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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの連続式製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/164 20170101AFI20250107BHJP
【FI】
C01B32/164
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023527714
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 KR2021014227
(87)【国際公開番号】W WO2022097948
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】10-2020-0148692
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523164115
【氏名又は名称】コルボン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】ファン ヒチョン
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534715(JP,A)
【文献】特開平11-109878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/164
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、金属塩、界面活性剤、還元剤及び機能向上剤を混合し、攪拌してエマルジョン混合物を製造する液相混合物形成ステップと、
前記エマルジョン混合物をキャリアガスと混合して気相混合物を製造する気相混合物形成ステップと、
前記気相混合物を加熱された反応器内に導入してカーボンナノチューブを形成する反応ステップと、を含み、
前記機能向上剤は、インドール、イミダゾール及びヘキトライト化合物のうちの少なくとも1種を含み、
前記液相混合物形成ステップは、
溶媒、金属塩及び界面活性剤を混合し、撹拌する第1混合ステップと、
前記第1混合ステップを経て得られた混合物に還元剤及び機能向上剤を添加し、撹拌する第2混合ステップと、を含み、
前記溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及びアルコール化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エマルジョン混合物は、溶媒100重量部に対して、金属塩0.01~5重量部、界面活性剤5~17重量部、還元剤0.02~10重量部及び機能向上剤0.1~0.4重量部を含み、
前記機能向上剤は、インドールとイミダゾールよりなる群から選択される少なくとも1種の第1化合物と、ヘクトライト化合物を含む第2化合物とが混合されたものである、
カーボンナノチューブの連続式製造方法。
【請求項2】
前記気相混合物形成ステップで、炭素源がさらに混合されることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブの連続式製造方法。
【請求項3】
溶媒、金属塩、界面活性剤、還元剤及び機能向上剤を混合し、攪拌してエマルジョン混合物を製造する液相混合物形成ステップと、
前記エマルジョン混合物をキャリアガスと混合して気相混合物を製造する気相混合物形成ステップと、
前記気相混合物を加熱された反応器内に導入してカーボンナノチューブを形成する反応ステップと、を含み、
前記機能向上剤は、インドール、イミダゾール及びヘキトライト化合物のうちの少なくとも1種を含み、
前記液相混合物形成ステップは、
溶媒、金属塩及び界面活性剤を混合し、撹拌する第1混合ステップと、
前記第1混合ステップを経て得られた混合物に還元剤及び機能向上剤を添加し、撹拌する第2混合ステップと、を含み、
前記溶媒は、水であり、
前記液相混合物形成ステップで、炭素源が追加で混合され、
前記エマルジョン混合物は、溶媒100重量部に対して、金属塩0.01~5重量部、界面活性剤5~17重量部、還元剤0.02~10重量部及び機能向上剤0.1~0.4重量部を含み、
前記機能向上剤は、インドールとイミダゾールよりなる群から選択される少なくとも1種の第1化合物と、ヘクトライト化合物を含む第2化合物とが混合されたものである、
カーボンナノチューブの連続式製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相合成方式を用いたカーボンナノチューブの連続式製造方法に関し、より詳細には、均一なサイズの触媒金属ナノ粒子を製造し、気相で炭素源と反応させてカーボンナノチューブを連続的に製造する、カーボンナノチューブの連続式製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂、特に機械的特性、耐熱性に優れた高性能プラスチックは、様々な用途で使用されている。このような高性能プラスチックは、適用される分野によっては部品の誤作動及び汚染の防止のために静電気防止や塵埃汚染防止などの帯電防止性能が必要であり、既存の物性に加えて電気伝導性(Electrical Conductivity)が追加的に求められている。
