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特許7613697量子化学用の量子コンピュータ上でリソース最適化フェルミオンをローカルにシミュレーションするための方法及び装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】量子化学用の量子コンピュータ上でリソース最適化フェルミオンをローカルにシミュレーションするための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/60 20220101AFI20250107BHJP
【FI】
G06N10/60
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022549449
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 US2021018556
(87)【国際公開番号】W WO2021168096
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】62/979,974
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/130,088
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/177,813
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ワン チンフェン
(72)【発明者】
【氏名】リー ミン
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
【審査官】佐藤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/126644(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/057317(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302107(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0096085(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムのシミュレーションを実行する方法であって、
第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測するステップと、
前記第一のセットのアンザッツ項と前記第一の初期振幅とに基づいて、前記システムのエネルギーを最小化するステップと、
1つ以上のアンザッツ波動関数に基づいて、前記エネルギー又は波動関数の摂動補正のうちの少なくとも1つを計算するステップと、
前記システムの前記エネルギーが収束するかどうかを決定するステップと、
前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項に関連する第二の初期振幅を予測するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第二のセットのアンザッツ項に基づいて、前記システムの前記エネルギーを最小化するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記システムの前記エネルギーが収束すると決定することに応答して、前記シミュレーションの出力を生成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のセットのアンザッツ項と、前記第一の初期振幅とを予測するステップは、二次メラー=プレセット(MP2)摂動論を使用して予測するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第一のセットのアンザッツは、単一励起又は二重励起を有するユニタリ結合クラスタアンザッツを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記システムの前記エネルギーを最小化するステップは、変分量子固有値計算機(VQE)アプローチを使用して前記エネルギーを計算するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ハイブリッド二次メラー=プレセット摂動(HMP2)法によりエネルギー補正演算子を計算するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記シミュレーションに関連する回路をコンパイルするステップと、
前記シミュレーションに関連する回路を最適化するステップと、
量子コンピュータを介して前記回路を実行するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第二のセットのアンザッツ項と、前記第二の初期振幅とを予測するステップは、前記第二のセットのアンザッツ項のアンザッツサイズを増加させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第二のセットのアンザッツ項と、前記第二の初期振幅とを予測するステップは、
前記第二のセットのアンザッツ項を生成するために、前記第一のセットのアンザッツ項に追加する1つ以上の追加アンザッツ項を決定するステップと、
前記第二のセットのアンザッツ項を生成するために、前記1つ以上の追加アンザッツ項を前記第一のセットのアンザッツ項に追加するステップと、を含み、
前記第二のセットのアンザッツ項と、前記第二の初期振幅に基づいて、前記システムの前記エネルギーを最小化するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサが、
第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測するための命令と、
前記第一のセットのアンザッツ項と、前記第一の初期振幅とに基づいて、システムのエネルギーを最小化するための命令と、
1つ以上のアンザッツ波動関数に基づいて、前記エネルギー又は波動関数の摂動補正のうちの少なくとも1つを計算するための命令と、
前記システムの前記エネルギーが収束するかどうかを決定するための命令と、
前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項に関連する第二の初期振幅を予測するための命令と、
を自身の中に格納する、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項12】
前記第二のセットのアンザッツ項に基づいて前記システムの前記エネルギーを最小化するための命令をさらに含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記システムの前記エネルギーが収束すると決定することに応答して、シミュレーションの出力を生成するための命令をさらに含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記第一のセットのアンザッツ項と、前記第一の初期振幅とを予測するための命令は、二次メラー=プレセット(MP2)摂動論を使用して予測するための命令を含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項15】
前記第一のセットのアンザッツは、単一励起又は二重励起を有するユニタリ結合クラスタアンザッツを含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記システムの前記エネルギーを最小化するための命令は、変分量子固有値解法(VQE)アプローチを使用して前記エネルギーを計算するための命令を含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項17】
ハイブリッド二次メラー=プレセット摂動(HMP2)法によりエネルギー補正演算子を計算するための命令をさらに含む、請求項16に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項18】
シミュレーションに関連する回路をコンパイルするための命令と、
前記シミュレーションに関連する回路を最適化するための命令と、
量子コンピュータを介して前記回路を実行するための命令と、をさらに含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記第二のセットのアンザッツ項と、前記第二の初期振幅とを予測するための命令は、前記第二のセットのアンザッツ項のアンザッツサイズを増加させるための命令を含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記第二のセットのアンザッツ項と、前記第二の初期振幅とを予測するための命令は、
前記第二のセットのアンザッツ項を生成するために、前記第一のセットのアンザッツ項に追加する1つ以上の追加アンザッツ項を決定するための命令と、
前記第二のセットのアンザッツ項を生成するために、前記1つ以上の追加アンザッツ項を前記第一のセットのアンザッツ項に追加するための命令と、
を含み、
前記第二のセットのアンザッツ項と、前記第二の初期振幅とに基づいて、前記システムの前記エネルギーを最小化するための命令
をさらに含む、請求項11に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年2月17日に出願され、「METHODS AND APPARATUSES FOR RESOURCE-OPTIMIZED FERMIONIC LOCAL SIMULATION ON QUANTUM COMPUTER FOR QUANTUM CHEMISTRY」と題する米国非仮出願第17/177,813号、2020年2月21日に出願され、「METHODS AND APPARATUSES FOR RESOURCE-OPTIMIZED FERMIONIC LOCAL SIMULATION ON QUANTUM COMPUTER FOR QUANTUM CHEMISTRY」と題する米国仮出願第62/979,974号、及び2020年12月23日に出願され、「METHODS AND APPARATUSES FOR RESOURCE-OPTIMIZED FERMIONIC LOCAL SIMULATION ON QUANTUM COMPUTER FOR QUANTUM CHEMISTRY」と題する米国仮出願第63/130,088号の優先権と利益を主張し、これらの内容は、参照によりその全体がここに組み込まれる。
【0002】
(政府ライセンス権)
本発明は、DOE Basic Energy Scienceの助成金(DOE BES award de-sc0019449)の下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0003】
本開示の態様は、一般に、量子コンピュータにおけるリソース利用を改善することに関する。
【背景技術】
【0004】
原子流束は、特定のシステムのための中性原子又はイオンの供給ソースとして生成され、使用されることがある。それらのシステムのいくつかは、例えば、量子情報処理(QIP)システムを含んでもよい。トラップされたイオンは、QIPシステムの代表的な実装の1つである。原子ベースの量子ビットは、量子メモリとして、量子コンピュータ及びシミュレータの量子ゲートとして使用されることがあり、また量子通信ネットワークのノードとして機能することもある。トラップされた原子イオンに基づく量子ビットは、希少な属性の組み合わせを享受する。例えば、原子イオンを用いた量子ビットは、非常に優れたコヒーレンス特性を有し、ほぼ100%の効率で準備して、測定することが可能であり、光又はマイクロ波などの適切な外部制御場を用いて容易に相互エンタングルすることができる。これらの特性から、原子ベースの量子ビットは、量子計算や量子シミュレーションなどの拡張的な量子操作に適している。
【0005】
