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特許7613460Fan-In/Fan-Outデバイスおよびそれを含む光通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】Fan-In/Fan-Outデバイスおよびそれを含む光通信システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/125 20060101AFI20250107BHJP
   G02B 6/26 20060101ALI20250107BHJP
   G02B 6/30 20060101ALI20250107BHJP
   G02B 6/04 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G02B6/125
G02B6/26 301
G02B6/30
G02B6/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022504433
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008246
(87)【国際公開番号】W WO2021177367
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020038906
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒生 侑季
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-509411(JP,A)
【文献】特表2019-537055(JP,A)
【文献】特表2014-530374(JP,A)
【文献】特表2015-529848(JP,A)
【文献】特開平11-052158(JP,A)
【文献】特開2012-098722(JP,A)
【文献】特表2014-522997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0105831(US,A1)
【文献】特開2022-170743(JP,A)
【文献】特開2020-13036(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131441(WO,A1)
【文献】特開2014-178628(JP,A)
【文献】特開2013-76893(JP,A)
【文献】国際公開第2012/088361(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/14
G02B 6/26-6/27
G02B 6/30-6/34
G02B 6/42-6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一デバイス端面と、
前記第一デバイス端面に対向する第二デバイス端面と、
前記第一デバイス端面に一致した第一導波路端面と、前記第二デバイス端面に一致した第二導波路端面とを有し、次数の異なる複数のモードの光が導波する導波路であって、前記第一導波路端面から前記第二導波路端面までの光路上に1またはそれ以上の曲げ部が設けられた導波路と、
前記導波路が内部または表面に設けられたクラッド層であって、前記導波路の屈折率よりも低い屈折率を有するクラッド層と、
を備え、
前記導波路は、
前記第一導波路端面から前記第二導波路端面までの光路長で定義される、5×10[nm]以上100×10[nm]以下の導波路長Lを有するとともに、
前記複数のモード間における群遅延時間差Δβ1が、
|Δβ1|≦2×10-12[s]/L
で与えられる条件を満たす構造を有する、
Fan-In/Fan-Outデバイス。
【請求項2】
第一デバイス端面と、
前記第一デバイス端面に対向する第二デバイス端面と、
前記第一デバイス端面に一致した第一導波路端面と、前記第二デバイス端面に一致した第二導波路端面とを有し、次数の異なる複数のモードの光が導波する導波路であって、前記第一導波路端面から前記第二導波路端面までの光路上に1またはそれ以上の曲げ部が設けられた導波路と、
前記導波路が内部または表面に設けられたクラッド層であって、前記導波路の屈折率よりも低い屈折率を有するクラッド層と、
を備え、
前記導波路は、
前記第一導波路端面から前記第二導波路端面までの光路長で定義される、5×10[nm]以上100×10[nm]以下の導波路長Lを有するとともに、
前記複数のモード間のMPIに起因した光信号強度変動の光周波数に対する振動周期Tfを分割する整数値であって10以上100以下のいずれかの整数で定義される分割数N、および、25×10[Hz]以上1000×10[Hz]以下のいずれかの周波数で定義される変調速度Δfに対して前記複数のモード間における群遅延時間差Δβ1が、 |Δβ1|≦1/(N・2Δf・L)