【0003】
高性能プラスチックにこのような電気伝導性を付与するために、従来は、界面活性剤、金属粉末、金属繊維などを添加したが、これらの成分は、低い導電性を有するか、或いは、例えば機械的強度を弱めるなど、物性を低下させる問題がある。このため、電気伝導性を有する炭素素材への関心が増大しつつある。
【0004】
電気伝導性を有する炭素素材として一般的に導電性カーボンブラックが用いられるが、導電性カーボンブラックを用いて高い電気伝導度を達成するためには、多量のカーボンブラックが添加される必要があり、溶融混合過程でカーボンブラックの構造が分解する場合も発生するから、結果的に樹脂の加工性が悪化し、熱安定性及び物性が著しく低下する問題を引き起こすおそれがあり、導電性充填材の添加量を低減させながら電気伝導性を向上させるために導電性カーボンブラックの代わりにカーボンナノチューブを添加したカーボンナノチューブ-樹脂複合材に関する研究が盛んに進められている。
【0005】
カーボンナノチューブは、1991年に日本で発見された物質であって、1つの炭素原子に隣接の3つの炭素原子が結合しており、これらの炭素原子間の結合によって六角形の環が形成され、これらがハニカム状に繰り返された平面が巻かれて円筒形チューブの形状を有する物質である。
【0006】
カーボンナノチューブは、単層からなる直径約1nmのシングルウォールカーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube、SWカーボンナノチューブ)、二層からなるダブルウォールカーボンナノチューブ(double-walled carbon nanotube、DWカーボンナノチューブ)、及び3層以上の多層からなる直径約5~100nmのマルチウォールカーボンナノチューブ(multiwalled carbon nanotube、MWカーボンナノチューブ)に区分される。
【0007】
このようなカーボンナノチューブは、アーク放電法(arc discharge)、レーザー気化法(laser evaporation)、CVD(thermal chemical vapor deposition)法、触媒的合成法、プラズマ(plasma)合成法などの様々な方法によって合成でき、これらの方法は、数百~数千度の高温範囲条件でカーボンナノチューブを合成するか或いは真空の下で行われる。
【0008】
しかし、従来の方法は、均一な大きさの触媒を形成し難く、これにより生成されたカーボンナノチューブの直径を均一に制御することが困難であり、カーボンなどの副産物の生成によってカーボンナノチューブの生成収率が低下するという問題点があり、かかる問題点を解決することが可能な新しいカーボンナノチューブの製造方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、気相合成方式を用いたカーボンナノチューブの連続式製造方法において、カーボンナノチューブの直径を均一に制御することができ、カーボンナノチューブの生成収率を高めることができる、カーボンナノチューブの連続式製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の一実施形態は、溶媒、金属塩、界面活性剤、還元剤及び機能向上剤を混合し、攪拌してエマルジョン混合物を製造する液相混合物形成ステップと、前記エマルジョン混合物をキャリアガスと混合して気相混合物を製造する気相混合物形成ステップと、前記気相混合物を加熱された反応器内に導入してカーボンナノチューブを形成する反応ステップと、を含む、カーボンナノチューブの連続式製造方法を提供する。
【0011】
前記気相混合物形成ステップで、炭素源がさらに混合されてもよい。
【0012】
前記液相混合物形成ステップは、溶媒、金属塩及び界面活性剤を混合し、撹拌する第1混合ステップと、前記第1混合ステップを経て得られた混合物に還元剤及び機能向上剤を添加し、撹拌する第2混合ステップと、を含んでもよい。
【0013】
前記溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコール化合物及び水よりなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0014】
前記エマルジョン混合物は、溶媒100重量部に対して、金属塩0.01~5重量部、界面活性剤5~17重量部、還元剤0.02~10重量部及び機能向上剤0.1~0.4重量部を含んでもよい。
【0015】
前記機能向上剤は、インドール、イミダゾール及びヘクトライト化合物のうちの少なくとも1種を含んでもよい。
