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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 5/40 20060101AFI20250107BHJP
   B24B 47/10 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B24B5/40 Z
B24B47/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021067250
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162416
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆史
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-221962(JP,A)
【文献】特開昭63-068358(JP,A)
【文献】特開2016-052704(JP,A)
【文献】特開平07-227747(JP,A)
【文献】実開平04-000975(JP,U)
【文献】実開昭62-113952(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/40
B24B 47/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性または弱磁性の対象物の表面を研磨加工する表面処理装置であって、
磁極が固定された従動側磁性部を備え、前記対象物に対する相対移動によって前記表面を研磨可能な研磨処理部と、
磁極が固定された駆動側磁性部を備え、磁力によって前記従動側磁性部を吸引可能な可動部と、
前記可動部を回転させることによって、前記研磨処理部を通る回転軸線回りに前記研磨処理部を回転させる駆動部と、
前記駆動部を介して前記可動部の回転速度、及び前記可動部の回転時間の少なくとも一方を制御して前記対象物に接する前記研磨処理部の研磨性を制御可能である制御部と、
前記可動部を移動可能に保持する位置調整部と、
前記位置調整部を介して前記研磨処理部から前記可動部までの離間距離を制御して前記対象物に接する前記研磨処理部の研磨性を制御可能である吸引力制御部と、を備えている表面処理装置。
【請求項2】
非磁性または弱磁性の対象物の表面を研磨加工する表面処理装置であって、
磁極が固定された従動側磁性部を備え、前記対象物に対する相対移動によって前記表面を研磨可能な研磨処理部と、
磁極が固定された駆動側磁性部を備え、磁力によって前記従動側磁性部を吸引可能な可動部と、
前記可動部を回転させることによって、前記研磨処理部を通る回転軸線回りに前記研磨処理部を回転させる駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記可動部に接続された駆動軸部を備え、
前記駆動軸部は、前記研磨処理部の前記回転軸線上に配置され、且つ前記回転軸線に沿って延在している、表面処理装置。
【請求項3】
非磁性または弱磁性の対象物の表面を研磨加工する表面処理装置であって、
磁極が固定された従動側磁性部を備え、前記対象物に対する相対移動によって前記表面を研磨可能な研磨処理部と、
磁極が固定された駆動側磁性部を備え、磁力によって前記従動側磁性部を吸引可能な可動部と、
前記可動部を回転させることによって、前記研磨処理部を通る回転軸線回りに前記研磨処理部を回転させる駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記可動部に接続された駆動軸部を備え、
前記駆動軸部の回転軸線と前記研磨処理部の前記回転軸線とは並行に延在し、
前記可動部は、前記研磨処理部に対して、前記研磨処理部の前記回転軸線に直交する横方向に並んで配置されている、表面処理装置。
【請求項4】
非磁性または弱磁性の対象物の表面を研磨加工する表面処理装置であって、
磁極が固定された従動側磁性部を備え、前記対象物に対する相対移動によって前記表面を研磨可能な研磨処理部と、
磁極が固定された駆動側磁性部を備え、磁力によって前記従動側磁性部を吸引可能な可動部と、
前記可動部を回転させることによって、前記研磨処理部を通る回転軸線回りに前記研磨処理部を回転させる駆動部と、を備え、
前記従動側磁性部は、磁極が固定され、前記駆動側磁性部に吸引される一方の端部と、前記一方の端部の反対側である他方の端部とを備え、
