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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20250107BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F02D41/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022128329
(22)【出願日】2022-08-10
(65)【公開番号】P2024025129
(43)【公開日】2024-02-26
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北爪 芳之
(72)【発明者】
【氏名】古井 憲治
(72)【発明者】
【氏名】若尾 和弘
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090947(JP,A)
【文献】特開2005-155401(JP,A)
【文献】特開2009-162174(JP,A)
【文献】特開2002-138887(JP,A)
【文献】特開昭63-055340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の酸素吸放量に応じて、リッチ制御またはリーン制御に切り替える内燃機関の制御装置であって、
空燃比センサの実際の出力値であるAF検出値に基づいて酸素吸放量を検出吸放量として算出し、
前記空燃比センサの理想的な出力値であるAF理想値に基づいて酸素吸放量を理想吸放量として算出し、前記理想吸放量に対して所定のポスト補正処理を施した値を、ガード吸放量として算出し、
前記リーン制御の実行期間中は前記検出吸放量を前記ガード吸放量で下限ガードした値を、前記リッチ制御の実行期間中は前記検出吸放量を前記ガード吸放量で上限ガードした値を、それぞれ、修正吸放量として算出し、
前記修正吸放量が、予め規定された切替吸放量に達した場合に、前記リッチ制御から前記リーン制御に、または、前記リーン制御から前記リッチ制御に切り替え
前記ポスト補正処理は、前記理想吸放量に、規定の補正値を加算する処理であり、
前記補正値は、前記リーン制御の実行中は、負の値であり、前記リッチ制御の実行期間中は、正の値であり、
前記補正値は、前記空燃比センサが正常な場合、前記検出吸放量が、前記修正吸放量として算出される値である、
ように構成されている、ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記理想吸放量は、前記AF理想値に所定のプレ補正処理を施した値に基づいて算される、ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記プレ補正処理は、前記AF理想値をなまった波形に変換するなまし処理を含む、ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記プレ補正処理は、前記AF理想値の立ち上がり点および立ち下がり点が、前記AF検出値の立ち上がり点および立ち下がり点と一致するように、前記AF理想値の位相を変更することを含む、ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、触媒の酸素吸放量に応じて、リッチ制御またはリーン制御に切り替える内燃機関の制御装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の排気通路には、排気を浄化するための触媒が設けられており、この触媒により、排気に含まれる有害物質(例えば、NOx、HC、CO)が浄化される。触媒の酸素吸蔵量が高いと、HCおよびCOの浄化効率が上昇する一方で、NOxの浄化効率が低下する。また、触媒の酸素吸蔵量が低いと、NOxの浄化効率が増加する一方で、HCおよびCOの浄化効率が低下する。そこで、従来から、触媒の酸素吸蔵量を適切に調整するべく、リーン制御とリッチ制御とを交互に切り替える技術が提案されている。なお、リーン制御では、内燃機関の目標空燃比が、理論空燃比(例えば、14.6)より高い値(例えば、14.65)に設定される。また、リッチ制御では、目標空燃比が、理論空燃比より低い値(例えば、14.55)に設定される。
【0003】
