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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23F 23/12 20060101AFI20250107BHJP
   B23F 5/16 20060101ALI20250107BHJP
   B23F 19/06 20060101ALI20250107BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B23F23/12
B23F5/16
B23F19/06
B23Q17/22 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020216210
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022101860
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅樹
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188999(JP,A)
【文献】特表平05-502823(JP,A)
【文献】特開2004-025333(JP,A)
【文献】特開2019-115948(JP,A)
【文献】特開2016-060027(JP,A)
【文献】特開2008-188717(JP,A)
【文献】特開昭54-142670(JP,A)
【文献】特表2002-506739(JP,A)
【文献】特表平07-501276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0114439(US,A1)
【文献】国際公開第1993/010932(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
B23Q 17/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、前記工作物の周面を切削加工することにより歯を創成する歯車加工装置であって、
前記加工用工具を回転可能且つ前記工作物に対して相対移動可能に保持する工具保持装置と、
前記工作物を回転可能且つ前記加工用工具に対して相対移動可能に保持する工作物保持装置と、
前記工作物保持装置が保持する前記工作物に対して接近可能又は離間可能に前記工具保持装置に設けられていて、前記工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、
前記工具保持装置と前記工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御すると共に前記工作物検出センサの前記工作物に対する接近又は離間を制御する位置制御部、及び、前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記工作物の歯位相を検知する位相検知部を含む制御装置と、を備え、
前記位置制御部は、
前記加工用工具による切削加工時において前記工作物検出センサを前記工作物から離間させる一方で、前記工作物の前記歯位相を検知する際に前記工具保持装置及び前記工作物保持装置を相対移動させると共に前記工作物検出センサを前記工作物に接近させて前記歯位相を検知する検知位置に位置するように位置制御し、
前記工具保持装置は、前記加工用工具を支持して回転させる回転主軸と、前記回転主軸を回転可能に支持する主軸ハウジングとを有し、
前記工作物検出センサは、前記回転主軸の回転軸線の方向にて進退可能且つ前記回転主軸の径方向に対して相対変位不能となるように前記主軸ハウジングに一体に連結されたセンサケーシングに設けられており、前記加工用工具による前記切削加工時において前記工作物から離間し、前記工作物の前記歯位相を検知する際に前記検知位置に位置し、
前記センサケーシングは、前記回転主軸の回転軸線の方向に進退する可動ロッドと、前記可動ロッドを進退させる駆動装置とを支持しており、
前記工作物検出センサは、前記可動ロッドに対して相対変位不能に組み付けられ、前記切削加工時において前記可動ロッドの退避に伴って前記センサケーシングの内部に形成された収容空間に収容され、前記工作物の前記歯位相を検知する際において前記可動ロッドの進出に伴って前記収容空間に設けられた開口部を挿通して前記検知位置に位置し、
前記収容空間は、前記切削加工時において、前記切削加工に伴って発生する異物が少なくとも前記収容空間に退避している前記工作物検出センサよりも前記可動ロッド側に進入することを阻害するシール機構を収容し、
前記可動ロッドの先端には、前記工作物検出センサが組付けられており、
前記工作物検出センサは、前記可動ロッドの先端に配置されるとともに、前記可動ロッドよりも大径に形成されたケースに収容されており、
前記シール機構は、前記ケースの外周面に対向して配置された第一シール部と、前記ケースの軸線の方向にて前記第一シール部に隣接して配置されて前記ケースの外周面を包囲する大径部分と前記可動ロッドの外周面を包囲する小径部分とからなる段部を有する第二シール部と、前記可動ロッドの外周面に摺接するとともに、前記第二シール部に対して、前記回転主軸の前記回転軸線の方向にて前記第一シール部と反対側に配置される第三シール部とを有する、歯車加工装置。
【請求項2】
前記第一シール部は、前記収容空間の内部にて、前記センサケーシングの前記開口部に隣接して配置される、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記ケースは、前記収容空間に収容された状態で、前記第一シール部よりも前記センサケーシングの前記開口部側に位置する前記工作物検出センサの前記歯位相を検知する検知部分に対してエアを供給するエア供給路を有する、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記センサケーシングの前記開口部は、周縁部分に環状の肉厚部を有しており、
前記肉厚部の内周面と前記ケースの外周面との間に、前記エア供給路を介して供給されたエアによって、前記切削加工に伴って発生した異物を前記収容空間の外部に吹き飛ばすための隙間を設けた、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記第一シール部、前記第二シール部及び前記第三シール部は、弾性材料から形成される、請求項1-4の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記工作物検出センサは、前記歯の回転位置を前記工作物までの距離に基づいて検出するものである、請求項1-5の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
工具刃を備えた加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、前記工作物の周面を切削加工することにより歯を創成する歯車加工装置であって、
