(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】複合粒子、正極および全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250107BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250107BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250107BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250107BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250107BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250107BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250107BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250107BHJP
C01B 25/30 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
C01G53/00 A
C01B25/30 B
(21)【出願番号】P 2022062359
(22)【出願日】2022-04-04
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-048037(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112420977(CN,A)
【文献】特開2018-206669(JP,A)
【文献】特開2012-099323(JP,A)
【文献】特開2011-238523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/05 -10/0587
H01G 11/00 -11/86
C01G 53/00
C01B 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と、コーティング膜と、を含む複合粒子であって、
前記正極活物質粒子は、層状岩塩構造のリチウム含有複合酸化物を含み、
前記コーティング膜は、前記正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記コーティング膜は、リン酸化合物を含み、
前記複合粒子は、下記式(1):
X
P/T≧0.04 (1)
の関係を満たし、
上記式(1)中、
X
Pは、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定された前記複合粒子に含まれるリンの質量分率を示し、
Tは、走査型電子顕微鏡により測定された前記コーティング膜の膜厚
(nm)を示
し、
前記複合粒子は、下記式(2):
1.0≦C
Li
/C
P
≦2.5 (2)
の関係を満たし、上記式(2)中、
C
Li
は、X線光電子分光法により測定されるLi1sスペクトルのピーク面積から求まるリチウムの元素濃度を示し、
C
P
は、X線光電子分光法により測定されるP2pスペクトルのピーク面積から求まるリンの元素濃度を示し、
前記複合粒子は、80%以上の被覆率を有し、
前記被覆率は、X線光電子分光法により測定され、
前記正極活物質粒子は、1~5μmのD50を有し、
前記コーティング膜は、1~100nmの厚さを有する、複合粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の複合粒子と、硫化物固体電解質と、を含む、正極。
【請求項3】
請求項
2に記載の正極を含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合粒子、正極、全固体電池および複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2010-135090号公報)には、気相法によって形成され、リチウムを含むポリアニオン構造含有化合物からなる反応抑制部を備えた正極活物質および該正極活物質を含む全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極活物質粒子の表面にコーティング膜を形成することが提案されている。例えば、特許文献1に記載の全固体電池においては、固体電解質と正極活物質粒子との直接接触を、コーティング膜が阻害することにより、抵抗が低減し得る。
【0005】
一方、特許文献1の記載の技術では、正極活物質層の熱安定性が十分ではない、すなわち、電極からの発熱量が多いと考えられる。このような場合、電極の劣化が促進され、電池容量が低下する。
【0006】
したがって、本開示の目的は、正極活物質層の熱安定性の向上にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0008】
〔1〕複合粒子は、正極活物質粒子と、コーティング膜とを含む。正極活物質粒子は、層状岩塩構造のリチウム含有複合酸化物を含む。コーティング膜は、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜は、リン酸化合物を含む。
【0009】
複合粒子は、下記式(1)の関係を満たす。
