(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】アルカリ金属イオンキャパシタ
(51)【国際特許分類】
H01G 11/06 20130101AFI20250107BHJP
H01G 11/50 20130101ALI20250107BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20250107BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20250107BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20250107BHJP
【FI】
H01G11/06
H01G11/50
H01G11/38
H01G11/60
H01G11/62
(21)【出願番号】P 2023174265
(22)【出願日】2023-10-06
(62)【分割の表示】P 2020517062の分割
【原出願日】2019-04-26
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018088676
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松原 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】三尾 巧美
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 崇文
(72)【発明者】
【氏名】西 幸二
(72)【発明者】
【氏名】大参 直輝
(72)【発明者】
【氏名】木元 雄輔
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-017299(JP,A)
【文献】特開2017-139324(JP,A)
【文献】特開2017-063069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/06
H01G 11/50
H01G 11/38
H01G 11/60
H01G 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンキャパシタであって、
アルカリ金属イオンを吸着可能および脱離可能な正極活物質と、
前記正極活物質を結着させる正極バインダと、
アルカリ金属イオンを吸蔵可能および放出可能な負極活物質と、
前記負極活物質を結着させる負極バインダと、
有機溶媒およびイミド系アルカリ金属塩を含む電解液と、を備え、
前記有機溶媒は、ジメチルカーボネートを含まず且つエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートを含み、
前記負極活物質は前記アルカリ金属イオンがプレドープされ、
前記正極バインダが、前記電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きく、
前記負極活物質のドープ率が90%から100%であり、
前記ドープ率は下記の式で表され、プレドープで前記負極活物質に吸蔵されるアルカリ金属イオンの量Zpの上限Zpmaxは、Zpmax=Zt-Ptであり、
Ptは、満充電時に前記正極活物質が吸着する陰イオンの量である、
アルカリ金属イオンキャパシタ。
ドープ率(%)=Z/Zt×100
Z:満充電時において負極活物質が吸蔵しているアルカリ金属イオンの量(mol)
Zt:プレドープ前の負極活物質が吸蔵可能なアルカリ金属イオンの量(mol)
【請求項2】
請求項1に記載のアルカリ金属イオンキャパシタであって、
前記正極バインダおよび前記負極バインダの少なくとも一方はポリアクリル酸である、
アルカリ金属イオンキャパシタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルカリ金属イオンキャパシタであって、
前記アルカリ金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選択される1種のイオンである、
アルカリ金属イオンキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ金属イオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属イオンキャパシタの一種としてリチウムイオンキャパシタが知られている。リチウムイオンキャパシタは、エネルギー密度に優れることなど、優れた特性を示す。そして、リチウムイオンキャパシタは、耐熱性に優れるほど用途が広がるため、リチウムイオンキャパシタの耐熱性を向上させる技術が各種提案されている。例えば、特開2016-72309号公報には、50℃程度の耐熱性を備えるリチウムイオンキャパシタが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特開2016-72309号公報に記載のリチウムイオンキャパシタの耐熱性はせいぜい50℃程度までであり、より高温に耐えるリチウムイオンキャパシタが求められている。例えば、リチウムイオンキャパシタを自動車に用いるためには、リチウムイオンキャパシタの耐熱性を85℃程度まで向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の1つの特徴は、アルカリ金属イオンを吸着可能および脱離可能な正極活物質と、前記正極活物質を結着させる正極バインダと、アルカリ金属イオンを吸蔵可能および放出可能な負極活物質と、前記負極活物質を結着させる負極バインダと、有機溶媒およびイミド系アルカリ金属塩を含む電解液と、を備え、前記有機溶媒は、ジメチルカーボネートを含まず且つエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートを含み、前記負極活物質は前記アルカリ金属イオンがプレドープされ、前記正極バインダが、前記電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きく、前記負極活物質のドープ率が90%から100%であり、前記ドープ率は下記の式で表され、プレドープで前記負極活物質に吸蔵されるアルカリ金属イオンの量Zpの上限Zpmaxは、Zpmax=Zt-Ptであり、Ptは、満充電時に前記正極活物質が吸着する陰イオンの量である、アルカリ金属イオンキャパシタである。
ドープ率(%)=Z/Zt×100
Z:満充電時において負極活物質が吸蔵しているアルカリ金属イオンの量(mol)
Zt:プレドープ前の負極活物質が吸蔵可能なアルカリ金属イオンの量(mol)
【0005】
