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特許7613760計測信号処理装置、計測信号処理方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】計測信号処理装置、計測信号処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 18/214 20230101AFI20250107BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20250107BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G06F18/214
G06N20/00
G01N21/17 630
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022514077
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2021014585
(87)【国際公開番号】W WO2021206076
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020070913
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「仮想開口顕微鏡ハードウェア・信号画像処理ソフトウェア開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】安野 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】シーサン ティティヤ
【審査官】大倉 崚吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-016992(JP,A)
【文献】特開2020-057112(JP,A)
【文献】特開平09-305567(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0003682(US,A1)
【文献】特表2020-508536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0110753(US,A1)
【文献】HILLMAN, Timothy R. et al.,"Correlation of static speckle with sample properties in optical coherence tomography",OPTICS LETTERS,2006年,Vol. 31, No. 2,p. 190~192
【文献】PHOTIOU, Christos et al.,"Comparison of classification methods of Barret’s and dysplasia in the esophagus from in vivo optical coherence tomography images",PROCEEDINGS OF SPIE,2020年02月21日,Vol. 11228,p. 1122820-1~1122820-4
【文献】KUROKAWA, Kazuhiro et al.,"In-plane and out-of-plane tissue micro-displacement measurement by correlation coefficients of optical coherence tomography",OPTICS LETTERS,2015年05月01日,Vol. 40, No. 9,p. 2153~2156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
G06F 18/00-18/40
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測信号と前記計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、前記計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と前記目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習部と、
前記目的値を含む前記計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの前記目的値ごとに、当該目的値の種類が複数の特性値セット間で共通に含まれるように定め、
前記特性値セットごとに、前記複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と前記目的値を含む前記学習セットを生成する学習データ生成部と、を備え
前記学習データ生成部は、
前記複数種類の特性値の少なくとも1つに基づいて計測対象の試料の組織構造を定め、 前記組織構造に基づいて前記試料への入射波に対する前記計測信号を生成する
計測信号処理装置。
【請求項2】
前記学習データ生成部は、
乱数を用いて前記複数種類それぞれの所定の値域内となる特性値を定める
請求項1に記載の計測信号処理装置。
【請求項3】
前記目的値は、試料の散乱体密度を含み、
前記複数種類の特性値は、前記計測信号の強度または信号雑音比を含む
請求項1または請求項2に記載の計測信号処理装置。
【請求項4】
前記学習データ生成部は、
前記散乱体密度で散乱体が分布する前記試料の組織構造を定める
請求項に記載の計測信号処理装置。
【請求項5】
前記目的値は、さらに計測系における空間分解能を含む
請求項または請求項に記載の計測信号処理装置。
【請求項6】
前記複数種類の特性値は、計測系における空間分解能、収差係数または波長分散に係る分散係数を含む
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の計測信号処理装置。
【請求項7】
前記数理モデルは、
入力される前記計測信号の観測点ごとの信号値を最初の中間層に出力する入力層と、複数の中間層と、最後の中間層から入力される出力値に基づく推定値を出力する出力層と、を備えるニューラルネットワークを備え、
前記複数の中間層は、直前の層から入力される入力値に対して畳み込み処理を行って得られる演算値を次の層に出力する1以上の畳み込み層を複数回繰り返して重ねて構成され、
前記出力層を含む少なくとも1以上の最後の層は、
直前の層から入力される複数個の入力値の全てに対して、前記入力値の数よりも少ないセット数のパラメータセットをそれぞれ用いて畳み込み処理を行って得られる演算値を出力する全結合層である
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の計測信号処理装置。
【請求項8】
計測信号に対して前記数理モデルに基づいて前記モデルパラメータを用いて前記目的値の推定値を算出する特性推定部を備える
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の計測信号処理装置。
【請求項9】
出力処理部を備え、
前記計測信号は、観測点ごとの信号値を示し、
前記特性推定部は、複数の観測点を含むブロックごとに前記推定値を算出し、
前記出力処理部は、
前記推定値を画素値に変換し、当該画素値を示す表示データを表示部に出力する
請求項に記載の計測信号処理装置。
【請求項10】
前記計測信号は、光干渉断層計測信号、スペックル干渉計測信号、光音響計測信号、超音波断層撮影信号のいずれかである
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の計測信号処理装置。
【請求項11】
計測信号処理装置における計測信号処理方法であって、
計測信号と前記計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、前記計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と前記目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習ステップと、
前記目的値を含む前記計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの前記目的値ごとに、当該目的値の種類が複数の特性値セット間で共通に含まれるように定め、
前記特性値セットごとに、前記複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と前記目的値を含む前記学習セットを生成する学習データ生成ステップと、を有し、
前記学習データ生成ステップにおいて、
前記複数種類の特性値の少なくとも1つに基づいて計測対象の試料の組織構造を定め、
前記組織構造に基づいて前記試料への入射波に対する前記計測信号を生成する
計測信号処理方法。
【請求項12】
計測信号処理装置のコンピュータに、
計測信号と前記計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、前記計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と前記目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習手順と、
前記目的値を含む前記計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの前記目的値ごとに、当該目的値の種類が複数の特性値セット間で共通に含まれるように定め、
前記特性値セットごとに、前記複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と前記目的値を含む前記学習セットを生成する学習データ生成手順と、を実行させるためのプログラムであって、