前記研磨処理部は、前記一方の端部に固定された研磨部と、前記他方の端部に固定されると共に、磁性を有するホルダー部と、を備えている表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層造形品等の対象物の表面に研磨処理を施す表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁力を利用した表面処理方法及び装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の表面処理装置は、磁性砥粒を含むスラリーをパイプ内に導入し、パイプの外部に配置した磁石を周回させてスラリーを移動させることで、パイプの内側の表面を研磨する。また、特許文献2に記載の方法は、パイプ内に強磁性体を挿入し、外部に配置した磁石をパイプの長手方向に移動させることでパイプの内側の表面を研磨する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-227755号公報
【文献】特開平8-99224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置では、局所的な研磨は困難であり、特に湾曲した凹凸が複雑に入り組みながら内側に空間を形成するような対象物の場合には、内側の表面を研磨するのは困難であった。
【0005】
本開示は、対象物の表面を局所的に研磨することができる表面処理装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、非磁性または弱磁性の対象物の表面を研磨加工する表面処理装置であって、磁極が固定された従動側磁性部を備え、対象物に対する相対移動によって対象物の表面を研磨可能な研磨処理部と、磁極が固定された駆動側磁性部を備え、磁力によって従動側磁性部を吸引可能な可動部と、可動部を回転させることによって、研磨処理部を通る回転軸線回りに研磨処理部を回転させる駆動部と、を備えている。なお、本開示において、弱磁性とは常磁性及び反磁性を意味している。
【0007】
例えば、内部に空間を形成する対象物の内側の表面に接するように研磨処理部を配置し、対象物を挟んで反対側となる外側の表面の近傍に可動部を配置する。対象物は、非磁性または弱磁性であり、可動部は、磁力によって研磨処理部を吸引可能である。研磨処理部は、可動部に吸引されることで対象物の内側の表面に密着する。この状態で、駆動部は可動部を回転させる。可動部の駆動側磁性部及び研磨処理部の従動側磁性部は、それぞれ磁極が固定されている。可動部が回転すると、駆動側磁性部及び従動側磁性部には磁力による反発及び吸引の両方が作用し、その結果、研磨処理部は、可動部の回転に追従するように回転する。その際、研磨処理部の回転軸線は、研磨処理部を通る位置であり、研磨処理部は、対象物の表面の特定の場所に留まった状態で回転し、その特定の場所の表面を研磨する。その結果、対象物の表面を局所的に研磨することができる。
【0008】
いくつかの態様において、可動部の回転速度、及び可動部の回転時間の少なくとも一方を制御して対象物に接する研磨処理部の研磨性を制御可能である制御部を備えていてもよい。研磨性とは、研磨強度や研磨時間を意味している。可動部の回転速度または回転時間を制御することで研磨強度や研磨時間を制御することができる。その結果、対象物の表面の状況に応じた研磨が可能になる。
【0009】
いくつかの態様において、可動部を移動可能に保持する位置調整部と、位置調整部を介して研磨処理部から可動部までの離間距離を制御して対象物に接する研磨処理部の研磨性を制御可能である吸引力制御部と、を更に備えていてもよい。吸引力制御部によって研磨処理部から可動部までの離間距離を制御することができる。その結果、研磨処理部が対象物に密着する力が制御されることになり、研磨強度の制御が可能になる。
【0010】
いくつかの態様において、駆動部は、可動部に接続された駆動軸部を備え、駆動軸部は、研磨処理部の回転軸線上に配置され、且つ回転軸線に沿って延在していてもよい。研磨処理部の回転軸線は実質的に対象物の表面に交差するように延在する。その結果、研磨処理部は、特定の位置において、例えば、独楽のような回転をすることになり、平面的な表面の研磨に有利である。
【0011】
いくつかの態様において、駆動部は、可動部に接続された駆動軸部を備え、駆動軸部の回転軸線と研磨処理部の回転軸線とは並行に延在し、可動部は、研磨処理部に対して、研磨処理部の回転軸線に直交する横方向に並んで配置されていてもよい。対象物の内側の表面に接するように研磨処理部を設置し、外側の表面近傍に可動部を配置する。この状態で可動部を回転させると、研磨処理部は、内側の表面上を転がるように回転して研磨することになり、曲面の研磨に有利である。
