(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】制御システム、予測モデル生成装置、コンピュータプログラム、及び予測モデル生成方法。
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
G05B13/02 L
(21)【出願番号】P 2021070377
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】藤井 高史
(72)【発明者】
【氏名】長林 洋輔
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-160017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 -13/04
G05B 17/00 -17/02
G05B 21/00 -21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象がツールを通じてワークに作用することによって前記ワークの加工をするための、前記制御対象の制御量を、設定値に従って制御する制御器と、
前記ワーク又は前記ツールの少なくともいずれかに作用する外乱に応じて、前記設定値を補正する予測器と、を備え、
前記予測器は、
前記設定値と
前記外乱と、
前記加工の結果としての前記ワークの品質特性値の、品質特性目標値からの誤差が、所定値以下の第1のクラスに属するか、前記所定値を超える第2のクラスに属するかのクラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行うことにより算出された、
前記設定値と前記外乱との変数空間における前記クラス分けの決定境界を制約条件として、
前記第1のクラスに属する前記加工の、前記設定値と前記外乱との組のデータから回帰が行われて生成された、
前記外乱を入力とし、前記品質特性値を前記品質特性目標値とするための前記設定値を出力する、予測モデルに基づいて構築された、制御システム。
【請求項2】
制御対象がツールを通じてワークに作用することによって前記ワークの加工をするための、前記制御対象の制御量を、設定値に従って制御する制御器と、
前記ワーク又は前記ツールの少なくともいずれかに作用する外乱に応じて、前記設定値を補正する予測器と、を備える制御システムの、
前記予測器に適用可能な予測モデルを生成する予測モデル生成装置であって、
前記加工の結果としての前記ワークの品質特性値の、品質特性目標値からの誤差が、所定値以下の第1のクラスに属するか、前記所定値を超える第2のクラスに属するかのクラス分けを行うクラス分類部と、
前記加工についての、前記設定値と、前記外乱と、前記クラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行うことにより、前記設定値と前記外乱との変数空間における前記クラス分けの決定境界を算出する決定境界算出部と、
前記決定境界を制約条件として、前記第1のクラスに属する前記加工の、前記設定値と前記外乱との組のデータから、前記外乱に対する前記設定値の回帰式を算出する回帰式算出部と、を備えることにより、
前記外乱を入力とし、前記品質特性値を前記品質特性目標値とするための前記設定値を出力する、予測モデルを生成する、予測モデル生成装置。
【請求項3】
前記機械学習は、サポートベクターマシンによって実行される、請求項2に記載の予測モデル生成装置。
【請求項4】
前記回帰式算出部が前記回帰式を算出するための、前記第1のクラスに属する前記加工のデータに、前記品質特性目標値からの誤差に従って重み付けを行う、データ前処理部を更に備える、請求項2または3に記載の予測モデル生成装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の予測モデル生成装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記クラス分類部、前記決定境界算出部および前記回帰式算出部としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項6】
制御対象がツールを通じてワークに作用することによって前記ワークの加工をするための、前記制御対象の制御量を、設定値に従って制御する制御器と、
前記ワーク又は前記ツールの少なくともいずれかに作用する外乱に応じて、前記設定値を補正する予測器と、を備える制御システムの、
前記予測器に適用可能な予測モデルを生成する
、コンピュータが実行する予測モデル生成方法であって、
前記加工の結果としての前記ワークの品質特性値の、品質特性目標値からの誤差が、所定値以下の第1のクラスに属するか、前記所定値を超える第2のクラスに属するかのクラス分けを行うステップと、
