(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】誘導電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/16 20160101AFI20250107BHJP
【FI】
H02P21/16
(21)【出願番号】P 2021192663
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 信貴
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 康司
(72)【発明者】
【氏名】小崎 圭輝
(72)【発明者】
【氏名】赤池 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小熊 功太
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-171302(JP,A)
【文献】特開2021-044879(JP,A)
【文献】特開2013-138548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機を駆動制御する誘導電動機の制御装置であって、
磁束指令値に基づいてd軸電流指令値を出力する磁束電流指令値演算部と、
トルク指令値に基づいてq軸電流指令値を出力するトルク電流指令値演算部と、
前記d軸電流指令値とd軸電流検出値との偏差および前記q軸電流指令値とq軸電流検出値との偏差に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御部と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と電源位相に基づいてPWM制御により前記誘導電動機に電圧を出力するPWMインバータと、
前記PWMインバータから出力される電流検出値を検出する電流検出器と、
前記電流検出値を前記電源位相に基づいて前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、
前記誘導電動機の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記回転位置に基づいてモータ回転電気角周波数を出力する速度検出器と、
前記すべり角周波数に前記モータ回転電気角周波数を加算して電源角周波数を出力する第1加算器と、
前記電源角周波数を積分して前記電源位相を出力する積分器と、
前記モータ回転電気角周波数が周波数閾値よりも小さく、かつ、前記q軸電流指令値または前記トルク指令値から求めたq軸電流が電流閾値よりも小さいときすべり周波数補正係数として0を出力し、それ以外のとき一次電圧検出値と一次電圧理論値の差分に基づいたすべり周波数補正係数を出力する二次抵抗変動補償処理部と、
前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値と前記すべり周波数補正係数に基づいてすべり角周波数を出力するすべり演算部と、
を備え、
前記二次抵抗変動補償処理部は、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値に基づいて以下の(6)式により一次電圧検出値を出力する一次電圧検出値演算部と、
前記電源角周波数と前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値に基づいて以下の(7)式~(9)式により前記一次電圧理論値を出力する一次電圧理論値演算部と、
前記一次電圧検出値と前記一次電圧理論値の偏差を出力する第3減算器と、
前記q軸電流指令値または前記トルク指令値から求めた前記q軸電流と前記電流閾値と比較し前記q軸電流指令値または前記q軸電流が前記電流閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第1比較器と、
前記モータ回転電気角周波数と前記周波数閾値を比較し前記モータ回転電気角周波数が前記周波数閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第2比較器と、
前記第1比較器と前記第2比較器の出力が両方1の時1を出力し、それ以外の時0を出力する第1AND回路と、
前記第1AND回路の出力が1の時0を出力し、前記第1AND回路の出力が0の前記第3減算器の出力を出力する第1スイッチと、
前記第1スイッチの出力に基づいてPI制御し、前記すべり周波数補正係数を出力する二次抵抗補償器と、
を備え、
前記すべり演算部は、
前記q軸電流指令値とT型等価回路の二次抵抗を乗算する第1乗算器と、
前記d軸電流指令値とT型等価回路の相互インダクタンスを乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力を前記第2乗算器の出力で除算する第1除算器と、
前記第1除算器の出力と前記すべり周波数補正係数とを乗算する第3乗算器と、
前記第1除算器の出力と前記第3乗算器の出力を加算し、前記すべり角周波数を出力する第2加算器と、
を備え、
前記すべり角周波数を前記誘導電動機の駆動制御に用いることを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
V
1det
:一次電圧検出値
V
1d
*
:d軸電圧指令値
V
1q
