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特許7613725診断支援装置、コンピュータプログラムおよびガス拡散能推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】診断支援装置、コンピュータプログラムおよびガス拡散能推定方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20250107BHJP
【FI】
G16H50/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021016004
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022119043
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】深津 紀暁
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕智
【審査官】酒井 恭信
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526466(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005958(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0106341(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105722460(CN,A)
【文献】特開2014-100573(JP,A)
【文献】特開2018-194463(JP,A)
【文献】特開2018-166961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイログラムである第1の呼吸機能検査と、ガス拡散能検査である第2の呼吸機能検査とを受けた複数の被験者について、前記複数の被験者の前記第1の呼吸機能検査の結果と、前記複数の被験者の前記第2の呼吸機能検査の結果であるガス拡散能の値とをもとに機械学習により構築されたモデルであって、入力された前記第1の呼吸機能検査の結果に対応する前記ガス拡散能の値を出力するモデルを記憶した記憶部にアクセス可能な診断支援装置であって、
或る被験者の前記第1の呼吸機能検査の結果を受け付ける受付部と、
前記第1の呼吸機能検査の結果を前記モデルに入力して、前記モデルから出力された前記ガス拡散能の値を取得する取得部と、
取得された前記ガス拡散能の値に関する情報を出力する出力部と、
を備え
前記モデルは、前記複数の被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像のデータにさらに基づいて構築されたものであって、入力された前記第1の呼吸機能検査の結果と、前記画像検査で得られた画像のデータとに対応する前記ガス拡散能の値を出力するものであり、
前記受付部は、前記或る被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像のデータをさらに受け付け、
前記取得部は、前記画像のデータを前記モデルにさらに入力して、前記モデルから出力された前記ガス拡散能の値を取得する、
診断支援装置。
【請求項2】
前記第1の呼吸機能検査の結果は、複数項目のデータを含み、
前記第1の呼吸機能検査の結果における各項目のデータの平均値と標準偏差を標準化する第1処理部をさらに備える、
請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記画像のデータを標準化する第2処理部をさらに備える、
請求項1または2に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記モデルは、前記第2の呼吸機能検査の結果であるガス拡散能の値の自然対数に基づいて構築されたモデルである、
請求項1からのいずれかに記載の診断支援装置。
【請求項5】
前記モデルは、ニューラルネットワークである、
請求項1からのいずれかに記載の診断支援装置。
【請求項6】
スパイログラムである第1の呼吸機能検査と、ガス拡散能検査である第2の呼吸機能検査とを受けた複数の被験者について、前記複数の被験者の前記第1の呼吸機能検査の結果と、前記複数の被験者の前記第2の呼吸機能検査の結果であるガス拡散能の値とをもとに機械学習により構築されたモデルであって、入力された前記第1の呼吸機能検査の結果に対応する前記ガス拡散能の値を出力するモデルを記憶した記憶部にアクセス可能なコンピュータに、
或る被験者の前記第1の呼吸機能検査の結果を受け付ける機能と、
前記第1の呼吸機能検査の結果を前記モデルに入力して、前記モデルから出力された前記ガス拡散能の値を取得する機能と、
取得された前記ガス拡散能の値に関する情報を出力する機能と、
を実現させ
