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特許7613750ドナーアポトーシス白血球が誘導する移植免疫寛容のバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ドナーアポトーシス白血球が誘導する移植免疫寛容のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20250107BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20250107BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N33/48 M ZNA
C12N5/0783
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021561700
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 US2020028575
(87)【国際公開番号】W WO2020214849
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】62/834,798
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】へリング, バーナード ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラマチャンドラン, サバリナサン
(72)【発明者】
【氏名】シン, アマール
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】Transplantation,2017年,Vol.101, No.11,pp.2682-2690
【文献】Nature Medicine,2013年,Vol.19,pp.739-746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御性T細胞1型(Tr1)細胞の出現率を、移植片レシピエント患者が一過性免疫療法に乗じて投与された1またはそれ以上のドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有するかどうかの指標とする方法であって、以下:
(a)前記移植片レシピエント患者由来の第一血液試料をアッセイしてTr1細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし前記第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得られている、ならびに
(b)前記移植片レシピエント患者由来の第二血液試料をアッセイしてTr1細胞の出現率を検出すること、ただし前記第二血液試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得られている、
を含み、
前記第二血液試料におけるTr1細胞の出現率がTr1細胞の前記ベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、前記移植片レシピエント患者は、前記1またはそれ以上のドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有するとして示され、
前記Tr1細胞は、マーカーCD49b、LAG-3、CD4を有
前記Tr1細胞の出現率は、血液試料中のTr1細胞の割合であり、
前記1またはそれ以上のドナー抗原が、ドナーアポトーシス白血球(ADL)、ドナーペプチドを結合させたドナー特異的輸注(DST)ナノ粒子、ドナーペプチドを封入したDSTナノ粒子、および/またはドナーペプチドを結合させたレシピエントアポトーシス白血球を含む、前記方法。
【請求項2】
制御性T細胞1型(Tr1)細胞の出現率を、移植片レシピエント患者が1またはそれ以上のドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有するかどうかの指標とする方法であって、以下:
(a)移植片レシピエント患者から得られた第一血液試料をアッセイしてTr1細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし前記第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得られている、
(b)前記患者から得られた第二血液試料をアッセイしてTr1細胞の出現率を検出すること、ただし前記第二血液試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得られている、
を含み、
前記第二血液試料におけるTr1細胞の出現率が前記ベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、前記移植片レシピエント患者は、一過性免疫療法に乗じて注入された1またはそれ以上のドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有するとして示され、
前記Tr1細胞は、マーカーCD49b、LAG-3、CD4を有
前記Tr1細胞の出現率は、血液試料中のTr1細胞の割合であり、
前記1またはそれ以上のドナー抗原が、ドナーアポトーシス白血球(ADL)を含む、前記方法。
【請求項3】
前記移植片レシピエント患者が前記1またはそれ以上のドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有するとして示された場合、前記移植片レシピエント患者は、免疫抑制剤の投与を止めることにより治療されると示される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する前記Tr1細胞の間接的特異性を決定することをさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記Tr1細胞のトランスクリプトーム符号を同定することをさらに含み、前記トランスクリプトーム符号は抗原特異的シグナル伝達を示すマーカーを含む、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号は、SH2D2aである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、活性化状態を示す前記Tr1細胞のトランスクリプトーム符号を同定することをさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
活性化状態を示す前記トランスクリプトーム符号は、ミトコンドリア呼吸関連転写物NDUFS4である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)における全CD4T細胞中のCD49bLAG-3CD4(Tr1)細胞の前記出現率は、マルチパラメトリックフローサイトメトリーで特定される、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)における全CD4T細胞中のCD49bLAG-3CD4(Tr1)細胞の前記出現率は、CyTOFマスサイトメトリーで特定される、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記移植片レシピエント患者は、移植の7日前に、ドナーアポトーシス白血球の静脈内注入を2回受けている、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記一過性免疫療法は、少なくとも1種の免疫抑制剤を含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫抑制剤は、CD40:CD40L共刺激の阻害剤、mTOR阻害剤、及び炎症促進性サイトカインを標的とする併用抗炎症治療薬である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
CD40:CD40L共刺激の前記阻害剤は、アンタゴニスト抗CD40抗体、Fc改変抗CD40L抗体、Fab’抗CD40L抗体、またはCD40:CD40L共刺激に干渉するペプチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
CD40:CD40L共刺激の前記阻害剤は、アンタゴニスト抗CD40 mAb 2C10R4である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記mTOR阻害剤は、ラパマイシンである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記一過性免疫療法は、抗炎症剤を含む、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗炎症剤は、αIL-6R及び/またはsTNFRである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抗炎症剤は、αIL-6Rであり、及び前記αIL-6Rは、トシリズマブである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗炎症剤は、sTNFRであり、及び前記sTNFRは、エタネルセプトである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記移植片レシピエント患者は、同種移植片を受けている、請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記同種移植片は、固形臓器同種移植片である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記固形臓器同種移植片は、膵臓移植片、肝臓移植片、腸移植片、心臓移植片、腎臓移植片、肺移植片、または子宮移植片を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
記固形臓器同種移植片は、腎臓移植片である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記腎臓移植片は、生体ドナー腎臓移植片である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記同種移植片は、組織同種移植片である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記組織同種移植片は、脂肪組織、羊膜組織、絨毛組織、結合組織、硬膜、顔面組織、腸管組織、腺組織、肝臓組織、筋組織、神経組織、眼球組織、膵臓組織、心膜、骨格組織、皮膚組織、泌尿生殖器組織、または血管組織を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記同種移植片は、細胞移植片である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞移植片は、膵島細胞、肝細胞、筋芽細胞、胚幹細胞由来分化細胞移植片、誘導型多能性幹細胞由来分化細胞移植片、または骨髄移植片を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記胚幹細胞由来分化細胞移植片は、膵島移植または膵島ベータ細胞移植片である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記誘導型多能性幹細胞由来分化細胞移植片は、膵島移植または膵島ベータ細胞移植片である、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年4月16日に出願された米国仮出願第62/834,798号の優先権を主張する。上記参照される出願の全内容は、そのまま全体が本明細書中参照として援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記述
本発明は、国立衛生研究所より授与されたAI102463の下、政府からの支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
末期臓器不全の多くの患者にとって、移植は、最も有効な治療選択肢となってきた。現行の免疫抑制レジメンは、急性拒絶を有効に防止するが、慢性拒絶については、それらレジメンの罹病率の高さ及び慢性拒絶防止に対する効果の欠如という深刻な問題が依然としてある。慢性的に免疫抑制された移植レシピエント数は増加し続けているが、これらレシピエントはこうした問題に苦しみ続けており、レシピエントの生存率にも悪影響が出ている。同種移植片に免疫寛容を誘導すれば、維持免疫療法の必要性がなくなり、長期同種移植片生着率が改善されると思われる。しかし、免疫寛容は、65年よりも昔に小動物モデルで最初に実証され、その臨床的意義があるにもかかわらず、これが実現しているのは、混合増血キメラを通じたごくわずかな患者においてのみであり、この場合、広大な条件付け療法が必要とされる。同様に、サルでの翻訳モデルにおいて、混合キメラのみが、同一ドナー腎臓同種移植片に対してほぼ一貫して免疫慣用を誘導した。
【0004】
非ヒト霊長類研究では、ドナーアポトーシス白血球レジメンは、一貫して有効であり、集中短期免疫療法をほとんど必要としなかった。有効性及び非常に好ましい安全性プロファイルという理由から、このレジメンは、初めての臨床応用可能な非キメラ移植免疫寛容レジメンである。ヒトレシピエントにおける移植免疫寛容の誘導、維持、及び喪失をモニタリングするためのバイオマーカーが、必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒトレシピエントにおいて固形臓器、組織、及び細胞同種移植片の免疫寛容の誘導、維持、及び喪失をモニタリングするためのバイオマーカーを特定する。
【0006】
ある特定の実施形態において、本発明は、一過性免疫療法に乗じて投与されたドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者を特定する方法を提供し、本方法は、以下:(a)患者由来の第一血液試料をアッセイして標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者由来の第二血液試料をアッセイして標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、ならびに(c)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該患者を、ドナー抗原により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含み、本方法において、標的細胞は、マーカーCD49b+、LAG-3+、CD4+を有する制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、一過性免疫療法に乗じて投与されたドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者は、移植免疫寛容が維持されている。ある特定の実施形態において、ドナー抗原は、ドナーアポトーシス白血球(ADL)、ドナーペプチドを結合させたもしくはドナーペプチドを封入したドナー特異的輸注(DST)ナノ粒子、及び/またはドナーペプチドを結合させたレシピエントアポトーシス白血球である。ある特定の実施形態において、標的細胞は、マーカーCD49b+、LAG-3+、CD4+を有する制御性T細胞1型(Tr1)であり、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。
