(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】異常診断装置及び異常診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20250107BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20250107BHJP
G01M 13/045 20190101ALI20250107BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
G01M13/045
(21)【出願番号】P 2021151623
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 孝則
(72)【発明者】
【氏名】井坂 一貴
(72)【発明者】
【氏名】外田 脩
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-292734(JP,A)
【文献】特開2018-120407(JP,A)
【文献】特開2019-191142(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106769052(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 17/00
G01M 13/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象から取得した波形データを周波数又は時間により複数の波形データに分割するデータ分割部と、
前記複数の波形データの各々に対して
、波形の実効値を含む複数の
種類の特徴量を算出し、
列方向に前記種類ごとの前記特徴量が配され、行方向に前記時間ごとに分割された特徴量行列を生成する特徴量算出部と、
前記特徴量行列について、
前記行方向に平均及び標準偏差をとり、
前記特徴量の種類ごとの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタを生成する特徴量統計部と、
前記特徴量統計部で生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、を比較することで、現在の前記診断対象の異常度を算出し、この異常度に基づいて前記診断対象が正常であるか又は異常であるかを診断する異常診断部と、
前記特徴量統計部で生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、前記波形データの分割数と、前記既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、に基づいて、新しい学習対象の、特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、を算出する学習更新部と、
前記学習更新部における更新結果を記録する学習情報記録部と、を備える異常診断装置。
【請求項2】
前記データ分割部は、前記波形データのピークを除外しつつ前記波形データを複数の波形データに分割する、請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
診断対象から取得した波形データを周波数又は時間により複数の波形データに分割すること、
前記複数の波形データの各々に対して
、波形の実効値を含む複数の
種類の特徴量を算出し、
列方向に前記種類ごとの前記特徴量が配され、行方向に前記時間ごとに分割された特徴量行列を生成すること、
前記特徴量行列について、
前記行方向に平均及び標準偏差をとり、
前記特徴量の種類ごとの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタを生成すること、
前記生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、を比較することで、現在の前記診断対象の異常度を算出し、この異常度に基づいて前記診断対象が正常であるか又は異常であるかを診断すること、
前記生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、前記波形データの分割数と、前記既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、に基づいて、新しい学習対象の、特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、を算出すること、
前記算出による更新結果を記録すること、を含む異常診断方法。
【請求項4】
前記波形データは、複数の波形データに分割される際に、前記波形データのピークが除外されて複数の波形データに分割される、請求項3に記載の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機又は負荷装置等を対象とする異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業及び社会インフラ等の分野において使用される設備は、長期間継続的に稼動されることが多いため、定期的な点検又は常時監視による異常診断を行うことを要する。
一般に、このような設備の稼働は一時停止させることが困難であり、稼動状態で行うことができる異常診断に対する要請がある。
このような設備として、滑り軸受、転がり軸受及び磁気軸受の少なくともいずれか1つを備える回転機を例示することができる。
