(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品および樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20250107BHJP
C08B 37/16 20060101ALI20250107BHJP
C08L 5/16 20060101ALI20250107BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C08L81/02
C08B37/16
C08L5/16
C08L63/00 A
(21)【出願番号】P 2020217713
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019239655
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】小林 定之
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/146633(WO,A1)
【文献】特許第6390800(JP,B2)
【文献】特開昭59-058052(JP,A)
【文献】国際公開第2019/106986(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08B 37/16
C08L 5/16
C08L 63/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を配合してなる
樹脂組成物であって、前記ポリアリーレンスルフィド(A)、前記変性シクロデキストリン(B)、および前記エポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、前記ポリアリーレンスルフィド(A)を80質量部以上99.9質量部以下、前記変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)を合計して0.1質量部以上20質量部以下配合してなる樹脂組成物。
【請求項2】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記ポリアリーレンスルフィド(A)を主成分とする海相、前記変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)を主成分とする島相、からなる海島構造を有し、前記島相の平均直径が1μm以下である
樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性シクロデキストリン(B)が、脂肪族ポリエステルで修飾されていることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリ(ε-カプロラクトン)であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(C)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ISO527(2012)に準じた、引張速度5mm/分での引張破断伸度が20%以上である請求項1~
5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項8】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を溶融混練する請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド、変性シクロデキストリンおよびエポキシ樹脂を配合してなる、剛性および靭性のバランスに優れた成形品を得ることのできる樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、成形品用途を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。しかし、ポリアリーレンスルフィド樹脂はポリアミド樹脂等の他のエンジニアリングプラスチックに比べ、靭性面で十分に優れているとは言い難い。
【0003】
ポリアリーレンスルフィドの強靭化を目的として、例えば、エラストマー(例えば、特許文献1参照)、ポリエステル(例えば、特許文献2参照)、エポキシ樹脂(例えば、特許文献3参照)などの靭性に優れる材料とのアロイ化により耐衝撃性を向上させる試みは多々検討されているが、これらの材料とのアロイ化は多くの場合、ポリアリーレンスルフィドが有する引張強度、弾性率、耐熱性の低下を招いたり、靭性の向上効果、特に引張破断伸度の向上効果が限定的であったりすることが多く、ポリアリーレンスルフィド本来の優れた性質と靭性のバランスが取れた樹脂組成物を得ることは困難であった。
【0004】
一方、樹脂組成物の衝撃強度と靭性を改良する方法として、例えば、不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリオレフィンと、官能基を有するポリロタキサンとを反応して得られる樹脂組成物(例えば、特許文献4参照)、ポリ乳酸からなるグラフト鎖を有する環状分子の開口部が直鎖状分子によって包接されたポリロタキサンと、ポリ乳酸樹脂とを含むポリ乳酸系樹脂組成物(例えば、特許文献5参照)が提案されている。また、特許文献6に記載の樹脂組成物は、ポリロタキサンの添加によりポリアミドの靭性を大きく向上させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US5191020公報
【文献】特開平4-173671号公報
【文献】特許第4297772号公報
【文献】特開2013-209460号公報
【文献】特開2014-84414号公報
【文献】国際公開第2016/167247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献6に開示されたポリロタキサンは熱安定性が乏しく、樹脂組成物の製造および成形加工に好適な温度範囲がポリロタキサンの分解温度以下に制限されるため、成形加工温度の高いポリアリーレンスルフィド樹脂への適用が困難であった。
