(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】減圧弁
(51)【国際特許分類】
G05D 16/10 20060101AFI20250107BHJP
F16K 17/28 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G05D16/10 Z
F16K17/28
(21)【出願番号】P 2020205705
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 一志
(72)【発明者】
【氏名】金子 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中野 哲
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼林 和広
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 千生
(72)【発明者】
【氏名】木原 侑也
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-091191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/10
F16K 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路を有するボディと、
前記ガス流路の途中に設けられた弁座と、
前記ガス流路における前記弁座の下流側に設けられて前記弁座に対して離間する方向へ向けて常時付勢されるとともに一次側の圧力と二次側の圧力との差に応じて前記弁座を開閉する弁体と、を備え、
前記ガス流路における前記弁体の一次側には、前記弁体と前記弁座との間の空間部分である圧力室が形成され、
前記弁体は、前記弁体における前記弁座寄りの位置において前記弁体の軸線に対して交わる方向に沿って延び、前記圧力室に開口する複数の横穴と、
前記弁体の軸線に沿って延
び複数の
前記横穴と前記ガス流路における前記弁体の二次側との間を連通する縦穴と、を有し、
前記弁体の一次側の前記圧力室の圧力と前記弁体の二次側の圧力との差を生じさせにくくするために、
前
記横穴
の内径および前記縦穴
の内径は、前記縦穴の流路面積に対す
る複数の
前記横穴の流路面積を合計した合計面積の比の値が
、次式(A)を満たすように設定されている減圧弁。
S2/S1・N=π(φ2/2)
2
/π(φ1/2)
2
・N>1.16 …(A)
ただし、「S2」は前記縦穴の流路面積、「S1」は前記横穴の流路面積、「N」は前記圧力室に対する前記横穴の開口数、「φ2」は前記縦穴の内径、「φ1」は前記横穴の内径、「π」は円周率である。
【請求項2】
複数の
前記横穴の内径は、すべて同じ値に設定されている請求項1に記載の減圧弁。
【請求項3】
複数の
前記横穴は、前記弁体の周方向において等間隔で設けられている請求項1または請求項2に記載の減圧弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特許文献1に記載されるように、一次ポートから供給されるガスの圧力を減圧し、この減圧されるガスを二次ポートへ送出する減圧弁がある。減圧弁は、ボディ、弁座、弁体および付勢部材を有している。ボディの内部には、一次ポートと二次ポートとの間を連通する流路が設けられている。弁座は、流路の途中に設けられている。弁体は、弁座に対して接離可能に設けられている。付勢部材は、弁体を弁座から離間させる方向へ向けて付勢する。弁体は、一次ポート側の圧力と二次ポート側の圧力との差圧、および付勢部材の付勢力に応じて移動する。弁体の位置に応じて減圧弁の開度が変化することにより二次圧が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の減圧弁においては、つぎのようなことが懸念される。たとえば減圧弁が開弁した状態において、ガスが一次ポートから急激に入り込む際、弁体の一次ポート側の圧力が急激に上昇する。このため、弁体の一次ポート側の圧力と二次ポート側の圧力との差がより大きくなることによって、弁体の閉弁動作が遅れるおそれがある。この閉弁動作の遅れに起因して二次圧が設定された圧力の値を超えることが懸念される。
【0005】