で与えられる条件を満たす構造を有する、
Fan-In/Fan-Outデバイス。
【請求項3】
前記導波路長が20×10[nm]以下である、
請求項2に記載のFan-In/Fan-Outデバイス。
【請求項4】
前記曲げ部は、40mm以下の曲率半径rを有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のFan-In/Fan-Outデバイス。
【請求項5】
コア同士がシングルモード接続される、少なくとも一対の光ファイバと、
前記一対の光ファイバの間に配置された、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のFan-In/Fan-Outデバイスと、
を備えた光通信システム。
【請求項6】
前記一対の光ファイバそれぞれは、シングルコア光ファイバ、または、マルチコア光ファイバを含む、
請求項5に記載の光通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光導波路デバイスおよびそれを含む光通信システムに関するものである。
本願は、2020年3月6日に出願された日本特許出願第2020-038906号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
光導波路デバイスの一つとして、例えば特許文献1および特許文献2に開示されたように、複数並んだ導波路(コア)のピッチを光の伝搬方向に沿って変換するFIFO(Fan-in/Fan-out)デバイスが知られている。このようなFIFOデバイスを利用することにより、コアピッチが異なる組み合わせ、例えば、同一平面上に並列に配置された複数のシングルコア光ファイバファイバ(以下、「SCF」と記す)の各コアと、マルチコア光ファイバ(以下、「MCF」と記す)の対応するコアとを低損失に接続することが可能になる。
【0003】
なお、特許文献1には、三次元の導波路構造を有するとともにモードフィールド径(以下、「MFD」と記す)の変換機能を有するFIFOデバイスが開示されている。また、特許文献2には、接続されるべきコア間の接続損失をレンズにより抑制する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018-135411号
【文献】特開2014-178628号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の光導波路デバイスは、第一デバイス端面と、第一デバイス端面に対向する第二デバイス端面と、導波路と、クラッド層と、を備える。導波路は、第一デバイス端面に一致した第一導波路端面と、第二デバイス端面に一致した第二導波路端面とを有し、次数の異なる複数のモードの光を導波する。また、導波路は、第一導波路端面から第二導波路端面までの光路上に1またはそれ以上の曲げ部を有する。クラッド層には、導波路が内部または表面に設けられている。クラッド層は、導波路の屈折率よりも低い屈折率を有する。特に、導波路は、5×10[nm]以上100×10[nm]以下の導波路長Lを有するとともに、複数のモード間における群遅延時間差(DMD:Differential Mode Delay、以下、「モード間群遅延時間差」と記す)Δβ1が、以下の式:
|Δβ1|≦1/2×10-12[s]/L
で与えられる条件を満たす構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本開示の光通信システムの構成例(システム構成)を説明するための図である。
図2図2は、本開示の光導波路デバイスの構成例(デバイス構成)を説明するための図である。
図3図3は、MPIに起因する光信号強度変動の制御動作を説明するための図である。
図4図4は、種々の変調速度ごとの、モード間群遅延時間差Δβ1(絶対値)と分割数Nと関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
本開示は、従来のFIFOデバイスの構造上避けられない課題、すなわち、光信号伝送における信号変調時に必要な周波数帯域内での低次モードと高次モードとの干渉(Multipass Interference、以下、「MPI」と記す)に起因する光信号強度変動を制御することにより、接続されるべき一対の光ファイバ間におけるコア同士のシングルモード接続を可能にする光導波路デバイスおよびそれを含む光通信システムを提供することを目的としている。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の光導波路デバイスによれば、光信号伝送における信号変調時に必要な周波数帯域内でのMPIに起因する光信号強度変動が制御可能になり、その結果、接続されるべき一対の光ファイバ間におけるコア同士のシングルモード接続が可能になる。