そこで本発明は、上記に鑑み、熱安定性に優れる変性シクロデキストリンを用いて、剛性および靭性のバランスに優れた成形品を得ることのできる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)少なくとも、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記ポリアリーレンスルフィド(A)、前記変性シクロデキストリン(B)、および前記エポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、前記ポリアリーレンスルフィド(A)を80質量部以上99.9質量部以下、前記変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)を合計して0.1質量部以上20質量部以下配合してなる樹脂組成物。
(2)少なくとも、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記ポリアリーレンスルフィド(A)を主成分とする海相、前記変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)を主成分とする島相、からなる海島構造を有し、前記島相の平均直径が1μm以下であることを特徴とする樹脂組成物。
(3)前記変性シクロデキストリン(B)が、脂肪族ポリエステルで修飾されていることを特徴とする(1)項または(2)項に記載の樹脂組成物。
(4)前記脂肪族ポリエステルが、ポリ(ε-カプロラクトン)であることを特徴とする(3)に記載の樹脂組成物。
(5)前記エポキシ樹脂(C)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂であることを特徴とする(1)~(4)項のいずれかに記載の樹脂組成物。
(6)ISO527(2012)に準じた、引張速度5mm/分での引張破断伸度が20%以上である(1)~(5)項のいずれかに記載の樹脂組成物。
(7)(1)~(6)項のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
(8)少なくとも、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を溶融混練する(1)~(6)項のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、剛性および靱性のバランスに優れた成形品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、少なくともポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を配合してなる。ポリアリーレンスルフィド(A)を配合することにより、剛性や耐熱性を向上させることができる。また、変性シクロデキストリン(B)を配合することにより、靱性を向上させることができる。併せて、エポキシ樹脂(C)を配合することにより、変性シクロデキストリン(B)による靭性向上効果を増強することができる。なお、本発明の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)成分、変性シクロデキストリン(B)成分およびエポキシ樹脂(C)成分以外にも、(A)成分と(B)成分および(C)成分とが反応した生成物をも含むが、当該反応物の構造を特定することは実際的でない。そのため、本発明は配合する各成分により発明を特定するものである。
【0010】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)とは、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、主要構成単位とするとは、ポリアリーレンスルフィドを構成する全構成単位のうち、当該繰り返し単位を80モル%以上含有することを意味する。前記Arとしては下記の式(a)~式(k)などで表されるいずれかの単位が例示されるが、なかでも式(a)で表される単位が特に好ましい。
【0011】
【化1】
上記式(a)~式(i)中、R1、R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。※は連結部位を示す。
【0012】
繰り返し単位-(Ar-S)-を主要構成単位とする限り、下記の式(l)~式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の含有量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0013】
【0014】
これらポリアリーレンスルフィドの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、ポリフェニレンスルフィドケトンなどが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位として下記式に示すp-フェニレンスルフィド単位を90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(PPS)が挙げられる。m-フェニレン単位やo-フェニレン単位を含むこともできるが、ポリアリーレンスルフィドの高い耐熱性や耐薬品性などを維持するには、10モル%以下の含有量であることが好ましい。
【0015】
【0016】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするポリアリーレンスルフィド構造を有していればその製造方法に限定はなく、有機極性溶媒中でジクロロ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させる方法や、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱してポリアリーレンスルフィドに転化する方法や、ジヨード芳香族化合物と硫黄単体を溶融反応させる方法などが挙げられる。これら方法から得られたポリアリーレンスルフィドの後処理にも特に制限はなく、溶媒で洗浄してオリゴマー成分を除去する処理、加熱や脱揮などで溶媒やガス成分を低減する処理、酸素雰囲気下で架橋させる処理、得られたポリアリーレンスルフィドを再度溶融させて追加反応を行う処理などを施しても良い。