前記モデルは、前記複数の被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像のデータにさらに基づいて構築されたものであって、入力された前記第1の呼吸機能検査の結果と、前記画像検査で得られた画像のデータとに対応する前記ガス拡散能の値を出力するものであり、
前記受け付ける機能は、前記或る被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像のデータをさらに受け付け、
前記取得する機能は、前記画像のデータを前記モデルにさらに入力して、前記モデルから出力された前記ガス拡散能の値を取得する、
コンピュータプログラム。
【請求項7】
スパイログラムである第1の呼吸機能検査と、ガス拡散能検査である第2の呼吸機能検査とを受けた複数の被験者について、前記複数の被験者の前記第1の呼吸機能検査の結果と、前記複数の被験者の前記第2の呼吸機能検査の結果であるガス拡散能の値とをもとに機械学習により構築されたモデルであって、入力された前記第1の呼吸機能検査の結果に対応する前記ガス拡散能の値を出力するモデルを記憶した記憶部にアクセス可能なコンピュータが、
或る被験者の前記第1の呼吸機能検査の結果を受け付けるステップと、
前記第1の呼吸機能検査の結果を前記モデルに入力して、前記モデルから出力された前記ガス拡散能の値を取得するステップと、
取得した前記ガス拡散能の値に関する情報を出力するステップと、
を実行し、
前記モデルは、前記複数の被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像のデータにさらに基づいて構築されたものであって、入力された前記第1の呼吸機能検査の結果と、前記画像検査で得られた画像のデータとに対応する前記ガス拡散能の値を出力するものであり、
前記受け付けるステップは、前記或る被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像のデータをさらに受け付け、
前記取得するステップは、前記画像のデータを前記モデルにさらに入力して、前記モデルから出力された前記ガス拡散能の値を取得する、
ガス拡散能推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理技術に関し、特に診断支援装置、コンピュータプログラムおよびガス拡散能推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基本的な呼吸機能検査としてスパイログラムが知られている。スパイログラムは、深呼吸した被験者の吸気量と呼気量を測定し、被験者の呼吸の能力を調べる検査である。一方、呼吸器疾患を精度よく識別し、また病状を正しく評価するために、精密呼吸機能検査が行われることがある。精密呼吸機能検査ではガス拡散能が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-526466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
精密呼吸機能検査は、比較的大型の専用設備が必要であり、検査時間が長く(約1時間)、被験者の負担も大きく、感染症リスクも高いため、頻繁に行うことが難しい。そのため、呼吸器内科以外の医師や開業医から専門医への紹介が遅れてしまうという問題があり、呼吸器内科においても病状進行の把握が遅れてしまうという問題があった。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、1つの目的は、精密呼吸機能検査を要さずに被験者のガス拡散能を推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の診断支援装置は、相対的に実施が容易な第1の呼吸機能検査と、相対的に実施が困難な第2の呼吸機能検査とを受けた複数の被験者について、複数の被験者の第1の呼吸機能検査の結果と、複数の被験者の第2の呼吸機能検査の結果であるガス拡散能とをもとに機械学習により構築されたモデルであって、入力された第1の呼吸機能検査の結果に対応するガス拡散能の値を出力するモデルを記憶する記憶部にアクセス可能な診断支援装置であって、或る被験者の第1の呼吸機能検査の結果を受け付ける受付部と、第1の呼吸機能検査の結果をモデルに入力して、モデルから出力されたガス拡散能の値を取得する取得部と、取得されたガス拡散能の値に関する情報を出力する出力部とを備える。
【0007】
本開示の別の態様は、ガス拡散能推定方法である。この方法は、相対的に実施が容易な第1の呼吸機能検査と、相対的に実施が困難な第2の呼吸機能検査とを受けた複数の被験者について、複数の被験者の第1の呼吸機能検査の結果と、複数の被験者の第2の呼吸機能検査の結果であるガス拡散能とをもとに機械学習により構築されたモデルであって、入力された第1の呼吸機能検査の結果に対応するガス拡散能の値を出力するモデルを記憶する記憶部にアクセス可能なコンピュータが、或る被験者の第1の呼吸機能検査の結果を受け付けるステップと、第1の呼吸機能検査の結果をモデルに入力して、モデルから出力されたガス拡散能の値を取得するステップと、取得したガス拡散能の値に関する情報を出力するステップとを実行する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を、システム、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、精密呼吸機能検査を要さずに被験者のガス拡散能を推定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施例の診断支援システムの構成を示す図である。
