(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10D 30/66 20250101AFI20250107BHJP
H10D 62/10 20250101ALI20250107BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20250107BHJP
【FI】
H01L29/78 652B
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652H
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 658E
H01L29/78 658A
(21)【出願番号】P 2021045826
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 将伸
(72)【発明者】
【氏名】畑 謙佑
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-064658(JP,A)
【文献】特開2020-141130(JP,A)
【文献】特開2018-022851(JP,A)
【文献】特開2010-021175(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175157(WO,A1)
【文献】特開2014-236120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/06
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素半導体基板と、
前記炭化珪素半導体基板のおもて面に設けられた、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に設けられた第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられ、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられた層間絶縁膜と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に設けられた第1電極と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層より薄
く、前記第3半導体層に向かって不純物濃度が徐々に減少することを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
第1導電型の炭化珪素半導体基板と、
前記炭化珪素半導体基板のおもて面に設けられた、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に設けられた第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられ、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられた層間絶縁膜と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に設けられた第1電極と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層より薄く、おもて面側の高濃度部と、前記第3半導体層側の低濃度部と、からなることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第1半導体領域の最大不純物濃度は、1.0×10
18/cm
3以上5.0×10
19/cm
3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第3半導体層の不純物濃度は、1.0×10
16/cm
3以上1.0×10
18/cm
3以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程と、
前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層にエピタキシャル成長により、第1導電型の第3半導体層を形成する第3工程と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第1導電型の不純物を注入することにより、第1導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第4工程と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第2導電型の不純物を注入することにより、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第5工程と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第6工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第7工程と、
前記ゲート電極上に層間絶縁膜を形成する第8工程と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に第1電極を形成する第9工程と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極を形成する第10工程と、
を含み、
前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層よりも薄く、前記第3半導体層に向かって不純物濃度が徐々に減少するように形成することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程と、
前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層にエピタキシャル成長により、第1導電型の第3半導体層を形成する第3工程と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第1導電型の不純物を注入することにより、第1導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第4工程と、
前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第2導電型の不純物を注入することにより、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第5工程と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第6工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第7工程と、
