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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】表面性状推定システム
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/04 20060101AFI20250107BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20250107BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20250107BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20250107BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20250107BHJP
   G01B 21/10 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B24B49/04 A
B24B49/10
B24B5/04
B23Q17/20 A
B23Q17/00 D
G01B21/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021011349
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114886
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023039(JP,A)
【文献】特開2020-114615(JP,A)
【文献】特開2018-024079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/04
B24B 49/10
B24B 5/04
B23Q 17/20
B23Q 17/00
G01B 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削装置にて砥石車により研削した工作物の表面状態に応じた検出データを出力する検出装置と、
前記工作物の表面における前記検出装置の測定位置を少なくとも周方向に前記工作物に対して相対移動させることによって前記検出装置により検出された前記検出データに基づいて前記工作物の表面性状を生成する表面性状生成装置と、を備え、
前記表面性状生成装置は、
前記工作物の表面における前記測定位置を前記工作物の周方向及び軸方向にて螺旋状に移動させることによって検出された前記検出データである第一検出データ、及び、前記測定位置を前記工作物の軸方向の同一位置にて周方向に移動させることによって検出された前記検出データである第二検出データに基づいて、前記砥石車の研削面における表面状態が転写された砥石起因による表面性状を算出すると共に、前記第二検出データに基づいて、前記砥石車と前記工作物との心間の相対的な変動により発生する振動が転写された心間相対振動起因による表面性状を算出し、
前記砥石起因による表面性状と前記心間相対振動起因による表面性状とを加算して、前記工作物の表面性状を生成する、表面性状推定システム。
【請求項2】
前記砥石起因による表面性状は、
前記第一検出データの周波数成分のうちの低周波成分である第一低周波成分、及び、前記第二検出データの周波数成分のうちの低周波成分である第二低周波成分に基づく低周波成分の前記砥石起因による表面性状と、
前記第一検出データの周波数成分のうちの前記第一低周波成分よりも高周波領域の高周波成分である第一高周波成分、及び、前記第二検出データの周波数成分のうちの前記第二低周波成分よりも高周波領域の高周波成分から前記砥石車の砥石回転周波数成分を除外した第二高周波成分に基づく高周波成分の前記砥石起因の表面性状と、を含む、請求項1に記載の表面性状推定システム。
【請求項3】
前記心間相対振動起因による表面性状は、
前記第二検出データの周波数成分のうちの低周波成分である第二低周波成分に基づく前記心間相対振動起因による表面性状と、
前記第二検出データの周波数成分のうちの前記第二低周波成分よりも高周波領域の第二高周波成分に基づく前記心間相対振動起因による表面性状と、を含む、請求項1又は2に記載の表面性状推定システム。
【請求項4】
前記表面性状生成装置は、
前記第一検出データを第一基礎データとして取得すると共に、前記第二検出データを第二基礎データとして取得する基礎データ取得部と、
前記第一基礎データの周波数特性のうちの低周波成分である第一低周波成分及び前記第二基礎データの周波数特性うちの低周波成分である第二低周波成分を抽出し、抽出した前記第一低周波成分から前記第二低周波成分を減算することによって前記工作物の基準半径を算出すると共に、前記第二低周波成分を用いて前記砥石車と前記工作物との心間相対振動である低周波心間相対振動を算出する第一データ処理部と、
前記第一基礎データの周波数特性のうちの前記第一低周波成分よりも高周波領域の第一高周波成分及び前記第二基礎データの周波数特性のうち前記第二低周波成分よりも高周波領域の第二高周波成分を抽出し、抽出した前記第二高周波成分を用いて前記砥石車と前記工作物との心間相対振動である高周波心間相対振動を算出すると共に、抽出した前記第一高周波成分から前記高周波心間相対振動を減算することによって前記工作物の表面に前記砥石車の前記研削面における表面状態が転写された砥石表面凹凸を算出する第二データ処理部と、
前記第一データ処理部によって算出された前記工作物の前記基準半径、及び、前記第二データ処理部によって算出された前記砥石表面凹凸を用いて前記砥石起因による表面性状を生成すると共に、前記第一データ処理部によって算出された前記低周波心間相対振動、及び、前記第二データ処理部によって算出された前記高周波心間相対振動を用いて前記心間相対振動起因による表面性状を生成し、
前記生成した前記砥石起因による表面性状及び前記心間相対振動起因による表面性状を加算して、前記工作物の表面性状を生成する表面性状生成部と、
を備えた、請求項1-3の何れか一項に記載の表面性状推定システム。