図2図2(a)と図2(b)は、被験者の基本データに対する前処理の例を示す図である。
図3図3(a)と図3(b)は、被験者の精密呼吸機能検査の結果に対する前処理の例を示す図である。
図4】第1実施例の病態指標導出モデルのネットワーク構成を示す図である。
図5】被験者のレントゲン画像に対する前処理の例を示す図である。
図6】被験者のレントゲン画像に対する前処理の例を示す図である。
図7】第2実施例の病態指標導出モデルのネットワーク構成を示す図である。
図8図8(a)と図8(b)は、病態指標導出モデルの推定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施例では、呼吸器疾患に対する診断を支援する情報処理システムである診断支援システムを提案する。実施例の診断支援システムでは、被験者の基本的な呼吸機能検査(以下「基本呼吸機能検査」とも呼ぶ。)の結果をもとに、精密呼吸機能検査の結果である被験者のガス拡散能を推定する。基本呼吸機能検査は、相対的に実施が容易な呼吸機能検査と言え、スパイログラムとも呼ばれる。精密呼吸機能検査は、相対的に実施が困難な呼吸機能検査と言える。ガス拡散能は、「肺拡散能」、「DLCO」とも呼ばれ、肺胞から肺胞上皮および毛細血管内皮を介して赤血球へガスを運搬する能力である。実施例では、ガス拡散能の指標値として、ガスの運搬割合を示すDLCO%を用いる。DLCO%が大きいほどガス拡散能は良好と判断される。
【0012】
<第1実施例>
図1は、第1実施例の診断支援システム10の構成を示す。診断支援システム10は、モデル生成装置12、診断支援装置14、ユーザ装置16を備える。これらの各装置は、1つの筐体に格納されていてもよく、また、LAN・WAN・インターネット等の通信網を介して、互いにデータを送受信可能に接続されていてもよい。
【0013】
モデル生成装置12は、複数の被験者に対する基本呼吸機能検査の結果と、それら複数の被験者に対する精密呼吸機能検査の結果得られたガス拡散能(DLCO%)の値とをもとに、入力された基本呼吸機能検査の結果に対応するガス拡散能(DLCO%)の値を出力するモデル(以下「病態指標導出モデル」とも呼ぶ。)を機械学習により生成する情報処理装置(言い換えればコンピュータ)である。病態指標導出モデルは、数理モデルであってもよく、実施例ではニューラルネットワークである。
【0014】
診断支援装置14は、モデル生成装置12により生成された病態指標導出モデルを使用して、被験者の基本呼吸機能検査の結果に対応するガス拡散能(DLCO%)を推定し、ガス拡散能(DLCO%)に関する情報を出力する情報処理装置である。ユーザ装置16は、被験者の基本呼吸機能検査の結果を診断支援装置14へ入力し、診断支援装置14から出力されたDLCO(DLCO%)に関する情報を表示装置に表示させる情報処理装置である。ユーザ装置16は、医師や臨床検査技師等の医療従事者により操作されるPC、タブレット端末、スマートフォンであってもよい。
【0015】
図1のモデル生成装置12について詳細に説明する。
図1は、モデル生成装置12の機能ブロックを示すブロック図を含む。本明細書のブロック図で示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
モデル生成装置12は、検査情報記憶部20、読込部22、前処理部24、モデル生成部26、モデル出力部28を備える。これら複数の機能ブロックのうち少なくとも一部の機能ブロックの機能が実装されたコンピュータプログラム(例えばモデル生成プログラム)は、非一時的な所定の記録媒体に格納され、その記録媒体を介してモデル生成装置12のストレージにインストールされてもよい。または、モデル生成プログラムは、ネットワークを介してダウンロードされ、モデル生成装置12のストレージにインストールされてもよい。モデル生成装置12のCPUは、モデル生成プログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、図1に示す複数の機能ブロックの機能を発揮してもよい。
【0017】
検査情報記憶部20は、基本呼吸機能検査と精密呼吸機能検査の両方を受けた複数の被験者について、各被験者の基本データと精密呼吸機能検査の結果(実施例ではDLCO%)とを対応付けて記憶する。基本データは、身体情報を示す4項目のデータ(身長、体重、年齢、性別)を含む。基本データはさらに、基本呼吸機能検査の結果として得られた19項目のデータを含む。
【0018】