【0007】
ある特定の実施形態において、移植片レシピエント患者は、移植免疫寛容が維持されている。ある特定の実施形態において、移植片レシピエント患者は、免疫寛容が誘導されたが失敗したことがある。ある特定の実施形態において、免疫寛容は、移植片レシピエント患者に誘導されていなかった。
【0008】
ある特定の実施形態において、本発明は、以下:(a)移植片レシピエント患者から第一血液試料を得て標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者から第二血液試料を得て標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、(c)第一血液試料及び第二血液試料をアッセイして、免疫寛容化前後の標的細胞レベルを検出すること、(d)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該移植片レシピエント患者を、一過性免疫療法に乗じて注入されたドナー抗原により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含む方法を提供し、本方法において、標的細胞は、マーカーCD49b+、LAG-3+、CD4+を有する制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、ドナー抗原は、ドナーアポトーシス白血球(ADL)、ドナーペプチドを結合させたもしくはドナーペプチドを封入したドナー特異的輸注(DST)ナノ粒子、及び/またはドナーペプチドを結合させたレシピエントアポトーシス白血球である。ある特定の実施形態において、標的細胞は、マーカーCD49b+、LAG-3+、CD4+を有する制御性T細胞1型(Tr1)であり、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。
【0009】
ある特定の実施形態において、移植片レシピエント患者は、移植免疫寛容が維持されている。ある特定の実施形態において、移植片レシピエント患者は、免疫寛容が誘導されたが失敗したことがある。ある特定の実施形態において、免疫寛容は、移植片レシピエント患者に誘導されていなかった。
【0010】
ある特定の実施形態において、本発明は、一過性免疫療法に乗じたドナーアポトーシス白血球の移植時付近注入(すなわち、移植時点前後での注入であり、少なくとも1回の注入は、移植の数日前に行われる)により誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者を特定する方法を提供し、本方法は、以下:(a)患者由来の第一血液試料をアッセイして標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者由来の第二血液試料をアッセイして標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、ならびに(c)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該患者を、ドナーアポトーシス白血球により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含み、本方法において、標的細胞は、CD49b、LAG-3、CD4細胞として定義される制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し(当該MHCクラスIペプチドとともに添加されたレシピエント特異的MHCクラスII四量体を用いて検証される)、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び/または活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。ある特定の実施形態において、標的細胞は、マーカーCD49b、LAG-3、CD4を有する制御性T細胞1型(Tr1)であり、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。ある特定の実施形態において、一過性免疫療法に乗じて投与されたドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者は、移植免疫寛容が維持されている。
【0011】
本明細書中使用される場合、「一過性免疫療法に乗じて」という用語は、レシピエントが、免疫治療薬、例えば、細胞の中でも特に抗原提示細胞及びそれらによるドナー反応性T細胞の活性化、任意のCD40発現細胞、ならびに直接T細胞及びB細胞を標的とする免疫抑制薬などを、一過性で投与されることを意味する。本明細書中使用される場合、「一過性」は、治療効果が、短時間のみ、例えば、数日間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、もしくは31日間)、または数週間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12週間)、または数ヶ月間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月間)持続することを意味する。本明細書中使用される場合、「免疫抑制」は、免疫応答の部分的または完全な抑制を意味し、この場合、身体の免疫系は、意図的に機能停止されているか、身体に免疫抑制薬を投与されていない場合よりも有効性が落とされている。ある特定の実施形態において、免疫療法は、抗炎症治療薬の一過性投与も含む。
【0012】
ある特定の実施形態において、本発明は、以下:(a)移植片レシピエント患者から第一血液試料を得て標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者から第二血液試料を得て標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、(c)第一血液試料及び第二血液試料をアッセイして、免疫寛容化前後の標的細胞レベルを検出すること、(d)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該移植片レシピエント患者を、ドナーアポトーシス白血球により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含む方法を提供し、本方法において、標的細胞は、CD49b、LAG-3、CD4細胞として定義される制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び/または活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。ある特定の実施形態において、標的細胞は、マーカーCD49b、LAG-3、CD4を有する制御性T細胞1型(Tr1)であり、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、ならびに活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。
【0013】
ある特定の実施形態において、本発明は、移植片レシピエントの治療方法を提供し、本方法は、以下を含む:(a)上記の方法を用いて、一過性免疫療法に乗じて注入されたドナーアポトーシス白血球(ADL)により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有する移植片レシピエント患者を特定すること、及び(b)免疫抑制剤の投与を止めることにより、移植片レシピエント患者を治療すること。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
一過性免疫療法に乗じて投与されたドナー抗原により誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者の特定方法であって、以下:
(a)前記患者由来の第一血液試料をアッセイして標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし前記第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、
(b)前記患者由来の第二血液試料をアッセイして標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし前記第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、ならびに
(c)前記手技後出現率が前記ベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、前記患者を、前記ドナー抗原により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、
を含み、
前記標的細胞は、マーカーCD49b 、LAG-3 、CD4 を有する制御性T細胞1型(Tr1)である、
前記方法。
(項目2)
以下:
(a)移植片レシピエント患者から第一血液試料を得て標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし前記第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、
(b)前記患者から第二血液試料を得て標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし前記第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、
(c)前記第一血液試料及び前記第二血液試料をアッセイして免疫寛容化前及び後の標的細胞のレベルを検出すること、
(d)前記手技後出現率が前記ベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、前記移植片レシピエント患者を一過性免疫療法に乗じて注入されたドナー抗原により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、
を含む方法であって、
前記標的細胞は、CD49b 、LAG-3 、CD4 を有する制御性T細胞1型(Tr1)である、
前記方法。
(項目3)
前記ドナー抗原は、ドナーアポトーシス白血球(ADL)、ドナーペプチドを結合させたもしくはドナーペプチドを封入したドナー特異的輸注(DST)ナノ粒子、及び/またはドナーペプチドを結合させたレシピエントアポトーシス白血球である、項目1または項目2に記載の方法。
(項目4)
前記移植片レシピエント患者は、移植免疫寛容が維持されている、項目1から3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記移植片レシピエント患者は、免疫寛容が誘導されたが、その後失敗した、項目1から3のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
免疫寛容は、前記移植片レシピエント患者に誘導されていなかった、項目1から3のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
移植片レシピエント患者の治療方法であって、以下:
(a)項目1から6のいずれか1項に記載の方法を用いることで、前記移植片レシピエント患者を特定すること、
(b)免疫抑制剤の投与を止めることにより、前記移植片レシピエント患者を治療すること、
を含む、前記方法。
(項目8)
前記Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対して間接的特異性を呈する、項目1から7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
前記Tr1細胞は、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有する、項目1から8のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
前記抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号は、SH2D2aである、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記Tr1細胞は、活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する、項目1から10のいずれか1項に記載の方法。
(項目12)
活性化状態を示す前記トランスクリプトーム符号は、ミトコンドリア呼吸関連転写物NDUFS4である、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記標的細胞は、マーカーCD49b 、LAG-3 、CD4 を有する制御性T細胞1型(Tr1)であり、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、ならびに活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する、項目1から12のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
工程(a)における全CD4 T細胞中のCD49b LAG-3 CD4 (Tr1)細胞の前記出現率は、マルチパラメトリックフローサイトメトリーで特定される、項目1から13のいずれか1項に記載の方法。
(項目15)
工程(a)における全CD4 T細胞中のCD49b LAG-3 CD4 (Tr1)細胞の前記出現率は、CyTOFマスサイトメトリーで特定される、項目1から14のいずれか1項に記載の方法。
(項目16)
標的細胞の前記出現率の少なくとも2倍の上昇は、ドナーアポトーシス白血球の前記移植時付近注入により誘導された免疫寛容/免疫受入れを示す、項目1から15のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
前記出現率の少なくとも少なくとも3倍の上昇は、ドナーアポトーシス白血球の前記移植時付近注入により誘導された免疫寛容/免疫受入れを示す、項目1から15のいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
前記出現率の少なくとも少なくとも5倍の上昇は、ドナーアポトーシス白血球の前記移植時付近注入により誘導された免疫寛容/免疫受入れを示す、項目1から15のいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