【請求項5】
前記表面性状生成部は、
前記工作物の前記基準半径、前記砥石表面凹凸、前記低周波心間相対振動、及び、前記高周波心間相対振動の各々をマップ化し、各々のマップを加算することにより、前記工作物の表面性状を表すマップを生成する、請求項4に記載の表面性状推定システム。
【請求項6】
前記検出装置は、
加速度又は変位に関する時系列データを前記検出データとして出力する、請求項1-5の何れか一項に記載の表面性状推定システム。
【請求項7】
前記検出装置は、
前記研削装置において前記工作物の外径を測定する外径測定装置に設けられる、請求項1-6の何れか一項に記載の表面性状推定システム。
【請求項8】
前記第一データ処理部は、
前記第一低周波成分を前記第一基礎データの周波数特性のうちの低周波成分から1山/周成分を除外して抽出すると共に、前記第二低周波成分を前記第二基礎データの周波数特性のうちの低周波成分から1山/周成分を除外して抽出する、請求項4又は5に記載の表面性状推定システム。
【請求項9】
前記表面性状生成装置により生成された前記工作物の表面性状を画像として出力する画像出力装置を備えた、請求項1-8の何れか一項に記載の表面性状推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
研削加工は、例えば、高速に回転する工具と、回転する工作物とを接触させて行われる。工具を回転させて工作物を加工する場合に、びびり振動が発生すると、加工面精度が低下したり、工具に過大な負荷が作用することがある。従来、研削加工後の工作物の表面状態を確認することにより、加工時のびびり振動の発生を検出する手法が用いられてきた。工作物の表面状態は、研削加工終了後に、真円度測定器により測定される。研削装置と表面状態測定器とが切り離されているため、工作物表面にびびり振動の発生が認められた場合にも、これを加工条件等にフィードバックするのに時間差ができてしまう問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1のように、びびり振動発生の検出をインプロセスで行う方法も提案されている。びびり振動検出器は、例えば、研削装置、もしくは被加工物の振動加速度、振動変位等を測定し、所定の閾値を越えた振動が検出されたときにびびり振動が発生したと判定している。びびり振動の発生を研削装置上で行うことで、びびり振動が検出された場合に、加工条件を変更してびびり振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-233368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のびびり検出方法では、びびりの発生の有無を知ることができるが、工作物の出来栄えや砥石車の摩耗状態等をより正確に把握するためには、工作物の表面における一定範囲以上の表面性状を知ることが望ましい。しかしながら、工作物の表面性状を測定するには、時間がかかり、特にインプロセスにおいて表面性状を得ることは困難である。
【0006】
本発明は、研削加工のインプロセスにおいて、素早く且つ高精度に工作物の表面性状を推定する表面性状推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
表面性状推定システムは、研削装置にて砥石車により研削した工作物の表面状態に応じた検出データを出力する検出装置と、工作物の表面における検出装置の測定位置を少なくとも周方向に工作物に対して相対移動させることによって検出装置により検出された検出データに基づいて工作物の表面性状を生成する表面性状生成装置と、を備え、表面性状生成装置は、工作物の表面における測定位置を工作物の周方向及び軸方向にて螺旋状に移動させることによって検出された検出データである第一検出データ、及び、測定位置を工作物の軸方向の同一位置にて周方向に移動させることによって検出された検出データである第二検出データに基づいて、砥石車の研削面における表面状態が転写された砥石起因による表面性状を算出すると共に、第二検出データに基づいて、砥石車と工作物との心間の相対的な変動により発生する振動が転写された心間相対振動起因による表面性状を算出し、砥石起因による表面性状と心間相対振動起因による表面性状とを加算して、工作物の表面性状を生成する。
【0008】
表面性状推定システムによれば、砥石起因による表面性状及び心間相対振動起因による表面性状を算出するために、螺旋状に検出された第一検出データ及び軸方向の同一位置にて検出された第二検出データを用いることができる。これにより、例えば、第一検出データのみを用いる場合に比べて、工作物の表面状態を算出するために必要な第一検出データのデータ数を低減することが可能になり、その結果、工作物の表面性状を生成して推定するために要する時間を短縮することができる。又、第一検出データ及び第二検出データを用いて工作物の表面性状を生成することができるため、データ数を低減した場合であっても、工作物の表面性状を高精度により生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】研削装置の構成を示す平面図である。
図2】検出装置を説明するための図である。
図3】研削装置の研削工程を示すフローチャートである。
図4】工作物の表面性状を説明するための図である。
図5】砥石起因による表面性状を説明するための図である。
図6】砥石起因による表面性状を説明するための図である。
図7】心間相対振動起因による表面性状を説明するための図である。
図8】表面性状推定システムの構成を示すブロック図である。
図9】第一基礎データ(第一検出データ)の検出を説明するための図である。
図10】第二基礎データ(第二検出データ)の検出を説明するための図である。
図11】表面性状生成装置の第一データ処理部の構成を示すブロック図である。
図12】表面性状生成装置の第二データ処理部の構成を示すブロック図である。
図13】表面性状生成装置のマップ化処理部の構成を示すブロック図である。
図14】マップ化処理部によってマップ化された砥石起因による表面性状を示す図である。
図15】マップ化処理部によるデータの位置補正処理を説明するための図である。
