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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】水質分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/15 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
G01N21/15
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023574542
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2022020296
(87)【国際公開番号】W WO2023218672
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 ソミ
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和裕
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015513(JP,A)
【文献】国際公開第2020/079800(WO,A1)
【文献】特開2015-184018(JP,A)
【文献】実開平5-002055(JP,U)
【文献】特開2008-064612(JP,A)
【文献】特開平4-125446(JP,A)
【文献】特開平5-164762(JP,A)
【文献】特表2011-505577(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199511(WO,A1)
【文献】特開2013-088302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
G01N 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する水質分析装置であって、
光を透過する壁部と、前記壁部に囲まれた内部空間とを有し、前記試料水が前記内部空間を通過するフローセルと、
前記フローセルに向けて光を照射する光源と、
前記光源が照射した前記光の光量である光源光量を検出する光源モニタと、
前記フローセルを透過した透過光の光量である透過光量を検出する透過光検出部と、
前記光源光量と前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの前記壁部の汚れを検出する汚れ検出部と、
前記フローセルの前記壁部の汚れを洗浄する洗浄部と
前記試料水からの散乱光の光量である散乱光量を検出する散乱光検出部と
を備え、
前記汚れ検出部は、前記フローセルに前記試料水を流した状態での前記透過光量を用いて、前記壁部の汚れを検出し、
前記洗浄部は、前記壁部の汚れが有る場合に、前記フローセルの洗浄を開始し、
前記汚れ検出部は、前記散乱光検出部が検出した前記散乱光量、および、前記透過光検出部が検出した前記透過光量の少なくとも一方に基づいて測定される前記試料水の濁度が基準値以下であることを条件として、前記フローセルの前記壁部の汚れの検出を行う
水質分析装置。
【請求項2】
試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する水質分析装置であって、
光を透過する壁部と、前記壁部に囲まれた内部空間とを有し、前記試料水が前記内部空間を通過するフローセルと、
前記フローセルに向けて光を照射する光源と、
前記光源が照射した前記光の光量である光源光量を検出する光源モニタと、
前記フローセルを透過した透過光の光量である透過光量を検出する透過光検出部と、
前記光源光量と前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの前記壁部の汚れを検出する汚れ検出部と、
前記フローセルの前記壁部の汚れを洗浄する洗浄部と、
前記試料水からの散乱光の光量である散乱光量を検出する散乱光検出部と、
を備え、
前記汚れ検出部は、前記フローセルに前記試料水を流した状態での前記透過光量を、前記散乱光量を用いて補正し、前記光源光量と補正後の前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの前記壁部の汚れを検出し、
前記洗浄部は、前記壁部の汚れが有る場合に、前記フローセルの洗浄を開始する
水質分析装置。