前記ゲート電極上に層間絶縁膜を形成する第8工程と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に第1電極を形成する第9工程と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極を形成する第10工程と、
を含み、
前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層よりも薄くなるように形成
し、
前記第4工程では、前記第1半導体領域を、おもて面側の高濃度部と、前記第3半導体層側の低濃度部と、の2層構造となるように形成することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第4工程では、前記第1導電型の不純物として、リンまたは窒素を注入することを特徴とする請求項
5または6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第4工程では、前記第1半導体領域の最大不純物濃度が1.0×10
18/cm
3以上5.0×10
19/cm
3以下となるように形成することを特徴とする請求項
5または6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第3工程では、前記第3半導体層の不純物濃度が1.0×10
16/cm
3以上1.0×10
18/cm
3以下となるように形成することを特徴とする請求項
5または6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大電流が流せるようにチャネル密度を高くした構造として、トレンチゲート構造を有する炭化珪素半導体装置がある。従来の炭化珪素半導体装置の構造について、トレンチ型MOSFETを例に説明する。
図13は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図13では、オン時に電流の流れる活性領域の構造を示す。
図13に示すように、トレンチ型MOSFET170では、n
+型炭化珪素基板101のおもて面に第1n型ドリフト層であるn
-型炭化珪素エピタキシャル層102が堆積される。
【0003】
第1n-型炭化珪素エピタキシャル層102上にp型ベース層106、n+型ソース領域108とが順に形成され、n+型ソース領域108の表面からp型ベース領域106を貫通して第1n-型炭化珪素エピタキシャル層102に達するように、トレンチ110、ゲート絶縁膜111、ゲート電極112からなるトレンチゲートが形成された構造とされる。具体的には、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層102の上にp型ベース領域106をエピタキシャル成長させたのち、p型ベース領域106に対してn型不純物をイオン注入で打ち返すことでp型ベース領域106の一部をn型に反転させ、n+型ソース領域108を形成している。
【0004】
なお、
図13において、符号103、109、113、114および115は、それぞれ、第1p
+型領域、p
++型コンタクト領域、層間絶縁膜、ソース電極パッドおよびドレイン電極である。
【0005】
ここで、イオン注入の深さは5%未満のばらつきであるのに対し、エピタキシャル成長層の厚さは10%を超えるばらつきを有する。上記構成においては、表面までエピタキシャル成長で形成しているため、p型エピタキシャル層の厚さが厚く、p型ベース領域106の厚さにばらつきを有する。このばらつきがそのままチャネル長(p型ベース領域106の厚さ)ばらつきに繋がってしまい、その結果、しきい値電圧がばらつくという問題がある。
【0006】
この問題を解決するための炭化珪素半導体装置が提案されている。
図14は、従来の炭化珪素半導体装置の他の構造を示す断面図である。
図14に示すトレンチ型MOSFET171では、厚さの薄いp型エピタキシャル成長を行うことで、p型ベース領域106を形成し、その上のn型ソース領域107を低不純物濃度(1×10
17/cm
3程度)のn型エピタキシャル成長で形成し、n型ソース領域107の上にn
+型ソース領域108を高不純物濃度(5×10
18/cm
3以上)のn
+型エピタキシャル成長で形成している(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、p型ベース領域106は、厚さの薄いp型エピタキシャル成長で形成されるため、p型ベース領域106の厚さのばらつきは小さくなる。チャネル長は厚さの薄い(0.4μm程度)p型エピタキシャル成長層で決められるため、
図13の構成より、チャネル長のばらつきを減らすことができ、しきい値電圧のばらつきを抑えることができる。
【0007】
なお、
図14において、符号104、105および109aは、それぞれ、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層、第2p
+型領域およびp
+型コンタクト領域である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、
図14に示す従来の構造では、n型ソース領域107およびn
+型ソース領域108をエピタキシャル成長で形成しているため、n型不純物濃度のばらつきが50%程度と大きく、n型ソース領域107およびn
+型ソース領域108のコンタクト抵抗のばらつき、ひいては、オン抵抗ばらつきを増大させてしまうという課題がある。また、5×10
18/cm
3以上の高不純物濃度のエピタキシャル成長層を評価する方法がないという課題がある。さらに、高不純物濃度のエピタキシャル成長を行った際の履歴により、次バッチに想定以上のドーパントが取り込まれてしまうという課題がある。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、しきい値電圧のばらつきを増大させることなく、オン抵抗のばらつきを抑えることができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられる。前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第2半導体層が設けられる。前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第3半導体層が設けられる。前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第1半導体領域が設けられる。前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域が設けられる。前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチが設けられる。前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられる。前記ゲート電極上に層間絶縁膜が設けられる。前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に第1電極が設けられる。前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極が設けられる。前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層より薄く、前記第3半導体層に向かって不純物濃度が徐々に減少する。