図16】マップ化処理部によるデータの合成処理を説明するための図である。
図17】マップ化処理部によってマップ化された砥石起因による表面性状を示す図である。
図18】マップ化処理部によってマップ化された心間相対振動起因による表面性状(高周波成分)を示す図である。
図19】マップ化処理部によってマップ化された心間相対振動起因による表面性状(低周波成分)を示す図である。
図20】マップ化処理部によってマップ化された工作物の表面性状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、表面性状推定システムHについて図面を参照しながら説明する。表面性状推定システムHは、図1に示すように、研削装置10、表面性状生成装置20、検出装置30を備える。又、本例の表面性状推定システムHは、画像出力装置40を備える。本例の表面性状推定システムHは、研削装置10によって研削された後或いは研削中に検出可能な変位値を検出装置30が検出し、表面性状生成装置20が検出装置30によって検出された工作物Wの表面状態に応じた検出データを用いて工作物Wの表面性状をマップ化して出力する。そして、本例の画像出力装置40は、表面性状生成装置20によって生成された工作物Wの表面性状を表すマップを画像として出力する。
【0011】
ここで、検出装置30が検出する検出データとしては、例えば、工作物Wの表面状態(表面形状)に対応して発生する振動の加速度を基に変換して得られる変位(振幅)や、振動の変位(振幅)等を例示することができる。又、検出装置30は、工作物Wに直接的又は間接的に接触して検出データを検出することが可能であると共に、工作物Wに接触することなく(非接触により)検出データを検出することが可能である。尚、本例においては、検出装置30が工作物Wの表面における加速度を基に変換して得られる変位を検出する場合を例示し、表面性状生成装置20が検出された変位を用いて表面性状即ちマップを生成する場合を説明する。
【0012】
(1.研削装置10の構成)
図1及び図2に示すように、研削装置10は、ベッド11、砥石車12、砥石台13、主軸台14、心押台15、主軸テーブル16、及び、定寸装置17を主に備える。工作物Wは、回転軸方向の両端を、主軸台14及び心押台15に支持され、回転する。尚、本例においては、工作物Wが円柱状又は円筒状である場合を例示する。研削装置10は、回転する工作物Wの表面(外周面)に砥石車12を当接させ、研削することにより工作物Wの形状を形成する。
【0013】
砥石車12は、Z軸に平行な軸線回りに回転可能に砥石台13に支持される。ベッド11上には、砥石台案内部11aが固定され、砥石台13は、X軸方向に移動可能に砥石台案内部11aに支持される。砥石車12には、制御器18によって制御される砥石回転モータ12aから回転駆動力が付与され、砥石車12が回転軸回りに回転する。砥石車12は、砥石台13がX軸方向に移動することにより、X軸方向に離間して設置された工作物Wに接近し、工作物Wを研削する。
【0014】
ベッド11上において、砥石台案内部11aからX軸方向に離間した位置に、主軸テーブル案内部11bが固定される。主軸テーブル案内部11bは、主軸テーブル16をZ軸方向に移動可能に支持する。主軸テーブル16の上には、主軸台14及び心押台15が対向配置される。工作物Wは、その両端が主軸台14及び心押台15に回転可能に支持されており、制御器18によって制御される主軸回転モータ14aから回転駆動力が付与され、回転する。
【0015】
外径測定装置である定寸装置17は、図2に示すように、工作物Wの表面に接触する接触部である一対の測定子17aと、測定子17aを支持する一対のフィンガー17bを備える。測定子17aは、工作物Wの回転中心Oを挟んだ2点において工作物Wの表面に当接するように設けられる。定寸装置17は、測定子17aの機械的変位を電気信号に変換することにより工作物Wの外径を検出する。定寸装置17は、軸方向移動装置17cに支持され、工作物Wの軸方向、即ち、Z軸方向に移動可能である。定寸装置17のZ軸方向の移動は、軸方向移動制御部17dによって制御される。
【0016】
検出装置30は、研削装置10の定寸装置17の一対のフィンガー17bのうちの少なくとも一方に組み付けられる。本例の検出装置30は、加速度センサを主に備え、加速度を基に変換して得られる変位を検出する。即ち、検出装置30は、定寸装置17の測定子17aが工作物Wの表面に接触した状態で工作物Wに対して相対移動した際にフィンガー17bに発生する変位を検出する。
【0017】
研削装置10は、図3に示す工程により工作物Wを研削する。研削工程は、砥石送り速度の違いによって分けられ、粗研工程St1、精研工程St2、微研工程St3、スパークアウト工程St4の順で行われる。各工程の砥石送り速度は、粗研工程St1>精研工程St2>微研工程St3>スパークアウト工程St4となる。粗研工程St1では、工作物Wの大まかな形状を形成する。続く精研工程St2及び微研工程St3では、砥石送り速度を小さくしながら、工作物Wの表面形状を整える。最後のスパークアウト工程St4では、工作物Wの表面の仕上げを行い、工作物Wを完成させる。
【0018】
ここで、表面性状推定システムHにおいては、研削が完了するスパークアウト工程St4後の工作物Wの表面性状を推定することが好ましい。尚、表面性状推定システムHは、インプロセスにおいて、工作物Wの表面性状を推定するものであるが、インプロセスとは、工作物Wが研削装置10から取り外されるまでの期間であって、スパークアウト工程St4後も含む。表面性状推定システムHは、工作物Wの研削完了後に工作物Wの研削時の回転を維持した状態において、後述する工作物Wの表面性状Sを推定することが好ましい。
【0019】
(2.表面性状生成装置20の概要)
次に、表面性状生成装置20の構成について説明する。図4に示すように、研削装置10によって研削された工作物Wの表面性状Sは、種々の要因に起因して決定されると言える。即ち、工作物Wの表面性状Sは、図4にて実線及び二点鎖線により示すように、砥石車12の研削面の表面状態が転写される砥石起因による表面性状S1と、図4にて破線により示すように、砥石車12と工作物Wとの間つまり心間の相対的な変動により発生する振動が転写される心間相対振動起因による表面性状S2とが合成されたものと言える。