【0016】
前記機能向上剤は、インドールとイミダゾールよりなる群から選択される少なくとも1種の第1化合物と、ヘクトライト化合物を含む第2化合物とが混合された混合物であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカーボンナノチューブの連続式製造方法は、カーボンナノチューブの直径を均一に制御することができ、カーボンナノチューブの生成収率を高めることができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態によって詳細に説明する前に、本明細書の請求の範囲で使用された用語または単語は、通常的または辞典的な意味に限定されて解釈されてはならず、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈されるべきであることを明らかにする。
【0019】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0020】
本明細書全体において、特定の物質の濃度を示すために使用される「%」は、特に言及がない限り、固体/固体の場合には(重量/重量)%、固体/液体の場合には(重量/体積)%、及び液体/液体の場合には(体積/体積)%をそれぞれ意味する。
【0021】
一般に、コロイドとは、粒子のサイズが0.45μm(あるいは0.2μm)よりも小さく、1000Da(Dalton、1分子の質量)よりは大きいあらゆるものを意味するが、本発明の明細書において、「コロイド溶液」とは、含まれた粒子のサイズが数~数百ナノメートルである粒子を含む溶液を意味し、時にはその前駆体までも含む意味で使用される。
【0022】
以下では、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明の範疇が以下の好適な実施形態に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の権利範囲内で、本明細書に記載されている内容の様々な変形例を実施することができる。
【0023】
まず、本発明は、溶媒、金属塩、界面活性剤、還元剤及び機能向上剤を混合し、攪拌してエマルジョン混合物を製造する混合物製造ステップと、前記エマルジョン混合物をキャリアガスと混合して気相混合物を形成する気相混合物形成ステップと、前記気相混合物を加熱された反応器内に導入してカーボンナノチューブを形成する反応ステップと、を含む、カーボンナノチューブの連続式製造方法に関する。
【0024】
前記混合物製造ステップは、溶媒、金属塩、界面活性剤、還元剤及び機能向上剤を混合してカーボンナノチューブを形成するための前駆物質であるエマルジョン混合物を製造するステップである。
【0025】
前記エマルジョン混合物に含まれる金属塩は、カーボンナノチューブを形成するための触媒として機能するもので、混合物製造ステップを介して金属の粒子サイズが300nm以下の微粒子に形成され、粒子のサイズが大きいときとは粒子の物性及び性能が異なる。特に、単位質量当たりの表面積が著しく増加して機能が向上し、粒子の融点減少や変色などの物性変化が現れる。
【0026】
また、ナノメートルサイズの微細金属粒子は、反応性が高く、気相で浮遊状態として存在することができるため、気相でのカーボンナノチューブ合成用触媒として使用できる。前記混合物製造ステップによって、このような金属の粒子サイズがナノメートルサイズになり、溶媒中に均一に分散できる。
【0027】
より具体的には、前記混合物製造ステップは、溶媒100重量部に対して、金属塩0.01~5重量部、界面活性剤5~17重量部、還元剤0.02~10重量部及び機能向上剤0.1~0.4重量部を含むエマルジョン混合物を製造するステップである。
【0028】
前記溶媒は、金属塩を均一に分散させる媒質として機能するとともに、必要に応じてカーボンナノチューブの合成に要求される炭素源を提供する機能を果たす。
【0029】
このような溶媒として、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコール化合物及び水よりなる群から選択される少なくとも1種が使用できる。芳香族炭化水素としてベンゼン、トルエン、キシレンなどが使用でき、脂肪族炭化水素としてヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用でき、アルコール化合物としてエタノール、プロピルアルコール、ポリエチレングリコールなどが使用できるが、これに限定されるものではない。
【0030】
前記金属塩は、前述したようにカーボンナノチューブ合成反応における触媒として機能するものであり、このような金属塩として、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物、ホウ素化物、フッ化物、臭化物、硫化物、塩化物及びカーボネート塩のうちの少なくとも1種の金属塩が使用できる。