本発明の目的は、ガスの圧力をより適切に調整することができる減圧弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る減圧弁は、ガス流路を有するボディと、前記ガス流路の途中に設けられた弁座と、前記ガス流路における前記弁座の下流側に設けられて前記弁座に対して離間する方向へ向けて常時付勢されるとともに一次側の圧力と二次側の圧力との差に応じて前記弁座を開閉する弁体と、を備えている。前記ガス流路における前記弁体の一次側には、前記弁体と前記弁座との間の空間部分である圧力室が形成されている。前記弁体は、前記弁体における前記弁座寄りの位置において前記弁体の軸線に対して交わる方向に沿って延び、前記圧力室に開口する複数の横穴と、前記弁体の軸線に沿って延び複数の前記横穴と前記ガス流路における前記弁体の二次側との間を連通する縦穴と、を有している。前記横穴の内径および前記縦穴の内径は、前記縦穴の流路面積に対する複数の前記横穴の流路面積を合計した合計面積の比の値が、次式(A)を満たすように設定されている。
S2/S1・N=π(φ2/2)
2
/π(φ1/2)
2
・N>1.16 …(A)
ただし、「S2」は前記縦穴の流路面積、「S1」は前記横穴の流路面積、「N」は前記圧力室に対する前記横穴の開口数、「φ2」は前記縦穴の内径、「φ1」は前記横穴の内径、「π」は円周率である。
【0007】
この構成によれば、縦穴の流路面積は、複数の横穴の流路面積を合計した面積に対してより大きい値に設定されている。このため、圧力室から複数の横穴を介して縦穴に流入するガスは、より円滑にガス流路における弁体の二次側へ流れる。これにより、多量のガスが圧力室に急激に供給される場合であれ、圧力室の圧力が急激に上昇することが抑えられる。弁体の一次側の圧力室の圧力と弁体の二次側の圧力との差が生じにくいため、弁体の二次側の圧力の上昇に伴い弁体はより適切なタイミングで閉弁動作を行う。したがって、弁体の二次側の二次側へ供給されるガスの圧力をより適切に調整することができる。
【0008】
上記の減圧弁において、複数の前記横穴の内径は、すべて同じ値に設定されていてもよい。
上記の減圧弁において、複数の前記横穴は、前記弁体の周方向において等間隔で設けられていてもよい。
【0009】
これら構成によれば、圧力室内のガスは、複数の横穴へより均等かつ円滑に流れ込むとともに縦穴を介してガス流路における弁体の二次側へ好適に流れる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の減圧弁によれば、ガスの圧力をより適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】減圧弁の一実施の形態をその軸線に沿って切断した断面図。
【
図2】一実施の形態における弁体および弁座の近傍を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、減圧弁を具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、減圧弁1は、一例として、燃料電池自動車に搭載される水素ガスのガスタンク2と燃料電池3とをつなぐ流体回路の途中に設けられる。減圧弁1は、ガスタンク2から一次ポート4を介して供給される水素ガスの圧力である一次圧を設定圧力以下の圧力に減圧し、この減圧されたガスを二次ポート5を介して燃料電池3に供給する。一次ポート4から供給されるガスの一次圧は、たとえば87.5MPa程度の高圧である。減圧弁1により減圧された圧力である二次圧の目標値である設定圧力は、たとえば1.2MPa程度である。
【0013】
減圧弁1は、ボディ11と、弁座12と、弁体13と、付勢部材14と、第1シール部材15と、第2シール部材16とを備えている。
ボディ11は、一次ポート4と二次ポート5との間を連通し、高圧ガスが流通するガス流路17を有している。弁座12は、ガス流路17に配置されている。弁体13は、ガス流路17における弁座12の下流側に配置されている。付勢部材14は、弁体13を弁座12から離間させる開弁方向に付勢する。第1シール部材15および第2シール部材16は、それぞれ弁体13の外周面に装着されている。弁体13は、一次圧と二次圧との差圧および付勢部材14の付勢力に応じて弁座12に対して接離する。弁体13の位置に応じて減圧弁1の開度が変化することにより、二次圧が設定値以下の圧力に調整される。
【0014】
ボディ11は、継ぎ手部材21と、第1ハウジング部材22と、第2ハウジング部材23とを備えている。継ぎ手部材21、第1ハウジング部材22および第2ハウジング部材23は、それぞれ金属製である。ボディ11は、継ぎ手部材21、第1ハウジング部材22、第2ハウジング部材23の順で、水素ガスの流通方向における上流側から連結されることにより組み立てられている。組み立て後のボディ11において、継ぎ手部材21、第1ハウジング部材22および第2ハウジング部材23は、それぞれ共通の軸線L上に配置されている。
【0015】
継ぎ手部材21の形状は、概ね段付きの円柱状である。継ぎ手部材21における大径部31の外周面は、雄ねじを有している。継ぎ手部材21は、ガス流路17の一部である継ぎ手流路32を有している。継ぎ手流路32は、軸線Lに沿って直線状に延びており、継ぎ手部材21の両端に開口している。継ぎ手流路32の上流側の開口が一次ポート4として機能する。継ぎ手部材21は、フィルタ33を備えている。フィルタ33は、継ぎ手流路32の下流側の開口に設けられている。