前記学習データ生成手順において、
前記複数種類の特性値の少なくとも1つに基づいて計測対象の試料の組織構造を定め、
前記組織構造に基づいて前記試料への入射波に対する前記計測信号を生成する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測信号処理装置、計測信号処理方法およびプログラムに関する。本発明は、例えば、光干渉断層撮影計により取得された信号を解析して被計測試料の種々の特性を推定するための技術、およびソフトウェアで実装するための技術に関する。
本願は、2020年4月10日に日本に出願された特願2020-070913号について優先権を主張し、それらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)は、光の干渉性(コヒーレンス)を利用して試料(主に生体)の断層画像を取得する技術である。OCTによれば、試料の表面の他、内部の構造を高い空間分解能で表す画像を取得することができる。OCTは医療における画像診断、生体の組織評価などに応用され、関心が組織の変化、細胞核などの組織内の散乱体密度の変化に向けられることがある。他方、OCT信号の強度は、散乱体密度以外にも、組織そのものの形態、計測部位の深さ、光源や試料からのプローブ光強度、信号雑音比、画像分解能などにも影響される。そのため、OCT信号から散乱体密度を推定することは実用的ではなかった。ひいては、散乱体密度を用いた実用的な診断、評価に至らなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Timothy R. Hillman, et al., “Correlation of static speckle with sample properties in optical coherence tomography”, OPTICS LETTERS Vol.31, No.2, p.190-192, January 15, 2006
【文献】Kazuhiro Kurokawa, et al., “In-plane and out-of-plane tissue micro-displacement measurement by correlation coefficient of optical coherence tomography”, OPTICS LETTERS Vol.40, No.9, p.2153-2156, May 1, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方、OCT信号には必然的にスペックルパターンが発生する。スペックルとは、試料から反射または拡散した光によって形成される不規則に分布した斑点状の模様である。スペックルパターンとは、これらの模様の空間的な分布を指す。スペックルのコントラストは、非特許文献1に記載されているようにOCTプローブ光のコヒーレンスボリュームの範囲内における散乱体数に依存する。コヒーレンスボリュームとは、OCTの空間分解能により定まる三次元空間における体積である。このことは、OCTの空間分解能が既知であれば、スペックルのコントラストから散乱体密度を推定できることを示唆する。つまり、OCT信号が強いほど散乱体密度が高いという仮定のもとで、OCT信号から散乱体密度を相対的かつ主観的に推定することも考えられる。しかしながら、OCTの空間分解能は、試料そのものの構造やOCT装置による収差、OCT装置と試料の間で発生する収差によっても変化するため、試料に対する分解能を予め知り得ない。また、OCT信号の強度は、散乱体密度以外の要因にも影響される。
【0005】
他方、非特許文献2には、スペックルパターンを解析して、試料として用いた組織における分解能を推定する手法について記載されている。このことも、スペックルパターンを解析して、試料内の散乱体密度を推定できることを示唆する。しかしながら、スペックルパターンは、OCT信号の信号雑音比、収差など、種々の要因に影響されるため、十分な精度をもって散乱体密度を得ることができなかった。また、同様な理由で散乱体密度以外にもOCT信号などの計測信号から計測信号自体の特性または計測信号に反映された計測対象の試料の特性を正確に推定することが困難もしくはできなかった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題の一つは、計測信号の特性を示す特性値を、より正確に推定することができる計測信号処理装置、計測信号処理方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、計測信号と前記計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、前記計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と前記目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習部と、前記目的値を含む前記計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの前記目的値ごとに、当該目的値の種類が複数の特性値セット間で共通に含まれるように定め、前記特性値セットごとに、前記複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と前記目的値を含む前記学習セットを生成する学習データ生成部と、を備え、前記学習データ生成部は、前記複数種類の特性値の少なくとも1つに基づいて計測対象の試料の組織構造を定め、前記組織構造に基づいて前記試料への入射波に対する前記計測信号を生成する計測信号処理装置である。
【0009】
(2)本発明の他の態様は、(1)の計測信号処理装置であって、前記学習データ生成部は、乱数を用いて前記複数種類それぞれの所定の値域内となる特性値を定めてもよい。
【0010】
(3)本発明の他の態様は、(1)または(2)の計測信号処理装置であって、前記目的値は、試料の散乱体密度を含み、前記複数種類の特性値は、前記計測信号の強度または信号雑音比を含んでもよい。
【0011】
(4)本発明の他の態様は、(3)の計測信号処理装置であって、前記学習データ生成部は、前記散乱体密度で散乱体が分布する前記試料の組織構造を定めてもよい。
【0012】
(5)本発明の他の態様は、(3)または(4)の計測信号処理装置であって、前記目的値は、さらに計測系における空間分解能を含んでもよい。
【0013】
(6)本発明の他の態様は、(1)から(5)のいずれかの計測信号処理装置であって、前記複数種類の特性値は、計測系における空間分解能、収差係数または波長分散に係る分散係数を含んでもよい。
【0014】
(7)本発明の他の態様は、(1)から(6)のいずれかの計測信号処理装置であって、前記数理モデルは、入力される前記計測信号の観測点ごとの信号値を最初の中間層に出力する入力層と、複数の中間層と、最後の中間層から入力される出力値に基づく推定値を出力する出力層と、を備えるニューラルネットワークを備え、前記複数の中間層は、直前の層から入力される入力値に対して畳み込み処理を行って得られる演算値を次の層に出力する1以上の畳み込み層を複数回繰り返して重ねて構成され、前記出力層を含む少なくとも1以上の最後の層は、直前の層から入力される複数個の入力値の全てに対して、前記入力値の数よりも少ないセット数のパラメータセットをそれぞれ用いて畳み込み処理を行って得られる演算値を出力する全結合層であってもよい。
【0015】
(8)本発明の他の態様は、(1)から(7)のいずれかの計測信号処理装置であって、計測信号に対して前記数理モデルに基づいて前記モデルパラメータを用いて前記目的値の推定値を算出する特性推定部を備えてもよい。
【0016】
(9)本発明の他の態様は、(8)の計測信号処理装置であって、出力処理部を備え、前記計測信号は、観測点ごとの信号値を示し、前記特性推定部は、複数の観測点を含むブロックごとに前記推定値を算出し、前記出力処理部は、前記推定値を画素値に変換し、当該画素値を示す表示データを表示部に出力してもよい。
【0017】
(10)本発明の他の態様は、(1)から(9)のいずれかの計測信号処理装置であって、前記計測信号は、光干渉断層計測信号、スペックル干渉計測信号、光音響計測信号、超音波断層撮影信号のいずれかであってもよい。
【0018】
(11)本発明の他の態様は、計測信号処理装置における計測信号処理方法であって、計測信号と前記計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、前記計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と前記目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習ステップと、前記目的値を含む前記計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの前記目的値ごとに、当該目的値の種類が複数の特性値セット間で共通に含まれるように定め、前記特性値セットごとに、前記複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と前記目的値を含む前記学習セットを生成する学習データ生成ステップと、を有し、前記学習データ生成ステップにおいて、前記複数種類の特性値の少なくとも1つに基づいて計測対象の試料の組織構造を定め、前記組織構造に基づいて前記試料への入射波に対する前記計測信号を生成する計測信号処理方法である。
【0019】