【0009】
まず、FIFOデバイス等の光導波路デバイスに要求される構造的特長について説明する。
【0010】
FIFOデバイスでは、複数並んだコア(導波路)のピッチを光の伝搬方向に沿って変換するため、各コアは、通常、曲げ構造を有する。そのため、当該FIFOデバイス内において光がコアを伝搬している間に曲げ損失が発生する。したがって、一対の光ファイバ間(実質的には一対一に対応するコア間)を低損失に接続するためには、曲げ損失の抑制が必要になる。また、FIFOデバイス内において、隣接するコア間の最小ピッチは、50μm以下となり、隣接するコア間でのクロストークの増加が光信号伝送におけるノイズ要素となる。そのため、クロストークの抑制も必要になる。
【0011】
上述の曲げ損失およびクロストークの抑制について検討すれば、当該FIFOデバイス内におけるコア-クラッド間の比屈折率差(例えば波長589[nm]において、クラッドの屈折率を基準としたコアの比屈折率差)を増加させ、コア内への光閉じ込めを強化するのが効果的である。ただし、コアの比屈折率差Δの増加は、当該FIFOデバイスのMFD(モードフィールド径)の減少を引き起こし、シングルモード光ファイバ(SMF)との結合損失を増加させる。そのため、当該FIFOデバイスでは、コアの比屈折率差Δの増加に伴い、コア幅(またはコア直径)の拡大が必要になる。
【0012】
しかしながら、コアの比屈折率差Δを増加させるとともにコア幅を拡大した場合、導波させたい基底モードのみならず導波させたくない高次モードも導波可能になる。光信号伝送においては、この高次モードの光伝搬が一般的に問題になる。すなわち、シングルモード伝送用のFIFOデバイス等の光導波デバイスでは、高次モードが導波しうる構造の場合、基底モードと高次モードとの間の干渉(MPI)の発生が問題になる。
【0013】
そこで、本開示の導波路デバイスは、上述のMPIを積極的に排除するのではなく、信号変調に必要な周波数帯域内でのMPIに起因する光信号強度変動を低減するように制御することで、接続されるべき一対の光ファイバ間のシングルモード接続を確保する。
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0015】
(1) 本開示の光導波路デバイスは、25×10[Hz]以上1000×10[Hz]以下のいずれかの周波数で定義される変調速度で変調された、波長λ0の光信号に対するシングルモード伝送用の光学デバイスである。具体的に当該光導波路デバイスは、その一態様として、第一デバイス端面と、第一デバイス端面に対向する第二デバイス端面と、導波路と、クラッド層と、を備える。導波路は、第一デバイス端面に一致した第一導波路端面と、第二デバイス端面に一致した第二導波路端面とを有し、次数の異なる複数のモードの光を導波する。また、導波路は、第一導波路端面から第二導波路端面までの光路上に1またはそれ以上の曲げ部を有する。クラッド層には、導波路が内部または表面に設けられている。クラッド層は、導波路の屈折率よりも低い屈折率を有する。特に、導波路は、5×10[nm]以上100×10[nm]以下の導波路長Lを有するとともに、以下の式:
|Δβ1|≦1/(N・2Δf・L)
で与えられる条件を満たす構造を有する。なお、導波路長Lは、第一導波路端面から第二導波路端面までの光路長で定義される。また、上記式中、パラメータ「Δβ1」はモード間群遅延時間差である。パラメータ「N」は複数のモード間のMPIに起因した光信号強度変動の光周波数に対する振動周期Tfを分割する整数値であって10以上100以下のいずれかの整数で定義される分割数である。パラメータ「Δf」は25×10[Hz]以上1000×10[Hz]以下のいずれかの周波数(例えば、Δf=25[GHz]は25[GBaud]に相当)で定義される変調速度である。
【0016】
(2) 本開示の一態様として、曲げ部は、40mm以下の曲率半径rを有するのが好ましい。当該光導波路デバイスはFIFO(Fan-In/Fan-Out)デバイスに適用可能であり、コアピッチの異なる光ファイバ間の光学的な接続を可能にする。ただし、導波路長Lは、曲げ損失が大きくなり過ぎないように(曲率半径rが小さくなりすぎないように)、5×10[nm]以上であるのが好ましい。一方、デバイスの取り扱いの容易さを確保するため、導波路長Lは、100×10[nm]以下であるのが好ましい
【0017】
(3) 本開示の光通信システムは、その一態様として、少なくとも一対の光ファイバと、該一対の光ファイバの間に設けられた、上述のような構造を有する光導波路デバイス(本開示の光導波路デバイス)と、を備える。上述のような構造を有する光導波路デバイスが適用されることにより、一対の光ファイバは、コア同士がシングルモード接続され得る。
