(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/00 20060101AFI20250107BHJP
A61D 99/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A01K67/00 E
A61D99/00
(21)【出願番号】P 2020116354
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】長野 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】森岡 一朗
(72)【発明者】
【氏名】清水 翔一
(72)【発明者】
【氏名】片山 大地
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-030430(JP,A)
【文献】特開2020-031551(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054885(WO,A1)
【文献】特開2018-088848(JP,A)
【文献】国際公開第2014/028737(WO,A1)
【文献】Makiko Ohshima et al.,Mild intrauterine hypoperfusion reproduces neurodevelopmental disorders observed in prematurity,SCIENTIFIC REPORTS,2016年12月20日,Vol.6,39377,pp.1-13
【文献】Lindsey M. Berends et al.,Programming of central and peripheral insulin resistance by lowbirthweight and postnatal catch-up growth in male mice,Diabetologia,2018年07月24日,Vol. 61,pp.2225-2234,https://doi.org/10.1007/s00125-018-4694-z
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/00-67/04
A61D 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠した非ヒト哺乳動物の妊娠後期に、胎仔を虚血状態にする工程
、
前記胎仔が出生に至った仔非ヒト哺乳動物を取得する工程、
及び
前記仔非ヒト哺乳動物の空腹時血糖を測定する工程
を含む、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項2】
前記仔非ヒト哺乳動物を普通食で飼育する工程、
をさらに含む、請求項1に記載の非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項3】
前記妊娠した非ヒト哺乳動物の子宮動脈の血流を遮断することにより、前記胎仔を虚血状態にする、請求項1又は2に記載の非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項4】
前記仔非ヒト哺乳動物は雌である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病のアニマルモデルとしては、1型糖尿病の遺伝モデルとしてBB rats、LEW IAR1/iddm rats、Nonobase Diabetic mouse、Akita miceが報告されている。2型糖尿病の遺伝モデルとしては、ZDF rats、Goto-Kakizaki ratsが報告されている。また、糖尿病を誘発する化学物質であるstreptozotocin、Allozanを使用して、化学的に誘導された糖尿病モデルが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
インスリンの絶対的な欠乏を特徴とする1型糖尿病アニマルモデルでは、1型糖尿病を発症する経路が限局しており、ヒトの1型糖尿病との関連性が疑問視されている。一方、インスリン抵抗性を特徴とする2型糖尿病アニマルモデルでは、肥満に関連する遺伝子に異常があるものがほとんどであり、その結果インスリン抵抗性に繋がり、耐糖能異常が起こる。
【0004】