【0012】
いくつかの態様において、従動側磁性部は、磁極が固定され、駆動磁性部に吸引される一方の端部と、一方の端部の反対側である他方の端部とを備え、研磨処理部は、一方の端部に固定された研磨部と、他方の端部に固定されると共に、磁性を有するホルダー部と、を備えていてもよい。ホルダー部がヨークとして機能し、従動側磁性部の磁力を高めるのに有利になる。
【発明の効果】
【0013】
本開示のいくつかの態様によれば、対象物の表面を局所的に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の一例に係る第1の表面処理装置を示す正面図である。
図2図2は、第1の表面処理装置の一例を示し、(a)の図は側面図であり、(b)の図は(a)の図に対応する概略図である。
図3図3は、磁性工具を示し、(a)の図は斜視図であり、(b)の図は(a)の図のb-b線に沿った断面図である。
図4図4は、本開示の一例に係る第2の表面処理装置を示す側面図である。
図5図5は、本開示の一例に係る第3の表面処理装置を示す模式的な断面図であり、(a)の図は回転軸線に直交する断面図であり、(b)の図は回転軸線に平行な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
最初に、本開示に係る表面処理装置の技術的意義について簡単に説明する。まず、機械的な研磨量を左右する要素については、プレストンの式により、圧力・相対運動・加工時間と加工条件由来の係数に比例することが知られている。つまり、研磨を行う対象面に対して圧力と相対運動を発生させる必要がある。ここで、例えば、研磨の対象面が対象物の空間内部に形成される内側の表面(以下、「内表面」と称する)の場合、一般には、対象物の内部における圧力制御と適切な相対運動の付与は困難であり、適切な研磨によって仕上げ面を形成することが難しい。これに対し、本開示の表面処理装置によれば、小さな磁性工具を部品内部へ配置し、磁気の物質透過現象を利用して、外部から間接的に圧力制御と相対運動を付与することにより、適切な研磨を可能にしている。
【0017】
図1及び図2は、本開示の一例である第1の表面処理装置1Aを示している。表面処理装置1Aは、非磁性あるいは弱磁性の対象物Wの表面を研磨加工して滑らかにする装置である。非磁性あるいは弱磁性の対象物Wとしては、チタン合金やニッケル合金を用いた部材等とすることができる。また、対象物Wは、湾曲した凹凸が複雑に入り組んだ複雑な形状の物体であってもよく、例えば、積層造形(「3Dプリント」ともいう)によって形成された物体を対象物にすることもできる。なお、積層造形は、一般に、複雑な形状部品の製造に有効であり、内部に空間Spを形成するような形状も容易に実現できる。
【0018】
本開示の表面処理装置1Aによれば、対象物Wの内部の空間Spに面する内表面Waを研磨処理することができる。内表面Waを有する対象物Wの形態としては、直線状のパイプなどの単純な形態の他、湾曲や屈曲等しているパイプ、途中で枝分かれ等しているパイプ、球体や多面体、所望の立体的形状を有するフレームや箱状の形態などがある。本開示では、パイプ状の対象物Wを例に説明する。
【0019】
表面処理装置1Aは、磁気駆動装置2と磁性工具3(研磨処理部の一例)とを備えている。磁気駆動装置2と磁性工具3とは物理的に分離しているが、磁力によって互いに吸引可能となる構造を備えている。磁気駆動装置2と磁性工具3との協働によって対象物Wの内表面Waの研磨処理が可能になる。
【0020】
磁気駆動装置2は、電動モータ21(駆動部の一例)と、電動モータ21の駆動を制御するモータ制御部22(制御部の一例)と、電動モータ21の駆動によって回転する磁気ユニット23(可動部の一例)とを備えている。電動モータ21は、回転するロータと、ロータの周囲に配置されたステータと、ロータに接続された駆動軸部24とを備えている。モータ制御部22は、電動モータ21に入力する電気の周波数や電圧を制御して電動モータ21の回転数や回転時間を制御するインバータ装置を備えている。インバータ装置は、例えば、使用者の操作によって入力された指定値になるように電動モータ21の駆動を制御する。また、モータ制御部22は、CPUやメモリ等を備え、メモリに格納された所定のプログラムに従って駆動し、電動モータ21の駆動を制御する構成であってもよい。
【0021】
