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特許7613422フッ化物イオン電池及びフッ化物イオン電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池及びフッ化物イオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20250107BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/05
H01M10/0562
H01M10/058
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022108261
(22)【出願日】2022-07-05
(65)【公開番号】P2024007069
(43)【公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】當寺ヶ盛 健志
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192581(JP,A)
【文献】特開2018-092863(JP,A)
【文献】特開2020-191252(JP,A)
【文献】特開2017-220301(JP,A)
【文献】特開2018-077987(JP,A)
【文献】特開2021-022451(JP,A)
【文献】特表2020-534652(JP,A)
【文献】特開2016-051646(JP,A)
【文献】特開2012-096958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、かつ0.00<x<1.00である、フッ化物イオン電池。
【請求項2】
0.30≦x≦0.45である、請求項1に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項3】
固体電解質としてのランタノイドフッ化物を有している、請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項4】
充放電容量が300mAh/g以上である、請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項5】
負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、0.00<x<1.00である、フッ化物イオン電池前駆体を、負極の上限電位が2.5~3.5V vs Pb/PbFとなるまで放電することを含む、フッ化物イオン電池の製造方法。
【請求項6】
負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまでの前記放電を行う前に、負極の上限電位が-0.5V~0.5V vs Pb/PbF、及び負極の下限電位が-3.0V~-2.0V vs Pb/PbFとなるように充放電することを含む、請求項5に記載のフッ化物イオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン電池及びフッ化物イオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有するフッ化物イオン電池であって、前記負極活物質層が、Si元素およびLa元素を含む負極活物質と、La元素、Ba元素およびF元素を含む固体電解質と、を含有する、フッ化物イオン電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-191252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ化物イオン電池において、高い充放電容量を実現することが求められている。
【0005】
本開示は、高い充放電容量を実現することができる負極活物質を有するフッ化物イオン電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、かつ0.00<x<1.00である、フッ化物イオン電池。
《態様2》
0.30≦x≦0.45である、態様1に記載のフッ化物イオン電池。
《態様3》
固体電解質としてのランタノイドフッ化物を有している、態様1又は2に記載のフッ化物イオン電池。
《態様4》
充放電容量が300mAh/g以上である、態様1~3のいずれか一つに記載のフッ化物イオン電池。
《態様5》
負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、0.00<x<1.00である、フッ化物イオン電池前駆体を、負極の上限電位が2.5~3.5V vs Pb/PbFとなるまで放電することを含む、フッ化物イオン電池の製造方法。
《態様6》
負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまでの前記放電を行う前に、負極の上限電位が-0.5V~0.5V vs Pb/PbF、及び負極の下限電位が-3.0V~-2.0V vs Pb/PbFとなるように充放電することを含む、態様5に記載のフッ化物イオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高い充放電容量を実現することができる負極活物質を有するフッ化物イオン電池及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に従うフッ化物イオン電池の模式図である。
図2図2は、実施例1のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。
図3図3は、実施例2のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。
図4図4は、参考例1のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。
図5図5は、実施例3のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。
図6図6は、実施例4のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0010】
《フッ化物イオン電池》
本開示のフッ化物イオン電池は、負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、かつ0.00<x<1.00である。