近年、低出生体重児が成人期の肥満及び生活習慣病の発症リスクか高いことが知られている。低栄養に曝された胎児は、ゲノム遺伝子発現パターンの変化により低栄養に適応した体質となる。この体質は出生後も維持され、低栄養に適応した体質のまま成長する。このような体質の児にとっては、出生後の通常の栄養供給は相対的に過剰であり、過剰エネルギーは体脂肪として蓄積され、小児肥満のリスクが高まり、成人期の肥満に受け継がれる。在胎期の体質の変化が、出生後の生活習慣病の原因となるという胎児プログラミングの考えは、Dvelopmental origin of Health and Disease(DOHaD)仮説と呼ばれる概念として受け入れられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Amin Al-Awar et al., Experimental Diabetes Mellitus in Different Animal Models. J Diabetes Res. 2016;2016:9051426.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低出生体重で出生後、富栄養の食環境で、肥満を伴って糖尿病を発症するアニマルモデルは存在している。しかし、低出生体重児は、通常の食環境で、肥満を伴わずに、糖尿病を発症するリスクが高い。低出生体重児の糖尿病リスクの研究には、低出生体重で出生後、通常の食環境で、肥満を伴わずに糖尿病を発症するアニマルモデルが有用と考えられるが、そのようなアニマルモデルは存在していない。
【0007】
そこで、本発明は、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]妊娠した非ヒト哺乳動物の妊娠後期に、胎仔を虚血状態にする工程、及び前記胎仔が出生に至った仔非ヒト哺乳動物を取得する工程、を含む、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
[2]前記仔非ヒト哺乳動物を普通食で飼育する工程、をさらに含む、[1]に記載の非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
[3]前記妊娠した非ヒト哺乳動物の子宮動脈の血流を遮断することにより、前記胎仔を虚血状態にする、[1]又は[2]に記載の非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
[4]前記仔非ヒト哺乳動物は雌である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】マウスの子宮動脈の血流をクリップにより遮断した例を示す。
【
図3】普通食又は高脂肪食で飼育したときの体重推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一態様において、本発明は、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法を提供する。本態様の方法は、妊娠した非ヒト哺乳動物の妊娠後期に、胎仔を虚血状態にする工程(以下、「工程(i)」ともいう)、及び前記胎仔が出生に至った仔非ヒト哺乳動物を取得する工程(以下、「工程(ii)」ともいう)、を含む。
【0012】
本態様の方法によれば、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物を作製することができる。「非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物」とは、非肥満型高血糖を発症し得る非ヒト哺乳動物を意味する。「非肥満型高血糖」とは、肥満を伴わない高血糖を意味する。非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物は、特定条件で飼育することにより、非肥満型高血糖を発症する。
【0013】
「肥満」とは、同種の正常個体を普通食で飼育したときの平均体重(以下、「正常体重」ともいう)と比較して、過体重である状態をいう。例えば、正常体重の1.1倍以上、1.2倍以上、又は1.3倍以上の体重であるとき、肥満であるということができる。また、例えば、正常体重の1.2倍以下、1.2倍未満、1.1倍以下、又は1.1倍未満の体重であるとき、非肥満であるということができる。
【0014】
「高血糖」とは、同種の正常個体を普通食で飼育したときの平均血糖値(以下、「正常血糖値」ともいう)と比較して、血糖値が高い状態をいう。例えば、正常血糖値の1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、又は1.8倍以上の血糖値であるとき、高血糖であるということができる。