基本呼吸機能検査の結果である19項目のデータは、VC(肺活量、単位L(リットル))、TV(1回換気量、単位L)、ERV(予備呼気量、単位L)、IRV(予備吸気量、単位L)、IC(最大吸気量、単位L)、FRC(機能的残気量、単位L)、RV(残気量、単位L)、TLC(全肺気量、単位L)、RV/TLC(残気率、単位%)、FVC(努力性肺活量、単位L)、FEV1.0(1秒量、単位L)、FEV1.0%(G)(Gaenlserの1秒率、単位%)、FEV1.0%(T)(Tiffenaeuの1秒率、単位%)、MMEF(最大呼気流量比、単位L/秒)、AT(変曲点(嫌気性閾値)、単位%)、PEF(最大呼気流量、単位L/秒)、V50(50%呼気速度、単位L/秒)、V25(25%呼気速度、単位L/秒)、V25/身長(単位L/秒/メートル)を含む。
【0019】
読込部22は、検査情報記憶部20に記憶された複数の被験者の基本データと、精密呼吸機能検査の結果(DLCO%)を読み込む。前処理部24は、読込部22により読み込まれた基本データに対する前処理と、精密呼吸機能検査の結果(DLCO%)に対する前処理を実行する。
【0020】
具体的には、前処理部24は、複数の被験者の23項目の基本データ(4項目の身体情報+19項目の基本呼吸機能検査の結果)について、各項目のデータの平均値と標準偏差を標準化し、標準化した結果を学習データとして得る。具体的には、前処理部24は、各項目のデータの平均値が0、標準偏差が1となるように、各項目のデータの値を変換する。
【0021】
図2(a)と図2(b)は、被験者の基本データに対する前処理の例を示す。図2(a)は、オリジナルの基本データの分布の例を示す。図2(a)の横軸は、データの値(例えば基本呼吸機能検査での測定値)であり、図2(a)の縦軸は、データ数(度数)である。図2(b)は、前処理後のデータの分布を示す。図2(b)の横軸は偏差であり、図2(b)の縦軸はデータ数(度数)である。基本データの各項目のデータの平均値と標準偏差を標準化することにより、項目ごとのデータの格差を是正し、病態指標導出モデルの推定精度を高めることができる。
【0022】
また、前処理部24は、精密呼吸機能検査の結果であるガス拡散能(DLCO%)の値の自然対数を学習データとして得る。図3(a)と図3(b)は、被験者の精密呼吸機能検査の結果であるガス拡散能(DLCO%)に対する前処理の例を示す。図3(a)は、オリジナルのガス拡散能の分布の例を示す。図3(a)の横軸は、ガス拡散能(DLCO%)の値(精密呼吸機能検査での測定値)であり、図3(a)の縦軸は、データ数(度数)である。図3(b)は、前処理後のデータの分布を示す。図3(b)の横軸は、ガス拡散能(DLCO%)の値(精密呼吸機能検査での測定値)の自然対数であり、図3(b)の縦軸は、データ数(度数)である。前処理により、ガス拡散能の分布が正規分布に近づくため、病態指標導出モデルの推定精度を高めることができる。
【0023】
図1に戻り、モデル生成部26は、複数の被験者それぞれの基本データ(前処理後の基本データ)と、上記複数の被験者それぞれのガス拡散能(前処理後のガス拡散能の値)とをもとに、機械学習により病態指標導出モデルを生成する。第1実施例では、モデル生成部26は、病態指標導出モデルとして、入力された基本データ(前処理後の基本データ)をもとに当該基本データに対応するガス拡散能(DLCO%)を出力するニューラルネットワークを構築する。
【0024】
図4は、第1実施例の病態指標導出モデルのネットワーク構成を示す。第1実施例の病態指標導出モデルは、入力層、全結合層、バッチ正規化層、アクティベーション層、ドロップアウト層を含む10層のニューラルネットワークである。図4の入力層40は、前処理後の23項目の基本データの入力を受け付ける。次の全結合層では、入力された23項目の基本データに対応する23個のニューロンが、1024個のニューロンに全結合される。最後のアクティベーション層42は、出力層とも言え、1つのDLCO%の指標値を出力する。病態指標導出モデルに配置された複数のアクティベーション層のうち最後以外のアクティベーション層で用いる活性化関数は「relu」であり、最後のアクティベーション層42で用いる活性化関数は「linear」である。ドロップアウト層のドロップアウト率は0.5である。
【0025】
モデル生成部26は、Keras等の公知のライブラリまたはフレームワークを使用して病態指標導出モデル(ニューラルネットワーク)を生成してもよい。病態指標導出モデルのネットワーク構成、ニューロン間の重みやバイアス、活性化関数の種類、ドロップアウト率は、開発者の知見、検証データやテストデータを用いた実験等により適切なものが設定または選択されてもよい。
【0026】
図1に戻り、モデル出力部28は、モデル生成部26が生成した病態指標導出モデルのデータを診断支援装置14へ送信し、診断支援装置14のモデル記憶部30に病態指標導出モデルのデータを記憶させる。
【0027】
次に、図1の診断支援装置14について詳細に説明する。