【0017】
得られたポリアリーレンスルフィドは官能基を含んでいても良く、アミノ基、アセトアミド基、スルホンアミド基、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、シアノ基、イソシアネート基、アルデヒド基、アセチル基、酸無水物基、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、もしくは上記の官能基から誘導される反応性官能基を有していてもよい。これら官能基の結合位置は特に制限はなく、ポリアリーレンスルフィドの側鎖および/または末端に位置する。
【0018】
本発明の樹脂組成物において、優れた引張破断伸度を発現させる観点から、配合に供するポリアリーレンスルフィド(A)の数平均分子量が10,000以上であることが好ましく、13,000以上であることがより好ましい。ポリアリーレンスルフィド(A)の数平均分子量の上限は特に限定されないが、成形加工性の観点から50,000以下であることが好ましい。ここでいうポリアリーレンスルフィドの数平均分子量(Mn)は、センシュー科学社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0019】
また、本発明の樹脂組成物において、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点は150℃以上300℃未満が好ましい。融点が150℃以上であれば、耐熱性を向上させることができる。一方、融点が300℃未満であれば、樹脂組成物を製造する際に変性シクロデキストリン(B)の熱分解を抑制することができる。
ここでいう、本発明におけるポリアリーレンスルフィドの融点は、TAインスツルメント社製示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアリーレンスルフィドを、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度である。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。
【0020】
本発明の樹脂組成物におけるポリアリーレンスルフィド(A)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)と変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、80質量部以上99.9質量部以下である。ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量が80質量部未満であると、得られる成形品の引張強度、剛性、耐熱性が低下する。ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量は90質量部以上が好ましく、93質量部以上がより好ましい。一方、ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量が99.9質量部を超えると、変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)の配合量が相対的に少なくなるため、成形品の靱性が低下する。ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量は99.5質量部以下が好ましい。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、変性シクロデキストリン(B)を配合してなる。
変性シクロデキストリンとは、下記一般式(о)に示す化合物であり、シクロデキストリンを構成するグルコースに官能基Rを修飾した化合物である。
【0022】
【化4】
上記一般式(o)において、nは6~8の整数、Rは水酸基、ヒドロキシプロポキシ基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコキシ基、脂肪族ポリエステル、ヒドロキシプロポキシ基を介したポリアルキレングリコール、ヒドロキシプロポキシ基を介した脂肪族ポリエステルから選ばれる官能基である。Rは同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。但し、全てのRが水酸基の場合を除く。
【0023】
変性シクロデキストリン(B)は、シクロデキストリンを構成する基本骨格であるグルコースの水酸基を化学修飾・変換することで得られる。変性シクロデキストリン(B)の原料となるシクロデキストリンの例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンが挙げられる。中でも、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンがより好ましく用いられる。本発明の樹脂組成物は、これら好ましいシクロデキストリンを変性した変性シクロデキストリン(B)を使用することで、得られる成形品の靱性が良好となる。
【0024】
シクロデキストリンの水酸基を化学修飾・変換する修飾基の具体例としては、シクロデキストリンの水酸基を、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基や、ヒドロキシプロポキシ基で変性した変性シクロデキストリン、ポリアルキレングリコールまたは脂肪族ポリエステルをシクロデキストリンに直接結合した変性シクロデキストリン、ポリアルキレングリコールまたは脂肪族ポリエステルをシクロデキストリンに結合基を介して結合した変性シクロデキストリンなどが挙げられる。脂肪族ポリエステルの例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ4-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(ε-カプロラクトン)などが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。これらの中でも、得られる成形品の靱性発現の観点から、ヒドロキシプロポキシ基、またはメトキシ基で修飾、あるいはヒドロキシプロポキシ基およびポリ(ε-カプロラクトン)で修飾されたものが好ましく、ヒドロキシプロポキシ基およびポリ(ε-カプロラクトン)で修飾したシクロデキストリンが特に好ましく用いられる。
