(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】記録ヘッド及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20250107BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/165 303
B41J2/165 401
(21)【出願番号】P 2021068752
(22)【出願日】2021-04-15
【審査請求日】2024-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】乾 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】宮越 直人
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-096367(JP,A)
【文献】特開2001-105616(JP,A)
【文献】特開平04-037556(JP,A)
【文献】特開2017-109330(JP,A)
【文献】特開2020-131612(JP,A)
【文献】特開平03-236965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上にインクを吐出するインク吐出面を有するインク吐出部と、
前記インク吐出部の側面に配置され、前記インク吐出部の側面との間にインクを保持するインク保持部と、
を備え、
前記インク保持部は、
上端側が前記インク吐出部に固定され、下端側が前記インク吐出部の側面に対して接離方向に移動可能であるシート部と、
前記シート部の下端部の前記インク吐出部側に位置し、前記インク吐出部の側面に接触若しくは近接して配置され、前記インク吐出部との隣接領域において前記インクを保持する保持部と、
を備えることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記保持部における前記インク吐出部との対向面は、前記インク吐出部の側面と比較して撥水性が高いことを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記保持部の下端側における前記インク吐出部との対向面の反対側の面は、前記インク吐出部の側面と比較して撥水性が高いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記保持部は、前記シート部の弾性力によって前記インク吐出部の側面に接触する方向に付勢されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記保持部の厚みは、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項6】
前記保持部は、前記インク吐出面に対して所定の間隔をあけて上側に位置することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項7】
前記シート部は、水平方向の両端縁の内側近傍に位置し、少なくとも前記保持部の上端よりも上側に開口する開口部を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の記録ヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、用紙等の記録媒体上にインクを吐出して画像を記録する記録ヘッドを備える。インクジェット記録装置では、記録ヘッドのインクの吐出不良を防止するために、記録ヘッドのインク吐出面をクリーニングする技術が提案されている。
【0003】
一方、記録ヘッドでは、インク吐出面のクリーニングに起因して、インクが記録ヘッドの側面にせり上がることがあった。記録ヘッドの側面にせり上がったインクは、乾燥、固化し、さらに量が増加すると、記録ヘッドの下方を通過する用紙上に落下する虞があった。このような不具合の解消を図った記録ヘッドの一例が、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1で開示された従来のインクジェット記録装置の記録ヘッドは、水に対する接触角が90°以上の第1撥水膜がインク吐出面に形成され、第1撥水膜よりも水に対する接触角が10°以上高い第2撥水膜が側面に形成される。これにより、記録ヘッドの側面へのインクの付着を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、例えば記録ヘッドの側面の撥水性が損なわれた場合に、側面へのインク付着の抑制が不十分になる虞があることに課題があった。