【0012】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられる。前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第2半導体層が設けられる。前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第3半導体層が設けられる。前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第1半導体領域が設けられる。前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域が設けられる。前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチが設けられる。前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられる。前記ゲート電極上に層間絶縁膜が設けられる。前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に第1電極が設けられる。前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極が設けられる。前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層より薄く、おもて面側の高濃度部と、前記第3半導体層側の低濃度部と、からなる。
【0013】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1半導体領域の最大不純物濃度は、1.0×1018/cm3以上5.0×1019/cm3以下であることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第3半導体層の不純物濃度は、1.0×1016/cm3以上1.0×1018/cm3以下であることを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程を行う。次に、前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層にエピタキシャル成長により、第1導電型の第3半導体層を形成する第3工程を行う。次に、前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第1導電型の不純物を注入することにより、第1導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第4工程を行う。次に、前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第2導電型の不純物を注入することにより、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第5工程を行う。次に、前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第6工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第7工程を行う。次に、前記ゲート電極上に層間絶縁膜を形成する第8工程を行う。次に、前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に第1電極を形成する第9工程を行う。次に、前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極を形成する第10工程を行う。前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層よりも薄く、前記第3半導体層に向かって不純物濃度が徐々に減少するように形成する。上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程を行う。次に、前記第2半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層にエピタキシャル成長により、第1導電型の第3半導体層を形成する第3工程を行う。次に、前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第1導電型の不純物を注入することにより、第1導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第4工程を行う。次に、前記第3半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に第2導電型の不純物を注入することにより、前記第3半導体層を貫通する、前記第2半導体層よりも高不純物濃度の第2導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第5工程を行う。次に、前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を貫通し、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第6工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第7工程を行う。次に、前記ゲート電極上に層間絶縁膜を形成する第8工程を行う。次に、前記第2半導体層および前記第1半導体領域の表面に第1電極を形成する第9工程を行う。次に、前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極を形成する第10工程を行う。