前記患者は、ドナーアポトーシス白血球の移植時付近、静脈内注入を2回受けている、項目1から18のいずれか1項に記載の方法。
(項目20)
前記一過性免疫療法は、少なくとも1種の免疫抑制剤を含む、項目1から19のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
前記免疫抑制剤は、CD40:CD40L共刺激の阻害剤、mTOR阻害剤、及び炎症促進性サイトカインを標的とする併用抗炎症治療薬である、項目20に記載の方法。
(項目22)
CD40:CD40L共刺激の前記阻害剤は、アンタゴニスト抗CD40抗体、Fc改変(不能化、サイレント)抗CD40L抗体、Fab’抗CD40L抗体、またはCD40:CD40L共刺激に干渉するペプチドである、項目21に記載の方法。
(項目23)
CD40:CD40L共刺激の前記阻害剤は、アンタゴニスト抗CD40 mAb 2C10R4である、項目21に記載の方法。
(項目24)
前記mTOR阻害剤は、ラパマイシンである、項目21に記載の方法。
(項目25)
前記一過性免疫療法は、抗炎症剤を含む、項目1から24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記抗炎症剤は、αIL-6R及び/またはsTNFRである、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記抗炎症剤は、αIL-6Rであり、及び前記αIL-6Rは、トシリズマブである、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記抗炎症剤は、sTNFRであり、及び前記sTNFRは、エタネルセプトである、項目26に記載の方法。
(項目29)
前記移植片は、同種移植片である、項目1から28のいずれか1項に記載の方法。
(項目30)
前記同種移植片は、固形臓器同種移植片である、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記固形臓器同種移植片は、膵臓、肝臓、腸、心臓、腎臓、肺、または子宮移植片である、項目30に記載の方法。
(項目32)
記固形臓器同種移植片は、腎臓移植片である、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記腎臓移植片は、生体ドナー腎臓移植片である、項目30に記載の方法。
(項目34)
前記同種移植片は、組織同種移植片である、項目29に記載の方法。
(項目35)
前記組織は、脂肪組織、羊膜組織、絨毛組織、結合組織、硬膜、顔面組織、腸管組織、腺組織、肝臓組織、筋組織、神経組織、眼球組織、膵臓組織、心膜、骨格組織、皮膚組織、泌尿生殖器組織、または血管組織である、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記同種移植片は、細胞移植片である、項目29に記載の方法。
(項目37)
前記同種移植片は、膵島、肝細胞、筋芽細胞、胚幹細胞由来分化細胞移植片、または誘導型多能性幹細胞由来分化細胞移植片、または骨髄移植片である、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記胚幹細胞由来分化細胞移植片は、膵島または膵島ベータ細胞移植片である、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記誘導型多能性幹細胞由来分化細胞移植片は、膵島または膵島ベータ細胞移植片である、項目37に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】Tr1細胞のフローゲーティング法。(a)Tr1細胞(CD3T細胞のCD4CD45RA-に対してCD49bLAG-3をゲートする)、ただしダブレット及び死細胞を除く。
図1B】四量体染色のフローゲーティング法。フローゲーティング法は、四量体合計CD4 T細胞、Tr1細胞、及びTreg細胞の列挙を示す。
図1C】Tr1細胞の転写プロファイル。左側パネル:XBP1、SUMO2、及びSH2D2の転写レベルを、終了時に得られたPBL中の散布図として提示する。右側パネル:コホートB及びCのレシピエントで終了時に得られたPBL中のNDUFS4及びNDUFS5の相対発現プロファイルを、散布図として提示する。
図2】免疫寛容動物におけるTr1細胞出現率の上昇。ADL注入は、制御性表現型を持つ免疫細胞の出現率を上昇させ、機能を増強させる。コホートB(n=7、丸)及びコホートC(n=5、四角)のサルにおける制御性表現型を持つ循環細胞の相対数。終了時のPBL、LMNC、及びLN中のTr1細胞。
図3】免疫寛容動物におけるTr1細胞の枯渇は、ドナー特異的増殖を回復させる。移植の12ヶ月後に収集されたコホートC(n=3)のPBL中のTr1細胞、Treg細胞、及びBreg細胞の枯渇は、CFSE-MLRにおいて、CD4細胞、CD8細胞、及びCD20細胞のドナー特異的増殖を回復させた。
図4】Tr1細胞においてsiRNAによりSH2D2aをサイレンシングすると、ドナー特異的増殖の抑制が消失する。Tr1細胞におけるSH2D2のRNAサイレンシングは、Tr1細胞の抑制能力を無力化する。CD4細胞、CD8細胞、及びCD20細胞で、それぞれ、Tr1細胞なし、Tr1細胞+ビヒクルあり、及びSH2D2転写分子を標的とするsiRNAで処理したTr1細胞ありの場合を、ドナー処理したレシピエントPBLのみと比較した、ドナー特異的増殖の変化倍率。
図5】四量体染色のフローゲーティング法。免疫寛容動物において四量体ドナー特異的Tr1細胞の出現率が上昇。コホートB、C、及びDのサルの中でゲートされた四量体CD4lym内のTreg細胞(CD25+CD127-)のパーセンテージ。
図6】一過性免疫抑制に加えられたADL注入は、サルにおいて、膵島同種移植片の安定寛容を促進する。(A)コホートB及びCのサルにおける、治療製品、投薬量、経路、及びタイムラインを含む免疫療法プロトコル。sTNFRは、可溶性腫瘍壊死因子受容体(エタネルセプト);抗IL-6Rは、抗IL-6受容体(トシリズマブ);IEは、膵島等価物である。(B)組織学検査により裏付けられた無拒絶膵島同種移植片生着率のカプラン・マイヤー法による推定は、コホートB(ADLなし;n=7;破線;P=0.021、Mantel-Cox)に比べてコホートC(ADLあり;n=5;実線)で優れた持続性同種移植片生着を示す。
図7】免疫寛容バイオマーカーの不在は、ベースラインの移植前においてドナー抗原に感作されたレシピエントにおける移植された移植片機能の早期喪失と相関する。末梢循環中のTr1細胞の出現率(ADL+TIS前及び移植後)を、フローサイトメトリーで分析した。ドナー抗原に感作されたレシピエントにおける移植前のADL注入及びTISは、移植後14日目のTr1細胞の出現率に、上昇ではなくて顕著な低下をもたらした。移植後28日目、循環Tr1細胞の出現率は、同一レシピエントのナイーブ状態で観察されたレベルに到達した。これらレシピエントにおいて、移植前血清は、ベースラインでドナー抗原に感作されていることのエビデンスを示した。これらレシピエントにおけるTr1細胞のモニタリングは、ミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対して間接的特異性があり高度に定義されたトランスクリプトームプロファイルを持つTr1細胞を特異的にモニタリングしていなかった場合でさえ、ADL注入及びTISがこれらレシピエントにおいてドナーアロ抗原に対する免疫寛容の誘導に失敗したことを強く示唆した。
図8】免疫寛容バイオマーカーの喪失は、移植された移植片機能の喪失に先行する。末梢循環中のTr1細胞の出現率(ADL+TIS前及び移植後)を、フローサイトメトリーで分析した。ADL注入及びTISは、移植後初期に、Tr1細胞の出現率の顕著な上昇をもたらした。循環Tr1細胞の出現率は、移植後180日目には、減少し始め、300日目には、ナイーブ状態で観察されたレベルに到達した。このことは、免疫寛容バイオマーカーの喪失が、移植片機能の喪失に先行することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ドナーアポトーシス白血球(ADL)を用いた負のワクチン投与は、移植においてドナー抗原特異的免疫寛容を誘導するための有望な非キメラ戦略となっている。化学架橋剤エチルカルボジイミド(ECDI)を用いてex vivoで処理された白血球は、静脈内注入後、急速にアポトーシスを進行させた。マウス同種移植モデルにおいて、-7日目及び+1日目(0日目の移植を基準として)にECDI処理したドナーアポトーシス脾細胞を静脈内注入すると、堅固なアロ抗原特異的免疫寛容が、軽微な抗原ミスマッチの皮膚移植片に対して、完全主要組織適合遺伝子複合体(MHC)ミスマッチ膵島同種移植片に対して、及び短期ラパマイシン併用の場合に心臓同種移植片に対して、誘導された。ドナーECDI処理脾細胞のほとんどは、脾辺縁帯抗原提示細胞(APC)により迅速に内部移行され、アポトーシス体の取り込み後のAPCの成熟は停止されて、負の共刺激分子の選択的上方制御をもたらし、正の共刺激分子ではもたらさなかった。
【0016】
レシピエントAPCとの遭遇後、間接的アロ特異性を持つT細胞は、急速にその数を増加させ、続いて重度のクローン収縮を起こした。残存するT細胞は、脾臓に隔離され、同種移植片または同種移植片排出リンパ節に輸送されなかった。宿主貪食細胞による内部移行を受けなかった残存ドナーECDI処理脾細胞は、直接アロ特異性を持つT細胞を弱く活性化し、それらを、その後の刺激(アネルギー)に対して抵抗性にした。ECDI処理脾細胞は、制御性T(Treg)細胞及び骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)も活性化させ、それらの数を増加させた。したがって、マウス同種移植モデルにおいて、ECDI処理脾細胞を介したアロ抗原送達により誘導される移植片保護の機構には、直接特異性を持つ抗ドナーCD4+T細胞のクローンアネルギー、間接特異性を持つ抗ドナーCD4+T細胞のクローン枯渇、ならびにCD4+Treg細胞及びMDSCによる調節が関与していた。
【0017】
自己免疫及びアレルギーのマスモデルにおいて、ECDIと架橋した抗原を同系白血球の表面に静脈内送達すると、抗原特異的免疫寛容が回復した。重要なことは、この戦略は、ナイーブT細胞をプライミングすることならびに既存のメモリー/エフェクターCD4+及びCD8+T細胞の反応を有効に制御することの両方を阻止したことである。多発性硬化症患者を含む臨床試験により、自家白血球とECDIのカップリング後に脳炎惹起性ペプチドを静脈内送達することの安全性が確認されるとともに、有効性の予備的エビデンスも得られた。
【0018】
本研究では、マウス同種移植におけるECDI処理したドナー脾細胞に対する知見を大幅に拡大して、一過性免疫抑制下で2回ADL注入を投与したアカゲザル(サルと称する)における膵島同種移植片に対する安定免疫寛容を実証した。本発明者らは、本発明者らのモデルにおける持続した免疫寛容が、ドナー特異的T及びB細胞クローンの枯渇と関連したことを見出した。これは、1つのMHCクラスII(MHC-II)アレルがマッチしたADL及び同種移植片のレシピエントで最も顕著であり、強力かつ持続性の調節であった。抗原特異的Tr1細胞を含む複数の免疫細胞サブセットが、免疫調節に関与しており、ドナー反応性T細胞の移植後増殖及びそれらの同種移植片への動員を抑制していた。
【0019】
ADLが誘導する移植免疫寛容には、別個の特異性及びトランスクリプトーム符号を持つTr1細胞を含む制御性免疫細胞サブセットが関与しており、これにより、一過性免疫抑制に乗じて静脈内に注入されるADLにより誘導される制御性免疫寛容の誘導、維持、及び喪失をモニタリングするためのバイオマーカーが特定される。ベースラインと手技後の血液試料の間で、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性ならびに抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号(例えば、SH2D2a)及び活性化状態と関連したミトコンドリア呼吸を示すトランスクリプトーム符号(例えば、NDUFS4)を呈する、循環CD4T細胞(Tr1細胞)のうちCD49bLAG-3であるものの出現率に2倍を超える増加があれば、それは移植免疫寛容を示す。
【0020】
ある特定の実施形態において、本発明は、一過性免疫療法に乗じてドナーアポトーシス白血球を移植時付近注入することにより誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者を特定する方法を提供し、本方法は、以下:一過性免疫療法に乗じてドナーアポトーシス白血球を移植時付近注入することにより誘導された移植免疫寛容を有する移植片レシピエント患者を特定する方法、本方法は、以下:(a)患者由来の第一血液試料をアッセイして標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者由来の第二血液試料をアッセイして標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、ならびに(c)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該患者を、ドナーアポトーシス白血球により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含み、本方法において、標的細胞は、CD49b、LAG-3、CD4細胞として定義される制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し(当該MHCクラスIペプチドとともに添加されたレシピエント特異的MHCクラスII四量体を用いて検証される)、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び/または活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。
【0021】
ある特定の実施形態において、本発明は、以下:(a)患者から第一血液試料を得て標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者から第二血液試料を得て標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、(c)第一血液試料及び第二血液試料をアッセイして、免疫寛容化前後の標的細胞レベルを検出すること、(d)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該患者を、ドナーアポトーシス白血球により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含む方法を提供し、本方法において、標的細胞は、CD49b、LAG-3、CD4細胞として定義される制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び/または活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。
【0022】