*
:q軸電圧指令値
V
1d
:d軸電圧理論値
V
1q
:q軸電圧理論値
R
1
:一次抵抗
I
1d
*
:d軸電流指令値
I
1q
*
:q軸電流指令値
ω
1
:電源角周波数
L
s
:T-I形等価回路の励磁インダクタンス
M’:T-I形等価回路の相互インダクタンス
V
1
:一次電圧理論値
【請求項2】
誘導電動機を駆動制御する誘導電動機の制御装置であって、
磁束指令値に基づいてd軸電流指令値を出力する磁束電流指令値演算部と、
トルク指令値に基づいてq軸電流指令値を出力するトルク電流指令値演算部と、
前記d軸電流指令値とd軸電流検出値との偏差および前記q軸電流指令値とq軸電流検出値との偏差に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御部と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と電源位相に基づいてPWM制御により前記誘導電動機に電圧を出力するPWMインバータと、
前記PWMインバータから出力される電流検出値を検出する電流検出器と、
前記電流検出値を前記電源位相に基づいて前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、
前記誘導電動機の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記回転位置に基づいてモータ回転電気角周波数を出力する速度検出器と、
前記すべり角周波数に前記モータ回転電気角周波数を加算して電源角周波数を出力する第1加算器と、
前記電源角周波数を積分して前記電源位相を出力する積分器と、
前記モータ回転電気角周波数が基底回転角速度以上の場合にトルク閾値を前記モータ回転電気角周波数に応じて変動させて補正トルク閾値とし、前記モータ回転電気角周波数が周波数閾値よりも小さく、かつ、前記トルク指令値が前記補正トルク閾値よりも小さいときすべり角周波数補正係数として0を出力し、それ以外のとき一次電圧検出値と一次電圧理論値の差分に基づいたすべり周波数補正係数を出力する二次抵抗変動補償処理部と、
前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値と前記すべり周波数補正係数に基づいてすべり角周波数を出力するすべり演算部と、
を備え、
前記二次抵抗変動補償処理部は、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値に基づいて以下の(6)式により一次電圧検出値を出力する一次電圧検出値演算部と、
前記電源角周波数と前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値に基づいて以下の(7)式~(9)式により前記一次電圧理論値を出力する一次電圧理論値演算部と、
前記一次電圧検出値と前記一次電圧理論値の偏差を出力する第3減算器と、
前記モータ回転電気角周波数と前記周波数閾値を比較し前記モータ回転電気角周波数が前記周波数閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第2比較器と、
前記基底回転角速度を前記モータ回転電気角周波数で除算する第2除算器と、
前記モータ回転電気角周波数と前記基底回転角速度とを比較し、前記モータ回転電気角周波数が前記基底回転角速度以上の場合1を出力し、それ以外の時0を出力する第3比較器と、
前記第3比較器の出力が1の時に前記第2除算器の出力を出力し、前記第3比較器の出力が0の時に1を出力する第2スイッチと、
トルク閾値と前記第2スイッチの出力を乗算して前記補正トルク閾値を出力する第4乗算器と、
前記前記補正トルク閾値と前記トルク指令値とを比較し、前記トルク指令値が前記補正トルク閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第4比較器と、
前記第2比較器と前記第4比較器の出力が両方1の時1を出力し、それ以外の時0を出力する第2AND回路と、
前記第2AND回路の出力が1の時0を出力し、前記第2AND回路の出力が0の時前記第3減算器の出力を出力する第1スイッチと、
前記第1スイッチの出力に基づいてPI制御し、前記すべり周波数補正係数を出力する二次抵抗補償器と、
を備え、
前記すべり演算部は、
前記q軸電流指令値とT型等価回路の二次抵抗を乗算する第1乗算器と、
前記d軸電流指令値とT型等価回路の相互インダクタンスを乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力を前記第2乗算器の出力で除算する第1除算器と、
前記第1除算器の出力と前記すべり周波数補正係数とを乗算する第3乗算器と、
前記第1除算器の出力と前記第3乗算器の出力を加算し、前記すべり角周波数を出力する第2加算器と、
を備え、
前記すべり角周波数を前記誘導電動機の駆動制御に用いることを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
V
1det
:一次電圧検出値
V
1d
*
:d軸電圧指令値
V
1q
*
:q軸電圧指令値
V
1d
:d軸電圧理論値
V
1q
:q軸電圧理論値
R
1
:一次抵抗
I
1d
*
:d軸電流指令値
I
1q
*
:q軸電流指令値
ω
1
:電源角周波数
L
s
:T-I形等価回路の励磁インダクタンス
M’:T-I形等価回路の相互インダクタンス