【0018】
(4) 本開示の一態様として、当該光通信システムにおいて、光導波路デバイスを挟むように配置される一対の光ファイバそれぞれは、シングルコア光ファイバ(以下、「SCF」と記す)、または、マルチコア光ファイバ(以下、「MCF」と記す)を含むのが好ましい。特に、一対の光ファイバの一方がMCFを含む場合、基地局等における配線スペースの効率的な利用が可能になる。
【0019】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る光導波路デバイスおよび光通信システムの具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本開示の光通信システムの構成例(システム構成)を説明するための図である。図1の上段には、本開示の光通信システムの一般的な構成例が示されている。図1の中段には、当該光通信システムのFIFOデバイスとして適用可能な、融着延伸型の光導波路デバイス50Aの構成例が示されている。また、図1の下段には、当該光通信システムのFIFOデバイスとして適用可能な、PLC(平面光回路:Planar Lightwave Circuit)型の光導波路デバイス50Bの構成例が示されている。なお、本開示の光通信システムのFIFOデバイスは、光回路が立体的に配置された光導波路デバイスであってもよい。
【0022】
当該光通信システムは、複数の光送信器(以下、「TX」と記す)10と、複数の光受信器(以下、「RX」と記す)20と、MCF(マルチコア光ファイバ)40と、一対のFIFOデバイス50(複数のTX10とMCF40の間に位置するFIFOデバイスを「入力側FIFOデバイス」と記し、MCF40と複数のRX20の間に位置するFIFOデバイスを「出力側FIFOデバイス」と記す)と、複数のTX10と入力側FIFOデバイスとの間、および、出力側FIFOデバイスと複数のRX20との間の双方に配置された複数のSCF(シングルコア光ファイバ)30と、を備える。TX10は、例えば波長1310[nm]、1550[nm]等の光信号に対して25×10[Hz]以上1000×10[Hz]以下のいずれかの変調速度Δf(例えば、25×10[Hz]、50×10[Hz]、100×10[Hz]、200×10[Hz]、500×10[Hz]、1000×10[Hz]等)で変調を行う。
【0023】
複数のSCF30のうち複数のTX10にそれぞれ対応したSCF30は、複数のTX10と入力側FIFOデバイスとの間に配置され、複数のRX20にそれぞれ対応したSCF30は、複数のRX20と出力側FIFOデバイスとの間に配置されている。複数のTX10から光信号がそれぞれ出力され、複数のRX20は複数のTX10からの光信号をそれぞれ受光する。したがって、複数のSCF30は、複数のTX10からの光信号を入力側FIFOデバイスへ個別に伝搬させるための導波路として、または、出力側FIFOデバイスからの光信号を複数のRX20へ個別に伝搬させるための導波路として、機能する。また、複数のSCF30それぞれは、中心軸に沿って伸びた単一コアと、該単一コアを取り囲むクラッドと、を有する。
【0024】
一対のFIFOデバイス50(入力側FIFOデバイスと出力側FIFOデバイス)の間に設けられたMCF40は、中心軸に沿って延びる複数のコアと、該複数のコアそれぞれを取り囲む共通クラッドと、を有する。また、該一対のFIFOデバイス50それぞれは、複数のSCF30のコアを、MCF40の複数のコアのうち対応するコアにそれぞれシングルモード接続させる光学デバイスであり、光の伝搬方向に沿って導波路ピッチ(コアピッチ)が変換されている。
【0025】
一対のFIFOデバイス50には、例えば、図1の中段に示された光導波路デバイス50Aが適用可能である。光導波路デバイス50Aは、コア31およびクラッド32をそれぞれが有する複数のSCF30の先端部分がバンドル化された状態で融着されるとともに、該融着された先端部分の端面300におけるコアの配列(ピッチ)がMCF40におけるコアの配列(ピッチ)に一致するよう延伸された構造を有する。MCF40も、複数のコア41と共通クラッド42を有し、光導波路デバイス50Aの端面(実質的にSCF30の端面300)において、MCF40の各コア41と、複数のSCF30の各コア31が光学的に接続(例えば融着接続)される。光導波路デバイス50Aを構成する複数のSCF30のうち融着部分の横断面で周辺に位置するSCF30のコア31には、融着部分の横断面で中央に位置するSCF30のコアに設けられた曲げ部よりも、曲率半径rが小さい曲げ部が形成される。この光導波路デバイス50Aでは、各コア31は、SCF30のクラッド32により一体的に取り囲まれている。なお、この光導波路デバイス50Aの場合、SCF30の融着部分のうち隣接するコア31のピッチが変化し始める位置が第一デバイス端面に相当し、SCF30の端面300の位置が第二デバイス端面に相当する。この光導波路デバイス50Aの導波路長Lは、延伸部分の急激なコア径変動による過剰損失を抑制するために、10~100mmが好適である。導波路長の上限は、80×10[nm]、60×10[nm]、40×10[nm]、または20×10[nm]であってもよい。
