(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置
(51)【国際特許分類】
A61J 11/00 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
A61J11/00 Z
(21)【出願番号】P 2021046469
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2024-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「乳児の舌の蠕動様運動に適合した人工乳首評価手法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000107284
【氏名又は名称】ジェクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 勝之
(72)【発明者】
【氏名】西 恵理
(72)【発明者】
【氏名】堀江 昌朗
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-173507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置であって、
乳児の吸啜動作時における舌の蠕動様運動を模して動作させるように作動する蠕動様運動機構と、
前記蠕動様運動機構の上部に配置され弾性部材からなる舌部と、
前記舌部の上部に配置され、前記装置本体に取り付けられる口蓋部と、を備え、
人工乳首は、前記舌部と前記口蓋部との間に挟持され、
前記蠕動様運動機構が作動し、前記舌部の下側から押圧することで、
前記舌部の上側が隆起するとともに、前記舌部が前方に移動することで、前記舌部の表面が後側から前側に徐々に隆起しながら前記人工乳首を押圧
し、
前記蠕動様運動機構は、
リンク機構と、
前記リンク機構の一端を回転自在に支持するとともに前記リンク機構の他端を揺動自在に支持する装置本体と、
前記リンク機構の一端を回転駆動する駆動部と、
前記リンク機構に支持される押圧部とで構成され、
前記舌部は、前記押圧部の上部に配置され、
前記駆動部を駆動することで前記リンク機構を作動し、
前記押圧部が前記リンク機構により前記舌部の下側から押圧することで、前記舌部の上側が隆起するとともに、前記押圧部が前記舌部を押圧しながら前方に移動することで、前記舌部の表面が後側から前側に徐々に隆起しながら前記人工乳首を押圧する、
乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置。
【請求項2】
前記押圧部は、付勢部材を有し、
前記押圧部が前記舌部の下側から押圧しながら、前記付勢部材により前記押圧部を前記舌部に付勢する、
請求項1に記載の乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置。
【請求項3】
前記リンク機構が作動した際に、前記押圧部の上端は、前記リンク機構の側面視において楕円状の軌跡を描くように構成される、
請求項1または
請求項2に記載の乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置。
【請求項4】
請求項1から
請求項3の何れか一項に記載の乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を有する人工乳首評価装置。
【請求項5】
請求項1から
請求項3の何れか一項に記載の乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を有し、
前記人工乳首の替わりに搾乳対象者の乳首が前記舌部と前記口蓋部との間に挟持されて前記搾乳対象者の母乳が採取される、搾乳装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳児の口腔内に配置されて、乳児の吸啜動作時における舌運動をモニタリングする装置及び方法に関する技術は公知となっている(特許文献1参照)。
【0003】