V
1
:一次電圧理論値
【請求項3】
誘導電動機を駆動制御する誘導電動機の制御装置であって、
磁束指令値に基づいてd軸電流指令値を出力する磁束電流指令値演算部と、
トルク指令値に基づいてq軸電流指令値を出力するトルク電流指令値演算部と、
前記d軸電流指令値とd軸電流検出値との偏差および前記q軸電流指令値とq軸電流検出値との偏差に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御部と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と電源位相に基づいてPWM制御により前記誘導電動機に電圧を出力するPWMインバータと、
前記PWMインバータから出力される電流検出値を検出する電流検出器と、
前記電流検出値を前記電源位相に基づいて前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、
前記誘導電動機の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記回転位置に基づいてモータ回転電気角周波数を出力する速度検出器と、
前記すべり角周波数に前記モータ回転電気角周波数を加算して電源角周波数を出力する第1加算器と、
前記電源角周波数を積分して前記電源位相を出力する積分器と、
前記モータ回転電気角周波数に基づいてテーブルで求めた電流閾値よりも前記q軸電流指令値が小さいときすべり周波数補正係数として0を出力し、それ以外のとき一次電圧検出値と一次電圧理論値の差分に基づいたすべり周波数補正係数を出力する二次抵抗変動補償処理部と、
前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値と前記すべり周波数補正係数に基づいてすべり角周波数を出力するすべり演算部と、
を備え、
前記二次抵抗変動補償処理部は、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値に基づいて以下の(6)式により一次電圧検出値を出力する一次電圧検出値演算部と、
前記電源角周波数と前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値に基づいて以下の(7)式~(9)式により前記一次電圧理論値を出力する一次電圧理論値演算部と、
前記一次電圧検出値と前記一次電圧理論値の偏差を出力する第3減算器と、
前記モータ回転電気角周波数に基づいて前記電流閾値を出力する前記テーブルと、
前記電流閾値と前記q軸電流指令値とを比較し前記q軸電流指令値が前記電流閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第4比較器と、
前記第4比較器の出力が1の時0を出力し、前記第4比較器の出力が0の時に前記第3減算器の出力を出力する第1スイッチと、
前記第1スイッチの出力に基づいてPI制御し、前記すべり周波数補正係数を出力する二次抵抗補償器と、
を備え、
前記すべり演算部は、
前記q軸電流指令値とT型等価回路の二次抵抗を乗算する第1乗算器と、
前記d軸電流指令値とT型等価回路の相互インダクタンスを乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力を前記第2乗算器の出力で除算する第1除算器と、
前記第1除算器の出力と前記すべり周波数補正係数とを乗算する第3乗算器と、
前記第1除算器の出力と前記第3乗算器の出力を加算し、前記すべり角周波数を出力する第2加算器と、
を備え、
前記すべり角周波数を前記誘導電動機の駆動制御に用いることを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
V
1det
:一次電圧検出値
V
1d
*
:d軸電圧指令値
V
1q
*
:q軸電圧指令値
V
1d
:d軸電圧理論値
V
1q
:q軸電圧理論値
R
1
:一次抵抗
I
1d
*
:d軸電流指令値
I
1q
*
:q軸電流指令値
ω
1
:電源角周波数
L
s
:T-I形等価回路の励磁インダクタンス
M’:T-I形等価回路の相互インダクタンス
V
1
:一次電圧理論値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の定数である二次抵抗が運転状態に応じて変動した場合にも、適切に補償可能な誘導電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、誘導電動機IMの温度変化により生じる二次抵抗の変動に起因してトルク精度が悪化することを課題としている。特許文献1では、一次電圧の理論値と実際値の偏差よりすべり周波数を補正して、二次抵抗の変動を補正している。
【0003】
特許文献2は、運転状態によってモータ定数が変動した際に二次磁束が指令通りに得ることができなくなりトルク制御精度が悪化することを課題としている。特許文献2は、d軸の誘起電圧成分の検出値と理論値の差分から1次周波数の補償値を求めて、軸ずれを補償する方式である。この軸ずれは、温度変化による二次抵抗値の変動を補償する方式と同様の効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-51788号公報