ある特定の実施形態において、本発明は、移植片レシピエントの治療方法を提供し、本方法は、以下を含む:(a)本明細書中記載されるとおり移植片レシピエント患者を特定すること、及び(b)免疫抑制剤の投与を止めることにより、移植片レシピエント患者を治療すること。
【0023】
移植片レシピエント患者が、移植片に対する免疫寛容を獲得し及びそれを維持しているかどうかを判定することは重要である。ある特定の実施形態において、患者が受ける移植片は、同種移植片になる。本明細書中使用される場合、「同種移植片」という用語は、同じ種であるが遺伝的に同一ではない(すなわち、別個の)ドナーからレシピエントへ移植される、細胞、組織、または臓器と定義される。移植片は、同種移植片、同種異系移植片、またはホモ移植片と呼ぶ場合がある。ある特定の実施形態において、同種移植片は、固形臓器同種移植片、例えば、腎臓、膵臓、肝臓、腸、心臓、肺、または子宮移植片である。ある特定の実施形態において、同種移植片は、組織同種移植片であり、そのような組織として、脂肪組織、羊膜組織、絨毛組織、結合組織、硬膜、顔面組織、腸管組織、腺組織、肝臓組織、筋組織、神経組織、眼球組織、膵臓組織、心膜、骨格組織、皮膚組織、泌尿生殖器組織、及び血管組織が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、同種移植片は、細胞同種移植片、例えば、膵島、肝細胞、筋芽細胞、胚幹細胞由来分化細胞移植片(例えば、膵島または膵島ベータ細胞または肝細胞移植)、あるいは誘導型多能性幹細胞由来分化細胞移植片(例えば、膵島または膵島ベータ細胞移植)、造血幹細胞移植片、あるいは骨髄移植片である。
【0024】
本明細書中使用される場合、「免疫受入れ」、「免疫寛容(immune tolerance)」、「免疫学的寛容」、または「免疫寛容(immunotolerance)」とは、所定の生物における、免疫応答を誘発する能力を有する物質または組織に対する、免疫系の無反応状態である。「移植免疫寛容」という用語は、免疫寛容の一つの形態である。「移植免疫寛容」は、維持免疫抑制療法の不在下での長期同種移植片生着である。この定義の暗黙の了解として、臓器移植の免疫寛容レシピエントは、ドナー抗原に対して無反応であるが、他の(第三者)抗原に対する反応性は維持している。免疫抑制を断ち切ることに成功しており、かつ安定した移植片機能を1年以上維持している臓器移植片レシピエントは、機能的または運用的に寛容性であると称する。
【0025】
免疫療法
ある特定の状況において、移植片レシピエント患者は、移植免疫寛容を誘導する目的で、移植片の前、移植片と同時に、または移植片に続いて、免疫療法を受けることになり、この場合、免疫療法は、ドナーアポトーシス白血球(ADL)の投与である。
【0026】
ある特定の実施形態において、患者は、移植片の前、移植片と同時に、または移植片に続いて、免疫療法を受ける。ある特定の実施形態において、ドナーアポトーシス白血球は、1種または複数の免疫調節性分子及び一過性抗炎症治療薬とともに、またはそれらに加えて投与することができ、免疫調節性分子は、例えば、アンタゴニスト抗CD40 mAb抗体、Fc改変抗CD40L抗体、CD40:CD40L共刺激に干渉するペプチド、mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス)であり、ならびに一過性抗炎症治療薬として、コンプスタチン(例えば、コンプスタチン誘導体APL-2)、サイトカインアンタゴニスト(例えば、抗IL-6受容体mAb(トシリズマブ)、抗IL-6抗体(サリルマブ、オロキズマブ(olokizumab))、可溶性TNF受容体(エタネルセプト)、抗TNF-アルファ抗体(例えば、インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(Humira))、α1-抗トリプシン、核内因子-κB阻害剤(例えば、デヒドロキシメチルエポキシキノマイシン(DHMEQ))、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)、及び他のポリクローナルT細胞枯渇抗体、アレムツズマブ(キャンパス)、抗IL-2R Ab(バシリキシマブ)、B細胞標的指向化戦略(例えば、B細胞枯渇バイオ製剤、例えば、CD20、CD19、もしくはCD22を標的とするバイオ製剤、及び/またはB細胞調節バイオ製剤、例えば、BLyS、BAFF、BAFF/APRIL、CD40、IgG4、ICOS、IL-21、B7RP1を標的とするバイオ製剤)、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸、スフィンゴシン-1リン酸受容体を下方制御するダウンレギュレーター(例えば、FTY720)、JAK阻害剤(例えば、トファシチニブ)、免疫グロブリン(例えば、IVIg)、CTLA4-Ig(アバタセプト/オレンシア)、ベラタセプト(LEA29Y、Nulojix)、タクロリムス(プログラフ)、シクロスポリンA、レフルノミド、抗CXCR3抗体、抗ICOS抗体、抗OX40抗体、及び抗CD122抗体、デオキシスパガリン、可溶性補体受容体1、コブラ毒因子、補体阻害剤(例えば、C1阻害剤、コンプスタチン)、抗C5抗体(エクリズマブ/Soliris)、メチルプレドニゾロン、アザチオプリンが挙げられる。B細胞を標的とするバイオ製剤の制限ではなく例として、リツキシマブ及び抗CD20抗体が挙げられる。
【0027】
ある特定の実施形態において、一過性免疫療法は、少なくとも1種の免疫抑制剤を含む。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、CD40:CD40L共刺激の阻害剤、mTOR阻害剤、及び炎症促進性サイトカインを標的とする併用抗炎症治療薬である。ある特定の実施形態において、CD40:CD40L共刺激の阻害剤は、アンタゴニスト抗CD40抗体、Fc改変(不能化、サイレント)またはFab’抗CD40L抗体、あるいはCD40:CD40L共刺激に干渉するペプチドである。ある特定の実施形態において、CD40:CD40L共刺激の阻害剤は、アンタゴニスト抗CD40 mAb 2C10R4である。ある特定の実施形態において、少なくとも1種の免疫抑制剤は、ラパマイシンである。ある特定の実施形態において、一過性免疫療法は、抗炎症剤を含む。ある特定の実施形態において、抗炎症剤は、抗IL-6R(トシリズマブ)及び/またはsTNFR(エタネルセプト)である。
【0028】
ある特定の実施形態において、0日目の移植を基準に、-7日目及び+1日目にドナーアポトーシス白血球を注入することにより免疫系の活性化及び抗ドナー免疫の誘導を防ぐため、レシピエントは、細胞の中でも特に、抗原提示細胞、及びそれらによるドナー反応性T細胞活性化、他のCD40発現細胞、またはT細胞及びB細胞を直接、標的とする薬物で一過性に免疫抑制された。ドナーアポトーシス白血球の調製及び投与の方法は、当該分野で既知である。Luo X, Pothoven KL, McCarthy D, DeGutes M, Martin A, Getts DR, Xia G, He J, Zhang X, Kaufman DB, Miller SD, ECDI-fixed allogeneic splenocytes induce donor-specific tolerance for long-term survival of islet transplants via two distinct mechanisms. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Sep 23;105(38): 14527-32; Miller et al. 米国特許第8,734,786号。各免疫抑制剤の初回用量は、0日目の移植を基準に、-8または-7日目に投与された。アンタゴニスト抗CD40 mAb 2C10R4は、-8、-1、7、及び14日目に、50mg・kg-1でIV投与された。ラパマイシン(ラパミューン(登録商標))は、-7日目から移植後21日目までPOで投与された。目的トラフレベルは、5~12ng・mL-1であった。併用抗炎症治療は、i)αIL-6R(トシリズマブ、Actemra(登録商標))を-7、0、7、14、及び21日目に10mg・kg-1でIV投与、ならびにii)sTNFR(エタネルセプト、Enbrel(登録商標))を-7及び0日目に1mg・kg-1でIV及び3、7、10、14、及び21日目に0.5mg・kg-1でSC投与、からなるものであった。
【0029】
ある特定の実施形態において、免疫抑制剤の初回用量は、移植の7~14日(例えば、-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-12、-13、-14日)前に、患者に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤の2回目の用量は、移植の数日後(例えば、+1、+2、+3、+4、+5、+6、+7、+8、+9、+10、+11、+12、+13、+14、+15、+16、+17、+18、+19+、または+20日目)に、移植片レシピエント患者に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤の複数回の用量は、数日~数ヶ月の治療期間のスパンで移植片レシピエントに投与される(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回用量)。
【0030】
治療は、選択した投与経路を通じて投与することができる。治療は、注入または注射により、静脈内、腹腔内、または筋肉内投与することができる。
【0031】
標的細胞
本発明のある特定の実施形態において、第一(ベースライン)生体試料、例えば、血液試料は、免疫療法及び移植の前(「免疫寛容化前」)に、患者から採取される。ある特定の実施形態において、-7日目に、患者はドナーアポトーシス細胞の注入を受け、0日目に、移植片レシピエント患者は移植を受け、そして+1日目に、移植片レシピエント患者はドナーアポトーシス細胞の2回目の注入を受ける。第二生体試料は、移植の後(「移植後」)に採取され、第三試料は、ドナーアポトーシス細胞の2回目の注入後に採取される。ある特定の実施形態において、第四生体試料が、細胞の1回目の注入及び移植の後に採取される。これらの試料から、非常に特異的な標的細胞が単離される、すなわち、CD49b、LAG-3、CD4細胞として定義される制御性T細胞1型(Tr1)として特定される細胞である。ある特定の実施形態において、Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び/または活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。寛容原性Tr1細胞は、ドナーアポトーシス白血球の移植時付近注入により誘導される免疫寛容/免疫受入れの重要なメディエーターであると考えられるCD4T細胞サブセットである。
【0032】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII四量体染色により、定義された抗原特異的CD4T細胞の特性分析、定量、及び選別が可能になる。MHC四量体は、抗原特異的CD4T細胞の特性分析に必須のツールである。比較的稀な抗原特異的CD4T細胞をex vivoで四量体染色するプロトコルは、基礎免疫学及び臨床免疫学において、ヘルパーT細胞分析の重要なツールを提供してきた。(Uchtenhagen, H. et al. Efficient ex vivo analysis of CD4+ T-cell responses using combinatorial HLA class II tetramer staining. Nat. Commun. 7, 12614 (2016); Day, C. L. et al. Ex vivo analysis of human memory CD4 T cells specific for hepatitis C virus using MHC class II tetramers. J. Clin. Invest. 112, 831-842 (2003); Kwok, W. W. et al. Direct ex vivo analysis of allergen-specific CD4t T cells. J. Allergy Clin. Immunol. 125, 1407-1409.e1401 (2010); Moon, J. J. et al. Naive CD4+ T cell frequency varies for different epitopes and predicts repertoire diversity and response magnitude. Immunity 27, 203-213 (2007))。したがって、MHCクラスII四量体染色は、免疫学において貴重なアプローチとなっており、天然に発生するT細胞レパートリーの直接照合、ワクチン接種及び疾患などの摂動により引き起こされるT細胞応答の変化の評価を可能にするとともに、モデル系における所見の変換関連性を確認する手段を提供する。
【0033】
フローサイトメトリー及びゲーティングを用いて、CD49b及びLAG-3であるCD4T細胞を特定することは、当該分野で既知である。CD49bLAG-3CD4T細胞を、Tr1細胞と称する。ある特定の実施形態において、試料中のTr1細胞の出現率は、マルチパラメトリックフローサイトメトリーで特定される。間接的特異性を持つTr1細胞のサブセットは、ミスマッチドナーMHCクラスIペプチドとともに添加されたMHCクラスII四量体を用いて特定される。ある特定の実施形態において、この強力な四量体技術は、これらの稀なドナーペプチド特異的細胞サブセットを追跡する。ある特定の実施形態において、Tr1細胞の出現率は、CyTOFマスサイトメトリーで特定される。
【0034】
次に、特定の標的細胞、すなわち、CD49b及びLAG-3であるCD4T細胞が分析されて、それらが少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有するかどうかが判定された。少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドが存在するかどうかのこの判定は、マルチパラメトリックフローサイトメトリーを用いてもたらされる。ある特定の実施形態において、ミスマッチドナーMHCクラスIペプチドは、APVALRNLRGYYNQSという、MHCクラスI分子の可変領域中の14量体ペプチドである(28-114アミノ酸)。NCBIウェブサイトにおいて、Mamu DRB配列とヒトゲノムでt-BLAST分析を行ったところ、ヒトホモログが特定された。HLA DRB113(受入番号CDP32905.1)は、92%同一であり、Mamu DRB03aに対してポジティブ96%及びギャップ0%であり、e値が6e-178であった。HLA DRB114(受入番号ABN54683.1)は、93%同一であり、Mamu DRB03aに対してポジティブ94%及びギャップ0%であり、e値が2e-175であった。
【0035】