このようなモニタリング装置及び方法により、本願発明者は、実際の乳児の吸啜動作時における舌運動をモニタリングする技術を完成するに至っている。実際の乳児の吸啜動作時における舌運動は、乳児の発達状況によっても異なるとともに吸啜能力にも差が生じ、吸啜動作をうまく行えない乳児も存在する。そのため、例えば、哺乳瓶等に装着される人工乳首の開発においては、吸啜動作をうまく行えない乳児から吸啜動作をうまく行える乳児までを広く考慮しながら哺乳瓶等に装着される人工乳首の評価していくことが重要な課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、人工乳首の開発や評価に際して、実際に人工乳首に対して吸啜動作を乳児に行ってもらう場合、乳児にストレスがかかるおそれや、データ取得に多額の費用がかかってしまう。そのため、人工乳首の開発や評価に利用可能であって、乳児の吸啜動作時における舌運動及び口腔内の状態をリアルに再現することができる装置が求められている。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、乳児の吸啜動作時における舌運動及び口腔内の状態が再現可能であり、哺乳瓶等に装着される人工乳首を評価することができる、乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明においては、
乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置であって、
乳児の吸啜動作時における舌の蠕動様運動を模して動作させるように作動する蠕動様運動機構と、
前記蠕動様運動機構の上部に配置され弾性部材からなる舌部と、
前記舌部の上部に配置され、前記装置本体に取り付けられる口蓋部と、を備え、
人工乳首は、前記舌部と前記口蓋部との間に挟持され、
前記蠕動様運動機構が作動し、前記舌部の下側から押圧することで、
前記舌部の上側が隆起するとともに、前記舌部が前方に移動することで、前記舌部の表面が後側から前側に徐々に隆起しながら前記人工乳首を押圧し、
前記蠕動様運動機構は、
リンク機構と、
前記リンク機構の一端を回転自在に支持するとともに前記リンク機構の他端を揺動自在に支持する装置本体と、
前記リンク機構の一端を回転駆動する駆動部と、
前記リンク機構に支持される押圧部とで構成され、
前記舌部は、前記押圧部の上部に配置され、
前記駆動部を駆動することで前記リンク機構を作動し、
前記押圧部が前記リンク機構により前記舌部の下側から押圧することで、前記舌部の上側が隆起するとともに、前記押圧部が前記舌部を押圧しながら前方に移動することで、前記舌部の表面が後側から前側に徐々に隆起しながら前記人工乳首を押圧するものである。
【0009】
本発明においては、
前記押圧部は、付勢部材を有し、
前記押圧部が前記舌部の下側から押圧しながら、前記付勢部材により前記押圧部を前記舌部に付勢するものである。
【0010】
本発明においては、
前記リンク機構が作動した際に、前記押圧部の上端は、前記リンク機構の側面視において楕円状の軌跡を描くように構成されるものである。
【0011】
また、本発明の人工乳首評価装置においては、
上記の乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を有するものである。
【0012】
また、本発明の搾乳装置においては、
上記の乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を有し、
前記人工乳首の替わりに搾乳対象者の乳首が前記舌部と前記口蓋部との間に挟持されて前記搾乳対象者の母乳が採取されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、乳児の吸啜動作時における舌運動及び口腔内の状態を再現可能であり、例えば哺乳瓶等に装着される人工乳首を評価することができる乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置を示す模式図。
【
図3】装置本体(舌ユニット部及び口蓋部を取り外した状態)を示す斜視図。
【
図4】装置本体の舌ユニット部に乳首取付部材90を配置した状態を示す平面図。
【
図6】押圧部の凸部の上端が最初の位置に位置するリンク機構を示す側面図。
【
図7】
図6に示すリンク機構の最初の位置から第1リンクが所定角度時計周りに回った際のリンク機構を示す側面図。
【
図8】
図7に示すリンク機構の位置から第1リンクが所定角度時計周りに回った際のリンク機構であり、押圧部の凸部の上端が最低高さ位置に位置するリンク機構を示す側面図。
【
図9】
図8に示すリンク機構の位置から第1リンクが所定角度時計周りに回った際のリンク機構を示す側面図。
【
図10】
図9に示すリンク機構の位置から第1リンクが所定角度時計周りに回った際のリンク機構であり、押圧部の凸部の上端が最低高さ位置に位置するリンク機構を示す側面図。
【
図12】乳児の吸啜動作時における舌運動モニタリング装置のベースとセンサとが乳児の口腔内に配置された状態を示す模式図。
【
図13】(a)は舌運動モニタリング装置による力と時間の計測波形を示す図、(b)は同一時間における第一センサと第二センサの力をプロットした図。
【
図14】(a)は舌運動モニタリング装置による力と時間の計測波形を示す図、(b)は同一時間における第一センサと第二センサの力をプロットした図。
【