前記加工用工具を回転可能且つ前記工作物に対して相対移動可能に保持する工具保持装置と、
前記工作物を回転可能且つ前記加工用工具に対して相対移動可能に保持する工作物保持装置と、
前記工作物保持装置が保持する前記工作物に対して接近可能又は離間可能に前記工具保持装置に設けられていて、前記工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、
前記工具保持装置と前記工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御すると共に前記工作物検出センサの前記工作物に対する接近又は離間を制御する位置制御部、及び、前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記工作物の歯位相を検知する位相検知部を含む制御装置と、を備え、
前記位置制御部は、
前記加工用工具による切削加工時において前記工作物検出センサを前記工作物から離間させる一方で、前記工作物の前記歯位相を検知する際に前記工具保持装置及び前記工作物保持装置を相対移動させると共に前記工作物検出センサを前記工作物に接近させて前記歯位相を検知する検知位置に位置するように位置制御し、
前記検知位置は、前記工作物の内周に対向する位置であり、
前記工具保持装置は、前記加工用工具を支持して回転させる回転主軸と、前記回転主軸を回転可能に支持する主軸ハウジングとを有し、
前記工作物検出センサは、前記回転主軸の回転軸線の方向にて進退可能且つ前記回転主軸の径方向に対して相対変位不能となるように前記主軸ハウジングに一体に連結されたセンサケーシングに設けられており、前記加工用工具による前記切削加工時において前記工作物から離間し、前記工作物の前記歯位相を検知する際に前記検知位置に位置し、
前記センサケーシングは、前記回転主軸の回転軸線の方向に進退する可動ロッドと、前記可動ロッドを進退させる駆動装置とを支持しており、
前記工作物検出センサは、前記可動ロッドの先端に、前記可動ロッドに対して相対変位不能に組付けられており、
前記位置制御部は、前記駆動装置を駆動することによって、前記可動ロッドを前記回転主軸の回転軸線の方向にて前記工作物に向けて伸長させる、歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯車加工装置を用いて工作物に歯を創成する場合、歯車加工処理中に工作物の脱着が行われた際には、加工用工具と工作物との位相を合わせる位相合わせが行われる。この場合、工作物検出センサを歯位相を検知する検知位置に配置して工作物の歯位相を検知する必要がある。このため、従来から、特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、工作物検出センサを検知位置に配置して、工作物の歯位相を検知する歯車加工装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-252582号公報
【文献】特開平6-55341号公報
【文献】国際公開第2020/031377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の歯車加工装置においては、工作物検出センサが歯車加工装置の機械固定部に取り付けられており、工作物に対して工作物検出センサを相対移動させる自由度が乏しい。その結果、従来の歯車加工装置においては、歯位相を検知する対象が工作物に形成された外歯又は内歯の一方のみに固定されてしまう。又、従来の歯車加工装置においては、種々の工作物の径に応じて変化する検知位置に対応して、工作物検出センサを位置決めする必要があり、この場合には種々の工作物の径に応じた位置決め装置が別途必要になる。
【0005】
本発明は、簡素化した構成により工作物検出センサの工作物に対する相対移動の自由度の向上を実現する歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
歯車加工装置は、加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、工作物の周面を切削加工することにより歯を創成する歯車加工装置であって、加工用工具を回転可能且つ工作物に対して相対移動可能に保持する工具保持装置と、工作物を回転可能且つ加工用工具に対して相対移動可能に保持する工作物保持装置と、工作物保持装置が保持する工作物に対して接近可能又は離間可能に工具保持装置に設けられていて、工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、工具保持装置と工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御すると共に工作物検出センサの工作物に対する接近又は離間を制御する位置制御部、及び、工作物検出センサの検出結果に基づいて工作物の歯位相を検知する位相検知部を含む制御装置と、を備え、位置制御部は、加工用工具による切削加工時において工作物検出センサを工作物から離間させる一方で、工作物の歯位相を検知する際に工具保持装置及び工作物保持装置を相対移動させると共に工作物検出センサを工作物に接近させて歯位相を検知する検知位置に位置するように位置制御し、工具保持装置は、加工用工具を支持して回転させる回転主軸と、回転主軸を回転可能に支持する主軸ハウジングとを有し、工作物検出センサは、回転主軸の回転軸線の方向にて進退可能且つ回転主軸の径方向に対して相対変位不能となるように主軸ハウジングに一体に連結されたセンサケーシングに設けられており、加工用工具による切削加工時において工作物から離間し、工作物の歯位相を検知する際に検知位置に位置し、センサケーシングは、回転主軸の回転軸線の方向に進退する可動ロッドと、可動ロッドを進退させる駆動装置とを支持しており、工作物検出センサは、可動ロッドに対して相対変位不能に組み付けられ、切削加工時において可動ロッドの退避に伴ってセンサケーシングの内部に形成された収容空間に収容され、工作物の歯位相を検知する際において可動ロッドの進出に伴って収容空間に設けられた開口部を挿通して検知位置に位置し、収容空間は、切削加工時において、切削加工に伴って発生する異物が少なくとも収容空間に退避している工作物検出センサよりも可動ロッド側に進入することを阻害するシール機構を収容し、可動ロッドの先端には、工作物検出センサが組付けられており、工作物検出センサは、可動ロッドの先端に配置されるとともに、可動ロッドよりも大径に形成されたケースに収容されており、シール機構は、ケースの外周面に対向して配置された第一シール部と、ケースの軸線の方向にて第一シール部に隣接して配置されてケースの外周面を包囲する大径部分と可動ロッドの外周面を包囲する小径部分とからなる段部を有する第二シール部と、可動ロッドの外周面に摺接するとともに、第二シール部に対して、回転主軸の回転軸線の方向にて第一シール部と反対側に配置される第三シール部とを有する。