量子シミュレーションの応用の1つは、QIPシステムを用いて、ローカルな相互作用を受けるフェルミオンなどのフェルミオン物質のシミュレーションを行うことである。量子コンピュータを用いたフェルミオン系のシミュレーションには、2つのアプローチが含まれる場合がある。その2つは、不完全でプレフォールトトレラント(pre-FT)な量子コンピュータに適した変分量子古典ハイブリッド戦略と、フォールトトレラントな量子コンピュータに適した量子シミュレーションアルゴリズムに基づくハミルトニアン力学シミュレーションである。前者は、フェルミオン系の基底状態のエネルギー推定において求められている基底状態に対する良好なアンザッツ状態(ansatz state)の効率的な準備と、準備したアンザッツ状態に対する系のハミルトニアンの期待値を評価する手段とが両方とも量子コンピュータによって可能になることを活用する。対照的に、後者は、量子コンピュータがローカルハミルトニアンを有する量子系を効率的にシミュレーションできることを活用して、量子位相推定と組み合わせて、系の基底状態のエネルギーを評価することができる。プレFTレジームでは、量子計算のコストは、多量子ビットゲートによって支配されることがある。対照的に、回路が通常Clifford+Tゲートセットで記述されるFTレジームでは、量子計算コストは、
【数1】
ゲートで支配されることがあり、これらの多くは、
【数2】
ゲートのFT実装で使われることがある。そのため、量子系のシミュレーションの改善が望まれている。
【発明の概要】
【0006】
以下では、1つ以上の態様の簡略化された概要を提示するが、それは、このような態様の基本的な理解を提供するためである。この概要は、全ての想定される態様の広範な概要ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することでも、いずれか又は全ての態様の範囲を画定することでもないことを意図している。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前段階として、1つ以上の態様のいくつかの概念を簡略化して提示することである。
【0007】
本開示の一態様では、第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測するステップと、前記第一のセットのアンザッツ項と前記第一の初期振幅とに基づいて、前記システムのエネルギーを最小化するステップと、1つ以上のアンザッツ波動関数を使用して、摂動補正を計算するステップと、前記システムのエネルギーが収束するかどうかを決定するステップと、前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項に関連する第二の初期振幅を予測するステップと、を含む方法を含む。
【0008】
本開示の別の態様では、第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測するステップと、前記第一のセットのアンザッツ項と前記第一の初期振幅とに基づいて、前記システムのエネルギーを最小化するステップと、1つ以上のアンザッツ波動関数を使用して、摂動補正を計算するステップと、前記システムのエネルギーが収束するかどうかを決定するステップと、前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項に関連する第二の初期振幅を予測するステップと、を実行するように構成された量子コンピューティングデバイスを含む。
【0009】
本開示の態様は、第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測するステップと、前記第一のセットのアンザッツ項と前記第一の初期振幅とに基づいて、前記システムのエネルギーを最小化するステップと、1つ以上のアンザッツ波動関数に基づいて前記エネルギー又は波動関数における摂動補正の少なくとも1つを計算するステップと、前記システムのエネルギーが収束するかどうかを決定するステップと、前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項と関連する第二の初期振幅とを予測するステップと、を含む。
【0010】
本開示の態様は、プロセッサによって実行されると、前記プロセッサが、第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測するための命令と、前記第一のセットのアンザッツ項と、前記第一の初期振幅とに基づいて、前記システムのエネルギーを最小化するための命令と、1つ以上のアンザッツ波動関数に基づいて、前記エネルギー又は波動関数の摂動補正のうちの少なくとも1つを計算するための命令と、前記システムのエネルギーが収束するかどうかを決定するための命令と、前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項に関連する第二の初期振幅を予測するための命令と、を自身の中に格納する、非一時的コンピュータ可読媒体を含む。
【0011】
本開示の態様は、メモリ及びプロセッサを有するシステムを含み、前記プロセッサは、第一のセットのアンザッツ項と、前記第一のセットのアンザッツ項に関連する第一の初期振幅を予測することと、前記第一のセットのアンザッツ項と、前記第一の初期振幅とに基づいて、前記システムのエネルギーを最小化することと、1つ以上のアンザッツ波動関数に基づいて、前記エネルギー又は波動関数の摂動補正のうちの少なくとも1つを計算することと、前記システムのエネルギーが収束するかどうかを決定することと、前記システムの前記エネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、前記第二のセットのアンザッツ項に関連する第二の初期振幅を予測することと、を行うように構成される。
【0012】
上述の目的及び関連する目的を達成するために、1つ以上の態様は、以下で完全に説明され、特許請求の範囲において特に指摘される特徴から構成される。以下の説明及び添付の図面は、その1つ以上の態様の特定の例示的な特徴を詳細に示すものである。しかしながら、これらの特徴は、様々な態様の原理が採用され得る様々な方法のうちのほんの一部を示すものであり、本説明は、全てのそのような態様及びその等価物を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
開示される態様は、添付の図面と併せて以下で説明され、例示するために提供され、開示される態様を限定するためではない。同様の指定は、同様の要素を示す。
【0014】
図1】本開示のいくつかの態様による標準的な二体相互作用回路の一例を示す図である。
図2】本開示のいくつかの態様による二体項のためのFTレジーム最適化回路の一例を示す図である。
図3】相対位相トリプリー制御ノットゲートを有するトリプル制御R(θ)ゲート実装の一例を示す図である。
図4】本開示のいくつかの態様に従った量子回路及び最適化構造の例を示す。
図5】本開示のいくつかの態様による二体項のためのFTレジーム最適化回路の別の例を示す図である。
図6】本開示のいくつかの態様によるシミュレーションを実行するための方法のフロー図である。
図7】本開示のいくつかの態様による、様々な方法によって計算された、STO-3G基底セットを使用してその平衡形状における水分子の基底状態エネルギーを比較するチャートの一例である。
図8】本開示のいくつかの態様による隣接パウリストリング回路の回路の一例を示す。
図9】本開示のいくつかの態様による部分的改善の図の例を示す。
図10】本開示のいくつかの態様によるCNOTゲートの余分な数のヒストグラムの例を示す。
図11】本開示のいくつかの態様による量子情報処理(QIP)システムの一例を示すブロック図である。
図12】本開示のいくつかの態様によるコンピュータデバイスの一例を示す図である。
図13】本開示のいくつかの態様による測定回数の削減を示すチャートの例を示す。
【0015】
付録を添付し、その内容が参照によりその全体が組み込まれる添付される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成の説明として意図されており、本明細書に記載される概念が実施され得る唯一の構成を表すことを意図していない。詳細な説明は、様々な概念の徹底的な理解を提供する目的で、具体的な詳細を含んでいる。しかしながら、これらの概念は、これらの具体的な詳細がなくても実施され得ることは、当業者には明らかであろう。場合によっては、そのような概念を不明瞭にしないために、周知のコンポーネントは、ブロック図の形態で示されている。
【0017】
上述したように、トラップされたイオンは、量子情報処理(QIP)システムにおいて使用される量子ビットを実装するために使用され得る。量子情報及び計測の目的で使用される典型的なイオントラップの形状又は構造は、線形無線周波数(RF)パウルトラップ(RFトラップ又は単にパウルトラップとも呼ばれる)であり、近くの電極が、イオンの閉じ込めをもたらす静的及び動的電位を保持している。トラップされたイオンをベースとする量子ビットは、量子メモリ、量子コンピュータ及びシミュレータにおける量子ゲート、ならびに量子通信ネットワークのノードなど、異なる種類のデバイスとして使用され得るが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本開示で使用される場合、「原子」及び「中性原子」という用語は交換可能であり、用語「イオン」及び「原子イオン」は交換可能なことがある。さらに、「原子イオン」、「イオン」、「原子」、及び「中性原子」という用語は、ソース材料から生成され、結晶、格子、又は同様の配置又は構成を形成するためにトラップ内に閉じ込められるべき、又はトラップされるべき、あるいは実際に閉じ込められ、又はトラップされている粒子を記載することがある。「プラズマ」という用語は、中性原子、イオン、又はその両方の流束を表すことがある。
【0019】
本開示の一態様は、プレFTレジーム及びFTレジームの両方において、フェルミオニックシミュレーションを実装する量子回路を最適化する。考慮されるコスト関数は、プレFTレジームにおける多量子ビットゲートの数、及びFTレジームにおけるシミュレーション回路において適用する必要があるRゲートの数又は時間ステップのRゲートの数を含む。本開示の他の態様は、FTレジームのための積公式(PF)ベースのアプローチと、プレFTレジームのためのユニタリ結合クラスタ(UCC)アンザッツベースの変分アプローチとを含む。他の態様において、フェルミオンシミュレーションは、二次摂動をベースとするアプローチと、一般化されたフェルミオンからの量子ビット演算子変換を用いることを含んでもよい。
【0020】
いくつかの実装では、FTレジームにおけるシミュレーション結果は、化学、医薬、物理、及び他の用途において利用されてもよい。シミュレーションは、リアルタイムであってもよい。
【0021】
特定の実装では、プレFTレジームでのシミュレーション結果は、粒子の基底状態を計算するために利用されてもよい。粒子の基底状態は、化学反応、結合特性、エネルギー状態などを決定するために使用されてもよい。
【0022】
本開示の一態様では、FTレジームにおいて、R(θ)及びTゲートカウントは、実装に積公式アルゴリズムを使用することを前提として、アンシラ量子ビットカウントとともに最適化されてもよい。ゲートカウントで節約比2が、またアンシラ(ancilla)量子ビットの数で節約比11が、場合によっては、達成されることもある。プレFTレジームでは、二量子ビットのゲートカウントの数が最適化されてもよい。
【0023】
本開示の一態様は、フェルミオン系の基底状態エネルギーの収束に向けてVQE進行をブートストラップすることを可能にするフレームワークを提示する。摂動論に基づくこのフレームワークは、VQE進行の各サイクルにおけるエネルギー推定値を改善することが可能であり得る。改善されたエネルギーアプローチは、既知の基底状態エネルギーから予め指定された許容値に到達するために必要な量子リソース(例えば、量子ビット及び/又は量子ゲートの数)の節約をもたらす可能性がある。
【0024】
PFレジームについては、本開示の一態様は、R(θ)ゲートが1つ以上のTゲートを利用することがあり、リソース集約的であるため、R(θ)ゲートの数及びR(θ)ゲート深さを低減することを目的とする。
【0025】
一実装では、フェルミオン系は、時間に依存しないローカル第二量子化ハミルトニアンHは、