図15】(a)は理想的な力の割合の差と時間差を有する再現波形を示す図、(b)は理想的な乳児舌運動(蠕動様運動)の再現モデル。
【
図16】(a)(b)は押圧部の凸部の変形例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、
図1から
図11を用いて、本発明の第一の実施形態に係る乳児の吸啜動作時における口腔内の舌運動(蠕動様運動)及び口腔内を模擬的に再現可能な口腔内再現装置(以下では、単に「口腔内再現装置」ともいう)1について説明する。
なお、口腔内再現装置1は、例えば哺乳瓶等に装着される人工乳首を評価するための人工乳首評価装置、人工乳首の品質検査するための検査装置又は、搾乳対象者から母乳の採取を行う搾乳装置として使用することができる。
【0016】
乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置1は、所定の載置台に載置されて、乳児の吸啜動作における舌運動及び口腔内を再現するものである。乳児とは、人間を含む哺乳類の生後所定の期間経過までの児を示す。乳児の吸啜動作は、乳首から乳汁を採取するにあたって、乳首を咥えたときに、乳児の舌の隆起が舌尖側から舌根側に移動するように舌運動を始める動作(蠕動様運動)をいう。人間の乳児の吸啜動作は、1秒間に約2回程度行われる。人間の乳児の吸啜反射は、生後4月程度経過すると消失する。乳児の吸啜動作時における、乳首に対する力(例えば、舌尖側の力が極端に弱い等)、また、蠕動様運動のタイミング等については、個体差がある。そして、乳首に対する力また蠕動様運動のタイミング等によって、乳児の吸啜能力に差が生じる。
【0017】
次に、口腔内再現装置1の具体的構成について説明する。なお、以下において乳児は人間の乳児であるものとして説明する。
なお、以下の説明においては、口腔内再現装置1を水平に載置した状態を基準として、
図2における上下方向を、口腔内再現装置1の上下方向として説明する。
図2における左右方向を、口腔内再現装置1の「左右方向」又は「幅方向」として説明する。
図2における前後方向を口腔内再現装置1の「前後方向」として説明する。また、口腔内再現装置1を前側から見たときを左右の基準とし、左右方向それぞれを「左側」および「右側」とする。また、口腔内再現装置1において鉛直下方向を「下側」、鉛直上方向を「上側」とする。
また、以下の説明において、上方から口腔内再現装置1等を見た状態を平面視とする。また、口腔内再現装置1等を側方から見た状態を側面視とする。
【0018】
図1に示すように、口腔内再現装置1は、装置本体10と、駆動部であるモータ20と、トルクメータ30と、制御部200と、を備える。
なお、本実施形態の口腔内再現装置1は、モータ20の回転駆動軸20aにかかるトルクを計測するトルクメータ30やモータ20の回転数等を制御する制御部200を設ける構成であるが、トルクメータ30や制御部200を設けない構成であってもよい。
また、制御部200は、有線または無線等を介してモータ20に接続されるPC(パーソナルコンピューター)またはスマートフォンで構成することもできる。
【0019】
装置本体10は、本体部40と、リンク機構50と、押圧部60と、舌ユニット部70と、口蓋部80と、乳首取付部材90と、を備える。
【0020】
本体部40は、左側壁部41と、右側壁部42と、左側壁部41と右側壁部42を下側で連結するともに前後に配置される連結板43・43と、軸部44とを有している。左側壁部41は、側面視略L字状であり、下端部から上方の延びる縦長長方形状の延出部41aを有する。左側壁部41には、上下方向の中途部における前端近傍にモータ20の回転駆動軸20aを回転自在に軸支する軸受41bが設けられている。右側壁部42は、側面視略L字状であり、下端部から上方の延びる縦長長方形状の延出部42aを有する。右側壁部42は、左側壁部41に対向して配置される。軸部44は、本体部40の前側の底部近傍において左右方向に亘って配置される(
図3参照)。軸部44は、後述するアーム54の他端に連結され、当該アーム54の他端を揺動可能に支持するものである。
【0021】
リンク機構50は、側面視においてモータ20の回転運動を上下運動に変換する4節リンク機構である。リンク機構50は、第1リンク51と、軸部52と、第2リンク53・53と、アーム54とを主に有している。第1リンク51は、一端がモータ20の回転駆動軸20aに連結され、他端が軸部52の一端に回動自在に連結されている。軸部52は、一端が第1リンク51の他端に回動自在に連結され、他端が第2リンク53・53の一端に連結されている。第2リンク53・53は、側面視略T字状の板部材を対向して形成したものであり、一端が軸部52の他端に回動自在に連結され、他端がアーム54の一端に回動自在に軸支されている。第2リンク53・53は、下側に突出して形成され、後述する押圧部60が有する付勢部の一例であるバネ63が収納されているバネ収容部53aを有する。アーム54は、一端が第2リンク53・53の他端に回動自在に軸支され、他端が本体部40の軸部44に回動自在に連結されている。詳細は後述するが、リンク機構50は、モータ20の右側から見て時計回りの駆動力が入力して、4節リンク機構が作動することで、第2リンク53・53の上側に取り付けられた押圧部60(凸部62)の上端を歳差運動させることができる。