【請求項3】
試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する水質分析装置であって、
光を透過する壁部と、前記壁部に囲まれた内部空間とを有し、前記試料水が前記内部空間を通過するフローセルと、
前記フローセルに向けて光を照射する光源と、
前記光源が照射した前記光の光量である光源光量を検出する光源モニタと、
前記フローセルを透過した透過光の光量である透過光量を検出する透過光検出部と、
前記光源光量と前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの前記壁部の汚れを検出する汚れ検出部と
を備え、
前記汚れ検出部は、前記フローセルに前記試料水を流した状態での前記透過光量を用いて、前記壁部の汚れを検出し、
前記試料水からの散乱光の光量である散乱光量を検出する散乱光検出部と、
前記散乱光検出部が検出した前記散乱光量、および、前記透過光検出部が検出した前記透過光量の少なくとも一方に基づいて、前記試料水の濁度を測定する濁度測定部と
を更に備え、
前記汚れ検出部は、前記試料水の濁度が基準値以下であることを条件として、前記フローセルの前記壁部の汚れの検出を行う
水質分析装置。
【請求項4】
前記汚れ検出部は、前記光源光量と前記透過光量との比に基づいて、前記壁部の汚れを検出する
請求項1からのいずれか一項に記載の水質分析装置。
【請求項5】
前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄後に検出した前記光源光量と前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの洗浄が終了したか否かを判定する
請求項に記載の水質分析装置。
【請求項6】
前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、洗浄が終了しない旨を示す通知を出力する
請求項に記載の水質分析装置。
【請求項7】
前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、前記洗浄部における洗浄方法を変更させる
請求項に記載の水質分析装置。
【請求項8】
前記洗浄部は、前記光源光量および前記透過光量の少なくとも一方に基づいて、前記フローセルの洗浄方法を選択する
請求項に記載の水質分析装置。
【請求項9】
前記洗浄部は、前記光源光量と前記透過光量との比に基づいて、前記フローセルに流す洗浄液のpHを調整する
請求項に記載の水質分析装置。
【請求項10】
前記洗浄部は、過去に前記フローセルに流した前記試料水の種類に基づいて、前記フローセルの洗浄方法を選択する
請求項に記載の水質分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料水の水質を分析する水質分析装置が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
特許文献1 特許第6436266号公報
特許文献2 特開2006-194659号公報
【解決しようとする課題】
【0003】
水質分析装置においては、試料水を流すフローセルの汚れを精度よく検出できることが好ましい。
【一般的開示】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する水質分析装置を提供する。上記水質分析装置は、光を透過する壁部と、前記壁部に囲まれた内部空間とを有し、前記試料水が前記内部空間を通過するフローセルを備えてよい。上記水質分析装置は、前記フローセルに向けて光を照射する光源を備えてよい。上記何れかの水質分析装置は、前記光源が照射した前記光の光量である光源光量を検出する光源モニタを備えてよい。上記何れかの水質分析装置は、前記フローセルを透過した透過光の光量である透過光量を検出する透過光検出部を備えてよい。上記何れかの水質分析装置は、前記光源光量と前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの壁部の汚れを検出する汚れ検出部を備えてよい。
【0005】
上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記光源光量と前記透過光量との比に基づいて、前記壁部の汚れを検出してよい。
【0006】
