(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】電極触媒層、及び、膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
C25B 11/056 20210101AFI20250107BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250107BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20250107BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20250107BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C25B11/056
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/052
C25B13/08 301
(21)【出願番号】P 2023051806
(22)【出願日】2023-03-28
【審査請求日】2024-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/176042(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/075777(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0112978(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0376803(US,A1)
【文献】国際公開第2023/068335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子と、イオノマーと、前記イオノマーを吸着することができるイオノマー吸着性炭素繊維と、を含
み、
前記イオノマー吸着性炭素繊維は、親水化処理した炭素繊維である、
水電解装置用電極触媒層。
【請求項2】
前記イオノマー吸着性炭素繊維は前記イオノマーを吸着しており、前記イオノマーの吸着量が前記イオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上である、請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維径は、50nm以上1μm以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
前記イオノマー吸着性炭素繊維は、親水化処理した気相成長炭素繊維(VGCF)である、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項5】
カソード側電極触媒層である、請求項
1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項6】
高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟持するアノード側電極触媒層及びカソード側電極触媒層と、を備え、前記カソード側電極触媒層及び前記アノード側電極触媒層の少なくとも一方は、請求項1又は2に記載の電極触媒層である、膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電解装置に適する電極触媒層および膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルの達成に向けて様々な資源から生成できるCO2フリーなエネルギーとしての水素を主要なエネルギーとして利用する動きが加速している。このような水素を製造する方法として、再生可能エネルギーを用いて水の電解を行う手法が有望視されている。水の電解を行う手法としては一般に、アルカリ水電解及び固体高分子膜(PEM:Polymer Electrolyte Membrane)型水電解が知られているが、特にPEM型水電解は、高効率運転による水電解装置の小型化が可能な手法として注目を集めている。
【0003】
PEM型水電解装置は一般に、一対の主電極と、一対の主電極の間に設けられる膜電極接合体とを備えており、膜電極接合体は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の一面上にアノード側電極触媒層を設けてなる積層体と、アノード側電極触媒層とともに固体高分子電解質膜を挟むように設けられるカソード側電極触媒層とを有する。
【0004】
外部の電力をアノード側電極触媒層とカソード側電極触媒層に印加すると、それぞれの電極触媒層内の触媒上で水の電気分解反応が生じる。アノードでは水からプロトンと電子、酸素を生じ、プロトンは固体高分子電解質膜を、電子は外部回路を通じてカソードに移動し、カソードで水素を生じる。
【0005】
上記膜電極接合体は、固体高分子電解質膜の一面に、例えば塗布法を用いて電極触媒層を形成することにより得られる(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の膜電極接合体は、電極触媒層にクラックが発生する場合があり、クラックの発生抑制の点で改善の余地を有していた。クラックの発生は、触媒に対するプロトンと電子の移動を阻害し、水の電解性能を低下させる場合がある。