【0015】
非ヒト哺乳動物は、特に限定されない。非ヒト哺乳動物としては、例えば、非ヒト霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラ、コモンマーモセット、カニクイザルなど)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモット、ハムスターなど)、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、入手や試験が容易であることから、げっ歯類が好ましく、マウスがより好ましい。
【0016】
非ヒト哺乳動物の遺伝的背景は、特に制限されないが、1型糖尿病及び2型糖尿病の遺伝的背景を有さないことが好ましい。すなわち、1型糖尿病モデル動物が有する1型糖尿病の原因遺伝子及び2型糖尿病モデル動物が有する2型糖尿病の原因遺伝子を有さないことが好ましい。非ヒト動物がマウスである場合、例えば、ICR系統、C57BL/6系統、BALB/c系統、DBA/2系統、C3H系統等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0017】
[胎児を虚血状態にする工程:工程(i)]
工程(i)では、妊娠した非ヒト哺乳動物の妊娠後期に、胎仔を虚血状態にする。
【0018】
妊娠した非ヒト哺乳動物は、公知の方法で得ることができる。例えば、繁殖適期の雄と雌とを同居させて自然交配させることにより、雌を妊娠させてもよい。同居は、例えば、雄1匹に対して雌1~複数匹(例、2~3匹)とすることができる。非ヒト哺乳動物の飼育は当業者に公知の方法に従って行うことができる。妊娠判定は、非ヒト哺乳動物の種類に応じて、公知の方法で行うことができる。例えば、マウスの場合、交尾した雌は高確率で妊娠するので、膣栓を確認した日を妊娠0日とすることができる。
また、妊娠した非ヒト哺乳動物は、人工授精により取得してもよく、既に妊娠した雌を購入してもよい。
妊娠した非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物の種類に応じた公知の方法で飼育することができる。
【0019】
「妊娠後期」とは、妊娠期間の2/3が経過してから出産までの期間を意味する。「妊娠期間」とは、交尾又は受精卵の着床から出産までの期間を意味する。胎仔を虚血状態にすることは、妊娠期間の3/4が経過して以降、4/5が経過して以降、5/6が経過して以降又は6/7が経過して以降に行うことが好ましい。また、胎仔を虚血状態にすることは、妊娠期間の11/12が経過する以前、10/11が経過する以前、9/10が経過する以前、又は8/9が経過する以前に行うことが好ましい。胎仔を虚血状態にすることは、例えば、妊娠期間の3/4経過以降11/12経過以前に行うことができる。好ましくは、妊娠期間の4/5経過以降10/11経過以前に行うことができ、より好ましくは、妊娠期間の5/6経過以降9/10経過以前に行うことができる。非ヒト哺乳動物がマウスである場合、妊娠期間は18~20日(通常19日)であり、例えば、妊娠16~17日にマウスを虚血状態にすることができる。
【0020】
胎仔を虚血状態にする方法は、特に限定されない。胎仔を虚血状態にする方法としては、例えば、妊娠した非ヒト動物(以下、「母親動物」ともいう)の子宮動脈の血流を遮断する方法が挙げられる。例えば、適切な麻酔条件下、母親動物の腹部を切開して子宮動脈を露出させ、クリップ等を用いて子宮動脈の血流を遮断する(
図1参照)。これにより、胎仔への血流が妨げられ、胎仔を虚血状態にすることができる。母親動物の麻酔は、イソフルラン吸入等の公知の方法により行うことができる。子宮動脈の血流を阻害する間、母親動物の体を、体温程度の温度で保温することが好ましい。保温により、母親動物及び胎仔の死亡を防ぐことができる。非ヒト動物が、マウス又はラット等の小型動物である場合、保温は、例えば、ホットプレートを用いて行うことができる。
【0021】
