(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品及び積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
H01G4/30 311E
H01G4/30 311Z
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2019175235
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-08-30
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 秀弥
(72)【発明者】
【氏名】今井 敦史
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】渡辺 努
【審判官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140224(JP,A)
【文献】特開2015-29158(JP,A)
【文献】特開2009-32833(JP,A)
【文献】特開2019-106528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向にそれぞれ向いた第1端面及び第2端面と、前記第1端面に引き出された第1内部電極と前記第2端面に引き出された第2内部電極とが前記第1方向と直交する第2方向にセラミック層を挟んで相互に積層された機能部と、前記第1端面と前記第2内部電極との間及び前記第2端面と前記第1内部電極との間にそれぞれ設けられたエンドマージン部と、前記機能部を前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向から覆うサイドマージン部と、を有するセラミック素体と、
前記第1端面及び前記第2端面にそれぞれ設けられた外部電極と、
を具備し、
前記エンドマージン部は、ホウ素(B)
、及び
、該ホウ素より高い濃度のケイ素(Si)を含み、
前記サイドマージン部は、前記エンドマージン部よりも高い濃度のケイ素(Si)と、
該ケイ素より低い濃度、かつ、前記エンドマージン部よりも低い濃度のホウ素と、を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記エンドマージン部は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分とし、
前記エンドマージン部のセラミック材料のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、前記エンドマージン部のホウ素濃度が0.015atm%以上0.025atm%以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記サイドマージン部のホウ素濃度は、前記エンドマージン部のホウ素濃度の70%以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1内部電極と前記第2内部電極の前記第3方向における端部の位置は、前記第3方向に0.5μmの範囲内に相互に揃っている
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
第1方向にそれぞれ向いた第1端面及び第2端面と、前記第1端面に引き出された第1内部電極と前記第2端面に引き出された第2内部電極とが前記第1方向と直交する第2方向にセラミック層を挟んで相互に積層された機能部と、前記第1端面と前記第2内部電極との間及び前記第2端面と前記第1内部電極との間にそれぞれ設けられ
、ホウ素(B)
、及び
、該ホウ素より高い濃度のケイ素(Si)を含むエンドマージン部と、前記機能部を前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向から覆い、前記エンドマージン部よりも高い濃度のケイ素(Si)と
該ケイ素より低い濃度、かつ、前記エンドマージン部よりも低い濃度のホウ素とを含むサイドマージン部と、を有する未焼成のセラミック素体を作製し、
前記第1端面及び前記第2端面にそれぞれ未焼成の外部電極を形成し、
前記未焼成の外部電極が形成された前記未焼成のセラミック素体を焼成する、
積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な積層セラミック電子部品に積層セラミックコンデンサがある。近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサに対する小型化及び大容量化等の要望がますます強くなってきている。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、典型的には、内部電極とセラミック層とが交互に積層された機能部(容量形成部)と、その周囲のセラミック材料からなるマージン部と、内部電極と接続された外部電極と、を備える。マージン部は、例えば、内部電極と外部電極との間に形成されたエンドマージン部と、内部電極の側端部を被覆するサイドマージン部と、を含む。
これらのマージン部は、セラミック材料からなるため、金属からなる内部電極とは異なる焼結挙動を示す。具体的には、マージン部は、金属よりも焼結温度が高く、焼結の進行が遅い。このため、焼成時において、内部電極を有する機能部とマージン部との間には、焼結挙動の差に起因する応力が付加され、クラック等の構造欠陥が生じやすくなる。
【0004】
そこで、マージン部の焼結性を高めるため、マージン部に焼結助剤を添加する試みがなされている。例えば特許文献1には、第1の内部電極層及び第2の内部電極層と積層された内部誘電体よりも、マンガンやマグネシウムのような焼結助剤を多く含有する外部誘電体を備えた積層セラミックコンデンサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、エンドマージン部及びサイドマージン部に対しては、それぞれ異なる焼結性が求められる。すなわち、外部電極に覆われているエンドマージン部に対しては、内部電極と外部電極との接続を確保する観点から、金属の焼結挙動に近づけて焼結をできるだけ速めたいという要求がある。サイドマージン部については、機能部との間の応力緩和の観点からは金属の焼結挙動に近づけたいものの、焼成雰囲気に曝され易く、過焼結しやすい。サイドマージン部が過焼結した場合、内部電極の球状化・分断化による絶縁性の低下が生じる。このため、サイドマージン部に対しては、過焼結を抑制しつつ、焼結性を高めたいという要求がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、内部電極と外部電極との接続不良を抑制し、かつ、絶縁不良を抑制することが可能な積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、外部電極と、を具備する。
上記セラミック素体は、第1方向にそれぞれ向いた第1端面及び第2端面と、上記第1端面に引き出された第1内部電極と上記第2端面に引き出された第2内部電極とが上記第1方向と直交する第2方向にセラミック層を挟んで相互に積層された機能部と、上記第1端面と上記第2内部電極との間及び上記第2端面と上記第1内部電極との間にそれぞれ設けられたエンドマージン部と、上記機能部を上記第1方向及び上記第2方向に直交する第3方向から覆うサイドマージン部と、を有する。
上記外部電極は、上記第1端面及び上記第2端面にそれぞれ設けられる。
上記エンドマージン部は、ホウ素(B)、及び、該ホウ素より高い濃度のケイ素(Si)を含む。
上記サイドマージン部は、上記エンドマージン部よりも高い濃度のケイ素(Si)と、該ケイ素より低い濃度、かつ、上記エンドマージン部よりも低い濃度のホウ素と、を含む。
【0009】
エンドマージン部が、焼結性を高める効果の高いホウ素を高濃度で含むことで、金属である外部電極及び内部電極の焼結挙動により近くなる。これにより、エンドマージン部が、焼成時に外部電極及び内部電極に追従して収縮し易くなる。したがって、外部電極及び内部電極の接続不良を抑制することができる。