これにより、記録ヘッドの下方を通過する用紙上に落下することが懸念された。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、インク吐出面のクリーニングに起因して側面にせり上がったインクの記録媒体上への落下を抑制することが可能な記録ヘッド及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の記録ヘッドは、インク吐出部と、インク保持部と、を備える。前記インク吐出部は、記録媒体上にインクを吐出するインク吐出面を有する。前記インク保持部は、前記インク吐出部の側面に配置され、前記インク吐出部の側面との間にインクを保持する。前記インク保持部は、シート部と、保持部と、を備える。前記シート部は、上端側が前記インク吐出部に固定され、下端側が前記インク吐出部の側面に対して接離方向に移動可能である。前記保持部は、前記シート部の下端部の前記インク吐出部側に位置し、前記インク吐出部の側面に接触若しくは近接して配置され、前記インク吐出部との隣接領域において前記インクを保持する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の構成によれば、インク吐出部の側面の、インク吐出部と保持部との隣接領域において、インクを保持することができる。したがって、インク吐出面のクリーニングに起因して記録ヘッドの側面にせり上がったインクの記録媒体上への落下を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態のインクジェット記録装置の概略断面正面図である。
【
図2】
図1のインクジェット記録装置の記録部の上面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の記録部の記録ヘッドの概略正面図である。
【
図6】
図4の記録ヘッドにおいて、ワイピング動作を開始した状態を示す概略側面図である。
【
図7】
図4の記録ヘッドにおいて、ワイピング動作が終了に近づいた状態を示す概略側面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態のインクジェット記録装置の記録部の記録ヘッドの概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づき説明する。なお、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
【0012】
図1は、実施形態のインクジェット記録装置1の概略断面正面図である。
図2は、
図1のインクジェット記録装置1の記録部5の上面図である。インクジェット記録装置1は、例えばインクジェット記録式のプリンターである。インクジェット記録装置1は、
図1及び
図2に示すように、装置本体2と、用紙供給部3と、用紙搬送部4と、記録部5と、乾燥部6と、制御部7と、を備える。
【0013】
用紙供給部3は、複数枚の用紙(記録媒体)Sを収容し、記録時に用紙Sを1枚ずつ分離して送り出す。用紙搬送部4は、用紙供給部3から送り出された用紙Sを記録部5及び乾燥部6へと搬送し、さらに記録、乾燥後の用紙Sを用紙排出部21に排出する。両面記録が行われる場合、用紙搬送部4は、第1面の記録、乾燥後の用紙Sを分岐部43によって反転搬送部44に振り分け、さらに搬送方向を切り替えて表裏を反転させた用紙Sを再度、記録部5及び乾燥部6へと搬送する。
【0014】
用紙搬送部4は、第1ベルト搬送部41及び第2ベルト搬送部42を含む。第1ベルト搬送部41は、無端状に形成された第1搬送ベルト411を有する。第2ベルト搬送部42は、無端状に形成された第2搬送ベルト421を有する。第1ベルト搬送部41及び第2ベルト搬送部42は、第1搬送ベルト411及び第2搬送ベルト421それぞれの上側の外面(上面)に用紙Sを吸着保持して搬送する。第1ベルト搬送部41は、記録部5の下方に配置されて用紙Sを搬送する。第2ベルト搬送部42は、第1ベルト搬送部41に対して用紙搬送方向の下流側に位置し、乾燥部6に配置されて用紙Sを搬送する。
【0015】
記録部5は、第1搬送ベルト411の上面に吸着保持されて搬送される用紙Sに対向し、所定の間隔を設けて第1搬送ベルト411の上方に配置される。記録部5は、