磁気ユニット23は、電動モータ21の駆動軸部24に接続されたベース部25と、ベース部25に取り付けられた駆動側磁性部26とを備えている。ベース部25は、駆動軸部24の端部に固定された円盤状の部材である。ベース部25は、駆動軸部24に固定された一方の端部25aと、一方の端部25aに対して反対側である他方の端部25bとを備えている。他方の端部25bには駆動側磁性部26が固定されている。駆動側磁性部26は、物理的に磁極が固定されており、例えば、駆動軸部24の回転軸線L回りに沿って異なる磁極が交互に並ぶように配置されている。
【0022】
本開示の一例に係る駆動側磁性部26は二つ(複数)の永久磁石27を備えている。永久磁石27は、ネオジム磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石等、各種の磁石を使用することができる。
【0023】
二つの永久磁石27は回転軸線L回りに並んで配置されている。永久磁石27は、円柱状(円盤状)であり、両方の端部27a,27bを有する。永久磁石27の一方の端部27aは、ベース部25に固定されており、他方の端部27b(以下、「吸引端部27b」と称する)は対象物Wに対向するように露出している。永久磁石27の両方の端部27a,27bは、それぞれ異なる磁極を形成している。また、二つの永久磁石27の吸引端部27bは、それぞれ異なる磁極を形成するように固定されており、一方の吸引端部27bはN極であり、他方の吸引端部27bはS極である(図2の(b)図参照)。二つの永久磁石27は、磁力により、磁性工具3を吸引可能である。
【0024】
本開示の一例では、二つの永久磁石27を配置する例を説明しているが、四個以上の偶数個の永久磁石27を配置させ、隣接する永久磁石27の吸引端部27bそれぞれが異なる磁極となるような配置とすることも可能である。また、リング磁石であって周方向で異なる磁極が交互に並んで形成されているような磁石や、環状に配置されたセグメント磁石であり、周方向で異なる磁極が交互に並んで配置されているような磁石であってもよい。
【0025】
ベース部25には、磁性を有する材料、つまり透磁率が高い材料が使用される。ベース部25は、例えば、永久磁石27との間で磁気回路を形成するヨークとして機能する。ベース部25を吸引端部27bの反対側に配置することにより、磁束の大気中への漏れを防ぎ、磁束を吸引端部27b側に向けて集中させることができる。
【0026】
磁性工具3は、対象物Wの内表面Waに接するように配置される。図3に示されるように、磁性工具3は、ホルダー部31と、ホルダー部31上に固定された従動側磁性部32と、ホルダー部31との間で従動側磁性部32を挟むように配置され、従動側磁性部32に固定された研磨布33と、を備えている。研磨布33は研磨部の一例である。研磨部は研磨布33に限定されず、対象物W(対象物の一例)の内表面Wa(表面の一例)に対して相対移動することで、内表面Waを研磨して滑らかな仕上げ面を形成できる部材を広く使用できる。
【0027】
ホルダー部31は、例えば円盤状の部材であり、一方の表面に従動側磁性部32が固定されている。従動側磁性部32を基準にして把握すると、ホルダー部31は、従動側磁性部32に対して研磨布33とは反対側となるように配置されている。ホルダー部31には、磁性を有する材料、つまり透磁率が高い材料が使用される。ホルダー部31は、例えば、従動側磁性部32との間で磁気回路を形成するヨークとして機能する。ホルダー部31を研磨布33の反対側に配置することにより、磁束の大気中への漏れを防ぎ、磁束を研磨布33側に向けて集中させることができる。
【0028】
本開示の一例に係る従動側磁性部32は二つ(複数)の永久磁石34を備えている。二つの永久磁石34はホルダー部31の中心を通る回転軸線L回りに並んで配置されている。永久磁石27は、ネオジム磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石等、各種の磁石を使用することができる。
【0029】
永久磁石34は、円柱状(円盤状)であり、両方の端部34a,34bを有する。永久磁石34の一方の端部34aは、ホルダー部31に固定されており、他方の端部34b(以下、「被吸引端部34b」と称する)は研磨布33に固定されている。永久磁石34の両方の端部34a,34bは、それぞれ異なる磁極を形成している。また、二つの永久磁石34の被吸引端部34bは、それそれ異なる磁極を形成するように固定されており、一方の被吸引端部34bはN極であり、他方の被吸引端部34bはS極である。
【0030】
本開示の一例では、二つの永久磁石34を配置する例を説明しているが、四個以上の偶数個の永久磁石34を配置させ、隣接する永久磁石34の被吸引端部34bそれぞれが異なる磁極となるような配置とすることも可能である。また、リング磁石であって周方向で異なる磁極が交互に並んで形成されているような磁石や、環状に配置されたセグメント磁石であり、周方向で異なる磁極が交互に並んで配置されているような磁石であってもよい。