【0020】
換言すれば、工作物Wの表面性状Sは、砥石起因による表面性状S1と心間相対振動起因によるS2とに分離することができる。このため、表面性状S1と表面性状S2とを各々生成し、最終的に表面性状S1と表面性状S2とを合成する(加算する)ことによって最終的に表面性状Sを生成することができる。
【0021】
ここで、砥石起因による表面性状S1は、更に、図5及び図6に示すように、砥石表面凹凸が転写された表面性状S11と、静的な工作物基準半径の表面性状S12とに分離することができる。又、心間相対振動起因による表面性状S2は、図7に示すように、低周波成分と高周波成分とが含まれており、検出装置30による検出データの周波数特性から抽出することにより高周波成分である高周波心間相対振動波形による表面性状S21と、低周波成分である低周波心間相対振動波形による表面性状S22とに分離することができる。
【0022】
従って、表面性状S11,S12を合成する(加算する)ことにより表面性状S1を生成し、表面性状S21,S22を合成する(加算する)ことにより表面性状S2を生成し、更に、表面性状S1,S2を合成する(加算する)ことにより、最終的に表面性状Sを生成することができる。又、必要に応じて、合成する表面性状S1,S11,S12,S2,S21,S22を適宜選択することにより、必要とする表面性状Sを任意に生成することも可能となる。
【0023】
そこで、本例の表面性状生成装置20は、検出装置30によって検出された変位を検出データとして取得し、取得した検出データの周波数特性のうち低周波成分と高周波成分とを抽出する。そして、表面性状生成装置20は、抽出した低周波成分及び高周波成分について各種データ処理を行い、各種データ処理の結果に基づいて表面性状S11,S12(即ち、表面性状S1)及び表面性状S21,S22(即ち、表面性状S2)を表す各々のマップを生成する。そして、表面性状生成装置20は、表面性状S1及び表面性状S2を表す各々のマップを合成する(加算する)ことにより、工作物Wの表面性状S、具体的には、表面性状Sを表すマップを最終的に生成する。
【0024】
(2-1.表面性状生成装置20の構成)
表面性状生成装置20は、図8に示すように、基礎データ取得部21と、第一データ処理部22と、第二データ処理部23と、表面性状生成部としてのマップ化処理部24と、を備える。
【0025】
(2-2.基礎データ取得部21)
基礎データ取得部21は、研削した後或いは研削中に検出装置30によって検出された検出データ(変位)を取得する。具体的に、基礎データ取得部21は、図8に示すように、検出装置30から出力された第一検出データK1を第一基礎データD1として取得すると共に、第二検出データK2を第二基礎データD2として取得する。
【0026】
ここで、検出装置30は、先ず、図9に示すように、工作物Wの表面における振動の変位を測定する測定位置を工作物Wに対して周方向及び軸方向にて相対的に螺旋状に移動させた場合の第一検出データK1を検出し、基礎データ取得部21に出力する。即ち、第一基礎データD1を取得する場合、工作物Wを回転させた状態で、定寸装置17の測定子17aを工作物Wの表面に接触させ、軸方向移動装置17cにより、定寸装置17を工作物Wの軸方向に連続的に移動させる。ここで、本例の測定位置は、定寸装置17の測定子17aが工作物Wの表面に接触する位置である。尚、定寸装置17の工作物Wの軸方向への移動速度は、工作物Wの1回転当たり1mm程度とすることが好ましく、この場合、定寸装置17の移動速度は、軸方向移動制御部17dにより制御することができる。
【0027】
又、検出装置30は、図10に示すように、測定位置を螺旋状に移動させることなく、測定位置を軸方向にて同一の位置(軸方向の同一位置)における工作物Wの外周面1周分の第二検出データK2を検出し、基礎データ取得部21に出力する。即ち、工作物Wを回転させた状態で、定寸装置17の測定子17aを工作物Wの表面に接触させ、軸方向移動装置17cにより、定寸装置17を工作物Wの軸方向の同一位置にて停止させる。
【0028】
基礎データ取得部21は、螺旋状に検出された第一検出データK1を第一基礎データD1として取得する。又、基礎データ取得部21は、軸方向同一位置で取得された1周分の第二検出データK2を第二基礎データD2として取得する。そして、基礎データ取得部21は、第一基礎データD1及び第二基礎データD2を、第一データ処理部22及び第二データ処理部23の各々に出力する。
【0029】
ここで、第一基礎データD1及び第二基礎データD2は、変位に関する時系列データである。尚、第一基礎データD1及び第二基礎データD2は、一般的には、時間軸を基準とするデータとして取得されるが、時間及び工作物Wの回転速度から、工作物Wの回転角度を基準とするデータに変換されても良い。
【0030】
(2-3.第一データ処理部22)
第一データ処理部22は、第一基礎データD1及び第二基礎データD2の周波数特性のうち、低周波成分を抽出し、抽出した低周波成分について後述する各種データ処理を行う。このため、第一データ処理部22は、図11に示すように、低周波成分抽出部221、スパイラル低周波波形生成部222、低周波心間相対振動波形生成部223、工作物基準半径算出部224を主に備える。
【0031】
低周波成分抽出部221は、基礎データ取得部21から取得した第一基礎データD1について高速フーリエ変換(以下、「FFT」と称呼する。)を行い、第一基礎データD1の周波数特性のうち、第一低周波成分であって1山/周成分を除く低周波成分D11を抽出する。尚、1山/周成分は、工作物Wの回転周波数に相当する成分である。又、低周波成分抽出部221は、基礎データ取得部21から取得した第二基礎データD2についてFTTを行い、第二基礎データD2の周波数特性のうち、第二低周波成分であって1山/周成分を除く低周波成分D21を抽出する。ここで1山/周成分を除くのは、例えば、工作物Wの回転軸がずれている場合等において、1山/周成分が強く検出される場合があるためである。尚、低周波成分抽出部221は、低周波成分として、例えば、50Hz未満(波形として15~50山程度)の周波数範囲となる第一基礎データD1及び第二基礎データD2の低周波成分を抽出する。