【0011】
本開示のフッ化物イオン電池が有している、負極活物質としてのLa(1.00-x)は、ランタン単体よりも高い充放電容量を有している。
【0012】
なお、負極活物質としてのLa(1.00-x)は、ランタン単体よりも貴な電位で酸化還元反応し得る。活物質のより貴な電位での酸化還元反応は、固体電解質が負極に含有される場合において、該固体電解質の種類の選択の幅を広め得る。
【0013】
本開示のフッ化物イオン電池の充放電容量は300mAh/g以上であることができる。負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、かつ充放電容量が300mAh/g以上であるフッ化物イオン電池は、例えば本開示の製造方法によって製造することができる。
【0014】
図1は、本開示の第1の実施形態に従うフッ化物イオン電池1の模式図である。
【0015】
本開示の第1の実施形態に従うフッ化物イオン電池1は、正極集電体層10、正極活物質層20、電解質層30、負極活物質層40、及び負極集電体層50がこの順に積層された構造を有している。ここで、負極活物質層40は、負極活物質としてのLa(1.00-x)を有している。
【0016】
なお、本開示のフッ化物イオン電池は、液系電池又は固体電池、特には全固体電池であってもよい。また、本開示におけるフッ化物イオン電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。本開示におけるフッ化物イオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
【0017】
〈負極活物質〉
本開示のフッ化物イオン電池は、負極活物質としてのLa(1.00-x)を有している。ここで、0.00<x<1.00である。通常、フッ化物イオン電池における負極活物質は、充電時にフッ素を放出し、放電時にフッ素を吸収する。言い換えると、本開示のフッ化物イオン電池が含有している負極活物質は、完全に脱フッ化された状態において、La(1.00-x)であり、フッ化物イオン電池の充放電の状態によっては、Fを更に含有していることができる。
【0018】
La(1.00-x)において、0.30≦x≦0.45であることが特に好ましい。
【0019】
xが0.30~0.45である場合、La(1.00-x)は特に高い充放電容量を有する。これは、xがこの範囲にあると、La(1.00-x)粒子中における金属炭化物の部分が多くなるためである。xが0.30未満であるか、0.45超であると、結晶中に単体の炭素又は単体のランタンが存在する割合が増加する。特に、xが1.00に近づく程、その性質はLa単体に近くなる。
【0020】
xは、0.30以上、0.31以上、0.32以上、又は0.33以上であってよく、0.45以下、0.43以下、0.41以下、又は0.40以下であってよい。
【0021】
負極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。
【0022】
負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01~50μm以下であってよい。負極活物質の平均粒径(D50)は、0.01μm以上、0.05μm以上、又は0.10μm以上であってよく、50μm以下、25μm以下、又は10μm以下であってよい。
【0023】
負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。
【0024】
負極活物質の作製方法としては、例えば、La及びCを原料とするアーク溶解法を挙げることができるが、これに限定されない。
【0025】
〈固体電解質〉
本開示のフッ化物イオン電池は、固体電解質を含有していることができる。固体電解質は、フッ化物イオン電池に用いることができる任意の固体電解質であってよい。
【0026】
固体電解質としては、例えばLa及びCe等のランタノイド元素のフッ化物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属元素のフッ化物、又はCa、Sr、Ba等のアルカリ土類元素のフッ化物等が挙げられる。また、固体電解質は、ランタノイド元素、アルカリ金属元素、及びアルカリ土類元素を複数種含有するフッ化物であってもよい。
【0027】
固体電解質の具体例としては、例えばLa(1-x)Ba(3-x)(0≦x≦1)、Pb(2-x)Sn(0≦x≦2)、Ca(2-x)Ba(0≦x≦2)およびCe(1-x)BaxF(3-x)(0≦x≦1)が挙げられる。上記xは、それぞれ、0よりも大きくてもよく、0.3以上であってもよく、0.5以上であってもよく、0.9以上であってもよい。また、上記xは、それぞれ、1よりも小さくてもよく、0.9以下であってもよく、0.5以下であってもよく、0.3以下であってもよい。なお、固体電解質の具体例において記載した「x」は、当然に、本開示の負極活物質であるLa(1.00-x)における「x」とは異なる、互いに独立した値である。
【0028】
固体電解質の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状であってよい。
【0029】
本開示のフッ化物イオン電池は、固体電解質としてのランタノイドフッ化物、すなわちランタノイド元素のフッ化物を有している場合に特に有用である。
【0030】
ランタノイドフッ化物は、比較的に高いフッ化物イオン伝導性を有している反面、ランタンと同程度の電位で還元分解して金属ランタンが析出する。そのため、負極活物質として金属ランタンを用いたフッ化物イオン電池において、固体電解質として更にランタノイドフッ化物を用いた場合、イオン伝導パスが阻害されやすい。
【0031】
これに対して、本開示のフッ化物イオン電池では、負極活物質として、金属ランタンよりも貴な電位で酸化還元反応を示すLa(1.00-x)を採用することにより、電池使用時におけるランタノイドフッ化物の還元分解を抑制することができる。
【0032】
固体電解質としてのランタノイドフッ化物は、正極活物質層、電解質層、及び負極活物質層のいずれに存在していてもよいが、特に、負極活物質層中に存在していることが好ましい。
【0033】
〈その他の構成〉
本開示のフッ化物イオン電池は、上記の構成の他、例えば正極集電体層、正極活物質層、電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を有していることができる。また、本開示のフッ化物イオン電池は、これらの構成要素を収納する電池ケースを有していてよい。