【0008】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電極触媒層におけるクラックの発生を抑制することができ、水の電解性能を向上させた水電解装置に適する電極触媒層及び膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]触媒粒子と、イオノマーと、前記イオノマーを吸着することができるイオノマー吸着性炭素繊維と、を含むことを特徴とする、電極触媒層。
【0010】
[2]前記イオノマー吸着性炭素繊維は前記イオノマーを吸着しており、前記イオノマーの吸着量が前記イオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上であることを特徴とする、[1]に記載の電極触媒層。
【0011】
[3]前記イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維径は、50nm以上1μm以下の範囲内であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
【0012】
[4]前記イオノマー吸着性炭素繊維は、親水化処理した炭素繊維である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の電極触媒層。
【0013】
[5]前記イオノマー吸着性炭素繊維は、親水化処理した気相成長炭素繊維(VGCF)である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の電極触媒層。
【0014】
[6]水電解装置用である[1]~[5]のいずれか一項に記載の電極触媒層。
【0015】
[7]カソード側電極触媒層である、[6]のいずれか一項に記載の電極触媒層。
【0016】
[8]高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟持するアノード側電極触媒層及びカソード側電極触媒層と、を備え、前記カソード側電極触媒層及び前記アノード側電極触媒層の少なくとも一方は、[1]~[7]のいずれか一項に記載の電極触媒層である、膜電極接合体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様の電極触媒層及び膜電極接合体によれば、簡便な手法を用いて十分な機械的強度を有し、水の電解性能を向上させた水電解セル用積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水電解セル用の電極触媒層を有する膜電極接合体を模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るカソード側電極触媒層の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
〔膜電極接合体〕
本実施形態の膜電極接合体11は、
図1に示すように、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1を高分子電解質膜1の上下各面から狭持するアノード側電極触媒層3(
図1中、下側に示す)、及び、カソード側電極触媒層2(
図1中、上側に示す)とを備える。
【0021】
(カソード側電極触媒層2)
図2に示すように、カソード側電極触媒層2は、触媒粒子12と、イオノマー(高分子電解質)13と、イオノマー吸着性炭素繊維14と、を含む。
【0022】
(カソード側の触媒粒子)
触媒粒子12は、粒子状である。触媒粒子の活性の向上を要求される場合、触媒粒子の平均粒径は、20nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。触媒粒子の活性の安定化を要求される場合、触媒粒子の平均粒径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましい。
【0023】
カソード側電極触媒層の触媒粒子は、還元反応を行うための触媒である。触媒粒子の構成材料としては、白金族元素、金属、その金属の合金や酸化物、複酸化物等を用いることができる。白金族元素としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムがあり、金属としては、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウムもしくはアルミニウム等が例示できる。なお、ここでいう複酸化物とは2種類の金属からなる酸化物である。
【0024】
カソード側電極触媒層の触媒粒子は、担体15に担持されていてもよい。担体は導電性を有し、かつ触媒物質に浸食されない粒子である。担体の一例は、炭素粒子である。電子の伝導路の拡張を要求される場合、担体の粒径は、10nm以上であることが好ましい。電極触媒層の抵抗値の低下を要求される場合、また触媒粒子の担持量の増大を要求される場合、担体の粒径は、1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
