水性表面であることを確認した。
【0153】
<製版装置>
(製版装置A-1)
図1に示すような構成を有する製版装置A-1は、第1刺激付与部1、第2刺激付与部2、クリーニング部3を有し、搬送ベルト11上を刷版12がクリーニング部3、第2刺激付与部2、第1刺激付与部1の順で通過するものである。第1刺激付与部1に波長465nmの単色レーザー光源、第2刺激付与部2に波長365nmの単色レーザー光源、クリーニング部3には表層がポリイミド(PI)樹脂からなるクリーニングローラ6を設置した。
【0154】
(製版装置A-2)
製版装置A-2において、クリーニング部3に表層がナイロン樹脂からなるクリーニングローラ6を設置した。それ以外は、製版装置A-1と同様の構成とした(図示せず)。
【0155】
(製版装置A-3)
図2に示すように、製版装置A-3において、クリーニング部3にポリウレタン樹脂からなるクリーニングブレード7を設置した。それ以外は、製版装置A-1と同様の構成とした。
【0156】
(製版装置B-1)
図3に示すような構成を有する製版装置B-1は、製版装置A-1に追加して、クリーニングローラ6に当接するインク回収部4を設置した。インク回収部4は、不織布からなるウェブ(インク吸収性部材8)でクリーニングローラ6に付着したインクを回収するものである。
【0157】
(製版装置B-2)
製版装置B-2において、インク回収部4は、織布からなるウェブ(インク吸収性部材8)でクリーニングローラ6に付着したインクを回収するものである。それ以外は、製版装置B-1と同様の構成とした(図示せず)。
【0158】
(製版装置B-3)
図4に示すように、製版装置B-3において、インク回収部4は、クリーニングローラ6と押圧ローラ9との間にクリーニング紙10を矢印の向きに通紙してクリーニングローラ6に付着したインクをクリーニング紙10に回収するものである。それ以外は、製版装置B-1と同様の構成とした。
【0159】
(製版装置C)
図5に示すような構成を有する製版装置Cは、製版装置B-1に追加して、クリーニングローラ6と刷版12の接触部の直前に、第3刺激付与部5を設置したものである。第3刺激付与部5は、第2刺激付与部2と同じく波長365nmの単色レーザー光源を設置した。
【0160】
(製版装置D)
図6に示すような構成を有する製版装置Dは、第1刺激付与部1、第2刺激付与部2、ならびにクリーニングローラ6およびクリーニングローラ6に当接するインク回収部4を含むクリーニング部3を有し、搬送ベルト11上を刷版12が第2刺激付与部2、クリーニング部3、第1刺激付与部1の順で通過するものである。第1刺激付与部1に波長465nmの単色レーザー光源、第2刺激付与部2に波長365nmの単色レーザー光源、クリーニング部3は表層がポリイミド樹脂からなるクリーニングローラ6を設置した。インク回収部4は、不織布からなるウェブ(インク吸収性部材8)でクリーニングローラ6に付着したインクを回収するものである。
【0161】
(製版装置E)
図8に示すような構成を有する製版装置Eは、製版装置Dに追加して、クリーニングローラ6と刷版12との接触部の直前に、第3刺激付与部5を設置したものである。第3刺激付与部5は、第2刺激付与部2と同じく波長365nmの単色レーザー光源を設置した。
【0162】
(製版装置F)
図9に示すような構成の製版装置Fは、第1刺激付与部1、第2刺激付与部2を有し、搬送ベルト11上を刷版12が第2刺激付与部2、第1刺激付与部1の順で通過するものである。
【0163】
(実施例1)
上記で作製したインク膜形成用刷版(M-1)を製版装置A-1に通し、第2刺激付与部で刷版の表面層全面に波長365nmのレーザー光を照射光量3J/cm
2で照射した。この際、クリーニングローラは刷版表面から離間させておき、第2刺激付与部における光照射の前にはクリーニングローラによるクリーニングを行わなかった。光照射を行った後の刷版について、別途、刷版の表面層の全面に水ローラを用いて水を塗布したところ、一様に濡れたことから、第2刺激付与部による光照射(照射光量3J/cm
2)により刷版(M-1)の表面層全体が親水性部位となったことを確認した。次いで、第1刺激付与部にて波長465nmの単色レーザー光を、
図10に示す出力画像の画像部に対して照射光量3J/cm
2で照射した。これにより、光照射部、すなわち画像部が疎水性部位となり、非画像部が親水性部位となるパターンを有するインク膜形成用表面(m11)を形成した。なお、