Immune Epitope Database Analysis情報資源を利用して、Mamu MHCクラスI及びクラスII配列から、HLA DRB113またはHLA DRB114に対して高い結合親和性を持つペプチドを同定した(表1)。
【表1】
【0036】
特定の標的細胞を、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を特定するためにも分析した。本明細書中使用される場合、細胞の「トランスクリプトーム符号」とは、細胞集団におけるRNAの発現レベルである。簡単に述べると、選別した標的細胞由来のRNAを、報告された安定寛容を持つ移植片レシピエント由来の細胞で先に行われた不偏RNAseq分析により選択及び定義されたプライマー及びプローブのセットを用いて、定量的リアルタイムPCRで分析する。本発明のある特定の実施形態において、定量的リアルタイムPCRは、フロー選別されたTr1細胞から得られたRNAに対して行われた。ある特定の実施形態において、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号は、SH2ドメイン含有2A(SH2D2a)である。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0037】
ある特定の実施形態において、トランスクリプトーム符号は、活性化状態を示す。ある特定の実施形態において、活性化状態を示すトランスクリプトーム符号は、ミトコンドリア呼吸関連転写物NADH:ユビキノンオキシドレダクターゼサブユニットS4(NDUFS4)である。
【0038】
移植片
ある特定の実施形態において、移植片は、同種移植片である。ある特定の実施形態において、同種移植片は、固形臓器同種移植片である。ある特定の実施形態において、同種移植片は、腎臓、膵臓、肝臓、腸、心臓、肺、または子宮移植などの固形臓器同種移植片である。ある特定の実施形態において、固形臓器同種移植片は、腎臓移植片である。ある特定の実施形態において、同種移植片は、組織同種移植片であり、そのような組織として、脂肪組織、羊膜組織、絨毛組織、結合組織、硬膜、顔面組織、腸管組織、腺組織、肝臓組織、筋組織、神経組織、眼球組織、膵臓組織、心膜、骨格組織、皮膚組織、泌尿生殖器組織、及び血管組織が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、同種移植片は、細胞同種移植片、例えば、膵島、肝細胞、筋芽細胞、胚幹細胞由来分化細胞移植片(例えば、膵島または膵島ベータ細胞または肝細胞移植)、あるいは誘導型多能性幹細胞由来分化細胞移植片(例えば、膵島または膵島ベータ細胞移植)、造血幹細胞移植片、あるいは骨髄移植片である。
【0039】
ある特定の実施形態において、移植片は、生体ドナー移植片である。ある特定の実施形態において、同種移植片は、細胞移植片である。
【0040】
アッセイ法
ある特定の実施形態において、本発明は、以下の工程、(a)患者由来の第一血液試料をアッセイして標的細胞のベースライン出現率を検出すること、ただし第一血液試料は、免疫寛容化前、移植前、及び一過性免疫療法開始前に得る、(b)患者由来の第二血液試料をアッセイして標的細胞の手技後出現率を検出すること、ただし第二試料は、免疫寛容化後、移植後、及び一過性免疫療法開始後に得る、ならびに(c)手技後出現率がベースライン出現率より少なくとも2倍高い場合、当該患者を、ドナーアポトーシス白血球により誘導された移植免疫寛容/免疫受入れを有するとして特定すること、を含み、本発明において、標的細胞は、CD49b、LAG-3、CD4細胞として定義される制御性T細胞1型(Tr1)である。ある特定の実施形態において、Tr1細胞は、少なくとも1種のミスマッチドナーMHCクラスIペプチドに対する間接的特異性を有し、抗原特異的シグナル伝達を示すトランスクリプトーム符号を有し、及び/または活性化状態を示すトランスクリプトーム符号を有する。
【0041】
ある特定の実施形態において、第一(ベースライン)試料中の標的細胞の出現率が、第二(手技後)試料及びその後の試料中の標的細胞の出現率と比較される。ある特定の実施形態において、出現率が少なくとも2倍上昇しているという判定は、ドナーアポトーシス白血球の移植時付近注入により誘導された免疫寛容/免疫受入れを示す。ある特定の実施形態において、出現率が少なくとも3倍上昇しているという判定は、ドナーアポトーシス白血球の移植時付近注入により誘導された免疫寛容/免疫受入れを示す。ある特定の実施形態において、第一資料と第二試料の間で出現率は、少なくとも2倍上昇、少なくとも3倍上昇、少なくとも4倍上昇、少なくとも5倍上昇、少なくとも10倍上昇、少なくとも20倍上昇、少なくとも30倍上昇、少なくとも50倍上昇、少なくとも60倍上昇、少なくとも70倍、少なくとも80倍上昇、少なくとも90倍上昇、少なくとも100倍、またはそれより高い倍率で上昇している。
【0042】
ある特定の実施形態において、標的細胞の出現率は、マルチパラメトリックフローサイトメトリーで特定される。ある特定の実施形態において、標的細胞の出現率は、CyTOFマスサイトメトリーで特定される。
【0043】
ある特定の実施形態において、移植片レシピエント患者は、移植時付近、静脈内ドナーアポトーシス白血球の注入を2回受けている。
【0044】
ある特定の実施形態において、移植片レシピエント患者由来の末梢血単核球を、蛍光結合抗体及びマーカーの限定カクテル(抗CD4、抗CD49b、抗LAG3、ミスマッチドナーMHCクラスIペプチドとともに添加したMHCクラスII四量体)で染色して、マイクロ流体技術を用いた標識化細胞の選別を促進し、定量的リアルタイムPCRを用いて免疫寛容関連転写物を引き続き定量することで、標識化細胞を特性決定する。
【0045】
ミスマッチドナーペプチドに対する間接的特異性を持ち、抗原特異的TCRシグナル伝達を示す転写物(SH2D2a)及び代謝的活性状態を示す転写物(NDUFS4))を発現する、そのように定義されたCD4CD49bLAG3T細胞(Tr1細胞)のパーセンテージは、ベースラインでは極めて低い。当該循環T細胞サブセットのパーセンテージが2~3倍より高く上昇することは、抗原特異的免疫寛容状態の存在でしか説明することができない。
【0046】
本発明を、ここから、以下の制限をかけない実施例により解説する。
【実施例
【0047】
実施例1
移植免疫寛容は、何十年もの間、臨床関連の目標として追及されてきた。本研究において、短期免疫療法下で移植時付近ADL注入を2回行うレジメンは、1つのMHC-II DRBアレルがマッチした非感作サル5匹中5匹において、膵島同種移植片に対する長期(≧1年)免疫寛容を、安全に誘導したことが実証された。これらの知見は、厳密な前臨床同種移植NHPモデルで得られたものであるが、他に類を見ないものであり、ヒトにおいて非キメラ移植免疫寛容に向かう臨床応用可能な道筋を初めて指し示すものである。
【0048】
先行NHP研究から、ドナー骨髄が、CD154遮断を含む骨髄非破壊的前処置下で投与された場合、腎臓同種移植片では免疫寛容が報告されたが、心臓または膵島同種移植片では報告されなかった。こうした研究のうち1件においてそのように処置されたサル8匹のうち、6匹は、維持免疫抑制の不在下で1年間、腎臓同種移植片機能を維持した。そのうえ、これらのうち3匹は、慢性拒絶を発生させることなく、長期機能を維持した。別の研究では非キメラ戦略を用いて、腎臓同種移植片の免疫寛容が達成されたが、一貫性のないものにすぎず、抗CD40Lを8週間及びラパマイシンを90日間の投与と合わせてドナー特異的輸血を受けたサル5匹中3匹においてだった。同様なNHP戦略、ならびに他の以前に研究された戦略は、維持免疫抑制またはラパマイシン単独療法の中止後の膵島同種移植片生着を延長したが、本発明者らの研究とは異なり、それらプロトコルのどれも、持続性免疫寛容を誘導しなかった。現在研究されている他の細胞性免疫寛容戦略とは対照的に、本発明者らのレジメンは、制御性細胞の養子移植を必要としなかった。その代わりに、本発明者らは、短期免疫抑制下での移植時付近ADL注入が、複数の制御性細胞型の関与する強力で持続する免疫調節をin-vivoで確立することを見出した。安全性に関して、本発明者らのレジメンは、混合キメラ戦略とは異なり、初期移植後直接経路活性化を制御するための、放射線照射、無差別な普遍化T細胞除去、造血幹細胞同時移植、あるいはカルシニューリン阻害剤または抗CD8枯渇抗体いずれかを用いる過程を必要とせずに、安定した免疫寛容を有効に誘導した。最後に、可溶性ペプチド及び改変ペプチドリガンド療法が関与する他の抗原特異的戦略とは異なり、本発明者らのECDI固定白血球注入は、本発明者らの前臨床試験において、または多発性硬化症の臨床試験において、アナフィラキシーのリスクまたは任意の他の安全性懸念と無関係であった。
【0049】
複数の別個の免疫機構が、本発明者らの一過性免疫抑制下での1つのDRBがマッチしたADLの注入及び膵島同種移植片に対する免疫寛容と関連していた。本レジメンは、Ki67+増殖性細胞、MLRでのアロ反応性増殖、増殖性TCRβクローン、及び本発明者らの四量体試験におけるミスマッチMHCクラスIアロペプチドに対する間接的特異性を持つCD4+T細胞を追跡した本発明者らの観察によりコホートAで裏付けられたとおり、2回の移植時付近ADL注入後、早期にアロ反応性エフェクターT及びB細胞を枯渇させた。先行マウス研究では、ADL注入後のAPCによるアポトーシス体の取り込みが、陽性共刺激を下方制御しつつも、PD-L1/2発現を実質的に増加させたことが示された12。そのようなパターンを呈するAPCは、迅速に(しかし一過性に)IFN-γ及びIL-10を産生するT細胞を活性化させたが、IL-2、IL-6、及びTNF-αを産生するT細胞を活性化させなかった。これは、抗原特異的T細胞のアポトーシス枯渇を促進することが知られているサイトカイン微小環境である。本発明者らの併用免疫療法の一部であるラパマイシンは、CD40:CD40L遮断下でドナー抗原により引き起こされる活性化誘導型細胞死を増強する。
【0050】
本研究では、in-vitroで、循環CD4+及びCD8+TEM細胞の移植後増殖、それらの移植片への動員、ならびにドナー反応性CD4+及びCD8+T細胞の増殖、これらの抑制が、コホートCで記録された(が、コホートB及びDでは記録されなかった)。これらの知見は、本発明者らのADL注入及び1つのDRBマッチが、免疫寛容の誘導及び維持に重要な役割を果たしていたことを示唆する。in-vitroで本発明者らが観察した制御性サブセットの枯渇後ドナーに対するT細胞増殖の回復は、ドナー特異的T細胞クローンが、除去されたのでもアネルギー化されたのでもなく、そうではなくて、調節により、それらの移植後増殖及びエフェクター機能が制御されたことを示唆する。
【0051】
この解釈をさらに支持するため、本発明者らは、コホートCにおいて短期免疫抑制にADL注入を追加することで、循環MDSCならびにTr1、Treg、NS、Breg、及びB10細胞の顕著なかつ持続した増加を特徴とする制御性ネットワークが確立されたことを示した。終了時、Tr1細胞は、コホートC(コホートBと比較して)レシピエントの同種移植片を有する肝臓内及びリンパ節においても、顕著により普及していた。この制御性ネットワークの形成の根底にある詳細な機構は、また解明されていない。そうであっても、本発明者らの1つのDRBがマッチしたADLの注入が、宿主脾臓辺縁帯APCにおいて及び宿主肝臓類洞内皮細胞において、MHC-II分子による提示のための大量の共有MHC-IIペプチドを提供したと考えられる。活性化T細胞へのトロゴサイトーシス後、そのようなペプチドMHC-II複合体は、自己認識するように歪んだTCRレパートリーを有する胸腺由来Treg(tTreg)細胞に強力な活性化シグナルを送達する可能性があることが、知られている。Treg細胞は、IL-10産生Tr1細胞の生成を促進することが知られている46が、本発明者らの研究においてTr1細胞の増殖が、活性化tTregの影響によるものであり、de-novo形成及び/またはドナー反応性エフェクターT細胞の変換をもたらしたのであるかどうかは、まだ明らかではない。自己免疫モデルにおいて、自己MHC-IIと結合した自己免疫疾患関連ペプチドでコーティングしたナノ粒子により生成するTr1様細胞は、同族B細胞が疾患抑制制御性B細胞へと分化するのを駆動することにより、制御性ネットワーク形成に寄与することが知られている。本発明者らの研究においてマッチしたMHC-IIペプチドが制御性ネットワークを促進したという概念と一致して、1つのDRBがマッチしたADLのコホートCレシピエントにおける循環Treg、Tr1、及びBreg細胞の出現率は、完全ミスマッチコホートDレシピエントにおける出現率よりも顕著に高かった。
【0052】
制御性サブセットの中で、Tr1細胞が、T及びB細胞のドナー特異的増殖の最も強力な抑制を呈し、これには、部分的に、IL-10が介在したことがわかった。対照的に、第三者応答は、選別Tr1細胞による影響を受けなかった。このことは、それらの抗原特異性を示す。本発明者らの四量体研究は、コホートCにおいて、ミスマッチドナーMHC-Iペプチドに対する間接的特異性を持つ循環Treg及びTr1細胞が移植後持続的に増加することを明らかにした(しかし、コホートB及びDではそうならなかった)。この知見は、それらの抗原特異性を実証し、マウス及びヒト同種移植片レシピエントの先行研究と一致していた。先行研究では、1つのMHC-IIアレルがマッチした輸血後、共有された自己MHC-II分子によるミスマッチMHC-Iペプチド提示により誘導される調節が示された。ADLは、完全ミスマッチマウス同種移植片レシピエントにおいて制御性サブセットを増加させた6。これらのモデルにおけるMHC-IIマッチングの効果は、これから研究しなければならない。コホートCレシピエントにおいて、Tr1細胞は、SH2D2レベルの顕著な上昇を含む類を見ない免疫細胞シグナル伝達を呈した。Sh2D2aの遺伝子産物であるT細胞特異的アダプタータンパク質(TSAd)は、それがLck51と相互作用することを通じて、TCRシグナル伝達を調節する。しかしながら、これが存在しないと、全身性自己免疫が促進される。コホートCにおいて、Tr1細胞トランスクリプトームプロファイルは、Tr1細胞におけるミトコンドリア呼吸活性及びエネルギー利用の上昇も実証し、それらの活性化状態を明らかにした。
【0053】
コホートB(ADL注入なし)において、レシピエント7匹中2匹が、免疫抑制なしの同種移植片生着を移植後1年間維持し、7匹全てが、急性拒絶を回避した。これにより、初期の直接経路活性化が、MHC-IIマッチしたレシピエントにおいて強力な誘導で抑制された場合、好適な同種移植片生着が達成可能であることが確認された。しかしながら、ほとんどのコホートBレシピエントにおいてde-novoのDSAが発生したことにより裏付けられるとおり、このレジメンは、間接的経路活性化を制御することに失敗した。一過性免疫抑制下で1つのDRBがマッチしたADLを注入することの寛容原性有効性は、感作されたコホートEレシピエント、特に、予め形成されたDSAを持つレシピエントに限定されており、これらのレシピエントでは、メモリーT細胞が、IFN-γを分泌しないものも含めて、DSA応答に必須であり、これらのレシピエントでは、DSAオプソニン化ADLの取り込みにより活性化されたAPCが、ドナー反応性T細胞を、寛容化する代わりに刺激した可能性が高い。図7及び図8に提示するのは、ベースラインでドナー抗原に対し感作されていたコホートの一部である膵島移植片レシピエントのデータ(図7)ならびにMHCクラスI及びクラスII(DRBアレルも含む)においてドナーと完全ミスマッチであったレシピエントサルのデータ(図8)である。