【0010】
XP/T≧0.04 (1)
上記式(1)中、XPは、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy,ICP-AES)により測定された複合粒子に含まれるリン(P)の質量分率を示す。Tは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)により測定されたコーティング膜の膜厚を示す。
【0011】
全固体電池は、有機電解液を用いないため、発火しにくいことが知られている。一方、硫化物全固体電池は、硫化物固体電解質が正極材料由来の酸素と反応し、硫化物ガスを発生するおそれがある。
【0012】
リン酸リチウムを含むリン酸化合物は、難燃剤として広く知られている。該リン酸化合物は、従来のリチウムイオン電池においても異常発生時の電池の発熱を抑制するために用いられてきた。該リン酸化合物を正極活物質粒子表面に被覆することにより、例えば、過充電状態の正極が高温下で放出した酸素がリン酸と反応し、硫化物ガスが生成されるのを抑制することができると考えられる。
【0013】
本発明者らは、複合粒子中におけるリン酸の濃度が高い程、電極からの発熱量を低減し得ることを見出した。すなわち、コーティング膜の単位厚さあたりのPの量が多い程、正極材料由来の酸素による発熱を抑制することが期待される。
【0014】
〔2〕複合粒子は、下記式(2)の関係を満たしてもよい。
【0015】
CLi/CP≦2.5 (2)
上記式(2)中、CLiは、X線光電子分光法により測定されるLi1sスペクトルのピーク面積から求まるリチウム(Li)の元素濃度を示す。CPは、X線光電子分光法により測定されるP2pスペクトルのピーク面積から求まるPの元素濃度を示す。
【0016】
〔3〕複合粒子は、例えば、80%以上の被覆率を有していてもよい。被覆率は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)により測定される。
【0017】
〔4〕正極は、上記〔1〕に記載の複合粒子と、硫化物固体電解質とを含む。
【0018】
〔5〕全固体電池は、上記〔4〕に記載の正極を含む。
【0019】
〔6〕複合粒子の製造方法は、下記(a)および(b)を含む。
【0020】
(a)コーティング液と正極活物質粒子とを混合することにより、混合物を準備する。
【0021】
(b)混合物を乾燥することにより、複合粒子を製造する。
【0022】
コーティング液は、溶質と溶媒とを含む。
【0023】
正極活物質粒子の表面に付着したコーティング液が乾燥することにより、コーティング膜が生成し得る。上記〔6〕に記載のコーティング液により、上記〔1〕に記載のコーティング膜が生成し得る。
【0024】
〔7〕溶質は、例えば、リン酸化合物を含んでいてもよい。
【0025】
コーティング液は、例えば、下記式(3)の関係を満たしていてもよい。
【0026】
0≦nLi/nP≦1.5 (3)
上記式(3)中、nLiは、コーティング液中におけるリチウムのモル濃度を示す。nPは、コーティング液中におけるリンのモル濃度を示す。
【0027】
〔8〕上記(b)は、例えば、スプレードライ法により、複合粒子を形成することを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本実施形態における複合粒子を示す概念図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における全固体電池を示す概念図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における複合粒子の製造方法の概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【0030】
<用語の定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば、「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0031】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0032】
単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば、「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0033】
各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば、複数のステップが相前後してもよい。
【0034】
例えば、「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0035】
化合物が化学量論的組成式(例えば、「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0036】
「D50」は、体積基準の粒子径分布において、粒子径が小さい側からの頻度の累積が50%に到達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折法により測定され得る。例えば、島津製作所社製のレーザー回折式粒子径分布測定装置「製品名 SALD-7500」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。
【0037】
《XPS測定》