【数3】
に従って、占有基底で進化する。ここで、
【数4】
とaは、それぞれp番目とq番目のレベルのフェルミオン生成と消滅の演算子を表し、hpqとhpqrsはそれぞれシングルとダブルフェルミオンハミルトニアン係数を表す。フェルミオン演算子は、カノニカル反交換関係
【数5】
に従う。ここで、{A,B}は反交換子AB+BAを、δjkはクロネッカーデルタを、1は恒等演算子を表す。量子コンピュータに実装する場合、フェルミオン演算子は、
【数6】
に従って、n量子ビットシステム用に定義されるJordan-Wigner(JW)変換を用いて変換することがある。ここで、j∈[0,n-1]で、
【数7】
は、テンソル積
【数8】
を表す。
【0026】
進化演算子Uevolution=e-iHtを量子力学シミュレーションアプローチ(Hはシステムのハミルトニアンで、tはシステムを時間的に先に進化させる持続時間である)で量子コンピュータに実装するためには、Uevolutionを実装するアルゴリズムには、ゲート複雑度が
【数9】
である2k次PFの技法が含まれることがある。2k次PFの技法は、実際にはより効率的な量子回路をもたらす可能性がある。Uevolutionを実装するために使用され得る他のアルゴリズムには、ゲート複雑度が
【数10】
である漸近最適量子信号処理を含み、ここで、∈はアルゴリズム近似誤差である。
【0027】
本開示の一態様は、変分量子固有値解法の技法に基づく量子古典的ハイブリッドアプローチを含む。この技法は、量子コンピュータ上で
【数11】
を実装することを含み、ここで、Tは、UCCアプローチに従って定義されるクラスタ演算子である。Tの変分パラメータを調整することで、典型的なVQEアプローチでは、
【数12】
が最小化され、ここで、|ψ0>は、Hの標的基底状態に近いと仮定した初期状態で、量子コンピュータ上で容易に準備することができる。このハイブリッドアプローチの目的は、式(1)で示される形式のハミルトニアンを有するフェルミオン系の基底状態のエネルギーを推定することである。
【0028】
代替的な実装では、ユニタリアンザッツ進化演算子Uansatzが量子コンピュータ上で実装されてもよい(例えば、ユニタリ結合クラスタアンザッツ)。Uansatzの1つ以上の変分パラメータは、
【数13】
を最小化するようにチューニングされてもよい。
【0029】
特定の態様において、摂動論に基づき、上述のハイブリッド法に対する相補的なアプローチが、基底状態エネルギーを推定するために使用されてもよい。
【0030】
図1は、
【数14】
を実装する二体相互作用回路100を示すブロック図の一例である。いくつかの実装では、σσσσ(明瞭化のために
【数15】
を省略)をσσσσ、σσσσ、σσσσ、σσσσ、σσσσ、σσσσ、σσσσ、σσσσ,の特定の順序に展開することによって、順次実装し、周知の回路最適化ルーチンを適用した後に、二体相互作用回路100を得ることができる。
【0031】
いくつかの実装では、2k次PFアルゴリズムは、フェルミオン系のシミュレーションに利用されてもよい。JW変換が式(1)のハミルトニアンHに対して実行された後、時間進化演算子は、
【数16】
と書くことができ、ここで、
【数17】
で、
【数18】
であり、また
【数19】
であり、k>1の場合、
【数20】
となる。個々の指数項(以下、トロッター項と呼ぶ)は、
【数21】
の形式であり、
【数22】
は好適にスケーリングされたθである。トロッター項を実装する標準的な回路は、当技術分野において周知なものであってもよい。最適化された量子回路は、例示的なトロッター項
【数23】
を実装してもよい。
【0032】
特定の実装では、二体トロッター項
【数24】
は、|0011>状態と|1100>状態との間のR回転を実装しする。|b>の入力状態の場合、m番目の量子ビット変数bには0又は1のいずれかの値が含まれ、
【数25】
は、|0011>を|0111>に、|1100>を|1111>にマッピングする。第0量子ビットのR回転をトリプル制御すれば、マッピングされた状態に対して所望の回転が実装される。前述の方法に従って構築され、二体項を実装する量子回路200の一例を図2に示す。
【0033】
図2のトリプル制御Rゲートは、単一量子ビットゲート及び/又は二量子ビットゲートを用いて実装されてもよい。例えば、トリプル制御Rゲートは、ハダマードゲート、Rゲート、及び/又はトリプル制御NOTゲートで実装されてもよい。一実装では、図3(a)に示すように、トリプル制御Rゲートは、相対位相トリプル制御NOTゲートであってもよい。図3(a)に示す回路300は、二体トロッター項あたりのRカウントを標準の8から2へと減少させる。
【0034】
本開示のいくつかの態様では、図3(b)に示すように、上記のトロッター項は、|0>状態の初期化アンシラ量子ビットを用いて実装されてもよい。図3(b)に示す回路350は、二体トロッター項ごとに1のR深さを必要とする場合がある。この構成は、FTレジームフェルミオンシミュレーションのための二体トロッター項実装に最適なR深さであり得る。
【0035】
いくつかの実装では、トリプル制御Rゲート(回路300など)のRゲート及びTゲート最適化実装は、Tゲートカウントを減らすために、従来のトフォリゲートの代わりに、相対位相トフォリゲートを含む。いくつかの態様において、3つの制御を有する相対位相トフォリゲートは、アンシラ量子ビットを必要としない場合がある。
【0036】
回路300は、直列構成で2つのRを含む。R深さを低減するために、|0>に準備されたアンシラ量子ビットを導入してもよい。トリプル制御されたRゲートのR深さ1の構成の一例を回路350に示す。場合によっては、複数の量子ビットで同じ角度の回転が同時に起こる場合(シミュレーション対象の分子が対称性を有する場合に考えられる)、量子ビットとTゲートの数を適度に犠牲にしながらRゲートの数を指数関数的に減らすために、加重和法(weight-sum method)が採用されることがある。並列に適用される2つのRゲートは、加重和法の恩恵を受けない場合がある。図4は、トリプル制御された相対位相トフォリゲート400の一例を示す。トリプル制御された相対位相トフォリゲート400は、論理NOTゲートである。また、図4は、単体演算子
【数26】
の回路410を示す。図4は、さらに、単体項のR深さ最適化回路420を示す。回路420は、アンシラ量子ビット又は1つの層内に2つのRゲートを必要としない。
【0037】
特定の実装では、上述した技術は、単一体項の一般化として実装されてもよい。この一般化は、任意の多体項に対して適用されてもよい。
【0038】
特定の場合には、例えば、JW変換により、いくつかの他の量子ビットに作用するσx,y,z演算子がある場合、二体回路を以下のように変更してもよい。例えば、追加の量子ビットに作用するσ演算子が存在する。この場合、
【数27】
を実装するために、図2の回路200は、図5に示す回路500に変更してもよい。
【0039】
特定の実装では、単体演算子
【数28】
については、上述した二体の場合と類似して、演算子を実装するために
【数29】
を用いてもよい。制御されたRゲートをRゲートの深さの観点から最適に実装するために、
【数30】
によってゲートを実装する。こうして、単体オペレータ回路に挿入すると、R深さ1の回路となる。
【0040】
プレFTレジームでは、ハミルトニアンが(1)の形で与えられるシステムの基底状態のエネルギーは、例えば、量子コンピュータ上でアンザッツ状態を作り、そのエネルギーを評価する変分量子固有値解法(VQE)アプローチで計算してもよい。VQEアプローチでは、量子コンピュータを繰り返し呼び出してパラメトリックなアンザッツ状態のエネルギーを計算することによって、エネルギーを(ローカル又はグローバルに)最小化し、標的システムの基底状態を得ることができる。
【0041】
本開示の別の態様では、本開示の態様は、基底状態のエネルギーを計算するためにプレFTレジームで使用されてもよい。一種のアンザッツ状態|Ψansatz>は、|Ψansatz>=Uansatz|0>のようなパラメータ化可能なユニタリアンザッツ進化演算子Uansatzを用いて初期状態|Ψ0>から変換されてもよい。演算子Uansatzは、指数形式Uansatz=e(Z-Z†)で表すことができる。Zのパラメータを変化させることにより、アンザッツの状態エネルギー<Ψansatz│H|Ψansatz>=<Ψ│UHU|Ψ>は、変動的に最小化することができる。フェルミオン基底から量子ビット基底への適切な変換により、このエネルギー期待値は、量子コンピュータ上で効率的に評価することができる(量子リソースコストは、演算子Uansatzの実装コストである)。以下の手順は、ユニタリ進化演算子Uansatzを使用する任意のアンザッツで実施することができる。一例として、単一励起及び/又は二重励起を伴うユニタリ結合クラスタアンザッツ(UCCSD)が使用されてもよい。他の例では、別個のペア結合クラスタ二重励起演算子の指数関数のk個の積(k-UpCCGSD)又は一般化ユニタリ結合クラスタ(UCCGSD)アンザッツの単純なユニタリ拡張が含まれる。
【0042】
いくつかの実装では、アプローチは、古典コンピュータ上で計算され、量子コンピュータ上で実装され得る基底状態ハートリーフォック(HF)波動関数|Ψ>から開始されてもよい。次に、波動関数|Ψ>は、ユニタリ演算子
【数31】
で展開されてもよい。ここで、
【数32】
は、クラスタ演算子であってもよい。Z1,2はそれぞれ単一励起演算子、二重励起演算子であってもよく、第二の量子化で、
【数33】
と書くことができ、ここで、tprとtpqrsは変分パラメータであり、virtとoccはそれぞれ仮想準位と占有準位である。予め指定された許容範囲内でアンザッツ状態エネルギーが基底状態エネルギーに近づき得るUansatzを実装する量子回路のサイズを最小化するために、クラスタ演算の一部又は全ての項が考慮されてもよい。例えば、全てのパラメータtpr及びtpqrsの部分集合のみがVQEアプローチに含まれてもよく、残りのパラメータはゼロに設定されてもよい。
【0043】
本開示のいくつかの態様において、多量子ビットゲートの総数で表される、上記で詳述したアプローチで回路の複雑性を軽減するために、2つの手順が使用され得る。任意の高次PFアルゴリズムへの拡張は簡単であるが、一次PFアルゴリズムがアンザッツを実装するために使用されてもよい。代替又は追加として、摂動論に基づくハイブリッドフレームワークを使用して、回路の複雑さを軽減することも可能である。ハイブリッドフレームワークでは、VQE回路の小さいインスタンスに基づいて、重要なアンザッツ項をVQE回路の大きいインスタンスに含むことができ、シミュレーションされるシステムの基底状態のエネルギー推定に向かって、VQE進行を効果的にブートストラップすることができる。
【0044】
特定の実装では、一般的なフレームワークは、摂動論の力を利用して、UCCSDアンザッツに含めるアンザッツ項を予測し、ポスト処理によってVQEの結果を修正することによって、VQEベースの量子シミュレーションを最適化することができる。このフレームワークは、VQEの総実行回数と、基底状態のエネルギー推定値が収束するまでに使用するアンザッツ状態準備回路のサイズの両方を最適化することができる。フレームワークで簡単に実装できる単純な摂動スキームの導出は、ハイブリッド二次メラー=プレセット(Mφllar-Plesset)摂動(HMP2)法と呼ばれることがある。
【0045】
本開示のいくつかの態様において、任意の一般的な(すなわち、任意のシステムに特定されない)ユニタリアンザッツ演算子は、
【数34】
と書くことができ、ここで、和は軌道配列の集合{α}にわたるものであり、fαは変分パラメータの集合{tβ}の実関数であり、Dαは軌道配列αに従って波動関数内の軌道を置換する汎用軌道置換演算子である。一例として、単一軌道置換演算子
【数35】
は、軌道qをpで置換する。特定の一般的なアンザッツアプローチについては、アンザッツ進化演算子をパラメトリック化するために使用され得る変分パラメータの全体集合Tfull={tβ}が存在する。UCCSDの場合、
【数36】

【数37】
、及びfα=tαである。
【0046】
次に、アンザッツ進化演算子
【数38】
