(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】締結機構
(51)【国際特許分類】
F16H 57/02 20120101AFI20250107BHJP
F16H 57/03 20120101ALI20250107BHJP
【FI】
F16H57/02
F16H57/03
(21)【出願番号】P 2022064522
(22)【出願日】2022-04-08
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】大沼 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】川口 裕貴
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100420(JP,A)
【文献】特開2018-179220(JP,A)
【文献】特開2002-054723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/02
F16H 57/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディのオイル排出口が所定方向で変速機のケースのオイル導入口に重なるように前記バルブボディを前記ケースに締結する締結機構であって、
前記ケースに固定された締結部材と、
前記締結部材を前記バルブボディに固定した固定部材と、を備え、
前記固定部材は、頭部、及び頭部から延び前記頭部よりも外径が小さい軸部、を含み、
前記締結部材は、貫通穴を有し、
前記軸部は、前記所定方向に交差した方向に延び、前記貫通穴の内周面から離間して前記貫通穴を貫通し、前記バルブボディに形成された嵌合穴に嵌合し、
前記頭部は、前記バルブボディとの間で前記締結部材を挟持している、締結機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結機構に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機のケースの高剛性化を図るために、バルブボディをケースに締結する締結機構が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バルブボディのオイル排出口が変速機のケースのオイル導入口に重なるように、バルブボディがケースに締結される。この場合、締結機構による締結の仕方によっては、締結機構の反力がバルブボディのオイル排出口をケースのオイル導入口から引き離すように作用して、この隙間からオイルが漏れるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、バルブボディのオイル排出口と変速機のケースのオイル導入口との隙間からのオイル漏れを抑制しつつ、ケースの高剛性化を図ることができる締結機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、バルブボディのオイル排出口が所定方向で変速機のケースのオイル導入口に重なるように前記バルブボディを前記ケースに締結する締結機構であって、前記ケースに固定された締結部材と、前記締結部材を前記バルブボディに固定した固定部材と、を備え、前記固定部材は、頭部、及び頭部から延び前記頭部よりも外径が小さい軸部、を含み、前記締結部材は、貫通穴を有し、前記軸部は、前記所定方向に交差した方向に延び、前記貫通穴の内周面から離間して前記貫通穴を貫通し、前記バルブボディに形成された嵌合穴に嵌合し、前記頭部は、前記バルブボディとの間で前記締結部材を挟持している、締結機構によって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バルブボディのオイル排出口と変速機のケースのオイル導入口との隙間からのオイル漏れを抑制しつつ、ケースの高剛性化を図ることができる締結機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A及び
図1Bは、変速機のケースに固定されたバルブボディを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[変速機のケース10とバルブボディ50の概略構成]
図1A及び
図1Bは、変速機のケース10に固定されたバルブボディ50を示した模式図である。
図1A及び
図1Bには、互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸を示している。
図1Aは、ケース10をX軸+方向で見た場合の側面図である。
図1Bは、ケース10をZ軸+方向で見た場合の底面図である。
【0010】
ケース10は、中央壁部11、前方壁部12、及び後方壁部13を含む。中央壁部11は、Y軸に沿って延びた略角筒状であり、不図示の変速機本体を覆うと共にオイルパン30及びバルブボディ50が締結されている。前方壁部12は、中央壁部11よりもY軸+方向である前方側に設けられており、Y軸+方向に径が拡大した略円筒状であって、不図示のトルクコンバータを覆う。後方壁部13は、中央壁部11からY軸-方向に突出し、不図示の変速機本体のアウトプットシャフトを支持する。
【0011】