また、歯車加工装置は、工具刃を備えた加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、前記工作物の内周面を切削加工することにより歯を創成する歯車加工装置であって、前記加工用工具を回転可能且つ前記工作物に対して相対移動可能に保持する工具保持装置と、前記工作物を回転可能且つ前記加工用工具に対して相対移動可能に保持する工作物保持装置と、前記工作物保持装置が保持する前記工作物に対して接近可能又は離間可能に前記工具保持装置に設けられていて、前記工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、前記工具保持装置と前記工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御すると共に前記工作物検出センサの前記工作物に対する接近又は離間を制御する位置制御部、及び、前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記工作物の歯位相を検知する位相検知部を含む制御装置と、を備え、前記位置制御部は、前記加工用工具による切削加工時において前記工作物検出センサを前記工作物から離間させる一方で、前記工作物の前記歯位相を検知する際に前記工具保持装置及び前記工作物保持装置を相対移動させると共に前記工作物検出センサを前記工作物に接近させて前記歯位相を検知する検知位置に位置するように位置制御し、前記検知位置は、前記工作物の内周に対向する位置であり、前記工具保持装置は、前記加工用工具を支持して回転させる回転主軸と、前記回転主軸を回転可能に支持する主軸ハウジングとを有し、前記工作物検出センサは、前記回転主軸の回転軸線の方向にて進退可能且つ前記回転主軸の径方向に対して相対変位不能となるように前記主軸ハウジングに一体に連結されたセンサケーシングに設けられており、前記加工用工具による前記切削加工時において前記工作物から離間し、前記工作物の前記歯位相を検知する際に前記検知位置に位置し、前記センサケーシングは、前記回転主軸の回転軸線の方向に進退する可動ロッドと、前記可動ロッドを進退させる駆動装置とを支持しており、前記工作物検出センサは、前記可動ロッドの先端に、前記可動ロッドに対して相対変位不能に組付けられており、前記位置制御部は、前記駆動装置を駆動することによって、前記可動ロッドを前記回転主軸の回転軸線の方向にて前記工作物に向けて伸長させる。
【0007】
これによれば、制御装置の位置制御部は、工作物の切削加工時において工作物検出センサを工作物から離間させ、歯位相を検知する際に工作物検出センサを検知位置に位置させることができる。又、位置制御部は、工具保持装置と工作物保持装置とを互いに相対移動可能に位置制御することができる。これにより、工作物の径に合わせて工作物検出センサを検知位置に移動させるために別途位置決め装置を設けなくても、位置制御部が工具保持装置及び工作物保持装置を相対移動させた上で工作物検出センサを工作物に接近させることで工作物検出センサを検知位置に位置させることができる。従って、歯車加工装置の構成を簡素化して工作物検出センサの工作物に対する相対移動の自由度を向上させることができると共に、工作物Wの歯位相を精度良く検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】歯車加工装置の全体構成を示す図である。
図2図1の回転主軸の構成を示す斜視図である。
図3】加工用工具(スカイビングカッタ)の構成を示す一部断面図である。
図4】支持機構の構成を示す斜視図である。
図5図4のシール機構の詳細を示す拡大断面図である。
図6】制御装置のブロック図である。
図7】制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
図8】歯車加工処理の中で実行される位相合わせ処理のフローチャートである。
図9】回転主軸(及び工作物検出センサ)を第一位置に配置した状態を示す図である。
図10図9の第一位置から回転主軸(及び工作物検出センサ)を一体的に移動させて第二位置に配置した状態を示す図である。
図11図10の第二位置から回転主軸及び工作物検出センサを一体的に移動させて工作物検出センサを工作物に対する検知位置に配置した状態を示す図である。
図12】支持機構によって工作物検出センサが検知位置に配置された状態を説明するための斜視図である。
図13】工作物検出センサから位相検知部に出力される出力情報の一例(電圧変化)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1.適用可能な歯車加工装置)
歯車加工装置は、加工用工具及び工作物の回転速度を変動させ、且つ、加工用工具と工作物とを同期回転させながら、工作物の回転軸線方向に沿って加工用工具を工作物に対して相対移動させる(送り操作する)ことにより、工作物に歯車を切削加工する。本例では、歯車加工装置は、加工用工具としてスカイビングカッタを備え、スカイビング加工によって工作物に歯車を加工する場合を例示する。この場合、歯車加工装置は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸(旋回テーブル軸)及びC軸(ワーク軸))を駆動軸として有するマシニングセンタを例示することができる。尚、本例において、X軸線及びZ軸線に平行な方向は水平方向であり、Y軸線に平行な方向は鉛直方向であるとする。
【0010】
(2.歯車加工装置1の構成)
図1に示すように、歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、主軸装置40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、ターンテーブル70と、保持器80と工具交換装置90と、制御装置100とを主に備える。ここで、本例においては、コラム20、サドル30及び主軸装置40が「工具保持装置」を構成する。又、本例においては、テーブル50、チルトテーブル60、ターンテーブル70及び保持器80が「工作物保持装置」を構成する。
【0011】
ベッド10は、ほぼ矩形状に形成されており、水平方向に配置される。ベッド10の上面には、コラム20をX軸線に平行な方向即ち水平方向に駆動するための、図示省略のX軸ボールねじが配置される。そして、ベッド10には、X軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ11が配置される。
【0012】
コラム20のY軸線に平行な側面(摺動面)20aには、サドル30をY軸線に平行な方向即ち鉛直方向に駆動するための、図示省略のY軸ボールねじが配置される。そして、コラム20には、Y軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ21が配置される。
【0013】
サドル30は、主軸装置40を支持すると共に、後述するように、ターンテーブル70に保持された工作物Wの形状、具体的には、創成された歯の位相を検出する工作物検出センサ45を主軸ハウジング40aに一体に連結されたセンサケーシング40bと共に一体に支持する。これにより、サドル30が移動する際には、主軸装置40及び工作物検出センサ45は、サドル30と共に移動する。