特許文献1には、触媒の酸素吸蔵量の増減量を推定し、リーン制御実施中に、推定増減量が上限閾値に達すれば、リーン制御からリッチ制御に切り替え、リッチ制御実施中に、推定増減量が下限閾値に達すれば、リッチ制御からリーン制御に切り替える技術が開示されている。特許文献1において、推定増減量は、触媒の上流側に設けられた第一空燃比センサの検出値と、燃料噴射量と、空気の酸素濃度と、に基づいて算出される。そして、こうした技術によれば、NOx、HC、COを適切に浄化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-090947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した通り、リーン制御とリッチ制御との切り替えタイミングは、酸素吸蔵量の増減量の変化に基づいて決定している。そして、増減量は、通常、空燃比センサの検出値から推定している。この場合、空燃比センサの応答性が悪化すると、その分、推定増減量の精度が悪化する。そして、この場合、リッチ制御とリーン制御との切り替え周期が長期化し、エミッションが悪化することがあった。
【0006】
そこで、本明細書では、エミッションの悪化をより効果的に防止できる内燃機関の制御装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する内燃機関の制御装置は、触媒の酸素吸放量に応じて、リッチ制御またはリーン制御に切り替える内燃機関の制御装置であって、空燃比センサの実際の出力値であるAF検出値に基づいて酸素吸放量を検出吸放量として算出し、前記空燃比センサの理想的な出力値であるAF理想値に基づいて酸素吸放量をガード吸放量として算出し、前記リーン制御の実行期間中は前記検出吸放量を前記ガード吸放量で下限ガードした値を、前記リッチ制御の実行期間中は前記検出吸放量を前記ガード吸放量で上限ガードした値を、それぞれ、修正吸放量として算出し、前記修正吸放量が、予め規定された切替吸放量に達した場合に、前記リッチ制御から前記リーン制御に、または、前記リーン制御から前記リッチ制御に切り替える、ように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
AF理想値から算出したガード吸放量で検出吸放量を上限ガードまたは下限ガードするため、ガード処理後の修正吸放量が、実際の酸素吸放量から大きく乖離することを防止できる。結果として、リッチ/リーンの制御の切り替えの周期が過度に大きくなることが防止でき、エミッションの悪化を効果的に防止できる。
【0009】
この場合、前記AF理想値に基づいて酸素吸放量を理想吸放量として算出し、前記理想吸放量に対して所定のポスト補正処理を施して、前記ガード吸放量を算出する、ように構成されてもよい。
【0010】
また、前記ポスト補正処理は、前記理想吸放量に、規定の補正値を加算することを含んでもよい。
【0011】
また、前記AF理想値に所定のプレ補正処理を施した値に基づいて理想吸放量を算出し、前記理想吸放量に基づいて前記ガード吸放量を算出してもよい。
【0012】
この場合、前記プレ補正処理は、前記AF理想値をなまった波形に変換するなまし処理を含んでもよい。
【0013】
また、前記プレ補正処理は、前記AF理想値の立ち上がり点および立ち下がり点が、前記AF検出値の立ち上がり点および立ち下がり点と一致するように、前記AF理想値の位相を変更することを含んでもよい。
【0014】
ポスト補正処理またはプレ補正処理を行うことで、ガード吸放量を実際の酸素吸放量により近づけることができ、エミッションの悪化をより効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示する技術によれば、エミッションの悪化をより効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】エンジンの構成を示すブロック図である。
図2】リーン制御とリッチ制御を交互に切り替える場合の触媒の状態変化を示す図である。
図3】AF検出値の応答遅れが大幅に大きくなった場合の触媒の状態変化を示す図である。
図4】理想吸放量に応じてリッチ/リーンの制御切り替えを行った場合の触媒の状態変化を示す図である。
図5A】LN用切替判定部の構成を示すブロック図である。
図5B】RC用切替判定部の構成を示すブロック図である。