(粒子表面の組成比)
上記式(2)中のCLi、CPは、次の手順で測定され得る。XPS装置が準備される。例えば、アルバック・ファイ社製のXPS装置「製品名 PHI X-tool」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。複合粒子からなる試料粉末がXPS装置にセットされる。224eVのパスエネルギーにより、ナロースキャン分析が実施される。測定データが解析ソフトフェアにより処理される。例えば、アルバック・ファイ社製の解析ソフトフェア「製品名 MulTiPak」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。Li1sスペクトルのピーク面積(積分値)が、Liの元素濃度(CLi)に変換される。P2pスペクトルのピーク面積が、Pの元素濃度(CP)に変換される。CLiがCPで除されることにより、粒子表面の組成比(CLi/CP)が求まる。
【0038】
(被覆率)
被覆率もXPSにより測定される。上記の測定データが解析されることにより、C1s、O1s、P2p、M2p3の各ピーク面積から、各元素の比率が求まる。
【0039】
下記式(4)により、被覆率が求まる。
【0040】
θ=P/(P+M)×100 (4)
上記式(4)中、θは被覆率(%)を示す。P、Mは、各元素の比率を示す。
【0041】
なお「M2p3」および上記式(4)中のMは、正極活物質粒子の構成元素であって、Liおよび酸素(O)以外の元素を示す。すなわち、正極活物質粒子は下記式(5)により表されてもよい。
【0042】
LiMO2 (5)
Mは、1種の元素からなっていてもよいし、複数の元素からなっていてもよい。Mは、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。Mが複数の元素を含む時、各元素の組成比の合計は1であってもよい。
【0043】
例えば、正極活物質粒子が「LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2」である時、上記式(4)は、下記式(4’)に変形され得る。
【0044】
θ=P/(P+Ni+Co+Mn)×100 (4’)
上記式(4’)中のNiは、Ni2p3のピーク面積から求まるNiの元素比率を示す。Coは、Co2p3のピーク面積から求まるCoの元素比率を示す。Mnは、Mn2p3のピーク面積から求まるMnの元素比率を示す。
【0045】
《膜厚測定》
上記式(1)中のTは、次の手順で測定され得る。複合粒子が樹脂材料に包埋されることにより、試料が準備される。イオンミリング装置により、試料に断面出し加工が施される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のイオンミリング装置「製品名 IM4000PLUS」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。試料の断面がSEMにより観察される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のSEM装置「製品名 Regulus8100」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。10個の複合粒子について、それぞれ、5個の視野で膜厚が測定される。合計で50箇所の膜厚の算術平均が、膜厚とみなされる。
【0046】
《ICP測定》
(正極活物質粒子の組成比)
正極活物質粒子の組成比は、次の手順で測定され得る。0.01gの正極活物質粒子が純水で希釈されることにより、標準液が準備される。ICP-AES装置が準備される。例えば、島津製作所社製のICP-AES装置「製品名 ICPE-9000」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。ICP-AES装置により、標準液の発光強度が測定される。標準液の発光強度から、検量線が作成される。試料液の発光強度と、検量線とから、正極活物質粒子に含まれる元素のモル分率が求まる。
【0047】
(P付着量)
複合粒子に含まれるPの質量分率(XP)は、次の手順で測定され得る。塩酸、硝酸および硫酸が混合されることにより、混酸が準備される。混合比は、「塩酸/硝酸/硫酸=2/3/1(モル比)」である。混酸に複合粒子が溶解されることにより、溶液が準備される。0.01gの溶液が純水で100mLに希釈されることにより、試料液が準備される。Pの水溶液(1000ppm、10000ppm)が準備される。0.01gの水溶液が純水で希釈されることにより、標準液が準備される。ICP-AES装置が準備される。ICP-AES装置により、標準液の発光強度が測定される。標準液の発光強度から、検量線が作成される。試料液の発光強度と、検量線とから、複合粒子に含まれるPの質量分率(XP)が求まる。なお、正極活物質粒子に含まれるPは存在しないか、存在したとしてもごく微量である可能性が高いため、複合粒子に含まれるPの質量分率(XP)は、コーティング膜に含まれるPの質量分率とみなされる。
【0048】
(コーティング液中のLi、P、Naの質量濃度)