【文献】特開2000-333500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、一次電圧の理論値と一次電圧の実際値とが一致するようにすべり周波数を補正することについて記載されている。この手法は、(1)式と(2)式の関係が同一極性になることを前提に補正している。
【0006】
【0007】
【0008】
しかし、低速・低トルク時には極性が反転する。このため、特許文献1の手法では補償を確実に実施することができない問題点がある。
【0009】
特許文献2は、力行・回生に応じてゲインの切り替えを実施する必要があるため、回転数とトルクの関係より力行・回生を判定する必要がある。しかし、回転数の検出値は遅れがあり、低速時には検出誤差が大きくなるため正確に検出することは難しい。よって、低速時には不感帯を設けて二次抵抗動作を停止する必要がある。このように、ゲインの切り替えと不感帯の動作が必要となるため、ゲインの処理が煩雑となる問題がある。
【0010】
以上示したようなことから、誘導電動機の運転状態に応じて二次抵抗が変動した場合にも適切に補償することにより、高精度にトルクを制御する誘導電動機の制御装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、誘導電動機を駆動制御する誘導電動機の制御装置であって、モータ回転電気角周波数が周波数閾値よりも小さく、かつ、q軸電流指令値またはトルク指令値から求めたq軸電流が電流閾値よりも小さいときすべり周波数補正係数として0を出力し、それ以外のとき一次電圧検出値と一次電圧理論値の差分に基づいたすべり周波数補正係数を出力する二次抵抗変動補償処理部と、d軸電流指令値と前記q軸電流指令値と前記すべり周波数補正係数に基づいてすべり角周波数を出力するすべり演算部と、を備え、前記すべり角周波数を前記誘導電動機の駆動制御に用いることを特徴とする。
【0012】
また、他の態様として、誘導電動機を駆動制御する誘導電動機の制御装置であって、モータ回転電気角周波数が基底回転角速度以上の場合にトルク閾値を前記モータ回転電気角周波数に応じて変動させて補正トルク閾値とし、前記モータ回転電気角周波数が周波数閾値よりも小さく、かつ、トルク指令値が前記補正トルク閾値よりも小さいときすべり角周波数補正係数として0を出力し、それ以外のとき一次電圧検出値と一次電圧理論値の差分に基づいたすべり周波数補正係数を出力する二次抵抗変動補償処理部と、d軸電流指令値とq軸電流指令値と前記すべり周波数補正係数に基づいてすべり角周波数を出力するすべり演算部と、を備え、前記すべり角周波数を前記誘導電動機の駆動制御に用いることを特徴とする。
【0013】
また、他の態様として、誘導電動機を駆動制御する誘導電動機の制御装置であって、モータ回転電気角周波数に基づいてテーブルで求めた電流閾値よりもq軸電流指令値が小さいときすべり周波数補正係数として0を出力し、それ以外のとき一次電圧検出値と一次電圧理論値の差分に基づいたすべり周波数補正係数を出力する二次抵抗変動補償処理部と、d軸電流指令値と前記q軸電流指令値と前記すべり周波数補正係数に基づいてすべり角周波数を出力するすべり演算部と、を備え、前記すべり角周波数を前記誘導電動機の駆動制御に用いることを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記二次抵抗変動補償処理部は、d軸電圧指令値とq軸電圧指令値に基づいて前記一次電圧検出値を出力する一次電圧検出値演算部と、電源角周波数と前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値に基づいて前記一次電圧理論値を出力する一次電圧理論値演算部と、前記一次電圧検出値と前記一次電圧理論値の偏差を出力する第3減算器と、前記q軸電流指令値または前記トルク指令値から求めた前記q軸電流と前記電流閾値と比較し前記q軸電流指令値または前記q軸電流が前記電流閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第1比較器と、前記モータ回転電気角周波数と前記周波数閾値を比較し前記モータ回転電気角周波数が前記周波数閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第2比較器と、前記第1比較器と前記第2比較器の出力が両方1の時1を出力し、それ以外の時0を出力する第1AND回路と、前記第1AND回路の出力が1の時0を出力し、前記第1AND回路の出力が0の前記第3減算器の出力を出力する第1スイッチと、前記第1スイッチの出力に基づいてPI制御し、前記すべり周波数補正係数を出力する二次抵抗補償器と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、他の態様として、前記二次抵抗変動補償処理部は、d軸電圧指令値とq軸電圧指令値に基づいて前記一次電圧検出値を出力する一次電圧検出値演算部と、電源角周波数と前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値に基づいて前記一次電圧理論値を出力する一次電圧理論値演算部と、前記一次電圧検出値と前記一次電圧理論値の偏差を出力する第3減算器と、前記モータ回転電気角周波数と前記周波数閾値を比較し前記モータ回転電気角周波数が前記周波数閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第2比較器と、前記基底回転角速度を前記モータ回転電気角周波数で除算する第2除算