【0034】
(正極集電体層)
正極集電体層の材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、白金、及びカーボンが挙げられる。正極集電体層の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。
【0035】
(正極活物質層)
本開示における正極活物質層は、正極活物質、並びに随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダを含有している。
【0036】
本開示における正極活物質は、通常、放電時に脱フッ化する活物質である。正極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、及び、これらのフッ化物を挙げることができる。正極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Cu、Ag、Ni、Co、Pb、Ce、Mn、Au、Pt、Rh、V、Os、Ru、Fe、Cr、Bi、Nb、Sb、Ti、Sn、Zn等を挙げることができる。中でも、正極活物質は、FeF、CuF、BiF、又はAgFであることが好ましい。
【0037】
なお、正活物質極層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましい。正極活物質層の質量に対する正極活物質の質量の割合は、10~90質量%であってよく、20~80質量%であることが好ましい。
【0038】
固体電解質は、上記の「〈固体電解質〉」において記載したものを採用してよい。
【0039】
導電助剤としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブを挙げることができる。
【0040】
正活物質極層の質量に対する導電助剤の質量の割合は、1~70質量%であってよく、5~40質量%であることが好ましい。
【0041】
バインダとしては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材を挙げることができる。
【0042】
正極層の厚さは、電池の構成によって大きく異なり、特に限定されない。
【0043】
(電解質層)
本開示のフッ化物イオン電池が液系電池である場合には、電解質層は、例えば電解液と、随意のセパレータから構成されていることができる。
【0044】
電解液は、例えば、フッ化物塩および有機溶媒を含有していることができる。フッ化物塩としては、例えば、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、イオン液体を挙げることができる。無機フッ化物塩の一例としては、XF(Xは、Li、Na、K、RbまたはCsである)を挙げることができる。有機フッ化物塩のカチオンの一例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン等のアルキルアンモニウムカチオンを挙げることができる。電解液におけるフッ化物塩の濃度は、例えば0.1mol%以上、40mol%以下であり、1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。
【0045】
電解液の有機溶媒は、通常、フッ化物塩を溶解する溶媒である。有機溶媒としては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)等のグライム、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートを挙げることができる。また、有機溶媒として、イオン液体を用いてもよい。
【0046】
セパレータとしては、フッ化物イオン電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではない。セパレータとしては、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルを挙げることができる。
【0047】
本開示のフッ化物イオン電池が固体電池である場合には、電解質層は、例えば固体電解質の層であってよい。
【0048】
固体電解質は、上記の「〈固体電解質〉」において記載したものを採用してよい。
【0049】
(負極活物質層)
本開示における負極活物質層は、負極活物質、並びに随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダを含有している。
【0050】
負極活物質層は、負極活物質として、少なくとも上記のLa(1.00-x)を含有している。
【0051】
なお、負活物質極層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましい。負極活物質層の質量に対する負極活物質の質量の割合は、10~90質量%であってよく、20~80質量%であることが好ましい。
【0052】
固体電解質、導電助剤、及びバインダについては、上記の「(正極活物質層)」における記載と同様のものを採用してよい。
【0053】
(負極集電体層)
負極集電体層の材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、銅、ニッケル、鉄、チタン、白金及びカーボンが挙げられる。負極集電体層の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。
【0054】
(電池ケース)
電池ケースは、フッ化物イオン電池の部材を収容することができる任意の形状であってよく、一般的な電池に用いられる電池ケースを採用することができる。
【0055】
《フッ化物イオン電池の製造方法》
本開示のフッ化物イオン電池の製造方法は、負極活物質としてのLa(1.00-x)を有しており、0.00<x<1.00である、フッ化物イオン電池前駆体を、負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまで放電することを含む。
【0056】
負極活物質としてのLa(1.00-x)は、それ自体で高い充放電容量を実現することができる。しかしながら、La(1.00-x)を有するフッ化物イオン電池前駆体を、負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまで放電することによって、更に充放電容量を向上させることができる。
【0057】