【0014】
ここで、工作物Wとしては、外周面に歯が創成された(形成された)外歯を有したり、内周面に歯が創成された(形成された)内歯を有したりすることができる。尚、本例においては、工作物Wが外歯を有する場合を例示する。又、工作物Wとしては、軸線の方向に複数の歯が隣接するように形成された多段ギヤシャフトとすることも可能である。
【0015】
主軸装置40は、回転主軸41を備える。回転主軸41は、X軸線に直交するZ軸線に平行に配置される。回転主軸41は、図2に示すように、サドル30に固定された主軸ハウジング40aによって回転可能に支持され、サドル30(又は、コラム20)内に収容された主軸モータ42により回転される。回転主軸41は、工具ホルダ44を介して加工用工具43を支持する。加工用工具43は、工具ホルダ44に嵌め込まれた状態で図示省略のボルトによって固定されることによって回転主軸41の先端に装着されており、回転主軸41の回転に伴って回転する。
【0016】
加工用工具43及び工具ホルダ44は、X軸モータ11の駆動によるコラム20及びサドル30の移動に伴い、ベッド10に対してX軸線に平行な方向、即ち、水平方向に移動する。又、加工用工具43及び工具ホルダ44は、Y軸モータ21の駆動によるコラム20及びサドル30の移動に伴い、Y軸線に平行な方向に移動する。
【0017】
本例の加工用工具43は、スカイビングカッタであり、工作物W(具体的には、歯車)に形成される歯面の形状に基づいて設計される。加工用工具43は、図3に示すように、工具周面に複数の工具刃43aを備えている。工具刃43aは、本例においてはインボリュート曲線形状と同一形状に形成される。
【0018】
ここで、工具刃43aは、刃先43bの回転軸線Jと直角な平面に対し、角度γだけ傾斜したすくい角が設けられる。又、工具刃43aには、工具周面側に回転軸線Jと平行な直線に対し、角度δだけ傾斜した前逃げ角が設けられる。更に、工具刃43aの刃溝43cは、回転軸線Jと平行な直線に対し、角度βだけ傾斜したねじれ角を有する。尚、加工用工具43としては、ねじれ角βを有しておらず、回転軸線Jに平行なストレートの工具刃43aを備えることもできる。
【0019】
工具ホルダ44は、図3に示すように、外周がテーパとなる円筒状に形成されており、一端側にて回転主軸41に設けられたテーパ穴に挿入されて、相対回転不能に固定されることにより「回転主軸体」を形成する。尚、工具ホルダ44は、回転主軸41の先端に設けられた脱着機構によって脱着可能に支持される。
【0020】
ここで、脱着機構は、図3に示すように、工具ホルダ44に挿通されるドローバーとボールとボールを支持するサポート部材とを有する。これにより、脱着機構は、工具ホルダ44が回転主軸41のテーパ穴に挿入されると共にドローバー及びボールを挿通した状態で、図3にて矢印で示すようにドローバーが工具ホルダ44から離間するように後方(図3にて下方)に移動すると、ドローバーに形成されたテーパに沿ってボールが外径方向(図3にて左右方向)及び後方に移動する。これにより、回転主軸41のテーパ穴に挿入された工具ホルダ44は、脱着機構のドローバー及びボールが後退することに伴って引っ張られて固定される。
【0021】
工作物検出センサ45は、本例においては、非接触式のセンサである。工作物検出センサ45としては、例えば、渦電流センサや電磁ピックアップ、レーザセンサ等を例示することができる。本例の工作物検出センサ45は渦電流センサを用いるものとし、工作物Wに形成された歯車の形状、具体的には、歯先面及び歯底面までの距離を検出する。尚、工作物検出センサ45は、接触式のセンサ、例えば、タッチプローブセンサ等であっても良い。
【0022】
工作物検出センサ45は、検出方向がY軸線に平行な方向即ち鉛直方向となるように、サドル30より詳しくはセンサケーシング40bに組み付けられた支持機構110に支持される。つまり、工作物検出センサ45は、回転主軸41の回転軸線Jの方向にて進退可能且つ回転主軸41の径方向に対して相対変位不能となるように、センサケーシング40bに設けられる。
【0023】
これにより、工作物検出センサ45は、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知しない場合には、支持機構110の作動により、工作物Wから退避した状態(離間した状態)でセンサケーシング40bの内部に形成された収容空間40cに収容される。一方、工作物検出センサ45は、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知する場合には、支持機構110の作動により、センサケーシング40bの開口部を挿通して収容空間40cから工作物Wに向けて接近するように進出する(検知位置に位置する)。
【0024】
支持機構110は、図4及び図5に示すように、センサケーシング40bの内部に収容されている。支持機構110は、フレーム111、可動ロッド112、駆動装置113、連結部材114、及び、シール機構115を主に備える。フレーム111は、センサケーシング40bに固定されており、可動ロッド112、駆動装置113、連結部材114及びシール機構115の一部を支持する。
【0025】
可動ロッド112は、駆動装置113の駆動力により、回転主軸41の回転軸線Jの方向に進退可能とされている。可動ロッド112は、フレーム111に固定された軸受112aにより、軸線の方向即ち回転軸線Jの方向にて移動可能に支持されている。可動ロッド112の先端には、工作物検出センサ45が相対移動不能に組み付けられている。これにより、工作物検出センサ45は、可動ロッド112の進退動作に伴って回転軸線Jの方向に移動し、工作物Wから退避した状態(離間した状態)と工作物Wに進出した状態(接近した状態)となる。
【0026】
駆動装置113は、連結部材114を介して、可動ロッド112と連結されており、可動ロッド112を回転軸線Jの方向に移動させる。駆動装置113は、例えば、ロッドレスシリンダやリニアモータ等である。ここで、本例においては、可動ロッド112と駆動装置113とは、歯車加工装置1のZ軸線に平行な方向(即ち、鉛直方向)に配列、換言すれば、2段となるように配置される。そして、可動ロッド112と駆動装置113とは、連結部材114により連結される。これにより、可動ロッド112と駆動装置113とを例えば、X軸線に平行な方向に配置(配列)する場合に比べて、回転軸線Jの方向における寸法を短縮することができる。
【0027】
シール機構115は、工作物Wに歯車を加工する際に供給されるクーラントや歯車の加工に伴って発生する切り屑等(以下、まとめて「クーラント等」と称呼する。)即ち異物の収容空間40cの内部、より詳しくは、工作物検出センサ45よりも可動ロッド112側への進入を抑制する。シール機構115は、図5に示すように、センサケーシング40bの収容空間40cの内部に配置されており、第一シール部115a、第二シール部115b及び第三シール部115cを備える。
【0028】