器と、前記モータ回転電気角周波数と前記基底回転角速度とを比較し、前記モータ回転電気角周波数が前記基底回転角速度以上の場合1を出力し、それ以外の時0を出力する第3比較器と、前記第3比較器の出力が1の時に前記第2除算器の出力を出力し、前記第3比較器の出力が0の時に1を出力する第2スイッチと、トルク閾値と前記第2スイッチの出力を乗算して前記補正トルク閾値を出力する第4乗算器と、前記補正トルク閾値と前記トルク指令値とを比較し、前記トルク指令値が前記補正トルク閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第4比較器と、前記第2比較器と前記第4比較器の出力が両方1の時1を出力し、それ以外の時0を出力する第2AND回路と、前記第2AND回路の出力が1の時0を出力し、前記第2AND回路の出力が0の前記第3減算器の出力を出力する第1スイッチと、前記第1スイッチの出力に基づいてPI制御し、前記すべり周波数補正係数を出力する二次抵抗補償器と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、他の態様として、前記二次抵抗変動補償処理部は、d軸電圧指令値とq軸電圧指令値に基づいて前記一次電圧検出値を出力する一次電圧検出値演算部と、電源角周波数と前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値に基づいて前記一次電圧理論値を出力する一次電圧理論値演算部と、前記一次電圧検出値と前記一次電圧理論値の偏差を出力する第3減算器と、前記モータ回転電気角周波数に基づいて前記電流閾値を出力する前記テーブルと、前記電流閾値と前記q軸電流指令値とを比較し前記q軸電流指令値が前記電流閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する第4比較器と、前記第4比較器の出力が1の時0を出力し、前記第4比較器の出力が0の時に前記第3減算器の出力を出力する第1スイッチと、前記第1スイッチの出力に基づいてPI制御し、前記すべり周波数補正係数を出力する二次抵抗補償器と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、その一態様として、磁束指令値に基づいて前記d軸電流指令値を出力する磁束電流指令値演算部と、トルク指令値に基づいて前記q軸電流指令値を出力するトルク電流指令値演算部と、前記d軸電流指令値とd軸電流検出値との偏差および前記q軸電流指令値とq軸電流検出値との偏差に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御部と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と電源位相に基づいてPWM制御により前記誘導電動機に電圧を出力するPWMインバータと、前記PWMインバータから出力される電流検出値を検出する電流検出器と、前記電流検出値を前記電源位相に基づいて前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、前記誘導電動機の回転位置を検出する回転位置検出部と、前記回転位置に基づいて前記モータ回転電気角周波数を出力する速度検出器と、前記すべり角周波数に前記モータ回転電気角周波数を加算して電源角周波数を出力する第1加算器と、前記電源角周波数を積分して前記電源位相を出力する積分器と、を備え、前記二次抵抗変動補償処理部は、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値と前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記電源角周波数と前記モータ回転電気角周波数に基づいて前記すべり周波数補正係数を出力することを特徴とする。
【0018】
また、その一態様として、前記すべり演算部は、前記q軸電流指令値とT型等価回路の二次抵抗を乗算する第1乗算器と、前記d軸電流指令値とT型等価回路の相互インダクタンスを乗算する第2乗算器と、前記第1乗算器の出力を前記第2乗算器の出力で除算する第1除算器と、前記第1除算器の出力と前記すべり周波数補正係数とを乗算する第3乗算器と、前記第1除算器の出力と前記第3乗算器の出力を加算し、前記すべり角周波数を出力する第2加算器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、誘導電動機の運転状態に応じて二次抵抗が変動した場合にも適切に補償することにより、高精度にトルクを制御する誘導電動機の制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1における誘導電動機の制御装置を示すブロック図。
【
図2】実施形態1におけるすべり演算部を示すブロック図。
【
図3】実施形態1における二次抵抗変動補償処理部を示すブロック図。
【
図4】実施形態2における誘導電動機の制御装置を示すブロック図。
【
図5】実施形態2における二次抵抗変動補償処理部を示すブロック図。
【
図6】実施形態3における二次抵抗変動補償処理部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願発明における誘導電動機の制御装置の実施形態1~3を
図1~
図6に基づいて詳述する。
【0022】
[実施形態1]