コーティング液中のLi、P、Naの質量濃度は、次の手順で測定される。0.01gのコーティング液が純水で希釈されることにより、100mlの試料液が準備される。Li、P、Naの水溶液(1000ppm、10000ppm)が準備される。0.01gの水溶液が純水で希釈されることにより、標準液が準備される。ICP-AES装置が準備される。ICP-AES装置により、標準液の発光強度が測定される。標準液の発光強度から、検量線が作成される。ICP-AES装置により、試料液(コーティング液の希釈液)の発光強度が測定される。試料液の発光強度と、検量線とから、コーティング液におけるLi、P、Naの質量濃度が求まる。さらにLi、Pの質量濃度がモル濃度に変換される。Liのモル濃度(nLi)がPのモル濃度(nP)で除されることにより、モル比(nLi/nP)が求まる。
【0049】
<複合粒子>
図1は、本実施形態における複合粒子を示す概念図である。複合粒子5は、例えば、「被覆正極活物質」等と称され得る。複合粒子5は、正極活物質粒子1とコーティング膜2とを含む。複合粒子5は、例えば、凝集体を形成していてもよい。すなわち1個の複合粒子5が、2個以上の正極活物質粒子1を含んでいてもよい。複合粒子5は、例えば、1~50μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、5~15μmのD50を有していてもよい。
【0050】
コーティング膜2は、複合粒子5のシェルである。コーティング膜2は、正極活物質粒子1の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜2は、リン酸化合物を含む。コーティング膜2がリン酸化合物を含むことにより、発熱の抑制が期待される。コーティング膜2は、例えば、Li、炭素(C)等を含んでいてもよい。
【0051】
コーティング膜2は、質量分率で、0.2~10%のPを含む。コーティング膜2が質量分率で0.2~10%のPを含むことにより、発熱が抑制され得る。コーティング膜2は、質量分率で、0.5~2.0%のPを含むことが好ましい。
【0052】
複合粒子5において、粒子表面の組成比(CLi/CP)は3.5以下であり、2.5以下であることが好ましい〔上記式(2)参照)。組成比(CLi/CP)が2.5以下であることにより、より発熱が抑制され得る。組成比(CLi/CP)は、例えば、1.96以下であってもよいし、1.73以下であってもよいし、1.64以下であってもよい。組成比(CLi/CP)は、ゼロであってもよい。組成比(CLi/CP)は、例えば、0.1以上であってもよいし、0.5以上であってもよいし、1.0以上であってもよい。組成比(CLi/CP)は、例えば、1.64~3.1であってもよい。
【0053】
被覆率は、例えば、80%以上であってもよい。被覆率が80%以上であることにより、発熱の抑制が期待される。被覆率は、例えば、82%以上であってもよいし、84%以上であってもよいし、85%以上であってもよいし、88%以上であってもよい。被覆率は、例えば、100%であってもよいし、99%以下であってもよいし、95%以下であってもよい。被覆率は、例えば、80~88%であってもよい。
【0054】
コーティング膜2は、1~100nmの厚さを有する。コーティング膜2が1~100nmの厚さを有することで、コーティングとしての機能を果たしつつ、抵抗が抑制され得る。コーティング膜2は、5~25nmの厚さを有することが好ましい。
【0055】
正極活物質粒子1は、複合粒子5のコアである。正極活物質粒子1は、二次粒子(一次粒子の集合体)であってもよい。正極活物質粒子1(二次粒子)は、例えば、1~50μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、3~15μmのD50を有していてもよい。正極活物質粒子1の粒子径が大きい(例えば、50μm超え)場合、抵抗が上がるおそれがある。
【0056】
正極活物質粒子1は任意の成分を含み得る。正極活物質粒子1は、層状岩塩構造のリチウム含有複合酸化物を含む。該リチウム含有複合酸化物は、例えば、下記式(5)によって表される。
【0057】
LiaMO2 (5)
上記式(5)中、Mは、Ni、Co、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含み、aは、例えば、0.90≦a≦1.20の関係を満たしてもよい。該リチウム含有複合酸化物は、例えば、Li1.10Ni1/3Co1/3Mn1/3O2、Li1.10Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、Li1.10Ni0.60Co0.20Mn0.20O2、Li1.10Ni0.80Co0.10Mn0.10O2等であってもよい。
【0058】
なお、正極活物質粒子1に含まれるPは存在しないか、存在したとしてもごく微量である。
【0059】
<全固体電池>
図2は、本実施形態における全固体電池を示す概念図である。全固体電池100は、例えば、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体は、例えば、アルミニウムラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。外装体が、発電要素50を収納していてもよい。発電要素50は、正極10とセパレータ層30と負極20とを含む。すなわち全固体電池100は、正極10とセパレータ層30と負極20とを含む。
【0060】
《正極》
正極10は層状である。正極10は、例えば、正極活物質層と、正極集電体とを含んでいてもよい。例えば、正極集電体の表面に正極合材が塗着されることにより、正極活物質層が形成されていてもよい。正極集電体は、例えば、アルミニウム(Al)箔等を含んでいてもよい。正極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0061】