診断支援装置14は、モデル記憶部30、検査情報受付部32、前処理部34、DLCO取得部36、診断支援情報出力部38を備える。これら複数の機能ブロックのうち少なくとも一部の機能ブロックの機能が実装されたコンピュータプログラム(例えば診断支援プログラム)は、非一時的な所定の記録媒体に格納され、その記録媒体を介して診断支援装置14のストレージにインストールされてもよい。または、診断支援プログラムは、ネットワークを介してダウンロードされ、診断支援装置14のストレージにインストールされてもよい。診断支援装置14のCPUは、診断支援プログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、図1に示す複数の機能ブロックの機能を発揮してもよい。
【0028】
モデル記憶部30は、モデル生成装置12から提供された病態指標導出モデルのデータを記憶する。変形例として、モデル生成装置12が、病態指標導出モデルを記憶する記憶部を備え、診断支援装置14は、通信網を介して、モデル生成装置12に記憶された病態指標導出モデルを参照してもよい。すなわち、診断支援装置14は、病態指標導出モデルを記憶する記憶部にアクセス可能であればよく、言い換えれば、ローカルまたはリモートの記憶部に記憶された病態指標導出モデルを参照可能な構成であればよい。
【0029】
検査情報受付部32は、ユーザ装置16から送信された、ガス拡散能(DLCO%)の推定対象となる被験者(以下「対象被験者」とも呼ぶ。)の基本データ(身体情報および基本呼吸機能検査の結果である23項目のデータ)を受け付ける。対象被験者は、典型的には、病態指標導出モデルの生成に用いた基本データおよびガス拡散能の提供元である被験者とは異なる。また、対象被験者は、典型的には、精密呼吸機能検査を行うことなく、基本呼吸機能検査の結果からガス拡散能の推定値を得ようとする被験者である。
【0030】
前処理部34は、モデル生成装置12の前処理部24に対応する。前処理部34は、第1処理部として、病態指標導出モデルへのデータ入力の前処理として、検査情報受付部32により受け付けられた23項目の基本データについて各項目のデータの平均値と標準偏差を標準化する。例えば、前処理部34は、対象被験者の基本データと、他の被験者の基本データとを母集団として、基本データの各項目のデータの平均値が0、標準偏差が1となるように、対象被験者の基本データの各項目の値を変換する。他の被験者の基本データは、例えば、診断支援装置14に入力された対象被験者以外の被験者の基本データであってもよく、病態指標導出モデル作成時に用いられた被験者の基本データであってもよい。
【0031】
DLCO取得部36は、モデル記憶部30に記憶された病態指標導出モデルに対して、前処理部34により標準化された基本データを入力する。DLCO取得部36は、病態指標導出モデルから出力された、上記入力した基本データに対応するガス拡散能の指標値を取得する。病態指標導出モデルから出力されるガス拡散能の推定値は、ガス拡散能(DLCO%)の自然対数になる。そのため、DLCO取得部36は、病態指標導出モデルから出力されたガス拡散能の指標値をもとに、e(ネイピア数)を底、指標値を指数として冪乗することにより元のスケールに戻す。DLCO取得部36は、eを底、指標値を指数として冪乗した結果を、被験者のガス拡散能の推定値として診断支援情報出力部38に渡す。
【0032】
診断支援情報出力部38は、DLCO取得部36から出力されたガス拡散能(DLCO%)の推定値に関する診断支援情報を外部装置(実施例では基本データ入力元であるユーザ装置16)へ出力する。診断支援情報は、ガス拡散能(DLCO%)の推定値そのものを含んでもよい。また、診断支援情報は、ガス拡散能(DLCO%)の基準値を含んでもよく、ガス拡散能(DLCO%)の推定値と基準値との比較結果を示す情報を含んでもよい。
【0033】
変形例として、診断支援情報出力部38は、診断支援装置14ローカルの記憶装置(不図示)に診断支援情報を格納してもよい。または、診断支援情報出力部38は、通信網を介して、リモートの記憶装置(不図示)に診断支援情報を格納してもよい。これらの記憶装置に格納された診断支援情報は、ユーザ装置16からの要求に応じて、ユーザ装置16に提供されてもよい。また、診断支援装置14が表示装置(不図示)を備え、または表示装置と接続される場合、診断支援情報出力部38は、診断支援情報をその表示装置に表示させてもよい。
【0034】
以上の構成による診断支援システム10の動作を以下説明する。
まず、病態指標導出モデルの生成に関する動作を説明する。モデル生成装置12の読込部22は、検査情報記憶部20に記憶された複数の被験者の基本データと精密呼吸機能検査の結果(DLCO%)を読み込む。モデル生成装置12の前処理部24は、複数の被験者の基本データの各項目の値を標準化し、また、複数の被験者のDLCO%の自然対数を取得する。
【0035】
モデル生成装置12のモデル生成部26は、複数の被験者に対応する複数の組であって、標準化された基本データとDLCO%の自然対数との複数の組を識別する。モデル生成部26は、それら複数組のデータに基づく機械学習を実行して、各被験者の基本データに対応(整合)するDLCO%の指標値を出力するようにニューロン間の重みとバイアスを決定することで病態指標導出モデル(ニューラルネットワーク)を生成する。モデル生成装置12のモデル出力部28は、病態指標導出モデルのデータを診断支援装置14へ送信し、病態指標導出モデルのデータを診断支援装置14に記憶させる。