【0032】
スパイラル低周波波形生成部222は、低周波成分抽出部221によって抽出された第一基礎データD1の低周波成分D11について逆高速フーリエ変換(以下、「逆FFT」と称呼する。)を行う。ここで、第一基礎データD1は、検出装置30によって工作物Wの外周面(表面)に沿って螺旋状に検出された第一検出データK1(変位)である。これにより、スパイラル低周波波形生成部222は、工作物Wの螺線方向における変位変動即ち振動の低周波成分D11の波形を表すスパイラル低周波波形SLWを生成する。
【0033】
低周波心間相対振動波形生成部223は、低周波成分抽出部221によって抽出された第二基礎データD2の低周波成分D21について逆FFTを行う。ここで、第二基礎データD2は、検出装置30によって工作物Wの軸方向の同一位置にて検出された第二検出データK2(変位)である。これにより、第二基礎データD2の低周波成分D21について逆FFTを行うと、工作物Wの周方向(1周)における変位変動即ち振動の低周波成分D21を表す1断面低周波波形が得られる。
【0034】
ところで、1断面低周波波形は、例えば、研削装置10におけるポンプ脈動や工作物Wのセット精度等、1つの工作物Wの研削中に大きく変化しない砥石車12と工作物Wとの相対位置即ち心間距離の変化に起因して発生する相対振動(低周波心間相対振動)を表し、1つの工作物Wについて工作物Wの軸方向に沿って同一とみなすことができる。従って、低周波心間相対振動波形生成部223は、逆FFTを行うことによって得られる1断面低周波波形を、低周波心間相対振動波形LDVとして生成する。
【0035】
工作物基準半径算出部224は、スパイラル低周波波形生成部222によって生成されたスパイラル低周波波形SLWと、低周波心間相対振動波形生成部223によって生成された低周波心間相対振動波形LDVと、を用いて、研削された工作物Wの外周面において砥石車12の研削面の表面状態が転写されることに起因する工作物基準半径Rを算出する。具体的に、工作物基準半径算出部224は、スパイラル低周波波形SLWから低周波心間相対振動波形LDVを減算することにより、工作物基準半径Rを算出する。
【0036】
ここで、低周波心間相対振動波形LDVは、上述したように、工作物Wの軸方向にて同一とみなした1断面低周波波形である。このため、工作物基準半径算出部224は、下記式1に従い、スパイラル低周波波形SLWの螺旋回数Cに一致する数だけ低周波心間相対振動波形LDVを加算し(複写し)、スパイラル低周波波形SLWから減算することにより、工作物基準半径Rを算出する。
R=SLW-C×LDV …式1
【0037】
(2-4.第二データ処理部23)
第二データ処理部23は、第一基礎データD1及び第二基礎データD2の周波数特性のうち、高周波成分を抽出し、抽出した高周波成分について後述する各種データ処理を行う。このため、第二データ処理部23は、図12に示すように、スパイラル高周波成分抽出部231、1断面高周波成分抽出部232、スパイラル高周波波形生成部233、高周波心間相対振動波形生成部234、砥石表面凹凸算出部235を主に備える。
【0038】
スパイラル高周波成分抽出部231は、基礎データ取得部21から取得した第一基礎データD1についてFFTを行い、第一基礎データD1の周波数特性のうち、第一高周波成分をスパイラル高周波成分D12として抽出する。ここで、第一基礎データD1は、検出装置30によって工作物Wの外周面に沿って螺旋状に検出された第一検出データK1(変位)である。又、スパイラル高周波成分抽出部231は、高周波成分として、例えば、50Hz以上且つ検出装置30による検出上限の周波数以下(波形として50~500山程度)の周波数範囲の周波数特性を、スパイラル高周波成分D12として抽出する。
【0039】
1断面高周波成分抽出部232は、基礎データ取得部21から取得した第二基礎データD2についてFFTを行い、第二基礎データD2の周波数特性のうち、高周波成分を抽出する。更に、1断面高周波成分抽出部232は、抽出した高周波成分から砥石車12の回転数に対応する砥石回転周波数成分を除外した高周波成分即ち第二高周波成分を、1断面高周波成分D22として抽出する。尚、上述した砥石回転周波数成分とは、砥石回転周波数とその高調波からなる周波数成分である。
【0040】
ここで、第二基礎データD2は、検出装置30によって工作物Wの軸方向の同一位置にて検出された第二検出データK2(変位)である。これにより、第二基礎データD2から抽出された高周波成分は、工作物Wの周方向にて1周分、即ち、工作物Wの1断面に対応するものである。又、1断面高周波成分抽出部232も、高周波成分として、例えば、50Hz以上且つ検出装置30による検出上限の周波数以下(波形として50~500山程度)の周波数範囲を、1断面高周波成分D22として抽出する。
【0041】
スパイラル高周波波形生成部233は、スパイラル高周波成分抽出部231によって抽出された第一基礎データD1のスパイラル高周波成分D12について逆FFTを行う。これにより、スパイラル高周波波形生成部233は、工作物Wの螺線方向における変位変動即ち振動のスパイラル高周波成分D12の波形を表すスパイラル高周波波形SHWを生成する。
【0042】
高周波心間相対振動波形生成部234は、1断面高周波成分抽出部232によって抽出された第二基礎データD2の1断面高周波成分D22について逆FFTを行う。これにより、第二基礎データD2の高周波成分から砥石回転周波数成分を除外した1断面高周波成分D22について逆FFTを行うと、工作物Wの周方向(1周)における変位変動即ち振動の1断面高周波成分D22を表す1断面高周波波形が得られる。
【0043】
ところで、1断面高周波成分D22は、砥石車12の回転数に対応する砥石回転周波数成分を含まない。従って、1断面高周波波形は、砥石車12の回転数に対応する砥石回転周波数成分以外に、工作物Wの表面性状S(より詳しくは、心間相対振動起因による表面性状S2)に影響を与える振動を表す。ここで、工作物Wの表面性状Sに影響を与える振動としては、例えば、砥石台13や主軸テーブル16の移動を制御するサーボモータの回転、外部から加えられる振動、自励びびり等を挙げることができる。