【0031】
研磨布33は、研磨対象の表面粗さに応じて粒度を選択し、研磨の程度を調整することができる。例えば、本開示の対象物Wのような表面が粗い対象物の場合には、粒度の粗い研磨材を使用した研磨布33を利用し、鋳物のような比較的平滑な対象物の場合には、粒度の細かい研磨材を使用した研磨布33を利用することができる。また、従動側磁性部32に対して研磨布33を着脱自在な構成にすることにより、研磨布33の調整や、研磨布33が摩耗した場合の交換が容易になる。
【0032】
次に、図2を参照して表面処理装置1Aの作用、効果について説明する。表面処理装置1Aは磁気駆動装置2と磁性工具3とを備えており、磁気の物質透過現象を利用して間接的に磁性工具3を磁気駆動させ、磁性工具3と対象物Wとを相対運動させることによって所望の研磨処理を実現している。
【0033】
具体的に説明すると、磁性工具3は、対象物Wの内表面Waに接するように配置される。一方で、磁気ユニット23は、磁性工具3に対し、対象物Wを挟んで反対側となる外側の表面(以下、「外表面Wb」と称する)の近傍に配置される。この「近傍」とは、磁気ユニット23が外表面Wbに接触している態様のみならず、対象物Wの外表面Wbから離間し、磁力を介して磁性工具3を吸引可能となる位置に磁気ユニット23を配置している態様も含まれる。
【0034】
磁性工具3は、磁気ユニット23に吸引されることで対象物Wの内表面Waに密着する。この密着により、研磨に寄与する加工力を得ることができる。この状態で、電動モータ21は磁気ユニット23を回転させる。磁気ユニット23の駆動側磁性部26及び磁性工具3の従動側磁性部32は、それぞれ磁極が固定されている。磁気ユニット23が回転すると、駆動側磁性部26及び従動側磁性部32には磁力による反発及び吸引の両方が作用し、その結果、磁性工具3は、磁気ユニット23の回転に追従するように回転する。一方で、対象物Wは、所定位置に留まるように固定されており、磁性工具3は、対象物Wに対して相対移動し、対象物Wの内表面Waを研磨する。さらに、磁性工具3の回転軸線Lは、磁性工具3を通る位置であり、実質的に、磁性工具3が密着している内表面Waの法線方向に延在している。つまり、磁性工具3は、内表面Waの特定の場所に留まった状態で回転し、その特定の場所を狭い範囲で研磨する。その結果、対象物Wの内表面Waを局所的に研磨することができる。
【0035】
また、対象物Wの外表面Wbに沿って磁気ユニット23を走査することで磁性工具3の移動させることができる。その結果、対象物Wの内表面Waのうち、研磨対象となる広い領域に亘っても研磨することができる。
【0036】
本開示の表面処理装置1Aによる研磨方法に対し、対象物の内表面を研磨する方法としては、内面研削、ホーニング、電解研磨、流体研磨、砥粒流動加工などの可能性もある。しかしながら、内面研削やホーニング、電解研磨は、局所的な研磨に不利であり、また、単純形状の内表面の研磨に限定される。一方で、流体研磨や砥粒流動加工は形状や内径の制約は少ないが、対象物のような粗い表面に対し、長い波長のうねりを除去し難く不向きである。また、対象物の表面処理の手段として、バレル研磨や電気化学的手法も提案されているが、研磨量の制御が難しく、内表面に対して十分な加工能力を示せておらず、また、長い処理時間や廃液に伴う高い環境負荷という点でも量産適用への課題を抱えている。さらに、これらの方法では、ロボットアーム部と磁性工具を組み合わせるなどの工夫を行い難く、自動化に不向きであるとも考えられている。
【0037】
これらの方法に比べ、本開示の表面処理装置1Aによれば、対象物Wの表面を局所的に研磨でき、また、対象物Wのような粗い表面に対しても研磨して所望の仕上げ面に形成することが可能になる。さらに、後述の第2の表面処理装置1Bのようにロボットアーム部に適用することも可能であり、自動化に有利である。
【0038】
また、本開示の表面処理装置1Aは、電動モータ21の駆動を制御するモータ制御部22を備えている。モータ制御部22は、磁気ユニット23の回転速度及び磁気ユニット23の回転時間の少なくとも一方を制御する。モータ制御部22は、磁気ユニット23の回転速度や回転時間を制御することで、対象物Wに接する磁性工具3の研磨性を制御することができる。本開示において、研磨性とは、研磨強度や研磨時間を意味している。そして、磁気ユニット23の回転速度または回転時間を制御することで研磨強度や研磨時間を制御することができる。その結果、対象物Wの表面(例えば、内表面Wa)の状況に応じた研磨が可能になる。