(12)本発明の他の態様は、計測信号処理装置のコンピュータに、計測信号と前記計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、前記計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と前記目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習手順と、前記目的値を含む前記計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの前記目的値ごとに、当該目的値の種類が複数の特性値セット間で共通に含まれるように定め、前記特性値セットごとに、前記複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と前記目的値を含む前記学習セットを生成する学習データ生成手順と、を実行させるためのプログラムであって、前記学習データ生成手順において、前記複数種類の特性値の少なくとも1つに基づいて計測対象の試料の組織構造を定め、前記組織構造に基づいて前記試料への入射波に対する前記計測信号を生成するプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、計測信号の特性をより正確に推定することができる。例えば、OCT信号から被計測試料とする組織の散乱体密度を従来よりも高い精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る本計測信号処理の概要を説明するための説明図である。
図2】本実施形態に係る計測信号処理装置の構成例を示すブロック図である。
図3】本実施形態に係るOCTシステムの一例を示す構成図である。
図4】本実施形態に係る数理モデルの一例を示す説明図である。
図5】本実施形態に係る数理モデルの構成例を示す表である。
図6】目的値の第1算出例を示す図である。
図7】目的値の第2算出例を示す図である。
図8】目的値の第3算出例を示す図である。
図9】目的値の第4算出例を示す図である。
図10】目的値の第5算出例を示す図である。
図11】生体試料の観測例を示す図である。
図12】各指標値の時間変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態の概要について説明する。図1は、本実施形態に係る計測信号処理の概要を説明するための説明図である。本実施形態に係る計測信号処理装置100は、学習ステップ(S01)と推定ステップ(S02)を実行可能とする。学習ステップS01は、入力される計測信号から所定の数理モデルに従って計測信号の特性を示す特性値のうち所定の目的値を推定するためのモデルパラメータを定める処理である。所定の目的値は、1種類であってもよいが、複数種類となってもよい。学習ステップS01において、計測信号処理装置100は、教師あり学習(Supervised Learning)を行う。教師あり学習とは、既知の入力値と出力値を含んで構成されるセットを学習データ(Supervised Data、訓練データ、教師データなどとも呼ばれる)として用い、入力値に対して数理モデルに従って算出される推定値が出力値に近似するようにモデルパラメータを再帰的に算出することを意味する。
【0023】
計測信号処理装置100は、学習ステップS01において、入力値、出力値として、それぞれ計測信号(例えば、OCT信号)、目的値を用いる。目的値として、その計測信号の所定の少なくとも1種類の特性値(図1に示す例では、散乱体密度(SPUV:Number of Scatterers Per Unit Volume))が用いられる。学習ステップS01では、計測信号処理装置100は、入力値と出力値のセット(以下、学習セット)を複数通り生成し、推定値と出力値との差(以下、モデル誤差)が複数通りの学習セットを跨いで最小化されるようにモデルパラメータを算出する。数理モデルとして、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)が利用可能である。ここで、最小化とは絶対的に最小にすることだけではなく、極力最小にすることを目的としてモデルパラメータを推定または探索するための演算を行うことを意味する。従って、最小化の過程でモデル誤差は単調に減少するとは限られず、一時的に増加することもありうる。
【0024】
本実施形態に係る学習ステップS01は、例えば、次のステップS102~S108を有する。
(ステップS102)計測信号処理装置100は、計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットを特性値セットとして複数通り設定する。計測信号処理装置100には、1通りの特性値セットには複数種類の特性値が含まれ、その複数種類の特性値のうち少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として予め設定しておく。つまり、1通りの特性値セットには、複数種類の目的値が含まれてもよい。また、1通りの目的値が複数通りの特性値セット間で共通となるように定められる。1通りの特性値セットに含まれる特性値の種類の数は、目的値の種類の数よりも多くしておく。図1に例示されるように、目的値として1種類の特性値としてSPUVを採用する場合には、その他の種類の特性値として、強度、SNR(Signal-to-Noise Ratio、信号雑音比)、空間分解能(Spatial Resolution)、ENS(Effective Number of Scatterers、実効散乱体数)などのいずれか、またはそれらの一部または全部からなる組が特性値セットに含まれうる。
【0025】
(ステップS104)計測信号処理装置100は、ステップS102で設定した目的値の例としてSPUVを用いて所定の観測領域に所在する試料における散乱体の分布を試料の組織構成として、特性値セットごとに定める。
(ステップS106)計測信号処理装置100は、特性値セットごとに定めた組織構造と、目的値であるSPUVとは別の種類の特性値を用いて、所定の信号モデルに従って観測領域における計測信号を生成(シミュレート)する。計測信号処理装置100は、計測信号の例としてOCT信号を生成してもよいし、またはOCT信号に基づいて試料の状態を可視化するためのOCT画像データを生成してもよい(OCTイメージング)。
【0026】
(ステップS108)計測信号処理装置100は、特性値セットごとに生成した計測信号と目的値(図1に示す例では、SPUV)のセットを、それぞれ入力値と出力値として含む学習セットとして設定する。計測信号処理装置100は、複数通りの学習セットにわたり、計測信号に対して数理モデルに従って算出される推定値と出力値とのモデル誤差が最小化されるように、モデルパラメータを算出(学習)する。
【0027】
他方、推定ステップS02では、計測信号処理装置100は、例えば、次のステップS112、S114の処理を実行する。
(ステップS112)OCT計測などにより試料が設置された所定の観測領域における試料の状態を示す計測信号を取得する。
(ステップS114)計測信号処理装置100は、取得した計測信号を入力値として所定の数理モデルに従って、学習ステップS01において得られたモデルパラメータを用いて目的値(この例では、SPUV)の推定値を算出する(目的値推定)。
【0028】
このように、1通りの目的値に対して、複数通りの特性値セットが定められ、複数種類の特性値からなる特性値セットのそれぞれに基づいて生成された計測信号を入力値とし、複数通りの特性値セットにわたり入力値に対する推定値が目的値に近似するようにモデルパラメータが定められる。定めたモデルパラメータを用いて、入力値として別途取得された計測信号に対する推定値として、目的値に近似する値が算出される。よって、計測信号処理装置100は、計測信号に対する変動要因として目的値とは別の種類の特性値(例えば、強度、分解能など)に対して頑健(ロバスト(Robust))もしくは不変(Invariant)に特性値を定めることができる。
【0029】
(計測信号処理装置)
次に、本実施形態に係る計測信号処理装置100の構成例について説明する。図2は、本実施形態に係る計測信号処理装置100の構成例を示すブロック図である。
計測信号処理装置100は、制御部110と、記憶部130と、入出力部140と、表示部150と、操作部160と、を含んで構成される。
【0030】
制御部110の一部または全部の機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されるコンピュータとして実現される。プロセッサは、予め記憶部130に記憶させておいたプログラムを読み出し、読み出したプログラムに記述された指令で指示される処理を行って、その機能を奏する。本願では、プログラムに記述された指令で指示される処理を行うことを、プログラムを実行する、プログラムの実行、などと呼ぶことがある。制御部110の一部または全部は、プロセッサなどの汎用のハードウェアに限られず、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアを含んで構成されてもよい。
制御部110は、計測系制御部112、計測信号取得部114、学習データ生成部116、モデル学習部118、特性推定部120および出力処理部122を含んで構成される。
【0031】
計測系制御部112は、計測系に設置された試料として用いる被測定物体の観測領域の範囲を制御する。計測系制御部112は、例えば、操作部160から入力される操作信号に基づいて観測領域の位置または大きさを設定し、設定した観測領域内で観測点の位置を制御する。計測系制御部112は、例えば、後述するOCTシステム1(図3)におけるガルバノミラー60a、60bの位置を可変にする駆動機構を駆動させ、試料Smの観測点を走査する。試料Smの観測点は、試料Smの深さ方向に交差する方向(例えば、試料Smの正面に平行な方向)に走査される。
【0032】