前記第1半導体領域は、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれる部分の前記第3半導体層よりも薄くなるように形成し、前記第4工程では、前記第1半導体領域を、おもて面側の高濃度部と、前記第3半導体層側の低濃度部と、の2層構造となるように形成する。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第4工程では、前記第1導電型の不純物として、リンまたは窒素を注入することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第4工程では、前記第1半導体領域の最大不純物濃度が1.0×1018/cm3以上5.0×1019/cm3以下となるように形成することを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、前記第3半導体層の不純物濃度が1.0×1016/cm3以上1.0×1018/cm3以下となるように形成することを特徴とする。
【0019】
上述した発明によれば、n型ソース領域(第3半導体層)は、エピタキシャル成長により形成され、n+型ソース領域(第1半導体領域)は、イオン注入により形成される。このため、n+型ソース領域は、n型ソース領域に向かってn型の不純物濃度が徐々に減少するプロファイルを有する。チャネル層は膜厚の薄いエピタキシャル成長で形成したp型ベース層(第2半導体層)で決定されるため、チャネル長のばらつきは低く、n+型ソース領域をイオン注入より形成するため、n+型ソース領域の不純物濃度のばらつきを小さくでき、コンタクト抵抗のばらつきを抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、しきい値電圧がばらつきを増大させることなく、オン抵抗ばらつきを抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】従来の炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度プロファイルを示すグラフである(その1)。
【
図3】従来の炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度プロファイルを示すグラフである(その2)。
【
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その1)。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その2)。
【
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その3)。
【
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その4)。
【
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その5)。
【
図10】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図11】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図12】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置と従来の炭化珪素半導体装置とにおいて、コンタクト抵抗を測定した結果を示すグラフである。
【
図13】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図14】従来の炭化珪素半導体装置の他の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。そして、同じまたは同等との記載は製造におけるばらつきを考慮して5%以内まで含むとするのがよい。
【0023】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態1においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製(製造)された炭化珪素半導体装置について、トレンチ型MOSFET70を例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【0024】
図1に示すように、トレンチ型MOSFET70は、半導体基板のおもて面(後述するp型ベース層6側の面)側にトレンチゲート構造のMOSゲートを備えている。炭化珪素半導体基体は、炭化珪素からなるn
+型炭化珪素基板(第1導電型の炭化珪素半導体基板)1上に第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2を順にエピタキシャル成長させてなる。また、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層4を第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2上にエピタキシャル成長させてもよい。以下、n
+型炭化珪素基板1と、p型ベース層6と、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2と、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層4とを併せて炭化珪素半導体基体(炭化珪素からなる半導体基板)とする。
【0025】
トレンチゲート構造のMOSゲートは、p型ベース層(第2導電型の第2半導体層)6、n型ソース領域(第1導電型の第3半導体層)7、n+型ソース領域(第1導電型の第1半導体領域)8、p++型コンタクト領域(第2導電型の第2半導体領域)9、トレンチ10、ゲート絶縁膜11およびゲート電極12で構成される。p型ベース層6は、例えば、膜厚が0.4μm以上0.6μm以下で、不純物濃度は5.0×1016/cm3以上2.0×1018/cm3以下である。好ましくは、p型ベース層6は1×1017/cm3以上5×1017/cm3以下の不純物濃度である。
【0026】
具体的には、トレンチ10は、半導体基板のおもて面から深さ方向yにp型ベース層6を貫通して、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4(第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4が設けられていない場合は、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2、以下(2)と称する)に達する。深さ方向yとは、半導体基板のおもて面から裏面へ向かう方向である。トレンチ10は、例えば、ストライプ状に配置されている。