従来、稼動状態の回転機の異常には、振動センサーにより収集された振動波形データを処理し、異常の予兆を検出する技術が広く用いられている。
【0003】
従来技術の一例である特許文献1には、稼動中の設備の異常の原因を、精度良く特定可能な、設備の異常診断装置及び異常診断方法が開示されている。
特許文献1では、学習フェーズと診断フェーズとが分割され、正常状態の学習は予め行われ、正常状態から乖離すると異常状態であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような異常診断装置では、動作環境の変化に応じて診断対象の正常状態も変化していくため、新たな正常状態の再学習を逐次行って正常状態を更新していくことを要する。
上記の従来技術では、このような再学習のために、学習に使用する波形データ又は全ての特徴量データの記録を保持しておくことを要する、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、再学習のための演算コスト及び記録コストの削減により、再学習の負荷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決して目的を達成する本発明の一態様は、診断対象から取得した波形データを周波数又は時間により複数の波形データに分割するデータ分割部と、前記複数の波形データの各々に対して複数の特徴量を算出し、算出した特徴量により特徴量行列を生成する特徴量算出部と、前記特徴量行列について、行方向に平均及び標準偏差をとり、特徴量の種類ごとの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタを生成する特徴量統計部と、前記特徴量統計部で生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、を比較することで、現在の前記診断対象の異常度を算出し、この異常度に基づいて前記診断対象が正常であるか又は異常であるかを診断する異常診断部と、前記特徴量統計部で生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、前記波形データの分割数と、前記既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、に基づいて、新しい学習対象の、特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、を算出する学習更新部と、前記学習更新部における更新結果を記録する学習情報記録部と、を備える異常診断装置である。
【0008】
上記構成の異常診断装置では、前記データ分割部は、前記波形データのピークを除外しつつ前記波形データを複数の波形データに分割することが好ましい。
【0009】
又は、上述の課題を解決して目的を達成する本発明の一態様は、診断対象から取得した波形データを周波数又は時間により複数の波形データに分割すること、前記複数の波形データの各々に対して複数の特徴量を算出し、算出した特徴量により特徴量行列を生成すること、前記特徴量行列について、行方向に平均及び標準偏差をとり、特徴量の種類ごとの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタを生成すること、前記生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、を比較することで、現在の前記診断対象の異常度を算出し、この異常度に基づいて前記診断対象が正常であるか又は異常であるかを診断すること、前記生成された前記特徴量平均ベクタ及び前記特徴量標準偏差ベクタと、前記波形データの分割数と、前記既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、に基づいて、新しい学習対象の、特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、を算出すること、前記算出による更新結果を記録すること、を含む異常診断方法である。
【0010】
上記構成の異常診断方法では、前記波形データは、複数の波形データに分割される際に、前記波形データのピークが除外されて複数の波形データに分割されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再学習のための演算コスト及び記録コストの削減により、再学習の負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係る異常診断装置と、この異常診断装置の診断対象を含む周辺の構成と、を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る異常診断装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る異常診断装置が新しいデータを収集して異常診断及び学習更新を行う際の異常診断方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、診断対象である回転機において、加速度センサーによって正常状態で計測した振動データの周波数特性の典型例に対し、第2の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタを適用した例を示す図である。
【
図5】
図5は、診断対象である回転機において、加速度センサーによって正常状態で計測した振動データの周波数特性の典型例に対し、第1の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタを適用した例を示す図である。