のセットが生成されてもよく、各要素は、変分パラメータの全体集合Tfullの部分集合T(T⊂Tfull)を有するアンザッツ状態を誘導するユニタリ演算子である。補集合Tfull\Tのパラメータの少なくともいくつかは、デフォルト値
【数39】
の順序付き集合に固定されてもよい。デフォルト値はfαに吸収され、補集合Tfull\Tの要素はゼロに設定されてもよい。
【数40】

【数41】
ごとに、アンザッツ状態エネルギーは
【数42】
のように変動的に最小化してもよく、ここで要素(T)は集合Tの要素を表す。プレFTレジームにおけるVQEアプローチによる特定の一般的なアンザッツについて、目標は、εを所定の誤差基準として
【数43】
を満たす、回路の複雑さが軽減された
【数44】
を見つけることである。
【0047】
本開示の一態様では、誤差閾値を達成し得る変分パラメータの小さな集合を有する演算子で開始し、その集合を反復的に成長させることによって、回路の複雑さを軽減することで、収束を達成することができる。m回目の反復から(m+1)回目の反復に進むことで、演算子の変分パラメータの集合は成長し、T⊂Tm+1を満足する。急速な収束を達成するための1つの態様は、反復の間に含める追加の変分パラメータの選択であってよい。例えば、本開示の一態様は、変分パラメータが既に最適化されている(例えば、摂動エネルギー補正なしのVQEの従来の手段を介して)所与のアンザッツ状態に対する摂動的に予測される波動関数補正振幅のサイズに基づいて、アンザッツ状態準備に含める次の変分パラメータを繰り返し選択することを含んでもよい。
【0048】
図6は、提案された方法600のフロー図を示す。方法600は、VQEアプローチに必要な量子リソースを改善するために摂動法を使用する体系的な方法を含んでもよい。具体的には、方法600は、システムを量子回路の基底状態エネルギーに急速に収束させてもよい。急速な収束は、UCCSDの例における変分パラメータの部分集合を準備するために使用される式(8)における個々の励起項の選択に依存してもよい。
【0049】
1つの例示的な実装において、フェルミオンシミュレーションのための従来のVQEアプローチと同様に、方法は、単一粒子ハミルトニアンの基底状態ハートリーフォック波動関数を|Ψ>として開始する。方法600は、古典コンピュータ、量子コンピュータ、又はハイブリッド古典-量子コンピュータによって実装されてもよい。一態様では、方法600は、後述するようにコンピュータデバイス1200によって実装されてもよい(図12)。
【0050】
ブロック605において、方法600は、アンザッツ項の開始セット及び関連する振幅の初期推測値を予測してもよい。例えば、最初のステップは、VQEの最初の反復に使用する初期進化演算子
【数45】
を決定することを含んでもよい。一実装では、摂動として二粒子ハミルトニアンを使用し、エネルギー、及び波動関数の補正は、古典的なアルゴリズムを使用して計算することができる。摂動化された波動関数から、一粒子ハミルトニアン基底で個々の励起状態の振幅を抽出することができる。これらの振幅は、VQEシミュレーションの最初のラウンドの変分パラメータの初期推測として機能し、全ゼロ又はランダムな初期推測と比較して、量子回路の評価回数を大幅に削減することができる。エネルギー収束基準がδである場合(すなわち、任意の余分なアンザッツ項の追加に関連するエネルギー変化の大きさがδより小さい場合、シミュレーション全体が収束したと見なされる)、初期アンザッツセットは、相関エネルギーへの寄与がf(δ)より大きいアンザッツ項を含み得、関数f(δ)の標準選択は単にδであり得る。
【0051】
本開示の一態様では、方法600は、二次メラー=プレセット(MP2)摂動論などの摂動の方法を選択するステップを含んでもよい。方法600は、アンザッツのセットを選択するステップを含んでもよい。一実装では、アンザッツのセットは、後に量子コンピュータで使用するためのユニタリ類と互換性があってもよい。一例として、UCCSDが含まれる。セットは、有限数のアンザッツ項を含んでもよく、その各項は別個である。方法600は、選択された摂動の方法を、古典コンピュータ上で選択されたアンザッツのセットを用いて実行してもよい。実行の結果、各アンザッツ項に関連する摂動の初期強度が得られてもよく、これは量子コンピュータによって使用されることがある。
【0052】
ブロック610で、アンザッツ項の初期セット及びそれらの初期変分パラメータ値を用いて、方法600は、エネルギー
【数46】
を最小化するために、VQEシミュレーションの最初のラウンドを実行してもよい。場合によっては、ハイブリッド摂動ステップのために、追加の測定項を追加してもよい。
【0053】
ブロック615で、エネルギーが最小化され、アンザッツ状態が収束すると、方法600は、アンザッツ波動関数を用いてエネルギー及び/又は波動関数における摂動補正を計算してもよい。例えば、方法600は、相関エネルギー及び波動関数に対する補正を計算してもよい。その結果、このサイクルの全エネルギーは、エネルギー補正とVQEエネルギーの合計であってもよい。ハイブリッド摂動法の詳細については、以下でさらに詳しく説明する。
【0054】
本開示の特定の態様において、古典コンピュータ上で選択されたアンザッツのセットを用いて選択された摂動の方法を実行することで決定されたアンザッツ項及び初期摂動強度を備え、方法600は、求められている基底状態に対するアンザッツ状態を作成し得るVQE量子回路を構成してもよい。シミュレーションされるシステムのハミルトニアンに基づいて、方法600は、期待値が決定されるべきハミルトニアンの各項に対して必要とされる測定基底変換回路を添付してもよい。HMP2などのハイブリッドアプローチの場合、方法600は、エネルギー補正演算子を追加的に考慮してもよく、これによって、追加の測定基底変換回路を考慮する必要が生じる傾向がある。いくつかの実装において、方法600は、回路をコンパイル及び/又は最適化し、得られた回路を量子コンピュータ上で実行して、ハミルトニアンの期待値を評価してもよい。ハイブリッドの場合、方法600は、追加又は代替として、量子コンピュータ上でエネルギー補正項の期待値を評価してもよい。方法600は、古典的オプティマイザを使用して、試行するための新しい変分パラメータをフィードフォワードしてもよく、これは、上記で使用された初期摂動強度を置き換えてもよい。上記のプロセスは、エネルギー推定値が最小に収束するまで繰り返されてもよい。
【0055】
ブロック620で、方法600は、エネルギー計算が収束したかどうかを決定してもよい。
【0056】
ブロック625で、方法600は、波動関数補正を回復するための新しい演算子の能力に基づいて、次に使用されるべきアンザッツ演算子と、新たに追加された変分パラメータの初期推測値とを予測してもよい。例えば、次のサイクルを開始する前に、方法600は、任意選択で、現在の演算子の直接の後継役となり得る演算子のプールを特定してもよい。次に、方法600は、プール内の各演算子が摂動的な波動関数補正に向けてどの程度説明し得るかを評価してもよい。波動関数補正を最も回復できる演算子は、次のサイクルに使用されてもよく(もしあれば)、補正の回復方法は、次のサイクルで新たに追加される変分パラメータの初期推測を示してもよい。次のVQEシミュレーションの一部であり続けるアンザッツ項の初期変分パラメータ値は、前のサイクルからインポートされてもよい。
【0057】
いくつかの実装では、選択されたアンザッツに基づくエネルギー推定値が実際の基底状態エネルギーからまだ遠い場合、又は既知の基底状態エネルギーがない場合、方法600は、アンザッツサイズ(以下に記載)を系統的に増加させることによって教育的推測を行うことができる。方法600は、アンザッツをさらに増加させることが、エネルギー推定値を著しく変化させるかどうかを決定するステップを含んでもよい。方法600は、ハイブリッド摂動フレームワークに基づいて、どのアンザッツ項を既存のアンザッツに追加するかを決定するステップを含んでもよい。新しい項に関連する摂動の強さの初期推測は、同様にハイブリッドフレームワークに基づいて決定される。
【0058】
ブロック630で、方法600は、シミュレーション結果を出力してもよい。
【0059】
一態様では、方法600に記載された技法を古典コンピュータで実行して、量子コンピュータ上の量子回路を実行するためのシミュレーションパラメータ(例えば、アンザッツ項)を生成してもよい。別の態様では、方法600に記載された技法をハイブリッド古典-量子コンピュータで実行して、そのハイブリッド古典-量子コンピュータ上の量子回路を実行するためのシミュレーションパラメータを生成してもよい。
【0060】
サイクルは、全エネルギーの収束が(ブロック630で)達成されるまで、VQEシミュレーション及びハイブリッド摂動計算を実行する概略された手順を反復する。
【0061】
メラー=プレセット摂動法は、VQEシミュレーションとハイブリッド化されてもよく、以下では、これをHMP2と呼ぶ。HMP2法は、摂動エネルギー補正を介してエネルギーの観点から各VQEサイクルを改善し、摂動的波動関数補正を介して次のサイクルで使用するアンザッツ演算子(それがある場合)を最適化してもよい。m番目のVQEサイクルでは、アンザッツ状態のエネルギー
【数47】
は、(一次摂動論の文脈で)
【数48】
と書くことができ、ここで、FはFock演算子で、Eは軌道エネルギーの和で、E(0)=Eは0次エネルギーで、
【数49】
は一次補正エネルギーである。摂動論に基づくと,二次補正エネルギーは、
【数50】
のように書くことができ、ここで、
【数51】
である。軌道配列の集合{α’}は、集合{α}と同じであっても、異なってもよい。集合{α’}は、{α}が有限集合である場合、集合{α}を含んでいてもよい。エネルギー
【数52】
は、軌道置換の軌道エネルギー差であってもよい。一実装では、
【数53】
であり、ここで、EとEは、それぞれp番目の軌道とq番目の軌道の軌道エネルギーであってもよい。
【数54】
を式(18)に挿入すると、式(18)の分子は、
【数55】
となる。ここで、
【数56】
を用いた。
【0062】
VQEの結果(例えば、アンザッツ波動関数
【数57】
)を直接摂動計算に適用するために、以下の項
【数58】
(ここで、
【数59】
)を式(19)に挿入して、
【数60】
を得る。
【0063】
次に、
【数61】

【数62】

【数63】
の一次までテイラー展開を適用して、
【数64】
を得てもよい。
【0064】
VQEのエネルギー補正は、式(18)と式(21)を用いて得ることができる。
【0065】
フェルミオン基底から量子ビット基底に適切に変換された空間における項
【数65】
は、パウリ演算子の積の和
【数66】
である。
【数67】
は固有値+1又は-1を有するので、
【数68】
をそれぞれの固有値を有する固有ベクトルとすると、式(21)は、
【数69】
と書き直すことができる。
【0066】
いくつかの実装では、式(22)は、│Ψansatz>の
【数70】
への射影を利用してもよい。二次補正エネルギーは、回路サイズにおける一切の量子リソースのオーバーヘッドなしで取得することができる。波動関数補正は、次のサイクルにおけるアンザッツ進化演算子の選択を最適化するために使用されてもよい。アンザッツ状態の波動関数は、ゼロ次波動関数|Ψ(0)>として考慮されてもよく、一次波動関数補正は、
【数71】
によって与えられてもよい。
【0067】
いくつかの態様において、本開示の以下の態様は、(m+1)番目のラウンドで次に使用するアンザッツ進化演算子を決定するために使用されてもよい。m番目のラウンドでセットT(Sと表記)のパラメータの値のセットを変動的に決定した後、方法は、進化演算子
【数72】
のセット
【数73】
を検索してもよく、これは、T⊂T
【数74】
を満たし、ここで、n(A)はセットAの要素の数を表す。Rは次のアンザッツ進化演算子に選ばれ得る演算子のプールであってもよい。Rの各
【数75】
について、重複は、
【数76】
として計算されてもよく、ここで、
【数77】
である。
【0068】
恒等式
【数78】
を用いて、式(18)、式(21)、式(24)に基づき、値
【数79】
を評価してもよい。
【数80】
が最も大きいRから選択された
【数81】
は、次のサイクルでアンザッツ進化演算子として使用されてもよい。いくつかの実装では、波動関数補正は、追加の変分パラメータtβ∈Tm+1\Tの初期値を推測するために、