上記特徴によると、アルカリ金属イオンキャパシタは、85℃の耐熱性を備えることができる。なお、本開示においてアルカリ金属イオンキャパシタが耐熱性を備えるとは、高温環境において動作可能な性能を有することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施の形態に係るリチウムイオンキャパシタの模式的な分解斜視図である。
【
図2】実施の形態に係るリチウムイオンキャパシタの斜視図である。
【
図3】
図2のリチウムイオンキャパシタにおけるIII-III断面の模式的な図である。
【
図4】
図1に示す正極板の外観の例を説明する図である。
【
図6】
図1に示す負極板の外観の例を説明する図である。
【
図7】
図6の負極板におけるVII-VII断面図である。
【
図8】
図1に示す、正極の正極板と、負極の負極板と、セパレータと、電解液との位置関係を説明する図である。
【
図9】負極のプレドープ量の上限を説明する図である。
【
図10】試験例6~8のリチウムイオンキャパシタの85℃における内部抵抗の経時変化を示すグラフである。
【
図11】試験例6~8のリチウムイオンキャパシタの85℃における放電容量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本開示の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1をアルカリ金属イオンキャパシタの例とし、図面を用いて説明する。
図1の分解斜視図に示す様に、リチウムイオンキャパシタ1は、複数の板状の正極板11と、複数の板状の負極板21とを備えており、これらは交互に積層されている。各正極板11は一方向に突出する電極端子接続部12bを備える。また、各負極板21も、正極板11の電極端子接続部12bが突出する方向と同一の方向に突出する電極端子接続部22bを備えている。そして、
図1に示す様に、正極板11の電極端子接続部12bが突出する方向をX軸方向とし、積層される方向をZ軸方向とし、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸方向とする。これらのX軸、Y軸、Z軸は互いに直交している。X軸、Y軸、Z軸が記載されているすべての図において、これらの軸方向は同一の方向を示し、以下の説明において方向に関する記述はこれらの軸方向を基準とすることがある。なお、以下の説明において、付随的な構成については、その図示および詳細な説明を省略する。
【0008】
<1.リチウムイオンキャパシタ1の全体構造(
図1~
図3)>
リチウムイオンキャパシタ1は、
図1に示すように、複数の正極板11と、複数の負極板21と、複数のセパレータ30と、電解液40と、ラミネート部材50とを備えている。ここで、
図1に示す様に、正極板11と負極板21とは交互に積層されており、正極板11と負極板21との間それぞれにセパレータ30が挟まれている。電解液40は、この様に積層された、複数の正極板11の一部と、複数の負極板21の一部と、複数のセパレータ30と共に、2つのラミネート部材50に包まれて密封されている。
【0009】
複数の正極板11の電極端子接続部12bは、同一方向に突出し、正極端子14に導通している。この正極端子14やこれと接続されている複数の正極板11など、正極端子側を構成する導体部材はまとめて正極10と呼べる。同様に、複数の負極板21の電極端子接続部22bと、負極端子24とは導通しており、この負極端子24やこれと接続されている複数の負極板21など、負極端子側を構成する導体部材はまとめて負極20と呼べる。
【0010】
リチウムイオンキャパシタ1は、その内部に以上の構成を備え、その外観を
図2に示した。
図2に示すリチウムイオンキャパシタ1のIII-III断面を模式的に
図3に示す。
図3では、わかりやすくするためにリチウムイオンキャパシタ1内における各部材の間に間隔を開けて図示している。しかし、実際には、正極板11と負極板21とセパレータ30とがほとんど隙間無く積層されている。
【0011】
<2.リチウムイオンキャパシタ1の各部について(
図1、
図3~
図7)>
<2-1.正極板11について(
図1、
図3~
図5)>
正極板11は、薄板状の正極集電体12と、正極集電体12に塗工されている正極活物質層13とを備えている(
図3~
図5参照)。なお、正極活物質層13が設けられるのは、正極集電体12の両面であるが、正極集電体12のどちらかの片面であってもよい。そして、リチウムイオンキャパシタ1が過度に水分を含まない様に、製造時には、正極活物質層13を正極集電体12に塗工した後、塗工された正極活物質層13を十分乾燥させる必要がある。
【0012】
正極集電体12は、Z方向に貫通する複数の孔12cが形成された金属箔で(
図4および
図5参照)、矩形状の集電部12a(
図4参照)と、集電部12aの一端(
図4の例では、上辺の左端)から外側に突出する電極端子接続部12bとが一体に形成されている。
図1および
図4に示す、電極端子接続部12bのY軸方向の幅は適宜変更でき、例えば集電部12aと同じ幅としても良い。なお、集電部12aには複数の孔12cが形成されている(
図4および
図5参照)が、電極端子接続部12bには集電部12aの孔12cと同様の複数の孔が形成されていなくともよく、形成されていてもよい。ここで、集電部12aは、複数の孔12cが形成されているため、電解液40に含まれる陽イオンおよび陰イオンが集電部12aを透過できる。なお、集電部12aには複数の孔12cが形成されていなくともよく、さらに、電極端子接続部12bにも孔12cと同様の複数の孔が形成されていなくともよい。正極集電体12は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、ニッケルからなる金属箔を用いることができる。
【0013】
正極活物質層13は、リチウムイオンを吸蔵可能および放出可能な正極活物質と、正極活物質の結着および正極活物質と正極集電体12の集電部12aとを結着させる正極バインダとを含む。この様に、正極活物質層13は、正極活物質を備えることで、リチウムイオンを吸蔵可能および放出可能に構成されている。正極活物質層13は、さらに、正極活物質層13の電気伝導性を高めるための導電助剤や、正極板11の作成を容易にするための増粘剤等、他の成分を含んでも良い。導電助剤は、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイトの微粒子、グラファイトの微細線維を用いることができる。増粘剤は、例えば、カルボキシルメチルセルロース[CMC]を用いることができる。
【0014】
正極活物質は、従来のリチウムイオンキャパシタに使われている、リチウムイオンを吸着可能および脱離可能な正極活物質を用いることができる。正極活物質として、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、ポリアセン等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0015】