【0044】
このため、1断面高周波波形は、砥石車12と工作物Wとの相対位置即ち心間距離の高周波領域における変化に起因して発生する相対振動(高周波心間相対振動)を表し、1断面低周波波形と同様に、1つの工作物Wについて工作物Wの軸方向に沿って同一とみなすことができる。従って、高周波心間相対振動波形生成部234は、逆FFTを行うことによって得られる1断面高周波波形を、高周波心間相対振動波形HDVとして生成する。
【0045】
砥石表面凹凸算出部235は、スパイラル高周波波形生成部233によって生成されたスパイラル高周波波形SHWと、高周波心間相対振動波形生成部234によって生成された高周波心間相対振動波形HDVと、を用いて、研削された工作物Wの外周面において砥石車12の研削面の表面状態が転写されることに起因する砥石表面凹凸Pを算出する。具体的に、砥石表面凹凸算出部235は、スパイラル高周波波形SHWから高周波心間相対振動波形HDVを減算することにより、砥石表面凹凸Pを算出する。
【0046】
ここで、高周波心間相対振動波形HDVは、上述したように、工作物Wの軸方向にて同一とみなした1断面高周波波形である。このため、砥石表面凹凸算出部235は、下記式2に従い、スパイラル高周波波形SHWの螺旋回数Cに一致する数だけ高周波心間相対振動波形HDVを加算し(複写し)、スパイラル高周波波形SHWから減算することにより、砥石表面凹凸Pを算出する。
P=SHW-C×HDV …式2
【0047】
(2-5.マップ化処理部24)
マップ化処理部24は、第一データ処理部22及び第二データ処理部23による上述した各種データ処理結果に基づいて、上述した表面性状S11,S12,S21,S22(図4-7を参照)の各々に対応するマップM1,M2,M3,M4を生成する。そして、マップ化処理部24は、生成したマップM1,M2,M3,M4を合成する(加算する)ことにより、工作物Wの表面性状Sを表す表面性状マップMを生成する。
【0048】
マップ化処理部24は、図13に示すように、砥石表面凹凸マップ生成部241、工作物基準半径マップ生成部242、高周波心間相対振動マップ生成部243、低周波心間相対振動マップ生成部244、表面性状マップ生成部245を主に備える。
【0049】
砥石表面凹凸マップ生成部241は、第二データ処理部23(砥石表面凹凸算出部235)から砥石表面凹凸Pを取得する。そして、砥石表面凹凸マップ生成部241は、図14に示すように、砥石起因である砥石表面凹凸Pによる表面性状S11を表すマップM1を生成する。
【0050】
ところで、砥石表面凹凸算出部235から出力された砥石表面凹凸Pは、上述したように、スパイラル高周波波形生成部233によって生成されたスパイラル高周波波形SHWを用いて算出される。そして、スパイラル高周波波形SHWは、螺旋状に検出された第一基礎データD1に基づくものである。このため、砥石表面凹凸Pを表す波形は工作物Wの外周面に沿って螺旋状に連続するものであるため、マップM1を生成する際には砥石表面凹凸Pを表す波形を、例えば、任意の山数(具体的には砥石回転周期の倍数等)を含む分割区間で分割し、且つ、分割区間ごとに工作物Wの軸方向にて配置する必要がある。
【0051】
このように、砥石表面凹凸Pを任意の分割区間で分割した場合、各分割区間の砥石表面凹凸P1(以下、「分割砥石表面凹凸P1」と称呼する。)は、工作物Wの回転軸に対する角度が互いに異なる角度となる。即ち、図15に示すように、隣接する軸方向位置における各々の分割砥石表面凹凸P1は、互いに工作物Wの周方向にずれた位置に対応する。ここで、工作物Wの砥石表面凹凸Pは、砥石車12の研削面の表面状態に起因するものであるため、砥石車12の砥石回転周期ごとに工作物Wの表面に繰り返し見られる。
【0052】
そこで、本例の砥石表面凹凸マップ生成部241は、工作物Wの同一円周上における砥石表面凹凸は周期的に繰り返されるものとみなす。即ち、本例の砥石表面凹凸マップ生成部241は、異なる分割区間つまり異なる角度ごとの分割砥石表面凹凸P1を軸方向に配置した際には工作物Wの同一角度における分割砥石表面凹凸P1であるとみなす。このため、砥石表面凹凸マップ生成部241は、各々の分割砥石表面凹凸P1を、周方向(図15の矢印方向)に移動させて、図16に示すように並列させる。これにより、砥石表面凹凸マップ生成部241は、図14に示すマップM1を生成する。
【0053】
尚、連続した砥石表面凹凸Pを分割区間ごとに分割した分割砥石表面凹凸P1を生成してマップM1を生成する際には、砥石表面凹凸Pの周期とずれた位置で分割する場合がある。即ち、この場合には分割砥石表面凹凸P1に端数が存在し、端数を含んだ分割砥石表面凹凸P1を工作物Wの軸方向に配置した場合、分割砥石表面凹凸P1同士を上手く接続できない場合が生じる。
【0054】
例えば、砥石表面凹凸Pに関連する砥石車12のアンバランス状態を例に挙げると、工作物Wの軸方向において、砥石車12の幅に相当する領域では、分割砥石表面凹凸P1の波形位相は一致する。即ち、隣接する軸方向位置における分割砥石表面凹凸P1の波形は、山と山、谷と谷が軸方向に隣接し、連続性を有する。砥石表面凹凸マップ生成部241は、マップM1の生成に際してこのような連続性を再現するにあたり、複数の分割砥石表面凹凸P1の端点における波形位相が一致するように、各々の分割砥石表面凹凸P1における周方向の相対的な位置を補正するつまり端数処理を行う。砥石表面凹凸マップ生成部241が端数処理を行うことで、各々の軸方向位置における分割砥石表面凹凸P1の工作物Wの軸方向に対するつながりを円滑にすることができ、生成されるマップM1の精度を向上させることができる。
【0055】
工作物基準半径マップ生成部242は、第一データ処理部22(工作物基準半径算出部224)から工作物基準半径Rを取得する。そして、工作物基準半径マップ生成部242は、図17に示すように、砥石起因である工作物基準半径Rによる表面性状S12を表すマップM2を生成する。
【0056】
