(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】異方性評価方法及び異方性評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20250107BHJP
【FI】
G01N23/041
(21)【出願番号】P 2022035373
(22)【出願日】2022-03-08
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】影山 将史
(72)【発明者】
【氏名】岡島 健一
(72)【発明者】
【氏名】栗林 勝
(72)【発明者】
【氏名】永松 優一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄三
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-184450(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03258253(EP,A1)
【文献】特開2019-045394(JP,A)
【文献】特開2019-045471(JP,A)
【文献】特開平11-254545(JP,A)
【文献】特開2018-091765(JP,A)
【文献】特開2023-076899(JP,A)
【文献】国際公開第2004/071298(WO,A1)
【文献】特許第6422123(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
A61B 6/00-6/58
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系を用いて、前記被写体の異方性を評価する方法であって、
前記被写体は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有しており、
前記位相コントラストX線光学系の線源から、前記X線を前記被写体に向けて照射することにより、X線強度分布画像を取得するステップと、
前記被写体を、前記X線の入射方向に直交した回転軸を中心として、前記位相コントラスト
X線光学系に対して相対的に回転させることにより、前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度を変更し、これにより、前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を、前記X線強度分布画像での画素ごとに取得するステップと、
前記X線散乱強度における前記画素ごとの変化特性に基づいて、前記被写体における前記異方性構造の状態を評価する評価データを生成するステップと
を有することを特徴とする、異方性評価方法。
【請求項2】
前記変化特性とは、前記X線散乱強度の変化を所定の関数でフィッティングして得られるピーク強度、前記ピーク強度のときの前記相対角度であるピーク角度、及びピーク幅のうちのいずれかである
請求項1に記載の異方性評価方法。
【請求項3】
前記変化特性は、前記X線散乱強度の変化を所定の関数でフィッティングして得られるピーク強度、前記ピーク強度のときの前記相対角度であるピーク角度、及び、ピーク幅のうちのいずれかであり、
前記評価データは、前記ピーク強度、ピーク角度、ピーク幅のうちの一つを明度又は色の一方、他の一つを明度又は色の他方で表した画像である
請求項1に記載の異方性評価方法。
【請求項4】
前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を取得するステップを、前記位相コントラストX線光学系を構成する少なくとも1枚の格子を周期方向に移動させながら行う構成となっている
請求項1~3のいずれか1項に記載の異方性評価方法。
【請求項5】
被写体によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系を用いて、前記被写体の異方性を評価する方法であって、
前記被写体は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有しており、
前記位相コントラストX線光学系の線源から、前記X線を前記被写体に向けて放射状に照射することにより、X線強度分布画像を取得するステップと、
前記被写体を、前記X線の照射方向に交差する方向に直動させることにより、前記X線の入射角度と前記被写体との相対角度を変更し、これにより、前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を、前記X線強度分布画像での画素ごとに取得するステップと、
前記X線散乱強度における前記画素ごとの変化特性に基づいて、前記被写体における前記異方性構造の状態を評価する評価データを生成するステップと
を有することを特徴とする、異方性評価方法。
【請求項6】
被写体によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系と、前記被写体と前記X線との相対的な角度を変更する角度変更部と、処理部とを備えており、
前記位相コントラストX線光学系は、格子部と、この格子部及び前記被写体にX線を照射するための線源と、前記格子部及び前記被写体を通過した前記X線を検出することによりX線強度分布画像を取得するための検出部とを有しており、