前記加工についての、前記設定値と、前記外乱と、前記クラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行うことにより、前記設定値と前記外乱との変数空間における前記クラス分けの決定境界を算出するステップと、
前記決定境界を制約条件として、前記第1のクラスに属する前記加工の、前記設定値と前記外乱との組のデータから、前記外乱に対する前記設定値の回帰式を算出するステップと、を
コンピュータが実行することにより、
前記外乱を入力とし、前記品質特性値を前記品質特性目標値とするための前記設定値を出力する、予測モデルを生成する、予測モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御システム、予測モデル生成装置、コンピュータプログラム、及び予測モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファクトリーオートメーション(Factory Automation:FA)の分野では、ワーク(材料)を加工するための制御対象の制御を自動で行う、制御系が多用されている。このような制御系では、制御対象の制御量が所定の設定値となるようなフィードバック制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記制御系による制御外での外乱が、ワーク等に作用して、ワークの加工の結果としての出来栄えに影響することがある。具体例を挙げると、例えば工場内の温度変動等の外乱が、ワークあるいは制御対象により操作されてワークを加工する工具・金型等のツールに作用して、加工の結果が目標とする状態から逸脱することがある。
【0005】
従来、加工の結果が目標とする状態から逸脱するような場合、熟練者が経験に基づいて上記設定値を補正し、出来栄えを調整することが行われていた。しかしながら、このような調整方法は属人的であり、制御対象の制御量の設定値を自動で適切に調整できるようにすることが望まれている。
【0006】
本開示は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、外乱によるワークの加工の結果の目標とする状態からの逸脱を、自動で抑制することができる制御システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上述の課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0008】
本開示の一側面に係る制御システムは、制御対象がツールを通じてワークに作用することによって前記ワークの加工をするための、前記制御対象の制御量を、設定値に従って制御する制御器と、前記ワーク又は前記ツールの少なくともいずれかに作用する外乱に応じて、前記設定値を補正する予測器と、を備え、前記予測器は、前記設定値と前記外乱と、前記加工の結果としての前記ワークの品質特性値の、品質特性目標値からの誤差が、所定値以下の第1のクラスに属するか、前記所定値を超える第2のクラスに属するかのクラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行うことにより算出された、前記設定値と前記外乱との変数空間における前記クラス分けの決定境界を制約条件として、前記第1のクラスに属する前記加工の、前記設定値と前記外乱との組のデータから回帰が行われて生成された、前記外乱を入力とし、前記品質特性値を前記品質特性目標値とするための前記設定値を出力する、予測モデルに基づいて構築された構成を備える。
【0009】
上記構成によれば、外乱によるワークの加工の結果の目標とする状態からの逸脱を、自動で抑制することができる制御システムを実現することが可能となる。
【0010】
本開示の一側面に係る予測モデル生成装置は、制御対象がツールを通じてワークに作用することによって前記ワークの加工をするための、前記制御対象の制御量を、設定値に従って制御する制御器と、前記ワーク又は前記ツールの少なくともいずれかに作用する外乱に応じて、前記設定値を補正する予測器と、を備える制御システムの、前記予測器に適用可能な予測モデルを生成する予測モデル生成装置であって、前記加工の結果としての前記ワークの品質特性値の、品質特性目標値からの誤差が、所定値以下の第1のクラスに属するか、前記所定値を超える第2のクラスに属するかのクラス分けを行うクラス分類部と、前記加工についての、前記設定値と、前記外乱と、前記クラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行うことにより、前記設定値と前記外乱との変数空間における前記クラス分けの決定境界を算出する決定境界算出部と、前記決定境界を制約条件として、前記第1のクラスに属する前記加工の、前記設定値と前記外乱との組のデータから、前記外乱に対する前記設定値の回帰式を算出する回帰式算出部と、を備えることにより、前記外乱を入力とし、前記品質特性値を前記品質特性目標値とするための前記設定値を出力する、予測モデルを生成する構成を備える。