【0016】
第1ハウジング部材22の形状は、概ね円柱状である。第1ハウジング部材22の外径は、継ぎ手部材21の外径よりも大きい。
第1ハウジング部材22は、ガス流路17の一部となる第1取付穴41および第2取付穴42を有している。第1取付穴41および第2取付穴42の形状は、それぞれ丸穴状である。第1取付穴41は、第1ハウジング部材22の上流側の端面に開口している。第2取付穴42は、第1取付穴41の下流側に連続している。第1取付穴41および第2取付穴42は、それぞれ同一の軸線L上に設けられている。第1取付穴41の内周面は、雌ねじを有している。継ぎ手部材21は、その大径部31が第1取付穴41に締め付けられることにより、第1ハウジング部材22に連結されている。第2取付穴42の内径は、第1取付穴41の内径よりも小さい。第2取付穴42には、弁座12が取り付けられている。すなわち、弁座12はガス流路17の途中に設けられている。
【0017】
第1ハウジング部材22は、ガス流路17の一部である収容穴43を有している。収容穴43は、概ね丸穴形状である。収容穴43は第2取付穴42に連通するとともに、第1ハウジング部材22の下流側の端面に開口している。収容穴43は、軸線L上に設けられている。第1ハウジング部材22は、収容穴43と第2取付穴42との間を仕切る隔壁44を有している。隔壁44は、軸線Lに沿った方向からみて円環状をなすように設けられている。隔壁44は、収容穴43における上流側の部分の内径が上流側へ向かうにつれて徐々に小さくなるように設けられている。収容穴43内には、弁体13の一部が収容される。すなわち、弁体13は、ガス流路17における弁座12の下流側に設けられている。
【0018】
第1ハウジング部材22は、円環状の設置溝46を有している。設置溝46は、収容穴43の外周側に位置している。設置溝46は、収容穴43と同様に、第1ハウジング部材22の下流側に開口している。設置溝46は、第1ハウジング部材22に設けられた円筒状の内壁47と円筒状の外壁48との間の隙間として設けられている。内壁47は、設置溝46の内郭を規定する。外壁48は、設置溝46の外郭を規定する。外壁48は、内壁47よりも下流側に突出している。外壁48の外周面は、第1ハウジング部材22の外周面の一部を構成する。外壁48の外周面には、雄ねじが設けられている。この雄ねじは、設置溝46と対応する位置に設けられている。なお、第1ハウジング部材22は、設置溝46の内部とボディ11の外部とを連通する連通路49を有している。
【0019】
第2ハウジング部材23の形状は、概ね円柱状である。第2ハウジング部材23の外径は、第1ハウジング部材22の外径よりもやや大きい。第2ハウジング部材23は、連結穴51を有している。連結穴51は、第2ハウジング部材23の上流側の端面に開口している。連結穴51の形状は、丸穴状である。連結穴51の内周面には、雌ねじが設けられている、この雌ねじは連結穴51の開口端寄りに位置している。連結穴51に外壁48を挿入しつつ締め付けることにより、第1ハウジング部材22が第2ハウジング部材23に連結されている。なお、外壁48の外周面には、たとえばOリングなどの第3シール部材52が装着されている。
【0020】
また、第2ハウジング部材23は、ガス流路17の一部であるハウジング流路53を有している。ハウジング流路53は、軸線Lに沿って直線状に延びている。ハウジング流路53は、連結穴51の底面に上流側の開口を有し、第2ハウジング部材23の下流側の端面に下流側の開口を有している。ハウジング流路53の下流側の開口が二次ポート5として機能する。
【0021】
弁座12は、樹脂製である。弁座12の形状は、円環状である。弁座12は、第1ハウジング部材22の第2取付穴42に配置されている。そして、弁座12は、第1取付穴41に取り付けられた継ぎ手部材21によって第2取付穴42の底面に押さえつけられている。弁座12は、弁孔61を有している。弁孔61は、軸線Lに沿って直線状に延びており、弁座12の軸線Lにおける両端面に開口している。弁孔61の下流側の領域において、弁孔61の内周面は下流側に向かうほど内径がより大きくなるように傾斜している。
【0022】
弁体13は、金属製である。
図2に示すように、弁体13は、頭部71と、本体部72と、受圧部73とを有している。頭部71、本体部72および受圧部73は、上流側からこの順で一体に形成されている。頭部71および本体部72は、第1ハウジング部材22の収容穴43に収容されている。受圧部73は、内壁47から下流側へ突出していて外壁48の内側に収容されている。弁体13は、ボディ11の内部において軸線Lに沿って移動可能である。また、弁体13は、弁座12に対して接離可能である。
【0023】