【数82】
として使用されてもよい。
【0069】
UCCSDの場合、Rの各
【数83】
は、
【数84】
において
【数85】

【数86】
よりもDα項が1つ多くてもよく、これは、アンザッツ演算子Zに含まれる項の増分変化に対応する。
【数87】
を用いると、
【数88】
は、対応する追加のDαの摂動振幅
【数89】
と近似になることがある。
【0070】
いくつかの態様では、VQEサイクルのm番目のラウンドについて上に紹介した手順は、m=0とすることで最初のサイクルの前に使用することもできる。そのような場合、計算は古典的で、エネルギー補正はMP2エネルギー補正であってもよい。波動関数補正は、最初に試すべき演算子を通知し、対応する変分パラメータの初期値を示唆することができる。
【0071】
量子コンピュータスケールを用いて期待値を評価すべき個々のパウリストリング演算子(例えば、式(22))の数は、UCCSDアンザッツごとにO(n)(nは量子ビットの数)である。ここで、固定されたアンザッツの場合、Zは固定され、式(21)は、O(n)のパウリストリング測定、
【数90】
からのO(n)、及びHからの別のO(n)を必要とすることがある。スケーリングは挑戦的に見えるかもしれないが、実際には、以下に説明するように、本開示のいくつかの態様を適用して、評価の数を減らすことができる。
【0072】
本開示の1つの態様は、量子ビットの選択を含む。選択されたアンザッツを介して結合される量子ビットのみがエンタングルされるので、アンザッツ状態を作成するために使用され得る量子ビットもあれば、古典的に動作し得る量子ビットもある。別の態様では、安価な古典的後処理を認めるセットサイズを有する量子ビットの小さい離散的なのセットへの拡張を利用してもよい。いくつかの実装では、2つの反対スピンを有する同じ空間軌道を表す2つの量子ビットがある場合、それらがアンザッツの特定の選択によりそのエネルギーを区別できない場合、2つの量子ビットは冗長な情報を符号化してもよい。これにより、1つの量子ビットだけを用いて情報を符号化することが可能になる場合がある。
【0073】
本開示の一態様は、パウリストリングが互いに可換であることを条件として、測定の総数を減らすために複数のパウリストリングを同時に及び/又は同時並行的に測定することを含む。測定の方法は、一般的な可換(general commuting)(GC)分割(partition)及び量子ビットワイズ可換(qubit-wise commuting)(QWC)分割を含み得る。GC分割では、測定回数が減少し、追加の二量子ビットゲートのコストが発生する可能性がある。QWC分割は、二量子ビットゲートの数を増やすことなく、(GC分割より少ない程度に)測定の数を減らすことができる。いくつかの態様では、QSRは、追加の二量子ビットゲートを減らすためにGCの前に実装されてもよい。
【0074】
図7は、UCCSDアンザッツ演算子に含まれるDα項の数Nが増加するにつれて、異なるアプローチを用いた基底状態エネルギーの収束を示すグラフ700の一例を示す。ここに示す従来の曲線に対するアンザッツ項の挿入順序は、古典的なFCI計算における行列式の寄与の順序の予備知識から得られたものであり、理想的なケースを忠実に模倣しているが、現実的に得ることはほとんど不可能である。2つの収束曲線を比較すると、HMP2支援によるシミュレーションは、主要なアンザッツ項を捉えている。図7は、FCIの順序とHMP2の順序がよく一致していることを示す。基底状態のエネルギーに対するHMP2補正は、FCIエネルギーへのエネルギー収束を加速させるのに役立つことがある。追加の各アンザッツ項の実装が、ノイズの多い中間スケール量子(NISQ)ハードウェアにおけるノイズの大幅な蓄積をもたらすとすれば、HMP2法が可能にする高速なエネルギー収束は、量子コンピュータにとって有用である可能性がある。
【0075】
場合によっては、様々なフェルミオンから量子ビットへの変換を使用して、プレFTフェルミオンシミュレーションの量子リソース要件を削減できる。Jordan-Wigner(JW)変換やBravyi-Kitaev(BK)変換などの周知のフェルミオンから量子ビットへの変換は、フェルミオンの生成(消滅)演算子をパウリストリングにマッピングする。しかしながら、原理的に利用可能な変換は他にも多数存在し、JW変換やBK変換が含まれる一般化変換(GT)法などは、その一部である。UCCSDアンザッツの実装の具体例としてPFアルゴリズムを用いた場合、所与のクラスタ演算子の入力に対するマッピングを適切に選択し、ヒューリスティック最適化手法を慎重に選択することで、大幅な量子リソースの節約を達成することができる。
【0076】
GT法における変換は、式(2)で指定された関係を遵守してもよい。これは、以下の反転可能な上三角基底変換行列βを考慮することによって達成されてもよく、
【数91】
に従って、占有数基底をGT基底に変換する。ここで、i>j,βi,j=1の場合、βi,j∈{0,1}であり、nは変換に関与する量子ビットの数である。行列演算はモジュロ2空間で行われ、集合を生成する際に、主対角要素は除外される。便宜上、以下のインデックスセットが定義されている。
・更新集合U(j):この集合の要素は、基底変換行列βの列jの非ゼロエントリを有する行インデックスである。
・フリップ集合F(j):この集合の要素は、基底変換行列の逆行列β-1の行jに非ゼロエントリを有する列インデックスである。
・パリティ集合F(i):この集合の要素は、(πβ-1-β-1)行列の行jに非ゼロエントリを有する列インデックスであり、i≦jの場合、πi,j1で、それ以外の場合、0となる。
・残余集合R(j):この集合の要素は、行列πβ-1の行jに非ゼロエントリを有する列インデックスである。
【0077】
GTに基づく生成・消滅演算子は、
【数92】
のようになり、
式(2)を満たすことが示される。JW変換は、β=1の特殊な場合である。
【0078】
特定の実装では、UCCSDアンザッツの実装はJW変換に依存し、結果として得られる量子回路を最適化するために慎重に選択された一連のヒューリスティクスを考慮する。考慮されるヒューリスティックの詳細については、後述する。適用順のステップの概要を以下に示す。
【0079】
上述のアプローチの最も外側のループでは、異なる変換行列βを考慮する。所与のマッピング行列に対して、以下のルーチンが実行され、UCCSDアンザッツを実装する回路を構築し最適化することができる。このルーチンは、一連の専用自動回路最適化ツール群を繰り返し呼び出すように設計されている。これらのツールの効率性により、各サブルーチンの異なるケースに対するコスト関数を迅速に評価することができる。
【0080】
一実装では、最初のルーチンは、フェルミオンレベルのラベル付けに関連付けることができる。U(j)が空集合でP(j)=R(j)である。JW変換と異なり、GTアプローチでは、集合U(j)、P(j)、及びR(j)の無数の組み合わせが可能である。これを利用するためには、どのフェルミオンレベルをどの量子ビットのインデックスにマッピングするかを慎重に選択することが望まれる。しかしながら、全ての可能なマッピングを探索することは、計算機的に法外なコストがかかる。その代わりに、貪欲なアプローチを利用することができ、それによって、ルーチンは、所与のフェルミオンレベルから量子ビットインデックスへのマッピングから一度に1つの順列を探索する。具体的には、所与のマッピングから、量子リソース要件が最も削減される順列を適用する。このプロセスは、単一順列によって量子リソース要件が削減されてなくなるまで繰り返されてもよい。以下のサブルーチンは、各順列のコスト関数評価を例示することができる。
【0081】
いくつかの態様において、第一のルーチンは、フェルミオンレベルのラベルから量子ビットインデックスへの異なるマッピングを利用することによって、二量子ビットゲートの数を減少させることができる。励起演算子のパウリストリングは、選択されたフェルミオン
【数93】
量子ビット変換を適用した後、量子ビットインデックス値に依存する。フェルミオンレベルのラベルから量子ビットインデックスへのマッピングを最適化すると、必要な二量子ビットゲートの数が少なくなる。このようなマッピングは、任意のフェルミオンレベルkから量子ビットインデックスkへの単純なマッピングを維持しつつ、フェルミオンレベルのラベル付け(これは任意でよい)を再配置することと等価である場合がある。フェルミオンレベルのラベル付けの自由度を使用して、一体及び/又は二体のトロッター項を実装するための二量子ビットゲートの数を減らしてもよい。
【0082】
いくつかの態様では、n個のフェルミオンレベルを表すn量子ビットシステムに対して、貪欲なアプローチを実装してもよい。最初に、可能なk-スワップ操作のための一意な置換行列の集合{P}を生成してもよい。ここで、k-スワップ操作は、インデックス(2l,2l+1)のk個の一意な順序付きペアを、同じ下付きインデックスj∈{0,…,k-1}を有するインデックス(2m,2m+1)のk個の他の一意な順序付きペアでスワップすることを含んでもよい。ここで、
【数94】
である。kの値の例としては、2、5、10、20などがあり得る。次に、初期フェルミオンラベルを列ベクトルLとして表すことにより、本開示の一態様は、最初のラウンドの置換行列の一部又は全部を通過し、後述のトロッター内項並べ替えサブルーチンから得られる各励起項の二量子ビットゲートの数を加えて、再ラベル化フェルミオンレベルPの各インスタンスに対応する二量子ビットゲートの数を計算すること、を含んでもよい。置換行列をトラバースするとき、いずれかの行列が、前の行列のいずれか又は全てよりも低い二量子ビットゲート数をもたらす場合、二量子ビットゲートカウントをNとして、対応する再ラベル化レベルベクトルをLとして記録することができる。次に、本開示の一態様は、最初のラウンドに続いて、貪欲なアプローチを反復して進めてもよい。m番目のラウンドからの結果の再ラベル化フェルミオンレベルベクトルをL、対応する二量子ビットゲートカウントをNと表すと、本開示の態様は、一部又は全部の置換行列をトラバースし、再ラベル化レベルPの各インスタンスについて対応する二量子ビットゲートカウントを計算することを含んでもよい。最初にNm+1=Nとすると、ある行列がNm+1より低い二量子ビットカウンターになる場合、ゲートカウントはNm+1として記録され、行列はLm+1として記録される。Nより低い二量子ビットカウントになる行列がない場合、反復を終了し、Lを最適なラベル付けとして返すことができる。そうでなければ、ルーチンは、次のラウンドに進む。
【0083】
場合によっては、ラベルが決定されると、それらは、シミュレーション中の一貫性を維持するために、分子ハミルトニアンを含む関連するフェルミオン演算子に適用される。
【0084】
別の実装では、2番目のルーチンは、トロッター間項順序付けに関連する場合がある。トロッター項を適切に順序付けると、隣接するトロッター項回路間のゲートキャンセルにより、二量子ビットのゲートカウントが大幅に節約される可能性がある。同様のアプローチが可能な場合もあるが、GTアプローチでは、自明でない(non-trivial)修正を用いることができる。具体的には、各トロッター項を処理して、同一の等価クラスに分類される適格性があるかを決定するために処理されてもよく、その要素は、前述のゲートキャンセルを介して量子回路上に互いに隣接して配置されたると、リソース節約のための機会を有する。各トロッター項の適格性に応じた等価クラスが決定されると、単純な貪欲アプローチを用いて、各等価クラスのトロッター項要素を順序付け、二量子ビットゲートカウントを減少させることができる。
【0085】
本開示のいくつかの態様では、サブルーチンがトロッター間項順序付けに関連付けられることがある。このサブルーチン(第二のルーチンとも呼ばれる)では、ヒューリスティックを使用して、トロッター項を任意に順序付ける自由度の利用によって、二量子ビットゲートの数を減らすことができる。任意の順序付けは、PFアルゴリズムによって提供されるエラー境界を遵守する。本開示の一態様では、後述するトロッター内項最適化ステップから渡された情報に基づいて前処理ステップを実行する。具体的には、演算子
【数95】