【0027】
トレンチ10の内部には、トレンチ10の内壁に沿ってゲート絶縁膜11が設けられ、ゲート絶縁膜11上にトレンチ10の内部に埋め込むようにゲート電極12が設けられている。1つのトレンチ10内のゲート電極12と、当該ゲート電極12を挟んで隣り合うメサ領域(隣り合うトレンチ10間の領域)と、でメイン半導体素子の1つの単位セルが構成される。
図1では、1つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0028】
第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2のソース側(後述するソース電極16側)の表面層に、p型ベース層6に接するようにn型領域(以下、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層とする)4が設けられていてもよい。第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(Current Spreading Layer:CSL)である。この第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4は、例えば、トレンチ10の内壁を覆うように、基板おもて面(半導体基板のおもて面)に平行な方向に一様に設けられている。第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4は、p型ベース層6との界面から、トレンチ10の底面よりドレイン側(後述するドレイン電極15側)の位置まで設けられている。
【0029】
第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面層には、第1p+型領域3が選択的に設けられていてもよい。第1p+型領域3は、隣り合うトレンチ10の間に配置されている。第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4の内部には、第2p+型領域5が選択的に設けられていてもよい。第2p+型領域5は、第1p+型領域3と深さ方向に対向する位置に、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4を貫通し、底面が第1p+型領域3と接し、上面はp型ベース層6に接している。この第2p+型領域5を通じて、p型ベース層6と第1p+型領域3とが電気的に接続されている。
【0030】
第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4および第2p+型領域5の表面には、p型ベース領域6が設けられている。p型ベース領域6は、イオン注入されていないp型のエピタキシャル層である。p型ベース領域6はn型のエピタキシャル層にp型不純物をイオン注入された構成であってもよい。p型ベース層6の表面には、n型ソース領域7が設けられている。n型ソース領域7は、イオン注入されていないn型のエピタキシャル層である。n型ソース領域7の内部には、n+型ソース領域8およびp++型コンタクト領域9が選択的に設けられている。n+型ソース領域8は、n型ソース領域7のn+型炭化珪素基板1と反対側の表面層に設けられている。n型ソース領域7およびn+型ソース領域8は、トレンチ10の側壁のゲート絶縁膜11に接し、トレンチ10の側壁のゲート絶縁膜11を介してゲート電極10に対向する。n型ソース領域7の内部には、n型ソース領域7を貫通してp型ベース領域6に達するp++型コンタクト領域9が設けられている。p++型コンタクト領域9は、n型ソース領域7およびn+型ソース領域8と接する。p++型コンタクト領域9の不純物濃度は、p型ベース領域6の不純物濃度よりも高い。
【0031】
n型ソース領域7は、n+型ソース領域8よりドレイン側に設けられ、n型ソース領域7とn+型ソース領域8は互いに接する。n型ソース領域7とn+型ソース領域8の幅は、同程度になっている。n+型ソース領域8のある部分において、n+型ソース領域8の厚さは、n+型ソース領域8とp型ベース領域6とに挟まれた部分のn型ソース領域7の厚さよりも薄い。
【0032】
図2および
図3は、従来の炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
図2は、
図13に示す従来の炭化珪素半導体装置の場合であり、
図3は、
図14に示す従来の炭化珪素半導体装置の場合を示す。
図2および
図3において、横軸は、炭化珪素半導体基体の表面からの深さを示し、縦軸は、n型またはp型の不純物濃度であり、n型の不純物濃度を実線で、p型の不純物濃度を破線で示す。
【0033】
図2において、深さA2までがn
+型ソース領域108であり、深さA3までがp型ベース層106である。
図13に示す従来の炭化珪素半導体装置では、n
+型ソース領域108を複数回のイオン注入で形成しているため、深さA1までn型の不純物濃度がほぼ一定であり、深さA1から深さA2までにn型の不純物濃度は急激に減少している。また、p型ベース層106は、表面までエピタキシャル成長により形成され、p型の不純物濃度がほぼ一定である。
【0034】
図3において、深さB1までがn
+型ソース領域108であり、深さB2までがn型ソース領域107である。深さB2と深さB3との間はノンドープ層であり、深さB3から深さB4までがp型ベース層106である。
図14に示す従来の炭化珪素半導体装置では、n
+型ソース領域108およびn型ソース領域109をエピタキシャル成長により形成しているため、n型の不純物濃度がほぼ一定である。また、p型ベース層106は、エピタキシャル成長により形成されるため、p型の不純物濃度がほぼ一定である。
【0035】
一方、
図4は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度プロファイルを示すグラフである。
図4において、横軸は、炭化珪素半導体基体の表面からの深さを示し、縦軸は、n型またはp型の不純物濃度であり、n型の不純物濃度を実線で、p型の不純物濃度を破線で示す。
【0036】
図4において、深さC0はn型不純物濃度が最大となる点であり、C1はn型不純物濃度がC0に対して半分となる点である。またC2はn型ソース領域7とp型ベース層6との境界であり、C3はp型ベース層6と第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層4との境界である。炭化珪素半導体基体の表面から深さC1までがn