本実施形態1では、二次抵抗の変動を一次電圧の理論値と実際値の偏差より算出してすべり周波数を補正する手法を適用する。本手法を適用するために、不感帯処理を設けることにより制御が不安定になり二次抵抗の変動を補償できずにトルク精度が悪化することを防止する。また、適切な不感帯処理を設けることにより高周波数での運転状態でも適切に二次抵抗の変動を補償する。
【0023】
本実施形態1における誘導電動機の制御装置を
図1に示す。
図1では、誘導電動機IM制御時の電流制御系を示している。
【0024】
磁束電流指令値演算部1は、磁束指令値Flux*からd軸電流指令値I1d
*を算出する。トルク電流指令値演算部2は、トルク指令値Torque*からq軸電流指令値I1q
*を演算する。
【0025】
第1減算器3は、d軸電流指令値I1d
*からd軸電流検出値I1dを減算する。第2減算器4は、q軸電流指令値I1q
*からq軸電流検出値I1qを減算する。電流制御器5は第1減算器3の出力に対して電流制御を行い、d軸電圧指令値V1d
*を出力する。電流制御器6は第2減算器4の出力に対して電流制御を行い、q軸電圧指令値V1q
*を出力する。
【0026】
PWMインバータ7は、d軸電圧指令値V1d
*,q軸電圧指令値V1q
*、電源位相θに基づいたPWM制御により、誘導電動機IMに電圧を出力する。
【0027】
電流検出器8は、PWMインバータ7の出力であるU相電流検出値IU,V相電流検出値IV,W相電流検出値IWを検出する。三相二相変換器9は、U相電流検出値IU,V相電流検出値IV,W相電流検出値IWを電源位相θに基づいてd軸電流検出値I1d,q軸電流検出値I1qに変換する。
【0028】
回転位置検出部ppは誘導電動機IMの回転位置を検出する。速度検出器11は、回転位置に基づいてモータ回転電気角周波数ωrを出力する。
【0029】
二次抵抗変動補償処理部14は、d軸電圧指令値V1d
*,q軸電圧指令値V1q
*とd軸電流指令値I1d
*,q軸電流指令値I1q
*、電源角周波数ω1、モータ回転電気角周波数ωrに基づいてすべり周波数補正係数を出力する。
【0030】
すべり演算部10はd軸電流指令値I1d
*,q軸電流指令値I1q
*,すべり周波数補正係数に基づいて、すべり角周波数ωs
*を演算する。第1加算器12は、すべり角周波数ωs
*にモータ回転電気角周波数ωrを加算して電源角周波数ω1を出力する。積分器13は、電源角周波数ω1を積分し電源位相θを出力する。
【0031】
すべり角周波数ω
s
*は、すべり演算部10により、d軸電流指令値I
1d
*とq軸電流指令値I
1q
*とモータ定数よりすべり演算を実施することで得る。二次抵抗変動補償処理部14は、二次抵抗変動補償を行い、すべり演算に反映させる(後述の
図2、(3)式~(5)式)。この構成により、二次抵抗の変動を補正する。
【0032】
図2にすべり演算部10の構成を示す。すべり演算部10は、第1乗算器15、第2乗算器16と、第1除算器17と、第3乗算器18と、第2加算器19と、を備える。
【0033】
第1乗算器15は、q軸電流指令値I1q
*とT型等価回路の二次抵抗R2’を乗算する。第2乗算器16はd軸電流指令値I1d
*とT-I型等価回路の相互インダクタンスM’を乗算する。第1除算器17は第1乗算器15の出力を第2乗算器16の出力で除算する。すなわち、第1,第2乗算器15,16、第1除算器17では、以下の(3)式より補償処理無しのすべり角周波数指令ωsを演算する。
【0034】
【0035】
第3乗算器18は、二次抵抗変動補償処理部14から出力されたすべり周波数補正係数Kと補償無しのすべり角周波数指令ωsを乗算することにより、(4)式のようにすべり角周波数の補償項ωs_compを得る。
【0036】
【0037】
第2加算器19は、第1除算器17の出力(補償無しのすべり角周波数指令ωs)と第3乗算器18の出力(すべり角周波数の補償項ωs_comp=Kωs)を加算することにより、(5)式のように、すべり角周波数ωs
*を得る。
【0038】
【0039】
図3に本実施形態1における二次抵抗変動補償処理部14を示す。
【0040】
一次電圧検出値演算部20は、d軸電圧指令値V1d
*とq軸電圧指令値V1q
*に基づいて、(6)式の演算を行い、一次電圧検出値V1detを演算する。
【0041】
【0042】
一次電圧理論値演算部21は、電源角周波数ω1とd軸電流指令値I1d
*とq軸電流指令値I1q
*に基づいて、(7)式、(8)式、(9)式の演算を行い一次電圧理論値V1を演算する。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
ここで、V1:一次電圧理論値、V1d:d軸電圧理論値、V1q:q軸電圧理論値、R1:一次抵抗、Ls:T-I形等価回路の励磁インダクタンス、M’:T-I形等価回路の相互インダクタンスとする。
【0047】
第3減算器22は、一次電圧検出値V1detと一次電圧理論値V1の差分を算出する。第1比較器25は、q軸電流指令値I1q
*と電流閾値とを比較し、q軸電流指令値I1q
*が電流閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する。第2比較器26はモータ回転電気角周波数ωrと周波数閾値とを比較し、モータ回転電気角周波数ωrが周波数閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する。第1AND回路27は、モータ回転電気角周波数ωrとq軸電流指令値I1q