バルブボディ50は、詳しくは後述するが締結機構70等により中央壁部11の底壁面16に接触するように中央壁部11に締結されている。これによりケース10の高剛性化が図られており、振動時の騒音などが抑制されている。オイルパン30は、バルブボディ50よりも更にZ軸-方向である下方側に位置するように中央壁部11に固定されている。バルブボディ50内には、オイルを変速機本体やトルクコンバータへ供給するための各種のバルブを含む油圧回路が形成されている。バルブボディ50は、オイルパン30に貯留されたオイルを、ストレーナを介してオイルポンプにより吸入し、変速機本体やトルクコンバータに潤滑油又は作動油として供給する。オイルパン30は、変速機本体やトルクコンバータから排出されたオイルを回収する。
【0012】
[比較例での締結機構]
上述した本実施例での締結機構70について説明する前に、比較例での締結機構70xについて説明する。
図2A及び
図2Bは、比較例での締結機構70xの説明図である。
図2Aは、Y軸+方向でバルブボディ50を見た背面図である。尚、
図2Aではオイルパン30については図示を省略してある。
【0013】
図2Aに示すように、バルブボディ50の上面51がケース10の底壁面16に接触するようにしてバルブボディ50がケース10に締結されている。底壁面16は、ケース10の右側壁部14及び左側壁部15から窪んで形成されている。
図2Aには一つのボルト61を示しているが、実際には複数のボルト61がバルブボディ50の下面52から上面51にかけて貫通するようにして、バルブボディ50がケース10に締結されている。また、ケース10の底壁面16とバルブボディ50の上面51との間にノックピン62が配置されており、ノックピン62によりXY平面方向でのケース10に対するバルブボディ50の位置ずれが規制されている。
【0014】
バルブボディ50の上面51にはオイル排出口57が形成されている。ケース10の底壁面16にはオイル導入口17が形成されている。オイル導入口17は、変速機本体やトルクコンバータに形成されたオイル通路と連通している。オイル排出口57はオイル導入口17にZ軸+方向で重なるようにして、バルブボディ50はケース10に締結されている。Z軸+方向は、所定方向の一例である。オイル排出口57は、バルブボディ50内に導入されたオイルをオイル導入口17に排出する。オイル排出口57から排出されてオイル導入口17内に導入されたオイルは、変速機本体やトルクコンバータに形成されたオイル通路を介して各部に供給される。
【0015】
図2Bは、締結機構70xの詳細図である。締結機構70xは、スティフナー71x、ボルト81及び82、を含む。スティフナー71xは、長手方向がX軸に沿い、短手方向がY軸に沿った金属製の薄い平板状であり、XY平面に略平行な姿勢でケース10とバルブボディ50とに固定されている。スティフナー71xの一端は、ボルト81によりケース10の左側壁部15に固定されている。スティフナー71xの他端は、ボルト82によりバルブボディ50の下面52に固定されている。詳細には、ボルト81は、スティフナー71xの一端に形成された貫通穴に貫通して、左側壁部15に形成された螺合穴に螺合することにより、スティフナー71xの一端を左側壁部15に固定している。同様に、ボルト82は、スティフナー71xの他端に形成された貫通穴を貫通して、バルブボディ50に形成された螺合穴に螺合することにより、スティフナー71xの他端をバルブボディ50に固定している。このように締結機構70xは、バルブボディ50を下面52から支持するようにしてケース10とバルブボディ50とを締結している。
【0016】
ボルト82は、Z軸に沿って延びている。このため、ボルト82の螺合量によっては、スティフナー71xのボルト82側の他端がボルト81側の一端よりもZ軸+方向側に湾曲するように力が作用するおそれがある。この状態では、スティフナー71xのZ軸-方向での反力により、バルブボディ50はZ軸-方向に力が作用するおそれがある。ここで、上面51と底壁面16との間には、オイル排出口57からオイル導入口17に流れるオイルの圧力が作用する。この油圧が大きいと、底壁面16から上面51を引き離すように力が作用するおそれがある。このようにスティフナー71xの反力とオイルの圧力の作用により、上面51と底壁面16との間に隙間が生じて、この隙間からオイルが漏れるおそれがある。オイルが漏れると、変速機に供給されるオイルの量が不足するおそれがある。
【0017】
[本実施例での締結機構]
図3A及び
図3Bは、本実施例での締結機構70の説明図である。尚、本実施例について、比較例と同一の構成については同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
図3A及び
図3Bは、それぞれ
図2A及び
図2Bに対応している。締結機構70は、スティフナー71、ボルト81及び82を含む。スティフナー71は、スティフナー71xと同様に長手方向がX軸に沿った薄い金属製の板状であるが、水平部72及び垂直部73を含む。水平部72は、ボルト81により左側壁部15に固定されており、XY平面に略平行である。これに対して垂直部73は、ボルト82によりバルブボディ50に固定されており、XZ平面に略平行である。即ち、スティフナー71は一端から他端にかけて途中でX軸周りに略90°だけ捻じられた形状である。従って、ボルト81はZ軸に沿って延びているが、ボルト82は、Y軸+方向に沿って延びている。スティフナー71は、締結部材の一例である。ボルト82は固定部材の一例である。Y軸+方向は、所定方向に交差した方向の一例である。
【0018】
図4A及び
図4Bは、ボルト82周辺の説明図である。
図4Aは、ボルト82周辺を示したYZ平面に平行な断面図である。
図4Bは、
図4AのA-A断面図である。バルブボディ50は、下面52から突出したリブ部53を有している。リブ部53は、Y軸に沿った所定の厚みを有して下面52からZ軸-方向に突出している。リブ部53にはY軸に沿って貫通した嵌合穴54が形成されている。嵌合穴54の内周には雌ネジ溝が形成されている。