頭部71の形状は、概ね円柱状である。頭部71は、先端側、すなわち上流側に向かって先細となるテーパ形状を有している。頭部71のテーパ形状は、弁孔61の下流側の領域における傾斜に対応して傾斜している。
【0024】
本体部72の形状は、概ね段付きの円柱状である。本体部72は、先端部81と、中間部82と、基端部83とを有している。先端部81、中間部82および基端部83は、上流側からこの順で一体に形成されている。頭部71は、先端部81における上流側の端面に設けられている。本体部72の外径は、先端部81、中間部82、基端部83の順に、より大きい値に設定されている。基端部83の外周面は、第1装着溝84を有している。第1装着溝84は、基端部83の全周にわたって延びる円環状に設けられている。
【0025】
先端部81の外径は、第1ハウジング部材22の隔壁44の内径よりも小さく、先端部81と隔壁44との間の隙間はガス流路の17の一部として機能する。中間部82の外径は、先端部81の外径よりも大きい。基端部83の外径は、収容穴43の内径よりもわずかに小さい。基端部83の外周面は、収容穴43の内周面に対して摺動可能である。
【0026】
また、本体部72は、複数(たとえば4つ)の横穴86と、1つの縦穴87とを有している。各横穴86は、軸線Lと直交する方向に沿って直線状に延びている。各横穴86は、中間部82の外周面に開口している。複数の横穴86は、本体部72の周方向に等角度間隔で設けられている。縦穴87は、軸線Lに沿って直線状に延びている。縦穴87は、本体部72における頭部71と反対側の端面に開口している。すなわち、縦穴87の下流側の端部は、ガス流路17における弁体13の下流側(二次側)に開口している。縦穴87の上流側の端部は、複数の横穴86のそれぞれに連通している。複数の横穴86および縦穴87は、弁体流路を構成する。
【0027】
受圧部73の形状は、概ね段付きの円環状である。受圧部73は、本体部72の下流側の端部から径方向における外側に延出されている。受圧部73の外径は、第1ハウジング部材22の外壁48の内径よりもわずかに小さい。受圧部73の外周面は、外壁48の内周面に対して摺動可能である。受圧部73の軸線Lに沿った方向における厚みは、径方向における外側部分の方が径方向における内側部分よりも厚い。受圧部73の外周面は、第2装着溝88を有している。第2装着溝88は、受圧部73の全周にわたって延びる円環状に設けられている。
【0028】
付勢部材14には、たとえば圧縮コイルばねが採用されている。付勢部材14は、設置溝46に収容されている。付勢部材14は、設置溝46において、設置溝46の底面と弁体13の受圧部73との間で軸線Lに沿って圧縮されている。付勢部材14は、弁体13を弁座12から離間する開弁方向、すなわち水素ガスの流通方向における下流側へ向けて付勢する。
【0029】
第1シール部材15および第2シール部材16には、それぞれリップシールが採用されている。第1シール部材15は第1装着溝84に装着され、第2シール部材16は第2装着溝88に装着されている。第1シール部材15は、本体部72の外周面と収容穴43の内周面との間を密封する。第2シール部材16は、受圧部73の外周面と外壁48の内周面との間を密封する。これにより、減圧された水素ガスが設置溝46および連通路49を介して外部に放出されることが抑制される。
【0030】
つぎに、減圧弁1の動作について説明する。
一次ポート4から高圧の水素ガスが供給される前の初期状態において、弁体13は付勢部材14の付勢力により下流側に移動した状態に維持される。すなわち、減圧弁1は、弁体13が弁座12から離間した開弁状態に維持される。
【0031】
一次ポート4から供給される一次圧の水素ガスは、ガス流路17である継ぎ手流路32を通り、弁孔61と弁体13の頭部71との間の隙間を介して収容穴43内に流入する。水素ガスは、弁孔61と頭部71との間の隙間を通過する際に、当該隙間の大きさに応じて減圧される。減圧された水素ガスは、横穴86および縦穴87を介してガス流路17であるハウジング流路53に流入し、二次ポート5から送出される。このように弁孔61を介して流入する水素ガスが増加することで、二次圧が上昇する。
【0032】
弁体13は、付勢部材14の付勢力および弁孔61を介して頭部71が受ける一次圧に応じた付勢力によって、下流側である開弁方向へ向けて付勢される。これに対し、弁体13は、主に受圧部73が受ける二次圧に応じた付勢力によって、上流側である閉弁方向へ向けて付勢される。弁体13は、このような上流側へ向けた付勢力と下流側へ向けた付勢力との大小関係に応じて移動する。
【0033】
弁体13は、二次圧の上昇に応じて弁座12に接近し、二次圧が設定圧力に達すると、弁座12に着座する。すなわち、減圧弁1は閉弁した状態となる。
この後、燃料電池3において水素ガスが消費されることによって二次圧が低下すると、この二次圧の低下に伴い弁体13が下流側へ向けて移動する。やがて減圧弁1が再び開弁した状態になると、一次ポート4から水素ガスが流入する。このように一次圧と二次圧との差圧に応じて弁体13が移動することにより、設定圧力に調整された水素ガスが減圧弁1から燃料電池3へ供給される。