【0036】
モデル生成装置12の検査情報記憶部20に記憶される被験者の検査情報(基本データおよびDLCO%)は、随時更新されてよい。例えば、ユーザ装置16は、新たな検査情報をモデル生成装置12の検査情報記憶部20に随時格納してもよい。モデル生成装置12のモデル生成部26は、更新された検査情報をもとに、それまでの病態指標導出モデルとはニューロン間の重みまたはバイアスが異なる新たな病態指標導出モデルを生成してもよい。モデル出力部28は、新たな病態指標導出モデルを診断支援装置14へ送信して、診断支援装置14のモデル記憶部30に記憶された病態指標導出モデルを更新してもよい。このように、病態指標導出モデルの更新が繰り返し実行されてもよい。
【0037】
次に、病態指標導出モデルを利用した被験者のガス拡散能推定に関する動作を説明する。
ユーザ装置16は、医療従事者等の操作に応じて、ガス拡散能を推定すべき対象被験者の基本データを診断支援装置14へ送信する。対象被験者の基本データは、所定の検査装置(例えばスパイロメータ)により測定された基本呼吸機能検査の結果と、身体情報とを含む23項目のデータである。診断支援装置14は、診断支援サービスのAPI(Webサービス等)を外部装置に公開してもよい。ユーザ装置16は、被験者の基本データを引数としてそのAPIをコールすることにより、診断支援装置14に診断支援サービス(具体的には下記の処理)を実行させてもよい。
【0038】
診断支援装置14の検査情報受付部32は、ユーザ装置16から送信された対象被験者の基本データ(23項目)を受け付ける。診断支援装置14の前処理部34は、対象被験者の基本データの各項目の値を標準化する。診断支援装置14のDLCO取得部36は、対象被験者の基本データ(23項目)の標準化後の値を病態指標導出モデルに入力し、入力値に対応するDLCO%の指標値を病態指標導出モデルから取得する。DLCO取得部36は、病態指標導出モデルから取得したDLCO%の指標値をもとに、eを底、指標値を指数として冪乗することで、対象被験者のDLCO%の推定値を得る。診断支援装置14の診断支援情報出力部38は、対象被験者のDLCO%の推定値に関する診断支援情報をユーザ装置16に提供して表示させる。
【0039】
第1実施例の診断支援システム10によると、実施が容易でない精密呼吸機能検査を要さずに、被験者の基本的な呼吸機能検査の結果から被験者のガス拡散能を推定することができる。これにより、肺疾患が疑われる被験者の負担を低減しつつ、迅速な疾患の識別と病状の評価を支援することができる。
【0040】
<第2実施例>
本開示の第2実施例について、第1実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を省略する。第2実施例の特徴は、第1実施例の特徴および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第2実施例の構成要素のうち第1実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0041】
第2実施例の診断支援システム10の構成は、第1実施例の診断支援システム10の構成と同様である。また、第2実施例のモデル生成装置12が備える機能ブロックは、第1実施例のモデル生成装置12が備える機能ブロックと同様であり、第2実施例の診断支援装置14が備える機能ブロックも、第1実施例の診断支援装置14が備える機能ブロックと同様である。
【0042】
第2実施例における病態指標導出モデルは、第1実施例における病態指標導出モデルと異なり、複数の被験者の基本的な呼吸機能検査の結果と、上記複数の被験者の呼吸器に関する画像検査で得られた画像データと、上記複数の被験者の精密呼吸機能検査の結果であるガス拡散能とをもとに機械学習により構築されたモデルである。また、第2実施例における病態指標導出モデルは、入力された基本的な呼吸機能検査の結果と、呼吸器の画像データとに対応するガス拡散能の値を出力するものである。
【0043】
図1を参照して、第2実施例の診断支援システム10の構成(主に第1実施例との差分)を説明する。モデル生成装置12の検査情報記憶部20は、複数の被験者の基本データと精密呼吸機能検査の結果(DLCO%)とを対応付けて記憶する。第2実施例の基本データは、身体情報を示す4項目のデータと、基本呼吸機能検査の結果として得られた19項目のデータと、被験者の呼吸器に関する画像検査(第2実施例ではX線撮影検査)で得られた画像データ(以下「レントゲン画像」とも呼ぶ。)を含む。
【0044】
モデル生成装置12の前処理部24は、第1実施例の前処理に加えて、レントゲン画像に対する前処理を実行する。前処理部24は、複数の被験者の複数のレントゲン画像を標準化する。図5は、被験者のレントゲン画像に対する前処理の例を示す。図5のオリジナル画像50は、前処理前のレントゲン画像である。オリジナル画像50は、2208×2208ピクセルであり、各ピクセル値は0~255の範囲の値である。前処理部24は、ライブラリOpenCVのresize関数を用いて、オリジナル画像50を、221×221ピクセルの変換後画像52に変換する。また、前処理部24は、変換後画像52の各ピクセル値を255で除算することで、各ピクセル値を0~1の範囲の値に変換する。