図6】検出吸放量をガード吸放量で、下限ガードまたは上限ガードした場合の効果を説明する図である。
図7】AF理想値にプレ補正を施す場合のLN用切替判定部の一例を示す図である。
図8】なまし処理の作用を示す図である。
図9】位相のずらし処理の作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して内燃機関の制御装置34について説明する。図1は、制御装置34の制御対象であるエンジン10の構成を示すブロック図である。エンジン10は、例えば、車両に搭載され、動力を出力する内燃機関である。このエンジン10は、燃焼室12と、燃焼室12に繋がる吸気通路18と、燃焼室12に繋がる排気通路24と、を有する。吸気通路18には、スロットルバルブ20が設けられている。このスロットルバルブ20および吸気通路18を介して、燃焼室12に空気が供給される。また、吸気通路18には、燃料噴射弁22が設けられており、この燃料噴射弁22および吸気通路18を介して、燃焼室12に燃料が供給される。
【0018】
燃焼室12には、点火プラグ16が設けられている。点火プラグ16による点火が行われると、燃焼室12に供給された混合気が燃焼する。そして、燃焼室12内で混合気が燃焼することにより、ピストン14が往復移動する。
【0019】
混合気の燃焼後に生じる排気は、排気通路24に送り出される。排気通路24には、触媒コンバータ26が設けられている。触媒コンバータ26は、三元触媒(以下「触媒」と呼ぶ)27を有しており、排気中のHC、CO、NOxといった有害成分を浄化する。触媒コンバータ26より上流側には、前側空燃比センサ(以下「前側AFセンサ」という)28が設けられている。前側AFセンサ28は、触媒27上流の排気中の酸素濃度に応じたリニアな信号を出力する。具体的には、前側AFセンサ28の出力値であるAF検出値O#は、触媒27通過前の排気中の酸素濃度が薄くなるほど小さくなる。また、前側AFセンサ28は、理論空燃比で混合気の燃焼が行われた時、AF検出値O#が、所定の値Ostとなるように調整されている。なお、以下では、この所定の値Ostを「AFストイキ値Ost」と呼ぶ。
【0020】
制御装置34は、エンジン10の駆動を制御する。かかる制御装置34は、物理的にはプロセッサ36とメモリ38とを有するコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、制御装置34は、単一のコンピュータで構成されてもよいし、物理的に離れて位置する複数のコンピュータで構成されてもよい。
【0021】
制御装置34は、ブレーキペダル30およびアクセルペダル32の踏み込み量に応じて、エンジン10の駆動を制御する。また、制御装置34は、触媒27の酸素吸放量OSRを推測し、その酸素吸放量OSRに応じて、リーン制御からリッチ制御に、または、リッチ制御からリーン制御に切り替える。リーン制御において、制御装置34は、エンジン10の目標空燃比を、理論空燃比(例えば、14.6)より高い値(例えば、14.65)に設定する。また、リッチ制御において、制御装置34は、目標空燃比を、理論空燃比より低い値(例えば、14.55)に設定する。そして、リーン制御およびリッチ制御のいずれの場合であっても、制御装置34は、設定した目標空燃比の混合気が得られるように、スロットルバルブ20および燃料噴射弁22の開度を制御する。
【0022】
次に、リーン制御とリッチ制御を交互に切り替える場合の触媒27の状態変化について図2を参照して説明する。図2の一段目は、制御状態CSを示している。制御状態CSが「LN」の期間は、リーン制御が行われ、制御状態CSが「RC」の期間は、リッチ制御が行われている。
【0023】
図2の二段目は、前側AFセンサ28の出力値であるAF検出値O#を示している。上述した通り、AF検出値O#は、触媒27通過前の排気の酸素濃度に応じた値となる。そのため、AF検出値O#は、リーン制御の実行中は、AFストイキ値Ostより高いAFリーン値Olnとなり、リッチ制御の実行中は、AFストイキ値Ostより低いAFリッチ値Orcとなる。ただし、AF検出値O#には、ある程度の応答遅れやノイズが含まれている。そのため、AF検出値O#は、制御状態CSに比べて、鈍った信号となる。
【0024】