図10は、初期印刷における刷版面のパターンを示す図であり、このパターンは、線幅0.1mmの画線部となっている。
【0164】
次いで、このインク膜形成用表面(m11)を有する刷版をオフセット印刷機の版胴に取り付け、連続1000枚の印刷を行った。第1刺激付与部による光照射部が画像部として出力されていることを確認した。
【0165】
ここで、オフセット印刷機としては、株式会社小森コーポレーション製LITHRONE26を用いた。インクとしては疎水性インクである東洋インキ社製TOYO KING NEX(登録商標)シリーズを用い、被印刷体としての三菱製紙社製パールコートNを用いて印刷を行った。
【0166】
引き続き、この刷版をオフセット印刷機から取り外し、製版装置A-1によって刷版に残存しているインクのクリーニング、第2刺激付与部による画像パターンの消去、第1刺激付与部による再書き込みを行った。
【0167】
具体的には、インクのクリーニングは表面がポリイミド樹脂からなるクリーニングローラを用い、第2刺激付与部で刷版の表面層全面に波長365nmのレーザー光を照射光量3J/cm
2で照射した。次いで、第1刺激付与部にて波長465nmの単色レーザー光を、
図11に示す出力画像の画像部に対して照射光量3J/cm
2で照射した。
図11は、再書き込みにおける刷版面のパターンを示す図であり、このパターンは、線幅0.1mmの画線部となっている。これにより、光照射部、すなわち、画像部が疎水性部位となり、非画像部が親水性部位となるパターンを有するインク膜形成用表面(m12)を形成した。なお、上記の第2刺激付与部による刺激の後、別途、第1刺激付与部による刺激を行わずに取り出した刷版の全面に水ローラで水を塗布したところ、一様に濡れたことから、パターンが消去されたことを確認した。
【0168】
次いで、このインク膜形成用表面(m12)を有する刷版をオフセット印刷機の版胴に取り付け、連続100枚の印刷を行った。100枚目の印刷画像(再書き込み後、100枚目の印刷画像)について後述するかぶり評価を行った。
【0169】
(製版装置の繰り返し使用時の安定性)
さらに、上述した方法で刷版を連続10枚、製版装置A-1によるクリーニングおよび画像パターンの消去、再書き込みを行った。すなわち、別々の10枚の版を準備して、1枚目から10枚目のそれぞれの版について、
図10のパターンの書き込み、印刷、クリーニング、画像パターンの消去、および
図11のパターンの再書き込みの工程を、順次行った。10枚目の刷版をオフセット印刷機の版胴に取り付け、連続100枚の印刷を行った。100枚目の印刷画像(再書き込み後、100枚目の印刷画像)について後述するかぶり評価を行った。
【0170】
(実施例2)
製版装置A-2を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0171】
(実施例3)
製版装置A-3を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0172】
(実施例4)
製版装置B-1を用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。不織布からなるウェブにより、クリーニングローラに付着したインクを回収した。ウェブを通過したクリーニングローラ上ではインクが除去されていることを確認した。
【0173】
(実施例5)
製版装置B-2を用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。織布からなるウェブにより、クリーニングローラに付着したインクを回収した。ウェブを通過したクリーニングローラ上ではインクが除去されていることを確認した。
【0174】
(実施例6)
製版装置B-3を用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。クリーニングローラと対向する押圧ローラとの間に紙(クリーニング紙)を通紙することによりクリーニングローラに付着したインクを回収した。通紙部を通過したクリーニングローラ上ではインクが除去されていることを確認した。
【0175】
(実施例7)
製版装置Cを用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。不織布からなるウェブにより、クリーニングローラに付着したインクを回収し、クリーニングローラの直前の第3刺激付与部5にて、刷版の表面層全面に波長365nmのレーザー光を照射光量1J/cm2で照射した。