【0025】
本発明の樹脂組成物における変性シクロデキストリン(B)がポリ(ε-カプロラクトン)で修飾されたものである場合、PCL鎖の分子量は、使用するエポキシ樹脂(C)の分子量と同等、または、使用するエポキシ樹脂(C)の分子量よりも大きいことが好ましい。本発明における「PCL鎖の分子量」は、核磁気共鳴装置を用いて、変性シクロデキストリン(B)の1質量%重水素化クロロホルム溶液のプロトン核磁気共鳴を測定した際、重水素化クロロホルムの残留プロトンピークを基準(7.26ppm)としたとき、1.38ppm付近に観測されるPCLのγ位のプロトンに対応するピークの積分値を、3.65ppm付近に観測されるPCL鎖末端の水酸基に隣接したメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値で除した値に、PCLの繰り返し単位のモル質量114.14g/molを掛けた値と定義する。また、本発明において「エポキシ樹脂(C)の分子量と同等」とは、PCL鎖の分子量がエポキシ樹脂の分子量±300g/molであることをいう。PCL鎖の分子量がエポキシ樹脂の分子量と同等またはより大きいことで、変性シクロデキストリン(B)とポリアリーレンスルフィド(A)との界面を安定化するエポキシ樹脂(C)の効果が十分に発揮され、靭性向上効果を増強することができる。
【0026】
本発明の樹脂組成物における変性シクロデキストリン(B)の熱分解温度は、300℃以上であることが好ましい。変性シクロデキストリン(B)は、熱質量分析で測定した5%質量減少温度が300℃以上であることで、樹脂組成物の製造および成形加工時の熱分解が抑制され、応力緩和効果を奏すことができる。本発明における「熱質量分析で測定した5%質量減少温度」は、熱質量計を用いて、変性シクロデキストリン(B)を不活性ガス雰囲気下40℃から10℃/分の速度で350℃まで昇温した際に、変性シクロデキストリン(B)の質量が、加熱前の質量に対して5%減少した温度を5%質量減少温度と定義する。変性シクロデキストリン(B)の熱質量分析で測定した5%質量減少温度を前記範囲に制御する方法としては、酸添加が挙げられる。酸添加により変性シクロデキストリンを調製する際に用いている重合触媒を不活性化させることができる。酸としては、有機酸と無機酸のどちらでもよいが、好ましくは塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、より好ましくはリン酸が用いられる。これら好ましい酸を用いることで、重合触媒が不活性化し、重合触媒によるエステル交換反応が抑制されるため、変性シクロデキストリン(B)の熱安定性が向上する。酸添加の方法としては、例えば、変性シクロデキストリン(B)に直接添加・混合する方法、変性シクロデキストリン(B)を溶解させた溶液に添加・混合する方法、変性シクロデキストリン(B)を酸性液体中に含浸する方法、などが挙げられるが、プロセス性の観点から合成後の変性シクロデキストリンに直接添加し撹拌することが特に好ましい。これらの酸はそのまま使用してもよく、溶媒に希釈した溶液として使用してもよい。
【0027】
本発明の樹脂組成物における変性シクロデキストリン(B)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)と、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、エポキシ樹脂(C)との合計量で0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)と、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上19.9質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計の配合量が、0.1質量部以上であると、変性シクロデキストリン(B)の応力緩和効果が十分に奏され、成形品の靭性が向上する。一方、変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計の配合量を、19.9質量部以下とすることで、相対的にポリアリーレンスルフィド(A)の配合量が多くなり、得られる成形品の剛性、耐熱性が向上する。変性シクロデキストリン(B)単独での配合量としては、ポリアリーレンスルフィド(A)と、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。変性シクロデキストリン(B)の配合量が、これら好ましい範囲にあることにより、剛性と靭性のバランスに優れた樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物はエポキシ樹脂(C)を配合してなる。
エポキシ樹脂(C)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらエポキシ樹脂のなかでも、粘度と耐熱性のバランスに優れ、変性シクロデキストリン(B)との親和性に優れるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
また、エポキシ樹脂(C)の数平均分子量は、500~100,000であることが好ましい。より好ましくは1,000~80,000であり、さらに好ましくは1,500~5,000である。数平均分子量が500以上であることにより、耐熱性に優れ、また100,000以下であることにより、ポリアリーレンスルフィド(A)との反応性に優れる。なお、エポキシ樹脂(C)の数平均分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0030】