図2の三段目は、AF検出値O#に基づいて算出される酸素吸放量である検出吸放量OSR#を示している。検出吸放量OSR#は、触媒27から放出、または、触媒27に吸収される酸素の量を示す。この検出吸放量OSR#は、瞬時検出吸放量ΔOSR#を積算した値である。瞬時検出吸放量ΔOSR#は、単位時間当たりの酸素吸放量であり、式1または式2で算出される。なお、式1および式2において、Qaは、燃料噴射量であり、Aaは吸入空気量を示している。また、検出吸放量OSR#は、リーン制御とリッチ制御との切り替えタイミングにおいてゼロにリセットされる。
ΔOSR#=(O#-Ost)×Qa×0.23 式1
ΔOSR#=(O#-Ost)/O#×Aa×0.23 式2
【0025】
図2の三段目に示す通り、検出吸放量OSR#は、リーン制御の実行期間中は、徐々に増加し、リッチ制御の実行期間中は、徐々に低下していく。ただし、上述した通り、AF検出値O#には、ある程度の応答遅れが含まれている。そのため、制御切り換え直後、検出吸放量OSR#は、この応答遅れの分だけ、逆方向に増減する。例えば、リーン制御からリッチ制御に切り替えた直後(例えば時刻t1直後)、検出吸放量OSR#は、一時的に増加した後、徐々に低下していく。
【0026】
制御装置34は、リーン制御実行中において、検出吸放量OSR#が、規定のLN用切替吸放量OSR_LN以上になれば、リーン制御からリッチ制御に切り替える。また、制御装置34は、リッチ制御中において、検出吸放量OSR#が、規定のRC用切替吸放量OSR_RC以下になれば、リッチ制御からリーン制御に切り替える。図2の4段目は、触媒27の酸素吸蔵量OSAを示している。図2に示すとおり、酸素吸蔵量OSAは、リーン制御中は、増加していき、リッチ制御中は、減少していく。
【0027】
ここで、上述したように、リッチ制御とリーン制御とを交互に切り替えるのは、排気に含まれる三つの有害物質(すなわちHC、CO、NOx)を効率的に浄化するためである。すなわち、触媒27の酸素吸蔵量OSAが低いと、NOxの浄化効率が増加する一方で、HCおよびCOの浄化効率が低下する。また、触媒27の酸素吸蔵量OSAが高いと、HCおよびCOの浄化効率が増加する一方で、NOxの浄化効率が低下する。そこで、本例では、酸素吸蔵量OSAが、所定の幅内で増減を繰り返すように、リッチ制御とリーン制御とを交互に切り替えている。
【0028】
ところで、繰り返し述べる通り、AF検出値O#には、応答遅れが含まれる。前側AFセンサ28が正常の場合、この応答遅れは一定の範囲に収まる。そのため、制御装置34は、一定範囲内の応答遅れがあることを前提として、各種パラメータ(例えば、LN用切替吸放量OSR_LNやRC用切替吸放量OSR_RC等)の値を設定している。しかしながら、前側AFセンサ28が劣化したり、何らかの原因で信号遅延が発生したりした場合、AF検出値O#に含まれる応答遅れが過度に大きくなる。この場合、リッチ/リーンの制御の切り替え周期Tcが過度に大きくなるおそれがあった。これについて図3を参照して説明する。
【0029】
図3は、AF検出値O#の応答遅れが大幅に大きくなった場合の触媒27の状態変化を示している。図3の一段目は、制御状態CSを、二段目は、AF検出値O#を、三段目は、AF検出値O#から算出される検出吸放量OSR#を、それぞれ示している。図3の二段目に示すとおり、図3の例では、図2の例に比べて、AF検出値O#の応答遅れが大きくなっており、AF検出値O#は、リッチ/リーンの制御の切り替えタイミングから大きく遅れて反応する。
【0030】
そのため、図3の三段目に示す通り、リッチ/リーンの制御の切り替え後、検出吸放量OSR#は、逆方向に大きく変動する。その結果、検出吸放量OSR#が、切替吸放量OSR_RC,OSR_LNに達するまでの時間が長期化する。そして、これにより、リッチ制御とリーン制御との切り替え周期Tcが長くなり、エミッションが悪化するおそれがあった。
【0031】
本例の制御装置34は、こうした問題を避けるために、前側AFセンサ28の理想的な出力値であるAF理想値O*に基づいて酸素吸放量をガード吸放量OSRgとして算出し、このガード吸放量OSRgを用いて検出吸放量OSR#を修正する。以下、これについて詳説する。
【0032】