正極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層は、セパレータ層30に密着している。正極活物質層は正極合材を含む。正極合材は、複合粒子と硫化物固体電解質とを含む。すなわち正極10は、複合粒子と硫化物固体電解質とを含む。複合粒子の詳細は前述のとおりである。
【0062】
硫化物固体電解質は、正極活物質層内にイオン伝導パスを形成し得る。硫化物固体電解質の配合量は、100体積部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば、1~200体積部であってもよいし、50~150体積部であってもよいし、50~100体積部であってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、Liと、Pと、硫黄(S)とを含む。硫化物固体電解質は、例えば、O、珪素(Si)等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ハロゲン等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ヨウ素(I)、臭素(Br)等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ガラスセラミックスであってもよいし、アルジロダイトであってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0063】
正極活物質層は、例えば、導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は、正極活物質層内に電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば、0.1~10質量部であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0064】
正極活物質層は、例えば、バインダをさらに含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば、0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0065】
《負極》
負極20は、正極10の対電極である。負極20は層状である。負極20は、例えば、負極活物質層と、負極集電体とを含んでいてもよい。例えば、負極集電体の表面に負極合材が塗着されることにより、負極活物質層が形成されていてもよい。負極集電体は、例えば、銅(Cu)箔、Ni箔等を含んでいてもよい。負極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0066】
負極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層は、セパレータ層30に密着している。負極活物質層は負極合材を含む。負極合材は、負極活物質粒子と硫化物固体電解質とを含む。負極合材は、導電材およびバインダをさらに含んでいてもよい。負極合材と正極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。負極活物質粒子は、任意の成分を含み得る。負極活物質粒子は、例えば、黒鉛、Si、酸化珪素〔SiOx(0<x<2)〕、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0067】
《セパレータ層》
セパレータ層30は、正極10と負極20との間に介在している。セパレータ層30は、正極10を負極20から分離している。セパレータ層30は、硫化物固体電解質を含む。セパレータ層30はバインダをさらに含んでいてもよい。セパレータ層30と正極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。セパレータ層30と負極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0068】
<複合粒子の製造方法>
図3は、本実施形態における複合粒子の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における複合粒子の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)混合物の準備」および「(b)複合粒子の製造」を含む。本製造方法は、例えば、「(c)熱処理」等をさらに含んでいてもよい。
【0069】
《(a)混合物の準備》
本製造方法は、コーティング液と、正極活物質粒子とを混合することにより、混合物を準備することを含む。正極活物質粒子の詳細は前述のとおりである。混合物は、例えば、懸濁液であってもよいし、湿粉であってもよい。例えば、コーティング液中に正極活物質粒子(粉末)が分散されることにより、懸濁液が形成されてもよい。例えば、粉末中に、コーティング液が噴霧されることにより、湿粉が形成されてもよい。本製造方法においては、任意の混合装置、造粒装置等が使用され得る。
【0070】
コーティング液は、溶質と溶媒とを含む。溶質は膜材(コーティング膜の原料)を含む。コーティング液は、例えば、懸濁物(不溶解成分)、沈殿物等をさらに含んでいてもよい。
【0071】