*が共に周波数閾値,電流閾値よりも小さい時1を出力し、それ以外の時0を出力する。
【0048】
第1スイッチ23は、モータ回転電気角周波数ωrとq軸電流指令値I1q
*が周波数閾値、電流閾値よりも小さい時0を出力し、それ以外の時は第3減算器22の出力を二次抵抗補償器24に出力する。二次抵抗補償器24は、第1スイッチ23の出力に基づいてPI制御を行い、すべり周波数補正係数を出力する。
【0049】
本実施形態1での特徴は下記となる。
・モータ回転電気角周波数ωrとq軸電流指令値I1q
*を周波数閾値、電流閾値と比較し、周波数閾値、電流閾値よりも小さいときは二次抵抗補償器24の入力を0とする。
【0050】
一次電圧検出値V1detに二次抵抗の変動が反映された値になることを説明する。
【0051】
電流制御器5,6では電流指令値と電流検出値の差分が0となるように制御される。誘導電動機IMの電流検出値が電流指令値と同一となるように制御されるため、電流制御器5,6の出力である電圧指令値には誘導電動機IMの状態変化が反映された値となる。このため、電流制御器5,6の出力であるd軸電圧指令値V1d
*とq軸電圧指令値V1q
*には、二次抵抗の変動が反映された電圧指令値となる。
【0052】
よって、d軸電圧指令値V1d
*とq軸電圧指令値V1q
*はそれぞれ(10)式、(11)式となる。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
ここで、λ2d:2次側d軸磁束、λ2q:2次側q軸磁束、M:T型等価回路の相互インダクタンス、R2’:T型等価回路の二次抵抗、Rerr’:T型等価回路の二次抵抗誤差である。
【0058】
一次電圧検出値V1detは(14)式となる。(14)式に示す通り、二次抵抗の変動により二次磁束が適切に制御できなくなるため、一次電圧検出値V1detに二次抵抗の変動が反映される。
【0059】
【0060】
一次電圧検出値V1detにおいて、二次抵抗の変動によって生じた誤差電圧成分V1diffを抜き出すと(15)式となる。
【0061】
【0062】
一次電圧検出値V1detと一次電圧理論値V1の差分を取り、二次抵抗補償器24から出力されたすべり周波数補正係数をすべり演算に適用し、一次電圧の検出値と理論値を一致させる。これにより、二次抵抗の変動を補償することが可能となる。
【0063】
次に、不感帯処理について説明する。
【0064】
誤差電圧成分V1diffは、低回転数(低出力周波数)の場合とq軸電流Iqが小さい場合に極性が反転する。誤差電圧成分V1diffが0となる場合において、モータ回転電気角周波数ωrとq軸電流検出値I1qについて解くと(16)式と(17)式となる。
【0065】
【0066】
【0067】
ただし、(17)式のAは以下の(18)式とする。また、Tはトルク指令である。
【0068】
【0069】
(16)式と(17)式を使用して、電流閾値、周波数閾値を設定する。
モータ回転電気角周波数ωrとq軸電流検出値I1qは相互に関係している。このため、どちらか一方の値を設定した後に、(16)式と(17)式を使用して他方を設定することにする。
【0070】
モータ回転電気角周波数ωrを設定した後に、q軸電流検出値I1qは(17)式を設定する場合:モータ回転電気角周波数ωrは下記より設定する。
1.使用される回転数の範囲。
2.回転数の検出精度。
例えば、モータ回転電気角周波数ωrの周波数閾値はトルク精度が要求される回転数+回転数検出精度を設定する。
【0071】
モータ回転電気角周波数ωrの周波数閾値を(17)式のωrに代入することにより求めて算出したものをq軸電流検出値I1qの電流閾値とする。
【0072】
q軸電流検出値I1qを設定した後に、モータ回転電気角周波数ωrは(16)式を設定する場合:q軸電流検出値I1qは下記より設定する。
1.要求されるトルクに必要な最小のq軸電流。
2.電流検出精度。
【0073】
例えば、q軸電流検出値I1qの電流閾値は要求されるトルクに必要な最小のq軸電流+電流検出精度を設定する。
【0074】
q軸電流検出値I1qの電流閾値を(16)式にI1qに代入することにより求めて算出したものをモータ回転電気角周波数ωrの周波数閾値とする。
【0075】
ここでは、q軸電流検出値I
1qを使用しているがトルク指令値T(=Torque
*)に置き換えても問題ない。q軸電流検出値I
1qとトルク指令値Tは、(19)式の関係がある。すなわち、
図3の第1比較器25で用いるq軸電流指令値I
1q
*を(19)式で求めたq軸電流I
1で置き換えればよい。
【0076】
【0077】
ここで、T:トルク指令値、Ktiq:トルク指令値-q軸電流指令変換係数である。
【0078】
これにより、要求される運転範囲でのトルク精度を確保しつつ安定した運転を実施することが可能となる。
【0079】
以上示したように、本実施形態1によれば、二次抵抗の変動によるトルク精度の悪化を防止するために、二次抵抗変動補償を実施する。この二次抵抗変動補償法でゲインの極性が切り替わる点を不感帯とする必要があるが、不感帯処理を適切に設定することにより高精度なトルク制御が実施できる。
【0080】
[実施形態2]
実施形態1では定出力範囲を考慮しきれていないため、本実施形態2では定出力範囲まで拡張して適切に不感帯を設定する。
【0081】
本実施形態2における誘導電動機の制御装置の構成を