正極バインダは、従来のリチウムイオンキャパシタに用いられている正負極のバインダのうち、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値(後述)が1より大きいバインダを用いることができる。ここで、従来のリチウムイオンキャパシタの正負極のバインダとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン[PVdF]、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]、ポリビニルピロリドン[PVP]、ポリ塩化ビニル[PVC]、ポリエチレン[PE]、ポリプロピレン[PP]、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム[SBR]、アクリル樹脂、ポリアクリル酸が挙げられる。
【0016】
また、正極バインダは、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づくRED値が1より大きいため、電解液40に難溶性を示す。ハンセン溶解度パラメータは、Charles M Hansen氏により発表され、ある物質がある物質にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標として知られている。例えば、一般的に水と油は溶け合わないが、これは水と油の「性質」が違うからである。この溶解性に関する物質の「性質」として、ハンセン溶解度パラメータでは、分散項D、極性項P、水素結合項Hの3つの項目を、物質毎に数値で表す。ここで、分散項Dはファンデルワールス力の大きさを表す値であり、極性項Pはダイポール・モーメントの大きさを表す値であり、水素結合項Hは水素結合の大きさを表す値である。以下では基本的な考えを説明する。このため、水素結合項Hをドナー性とアクセプター性に分割して扱う場合等の説明は省略する。
【0017】
ハンセン溶解度パラメータ(D,P,H)は、溶解性を検討するために、3次元の直交座標系(ハンセン空間、HSP空間)にプロットされる。例えば、溶液Aおよび固体Bそれぞれハンセン溶解度パラメータは、ハンセン空間上で溶液Aおよび固体Bそれぞれに対応する2つの座標(座標A,座標B)にプロットできる。そして、座標Aと座標Bとの距離Ra(HSP distance, Ra)が短い程、溶液Aと固体Bは互いに似た上記「性質」をもつため溶液Aに固体Bが溶解しやすいと考えることができる。この逆に、この距離Raが長い程、溶液Aと固体Bは互いに似ていない「性質」をもつため、溶液Aに固体Bが溶解しにくいと考えることができる。
【0018】
また、溶液Aに対して、溶解する物質と溶解しない物質との境目となる距離Raを相互作用半径R0とする。従って、溶液Aと固体Bについて、距離Raが相互作用半径R0より小さい場合(Ra<R0)は溶液Aに固体Bが溶解すると考えることができる。一方、このRaが相互作用半径R0より大きい場合(R0<Ra)は溶液Aに固体Bが溶解しないと考えることができる。さらに、距離Raを相互作用半径R0で割った値をRED値(=Ra/R0、Relative Energy Difference)とする。すると、RED値が1より小さい場合(RED=Ra/R0<1)には、Ra<R0となり、溶液Aに固体Bが溶解すると考えることができる。一方、RED値が1より大きい場合(RED=Ra/R0>1)には、R0<Raとなり、溶液Aに固体Bが溶解しないと考えることができる。この様に、溶液Aおよび固体Bに関するRED値を元に、固体Bが溶液Aに溶けるか否かを判断できる。
【0019】
電解液40はここでいう溶液Aに対応し、正極バインダは固体Bに対応する。正極バインダは、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいため、電解液40に難溶性を示す。この逆に、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きい程度に、電解液40に難溶性を示す正極のバインダであるならば、この正極バインダも、ハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいと考えることができる。
【0020】
ハンセン溶解度パラメータおよび相互作用半径R0は、成分の化学構造及び組成比や、実験結果を用いて算出することができる。その場合、Hansen氏らにより開発されたソフトウエアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice:HSPを効率よく扱うためのWindows〔登録商標〕用ソフト)を用いて求めることができる。このソフトウエアHSPiPは、2018年5月2日現在 http://www.hansen-solubility.com/から入手可能である。また、複数の溶媒が混合された混合溶媒の場合等に対しても、ハンセン溶解度パラメータ(D,P,H)を算出することができる。
【0021】
<2-2.負極板21について(
図1、
図3、
図6、
図7)>
負極板21は、大まかには上述した正極板11と同様の構成を備えており、薄板状の負極集電体22と、負極集電体22に塗工されている負極活物質層23とを備えている。負極活物質層23は、負極集電体22の両面に塗工されているが、塗工されている面はどちらかの片面であってもよい。そして、リチウムイオンキャパシタ1が過度に水分を含まない様に、製造時には、負極活物質層23を負極集電体22に塗工した後、塗工された負極活物質層23を十分乾燥させる必要がある。また、後述する様に、負極活物質層23は、製造時にリチウムイオンLi
+が吸蔵される(いわゆるプレドープされる)。
【0022】
負極集電体22は、上述した正極板11の正極集電体12と同様に、Z方向に貫通する複数の孔22cが形成された金属箔で(
図6および
図7参照)、矩形状の集電部22aと、集電部22aの一端(
図6の例では、上辺の右端)から外側に突出する電極端子接続部22bとが一体に形成されている。なお、集電部22aには複数の孔22cが形成されているが(
図6および
図7参照)、電極端子接続部22bには集電部22aの孔22cと同様の複数の孔が形成されていなくともよく、形成されていてもよい。ここで、集電部22aは、複数の孔22cが形成されているため、電解液40に含まれる陽イオンおよび陰イオンが集電部12aを透過できる。なお、集電部22aには複数の孔22cが形成されていなくともよく、さらに、電極端子接続部22bにも孔22cと同様の複数の孔が形成されていなくともよい。
【0023】
また、正極の電極端子接続部12bと、負極板21の電極端子接続部22bとは、
図1に示す様に、重ならないように負極板の面方向に互いに間隔を開けた位置に設けられている。なお、
図1および