上記何れかの水質分析装置は、前記フローセルの前記壁部の汚れを洗浄する洗浄部を備えてよい。上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄後に検出した前記光源光量と前記透過光量とに基づいて、前記フローセルの洗浄が終了したか否かを判定してよい。
【0007】
上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、洗浄が終了しない旨を示す通知を出力してよい。
【0008】
上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、前記洗浄部における洗浄方法を変更させてよい。
【0009】
上記何れかの水質分析装置において、前記洗浄部は、前記光源光量および前記透過光量の少なくとも一方に基づいて、前記フローセルの洗浄方法を選択してよい。
【0010】
上記何れかの水質分析装置において、前記洗浄部は、前記光源光量と前記透過光量との比に基づいて、前記フローセルに流す洗浄液のpHを調整してよい。
【0011】
上記何れかの水質分析装置において、前記洗浄部は、過去に前記フローセルに流した前記試料水の履歴に基づいて、前記フローセルの洗浄方法を選択してよい。
【0012】
上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記フローセルに前記試料水を流さない状態での前記透過光量を用いて、前記壁部の汚れを検出してよい。
【0013】
上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記フローセルに前記試料水を流した状態での前記透過光量を用いて、前記壁部の汚れを検出してよい。
【0014】
上記何れかの水質分析装置は、前記試料水からの散乱光の光量である散乱光量を検出する散乱光検出部を備えてよい。上記何れかの水質分析装置において、前記汚れ検出部は、前記散乱光量に更に基づいて、前記フローセルの前記壁部の汚れを検出してよい。
【0015】
上記何れかの水質分析装置は、前記散乱光検出部が検出した前記散乱光量、および、前記透過光検出部が検出した前記透過光量の少なくとも一方に基づいて、前記試料水の濁度を測定する濁度測定部を備えてよい。
【0016】
上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一つの実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
図2】光源光量、透過光量および光量比(透過光量/光源光量)の一例を示す図である。
図3】水質分析装置100の動作例を示すフローチャートである。
図4】水質分析装置100の他の動作例を示すフローチャートである。
図5】水質分析装置100の他の動作例を示すフローチャートである。
図6】測定光検出部30および濃度測定部32の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。水質分析装置100は、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する。本例の水質分析装置100は、光源10、フローセル20、光源モニタ50、測定光検出部30、濃度測定部32、透過光検出部70、汚れ検出部40および洗浄部60を備える。光源モニタ50、測定光検出部30および透過光検出部70は、CCDまたはフォトダイオード等の受光素子を用いて、受光した光の光量を検出する装置である。本明細書において光量とは、所定の面を所定の単位時間内に通過する光束の総量(lm/S)であるが、光の強度(cd)を光量として用いてもよい。光源モニタ50、測定光検出部30および透過光検出部70は、検出した光量に応じた電気信号を出力する。光源モニタ50、測定光検出部30および透過光検出部70は、電気信号に対して増幅またはノイズ除去等の信号処理を行ってよい。
【0020】
光源10は、フローセル20に向けて光91を照射する。フローセル20は、壁部22および内部空間24を有する。壁部22の少なくとも一部は、光源10が照射する光91の成分のうち、少なくとも一部を透過する材料で形成されている。壁部22の少なくとも一部は、例えばガラスで形成されている。壁部22は、光が入射または出射する窓部と、窓部を支持する支持部とを有してよい。本明細書では、光が入射または出射する窓部を、壁部22として説明する場合がある。内部空間24は、壁部22に囲まれている。内部空間24を試料水が通過する。一例として壁部22は筒形状を有する。図1では、壁部22および内部空間24の断面を模式的に示している。
【0021】