第一シール部115aは、弾性材料から形成されており、センサケーシング40bの開口部の周縁部分に設けられた環状の肉厚部40b1に対して、回転軸線Jの方向にて収容空間40cの内部となるように、隣接して配置される。第一シール部115aは、環状に形成されており、工作物検出センサ45を収容する円筒状のケース45aの外周面に対向して配置されており、所定量(例えば、片側0.2mm程度)の隙間を有する。これにより、第一シール部115aは、主として、クーラント等が収容空間40cに進入することを防止する。
【0029】
ここで、本例においては、図5に示すように、ケース45aに収容された工作物検出センサ45が、第一シール部115aよりもケース45aの軸線の方向にて先端側(図5にて左側)に配置される。又、ケース45aには、検出位置に移動した工作物検出センサ45の検知部分に付着したクーラント等(異物)や、工作物検出センサ45と開口部における肉厚部40b1の内周面との間に形成された隙間に進入したクーラント等(異物)を吹き飛ばすためのエアを供給するエア供給路44a1が形成されている。
【0030】
これにより、工作物検出センサ45が歯位相(回転位置)を検知する前に、エア供給路44a1を介してエアが供工作物検出センサ45の検知部分(先端部分)に給されることにより、工作物検出センサ45の検知部分に付着したクーラント等(異物)を吹き飛ばすことができる。又、例えば、工作物検出センサ45が歯位相(回転位置)を検知する前に、エア供給路44a1を介してエアが供給されることにより、第一シール部115aによって進入が抑制されて工作物検出センサ45と肉厚部40b1の内周面との隙間即ち主軸ハウジング40aの開口部に存在するクーラント等(異物)を吹き飛ばすことができる。
【0031】
従って、工作物検出センサ45が歯位相(回転位置)を検知する場合、即ち、可動ロッド112によって工作物Wに向けて接近する際にはクーラント等(特に、切り屑)によって工作物検出センサ45及びケース45aの移動が阻害されず、又、工作物検出センサ45の検知部分にクーラント等が付着して検知不能の状態になることを防止することができる。尚、工作物検出センサ45と肉厚部40b1の内周面との間に設けられる隙間は、エア供給路44a1を介して供給されたエアによって進入したクーラント等を外部に排出可能となるように設定される。
【0032】
ここで、本例においては、第一シール部115aは、工作物検出センサ45よりもケース45aの軸線の方向にて、ケース45aの基端側(ケース45aと可動ロッド112との連結側であって図5の右側)に設けられる。しかし、第一シール部115aは、工作物検出センサ45よりもケース45aの先端側に設けることも可能である。
【0033】
第二シール部115bは、弾性材料から円筒状に形成されており、第一シール部115aに対して、回転軸線Jの方向にて主軸モータ42側に配置される。第二シール部115bは、先端側(図5にて右側)に形成された工作物検出センサ45のケース45aの外径よりも僅かに大きな内径を有してケース45aの外周面を包囲する大径部分としての第一内周部115b1と、中央部分に形成された第一内周部115b1よりも小径であり、且つ、可動ロッド112の外径よりも大径の小径部分としての第二内周部115b2とを有する。
【0034】
これにより、第二シール部115bは、図5に示すように、第一内周部115b1と第二内周部115b2とにより、工作物検出センサ45のケース45aの外表面に沿った段部115b3を有する。段部115b3は、第一シール部115aを通過して第二シール部115bにまで到達したクーラント等に対して、所謂、ラビリンス効果を発揮し、進入したクーラント等の更なる内部への進入を防止する。
【0035】
更に、第二シール部115bは、基端側(図5にて左側)に形成された排出路115b4を備える。排出路115b4は、Z軸線に平行な方向(即ち、鉛直方向)に延設されている。これにより、排出路115b4は、第二シール部115bの段部115b3を通過したクーラント等を、自重により可動ロッド112から離間した位置、例えば、主軸ハウジング40aの収容空間40cの外部に排出することができる。
【0036】
第三シール部115cは、弾性材料から形成されており、第二シール部115bに対して、回転軸線Jの方向にて更に主軸モータ42側に配置される。第三シール部115cは、環状に形成されており、可動ロッド112の外周面に対して所定の締め代を有して摺接する。これにより、第三シール部115cは、第二シール部115bをも通過して第三シール部115cまで到達したクーラント等が可動ロッド112の軸線の方向にて軸受112aに到達することを防止する。第三シール部115cを設けることにより、クーラント等が軸受112aに到達することが防止されるため、可動ロッド112の移動が阻害されることを効果的に防止することができる。
【0037】
又、図1に示すように、ベッド10の上面には、テーブル50をZ軸線に平行な方向に駆動するための、図示省略のZ軸ボールねじが配置される。そして、ベッド10には、Z軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ12が配置される。
【0038】
テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部63が設けられる。そして、チルトテーブル支持部63には、チルトテーブル60がA軸線回りで回転(揺動)可能に設けられる。チルトテーブル60は、同軸配置されたA軸モータ61により回転(揺動)される。そして、チルトテーブル60には、ターンテーブル70がC軸線回りで回転可能に設けられる。尚、チルトテーブル60は、C軸線に対して垂直である軸の旋回テーブル軸を用いても良い。
【0039】
ターンテーブル70には、工作物Wを相対回転不能に保持する保持器80が組み付けられる。本例において、ターンテーブル70及び保持器80は「工作物主軸」を構成する。ターンテーブル70は、工作物W及び保持器80と共にC軸モータ62により回転される。ここで、C軸モータ62には、C軸線回りに回転角度を検出するエンコーダ62aが設けられている。
【0040】
工具交換装置90は、主軸装置40に工具ホルダ44を介して装着された加工用工具43と、工具マガジン(図示省略)に収容された他の加工用工具43(及び工具ホルダ44)との交換を自動で行う。尚、工具交換装置90の構成及び作動については、周知であり、例えば、特開2018-103330号公報等を参照することができるため、その説明を省略する。
【0041】
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェース等を主要構成部品とするコンピュータ装置であり、各種プログラムを実行する。制御装置100は、図6に示すように、工具回転制御部101と、工作物回転制御部102と、チルト制御部103と、位置制御部104と、位相検知部105と、記憶装置106とを主に備える。
【0042】