図6に示す、電極端子接続部22bのY軸方向の幅は適宜変更でき、例えば集電部22aと同じ幅としても良い。負極集電体22は、正極板11の正極集電体12と同様に、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅からなる金属箔を用いることができる。
【0024】
上述した正極活物質層13と同様に、負極活物質層23は、リチウムイオンを吸蔵可能および放出可能な負極活物質と、負極活物質の結着および負極活物質と負極集電体22の集電部22aとを結着させる負極バインダとを含む。そして、負極活物質層23は、負極活物質を備えることで、リチウムイオンを吸蔵可能および放出可能に構成されている。負極活物質層23は、さらに、負極活物質層23の電気伝導性を高めるための導電助剤や、負極板21の作成を容易にするための増粘剤等、他の成分を含んでも良い。導電助剤、増粘剤は、上述した正極板11と同様の物質を用いることができる。すなわち、導電助剤に、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイトの微粒子、グラファイトの微細線維を用いることができる。増粘剤は、例えば、カルボキシルメチルセルロース[CMC]を用いることができる。
【0025】
負極活物質として、従来のリチウムイオンキャパシタや従来のリチウムイオン二次電池に用いられている、リチウムイオンを吸蔵可能および放出可能な負極活物質を用いることができる。すなわち、負極活物質として、例えば、黒鉛(グラファイト)等の炭素質材料、スズ酸化物,珪素酸化物等の金属酸化物、さらにこれらの物質に負極特性を向上させる目的でリンやホウ素を添加し改質を行ったもの等を用いることができる。また、負極活物質として、他には、化学式Li4+xTi5O12(0≦x≦3)で表され、スピネル型構造を有するチタン酸リチウムを用いてもよい。ここで、Tiの一部がAlやMg等の元素で置換されたものを用いてもよい。また、負極活物質として、他には、シリコン、シリコン合金、SiO、シリコン複合材料等のシリコン系材料を用いても良い。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0026】
負極バインダは、上述した正極バインダと同様に、従来のリチウムイオンキャパシタに用いられている正負極のバインダのうち、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいバインダを用いることができる。すなわち、従来のリチウムイオンキャパシタのバインダとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン[PVdF]、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]、ポリビニルピロリドン[PVP]、ポリ塩化ビニル[PVC]、ポリエチレン[PE]、ポリプロピレン[PP]、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム[SBR]、アクリル樹脂、ポリアクリル酸が挙げられる。これらの様な、従来の正負極のバインダのうち、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいバインダをリチウムイオンキャパシタ1の負極バインダに用いることができる。
【0027】
負極活物質層23は、製造時にリチウムイオンLi+が吸蔵されている(いわゆるプレドープされている)ものとする。なお、詳細は後述するが、このプレドープするリチウムイオンLi+の量に上限値を設けることもできる。
【0028】
プレドープを行う方法は、大きく分けて2種類の方法がある。すなわち、1つの方法は、
図1に示す様に、複数の正極板11、複数の負極板21、複数のセパレータ30を積層させ、これらを電解液40と共にラミネート部材50の内部(
図2参照)に収容してからプレドープを行う、ラミネート部材50の内部でプレドープする方法である。もう一つは、負極板21を作成する前に、予めリチウムイオンLi
+を負極活物質に吸蔵させる、ラミネート部材50の外部でプレドープする方法である。
【0029】
ラミネート部材50の内部でプレドープする方法は、より詳しくは、化学的方法と電気化学的方法との2種類の方法がある。ラミネート部材50の内部でプレドープする方法は、複数の正極板11、複数の負極板21、複数のセパレータ30を電解液40と共にラミネート部材50の内部(
図2参照)に収容してからプレドープを行う。化学的方法は、リチウム金属を電解液40に溶解させてリチウムイオンLi
+にし、リチウムイオンLi
+を負極活物質に吸蔵させる方法である。これに対して、電気化学的方法では、リチウム金属と負極板21とに電圧をかけてリチウム金属をリチウムイオンLi
+にし、リチウムイオンLi
+を負極活物質に吸蔵させる方法である。
【0030】
これらの化学的方法と電気化学的方法との2種類の方法のいずれにおいても、電解液40内をリチウムイオンLi
+が拡散しやすいように、正極板11の正極集電体12の集電部12a(
図5参照)および、負極板21の負極集電体22の集電部22a(
図7参照)を、リチウムイオンLi
+が透過できることが望ましい。そこで、化学的方法あるいは電気化学的方法でプレドープを行う場合、正極板11の集電部12aには複数の孔12cが形成されており、かつ、負極板21の集電部22a(
図7参照)には複数の孔22cが形成されていることが好ましい。
【0031】
一方、ラミネート部材50の外部でプレドープする方法では、負極板21を作成する前に、予めリチウムイオンLi
+を負極活物質に吸蔵させるため、プレドープするためにリチウムイオンLi
+を電解液40内に拡散させなくともよい。このため、ラミネート部材50の外部でプレドープする方法を用いる場合、正極板11の集電部12aに複数の孔12cが形成されていなくともよく、かつ、負極板21の集電部22a(
図7参照)に複数の孔22cが形成されていなくとも良い。
【0032】
なお、ラミネート部材50の内部でプレドープする方法と、ラミネート部材50の外部でプレドープする方法とを適宜組み合わせてもよい。すなわち、ラミネート部材50の外部でプレドープする方法に加えて、複数の正極板11、複数の負極板21、複数のセパレータ30を、電解液40と共にラミネート部材50の内部(
図2参照)に収容した後、さらに、ラミネート部材50の内部でプレドープするする方法である化学的方法や電気化学的方法でプレドープを行っても良い。
【0033】
<2-3.セパレータ30について(
図1)>
セパレータ30は、
図1に示す様に、正極板11と負極板21とを隔離し、かつ、電解液40の陽イオンおよび陰イオンが透過できる多孔質の材料からなり、矩形のシート状に形成されている。セパレータ30の縦横の長さは、正極板11の正極集電体12の集電部12aの長さ、および、負極板21の負極集電体22の集電部22aの長さよりも長く設定されている。セパレータ30は、従来のリチウムイオンキャパシタに使用されているようなセパレータを用いることができ、例えば、ビスコースレイヨンや天然セルロース等の抄紙、ポリエチレンやポリプロピレン等の不織布を用いることができる。