測定光検出部30は、フローセル20からの測定光92を検出する。測定光検出部30は、測定光92の少なくとも一つの波長における光量を測定する。測定光92は、フローセル20に試料水が存在する状態で光源10から光91を照射した場合に、フローセル20から射出する光である。測定光92は、試料水に含まれる測定対象物質に光91が照射されたことで、測定対象物質から射出される蛍光を含んでもよい。この場合、測定光検出部30は、光91とは異なる波長における測定光92の光量を測定してよい。
【0022】
濃度測定部32は、測定光検出部30における測定結果に基づいて、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する。試料水は、例えば上水道水、下水道水、海水、工場等の排水であるが、これに限定されない。試料水に多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:以下、PAH)等の蛍光物質が含まれている場合、試料水に紫外線の光91を照射すると、物質固有の波長の蛍光(測定光92)が発生する。蛍光強度は、含まれている蛍光物質の濃度に比例しているため、当該波長における測定光92の光量を測定することで、測定対象物質である蛍光物質の濃度を精度よく測定することができる。
【0023】
フローセル20の壁部22に汚れが生じると、当該汚れにより光91または測定光92の強度が減衰する。壁部22に上述した窓部が設けられている場合、壁部22の汚れとは、窓部の汚れを指している。壁部22の汚れとは、例えば壁部22の内面または外面に付着した異物である。光91または測定光92の強度が減衰すると、測定対象物質の濃度の測定結果に誤差が生じてしまう。このため、フローセル20の壁部22に汚れが生じているか否かを、精度よく検出できることが好ましい。
【0024】
汚れ検出部40は、壁部22における汚れを検出する。汚れ検出部40は、水質分析装置100における所定の動作をトリガとして壁部22の汚れを検出してよい。例えば汚れ検出部40は、洗浄部60がフローセル20の壁部22を洗浄した場合に、洗浄後の壁部22の汚れを検出する。洗浄部60は、洗浄液をフローセル20の内部空間24に流すことで壁部22の内面を洗浄してよく、ブラシ等を壁部22の内面または外面に接触させることで壁部22を洗浄してもよい。洗浄部60は、設定される洗浄期間が経過する毎に壁部22を洗浄してよい。汚れ検出部40は、壁部22の汚れの度合いが許容範囲外の場合に、洗浄部60に洗浄が終了していない旨を通知してよい。洗浄部60は、当該通知を受け取った場合に、フローセル20の壁部22を再度洗浄してよい。
【0025】
汚れ検出部40は、設定された検知期間が経過する毎に壁部22の汚れを検出してもよい。汚れ検出部40は、所定の検知期間毎に壁部22の汚れを検出し、壁部22の汚れの度合いが許容範囲外となった場合に、洗浄部60に壁部22を洗浄させてもよい。汚れ検出部40は、使用者等の指示に応じて壁部22の汚れを検出してもよい。この場合においても、汚れ検出部40は、壁部22の汚れの度合いが許容範囲外となった場合に、洗浄部60に壁部22を洗浄させてもよい。
【0026】
汚れ検出部40が壁部22の汚れを検出する場合、光源10は、所定の波長成分を有する光91をフローセル20に向けて照射する。汚れを検出する場合の光91の波長は、測定対象物質の蛍光を測定する場合の光91の波長とは異なっていてよい。光源10は、汚れを検出するための光91を照射する光源ユニットと、蛍光を検出するための光91を照射する光源ユニットとを有してよい。
【0027】
透過光検出部70は、光91がフローセル20に入射し、フローセル20を透過した透過光94を検出する。例えば透過光検出部70は、光91がフローセル20の内部を直進して射出した光を、透過光94として検出してよい。壁部22には、光91が入射する窓部、測定光92が出射する窓部、および、透過光が出射する窓部が設けられてよい。透過光検出部70は、透過光94の光量である透過光量を検出する。透過光検出部70は、設定された波長の透過光量を検出してよい。透過光検出部70は、透過光量を示す電気信号を汚れ検出部40に出力する。
【0028】
壁部22に汚れが付着すると、当該汚れにより光の強度が減衰するので、透過光94の透過光量は小さくなる。このため、光源10が出射した光91の光量に対して、透過光94の透過光量がどの程度減衰しているかを検出することで、壁部22の汚れ度合いを推定できる。一方で、光源10の劣化等の要因で、光源10に対する設定値が同一であっても、光源10から出射する光91の光量は経時的に変化する場合がある。光91の光量が変化すると、透過光94の光量も変化してしまう。このため、透過光94だけから壁部22の汚れを精度よく検出することは困難である。