本発明の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂(C)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上19.9質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましい。エポキシ樹脂(C)の配合量が、これら好ましい範囲にあることにより、変性シクロデキストリン(B)が有する応力緩和効果を効率よくポリアリーレンスルフィド(A)に波及させることが可能になり、剛性と靭性のバランスに優れた樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、海島構造を有し、海相はポリアリーレンスルフィド(A)が80質量%以上を占め、島相は変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計が80質量%以上を占める。島相の平均直径は、1μm以下である。変性シクロデキストリン(B)とポリアリーレンスルフィド(A)の界面を安定化させるため、変性シクロデキストリン(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計が80質量%以上を占める島相に含まれるエポキシ化合物(C)の量は、変性シクロデキストリン(B)100質量部に対して、25質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、100質量部以上がさらに好ましい。樹脂組成物の特性は、相分離構造やその相サイズにも影響を受けることが知られている。2種以上の成分からなり、相分離構造を有する樹脂組成物は、それぞれの成分の長所を引き出し、短所を補い合うことにより各成分単独の場合に比べて優れた特性を発現する。本発明の樹脂組成物の海島構造において、島相の平均直径は0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましい。島相の平均直径が0.01μm以上であると、相分離構造に由来する特性がより効果的に発揮され、ポリアリーレンスルフィドの優れた耐熱性を損なうことなく靭性を向上させることができる。また、島相の平均直径は、1μm以下であり、0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。島相の平均直径が1μm以下であると、島相の数が十分に増加し、変性シクロデキストリン(B)が有する応力緩和効果を樹脂全体に発揮させることができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物における海島構造の島相の平均直径は、電子顕微鏡観察により、以下の方法により求めることができる。一般的な成形条件において、樹脂組成物の相分離構造および各相の大きさは変化しないことから、本発明においては、樹脂組成物を成形して得られる試験片を用いて相分離構造を観察する。まず、射出成形により得られるISO527-2-5Aダンベル試験片の断面方向中心部を1~2mm角に切削し、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより室温で切削し、透過型電子顕微鏡用サンプルを得る。海島構造の島相の平均直径を求める場合、前述の透過型電子顕微鏡用サンプルについて、正方形の電子顕微鏡観察写真に島相が50個以上存在するように、倍率を調整する。かかる倍率において、観察像に存在する島相から無作為に50個の島相を選択し、それぞれの島相について長径と短径を測定する。その長径と短径の平均値を各島相の直径とし、測定した全ての島相の直径の平均値を島相の平均直径とする。なお、島相の長径および短径とは、それぞれの島相の最も長い直径および最も短い直径を指す。
島相の平均直径が前述の好ましい範囲にある海島構造は、例えば、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、エポキシ樹脂(C)の配合量を前述の好ましい範囲にすることにより得ることができる。変性シクロデキストリン(B)の配合量が少ないほど島相の平均直径は小さくなる傾向にあり、変性シクロデキストリン(B)の配合量が多いほど島相の平均直径は大きくなる傾向にある。
また、島相の平均直径が前述の好ましい範囲にある海島構造は、エポキシ樹脂(C)の分子量を前述の好ましい範囲にすることによっても得ることができる。エポキシ樹脂(C)の分子量は小さいほど島相の平均直径は小さくなる傾向にあり、エポキシ樹脂(C)の分子量が高いほど島相の平均直径は大きくなる傾向にある。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を含み、ISO527(2012)に準じた、引張速度5mm/分での引張破断伸度が20%以上である。引張破断伸度が20%以上であることにより、剛性および靱性に優れた成形品を得ることができる。引張破断伸度は、40%以上が好ましく、100%以上が特に好ましい。
【0034】
本発明の効果を損なわない範囲において、本発明の樹脂組成物は、無機フィラーを含有することも可能である。かかる無機フィラーの具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましい。またこれらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物は、アルコキシシラン化合物を含有することも可能である。アルコキシシラン化合物としては、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシラン化合物を用いてもよい。添加量は0.05~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましい。かかる化合物の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物;γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物;γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;およびγ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0036】
さらに、本発明の樹脂組成物に、ポリフェニレンスルフィド以外の樹脂を添加配合しても良い。その具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0037】