一方、サイドマージン部は、焼成雰囲気に曝され易く、ホウ素によって過焼結が起きやすい。このため、サイドマージン部のホウ素濃度をエンドマージン部よりも低くすることで、過焼結によるセラミック粒子の異常粒成長を抑えて、内部電極の球状化・分断化による短絡や、絶縁性の低下を抑制できる。またこれとともに、ケイ素によってサイドマージン部の焼結性を緩やかに高めることで、内部電極を有する機能部との間の焼結挙動の差に起因する応力を抑制することができる。したがって、サイドマージン部と機能部との間のクラック等の構造欠陥を抑制し、これに起因する絶縁不良を抑制することができる。
【0010】
上記エンドマージン部は、ケイ素(Si)を含み、
上記サイドマージン部は、上記エンドマージン部よりも高い濃度のケイ素を含んでもよい。
サイドマージン部が高い濃度のケイ素を含むことで、ケイ素によってサイドマージン部の焼結性を制御することができる。したがって、サイドマージン部における過焼結を抑制しつつも、内部電極を有する機能部との間の焼結挙動の差に起因する応力を抑制することができる。したがって、サイドマージン部と機能部との間のクラック等の構造欠陥をより確実に抑制し、これに起因する絶縁不良を抑制することができる。
【0011】
例えば、上記エンドマージン部は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分とし、
上記エンドマージン部のセラミック材料のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、上記エンドマージン部のホウ素濃度が0.015atm%以上0.025atm%以下であってもよい。
【0012】
また例えば、上記サイドマージン部のホウ素濃度は、上記エンドマージン部のホウ素濃度の70%以下であってもよい。
【0013】
本発明の他の形態に係るセラミック電子部品の製造方法は、第1方向にそれぞれ向いた第1端面及び第2端面と、上記第1端面に引き出された第1内部電極と上記第2端面に引き出された第2内部電極とが上記第1方向と直交する第2方向にセラミック層を挟んで相互に積層された機能部と、上記第1端面と上記第2内部電極との間及び上記第2端面と上記第1内部電極との間にそれぞれ設けられたホウ素(B)、及び、該ホウ素より高い濃度のケイ素(Si)を含むエンドマージン部と、上記機能部を上記第1方向及び上記第2方向に直交する第3方向から覆い、上記エンドマージン部よりも高い濃度のケイ素(Si)と該ケイ素より低い濃度、かつ、上記エンドマージン部よりも低い濃度のホウ素とを含むサイドマージン部と、を有する未焼成のセラミック素体を作製する工程を含む。
上記第1端面及び上記第2端面にそれぞれ未焼成の外部電極が形成される。
上記未焼成の外部電極が形成された上記未焼成のセラミック素体が焼成される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、内部電極と外部電極との接続不良を抑制し、かつ、絶縁不良を抑制することが可能な積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った斜視図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す平面図である。
【
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図9】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す模式的な断面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態に係る上記積層セラミックコンデンサへのLA-ICP-MSによるレーザ照射方法を示す断面図である。
【
図11】上記積層セラミックコンデンサのセラミック層及びサイドマージン部のY軸方向のホウ素濃度を示すグラフである。
【
図12】本発明の第1実施形態に係る上記積層セラミックコンデンサへのLA-ICP-MSによるレーザ照射方法を示す断面図である。
【
図13】上記積層セラミックコンデンサのセラミック層及びエンドマージン部のX軸方向のホウ素濃度を示すグラフである。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサの
図2に対応する切断面の断面図である。
【
図15】上記積層セラミックコンデンサの
図3に対応する切断面の断面図である。
【
図16】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図17】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す平面図である。
【
図18】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図19】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す模式的な断面図である。
【
図20】本発明の第3実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造過程を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0017】
<第1実施形態>
[積層セラミックコンデンサ10の構成]
図1~3は、本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0018】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11は、X軸方向を向いた第1端面11a及び第2端面11bと、Y軸方向を向いた第1側面11c及び第2側面11dと、Z軸方向を向いた第1主面11e及び第2主面11fと、を有する。なお、セラミック素体11の各面を接続する稜部は丸みを帯びていてもよい。
【0019】
第1外部電極14は、第1端面11aに設けられる。第2外部電極15は、第2端面11bに設けられる。第1外部電極14は、セラミック素体11の第1端面11aから両主面11e,11f及び両側面11c,11dに延出している。同様に、第2外部電極15は、セラミック素体11の第2端面11bから両主面11e,11f及び両側面11c,11dに延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。なお、外部電極14,15の形状は、
図1に示すものに限定されない。
【0020】
外部電極14,15は、電気の良導体により形成されている。外部電極14,15を形成する電気の良導体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0021】
セラミック素体11は、容量形成部16と、サイドマージン部17と、エンドマージン部18と、カバー部19と、を有する。容量形成部16は、本実施形態における機能部として構成される。
【0022】
容量形成部16は、複数のセラミック層20を挟んでZ軸方向に交互に積層された第1内部電極12及び第2内部電極13を有する。内部電極12,13は、電気の良導体により形成されている。内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0023】
内部電極12,13は、それぞれ、X-Y平面に沿って延びるシート状に構成される。第1内部電極12は、第1端面11aに引き出され、第1外部電極14に接続される。第2内部電極13は、第2端面11bに引き出され、第2外部電極15に接続される。これにより、第1外部電極14及び第2外部電極15の間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間のセラミック層20に電圧が加わり、容量形成部16に当該電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0024】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層20の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0025】
なお、セラミック層20は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系、チタン酸カルシウム(CaTiO3)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)系、酸化チタン(TiO2)系などで構成してもよい。