なお、リンク機構50及び押圧部60は、乳児の吸啜動作時における舌の蠕動様運動を模して作動する蠕動様運動機構の一例である。
また、本実施形態では、蠕動様運動機構の一例としてリンク機構50及び押圧部60を用いる構成であるが、例えば、リンク機構50及び押圧部60からなる蠕動様運動機構の替わりに、エアモータやエアアクチュエータ等により空気圧を舌部71の外部や内部に供給して舌部71を蠕動様運動を模して作動させることができる蠕動様運動機構を構成することも可能である。
【0022】
押圧部60は、第2リンク53・53に取り付けられ、基部61と、凸部62と、付勢部であるバネ63と、を備える。基部61は、平板状の保持部61aと、保持部61aの下側面(裏面)から下方に延びる柱状の立設部61bと、を有する。凸部62は、保持部61aの上側に保持される。凸部62は、側面視略L字状の樹脂製の部分であり、先端が半円弧状に形成されている。バネ63は、付勢部材の一例であり、第2リンク53・53の間に配置されるとともに、基部61を介して凸部62を第2リンク53・53の長手方向に対する垂直方向外側に向けて付勢する。詳細は後述するが、押圧部60は、リンク機構50が作動することで、一定の周期で後述する舌部71の下側面に接触するとともに当該舌部71を所定圧力で押圧して、当該舌部71を上側に隆起させるものである。
なお、側面視略L字状の凸部62の替わりに回動可能なローラ型の凸部で構成してもよい。
図16(a)は、基部61の上側に一対の支持部64・64により回動可能なローラ型の凸部62Aを軸支したものである。
図16(b)は、基部61の上側に一つの支持部64により回動可能なローラ型の凸部62Aを軸支したものである。このようなローラ型の凸部62Aを適用することで、凸部62Aが舌部71(舌露出部71a)に接触し、移動した際に凸部62Aが回動するため摩擦抵抗が軽減され、舌部71の摩耗や損壊を抑えることができ、舌部71の寿命を延ばすことができる。さらに、このように凸部62Aの摩擦抵抗が軽減されるため、凸部62Aにより下方から上方に押圧する力を正確に舌部71(舌露出部71a)に伝えることが可能になる。これにより、さらに正確に乳児の口腔内の舌運動(蠕動様運動)を再現することができる。
【0023】
舌ユニット部70は、舌部71と、舌部保持部72と、治具保持部73と、挿通部74・74と、係止部75・75と、シート部材(図示せず)と、を備える。舌部71は、直方体形状で扁平な可撓性を有する弾性部材であり、例えばシリコンゴムから形成される。舌部保持部72は、後側と上下の一部が開口された舌部71を収容する略直方体の空間である。舌部保持部72は、舌部71の左右方向の両端部を係合することで、舌部71を水平状態に保持する。なお、本実施形態の舌部保持部72には、舌部71の表面(下側面)に薄い樹脂製(例えばポリプロピレン製)のシート部材を当接した状態で、舌部71が係合される。これにより、押圧部60(凸部62)が舌部71の表面に直接接触せず、かつ、摩擦抵抗が軽減されるため、舌部71の摩耗や損壊を抑えることができ、舌部71の寿命を延ばすことができる。舌部保持部72は、上下に平面視略U字形状の切欠部72a・72aを有し、当該切欠部72a・72aにより舌部71の上下面の一部が舌状に露出される。舌部71において、舌状に露出される部分は乳児の舌を模した舌露出部71aである。治具保持部73は、舌部保持部72の前方に設けられる平面視略円弧形状で上方に突出した部分である。治具保持部73は、左右方向の中途部に後述する乳首取付部材90の円筒治具91を保持する凹部73aを有する。挿通部74・74には、本体部40の延出部41a、42aが挿通されることで、舌ユニット部70が本体部40に対して位置決めされる。係止部75・75は、延出部41a、42aを挿通部74・74に挿通した際に本体部40の一端に係止され、舌ユニット部70が本体部40の上下方向に対して位置決めされる。
【0024】
乳首取付部材90は、哺乳瓶等に装着される人工乳首Nを舌ユニット部70に配置するための部材である。乳首取付部材90は、略円筒状の円筒治具91と、ゴム等の弾性部材から形成される筒状部材92から構成される。円筒治具91は、樹脂製であり、前側に円筒治具91よりも小径の排出菅91aを有する。排出菅91aは、筒状部材92と連通している。排出菅91aには、吸引機(図示せず)がチューブTを介して接続されている。筒状部材92は、指サック状であり、前端に円筒治具91の排出菅91aを露出させるための露出孔を有し、後端は人工乳首Nを収容可能に開口されている。筒状部材92としては、例えば先端に排出菅91aを挿通する孔を設けた指サックを適用することが可能である。