また、改質を目的として、以下のような化合物を含むことも可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの様なフェノール系酸化防止剤、ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイトなどのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を含有することができる。上記化合物はポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対し、10質量部以下が好ましく、1質量部以下が更に好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、少なくともポリアリーレンスルフィド(A)、変性シクロデキストリン(B)、およびエポキシ樹脂(C)を溶融混練することにより製造する。溶融混練装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機などの多軸押出機、二軸単軸複合押出機などの押出機や、ニーダーなどが挙げられる。生産性の点から、連続的に製造可能な押出機が好ましく、混練性、生産性の向上の点から、二軸押出機がより好ましい。
【0039】
以下、二軸押出機を用いて本発明の樹脂組成物を製造する場合を例に説明する。変性シクロデキストリン(B)の熱劣化を抑制し、靱性をより向上させる観点から、溶融混練の際の最高樹脂温度は、350℃以下が好ましい。一方、最高樹脂温度は、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点以上が好ましい。ここで、最高樹脂温度とは、押出機の複数ヶ所に均等に設置された樹脂温度計により測定した中で最も高い温度を指す。
【0040】
このようにして得られた樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形、押出成形用途として有用である。
【0041】
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品;センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、コンパクトディスク等の音声機器部品;照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ、エアコン冷媒調整弁等の各種バルブ;燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネスおよび結束バンド、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品;携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット;等々を例示できる。
【0042】
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用燃料チューブ、自動車用ターボダクト、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例および比較例の樹脂組成物を得るため下記原料を用いた。
<ポリアリーレンスルフィド>
(A-1):ポリフェニレンスルフィド樹脂を参考例1の方法で製造した。数平均分子量は13,700、融点は288℃であった。
【0044】
<変性シクロデキストリン>
(B-1):ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich社製)に、参考例2の方法でポリカプロラクトンを修飾・回収することで作製した。5%質量減少温度は339.5℃、PCL鎖の分子量は3,562であった。
(B-2):ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich社製)に、参考例3の方法でポリカプロラクトンを修飾・回収することで作製した。5%質量減少温度は336.2℃、PCL鎖の分子量は2,465であった。
【0045】
<エポキシ樹脂>
(C-1):三菱ケミカル(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂 jER1007(数平均分子量:2,900)を、160℃で12時間真空乾燥してから用いた。
(C-2):三菱ケミカル(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂 jER1004AF(数平均分子量:1,650)を、160℃で12時間真空乾燥してから用いた。
(C-3):三菱ケミカル(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂 jER1010(数平均分子量:5,500)を、160℃で12時間真空乾燥してから用いた。
(C-4):三菱ケミカル(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂 jER1256(重量平均分子量:50,000)を、160℃で12時間真空乾燥してから用いた。
【0046】
(参考例1)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。アルカリ金属硫化物の仕込み量1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、アルカリ金属硫化物の仕込み量1モル当たり0.02モルであった。
【0047】
反応容器を200℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し、内容物を取り出した。
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過した。得られた固形物を、更に70リットルのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥ポリフェニレンスルフィド樹脂(A-1)を得た。
【0048】