計測信号取得部114は、計測系から被測定物体の状態を示す測定信号を取得する。計測信号取得部114は、例えば、OCTシステム1における分光器70から計測信号を逐次に取得する。計測信号取得部114は、取得した計測信号に基づいて試料Smの深さ方向の反射光の強度分布を示す信号値を所定の間隔で配列された観測点ごとに取得する。計測信号取得部114は、走査により変更される観測点ごとに反射光の強度分布を取得する処理を繰り返す。取得される反射光の強度分布は、試料Smの屈折率の深さ方向の分布に基づく。計測信号取得部114は、観測領域内の試料Smの状態を表すOCT信号を計測信号として取得することができる。OCT信号は、試料Smに入射される参照光と試料Smからの反射光が干渉した干渉光の強度の複素振幅を観測点ごとに示す信号値を有する。計測信号取得部114は、取得した計測信号を記憶部130に記憶する。
【0033】
学習データ生成部116は、1通りの特性値セットごとに学習セットを生成する。学習データ生成部116は、特性値セットごとに生成した学習セットを含む一連のデータ群を学習データとして記憶部130に記憶する。
1つの学習セットには、入力値とする計測信号と目的値とする少なくとも1種類の所定の特性値が含まれる。まず、学習データ生成部116は、複数通りの特性値セットを生成する。個々の特性値セットは、複数種類の特性値を含んで構成され、複数種類の特性値のうち少なくとも1種類が目的値として採用される。但し、学習データ生成部116は、1通りの目的値が2通り以上の特性値セット間で共通となるように、個々の特性値セットを定める。個々の特性値セットの間では、その個々の特性値セットを構成する複数種類の特性値の組み合わせが異なる。本願では、ある特性値セットと、一部の種類の特性値が共通であるが、残りの種類の特性値が異なる特性値セットは、別個の特性値セットとして区別される。例えば、SPUV、SNRを特性値として含み、SPUVを目的値とする2通りの特性値セット1、2において、学習データ生成部116は、SPUVが0.01個/μmでありSNRが10dBである特性値セット1と、SPUVが0.01個/μmでありSNRが20dBである特性値セット2とは、SPUVが0.01個/μmである点で共通であるが互いに異なる特性値セットとして生成する。各1通りの目的値が複数種類の特性値を含む特性値の組である場合も、学習データ生成部116は、少なくとも1種類の特性値が異なる目的値同士は、異なる目的値として区別する。一般に、学習データ生成部116は、複数通りの目的値を設定する。つまり、生成される特性値セットの総数は、1通りの目的値ごとに設定された特性値セットの数の総和となる。従って、1セットのモデルパラメータの生成に用いられる学習セットの個数(セット数)は、特性値セットの個数と等しくなり、各1通りの目的値に共通する特性値セットの個数(この個数は、上記のように2通り以上)の複数通りの目的値を跨いだ総和となる。
【0034】
また、個々の特性値は、スカラー量ともベクトル量ともなりうる。例えば、SPUV、ENS、強度、SNRなどは、それぞれスカラー量である。他方、分解能は、観測領域と同じ次元数を有するベクトル量として扱われてもよいし、個々に独立なスカラー量として扱われてもよい。例えば、三次元の観測領域における分解能は、x方向分解能、y方向分解能、z方向分解能は、それぞれ要素として含む三次元のベクトルとして扱われてもよいし、x方向分解能、y方向分解能、z方向分解能は、それぞれ別個のスカラー量として扱われてもよい。但し、x方向、y方向、z方向は三次元の直交座標系において互いに直交する座標軸の方向である。z方向は試料の深さの方向であり、x方向、y方向は、z方向に直交する平面内の互いに直交する方向である。この一連の特性値セットを定める処理は、上記のステップS102の処理に相当する。
【0035】
特性値セットの設定において、学習データ生成部116は、個々の種類の特性値に対してとりうる予め定めた値域内の複数通りの値を定める。学習データ生成部116には、例えば、その種類に対して予め設定した値域内で等間隔に分布する3通り以上の特性値を定める。また、学習データ生成部116は、所定の代数的手法を用いて所定の値域内で一様に分布する疑似乱数(以下、一様乱数)を生成し、生成した疑似乱数を、特性値の種類に対応した値域内にスケーリングして得られる値を特性値として定めてもよい。代数的手法として、例えば、線形合同法(Linear Congruential Method)、M系列法(M-sequence Method)などの手法が利用可能である。ベクトル量である特性値に対しては、学習データ生成部116は、そのベクトルの要素ごとの値を個々に定める。なお、一般に特性の種類により特性値の値域は異なりうる。但し、x方向分解能とy方向分解能のように、互いに同種の要素値または特性値に対しては、共通の値域が設定されてもよい。学習データ生成部116は、例えば、操作部160から入力される操作信号に基づいて処理対象の特性値の種別、その値域を設定可能としてもよい。
【0036】
学習データ生成部116は、特性値セットの一部または全部の特性値を用いて入射波に対する所定の伝搬モデルに従って、その特性値で表現される特性を有する計測信号を生成する。以下に例示する散乱体分布を定める処理が上記のステップS104の処理に相当し、散乱体分布から計測信号の例としてOCTスペックルパターンを定める処理が上記のステップS106の処理に相当する。
【0037】
特性値セットをなす特性値にSPUVを含む場合を例にすると、学習データ生成部116は、定めたSPUVで散乱体が所定の観測領域内で確率的に分布した(stochastically distributed)組織構造を生成する。より具体的には、観測領域が直方体の形状を有する三次元の領域である場合には、学習データ生成部116は、定めたSPUVに観測領域に所在する試料の占有領域内の観測点数を乗じて散乱体の個数を算出する。試料の占有領域は予め設定しておく。試料が観測領域の全体を占有する場合を仮定する場合には、試料の占有領域を考慮せず、学習データ生成部116は観測領域内の観測点数を占有領域内の観測点数とみなす。
【0038】
そして、学習データ生成部116は、一様乱数を逐次に生成し、3個ごとに生成した乱数をそれぞれ観測領域の所定の幅、奥行き、深さについてスケーリングして観測領域内の散乱体の座標値(x,y,z)を定める。学習データ生成部116は、散乱体の位置を定める処理を散乱体の個数に相当する回数分繰り返す。観測領域内において散乱体の分布(以下、散乱体分布f(x,y,z))が組織構造として生成される。
【0039】
特性値セットに空間分解能を含む場合を例にすると、学習データ生成部116は、空間分解能に対応した点像分布関数(PSF:Point Spread Function)を定める。学習データ生成部116は、例えば、式(1)に示すようにx,y,z方向分解能を、それぞれx,y,z方向の標準偏差として有する三次元正規分布をPSF(x,y,z)として定める。そして、学習データ生成部116は、式(2)に示すように、散乱体分布f(x,y,z)に点像分布関数PSF(x,y,z)を畳み込み演算を行ってOCTスペックルパターンO(x,y,z)を定める。OCTスペックルパターンは、入射光が散乱体により散乱して観測されうるOCT信号である。なお、式(1)において、σ,σ,σは、それぞれx,y,z方向の標準偏差を示す。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
特性値セットに強度を含む場合を例にすると、学習データ生成部116は、計測信号として、例えば、上記のOCTスペックルパターンO(x,y,z)における観測点ごとの信号値に強度に比例する定数を乗ずることによりスケーリングする。学習データ生成部116は、スケーリング後の観測点ごとの信号値を示すデータを新たなOCTスペックルパターン(x,y,z)として更新する。
【0043】
特性値セットにSNRを含む場合を例にすると、学習データ生成部116は、計測信号として、例えば、上記のOCTスペックルパターンO(x,y,z)における観測点ごとの信号値にノイズ成分値を加算することにより調整する。学習データ生成部116は、ノイズ成分値を定める際、その分布が複素正規分布となる疑似乱数を逐次に生成し、生成した個々の乱数にゲインを乗じて観測点ごとのノイズ成分値を定める。学習データ生成部116は、観測領域内のノイズ成分値の絶対値二乗和に対する信号値の絶対値二乗和の比がSNRとなるようにノイズ成分値に乗じられるゲインを定める。なお、計測信号に対してスケーリングを行った場合には、学習データ生成部116は、スケーリング後の計測信号をノイズ成分値の加算対象とする。
【0044】
なお、複数種類の特性値は相互に依存関係を有する場合がある。その場合には、学習データ生成部116は、ある種類の特性値が設定されない場合でも、その種類の特性値を他の種類の特性値から導出してもよい。また、学習データ生成部116は、導出した特性値を目的値として用いてもよいし、用いなくてもよい。例えば、学習データ生成部116は、設定したENSをx,y,z方向の空間分解能の積であるコヒーレンスボリュームで除算してSPUVを定めてもよい。逆に、学習データ生成部116は、SPUVにx,y,z方向の空間分解能の積であるコヒーレンスボリュームを乗算してENSを定めてもよい。また、学習データ生成部116は、ENSをSPUVとz方向とx-y方向の空間分解能の比で除算して得られる体積の三乗根をそれぞれx方向空間分解能、y方向空間分解能として定め、x方向空間分解能にその空間分解能の比を乗算してz方向空間分解能として定めてもよい。また、学習データ生成部116は、ノイズレベル、即ち、ノイズ成分値の感触領域内の二乗和を一定値と仮定し、信号成分の強度に比例するようにSNRを定めてもよいし、その強度でスケーリングした信号成分値とノイズ成分値を加算して観測点ごとの信号値を算出してもよい。上記のように、SNRはノイズ成分値の絶対値二乗和に対する信号値の絶対値二乗和の比で与えられる。
【0045】