図4に示すように、筒状部材92の内部において前側に円筒治具91を収容し、後側に人工乳首Nを収容した状態で前後方向に適度に引っ張るようにして、当該円筒治具91が舌ユニット部70の凹部73aに係合された状態で、上方から口蓋部80が本体部40に取り付けられる。これにより、人工乳首Nの先端側の上部が、舌露出部71aと口蓋部80の口蓋形状部81によって挟持される。なお、
図4では、人工乳首Nの後ろ側に装着される哺乳瓶の図示を省略している。詳細は後述するが、押圧部60(凸部62)により舌部71を上側に隆起させ、この隆起により舌尖側から舌根側に移動するように舌運動を始める動作(蠕動様運動)を舌露出部71aに再現させることができる。これにより、人工乳首Nから液体が外部に排出される。排出された液体は、筒状部材92内における人工乳首Nと円筒治具91との間の空間に一時的に貯留され、上記吸引機を駆動することで、この貯留された液体が円筒治具91の排出菅91aを介して装置本体10の外部に排出される。
【0025】
図2及び
図5に示すように、口蓋部80は、外形が直方体形状であり、舌ユニット部70の上部に配置されるものである。口蓋部80は、口蓋形状部81と、下側(裏側)に係止部82・82と、を備える。口蓋形状部81は、乳児の口蓋(口腔の上壁にあたる部分)の形状を模して形成された面である。口蓋形状部81は、口蓋部80の下側において上側に凹んだ湾曲状に形成される。口蓋形状部81は、本体部40(延出部41a・42a)の上端部に取り付けることで、舌露出部71aの上面に載置された乳首取付部材90内の人工乳首Nに対して上側から所定の圧力で押圧することができる。係止部82・82は、口蓋部80の下側において左右方向の両端部に穿設され、延出部41a・42aが挿通されて、延出部41a・42aの各上端部に係止されて口蓋部80が位置決めされる。
【0026】
次に、口腔内再現装置1において、液体入りの哺乳瓶に人工乳首Nを装着し、乳児の吸啜動作時における舌運動を模擬的に再生する動作について説明する。
【0027】
まず、口腔内再現装置1では、口蓋部80が取り外された装置本体10において舌ユニット部70の舌露出部71aの上面に乳首取付部材90内に収容された人工乳首Nが載置される(
図4参照)。それから、本体部40の上部に口蓋部80が取り付けられることで(
図2参照)、人工乳首Nが舌露出部71aと口蓋部80の口蓋形状部81との間で挟持される。
【0028】
次に、モータ20の電源をオンすることで、モータ20の回転駆動軸20aが所定の回転数で回転し、リンク機構50の第1リンク51に回転駆動力が入力される。これにより、リンク機構50が作動する。具体的には、リンク機構50は、
図6から
図11の各位置を取りながら連続的に作動した際に、第2リンク53に取り付けられた押圧部60の凸部62の上端(力点にあたる部分)が
図11に示す点線楕円状の軌跡を描くように構成されている。さらに、押圧部60にはバネ63が設けられているため、凸部62が舌露出部71aの裏側(下側)に接触し始めると、舌露出部71aからの圧力(反発力)により凸部62は下方に沈みつつ舌露出部71aの下側面を横方向に撫でるように進行し、これより舌露出部71aの上側面で隆起が前から後に動くように進行する。こうして、押圧部60の凸部62がリンク機構50により舌露出部71aの下側から押圧することで、舌露出部71aの上側が隆起するとともに、押圧部60の凸部62が舌露出部71aを押圧しながら前方に移動することで、舌露出部71aの表面(上面)が後側から前側に徐々に隆起しながら人工乳首Nを押圧する。これにより、リンク機構50は、押圧部60の凸部62により舌部71(舌露出部71a)を下側から押圧することで、当該舌部71(舌露出部71a)を乳児の吸啜動作時における舌運動(蠕動様運動)を模して動作させるように作動する蠕動様運動機構である。
【0029】
図6から
図10で示すリンク機構50の動作は、4節リンク機構により乳児の舌の隆起が舌尖側から舌根側に移動するように舌運動を始める動作(蠕動様運動)を蠕動様運動の口腔モデルとして再現したものである。
【0030】
[乳児舌運動(蠕動様運動)の口腔モデル]
特許文献1(特開2019-83865号公報)では、乳児舌運動モニタリング装置1を開示している。当該特許文献1に記載しているように、センサ100(
図12参照)を用いて乳児の舌運動を以下のように検知することができる。
【0031】