図2に示すように、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色それぞれに対応したヘッドユニット51B、51C、51M、51Yを保持する。ヘッドユニット51B、51C、51M、51Yは、長手方向が用紙搬送方向Dcと直交する用紙幅方向Dwと平行になるように用紙搬送方向Dcに沿って並置される。なお、4つのヘッドユニット51B、51C、51M、51Yは基本的な構成が同じであるので、以下の説明では、特に限定する必要がある場合を除き、各色を表す「B」、「C」、「M」、「Y」の識別記号は省略することがある。
【0016】
各色のヘッドユニット51それぞれは、ライン型インクジェット方式の記録ヘッド52を有する。記録ヘッド52は、各色のヘッドユニット51それぞれにおいて、用紙幅方向Dwに沿って複数(例えば3つ(52a、52b、52c))が千鳥状に配列される。すなわち、本実施形態では、記録ヘッド52の幅方向(記録ヘッド52の長手方向)と、用紙幅方向Dwとが一致している。そのため、記録ヘッド52の幅方向のことをヘッド幅方向Dwと表すことがある。
【0017】
記録ヘッド52は、その底部に複数のインク吐出ノズル531を有する。複数のインク吐出ノズル531は、用紙幅方向Dwに沿って並べて配置され、用紙S上の記録領域の全域にわたってインクを吐出することができる。すなわち、記録ヘッド52は、用紙S上にインクを吐出する複数のインク吐出ノズル531を有する。記録部5は、第1搬送ベルト411によって搬送される用紙Sに向かって4色のヘッドユニット51B、51C、51M、51Yそれぞれの記録ヘッド52から順次インクを吐出し、フルカラー画像またはモノクロ画像を用紙Sに記録する。
【0018】
乾燥部6は、記録部5に対して用紙搬送方向の下流側に配置され、第2ベルト搬送部42が設けられる。記録部5でインク画像が記録された用紙Sは、乾燥部6において第2搬送ベルト421に吸着保持されて搬送される間に、インクが乾燥される。
【0019】
制御部7は、CPU、記憶部、その他の電子回路及び電子部品を含む(いずれも不図示)。CPUは、記憶部に記憶された制御用のプログラムやデータに基づき、インクジェット記録装置1に設けられた各構成要素の動作を制御してインクジェット記録装置1の機能に係る処理を行う。用紙供給部3、用紙搬送部4、記録部5及び乾燥部6それぞれは、制御部7から個別に指令を受け、連動して用紙Sへの記録を行う。記憶部は、例えばプログラムROM(Read Only Memory)、データROMなどといった不揮発性の記憶装置と、RAM(Random Access Memory)のような揮発性の記憶装置との組み合わせで構成される。
【0020】
続いて、記録部5の記録ヘッド52の構成について、
図3、
図4、及び
図5を用いて説明する。
図3、
図4、及び
図5は、第1実施形態のインクジェット記録装置1の記録部5の記録ヘッド52の概略正面図、概略側面図、及び概略下面図である。なお、各色の3つの記録ヘッド52a、52b、52cは同一形状、同一構成であるので、以下の説明において、識別記号(a、b、c)の記載を省略する。
【0021】
記録ヘッド52は、インク吐出部53と、クリーニング液供給部54と、インク保持部55と、を備える。
【0022】
インク吐出部53は、下面にインク吐出面F1を有する。インク吐出面F1は、第1搬送ベルト411上を搬送される用紙Sの表面に対向する。インク吐出面F1は、
図5に示すように、インク吐出ノズル531が多数配列されたノズル領域Rを有する。すなわち、インク吐出面F1は、多数のインク吐出ノズル531が開口し、用紙S上にインクを吐出する。インク吐出面F1には、撥水膜(不図示)が形成されている。4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインク吐出部53のそれぞれには、ヘッドユニット51の外部のインクタンク(インク供給源)に貯留される4色のインクが個別に供給される。
【0023】
インク吐出部53は、制御部7からの制御信号に基づき、外部コンピューターから受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト411の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Sに向かってインク吐出ノズル531からインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト411上の用紙Sには、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクが重ね合わされたカラー画像、或いはモノクロ画像が形成される。
【0024】