【0039】
本開示の一例において、電動モータ21の駆動軸部24は、磁性工具3の回転軸線L上に配置され、且つ回転軸線Lに沿って延在している。具体的には、磁性工具3の回転軸線Lは、実質的に対象物Wの内表面Waに交差(直交)するように延在している。その結果、磁性工具3は、内表面Waの特定の位置(狭い範囲)において、例えば、独楽のような回転をすることになり、平面的な表面の研磨に有利である。
【0040】
本開示の一例において、磁性工具3は、ヨークとして機能するホルダー部31を備えている。その結果、従動側磁性部32の磁力を高めるのに有利になる。
【0041】
次に、図4を参照し、本開示の他の例に係る第2の表面処理装置1Bを説明する。表面処理装置1Bは、第1の表面処理装置1Aと同様の要素や構造を備えている。以下の説明では、相違点を中心に説明し、同様の要素や構造には、同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
【0042】
表面処理装置1Bは、磁気ユニット23を備えた磁気駆動装置2と、対象物Wに対する相対移動によって対象物Wの内表面Waを研磨可能な磁性工具3とを備えている。また、表面処理装置1Bは、磁気駆動装置2を把持し、磁気駆動装置2を保持して移動させることが可能なロボットアーム部5と、ロボットアーム部5の移動を制御する制御装置6とを備えている。また、制御装置6は、磁気駆動装置2のモータ制御部22に制御可能に接続されている。ロボットアーム部5は、磁気ユニット23を移動可能に保持する位置調整部の一例であり、制御装置6は、吸引力制御部の一例である。
【0043】
ロボットアーム部5は、複数のリンク部51と、リンク部51同士を傾動可能及び回転可能に接続するジョイント部52とを備えている。ロボットアーム部5の先端は、磁気駆動装置2に設けられた連結部29に固定されている。ジョイント部52には、リンク部51を可動させるためのアクチュエータ、減速機、エンコーダ、伝動機構等が装備されており、制御装置6からの制御信号を受けて駆動する。
【0044】
制御装置6は、ロボットアーム部5やモータ制御部22に有線及び無線の少なくとも一方で接続されており、制御信号を送受信可能に構成されている。制御装置6は、CPUやメモリ等を備え、メモリに格納された所定のプログラムに従って駆動し、ロボットアーム部5のアクチュエータ等を駆動制御する。また、制御装置6は、磁気駆動装置2のモータ制御部22との間で制御信号の送受信を行い、電動モータ21の回転速度や回転時間を制御することも可能である。
【0045】
表面処理装置1Bによれば、第1の表面処理装置1Aと同様の要素や構造を備えており、上述した第1の表面処理装置1Aと同様の作用、効果を奏する。
【0046】
さらに表面処理装置1Bによれば、ロボットアーム部5が磁気駆動装置2を所望の位置まで移動できるので、制御装置6は、磁性工具3から磁気ユニット23までの離間距離Dを制御することができる。つまり、表面処理装置1Bは、磁性工具3から磁気ユニット23までの離間距離D、磁気ユニット23の回転速度、及び回転時間の少なくとも一方を制御して対象物Wに接する磁性工具3の研磨性を制御することができる。
【0047】
表面処理装置1Bでは、制御装置6が磁性工具3から磁気ユニット23までの離間距離Dを制御することで、磁性工具3に対する磁気ユニット23の吸引力を制御することができる。その結果、磁性工具3が対象物Wの内表面Waに密着する力が制御されることになり、研磨強度の制御が可能になる。また、制御装置6は、磁気駆動装置2のモータ制御部22に制御信号を送信することで、モータ制御部22を介して磁気ユニット23の回転速度または回転時間を制御する。磁気ユニット23の回転速度または回転時間を制御することで、磁性工具3による研磨時間の制御が可能になり、その結果として、対象物Wの内表面Waの状況に応じた研磨が可能になる。
【0048】
また、表面処理装置1Bによれば、ロボットアーム部5により、対象物Wの外表面Wbに沿った磁気駆動装置2の走査を自動化でき、磁性工具3を対象物Wの内表面Waに沿って磁性工具3を移動させ、内表面Waの広い範囲に渡っての研磨が可能になる。
【0049】
次に、図5を参照し、本開示の他の例に係る第3の表面処理装置1Cを説明する。表面処理装置1Cは、第1の表面処理装置1Aや第2の表面処理装置1Bと同様の要素や構造を備えている。以下の説明では、相違点を中心に説明し、同様の要素や構造には、同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
【0050】