【0011】
上記構成によれば、外乱によるワークの加工の結果の目標とする状態からの逸脱を、自動で抑制することができる制御システムを実現することが可能となる。
【0012】
上記一側面に係る予測モデル生成装置において、前記機械学習は、サポートベクターマシンによって実行されてもよい。上記構成によれば、決定境界の算出を適切に行うことができるようになる。
【0013】
上記一側面に係る予測モデル生成装置において、前記回帰式算出部が前記回帰式を算出するための、前記第1のクラスに属する前記加工のデータに、前記品質特性目標値からの誤差に従って重み付けを行う、データ前処理部を更に備えていてもよい。上記構成によれば、予測モデルの生成を適切に行うことができるようになる。
【0014】
本開示の一側面は、上記一側面に係る予測モデル生成装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記クラス分類部、前記決定境界算出部および前記回帰式算出部としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムである。上記構成によれば、外乱によるワークの加工の結果の目標とする状態からの逸脱を、自動で抑制することができる制御システムを実現することが可能となる。
【0015】
本開示の一側面に係る予測モデル生成方法は、制御対象がツールを通じてワークに作用することによって前記ワークの加工をするための、前記制御対象の制御量を、設定値に従って制御する制御器と、前記ワーク又は前記ツールの少なくともいずれかに作用する外乱に応じて、前記設定値を補正する予測器と、を備える制御システムの、前記予測器に適用可能な予測モデルを生成する予測モデル生成方法であって、前記加工の結果としての前記ワークの品質特性値の、品質特性目標値からの誤差が、所定値以下の第1のクラスに属するか、前記所定値を超える第2のクラスに属するかのクラス分けを行うステップと、前記加工についての、前記設定値と、前記外乱と、前記クラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行うことにより、前記設定値と前記外乱との変数空間における前記クラス分けの決定境界を算出するステップと、前記決定境界を制約条件として、前記第1のクラスに属する前記加工の、前記設定値と前記外乱との組のデータから、前記外乱に対する前記設定値の回帰式を算出するステップと、を備えることにより、前記外乱を入力とし、前記品質特性値を前記品質特性目標値とするための前記設定値を出力する、予測モデルを生成する。
【0016】
上記構成によれば、外乱によるワークの加工の結果の目標とする状態からの逸脱を、自動で抑制することができる制御システムを実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の一側面によれば、外乱によるワークの加工の結果の目標とする状態からの逸脱を、自動で抑制することができる制御システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態1に係る制御システムを示すブロック図である。
【
図2】比較のための、従来技術に基づいた制御系を示すブロック図である。
【
図3】実施形態1に係る制御システムにおける予測器の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】実施形態1に係る制御システムにおける予測器の構築方法を示すフローチャートである。
【
図5】X(外乱)-S(設定値)-R(品質特性値)空間を模式的に示す図である。
【
図6】X(外乱)-S(設定値)空間に各加工の結果をプロットした、クラス分けを説明するための図である。
【
図7】クラス分類の決定境界Bを表したX(外乱)-S(設定値)空間を模式的に示す図である。
【
図8】各加工の結果をプロットしたX(外乱)-S(設定値)空間に、クラス分類の決定境界Bを併せて示す図である。
【
図9】X(外乱)-S(設定値)空間において、決定境界Bを制約条件として回帰を行う、予測モデルの生成方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
§1 適用例
まず、
図1を用いて、本開示が適用される場面の一例について説明する。
図1は、適用例に関連する制御システム1の構成例を示すブロック図である。制御システム1は、ワークWKの加工を行うための制御系を含む。制御システム1は、FA分野に適用され得る。