担体の構成材料の一例は、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、およびフラーレンからなる群から選択される少なくとも一種である。カーボンブラックは、アセチレンブラック、ファーネスブラック、および、ケッチェンブラックからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0025】
(イオノマー(高分子電解質))
イオノマー(高分子電解質)13は、プロトンもしくは水酸化物イオンの伝導性を有した高分子の電解質である。
プロトンの伝導性を有した高分子電解質は、例えば粒子状、あるいは複数の粒子が合一した形状を有する。プロトンの伝導性を有した高分子電解質の一例は、フッ素系高分子電解質、あるいは炭化水素系高分子電解質である。フッ素系高分子電解質の一例は、Nafion((登録商標)デュポン(株)製)、Flemion((登録商標)旭硝子(株)製)、Aciplex((登録商標)旭化成(株)製)、Gore-Select((登録商標)日本ゴア合同会社製)からなる群から選択される少なくとも一種である。炭化水素系カチオン交換電解質の一例は、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、およびスルホン化ポリフェニレンからなる群から選択される少なくとも一種である。
また、水酸化物イオンの伝導性を有した高分子電解質は、水酸化物イオンを伝導するものであれば特に限定するものではない。例えば、フッ素系アニオン交換電解質や炭化水素系アニオン交換電解質がある。フッ素系の電解質としてはパーフルオロカーボン系電解質、炭化水素系の電解質としてはスチレン系電解質やアクリル系電解質などが挙げられる。
【0026】
(イオノマー吸着性炭素繊維14)
イオノマー吸着性炭素繊維14は、イオノマーを吸着することができる。イオノマー吸着性炭素繊維に特に限定はないが、親水性が付与された炭素繊維(親水化炭素繊維)であってよく、例えば、親水性を持つように製造された親水化炭素繊維、非親水性の炭素繊維に対して親水性を付与する処理が施された親水化炭素繊維を用いることができる。炭素繊維に親水性を付与する処理としては、例えば、オゾン処理、酸素プラズマ処理、電解酸化処理、混酸処理が挙げられる。
【0027】
イオノマー吸着性を有する炭素繊維の種類に特段の限定はなく、カーボンファイバー、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどの炭素繊維から選択されてよい。すなわち、イオノマー吸着性炭素繊維は、中実でも中空でもよい。中でも、炭素繊維は、気相成長炭素繊維(VGCF)であることが好適である。
【0028】
イオノマー吸着性炭素繊維14のイオノマーの吸着量は、イオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上であることが好適である。
【0029】
イオノマー吸着性炭素繊維14において、炭素繊維の表面にイオノマー(高分子電解質)が吸着するため、電極触媒層中のクラックの発生が抑制されるなど、電極触媒層の機械特性が向上して耐久性の改善が得られる。また、機械特性の向上と共に、イオノマー吸着性炭素繊維14上にイオノマー(高分子電解質)が吸着することでプロトンもしくは水酸化物イオンの伝導パスが形成され、高い電解性能が得られる。
【0030】
一方、炭素繊維の表面がイオノマー吸着性でない場合は、イオノマー(高分子電解質)の吸着が困難である。そのため、電極触媒層の機械特性が不十分で、クラックの発生を抑制することが困難で、耐久性を改善することができないと推定される。また、イオノマーが分散されることから、プロトンもしくは水酸化物イオンの伝導パスの形成が阻害され、電解性能を改善することができないと推定される。
【0031】
イオノマー吸着性炭素繊維14の平均繊維径は、特に制限されるものではないが、好ましくは50nm~1μmであり、より好ましくは0.1~0.4μmである。この場合、電極触媒層にクラックが生じることがより抑制されやすい。また、高分子電解質膜と電極触媒層との密着性を向上させることもできる。このため、高分子電解質膜と電極触媒層との剥離による空隙の発生を抑制でき、この空隙に起因する膜電極接合体の抵抗の増大をより抑制できる。イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維径が50nmに満たない場合は、機械特性が改善されにくい場合があると推定される。また、イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維径が1μmを超える場合は、インクとして分散できない場合があると推定される。
【0032】
平均繊維径とは、電極触媒層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際に、露出しているイオノマー吸着性炭素繊維の断面について測長される直径の平均値をいう。イオノマー吸着性炭素繊維がその長軸に対して斜めに切断された場合には楕円形の断面が得られるが、その場合は、直径とは、楕円の短軸に沿ってフィッティングした真円の直径をいう。また、電極触媒層の断面を、SEMを用いて観察する場合、イオノマー吸着性炭素繊維の断面ではなくイオノマー吸着性炭素繊維の表面が露出することがある。その場合には、直径とは、露出したイオノマー吸着性炭素繊維の長軸と直交する繊維の幅をいう。イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維径は、少なくとも20カ所の観察点において同様に計測して得られる繊維径の算術平均値をいう。