図4A及び
図4Bには、嵌合穴54のY軸に沿った中心軸54Cを示している。
【0019】
スティフナー71の垂直部73には、貫通穴74が形成されている。ボルト82は、頭部821と、頭部821よりも外径が小さく頭部821よりも長さが長い軸部822とを有している。軸部822の外周には雄ネジ溝が形成されている。頭部821の外径は、貫通穴74の内径よりも大きく形成されている。
図4A及び
図4Bには、貫通穴74のY軸に沿った中心軸74Cを示している。ボルト82の軸部822が貫通穴74を貫通して嵌合穴54に螺合し、スティフナー71の垂直部73はボルト82の頭部821とバルブボディ50のリブ部53とにより挟持されている。
【0020】
ここで貫通穴74の内径は、軸部822が遊びを有して貫通穴74を貫通するように、軸部822の外径よりも大きく形成されている。このため、
図4A及び
図4Bに示すように、軸部822は貫通穴74の内周面に接触せずに離間しており、嵌合穴54の中心軸54Cと貫通穴74の中心軸74Cとは互いにXZ平面方向にずれている。
【0021】
このようにボルト82はY軸に沿って延びているため、ボルト82の軸部822と嵌合穴54との螺合量に関わらず、スティフナー71に対してZ軸方向での力は作用しない。このため、比較例のスティフナー71xのようにZ軸-方向の反力が生じることを回避でき、オイルの漏れを抑制できる。
【0022】
また、例えば貫通穴74の内径と軸部822の外径とが同じであって貫通穴74の内周面に軸部822が接触しており、ボルト82によりスティフナー71の他端側がZ軸+方向に撓んでリブ部53に固定された場合を想定する。この場合、比較例と同様にスティフナー71にZ軸-方向に反力が作用してオイルが漏れるおそれがある。本実施例では貫通穴74の内径は軸部822の外径よりも大きく、軸部822は貫通穴74の内周面から離間している。このため、スティフナー71に対して上記のような反力が生じることを回避でき、オイルの漏れを抑制できる。
【0023】
また、このようなスティフナー71によりバルブボディ50がケース10に固定されているため、オイルの漏れを抑制しつつケース10の高剛性化をも図られている。
【0024】
本実施例では貫通穴74は円形であるが、ボルト82の軸部822が接触しない大きさを有していれば、その形状は限定されない。
【0025】
[変形例での締結機構]
次に複数の変形例について説明する。尚、複数の変形例について、上述した本実施例と同一の構成については同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
図5A及び
図5Bは、第1変形例の説明図である。
図5A及び
図5Bは、それぞれ
図3A及び
図3Bに対応している。締結機構70aのスティフナー71aは、本実施例のスティフナー71とは異なり途中で捻じれておらず、比較例とは異なりXZ平面に略平行な姿勢でケース10aとバルブボディ50とに固定されている。更に、ボルト81及び82は共にY軸に沿って延びている。ケース10aの左側壁部15aには、ボルト81が螺合する嵌合穴がY軸に沿って形成されている。また、上述した本実施例のスティフナー71と同様に、スティフナー71aには、ボルト82の軸部822が遊びを有して貫通する貫通穴74が形成されている。スティフナー71aは、締結部材の一例である。
【0026】
このように、ボルト81がY軸に沿って延びている場合であっても、本実施例と同様に締結機構70aにZ軸-方向の反力が生じることを回避してオイルの漏れを抑制できる。尚、ボルト81やボルト81が螺合するケース10aの嵌合穴が延びた方向は、Y軸方向に限定されずに任意である。従って、締結機構70aのケース10aへの取付の容易性を考慮して、ボルト81や嵌合穴が延びた方向を設定してもよい。
【0027】
図6A及び
図6Bは、第2変形例の説明図である。
図6A及び
図6Bは、それぞれ
図3A及び
図3Bに対応している。第2変形例の締結機構70bでは、ボルト81及び82の代わりに、リベット81b及び82bが使用されている。リベット82bも、ボルト82と同様に、頭部と、頭部から延び頭部よりも外径が小さい軸部とを含む。リベット81b及び82bの軸部の外周には、雄ネジ溝は形成されていない。同様にこれらがそれぞれ嵌合するケース10bの左側壁部15bの嵌合穴、及びバルブボディ50bの嵌合穴の内周にも、雌ネジ溝は形成されていない。従って、リベット81b及び82bの軸部はそれぞれの嵌合穴に圧入されている。リベット82bは、固定部材の一例である。尚、上述した本実施例の締結機構70において、ボルト81の代わりにリベット81bを用いてもよい。即ち、スティフナー71及び71aをケース10等に固定するための手法は限定されない。
【0028】
上記実施例及び変形例では、締結機構70、70a、及び70bの位置は、オイル導入口17及びオイル排出口57に対してZ軸-方向側にあるが、これに限定されない。また、スティフナー71及び71aは長手方向をX軸に沿うようにして配置されているが、これに限定されない。また、上記実施例及び変形例では、固定部材の一例としてボルト82やリベット82bを示したが、これに限定されず、ネジやビス、鋲であってもよい。
【0029】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 ケース
17 オイル導入口
50 バルブボディ
54 嵌合穴
57 オイル排出口
70 締結機構
71、71a スティフナー(締結部材)
74 貫通穴
82 ボルト(固定部材)
821 頭部
822 軸部
82b リベット(固定部材)