溶質量は、100質量部の溶媒に対して、例えば、0.1~20質量部であってもよいし、1~15質量部であってもよいし、5~10質量部であってもよい。溶媒は、溶質が溶解する限り、任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、水、アルコール等を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、イオン交換水等を含んでいてもよい。
【0072】
溶質は、例えば、リン酸化合物を含んでいてもよい。これにより、溶質はPを含み得る。リン酸化合物は、例えば、無水リン酸(P2O5)、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸〔(HPO3)n〕、およびポリリン酸からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。リン酸化合物は、例えば、メタリン酸およびポリリン酸からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。メタリン酸およびポリリン酸は、その他のリン酸化合物に比して、長い分子鎖を有し得る。リン酸化合物が長い分子鎖を有することにより、連続性を有するコーティング膜が生成されやすくなると考えられる。コーティング膜が連続性を有することにより、例えば、被覆率の向上が期待される。
【0073】
溶質は、ナトリウム(Na)をさらに含んでいてもよい。コーティング液にNaが溶解していることにより、リン酸化合物の安定性が向上する可能性がある。コーティング液におけるNaの濃度(質量濃度)は、例えば、0~1%であってもよい。Naの濃度は、例えば、0.6%以下であってもよいし、0.5%以下であってもよい。Naの濃度は、例えば0.5~0.6%であってもよい。
【0074】
溶質は、リチウム化合物をさらに含んでいてもよい。溶質は、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム等を含んでいてもよい。Pに対するLiのモル比(nLi/nP)は、例えば、1.5以下であってもよい〔上記式(3)参照〕。モル比(nLi/nP)が1.5以下であることにより、粒子表面の組成比(CLi/CP)が低減することが期待される。モル比(nLi/nP)は、例えば、0.75以下であってもよいし、0.30以下であってもよいし、ゼロであってもよい。モル比(nLi/nP)は、例えば、0~0.30であってもよいし、0.30~1.5であってもよい。
【0075】
《(b)複合粒子の製造》
本製造方法は、混合物を乾燥することにより、複合粒子を製造することを含む。正極活物質粒子の表面に付着したコーティング液が乾燥することにより、コーティング膜が生成される。本製造方法においては、任意の乾燥方法が使用され得る。
【0076】
例えば、スプレードライ法により、複合粒子が形成されてもよい。すなわち、懸濁液がノズルから噴霧されることにより、液滴が形成される。液滴は、正極活物質粒子とコーティング液とを含む。例えば、熱風により、液滴が乾燥されることにより、複合粒子が形成され得る。スプレードライ法の使用により、例えば、被覆率の向上が期待される。
【0077】
スプレードライ用の懸濁液の固形分率は、体積分率で、例えば、1~50%であってもよいし、10~30%であってもよい。ノズル径は、例えば、0.1~10mmであってもよいし、0.1~1mmであってもよい。熱風温度は、例えば、100~200℃であってもよい。
【0078】
例えば、転動流動層コーティング装置により、複合粒子が製造されてもよい。転動流動層コーティング装置においては、「(a)混合物の準備」および「(b)複合粒子の製造」が同時に実施され得る。
【0079】
《(c)熱処理》
本製造方法は、複合粒子に熱処理を施すことを含んでいてもよい。熱処理によりコーティング膜が定着し得る。熱処理は「焼成」とも称され得る。本製造方法においては、任意の熱処理装置が使用され得る。熱処理温度は、例えば、150~300℃であってもよい。熱処理時間は、例えば、1~10時間であってもよい。例えば、空気中で熱処理が実施されてもよいし、不活性雰囲気下で熱処理が実施されてもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を用いて本実施形態を説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0081】
<正極活物質粒子の製造>
以下のように層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物である正極活物質粒子A~Cが製造された。
【0082】
《正極活物質粒子A》
硫酸ニッケル(II)6水和物(NiSO4・6H2O)、硫酸コバルト(II)7水和物(CoSO4・7H2O)および硫酸マンガン(II)5水和物(MnSO4・5H2O)を純水に溶解し、原料水溶液を得た。原料水溶液におけるNi、CoおよびMnのモル比は1:1:1であり、原料水溶液中のNi、CoおよびMnの合計のモル濃度は、1.8mol/Lであった。
【0083】
反応容器内に10g/Lのアンモニア水溶液1Lを準備した。該反応容器に原料水溶液1Lを5.2mL/minの速度で滴下しながら、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHが11.20±0.2以内になるように調整することで沈殿を形成させ、前駆体を得た。沈殿反応開始から終了までの間、反応液のアンモニア濃度が10g/Lとなるように該アンモニア水溶液を適宜加えた。