前記被写体は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有しており、
前記角度変更部は、前記被写体を、前記X線の入射方向に直交した回転軸を中心として、前記位相コントラスト
X線光学系に対して相対的に回転させることにより、前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度を変更する構成となっており、
前記処理部は、
前記検出部で検出された前記X線の強度値を用いて、前記X線と前記被写体との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を、前記X線強度分布画像での画素ごとに取得する特性取得部と
前記X線散乱強度における前記画素ごとの変化特性に基づいて、前記被写体における前記異方性構造の状態を評価する評価データを生成するデータ生成部と
を有している
異方性評価装置。
【請求項7】
被写体によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系と、前記被写体と前記X線との相対的な角度を変更する角度変更部と、処理部とを備えており、
前記位相コントラストX線光学系は、格子部と、この格子部及び前記被写体にX線を照射するための線源と、前記格子部及び前記被写体を通過した前記X線を検出することによりX線強度分布画像を取得するための検出部とを有しており、
前記被写体は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有しており、
前記角度変更部は、前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度を変更する構成となっており、
前記処理部は、
前記検出部で検出された前記X線の強度値を用いて、前記X線と前記被写体との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を、前記X線強度分布画像での画素ごとに取得する特性取得部と
前記X線散乱強度における前記画素ごとの変化特性に基づいて、前記被写体における前記異方性構造の状態を評価する評価データを生成するデータ生成部と
を有しており、
前記X線の照射方向は、放射状とされており、
前記角度変更部は、前記被写体を、前記X線の照射方向に交差する方向に直動させることにより、前記X線の入射角度と前記被写体との相対角度を変更する構成となっている
異方性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体の異方性を非破壊で評価するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量と剛性の両立のため、飛行機、風力発電、EV(Electric Vehicle)等の構造材料としてCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)が採用されている。
【0003】
ところで、CFRPの強度は、わずかな繊維配向のずれにより大きく変化することが知られている。そのため、繊維配向を厳密に設定することが望まれる。
【0004】
しかし、樹脂成型後のCFRPにおける繊維の配向を非破壊で把握することは一般に困難である。
【0005】
そこで下記特許文献1では、CFRPを構成する繊維の配向を、パルスレーザを用いて非破壊で測定する技術を提案している。また、下記特許文献2では、電磁誘導加熱を用いてCFRPの物性を測定する技術を提案している。しかしながらこれらの技術では、CFRPにおける異方性の角度分解能が低いという問題がある。
【0006】
一方、繊維のような異方性素材の配向を非破壊で計測する技術として、下記非特許文献1では、X線位相コントラスト法による方法を提案している。この技術は、広い視野を実現できるものの、角度分解能が低いという問題がある。
【0007】
異方性素材の3次元的な配向を正確に計測する技術としては、下記特許文献3及び非特許文献2に記載のように、X線CTを用いた技術がある。しかしながら、CTを用いる技術の場合、被写体全体を視野に収める必要がある。このため、これらの技術においては、大型の被写体の構造を計測することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-3409号公報
【文献】特開2015-75428号公報
【文献】特開2018-91765号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】M. Kageyama, et al., NDT and E International 105 (2019) 19-24
【文献】Y. Sharma, et al., Appl. Phys. Lett. 109, 134102 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明は、被写体の異方性を、高い角度分解能でかつ非破壊で評価できる技術を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、大型の被写体であっても高い角度分解能で異方性を評価できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0012】