胎仔を虚血状態にする時間(以下、「虚血時間」ともいう)は、限定されないが、胎仔が死亡しない程度の時間とすることができる。なお、子宮内に複数の胎仔がいる場合には、虚血時間は、少なくとも1匹の胎仔が生存可能な時間であればよい。虚血時間は、非ヒト動物の種類に応じて適宜選択することができる。虚血時間は、例えば、30分以下、25分以下、20分以下、19分以下、18分以下、16分以下、又は15分以下とすることができる。虚血時間の下限は特に限定されないが、例えば、1分以上、3分以上、5分以上、7分以上、10分以上、12分以上、13分以上、14分以上、又は15分以上とすることができる。虚血時間は、例えば、1~30分とすることができ、好ましくは3~20分、5~18分、10~17分、又は12~15分とすることができる。非ヒト哺乳動物がマウスである場合、虚血時間は、例えば、15分とすることができる。子宮動脈の血流のクリップ等で阻害により胎仔を虚血状態にした場合、子宮動脈の血流の阻害時間を虚血時間とみなすことができる。
【0022】
所定の虚血時間経過後、胎仔の虚血状態を解除する。子宮動脈の血流のクリップ等での遮断により胎仔を虚血状態にした場合、所定の虚血時間経過後にクリップ等を外して子宮動脈の血流を復活させる。次いで、胎仔を母親動物の腹腔内に還納し、母親動物の腹部を縫合する。その後、出産まで母親動物の飼育を継続する。
【0023】
[仔非ヒト哺乳動物を取得する工程:工程(ii)]
工程(ii)では、前記胎仔が出生に至った仔非ヒト哺乳動物を取得する。
【0024】
前記工程(i)の後、母親動物の飼育を継続し、出産させる。出産は、自然分娩であってもよく、帝王切開であってもよい。これにより、工程(i)で虚血状態にした胎仔が出生に至った仔非ヒト哺乳動物を取得することができる。
本工程では、出生した仔非ヒト哺乳動物のうち、雌を取得することが好ましい。雌は、非肥満型高血糖をより発症しやすい傾向がある。
【0025】
本工程で得られる仔非ヒト哺乳動物は、工程(i)を行わず、正常に妊娠を継続させた母親動物から出生した仔非ヒト哺乳動物と比較して、低出生体重である。この仔非ヒト哺乳動物には、後述のように、普通食で飼育することにより、肥満を伴わない高血糖を発症させることができる。そのため、非肥満型高血糖発症用のモデル動物として用いることができる。
【0026】
[任意工程]
本態様の方法は、上記工程(i)及び(ii)に加えて、任意の工程を含んでいてもよい。任意工程としては、例えば、前記仔非ヒト哺乳動物を普通食で飼育する工程(以下、「工程(iii)ともいう)等が挙げられる。
【0027】
<普通食で飼育する工程:工程(iii)>
前記工程(ii)で取得した仔非ヒト哺乳動物を普通食で飼育することにより、非肥満型高血糖を発症させることができる。
「普通食」とは、非ヒト哺乳動物を通常飼育する際に用いる食餌を意味する。普通食は、非ヒト哺乳動物の生育を維持するために過不足のないカロリーをバランスよく含むものであり得る。普通食は、当該非ヒト哺乳動物用の標準飼料であってもよい。例えば、非ヒト哺乳動物が、マウス、ラット又はハムスターである場合、普通食として、マウス・ラット・ハムスター用標準飼料MF(オリエンタル酵母工業)等を用いることができる。
【0028】
普通食での飼育は、仔非ヒト哺乳動物の離乳後に行うことができる。仔非ヒト哺乳動物の離乳時期は、非ヒト哺乳動物の種類に応じて公知である。例えば、非ヒト哺乳動物がマウスである場合、4週齢で離乳させることができる。普通食での飼育は、非ヒト哺乳動物の種類に応じた公知の方法で行うことができる。
【0029】
離乳後、仔非ヒト哺乳動物を普通食で飼育すると、通常、体重は正常体重よりも低い水準で推移し、肥満とはならない。一方、空腹時血糖値は、正常血糖値よりも上昇する。すなわち、非肥満型高血糖を発症する。また、非肥満型高血糖を発症した非ヒト哺乳動物は、標準よりも、体脂肪率が高い傾向がある。これは、胎児期の虚血状態が低栄養状態と類似し、低栄養状態に適応した体質となったためと推察される。そのため、本態様の方法で得られる非肥満型高血糖発症マウスは、胎児プログラミング仮説(DOHaD)を証明する非肥満型高血糖発症マウスとして利用可能である。
【0030】
なお、工程(ii)で取得した仔非ヒト哺乳動物は、普通食ではなく、任意の食餌で飼育してもよい。前記仔非ヒト哺乳動物は、低出生体重児のモデル動物となり得るため、任意の食餌に対する低出生体重児の反応をシミュレートできると考えられる。例えば、仔非ヒト哺乳動物は、普通食に替えて、高脂肪食で飼育してもよい。「高脂肪食」とは、普通食と比較して、脂肪含有量が高い食餌を意味する。高脂肪食は、例えば、カロリー比で脂肪分を40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、又は60%以上含有する高脂肪試料であってもよい。高脂肪試料としては、例えば、脂肪分60%カロリー比高脂肪試料HFD-60(オリエンタル酵母工業)等が挙げられる。
【0031】