図4は、理想吸放量OSR*に応じてリッチ/リーンの制御切り替えを行った場合の触媒27の状態変化を示している。具体的には、図4の一段目は、制御状態CSを、図4の二段目は、AF理想値O*を示している。ここで、AF理想値O*は、前側AFセンサ28の理想的な出力値である。本例では、リッチ制御の実行期間中は、O*=Orcとみなし、リーン制御の実行期間中は、O*=Olnとみなす。このAF理想値O*は、図4に示す通り、制御状態CSの変化に遅れることなく追従している。したがって、リッチ/リーンの制御が切り替わると、AF理想値O*の値も即座に、AFリッチ値OrcとAFリッチ値Orcとの間で切り替わる。
【0033】
図4の三段目は、AF理想値O*に基づいて算出される理想吸放量OSR*を示している。理想吸放量OSR*は、瞬時理想吸放量ΔOSR*を積算した値である。瞬時理想吸放量ΔOSR*は、式1または式2における「O#」を「O*」に置き換えた式で算出される。すなわち、瞬時理想吸放量ΔOSR*は、次の式3または式4で算出される。
ΔOSR*=(O*-Ost)×Qa×0.23 式3
ΔOSR*=(O*-Ost)/O*×Aa×0.23 式4
【0034】
図4の三段目から明らかな通り、理想吸放量OSR*は、リッチ/リーンの制御の切り替え後、即座に、上昇または減少していく。そのため、理想吸放量OSR*は、比較的短時間のうちに、切替吸放量OSR_RC,OSR_LNに達する。なお、図4の例では、この理想吸放量OSR*が、切替吸放量OSR_RC,OSR_LNに達したタイミングで、リッチ/リーンの制御の切り替えを行っている。
【0035】
本例の制御装置34は、この理想吸放量OSR*を利用して、リッチ/リーンの制御の切り替え周期Tcが過度に大きくなることを防止している。図5A図5Bは、こうした理想吸放量OSR*を利用した制御の切替判定部40,60の構成を示すブロック図である。図5Aは、リーン制御の実行中に用いられるLN用切替判定部40であり、図5Bは、リッチ制御の実行中に用いられるRC用切替判定部60である。図5A図5Bでは、これら切替判定部40,60を回路のように図示しているが、実際には、切替判定部40,60の機能は、制御装置34が、所定のプログラムに従って動作することでソフト的に実現されている。
【0036】
LN用切替判定部40は、第一演算器42を有している。第一演算器42には、AF検出値O#と、燃料噴射量Qaと、吸入空気量Aaと、が入力される。第一演算器42は、式1または式2に従い、瞬時検出吸放量ΔOSR#を算出する。瞬時検出吸放量ΔOSR#は、第一加算器44により、1サイクル前の検出吸放量OSR#[i-1]と加算される。この第一加算器44からの出力値が、検出吸放量OSR#となる。
【0037】
また、LN用切替判定部40は、第二演算器46を有している。第二演算器46には、AF理想値O*と、燃料噴射量Qaと、吸入空気量Aaと、が入力される。第二演算器46は、式3または式4に従い、瞬時理想吸放量ΔOSR*を算出する。瞬時理想吸放量ΔOSR*は、第二加算器48により、1サイクル前の理想吸放量OSR*[i-1]と加算される。この第二加算器48からの出力値が、理想吸放量OSR*となる。
【0038】
理想吸放量OSR*は、ポスト補正部49に入力される。ポスト補正部49は、第三加算器50を有している。第三加算器50は、理想吸放量OSR*と、予め規定の補正値Kaと、を加算し、ガード吸放量OSRgとして出力する。なお、LN用切替判定部40で用いられる補正値Kaは、理想吸放量OSR*を引き下げる値、すなわち、負の値である。この補正値Kaは、予め規定された固定値でもよいし、制御の状況に応じて変動する変数でもよい。
【0039】
下限ガード処理部52は、検出吸放量OSR#を、ガード吸放量OSRgで下限ガードした値を、修正吸放量OSRcとして出力する。すなわち、下限ガード処理部52は、検出吸放量OSR#が、ガード吸放量OSRg未満の場合には、ガード吸放量OSRgを、修正吸放量OSRcとして出力する。また、下限ガード処理部52は、検出吸放量OSR#が、ガード吸放量OSRg以上の場合には、検出吸放量OSR#を、修正吸放量OSRcとして出力する。別の言い方をすれば、下限ガード処理部52は、検出吸放量OSR#およびガード吸放量OSRgのうち高い値を、修正吸放量OSRcとして出力する。
【0040】
比較器54は、修正吸放量OSRcと、予め規定されたLN用切替吸放量OSR_LNと、を比較する。そして、比較器54は、比較結果に応じた切替信号Sgを出力する。切替信号Sgは、OSRc≧OSR_LNの場合にHighとなり、OSRc<OSR_LNの場合にLowとなる。制御装置34は、Highの切替信号Sgが出力されれば、リーン制御からリッチ制御に切り替える。