(参考例2)
ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン2.0gをε-カプロラクトン91.2gに窒素フロー下、油浴中で110℃から130℃を経て150℃まで段階的に昇温しながら各温度で30分ずつ撹拌することで溶解させた。油浴を130℃まで冷却した後、この混合溶液に、オクチル酸スズ(II)0.5gをトルエン1.6gで希釈した触媒溶液を滴下し、130℃で4時間撹拌した。得られた反応物に、リン酸10質量%テトラヒドロフラン溶液1.2gを添加して130℃で20分間攪拌した後、精製することなくそのまま回収し、80℃で12時間真空乾燥することにより、変性シクロデキストリン(B-1)を得た。
【0049】
(参考例3)
ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン0.64gをε-カプロラクトン41.5gに窒素フロー下、油浴中で110℃から130℃を経て150℃まで段階的に昇温しながら各温度で30分ずつ撹拌することで溶解させた。油浴を130℃まで冷却した後、この混合溶液に、オクチル酸スズ(II)0.25gをトルエン0.8gで希釈した触媒溶液を滴下し、130℃で4時間撹拌した。得られた反応物に、リン酸10質量%テトラヒドロフラン溶液0.6gを添加して130℃で20分間攪拌した後、精製することなくそのまま回収し、80℃で12時間真空乾燥することにより、変性シクロデキストリン(B-2)を得た。
【0050】
<評価方法>
各実施例および比較例における評価方法を説明する。
(1)数平均分子量
ポリフェニレンスルフィド樹脂の数平均分子量(Mn)は、以下に示す条件にて、センシュー科学社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。
装置:SSC-7100(センシュー科学)
カラム名:GPC3506(センシュー科学)
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2質量%)
【0051】
(2)融点
参考例1により得られたポリフェニレンスルフィド樹脂(A-1)を、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC-Q20)を用いて、不活性ガス雰囲気下、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温することで、融点を求めた。
【0052】
(3)熱分解温度(5%質量減少温度)
参考例2、3により得られた変性シクロデキストリン(B-1)、(B-2)を、熱質量計(日立ハイテクサイエンス製TG/DTA7200)を用いて、窒素フロー下、40℃から昇温速度10℃/分で質量変化を測定することで5%質量減少温度を求めた。
【0053】
(4)PCL鎖の分子量
参考例2、3により得られた変性シクロデキストリン(B-1)、(B-2)を、1質量%となるように重水素化クロロホルムに溶解させ、核磁気共鳴装置(日本電子製JNM-ECZ500R)を用いて、プロトン核磁気共鳴スペクトルを取得した。
【0054】
(5)剛性、靱性(引張強度、引張破断伸度)
各成分を表1に示す割合で配合してプリブレンドし、シリンダー温度:320℃に設定した小型混練機(HAAKE製MiniLab)へ供給し溶融混練した。押出されたガットをペレタイズしてペレットを得、得られたペレットをシリンダー温度:320℃、金型温度:130℃に設定した射出成形機(HAAKE製Minijet)で射出成形することにより、ISO527-2-5Aに準拠したダンベル型試験片を作製した。この試験片について、ISO527(2012)に従い、引張試験機オートグラフAG-20kNX(島津製作所製)を用いて引張速度5mm/分で引張試験を行い、最大点応力および引張破断伸度を求めた。
【0055】
(6)相分離構造の形態および島相の直径
前記条件により射出成形したISO527-2-5Aに準拠したダンベル型試験片の断面方向中心部を1~2mm角に切削した後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトーム(ライカ製EM UC7)により室温で切削し、透過型電子顕微鏡用サンプルを作製した。観察用サンプルの断面の相構造を、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製H-7100)で加速電圧100kVとして観察し、相分離構造の形態を確認した。ポリフェニレンスルフィドを主成分とする海相と、変性シクロデキストリンおよびエポキシ樹脂を主成分とする相が粒子状に形成した相とが存在し、この海相の中に粒子が点在した構造を海島構造とした。
前記海島構造を形成しているサンプルにつき、それぞれ島相の直径を以下の方法で求めた。正方形の電子顕微鏡観察写真に島相が50個以上存在するよう、適切な倍率に調整した。かかる倍率において、観察像に存在する島相から無作為に50個の島相を選択し、それぞれの島相について長径と短径を測定する。その長径と短径の平均値を各島相の直径とし、測定した全ての島相の直径の平均値を島相の平均直径とする。なお、島相の長径および短径とは、それぞれの島相の最も長い直径および最も短い直径を指す。
【0056】
(実施例1~6、比較例1~3)
表1に記載の原料を用いて前記方法により評価した結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
上記表1の比較例に示すように、ポリアリーレンスルフィドは、引張強度に優れているが、引張破断伸度に難点がある。実施例1~6と比較例1との比較より、ポリアリーレンスルフィド、変性シクロデキストリンおよびエポキシ樹脂からなる樹脂組成物は、島相の平均直径が1μm以下の海島構造をとり、ポリアリーレンスルフィド単体と比較して、靱性が優れることがわかった。一方、比較例2では、当該ポリアリーレンスルフィドに、変性シクロデキストリンを添加しても、靭性の向上効果は限定的であった。また、比較例1、3より、ポリアリーレンスルフィドおよびエポキシ樹脂からなる樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド単体と比較して、靭性が劣ることもわかった。