工具回転制御部101は、エンコーダ42aによって検出された回転角度を用いて主軸モータ42の駆動制御を行い、回転主軸41と共に工具ホルダ44及び加工用工具43を回転させる。工作物回転制御部102は、エンコーダ62aによって検出された回転角度を用いてC軸モータ62の駆動制御を行い、ターンテーブル70と共に保持器80に保持された工作物WをC軸線回りに回転させる。チルト制御部103は、A軸モータ61の駆動制御を行い、チルトテーブル60を揺動させることにより、ターンテーブル70及び工作物WをA軸線回りに揺動させる。
【0043】
位置制御部104は、コラム20即ち主軸装置40の回転主軸41及び工作物検出センサ45を支持するサドル30と、テーブル50即ちテーブル50に固定されたチルトテーブル支持部63とを相対移動可能に位置制御する。位置制御部104は、X軸モータ11の駆動制御を行い、コラム20及びコラム20に支持されたサドル30を一体にX軸線に平行な方向へ移動させる。又、位置制御部104は、Y軸モータ21の駆動制御を行い、サドル30をY軸線に平行な方向へ移動させる。これにより、位置制御部104は、サドル30に支持された主軸装置40の回転主軸41及び工作物検出センサ45を一体に且つ相対変位させることなくX軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向に移動させる。
【0044】
又、位置制御部104は、支持機構110の作動を制御する。即ち、位置制御部104は、支持機構110の駆動装置113の駆動制御を行い、駆動装置113と連結部材114によって連結された可動ロッド112を、回転主軸41の回転軸線Jに平行な方向に伸縮させる。これにより、位置制御部104は、後述するように、可動ロッド112の先端に組み付けられた工作物検出センサ45を、回転主軸41の回転軸線Jに平行な方向にて工作物Wに形成された歯車の歯位相を検知する検知位置に移動させると共に、検知位置から収容空間40cに収容する収容位置に移動させる。
【0045】
更に、位置制御部104は、Z軸モータ12の駆動制御を行い、テーブル50及びテーブル50に支持されたチルトテーブル支持部63を一体にZ軸線に平行な方向へ移動させる。これにより、位置制御部104は、チルトテーブル支持部63に支持された工作物WをZ軸線に平行な方向に移動させる。
【0046】
位相検知部105は、工作物検出センサ45から出力された信号(波形)に基づいて、工作物Wに形成された歯車の歯位相を検知する。記憶装置106は、工作物検出センサ45による検出結果を記憶する。尚、記憶装置106には、工作物検出センサ45による検出結果に加えて、例えば、工作物Wに形成する歯車の基本情報(各種寸法や歯数等に関する情報)や、加工用工具43の基本情報等も記憶される。
【0047】
(3.歯車加工処理(歯車加工方法))
次に、図7に示すフローチャートを用いて、制御装置100により実行される歯車加工処理について説明する。歯車加工処理は、歯車加工により円筒状のブランクである工作物Wに歯車を形成する際に実行される。
【0048】
歯車加工処理は、ステップS1において、粗加工処理として、保持器80により保持された円筒状の工作物Wに対する歯車加工を行い、工作物Wに歯車を形成する。続くステップS2において、歯車加工処理は、焼入れ処理として、粗加工処理により歯車が形成された工作物Wの焼入れを行う。
【0049】
歯車加工処理は、ステップS3において、焼入れ後の工作物Wが保持器80に再度保持された際、又は、工具交換装置90によって加工用工具43及び工具ホルダ44が装着又は交換された際に、位相合わせ処理を行う。本例における位相合わせ処理は、後に詳述するように、保持器80に保持された工作物Wに形成された外歯の歯位相(回転位置)を検知する。そして、位相合わせ処理においては、検知した工作物Wの外歯の歯位相(回転位置)と、別途検知された加工用工具43の工具位相(回転位置)と、を合わせる位相合わせを行う。
【0050】
位相合わせ処理において位相合わせが行われると、歯車加工処理は、ステップS4にて仕上加工処理を行う。仕上加工処理は、工作物Wに対する歯車の仕上加工を行う。ここで、歯車加工を行った工作物Wに焼入れを行うと、工作物Wにひずみが発生する。そこで、焼入れ後の工作物Wに対する歯車加工を再度行い、歯車の精度を向上させることが一般に行われている。この場合に、歯車加工装置1は、保持器80に保持された工作物Wの歯位相を把握した上で、工作物Wと加工用工具43との位相合わせを行う必要がある。
【0051】
他にも、例えば、ホブカッタ等を用いて粗加工された工作物Wに対し、加工用工具43を用いた仕上加工を行う場合等、既に歯車が形成された工作物Wに歯車加工を行う場合がある。この場合にも、歯車加工装置1は、加工用工具43の工具位相と保持器80に保持(固定)された工作物Wの歯位相とを把握し、工作物Wと加工用工具43との位相合わせを行う必要がある。更に、本例において、加工用工具43は、スカイビングカッタであり、例えば、ホブカッタ等に比べて工具寿命が相対的に短く加工用工具43の交換頻度が高くなる。その結果、本例の歯車加工装置1においては、工作物Wの歯位相と加工用工具43の工具位相との位相合わせを行う頻度が高くなる。
【0052】
この点に関し、本例の歯車加工装置1は、例えば、渦電流センサ等の非接触式のセンサやタッチプローブセンサ等の接触式のセンサ等であって加工用工具43の工具位相を検出する図示省略の工具検出センサを用いて、加工用工具43の工具位相(回転位置)を検知する。そして、歯車加工装置1は、コラム20及びサドル30を移動させると共に支持機構110を作動させることにより、工作物Wの外歯の歯位相(回転位置)を検知するための検知位置に工作物検出センサ45を移動させて配置し、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知する。これにより、本例の歯車加工装置1においては、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知(検出)し、工作物Wと加工用工具43との位相合わせに要する時間を短縮することができる。
【0053】
ここで、本例においては、工作物検出センサ45が工作物Wの外歯の歯位相(回転位置)を検知するため、後述するように、工作物検出センサ45を工作物Wの外周に対向して配置する。しかし、歯車加工装置1においては、工作物検出センサ45が工作物Wの外歯の歯位相(回転位置)を検知することに限られず、工作物Wの内歯の歯位相(回転位置)を検知することも可能である。この場合、歯車加工装置1は、工作物検出センサ45を工作物Wの内周に対向して配置することにより、工作物検出センサ45は工作物Wの内歯の歯位相(回転位置)を検知することができる。
【0054】
尚、図7に示すフローチャートにおいて、歯車加工処理は、ステップS2の焼入れ処理の後であってステップS4の仕上加工処理の前となるステップS3の位相合わせ処理を実行する。しかし、位相合わせ処理については、ステップS1の粗加工処理及びステップS4の仕上加工処理の中でも実行することができる。例えば、ステップS1の粗加工処理又はステップS4の仕上加工処理において加工用工具43に破損等が発生し、加工用工具43の交換が行われた場合に、歯車加工処理では、位相合わせ処理を実行することによって、工作物Wと加工用工具43との位相合わせを行うことができる。