上記の説明では、三次元空間における観測領域内のOCTスペックルパターンを計測信号として定める場合を例にしたが、同様の手法を用いて二次元空間における観測領域内のOCTスペックルパターンを計測信号として定めることができる。その場合、x,y,z座標のうち、いずれかの座標軸方向の座標を省略すればよい。例えば、試料表面などの二次元空間における点像分布関数PSF(x,y)、OCTスペックルパターンO(x,y)は、それぞれ式(3)、(4)に示すように、z座標を省略して与えられる。
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
モデル学習部118は、記憶部130から学習データを読み出し、読み出した学習データに含まれる一連の複数通りの学習セットを用いて1セットのモデルパラメータを定める。モデルパラメータを定める処理は、上記のステップS108の処理に相当する。モデルパラメータとは、数理モデルに従った演算において用いられる1個または複数のパラメータを指し、パラメータセットまたはハイパーパラメータと呼ばれることもある。モデル学習部118は、学習データに含まれる学習セットごとに計測信号を、数理モデルの入力値として設定する。モデル学習部118は、一連の学習データ全体として計測信号に対して数理モデルに従って出力値として算出される推定値と目的値とのモデル誤差を最小化するようにモデルパラメータを算出する。モデル誤差の大きさを示す指標である損失関数(Loss Function)として、例えば、平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)が利用可能である。MSEは、式(5)に示すようにN個のサンプルi間での目的値cと推定値c の差の二乗の単純平均値である。MSEは、値が小さいほどモデル誤差が小さいこと、つまり、推定値の目的値に対する近似の度合いが高いことを示す指標である。モデル学習部118は、例えば、最急降下法を用いてMSEが所定の判定閾値以下となるまでモデルパラメータを再帰的に更新する処理を繰り返す。モデル学習部118は、定めたモデルパラメータを示すモデルパラメータデータを記憶部130に記憶する。本実施形態に係る数理モデルの例については後述する。
【0049】
【数5】
【0050】
特性推定部120は、モデル学習部118により記憶されたモデルパラメータデータと、計測信号取得部114により記憶された計測信号を記憶部130から読み出す。計測信号を取得する処理は上記のステップS112の処理に相当する。特性推定部120は、読み出した計測信号に対して上記の数理モデルに従って、読み出したモデルパラメータデータで示されるモデルパラメータを用いて算出目的とする目的値の推定値を出力値として算出する。推定値を算出する処理は上記のステップS114の処理に相当する。特性推定部120は、算出した推定値を計測信号と関連付けて記憶部130に記憶する。
【0051】
出力処理部122は、操作部160から入力される操作信号に基づいて各種のデータの出力を制御する。操作信号により、例えば、OCT画像の表示の要否、目的値の表示の要否などが指示される。出力処理部122は、OCT画像の表示を示す操作信号が入力されるとき、計測信号取得部114または学習データ生成部116が取得した計測信号を記憶部130から読み出し、計測信号が示す観測点ごとの信号値である複素振幅の絶対値を、その観測点に対応する画素の所定の値域内の輝度値に変換し、変換した輝度値を有する出力画像データを表示データとして表示部150に出力する。これにより、表示部150に出力画像データに基づくOCT画像が表示される。操作信号に基づいて出力処理部122は出力対象とする計測信号を選択してもよい。出力処理部122は、目的値の表示を指示するための操作信号が入力されるとき、特性推定部120により算出された目的値の推定値を記憶部130から読み出し、読み出した推定値を示す表示データを表示部150に出力する。出力処理部122は、その推定値を、その推定値の算出に用いた計測信号に基づくOCT画像に重畳して表示部150に表示させてもよい。
【0052】
なお、出力処理部122は、上記の設定値(例えば、観測領域、目的値、特性値の種別、値域など)の設定を案内するための設定画面データを記憶部130から読み出し、読み出した設定画面データを表示データとして表示部150に出力してもよい。その場合には、設定画面データに基づく設定画面が表示部150に表示される。
【0053】
記憶部130は、上記のプログラムの他、制御部110が実行する処理に用いられる各種のデータ、制御部110が取得した各種のデータを記憶する。記憶部130は、例えば、ROM(Read Only memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の(非一時的)記憶媒体を含んで構成される。記憶部130は、例えば、RAM(Random Access memory)、レジスタなどの揮発性の記憶媒体を含んで構成される。
【0054】
入出力部140は、無線または有線で他の機器と各種のデータを入出力可能に接続する。入出力部140は、例えば、入出力インタフェースを備える。入出力部140は、例えば、周辺機器や計測系に接続される。
表示部150は、制御部110から入力される表示データに基づく画像、文字、記号、などの表示情報を表示する。表示部150は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどのいずれを備えてもよい。
【0055】
操作部160は、例えば、ボタン、つまみ、ダイヤル、マウス、ジョイスティックなど、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じた操作信号を生成する部材を含んで構成されてもよい。操作部160は、取得した操作信号を制御部110に出力する。操作部160は、他の機器(例えば、リモートコントローラ等の携帯機器)から操作信号を無線または有線で受信する入力インタフェースであってもよい。
【0056】
(OCTシステム)
次に、本実施形態に係るOCTシステム1について説明する。図3は、本実施形態に係るOCTシステム1の一例を示す構成図である。OCTシステム1は、OCTを用いて試料の状態を観測するための観測システムである。
OCTシステム1は、試料Smに光を照射し、試料Smから反射した反射光と、参照鏡40で反射された参照光とを干渉させて生じた干渉光を取得し、取得した干渉光から試料Smの表面とその内部の状態を示すOCT信号を計測信号として取得する。OCTシステム1は、取得した計測信号をOCT画像に変換して可視化する。
【0057】
試料Smとする観測対象の物体は、例えば、人間もしくは動物の生体、非生物のいずれでもよい。生体は、眼底、血管、歯牙、皮下組織などであってもよい。非生物は、電子部品、機械部品など人工的な構造体、石材、鉱物などの天然の構造体、特定の形状を有しない物質のいずれでもよい。
【0058】
OCTシステム1は、光源10、ビームスプリッタ20、コリメータ30a、30b、50a、50b、参照鏡40、ガルバノミラー60a、60b、分光器70、および計測信号処理装置100を含んで構成される。これらの構成部品のうち、ビームスプリッタ20、コリメータ30a、30b、50a、50b、参照鏡40、ガルバノミラー60a、60b、および分光器70は、干渉計と呼ばれる光学系を構成する。図1に例示される干渉計は、マイケルソン干渉計である。より具体的には、光源10と分光器70、コリメータ30aとコリメータ50aは、それぞれ光ファイバを用いてビームスプリッタに接続されている。OCTシステム1は、例えば、フーリエドメインOCT(FD-OCT:Fourier-domain OCT)である。
【0059】
光源10は、超短波パルスレーザ、SLD(スーパールミネセントダイオード;Superluminescent Diode)などの広帯域光源である。光源10は、例えば、近赤外の波長(例えば、800~1000nm)を有し、コヒーレンスが低いプローブ光を照射する。光源10から照射された光は、光ファイバ内部で導光され、ビームスプリッタ20に入射する。 ビームスプリッタ20は、入射した光をコリメータ30aに向けて導光される光(以下、参照光)と、コリメータ50aに向けて導光される光(以下、測定光)に分離する。ビームスプリッタ20は、例えば、キューブビームスプリッタなどである。
【0060】
コリメータ30aは、ビームスプリッタ20から導光される参照光を平行光に変化させ、平行光をコリメータ30bに向けて出射する。
コリメータ30bは、コリメータ30aから入射される平行光を集光し、集光した参照光を参照鏡40に向けて出射する。なお、コリメータ30bは、参照鏡40で反射した参照光を入射し、平行光に変換し、変換した平行光をコリメータ30aに向けて出射する。 コリメータ30aは、コリメータ30bから入射した平行光を集光し、ビームスプリッタ20に向けて導光する。
【0061】
他方、コリメータ50aは、ビームスプリッタ20から導光される測定光を平行光に変換し、変換した平行光をガルバノミラー60aに向けて出射する。ガルバノミラー60a、60bの表面において、コリメータ50aから入射される平行光は、それぞれ反射され、コリメータ50bに向けて出射される。コリメータ50bは、コリメータ50aからガルバノミラー60a、60bを経由して入射された平行光を集光し、集光した測定光を試料Smに照射する。試料Smに照射される測定光は、試料Smの反射面において反射されコリメータ50bに入射される。反射面は、例えば、試料Smと試料Smの周囲環境(例えば、大気)との境界面に限られず、試料Sm内部における屈折率が異なる材質間もしくは組織間を区分する境界面となりうる。以下、試料Smの反射面において反射され、コリメータ50bに入射される光を反射光と呼ぶ。
【0062】
コリメータ50bは、入射された反射光をガルバノミラー60bに向けて出射する。ガルバノミラー60b、60aそれぞれの表面において、それぞれ反射され、コリメータ50aに向けて出射される。コリメータ50aは、コリメータ50aからガルバノミラー60a、60bを経由して入射された平行光を集光し、集光した反射光をビームスプリッタ20に向けて導光する。