負極の電位を2.5V~3.5V vs Pb/PbFという高い電位まで放電すると、La(1.00-x)の結晶構造が変化して、少なくとも部分的にアモルファスとなるか、又はLa(1.00-x)の粒子が破壊されて微細粒子化することにより、La(1.00-x)のフッ素イオンとの反応性が向上すると考えられる。
【0058】
なお、フッ化物イオン電池前駆体が有するLa(1.00-x)は、例えばLa及びCを原料とするアーク溶解法により合成し、随意に粉砕して用いてよい。
【0059】
フッ化物イオン電池前駆体に対する放電における負極の上限電位は、2.5V vs Pb/PbF以上、2.6V vs Pb/PbF以上、2.7V vs Pb/PbF以上、又は2.8V vs Pb/PbF以上であってよく、3.5V vs Pb/PbF以下、3.4V vs Pb/PbF以下、3.3V vs Pb/PbF以下、又は3.2V vs Pb/PbF以下であってよい。
【0060】
本開示のフッ化物イオン電池の製造方法では、負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまでの放電を行う前に、負極の上限電位が-0.5V~0.5V vs Pb/PbF、及び負極の下限電位が-3.0V~-2.0V vs Pb/PbFとなるように充放電することを含んでいることが好ましい。
【0061】
負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまでの放電を行う前の充放電における負極の上限電位は、-0.5V vs Pb/PbF以上、-0.4V vs Pb/PbF以上、-0.3V vs Pb/PbF以上、又は-0.2V vs Pb/PbF以上であってよく、0.5V vs Pb/PbF以下、0.4V vs Pb/PbF以下、0.3V vs Pb/PbF以下、又は0.0V vs Pb/PbF以下であってよい。
【0062】
また、負極の上限電位が2.5V~3.5V vs Pb/PbFとなるまでの放電を行う前の充放電における負極の下限電位は、-3.0V vs Pb/PbF以上、-2.9V vs Pb/PbF以上、-2.7V vs Pb/PbF以上、又は-2.5V vs Pb/PbF以上であってよく、-2.0V vs Pb/PbF以下、-2.2V vs Pb/PbF以下、-2.3V vs Pb/PbF以下、又は-2.4V vs Pb/PbF以下であってよい。
【実施例
【0063】
《実施例1、2及び参考例1》
〈実施例1〉
LaとCとを、それぞれLa:C=0.33:0.67のモル比となるように秤量し、アーク溶解法によって負極活物質としてのLa0.330.67を合成した。
【0064】
次いで、CaF及びBaFをボールミルで600rpm、20時間混合することで、固体電解質としてのCa0.5Ba0.5を合成した。
【0065】
次いで、合成したLa0.330.67は乳鉢で100μm以下まで粉砕しLa0.330.67とCa0.5Ba0.5と導電助剤としての気相法炭素繊維(VGCF)の重量比が3:6:1となるようにボールミルで200rpm、10時間混合し、負極合材を作製した。
【0066】
正極合材としては、正極活物質としてのPbFと導電助剤としてのアセチレンブラックを重量比が95:5となるように秤量し、ボールミルで600rpm、3時間の条件で混合したものを用いた。
【0067】
負極集電体層としてのPt箔、負極活物質層としての上記負極合材、固体電解質層としての上記固体電解質、及び正極活物質層としての上記正極合材、及び正極集電体層としてのPt箔をこの順に積層して、実施例1のフッ化物イオン電池とした。
【0068】
〈実施例2〉
LaとCとを、それぞれLa:C=0.40:0.60のモル比となるように秤量したことを除いて実施例1と同様にして、実施例2のフッ化物イオン電池を作製した。すなわち、実施例2のフッ化物イオン電池に用いた負極活物質は、La0.400.60である。
【0069】
〈参考例1〉
負極活物質としてLaを用いたことを除いて実施例1と同様にして、参考例1のフッ化物イオン電池を作製した。
【0070】
〈充放電試験〉
実施例1、2、及び参考例1のフッ化物イオン電池を、負極の上限電位が0.00V vs Pb/PbF、負極の下限電位が-2.5V vs Pb/PbFとなるように、電流50μA、200℃の条件で3サイクル、定電流充放電した。
【0071】
各例のフッ化物イオン電池の充放電曲線を、図2~4に示した。図2は、実施例1のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。図3は、実施例2のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。図4は、参考例1のフッ化物イオン電池の充放電特性を示すグラフである。
【0072】
図2~4に示すように、負極活物質としてLa0.330.67を用いた実施例1のフッ化物イオン電池及び負極活物質としてLa0.400.60を用いた実施例2のフッ化物イオン電池は、負極活物質としてLaを用いた参考例1のフッ化物イオン電池と比較して、より高い充放電容量を有していた。
【0073】
《実施例3及び4》
〈充放電処理〉
上記充放電試験後の実施例1のフッ化物イオン電池に対して、負極の上限電位が3.00V vs Pb/PbFとなるまで充電したものを、実施例3のフッ化物イオン電池とした。
【0074】
同様に、上記充放電試験後の実施例2のフッ化物イオン電池に対して、負極の上限電位が3.00V vs Pb/PbFとなるまで充電したものを、実施例4のフッ化物イオン電池とした。
【0075】
〈充放電試験〉
実施例3及び4のフッ化物イオン電池に対して、上記充放電試験を行った。
【0076】
実施例3のフッ化物イオン電池の充放電曲線を、図5示した。実施例4のフッ化物イオン電池の充放電曲線を、図6示した。
【0077】
図5及び6に示すように、負極の上限電位が3.00V vs Pb/PbFとなるまでの充電処理を行った実施例3及び4のフッ化物イオン電池は、充放電容量が300mAh/g以上となっており、負極の上限電位が3.00V vs Pb/PbFとなるまでの充電処理を行わなかった実施例1及び2のフッ化物イオン電池よりも高い充放電容量を有していた。
【符号の説明】
【0078】
1 フッ化物イオン電池
10 正極集電体層
20 正極活物質層
30 電解質層
40 負極活物質層
50 負極集電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6