【0055】
(4.工作物W及び加工用工具43の位相合わせの詳細(歯車加工方法))
次に、図8に示すフローチャートを参照しながら、歯車加工処理(歯車加工方法)の中で前記ステップS3にて実行される位相合わせ処理を具体的に説明する。尚、位相合わせ処理を実行するに当たり、制御装置100の記憶装置106には、別途検知された加工用工具43の工具位相(回転位置)が記憶されているものとする。
【0056】
前記ステップS3にて実行される位相合わせ処理においては、制御装置100(具体的には、CPU。以下同じ)は、先ずステップS11にて、上述した焼入れ処理に伴って工作物Wの脱着が行われたか否かの判定を実行する。即ち、制御装置100は、工作物Wの脱着が行われていなければ、ステップS11にて「No」と判定することにより、図7のフローチャートに示す歯車加工処理に戻って前記ステップS4にて仕上加工処理を実行する。一方、制御装置100は、工作物Wの脱着が行われていれば、ステップS11にて「Yes」と判定し、ステップS12に進む。
【0057】
ステップS12においては、制御装置100のチルト制御部103は、A軸モータ61の駆動制御を行い、図9に示すように、工作物Wの回転軸線であるC軸と加工用工具43(回転主軸41)の回転軸線Jとが平行になるように、チルトテーブル60を揺動させる。そして、制御装置100は、チルトテーブル60を揺動させると、ステップS13に進む。
【0058】
ステップS13においては、制御装置100の位相検知部105は、サドル30における回転主軸41と工作物検出センサ45との位置関係と、予め割出された工具ホルダ44の中心位置とに基づいて、工作物検出センサ45の検知位置を決定する。そして、制御装置100の位置制御部104は、工作物検出センサ45を検知位置に配置する。
【0059】
具体的に、位置制御部104は、図9に示すように第一位置に配置されている工具ホルダ44即ち回転主軸41を支持するコラム20を、図10に示すように、工作物検出センサ45が工作物Wの歯位相を検出する検知位置に向けた第二位置に移動させる。そして、位置制御部104は、図11に示すように、第二位置に配置されている工具ホルダ44即ち回転主軸41を支持するコラム20を、検知位置に対応する第三位置に移動させる。
【0060】
ここで、回転主軸41は主軸ハウジング40aによって支持され、工作物検出センサ45は主軸ハウジング40aと一体に連結されたセンサケーシング40bによって支持されている。即ち、支持機構110に支持された工作物検出センサ45は、可動ロッド112の軸線と回転主軸41の回転軸線Jとが離間する方向又は接近する方向に相対変位不能に支持されている。そして、主軸ハウジング40a及びセンサケーシング40bは、サドル30を介してコラム20に連結されている。
【0061】
従って、図11に示すように、コラム20即ち回転主軸41を第三位置に移動させた場合には、回転主軸41と工作物検出センサ45との位置関係が維持されているため、工作物検出センサ45は検知位置に対応する位置に移動することができる。即ち、歯車加工装置1においては、工作物Wの歯位相を検知する際には、第一位置(例えば、工作物Wの脱着時における回転主軸41の退避位置)を基準とし、回転主軸41と工作物検出センサ45との位置関係に基づいて、コラム20(回転主軸41)をX軸線に平行な方向に予め設定された距離だけ移動させると共にY軸線に平行な方向に予め設定された距離だけ移動させる。
【0062】
更に、位置制御部104は、回転主軸41を第三位置まで移動させた状態で、支持機構110の駆動装置113を駆動することによって可動ロッド112を回転軸線Jの方向にて工作物Wに向けて伸長させる。これにより、図11及び図12に示すように、可動ロッド112の先端に組み付けられた工作物検出センサ45が工作物Wの歯位相を検知する検知位置まで移動する。これにより、工作物検出センサ45は、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知することができる。
【0063】
再び、図8のフローチャートに戻り、ステップS14においては、制御装置100の位相検知部105は、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知する。この場合、位相検知部105は、工作物回転制御部102と協働することによって工作物Wの歯位相(回転位置)を検知する。
【0064】
工作物回転制御部102は、図12に示すように、位置制御部104の駆動制御によって工作物検出センサ45が支持機構110によって検知位置に配置された状態で、C軸モータ62の駆動制御を行い、工作物Wを一方向に低速で回転させる。そして、工作物検出センサ45は、本例においては工作物Wの外歯における歯底面に対応する信号(例えば、電圧等)を出力する。
【0065】
これにより、位相検知部105は、工作物検出センサ45によって出力された信号と、C軸モータ62に設けられたエンコーダ62aから得られる工作物Wの回転角度情報とに基づき、工作物Wの歯位相を検知する。具体的には、位相検知部105は、工作物Wの歯位相を把握するに際し、工作物検出センサ45から得られる出力電圧情報と、エンコーダ62aから得られる回転角度情報とを用いた演算を行う事により、工作物Wの歯位相を検知する。
【0066】
図13に示すように、工作物検出センサ45から出力される電圧の変化は、工作物Wの回転角度の変化に伴って周期的に上下するサイン波形となる。位相検知部105は、電圧の最大値と最小値との中間値を閾値Thとし、電圧が閾値Thを跨いで下回ったときの工作物Wの回転角度θ11、及び、電圧が閾値Thを跨いで上回ったときの工作物Wの回転角度θ12を抽出する。そして、位相検知部105は、回転角度θ11と回転角度θ12との中間値となる回転角度θ1を演算する。
【0067】
この回転角度θ1は、工作物検出センサ45の検知位置と工作物Wの歯車(外歯)の歯底面の中心位置とが一致したときの工作物Wの回転角度とみなすことができる。位相検知部105は、演算結果と記憶装置106に記憶された歯車の基本情報とに基づいて、歯底面の中心位置の歯位相を演算により求める(検知する)。そして、制御装置100は、工作物Wの歯位相を検知すると、ステップS15の処理を実行する。
【0068】
尚、歯位相の検知に際しては、工作物Wを複数回に亘って回転させる必要はなく、少なくとも1回転、或いは、360度未満の回転角度だけ回転させるようにしても良い。又、より検知精度を向上させるために、先ず一方向に工作物Wを回転させた後、他方向に工作物Wを回転させるようにしても良い。
【0069】
ステップS15においては、制御装置100の記憶装置106は、位相検知部105によって検知された工作物Wの歯位相(回転位置)を表す歯位相情報を記憶する。そして、制御装置100は、記憶装置106が歯位相情報を記憶すると、ステップS16の処理を実行する。