【0084】
前駆体に、炭酸リチウム(Li2CO3)をNi、CoおよびMnに対するLiのモル比が1.10となるように混合し、酸素雰囲気下、800℃で5時間焼成することで、正極活物質粒子Aを得た。前述の手順により、正極活物質粒子Aの組成およびD50が測定された。正極活物質粒子Aの組成は、Li1.10Ni1/3Co1/3Mn1/3O2であり、D50は5.0μmであった。
【0085】
《正極活物質粒子B~C》
D50が3.0μmとなるように沈殿形成時間を調整して前駆体を得た点を除いては、正極活物質粒子Aと同様の方法で正極活物質粒子Bを得た。D50が20.0μmとなるように沈殿形成時間を調整して前駆体を得た点を除いては、正極活物質粒子Aと同様の方法で正極活物質粒子Cを得た。前述の手順により、正極活物質粒子B~Cの組成が測定された。正極活物質粒子B~Cの組成は、Li1.10Ni1/3Co1/3Mn1/3O2であった。
【0086】
<全固体電池の製造>
以下のようにNo.1~7に係る複合粒子、正極および全固体電池が製造された。以下、例えば、「No.1に係る複合粒子」が「No.1」と略記され得る。
【0087】
《No.1》
(コーティング液)
166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。さらにモル比(nLi/nP)が0.75となるように、コーティング液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)が溶解された。
【0088】
(正極)
正極活物質粒子Aが準備された。50質量部の正極活物質粒子の粉末が、53.7質量部のコーティング液に分散されることにより、懸濁液が準備された。BUCHI社製のスプレードライヤー「製品名 Mini Spray Dryer B-290」が準備された。懸濁液がスプレードライヤーに供給されることにより、複合粒子の粉末が製造された。スプレードライヤーの給気温度は200℃であり、給気風量は0.45m3/minであった。複合粒子が空気中で熱処理された。熱処理温度は200℃であった。熱処理時間は5時間であった。前述の手順により、粒子表面の組成比(CLi/CP)、Pの質量分率(XP)、コーティング膜の膜厚(T)および被覆率が測定された。また、測定されたXPとTとから、XP/Tが測定された。結果は、下記表1に示される。なお、後述するNo.2~7においても、同様に粒子表面の組成比(CLi/CP)、Pの質量分率(XP)、コーティング膜の膜厚(T)および被覆率が測定されるものとする。
【0089】
下記材料が準備された。
【0090】
硫化物固体電解質:LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス(D50:0.8μm)
導電材 :VGCF
バインダ :SBR
分散媒 :ヘプタン
正極集電体 :Al箔
複合粒子と、硫化物固体電解質とが準備された。複合粒子と硫化物固体電解質とは、アルゴン(Ar)ガスで満たされたグローブボックス(露点:-30℃)内で秤量された。これらと、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、正極スラリーが準備された。混合比は「複合粒子/硫化物固体電解質=6/4(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して3質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子に対して0.7質量部であった。エスエムテー社製の超音波ホモジナイザ―「型式 UH-50」により、正極スラリーが十分攪拌された。正極スラリーが正極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより正極原反が製造された。正極原反から、円盤状の正極が切り出された。正極の面積は1cm2であった。
【0091】
(負極)
硫化物固体電解質、導電材、バインダおよび分散媒として、正極と同様の材料が準備された。撹拌装置として、プライミクス社製の撹拌装置(製品名「フィルミックス」、型式「30-L型」)が準備された。攪拌装置の攪拌容器に、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが、投入された。20000rpmの回転数で30分間、攪拌容器内の材料が攪拌された。
【0092】
負極活物質粒子としてLi4Ti5O12(D50:1.0μm)、および、負極集電体としてCu箔が準備された。攪拌容器に、負極活物質粒子が追加投入された。撹拌は、15000rpmで60分間行われた。負極活物質粒子と硫化物固体電解質との混合比は「複合粒子/硫化物固体電解質=7/3(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して1質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子に対して2質量部であった。負極活物質粒子の投入後、15000rpmの回転数で60分間、攪拌容器内の材料が攪拌され、負極スラリーが調製された。負極スラリーが負極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより負極原反が製造された。負極原反から、円盤状の負極が切り出された。負極の面積は1cm2であった。
【0093】
(セパレータ層)