センサ100は、ベース2の表面の所定の範囲内に配置される。センサ100は、乳児の口腔内にベース2が配置された状態において、乳児の舌の根尖方向(乳児の口腔内への挿入方向)に、ベース2の軸心に沿って複数個並べて(多段上に)配置される。
センサ100は、第一センサ101(図中ではch.1)と第二センサ102(図中ではch.2)とで構成される。第一センサ101と第二センサ102とは、蠕動様運動時の力を検知できるように所定の間隔を開けて、乳児の舌の根尖方向に並べて配置される。第一センサ101と第二センサ102とは、互いの中心距離が約7mm~10mm程度となるように配置される。
第一センサ101は、第二センサ102よりも乳児の舌根側(ベース2の先端側)に配置されて、第二センサ102よりも舌根側の乳児の舌運動の力を検知する。第二センサ102は、第一センサ101よりも舌尖側(ベース2の基端側)の乳児の舌運動の力を検知する。
【0032】
次に、乳児舌運動モニタリング装置1において、乳児の吸啜動作時における舌運動をモニタリングする動作について説明する。
【0033】
まず、乳児舌運動モニタリング装置1では、乳児の舌の上面(舌の上顎側の面)にセンサ100が当接するように乳児の口腔内にベース2(センサ100)を挿入する。このとき、第一センサ101と第二センサ102との並び方向と、舌の根尖方向と、を概ね一致するようにする。
このように、ベース2を配置すると、吸啜反射が誘発され乳児は吸啜動作を開始する。このような状態で、第一センサ101及び第二センサ102は、乳児の吸啜動作時における舌運動を行ったときの舌から受ける力[N]を検知する。
このとき、少なくとも1.5秒~2秒間、センサ100(第一センサ101及び第二センサ102)を乳児の舌の表面に当接させた状態とする。もっとも、乳児の吸啜動作時における舌運動をより正確にモニタリングするためには、より長い時間(例えば、5秒~10秒程度)センサ100を乳児の舌の表面に当接させた状態とすることが好ましい。
【0034】
特許文献1の乳児舌運動モニタリング装置1(センサ100)により、本願発明者は、複数の乳児から吸啜動作時における舌運動(蠕動様運動)をモニタリングした。このモニタリングにおいては、
図13に示すような乳児の舌運動の実測データが計測された。
図13(a)に示すように、第一センサ101(図中ではch.1)と第二センサ102(図中ではch.2)では力の割合の差と時間差が大きい。この場合、同一時間における第一センサ101(図中ではch.1)と第二センサ102(図中ではch.2)の力[N]をプロットすると(
図13(b)参照)、乳児の舌は大きな楕円を描くように舌運動(蠕動様運動)をしていることが確認でき、乳児は効率的に授乳することができるといえる。これに対して、
図14(a)に示すように、第一センサ101(図中ではch.1)と第二センサ102(図中ではch.2)では力の割合の差と時間差が小さい。この場合、同一時間における第一センサ101(図中ではch.1)と第二センサ102(図中ではch.2)の力[N]をプロットすると(
図14(b)参照)、第二センサ102(舌尖側)の力が弱いため、乳児の舌は楕円ではなく線形を描くように舌運動をしていることが確認でき、乳児は上手く授乳することができないといえる。そこで、複数のモニタリングの実測データにおいて力の割合の差と時間差が大きい、理想的な蠕動様運動を行っていた乳児のグループを抽出し、これらのグループの力[N]と時間[s]を平均化して理想的な力の割合の差と時間差を有する再現波形と、理想的な乳児舌運動(蠕動様運動)の口腔モデルを導き出した(
図15(a)(b)参照)。
【0035】
本実施形態の口腔内再現装置1においては、乳児舌運動(蠕動様運動)の口腔モデルに基づいて構成されたものである。口腔内再現装置1によれば、上述した理想的な力の割合の差と時間差を有する再現波形と、理想的な乳児舌運動(蠕動様運動)の口腔モデル(
図15(a)(b)参照)に沿った乳児舌運動(蠕動様運動)を再現することが可能である。また、口腔内再現装置1では、部材の寸法や形状を適宜変更することで、上述したように、上手く授乳することができない乳児の場合の力の割合の差と時間差を有する再現波形や乳児舌運動(蠕動様運動)を再現することも可能であるため、乳児の特徴に合わせた人工乳首Nの開発や評価に使用する人工乳首評価装置としても利用することもできる。また、上述したように哺乳瓶中の液体を人工乳首Nを介して採取することが可能であるため、人工乳首Nの替わりに搾乳対象者の乳首が舌部71と口蓋部80との間に挟持されて搾乳対象者の母乳が採取される搾乳装置としての利用も可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 乳児の吸啜動作時における口腔内再現装置
10 装置本体
20 モータ(駆動部)
50 リンク機構
60 押圧部
71 舌部
80 口蓋部
N 人工乳首