+型ソース領域8であり、深さC1から深さC2までがn型ソース領域7であり、深さC2から深さC3までがp型ベース層6である。実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置では、後述するように、n型ソース領域7は、エピタキシャル成長により形成され、n
+型ソース領域8は、エピタキシャル成長により形成された層にn型の不純物をイオン注入することにより形成される。このため、n
+型ソース領域8は、深さC0から、n型ソース領域7に向かってn型の不純物濃度がガウス分布の形で徐々に減少するプロファイルを有する。n型ソース領域7は、n型の不純物濃度がほぼ一定であり、p型ベース層6は、p型の不純物濃度がほぼ一定である。
【0037】
また、n+型ソース領域8の厚さw1は、n型ソース領域7の厚さw2以下である(w1≦w2)ことが好ましい。これは、n+型ソース領域8を形成する際のイオン注入によるダメージは、n+型ソース領域8の厚さw1程度の深さまで達するため、w1≦w2とすることで、n型ソース領域7がダメージを吸収でき、p型ベース層6にダメージが到達しないようにすることができる。すなわち、n+型ソース領域8と深さ方向に対向するp型ベース層6には、イオン注入に起因するダメージがない。これにより、イオン注入によるダメージは、チャネルに影響を与えず、特性が劣化することがない。このため、炭化珪素半導体装置において、しきい値電圧のばらつきを抑えることができる。例えば、n+型ソース領域8とn型ソース領域7とを合わせた厚さ(w1+w2)は、0.4μm以上0.6μm以下であり、n+型ソース領域8の厚さw1は、w1≦w2を満たし、0.05μm以上0.3μm以下である。
【0038】
また、n+型ソース領域8の最大不純物濃度は、1.0×1018/cm3以上5.0×1019/cm3以下であり、より好ましくは、1.0×1018/cm3以上3.0×1019/cm3以下である。エピタキシャル層であるn型ソース領域7の不純物濃度は、1.0×1016/cm3以上1.0×1018/cm3以下であり、より好ましくは、0.5×1017/cm3以上1.5×1017/cm3以下である。n型ソース領域7およびn+型ソース領域8をこのような不純物濃度とすることで、オン抵抗をあげることなくばらつきを抑えることができる。
【0039】
また、実施の形態では、p++型コンタクト領域9の不純物濃度はp型ベース領域6の不純物濃度よりも高く、1.0×1019/cm3以上5.0×1020/cm3以下であることが好ましい。また、p++型コンタクト領域9を1段で設けることが好ましい。これにより、p++型コンタクト領域9のドレイン側の方まで不純物濃度が高くなり、アバランシェ耐量を向上させることができる。また、p++型コンタクト領域9をソース領域と同様に表面の不純物濃度を高く形成して、2段とすることも可能である。この場合、表面だけ不純物濃度を高くすればよいため、形成が容易になり、製造のスループットが向上する。
【0040】
層間絶縁膜13は、ゲート電極12を覆うように、半導体基板のおもて面全面に設けられている。層間絶縁膜13には、層間絶縁膜13を深さ方向yに貫通して基板おもて面に達するコンタクトホールが開口されている。
【0041】
ソース電極(第1電極)16は、層間絶縁膜13に開口されたコンタクトホール内において半導体基板(n+型ソース領域8)にオーミック接触し、かつ層間絶縁膜13によりゲート電極12と電気的に絶縁されている。ソース電極16は、n+型ソース領域8およびp++型コンタクト領域9とオーミック接触する。また、ソース電極16と層間絶縁膜13との間に、例えばソース電極16からゲート電極12側への金属原子の拡散を防止するバリアメタル(不図示)が設けられていてもよい。ソース電極16上にソース電極パッド14が設けられている。半導体基板の裏面に、ドレイン電極となるドレイン電極(第2電極)15が設けられている。ドレイン電極15上にドレイン電極パッド(不図示)が設けられている。ソース電極16および層間絶縁膜13とソース電極パッド14との間にもバリアメタル(不図示)が設けられてよい。
【0042】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図5~
図9は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【0043】
まず、n型の炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn+型炭化珪素基板1の第1主面(おもて面)上に、n型の不純物、例えば窒素(N)原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2をエピタキシャル成長させる。
【0044】
次に、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有する図示しないイオン注入用マスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によって、p型の不純物、例えばアルミニウム(Al)原子を、イオン注入することで、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面層に深さ0.3μm以上1.0μm以下の第1p
+型領域3を例えば2.0×10
17/cm
3以上2.0×10
18/cm
3以下の不純物濃度で形成する。ここまでの状態が
図5に示されている。
【0045】
次に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした厚さ0.3μm以上1.0μm以下の第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4を、例えば1.0×1016/cm3以上5.0×1017/cm3以下の不純物濃度で形成する。
【0046】
次に、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層4の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有する図示しないイオン注入用マスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によって、p型の不純物、例えばアルミニウム原子を、イオン注入することで、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層4の表面層に第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層4を貫通する深さの第2p
+型領域5を、例えば2.0×10
17/cm
3以上2.0×10
18/cm
3以下の不純物濃度で形成する。ここまでの状態が
図6に示されている。
【0047】