硫化物固体電解質として、LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス(D50:2.5μm)が準備された。プレス加工用の金型として、内径断面積が1cm2の筒状のセラミックスが準備された。該硫化物固体電解質64.8mgを金型に入れ、平滑にした後、1ton/cm2の圧力によりプレスをして押し固めることで、セパレータ層を得た。
【0094】
(全固体電池)
上記金型内において、セパレータ層の片面に正極が、もう一方の面に負極が、配置された。6ton/cm2の圧力により1分間、負極、セパレータ層および正極がまとめてプレスされた。正極および負極にステンレス棒を入れ、0.5ton/cm2で拘束することで、発電要素が形成された。筐体として、アルミラミネートフィルム製のパウチが準備された。電池要素が筐体に封入された。これにより、全固体電池が形成された。
【0095】
《No.2》
正極活物質粒子Aが準備された。166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。さらにモル比(nLi/nP)が0.30となるように、コーティング液に水酸化リチウム・1水和物が溶解された。これ以降、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0096】
《No.3》
正極活物質粒子Aが準備された。166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。コーティング液に水酸化リチウム・1水和物を加えなかった。これ以降、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0097】
《No.4》
正極活物質粒子Bが準備された。166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。コーティング液に水酸化リチウム・1水和物を加えなかった。これ以降、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0098】
《No.5》
正極活物質粒子Aが準備された。166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。さらにモル比(nLi/nP)が1.50となるように、コーティング液に水酸化リチウム・1水和物が溶解された。これ以降、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0099】
《No.6》
正極活物質粒子Cが準備された。166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。さらにモル比(nLi/nP)が2.00となるように、コーティング液に硝酸リチウム(LiNO3)が溶解された。これ以降、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0100】
《No.7》
正極活物質粒子Cが準備された。166質量部のイオン交換水に、10.8質量部のメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。さらにモル比(nLi/nP)が0.30となるように、コーティング液に硝酸リチウムが溶解された。これ以降、No.1と同様に、複合粒子、正極および全固体電池が製造された。
【0101】
<評価>
定電流-定電圧充電と、定電流放電とにより、評価用電池の容量が確認された。充放電の時間率は、1/3Cであった。「C」は時間率を表す記号である。1Cの時間率では、電池の満充電容量が1時間で放電される。
【0102】
1/3Cの時間率により、評価用電池のSOC(state of charge)が100%(電圧:3.0V)に調整された。SOCの調整後、Arガスで満たされたグローブボックス(露点:-70℃)内で各全固体電池を解体し、正極を回収した。回収した正極を裁断し、耐圧ステンレス容器に3mg投入し、蓋をかしめて密封した。該耐圧ステンレス容器をグローブボックスから取り出し、日立ハイテクノロジーズ社製の示差走査熱量(DSC)装置「製品名 DSC7000X」により、ヘリウム(He)ガスフロー下、1℃/minの昇温速度で室温から500℃まで昇温し、発熱量を測定した。結果は、下記表1に示される。
【0103】
【0104】
<結果>
SEMにより測定されたコーティング膜の膜厚に対する、ICP-AESにより測定された複合粒子に含まれるPの質量分率(XP/T)が0.04以上であるNo.1~5は、発熱量が低減している。また、粒子表面の組成比(CLi/CP)が2.5以下であるNo.1~4は、さらに発熱量が低減している。なお、No.1~5の被覆率は80%以上であり、発熱量の低減に寄与しているものと考えられる。
【0105】
SEMにより測定されたコーティング膜の膜厚に対する、ICP-AESにより測定された複合粒子に含まれるPの質量分率(XP/T)が0.04未満であるNo.6および7は、発熱量が増大している。また、No.6および7の被覆率は80%未満であり、発熱量の増大に影響しているものと考えられる。
【0106】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0107】
1 正極活物質粒子、2 コーティング膜、5 複合粒子、10 正極、20 負極、30 セパレータ層、50 発電要素、100 全固体電池。