【0029】
本例の水質分析装置100は、光源モニタ50により、光源10が照射した光91の光量である光源光量を検出する。光源モニタ50は、フローセル20に入射する前の光91の光源光量を検出する。光源モニタ50は、光91の一部を分岐した分岐光93を受光してよい。
【0030】
汚れ検出部40は、光源光量および透過光量に基づいて、フローセル20の壁部22の汚れを検出する。汚れ検出部40は、光源光量で透過光量を補正し、補正結果に基づいて壁部22の汚れを検出する。例えば汚れ検出部40は、光源光量が小さいほど透過光量が大きくなるように補正し、補正された透過光量が小さいほど壁部22の汚れの度合いが大きいと判定する。一例として汚れ検出部40は、光源光量と透過光量との光量比(透過光量/光源光量)に基づいて、壁部22の汚れを検出する。汚れ検出部40は、当該光量比が小さいほど汚れの度合いが大きいと判定する。このように、光源光量および透過光量を用いて壁部22の汚れを検出することで、光源10の劣化等の影響を低減して、精度よく壁部22の汚れを検知できる。光源光量および透過光量は、フローセル20に試料水を流さない状態で測定してよい。
【0031】
図2は、光源光量、透過光量および光量比(透過光量/光源光量)の一例を示す図である。図2における縦軸は、光量または光量比を示している。また図2では、複数の状態A、B、C、Dにおける光源光量、透過光量および光量比を示している。一例として状態Aは工場出荷時の状態であり、壁部22の汚れがなく、且つ、光源10の劣化もない状態である。状態Bは、壁部22に汚れがあり、且つ、光源10は劣化していない状態である。状態Cは、壁部22に汚れがなく、且つ、光源10が劣化している状態である。状態Dは、壁部22に汚れがあり、且つ、光源10が劣化している状態である。状態B、Dにおける壁部22の汚れの度合いは同程度であり、状態C、Dにおける光源10の劣化の度合いは同程度である。
【0032】
図2には、透過光量だけに基づいて壁部22の汚れの有無を検出する場合の判定基準と、光量比(透過光量/光源光量)に基づいて壁部22の汚れの有無を検出する場合の判定基準とを破線で示している。判定基準は、使用者等により予め設定される。例えば、光量または光量比が判定基準より大きい場合には「汚れ無し」と判定し、光量または光量比が判定基準未満の場合には「汚れ有り」と判定する。
【0033】
透過光量だけに基づいて壁部22の汚れを検出した場合、状態B、Dの汚れは検出できるが、壁部22に汚れの無い状態Cについても「汚れ有り」と誤検出してしまう場合がある。透過光量だけを用いると、光源10の劣化により透過光量が減衰している場合と、壁部22の汚れにより透過光量が減衰している場合とを区別できないので、光源10が劣化した場合に壁部22の汚れを誤検出してしまう。また、状態B、Dのように、壁部22の汚れの度合いが本来は同程度であるにも関わらず、光源10の劣化によって、汚れの度合いが異なるように検出してしまう。
【0034】
一方で、光量比(透過光量/光源光量)を用いることで、光源10の劣化の影響を低減できる。例えば状態Cのように、光源10の劣化の影響を補正して、壁部22の汚れを精度よく検出できる。汚れ検出部40は、光量比と汚れ判定基準とを比較することで、壁部22の汚れの有無を検出してよい。汚れ検出部40は、光量比と汚れ判定基準との乖離の大きさに基づいて、汚れの度合いを判定してもよい。
【0035】
図3は、水質分析装置100の動作例を示すフローチャートである。水質分析装置100は、所定のトリガ信号に応じて、試料水における測定対象物質の濃度の測定を開始する。当該トリガ信号は、使用者等の操作に応じて入力されてよく、周囲環境の変化に応じて自動的に入力されてよく、所定の期間が経過する毎に自動的に入力されてよく、他の要因に応じて入力されてもよい。
【0036】
測定段階S202において、濃度測定部32は、試料水を測定する。濃度測定部32は、測定光検出部30が測定した測定光92に基づいて、測定対象物質の濃度を測定する。上述したように、測定光92は、試料水から射出される蛍光であってよい。この場合、濃度測定部32は、測定光92の光量に基づいて、蛍光物質の濃度を測定できる。
【0037】