【0034】
<2-4.電解液40について>
電解液40は、有機溶媒(非水溶媒)、および電解質としてイミド系リチウム塩を含む。電解液40には、適宜添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート[VC]や、フルオロエチレンカーボネート[FEC]や、エチレンサルファイト[ES]等、負極にSEI膜(Solid Electrolyte Interface 膜)の生成を促進させる添加剤を用いることができる。
【0035】
有機溶媒として、85℃の耐熱性を有する有機溶媒を用いることができる。例えば、カーボネート系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、ラクトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、エステル系有機溶媒、アミド系有機溶媒、スルホン系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、芳香族系有機溶媒を例示できる。これらの有機溶媒を、一種または二種以上を適宜の組成比で混合した溶媒を有機溶媒として用いることができる。ここでカーボネート系有機溶媒として、エチレンカーボネート[EC]やプロピレンカーボネート[PC]やフルオロエチレンカーボネート[FEC]などの環状カーボネート、エチルメチルカーボネート[EMC]やジエチルカーボネート[DEC]やジメチルカーボネート[DMC]などの鎖状カーボネートを例示できる。ここで、有機溶媒には、鎖状カーボネートの一種であるジメチルカーボネート[DMC]を含まないことが好ましい。ジメチルカーボネート[DMC]は、稀にではあるが、耐熱性の悪化を引き起こすことがある。
【0036】
ニトリル系有機溶媒として、アセトニトリル、アクリロニトリル、アジポニトリル、バレロニトリル、イソブチロニトリルを例示できる。またラクトン系有機溶媒として、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトンを例示できる。またエーテル系有機溶媒として、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル、1,2-ジメトキシエタンやジメチルエーテルやトリグライムなどの鎖状エーテルを例示できる。またアルコール系有機溶媒として、エチルアルコール、エチレングリコールを例示できる。またエステル系有機溶媒として、酢酸メチル、酢酸プロピル、リン酸トリメチルなどのリン酸エステル、ジメチルサルフェートなどの硫酸エステル、ジメチルサルファイトなどの亜硫酸エステルを例示できる。アミド系有機溶媒として、N‐メチル‐2‐ピロリドン、エチレンジアミンを例示できる。スルホン系有機溶媒として、ジメチルスルホンなどの鎖状スルホン、3‐スルホレンなどの環状スルホンを例示できる。ケトン系有機溶媒としてメチルエチルケトン、芳香族系有機溶媒としてトルエンを例示できる。そしてカーボネート系有機溶媒を除く上記各種の有機溶媒は、環状カーボネートを混合して用いることが好ましく、特に、負極にSEI膜(Solid Electrolyte Interface 膜)を生成可能なエチレンカーボネート[EC]と混合して用いることが好ましい。この場合、上述した正極バインダおよび負極バインダはポリアクリル酸であることが好ましい。また、有機溶媒は、エチルメチルカーボネート[EMC]およびジエチルカーボネート[DEC]を含むことが好ましい。
【0037】
電解質は、イミド系リチウム塩(-SO2-N-SO2-を部分構造に有するリチウム塩)を用いることができる。ここで、イミド系リチウム塩として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiN(FSO2)2、LiFSI]、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[LiN(SO2CF3)2、LiTFSI]、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[LiN(SO2CF2CF3)2、LiBETI]を例示できる。電解質として、これらのイミド系リチウム塩を1種のみを用いても2種以上を混合して用いてもよい。これらのイミド系リチウム塩は、85℃の耐熱性を備えている。上記のイミド系リチウム塩でも、トリフルオロメタン基(-CF3)、ペンタフルオロエタン基(-CF2CF3)、ペンタフルオロフェニル基(-C6F5)を有さないイミド系リチウム塩(例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiN(FSO2)2、LiFSI])を用いると、次の点で望ましい。すなわち、正極バインダおよび負極バインダは、ハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1よりも大きくなる傾向がある。また、高温および低温においても、電解液40のイオン伝導度が低下しにくく、電解液40が安定する。
【0038】
電解液40中の電解質の濃度は、0.5~10.0mol/Lが好ましい。電解液40の適切な粘度および、イオン伝導度の観点から、電解液40中の電解質の濃度は、0.5~2.0mol/Lがより好ましい。電解質の濃度が0.5mol/Lより少ない場合、電解質が解離したイオンの濃度の低下により、電解液40のイオン伝導度が低くすぎるため好ましくない。また、電解質の濃度が10.0mol/Lより大きいと電解液40の粘度の増加により電解液40のイオン伝導度が低すぎるため好ましくない。また、以上の有機溶媒と電解質を含む電解液40を用いる場合、上述した正極バインダおよび負極バインダはポリアクリル酸であることが好ましい。
【0039】
<2-5.ラミネート部材50について(
図1、
図3)>
ラミネート部材50は、
図3に示すように、心材シート51、外側シート52、内側シート53を備えている。そして、心材シート51の外側となる面に外側シート52が接着され、心材シート51の内側となる面に内側シート53が接着されている。例えば、心材シート51をアルミニウム箔とし、外側シート52をナイロンペットフィルム等の樹脂シートとし、内側シート53をポリプロピレン等の樹脂シートとすることができる。
【0040】
<3.リチウムイオンキャパシタ1の充放電の過程について(
図8、
図9)>
リチウムイオンキャパシタ1の、正極10の正極板11と、負極20の負極板21と、セパレータ30と、電解液40との位置関係を
図8に模式的に示した。