【0045】
図6も、被験者のレントゲン画像に対する前処理の例を示す。図6のオリジナル画像54も、前処理前のレントゲン画像である。オリジナル画像54は、2688×2208ピクセルであり、各ピクセル値は0~255の範囲の値である。前処理部24は、オリジナル画像54の左端および右端の240ピクセルの領域を削除し、オリジナル画像54の残りの領域を、221×221ピクセルの変換後画像52に変換する。また、前処理部24は、変換後画像52の各ピクセル値を255で除算することで、各ピクセル値を0~1の範囲の値に変換する。
【0046】
図6のオリジナル画像56も、前処理前のレントゲン画像である。オリジナル画像56は、2208×2688ピクセルであり、各ピクセル値は0~255の範囲の値である。前処理部24は、オリジナル画像54の下端480ピクセルの領域を削除し、オリジナル画像54の残りの領域を、221×221ピクセルの変換後画像52に変換する。また、前処理部24は、変換後画像52の各ピクセル値を255で除算することで、各ピクセル値を0~1の範囲の値に変換する。
【0047】
図1に戻り、モデル生成装置12のモデル生成部26は、複数の被験者それぞれの前処理後の基本データと、上記複数の被験者それぞれの前処理後のガス拡散能の値とをもとに、機械学習により病態指標導出モデル(ニューラルネットワーク)を生成する。前処理後の基本データは、前処理後のレントゲン画像のデータを含む。
【0048】
図7は、第2実施例の病態指標導出モデルのネットワーク構成を示す。第2実施例の病態指標導出モデルは、入力層、2D畳み込み層、全結合層、バッチ正規化層、最大プーリング層、アクティベーション層、連結層、ドロップアウト層、フラット化層を含む54層のニューラルネットワークである。第2実施例の病態指標導出モデルは、複数個の入力層(入力層60、入力層64)を備えるマルチ入力モデルとも言える。
【0049】
第1の入力層である入力層60は、221×221ピクセルの変換後画像52のデータの入力を受け付ける。アクティベーション層62は、1次元64個のデータを出力する。入力層60とアクティベーション層62の間には、畳み込み処理を行う2D畳み込み層が複数個設けられ、また、2次元配列を1次元配列に変換するフラット化層が設けられる。
【0050】
第2の入力層である入力層64は、前処理後の23項目の基本データ(身体情報および基本呼吸機能検査の結果)の入力を受け付ける。連結層66では、アクティベーション層62からの出力データと、入力層64からの出力データとが連結される。最後のアクティベーション層68は、出力層とも言え、1つのDLCO%の指標値を出力する。病態指標導出モデルに配置された複数のアクティベーション層のうち最後以外のアクティベーション層で用いる活性化関数は「relu」であり、最後のアクティベーション層68で用いる活性化関数は「linear」である。ドロップアウト層のドロップアウト率は0.5である。
【0051】
図1に戻り、診断支援装置14の検査情報受付部32は、ユーザ装置16から送信された、対象被験者の基本データ(身体情報、基本呼吸機能検査の結果およびレントゲン画像)を受け付ける。診断支援装置14の前処理部34は、第1処理部として、第1実施例の前処理を実行し、それに加えて、第2処理部として、対象被験者のレントゲン画像に対する前処理を実行する。具体的には、前処理部34は、第2処理部として、モデル生成装置12の前処理部24と同様に、対象被験者のレントゲン画像のデータ(サイズおよびピクセル値範囲)を標準化する。
【0052】
診断支援装置14のDLCO取得部36は、モデル記憶部30に記憶された病態指標導出モデル(図7のマルチ入力モデル)に対して、前処理部34により標準化された基本データ(身体情報、基本呼吸機能検査の結果およびレントゲン画像)を入力する。DLCO取得部36は、病態指標導出モデルから出力された、上記入力した基本データに対応するDLCO%の指標値を取得する。
【0053】
第2実施例の病態指標導出モデルの生成に関する動作は、第1実施例の病態指標導出モデルの生成に関する動作と同様である。以下、第2実施例の病態指標導出モデルを利用した被験者のガス拡散能推定に関する動作を説明する。
【0054】
ユーザ装置16は、医療従事者等の操作に応じて、ガス拡散能を推定すべき対象被験者の基本データを診断支援装置14へ送信する。対象被験者の基本データは、所定の検査装置(例えばスパイロメータ)により測定された基本呼吸機能検査の結果と、身体情報と、被験者の呼吸器が映るレントゲン画像とを含む。診断支援装置14の検査情報受付部32は、ユーザ装置16から送信された対象被験者の基本データを受け付ける。
【0055】