連続使用段階S204において、水質分析装置100は、予め設定された連続使用期間、継続してまたは断続的に試料水における測定対象物質の濃度を測定する。連続使用期間が経過すると、洗浄段階S206において、洗浄部60がフローセル20内の洗浄を行う。洗浄部60は、清水、または、薬品等が含まれる洗浄液をフローセル20の内部空間24に流してフローセル20を洗浄してよく、ブラシ等の部材で内部空間24を掃引することでフローセル20を洗浄してよく、これらを組み合わせてフローセル20を洗浄してもよい。
【0038】
洗浄部60が予め定められた洗浄工程を実施した後に、洗浄完了判定段階S208において、汚れ検出部40が、フローセル20の洗浄が完了したか否かを判定する。汚れ検出部40は、フローセル20の壁部22における汚れの有無を検出し、汚れが無いと判定した場合に、洗浄が完了したと判定してよい。汚れ検出部40は、図2に示したように、光量比(透過光量/光源光量)と所定の汚れ判定基準とを比較することで、汚れの有無の判定を行ってよい。洗浄完了判定段階S208においては、フローセル20の内部空間24に清水が充填された状態で透過光量および光源光量を測定してよく、内部空間24に液体が充填されていない状態で透過光量および光源光量を測定してもよい。
【0039】
洗浄完了判定段階S208において洗浄が完了したと判定された場合、水質分析装置100は、測定段階S202からの処理を繰り返してよく、動作を終了してもよい。洗浄完了判定段階S208において洗浄が完了していないと判定された場合、洗浄部60は、洗浄段階S206の処理を繰り返す。汚れ検出部40は、フローセル20の洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、洗浄が終了しない旨を示す通知を出力してよい。この場合、水質分析装置100は、測定段階S202からの処理を繰り返してよく、動作を終了してもよい。
【0040】
洗浄段階S206において、洗浄部60は、光源光量および透過光量の少なくとも一方に基づいて、フローセル20の洗浄方法を選択してもよい。洗浄方法の選択とは、洗浄に用いる洗浄液の特性の選択であってよく、洗浄に用いる道具の選択(ブラシを用いるか、洗浄液を用いるか等)であってもよい。洗浄部60は、光量比(光源光量および透過光量)から定まる汚れの度合いに応じて、洗浄方法を選択してよい。この場合、洗浄段階S206において、光量比を測定してよい。洗浄部60は、当該汚れの度合いに応じて、フローセル20に流す洗浄液のpHを調整してよい。汚れの度合いが大きいほど、洗浄液のpHを中性値から大きく乖離させてよい。汚れの度合いに応じてpHをどの程度変化させるかは、予め実験的に決定し、洗浄部60に設定してよい。
【0041】
洗浄部60は、過去にフローセル20に流した試料水の履歴に基づいて、洗浄方法を選択してもよい。本例では、連続使用段階S204において流した試料水の種類に応じて、洗浄部60が洗浄方法を選択してよい。試料水の種類とは、試料水に含まれる物質の種類であってよい。例えば酸性またはアルカリ性のいずれの洗浄液を用いるかを、試料水の種類に応じて選択してよい。試料水の種類応じて、フローセル20に付着する汚れの物質が推定できるので、洗浄部60は、試料水の種類に応じた洗浄液を選択してよい。各物質に対してどのような洗浄液を選択すべきかは、洗浄部60に対して予め設定されてよい。本例の水質分析装置100は、洗浄液が流れる部位は、酸性またはアルカリ性の洗浄液が流れても変質しない材料で形成されることが好ましい。
【0042】
洗浄部60は、複数波長における光量比(光源光量および透過光量)に基づいて、壁部22に付着した物質の種類を推定し、推定結果に応じて洗浄方法を選択してよい。洗浄部60は、光量比のスペクトルの形状と、各物質の種類に応じて定まる透過スペクトルとを比較することで、壁部22に付着した物質の種類を推定してよい。光源10の劣化を補正した光量比を用いることで、壁部22に付着した物質の種類を精度よく推定できる。
【0043】
図4は、水質分析装置100の他の動作例を示すフローチャートである。本例の動作は、期間経過判定段階S210および洗浄方法変更段階S212を更に備える点で、図3の動作例と相違する。他の段階は、図3の例と同様である。
【0044】