【0026】
また、図1の下段に示されたPLC型の光導波路デバイス50Bも、一対のFIFOデバイス50に適用可能である。光導波路デバイス50Bは、それぞれがコア31およびクラッド32を有する各SCF30の端面300が固定される第一デバイス端面と、MCF40の端面400が固定される第二デバイス端面と、を有する。第一デバイス端面と第二デバイス端面との間には、各SCF30のコア31を、MCF40の対応するコア41にシングルモード接続するためのデバイス内コア(当該光導波路デバイス50B内の導波路)が、クラッド層の表面付近、または内部に形成されている。デバイス内コアの断面形状は、円形、半円形、矩形のいずれであってもよい。特に、デバイス内コアが矩形断面を有する矩形導波路である場合、一例として、クラッド層の下地層上に矩形導波路が形成された後、該矩形導波路を覆うようにクラッド層の上層が設けられる。この光導波路デバイス50Bの導波路長Lは、取り扱いやすさの観点から5~20mmが好適である。
【0027】
図2は、本開示の光導波路デバイスの構成例(デバイス構成)として、PLC型の光導波路デバイス50Bの例を詳述するための図である。
【0028】
図2の上段に示されたPLC型の光導波路デバイス50Bは、それぞれがコア31およびクラッド32を有するSCF30の端面300(図1の下段参照)が固定される第一デバイス端面50aと、MCF40の端面400(図1の下段参照)が固定される第二デバイス端面50bと、を有する。第一デバイス端面50aと第二デバイス端面50bとの間には、SCF30のコア31それぞれを、MCF40の対応するコア41にシングルモード接続するためのコア(導波路)51が、クラッド層52の表面付近、または内部に形成されている。コア51の第一端面(第一導波路端面)51aは、第一デバイス端面50aに一致しており、コア51の第二端面(第二導波路端面)51bは、第二デバイス端面50bに一致している。コア51は、第一端面51aから第二端面51bとの間に設けられた、少なくとも1つの曲げ部55を有し、該曲げ部55は、40mm以下の曲率半径rを有する。クラッド層52に対するコア51の比屈折率差、および、コア51の幅は、SCF30およびMCF40に対応して、適宜決められる。クラッド層52に対するコア51の比屈折率差の下限は、例えば0.25%、0.30%、または0.35%である。上限は、例えば0.6%、0.7%、または0.8%である。また、コア51の幅の下限は、例えば6.5μm、7.0μm、または7.5μmである。上限は、例えば8.0μm、8.5μm、または9.0μmである。この構成により、コア51を、次数の異なる複数のモードの光が導波する。コア51の導波路長Lは、曲げ損失が大きくなり過ぎないように(曲率半径rが小さくなりすぎないように)、5×10[nm]以上であるのが好ましい。一方、デバイスの取り扱いの容易さを確保するため、導波路長Lは、20×10[nm]以下であるのが好ましい。
【0029】
なお、クラッド層52の表面にコア51が形成される場合、コア51は、半円形状または矩形の断面を有する。また、クラッド層52内にコア51が形成される場合、コア51は、円形形状または矩形の断面を有する。いずれの場合も、コア51の幅は、該コア51をクラッド層52の表面に投影したときに得られる平面図形において、該コア51の長手方向に直交する方向に沿った最大幅で与えられる。また、コア51がクラッド層52内に設けられる場合、下地層(under cladding)の上にコア51と上層(over cladding)とを順に積んでもよく、クラッド層52に対してレーザ光を照射してクラッド層52の中に描画してもよい。
【0030】
図2の下段に示されたように、一般に、曲率半径rの曲げ部550が設けられた導波路510の一方の端面510aから所定波長の光が入力されると、該入力された光が他方の端面510bへ向かって導波路長Lだけ伝搬する過程で、低次モードと高次モードの光が発生する。このとき、コア51内を伝搬する低次モードと高次モードとの間でMPIが発生する。このMPIの発生は、光信号伝送における信号変調時に問題となる(信号変調時に必要な周波数帯域内で、MPIに起因した光信号強度変動が発生する)。そのため、本開示の光導波路デバイス(一対のFIFOデバイス50に相当)は、コア同士が光学的に接続される一対の光ファイバ間におけるシングルモード接続を可能にするよう設計されている。