(項目1)
被写体によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系を用いて、前記被写体の異方性を評価する方法であって、
前記被写体は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有しており、
前記位相コントラストX線光学系の線源から、前記X線を前記被写体に向けて照射するステップと、
前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を取得するステップと、
前記X線散乱強度における変化特性に基づいて、前記被写体における前記異方性構造の状態を評価する評価データを生成するステップと
を有することを特徴とする、異方性評価方法。
【0013】
(項目2)
前記変化特性とは、前記X線散乱強度の変化を所定の関数でフィッティングして得られるピーク強度、前記ピーク強度のときの前記相対角度であるピーク角度、及びピーク幅のうちのいずれかである
項目1に記載の異方性評価方法。
【0014】
(項目3)
前記変化特性は、前記X線散乱強度の変化を所定の関数でフィッティングして得られるピーク強度、前記ピーク強度のときの前記相対角度であるピーク角度、及び、ピーク幅のうちのいずれかであり、
前記評価データは、前記ピーク強度、ピーク角度、ピーク幅のうちの一つを明度又は色の一方、他の一つを明度又は色の他方で表した画像である
項目1に記載の異方性評価方法。
【0015】
(項目4)
前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を取得するステップを、前記位相コントラストX線光学系を構成する少なくとも1枚の格子を周期方向に移動させながら行う構成となっている
項目1~3のいずれか1項に記載の異方性評価方法。
【0016】
(項目5)
被写体によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系と、前記被写体と前記X線との相対的な角度を変更する角度変更部と、処理部とを備えており、
前記位相コントラストX線光学系は、格子部と、この格子部及び前記被写体にX線を照射するための線源と、前記格子部及び前記被写体を通過した前記X線を検出する検出部とを有しており、
前記被写体は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有しており、
前記角度変更部は、前記X線の入射角度と前記被写体内の前記異方性構造との相対角度を変更する構成となっており、
前記処理部は、
前記検出部で検出された前記X線の強度値を用いて、前記X線と前記被写体との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を取得する特性取得部と
前記X線散乱強度における変化特性に基づいて、前記被写体における前記異方性構造の状態を評価する評価データを生成するデータ生成部と
を有している
異方性評価装置。
【0017】
(項目6)
前記角度変更部は、前記被写体を回転させる構成となっており、前記被写体の回転軸は、前記X線の入射方向に直交している
項目5に記載の異方性評価装置。
【0018】
(項目7)
前記X線の照射方向は、放射状とされており、
前記角度変更部は、前記被写体を、前記X線の照射方向に交差する方向に直動させることにより、前記X線の入射角度と前記被写体との相対角度を変更する構成となっている
項目5に記載の異方性評価装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被写体の異方性を、大視野、高い角度分解能、かつ非破壊で評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る異方性評価装置の概略的な構造を説明するための斜視図である。
【
図2】
図1の装置に用いられる処理部を説明するためのブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る異方性評価方法の手順を説明するための説明図である。
【
図4】繊維角度(度)と散乱強度(任意単位)との関係を示すグラフ及び、繊維角度の取り方を説明する説明図である。
【
図5】繊維角度(度)と散乱強度(任意単位)との関係を示すグラフである。
【
図6】図(a)はピーク強度、図(b)はピーク角度、図(c)はピーク幅の分布をそれぞれ画像化したものである。
【
図7】横軸にピーク幅(度)、縦軸に画素数を取ったヒストグラムである。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る異方性評価方法の手順を説明するための説明図である。
【
図9】本発明の第2実施形態における画素ごとのX線強度の変化を示すグラフであり、横軸は動画像におけるフレームの番号(被写体の回転角度に相当)、縦軸はX線強度(任意単位)である。
【
図10】本発明の第2実施形態において得られた画像の一例を示す説明図であって、図(a)はピーク強度、図(b)はピーク角度、図(c)はピーク幅の分布をそれぞれ画像化したものである。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る異方性評価装置の概略的な構造を説明するための斜視図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る異方性評価装置の概略的な構造を説明するための正面図である。