【0031】
前記金属塩は、溶媒100重量部に対して0.01~5重量部で含まれることができる。金属塩の含有量が0.01重量部未満の場合には、カーボンナノチューブの合成に要求される触媒の量が不足してカーボンナノチューブの合成効率が低下するという問題が発生し、 金属塩の含有量が5重量部を超える場合には、工程変数を変化させてもカーボンナノチューブが追加的に得られず、むしろ未反応触媒が多量に発生してカーボンナノチューブの純度が低下するという問題が発生するので、上記の重量範囲内に含まれることが好ましい。
【0032】
前記界面活性剤は、金属塩或いは金属をナノメートルサイズの微粒子に形成させ、炭素源と反応してカーボンナノチューブが形成されるまで金属塩或いは金属の微粒子状態を維持させ、溶媒内に微細金属粒子を均一かつ安定的に分散させるために添加される。
【0033】
このような界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤のうちの少なくとも一つが使用できる。
【0034】
一例として、前記ノニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、ポリヒドロキシ脂肪酸アミド、アルコキシル化脂肪酸エステル、スクロースエステル、アミンオキシド、アルコールエトキシレート、アミドエトキシレート、アミンオキシド及びアルキルグルコシドなどのノニオン性界面活性剤が使用でき、例えば、コカミドメチル、C8~C14のグルコースアミド、C8~C14のアルキルポリグルコシド、スクロースココエート、スクロースラウレート、ラウラミンオキシド、ココアミンオキシドなどが使用できるが、これに限定されるものではない。
【0035】
一例として、前記アニオン性界面活性剤として、アルキルサルフェート系、エトキシル化アルキルサルフェート系、アルキルエトキシカルボキシレート系、アルキルグリセリルエーテルスルホネート系、エトキシエーテルスルホネート系、メチルアシルタウレート系、アルキルスルホサクシネート系、アルキルエトキシスルホサクシネート系、アルファ-スルホネート化脂肪酸系、アルキルホスフェートエステル系、エトキシル化アルキルホスフェートエステル系、直鎖アルキルベンゼンスルホネート系、パラフィンスルホネート系、アルファ-オレフィンスルホネート系、アルキルアルコキシサルフェート系などが使用でき、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ココ硫酸ナトリウムなどが使用できるが、特にこれに限定されるものではない。
【0036】
一例として、前記カチオン性界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、セチルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ステアリルジメチルアンモニウムクロリド、牛脂ジメチルアンモニウムクロリド、ジ牛脂ジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ココナッツアンモニウムクロリド、ステアラミドプロピルPG-ジモニウムクロリドホスフェート、及びステアラミドプロピルエチルジモニウムエトサルフェートよりなる群から選択される少なくとも1種が使用できるが、これに限定されるものではない。
【0037】
一例として、前記両性界面活性剤として、アルキルベタイン系、アミドベタイン系、スルホベタイン系、ヒドロキシスルホベタイン系、アミドスルホベタイン系、ホスホベタイン系、イミダゾリニウムベタイン系、アミノプロピオン酸系及びアミノ酸系界面活性剤などが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記界面活性剤は、溶媒100重量部に対して5~17重量部で使用でき、界面活性剤の含有量が5重量部未満の場合には、金属塩の微粒子化が十分に行われず、微粒子化された金属塩が溶媒内に均一に分布せずに互いに凝集して均一な大きさのカーボンナノチューブを合成し難いという問題がある。これに対し、界面活性剤の含有量が17重量部を超える場合には、追加的な金属塩のナノ粒子化、分散性向上などの効果が得られず、むしろ過剰な界面活性剤によって金属塩の触媒としての機能が低下してカーボンナノチューブの収率が低下するという問題があるので、上記の重量範囲内で含まれることが好ましい。
【0039】
前記還元剤は、金属塩を還元させて、均一なサイズを有する金属粒子に形成させるために添加されるもので、溶媒100重量部に対して0.02~10重量部で含まれることができ、還元剤の含有量が0.02重量部未満の場合には、金属塩が十分に還元されないため合成されたカーボンナノチューブの物性が不均一になり、還元剤の含有量が10重量部を超える場合には、過剰な還元剤によってエマルジョン混合物の物性低下及びこれによるカーボンナノチューブ合成生産性の低下が生じるという問題があるので、上記の重量範囲内で含まれることが好ましい。