【0026】
また、セラミック層20は上記の主成分の他に、副成分としてホウ素(B)を含んでいてもよい。その他に、セラミック層20は、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、希土類元素(イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb))等を副成分として含んでもよく、その種類は上記に限定されない。
【0027】
エンドマージン部18は、容量形成部16と外部電極14,15の間にそれぞれ設けられる。具体的に、エンドマージン部18は、第1端面11aと第2内部電極13との間、及び第2端面11bと第1内部電極12との間にそれぞれ設けられる。エンドマージン部18は、絶縁性セラミックスで形成され、第1内部電極12と第2外部電極15との絶縁性を確保し、かつ、第2内部電極13と第1外部電極14との絶縁性を確保する。
【0028】
カバー部19は、容量形成部16のZ軸方向両側にそれぞれ設けられる。カバー部19は、絶縁性セラミックスで形成され、容量形成部16のZ軸方向における絶縁性を確保するとともに、容量形成部16を保護する。本実施形態では、容量形成部16、エンドマージン部18及びカバー部19が、略直方体状の積層体として構成される。
【0029】
サイドマージン部17は、容量形成部16をY軸方向から覆う。サイドマージン部17は、絶縁性セラミックスで形成され、容量形成部16のY軸方向における絶縁性を確保するとともに、容量形成部16を保護する。本実施形態のサイドマージン部17は、容量形成部16、エンドマージン部18及びカバー部19からなる上記積層体のY軸方向側面を覆うように構成される。この場合、内部電極12,13のY軸方向端部の位置は、Y軸方向に0.5μmの範囲内に相互に揃っている。
【0030】
エンドマージン部18、カバー部19及びサイドマージン部17に用いられる絶縁性セラミックスは、セラミック層20で用いられた誘電体セラミックスを含んでいてもよい。より詳細に、サイドマージン部17及びエンドマージン部18については、以下のような組成を有する。
【0031】
[サイドマージン部17及びエンドマージン部18の組成]
サイドマージン部17及びエンドマージン部18は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分とする。このようなセラミック材料としては、例えば、上述のチタン酸バリウムが挙げられるが、この他、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウムなどが挙げられる。
【0032】
さらに、エンドマージン部18は、副成分として、ホウ素を含む。ホウ素は、後述するように、セラミックスの焼結性を高める焼結助剤として機能する。具体的に、エンドマージン部18のホウ素濃度は、エンドマージン部18のセラミック材料(主成分)のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、0.015atm%以上0.025atm%以下であってもよい。なおエンドマージン部18のセラミック材料の主成分がチタン酸バリウム(BaTiO3)の場合、Bサイトの元素はチタン(Ti)となる。
【0033】
サイドマージン部17は、エンドマージン部18よりも低い濃度のホウ素を含む。サイドマージン部17のホウ素濃度は、エンドマージン部18のホウ素濃度の70%以下であってもよい。
【0034】
ホウ素は、少量でもセラミック材料の焼結温度を下げる効果を有する。一般に、セラミック材料は、金属材料よりも焼結温度が高い。このため、焼結温度の低い金属材料は、焼成時において、セラミック材料よりも低温で収縮を開始する。仮に内部電極12,13及び外部電極14,15がエンドマージン部18に対して収縮した場合、端面11a,11bにおいてこれらが離間し、内部電極12,13が外部電極14,15と接続することが難しくなる。
【0035】
エンドマージン部18に比較的高濃度のホウ素を添加することで、エンドマージン部18の焼結温度を外部電極14,15及び内部電極12,13の焼結温度に近づけることができる。すなわち、焼成時に、エンドマージン部18を外部電極14,15及び内部電極12,13に追従するように収縮させることができる。これにより、外部電極14,15と内部電極12,13が端面11a,11bにおいて離間することを抑制することができる。したがって、第1内部電極12と第1外部電極14並びに第2内部電極13と第2外部電極15の接続を確保し、外部電極14,15の接続不良を抑制することができる。
【0036】
また、サイドマージン部17のホウ素濃度を抑制することで、焼成雰囲気に曝され易いサイドマージン部17の過焼結に伴うセラミック粒子の異常粒成長を抑制できる。サイドマージン部17のセラミック粒子が異常粒成長した場合、サイドマージン部17近傍の内部電極12,13端部の微細構造が破壊され、当該端部の球状化及び分断化を招き易い。この結果、隣接する内部電極12,13の端部同士が接近又は接触し、短絡などの絶縁不良を生じる可能性がある。したがって、サイドマージン部17の過焼結を抑制することで、内部電極12,13の絶縁不良を抑制することができる。
【0037】
さらに、サイドマージン部17は、ケイ素を含む。ケイ素も焼結助剤として機能するが、ケイ素の方がホウ素よりも焼結性を高める効果が緩やかである。このため、サイドマージン部17が低濃度のホウ素に加えてケイ素を含むことで、過焼結を抑制しつつ、焼結性を高めることができる。サイドマージン部17の焼結性が高められることにより、焼結過程において、容量形成部16及びサイドマージン部17の焼結挙動の差に起因する応力が緩和される。したがって、容量形成部16及びサイドマージン部17の間のクラック等の構造欠陥が防止され、これに伴う絶縁不良も抑制される。
【0038】
本実施形態では、エンドマージン部18もケイ素を含むが、サイドマージン部17は、エンドマージン部18よりも高い濃度のケイ素を含んでもよい。サイドマージン部17のケイ素濃度は、サイドマージン部17のセラミック材料(主成分)のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、例えば2.0atm%以上であってもよい。サイドマージン部17のセラミック材料の主成分がチタン酸バリウム(BaTiO3)の場合、Bサイトの元素はチタン(Ti)である。
【0039】
以下、焼成工程を含む積層セラミックコンデンサ10の製造方法について詳細に説明する。
【0040】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図4は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図5~9は積層セラミックコンデンサ10の製造過程を模式的に示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図4に沿って、
図5~9を適宜参照しながら説明する。
【0041】
(ステップS11:内部電極パターン形成)
ステップS11では、容量形成部16及びエンドマージン部18を形成するための第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102上に、内部電極パターン112p,113pを形成する。
【0042】
図5は、セラミックシート101,102の平面図である。セラミックシート101,102は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。セラミックシート101,102は、上述の主成分である誘電体セラミックスの他、副成分としてホウ素やケイ素等を含んでいてもよい。セラミックシート101,102は、例えば、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形される。
【0043】
この段階では、セラミックシート101,102が、個片化されていない大判のシートとして構成される。
図5には、積層セラミックコンデンサ10ごとに個片化する際の切断線Lx,Ly1,Ly2が示されている。切断線LxはX軸に平行であり、切断線Ly1,Ly2はY軸に平行である。