診断支援装置14の前処理部34は、対象被験者の基本データの各項目の値を標準化し、例えば、対象被験者のレントゲン画像のサイズと値範囲を標準化する。診断支援装置14のDLCO取得部36は、対象被験者の標準化後の基本データを病態指標導出モデル(マルチ入力モデル)に入力し、入力値に対応するDLCO%の指標値を病態指標導出モデルから取得する。DLCO取得部36は、病態指標導出モデルから取得したDLCO%の指標値をもとに、eを底、指標値を指数として冪乗することで、対象被験者のDLCO%の推定値を得る。診断支援装置14の診断支援情報出力部38は、対象被験者のDLCO%の推定値に関する診断支援情報をユーザ装置16に提供して表示させる。
【0056】
第2実施例の診断支援システム10も、第1実施例の診断支援システム10と同様の効果を奏する。また、第2実施例の診断支援システム10では、病態指標導出モデルへの入力信号に、被験者のレントゲン画像のデータを加えることで、被験者のガス拡散能の推定精度を高めやすくなる。また、レントゲン画像の態様(サイズや輝度、コントラスト比等)は医療機関や技師によって異なり得るが、前処理においてレントゲン画像を標準化することにより、様々な態様のレントゲン画像が入力された場合であっても、被験者のガス拡散能の推定精度の低下を抑制することができる。
【0057】
第1実施例および第2実施例の病態指標導出モデルによる推定結果を説明する。
本発明者は、A病院の患者218例のうち124例のデータを、病態指標導出モデルを構築するための訓練データ(言い換えれば学習データ)として使用し、62例のデータを、病態指標導出モデルを検証するための検証データとして使用し、32例のデータを、病態指標導出モデルに対するテストデータとして使用した。各患者のデータは、各患者の基本データ(身体情報、基本呼吸機能検査の結果およびレントゲン画像)と、精密呼吸機能検査の結果(DLCO%)とを含む。
【0058】
図8(a)は、検証データを用いた場合の病態指標導出モデルの推定結果を示し、図8(b)は、テストデータを用いた場合の病態指標導出モデルの推定結果を示す。図8(a)と図8(b)に示すように、検証データを用いた場合とテストデータを用いた場合のいずれにおいても、第2実施例の病態指標導出モデル(図7のマルチ入力モデル)の方が平均絶対誤差と相関係数の両方でより良い結果となった。また、第1実施例の病態指標導出モデル(図4の値入力モデル)についても、精密呼吸機能検査の結果(DLCO%)の推定に有用な精度であることが確認された。なお、今後、学習データとするレントゲン画像の枚数や態様を拡張することにより、第2実施例の病態指標導出モデル(マルチ入力モデル)の推定精度は一層向上すると考えられる。
【0059】
以上、本開示を第1実施例と第2実施例をもとに説明した。これらの実施例は例示であり、実施例に記載の各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を示す。
【0060】
第1変形例を説明する。第1実施例および第2実施例では、病態指標導出モデルが出力するデータは、DLCO%としたが、DLCOの値であってもよい。
【0061】
第2変形例を説明する。第1実施例または第2実施例の診断支援装置14の機能は、基本呼吸機能検査を実行する専用装置(例えばスパイロメータ)に組み込まれてもよい。本変形例の呼吸機能検査装置は、(1)病態指標導出モデルを記憶してもよい。また、(2)被験者の身体情報(もしくは身体情報とレントゲン画像)の入力を受け付けてもよい。さらにまた、(3)基本呼吸機能検査を行うとともに、その検査結果と被験者の身体情報(またはさらにレントゲン画像)をもとに、被験者のガス拡散能を推定してもよい。さらにまた、(4)基本呼吸機能検査の結果とともに、ガス拡散能(DLCOの値またはDLCO%)を出力してもよい。この変形例によると、第1実施例または第2実施例の診断支援装置14の機能を備える呼吸機能検査装置(例えばスパイロメータ)を実現できる。
【0062】
第3変形例を説明する。第1実施例および第2実施例では、病態指標導出モデルをニューラルネットワークにより実現したが、変形例として、他の機械学習の手法により病態指標導出モデルとしての数理モデルまたは関数を構築してもよい。例えば、モデル生成装置12のモデル生成部26は、入力された被験者の基本データからガス拡散能の値(または値範囲)を推定するサポートベクターマシンの病態指標導出モデルを生成してもよい。別の例として、モデル生成部26は、被験者の基本データを説明変数とし、ガス拡散能の値(または値範囲)を目的変数とする重回帰分析を実行して、入力された基本データをもとにガス拡散能を推定する回帰式を病態指標導出モデルとして生成してもよい。
【0063】
上述した実施例および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【符号の説明】
【0064】
10 診断支援システム、 12 モデル生成装置、 14 診断支援装置、 16 ユーザ装置、 30 モデル記憶部、 32 検査情報受付部、 34 前処理部、 36 DLCO取得部、 38 診断支援情報出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8