【
図13】本発明の第3実施形態に係る異方性評価方法の手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る異方性評価装置と、それを用いた異方性評価方法を説明する。まず、説明の前提として、異方性評価の対象となる被写体について説明する。
【0022】
(被写体)
本実施形態の被写体1としては、一方向への異方性を持つ材料であるUD材が用いられている(
図1参照)。この被写体1は、一方向に配列された炭素繊維(図示せず)を異方性素材として有している。すなわち、本実施形態における被写体1は、少なくとも一方向に配向された異方性構造を有するものとなっている。
【0023】
(本実施形態の異方性評価装置)
次に、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る異方性評価装置について説明する。
【0024】
この装置は、被写体1によるX線の散乱を検出するための位相コントラストX線光学系2と、被写体1とX線との相対的な角度を変更する角度変更部3と、処理部4とを基本的な構成要素として備えている。さらに、この装置は、制御部5及び出力部6を追加的な構成要素として備えている(
図1参照)。
【0025】
(X線位相光学系)
位相コントラストX線光学系2は、格子部21と、この格子部21及び被写体1にX線を照射するための線源22と、格子部21及び被写体1を通過したX線を画素ごとに検出する検出部23とを有している。
【0026】
格子部21は、タルボ・ロー干渉計を構成するためのG0格子211と、G1格子212と、G2格子213とを有している。さらに、この格子部21は、G1格子212を駆動していわゆる縞走査法を実施するための格子駆動部214を有している。G0格子211は、非コヒーレントなX線を発生する線源22からのX線を透過することで等価的に複数のコヒーレントな点光源を生成するための吸収格子である。つまり、G0格子211は、実質的には線源の一部ともいえるものである。格子駆動部214としては、必要なタイミングで格子を所定のステップずつ駆動できる適宜な駆動機構、例えばボールねじ、リニアモータ、ピエゾ素子、または静電アクチュエータを用いることができる。
【0027】
線源22は、必要な強度のX線を発生して格子部21及び被写体1に照射するためのものである。線源22としては、タルボ・ロー干渉計構成の場合は、空間的コヒーレンスが低いX線を発生するものを利用可能である。G0格子を省略するときは、実用上必要な程度に空間的位相の揃った(つまり空間的コヒーレンスが高い)X線を発生する線源(例えば微小点光源など)を用いる。本実施形態においては、線源22から被写体1へのX線の方向は、角度変更部3による被写体1の回転範囲内のいずれかの位置において、被写体1に含まれる異方性素材の延長方向におおよそ沿う方向であることが好ましい。この点については追って後述する。
【0028】
検出部23は、実用上十分な解像度を提供できる複数の画素(図示せず)を備えており、これらの画素によって、格子部21及び被写体1を通過したX線の強度分布画像を取得することができる。検出部23で取得された強度分布画像(つまり画素ごとのX線強度)は処理部4に送られる。
【0029】
本実施形態において用いる位相コントラストX線光学系2は、基本的に従来から使用されているものと同様でよいので、これ以上詳しい説明は省略する(参考:国際公開2004/058070、Pfeiffer F, Weitkamp T, Bunk O, David C, Phase retrieval and differential phase-contrast imaging with low-brilliance X-ray sources. Nat. Phys. 2 (2006) 258-261.)。
【0030】
(角度変更部)
角度変更部3は、X線の入射角度と被写体1内の異方性構造との相対角度を変更する構成となっている。より具体的には、本実施形態における角度変更部3は、被写体1を適宜な回転機構(図示せず)により回転させる構成となっている。ここで、被写体1の回転軸(図示せず)は、X線の入射方向に直交する方向となっている。なお、ここで被写体1の回転軸とは、被写体1の回転中心という程度の意味であり、仮想的なものであってもよい。ここで回転機構としては、例えば制御部5により制御される制御モータであるが、これには制約されない。
【0031】
(処理部)
処理部4は、検出部23で検出されたX線の強度値を用いて、X線と被写体1との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性を画素ごとに取得する特性取得部41と、X線散乱強度における変化特性に基づいて、被写体1における異方性構造の状態を評価する評価データを生成するデータ生成部42とを有している(
図2参照)。特性取得部41及びデータ生成部42の詳しい動作については後述する。処理部4は、具体的には、コンピュータハードウエア及びソフトウエアの組み合わせにより実現される。
【0032】
(制御部)