【0070】
ステップS16においては、制御装置100の位相検知部105は、予め検知されて記憶装置106に記憶されている加工用工具43の工具位相を表す工具位相情報と、前記ステップS15にて記憶装置106に記憶された歯位相情報とに基づき、工作物Wの歯位相と加工用工具43の工具位相とのずれ量を演算する。そして、位相検知部105は、工具回転制御部101及び工作物回転制御部102と協働して、演算したずれ量に基づき、工作物Wと加工用工具43との位相合わせを行う。
【0071】
具体的に、工具回転制御部101及び工作物回転制御部102は、演算により得られたずれ量に基づき、工作物Wの歯位相と加工用工具43の工具位相とが一致するように、工作物W及び加工用工具43の回転角度を調整する。そして、制御装置100は、工作物W及び加工用工具43の回転角度の調整、即ち、位相合わせによる加工初期位置の調整が終了すると、図7のフローチャートに示す歯車加工処理に戻り、前記ステップS4にて仕上加工処理を実行する。
【0072】
以上の説明からも理解できるように、歯車加工装置1によれば、制御装置100の位置制御部104は、工作物Wの切削加工時において工作物検出センサ45を工作物Wから離間させ、歯位相を検知する際に工作物検出センサ45を検知位置に位置させることができる。又、位置制御部104は、工具保持装置を形成するコラム20及びサドル30と、工作物保持装置を形成するチルトテーブル支持部63及びターンテーブル70とを、互いに相対移動可能に位置制御することができる。
【0073】
これにより、例えば、工作物Wの径に合わせて工作物検出センサ45を検知位置に移動させるために別途位置決め装置を設けなくても、位置制御部104がコラム20及びサドル30とチルトテーブル支持部63及びターンテーブル70とを相対移動させた上で工作物検出センサ45を工作物Wに接近させることで工作物検出センサ45を検知位置に位置させることができる。従って、歯車加工装置1の構成を簡素化して工作物検出センサ45の工作物Wに対する相対移動の自由度を向上させることができると共に、工作物Wの歯位相を精度良く検知することができる。
【0074】
又、工作物検出センサ45の工作物Wに対する相対移動の自由度を向上させることができるため、歯車加工装置1によれば、例えば、工作物Wに形成された(創成された)外歯の歯位相を検知する検知位置に限らず、内歯の歯位相を検知する検知位置に対しても工作物検出センサ45を位置させることができる。従って、工作物Wに外歯が形成される場合と内歯が形成される場合とに応じて、工作物検出センサ45を交換したり、位置調整を行う必要がなく、例えば、加工に要するサイクルタイムを短縮することも可能である。
【0075】
又、歯車加工装置1は、工作物検出センサ45を進退可能に支持する支持機構110にシール機構115を設けることができる。これにより、工作物Wに対して歯車加工処理(切削加工)を行う際に発生するクーラント等が主軸ハウジング40aに形成された収容空間40cに進入することを防止することができる。これにより、クーラント等の進入によって、収容空間40cに収容された可動ロッド112及び駆動装置113等の作動が阻害されることがなく、工作物検出センサ45を検知位置に確実に位置させることができる。従って、工作物検出センサ45による歯位相の検知精度を維持することができる。
【0076】
(5.その他の別例)
上述した本例においては、工作物検出センサ45が工作物Wまでの距離を検出するようにした。工作物検出センサ45が検出する物理量としては距離に限定されるものではなく、例えば、工作物検出センサ45が電磁的な物理量の強弱や接触子の直接的な変位を検出しても良い。
【0077】
又、上述した本例においては、歯車加工装置1が工具交換装置90を備え、工作物Wに対する加工内容に応じて加工用工具43及び工具ホルダ44を自動的に交換することが可能となるようにした。しかしながら、必ずしも歯車加工装置1が工具交換装置90を備えている必要はなく、工具交換装置90を省略して歯車加工装置1を構成することも可能である。
【0078】
又、上述した本例においては、歯車加工装置1のサドル30に固定されたセンサケーシング40bに工作物検出センサ45のみが支持機構110によって進退可能(接近又は離間可能)に支持される場合を例示した。しかしながら、センサケーシング40bに工作物検出センサ45以外であり、且つ、工作物Wの加工状態を検出する他のセンサを設けることが可能であることは言うまでもない。
【0079】
更に、上述した本例においては、加工用工具43がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、加工用工具がホブカッタである場合には、歯車加工装置は、ホブ加工により歯車加工を行うことが可能である。
【0080】
この場合、歯車加工装置においては、ホブカッタの回転軸線と工作物の回転軸線とが交差(例えば、直交)するように、ホブカッタ及び工作物が配置される。歯車加工装置は、歯車加工時において、工作物及びホブカッタを各々回転させながら、ホブカッタを回転軸線方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物に歯車を加工する。
【0081】
そして、歯車加工装置は、加工処理中に工作物の脱着が行われた場合、上述した本例と同様に、ホブカッタの工具位相を検知すると共に工作物の歯位相を検知し、工作物とホブカッタとの位相を合わせることができる。従って、この場合においても、上述した本例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0082】
1…歯車加工装置、10…ベッド、11…X軸モータ、12…Z軸モータ、20…コラム(工具保持装置)、20a…側面、21…Y軸モータ、30…サドル(工具保持装置)、30a…側面、40…主軸装置、40a…主軸ハウジング、40b…センサケーシング、40b1…肉厚部、40c…収容空間、41…回転主軸、42…主軸モータ、42a…エンコーダ、43…加工用工具、43a…工具刃、43b…刃先、43c…刃溝、44…工具ホルダ、45…工作物検出センサ、45a…ケース、50…テーブル、60…チルトテーブル、61…A軸モータ、62…C軸モータ、62a…エンコーダ、63…チルトテーブル支持部(工作物支持装置)、63a…側面、64…工具検出センサ、70…ターンテーブル(工作物支持装置)、80…保持器(工作物支持装置)、90…工具交換装置、100…制御装置、101…工具回転制御部、102…工作物回転制御部、103…チルト制御部、104…位置制御部、105…位相検知部、106…記憶装置、110…支持機構、111…フレーム、112…可動ロッド、112a…軸受、113…駆動装置、114…連結部材、115…シール機構、115a…第一シール部、115b…第二シール部、115b1…第一内周部(大径部分)、115b2…第二内周部(小径部分)、115b3…段部、115c…第三シール部、W…工作物
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