【0031】
図3は、MPIに起因する光信号強度変動の制御動作を説明するための図である。図3の上段には、MPIに起因した光信号強度の周波数依存性が示されており、この周波数特性は、MPIに起因した光信号強度の光周波数に対する振動周期Tfにより特徴付けられる。
【0032】
本開示では、低次モードと高次モードの干渉モード(MPI)が当該光通信(変調)システムへ与える影響を、図3の中段および下段に示された「光信号強度変動の変動率」として定量化し、このMPI起因の「光信号強度変動の変動率」が信号変調時に必要な周波数帯域内で問題とならない条件を、以下のように定義する。
【0033】
導波路長L[mm]を有する光導波路デバイスにおいて、低次モードと高次モード間の群遅延時間差、すなわち、モード間群遅延時間差Δβ1[s/nm]と、MPIに起因する光信号強度変動の周波数依存性が持つ光周波数に対する振動周期Tf[Hz](図3の上段)との間には、以下の第一関係式:
Tf[Hz]=1/(|Δβ1|・L)
が成立している。
【0034】
ここで、各モードの群遅延時間β1は、以下の式(1):
【数1】
λ0:信号波長
c:光速
で与えられる。上記式(1)で与えられる群遅延時間は、中心周波数ω0における伝搬定数βの1階微分値であり、群速度Vgの逆数である。
【0035】
このMPIに起因した光信号強度変動が信号変調時のノイズとなることを防ぐため、MPIの光周波数に対する振動周期Tf[Hz]は、信号変調に必要な周波数帯域2Δfより十分に大きくする必要がある(Δfは変調速度のレートであって、25[GHz]以上)。具体的には、図3の中段に示されたように、振動周期Tf[Hz]を整数Nで分割した周波数範囲内で変調する(変調に必要な周波数帯域2ΔfをTf/N以内とする)こととし、図3の下段に示されたように分割する数Nを増加させることで、MPIに起因した光信号強度変動の変動率を任意に抑制することができる。なお、図3の中段において、縦軸は、光信号強度の変動幅を1(最大強度を0.5、最小強度を-0.5に設定)とした正規化強度を示す。つまり、変調速度Δfは、光周波数に対する振動周期Tfおよびその分割数Nに対して、以下の第二関係式:
2×Δf[Hz]≦Tf[Hz]/N
を満たすよう設定される。これは、周波数fを中心とした(f-Δf)[Hz]以上(f+Δf)[Hz]以下の範囲に、MPIによる光信号強度変動への影響を限定することを意味する。換言すれば、最大変動幅Amaxの光信号強度変動を変動幅Aminの光信号強度変動として取り扱うことを意味する。
【0036】
例えば、図3の下段に示されたように、分割数Nが10のときMPI起因の光信号強度変動の最大変動率は31%である。分割数Nが20のとき最大変動率は16%である。分割数Nが50のとき最大変動率は6%である。分割数Nが100のときMPI起因の光信号強度変動の最大変動率は3%である。
【0037】
更に、上記第一関係式を上記第二関係式に代入することにより、以下の式:
|Δβ1|≦1/(N・2Δf・L)
が得られる。なお、「L」は導波路長、「Δβ1」はモード間群遅延時間差、「N」は光周波数に対する振動周期Tfを分割する整数値であって10以上100以下のいずれかの整数で定義される分割数、「Δf」は25×10[Hz]以上1000×10[Hz]以下のいずれかの周波数(例えば、Δf=25[GHz]は25[GBaud]に相当)で定義される変調速度である。|Δβ1|≦2×10-12[s]/Lを満たす光導波路デバイスでは、変調速度Δf=25×10[Hz]の信号に対して分割数を10以上にでき、変調信号の強度変動はMPI起因の最大光信号強度変動に対して31%以下に抑えることができる。
【0038】
図4は、上述の種々の変調速度ごとの、モード間群遅延時間差Δβ1(絶対値)と分割数Nと関係を示すグラフである。用意された光導波路デバイスは、導波路として、高次モードを許容する、SI(Step Index)型の屈折率プロファイルを有するとともに矩形断面を有するコアを有するFIFOデバイスであり、図4の上段には、10mmの導波路長Lを有する光導波路デバイスにおけるΔβ1(絶対値)と分割数Nと関係、図4の下段には、40mmの導波路長Lを有する光導波路デバイスにおけるΔβ1(絶対値)と分割数Nと関係が示されている。
【0039】
具体的に、用意されたFIFOデバイスにおいて、クラッド層に対するコアの比屈折率差Δは、サンプル1(本開示の実施形態としてのFIFOデバイス)および比較例1が0.5%、サンプル2(本開示の実施形態としてのFIFOデバイス)および比較例2が0.7%である。コア幅は、サンプル1および比較例1が8μm、サンプル2および比較例2が8.5μmである。用意された全てのFIFOデバイスにおいて、最小コアピッチは、35μmであり、コアに設けられた曲げ部の曲率半径rは、20mmである。また、コアの導波路長Lは、サンプル1およびサンプル2が10mm(図4の上段)、比較例1および比較例2が40mm(図4の下段)である。このFIFOデバイスに対して波長λ0=1310[nm]の光信号が入力される。