ここで、工作物基準半径算出部224から出力された工作物基準半径Rは、上述したように、スパイラル低周波波形SLWを用いて算出される。そして、スパイラル低周波波形SLWは、螺旋状に検出された第一基礎データD1に基づくものである。尚、工作物基準半径Rを表す波形は、工作物Wの軸方向に連続する工作物半径の変化であるため、マップM2を生成する際には、砥石表面凹凸PのマップM1の周方向の配置数と同数にして配置する必要がある。
【0057】
このため、工作物基準半径マップ生成部242は、軸方向に連続する工作物基準半径Rを、砥石表面凹凸Pを分割した端数処理の際の周方向の配置数分だけ複写する。そして、工作物基準半径マップ生成部242は、複写した工作物基準半径Rを配置することにより、マップM2を生成する。
【0058】
高周波心間相対振動マップ生成部243は、第二データ処理部23(高周波心間相対振動波形生成部234)から高周波心間相対振動波形HDVを取得する。そして、高周波心間相対振動マップ生成部243は、図18に示すように、心間相対振動起因である高周波心間相対振動波形HDVによる表面性状S21を表すマップM3を生成する。高周波心間相対振動マップ生成部243は、マップM3を生成する際に、砥石表面凹凸Pを分割した複数の分割区間のうちの任意の分割区間を選択する(抽出する)。そして、高周波心間相対振動波形生成部234は、選択した(抽出した)分割区間に対応する高周波心間相対振動波形HDVを、工作物Wの軸方向に、マップM2の配置数と同数だけ配置することにより、マップM3を生成する。
【0059】
低周波心間相対振動マップ生成部244は、第一データ処理部22(低周波心間相対振動波形生成部223)から低周波心間相対振動波形LDVを取得する。そして、低周波心間相対振動マップ生成部244は、図19に示すように、心間相対振動起因である低周波心間相対振動波形LDVによる表面性状S22を表すマップM4を生成する。低周波心間相対振動マップ生成部244は、マップM4を生成する際に、砥石表面凹凸Pを分割した複数の分割区間のうち、高周波心間相対振動マップ生成部243によって生成されたマップM3の分割区間と同一の分割区間を選択する(抽出する)。そして、低周波心間相対振動マップ生成部244は、選択した(抽出した)分割区間に対応する低周波心間相対振動波形LDVを、工作物Wの軸方向に、マップM2の配置数と同数だけ配置することにより、マップM4を生成する。
【0060】
表面性状マップ生成部245は、図20に示すように、工作物Wの表面性状Sを表す表面性状マップMを生成する。即ち、表面性状マップ生成部245は、砥石表面凹凸マップ生成部241によって生成されたマップM1、工作物基準半径マップ生成部242によって生成されたマップM2、高周波心間相対振動マップ生成部243によって生成されたマップM3、及び、低周波心間相対振動マップ生成部244によって生成されたマップM4を合成する(加算する)ことにより、工作物Wの表面性状Sを表す表面性状マップMを生成する。
【0061】
ここで、砥石表面凹凸マップ生成部241によって生成されたマップM1と、工作物基準半径マップ生成部242によって生成されたマップM2とは、共に砥石起因によるものである。従って、表面性状マップ生成部245は、必要に応じて、マップM1とマップM2とのみを合成する(加算する)ことにより、工作物Wの表面性状Sを表す表面性状マップMとして、砥石起因による表面性状S1を表すマップ(図示省略)を生成することができる。
【0062】
又、高周波心間相対振動マップ生成部243によって生成されたマップM3と、低周波心間相対振動マップ生成部244によって生成されたマップM4とは、共に心間相対振動起因によるものである。従って、表面性状マップ生成部245は、必要に応じて、マップM3とマップM4とのみを合成する(加算する)ことにより、工作物Wの表面性状Sを表す表面性状マップMとして、心間相対振動起因による表面性状S2を表すマップ(図示省略)を生成することができる。
【0063】
そして、表面性状マップ生成部245は、生成した表面性状マップMを画像出力装置40に出力する。これにより、画像出力装置40は、取得した表面性状マップMを、例えば、ディスプレイ上に画像として表示する。
【0064】
以上の説明からも理解できるように、表面性状推定システムHによれば、表面性状生成装置20は、螺旋状に検出された第一検出データK1即ち第一基礎データD1及び軸方向同一位置にて検出された第二検出データK2即ち第二基礎データD2に基づいて、砥石起因による表面性状S1を形成する砥石表面凹凸P及び工作物基準半径Rを算出することができる。又、表面性状生成装置20は、軸方向同一位置にて検出された第二検出データK2即ち第二基礎データD2に基づいて、心間相対振動起因による表面性状S2を形成する低周波心間相対振動波形LDV及び高周波心間相対振動波形HDVを算出することができる。そして、砥石起因による表面性状S1と心間相対振動起因による表面性状S2とを加算することによって工作物Wの表面性状Sを生成することができる。
【0065】
より詳しく、表面性状生成装置20は、砥石起因による表面性状S1を、螺旋状に検出された第一基礎データD1(第一検出データK1)の周波数成分のうちの第一低周波成分としての低周波成分D11と第一高周波成分であるスパイラル高周波成分D12と、軸方向同一位置にて検出された第二基礎データD2(第二検出データK2)の周波数成分のうちの第二低周波成分である低周波成分D21と第二高周波成分である1断面高周波成分D22とに基づいて算出することができる。又、表面性状生成装置20は、心間相対振動起因による表面性状S2を、第二基礎データD2(第二検出データK2)の低周波成分D21と1断面高周波成分D22とに基づいて算出することができる。
【0066】
これにより、第一基礎データD1及び第二基礎データD2を用いて算出される砥石起因による表面性状S1においては、算出するために必要なデータ数(波形の山数)を低減することができる。その結果、工作物Wの表面性状Sを推定するために要する時間、具体的には、第一基礎データD1(第一検出データK1)を検出(収集)するために要する時間を短縮することができる。
【0067】