本例では、洗浄完了判定段階S208において洗浄が完了していないと判定された場合、期間経過判定段階S210を行う。期間経過判定段階S210において汚れ検出部40は、フローセル20の洗浄開始から設定期間が経過したか否かを判定する。汚れ検出部40は、設定期間がまだ経過していない場合、洗浄部60に洗浄段階S206の処理を繰り返させる。設定期間内に洗浄が終了していない場合、洗浄方法変更段階S212において汚れ検出部40は、洗浄部60の洗浄方法を変更させる。洗浄部60は、設定期間内に洗浄が終了しない場合、より強力な洗浄方法を選択してよい。例えば清水を用いて設定期間内に洗浄が終了しなかった場合に、洗浄部60は、薬品または界面活性剤を含む洗浄液を用いて再度洗浄を行ってよい。また洗浄部60は、洗浄液を用いて設定期間内に洗浄が終了しなかった場合に、洗浄液のpHを調整してもよい。
【0045】
図5は、水質分析装置100の他の動作例を示すフローチャートである。本例の動作は、汚れ検出段階S205を更に備える点で、図3または図4の動作例と相違する。他の段階は、図3または図4の例と同様である。図5では、図3の動作例に汚れ検出段階S205を追加した例を示しているが、図4の動作例に汚れ検出段階S205を追加してもよい。
【0046】
本例の汚れ検出部40は、フローセル20に試料水を流した状態での透過光量を用いて、壁部22の汚れを検出する。具体的には、連続使用段階S204における連続使用期間内で測定した光源光量および透過光量を用いて、壁部22の汚れを検出する。汚れ検出部40は、連続使用期間内において、予め定められた周期で壁部22の汚れを検出してよい。図5の例では、連続使用期間内の汚れ検出段階S205において、壁部22の汚れを検出する。汚れ検出段階S205において壁部22に汚れが無いと判定した場合、水質分析装置100は、連続使用段階S204の処理を継続する。汚れ検出段階S205において壁部22に汚れが有ると判定した場合、水質分析装置100は、洗浄段階S206以降の処理を行う。洗浄段階S206以降の処理は、図3または図4の例と同様である。
【0047】
図6は、測定光検出部30および濃度測定部32の構成例を示す図である。本例の測定光検出部30は、蛍光検出部33および散乱光検出部31を有する。濃度測定部32は、信号処理部35および濁度測定部34を有する。また本例の水質分析装置100は、光源10-1および光源10-2を有する。光源10-1は、散乱光(測定光92-1)を測定するための光91-1を照射する光源であり、光源10-2は、蛍光(測定光92-2)を測定するための光91-2を照射する光源である。光91-1および光91-2は異なる波長成分を有してよい。光源10-1からの光91-1は、透過光94の測定にも用いられる。つまり、光91-1の一部は散乱光として射出され、他の一部は透過光として射出される。
【0048】
本例の水質分析装置100は、蛍光(測定光92-2)の光量に基づいて、試料水に含まれる蛍光物質の濃度を測定する。一方で試料水に懸濁物質が含まれている場合、懸濁物質(粒子)からの光散乱や吸収の影響により、光91-2または測定光92-2の光量が減衰する場合がある。この現象はインナーフィルタ効果と呼ばれる。インナーフィルタ効果により、懸濁物質の濃度(以下、濁度)が高い環境では蛍光強度の測定精度が悪化する恐れがある。
【0049】
本例の水質分析装置100は、蛍光強度の測定精度を向上するため、測定した測定光92-2の光量を、試料水の濁度によって補正する。水質分析装置100は、蛍光強度と共に、試料水の濁度を測定する。水質分析装置100は、試料水からの散乱光または透過光の光量から、試料水の濁度を測定する。試料水の散乱光の光量は、散乱光検出部31が検出する。試料水の透過光の光量は、図1に示した透過光検出部70が検出してよい。
【0050】
まず、試料水の濁度の測定について説明する。光源10-1は、赤外光である光91-1をフローセル20の内部の試料水に照射する。光源10-1は、一例として、LED(Light Emitting Diode)またはレーザー照射装置である。
【0051】
光91-1をフローセル20の内部の試料水に照射することにより、散乱光(測定光92-1)または透過光94(図1参照)が生じる。散乱光は、試料水に含まれる懸濁物質での光散乱によって生じる。懸濁物質の濃度が高いほど、散乱光の光量は増加する。透過光94は、試料水の懸濁物質に吸収または散乱されなかった光である。懸濁物質の濃度が高いほど、透過光94の光量は減衰する。
【0052】
濁度測定部34は、散乱光検出部31が検出した測定光92-1の光量、および、透過光検出部70が検出した透過光94の光量の少なくとも一方に基づいて、試料水の濁度を測定してよい。濁度測定部34は、測定光92-1および透過光94の一方の光量から濁度を測定してよい。上述したように、濁度に応じて測定光92-1および透過光94の光量が変化するので、これらの光量から濁度を推定できる。濁度測定部34は、測定光92-1および透過光94の光量の比(測定光92-1の光量/透過光94の光量)を用いて、濁度を算出してもよい。濁度が高いほど、当該光量の比は増大する。