【0044】
図5に示すように、第1セラミックシート101には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極パターン112pが形成され、第2セラミックシート102には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極パターン113pが形成されている。
【0045】
内部電極パターン112p,113pは、任意の導電性ペーストをセラミックシート101,102に塗布することによって形成することができる。導電性ペーストの塗布方法は、公知の技術から任意に選択可能であり、例えば、スクリーン印刷法やグラビア印刷法を用いることができる。
【0046】
第1セラミックシート101上の各内部電極パターン112pは、切断線Ly1に沿ってY軸方向に延びる帯状に構成される。切断線Ly2上には、内部電極パターン112pは形成されていない。各内部電極パターン112pは、切断線Ly1、Ly2及びLxで切断されることにより、各積層セラミックコンデンサ10の第1内部電極12を形成する。
【0047】
第2セラミックシート102上の各内部電極パターン113pは、切断線Ly2に沿ってX軸方向に延びる帯状に構成される。切断線Ly1上には、内部電極パターン112pは形成されていない。つまり、内部電極パターン113pは、内部電極パターン112pとX軸方向に1素子分ずれて配置されている。各内部電極パターン113pは、切断線Ly1、Ly2及びLxで切断されることにより、各積層セラミックコンデンサ10の第2内部電極13を形成する。
【0048】
(ステップS12:エンドマージンパターン形成)
ステップS12では、第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102における内部電極パターン112p,113pの周囲の領域に、エンドマージンパターン118pを形成する。
【0049】
図5に示すように、エンドマージンパターン118pは、セラミックシート101,102における内部電極パターン112p,113pが形成されていない領域に形成される。第1セラミックシート101において、エンドマージンパターン118pは、X軸方向に隣り合う内部電極パターン112pの間の切断線Ly2に沿って延びる帯領域として構成される。第2セラミックシート102において、エンドマージンパターン118pは、X軸方向に隣り合う内部電極パターン113pの間の切断線Ly1に沿って延びる帯領域として構成される。
【0050】
エンドマージンパターン118pは、セラミックペーストをセラミックシート101,102の電極が形成されていない領域に塗布することによって形成することができる。セラミックペーストの塗布には、例えばスクリーン印刷法やグラビア印刷法を用いることができる。
【0051】
エンドマージンパターン118pは、切断線Ly1、Ly2及びLxで切断されることにより、エンドマージン部18の一部を形成する。エンドマージンパターン118pを構成するセラミックペーストは、誘電体セラミックスを主成分とし、例えば一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分する。さらに、当該セラミックペーストは、ホウ素を含み、さらにケイ素等の他の副成分を含んでいてもよい。
【0052】
(ステップS13:積層)
ステップS13では、ステップS11,S12で準備したセラミックシート101,102及び第3セラミックシート103を、
図6に示すように積層することにより積層シート104を作製する。第3セラミックシート103は、内部電極パターン112p,113p及びエンドマージンパターン118pが形成されていないセラミックシートである。
【0053】
積層シート104は、第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102がZ軸方向に交互に積層され、そのZ軸方向上下面に第3セラミックシート103が積層される。セラミックシート101,102の積層体は、焼成後の容量形成部16及びエンドマージン部18に対応する。第3セラミックシート103の積層体は、焼成後のカバー部19に対応する。セラミックシート101,102,103の積層数は、図示の例に限定されず、適宜調整可能である。
【0054】
積層シート104は、セラミックシート101,102,103を圧着することにより一体化される。セラミックシート101,102,103の圧着には、例えば、静水圧加圧や一軸加圧などを用いることが好ましい。これにより、積層シート104を高密度化することが可能である。
【0055】
(ステップS14:切断)
ステップS14では、ステップS13で得られた積層シート104を切断線Lx,Ly1,Ly2に沿って切断することにより、
図7に示すような未焼成の積層チップ105を作製する。積層チップ105は、容量形成部16、エンドマージン部18及びカバー部19からなる積層体に対応する。
【0056】
すなわち、積層チップ105は、内部電極112,113がセラミック層120を挟んで交互に積層された未焼成の容量形成部116と、第1端面105aと第2内部電極113との間及び第2端面105bと第1内部電極112との間にそれぞれ設けられた未焼成のエンドマージン部118と、容量形成部116のZ軸方向両側を覆うカバー部119と、を有する。セラミック層120は、セラミックシート101,102が切断されることにより形成される。
【0057】
積層チップ105のX軸方向に向いた端面105a,105bは、切断線Ly1,Ly2による切断面にそれぞれ対応する。積層チップ105のY軸方向に向いた側面105c,105dは、切断線Lxによる切断面に対応する。側面105c,105dからは、内部電極パターン112p,113pが切断された未焼成の内部電極112,113の端部が露出している。
【0058】
(ステップS15:サイドマージン部形成)
ステップS15では、積層チップ105の側面105c,105dに、サイドマージン部117を形成する。これにより、
図8に示すような未焼成のセラミック素体111が作製される。
【0059】
サイドマージン部117は、未焼成のセラミック材料を含み、具体的にはセラミックシートやセラミックスラリーから形成される。サイドマージン部117は、例えば、セラミックシートを積層チップ105の側面105c,105dに貼り付けることにより形成することができる。また、サイドマージン部117は、積層チップ105の側面105c,105dを、例えば塗布やディップなどによってセラミックスラリーでコーティングすることにより形成することもできる。
【0060】
サイドマージン部117は、誘電体セラミックスを主成分とし、例えば一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分とする。さらに、サイドマージン部117は、ホウ素及びケイ素等の副成分を含んでいてもよい。
【0061】
図8に示すように、セラミック素体111は、X軸方向に向いた第1端面111a及び第2端面111bと、未焼成の容量形成部116(
図7参照)と、第1端面111aと第2内部電極113との間及び第2端面111bと第1内部電極112との間にそれぞれ設けられた未焼成のエンドマージン部118と、容量形成部116をY軸方向から覆う未焼成のサイドマージン部117と、未焼成のカバー部119と、を有する。
【0062】
図9は、セラミック素体111の模式的な断面図であり、
図9Aは
図8のC-C'線に沿った模式的な断面図、
図9Bは
図8のD-D'線に沿った模式的な断面図である。なお、
図9において、内部電極112,113及びセラミック層120の層数は、説明のため、
図8よりも少なく示している。また、
図9において、内部電極112,113のハッチングは省略している。
【0063】
図9Aに示すように、本実施形態のエンドマージン部118は、セラミックシート101,102が切断されたセラミック層120及びエンドマージンパターン118pにより形成される。サイドマージン部117は、上述のセラミックシートやセラミックスラリーにより形成される。
【0064】