クリーニング液供給部54は、インク吐出部53の下部の、ヘッド幅方向Dwの一端部側に設けられる。クリーニング液供給部54は、下面にクリーニング液供給面F2を有する。クリーニング液供給面F2は、インク吐出面F1と平行であり、ヘッド幅方向Dwに沿ってインク吐出面F1に隣接する。クリーニング液供給面F2には、撥水膜(不図示)が形成されている。クリーニング液供給面F2は、多数のクリーニング液供給口541が開口する。多数のクリーニング液供給口541は、例えば用紙搬送方向Dcに沿って千鳥状に配列される。
【0025】
記録ヘッド52のメンテナンス処理では、インク吐出面F1に対するワイピング動作が実行される。本実施形態のワイピング動作では、ワイパー10は、インク吐出面F1に沿って、ワイピング方向であるヘッド幅方向Dwに移動する。
図6は、
図4の記録ヘッド52において、ワイピング動作を開始した状態を示す概略側面図である。
図7は、
図4の記録ヘッド52において、ワイピング動作が終了に近づいた状態を示す概略側面図である。
【0026】
インク吐出面F1には、インク吐出ノズル531からインク53Lが吐出される。インク53Lは、例えばインク吐出ノズル531内の粘度が高くなったインク、異物、気泡等を含み、インク吐出ノズル531から強制的に押し出される。インク53Lは、表面張力により、インク吐出面F1の下側に、ヘッド幅方向Dwに所定の長さで、用紙搬送方向Dc(
図6及び
図7の紙面奥行き方向、
図5参照)にインク吐出面F1の全域にわたって広がった状態で保持される。
【0027】
クリーニング液供給面F2には、クリーニング液供給口541からクリーニング液54Lが供給される。クリーニング液54Lは、表面張力により、クリーニング液供給面F2の下側に、ヘッド幅方向Dwに所定の長さで、用紙搬送方向Dc(
図6及び
図7の紙面奥行き方向、
図5参照)にクリーニング液供給面F2の全域にわたって広がった状態で保持される。
【0028】
ワイパー10は、記録ヘッド52のメンテナンス処理時に、クリーニング液供給部54の下方に移動する。続いて
図6に示すように、ワイパー10は、上昇してクリーニング液供給部54に所定の圧力で接触する。続いて
図7に示すように、ワイパー10は、クリーニング液供給面F2及びインク吐出面F1に沿ってヘッド幅方向Dwに移動する。
【0029】
ワイパー10は、クリーニング液供給面F2においてクリーニング液54Lを拭き取り、さらに当該クリーニング液54Lをインク吐出面F1に運ぶ。これにより、記録ヘッド52のインク吐出面F1に固着したインクを容易に除去することが可能になる。
【0030】
クリーニング液は、色材を含まないインクと類似の成分である溶液が好ましい。クリーニング液は、溶剤成分及び水で構成され、必要に応じて界面活性剤、防腐剤、防カビ剤等が添加された液体組成物である。クリーニング液は、インクの清掃、及び凝固したインクの溶解性に優れる。
【0031】
なお、インク吐出面F1に対するワイピング動作では、インク吐出面F1へのインク53Lの吐出と、クリーニング液供給面F2へのクリーニング液54Lの供給とのいずれか一方のみを実施しても良い。
【0032】
図3及び
図4に戻って、インク保持部55は、インク吐出部53の側面53sに配置される。なお、インク吐出部53の側面53sは、ヘッド幅方向Dwと平行に、上下方向に延びる。インク保持部55は、インク吐出部53の側面53sの水平方向の略全域にわたって配置される。ここで言う水平方向の略全域とは、より具体的には、インク吐出面F1においてインク吐出ノズル531が存在する水平方向の範囲と同等の範囲、若しくはそれより広い範囲のことである。インク保持部55は、シート部551と、保持部552と、を備える。
【0033】
シート部551は、インク吐出部53の側面53sの水平方向及び上下方向の略全域にわたって延びる長方形状に形成される。シート部551は、例えばポリエステル製のフィルム等で構成される。シート部551は、例えば両面テープ等によって、上端側がインク吐出部53の側面53sに固定される。シート部551の下端側は、自由端であり、インク吐出部53の側面53sに対して接離方向に移動可能である。
【0034】
保持部552は、シート部551の下端部の、インク吐出部53との対向面に固定される。言い換えれば、保持部552は、シート部551の下端部の、インク吐出部53が存在する側に位置している。また、インク保持部552とシート部551とは、別の部材である必要はないが、別の部材であれば、後述する特性を備えたインク保持部55を実現し易い。保持部552は、シート部551よりも上下方向の長さが短い。保持部552は、インク吐出部53の側面53sとの対向方向に所定の厚みを有し、シート部551の水平方向の略全域にわたって延びる直方体形状に形成される。