【0053】
次に試料水の蛍光物質の濃度の測定について説明する。光源10-2は、光91-2をフローセル20の内部の試料水に照射する。光91-2は、一例として紫外線である。光源10-2は、一例として、キセノンフラッシュランプ、LEDまたはレーザー照射装置である。
【0054】
光源10-2は、内部に光学フィルタを含んでもよい。光学フィルタを含むため、光源10-2は、光91-2の所定の波長範囲の光をフローセル20に照射できる。本例において測定対象物質はPAHである。PAHは、励起光の波長が250nm近傍で最も効率よく蛍光が発光する。したがって、光源10-2の光学フィルタの透過波長を、一例として200nm以上、300nm以下に設定する。
【0055】
光91-2をフローセル20の内部の試料水に照射することにより、蛍光(測定光92-2)が生じる。蛍光検出部33は、測定光92-2の光量を検出する。蛍光検出部33は、内部に光学フィルタを含んでもよい。光学フィルタを含むため、蛍光検出部33は、測定光92-2の所定の波長範囲の光を受光することができる。本例において測定対象物質はPAHである。PAHは励起光の波長が250nm近傍の場合、蛍光波長は350nm近傍となる。したがって、蛍光検出部33の内部の光学フィルタの透過波長を、一例として300nm以上、400nm以下に設定する。
【0056】
信号処理部35は、蛍光検出部33が検出した測定光92-2の光量から、試料水に含まれる蛍光物質の濃度を算出する。上述したように、測定光92-2の光量は、試料水の濁度によって減衰する。信号処理部35は、濁度測定部34が測定した濁度に基づいて、測定光92-2の光量を補正して、蛍光物質の濃度を算出する。濁度と補正量との関係は、予め実験的に決定され、信号処理部35に設定されてよい。このような処理により、水質分析装置100は、試料水の蛍光物質の濃度を精度よく測定できる。
【0057】
図5において説明したように、フローセル20に試料水を流した状態での透過光量を用いて、壁部22の汚れを検出する場合、試料水の濁度に応じて透過光量が減衰する場合がある。この場合、壁部22の汚れの検出精度が劣化する場合がある。
【0058】
汚れ検出部40は、透過光量および光源光量に加えて、散乱光検出部31が検出した散乱光の光量(散乱光量)を用いて、フローセル20の壁部22の汚れを検出してよい。汚れ検出部40は、濁度測定と共通の透過光量を用いてよい。汚れ検出部40は、散乱光量に代えて、濁度測定部34が算出した濁度を用いてもよい。汚れ検出部40は、散乱光量を用いて、透過光量を補正してよい。つまり散乱光量が大きい場合には、懸濁物質により透過光量が大きく減衰していると考えられるので、散乱光量が増大するほど、透過光量を大きな値に補正してよい。これにより、試料水の濁度の影響を低減して、壁部22の汚れを精度よく検出できる。
【0059】
他の例では、汚れ検出部40は、散乱光量または濁度が基準値以下であることを条件として、壁部22の汚れ判定を行ってもよい。つまり汚れ検出部40は、試料水による透過光量の減衰が小さいことを条件として、壁部22の汚れ判定を行ってもよい。これにより試料水の濁度の影響を低減して、壁部22の汚れを精度よく検出できる。
【0060】
図6の例では、濁度の測定に用いる透過光量と、汚れの測定に用いる透過光量とを、共通の透過光検出部70で検出できる。また、濁度の測定に用いる光源10と、汚れの測定に用いる光源10とを共通化できる。このため、水質分析装置100の構成部材を少なくできる。
【0061】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0062】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0063】
10・・・光源、20・・・フローセル、22・・・壁部、24・・・内部空間、30・・・測定光検出部、31・・・散乱光検出部、32・・・濃度測定部、33・・・蛍光検出部、34・・・濁度測定部、35・・・信号処理部、40・・・汚れ検出部、50・・・光源モニタ、60・・・洗浄部、70・・・透過光検出部、91・・・光、92・・・測定光、93・・・分岐光、94・・・透過光、100・・・水質分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6