本実施形態において、エンドマージンパターン118pは、セラミックシート101,102及びサイドマージン部117よりも高いホウ素濃度を有する。例えば、エンドマージンパターン118pは、エンドマージンパターン118pのセラミック材料のBサイト(主成分がチタン酸バリウム(BaTiO3)の場合はチタン(Ti))の元素濃度を100atm%としたときに、0.15atm%以上0.30atm%以下のホウ素濃度を有する。一方、セラミックシート101,102(セラミック層120)及びサイドマージン部117は、これらの主成分のセラミック材料のBサイト(主成分がチタン酸バリウム(BaTiO3)の場合はチタン(Ti))の元素濃度を100atm%としたときに、例えば0.15atm%未満のホウ素濃度を有する。
【0065】
これにより、エンドマージンパターン118pとセラミックシート101,102(セラミック層120)からなるエンドマージン部118は、全体として、サイドマージン部117よりも高い濃度のホウ素を含むことになる。
【0066】
さらに、サイドマージン部117は、ケイ素を含んでいてもよい。セラミック層120及びエンドマージンパターン118pもケイ素を含んでいてもよいが、例えば、サイドマージン部117はセラミック層120及びエンドマージンパターン118pよりも高い濃度のケイ素を含む。サイドマージン部117のケイ素濃度は、サイドマージン部117のセラミック材料のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、例えば1.0atm%以上3.0atm%以下となる。
【0067】
エンドマージン部118及びサイドマージン部117が上記構成を有することで、後述する焼成工程において、エンドマージン部118及びサイドマージン部117が好ましい焼結挙動を示す。
【0068】
(ステップS16:外部電極形成)
ステップS16では、ステップS15で得られたセラミック素体111の端面111a,111bに未焼成の外部電極14,15を形成する。未焼成の外部電極14,15は、例えば、導電性ペーストを端面111a,111bに塗布することにより、形成される。塗布方法は特に限定されず、ディップ法、印刷法等を適宜選択することができる。
【0069】
(ステップS17:焼成)
ステップS17では、ステップS16で得られた外部電極14,15が形成された未焼成のセラミック素体111を焼成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。つまり、ステップS17によって、容量形成部116が容量形成部16になり、サイドマージン部117がサイドマージン部17になり、エンドマージン部118がエンドマージン部18になり、カバー部119がカバー部19になる。焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0070】
ステップS17では、まず、焼結温度がより低温である金属で構成された内部電極112,113及び外部電極14,15から焼結が開始される。つまり、内部電極112,113及び外部電極14,15がセラミックスよりも先に収縮を開始する。
【0071】
本実施形態では、エンドマージン部118が比較的高濃度のホウ素を含む。ホウ素は、上述のように、少量でも焼結温度を下げる作用を有する。このため、外部電極14,15及び内部電極112,113に挟まれたエンドマージン部118の焼結温度が低下し、エンドマージン部118が外部電極14,15及び内部電極112,113に追従するように収縮することができる。これにより、外部電極14,15及び内部電極112,113がエンドマージン部118よりも大きく収縮してこれらが離間することを抑制できる。したがって、第1内部電極12と第1外部電極14、並びに第2内部電極13と第2外部電極15の接続を確保することができる。
【0072】
一方で、サイドマージン部117は、エンドマージン部118よりも低い濃度のホウ素を含む。ホウ素は、焼結性を高める効果が高い一方で、焼成雰囲気に曝されやすいサイドマージン部117に対しては、過焼結を促進するリスクもある。特に、還元雰囲気下での焼成では、ホウ素によってサイドマージン部117の過焼結が促進されるリスクが高まる。サイドマージン部117が過焼結の状態になった場合、サイドマージン部117においてセラミック粒子の粒成長が促進され、過度な粒成長が生じる。
【0073】
内部電極112,113(容量形成部116)の近傍のサイドマージン部117のセラミック粒子が過度に粒成長した場合、内部電極112,113の微細な層構造を乱す恐れがある。具体的には、内部電極112,113の端部が、粒成長したセラミック粒子の影響を受けて分断化される。これにより、融液となっている内部電極が球形化すると、Z軸方向上下の内部電極が接近し絶縁性の低下が起こる。また、内部電極の形状が変化するため、交差面積が減少し静電容量の低下が起こる。
【0074】
そこで、サイドマージン部117のホウ素濃度を抑制することで、過焼結及び異常な粒成長のリスクを抑え、内部電極12,13の絶縁不良を抑制することができる。
【0075】
さらに、サイドマージン部117がケイ素を含む。ケイ素は、ホウ素よりも焼結性を緩やかに高め、過焼結のリスクを抑制しつつ、焼成温度を下げる作用を有する。サイドマージン部117では、ケイ素と少量のホウ素とが協働することで、過焼結及びそれに伴うセラミック粒子の異常粒成長を抑制しつつも、焼成温度を低下させることができる。これにより、サイドマージン部17も内部電極12,13の収縮に追従して収縮しやすくなり、内部電極12,13の収縮によってサイドマージン部17に生じる応力を抑制することができる。したがって、サイドマージン部17と容量形成部16との間のクラック等の構造欠陥を抑制し、これに伴う絶縁不良を抑制することができる。
【0076】
ステップS17における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定することができる。本実施形態では、セラミック素体111を構成するセラミック材料に焼結助剤としてのホウ素及びケイ素が添加されている。そのため、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)系材料を用いる場合には、1000~1200℃程度の低温で焼成することが可能となる。
【0077】
以上の製造方法により、積層セラミックコンデンサ10が作製される。なお、焼成後の外部電極14,15には、さらにメッキ膜が形成されてもよい。
【0078】
[実施例]
第1実施形態の実施例として、上記製造方法を用いて積層セラミックコンデンサの実施例サンプルを作製した。このサンプルでは、X軸方向の寸法を約660μm、Y軸方向の寸法を約340μm及びZ軸方向の寸法を約300μmとした。また、焼成温度は、1000~1200℃の範囲で、焼成後にサイドマージン部17のポア率が5%以下となる温度を選択することとした。ここで、ポア率は、サイドマージン部17の断面を撮像した画像におけるポアの面積の割合と規定される。
【0079】
上記実施例サンプルにおいて、セラミックシート101,102のホウ素濃度は、セラミック材料の主成分であるチタン酸バリウム(BaTiO3)に含まれるチタン(Ti)の元素濃度を100atm%としたときに、0.26atm%であった。エンドマージンパターン118pのホウ素濃度は、同様にチタンの元素濃度を100atm%としたときに、0.26atm%であった。サイドマージン部117のホウ素濃度は、同様にチタンの元素濃度を100atm%としたときに、0.13atm%であった。
【0080】
また、セラミックシート101,102のケイ素濃度は、ホウ素と同様にチタンの元素濃度を100atm%としたときに、2.0atm%であった。エンドマージンパターン118pのケイ素濃度は、同様にチタンの元素濃度を100atm%としたときに、2.0atm%であった。サイドマージン部117のケイ素濃度は、同様にチタンの元素濃度を100atm%としたときに、2.0atm%であった。
【0081】
作製された積層セラミックコンデンサ10におけるホウ素濃度分布及びケイ素濃度分布を確認するため、LA-ICP-MS(レーザアブレーションICP質量分析)により、積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11のホウ素濃度分布及びケイ素濃度分布を測定した。
【0082】