【0033】
電極触媒層の断面を露出させる方法としては、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等の公知の方法を用いることができる。
【0034】
イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維長は、特に制限されるものではないが、好ましくは500nm以上であり、より好ましくは1μm以上である。この場合、イオノマー吸着性炭素繊維が絡み合い、電極触媒層内で適切さ大きさの空孔を形成するとともに、電極触媒層の機械的特性を向上させることができる。但し、イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維長は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは40μm以下である。
【0035】
イオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維長は、少なくとも10本のイオノマー吸着性炭素繊維を測長して得られる繊維長の算術平均値をいうものとする。電極触媒層内のイオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維長は、電極触媒層を溶媒に溶かした溶液を用いて粒度分布測定を行うことで求めることができる。具体的には、電子顕微鏡で求めた平均繊維長と、粒度分布測定におけるピーク位置との間の相関関係を予め把握しておき、この相関関係と、粒度分布測定により求めたピーク位置に基づいて電極触媒層内のイオノマー吸着性炭素繊維の平均繊維長が求められる。
【0036】
カソード側電極触媒層2の組成に特に限定はないが、触媒粒子の質量を1として、イオノマー(高分子電解質)(固形分)の質量を0.1~0.4、イオノマー吸着性炭素繊維の質量を0.025~0.25とすることができる。
【0037】
(アノード側電極触媒層3)
図2に示すように、アノード側電極触媒層3は、触媒粒子22と、イオノマー(高分子電解質)23と、を含む。なお、アノード側電極触媒層3が、カソード側電極触媒層2と同様にイオノマー吸着性炭素繊維14を含むことで、電極触媒層の機械特性が向上して耐久性の改善が得られる。また、機械特性の向上と共に、イオノマー吸着性炭素繊維14上に高分子電解質が吸着することでプロトンもしくは水酸化物イオンの伝導パスが形成され、高い電解性能が得られる。
【0038】
(触媒粒子)
触媒粒子22は、粒子状である。触媒粒子の活性の向上を要求される場合、触媒粒子の平均粒径は、20nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。触媒粒子の活性の安定化を要求される場合、触媒粒子の平均粒径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましい。
【0039】
アノード側電極触媒層の触媒粒子は、酸化反応を行うための触媒である。触媒粒子の構成材料としては、白金族に含まれる金属、白金族以外の金属、またはこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物を用いることができる。中でも、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金、およびこれらの少なくとも1つを含む合金は触媒活性が高く好適である。なお、触媒粒子は上記例の1種のみであっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0040】
アノード側電極触媒層の触媒粒子は、担体25に担持されていてもよい。担体は導電性を有し、かつ酸化雰囲気下で浸食されない粒子である。担体の一例は、チタンまたはスズ、ジルコニウムを含む酸化物の粒子である。電子の伝導路の拡張を要求される場合、担体の粒径は、10nm以上であることが好ましい。電極触媒層の抵抗値の低下を要求される場合、また触媒粒子の担持量の増大を要求される場合、担体の粒径は、1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0041】
(イオノマー(高分子電解質))
アノード側のイオノマー(高分子電解質)23は、カソード側のイオノマー(高分子電解質)と同様のイオノマー(高分子電解質)を使用することができる。
【0042】
アノード側電極触媒層3の組成に特に限定はないが、触媒粒子の質量を1として、イオノマー(高分子電解質)(固形分)の質量を0.1~0.4、イオノマー吸着性炭素繊維の質量を0.025~0.25とすることができる。
【0043】
(高分子電解質膜1)
高分子電解質膜1の一例は、プロトンもしくは水酸化物イオンの伝導性を有したフッ素系高分子電解質膜、あるいは炭化水素系高分子電解質膜である。高分子電解質膜は、プロトンもしくは水酸化物イオンを伝導するものであれば特に限定するものではない。