【0020】
制御システム1は、制御器13と、制御器13の制御対象である機構部14とを備えている。制御器13は、設定値Sに従って、機構部14(制御対象)がツールTLを通じてワークWKに作用することによって、ワークWKの加工をするための、機構部14(制御対象)の制御量を制御する。なお、
図1においては、ワークWK及び/又はツールTLを機能ブロック「ツール/ワーク20」と表している。
【0021】
制御システム1は、更に予測器15と、学習器30(予測モデル生成装置)とを備えている。予測器15には、ワークWK又はツールTLの少なくともいずれかに作用する外乱Xが入力され、制御器13に入力される設定値Sを補正している補正値Dを出力する。予測器15は、学習器30が生成した予測モデルに基づいて構築されている。
【0022】
学習器30は、制御器13に入力される設定値Sと、外乱Xと、クラス分けの結果と、の組を教師データとして、機械学習を行う。ここで、各加工についてのクラス分けは、加工の結果としてのワークWKの品質特性値Rの、品質特性目標値Roからの誤差が、所定値ε以下である第1のクラスC1に属するか、所定値εを超える第2のクラスC2に属するかの2分類で行われる。
【0023】
学習器30は、機械学習により算出された、設定値Sと外乱Xとの変数空間におけるクラス分けの決定境界Bを制約条件として、第1のクラスに属する加工についての、設定値Sと外乱Xとの組のデータから回帰された予測モデルを算出する。当該予測モデルは、外乱Xを入力とし、品質特性値Rを品質特性目標値Roとするための設定値Sを出力する、予測モデルである。
【0024】
こうして学習器30は、算出された予測モデルに基づいて、ワークWK又はツールTLの少なくともいずれかに作用する外乱Xに応じて、制御器13に入力される設定値Sを補正している補正値Dを出力する、予測器15を構築する。
【0025】
よって、本適用例によれば、外乱XによるワークWKの加工の結果の目標とする状態からの逸脱、すなわち品質特性値Rの品質特性目標値Roからの乖離を、自動で抑制することができる制御システムを実現することが可能となる。
【0026】
§2 構成例
〔実施形態1〕
<制御システムの概要>
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、実施形態1に係る制御システム1の構成例を示すブロック図である。以下では、制御システム1の構成等を理解しやすくするための具体的な事例として、制御システム1が、金型を用いてワークのプレス加工を行うサーボプレス機を備えている場合を適宜併せて示す。
【0027】
制御システム1は、設定値生成部11、加算器12、制御器13、機構部14、予測器15が設けられた制御系10を備えている。機構部14は制御器13の制御対象である。制御器13は、機構部14がツールTLを通じてワークWKに作用することによって、ワークWKの加工をするための機構部14の制御量を制御する。制御器13は、機構部14の制御量が、入力される設定値Sに応じた値になるように、制御対象である機構部14をフィードバック制御する。制御システム1は、更に学習器30(予測モデル生成装置)を備えている。
【0028】
品質特性値Rとは、ワークWKの加工の結果の出来栄えを評価するための指標である。品質特性値Rは、一般的には多次元量であり、すなわちベクトルで表され得る。なお、品質特性値Rはスカラー量であってもよい。品質特性値Rの目標値である品質特性目標値Roが、設定値生成部11に入力されると、設定値生成部11は、品質特性目標値Roに応じた基礎設定値Soを出力する。制御器13に入力される設定値Sは、補正値Dが無い場合に、設定値生成部11が出力する基礎設定値Soに等しい。制御器13に入力される設定値Sに補正が施される場合には、加算器12によって補正値Dが基礎設定値Soに加算されて、設定値Sとして制御器13に入力される。
【0029】
図1に示されるように、ワークWK又はツールTLの少なくともいずれかには、制御器13と機構部14によるフィードバック制御の制御外での外乱Xが作用するものとする。予測器15は、外乱Xに応じた補正値Dを算出する。予測器15は、制御システム1が備える学習器30によって生成された予測モデルに基づいて、構築される。学習器30及び予測器15の詳細は後述される。
【0030】
サーボプレス機の事例では、機構部14はサーボプレス機におけるサーボモータとスライダ等から構成される機構であり、制御量はスライダ位置等である。制御器13はサーボモータコントローラであり得、操作量は、サーボモータコントローラがサーボモータに指示する動作に関する量である。
【0031】
ワークWKはプレス加工の対象の材料である。ツールTLはスライダに取り付けられた金型等である。品質特性値Rは、例えばワークWKのプレス加工後の所定箇所の厚み等の寸法であり得る。この場合、品質特性目標値Roは、当該厚みの目標値であり得る。