図8に示す様に、リチウムイオンキャパシタ1は、正極板11と負極板21とが、セパレータ30を間に挟んで向き合う構成となっている。リチウムイオンキャパシタ1は、正極板11の正極活物質層13の表面に電気二重層を形成し、電解質の陰イオンが吸着・脱離すること、および負極板21の負極活物質層23がリチウムイオンLi
+を吸蔵・放出することで充放電を行う。また、上述した様に、リチウムイオンキャパシタ1の製造時には、負極板21の負極活物質層23にリチウムイオンLi
+を吸蔵させるプレドープを行う。リチウムイオンキャパシタ1は、負極活物質にリチウムイオンLi
+が吸蔵されていることで、正極板11と負極板21との間の電位差が大きくなり、正極板11に形成される電気二重層のエネルギー密度を高めることができる。その結果、リチウムイオンキャパシタ1は、高出力化されたものとなる。
【0041】
<4.プレドープについて>
負極活物質層23にリチウムイオンLi+がプレドープされているが、このプレドープするリチウムイオンLi+の量は、以下で説明する様に上限値を設けることもできる。なお、以下の説明において、電解質はリチウムイオンLi+と陰イオンX-に電離するものとする。
【0042】
満放電時では、正極活物質層13の表面に電気二重層は形成されておらず、負極活物質層23は、プレドープで吸蔵したリチウムイオンLi+を吸蔵している。そして、満放電の状態から満充電の状態にかけて、正極活物質層13に電解質の陰イオンが吸着してゆき、電気二重層が形成される。一方、負極活物質層23では、正極活物質層13に吸着した陰イオンと同量(mol)のリチウムイオンLi+を吸蔵してゆく。そのため、負極活物質層23が吸蔵しているリチウムイオンLi+の量は、プレドープで吸蔵したリチウムイオンLi+の量Np(mol)と、正極活物質層13に吸着した陰イオンの量(mol)との和に相当する。
【0043】
図9には、満充電時における、正極活物質層13に吸着している陰イオンの量(mol)と、負極活物質層23が吸蔵しているリチウムイオンLi
+の量(mol)とを示した。満充電時には、正極活物質層13に吸着している陰イオンの量(mol)が最大量Ptとなり、負極活物質層23が吸蔵しているリチウムイオンLi
+の量(mol)がNとなる(
図9参照)。満充電時には、負極活物質層23が吸蔵しているリチウムイオンLi
+の量N(mol)は、プレドープで負極活物質層23が吸蔵しているリチウムイオンLi
+の量Npと、正極活物質層13に吸着している陰イオンの量Ptとの和に相当する(すなわち、N=Np+Pt、
図9参照)。なお、
図9において、Ntは、プレドープ前の負極活物質層23が吸蔵可能なリチウムイオンLi
+の量(mol)を表す。
【0044】
もし仮に、この満充電時に負極活物質層23が吸蔵しているリチウムイオンLi
+の量N(=Np+Pt、
図9参照)が、プレドープ前の負極活物質層23が吸蔵可能なリチウムイオンLi
+の量Nt(
図9参照)を超える場合(すなわち、Np+Pt>Nt)、超えた分(すなわち、Np+Pt-Nt)は、負極活物質層23に吸蔵しきれないため、電解液40中でリチウム金属として析出する虞がある。そこで、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npに上限Npmaxを設け、Npmax=Nt-Ptとする。これにより、Np+Pt≦Ntとなり、常に正極活物質層13から放出されたリチウムイオンLi
+を負極活物質層23が吸蔵することができ、リチウムイオンLi
+が析出することを抑止できる。
【0045】
ここで、プレドープ前の負極活物質層23が吸蔵可能なリチウムイオンLi+の量Ntや満充電時に正極活物質層13が吸着する陰イオンの量Ptは、例えば、正極活物質や負極活物質の理論値から算出することができ、他には、実験で、プレドープ前の負極活物質がリチウムイオンLi+を吸蔵できる量、および正極活物質が吸蔵しているリチウムイオンLi+の量を計測し、その計測値から算出することもできる。これらの算出した値を用い、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi+の量Npの上限値Npmax(=Nt-Pt)を算出することができる。
【0046】
上述した様に、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npの上限値Npmaxは、Npmax=Nt-Ptである。このため、Npmaxは、Ntの値およびPtの値によって変化する(
図9参照)。大まかに言えば、Ntの値が大きい程、Npmaxが大きくなり、Ptの値が大きい程、Npmaxは小さくなる(
図9参照)。例えば、Ntが、Ptの2倍である場合(すなわち、Nt=2・Pt)、Npmaxは、Ptに等しい(
図9参照)。また、例えば、Ntが、Ptの3倍である場合(すなわち、Nt=3・Pt)、Npmaxは、Ptの2倍(すなわち、2・Pt)に等しい(
図9参照)。この様に、Npmaxは、Ntの値およびPtの値よって変動する(
図9参照)。すなわち、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npの上限値Npmaxは、プレドープ前の負極活物質層23が吸蔵可能なリチウムイオンLi
+の量Nt、および満充電時に正極活物質層13が吸着する陰イオンの量Ptによって変動する。
【0047】
また、以上で説明した様に、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npに上限Npmaxを設け、Npmax=Nt-Ptとすることは、次の様に言い換えることもできる。負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量が最大になるのは、充放電の過程のなかで満充電時である。そして、上述した様に、満充電時に負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量Nは、プレドープで負極活物質層23に吸蔵しているリチウムイオンLi
+の量Npと、満充電時に正極活物質層13に吸着する陰イオンの量Ptとの和Np+Pt(すなわち、N=Np+Pt)に相当する(
図9参照)。プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npが上限Npmax(Np=Npmax=Nt-Pt)の場合、満充電時に負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量N(=Np+Pt)は、N=Np+Pt=Nt-Pt+Pt=Ntとなる。
【0048】
ここで、満充電時において負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量N(
図9参照)を、プレドープ前の負極活物質層23が吸蔵可能なリチウムイオンLi