【0044】
プロトンの伝導性を有したフッ素系高分子電解質膜の一例は、Nafion((登録商標)デュポン(株)製)、Flemion((登録商標)旭硝子(株)製)、Aciplex((登録商標)旭化成(株)製)、およびGore-Select((登録商標)日本ゴア合同会社製)からなる群から選択される少なくとも一種である。プロトンの伝導性を有した炭化水素系高分子電解質膜の構成材料の一例は、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、およびスルホン化ポリフェニレンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0045】
水酸化物イオンの伝導性を有したフッ素系のアニオン交換電解質膜の一例は、パーフルオロカーボン系電解質膜が挙げられる。一方、炭化水素系のアニオン交換電解質膜の一例は、スチレン系電解質膜やアクリル系電解質膜などが挙げられる。
【0046】
電極触媒層と高分子電解質膜との密着性を高めることを要求される場合、電極の高分子電解質の構成材料がフッ素系高分子電解質であれば、高分子電解質膜の構成材料もまたフッ素系高分子電解質であることが好ましい。また、電極の高分子電解質の構成材料が炭化水素系高分子電解質であれば、高分子電解質膜の構成材料もまた炭化水素系高分子電解質であることが好ましい。さらに、高分子電解質膜の構成材料は、電極の高分子電解質の構成材料と同じであることが好ましい。
【0047】
〔膜電極接合体の製造方法〕
次に、上記構成の膜電極接合体の製造方法の一例を説明する。
【0048】
膜電極接合体は、下記の第一工程から第三工程を含む方法で製造される。
【0049】
第一工程は、炭素繊維に酸素プラズマ処理を行い、炭素繊維の表面に親水性を付与してイオノマー吸着性炭素繊維を製造する工程である。
【0050】
第二工程は、触媒粒子、イオノマー(高分子電解質)、第一工程で得られたイオノマー吸着性炭素繊維、及び溶媒を含むカソード側触媒インクを製造する工程と、触媒粒子、イオノマー(高分子電解質)、及び溶媒を含むアノード側触媒インクを製造する工程である。この工程で、イオノマー吸着性炭素繊維にイオノマーが吸着することができる。
【0051】
第三工程は、第二工程で得られたカソード側触媒インクとアノード側触媒インクを高分子電解質膜上に塗布して溶媒を乾燥させることで、高分子電解質膜の両面にカソード側電極触媒層とアノード側電極触媒層を形成する工程である。
【0052】
〔詳細説明〕
(第1工程)
第1工程では、炭素繊維の表面に酸素プラズマ処理等の処理を行い、炭素繊維の表面に親水性を付与してイオノマー吸着性炭素繊維を製造する。炭素繊維に酸素プラズマ処理などの親水化処理を行う時間で、炭素繊維の表面に付与される親水性の程度、言い換えると、イオノマー吸着性の程度を調節できる。得られたイオノマー吸着性炭素繊維に吸着するイオノマーの量は、所定濃度のイオノマーを分散させた分散液に炭素繊維を接触させ、所定のフィルター(例えば口径0.3~0.5μm)でろ過し、ろ液に含まれるイオノマーの濃度を測定し、算出することができる。
【0053】
(第2工程)
触媒粒子、イオノマー(高分子電解質)、第一工程で得られたイオノマー吸着性炭素繊維、及び溶媒を混合することで、カソード側触媒インクを製造することができる。アノード側触媒インクも同様にして製造することができる。
触媒インクを構成する溶媒は、触媒粒子、イオノマー(高分子電解質)、およびイオノマー吸着性炭素繊維を浸食せず、かつイオノマー(高分子電解質)を溶解、あるいは微細ゲルとして分散する。触媒インクを構成する溶媒の一例は、アルコール類、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、極性溶剤からなる群から選択される少なくとも一種である。アルコール類の一例は、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、イソブチルアルコール、tert‐ブチルアルコール、ペンタノールからなる群から選択される少なくとも一種である。ケトン系溶剤の一例、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンからなる群から選択される少なくとも一種である。エーテル系溶剤の一例は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種である。極性溶剤の一例は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N‐メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1‐メトキシ‐2‐プロパノールからなる群から選択される少なくとも一種である。触媒インクを構成する溶媒は、高分子電解質と高い親和性を有する水を含有してもよい。
【0054】
触媒粒子の分散性の向上を要求される場合、触媒インクは分散剤を含有することが好ましい。分散剤の一例は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤である。触媒インクにおける分散性の向上を要求される場合、触媒インクの製造において分散処理を行うことが好ましい。分散処理の一例は、ボールミルおよびロールミルによる攪拌、せん断ミルによる攪拌、湿式ミルによる攪拌、超音波の印加による攪拌、ホモジナイザーによる攪拌である。