【0035】
保持部552は、例えばシリコン製であり、両面テープ等によってシート部551の下端部に固定される。なお、保持部552は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製等のフッ素樹脂であっても良い。保持部552は、インク吐出部53の側面53sに接触若しくは近接して配置される。これは、インク吐出部53及び保持部552に、後述するようなインク等が付着等していない場合における状態である。インク吐出部53の側面53sと、保持部552とが近接しているとは、インク吐出部53の側面53sと、保持部552との間の距離が1mm以下、さらに0.5mm以下、特に0.3mm以下であることを表す。
【0036】
例えば、記録ヘッド52のインク吐出面F1に対するワイピング時に、ワイパー10を介してインク吐出部53の側面53sにせり上がったインクは、インク吐出部53の側面53sと、保持部552との隣接領域に浸入する。これにより、保持部552は、インク吐出部53との隣接領域においてインクを保持する。このようにして、インク保持部55は、インク吐出面F1側からインク吐出部53の側面53sに沿って上昇したインクを保持する。
【0037】
上記の構成によれば、インク吐出部53の側面53sの、インク吐出部53と保持部552との隣接領域において、毛細管現象を利用してインクを保持することができる。したがって、インク吐出面F1のクリーニングに起因して記録ヘッド52の側面にせり上がったインクの用紙S上への落下を抑制することが可能である。
【0038】
インク吐出部53と保持部552との隣接領域に浸入したインクは、毛細管現象によって保持され、落下に対する抵抗が高くなっている。すなわち、記録ヘッド52の下方で、第1搬送ベルト411の外面(上面)に用紙Sを吸着保持させるための空気流が下方に向かって流れている状況においても、その空気流による力に抗して、インク吐出部53と保持部552との隣接領域にインクを保持し続けることが可能である。また、シート部551が変形することで、インク吐出部53の側面53sと、保持部552と間の距離が変わるので、より多くのインクを保持することができる。
【0039】
インク保持部55を、インク吐出部53のワイピング方向に沿った側面53sに設けることにより、ワイピングによってインク吐出部53の側面53sに沿って上昇したインクを効果的に保持することができる。インク保持部55は、ワイピング方向の上流端及び下流端の、ヘッド幅方向Dwと交差する方向(本実施形態では用紙搬送方向Dc)に延びる側面に設けても良い。
【0040】
保持部552は、少なくともインク吐出部53との対向面が、インク吐出部53の側面53sと比較して撥水性が高い。この構成によれば、インクをはじき易くなり、インクが保持部552よりも上側に上がり難くすることができる。
【0041】
保持部552は、シート部551の弾性力によってインク吐出部53の側面53sに接触する方向に付勢されている。これにより、保持部552は、インク吐出部53の側面53sに接触するか、若しくは近接した位置に配置される。この構成によれば、保持部552がインク吐出部53の側面53sから容易に離れ過ぎないようにすることができる。これにより、インク吐出部53と保持部552との隣接領域にまでせり上がったインクを、毛細管現象によって吸い込む可能性を高くすることができる。インク吐出部53の側面53sと、保持部552とが接触している場合、この効果をより高めることが可能である。
【0042】
なお、保持部552の全体がインク吐出部53の側面53sと接触している必要はなく、ヘッド幅方向Dwにおいて何カ所か接触していれば良い。また、インク吐出部53の側面53sと、保持部552と間の距離が、ヘッド幅方向Dw全体において1mm以下、さらに0.5mm以下、特に0.3mm以下であることにより、毛細管現象による吸い込みが生じ難い場所を少なくすることができる。
【0043】
また、インクを吸い込む際に、インク吐出部53の側面53sとインク保持部552とが離れ過ぎ難く、その間に保持されるインクの量が多くなり過ぎ難い。これにより、落下しないようにインクを保持する効果を高めることが可能である。
【0044】
保持部552の厚みは、0.5mm以下である。さらに、保持部552の厚みは、0.3mm以下であることがより好ましい。保持部552の厚みを薄くすることで、記録ヘッド52の側面にせり上がったインクが、インク吐出部53と保持部552との隣接領域に浸入し易くなり、また保持部552の下端から落下し難くなる。
【0045】