【0063】
ビームスプリッタ20は、参照鏡40で反射された参照光と試料Smで反射された反射光とを、光ファイバを経由して分光器70に導光する。
分光器70は、その内部に回折格子と受光素子を備える。回折格子は、ビームスプリッタ20から導光された参照光と反射光を分光する。分光した参照光と反射光は、互いに干渉し、干渉した干渉光となる。受光素子は、干渉光が照射される撮像面に配置される。受光素子は、照射される干渉光を検出し、検出した干渉光に応じた計測信号を生成する。受光素子は、生成した計測信号を計測信号処理装置100に出力する。なお、観測領域における隣接する観測点の間隔は、光学系の空間分解能以下とすることが望ましい。
【0064】
(数理モデル)
次に、本実施形態に係る数理モデルの例について説明する。図4は、本実施形態に係る数理モデルの一例を示す説明図である。図5は、図4に例示される数理モデルの構成を示す表である。図5は、各列に層ごとの番号、種別、カーネル数、カーネルサイズ、ストライド、活性化関数および軸を示す。但し、-は、層の種別により該当項目がないことを示す。
【0065】
図4図5に示す数理モデルは、CNNである。図4図5に示す例では、CNNへの入力値が三次元のOCT信号であり、CNNからの出力値として一次元の目的値(スカラー)の算出に用いられる。一次元の特性値は、例えば、拡散体密度、信号強度、ENS、SNR、個々の方向の分解能(即ち、x,y,z方向分解能のそれぞれ)などが該当する。
【0066】
CNNは、人工ニューラルネットワークの一種であり、1層の入力層、複数の中間層および出力層を備える。図4に例示されるCNNは、入力層118a、特徴抽出層群118bおよび推定層群118cを備える。図5に例示される第0層が入力層118a、第1~16層が特徴抽出層群118b、第17、18層が推定層群118cに相当する。特徴抽出層群118bに属する各層と、推定層群118cの最初の層が中間層に相当し、推定層群118cの最後の層が出力層に相当する。各層は、1個以上の節点(ノード、ニューロンなどとも呼ばれる)を有する。各節点は、入力値に対する所定の関数の関数値を出力値として出力する。但し、三次元の計測信号を扱う場合には、分解能は三次元のベクトル値をとる。そのため、分解能を三次元の出力値として算出する際には、3個の節点が備わる出力層を有するCNNが用いられてもよい。
【0067】
入力層118aは、入力値として入力される計測信号で示される観測点ごとの信号値をそれぞれ次の層に出力する。入力層118aの各節点には、その節点に対応する観測点の信号値が入力され、入力される信号値が次の層の対応する節点に出力する。なお、図5のカーネル数は、それぞれ入力値に対する処理(例えば、演算)に用いるカーネルの数を示す。カーネルとは、一度に1つの出力値を算出するための処理単位を指す。カーネルは、フィルタとも呼ばれる。カーネルサイズとは、カーネルにおける一回の処理に用いられる入力値の数を示す。例えば、図5の第0層は、入力層118aをなす節点の数が32×32×32個であるカーネルを有し、各節点への入力値に対して、それぞれ1つの出力値が与えられることを示す。
【0068】
特徴抽出層群118bは、多次元の入力値からその特徴を示す特徴抽出値を算出する。図4に示す例では、特徴抽出層群118bは、1層以上の畳み込み層(Convolutional Layer)とプーリング層が交互に2回以上重ねて形成される。より具体的には、特徴抽出層群118bは、隣接する2層の畳み込み層Conv11、Conv12、1層のプーリング層Pool13、2層の畳み込み層Conv21、Conv22、1層のプーリング層Pool23、2層の畳み込み層Conv31、Conv32、1層のプーリング層Pool33および畳み込み層Conv41、Conv42がその順序で重ねて形成される。但し、各2層の畳み込み層の後の層とその次の層の間には、1層の正規化層が挟まれている。特徴抽出層群118bは、最後の層として、平坦化層を備える。
【0069】
畳み込み層とは、複数の節点のそれぞれに直前の層から入力される入力値に対してカーネルごとに畳み込み演算を行って畳み込み値を算出し、算出した畳み込み値とバイアス値を加算して得られる補正値に対する所定の活性化関数の関数値を出力値として算出し、算出した出力値を次の層に出力する層である。なお、畳み込み演算では、各節点には直前の層から1個または複数の入力値が入力され、それぞれの入力値に対して独立な畳み込み係数が用いられる。畳み込み係数、バイアス値および活性化関数のパラメータは、1セットのモデルパラメータの一部となる。
【0070】
例えば、図5の第1層、第2層では、カーネル数がそれぞれ1、20と設定されている。第1層、第2層ともにカーネルサイズは32×32×32である。カーネル数が20とは、畳み込み係数が20通りであり、各節点について20個のカーネルのそれぞれに対応する出力値が得られ、それぞれ次の層の対応する節点に入力されることを示す。また、活性化関数の項目のReLUとは、活性化関数が正規化線形ユニット(Rectified Linear Unit)であることを示す。正規化線形ユニットは、所定の閾値(例えば、0)以下の入力値に対する出力値としてその閾値に定め、所定の閾値を超える入力値をそのまま出力する関数である。従って、この閾値も1セットのモデルパラメータの一部となりうる。また、畳み込み層については、直前の層の節点からの入力値の参照の要否、次の層の節点への出力値の出力の要否も、1セットのモデルパラメータの一部となりうる。そのため、後述する全結合層とは異なり、畳み込み層の各節点は、直前の層の全ての節点と入力値が入力されるように結合するとは限らないし、次の層の全ての節点に出力値が出力されるように結合するとは限らない。
【0071】
正規化層とは、複数の節点のそれぞれに入力される入力値に対して共通の正規化パラメータを用いて所定の値域内に正規化し(バッチ正規化)、正規化された値を出力値として出力する層である。なお、図5の第3層の軸の項目には、正規化に用いる軸としてのパラメータの種類や値域を示す符号が設定される。この項目に設定された-1とは、全ての節点からの出力値が、共通の乗算値を用いた乗算により0から1までの値域内に正規化されることを示す符号である。
【0072】
プーリング層とは、直前の層の複数の節点からそれぞれ入力される入力値から1つの代表値を定め、定めた代表値を出力値として次の層に出力する節点を有する層である。代表値は、例えば、最大値、平均値、最頻値など複数の入力値を統計的に代表する値が用いられる。なお、図5の第4層のストライドの項目に設定された2とは、1つの節点に対して入力値を参照する直前の層の相互に隣接する節点の範囲を示す。図5に示す例では、三次元空間内の空間的に隣接する2×2×2個の直前の節点が参照される。そのため、プーリング層は、直前の層からの入力値を、より低い次元に縮約(ダウンサンプル)して出力値を次の層に提供する層である。
【0073】
推定層群118cは、特徴抽出層群118bから入力される特徴抽出値から推定値を出力値として算出する層である。推定層群118cは、平坦化層(Flatten Layer、図5、但し、図4では省略)と2層の全結合層FC01、FC02を重ねて形成される。平坦化層は、三次元以上の多次元のサンプルの入力値を二次元のサンプルの出力値に展開する(unroll)する層である。例えば、図5の第16層は、第15層において正規化して出力される80個の三次元の4×4×4個の観測点ごとの要素値が入力値として入力され、計5120個の入力値の三次元配列を線形に並び替え5120次元の要素値を有する1個のベクトルに変換する。従って、平坦化層は実質的な演算処理を実行しない。全結合層は、複数の節点のそれぞれに直前の層から入力される入力値に対して畳み込み演算を行って畳み込み値を算出し、算出した畳み込み値とバイアス値を加算して得られる演算値を出力値として算出し、算出した出力値を次の層に出力する層である。つまり、全結合層は、直前の層から入力される複数個の入力値の全てに対して、入力値の数よりも少ないセット数のパラメータセット(カーネル)をそれぞれ用いて畳み込み処理を行って得られる演算値を出力する層である。全結合層の各節点には、所定の活性化関数を設定しておき、算出した補正値に対する所定の活性化関数の関数値を出力値として次の層に出力してもよい。但し、図5の第17層では、128個のカーネルごとに活性化関数として正規化線形ユニットが設定され、入力値として第16層をなす40個の節点からの入力値を参照して1個の出力値が算出される。図5の第18層では、第17層をなす128個の節点からの入力値に対する畳み込み演算を行って得られる1個の畳み込み値が出力値として算出される。従って、全結合層では、畳み込み係数、バイアス値および活性化関数のパラメータが、1セットのモデルパラメータの一部となる。このように、出力層を含む1以上の最後の層を全結合層とすることで、直前の層から与えられた特性値に対して有意に影響を与える成分を漏れなく考慮しながら自由度を低減して、最終的に特性値を導くことができる。
【0074】
なお、CNNの層の数、層ごとの種別、各層の節点の数などは、図4図5に示したものには限られない。本実施形態に係るCNNは、入力値として複数の観測点ごとの信号値を有する計測信号に対して出力値として所定の目的値の推定値を算出可能な構成を有していればよい。推定値は、上記のように一次元のスカラー値に限らず、二次元以上のベクトルや行列となりうる。例えば、特性値は、x方向分解能、y方向分解能およびz方向分解能を要素として有する三次元の分解能ベクトルであってもよい。また、計測信号は三次元空間内で観測点が分布した三次元信号に限らず、二次元信号よりも低次元の信号、四次元以上の高次元の信号であってもよい。但し、本実施形態に係るCNNは、図4図5に例示されるように、1以上の畳み込み層とプーリング層を交互に2周期以上繰り返して順次積層して構成される中間層を備えることが好適である。畳み込み層の繰り返しにより、特性値に対して有意に影響を与える成分が絞り込まれるためである。なお、この畳み込み層の繰り返しにおいて、プーリング層が省略されてもよい。