次に、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4の表面上に、p型ベース層6を、例えば5.0×1016/cm3以上2.0×1018/cm3以下の不純物濃度でエピタキシャル成長により形成する。p型ベース層6をエピタキシャル成長により形成した後、p型ベース層6にさらにアルミニウム等のp型の不純物を、p型ベース層6のチャネル領域にイオン注入を行ってもよい。また、p型ベース層6は、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4をエピタキシャル成長させた後、アルミニウム等のp型の不純物、イオン注入することで形成してもよい。
【0048】
次に、p型ベース層6の表面上に、厚さ0.5μm程度のn型ソース領域7を、例えば1.0×1017/cm3の不純物濃度でエピタキシャル成長により形成する。n型ソース領域7をエピタキシャル成長により形成した後、さらにリン(P)または窒素等のn型の不純物をn型ソース領域7の表面にイオン注入することで、n型ソース領域7の表面層にn+型ソース領域8を例えば3.0×1019/cm3の不純物濃度で形成する。この時、n+型ソース領域8の厚さは、n+型ソース領域8とp型ベース領域6とに挟まれた部分のn型ソース領域7の厚さよりも薄くなるように形成する。これによりイオン注入に起因するダメージがp型ベース層6の中に残らない。また、n+型ソース領域8は、n型ソース領域7上に所定の開口部を有するイオン注入用マスクを、例えば酸化膜で形成し、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によって、選択的に形成することもできる。
【0049】
次に、所定の開口部を有する図示しないイオン注入用マスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によって、p型の不純物、例えばアルミニウム原子を、イオン注入することで、n型ソース領域7およびn
+型ソース領域8の一部にp
++型コンタクト領域9を例えば1.0×10
20/cm
3の不純物濃度となるように形成する。p
++型コンタクト領域9の不純物濃度はp型ベース領域6の不純物濃度よりも高く、1.0×10
19/cm
3以上5.0×10
20/cm
3以下となるように形成することが好ましい。p
++型コンタクト領域9は、底面がp型ベース層6に到達するように形成する。ここまでの状態が
図7に示されている。
【0050】
このように、実施の形態では、n+型ソース領域8のイオン注入に起因するダメージがp型ベース層6の中に残らないため、しきい値電圧のばらつきを低減することができる。また、チャネル層を膜厚の薄いエピタキシャル成長で形成したp型ベース層6で決定されるため、チャネル長のばらつきは低いままになっている。また、イオン注入による不純物濃度のばらつきは3%程度と小さいため、n+型ソース領域8の不純物濃度のばらつきを小さくでき、コンタクト抵抗のばらつきを抑制でき、できばえの評価も不要となる。また、高不純物濃度のエピタキシャル成長がないため、エピタキシャル成長装置に影響を与えることがない。
【0051】
次に、n+型ソース領域8の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってn+型ソース領域8、n型ソース領域7およびp型ベース層6を貫通し、第2n-型炭化珪素エピタキシャル層4に達するトレンチ10を形成する。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。
【0052】
次に、1750℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、第1p
+型領域3、第2p
+型領域5、n
+型ソース領域8およびp
++型コンタクト領域9の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。ここまでの状態が
図8に示されている。
【0053】
次に、n+型ソース領域8およびp++型コンタクト領域9の表面と、トレンチ10の底面および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜11を形成する。このゲート絶縁膜11は、酸素雰囲気中において1300℃程度の温度の熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜11は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0054】
次に、ゲート絶縁膜11上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン膜を設ける。この多結晶シリコン膜はトレンチ10内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン膜をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ10内部に残すことによって、ゲート電極12を形成する。ゲート電極12には、p型の多結晶シリコン膜を用いてもよい。
【0055】
次に、ゲート絶縁膜11およびゲート電極12を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜13を形成する。層間絶縁膜13およびゲート絶縁膜11をフォトリソグラフィによりパターニングしn
+型ソース領域8およびp
++型コンタクト領域9を露出させたコンタクトホールを形成する。ここまでの状態が
図9に示されている。
【0056】
次に、層間絶縁膜13に設けられたコンタクトホール内および層間絶縁膜13上にソース電極16となる導電性の膜を形成する。導電性の膜は、例えばニッケル(Ni)膜である。その後、例えば700℃程度の温度で熱処理を行って導電性の膜と炭化珪素を選択的に反応させた後、未反応部分の導電性の膜を選択的に除去してコンタクトホール内にのみソース電極16を残し、n+型ソース領域8およびp++型コンタクト領域9とソース電極16とを接触させる。
【0057】
次に、例えばスパッタ法によって、炭化珪素半導体基体のおもて面のソース電極16上および層間絶縁膜13上に、ソース電極パッド14となる金属層を成膜する。このとき、チタンまたは窒化チタンからなるバリアメタル(不図示)を先に形成してもよい。金属層の層間絶縁膜13上の厚さは、例えば、5.5μmであってもよい。金属層は、例えば、1%の割合でシリコンを含んだアルミニウム(Al-Si)で形成してもよい。次に、金属膜を選択的に除去して、ソース電極パッド14を形成する。
【0058】