【0032】
外乱Xとしては、金型の温度が例示できる。制御系10がプレス加工を繰り返し実行するに当たり、厚みの目標値(品質特性目標値Ro)に応じて、設定値生成部11が出力する基礎設定値Soに従って、制御器13が機構部14の制御を続けていたとする。この場合には、金型の温度に作用されて、プレス加工の結果としての、ワークWKの所定箇所の厚みが変動することがある。
【0033】
このように、品質特性値Rが、外乱Xに影響され得ることが上記事例から理解される。しかし、実施形態1に係る制御システム1では、予測器15が外乱Xに応じて補正値Dを出力することで、制御器13に入力される設定値Sを調整し、外乱Xによる品質特性値Rの変動を抑え込むことができる。
【0034】
<比較例、効果>
図2は、実施形態1に係る制御システム1の制御系10と比較するための、従来技術を適用した比較例の制御系10Pを示す図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。図示されるように、比較例の制御系10Pでは、予測器15を備えていない点が、制御系10とは異なる。
【0035】
比較例の制御系10では、上記説明と同様にして外乱Xの影響により品質特性値Rが品質特性目標値Roから乖離してきた場合には、熟練の作業者Wが、品質特性値RすなわちワークWKの加工の出来栄えを判断して、感や経験に基づいて補正値Dを決定する。そうして、制御器13に入力される設定値Sに補正を施して、品質特性値Rを品質特性目標値Roに近づけようとする。
【0036】
しかし、このような手法は属人的であり効率がよくなく、補正値Dの決定を自動化することが望まれていた。また、補正値Dが適正であることは担保されておらず、外乱Xに応じて適正に補正値Dを算出されることが望まれる。実施形態1に係る制御システム1では、上記構成を備えることにより、これらの課題が解決されている。
【0037】
すなわち、実施形態1に係る制御システム1によれば、外乱Xの影響による品質特性値Rの品質特性目標値Roからの乖離が効果的に抑制される。補正値Dの調整は、予測器15が自動で行うため、外乱Xの影響の補正が直ちに実行され、効率的に行われる。更に、予測器15の構築は、後述するように機械学習を用いて行われているため、制御システム1では、補正値Dの調整が正確に行われるようになる。
【0038】
<予測器の構築>
図3は、実施形態1に係る制御システム1の学習器30(実施形態1に係る予測モデル生成装置)の概略構成を示す機能ブロック図である。学習器30は、取得部31、クラス分類部32、決定境界算出部33、データ前処理部34、回帰式算出部35、及び、予測器設定部36の各機能ブロックを備える。
【0039】
図4のフローチャートに沿って、以下に、実施形態1に係る制御システム1の予測器15の構築方法とその原理が、
図5から
図9をも参照しつつ詳細に説明される。
図4は、予測器15の構築方法を示すフローチャートである。
【0040】
始めに、学習器30の取得部31は、制御系10から、制御系10による多数の加工についての、品質特性目標値Ro、設定値S、外乱Xを取得する。以下では、各加工を示すインデックスを記号iで表すこととする。予測器15が稼動していない初期の状態では、学習器30の取得部31が、設定値Sに変えて、基礎設定値Soを取得してもよい(ステップS1)。
【0041】
更に、学習器30の取得部31は、制御系10による多数の加工についての、ワークWKの加工の出来栄えである品質特性値Rを取得する。品質特性値Rは、検査機、測定器等により評価されるため、学習器30の取得部31は、これらの機器から直接、又は間接的に品質特性値Rを取得する(ステップS2)。
【0042】
品質特性値Rは、制御器13に入力される設定値Sにより変化する他、上述の通り、外乱Xに影響されるため、設定値Sと外乱Xの関数すなわち、R=R(S,X)である。ここで、設定値Sは一次元量には限られず、多次元量、すなわちベクトルであってもよい。また、外乱Xも一次元量には限られず、多次元量、すなわちベクトルであってもよい。更に、品質特性値R及び品質特性目標値Roも、一次元量には限られず、多次元量、すなわちベクトルであってもよい。
【0043】
図5は、X-S-R空間を模式的に示す図であり、ここでは図示のために、品質特性値R、設定値S、外乱Xがそれぞれ一次元量であるように表されている。なお、各パラメタの数値は任意単位である。
図5には、X-S-R空間内の関数R=R(S,X)を示す面が模式的に示されている。また
図5には、品質特性値Rが品質特性目標値Roに一致する条件R=Roを示す面も併せて模式的に示されている。これらの2つの面が交差する領域が、外乱Xが与えられた時に品質特性値Rを品質特性目標値Roに一致するように維持するための、設定値Sの値を示す。