【0176】
(実施例8)
製版装置Dを用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。第2刺激付与部による画像パターンの消去、刷版に残存しているインクのクリーニング、第1刺激付与部による再書き込みをこの順で行った。不織布からなるウェブにより、クリーニングローラに付着したインクを回収した。ウェブを通過したクリーニングローラ上ではインクが除去されていることを確認した。
【0177】
(実施例9)
製版装置Eを用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。第2刺激付与部による画像パターンの消去、刷版に残存しているインクのクリーニング、第1刺激付与部による再書き込みをこの順で行った。不織布からなるウェブにより、クリーニングローラに付着したインクを回収し、クリーニングローラの直前の第3刺激付与部5にて、刷版の表面層全面に波長365nmのレーザー光を照射光量1J/cm2で照射した。
【0178】
(比較例1)
製版装置Fを用いて、後述する点以外は同様の方法で、実施例1と同様の評価を行った。製版装置Fはクリーニング部がなく、印刷後、オフセット印刷機から取り出した刷版を製版装置Fにて再書き込みする際、版上に残存するインクを除去することなく、第2刺激付与部によるパターン消去、第1刺激付与部による再書き込みを行った。
【0179】
[評価方法]
<かぶり評価>
印刷後の画像を評価した。評価は、各実施例および比較例でそれぞれ再書き込みしたパターンを用いて印刷し、印刷された画像をデジタルマイクロスコープ「VHX-600」(株式会社キーエンス製)にて拡大した。得られたモニター画像から、インジケーターにより細線、特に、初期画像である
図10のパターンに相当する部分の細線について観察し、下記基準により評価した。前画像とは、初期印刷の画像である。◎、〇、△であれば問題なく使用できる:
◎:前画像のかぶりなし
〇:前画像のかぶりが一部にうすく見える
△:前画像のかぶりが全面にうすく見える
×:前画像のかぶりがくっきり見える。
【0180】
評価結果を下記表1に示す。
【0181】
【0182】
上記表1から明らかなように、第1刺激付与部、第2刺激付与部およびクリーニング部を有する製版装置を用いた実施例1~9では、いずれも、再書き込み後の1枚目の刷版の100枚目の印刷画像に前画像のかぶりが少なかった。これにより、刷版上に残ったインクをクリーニングすることで前のパターンを十分に消去できることがわかった。
【0183】
これに対して、クリーニング部を有さない製版装置を用いた比較例1では、再書き込み後の刷版の印刷画像に前画像のかぶりがくっきりと見えた。これは、版上に残存するインクが外部刺激を邪魔して前画像のパターンを消去できない部分が発生し、新たなパターンを書き込んだ刷版で印刷した際に前画像のパターンが印刷されてしまったためと考えられる。
【0184】
また、本発明の刷版装置を用いた実施例1~9では、いずれも10枚目の刷版についてもかぶりが少なく、製版装置を繰り返し使用しても安定してパターンの書き込みと消去が可能であることがわかった。
【0185】
実施例1~3の比較から、クリーニング部にクリーニングローラを用いるとかぶりがより低減される。
【0186】
さらに、実施例4~7のように、インク回収部をさらに設けることで特に10枚目の版でのかぶりが改善された。インク回収部を設けることにより、クリーニング部にインクがたまることによるクリーニング性能低下を抑制でき、繰り返し使用時でもインクの除去を確実に行うことができることから、特に10枚目の版でのかぶりが改善されたものと考えられる。
【0187】
さらに実施例7のように、第3刺激付与部をさらに設けることで、インクの除去がより確実に行われることから、特に10枚目の版でのかぶりが改善された。
【符号の説明】
【0188】
1 第1刺激付与部、
2 第2刺激付与部、
3 クリーニング部、
4 インク回収部、
5 第3刺激付与部、
6 クリーニングローラ、
7 クリーニングブレード、
8 インク吸収性部材、
9 押圧ローラ、
10 クリーニング紙、
11 搬送ベルト、
12、102 インク膜形成用刷版、
100 印刷装置、
101 版胴、
102 刷版、
103 ブランケット、
104 圧胴、
105 インクローラ、
106 湿し水ローラ(水ローラ)、
200 用紙、
A-1、A-3、B-1、B-3、C、D、E、F 製版装置。