【0041】
リッチ制御の実行中は、図5Bに示す、RC用切替判定部60により、制御の切り替えの要否が判定される。RC用切替判定部60における、検出吸放量OSR#およびガード吸放量OSRgの算出の手順は、LN用切替判定部40での手順とほぼ同じである。ただし、RC用切替判定部60で用いる補正値Kaは、理想吸放量OSR*を引き上げる値、すなわち、正の値である。
【0042】
検出吸放量OSR#およびガード吸放量OSRgは、上限ガード処理部72に入力される。上限ガード処理部72は、検出吸放量OSR#をガード吸放量OSRgで上限ガードした値を修正吸放量OSRcとして出力する。すなわち、上限ガード処理部72は、検出吸放量OSR#が、ガード吸放量OSRg以上の場合には、ガード吸放量OSRgを、修正吸放量OSRcとして出力する。また、上限ガード処理部72は、検出吸放量OSR#が、ガード吸放量OSRg未満の場合には、検出吸放量OSR#を、修正吸放量OSRcとして出力する。別の言い方をすれば、上限ガード処理部72は、検出吸放量OSR#およびガード吸放量OSRgのうち低い値を、修正吸放量OSRcとして出力する。
【0043】
比較器74は、修正吸放量OSRcと、予め規定されたRC用切替吸放量OSR_RCと、を比較する。そして、比較器74は、比較結果に応じた切替信号Sgを出力する。切替信号Sgは、OSRc<OSR_RCの場合にHighとなり、OSRc≧OSR_RCの場合にLowとなる。制御装置34は、Highの切替信号Sgが出力されれば、リッチ制御からリーン制御に切り替える。
【0044】
次に、図6を参照して、検出吸放量OSR#をガード吸放量OSRgで、下限ガードまたは上限ガードした場合の効果について説明する。図6は、リーン制御中に得られる酸素吸放量OSRの一例を示す図である。図6において、破線は、前側AFセンサ28が正常な場合に得られるAF検出値O#_nおよび検出吸放量OSR#_nを示している。また、一点鎖線は、前側AFセンサ28の応答遅れが過度に増加した際に得られるAF検出値O#_aおよび検出吸放量OSR#_aを示している。さらに、太実線は、AF理想値O*、および、AF理想値O*に基づいて算出されたガード吸放量OSRgを示している。
【0045】
ガード吸放量OSRgは、理想吸放量OSR*から補正値Kaを加算した値である。図6の例では、補正値Kaは、ガード吸放量OSRgが、正常時の検出吸放量OSR#_nよりも小さくなる値が設定されている。そのため、前側AFセンサ28が正常な場合、検出吸放量OSR#が修正吸放量OSRcとして出力される。そして、検出吸放量OSR#_n(すなわち修正吸放量OSRc)がLN用切替吸放量OSR_LNに達した時点(すなわち図6における時刻t2)で、リッチ制御に切り替わる。
【0046】
一方、前側AFセンサ28の応答遅れが大きくなった場合、ガード吸放量OSRgが、検出吸放量OSR#_aより大きくなる。この場合、ガード吸放量OSRgが修正吸放量OSRcとして出力される。そして、検出吸放量OSR#_aが、LN用切替吸放量OSR_LNに未達であったとしても、ガード吸放量OSRg(すなわち修正吸放量OSRc)が、LN用切替吸放量OSR_LNに達した時点(すなわち図6における時刻t3)でリッチ制御に切り替わる。そして、これにより、リッチ/リーンの制御の切り替え周期Tcが過度に大きくなることが防止できる。結果として、エミッションの悪化を効果的に防止できる。
【0047】
なお、本例では、理想吸放量OSR*に対して、補正値Kaを加算するというポスト補正処理を施した値を、ガード吸放量OSRgとして算出している。しかし、ガード吸放量OSRgは、AF理想値O*に依存する値であれば、他の値でもよい。例えば、ガード吸放量OSRgは、AF理想値O*を式3または式4に当てはめて算出した理想吸放量OSR*そのものであってもよい。
【0048】
また、理想吸放量OSR*の算出に先立って、AF理想値O*に所定のプレ補正処理を施してもよい。図7は、AF理想値O*にプレ補正処理を施す場合のLN用切替判定部40の一例を示す図である。図7に示す通り、LN用切替判定部40は、プレ補正部41を有する。プレ補正部41は、AF理想値O*に所定のプレ補正処理を施す。第一演算器42は、補正後のAF理想値O**に基づいて、理想吸放量OSR*を算出する。以降の処理は、図5Aと同じであるため、説明を省略する。なお、図7では、ポスト補正部49を図示しているが、プレ補正部41を設ける場合、ポスト補正部49は無くてもよい。