【
図6】
図6は、減衰正弦波による衝撃波形のイメージを示す概念図である。
【
図7】
図7は、5kHz減衰正弦波による模擬軸受け異常の診断の異常度の比較を示すグラフである。
【
図8】
図8は、8kHz減衰正弦波による模擬軸受け異常の診断の異常度の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態の記載によって限定解釈されるものではない。
【0014】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る異常診断装置1と、異常診断装置1の診断対象を含む周辺の構成と、を示す図である。
図1に示す異常診断装置1は、回転機2及び負荷装置3を診断対象とする。
回転機2及び負荷装置3に取り付けられたセンサー4は、回転機2及び負荷装置3の状態を検出する。
センサー4の検出値は、データ計測器5によって取得される。
データ計測器5は、センサー4の検出値である計測データを収集して異常診断装置1に送る。
異常診断装置1は、データ計測器5により収集されたデータを用いて、正常状態の学習を行い、異常診断を行う。
【0015】
図1には、センサー4として、診断対象である回転機2又は負荷装置3の軸受け近辺に設置された振動センサーが示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
センサー4としては、振動センサーの他に、診断対象の音響を計測する音響センサーと、診断対象の電源電流又は漏れ電流を計測する電流センサーと、を例示することができる。
【0016】
図1において、異常診断装置1による異常診断結果は、異常診断装置1に直接接続された表示装置6に表示される。
ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、異常診断結果は、ネットワークを介して接続されたSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)に送られて、施設内の表示装置に表示されてもよいし、クラウドに送られて施設外の表示装置に表示されてもよい。
【0017】
図2は、本実施形態に係る異常診断装置1の構成を示す機能ブロック図である。
図3は、本実施形態に係る異常診断装置1が新しいデータを収集して異常診断及び学習更新を行う際の異常診断方法を示すフローチャートである。
図2に示す異常診断装置1は、データ収集部11と、データ分割部12と、特徴量算出部13と、特徴量統計部14と、異常診断部15と、診断結果伝送部16と、学習更新部17と、学習情報記録部18と、を備える。
【0018】
データ収集部11は、データ計測器5からのデータ(波形データ)を収集して出力する。
収集する波形データとしては、51200Hz(51.2kHz)のサンプリングで1回5秒間のデータを例示することができる。
診断対象に軸受け異常等が生じている場合には、10kHz程度までの振動が存在するため、20kHz以上におけるサンプリングが好ましい。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、サンプリングの周波数は、診断対象の異常の種類によって適宜決定されればよい。
なお、波形データの収集は、診断対象である回転機2又は負荷装置3の稼動時に行うことが好ましい。
また、稼動条件を限定すると、診断精度を高めることができる。
【0019】
データ分割部12は、データ収集部11が収集して出力した波形データ(診断対象から取得した波形データ)を、周波数又は時間により複数の波形データに分割して出力する(S1)。
【0020】
データ分割部12が波形データを時間方向に、すなわち時間により分割する場合には、例えば、波形データ全体を時間順に分割する。
ここで、例えば、5秒のデータが0秒~1秒、1秒~2秒、2秒~3秒、3秒~4秒、4秒~5秒の5つの波形データに分割される。
又は、データの分割に際して、一部が重複していてもよく、例えば、5秒のデータが、0秒~1秒、0.5秒~1.5秒、1秒~2秒、1.5秒~2.5秒、2秒~3秒、2.5秒~3.5秒、3秒~4秒、3.5秒~4.5秒、4秒~5秒の9つの波形データに分割される。
【0021】
又は、データ分割部12が波形データを周波数方向に、すなわち周波数により分割する場合には、例えば、波形データに周波数フィルタを適用して、低周波数と、中程度の周波数と、高周波数と、の3つの波形データに分割する。
周波数フィルタとしては、3次チェビシェフ1フィルタ(リップルは1dB)を例示することができる。
ここで、低周波数領域、中程度の周波数領域及び高周波数領域には、波形データのピークが存在しないことが好ましく、例えば、低周波数は5Hz以上250Hz未満、中程度の周波数は300以上3000Hz未満、高周波数は5000Hz以上とすることが好ましい(第1の周波数フィルタ範囲)。
このように、周波数領域から波形データのピークを除外すると、判定感度が向上する。
【0022】
図4は、診断対象である回転機2において、加速度センサーによって正常状態で計測した振動データの周波数特性の典型例に対し、第2の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタを適用した例を示す図である。
図4における振動データのピークは、20~300Hz近傍及び3000Hz以降に存在する。
【0023】