【0055】
電極触媒層の表面におけるクラックの発生抑制を要求される場合、触媒インクにおける固形分含有量は、50質量%以下であることが好ましい。電極触媒層の成膜レートの向上を要求される場合、触媒インクにおける固形分含有量は、1質量%以上であることが好ましい。
【0056】
(第3工程)
触媒インクを基材上に塗布する方法の一例は、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、あるいはロールコーティング法である。触媒インクを塗布される基材は、転写シートである。転写シートの構成材料の一例は、フッ素系樹脂、あるいはフッ素系樹脂以外の有機高分子化合物である。フッ素系樹脂の一例は、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、あるいはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。有機高分子化合物の一例は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートである。
【0057】
なお、上記実施形態では、イオノマー吸着性炭素繊維はカソード側の電極触媒層に設けたが、アノード側の電極触媒層に設けても実施は可能である。
【0058】
以下に、本実施形態における水電解装置用の電極触媒層及び膜電極接合体について具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本実施形態は下記の実施例及び比較例によって制限されるものではない。
【0059】
<効果その他>
本実施形態によれば、複雑な工程を用いることなく、電極触媒層の機械特性が高く、電解性能及び耐久性に優れた水電解装置用膜電極接合体を製造することが可能である。
【0060】
<実施例1>
〔イオノマー吸着性炭素繊維の製造〕
平均繊維径150nmの炭素繊維(VGCF-H(登録商標)、昭和電工社製:気相成長炭素繊維))に対して、酸素プラズマ処理による親水化処理を施し、イオノマー吸着性炭素繊維を得た。なお、プロトンの伝導性を有したイオノマーとしてフッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液)を使用した場合、実施例1のイオノマー吸着性炭素繊維は、イオノマーの吸着量がイオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上であることを確認した。
【0061】
〔カソード側触媒インクの製造〕
以下に示す触媒粒子、およびイオノマー、およびイオノマー吸着性炭素繊維を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで30分間の分散処理を行い、触媒インクを作製した。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールとの混合溶媒を用いた。超純水と1-プロパノールとの体積比は、1:1とした。触媒インクにおける固形分含有量が10質量%になるように触媒インクを調整した。
・触媒粒子:Pt担持カーボン粒子
・イオノマー:フッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液)
・配合比率:触媒インクは、触媒粒子の質量を1として、イオノマー(固形分)の質量を0.4、イオノマー吸着性炭素繊維の質量を0.05とした。
【0062】
〔アノード側触媒インクの製造〕
以下に示す触媒粒子、およびイオノマーを溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで30分間の分散処理を行い、触媒インクを作製した。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールとの混合溶媒を用いた。超純水と1-プロパノールとの体積比は、1:1とした。触媒インクにおける固形分含有量が10質量%になるように触媒インクを調整した。
・触媒粒子:イリジウム酸化物
・イオノマー:フッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液)
・配合比率:触媒インクは、触媒粒子の質量を1として、イオノマー(固形分)の質量を0.2とした。
【0063】
〔膜電極接合体の作製〕
ダイコーターを用いて、プロトンの伝導性を有した高分子電解質膜(フッ素系高分子電解質膜)の片面に対して、調整したカソード側触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。カソード側触媒インクの塗布量は、触媒量が0.5mg/cm2となる量とした。そして、オーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させることにより、カソード側電極触媒層を形成した。