また、ワイパー10は、弾性材料で形成され、クリーニング液供給部54に所定の圧力で接触することで変形する。そして、ワイパー10は、インク吐出面F1よりも用紙搬送方向Dcの長さが長いので、ワイピング動作時に弾性変形することで、インク吐出面F1よりも用紙搬送方向Dcの外側の領域がインク吐出面F1よりも上方に位置する。
【0046】
このため、保持部552は、インク吐出面F1に対して所定の間隔をあけて上側に位置する。例えば、保持部552は、インク吐出面F1に対して0.3~2.0mmの間隔をあけて上側に位置する。さらに、保持部552は、インク吐出面F1に対して0.5~1.5mmの間隔をあけて上側に位置することがより好ましい。この構成によれば、ワイピング動作中にワイパー10上に乗ったインクが、保持部552に接触することを防止することが可能である。したがって、ワイピング動作中にワイパー10上に乗ったインクが、インク吐出部53と保持部552との隣接領域に浸入することを抑制することができる。
【0047】
保持部552は、シート部551の下端よりも下側に突出するように固定される(
図3参照)。つまり、保持部552の下端は、シート部551の下端よりも下側に位置する。そして、保持部552の下端部は、用紙搬送方向Dcの外側、すなわち、インク吐出部53とは反対側に露出している。そして、保持部552の下端側におけるインク吐出部53との対向面の反対側の面は、インク吐出部53の側面53Sよりも撥水性が高くなっている。これにより、保持部552の外側にまでインクがせり上がった場合でも、インクは速やかに下がり、インク吐出部53と保持部552との隣接領域に入る。したがって、インクをインク吐出部53から落下させ難くすることができる。
【0048】
また、保持部552の外側の撥水性は、インク吐出面F1の撥水性より低くなっている。これにより、保持部552の外側に付着したインクが、インク吐出面F1に伝わるように落ちていくことを生じ難くすることができる。
【0049】
なお、シート部551への保持部552の固定に用いている両面テープ等の接合材は、耐液性が低いことがある。このため、シート部551の下端部は、保持部552の下端部よりも上側に位置する。これにより、インクが両面テープ等の接合材の箇所まで上がることを抑制することが可能である。したがって、シート部551への保持部552の固定強度を好適に維持することができる。
【0050】
図8は、本発明の第2実施形態のインクジェット記録装置1の記録部5の記録ヘッド52の概略正面図である。第2実施形態の記録ヘッド52は、インク保持部55を備える。インク保持部55は、シート部553と、保持部552と、を備える。
【0051】
シート部553は、インク吐出部53の側面53sの水平方向及び上下方向の略全域にわたって延びる長方形状に形成される。シート部553は、例えば両面テープ等によって、上端側がインク吐出部53の側面53sに固定される。
【0052】
シート部553は、開口部5531を有する。開口部5531は、シート部553の下端縁の内側近傍であって、シート部553の水平方向の両端縁の内側近傍に位置する。開口部5531は、例えば矩形状であり、シート部553の厚み方向に開口している。開口部5531は、保持部552との対向領域と、保持部552の上端よりも上側の領域とにわたって開口している。なお、開口部5531は、少なくとも保持部552の上端よりも上側に開口することが好ましい。
【0053】
シート部553は、弾性が高く、特に自由端である下端側の水平方向の両端部付近がたわんで変形し易い。これにより、インクがインク吐出部53の上側まで上がり易くなっている。これに対して、上記構成のように、シート部553に開口部5531を設けることで、インクがインク吐出部53の上側まで上がることを抑制することが可能である。
【0054】
また、上記実施形態によれば、インクジェット記録装置1は、上記構成の記録ヘッド52を備えるので、インクジェット記録装置1において、インク吐出面F1のクリーニングに起因して記録ヘッド52の側面にせり上がったインクの用紙S上への落下を抑制することが可能である。
【0055】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、記録ヘッド及びインクジェット記録装置において利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 インクジェット記録装置
5 記録部
10 ワイパー
52 記録ヘッド
53 インク吐出部
53s 側面
55 インク保持部
531 インク吐出ノズル
551、553 シート部
552 保持部
5531 開口部
F1 インク吐出面
S 用紙(記録媒体)