【0075】
上記のように、特性推定部120は、CNNなどの数理モデルを用いることで、OCT信号をなす複数の相互に隣接する観測点からなるブロックごとに推定値を算出する。そのため、1フレームのOCT画像を与えるOCT信号は、通例、複数のブロックに対応する。そこで、出力処理部122は、目的値の表示を示す操作信号が入力されるとき、ブロックごとに算出された推定値を、そのブロックに対応する画素の所定の値域内の輝度値に変換してもよい。出力処理部122は、変換した輝度値を示す表示データを表示部150に出力する。これにより、表示部150にはブロックごとの目的値の分布を、輝度を用いて表現する目的値画像が表示される。
【0076】
(特性値の算出例)
次に、上記の学習ステップ(S01)を実行して得られたモデルパラメータを用いて、推定ステップ(S02)により算出された特性値の算出例について説明する。以下の算出例では、観測点の数が32点×32点である二次元の試料表面(en-face面)を観測領域とした。個々の特性値セットには、x方向分解能、y方向分解能、SPUVおよびSNRが特性値として含まれる。計測信号として、そのSPUVで散乱体が確率的に(stochastically)分布し、設定されたx方向分解能、y方向分解能、SNRをその特性として有するOCTスペックルパターンを計測信号として用いた。そして、モデル学習部118には、その計測信号と、x方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNRのいずれかを目的値として有する複数通りの学習データを用いて、その目的値の推定値を算出するためのCNNのモデルパラメータを算出させた。即ち、各1通りの特性値セットで与えられる1通りの共通の計測信号からx方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNRの推定値を算出するための計4セットのモデルパラメータを算出させた。但し、x方向分解能、y方向分解能の値域をそれぞれ3~20μm、SNRの値域を0~50dB、SPUVを0~0.0497個/μmとした。個々の種類の特性値は、それらの値域内でランダムに分布するように一様乱数を用いて定めた。
【0077】
また、1セットのモデルパラメータの算出に50,000個の特性値セットのそれぞれに基づく学習セットを用いた。50,000個の特性値セットには、各1通りの目的値(例えば、SPUVが0.03個/μm)を共通とする複数通りの特性値セットが含まれ、各1通りの特性値セットから32画素×32画素のOCTスペックルパターンを生成した。各種機器の仕様やOCT信号の走査方法に依存するが、1画素の大きさは概ね1μm~数μmに相当する。そして、特性推定部120に、その特性を示す目的値が既知であるOCTスペックルパターンを計測信号として、モデル学習部118で算出された4セットのモデルパラメータのそれぞれを用いて、図5に例示したCNNに従って、それぞれの目的値の推定値として算出させた。但し、特性推定部120は、モデル学習部118によりモデルパラメータの算出に用いたOCTスペックルパターンとは別個のOCTスペックルパターンを用いた。
【0078】
図6図10は、それぞれ目的値の算出例を示す図である。図6図10のいずれも、縦軸に特性値の推定値を示し、横軸に特性値の設定値を示す。但し、x方向、y方向、z方向の寸法として、幅、奥行き、深さがそれぞれ32×32×32点、計32768点の信号値を有するOCTスペックルパターンを入力値として用いた。図6図10において、推定値とは測定信号からモデルパラメータを用いて算出された出力値としての目的値の推定値を指し、設定値とはモデルパラメータの算出に用いられた特性値セットに含まれる目的値を指す。図6図7図8図9図10は、それぞれx方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNR、ENSを目的値として例示する。x方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNR、ENSのいずれも、設定値と推定値がほぼ等しくなることを示す。
【0079】
x方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNR、ENSのそれぞれについて、個々の設定値ごとの推定値の分布に対して線形回帰分析を行って得られる決定係数Rは、0.965、0.961、0.981、0.957、0.991と1に近似する値となった。線形回帰分析において、入力値とする設定値と出力値とする推定値が等しいことを仮定した。一般に決定係数Rは、出力値の分散のうち入力値によって定まる分散の寄与度を示し、1に近似するほどモデルパラメータによる推定精度が高いことを示す。図6図10に示される算出例は、x方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNR、ENSのいずれも、高精度の推定を可能にするモデルパラメータが得られることを示す。但し、目的値の種別により推定精度に若干の差異が認められる。例えば、x方向分解能とy方向分解能の決定係数Rは、それぞれ0.965、0.961とほぼ同等であるが、SPUVとENSに係る決定係数Rは、0.981、0.991となり、分解能に係る決定係数Rよりも高い。特に、ENSについては、回帰直線まわりの分散が他の推定値よりも小さく、ENSの絶対値が大きいほど分散が小さくなる傾向が認められる。ENSが高い場合には、分解能による計測信号の揺らぎよりも散乱体の増加による計測信号の揺らぎの影響が顕著になることが示唆される。これに対し、SNRに関しては、SNRの絶対値が大きいほど分散が大きくなる傾向が認められる。SNRが高い場合には、ノイズ以外の計算誤差などの要因がSNRの推定精度に影響が顕著になることが示唆される。
【0080】
なお、図4図10に示す例では、学習データ生成部116が、各1通りの特性値セットのうち1種類の特性値を目的値として含む学習セットを生成し、モデル学習部118が、その学習セットに含まれる目的値を出力値として用いてモデルパラメータを生成する場合を例としたが、これには限られない。学習データ生成部116は、各1通りの特性値セットのうち2種類以上の特性値を目的値として含む学習セットを生成してもよい。これにより、モデル学習部118は、入力値として計測信号から算出される推定値として2種類以上の特性値を同時に算出するためのモデルパラメータを生成することができる。例えば、1通りの学習セットにおいて、x方向分解能、y方向分解能およびSPUVが含まれてもよい。
【0081】
次に説明する検証例では、上記の条件のもとで学習したモデルパラメータを用いて、現実の生体試料からOCTシステム1を用いて取得されたOCT信号から推定されたSPUVについて長期間評価した。生体試料として人間の乳がん細胞スフェロイド(MCF-7細胞株)を用いた。生体試料の直径をおよそ250μmとした。生体試料は、培養庫内で播種(seeding)から二酸化炭素(CO)の供給環境下で培養した。その後、培養を終了し、生体試料を培養庫(cultivation chamber)から取り出し、培地(culture medium)に設置した。培地にはCOを供給せずに、温度を22°Cとした。そして、2時間ごとに生体試料のOCT信号を取得した。
【0082】
OCT信号の取得において、SS-OCT(Swept Source OCT)を用い、光源の中心波長を1.3μmとした。SS-OCTは、FD-OCTの一形態に相当する。OCT信号のAスキャン速度を、毎秒50,000ラインとした。また、OCT信号の観測における空間分解能は、側方(lateral、上記のx-y面内のいずれかの方向に相当)に対して19μm、深さ方向(depth、上記のz方向に相当)に対して14μmとなった。
評価においては、取得されたOCT信号から算出したSPUVの他、対数強度分散(LIV:Logarithmic Intensity Variance)を用いた。LIVは、所定時間(例えば、1~10秒)内におけるOCT信号の対数強度の時間分散に相当する。LIVは、生体組織のダイナミクスの程度を示す指標値として用いられる。
【0083】
図11は、生体試料の観測例を示す図である。図11は、第1行、第2行、第3行において、それぞれOCT画像、SPUV画像、LIV画像を示す。各画像は、それぞれ培養終了から4時間ごとに観測されたOCT信号に基づく。個々のOCT画像は、観測点ごとのOCT信号強度を示す。明るい部分ほどOCT信号強度が高いことを示す。SPUV画像は、ブロック(この例では、32サンプル×32サンプル)ごとのSPUVを示す。LIV画像は、観測点ごとのLIVを示す。明るい部分ほどLIVが大きいことを示す。これによれば、OCT画像は時間経過に応じてOCT強度が顕著に変化しないことを示す反面、SPUV画像やLIV画像では時間経過に応じて、それぞれSPUVやLIVが有意に低下することを示す。特に培養終了直後(0hr)から4時間経過後(4hr)までのSPUVの低下が顕著である。このことは、培養終了直後に活発だった細胞内運動(intracellular motion)が時間経過に従って緩慢になる現象を反映している。
【0084】
図12は、各指標値の時間変化の例を示す図である。図12は、第1列、第2列、第3列において、それぞれ縦軸に平均OCT強度、平均SPUV、平均LIVを示し、横軸に時刻を示す。但し、第1行は、生体試料の中央部を観測対象とした。第2行は、生体試料の周縁部を観測対象とした。平均OCT強度は、生体試料の中央部では安定的であり、周縁部では、揺らぎが認められるが時間変化に伴う低下傾向は認められる。これに対して、生体試料の中央部か周縁部のいずれについても、平均SPUVは、培養終了後4時間以内において顕著に低下し、その後の変化が緩慢となる。平均LIVは、28時間の観測期間にわたり比較的一定の低下傾向を示す。これらのことは、OCT信号から本実施形態により推定されるSPUVによれば、OCT信号よりも細胞の活性を観察するうえで好都合であることを示す。さらに、SPUVとLIVによれば、細胞の異なった機序による活性を観察できると考えられる。