図5は、診断対象である回転機2において、加速度センサーによって正常状態で計測した振動データの周波数特性の典型例に対し、第1の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタを適用した例を示す図である。
図5において、中程度の周波数のフィルタ範囲では、正常状態の波形データの周波数成分が低く、周波数フィルタによって、300Hz近傍に存在するピーク及び3000Hz近傍に存在するピークが除外されている。
【0024】
ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、低周波数は5Hz以上1000Hz未満、中程度の周波数は1000Hz以上5000Hz未満、高周波数は5000Hz以上としてもよい(第2の周波数フィルタ範囲)。
【0025】
特徴量算出部13は、データ分割部12により得られた、複数の波形データの各々に対して複数の特徴量を算出して特徴量行列を生成して出力する(S2)。
この特徴量の算出においては、時間順に分割された波形データに対しては同じ特徴量が算出され、周波数により分割された波形データに対しては各々異なる特徴量が算出されてもよい。
特徴量行列では、列方向に種類ごとの特徴量が配され、行方向に時間ごとに分割された特徴量が配される。
ここで、周波数条件の異なる特徴量は、別種として取り扱われる。
【0026】
特徴量統計部14は、特徴量算出部13から出力される特徴量行列について、行方向に平均及び標準偏差をとり、特徴量の種類ごとの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタを生成して出力する(S3)。
【0027】
異常診断部15は、特徴量統計部14で生成された特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、既存の学習データの特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、を比較することで、両者の差異から現在の診断対象の波形データの異常度を算出し(S4)、この異常度に基づいて診断対象が正常であるか又は異常であるかを診断し、異常診断結果を出力する(S5)。
ここで、算出された異常度が予め設定された閾値未満であれば正常と判定され、予め設定された閾値以上であれば異常と判定される。
なお、この異常度の算出方法は、特許文献1に開示されている。
【0028】
診断結果伝送部16は、異常診断部15が出力した異常診断結果を表示装置6に出力する。
なお、診断結果伝送部16は、異常診断結果とともに、センサー4が計測した波形データ自体又はデータ分割部12で分割された複数の波形データ等を出力してもよい。
【0029】
学習更新部17は、特徴量統計部14において生成された、特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、波形データの分割数と、学習対象の既存の特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、に基づいて、新しい学習対象の、特徴量平均ベクタ及び特徴量標準偏差ベクタと、総サンプル数と、を算出し、更新結果を学習情報記録部18に出力する(S6)。
ここで、学習更新部17における学習更新は、異常診断部15における異常診断結果が正常である場合にのみ行われるとよい。
【0030】
学習情報記録部18は、学習データである学習情報として、学習更新部17における更新結果を記録する(S7)。
【0031】
本実施形態に係る異常診断装置1において、算出する特徴量としては、実効値の他に特許文献1に診断パラメータとして記載されたものを用いることができる。
特許文献1に記載された診断パラメータを下記の表1に示す。
表1に示されたパラメータの算出式は、特許文献1に開示されている。
【0032】
【0033】
例えば、低周波数においては、実効値、p4(波高率)、p12(0値通過頻度と絶対値の極大値の頻度の比)、p13(0値通過頻度と谷値の頻度の比)及びp14(絶対値の極大値の頻度と谷値の頻度の比)が用いられ、中程度の周波数及び高周波数においては、実効値、p1(変動率)、p15(波形の平方根の平均値)及びp20(周波数領域の尖度)が用いられる。
用いられる特徴量の数は、5+4+4=13である。
【0034】
次に、学習更新部17で実行される学習更新の計算式について説明する。
学習対象についてのデータと、新たに学習対象として追加される波形データについてのデータと、を用いて、新しく記録される学習対象のデータとは、下記の式(1)~(3)で表される。
ここで、学習対象についてのデータは、特徴量平均mL、特徴量標準偏差σL
2及び総サンプル数lである。
新たに学習対象として追加される波形データは、特徴量平均mS、特徴量標準偏差σS
2及び時間分割数sである。
新しく記録される学習対象のデータは、特徴量平均mN、特徴量標準偏差σN
2及び総サンプル数nである。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
ここで、上記の式(1)~(3)の導出について、以下に説明する。
まず、既存の学習対象の特徴量が系列X=x1,…,xlで表され、新たに学習対象として追加される、追加の学習対象の特徴量が系列Y=y1,…,ysで表されるとすると、更新された学習対象の特徴量は系列Z=x1,…,xl,y1,…,ysで表される。
そして、下記の式(4)に示す特徴量平均mL,mS,mNから式(2)が得られる。
【0039】
【0040】
そして、下記の式(5)に示される特徴量標準偏差σL
2より、特徴量標準偏差σN
2が得られる。
【0041】