図4に示す。本実施形態2では、二次抵抗変動補償処理部14にトルク指令値Torque
*を入力し、トルク指令値Torque
*を用いて、閾値と比較して不感帯処理を実施する。その他は、実施形態1と同じであるので説明は省略する。
【0082】
図5に本実施形態2における二次抵抗変動補償処理部14を示す。一次電圧検出値演算部20、一次電圧理論値演算部21、第3減算器22、第1スイッチ23、二次抵抗補償器24、第3比較器29については、実施形態1の
図3と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0083】
第2除算器28は、基底回転角速度をモータ回転電気角周波数ωrで除算する。第3比較器29は、モータ回転電気角周波数ωrと基底回転角速度を比較し、モータ回転電気角周波数ωrの方が大きい場合1を出力し、それ以外の時0を出力する。第2スイッチ30は、第3比較器29の出力が1の時に第2除算器28の出力を出力し、第3比較器29の出力が0の時に1を出力する。
【0084】
第4乗算器31は、トルク閾値と第2スイッチ30の出力を乗算して補正トルク閾値を出力する。第4比較器32は、補正トルク閾値とトルク指令値Torque*を比較し、トルク指令値Torque*が補正トルク閾値よりも小さい場合に1を出力し、それ以外の時に0を出力する。第2AND回路33は第4,第2比較器32、26の出力が両方1のとき1を出力する。
【0085】
図5に示すように、第4乗算器31では、トルク指令値Torque
*のトルク閾値に対して、(20)式の係数K
1を乗算する。
【0086】
【0087】
ここで、ωrbaseは基底回転角速度である。
【0088】
モータ回転電気角周波数ωrとトルク指令値Torque*が周波数閾値、補正トルク閾値よりも小さいときは二次抵抗補償器24の入力を0とする。
【0089】
トルク指令値Torque*で不感帯処理を実施する場合において、基底回転角速度ωrbase以上の範囲ではq軸電流とトルク指令の間に(19)式の関係が成り立たなくなる。
【0090】
基底回転角速度ωrbase以上では、二次磁束を減少させるために、d軸電流指令値を(21)式のように制御する。
【0091】
【0092】
ここで、I1dbase:基底回転速度以下でのd軸電流指令値である。
【0093】
基底回転速度以上では、q軸電流指令値I1qは(22)式のように制御する。
【0094】
【0095】
不感帯処理としてq軸電流指令値I1q
*を使用した場合と同様の効果を得るためには、(20)式の係数K1をトルク閾値に乗算して補正トルク閾値とする必要がある。
【0096】
これにより、トルク指令値を不感帯処理に使用した場合においても、基底回転速度以上で適切に二次抵抗変動補償が可能となり、高精度なトルク制御が実施可能となる。
【0097】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1と同等の効果としつつ、トルク指令値を用いて不感帯処理を実施する。この場合において、定出力範囲においても適切に補正トルク閾値を設定することにより、二次抵抗変動補償を実施することができる。
【0098】
[実施形態3]
本実施形態3における誘導電動機の制御装置の全体構成図は、実施形態1,2と同一であるため省略する。
【0099】
図6に本実施形態3における二次抵抗変動補償処理部14を示す。一次電圧検出値演算部20、一次電圧理論値演算部21、第3減算器22、第1スイッチ23、二次抵抗補償器24は実施形態1,2と同様であるため説明を省略する。q軸電流指令値I
1q
*と比較する電流閾値は、モータ回転電気角周波数ω
rに応じたテーブル34で事前に計算した値を保持する。テーブル34はモータ回転電気角周波数ω
rに応じた電流閾値を出力する。
【0100】
第4比較器35は、テーブル34から出力された電流閾値とq軸電流指令値I1q
*と比較する。q軸電流指令値I1q
*が電流閾値よりも小さいとき1を出力し、それ以外の時は0を出力する。
【0101】
q軸電流指令値I1q
*は、(17)式に示されているように複雑な式の形をしているため、常時計算を実施するのは複雑な処理が必要となる。モータ回転電気角周波数ωrがわかっていれば、d軸電流I1dもわかる。また、運転用途に応じて二次抵抗の変動補償範囲を見積もっておけば事前に計算可能となる。
【0102】
電流閾値を複数のモータ回転電気角周波数ωrの点で演算して、テーブルとして設定する。モータ回転電気角周波数ωrの設定点数は用途に応じて求められる回転数とトルクの精度に応じて設定すればよい。
【0103】
これにより、常時複雑な演算を実施せずに簡易な構成で各運転条件において適切な閾値を設定することが可能となる。
【0104】
以上示したように、本実施形態3によれば、複雑な演算処理を実施することなく、簡易な構成であるが実施例1,2よりもより高精度に二次抵抗変動補償を実施することが可能である。
【0105】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0106】
1…磁束電流指令値演算部
2…トルク電流指令値演算部
3、4…第1、第2減算器
5、6…電流制御器
7…PWMインバータ
8…電流検出器
9…三相二相変換器
10…すべり演算部
11…速度検出器
12…第1加算器
13…積分器
14…二次抵抗変動補償処理部
IM…誘導電動機
pp…回転位置検出部