又、砥石起因による表面性状S1の算出に際しては、螺旋状に検出された第一基礎データD1(第一検出データK1)と軸方向同一位置即ち工作物Wの1周分に対応する第二基礎データD2(第二検出データK2)を用いることができる。これにより、砥石起因による表面性状S1の算出精度を向上させることができ、その結果、最終的に得られる工作物Wの表面性状Sの推定精度を向上させることができる。
【0068】
又、砥石起因による表面性状S1を、例えば、工作物Wの加工後に算出する場合には、短時間で表面性状S1を高精度に算出することができる。このため、表面性状S1を研削装置10のメンテナンス、例えば、ツルーイングインターバル等の判断に活用することできる。
【0069】
更に、軸方向同一位置にて検出された第二基礎データD2(第二検出データK2)を用いて心間相対振動起因による表面性状S2を算出することができる。これにより、心間相対振動起因による表面性状S2を算出するために必要なデータ数を低減することができる。その結果、工作物Wの研削中においても、心間相対振動起因による表面性状S2を算出することが可能となる。これにより、算出された心間相対振動起因による表面性状S2は、研削加工精度や研削装置10の作動状態等をモニタすることに用いることができるため、工作物Wの品質確認や予防保全、或いは、異常検知等に活用することができる。
【0070】
(3.その他の別例)
上述した本例においては、検出装置30が加速度センサを主に備えて、第一検出データ及び第二検出データとして加速度を基に変換して得られる変位を検出する場合を例示した。検出装置30は、加速度センサを主に備えることに限定されず、工作物Wの表面の凹凸に起因する変位を検出する変位センサを主に備えることも可能である。
【0071】
検出装置30が備える変位センサとしては、例えば、接触型の定寸装置17やリニアゲージ、又は、非接触型のレーザ式センサ、光学式センサ、渦電流型センサ等を例示することができる。接触型の定寸装置17やリニアゲージは、工作物Wの表面に接触する測定子17a等の接触部材を有し、工作物Wの回転に伴い生じる接触部材の振動の変位を検出する。尚、定寸装置17によって高周波成分を検出することができるように、例えば、定寸装置17に設けられたローパスフィルタを省略したアナログ出力アンプや、高周波デジタル出力アンプ等を用いることもできる。非接触型のレーザ式センサ、光学式センサ、渦電流型センサは、工作物Wの表面に対して非接触となるように配置され、工作物Wの回転に伴い生じる基準位置から工作物Wの表面までの変位を検出する。
【0072】
接触型のセンサにより検出される接触部材の振動の変位、及び、非接触型のセンサにより検出される変位は、何れも、工作物の表面の凹凸の変位を示す検出データ(時系列データ)である。従って、この場合においても、検出装置30から出力される検出データ(変位)は時系列データであり、基礎データ取得部21は、検出装置30から出力された第一検出データK1及び第二検出データK2を、各々、第一基礎データD1及び第二基礎データD2として取得する。
【0073】
尚、リニアゲージは、工作物Wに接触する測定子と、測定子を支持するアームを備え、測定子を回転中の工作物Wに接触させた状態で工作物Wの表面の変位を検出するものである。又、リニアゲージは、定寸装置17と同様に、軸方向移動装置に支持されており、工作物Wの軸方向、即ち、Z方向に移動可能とされる。
【0074】
更に、上述した本例においては、第一データ処理部22の低周波成分抽出部221がFFTを行い、スパイラル低周波波形生成部222及び低周波心間相対振動波形生成部223が逆FFTを行うようにした。又、第二データ処理部23のスパイラル高周波成分抽出部231及び1断面高周波成分抽出部232がFFTを行い、スパイラル高周波波形生成部233及び高周波心間相対振動波形生成部234が逆FFTを行うようにした。
【0075】
このように、FFT又は逆FFTを行うことを省略するために、上記各部に所望の周波数成分を抽出可能なフィルタを設けることも可能である。フィルタとしては、例えば、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、或いは、ガウシアンフィルタ等を例示することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…研削装置、11…ベッド、11a…砥石台案内部、11b…主軸テーブル案内部、12…砥石車、12a…砥石回転モータ、13…砥石台、14…主軸台、14a…主軸回転モータ、15…心押台、16…主軸テーブル、17…定寸装置、17a…測定子、17b…フィンガー、17c…軸方向移動装置、17d…軸方向移動制御部、18…制御器、20…表面性状生成装置、21…基礎データ取得部、22…第一データ処理部、221…低周波成分抽出部、222…スパイラル低周波波形生成部、223…低周波心間相対振動波形生成部、224…工作物基準半径算出部、23…第二データ処理部、231…スパイラル高周波成分抽出部、232…1断面高周波成分抽出部、233…スパイラル高周波波形生成部、234…高周波心間相対振動波形生成部、235…砥石表面凹凸算出部、24…マップ化処理部、241…砥石表面凹凸マップ生成部、242…工作物基準半径マップ生成部、243…高周波心間相対振動マップ生成部、244…低周波心間相対振動マップ生成部、245…表面性状マップ生成部、30…検出装置、40…画像出力装置、C…螺旋回数、K1…第一検出データ、K2…第二検出データ、D1…第一基礎データ、D11…低周波成分、D12…スパイラル高周波成分、D2…第二基礎データ、D21…低周波成分、D22…1断面高周波成分、HDV…高周波心間相対振動波形、LDV…低周波心間相対振動波形、SHW…スパイラル高周波波形、SLW…スパイラル低周波波形、M…表面性状マップ、M1,M2,M3,M4…マップ、O…回転中心、P…砥石表面凹凸、P1…分割砥石表面凹凸、R…工作物基準半径、S…表面性状、S1…(砥石起因の)表面性状、S2…(心間相対振動起因の)表面性状、S11,S12,S21,S22…表面性状、H…表面性状推定システム、W…工作物
図1
図2
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図11
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