制御部5は、格子駆動部214、角度変更部3のそれぞれにおける駆動量(つまり移動量又は移動角度)及び駆動時期を制御するものである。制御部5も、コンピュータハードウエア及びソフトウエアの組み合わせにより実現される。制御部5は処理部4からの指令により動作するようになっている。制御部5の機能が処理部4に実装されて両者が一体となっていてもよい。
【0033】
(出力部)
出力部6は、処理部4による処理結果をユーザ又は他の機器に向けて出力するためのものである。出力部6としては、例えばディスプレイやプリンタであるが、処理結果を受け取る他の機器を接続するためのインターフェースであってもよい。また出力部6は、ネットワーク経由で他の機器に処理結果を送信するものであってもよい。
【0034】
(本実施形態における異方性評価方法)
以下、前記した装置を用いて被写体1の異方性を評価する方法の一例を、
図3をさらに参照しながら説明する。
【0035】
(
図3のステップSA-1)
まず、
図1に示すように、被写体1を、線源22と検出部23との間に配置する。具体的には、この実施形態では、G1格子212とG2格子213の間に被写体1を配置する。ただし被写体1の位置はこれに限らず、G0格子211からG2格子213の間であればよい。ここで、被写体1の配置においては、位相コントラストX線光学系2の線源22から照射されるX線の方向が、角度変更部3による被写体1の回転範囲内のいずれかの位置において、被写体1における異方性構造(例えば炭素繊維)の延長方向に沿う方向となるように配置することが望ましい。この状態で、線源22から検出部23に向けてX線を照射する。なお、実際上、評価対象である被写体1における異方性構造の延長方向は、おおよそ既知であることが多い。
【0036】
(
図3のステップSA-2)
ステップSA-2は、初回の動作において実行してもよいが、省略してもよい。ここでは、後述のステップSA-5の後に行われるステップとして説明する。ステップSA-5における散乱像取得の後、角度変更部3により、X線照射方向に対する被写体1の角度を変更する。より詳しくはX線の入射角度と被写体1内の異方性構造との相対角度を変更する。その後、後述のステップSA-3以降を行う。
【0037】
(
図3のステップSA-3~4)
線源22から被写体1に向けて照射されたX線は、格子部21及び被写体1を通過して検出部23に到達する。より詳しくは、本実施形態では、X線はG0格子211、G1格子212、被写体1、G2格子213の順で透過して検出部23に到達する。検出部23では、到達したX線の強度分布画像(つまり画素ごとのX線強度を示す画像信号)を取得する(ステップSA-4)。取得された強度分布画像は処理部
4に送られる。ここで、本実施形態では、通常の縞走査法を行う。すなわち、制御部5は、格子部21の格子駆動部214を駆動して、適切なステップずつ格子(この例ではG1格子)を移動させる(ステップSA-3)。つまり、強度分布画像の取得は、縞走査法のための格子位置変更の後に行われる。強度分布画像は、格子周期(本実施形態の例ではG1格子の格子周期)当たりでM枚(M≧3)取得される。ステップSA-3及びSA-4は、縞走査法の実施に必要な枚数(例えば3枚)の画像が取得できるまで繰り返される。
【0038】
(
図3のステップSA-5)
処理部4の特性取得部41では、格子の自己像の1周期当たりでM枚(M≧3)の強度分布画像を用いて散乱像を取得する。ここで述べる散乱像とは位相コントラストX線撮像法で取得された干渉性(ビジビリティ)低下量を規格化してその対数を取ったものであり、暗視野像と呼ばれるものと同一である。縞走査法による散乱像の取得方法自体は従来から知られているものと同様でよいので、これについての詳しい説明は省略する。ついでステップSA-2に戻り、前記の手順を繰り返す。必要な角度及び回数だけ被写体1を回転させていれば、ステップSA-6に進む。本実施形態では、被写体の最大の回転角度範囲を±20°としているが、これには制約されない。
【0039】
(
図3のステップSA-6)
以降の説明の前提として、ここで、異方性構造(例えば繊維)とX線の散乱強度との関係について説明する。ここで述べる散乱強度とは、上述の散乱像の輝度値であり、暗視野信号強度と呼ばれるものと同一である。
図4に、異方性構造(例えば繊維)とX線との角度である繊維角度θ°と、被写体1による散乱の強さを示す散乱強度F(θ)との関係を示した。この図からわかるように、散乱強度は、繊維角度θ=0°のとき最大となり、θが0°から正方向又は逆方向に離れるほど小さくなる。なおここで、
図4中下段に示す特性は、後述の
図5に示す測定結果を援用している。
【0040】
このステップSA-6において、処理部4の特性取得部41は、得られた散乱像に基づいて、
図5に示すように、繊維角度θ°と散乱強度F(θ)との関係を画素ごとに取得する。繊維の方向はこの例ではおおむね既知であるとする。したがって、繊維角度は被写体1の回転角度から推定できる。ただし、繊維の方向が未知であっても、
図5に示すピーク値を含む範囲で被写体1を回転させることができればよい。繊維の方向が不確実であるときは、被写体1の回転角度を広げることが通常は好ましい。
【0041】
ついで、特性取得部41は、X線散乱強度の変化(