表面処理装置1Cは、磁気駆動装置7と、磁性工具8とを備えている。磁気駆動装置7は、電動モータ71(駆動部の一例)と、電動モータ71の駆動を制御するモータ制御部72と、電動モータ71の駆動によって回転する磁気ユニット73(可動部)とを備えている。電動モータ71は、回転するロータと、ロータの周囲に配置されたステータと、ロータに接続された駆動軸部74とを備えている。モータ制御部72は、電動モータ71に入力する電気の周波数や電圧を制御して電動モータ71の回転数や回転時間を制御するインバータ装置を備えている。
【0051】
磁気ユニット73は、電動モータ71の駆動軸部74に取り付けられた駆動側磁性部76を備えている。駆動側磁性部76は、物理的に磁極が固定されており、例えば、駆動軸部74の回転軸線La回りに沿って異なる磁極が交互に並ぶように配置されている。
【0052】
本開示の一例に係る駆動側磁性部76は、駆動軸部74の周面に固定された筒状の永久磁石77を備えている。永久磁石77の外周面には、磁極として周方向で分割された複数の領域を備えており、複数の領域は、異なる磁極(N極とS極)が交互に並ぶように配置されている。駆動側磁性部76は、回転軸線Laが対象物Wの外表面Wbの接線方向に延在するように配置されている。その結果、駆動側磁性部76は、対象物Wの外表面Wb上を転がるように回転する。なお、駆動側磁性部76は、周方向で異なる磁極が交互に並んで形成されているような各種磁石を利用することができ、セグメント磁石などであってもよい。
【0053】
磁性工具8は、対象物Wの内表面Waに接するように配置される。磁性工具8は、円柱状の芯材部となる軸部81と、軸部81の周囲に固定された従動側磁性部82と、軸部81の周囲に固定された研磨布83とを備えている。軸部81には、例えば、磁性を有する材料、つまり透磁率が高い材料を使用することができる。
【0054】
本開示の一例に係る従動側磁性部82は筒状の永久磁石87を備えている。永久磁石87は軸部81の中心を通る回転軸線Lb回りに配置されている。永久磁石87の外周面には、磁極として周方向で分割された複数の領域を備えており、複数の領域は、異なる磁極(N極とS極)が交互に並ぶように配置されている。従動側磁性部82は、回転軸線Lbが対象物Wの内表面Waの接線方向に延在するように配置されている。その結果、従動側磁性部82は、対象物Wの内表面Wa上を転がるように回転する。なお、従動側磁性部82は、周方向で異なる磁極が交互に並んで形成されているような各種磁石を利用することができ、セグメント磁石などであってもよい。
【0055】
表面処理装置1Cによれば、第1の表面処理装置1Aまたは第2の表面処理装置1Bと同様の要素や構造を備えており、上述した第1の表面処理装置1Aまたは第2の表面処理装置1Bと同様の作用、効果を奏する。
【0056】
さらに表面処理装置1Cの電動モータ71は、磁気ユニット73に接続された駆動軸部74を備え、駆動軸部74の回転軸線Laと磁性工具8の回転軸線Lbとは並行に延在している。そして、磁気ユニット73は、磁性工具8に対し、回転軸線Lbに直交する横方向に並んで配置されている。表面処理装置1Cにおいて、磁性工具8は、対象物Wの内表面Waに接するように設置され、磁気ユニット73は、対象物Wの外表面Wb近傍に配置される。この状態で磁気ユニット73が回転されると、磁性工具8は、内表面Wa上を転がるように回転して研磨することになり、曲面の研磨に有利である。
【0057】
本開示は、上記の実施形態のみに限定されない。例えば、上記の実施形態では、対象物を例に対象物を説明したが、対象物は対象物に限定されず、表面の研磨が必要な非磁性または弱磁性の製品等を含む。また、研磨部分は、内表面に限定されず、例えば、壁状の対象物に対し、その一方の面側に研磨処理部を配置し、他方の面側に可動部を配置して研磨するような形態であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1A 第1の表面処理装置
1B 第2の表面処理装置
1C 第3の表面処理装置
3 磁性工具(研磨処理部)
5 ロボットアーム部(位置調整部)
6 制御装置(吸引力制御部)
8 磁性工具
31 ホルダー部
32 従動側磁性部
33 研磨布(研磨部)
34a 端部(従動側磁性部の他方の端部)
34b 被吸引端部(従動側磁性部の一方の端部)
21 電動モータ(駆動部)
22 モータ制御部(制御部)
23 磁気ユニット(可動部)
24 駆動軸部
26 駆動側磁性部
74 駆動軸部
76 駆動側磁性部
82 従動側磁性部
L 回転軸線
La 駆動軸部の回転軸線
Lb 磁性工具の回転軸線
W 対象物
図1
図2
図3
図4
図5