【0049】
ここで、プレ補正部41で行うプレ補正処理は、理想吸放量OSR*を、正常時の検出吸放量OSR#_nに近づける処理であれば、特に限定されない。したがって、例えばプレ補正処理は、AF理想値O*をなまった波形に変換するなまし処理でもよい。例えば、プレ補正部41は、AF理想値O*の移動平均値を、補正後のAF理想値O**として出力してもよい。
【0050】
図8は、なまし処理の作用を示す図である。図8において、太実線は、補正前のAF理想値O*と、このAF理想値O*から算出される理想吸放量OSR*と、を示している。また、図8において、破線は、なまし処理が施されたAF理想値O**と、この補正後のAF理想値O**から算出される。理想吸放量OSR**と、を示している。
【0051】
図8から明らかな通り、なまし処理を施すことで、理想吸放量OSR**の挙動が、正常時の検出吸放量OSR#(すなわち図2の検出吸放量OSR#)に近くなる。そして、かかる理想吸放量OSR**をガード吸放量OSRgとして用いることで、リッチ/リーンの制御の切り替え周期Tcが、正常時の切り替え周期Tcから大きく乖離することを防止できる。
【0052】
また、別の形態として、図9に示すように、プレ補正処理は、AF理想値O*の位相をずらす処理でもよい。例えば、プレ補正部41は、AF理想値O**の立ち上がり点Pupおよび立ち下がり点Pdnが、AF検出値O#の立ち上がり点Pupおよび立ち下がり点Pdnと一致するように、AF理想値O*の位相をずらしてもよい。
【0053】
図9は、位相のずらし処理の作用を示す図である。図9において、一段目は、制御状態CSを示しており、二段目は、AF検出値O#を示している。また、図9の三段目、四段目における太実線は、補正前のAF理想値O*と、このAF理想値O*から算出される理想吸放量OSR*と、を示している。また、図9の三段目、四段目にける破線は、位相のずらし処理が施されたAF理想値O**と、この補正後のAF理想値O**から算出される。理想吸放量OSR**と、を示している。
【0054】
図9から明らかな通り、位相のずらし処理を施すことで、理想吸放量OSR**の挙動が、正常時の検出吸放量OSR#(すなわち図2の検出吸放量OSR#)に近くなる。そして、かかる理想吸放量OSR**をガード吸放量OSRgとして用いることで、リッチ/リーンの制御周期が、正常時の制御周期から大きく乖離することを防止できる。
【0055】
また、これまで説明した補正値Kaの加算処理と、AF理想値O*のなまし処理と、AF理想値O*の位相のずらし処理と、は互いに組み合わされてもよい。また、別の形態として、プレ補正処理およびポスト補正処理のいずれも行わなくてもよい。さらに、プレ補正処理およびポスト補正処理の内容は、適宜、変更されてもよい。例えば、ポスト補正処理として、算出された理想吸放量OSR*の波形をなます、なまし処理を行ってもよい。また、プレ補正処理として、AF理想値O*に、所定の補正値を加算する加算処理を行ってもよい。
【0056】
また、本例では、予め規定されたAFリーン値OlnおよびAFリッチ値OrcをAF理想値O*として用いている。しかし、燃料噴射量Qaと吸入空気量Aaとの比率をAF理想値O*として用いてもよい。すなわち、O*=Aa/Qaとしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 エンジン、12 燃焼室、14 ピストン、16 点火プラグ、18 吸気通路、20 スロットルバルブ、22 燃料噴射弁、24 排気通路、26 触媒コンバータ、27 触媒、28 前側AFセンサ、30 ブレーキペダル、32 アクセルペダル、34 制御装置、36 プロセッサ、38 メモリ、40 LN用切替判定部、41 プレ補正部、42 第一演算器、44 第一加算器、46 第二演算器、48 第二加算器、49 ポスト補正部、50 第三加算器、52 下限ガード処理部、54 比較器、60 RC用切替判定部、62 第一演算器、72 上限ガード処理部、74 比較器。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9