+の量Ntを100%として、Nを%で表す場合、N=NtのときはNが100%となる。上述した様に、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npが上限Npmax(Np=Npmax=Nt-Pt)の場合、満充電時において負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量N(=Np+Pt)は、N=Ntとなるので、N=100%となっている。また上述した様に、負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量は、最大値は、満充電時において量N(=Np+Pt)となる。そこで、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npが上限Npmax(Np=Npmax=Nt-Pt)の場合、負極活物質層23に吸蔵されるリチウムイオンLi
+の量は、最大でN=100%となり、100%を超えないようになっている。すなわち、プレドープで負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量Npに上限Npmax(=Nt-Pt)を設けることで、負極活物質層23に吸蔵させるリチウムイオンLi
+の量は、充放電の過程で常に、プレドープ前の負極活物質層23が吸蔵可能なリチウムイオンLi
+の量Ntの100%以下に調整される。なお、負極活物質層中の負極活物質のドープ率は以下の様に表される。
ドープ率(%)=N/Nt×100
N:満充電時において負極活物質(負極活物質層)が吸蔵しているリチウムイオンの量(mol)
Nt:プレドープ前の負極活物質(負極活物質層)が吸蔵可能なリチウムイオンの量(mol)
【0049】
<<リチウムイオンキャパシタの耐熱性について>>
以上に説明した構成により、リチウムイオンキャパシタ1は、85℃の耐熱性を備える。
【0050】
また、従来のリチウムイオンキャパシタが85℃程度に保たれると、リチウムイオンLi+が不活性な化合物に徐々に変化してゆくことで、充放電に関与できるリチウムイオンLi+の量が減少し、充放電容量が減少する場合がある。この様なリチウムイオンキャパシタは、高温で充放電容量が減少する、つまり高温耐久性が乏しい。本明細書では、高温耐久性とは、リチウムイオンキャパシタが高温のまま時間が経過しても、リチウムイオンキャパシタの充放電容量が充分な量に保たれることである。
【0051】
これに対して、リチウムイオンキャパシタ1は、負極活物質にリチウムイオンLi+がプレドープされており、リチウムイオンLi+が負極活物質内に吸蔵されている。このため、充放電に必要なリチウムイオンLi+が不活性な化合物に変化しても、プレドープにより負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンLi+が変化分を補うことで、リチウムイオンキャパシタ1の充放電容量の低下を抑止できる。このため、リチウムイオンキャパシタ1は、85℃の耐熱性を備えるだけでなく、高温耐久性をも備える。
【0052】
なお、リチウムイオンキャパシタを高温環境下で長時間使用した場合、放電容量が低下すると共に、内部抵抗が増加する。しかし、ドープ率が高くなるにつれて、放電容量の低下率や内部抵抗の増加率が小さくなる傾向にある。そのため、ドープ率は50%から100%が好ましく、80%から100%がより好ましく、90%から100%が更に好ましい。
【0053】
[その他の実施の形態]
本開示のアルカリ金属イオンキャパシタは、上記の実施の形態にて説明した構造、構成、外観、形状等に限定されるものではなく、上述した実施の形態を理解することにより種々の変更、追加、削除が可能である。
【0054】
例えば、上記のリチウムイオンキャパシタ1は、正極板11と負極板21とセパレータ30とを積層した積層型のリチウムイオンキャパシタであるが、長尺の正極と、長尺の負極と、長尺のセパレータとを捲回した捲回型のリチウムイオンキャパシタとすることができる。
【0055】
また、本開示の技術は、リチウムイオンキャパシタに限定されず、種々のアルカリ金属イオンキャパシタに適用可能である。それぞれのアルカリ金属イオンキャパシタは、アルカリ金属イオンを吸着可能および脱離可能な正極活物質と、正極活物質を結着させる正極バインダと、アルカリ金属イオンを吸蔵可能および放出可能な負極活物質と、負極活物質を結着させる負極バインダと、有機溶媒およびイミド系アルカリ金属塩を含む電解液と、を備える。リチウム以外のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属の標準電極電位は、リチウムが-3.045V、ナトリウムが-2.714V、カリウムが-2.925Vである。アルカリ金属イオンキャパシタは、正極と負極の標準電極電位差が比較的大きくなるよう構成され、これらアルカリ金属のイオンが充電と放電に関与する。なお、リチウム以外のアルカリ金属イオンキャパシタの場合、負極活物質のドープ率は、下記の式で表される。
ドープ率(%)=Z/Zt×100
Z:満充電時において負極活物質(負極活物質層)が吸蔵しているアルカリ金属イオンの量(mol)
Zt:プレドープ前の負極活物質(負極活物質層)が吸蔵可能なアルカリ金属イオンの量(mol)
【0056】
以下に、試験例を挙げて本開示の技術をさらに具体的に説明するが、本開示の技術はこれらの範囲に限定されるものではない。
【0057】
[正極の作成]
正極活物質として粉体の活性炭、バインダとしてポリアクリル酸(ポリアクリル酸のナトリウム中和塩)、アクリル酸エステル又はスチレン-ブタジエンゴム〔SBR〕、導電助剤としてアセチレンブラック、増粘材としてカルボキシメチルセルロース〔CMC〕、溶媒として水を用いて、表1に示される組成にて正極活物質を含む正極用スラリーA~Cを調製した。なお、表1における「部」は質量部を示し、「%」は質量%を示す。
【0058】
【0059】
バインダとしてポリアクリル酸を用いた正極用スラリーAは、以下の手順にて調製した。
(1)全ての材料と水とを、ミキサーa(株式会社シンキー製あわとり練太郎ARE-310)にて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーb(プライミクス株式会社製フィルミックス40-L)にて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーを再度ミキサーaで混合して正極用スラリーAを調製した。
【0060】
バインダとしてアクリル酸エステル又はSBRを用いた正極用スラリーBとCとは、以下の手順にて調製した。
(1)バインダを除く材料と水とを、ミキサーaにて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーbにて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーにバインダを添加し、ミキサーaにて混合して正極用スラリーB又はCを調製した。