について、サブルーチンは、前者についてはi及びj、後者についてはi、j、k、及びlのいずれかのインデックスが、標準コンパイルにおける演算子の回路実装において標的量子ビットとして使用されてもよいのか、使用されてはならないのかをチェックする。標的として使用できない量子ビットのインデックスは、不適格としてフラグが立てられる。
【0086】
一例では、不適格を決定した後、サブルーチンは、貪欲なアプローチに従って進行する。サブルーチンは、全項にわたって最も頻繁に適格とされるインデックス(例えば、p)を特定する。次いで、インデックスpを有する項は、適格な標的量子ビットとしてグループ化され、それらを等価クラス[p]に分類する。次に、一体演算子及び二体演算子のリストから全てのグループ要素を削除する。この手順は、リストに演算子がなくなるまで繰り返される。
【0087】
本開示のいくつかの態様では、量子リソースコスト削減は、同じクラスの各要素からの二量子ビットゲートの標的量子ビットが同じであるため、同じ等価クラスの要素の回路表現間で生じる可能性がある。一部又は全部の等価クラスが指定されると、サブルーチンは、要素が量子回路に実装される順序を並べ替える。全ての並べ替えを考慮することは法外なコストがかかるため、サブルーチンは、最もリソースコストを削減できる2つの要素から開始することで、貪欲なアプローチを実施することができる。次に、サブルーチンは、回路に実装されていない要素の集合から特定された次の要素を、リソースコストの削減量に基づいて連結する。この連結処理は、回路に実装されていない要素がなくなるまで繰り返される。場合によっては、どの要素が所与の反復に最適となり得るかをテストする各試行は、4つの場合を含むことができる。回路連結は、プレフィックス又はサフィックスとして実行されてもよく、連結される要素は、元の項内順序又はその逆で見なしてもよい。
【0088】
場合によっては、サブルーチンがトロッター内順序付けと関連付けられることがある。所与のフェルミオンラベルから量子ビットインデックスへのマッピングに対して、JW変換が使用され得る場合において、単一フェルミオン励起トロッター項又は二重フェルミオン励起トロッター項を実装する効率的な方法である。この方法には、完全な量子ビット間接続性を活用した最適な回路構成を含むことができる。この方法は、トロッター内演算子の実装の慎重な順序付けに依存しており、例えば、例示的な二重フェルミオントロッター項
【数96】
は、σx,y,zベースのトロッター内演算子に展開される。我々のGTアプローチで使用される他の変換における効率的な実装を可能にするために、トロッター内項のあらゆる可能な並べ換えに対するコスト関数を計算することができる。
【0089】
一態様では、トロッター内サブルーチンは、二体演算子を形成する変換されたパウリストリングの順序を最適化することによって、二量子ビットゲートの数を減らすことができる。各一体項は、2つのパウリストリングを含むため、反転まで、1つの順序付けを導くことができる。したがって、一体項は、特定の順序を必要としない。二体演算子については、適切な変換とPFアルゴリズムを適用すると、8つの部分項
【数97】
を含むことができる。ここで、jはトロッター内項インデックスを、vは量子ビットインデックスを表し、σ∈{1,σ,σ,σ}である。トロッター内項
【数98】
のそれぞれは、標準的な回路に変換することができる。任意のフェルミオンから量子ビットへの変換を用いるUの一実装では、各トロッター内項は、2(N-1)個のCNOTゲートをもたらす可能性がある。ここで、Nは、j番目のパウリストリングにおける非同一σ(j,v)の数である。JW変換では、σ(j,t)がσかσになるようなtの選択、すなわち、二体項のフェルミオンラベルに対応する量子ビットが良い選択である。上記Uの8つのパウリストリングのうち1つでもσ(j,t)=1であれば、意図した標的量子ビット指数tは使用できない可能性がある。したがって、GT法では、σ(j,t)=1をもたらす量子ビット選択tは、目的の二体項に現れるフェルミオンラベルに対応する全ての量子ビットで始まる適格な標的のセットから削除されてもよく、その後、前述のトロッター間項並べ替えサブルーチンで使用されないことになる。
【0090】
特定の実装では、選択された標的量子ビットtについて、トロッター内項の並べ替えは、CNOT削減(例えば、隣接するパウリストリング回路間のCNOT削減)を最大化してもよい。隣接するトロッター内項のそれぞれについて、すなわち、
【数99】
で、j∈[0,6]である場合、vは全ての非標的量子ビットを通して列挙されてもよい。σ(j,v)とσ(j+1,v)を比較することにより、特定の制御量子ビットvについて、2つのパウリ行列σ(j,v)及びσ(j+1,v)のいずれも1でなければ、回路は、図8に示す回路800として表現することができる。回路800において、tは標的量子ビットを、vは制御量子ビットを表し、σl∈{σ,σ,σ}、及びM∈{H,SH,1}である。σ=σの場合、Ml=Hである。σ=σの場合、M=SHせある。σ=σの場合、M=1である。
【0091】
場合によっては、回路900の場合、M=Mの場合、2つのCNOTの削減がある。M≠Mの場合、1つのCNOTの削減がある。選択された標的量子ビットtに対して、
【数100】
の2CNOT削減と
【数101】
の1CNOT削減があると仮定すると、選択した標的量子ビットtのCNOT削減の総数は、
【数102】
である。特定の順序の選択された標的量子ビットtに対して、最適化されたCNOT削減の総数は、
【数103】
である。
【0092】
結果として得られる最適化回路は、βによって定義される選択された変換基底においてUCCSDアンザッツを実装する。しかしながら、β=1となるJW変換を除いて、GT β行列は、回路の最初に基底の初期マッピングを必要とする。このため、二量子ビットのゲートカウントでオーバーヘッド
【数104】
が発生する。最終的に量子リソース要件を取得するために,βを実装したプレフィックスサブ回路とβベースのUCCSDアンザッツを実装したポストフィックスサブ回路を含む入力量子回路を入力として,自動オプティマイザを呼び出すことができる。
【0093】
事実上、JW変換では、対応する適切なフェルミオン準位に関係なく、隣接する量子ビットのペアが、別のフェルミオン準位を示す別の隣接する量子ビットのペアに励起されるたびに、そのような励起項を実装した回路は、時々、二量子ビットゲートを2つだけ必要とするように簡略化され、他の方法で必要な量子ビット数の半分しか必要とない。これを利用するために、JW変換によって書かれたボソン回路とGTアプローチによって書かれた非ボソン回路を並列に利用することができる。ボソン回路のハーフ量子ビット空間から非ボソン回路のフル量子ビット空間に戻るとき、n/2個のCNOTゲートが費やされることがある。
【0094】
いくつかの実装では、一般化されたボソン項とフェルミオン項との間の対応が確立されてもよい。フェルミオン二重励起項
【数105】
は、JW変換によって変換されると、
【数106】
に変化する。p及びqが同じ空間軌道に属し、r及びsが別の同じ空間軌道に属する場合、p及びqと、r及びsとの間の対称性を破る他の項が回路に考慮されていないと仮定すると、p及びqレベルは、単一量子ビットで、r及びsは単一量子ビットで符号化されても良い。このように、p及びrを代表として使用すると、量子ビット空間演算子は、
【数107】
に単純化されてもよく、ここで、k’は、量子ビットセット上を実行し、適切に縮小された空間で所与の励起項に対してσ演算子を適用する必要がある。適切に縮小された空間は、それぞれが縮小された対称的なレベルを示す単一量子ビットと、縮小されていない単一量子ビットとを含んでもよい。例えば、元の空間におけるレベルのうちの2つk及びkがσを必要とし、k及びkが単一のインデックスk’に符号化される場合、
【数108】
は、2回(kについて1回及びkについて1回)呼び出されてもよい。これは、リソースの節約につながる恒等式であり得る。
【0095】
表IIは、JW、BK、及び上記のヒューリスティックツールチェーンが発見した最良のGT変換について、異なる分子に対するUCCSDアンザッツ回路を実装するために使用する二量子ビットゲートの数によって測定される回路指標を示す。最良のGT変換を見つけるために、粒子群最適化が使用されることがある。GT変換が提供する利点は、分子の組合せで異なり、1.44%から21.43%の範囲である。これは、異なる入力ケースに対してカスタム選択されたGT変換を考慮することによって、JW変換を介して得られた量子回路を、さらに最適化することが実際に可能であるというヒューリスティックの能力を実証している。縮小率が低いのは、古典的な最適化では、限られた古典的な計算リソースで十分な行列をサンプリングできないことに起因する可能性がある。
【0096】
【表1】
【0097】
いくつかの例では、量子シミュレーション回路のRzゲート深さの低減において、複数のトロッター項の並列実装を考慮してもよい。上述した回路構成に基づいて、並列実装に対する最適化のための方法論を企図してもよい。
【0098】
上述のように、トロッター項を実装する回路は、大きく3つの部分を含み、その3つが、ブール入力変数の線形関数を計算する初期CNOTゲートネットワーク、トリプル制御されたRゲート、及び初期CNOTゲートネットワークの逆であるとということに留意されたい。入力のブール変数を上から順にa、b、c、及びdと表記すると、CNOTゲートネットワークは
【数109】
を出力する。下の3つの出力は、トリプル制御されたRゲートの作用に対して不変のままである。これは、他のトロッター項のJW σストリングに対応するCNOTゲートの実装に、
【数110】
の任意の線形関数が利用可能であることを意味する。これは、図4に示した回路構成のように、最初にJW σストリングを考慮するために使用されたCNOTゲートの適切な逆関数を実装するために不変性が必要だからである。これらのトロッター項を集め、同時に実装するヒューリスティック手法を用いることで、量子回路の深さを最適化することができる。
【0099】
プレFTレジームのVQEシミュレーションのために、本開示の一態様は、摂動論の予測力及び修正力を活用する一般的なフレームワークを含む。一態様では、ここで説明したHMP2法に加えて、シミュレーションの効率及び精度を向上させるために、摂動論のより複雑な多くの形態も使用することができる。例えば、古典的なCCSD(T)又はCCSDT-1a/b法がトリプル励起項を含む方法と同様に、おそらくトリプル励起項又は高次励起項を摂動的に含むアンザッツ項の係数を得ることが可能である。上記の方法は、摂動支援量子シミュレーションサイクルの中で、他の摂動法がHMP2法に取って代わることができるほど、十分に一般的なものである。
【0100】
特定の実装では、JW変換におけるボソン項及びGT変換における非ボソン項を考慮するために使用されるフレームワークを拡張して、一般化する場合、励起項の所与のセットに対する複数のフェルミオンから量子ビットへの変換βの使用は、全体のリソース要件を低減する上で価値があり得る。異なるβ変換が標的UCCSDアンザッツ回路の励起項を実装する際に異なるリソース要件をもたらすという事実から導き出すと、励起項の特定のサブセットが1つのβ変換によってより効率的に実装され得ること、及び他のある励起項がさらに別のβ変換によってより効率的に実装され得ることを予想するのは可能である。したがって、UCCSDアンザッツ状態を準備するために必要な励起項のセットを励起項のサブセットに分割することは、それぞれのサブセットのためのβ変換のそれぞれの適切な選択によって、より効率的に実装される可能性があり、量子リソース要件において、より有利であることを証明することができる。変換の切り替えに起因して発生するオーバーヘッドコストと、変換のテーラーメイドの選択を介して得られる節約との間に予想される駆け引きに対して最適化することは、現在のアプリケーションの精神から逸脱することなく可能であり得る。
【0101】
本開示の別の態様では、バイナリ粒子群最適化(PSO)を使用する手順を実施して、GTのバイナリ行列βを最適化してもよい。問題を符号化するために、n×nのバイナリ行列βの上三角エントリは、サイズが
【数111】
である一次元のバイナリベクトルX∈{0,1}にマッピングされてもよい。ベクトルXは、PSOの位置ベクトルとして機能することができる。β行列からマッピングされた位置XにおけるPSOのためのコスト関数は、β行列とそれに続く一連のヒューリスティックとでGTを使用してUCCSD進化演算子を実装するために必要な二量子ビットゲートの数として定義されてもよい。