まず、サイドマージン部17のホウ素濃度分布及びケイ素濃度分布を測定するため、実施例サンプルのセラミック素体11を、Y-Z平面に沿って切断し、当該切断面が正面(X軸方向)を向いた測定用サンプルを作製した。
【0083】
次に、
図10に示すように、測定用サンプルの上記切断面にレーザ光を複数回スポット照射することで、複数の照射スポットS1を生じさせた。そして、照射スポットS1から揮発した微粒子の元素組成をLA-ICP-MSにより分析した。
【0084】
レーザ光の照射方法としては、セラミック素体11の一方の側面11c側のサイドマージン部17から、容量形成部16のセラミック層20及び第2側面11d側のサイドマージン部17までを、Y軸方向に沿って横断するように複数箇所にスポット照射し、直径10μm、スポット間隔20μmの照射スポットS1を生じさせた。レーザ光の照射条件としては、各照射スポットS1にて、エネルギーを11~12J/cm
2、周波数を10Hzとし、レーザ照射時間を15秒間とした。なお、
図10に示す照射スポット数は、実際の照射スポット数よりも少なく示している。
【0085】
そして、照射スポットS1より揮発した微粒子中からカウントしたホウ素原子数及びケイ素原子数に基づいて、各スポット位置におけるホウ素濃度及びケイ素濃度を算出した。この結果を、表1及び
図11に示す。
【0086】
表1は、各照射スポットS1において算出されたホウ素濃度(B)及びケイ素濃度(Si)の値を示す。
図11は、表1に対応するホウ素濃度分布を示す折れ線グラフである。具体的には、
図11は、各照射スポットS1より揮発した微粒子数に基づいて算出したホウ素濃度(縦軸)と、セラミック素体11の第1側面11cからのY軸方向の距離(横軸)との関係を示すグラフである。
【0087】
【0088】
図11より、両側面11c,11d側のサイドマージン部17ではホウ素濃度が低く、容量形成部16のY軸方向内部に進むに従ってホウ素濃度が増加していることが分かる。実際に、表1に示すように、第1側面11cから0μm及び340μmのサイドマージン部17では、ホウ素濃度がそれぞれ0.009atm%、0.010atm%であった。また、第1側面11cから40~300μmの容量形成部16のセラミック層120では、ホウ素濃度が0.017~0.021atm%の範囲であった。
【0089】
また、表1より、第1側面11cから0μm及び340μmのサイドマージン部17のケイ素濃度は、それぞれ2.0atm%、2.1atm%であった。また、第1側面11cから40~300μmの容量形成部16のセラミック層120では、ケイ素濃度が1.3~1.7atm%の範囲であった。
【0090】
続いて、エンドマージン部18のホウ素濃度分布及びケイ素濃度分布を測定するため、実施例サンプルのセラミック素体11を、X-Z平面に沿って切断し、当該切断面が正面(Y軸方向)を向いた測定用サンプルを作製した。
【0091】
そして、
図12に示すように、測定用サンプルの上記切断面にレーザ光を複数回スポット照射することで、複数の照射スポットS2を生じさせた。そして、照射スポットS2から揮発した微粒子の元素組成をLA-ICP-MSにより分析した。
【0092】
レーザ光の照射方法としては、セラミック素体11の第1端面11a側のエンドマージン部18から、容量形成部16のセラミック層20及び第2端面11b側のエンドマージン部18までを、X軸方向に沿って横断するように複数箇所にスポット照射し、直径10μm、スポット間隔20μmの照射スポットS2を生じさせた。レーザ光の照射条件は、サイドマージン部17側の測定と同様とした。なお、
図12に示す照射スポット数は、実際の照射スポット数よりも少なく示している。
【0093】
そして、照射スポットS2より揮発した微粒子中からカウントしたホウ素原子数及びケイ素原子数に基づいて、各スポット位置におけるホウ素濃度及びケイ素濃度を算出した。この結果を、表2及び
図13に示す。
【0094】
表2は、各照射スポットS2において算出されたホウ素濃度(B)及びケイ素濃度(Si)の値を示す。
図13は、表2に対応するホウ素濃度分布を示す折れ線グラフである。具体的には、
図13は、各照射スポットS1より揮発した微粒子数に基づいて算出したホウ素濃度(縦軸)と、セラミック素体11の第1側面11cからのY軸方向の距離(横軸)との関係を示すグラフである。
【0095】
【0096】
図13より、エンドマージン部18のホウ素濃度は、容量形成部16と同等のホウ素濃度を有することが分かった。表2に示すように、第1端面11aから0μm、20μm、40μm、620μm、640μm及び660μmのエンドマージン部18では、ホウ素濃度が、それぞれ、0.021atm%、0.018atm%、0.021atm%、0.017atm%、0.021atm%及び0.021atm%であった。また、第1端面11aから60~600μmの容量形成部16のセラミック層120では、ホウ素濃度が0.017~0.021atm%の範囲であった。
【0097】
また、表2より、第1端面11aから0μm、20μm、40μm、620μm、640μm及び660μmのエンドマージン部18では、ケイ素濃度が、それぞれ、1.9atm%、1.8atm%、1.7atm%、1.5atm%、1.8atm%及び1.9atm%であった。また、第1端面11aから60~600μmの容量形成部16のセラミック層120では、ケイ素濃度が1.3~1.7atm%の範囲であった。
【0098】
これらの結果より、エンドマージン部18は、サイドマージン部17よりも高い濃度のホウ素を含むことが確認された。また、エンドマージン部18のホウ素濃度は、0.015atm%以上0.025atm%以下であることが確認された。
また、サイドマージン部17は、ケイ素を含み、かつ、エンドマージン部18よりも高い濃度のケイ素を含むことが確認された。
【0099】
また、この実施例サンプルの各切断面をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、サイドマージン部17と容量形成部16との間のクラック等の構造欠陥は見られなかった。また、端面11a,11bにおける外部電極14,15と内部電極12,13との離間も見られなかった。
【0100】
さらに、この実施例サンプル1000個に対して、4Vの直流電圧を印加し、その抵抗率が1MΩ以下のサンプル発生率(IR不良率)を調べたところ、IR不良率は0.5%未満であり、非常に低い結果となった。これらの結果により、本実施例の積層セラミックコンデンサ10によれば、絶縁不良を抑制でき、かつ、外部電極14,15と内部電極12,13との接続不良も抑制できることが確認された。
【0101】
<第2実施形態>
以上の実施形態では、未焼成のセラミック素体111の作製方法として、サイドマージン部117が後付けされる方法を挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、サイドマージン部がエンドマージン部と同様に内部電極パターン間の誘電体パターンによって形成されていてもよい。
以下の実施形態において、第1実施形態と同様の構成について同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0102】
[積層セラミックコンデンサ30の構成]
図14及び15は、本発明の第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ30を示す図である。
図14は、積層セラミックコンデンサ30の
図2に対応する切断面を示す断面図である。
図15は、積層セラミックコンデンサ30の
図3に対応する切断面を示す断面図である。
【0103】
積層セラミックコンデンサ30は、セラミック素体31と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体31は、X軸方向を向いた第1端面31a及び第2端面31bと、Y軸方向を向いた第1側面31c及び第2側面31dと、Z軸方向を向いた第1主面31e及び第2主面31fと、を有する。第1外部電極14は、第1端面31aに設けられる。第2外部電極15は、第2端面31bに設けられる。
【0104】
セラミック素体31は、容量形成部16と、サイドマージン部37と、エンドマージン部18と、カバー部39と、を有する。すなわちセラミック素体31では、第1実施形態のセラミック素体11に対し、サイドマージン部37及びカバー部39の構成が異なる。