【0040】
なお、上述の構造を有するFIFOデバイスにおいて、理論曲げ損失は、用意された全てのFIFOデバイスにおいて、ほぼ0dB/mmである。実測クロストークは、サンプル1および比較例1が-40dB以下、サンプル2および比較例2が-50dB以下である。また、モード間群遅延時間差Δβ1に関し、低次モード(基底モード)の群遅延時間β1は、サンプル1および比較例1が4.904×10-18[s/nm]、サンプル2および比較例2が4.914×10-18[s/nm]である。導波路内を導波する最高次のモードの群遅延時間β1は、サンプル1および比較例1が4.905×10-18[s/nm](一次)、サンプル2および比較例2が4.919×10-18[s/nm](二次)である。このとき、モード間群遅延時間差Δβ1の絶対値は、サンプル1および比較例1が5.211×10-22[s/nm](=|(4.904―4.905)|×10-18)、サンプル2および比較例2が4.717×10-21[s/nm](=|(4.914―4.919)|×10-18)である。
【0041】
図4の上段および下段において、グラフG510AおよびグラフG510Bは、変調速度Δf=25[GHz]のときの分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示し、グラフG520AおよびグラフG520Bは、変調速度Δf=50[GHz]のときの分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示し、グラフG530AおよびグラフG530Bは、変調速度Δf=100[GHz]のときの分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示し、グラフG540AおよびグラフG540Bは、変調速度Δf=200[GHz]のときの分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示し、グラフG550AおよびグラフG550Bは、変調速度Δf=500[GHz]のときの分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示し、グラフG560AおよびグラフG560Bは、変調速度Δf=1[THz]のときの分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示している。また、グラフG410は、サンプル1の構造を有するFIFOデバイスについて、分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示しており、変調速度Δfが25[GHz]から1[THz]の全ての場合において、式:|Δβ1|≦1/(N・2Δf・L)が満たされていることが確認できる。グラフG420は、サンプル2の構造を有するFIFOデバイスについて、分割数NとΔβ1(絶対値)の関係を示しており、変調速度Δfが25[GHz]から100[GHz]の場合において、式:|Δβ1|≦1/(N・2Δf・L)が満たされていることが確認できる。一方、導波路長Lが20mmを超えている比較例1の構造を有するFIFOデバイス(グラフG430)では、変調速度Δfは200[GHz]まで、比較例2の構造を有するFIFOデバイス(グラフG440)では、変調速度Δfは25[GHz」までに制限される。なお、接続された光ファイバと当該FIFOデバイスとの間における理論結合損失は、サンプル1および比較例1が0.05[dB]未満、サンプル2および比較例2が0.08[dB]未満である。
【0042】
以上のように、本開示の光導波路デバイスによれば、低曲げ損失および低クロストーク、更には低結合損失を達成するとともに、モード間群遅延時間差Δβ1が式:|Δβ1|≦1/(N・2Δf・L)を満たしている。これは、低次モードと高次モードとの干渉(MPI)に起因した光信号の劣化は顕著でないことを示している。したがって、本開示の光通信システム上では問題とならない。
【符号の説明】
【0043】
10…TX(光送信器)、20…RX(光受信器)、30…SCF(シングルコア光ファイバ)、31…コア、32…クラッド、300…端面、40…MCF(マルチコア光ファイバ)、41…コア、42…共通クラッド、400…端面、50…FIFOデバイス、50A、50B…光導波路デバイス(FIFOデバイス)、50a…第一デバイス端面、50b…第二デバイス端面、51…コア(導波路)、51a…第一端面(第一導波路端面)、51b…第二端面(第二導波路端面)、52…クラッド層、55…曲げ部。
図1
図2
図3
図4