【0061】
次に、集電箔として厚み15μmのアルミニウム箔(多孔箔)を用い、正極用スラリーA~Cをそれぞれ集電箔に塗工し、乾燥させて正極A~Cを作成した。正極用スラリーの塗布量は、乾燥後の活性炭の質量が3mg/cm2となるように調整した。集電箔への正極用スラリーの塗工には、ブレードコーターやダイコーターを用いた。
【0062】
[負極の作成]
負極活物質としてのグラファイト95質量部、バインダとしてのSBR1質量部、増粘材としてのCMC1質量部、溶媒としての水100質量部を混合し、以下の手順にて負極用スラリーを調製した。
(1)バインダを除く材料と水とを、ミキサーaにて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーbにて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーにバインダを添加し、ミキサーaにて混合して負極用スラリーを調製した。
【0063】
次に、集電箔として厚み10μmの銅箔(多孔箔)を用い、負極用スラリーを集電箔に塗工し、乾燥させて負極を作成した。負極用スラリーの塗布量は、乾燥後のグラファイトの質量が3mg/cm2となるように調整した。集電箔への負極用スラリーの塗工には、ブレードコーターを用いた。
【0064】
[電解液の調整]
溶媒として、エチレンカーボネート(EC)30vol%、ジメチルカーボネート(DMC)30vol%及びエチルメチルカーボネート(EMC)40vol%の混合溶媒を用い、混合溶媒にリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L添加して電解液Iを調整した。また、混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を添加して電解液Pを調整した。また溶媒として、エチレンカーボネート(EC)30vol%、エチルメチルカーボネート(EMC)46.7vol%、ジエチルカーボネート(DEC)23.3vol%、プロピレンカーボネート(PC)10vol%の混合溶媒を用い、混合溶媒にリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L添加して電解液I2を調整した。
【0065】
[リチウムイオンキャパシタの作製]
リチウムイオンキャパシタを、表2に示す正極及び電解質の組み合わせで、次の手順にて作製した。
(1)正極、負極をそれぞれ打ち抜き、60mm×40mmのサイズの長方形とし、40mm×40mmの塗膜を残して長辺の一端側の20mm×40mmの領域の塗膜を剥ぎ落として集電用タブを取り付けた。
(2)厚さ20μmのセルロース製セパレータを間に介した状態で正極と負極の塗膜部分を対向させて積層体を作製した。
(3)(2)で作製した積層体と、リチウムプレドープ用の金属リチウム箔をアルミラミネート箔に内包し、電解液を注入し、封止してリチウムイオンキャパシタを作製した。なお、それぞれの正極バインダ及び電解液の組み合わせにおけるRED値も表2に示す。
【0066】
【0067】
[初期性能の測定]
各リチウムイオンキャパシタにおいて、リチウムプレドープ、充放電、エージングを行った後、常温(25℃)にて、カットオフ電圧:2.2~3.8V、測定電流10Cで内部抵抗及び放電容量を測定し、その結果を初期性能とした。ドープ率は80%に調整した。
【0068】
[耐久試験(85℃フロート試験)]
外部電源を繋いで電圧を3.8Vに保持した状態の評価用リチウムイオンキャパシタセルを85℃の恒温槽内に放置した。その放置時間が、85℃,3.8Vフロート時間に相当する。所定時間経過後、評価用リチウムイオンキャパシタセルを恒温槽から取り出し、常温に戻した後上記初期性能の測定と同一条件で内部抵抗及び放電容量を測定し、容量維持率(初期の放電容量を100%としたときの放電容量の百分比)と、内部抵抗増加率(初期性能からの内部抵抗の増加率)を算出した。その結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
表3に示されるように、85℃の高温環境に放置した場合、電解質としてイミド系リチウム塩ではないフッ化リン酸リチウムを含む電解液を用いた試験例5では短時間で容量維持率が半減したのに対し、電解質としてイミド系リチウム塩を含む電解液を用いた試験例1~4では容量維持率が長時間高く保たれた。しかし、電解質としてイミド系リチウム塩を含む電解液を用いた場合でも、正極のバインダの構成により、内部抵抗増加率に差異があることが明らかとなった。そこで、正極のバインダを構成するポリマーの電解液に対するRED値(表2参照)を対比したところ、RED値が1以下であるアクリル酸エステルを用いた試験例3やSBRを用いた試験例4では内部抵抗増加率が高いことが判明した。これに対し、試験例1及び2では、電解質としてイミド系リチウム塩を含む電解液を用いるとともに、正極のバインダを構成するポリマーとして、電解液に対するRED値が1より大きいポリアクリル酸を用いている。この場合、正極のバインダを構成するポリマーが電解液に溶解しにくく、85℃の高温環境に放置しても容量維持率が高く保たれるとともに、内部抵抗増加率を小さく抑えられることが明らかになった。
【0071】
<ドープ率による影響の検討>
次に、リチウムイオンのドープ率の影響を検討した。試験例2と同様の方法で試験例6~8のリチウムイオンキャパシタを作成し、以下の試験を行った。但し、試験例6のドープ率は80%、試験例7のドープ率は90%、試験例8のドープ率は100%になるよう調整した。
【0072】
[フロート試験]
リチウムイオンキャパシタを常温(25℃)にて、カットオフ電圧:3.0~3.5V、測定電流5mA、0.2Cで内部抵抗及び放電容量を測定した。内部抵抗の測定は、DC-IR法にて0~0.1secにおける内部抵抗(mΩ)を測定した。続いて、外部電源を繋いで電圧を3.8Vに保持した状態のリチウムイオンキャパシタを85℃の恒温槽内に放置した。所定時間経過後、リチウムイオンキャパシタを恒温槽から取り出し、常温に戻した後上記の電池性能の測定を行った。
図10には、試験例6~8の内部抵抗の増加率を示す。
図11には、試験例6~8の放電容量の変化を示す。
【0073】
図10に示すように、試験例6~8のリチウムイオンキャパシタは1600時間経過後も内部抵抗増加率が50%未満であった。また、
図11に示すように、試験例6~8のリチウムイオンキャパシタは1600時間経過後も容量維持率が85%以上であった。これらのことから、試験例3~5のリチウムイオンキャパシタは85℃における耐熱性及び高温環境における高い耐久性を備えることが明らかになった。また、試験例7及び8は、内部抵抗の増加率及び放電容量の変化において試験例6よりも優れた結果であった。このことから、ドープ率は80%よりも90~100%が好ましいことが明らかになった。