【0034】
このように構成した減圧弁1においては、つぎのようなことが懸念される。たとえば減圧弁1が開弁した状態において、多量の水素ガスが一次ポート4から急激に流入する際、弁体13の一次ポート4側の圧力、より具体的には収容穴43における基端部83を基準とする上流側(一次側)の空間部分である圧力室43Aの圧力が急激に上昇することが考えられる。この場合、弁体13の一次ポート4側の圧力と二次ポート5側の圧力との差がより大きくなることによって、弁体13の閉弁動作が遅れるおそれがある。この弁体13の閉弁動作の遅れに起因して二次圧が設定圧力の値を超えることが懸念される。
【0035】
そこで、本実施の形態では、弁体13としてつぎの構成を採用している。
すなわち、縦穴87の流路面積に対する複数の横穴86の流路面積を合計した合計面積の比の値が、次式(1)を満たすように縦穴87の内径および横穴86の内径が設定されている。
【0036】
S2/S1・N=π(φ2/2)2/π(φ1/2)2・N>1.16 …(1)
ただし、「S2」は縦穴87の流路面積、「S1」は横穴86の流路面積である。「N」は圧力室43Aに対する横穴86の開口数である。「φ2」は縦穴87の内径、「φ1」は各横穴86の内径である。「π」は円周率である。
【0037】
たとえば横穴86の開口数Nが「4」である場合、縦穴87の内径φ2は「6.5mm」、横穴86の内径φ1は「3.0mm」に設定される。この場合、縦穴87の流路面積S2に対する複数の横穴86の流路面積S1を合計した合計面積の比の値は約「1.17」となって式(1)を満たす。シミュレーションの結果、弁体13の一次側である圧力室43Aの圧力は「1,6MPa」、弁体13の二次側の圧力は「1.5MPa」となって圧力差がほとんど生じないことが確認された。
【0038】
ちなみに、横穴86の開口数Nが「4」である場合、縦穴87の内径φ2を「3.5mm」、横穴86の内径φ1を「1.7mm」に設定した場合、縦穴87の流路面積S2に対する複数の横穴86の流路面積S1を合計した合計面積の比の値は約「1.06」となって式(1)を満たさない。シミュレーションの結果、弁体13の一次側である圧力室43Aの圧力は「3.2MPa」、弁体13の二次側の圧力は「1.5MPa」となって圧力差が生じることが確認された。
【0039】
この構成を採用することにより、つぎのような作用および効果が得られる。
減圧弁1が開弁した状態において、一次ポート4から供給される水素ガスは、弁座12と弁体13の頭部71との間の隙間を介して収容穴43の内部、より具体的には収容穴43における基端部83を基準とする上流側の空間部分である圧力室43Aに流入する。この収容穴43の内部に流入する水素ガスは、横穴86を介して縦穴87の内部に流入する。
【0040】
ここで、縦穴87および横穴86は、縦穴87の流路面積に対する複数の横穴86の流路面積を合計した面積の比の値がより大きい値になるように設けられている。すなわち、縦穴87の流路面積は、複数の横穴86の流路面積を合計した面積に対してより大きい値に設定されている。このため、圧力室43Aから各横穴86を介して縦穴87に流入する水素ガスは、より円滑にガス流路17における弁体13の二次側へ流れる。これにより、減圧弁1が開弁した状態において多量の水素ガスが一次ポート4から急激に流入する場合であれ、圧力室43Aの圧力が急激に上昇することが抑制される。圧力室43Aの圧力と弁体13の二次ポート5側の圧力との差が生じにくいため、弁体13の二次ポート5側の圧力の上昇に伴い弁体13はより適切なタイミングで閉弁動作を開始する。このため、たとえば弁体13の二次ポート5側の圧力が設定圧力を超えることが抑制される。このように、減圧弁1によれば、水素ガスの圧力をより適切に調整することができる。
【0041】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態では、付勢部材14として圧縮コイルばねを採用したが、これに限らず、たとえば皿ばねなどの他の弾性部材を採用してもよい。
【0042】
・本実施の形態では、複数の横穴86の内径φ1はすべて同じ値であったが、異なる内径を有する横穴86が含まれていてもよい。
・本実施の形態では、複数の横穴86は、弁体13の周方向において等間隔で設けたが、不等間隔で設けてもよい。
【0043】
・本実施の形態では、減圧弁1を高圧の水素ガスを減圧する用途に用いたが、これに限らず、水素以外の高圧ガスを減圧する用途に用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…減圧弁
11…ボディ
12…弁座
13…弁体
14…付勢部材
17…ガス流路
43A…圧力室
86…横穴
87…縦穴