【0105】
サイドマージン部37は、本実施形態において、容量形成部16及びエンドマージン部18をY軸方向から覆う。カバー部39は、容量形成部16、エンドマージン部18及びサイドマージン部37のZ軸方向上下に設けられる。
【0106】
エンドマージン部18は、第1実施形態と同様に、ホウ素を含む。サイドマージン部37も、第1実施形態と同様に、エンドマージン部18よりも低い濃度のホウ素と、ケイ素と、を含む。
【0107】
[積層セラミックコンデンサ30の製造方法]
図16は、積層セラミックコンデンサ30の製造方法を示すフローチャートである。
図17~19は、積層セラミックコンデンサ30の製造過程を模式的に示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ30の製造方法について、
図16に沿って、
図17~19を適宜参照しながら説明する。
【0108】
(ステップS21:内部電極パターン形成)
ステップS21では、容量形成部16及びエンドマージン部18を形成するための第1セラミックシート201及び第2セラミックシート202上に、内部電極パターン212p,213pを形成する。
【0109】
図17は、セラミックシート201,202の平面図である。この段階では、セラミックシート201,202が、個片化されていない大判のシートとして構成される。
図17には、積層セラミックコンデンサ30ごとに個片化する際の切断線Lx,Ly1,Ly2が示されている。切断線LxはX軸に平行であり、切断線Ly1,Ly2はY軸に平行である。
【0110】
図17に示すように、第1セラミックシート201には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極パターン212pが形成され、第2セラミックシート202には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極パターン213pが形成されている。
【0111】
第1セラミックシート201上の各内部電極パターン212pは、1本の切断線Ly1又はLy2を跨いでX軸方向に延びる略矩形に構成される。各内部電極パターン212pは、切断線Ly1、Ly2及びLxで切断されることにより、各積層セラミックコンデンサ30の第1内部電極12を形成する。
【0112】
第1セラミックシート201では、切断線Ly1を跨いで延びる内部電極パターン212pがX軸方向に沿って配置された第1列と、切断線Ly2を跨いで延びる内部電極パターン212pがX軸方向に沿って配置された第2列とが、Y軸方向に交互に並んでいる。第1列では、X軸方向に隣接する内部電極パターン212p同士が切断線Ly2を挟んで相互に対向する。第2列では、X軸方向に隣接する内部電極パターン212p同士が切断線Ly1を挟んで相互に対向する。つまり、Y軸方向に隣接する第1列と第2列では、内部電極パターン212pが、1チップ分ずつX軸方向にずれて配置されている。
【0113】
第2セラミックシート202上の内部電極パターン213pも、内部電極パターン212pと同様に構成される。但し、第2セラミックシート202では、第1セラミックシート201の第1列に対応する列の内部電極パターン213pが、切断線Ly2を跨いで延び、第1セラミックシート201の第2列に対応する列の内部電極パターン213pが、切断線Ly1を跨いで延びる。つまり、内部電極パターン213pは、内部電極パターン212pとはX軸方向又はY軸方向に1チップ分ずれて形成されている。
【0114】
(ステップS22:エンドマージンパターン形成)
ステップS22では、第1セラミックシート201及び第2セラミックシート202における内部電極パターン212p,213pのX軸方向周囲に、エンドマージン部18に対応するエンドマージンパターン218pを形成する。
【0115】
図17Aに示すように、第1セラミックシート201におけるエンドマージンパターン218pは、本実施形態において、切断線Ly1,Ly2上の、X軸方向に隣接する内部電極パターン212p間の間隙を埋めるように形成される。
図17Bに示すように、第2セラミックシート202におけるエンドマージンパターン218pも同様に、X軸方向に隣接する内部電極パターン213p間の間隙を埋めるように形成される。
【0116】
エンドマージンパターン218pは、主成分としてチタン酸バリウム(BaTiO3)等の誘電体セラミックスを含み、副成分としてホウ素とケイ素とを含む。
【0117】
(ステップS23:サイドマージンパターン形成)
ステップS23では、第1セラミックシート201及び第2セラミックシート202における内部電極パターン212p,213pのY軸方向周囲に、サイドマージン部37に対応するサイドマージンパターン237pを形成する。
【0118】
図17A,Bに示すように、サイドマージンパターン237pは、切断線Lxを含むX軸方向に延びる帯状の領域に形成される。つまり、
図17Aに示すように、第1セラミックシート201におけるサイドマージンパターン237pは、Y軸方向に隣接する内部電極パターン212p間の間隙を埋めるように形成される。
図17Bに示すように、第2セラミックシート202におけるサイドマージンパターン237pは、Y軸方向に隣接する内部電極パターン213p間の間隙を埋めるように形成される。
【0119】
サイドマージンパターン237pは、主成分としてチタン酸バリウム(BaTiO3)等の誘電体セラミックスを含み、副成分としてホウ素とケイ素とを含む。本実施形態において、サイドマージンパターン237pは、エンドマージンパターン218pよりも低い濃度のホウ素を含む。また、サイドマージンパターン237pは、エンドマージンパターン218pよりも高い濃度のケイ素を含んでいてもよい。
【0120】
なお、ステップS22とステップS23は、順番を入れ替えて行ってもよい。すなわち、ステップS23を先に行い、ステップS22をその後に行ってもよい。
【0121】
(ステップS24:積層)
ステップS24では、ステップS21,S22で準備したセラミックシート201,202及び第3セラミックシート203を、
図18で示すように積層及び圧着することにより積層シート204を作製する。なお、セラミックシート201,202,203の積層数は図示の例に限定されない。
【0122】
(ステップS25:切断)
ステップS25では、ステップS24で得られた積層シート204を切断線Lx,Ly1,Ly2に沿って切断することにより、未焼成のセラミック素体231を作製する。
【0123】
図19は、セラミック素体231の模式的な断面図であり、
図19Aは
図9Aに対応する切断面を示す断面図、
図19Bは
図9Bに対応する切断面を示す断面図である。なお、
図19において、内部電極212,213及びセラミック層220の層数は、説明のため、
図14及び15よりも少なく示している。また、
図19において内部電極212,213のハッチングは省略している。
【0124】
これらの図に示すように、セラミック素体231は、X軸方向に向いた第1端面231a及び第2端面231bと、内部電極212,213がセラミック層220を挟んで交互に積層された未焼成の容量形成部216と、第1端面231aと第2内部電極213との間及び第2端面231bと第1内部電極212との間にそれぞれ設けられた未焼成のエンドマージン部218と、容量形成部216をY軸方向から覆う未焼成のサイドマージン部237と、を有する。
【0125】
図19Aに示すように、エンドマージン部218は、セラミックシート201,202が切断されたセラミック層220及びエンドマージンパターン218pにより形成される。サイドマージン部237は、セラミックシート201,202が切断されたセラミック層220及びサイドマージンパターン237pにより形成される。
【0126】
エンドマージンパターン218pは、第1実施形態と同様に、セラミックシート201,202及びサイドマージンパターン237pよりも高いホウ素濃度を有する。例えば、エンドマージンパターン218pは、エンドマージンパターン218pのセラミック材料のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、0.15atm%以上0.30atm%以下のホウ素濃度を有する。一方、セラミックシート101,102(セラミック層220)及びサイドマージン部237は、これらのセラミック材料のBサイトの元素濃度を100atm%としたときに、0.15atm%未満のホウ素濃度を有する。