【0054】
方法
試験動物
コホートには、インド産の目的に応じて繁殖されたサル(アカゲザル)のドナー及びレシピエントが含まれており、これらはAlphaGenesis、Inc、Yemassee、SCの国立衛生感染症コロニー研究所から入手した。探索群には、3匹のオスが含まれ、年齢7.3±0.1及び体重12.5±1.5kgであった。対照コホートには、8匹のオスが含まれ、年齢4.3±2.1及び体重6.2±1.6kgであった。実験コホートには、7匹のオス及び1匹のメスが含まれ、年齢4.1±1.7及び体重5.2±1.2kgであった。ドナーコホートには、19匹のオスが含まれ、年齢6.7±3.3及び体重11.7±3.6kgであった。動物は、ヘルペスウイルス-1(Bウイルス)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、D型サルレトロウイルス(SRV)、及びサルTリンパ球向性ウイルス(STLV-1)を持たなかった。適格性には、追加で、ABO適合性、及び研究で定義されたMHCマッチング(MHC-I-異質及び1つのMHC-II DRBアレルがマッチしたドナーレシピエント対)が含まれた。全ての動物に、454パイロシーケンス法(ウィスコンシン国立霊長類研究センターの遺伝学サービス部署)60により高分解MHC-I及び-II遺伝子型決定を行った。動物は、自由に水を得ることができるようにし、体重(BW)に基づいてビスケット(Harlan Primate Diet 2055C、Harlan Teklad、Madison、WI)を給餌した。動物の食事は、新鮮な果物、野菜、穀物、豆類、ナッツ、及びマルチビタミン製剤で、毎日充実させた。半年ごとに、獣医学的身体検査を全ての動物で行った。動物は、社会的に収容されており、感覚的関与を奨励し、採食行動を向上させ、新規探索、精神的刺激を促進し、探索、遊び、及び活動レベルを上昇させ、社会的行動を強化させるように計画された環境発展プログラムに参加しており、合わせて、種特異的行動に費やされる時間配分を増加させる機会が動物に提供された。サルは、医療行為に協力するように訓練されており、医療行為には、手からの給餌及び飲水、移送ケージ内への移動、ならびに検査、投薬、代謝試験、及び採血のための姿勢を取ることが含まれた。また、動物は、留置型の中央及び門脈内血管アクセス手段が装着されていた。STZ(100mg/kgのIV)で糖尿病を誘導し、基礎C-ペプチド<0.3ng/mL及び静脈内グルコース負荷に対する陰性C-ペプチド反応により糖尿病であることを確認した61。レシピエントサルのモニタリングには、研究スタッフによる毎日の臨床評価、獣医スタッフによる定期検査、ならびに毎週の血液及び化学検査室による試験が含まれた。この試験における全ての動物の世話及び処置は、ミネソタ大学動物実験委員会の承認を受けて行われたものであり、実験動物の管理と使用に関する指針の推奨に準拠していた(実験動物資源局、国立学術会議、米国保健福祉省)。
【0055】
免疫細胞表現型のフローサイトメトリー分析
コホートB~Eのサルの、凍結保存された末梢血単核球(PBL)試料、肝臓由来組織浸潤単核球(LMNC)試料、及びリンパ節(LN)試料で、多色フローサイトメトリー分析を行った。1×10の細胞を生死判別染色(Aqua;Life Technologies)で染色して、生細胞を細胞デブリから識別した。細胞を、抗体、蛍光-マイナス-ワン(FMO)、及び/またはアイソタイプ対照を用いて、室温で25分間染色し、続いて固定(eBiosciences)し、洗った。制御性T細胞、ならびに増殖T及びB細胞、ならびに細胞内サイトカインを評価するため、PBLを、細胞外エピトープを認識する抗体(CD3、CD4、CD8、CD25、及びCD127)を用いて染色し、続いてFoxP3固定/透過処理キット(eBioscience)を用いて固定/透過処理し、抗FoxP3、Ki67、IFN-γ、IL-10、及びTGF-β抗体を用いて染色した。3-レーザーBD Canto II(BDBioscience)でFACSDIVA6.1.3を用いて、最小で200,000の事象が得られた。これらサブ集団それぞれの相対パーセンテージは、FlowJo10.1ソフトウェア(TreeStar)を用いて特定した。
【0056】
ゲーティング法
最初に、細胞をFSC-H対FSC-Aでゲートし、次いでSSC-H対SSC-Aでゲートして、ダブレットを識別した。図1A-1C、図2。次いで、十分に特性決定されたSSC-A及びFSC-A特性に基づいて、リンパ球をゲートした。死細胞は、生死判別染色に基づいて除外した。以下の表現型特性を用いて、免疫細胞集団を定義した:T細胞:CD3リンパ球;CD4T細胞:CD4/CD3/CD8;CD8T細胞:CD8/CD3/CD4;CD4またはCD8TEM細胞は、CD4またはCD8T細胞内でCD2hi/CD28であるものとして特定した。PD-1、Tbet、CD40、及びKi67の発現は、CD4、CD8T細胞の両方及びCD20B細胞で特定した。ケモカイン受容体(CXCR-5)発現をCD4T細胞で検査して、Tfh細胞:CXCR5CD4T細胞を数え上げた。制御性T細胞は、Tr1細胞:ゲートされたCD4vCD45RAリンパ球のうちCD49bLAG-3であるもの、Treg細胞:ゲートされたCD4CD25リンパ球のうちCD127-FoxP3であるもの、ナチュラルサプレッサー(NS)細胞:ゲートされたCD8リンパ球のうちCD8CD122であるものとして定義し、ならびにBreg細胞に関しては:制御性B細胞(CD24hiCD38hi)、B10細胞:CD3CD19/CD20リンパ球内で、CD24、CD27、及びCD38抗原の発現に基づき(CD24hiCD27)として定義した。ゲートされたLin(CD3CD20)HLA-DRCD14細胞を分析して、骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC):CD14LinHLA-DR細胞のうちCD11bhiCD33hiであるもの、を数え上げた。
【0057】
ドナー特異的T及びB細胞応答
膵島ドナー及び移植片レシピエント由来の凍結貯蔵PBL試料で、混合リンパ球反応(MLR)を行った。レシピエントサル由来の応答側PBL(300,000細胞)試料を、2.5μMのCFSE(Invitrogen、カタログ番号C34554)で標識し、膵島ドナー(donor)及び無関係のMHCミスマッチドナー(第三者)由来の刺激側PBL(300,000細胞)をVPD-450標識(BD、カタログ番号562158)して放射線照射(3000cGy)したものと共培養した。実験の別のセットでは、ナイーブな応答側サル由来のCFSE標識化PBLを、膵島ドナー由来のECDI固定したPBL(ADL)と共培養した(300,000細胞)。ドナーアポトーシス白血球(ADL)を調製した。MLRの6日目、CFSE希釈液で、CD4、CD8、及びCD20細胞を測定し、CFSEの低い細胞を増殖性細胞として、これのパーセンテージで表した。
【0058】
ドナー刺激されたTr1細胞の多機能サイトカインプロファイルの評価。コホートB(n=3)、コホートC(n=3)、及びコホートE(n=2)のサルの末梢血由来のT細胞を、終了時に採取した。簡単に述べると、応答側レシピエントのPBL(1×10細胞)を、1:1の比でドナーPBL(VPD-450標識化)の存在下、48時間、培養した。これらのドナー刺激された細胞を、Brefeldin-A(10ug/ml)の存在下、少量のPMA/イオノマイシンを用いて4時間、手早く活性化した。細胞を、CD4、CD49b、及びLAG-3に関して表面染色し、続いて、透過固定処理し、IL-10及びTGF-βに関して細胞内染色した。Tr1細胞を特定するためのゲーティング法を、上記のとおり行った。
【0059】
ELISPOT。IFN-γELISPOTアッセイのため、コホートB及びコホートCのサルから長期的に収集したPBLを解凍し、洗い、12ウェル培養プレートにおいて、37℃、5%COで、ドナーPBLとともに、最終体積が1mlのCRPMI培地中で前インキュベートした。48時間後、細胞を収集し、PBSで2回洗い、培養培地200μlに再懸濁させた。細胞を、抗IFN-γ抗体でコーティングされた2つのELISPOTウェルに移し、1ウェルあたり最終体積100μl中、37℃で5時間インキュベートした。続いて、ELISPOTアッセイ(U-Cytech Biosciences)を、製造元プロトコルに従って実施した。スポット分析は、Immune Spot ELISPOTリーダー(CTL)で行った。
【0060】
感作化スクリーニング(ドナー特異的抗体、DSA)。様々な時点でレシピエントRMから血清を採取し、DSAの存在を、フローサイトメトリーで検出した。簡単に述べると、保存していたドナーPBLを解凍し、完全RPMIで洗った後、FACS緩衝液(2%FBS含有PBS)に4×10細胞/mlで再懸濁させた。調製した細胞浮遊液50μlを、U型96ウェルプレートの各ウェルに、完全不活性化した(56℃で45分間)レシピエント血清50μlと合わせて播種し、続いて室温で30分間インキュベートし、PBSで3回洗った。最後に、FACS緩衝液100μlに、FITC-抗IgG、PE-抗CD20、PE Cy7-抗CD3、及びLIVE/DEAD(商標)Fixable Aqua色素とともに再懸濁させ、続いて室温で20分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を2回洗い、パラホルムアルデヒドで固定し、BD FACS Canto IIフローサイトメーターで分析した。CD3でゲートされた細胞で検出された抗IgGレベルは、各レシピエント血清中のDSA量を表す。
【0061】
免疫調節を調べる抑制アッセイ
計画された制御性サブ集団は全て、コホートCサルから選別した。採取したばかりの血液から得られたPBLを、滅菌PBS中、Tr1細胞(CD4のうちLAG-3CD49b)選別用にCD4、CD49b、及びLAG-3で、Breg細胞(CD19のうちCD24CD38)選別用にCD19、CD24、CD38で、Treg細胞(CD4のうちCD25hiCD127)選別用にCD4、CD25、CD127で標識し、続いて洗った。BD FACSAria IIシステムを、85μmノズルを用いる選別用に設定した(周波数47kHzで45psi)。選別は全て、1秒あたり8,000~10,000事象で行った。選別された細胞を、CRPMIの入った12×75mm丸底試験管に収集した。純度評価のため、選別後分析を行った。
【0062】
枯渇アッセイでは、Treg細胞、Breg細胞、及びTr1細胞を、移植後12ヶ月で収集したコホートCサルのPBLから枯渇させた。図3。同一数のCFSE標識化全PBL(枯渇させず)またはTreg枯渇(非CD4lymプラスCD127CD25hiCD4lym)PBL、Breg枯渇(非CD19lymプラスCD24CD38CD19lym)PBL、及びTr1枯渇(非CD4lymプラスCD49bLAG3CD4lym)PBLを、同数の放射線照射したVPD450標識化ドナーPBLとともに、1-way CFSE Flow-MLR中、6日間培養した。全てのCFSE-MLR増殖アッセイについて、応答側及び刺激側細胞の比を1:1に維持した。増殖細胞(CFSE)のフロー分析中、全ドナー集団を、VPD450陽性に基づいて除外した。
【0063】
選別された細胞の抑制能力を確認するため、ワクチン接種及び移植の前にベースラインで収集されたナイーブなレシピエントPBLに、1-way CFSE Flow-MLR中、3~4日間、放射線照射したVPD450標識化ドナーPBL細胞(1:1比)で負荷を与え、続いて、様々な制御性表現型を持つ免疫細胞(Tr1細胞、Treg細胞、及びBreg細胞)のある比(1:50)での存在下、または不在下で、放射線照射したドナーPBLで再度負荷を与えた。これらの細胞は、移植後9ヶ月から12ヶ月の間の免疫寛容レシピエントから選別した。Tr1細胞を調べる抑制アッセイ全てについて、ドナー及び第三者ドナーの存在下でTr1対全PBLの比に1:50を用いた。Tr1介在型抑制が接触依存型であるかどうかを調べるトランスウェル実験を設定した。この実験設定では、CFSE標識化Tr1枯渇PBLを、Tr1細胞の存在下、または不在下で、放射線照射したVPD450標識化ドナー細胞(1:1比)とともに、プレートの底に播種した(300,000細胞)。このTr1細胞は、サルのIL-10と交差反応することが既知でありアイソタイプの一致する抗ヒトIL-10中和Abの存在(10μg/ml)下、または不在下いずれかで、膜横断法(4μm孔径、Corning、Ref#3391)により分離させた。
【0064】
Tr1細胞におけるsiRNA介在型SH2D2阻害
フロー選別されたTr1細胞(CD49bLAG-3CD4)及びTr1-lym細胞(CD4のうちCD4LymCD49bLAG-3であるプール)は、移植12ヶ月後に収集されたコホートCサルのPBLから選別された。CFSE標識化Tr1-lym細胞(300,000)を、放射線照射したVPD-450標識化ドナー細胞(300,000)ありまたはなしで、6日間、MLR中で培養した。最初に、選別したTr1細胞を、最初の3日間、CRPMI中で安置し、その後、Accell siRNA貯蔵原液及びAccell送達培地(GE Healthcare、カタログ番号B-005000-500)を直接、選別されたTr1細胞と混合することにより、それらを、100μMのAccellヒトSH2D2A siRNA(Dharmacon Accell、カタログ番号E-017851-00-0005)で処理した。SH2D2A siRNAまたはAccell送達培地のみで処理されたTr1細胞を、最後の3日間、MLRに加え戻した。ドナー特異的T及びB細胞のTr1介在型抑制に対するsiRNA介在型SH2D2阻害の影響を測定するため、6日目、全培養細胞を収集し、T及びB細胞増殖を評価するため染色した。図4
【0065】
四量体の調製及び染色
これらのサルにおいて、MHCクラスII四量体を用いてCD4T細胞、Tr1細胞、及び間接的アロペプチド特異性を持つTreg細胞の追跡を可能にするため、アカゲザル、カニクイザル、及びヒトのMHCクラスII分子のペプチド結合モチーフで観察される高度類似性を、利用した。NCBIウェブサイトで、ヒトゲノムを用いてMamu DRB配列のSt-BLAST分析を行い、ヒトホモログを特定した。HLA DRB113(受入番号CDP32905.1)は、Mamu DRB03aと92%同一であり、ポジティブ96%及びギャップ0%、e値が6e-178であった。HLA DRB114(受入番号ABN54683.1)は、Mamu DRB04と93%同一であり、ポジティブ94%及びギャップ0%、e値が2e-175であった。HLA DRB113またはHLA DRB114に対して高い結合親和性を持つMamu MHCクラスI及びクラスII配列由来のペプチドを、Immune Epitope Database Anaysis resourceを利用して特定した。合成ペプチド(Genscript USA Inc)を、HLA DRB113またはHLA DRB114四量体に添加した。PBLを、特異的細胞表面マーカー用の抗体と合わせて、0.5または1μg/mlのHLAクラスII四量体PEとともに20分間、インキュベートした。染色した細胞を、冷PBS/1%FCSで洗い、1%PBS/ホルムアルデヒドで固定し、BD Canto IIに付着させ、FlowJoバージョン10.2(Tree Star、Ashland、OR)を用いてデータ分析を行った。図5