【0044】
次に学習器30のクラス分類部32は、取得した各加工iについてのデータに基づいて、各加工iのクラス分けを行う。学習器30のクラス分類部32は、予め定められた所定値ε(ε>0)を用いて、品質特性値Rの品質特性目標値Roからの誤差が、所定値ε以下である加工iは、クラスC1(第1のクラス)に属すると判定する。また、学習器30のクラス分類部32は、品質特性値Rの品質特性目標値Roからの誤差が、所定値εを超える加工iは、クラスC2(第2のクラス)に属すると判定する。(ステップS3)。
【0045】
図6は、設定値Sを一次元量、外乱Xを一次元量として、加工iについてのデータをX-S空間(
図6においては2次元グラフ)中に、クラスごとにプロットの種別を変えて示した図である。図において、クラスC1に属する加工iについてのデータを黒色のプロットで、クラスC2に属する加工iについてのデータを灰色のプロットで表している。クラスC1に属する加工iは、出来栄えが良好であると判断される加工に相当する。クラスC2に属する加工iは、出来栄えが良好では無いと判断される加工に相当する。
【0046】
図7は、設定値Sを一次元量、外乱Xを二次元量として、X-S空間を模式的に示した図である。
図7において外乱Xは、変数X1と、変数X2の2軸で表されている。また、
図7において、品質特性値Rが品質特性目標値Roに一致する条件R=Roを満たす領域(曲面)が表されている。当該条件は、X-S空間内の外乱Xについての関数S=g(X)で表される。
【0047】
品質特性値Rの品質特性目標値Roからの誤差が小さい、すなわち条件式|R-Ro|≦εを満たす加工iについてのデータは、X-S空間内において、関数S=g(X)近傍に分布することとなる。また、品質特性値Rの品質特性目標値Roからの誤差が大きい、すなわち条件式|R-Ro|>εを満たす加工iについてのデータは、X-S空間内において、関数S=g(X)から離間して分布することとなる。ここで、誤差|R-Ro|は、品質特性値R及び品質特性目標値Roが多次元量である場合には、多次元空間におけるユークリッド距離で定義されるものとする。
【0048】
よって、設定値Sと、外乱Xとの組の加工のデータが与えられた場合に、当該加工が、クラスC1に属する蓋然性が高いか、クラスC2に属する蓋然性が高いかを区分けする決定境界Bを、X-S空間内で関数S=g(X)の周囲に設定することができる。決定境界Bは、
図7に模式的に表されている。
【0049】
決定境界Bの、境界上も含む内側に存在する、設定値Sと外乱Xとの組を有する加工については、当該加工が、クラスC1に属する蓋然性が高いと判断されることとなる。決定境界Bの、外側に存在する設定値Sと外乱Xとの組を有する加工については、当該加工が、クラスC2に属する蓋然性が高いと判断されることとなる。
【0050】
ステップS3に続いて、学習器30の決定境界算出部33は、機械学習を用いて、
図7に模式的に示されたようなX-S空間におけるクラスC1、クラスC2の2つのクラスへのクラス分類の決定境界Bを算出する。その際、学習器30の決定境界算出部33は、
図6にプロットで表されたような、各加工iについての設定値S、外乱X、クラス(クラスC1又はクラスC2)のデータのセットを、機械学習のための教師データとして用いる(ステップS4)。
【0051】
このような機械学習のアルゴリズムとしては、サポートベクターマシン(support vector machine:SVM)を適用することが望ましい。サポートベクターマシンは、2クラスのパターン識別器を生成するための性能が極めて高い機械学習として知られているからである。
【0052】
図8は、こうして学習器30の決定境界算出部33が実行した機械学習により算出されたクラス分類の決定境界Bを、
図6にて示したX-S空間上に重ねて表した図である。決定境界Bで囲われた領域(決定境界Bの内側)が、クラスC1に属する蓋然性が高い、加工の設定値Sと、外乱Xとの組の範囲である。
【0053】
次に学習器30のデータ前処理部34は、クラスC1に属する各加工iについてのデータを基に回帰曲線(曲面)を算出するに当たり、クラスC1に属する各加工iについてのデータに対し重み付けを行う前処理を実行する。学習器30のデータ前処理部34は、誤差|R-Ro|が相対的に小さい加工のデータをより重視するように、当該重み付けを実行する(ステップS5)。
【0054】
続いて、学習器30の回帰式算出部35は、重み付けが施されたクラスC1に属する各加工iについてのデータを基に、決定境界Bを制約条件として、回帰式S=f(X)を算出する。すなわち学習器30の回帰式算出部35は、決定境界Bの内側に存在し、決定境界Bの外側へと逸脱しない回帰曲線(曲面)を表す回帰式S=f(X)を求める。