【0102】
本開示の一態様は、粒子の群を作成することから始まり、各粒子は、対角要素が1で、非対角要素が0である上三角行列の集合からサンプリングされたβ行列からマッピングされた初期位置X(t=0)を有するが、そのうちのkは例外である。負でない整数tは時間ステップを表し、t=0は最適化の開始点であってもよい。群に含まれる粒子の総数は、
【数112】
であってもよく、ここで、
【数113】
は二項係数を示す。具体的には、kは、n≦8の場合は1からkmax=6まで、それ以外の場合はkmax=3まで変化してもよい。各粒子は、X(t)と同じ次元の速度ベクトルV(t)を有していてもよい。速度ベクトルの初期行列要素は、ゼロに設定されてもよい。
【0103】
任意の時間ステップ又は各時間ステップtにおいて、手順は、各粒子iのローカル最適位置ベクトルL(t)及び対応するローカル最適コストs(t)と、グローバル最適位置ベクトルG(t)とを追跡してもよい。ローカル最適位置ベクトルL(t)は、粒子iが時間ステップtまでに移動した全ての位置の中で、コスト関数値s(t)が最も小さい位置ベクトルと定義することができる。グローバル位置ベクトルは、全てのパーティクルの中でs(t)が最も小さいL(t)である。速度ベクトルは、t番目のステップ目から(t+1)番目のステップ目まで
【数114】
に従って更新される。ここで、wは慣性パラメータ、cは認知パラメータ、cは社会パラメータである。いくつかの例では、w∈[-4,4]、c∈[0,2]、c∈[0,2]のように、様々なパラメータが使用され得る。下付き文字のjは、対応するベクトルのj番目の要素を示す。位置ベクトル
【数115】
の要素は、
【数116】
の場合は0に更新され、それ以外の場合は1に更新される。ここで、rand()は、[0.0,1.0]上の一様分布からサンプリングする実疑似乱数生成関数であってもよい。
【0104】
最適化は、tがtmaxに達するまで、あるいは各位置ベクトルが2つのベクトル間で∂tosc回以上振動するまで続けられてもよい。その後、グローバル最適位置ベクトルは、最適β行列にマップバックするために使用される。一例では、∂tosc=10で、n≦8の場合はtmax=10000、それ以外の場合はtmax=100とする。他の例では、tmaxの選択は、tがtmaxに達する前に最適化が振動し始めるような十分な大きさであってもよい。
【0105】
バイナリPSOを用いたGTの結果の例は、
【数117】
に従って定義される二量子ビットゲートカウントの部分的な改善ρに基づいて表すことができる。ここで、fGTとfJWは、それぞれバイナリPSOを用いるGTを、又はJWを使用して、UCCSD進化演算子を実装するための二量子ビットゲートの数であってもよい。fGTは、tmaxが十分に大きく設定され得るため、使用する粒子の数によって大部分が決定されるバイナリPSOが使用する古典的計算リソースによって変化する。使用される古典的コンピューティングリソースの量と、最大に必要とされる可能性があるものとを対比するために、使用される粒子の数Nと、β行列の可能なバリエーションの総数との間の比率として、分数の古典的コンピューティングリソースメトリックは、
【数118】
のように書くことができる。ここで、nは、β行列の対角要素の数である。粒子の数は、上述したようにkとともに増加するので、kを変更して、バイナリPSOに使用される古典的な計算リソースの量を効果的に変更してもよい。
【0106】
本開示の一態様において、回路最適化技法は、フェルミオンレベルのラベル付けに関連する第一のルーチンを実装することを含んでもよい。
【0107】
別の態様において、回路最適化技法は、トロッター間項順序付けに関連するサブルーチンを実装することを含んでもよい。
【0108】
いくつかの態様において、回路最適化技法は、トロッター内項順序付けに関連するサブルーチンを実装することを含んでもよい。
【0109】
本開示の特定の態様では、1つ以上の最適化技法が実装されてもよい。例えば、回路最適化技法は、フェルミオンレベルのラベル付けルーチン及びトロッター間項順序付けサブルーチンを実装することを含んでもよい。別の例では、回路最適化技法は、フェルミオンレベルのラベル付けルーチン及びトロッター内項順序付けサブルーチンを実装することを含んでもよい。さらに別の例では、回路最適化技法は、トロッター間項順序付けサブルーチン及びトロッター内項順序付けサブルーチンを実装することを含んでもよい。いくつかの例では、回路最適化技法は、フェルミオンレベルのラベル付けルーチン、トロッター間項順序付けサブルーチン、及びトロッター内項順序付けサブルーチンを実装することを含んでもよい。
【0110】
図9は、バイナリPSOのために使用される分数古典演算リソースRの関数としての分数改善ρのシミュレーション図900、910、920、930を示す。第一のシミュレーション図900は、フッ化水素(HF)に関連付けられる。第二のシミュレーション図910は、水素化ベリリウム(BeH)に関連付けられる。第三のシミュレーション図920は、水(HO)に関連付けられる。第四のシミュレーション図930は、アンモニア(NH)に関連付けられる。異なる数のアンザッツ項が、シミュレーション図に対して使用されてもよい(例えば、4~6個のアンザッツ項)。シミュレーションは、UCCSDアンザッツを用いたHMP2法を使用してSTO-3G基底セットで実行される。HF,BeH,NHでは、最終的なUCCSDの演算子に含まれる励起項の数は、それぞれ3,9,52である。この結果、既知の基底状態エネルギーから化学的精度の範囲内で、それぞれの基底状態エネルギーの推定値が得られることがある。項nが十分に小さく、β行列の可能なバリエーションの比較的大きな部分を探索する場合(R>10-5)、改善は、14%未満から20%以上の範囲である。nが大きいほど、改善が少なくなる可能性がある。
【0111】
本開示の別の態様では、量子ビット空間削減(QSR)技法の手順は、測定されるパウリストリングの数を最適化するために使用されてもよい。第一の変形例では、手順は、古典的にアクセス可能な状態にある量子ビットを古典的に扱ってもよい。第二の変形例では、手順は、アンザッツの特定の選択による縮退したエネルギーを用いて、同じ空間軌道内の2つのスピン軌道に対して単一量子ビットのみを展開することによってボソン状態を利用することができる。
【0112】
第一の変形例について、いくつかの例では、測定されるパウリストリングS=A…A(n-1)を考え、ここで、A∈{σ,σ,σ,I}であり、Iは2×2の恒等演算子である。上記を量子状態|Ψ>=|ψ>と共役させ、ここで、|ψ>がアンザッツによりエンタングルされた量子ビットの量子状態を表し、|φ>が古典的にアクセス可能な状態(例えば、計算基底状態)である量子ビットの量子状態を表す場合、以下の式
【数119】
を書くことができる。ここで、セットP及びQは、それぞれエンタングルされている量子ビットのセット及び古典的にアクセス可能な状態にある量子ビットのセットを示す。式(30)の第二のテンソル積は、古典的及び/又は効率的に計算されてもよい。その結果、式(30)の第一のテンソル積のみが量子コンピュータを必要とする場合があり、測定すべきパウリストリングの数が減少することにつながる。
【0113】
第二の変形例の実装の例について、以下で説明する。量子状態|ψ>は、
【数120】
のように定義することができる。
【0114】
分離された二量子ビット状態|00>と|11>は、一量子ビット以上の情報を符号化しないので、式(31)は、
【数121】
のように圧縮されてもよい。
【0115】
パウリストリングS=A…A(n-1)は、式(31)の|Ψ>によって広がる全空間に存在し得る。ここで、Aは、式(31)の分離された二量子ビットの状態空間に存在するパウリ積であってもよい。Sと|Ψ>を共役にすると、以下の式
【数122】
が書ける。
【0116】
圧縮されたパウリストリングScomp=Acomp…A(n-1)は、式(32)の|Ψcomp>によって広げられた全空間に存在し得る。Sと|Ψ>を共役にすると、以下の式
【数123】
が書ける。
【0117】
式(33)及び式(34)に基づくと、以下の条件
【数124】
を満たす場合、2つの式は、一致する可能性がある。
【0118】
全ての可能なA及びAについて、以下の表IIは、対応するAcompを列挙した変換表である。表IIには多くのヌル行列が現れるため、3つの単一量子ビットパウリ行列と恒等行列を含む測定すべき演算子の削減されたセットと組み合わせて、測定オーバーヘッドを削減することができる。
【0119】
本開示の別の態様は、QSRでGCを使用する場合の余分なCNOTの分配を含む。GCでは、複数のパウリストリングのグループが作成され、これらはVQEシミュレーションによって必要とされるストリングの元のセットから引き出され、同時に測定され得る。各グループは、異なる数の余分なCNOTを含んでもよい。各グループは、異なる数の測定を必要とする場合があり、これは、グループ内部のパウリストリングの数よりも少ないことがある。図10は、水分子に対するGC法の測定回数における余分なCNOTの数の分布の図1000、1010、1020、1030を示す。第一の図1000は、余分なCNOTが1個であるHFを説明するものである。第二の図1010は、余分なCNOTが9個であるHFを説明するものである。第三の図1020は、余分なCNOTが19個であるHFを説明するものである。第四の図1030は、余分なCNOTが28個であるHFを説明するものである。余分なCNOTの数及び実行すべき測定回数は、より大きなアンザッツのサイズの関数として増加し得る。
【0120】
図11は、本開示の態様に従ったQIPシステム1100の一例を示すブロック図である。QIPシステム1100は、量子コンピューティングシステム、コンピュータデバイス、トラップドイオンシステムなどとも呼ばれ得る。
【0121】
QIPシステム1100は、原子種(例えば、中性原子のプルーム又はフラックス)を、原子種を一旦イオン化(例えば、光電離)してトラップするイオントラップ1170を有するチャンバ1150に提供するソース1160を含み得る。一例では、パワーコントローラ1140は、原子束を生成するためにソース1160によって使用される電気エネルギーを供給し得る。
【0122】
撮像システム1130は、原子イオンがイオントラップに提供されている間又はイオントラップ1170に提供された後に、原子イオンを監視するための高解像度撮像器(例えば、CCDカメラ)を含むことができる。一態様において、撮像システム1130は、光学コントローラ1120とは別に実装することができるが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出、識別、及びラベル付けするための蛍光の使用は、光学コントローラ1120と調整する必要がある場合がある。
【0123】
QIPシステム1100は、単一量子ビット演算及び/又は多量子ビット演算(例えば、二量子ビット演算)の組み合わせのスタック又はシーケンスを含む量子アルゴリズム又は量子演算、並びに拡張量子計算を実行するためにQIPシステム1100の他の部分(図示せず)と動作し得るアルゴリズムコンポーネント1110を含んでもよい。このように、アルゴリズムコンポーネント1110は、量子アルゴリズム又は量子演算の実装を可能にするために、QIPシステム1100の様々なコンポーネントに対して(例えば、光コントローラ1120に対して)命令を提供し得る。
【0124】
ここで図12を参照すると、本開示の態様に従った例示的なコンピュータデバイス1200が図示されている。コンピュータデバイス1200は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス、又は分散コンピューティングシステムを表してもよい。コンピュータデバイス1200は、量子コンピュータ(例えば、量子情報処理(QIP)システム)、古典コンピュータ、又は量子コンピューティング機能と古典コンピューティング機能との組み合わせとして構成されてもよい。例えば、コンピュータデバイス1200は、トラップイオン技術に基づく量子アルゴリズムを使用して情報を処理するために使用されてもよく、したがって、上述したような量子回路を実行、最適化、コンパイル、及び/又は実行するための方法を実装してもよい。本明細書で説明する様々な技術を実装し得るQIPシステムとしてのコンピュータデバイス1200の一般的な例が、図11に示される例で例示される。