【0066】
ドナー反応性T細胞を追跡するためのTCR配列決定
TCRβ鎖CDR3領域のRNAに基づく高処理配列決定を用いて、コホートAサルにおいて、ADL注入の前及び後の区間でT細胞クローンの全レパートリーを比較した。このアプローチには、全V遺伝子セグメントにわたる複数のプライマーセットを設計及び最適化する必要があるゲノム法に勝る利点がある。V遺伝子セグメントは、サルではまだあまり定義されていない。RNeasy Plus Universal(Qiagen)を用いて全RNAを冷凍PBLから抽出し、第一鎖cDNAを、全RNAのポリAテイル付画分から作成した。簡単に述べると、特別設計したオリゴdTプライマー及びテンプレートスイッチプライマーを逆転写酵素反応に用いて、cDNAを合成し、このcDNAを、M. mulattaのTCR定常領域及びテンプレートスイッチ配列に対して特異的なプライマーを用いる、TCR VDJ領域の選択的PCR濃縮用のテンプレートとして用いた。各試料から濃縮されたVDJアンプリコンを、配列決定中の適合性を多重化するため、PCRにより独自に二重インデックス化した。全てのPCR増幅は、KAPA HiFi HotStart DNAポリメラーゼレディミックスキット(Roche)を用いて行った。インデックス化アンプリコンライブラリーを、等モルでプールし、SPRIビーズ(Ampure XP、Beckman Coulter)で浄化した。最終プールを、MiSeq(Illumina)300bp対エンドラン(v3キット)で配列決定した。TCR NGSライブラリーの調製及び配列決定は、ミネソタ大学ゲノム科学センターで行った。QC化ショート読取りの生データを、セットパラメーター(ILLUMINACLIP:all_illumina_adapters.fa:2:30:10LEADING:3TRAILING:3SLIDINGWINDOW:4:15MINLEN:70)を使用してtrimmomatic68により明快にした。前処理した読取りを、TCRプロファイリングのため、初期設定でMiXCR69に直接入力した(https://mixcr.readthedocs.io/en/latest/rnaseq.html)。アカゲザルで既知のTRBクローン型を、参照として用いた。得られたTRBクローン型を、カスタマイズされた閾値を用い、クローン割合を≧0.5%として、さらにフィルター処理した。個別の時点でのクローン出現率を、同定されマッピングされたTCRクローン全ての平均出現率で除算することにより、クローン増殖の頻度を計算した。ベースラインでのドナー特異的TCRクローンのほとんどは、極めて少ないか検出不能であったので、本発明者らは、ベースラインとしてピーク増殖を使用して、これら増殖T細胞クローンの運命を分析した。
【0067】
選別されたTr1細胞における遺伝子発現を調べるためのRNASeq法
Illumina Hiseq 2500プラットフォームの50bp対エンド読取りを用いて、RNA試料を配列決定した。CASAV 1.8P/Fフィルターを通過した配列生データを、fastqc(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc)で評価した。読取りマッピングを、Hisat2(v2.0.2)で、参照としてUCSCヒトゲノム(hg38)を用いて行った。Cuffdiff2.2.1を用いて、FPKM単位(マッピングされた読取り100万あたりのエキソン1キロ塩基あたりのマッピングされた断片)で、既知の遺伝子それぞれの発現レベルを定量した。示差的に発現する遺伝子を、CLCGWB(Qiagen、Valencia、CA)中のedgeR(負の2項式)機能を用いて、読取りカウント数生データを用いて特定した。DEGは、カラースケールで表される。発現した転写物に、非ヒト霊長類またはヒトゲノムデータベースを用いて、注釈をつけた。結果を、変化倍率の絶対値で順位付けし、コホートBとコホートCの間のDEGを特定した。生成したリストを、最小1.5倍の変化倍率絶対値及び生P値<0.01に基づいてフィルターした。経路特定のため、これらのDEGを、Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア(Qiagen、Valencia、CA)にインポートした。図1C
【0068】
ADL処理、放出試験、及び注入
膵島移植を基準にして-7日目、脾細胞を、ドナーサル脾臓から単離し、RBC溶解させ、ナイロンウールカラム(Polysciences、Inc.)を用いて残存細胞からB細胞を濃縮した。細胞(80%)を、氷上で1時間、DPBS中でECDI(3.2×10細胞あたり30mg/ml、AppliChem)とともに撹拌し、洗い、壊死細胞及び微小凝集物を除去し、AO/PI蛍光顕微鏡観察により生存/壊死を評価した。ECDI固定した脾細胞を、レシピエント体重1キログラムあたり0.25×10細胞の目的用量で最大濃度を20×10細胞/mLとしてIV注入するため冷シリンジ(n=9)またはIVバッグ(n=2)に添加し、レシピエント投与するまで氷上に維持した。ECDI固定化細胞を37℃で4~6時間インキュベートし、Annexin V/PI(Invitrogen)で標識することにより、アポトーシスの誘導をin vitroでモニタリングし、蛍光顕微鏡観察で分析した。
【0069】
+1日目の注入用のECDI固定化ADLの目的用量に合わせるため、膵島移植を基準に-15日目及び-7日目にドナーサルから採取した血液及び膵細胞の残部20%から、非ヒト霊長類CD20ビーズ(Miltenyi Biotech)を用いて磁気選別によりB細胞を濃縮し、GREX100Mフラスコ(Wilson Wolf)中、rhIL-10(10ng/ml)、rIL-4(10ng/ml)、rhBAFF(30ng/ml)、rhTLR9a(10ng/ml)、ならびにrhCD40L-MEGAまたはrhCD40L多量体(500ng/ml)一方あるいは両方、ならびにrhAPRIL(50ng/ml)の存在下、+1日目まで、ex-vivoで増殖させた。増殖させた細胞を、収集の24時間前に、rhIL-21(5ng/ml)で刺激した。レシピエントは、注入前に、ジフェンヒドラミン12.5mg、アセトアミノフェン160mg、及びオンダンセトロン4mg POの組み合わせで前処置した。
【0070】
一過性免疫抑制
免疫抑制剤を、コホートA~Eの全てのレシピエントサルに投与した。コホートA、C、D、及びEのサルにおける全てのADL注入を包含するため、各薬物の初回用量は、0日目の膵島移植を基準に-8または-7日目に、コホートA~Eの全てのレシピエントに投与された。NIH Nonhuman Primate Reagent Resourceにより提供されたアンタゴニスト抗CD40 mAb 2C10R4は、-8、-1、7、及び14日目に、50mg/kgでIV投与された。ラパマイシン(ラパミューン(登録商標))は、-7日目から移植後21日目までPOで投与され、目的トラフレベルは、5~12ng/mlであった。併用抗炎症治療は、以下からなるものであった:i)αIL-6R(トシリズマブ、Actemra(登録商標))を、-7、0、7、14、及び21日目に10mg/kgのIVで、ならびにii)sTNFR(エタネルセプト、Enbrel(登録商標))を-7及び0日目に1mg/kgのIVで、及び3、7、10、14、及び21日目に0.5mg/kg/SCで。探索コホートRMは、+7日目に終了させた。したがって、免疫抑制剤の最終用量は、これらのRMにおいて+7日目に投与された。
【0071】
膵臓調達、膵島処理及び放出試験、膵島移植、ならびに膵島移植片機能の評価
コホートC~Eのドナーサルで全膵切除を行い、膵島を単離し、精製し、7日間培養して直接経路刺激性能力を最小化し、品質管理に供した。0日目、DNA64により目的数≧5,000IE/kgを、エンドトキシン含有量が≦1.0EU/レシピエントBWのkg、であるように、STZ糖尿病性RMに留置した門脈内血管アクセスポートを用いて、手術せずに移植した。保護的外来インスリンを、移植片機能が完全な動物で移植後21日目に停止した。代謝モニタリングには、毎日のam/pm血糖、毎週のC-ペプチド、毎月のHbA1c、混合食事試験、ならびにグルコースに反応した急性C-ペプチドの特定及びグルコース消失速度(Kg)を伴う2ヶ月ごとのIVGTTが含まれていた。
【0072】
膵島移植片の組織病理学検査
肝臓検体を、各レシピエントの10箇所の異なる解剖学的範囲から得て、10%ホルマリンで固定し、常用の組織学検査用に処理した。10の塊それぞれから得た切片を、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)で染色またはインスリンについて免疫染色し、移植した膵島を点数化した。無拒絶膵島同種移植片生着は、死体解剖で、移植片組織病理学検査において、相当数の無傷A型及び軽度に浸潤したB型膵島が示され、C~F型膵島(軽度~重度に浸潤した膵島及び浸潤物または線維症で部分的もしくは全部置き換わった膵島)がほとんどまたは全くないことにより確認した。
【0073】
ADLは、ドナー特異的T及びB細胞クローンの不完全な増殖を誘導する
非移植、非糖尿病性、1つのDRBがマッチしたコホートAのサル3匹で、短期免疫抑制下、ADL注入後早期の細胞性免疫をモニタリングすることで、いくつかの知見が得られた。循環MDSCの出現率は、顕著に上昇し、上昇は、初回ADL注入の1日後(-6日目)から始まり、+7日目の追跡観察の終わりまで終始上昇したままであった。Ki67CD4T細胞の出現率は、-5日目に2.6倍に上昇し、続いて3日後に90%減少し、2回目のADL注入の3日後からほぼ完全な不在が始まった。Ki67CD8T細胞の出現率は、初回ADL注入後、19倍に上昇し、続いて鋭い減少が、初回ADL注入の4日後から始まり、2回目のADL注入の直後からほぼ完全な不在になった。両方のADL注入後、CD20B細胞は、似たような動態ならびに増殖及び収縮の程度を示した。インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)分泌CD4T細胞の出現率は、顕著に低下し、インターロイキン(IL)-10分泌CD4T細胞の出現率は、変化のないままであった。CD4、CD8、及びCD20細胞のドナー特異的増殖は、顕著に低下し、一方で、第三者ドナーに反応した増殖は、カルボキシフルオレセイン二酢酸スクシンイミジルエステル混合リンパ球反応(CFSE-MLR)アッセイにおいて変化のないままであった。
【0074】
ミスマッチドナーHC-I Mamu A00427-41ペプチドに対する間接的特異性を持つCD4T細胞の運命を追跡するため、本発明者らは、これを、コホートAのサル3匹においてHLA DRB113(Mamu-DR03のヒトホモログ)四量体で試した。細胞は、-5日目に5.6倍に増加し、次いで、0日目に3.6倍に減少した。次いで、2回目のADL注入の2日後、四量体陽性CD4T細胞の出現率は、1.24倍に増加したが、7日目には、ナイーブなサルに比べて顕著に収縮した。
【0075】
これらのサルにおけるVDJ領域のクローン型分析から、約30種のT細胞クローンの出現率がADL注入後に変化したことが実証された。異なるVβ鎖(4-Vβ5と、Vβ4、Vβ7、Vβ9、Vβ11、Vβ12、及びVβ28のうちそれぞれ3つと)を持つ複数のT細胞クローンにおける改変は、ADL注入が、複数のアロ反応性クローンを標的としたことを示した。アロ反応性がポリクローナルであるという考えと一致する。個別のT細胞クローン分析は、複数のクローンの不完全な増殖及び続く5~8倍の収縮を実証した。すなわち、複数の証拠の連なりから、ADL注入が、ドナー特異的T及びB細胞の増殖、続いて収縮を引き起こすことが示された。
【0076】
ADLは、1つのDRBがマッチしたRMにおいて安定した膵島同種移植片免疫寛容を促進する
ストレプトゾトシン(STZ)糖尿病性の1つのDRBがマッチしたコホートBサルで短期免疫抑制にある7匹中2匹で、8日間培養した膵島同種移植片の門脈内移植は、365日間以上の生着となった(図6a及び図6b)。コホートCサル5匹中5匹で、短期免疫抑制にADL注入を追加すると、生着の有意な改善を伴った(P=0.021)。5匹全てが、移植後365日間以上、膵島同種移植片の移植後免疫寛容を呈した(図6a、図6b)。コホートCサル#13EP5は、移植後すぐに正常血糖になり、移植後21日目に免疫抑制及び外来インスリンを中止した後でさえ、それを維持した。このレシピエントのHbA1Cレベルは、移植後正常になり、それを維持した。移植後の持続した体重増加が、他のコホートCサルでも観察され、このことは、治療レジメンの総合的な安全性と一致する。移植前血清C-ペプチドレベル及びグルコース刺激に対する応答は、5匹のレシピエント全てで陰性であった。サル#13EP5では、1年間の追跡観察全体を通じて、移植後の強い陽性の空腹及び無秩序な血清C-ペプチドレベル及びそれらが刺激後に上昇したことから、安定した膵島同種移植片機能が確認された。このレシピエントは、移植後、グルコースで静脈内負荷をかけた後の安定した血糖消失速度(Kg)を示し、この速度はSTZ前の速度に匹敵した。マッチング試験に由来するC-ペプチドレベルは、移植後過程全体を通じて>1ng/mlの実質的上昇を示した。このレシピエントの肝臓を死体解剖で組織病理学的に分析したところ、多数のインタクト膵島が明らかになり、膵島周囲浸潤は、ほとんどまたは全くなかった。移植された肝臓内膵島は、インスリンに関して強い陽性染色を示した。死体解剖で天然の膵臓にインスリン陽性膵島ベータ細胞が存在しなかったことは、移植後正常血糖が、移植片機能を反映したものであり、STZ誘導型糖尿病からの寛解によるものではないことを示した。コホートCサル#15CP1は、移植1年後に屠殺されなかった。膵島同種移植片機能は、このレシピエントにおいて、免疫抑制の中止後2年より長い間、継続した。サル#15CP1の死体解剖で、組織病理学検査から、天然膵臓中に無拒絶膵島同種移植片が生着しており、インスリン陽性ベータ細胞が存在しないことが確認された。比較して、コホートBサル#15CP3は、移植後正常血糖になったものの、移植片機能の低下が、移植4ヶ月後から明らかとなった。それより1ヶ月後の死体解剖から、拒絶が確認され、これは、少数のインスリン陽性膵島ベータ細胞が、単核球により重度に浸潤されていたことにより裏付けられた。まとめると、これらの結果は、ADL処置したRMにおいて、1つのDRBがマッチした膵島同種移植片が、免疫抑制の中止後でさえ、機能的及び組織学的に長期生着することを実証し、厳密な翻訳モデルにおける堅固な免疫寛容を示している。
【0077】
ADLは、エフェクター細胞増殖及びドナー特異的抗体(DSA)誘発を抑制する