【0055】
回帰式S=f(X)は、上記関数S=g(X)の近似式である。学習器30の回帰式算出部35が回帰式S=f(X)を算出することにより、外乱Xを入力とし、品質特性値Rを品質特性目標値Roとするための設定値Sを出力する予測モデルが生成されることとなる(ステップS6)。
【0056】
続いて、学習器30の予測器設定部36は、生成された予測モデルを用いて、補正値Dを算出する予測器15を制御系10内に設定する。ここで、補正値Dは、D=f(X)-Soに相当する(ステップS7)。
【0057】
本実施形態1の学習器30では、上記回帰式S=f(X)を算出するに当たり、各加工のデータのうち、品質特性値Rの品質特性目標値Roからの誤差が小さいデータのみを採用する。このことにより、品質特性値Rを品質特性目標値Roとするための設定値Sを精度よく算出することを意図している。
【0058】
特に、前処理として、クラスC1に属する各加工iについてのデータに上記重み付けを行うことにより、更なる精度の向上を図っている。しかし、加工の回数に対して、出来栄えの良好な加工、すなわちクラスC1に属する結果があまり多くない場合には、採用されるデータ数が少なくなってしまい、外乱Xの様々な値に対して精度よい回帰式の算出が困難となる怖れがある。
【0059】
図9の801及び802で表されるグラフは、
図6に表されたクラスC1に属する結果(黒色プロット)に対して、決定境界Bによる制約を設けずに回帰を試みた結果の例である。図示されるように、外乱Xのデータ数が少ない領域において、回帰式f1、回帰式f2が、適切に関数S=g(X)を近似できない状況が発生し得ることが分かる。すなわち、予測モデルが、品質特性値Rを品質特性目標値Roに一致させるための設定値Sの予測を良好に行えないことが分かる。
【0060】
一方、
図9の803で表されるグラフでは、
図4のフローチャートに表された上述の手順に従って、回帰式S=f(X)が算出されている。機械学習により算出された決定境界Bによる制約のもとで回帰が行われるため、適切に関数S=g(X)を近似し得ている。すなわち、予測モデルが、品質特性値Rを品質特性目標値Roに一致させるための設定値Sの予測を良好に行えていることが分かる。
【0061】
よって、本実施形態によれば、出来栄えが良好であった加工が相対的に少ないデータセットであっても、決定境界Bを良好に定めることができる。その結果として、出来栄えが良好であった加工が相対的に少ないデータセットであっても、品質特性値Rを、品質特性目標値Roと一致させるための設定値Sを、予測する学習モデルを良好に構築することができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、回帰式S=f(X)を算出するに当たり、ステップ5において、誤差|R-Ro|が相対的に小さい加工のデータをより重視するように、重み付けの前処理を実行する例が示された。しかしながら、データの重み付けを行う前処理は必須では無く、ステップ5の手続きは省略されてもよい。
【0063】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御システム1の機能ブロック(特に、設定値生成部11、加算器12、制御器13、予測器15、学習器30)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0064】
後者の場合、制御システム1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラム(コンピュータプログラム)の命令を実行する少なくとも1つのコンピュータを備えている。この各コンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。
【0065】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、磁気ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。
【0066】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0067】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 制御システム
10 制御系
11 設定値生成部
12 加算器
13 制御器
14 機構部(制御対象)
15 予測器
20 ツール/ワーク
30 学習器(予測モデル生成装置)
31 取得部
32 クラス分類部
33 決定境界算出部
34 データ前処理部
35 回帰式算出部
36 予測器設定部
D 補正値
So 基礎設定値
S 設定値
Ro 品質特性目標値
R 品質特性値
X 外乱
B 決定境界