図5参照)を所定の関数でフィッティングして得られるピーク強度、このピーク強度のときの繊維角度(つまり異方性構造の角度)であるピーク角度、及び、ピーク幅(この例では半値幅)を画素ごとに取得する。これらのピーク強度、ピーク角度及びピーク幅は、本発明における「X線の入射角度と被写体1内の異方性構造との相対角度ごとのX線散乱強度における変化特性」の一例である。本実施形態では、フィッティングのためにローレンツ関数が用いられているが、適宜な他の関数を用いることもできる。フィッティングの手法自体は従来から用いられているものと同じでよいので詳しい説明は省略する。
【0042】
(
図3のステップSA-7)
データ生成部42は、
図6に示すように、ピーク強度(
図6(a))、ピーク角度(
図6(b))及びピーク幅(
図6(c))をコントラスト画像として生成する。この画像は、処理部4から出力部6に送られて、ユーザに参照可能となる。
【0043】
本実施形態では、このように、ピーク強度、ピーク角度、ピーク幅の分布を画像化して表示できるので、ユーザは、この画像を参照することにより、異方性構造の配向に関する情報を簡便に取得できる。具体的には、ピーク強度から、繊維量や繊維の配向度(配向のばらつき)、ピーク角度から、繊維の配向方向、また、ピーク幅から繊維の配向度(配向のばらつき)を推定できる。ただし、これらの特性をすべて取得する必要はなく、必要に応じて一つ又は二つの特性を取得してもよい。
【0044】
また、前記実施形態では、ピーク幅等に対応するコントラスト画像を取得したが、これに代えて、又は追加的に、ピーク強度、ピーク角度、ピーク幅のうちの一つ(例えばピーク強度)を明度又は色の一方、ピーク強度、ピーク角度、ピーク幅のうちの他の一つ(例えばピーク角度)を明度又は色の他方で表した画像(図示省略)を生成することもできる。この場合は、1枚の画像から複数の情報を同時に取得できるので、ユーザにとって見やすい、あるいは理解しやすいという利点がある。
【0045】
また、本実施形態では、位相コントラストX線光学系における強度分布画像を用いているので、高い精度での推定が可能となる。
【0046】
しかも、本実施形態では、
図5に示すように、繊維角度θ°と散乱強度F(θ)との間の関係が非常にピーキー(すなわち先鋭)な特性となる。このため、高い角度分解能(例えば1°単位での角度分解能)を発揮することが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態では、CTを用いないので、一度に被写体全体を視野に収める必要がない。このため、大型の被写体の異方性評価を容易に行うことができる(つまり実質的な視野を広げることができる)という利点もある。
【0048】
本実施形態のデータ生成部42は、
図7に示すように、ピーク幅(横軸)と、対応する画素数(縦軸)のヒストグラムも生成する。このヒストグラムにより、ユーザは面内における配向のばらつきについての統計情報を得ることができる。
【0049】
図6の画像及び
図7のヒストグラムは、それぞれ、本発明における「X線散乱強度における変化特性に基づいて、被写体における異方性構造の状態を評価する評価データ」の一例に対応する。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る異方性評価装置及び異方性評価方法を、
図8~
図10に基づいて説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する構成要素については、同一符号を用いることにより記載の煩雑を避ける。
【0051】
(
図8のステップSB-1~4)
この第2実施形態では、線源22からX線を被写体1に照射しつつ、格子駆動部214により、いずれかの格子(本例ではG1格子212)を周期方向に連続的に移動させる。これと並行して、角度変更部3により、被写体1を所定範囲(本例では-10°~+10°まで)で回転させる。そして、検出部23により、画素ごとのX線強度(つまり画像信号)を連続的に検出する。ある画素において得られるX線強度変化の例を
図9に示す。格子の移動により、X線強度は、正弦波状に変化する。そして、この正弦波の強度は、被写体1の回転により(つまりX線と異方性構造との相対角度変化により)変化する。すると、正弦波の包絡線は、
図5と同様に、繊維角度と散乱強度との関係を示すことになる。なお、この第2実施形態では縞走査は行わない。
【0052】
(
図8のステップSB-5)
ついで、本実施形態の特性取得部41は、画素ごとに、正弦波状の強度変調曲線(
図9参照)をヒルベルト変換することにより包絡線を得る。さらに、特性取得部41は、この包絡線を所定の関数でフィッティングし、ピーク値とピーク角度とピーク幅を画素ごとに算出する。この所定の関数の一例を以下に示す。
【0053】
exp(-(y0+A/((x-x0)^2+B)))
【0054】
ここでA/Bはピーク強度、x0はピーク角度、2√Bはピークの半値全幅である。これはローレンチアンの指数関数に相当する。
【0055】
(
図8のステップSB-6)
ついで、本実施形態のデータ生成部42は、ピーク強度、ピーク角度とピーク幅の分布を画像化する(
図10参照)。この処理については前記した第1実施形態と同様なので詳しい説明は省略する。
【0056】
第2実施形態の異方性評価方法では、縞走査を行う必要がないので、異方性評価に要する時間を短縮できるという利点がある。ここで、被写体1の回転により、X線の減衰量が変化し、それによって強度変調曲線の包絡線が変動することがある。これはノイズになりうるが、被写体1の形状は既知であることが多いので、適宜な正規化処理により、このようなノイズを除去することは可能である。