次に、高分子電解質膜におけるカソード側電極触媒層が形成された面の反対の面に対して、調整したアノード側触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。アノード側触媒インクの塗布量は、触媒が0.5mg/cm2となる量とした。そして、オーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させてアノード側電極触媒層を形成することにより膜電極接合体を得た。
実施例1の両方の電極触媒層はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかった。
【0064】
<実施例2>
イオノマー吸着性炭素繊維における炭素繊維として平均繊維径0.8μmの炭素繊維を用いた点以外は、実施例1と同様の手順で実施例2の膜電極接合体を得た。なお、プロトンの伝導性を有したイオノマーとしてフッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液)を使用した場合、実施例2のイオノマー吸着性炭素繊維は、イオノマーの吸着量がイオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上であることを確認した。
実施例2の両方の電極触媒層はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかった。
【0065】
<実施例3>
〔イオノマー吸着性炭素繊維の製造〕
平均繊維径150nmの炭素繊維(VGCF-H(登録商標)、昭和電工社製:気相成長炭素繊維))に対して、酸素プラズマ処理による親水化処理を施し、イオノマー吸着性炭素繊維を得た。なお、水酸化物イオンの伝導性を有したイオノマーとして炭化水素系アニオン交換電解質を使用した場合、実施例3のイオノマー吸着性炭素繊維は、イオノマーの吸着量がイオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上であることを確認した。
【0066】
〔カソード側触媒インクの製造〕
以下に示す触媒粒子、およびイオノマー、およびイオノマー吸着性炭素繊維を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで30分間の分散処理を行い、触媒インクを作製した。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールとの混合溶媒を用いた。超純水と1-プロパノールとの体積比は、1:1とした。触媒インクにおける固形分含有量が10質量%になるように触媒インクを調整した。
・触媒粒子:Pt担持カーボン粒子
・イオノマー:炭化水素系アニオン交換電解質
・配合比率:触媒インクは、触媒粒子の質量を1として、イオノマー(固形分)の質量を0.3、イオノマー吸着性炭素繊維の質量を0.05とした。
【0067】
〔アノード側触媒インクの製造〕
以下に示す触媒粒子、およびイオノマーを溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで30分間の分散処理を行い、触媒インクを作製した。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールとの混合溶媒を用いた。超純水と1-プロパノールとの体積比は、1:1とした。触媒インクにおける固形分含有量が10質量%になるように触媒インクを調整した。
・触媒粒子:イリジウム酸化物
・イオノマー:炭化水素系アニオン交換電解質
・配合比率:触媒インクは、触媒粒子の質量を1として、イオノマー(固形分)の質量を0.3とした。
【0068】
〔膜電極接合体の作製〕
ダイコーターを用いて、水酸化物イオンの伝導性を有した高分子電解質膜(炭化水素系アニオン交換電解質膜)の片面に対して、調整したカソード側触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。カソード側触媒インクの塗布量は、触媒量が0.5mg/cm2となる量とした。そして、オーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させることにより、カソード側電極触媒層を形成した。
次に、高分子電解質膜におけるカソード側電極触媒層が形成された面の反対の面に対して、調整したアノード側触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。アノード側触媒インクの塗布量は、触媒が0.5mg/cm2となる量とした。そして、オーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させてアノード側電極触媒層を形成することにより膜電極接合体を得た。
実施例3の両方の電極触媒層はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかった。
【0069】
<実施例4>
イオノマー吸着性炭素繊維における炭素繊維として平均繊維径0.8μmの炭素繊維を用いた点以外は、実施例3と同様の手順で実施例4の膜電極接合体を得た。なお、水酸化物イオンの伝導性を有したイオノマーとして炭化水素系アニオン交換電解質を使用した場合、実施例4のイオノマー吸着性炭素繊維は、イオノマーの吸着量がイオノマー吸着性炭素繊維1gあたり10mg以上であることを確認した。