エフェクター細胞及び抗体応答を、コホートB及びCのレシピエントで比較した。移植後3、6、及び12ヶ月でのCD3、CD4、及びCD8T細胞ならびにCD20B細胞の循環出現率は、コホートCでは、ADL注入による影響を受けなかった。しかしながら、ADLを投与されなかったコホートBサルとは対照的に、コホートCの移植時付近ADL注入は、循環、肝臓単核球(LMNC)、腸間膜のリンパ節(LN)、ならびに抗ドナーCD4及びCD8Tエフェクターメモリー(TEM)細胞の増殖の長期抑制を伴った。12ヶ月の移植後追跡観察全体を通じて、ADL注入は、コホートBサルに比べてコホートCで、循環T濾胞ヘルパー(Tfh)細胞の出現率の低さを伴った。PD-1CD4T細胞と同様に、PD-1CD8T細胞の割合は、コホートBに比べてコホートCの方が移植後に高かった。このことは、ADLによりT細胞が、表現型誘導及び除去に枯渇することを示唆する。本発明者らの分析は、コホートCサルの循環中のTbetCD4及びCD40CD4T細胞が持続して抑制され、第三者ドナーに対するCD4T細胞増殖には影響がないことも示した。TbetCD8、CD40CD8、及びCD107CD8T細胞の循環出現率は、移植後3ヶ月で、コホートBサルよりもコホートCサルの方が低く、第三者に対するCD8T細胞の不完全な増殖はなかった。酵素関連免疫吸着スポット(ELISPOT)分析から、1ヶ月及び屠殺時の、照射ドナー末梢血リンパ球(PBL)に対して応答したことによる、直接及び間接的特異性を持つIFN-γ分泌T細胞の出現率に、コホートBとCの間で明らかな差はなく、ならびにベースラインと比較した場合にも明らかな差がないことが明らかとなった。循環CD20B細胞の出現率は、コホートBとCで同様であったが、移植後3ヶ月及び12ヶ月での循環中のTbetB細胞の割合ならびに屠殺時のLMNC内のCD19B細胞の割合は、コホートBサルに比べてコホートCで顕著に低かった。コホートBでのみ、レシピエントは、高DSAレベル(平均蛍光強度(mfi)で表される)を発生させ、コホートCではそうならなかった。本発明者らは、DSAが、臨床的拒絶の前から存在していたかどうかを判断するのに十分なほど頻繁には、DSAを測定しなかった。DSA陽性レシピエントのそれぞれにおいて、拒絶は、組織病理学的分析により確認した。まとめると、移植時付近ADL注入は、短期免疫抑制にある1つのDRBがマッチしたサルにおいて、エフェクターT及びB細胞の移植後活性化及び増殖、ならびにそれらの同種移植片への動員を妨害した。
【0078】
ADLは、抗原特異的制御性ネットワークを拡大させる
次に、本発明者らは、コホートB及びCのサルにおいて、制御性表現型を持つリンパ系骨髄系細胞の出現率を比較した。無処置のコホートBサルよりもADL処置したコホートCサルの方が、移植後3、6、及び12ヶ月での循環中のTr1細胞の出現率、ならびに屠殺時のLMNC及びLNの出現率が顕著に高いことが明らかとなった。また、移植後追跡観察期間全体を通じて、無処置のコホートBサルよりもADL処置したコホートCサルの方が、循環ナチュラルサプレッサー(NS)及びTreg細胞のパーセンテージが顕著に高いことも明らかとなった。制御性B(Breg)細胞、B10細胞、及びMDSCも、コホートBサルよりもコホートCサルにおいて、移植後追跡観察期間の間、循環中に、顕著により多く存在し、またMDSC以外は、屠殺時、肝臓及びLNにおいてそうであった。移植後9ヶ月及び12ヶ月でのコホートCのPBLにおいて(未改変レシピエントPBLと比較した場合)、Treg、Breg、及びTr1細胞の枯渇が、ドナーに対するCD4T(4.9倍、2.1倍、及び8.1倍)、CD8T(5.3倍、4.3倍、及び11.1倍)、及びCD20+B(3.1倍、3.0倍、及び5.0倍)細胞増殖の増加と関連していた。再検証中に、移植後12ヶ月で免疫寛容コホートCレシピエントから選別したTr1細胞を、ベースラインでレシピエントから収集したPBLに加え戻したところ、CD4、CD8、及びCD20細胞のドナー特異的増殖が顕著に抑制されたが、第三者ドナーに対する応答によるT及びB細胞増殖には識別可能な効果がなかった。トランズウェル実験におけるTr1細胞の分離は、ドナー特異的応答の抑制をブロックしなかった。このことは、Tr1細胞が、可溶性因子を通じて免疫応答を抑制したことを示めす。one-way CFSEMLRアッセイにおける中和化IL-10の添加は、ドナー特異的応答の抑制を顕著に抑止したが、対照アイソタイプ抗体ではそうならなかった。
【0079】
コホートB及びCのサルからフロー選別したTr1細胞で示差的発現遺伝子(DEG)を分析することにより、258の遺伝子を特定した。DEGのグループ分けから、免疫細胞シグナル伝達及びミトコンドリア呼吸が、コホートCの選別Tr1細胞では、活性される2大生体経路であるが、コホートBのRMではそうではないことが明らかとなった。本発明者らによるDEGのZスコアのヒートマップ分析から、Tr1細胞における免疫シグナル伝達中間体の顕著な上方制御は、コホートCにおいてのみであることが実証された。免疫細胞シグナル伝達のレギュレータ上位3種、すなわち、SH2D2、XBP1、及びSUMO2の関連転写物は、コホートBと比較した場合、コホートCのTr1細胞で顕著に上方制御され、このことは、コホートCのTr1細胞が活性化状態にあったことを示す。本発明者らによるミトコンドリア呼吸をマッピングしたDEGのヒートマップZスコア分析は、コホートCのTr1細胞が1エンドでクラスター形成したことを示し、このことは、細胞が、代謝的に非常に活性であったことを実証する。ミトコンドリア呼吸を調節するNDUSFファミリーのメンバー、NDUFS4及びNDUFS5は、コホートCのTr1細胞で顕著に上方制御された。移植後12ヶ月で、免疫寛容コホートCサルから選別されたTr1細胞を、SH2D2転写分子を標的とする低分子干渉RNA(siRNA)で処理すると、ドナーに対する応答によるCD4(59%)、CD8(53%)、及びCD20(80.5%)細胞の増殖を抑制するTr1細胞の能力が低下した。すなわち、ADLは、制御性ネットワークを拡大させ、これには独特の免疫細胞シグナル伝達及び代謝プロファイルを呈する抗原特異的Tr1細胞が関与する。
【0080】
ADLの寛容原性有効性は、完全ミスマッチRMにおいて鈍化するように思われる。完全ミスマッチのコホートDサルにADL注入すると、レシピエント3匹中2匹で、同種移植片機能の長期化を伴った。しかし第三のレシピエントにおいて、移植片は、移植後120~150日の間に拒絶された。このレシピエントにおいて、TEM細胞の増殖は、このレシピエントで抑制されなかった。ADL注入後、コホートDにおける移植後6ヶ月での、Treg(1.4倍)及びTr1(0.98倍)細胞の増殖は、コホートCサル(2.3倍及び2.1倍、P=0.04)ほど大きくなかった。そのうえ、移植片が拒絶されたコホートDレシピエントにおいて、ドナー特異的T細胞の増殖は、抑制されなかった。3カテゴリーのTr1細胞(IL-10、腫瘍成長因子ベータ(TGF-β)、及びIL-10プラスTGF-β二重産生)の出現率は、コホートBと比べた場合に、コホートCでは顕著に上昇したが、コホートDではそうではなかった。長期同種移植片機能を持つコホートDレシピエント2匹から屠殺時に単離したTr1細胞は、CFSE-MLRに同じ比で加えた場合に、コホートCのTr1細胞では>75%であったのに比べて、T及びB細胞のドナー反応性増殖を>45%低下させた。屠殺時に得られたPBLからTr1細胞が枯渇していたことで、T及びB細胞両方のドナー特異的増殖が≧45%増加した。したがって、完全ミスマッチADLの注入もまた、ドナー特異的調節を確立することができる。
【0081】
1つのDRBがマッチしたADLは、アロ抗原特異的Treg及びTr1細胞を増殖させる
本発明者らは、MHC-II四量体を用いて、自己(共有された)MHC-IIならびにミスマッチドナーMHC-II及びMHC-Iペプチドに対する間接的特異性を持つ循環CD4T細胞サブセットをモニタリングした。ベースラインでは、コホートB~Dにおいて、CD4T細胞サブセットの中でこれらのペプチドに対する間接的特異性を持つCD4T細胞の出現率は、1.72±1.2%~5.23±3.0%で変化した。ベースラインと比較した場合、自己(共有された)MHC-IIペプチドに対する間接的特異性を持つ非制御性CD4+T細胞の出現率は、コホートB、C、及びDにおいて、移植後に上昇しなかった。対照的に、その特異性を持つCD4Treg細胞(最高2.43±0.35倍)及びTr1細胞(最高5.4±1.2倍)のベースラインからの持続的な上昇が、コホートCで生じたが、コホートB及びDでは生じなかった。コホートDでは、移植後、ミスマッチドナーMHC-IIペプチドに対して特異的なCD4T細胞について、非制御性または制御性いずれにしろ、その出現率に変化は観察されなかった。
【0082】
逆に、コホートCでは、ミスマッチドナーMHC-Iペプチドに対する特異性を持つ非制御性CD4T細胞の出現率は、移植後変化せず、一方でその特異性を持つTreg細胞(最高1.93±0.4倍)及びTr1細胞(最高3.9±1.2倍)の出現率は上昇した。ミスマッチMHC-I特異的非制御性CD4T細胞の出現率は、移植後、コホートBでのみ上昇(1.6±0.9倍)したが、Treg及びTr1細胞の相当するサブセットにどのような変化もなかった。まとめると、ADLは、1つのMHC-IIがマッチするRMにおいて共有された(自己)MHC-IIならびにミスマッチMHC-Iペプチドに対する間接的特異性を持つTreg細胞及びTr1細胞を増殖させた。このことは、免疫寛容の誘導及び維持に寄与している可能性が高い。
【0083】
実施例2
バイオマーカーの不在は、移植された膵島機能の喪失と相関する
移植前ドナー特異的免疫応答の鋭敏化またはその存在は、ヒト及び動物モデルにおいて、移植された固形臓器または細胞移植片の長期機能あるいはそれらに対する免疫寛容の誘導を深刻に妨害することが示されている。本発明の前臨床モデルにおいて、ドナー特異的抗体の存在は、移植された膵島の抗体介在型拒絶の加速をもたらした。ドナー特異的抗体が先に存在している非ヒト霊長類において免疫寛容レジメンを投与した後のTr1細胞の存在について、系列末梢血試料を分析した。末梢血試料の分析から、免疫寛容レジメンを投与した結果、移植後(14日目)のTr1細胞の出現率が、ナイーブ状態で観察されるレベル(平均0.59±0.24)より低いレベルに低下すること、及びTr1細胞の増加がこのようになくなることが実証された。Tr1細胞の増加は、ドナー特異的免疫寛容の誘導に失敗したことを示し、膵島同種移植片の移植片機能の喪失と相関する。図7
【0084】
免疫寛容バイオマーカーの喪失は、移植片機能の喪失に先行する
本発明の非ヒト霊長類における前臨床移植モデルにおいて、ADL+TISを完全ミスマッチ膵島同種移植片レシピエントに投与したところ、移植後約300日で移植片機能が喪失する結果となったが、1つのDRBがマッチするレシピエントでの移植は、移植された膵島が無期限(≧365日)に生着及び機能する結果となった。レシピエントのこのサブセットにおいて、Tr1細胞の喪失が移植片機能の喪失に先行するかどうかを試験する目的で、完全ミスマッチ膵島移植片レシピエントから移植前及び移植後に収集した末梢血試料中のTr1細胞の出現率を、フローサイトメトリーで系列的に分析した。1つのDRBがマッチする群と同様に、ADL+TISの投与は、90日目に、Tr1細胞の出現率の変化倍率に顕著な上昇をもたらし(3.98±0.98)、続いて180日目に低下し(1.98±0.75)、300日目には、ナイーブ状態で観察されるレベルに達した(1.19±0.1)。循環Tr1細胞の出現率の低下は、移植片機能の完全喪失と相関していた。これらの観察結果は、Tr1細胞の喪失が、免疫寛容バイオマーカーの喪失を示唆するものであり、移植片機能の喪失に約120日先行することを、強力に示唆する。図8
【0085】
上記の明細書及び例は、本発明を十分に開示し及び実現可能なものにするものの、それらは、本発明の範囲を限定することを意図しない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定義される。
【0086】
全ての刊行物、特許、及び特許出願は、本明細書中参照として援用される。上記の明細書において、本発明は、本発明のある特定の実施形態に関して説明されてきており、解説する目的で多くの詳細が記述されてきたものの、当業者には明らかであるだろうが、本発明は、追加の実施形態の影響を受け入れる余地があり、本明細書中記載される詳細のうちある特定のものは、本発明の基本原則から逸脱することなく大幅に変更される可能性がある。
【0087】
「a」及び「an」及び「the」という用語ならびに同様な指示語の使用は、本発明を説明する文脈において、本明細書中特に記載がない限りまたは文脈から明白に否定されない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるべきである。「含む(comprising)、「有する」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」という用語は、特に記載がない限り、非制限用語(すなわち、「~を含むが、それらに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書中、値の範囲を記述するのは、本明細書中特に記載がない限り、その範囲内に含まれる個別の値それぞれを個々に言及することの簡略的方法の役割を果たすことを意図するにすぎず、個別の値それぞれは、値が本明細書中個別に記述されたかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書中記載される全ての方法は、本明細書中特に記載がない限りまたは文脈から明白に否定されない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書中提供されるありとあらゆる例、または例示する言語(例えば、「such as」)の使用は、本発明をより良く強調することを意図するにすぎず、特に主張されていない限り、本発明の範囲に制限をかけない。本明細書中の言語で、特許請求の範囲に含まれていないいずれかの要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈すべきものはない。
【0088】
本発明の実施形態は、本発明者らが知る限り本発明を実行するのに最適の態様のものを含めて、本明細書中記載される。これら実施形態の改変形態は、上記の説明を読むことで、当業者に明らかとなると思われる。本発明者らは、当業者がそのような改変形態を適宜採用することを期待し、また本発明者らは、本発明が本明細書中具体的に記載されるものとは異なるようにして実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用される法律が許すとおりに、本明細書に添付される特許請求の範囲において記述される発明対象の全ての修飾及び等価物を包含する。そのうえ、本明細書中特に記載がない限りまたは文脈から明白に否定されない限り、上記要素の任意の組み合わせが、それらの全ての可能な改変形態において、本発明に包含される。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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