【0125】
一例では、コンピュータデバイス1200は、本明細書に記載される1つ以上の特徴に関連する処理機能を遂行するためのプロセッサ1210を含んでもよい。プロセッサ1210は、単一又は複数のプロセッサのセット又はマルチコアプロセッサを含んでもよい。さらに、プロセッサ1210は、統合処理システム及び/又は分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ1210は、中央処理装置(CPU)、量子処理装置(QPU)、グラフィック処理装置(GPU)、又はそれらのタイプのプロセッサの組み合わせを含んでもよい。一態様において、プロセッサ1210は、コンピュータデバイス1200の汎用プロセッサを指してもよく、これは、また個別ビーム制御のための機能など、より具体的な機能を実行するための追加のプロセッサ1210を含んでもよい。
【0126】
一例では、コンピュータデバイス1200は、本明細書に記載された機能を実行するためのプロセッサ1210によって実行可能な命令を格納するメモリ1220を含んでもよい。一実装では、例えば、メモリ1220は、本明細書に記載された機能又は動作の1つ以上を実行するためのコード又は命令を格納するコンピュータ可読記憶媒体に相当してもよい。本開示の一態様では、メモリ1220は、本明細書に記載される機能、技術、及び/又は操作のうちの1つ以上を実行するためのコード又は命令を格納する非一時的コンピュータ可読媒体であってよい。一例では、メモリ1220は、本開示に従った方法の態様を実行するための命令を含んでもよい。プロセッサ1210と同様に、メモリ1220は、コンピュータデバイス1200の汎用メモリを指す場合があり、これは、個別ビーム制御のための命令及び/又はデータなど、より特定の機能のための命令及び/又はデータを格納する追加のメモリ1220も含んでもよい。
【0127】
さらに、コンピュータデバイス1200は、本明細書に記載されるハードウェア、ソフトウェア、及びサービスを利用して1つ以上の当事者との通信を確立して、維持することを提供する通信コンポーネント1230を含んでもよい。通信コンポーネント1230は、コンピュータデバイス1200上のコンポーネント間の通信を搬送しても、コンピュータデバイス1200と、通信ネットワークを介して位置するデバイス及び/又はコンピュータデバイス1200に直列又はローカルに接続されたデバイスなどの外部デバイスとの間の通信を搬送してもよい。例えば、通信コンポーネント1230は、1つ以上のバスを含んでもよく、外部デバイスとインターフェースするために動作可能な送信機及び受信機にそれぞれ関連する送信チェーンコンポーネント及び受信チェーンコンポーネントをさらに含んでもよい。
【0128】
さらに、コンピュータデバイス1200は、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の適切な組み合わせであり得るデータストア1240を含んでもよく、その組み合わせは、本明細書に記載される実装に関連して採用される情報、データベース、及びプログラムの大量格納を提供する。例えば、データストア1240は、オペレーティングシステム1260(例えば、古典OS、又は量子OS)用のデータリポジトリであってもよい。一実装では、データストア1240は、メモリ1220を含んでもよい。
【0129】
コンピュータデバイス1200は、コンピュータデバイス1200のユーザから入力を受信するように動作可能で、またユーザに提示するための出力、又は別のシステムに(直接的又は間接的に)提供するための出力を生成するようにさらに動作可能なユーザインターフェースコンポーネント1250を含んでもよい。ユーザインターフェースコンポーネント1250は、キーボード、数字パッド、マウス、タッチセンシティブディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイク、音声認識コンポーネント、ユーザから入力を受信することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の入力デバイスを含んでもよい。さらに、ユーザインターフェースコンポーネント1250は、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の出力デバイスを含んでもよい。
【0130】
一実装において、ユーザインターフェースコンポーネント1250は、オペレーティングシステム1260の動作に対応するメッセージを送信及び/又は受信してもよい。さらに、プロセッサ1210は、オペレーティングシステム1260及び/又はアプリケーションもしくはプログラムを実行してもよく、メモリ1220又はデータストア1240は、それらを格納してもよい。
【0131】
コンピュータデバイス1200がクラウドベースのインフラストラクチャソリューションの一部として実装される場合、ユーザインターフェースコンポーネント1250は、クラウドベースのインフラストラクチャソリューションのユーザがコンピュータデバイス1200とリモートで対話することを可能にするために使用されてもよい。
【0132】
いくつかの実装では、コンピュータデバイス1200は、古典計算、量子計算、又はその両方を実行するように実装されてもよい。コンピュータデバイス1200は、古典コンピュータ、量子コンピュータ、又はハイブリッド古典-量子コンピュータとして実装されてもよい。
【0133】
本開示の一態様では、上述した技法は、量子コンピュータ、古典コンピュータ、又はハイブリッド古典-量子コンピュータによって実行されてもよい。例えば、量子回路のシミュレーション、量子回路の最適化、量子回路のコンパイル、及び/又は量子回路の実行のための技法は、コンピュータデバイス1200によって実行されてもよい。
【0134】
いくつかの態様において、コンピュータデバイス1200及び/又はコンピュータデバイス1200のサブコンポーネントの1つ以上は、上述した技法を実装するように構成され、及び/又は実装するための手段を規定してもよい。
【0135】
図13は、上述した様々な最適化スキームを用いた水分子の測定回数を示すチャート1300を示す。QSRのみを用いて最適化された測定回数と比較すると、GC分割法及びQSRを用いて最適化された回数は2桁以上小さく、一方、QSRと共にQWC分割法を用いて最適化された回数は約1桁小さくなっている。チャート1350は、JW変換を使用する二量子ビットゲートの総数と比較して、QSRと共にGC分割法を使用することに関連する二量子ビットゲートの数という観点での追加コストを示している。両者の比率は、アンザッツ項の数が増えると、減少する可能性がある。
【0136】
いくつかの実装では、計算は、UCCSDアンザッツを有するHMP2フレームワークを使用して実施されてもよい。VQEサイクルのUCCSDアンザッツ演算子のDα項の数Nの関数としての総測定回数は、3つの異なる最適化スキームについてチャート1300に示されている。
【0137】
いくつかの実装では、QSRと共にGC分割を使用することによって生じる追加の二量子ビットゲートの平均数nGC+QSRが、チャート1350に示されている。チャート1350は、またJW変換を用いて実装された、UCCSDアンザッツ状態を誘導するための二量子ビットゲートの総数nJWも示している。nGC+QSRの分布は、上述したとおりである。また、チャート1350は、上記の数を比率
【数125】
に対してプロットしたものである。
【0138】
一実装では、リソースコスト関数に応じて、QWC+QSRとGC+QSRの間で選択を行うことができる。例えば、二量子ビットのゲート品質が、測定回数を総実行時間で除した値よりも厳しい場合、QWC+QSRを選択してもよい。それ以外の場合、GC+QSRを選択してもよい。
【0139】
本開示の態様は、第一のセットのアンザッツ項と、第一のセットのアンザッツ項に関連付けられた第一の初期振幅を予測するステップと、第一のセットのアンザッツ項と、第一の初期振幅とに基づいてシステムのエネルギーを最小化するステップと、1つ以上のアンザッツ波動関数に基づいてエネルギー又は波動関数における摂動補正の少なくとも1つを計算するステップと、システムのエネルギーが収束するかどうかを決定するステップと、システムのエネルギーが収束しないと決定することに応答して、第二のセットのアンザッツ項と、第二のセットのアンザッツ項と関連する第二の初期振幅とを予測するステップと、を含む方法を含む。
【0140】
本開示の一態様では、上記の方法を含み、第二のセットのアンザッツ項に基づいて、システムのエネルギーを最小化するステップをさらに含む。
【0141】
本開示の態様では、上記の方法のいずれかを含み、システムのエネルギーが収束することを決定することに応答して、シミュレーションの出力を生成するステップをさらに含む。
【0142】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、第一のセットのアンザッツ項と、第一の初期振幅とを予測するステップは、二次メラー=プレセット(MP2)摂動論を用いて予測するステップを含む。
【0143】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、第一のセットのアンザッツは、単一又は二重励起を有するユニタリ結合クラスタアンザッツを含む。
【0144】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、システムのエネルギーを最小化するステップは、変分量子固有値解法(VQE)アプローチを使用してエネルギーを計算するステップを含む。
【0145】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、ハイブリッド二次メラー=プレセット摂動(HMP2)法を介してエネルギー補正演算子を計算するステップをさらに含む。
【0146】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、シミュレーションに関連する回路をコンパイルするステップと、シミュレーションに関連する回路を最適化するステップと、量子コンピュータを介して回路を実行するステップと、をさらに含む。
【0147】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、第二のセットのアンザッツ項と、第二の初期振幅とを予測するステップは、第二のセットのアンザッツ項のアンザッツサイズを増加させるステップを含む。
【0148】
本開示の態様は、上記の方法のいずれかを含み、第二のセットのアンザッツ項と、第二の初期振幅とを予測するステップは、第二のセットのアンザッツ項を生成するために、第一のセットのアンザッツ項に追加する1つ以上の追加のアンザッツ項を決定するステップと、第二のセットのアンザッツ項を生成するために、1つ以上の追加アンザッツ項を第一のセットのアンザッツ項に追加するステップと、を含み、第二のセットのアンザッツ項と、第二の初期振幅とに基づいてシステムのエネルギーを最小化するステップをさらに含む。
【0149】
本開示のこれまでの説明は、当業者が本開示を作成又は使用できるようにするために提供される。本開示の様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された共通の原理は、本開示の精神又は範囲から逸脱することなく他の変形例に適用することができる。さらに、記載された態様の要素は単数形で記載又は特許請求されることがあるが、単数形への限定が明示されない限り、複数形が企図される。さらに、任意の態様の全部又は一部は、特に断らない限り、他の態様の全部又は一部と共に利用され得る。したがって、本開示は、本明細書に記載された例及び設計に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲を与えるものである。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図9(c)】
図9(d)】
図10
図11
図12
図13