実施例4の両方の電極触媒層はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかった。
【0070】
<比較例1>
イオノマー吸着性炭素繊維の代わりに平均繊維径150nmの炭素繊維(VGCF-H(登録商標)、昭和電工社製:気相成長炭素繊維)を親水化処理せずに使用した点以外は、実施例1と同様の手順で比較例1の膜電極接合体を得た。なお、プロトンの伝導性を有したイオノマーとしてフッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液)を使用した場合、比較例1の炭素繊維は、イオノマーの吸着量が炭素繊維1gあたり10mg未満であることを確認した。
【0071】
比較例1のカソード側電極触媒層の形成時はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかったが、アノード側電極触媒層の形成時にカソード側電極触媒層にクラックが生じ、高分子電解質膜からの部分的な剥離が見られた。
【0072】
<比較例2>
イオノマー吸着性炭素繊維の代わりに平均繊維径0.8μmの炭素繊維を親水化処理せずに使用した点以外は、実施例2と同様の手順で比較例2の膜電極接合体を得た。なお、プロトンの伝導性を有したイオノマーとしてフッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液)を使用した場合、比較例2の炭素繊維は、イオノマーの吸着量が炭素繊維1gあたり10mg未満であることを確認した。
【0073】
比較例2のカソード側電極触媒層の形成時はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかったが、アノード側電極触媒層の形成時にカソード側電極触媒層にクラックが生じ、高分子電解質膜からの部分的な剥離が見られた。
【0074】
<比較例3>
イオノマー吸着性炭素繊維を使用しなかった点以外は、実施例1と同様の手順で比較例3の膜電極接合体を得た。
比較例3のカソード側電極触媒層の形成時に顕著なクラックが生じ、また、高分子電解質膜からの顕著な剥離が見られた。そのため、アノード側触媒インクを塗布することができなかった。
【0075】
<比較例4>
イオノマー吸着性炭素繊維の代わりに平均繊維径150nmの炭素繊維(VGCF-H(登録商標)、昭和電工社製:気相成長炭素繊維)を親水化処理せずに使用した点以外は、実施例3と同様の手順で比較例4の膜電極接合体を得た。なお、水酸化物イオンの伝導性を有したイオノマーとして炭化水素系アニオン交換電解質を使用した場合、比較例4の炭素繊維は、イオノマーの吸着量が炭素繊維1gあたり10mg未満であることを確認した。
【0076】
比較例4のカソード側電極触媒層の形成時はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかったが、アノード側電極触媒層の形成時にカソード側電極触媒層にクラックが生じ、高分子電解質膜からの部分的な剥離が見られた。
【0077】
<比較例5>
イオノマー吸着性炭素繊維の代わりに平均繊維径0.8μmの炭素繊維を親水化処理せずに使用した点以外は、実施例4と同様の手順で比較例5の膜電極接合体を得た。なお、水酸化物イオンの伝導性を有したイオノマーとして炭化水素系アニオン交換電解質を使用した場合、比較例5の炭素繊維は、イオノマーの吸着量が炭素繊維1gあたり10mg未満であることを確認した。
【0078】
比較例5のカソード側電極触媒層の形成時はクラックがなく、高分子電解質膜からの剥離はなかったが、アノード側電極触媒層の形成時にカソード側電極触媒層にクラックが生じ、高分子電解質膜からの部分的な剥離が見られた。
【0079】
<比較例6>
イオノマー吸着性炭素繊維を使用しなかった点以外は、実施例3と同様の手順で比較例6の膜電極接合体を得た。
比較例6のカソード側電極触媒層の形成時に顕著なクラックが生じ、また、高分子電解質膜からの顕著な剥離が見られた。そのため、アノード側触媒インクを塗布することができなかった。
【0080】
実施例1~4、比較例1~2、および比較例4~5で得られた各膜電極接合体を水に浸漬させた結果、実施例1~2の両方の電極触媒層は高分子電解質膜から剥離しなかったが、比較例1~2、および比較例4~5のカソード側電極触媒層は高分子電解質膜から剥離した。また、各膜電極接合体を用いて水の電解性能を評価した結果、実施例1~2で得られた膜電極接合体では良好な電解性能を示したが、比較例1~2、および比較例4~5で得られた膜電極接合体では、電解を繰り返すことで電解性能が著しく低下した。実施例で作製した膜電極接合体と比較例で作製した膜電極接合体との電解性能の結果から、実施例で作製した膜電極接合体ではカソード側電極触媒層と電解質膜の間の密着強度が十分で、良好な電解性能が得られたことを確認した。
【0081】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、実際には、上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1…高分子電解質膜、2…カソード側電極触媒層、3…アノード側電極触媒層、11…膜電極接合体。