【0040】
前記還元剤としては、ヒドラジン(Hydrazine)、LiBH、NaBHなどの無機化合物、エチレンオキシド(Ethylene oxide)のように還元力のある官能基を含む化合物などが使用できるが、これに限定されるものではない。
【0041】
前記機能向上剤は、金属粒子のサイズを均一かつ安定的に形成し、金属粒子同士の凝集を防止するなど、コロイド溶液の相安定性を高めるとともに、金属によるカーボンナノチューブの収率を高めるために添加される成分であり、機能向上剤としては、インドール、イミダゾール及びヘクトライト化合物のうちの少なくとも1種が挙げられる。
【0042】
機能向上剤は、溶媒100重量部に対して0.1~0.4重量部で含まれることができ、機能向上剤の含有量が0.1重量部未満の場合には、上述した効果を得ることが困難であり、機能向上剤の含有量が0.4重量部を超える場合には、むしろコロイド溶液の安定性が低下して以後のカーボンナノチューブの合成時に工程効率及び合成効率が低下するという問題が生じるので、上記の重量範囲内で含まれることが好ましい。
【0043】
このような機能向上剤として、インドール、イミダゾール及びヘクトライト化合物のうちの少なくとも1種が挙げられ、ヘクトライト化合物としては、二水素添加牛脂ベンジルモニウムヘクトライト、ジステアルジモニウムヘクトライト、クオタニウム-18ヘクトライトまたはステアラルコニウムヘクトライトが使用できる。
【0044】
好ましくは、インドールとイミダゾールよりなる群から選択される少なくとも1種の第1化合物と、ヘクトライト化合物である第2化合物とが一緒に使用できる。
【0045】
第1化合物のみ使用される場合には、金属触媒によるカーボンナノチューブの収率が向上する効果が得られるが、第1化合物によってコロイド溶液の相安定性が低下して、金属イオンが金属原子に還元される過程で金属原子同士が互いに凝集して金属凝集体が形成されるという問題がある。このような凝集体は、結果として生成されたカーボンナノチューブの直径を不均一にするので、均一且つ一定な直径のカーボンナノチューブの合成を妨げる。
【0046】
しかし、第1化合物と第2化合物が一緒に使用される場合、第2化合物が還元過程で還元された金属粒子同士の凝集を物理的に抑制して安定化させる役割を果たすので、第1化合物と第2化合物を一緒に使用することが好ましい。
【0047】
この場合、第1化合物と第2化合物は、1:0.3~0.7の重量比で混合されて使用でき、第1化合物に対する第2化合物の重量比が0.3重量部未満で使用されると、金属触媒によるカーボンナノチューブの収率向上効果を得ることが困難であり、0.7重量部を超える重量で使用される場合には、コロイド溶液の相安定性が低下して工程効率及び合成効率が低下するという問題があるので、上記の重量範囲内で混合されて使用されることが好ましい。
【0048】
一方、前記混合物製造ステップは、溶媒、金属塩及び界面活性剤を混合し、撹拌する第1混合ステップと、前記第1混合ステップを経て得られた混合物に還元剤及び機能向上剤を添加し、撹拌する第2混合ステップと、を含むことができる。
【0049】
具体的には、第1混合ステップは、溶媒に界面活性剤を混合した後、金属塩を混合するステップであり、界面活性剤によって金属塩がミセルまたは逆ミセルを形成し、溶媒中に分散できる。このとき、溶媒に界面活性剤と金属塩を同時に投入して混合する場合、金属塩の可溶化が完全かつ均一に行われないので、金属塩の均一な可溶化のために、まず溶媒と界面活性剤を混合した後、金属塩を投入することが好ましい。
【0050】
また、この混合ステップが常温で行われる場合、混合物の相が不安定になって相分離が起こるので、第1混合ステップで、混合は40~70℃の温度で行われることが好ましい。より安定的な相を形成するために、溶媒に界面活性剤を投入し、昇温して上記の温度範囲が維持された状態で金属塩が投入されることが好ましい。
【0051】
上記の温度よりも高い場合には、溶媒の揮発による金属塩の凝集が発生する可能性があるため、昇温温度は上記の温度範囲内に限定されることが好ましい。この場合、金属塩の投入後の混合は4~8時間行われることができる。
【0052】
このように第1混合ステップを経て得られた混合物は、以後の安定した反応のために10~30℃に冷却して準備されることが好ましい。冷却ステップを経ずに混合物の温度を高く維持させながら第2混合ステップが行われる場合には、金属の異常な成長、及びこれによる金属粒子沈降問題が引き起こされるので、第1混合ステップを経て得られた混合物は、第2混合ステップに投入される前に冷却して準備されることが好ましい。
【0053】
このとき、第1混合ステップでより均一且つ一定の大きさの金属塩形成のために水中超音波分散が行われることができる。超音波分散は、冷却した状態の混合物に30~45W出力の超音波を10~20分間印加することにより行われることができ、照射出力が上記の範囲から外れる場合、分散効率が低下するか或いはむしろ金属塩の大きさが不均一に形成されるという問題が生じるおそれがある。