次に、n+型炭化珪素基板1の第2主面(裏面)上に、ドレイン電極15となる導電性の膜、例えばモリブデン膜とニッケル膜を、例えばスパッタ法により続けて成膜する。その後、レーザーアニールなどの熱処理を行って、n+型炭化珪素基板1と導電性の膜を反応させてオーミック接合することでドレイン電極を形成する。
【0059】
次に、ドレイン電極15の表面に、ドレイン電極パッド(不図示)として、チタン、ニッケルおよび金をこの順で成膜する。このようにして、
図1に示すトレンチ型MOSFET70が完成する。
【0060】
ここで、
図10は、
図1に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のA-A’部分の不純物濃度の測定結果を示すグラフである。
図10において、横軸は、炭化珪素半導体基体の表面からの深さを示し、単位はμmである。縦軸は、n型またはp型の不純物濃度を示し、単位はcm
-3である。
【0061】
図10において、深さD1はn型不純物濃度が最大となる点であり、D2はn型不純物濃度がD1に対して1/2となる点である。またD3はn型ソース領域7とp型ベース層6との境界である。炭化珪素半導体基体の表面から深さD2(0.2μm程度)までがn
+型ソース領域8であり、深さD3(0.5μm程度)までがn型ソース領域7であり、深さD3以降がp型ベース層6である。
図10に示すように、n
+型ソース領域8は、深さD1(0.17μm程度)から、n型ソース領域7に向かってn型の不純物濃度が徐々に減少するプロファイルを有する。例えば、深さD1から0.1μm程度の間に、不純物濃度は1.0×10
19/cm
3から1.0×10
17/cm
3にガウス分布の傾きで減少する。n型ソース領域7は、n型の不純物濃度がほぼ一定であり、p型ベース層6は、p型の不純物濃度がほぼ一定である。
【0062】
図11は、n
+型ソース領域8を、表面側の高濃度部8aとn型ソース領域7側の低濃度部8bとの2層とした例である。深さE1は高濃度部8aにおいてn型不純物濃度が最大となる点であり、E2はn型不純物濃度がE1に対して1/2となる点である。深さE3は低濃度部8bにおいてn型不純物濃度が極大となる点であり、E4はn型不純物濃度がE3に対して1/2となる点である。またE5はn型ソース領域7とp型ベース層6との境界である。炭化珪素半導体基体の表面から深さE2までが高濃度部8aであり、深さE2から深さE4までが低濃度部8bである。深さE4から深さE5(0.5μm程度)までがn型ソース領域7であり、深さE5以降がp型ベース層6である。
図11に示すように、高濃度部8aの深さE2は0.1μm以下となっている。また、低濃度部8bの深さE4は0.21μm程度であり、高濃度部よりも厚くなっている。高濃度部8aにおけるE1の不純物濃度は5.0×10
18/cm
3以上5.0×10
19/cm
3以下であってよく、低濃度部8bにおけるE3の不純物濃度は1.0×10
18/cm
3以上5.0×10
18/cm
3以下であってよい。また、n
+型ソース領域8は、深さE3(0.16μm程度)から、n型ソース領域7に向かってn型の不純物濃度が徐々に減少するプロファイルを有する。例えば、深さE3から0.1μm程度の間に、不純物濃度は1.0×10
18/cm
3から1.0×10
17/cm
3にガウス分布の傾きで減少する。n型ソース領域7は、n型の不純物濃度がほぼ一定であり、p型ベース層6は、p型の不純物濃度がほぼ一定である。このようにn
+型ソース領域8を2層とし、n型ソース領域7側を低濃度部とすることで、コンタクト抵抗を低く保ったまま、イオン注入におけるp型ベース層6へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0063】
図12は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置と従来の炭化珪素半導体装置とにおいて、コンタクト抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図12において、縦軸は、n
+型ソース領域8のコンタクト抵抗を平均値で規格化した結果の標準偏差をエラーバーで表示している。
図12の従来の炭化珪素半導体装置は、n
+型ソース領域8をエピタキシャル成長により形成した
図14の構造の炭化珪素半導体装置である。
【0064】
図12に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置では、n
+型ソース領域8をイオン注入で形成することにより、コンタクト抵抗のばらつき(標準偏差)が、11.4%から3.2%まで低減できている。
【0065】
以上、説明したように、実施の形態によれば、n型ソース領域は、エピタキシャル成長により形成され、n+型ソース領域は、イオン注入によりn型ソース領域の表面に形成される。このため、n+型ソース領域は、n型ソース領域に向かってn型の不純物濃度が徐々に減少するプロファイルを有する。イオン注入に起因するダメージがp型ベース層の中に残らないように、n+型ソース領域のイオン注入を行うため、しきい値電圧のばらつきを低減することができる。チャネル層は膜厚の薄いエピタキシャル成長で形成したp型ベース層で決定されるため、チャネル長のばらつきは低く、n+型ソース領域をイオン注入により形成するため、n+型ソース領域の不純物濃度のばらつきを小さくでき、コンタクト抵抗のばらつきを抑制できる。
【0066】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した各実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体として炭化珪素を用いた場合を例に説明しているが、炭化珪素以外の例えば窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。また、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等のワイドバンドギャップ半導体以外の半導体にも適用可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1、101 n+型炭化珪素基板
2、102 第1n-型炭化珪素エピタキシャル層
3、103 第1p+型領域
4、104 第2n-型炭化珪素エピタキシャル層
5、105 第2p+型領域
6、106 p型ベース層
7、107 n型ソース領域
8、108 n+型ソース領域
9、109 p++型コンタクト領域
10、110 トレンチ
11、111 ゲート絶縁膜
12、112 ゲート電極
13、113 層間絶縁膜
14、114 ソース電極パッド
15、115 ドレイン電極
16 ソース電極
70、170、171 トレンチ型MOSFET
109a p+型コンタクト領域