本態様の方法によれば、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物を取得することができる。本態様の方法により得られる非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物は、低体重で出生し、肥満を伴わない高血糖を発症させることができるため、DOHaD仮説を証明するモデル動物として使用することができる。また、低出生体重児の肥満を伴わない糖尿病リスク、肥満を伴わない糖尿病患者の治療及び保健介入研究、肥満を伴わない糖尿病患者の発症予測マーカーの開発研究、肥満を伴わない糖尿病患者の発症予防の治療及び保健介入研究、等の研究に利用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0033】
[非肥満型高血糖発症マウスの作製]
妊娠しているICR系統のマウスの妊娠16.5日に、イソフルラン吸入麻酔下(導入5%、維持2%)で下腹部を切開した。子宮動脈を露出し、胎仔マウスを傷つけないようにクリップで子宮動脈の血流を遮断した(
図1参照)。そのまま15分間虚血した。虚血時間中、母親マウスをホットプレートで37,5℃に温めた。その後、子宮動脈のクリップを外して胎仔を母親マウスの腹腔内に還納し、下腹部を縫合した。妊娠16.5日に、虚血群と同様の麻酔と下腹部切開を加え、子宮動脈を遮断しなかったものを非虚血のコントロール群とした。虚血群及び非虚血群とも妊娠を継続させ、妊娠19日に出生した新生仔マウスを得た。
【0034】
[仔マウスの飼育]
仔マウスは、4週齢で離乳させた。虚血群及び非虚血群のそれぞれにおいて、仔マウスを2群に分け、一群を普通食群とし、他群を高脂肪食群とした。普通食群では、5週齢から普通食(マウス・ラット・ハムスター用標準飼料MF、オリエンタル酵母工業)を自由給餌により与えた。高脂肪食群では、5週齢から高脂肪食(脂肪分60%カロリー比高脂肪飼料HFD-60、オリエンタル酵母工業)を自由給餌により与えた。
【0035】
出生後、仔マウスの体重を週2回測定した。7週齢で、代謝ゲージを使用して尿を採取し、β2マイクログロブリン(β2)、微量アルブミン(Alb)、及びクレアチン(Cr)を測定した。
8週齢で、12時間絶食とした後、イソフルランで吸入麻酔を行い、体重及び体組成を測定した。心臓穿刺により採血を行い、空腹時血糖を測定した。
【0036】
[結果]
(出生体重)
図2に、虚血群及び非虚血群の出生体重を示す。虚血群では、非虚血群と比較して、出生体重が小さかった。この結果は、妊娠後期に胎仔を虚血状態にすることにより、低出生体重仔が得られることを示す。
【0037】
(体重推移)
図3に、普通食群の雌及び高脂肪食群の雌の体重推移を示す。
普通食で飼育した場合、虚血群(雌)では、非虚血群(雌)と比較して、体重が小さいまま成長した。一方、高脂肪食で飼育した場合、虚血群(雌)では顕著な肥満を発症した。
【0038】
(血糖値)
表1に、8週齢で、12時間絶食後に測定した体重及び血糖値を示す。虚血群では、普通食及び高脂肪食のいずれの場合も、非虚血群と比較して、血糖値が顕著に高かった。虚血群では、普通食及び高脂肪食のいずれの場合も、より高血糖を呈していた。
【0039】
【0040】
(体組成)
表2に、8週齢で、12時時間絶食後に測定した体組成を示す。虚血群では、普通食及び高脂肪食のいずれの場合も、非虚血群と比較して、FMが大きく、FFMが低かった。一方、BMIは、普通食では、虚血群と非虚血群で差はなかった。高脂肪食では、BMIは、非虚血群よりも虚血群の方が大きかった。
【0041】
【0042】
表2中の略語の意味を以下に示す。
TBW:体内総水分量(Total Body Water)
ECF:細胞外液量(Extra-Cellular Fluid)
ICF:細胞内液量(Intra-Cellular Fluid)
FM:脂肪量(Fat Mass)
FFM:除脂肪量(Fat Free Mass)
BMI:BMI指数(Body Mass Index)
【0043】
(尿検査)
表3に、7週齢で尿検査を行った結果を示す。尿中β2マイクログロブリン(β2)は、普通食では、非虚血群よりも虚血群の方が高くなった。尿中微量アルブミン(Alb)、普通食及び高脂肪食のいずれも、非虚血群よりも虚血群で高い傾向があった。尿中クレアチン(Cr)は、普通食では、非虚血群よりも虚血群の方が高くなった。
【0044】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、非肥満型高血糖発症非ヒト哺乳動物の作製方法が提供される。