【0054】
次に、第2混合ステップは、第1混合ステップを経て得られた混合物に還元剤及び機能向上剤を添加して攪拌するステップであって、還元剤による還元及び機能向上剤による性能向上効果を得るために各成分を混合し、10~24時間撹拌することができる。
【0055】
このように混合物製造ステップが2段階を経て行われると、まず、第1混合ステップを介して金属塩が溶媒中にナノサイズの粒子状態で均一に分散し、以後に第2混合ステップを介して還元され、機能向上剤による触媒性能向上効果が個別の金属粒子に均一に付与されるので、これらの各成分を同時に混合してエマルジョン混合物を製造する場合と比較したとき、金属微粒子をより均一かつ安定に分散させることができ、機能向上剤による機能向上効果がより効果的に行われ得る。
【0056】
したがって、上述したように金属塩の分散と還元を別々のステップで行い、還元ステップで機能向上剤を添加することが、合成されたカーボンナノチューブの均一化及び収率の向上に効果的である。
【0057】
次に、前記エマルジョン混合物をキャリアガスと混合して気相混合物を形成する気相混合物形成ステップが行われる。
【0058】
前述したように、本発明のエマルジョン混合物内に分散した金属粒子は、そのサイズがナノメートル単位と小さいため、それ自体で或いは他のガスと混合されて気相に形成できる。
【0059】
具体的には、前記エマルジョン混合物は、キャリアガスと混合されて噴霧またはアトマイゼーション(Atomization)方式で気相に形成でき、このように気相に形成された気相混合物は、反応器へ供給されてカーボンナノチューブの合成に使用される。このとき、キャリアガスとしては、アルゴン、ネオン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス、炭化水素ガスが使用でき、好ましくは、これらと共に水素、硫化水素などの特性化されたガスが一緒に供給できるが、これに限定されるものではない。
【0060】
このステップで、エマルジョン混合物の噴霧流量は0.10~0.85ml/minであることが好ましく、キャリアガスの流量は30~450sccmであることが好ましく、これらの供給流量が上記の範囲から外れる場合、金属微粒子の気相での均一な分散及び拡散が困難であってカーボンナノチューブの合成収率が低下したり、未反応触媒量が増加したり、過剰なキャリアガスの使用による経済性や工程効率が低下したりするなどの問題が発生するおそれがある。
【0061】
一方、このステップでエマルジョン混合物及びキャリアガスに加えて炭素源ガスが一緒に供給でき、カーボンナノチューブの収率向上、未反応物質の最小化、経済性及び生産性向上などの効果を達成するために、炭素源ガスの供給流量は20~200sccmであることが好ましい。
【0062】
特に、溶媒として水が使用され、キャリアガスとして炭素源である炭化水素ガスが使用されない場合には、カーボンナノチューブを形成するために、気相混合物形成ステップで炭素源ガスが一緒に供給されなければならず、溶媒として、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及びアルコール化合物など、炭素を含む溶媒が使用される場合には、このステップで炭素源ガスがさらに供給されてもよく、さらに供給されなくてもよい。
【0063】
このように気相混合物形成ステップで炭素源ガスが一緒に供給される場合、炭素源ガスとして一酸化炭素、炭素数1~6の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素又は炭素原子数6~10の芳香族炭化水素よりなる群から選択される有機化合物が使用できる。このような炭素源ガスには、酸素、窒素、塩素、フッ素及び硫黄よりなる群から選択されるヘテロ原子が1~3つ含まれてもよい。
【0064】
本発明の一つの好適な実施形態によれば、炭素源ガスと共に、H、HS、NHなどのように特性化されたガスが一緒に供給されてもよい。
【0065】
次に、前記気相混合物形成ステップで形成された気相混合物を反応させてカーボンナノチューブを得る反応ステップが行われる。
【0066】
このステップは、前記気相混合物を加熱された反応器内に導入してカーボンナノチューブを形成するステップであり、先のステップで触媒粒子を均一なサイズのナノ微粒子に形成し、これを安定的かつ均一な気相として分散させたため、一般的なカーボンナノチューブ気相合成反応に比べて穏やかな反応条件で連続的にカーボンナノチューブを合成することが可能である。
【0067】
このステップでカーボンナノチューブを合成するための反応器の温度は、600~1500℃であり得る。この温度範囲から外れる場合には、カーボンナノチューブの選択度の低下、未反応反応物質の増加によるカーボンナノチューブの生成収率の低下という問題があるので、上記の温度範囲で合成反応が行われることが好ましい。
【0068】