【0042】
上述の計算式は特徴量毎のものであるが、複数の特徴量の各々に関して同様の計算を行えばよく、対象が特徴量ベクタであっても同様に拡張することが可能である。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、センサーにより得られた波形データを分割し、分割して得られた複数の波形データから各々複数種類の特徴量を時間方向に分割した数ずつ算出し、各種類の特徴量に関して複数のサンプルから平均及び標準偏差を計算することで各特徴量の近似的な分布を得ることができる。
ここで、特徴量の平均及び標準偏差を計算するサンプル数は、学習においては(学習に使用する波形データの数)×(時間方向に分割した数)である。
そして、各特徴量について学習により得られる平均及び標準偏差による分布と、診断により得られる平均及び標準偏差による分布と、を比較して両者の差異に基づいて異常度が算出される。
更には、算出された異常度が予め設定された閾値未満であれば正常と判定され、予め設定された閾値以上であれば異常と判定される。
【0044】
本実施形態によれば、学習対象の特徴量平均ベクタ、特徴量標準偏差ベクタ及び総サンプル数を記録することで、追加の波形データを含めた特徴量平均ベクタ、特徴量標準偏差ベクタ及び総サンプル数の学習更新が可能である。
これにより、学習対象の波形データ自体の記録が不要となり、学習の演算コスト及び記録コストを削減することができる。
【0045】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の構成に対して、構成要素の付加、削除又は転換を行った様々な変形例も含むものとする。
【実施例】
【0046】
本実施例では、データ分割部12が備える周波数フィルタが、上述した第1の周波数フィルタ範囲、すなわち低周波数を5Hz以上250Hz未満とし、中程度の周波数を300以上3000Hz未満とし、高周波数を5000Hz以上とする有効性について説明する。
【0047】
本実施例では、回転機2において、センサー4である加速度センサーによって正常状態で計測した振動データ48回分を学習データとして、同様の正常状態の回転機2の振動データに対して、軸受け異常を模擬した減衰正弦波による衝撃波形の繰り返しを様々な大きさで重畳した人工的な異常波形データを診断した際の異常度について、第1の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタを用いた場合と第2の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタを用いた場合とを比較する。
【0048】
まず、
図6は、減衰正弦波による衝撃波形のイメージを示す概念図である。
減衰正弦波は、指数関数と、ノコギリ波による減衰波の繰り返しの正弦波と、を掛け合わせて合成された波形を示す。
図6においては、正弦波の1周期ごとにピークが半分に減衰し、5周期ごとに新たな衝撃波が作られるため、最も減衰している部分でもピークの数%の振幅が存在する。
しかしながら、実際の衝撃波では正弦波周波数が数kHzであり、衝撃の間隔、すなわちパス周波数が数十Hzであり、100周期ほど減衰する。
そのため、衝撃の直後以外の振幅は、概ねゼロである。
なお、重畳する減衰正弦波の大きさは、元の波形の実効値に対する減衰正弦波のピーク値の比率で示す。
【0049】
図7は、5kHz減衰正弦波による模擬軸受け異常の診断の異常度を示すグラフである。
図8は、8kHz減衰正弦波による模擬軸受け異常の診断の異常度を示すグラフである。
図7,8においては、正弦波が5kHz又は8kHzであり、正弦波1周期当たりの減衰率は0.5とし、衝撃の間隔は40Hzとしている。
また、
図7,8においては、異常度20未満の状態を正常、異常度20以上の状態を異常と設定している。
【0050】
5kHz減衰正弦波による模擬軸受け異常に関して、
図7(A)に示す第2の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタでは減衰正弦波の重畳大きさ約0.8以上で異常と判定されたのに対し、
図7(B)に示す第1の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタでは減衰正弦波の重畳大きさ約0.7以上で異常と判定されており、第1の周波数フィルタ範囲では判定感度が約0.1向上している。
【0051】
8kHz減衰正弦波による模擬軸受け異常に関して、
図8(A)に示す第2の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタでは減衰正弦波の重畳大きさ約1.95以上で異常と判定されたのに対し、
図8(B)に示す第1の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタでは約1.45以上で異常と判定されており、第1の周波数フィルタ範囲では判定感度が約0.5向上している。
【0052】
本実施例にて説明したように、5kHz減衰正弦波及び8kHz減衰正弦波のいずれにおいても第1の周波数フィルタ範囲の周波数フィルタによって判定感度が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0053】
1 異常診断装置
11 データ収集部
12 データ分割部
13 特徴量算出部
14 特徴量統計部
15 異常診断部
16 診断結果伝送部
17 学習更新部
18 学習情報記録部
2 回転機
3 負荷装置
4 センサー
5 データ計測器
6 表示装置