【0057】
第2実施形態における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0058】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る異方性評価装置及び異方性評価方法を、
図11~
図13に基づいて説明する。この第3実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する構成要素については、同一符号を用いることにより記載の煩雑を避ける。
【0059】
第3実施形態の線源22からの、X線の照射方向は、
図11に示すように、放射状(いわゆるファンビーム)とされている。この例における視野角度は例えば10°程度であるが、これには制約されない。
【0060】
また、この第3実施形態における角度変更部3は、被写体1を、X線の照射方向に交差する方向(
図11における矢印方向)に直動させることにより、X線の入射角度と被写体との相対角度を変更する構成となっている。なお、格子部21を構成する各格子は、好ましくは
図11に示すように湾曲しているが、
図12では、理解の容易のため、各格子を平板状としている。本実施形態において、格子部21を構成する各格子の周期方向は、被写体1の移動方向と平行となっている。
【0061】
第3実施形態における位相コントラストX線光学系2の基本的構成は、前記以外の点において、特許6422123号公報に記載のものと同様とすることができるので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0062】
次に、第3実施形態における異方性評価方法を、
図13を参照しながら説明する。
【0063】
(
図13のステップSC-1~3)
まず、線源22からX線を被写体1に照射する。これと並行して、被写体1を、角度変更部3により、X線の照射方向を横切る方向に直動させる(
図12参照)。さらに、検出部23により、画素ごとのX線強度(つまり画像信号)を連続的に取得する。
【0064】
(
図13のステップSC-4)
ついで、第3実施形態の特性取得部41は、X線入射角に対応する複数の領域(
図12の破線で区切られた領域を参照)ごとに、特許第6422123号の手法により散乱像(つまり画素ごとのX線散乱強度)を算出する。ここで領域は、第1実施形態におけるX線の入射角に相当しており、異なる領域は異なるX線入射角を意味する。なお、領域をより細かく区分することは可能である。
【0065】
(
図13のステップSC-5~6)
ついで、本実施形態の特性取得部41は、第1実施形態と同様に、領域すなわちX線入射角に対する散乱強度のピーク値、ピーク角度及びピーク幅を画素ごとに算出する。
【0066】
ついで、データ生成部42は、例えば
図6のような画像を生成する。
図12に、領域(
図12の例では5個の領域)ごとの画像の例を付記した。
【0067】
第3実施形態の異方性評価方法では、被写体1を移動させながら撮像できるので、大型の被写体の異方性評価を行うことが容易になるという利点がある。
【0068】
第3実施形態における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0069】
なお、前記各実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0070】
例えば、線源22として、G0格子と実質的に等価な構造化ターゲットを用いることにより、G0格子を省略することができる。
【0071】
また、格子部21として、タルボ・ロー干渉計の構成を用いずに、いわゆるエッジイルミネーションと呼ばれる格子部を用いて散乱像を生成することもできる(参考:A. Olivo, "Edge-illumination x-ray phase-contrast imaging", J. Phys.: Condens. Matter 33 (2021) 363002)。
【0072】
さらに、前記した第1実施形態及び第3実施形態では、縞走査法のためにG1格子212を駆動するものとしたが、これに代えて他の格子を移動させてもよい。
【0073】
また、被写体1が複数方向の異方性を備えていてもよい。この場合、
図5に示すようなピークが複数検出されることがある。しかし、適宜なフィッティングにより複数のピークを分離し、それぞれのピークについて前記の手法を適用することで、それぞれの方向における異方性を評価することができる。
【0074】
さらに、前記した各実施形態の角度変更部3は被写体1を回転駆動するものであるが、被写体1を中心として位相コントラストX線光学系2を回転させることにより、被写体1とX線との相対的な角度を変化させることは可能である。また、被写体1の回転軸は単一でなくてもよい。例えば複数方向の回転軸を中心として回転する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 被写体
2 位相コントラストX線光学系
21 格子部
211 G0格子
212 G1格子
213 G2格子
214 格子駆動部
22 線源
23 検出部
3 角度変更部
4 処理部
41 特性取得部
42 データ生成部
5 制御部
6 出力部