【0127】
これにより、エンドマージンパターン218pとセラミックシート201,202(セラミック層220)からなるエンドマージン部218は、全体として、サイドマージンパターン237pとセラミックシート201,202(セラミック層220)からなるサイドマージン部237よりも高い濃度のホウ素を含む。
【0128】
さらに、サイドマージンパターン237pは、ケイ素を含んでいてもよい。セラミックシート201,202(セラミック層220)及びエンドマージンパターン218pもケイ素を含んでいてもよいが、例えば、サイドマージンパターン237pは、セラミックシート201,202(セラミック層220)及びエンドマージンパターン218pよりも高い濃度のケイ素を含んでいてもよい。
【0129】
(ステップS26:外部電極形成)
ステップS26では、第1実施形態のステップS16と同様に、ステップS25で得られたセラミック素体231の端面231a,231bに未焼成の外部電極14,15を形成する。
【0130】
(ステップS27:焼成)
ステップS27では、ステップS26で得られた、未焼成の外部電極14,15が形成された未焼成のセラミック素体231を焼成することにより、
図14及び15に示す積層セラミックコンデンサ30のセラミック素体31を作製する。つまり、ステップS27によって、容量形成部216が容量形成部16になり、サイドマージン部237がサイドマージン部37になり、エンドマージン部218がエンドマージン部18になり、カバー部239がカバー部39になる。焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0131】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、エンドマージン部218がホウ素を含むことで、エンドマージン部218に対する外部電極14,15及び内部電極212,213の収縮を抑制する。これにより、第1内部電極12と第1外部電極14、並びに第2内部電極13と第2外部電極15の接続を確保することができる。
【0132】
一方で、サイドマージン部237がエンドマージン部218よりも低い濃度のホウ素を含むことで、セラミック粒子の過度な粒成長が抑制され、内部電極12,13の微細構造を維持することができる。これにより、内部電極12,13の絶縁不良を抑制することができる。また、サイドマージン部237がケイ素を含むことで、ケイ素がホウ素と協働して焼結温度を下げる作用を有する。これにより、サイドマージン部37も内部電極12,13の収縮に追従して収縮しやすくなり、サイドマージン部37と容量形成部16との間のクラック等の構造欠陥を抑制して、これに伴う絶縁不良を抑制することができる。
【0133】
<第3実施形態>
第2実施形態では、積層セラミックコンデンサ30の製造方法のステップS22及びステップS23で、エンドマージンパターン218p及びサイドマージンパターン237pの双方を形成した。しかし、以下の第3実施形態に示すように、サイドマージンパターンを形成せずに、エンドマージンパターン218pのみ形成してもよい。
【0134】
図20は、第3実施形態の未焼成のセラミック素体331の模式的な断面図であり、
図20Aは
図9Aに対応する切断面を示す断面図、
図20Bは
図9Bに対応する切断面を示す断面図である。なお、
図20において、内部電極312,313及びセラミック層320の層数は、説明のため、
図14及び15よりも少なく示している。また、
図20において内部電極312,313のハッチングは省略している。
【0135】
これらの図に示すように、セラミック素体331は、X軸方向に向いた第1端面331a及び第2端面331bと、内部電極312,313がセラミック層320を挟んで交互に積層された未焼成の容量形成部316と、第1端面331aと第2内部電極313との間及び第2端面331bと第1内部電極312との間にそれぞれ設けられた未焼成のエンドマージン部318と、容量形成部316をY軸方向から覆う未焼成のサイドマージン部337と、容量形成部316をZ軸方向から覆う未焼成のカバー部339と、を有する。
【0136】
図20Aに示すように、エンドマージン部318は、セラミックシートが切断されたセラミック層320及びエンドマージンパターン318pにより形成される。サイドマージン部337は、本実施形態において、セラミックシートが切断されたセラミック層320により形成される。
【0137】
本実施形態のサイドマージン部337は、容量形成部316及びエンドマージン部318よりも積層数が少なくなる。このため、サイドマージン部337は、Z軸方向から圧着されることにより、Z軸方向の厚みが容量形成部316及びエンドマージン部318よりも薄くなる。
【0138】
エンドマージンパターン318pは、第1実施形態と同様に、セラミックシート(セラミック層320)よりも高いホウ素濃度を有する。これにより、エンドマージンパターン318pとセラミック層320からなるエンドマージン部318は、全体として、セラミック層320のみからなるサイドマージン部337よりも高い濃度のホウ素を含む。
【0139】
さらに、セラミックシート(セラミック層320)は、ケイ素を含んでいてもよい。エンドマージンパターン318pもケイ素を含んでいてもよいが、例えば、セラミックシート(セラミック層320)はエンドマージンパターン118pよりも高い濃度のケイ素を含んでいてもよい。これにより、サイドマージン部337は、全体として、エンドマージンパターン318p及びセラミックシートからなるエンドマージン部318よりも高い濃度のケイ素を含んでいてもよい。
【0140】
このようなセラミック素体331は、端面331a,331bに外部電極14,15が形成された後に焼成される。これにより、
図14及び15に示すような構成の積層セラミックコンデンサ30が作製される。
【0141】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、エンドマージン部318がホウ素を含むことで、エンドマージン部318に対する外部電極14,15及び内部電極312,313の収縮を抑制する。これにより、第1内部電極12と第1外部電極14、並びに第2内部電極13と第2外部電極15の接続を確保することができる。
【0142】
また、サイドマージン部337がエンドマージン部318よりも低い濃度のホウ素を含むことで、セラミック粒子の過度な粒成長が抑制され、内部電極12,13の微細構造を維持することができる。これにより、内部電極12,13の絶縁不良を抑制することができる。また、サイドマージン部337がケイ素を含むことで、ケイ素がホウ素と協働して焼結温度を下げる作用を有する。これにより、サイドマージン部37も内部電極12,13の収縮に追従して収縮しやすくなり、サイドマージン部37と容量形成部16との間のクラック等の構造欠陥を抑制して、これに伴う絶縁不良を抑制することができる。
【0143】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば本発明の実施形態は各実施形態を組み合わせた実施形態とすることができる。
【0144】
また、上記各実施形態では積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサ10及び30について説明したが、本発明は一対の外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0145】
10,30…積層セラミックコンデンサ(積層セラミック電子部品)
11,31…セラミック素体
111,231,331…未焼成のセラミック素体
11a,31a,111a,231a,331a…第1端面
11b,31b,111b,231b,331b…第2端面
12,13,112,113,212,213,312,313…内部電極
14,15…外部電極
16,116,216,316…容量形成部(機能部)
17,37,117,237,337…サイドマージン部
18,118,218,318…エンドマージン部
20,120,220,320…セラミック層