以下、本発明の一実施形態によって本発明の具体的な作用と効果を説明する。ただし、これは本発明の好適な例示として提示されたものであり、実施形態によって本発明の権利範囲が限定されるものではない。
【0069】
[製造例]
まず、溶媒であるベンゼン100重量部に対して、セチルトリメチルアンモニウムブロミド8重量部を混合し、45℃まで昇温した後、金属塩(FeCl)0.7重量部を投入し、6時間混合した。混合中に40Wの超音波を15分間印加した。その後、混合物を27℃まで冷却した。
【0070】
次に、前記混合物に溶媒100重量部に対して還元剤としてのLiBH1.5重量部及び機能向上剤0.19重量部を混合し、8時間撹拌してエマルジョン混合物を製造した。このとき、機能向上剤としては、インドールとジステアルジモニウムヘクトライトが1:0.5の重量比で混合された混合物を使用した。
【0071】
次に、前記エマルジョン混合物を0.40ml/minの速度で1200℃にて加熱された反応炉に導入し、同時にキャリアガスとしてのアルゴン(Ar)を100sccmの流量で供給し、合計20分間反応を行ってカーボンナノチューブを合成した。
【0072】
[実験例1]
機能向上剤の含有量を下記表1のように変化させてエマルジョン混合物を製造し、各エマルジョン混合物を用いて製造例と同様の方法でカーボンナノチューブを合成し、カーボンナノチューブの合成収率と直径分布図を測定し、その結果を表1に併せて記載した。合成収率は、下記の式(1)に従って計算した。直径分布図は、合成された各カーボンナノチューブの走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)写真を撮影し、撮影された写真内のカーボンナノチューブストランドのうち最も薄いものと最も厚いものを含めてランダムに10ストランドの直径を測定し、その平均値及び標準偏差を計算して表1に記載した。ここで、表1中の機能向上剤の含有量は、ベンゼン100重量部を基準とした重量を意味する。
【0073】
合成収率(%)=[生成されたカーボンナノチューブの量(g)/供給された金属塩の量(g)]×100 式(1)
【0074】
【表1】
【0075】
前記表1の実験結果を見ると、実施例1~実施例4の場合は、比較例1~比較例3に比べて合成収率が著しく高く、得られたカーボンナノチューブの直径標準偏差値が0.3未満であり、各ストランド別のカーボンナノチューブの直径が均一に形成されることが分かる。
【0076】
具体的には、比較例1と比較例2を一緒に参照すると、機能向上剤の含有量が十分でない場合、機能向上剤による合成収率の向上及び直径分布図均一化効果が現れないことが分かる。また、比較例3の場合も、機能向上剤による効果が現れないが、これは、機能向上剤の含有量が過剰であるので、むしろエマルジョン混合物の相不安定化を引き起こしたことによる結果と判断される。
【0077】
従って、本実験結果からカーボンナノチューブ合成収率の向上及び直径の均一化を図るための機能向上剤の含有量は、溶媒100重量部に対して0.1~0.4重量部であることを確認することができた。
【0078】
[実験例2]
製造例と同様の方法を用いるが、機能向上剤として使用されるインドールIとジステアルジモニウムヘクトライトDの含有量を下記表2のように変化させてエマルジョン混合物を製造し、各エマルジョン混合物を用いて製造例と同様の方法でカーボンナノチューブを合成した。その後、実験例1と同様の方法で合成収率及び直径分布図を測定し、その結果を表2に併せて記載した。
【0079】
【表2】
【0080】
前記表2の実験結果を見ると、実施例5の場合は、合成収率は高いものの、カーボンナノチューブの直径が不均一に形成されるという問題があり、実施例6の場合は、合成収率歩が低下するという問題があるため、機能向上剤としてインドールとジステアルジモニウムヘクトライトを併用することが好ましいことを確認することができる。
【0081】
また、実施例7の場合は、インドールとジステアルジモニウムヘクトライトが全て含まれているにも拘らず実施例5と同様の結果が示され、実施例11の場合は、実施例6と同様の結果が示された。このような結果から、機能向上剤としてインドールとジステアルジモニウムヘクトライトが全て使用される場合には1:0.3~0.7の重量比で使用されることが好ましいことを確認することができた。
【0082】
本発明は、上述した特定の実施例及び説明に限定されるものではなく、請求の範囲で請求する本発明の要旨を逸脱することなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、誰でも様々な変形実施が可能であり、それらの変形は本発明の保護範囲内にある。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明による気相合成方式を用いたカーボンナノチューブの連続式製造方法は、カーボンナノチューブの直径を均一に制御することができ、カーボンナノチューブの生成収率を高めることができるという効果があるので、産業上の利用可能性が存在する。