【0085】
なお、上記の例では、主にx方向分解能、y方向分解能、SPUV、SNRおよびENSを特性値として用いる場合を主としたが、これには限られない。特性値セットには、例えば、光学系の波面収差のモードとその度合いを示す収差係数が含まれてもよい。収差は、計測信号に対するx-y平面内での位相変化をもたらすため、計測信号に対する変動要因となる因子の一種とみることができる。収差係数として、例えば、ゼルニケ係数(Zernike Coefficients)Anmが利用可能である。例えば、第0,0次のゼルニケ係数A00は定数項、第1,0次のゼルニケ係数A10はx方向の傾き成分、第1,1次のゼルニケ係数A11はy方向の傾き成分、第2,0次のゼルニケ係数A20は0°方向と90°方向の非点収差、第2,1次のゼルニケ係数A21はフォーカスシフト、第2,2次のゼルニケ係数A22は45°方向の非点収差、第3,1次のゼルニケ係数A31はx成分のコマ収差、第3,2次のゼルニケ係数A32はy成分のコマ収差、などのそれぞれの程度を示す係数である。
【0086】
光の入射方向がz方向であるとき二次元平面x-y上の周波数(f,f)に対する収差W(f,f)は、式(6)に示すゼルニケ多項式(Zernike Polynomial)で表される。式(6)において、ρはz方向に向けられた光軸からの動径方向の周波数、θは方位角方向の周波数を示す。R n-2m(ρ)は、第n,n-m次の動径多項式を示し、式(7)により定義される。式(7)において、…!は、整数…の階乗を示す。nは0以上の整数であり、mは0以上n以下の整数である。但し、最大次数kは、予め定めた0以上の整数である。つまり、収差W(f,f)は、第n,m次のゼルニケ係数(Zernike Coefficients)Anmと、その位置での第n,n-2m次の動径多項式と、余弦値cos|n-2m|θ(但し、n-2mが0以上)または正弦値sin|n-2m|θ(但し、n-2mが0未満)の積の総和で与えられる。
【0087】
【数6】
【0088】
【数7】
【0089】
そこで、収差による影響を含んだ計測信号を生成する際、学習データ生成部116は、三次元の点像分布関数PSF(x,y,z)に対してx-y平面上で二次元フーリエ変換を行って、周波数領域(f,f)における変換係数p(f,f;z)に変換する。そして、学習データ生成部116は、式(8)に示すように、変換係数p(f,f;z)に収差によって生ずる位相変化を示す位相因子eiaW(fx,fy)を乗じて得られる位相変化後の変換係数に対してf-f平面上で二次元逆フーリエ変換を行って、三次元空間領域(x,y,z)において収差による位相変化を含んだ点像分布関数PSF’(x,y,z)を算出する。但し、式(8)において、aは、収差に対する位相変化の程度を示す予め定めた実数値である。Ffx,fz -1[…]は、…のf-f平面上での二次元逆フーリエ変換を示す。
【0090】
【数8】
【0091】
学習データ生成部116は、上記の散乱体分布f(x,y,z)に収差を含んだPSF’(x,y,z)を畳み込み演算を行って収差による位相変化を受けたOCTスペックルパターンO’(x,y,z)を計測信号として生成することができる。
よって、学習データ生成部116は、学習データの入力値として収差による位相変化を受けた計測信号を用いることで、目的値として収差係数を算出するためのモデルパラメータ、または、それ以外の種類の特性値を目的値として収差係数の変動に対して頑健に算出するためのモデルパラメータを算出することができる。
【0092】
また、特性値セットには、例えば、光学系の波長分散に係る分散係数が含まれてもよい。波長分散は、計測信号に対するz方向への波長に応じた位相変化をもたらすため、計測信号に対する変動要因となる因子の一種とみることができる。一般に、波長分散は、光学系における伝搬定数の周波数依存性により生ずる。伝搬定数とは、実効的な波数に相当する物理量である。伝搬定数β(ω)を光源の中心周波数ωの周りで周波数ωについてテーラー展開すると、式(9)のように表される。
【0093】
【数9】
【0094】
式(9)において、β(ω0)は、入射光の中心周波数ω0における伝搬定数を示す。a、aは、それぞれ中心周波数ω0における1次微分係数、2次微分係数を示す。1次微分係数aは群速度の逆数に相当し、2次微分係数aは群速度分散に相当する。従って、分散係数として、例えば、群速度と群速度分散が利用可能である。
【0095】
そこで、波長分散による影響を含んだ計測信号を生成する際、学習データ生成部116は、三次元の点像分布関数PSF(x,y,z)に対してz方向に一次元フーリエ変換を行って、周波数領域(ω)における変換係数q(ω;x,y)に変換する。そして、学習データ生成部116は、式(10)に示すように、変換係数q(ω;x,y)に波長分散による位相変化を示す位相因子eibβ(ω)を乗じて得られる位相変化後の変換係数に対してω方向に一次元逆フーリエ変換を行って、三次元空間領域(x,y,z)における波長分散による位相変化を受けた点像分布関数PSF’’(x,y,z)を算出することができる。但し、式(10)において、bは、波長分散に対する位相変化の程度を示す予め定めた実数値である。Fω -1[…]は、…のω方向の一次元逆フーリエ変換を示す。
【0096】
【数10】
【0097】
学習データ生成部116は、上記の散乱体分布f(x,y,z)に対して波長分散による位相変化を含んだPSF’’(x,y,z)を畳み込み演算を行って波長分散による位相変化を受けたOCTスペックルパターンO’’(x,y,z)を計測信号として生成することができる。
よって、学習データ生成部116は、学習データの入力値として波長分散による位相変化を受けた計測信号を用いることで、目的値として分散係数を算出するためのモデルパラメータ、または、それ以外の種類の特性値を目的値として分散係数の変動に対して頑健に算出するためのモデルパラメータを算出することができる。
なお、特性値セットには、分散係数として収差係数と分散係数の一方が含まれてもよいし、双方が含まれてもよい。
【0098】
上記の説明では、計測信号処理装置100が処理対象とする計測信号がOCT信号である場合を例にしたが、これには限られない。計測信号は、OCT以外の計測原理を用いて試料の状態を示す信号もしくはその状態を解析するための信号であっても本実施形態に適用可能である。計測信号は、測定により得られる生の信号もしくはそれを模擬して生成される信号に限られず、それらの信号に対して所定の後処理を実行して得られた信号、例えば、OCT画像など可視化を主目的とする出力表示データであってもよい。
【0099】
計測信号は、例えば、スペックル干渉計測信号、光音響計測信号、超音波断層撮影信号などのいずれかであってもよい。スペックル干渉計測信号は、スペックル干渉法を用いて取得される計測信号である。スペックル干渉法とは、レーザ光などのコヒーレントな波動を入射波として所定の基準状態の試料に照射し、試料から反射する反射波と入射波とが干渉した干渉波を参照波として検出するステップと、同様な手法で位置、方向または形状などの状態が基準状態から変化した試料に照射して生じた干渉波をさらに検出するステップと、さらに検出した干渉波と参照波とを干渉させて得られる干渉縞を示すスペックル干渉計測信号を取得するステップを有する。スペックル干渉計測信号は、おもに試料の移動量、向きの変化または変形量を特性値として解析するために用いられる。入射波は、可視光線であるレーザ光に限られず、X線、赤外線、超音波などであってもよい。
【0100】
光音響計測信号は、光音響法を用いて取得される計測信号である。光音響法とは、可視光線または赤外線(近赤外光も含む)であるレーザ光を入射波として試料に照射し、試料から放射される音波を光音響計測信号として検出するステップを含む。ここで、試料を構成する分子は入射波を吸収して熱を発生するため、発生した熱による試料の膨張により音波が発生する。光音響計測信号は、試料に含まれる光吸収体の分布に用いられる。そのため、光吸収体の分布から導出される特性値として、例えば、光吸収体の密度、試料の活性部位などの解析に用いられうる。発生する音波は、可聴音に限らず、超音波となることもある。
【0101】
超音波断層撮影信号は、超音波断層撮影法により取得される計測信号である。超音波断層撮影法は、超音波を入射波として試料に照射し、入射波と試料から放射される反射波とが干渉した干渉波を超音波断層撮影信号として検出するステップを含む。超音波断層撮影信号は、組織の密度や、その分布、構造などから導出される特性値を解析するために用いられる。上記の断層撮影法は、入射波として、可視光線、超音波を用いる手法に限られず、赤外線、紫外線、X線など、その他の種別の波動を用いるものであってもよい。
【0102】
以上に説明したように、本実施形態に係る計測信号処理装置100は、計測信号と計測信号の特性を示す少なくとも1種類の所定の特性値を目的値として含む学習セットごとに、計測信号に対して所定の数理モデルを用いて算出される推定値と目的値との差が小さくなるように前記推定値を算出するためのモデルパラメータを定めるモデル学習部118を備える。また、計測信号処理装置100は、目的値を含む計測信号の特性を示す複数種類の特性値のセットである特性値セットを、1通りの目的値ごとに複数の特性値セット間で共通となるように定め、特性値セットごとに、複数種類の特性値で示される特性を有する計測信号と目的値を含む学習セットを生成する学習データ生成部116を備える。計測信号は、OCT信号、スペックル干渉計測信号、光音響計測信号、超音波断層撮影信号などのいずれであってもよい。1通りの目的値は2種類以上の特性値が含まれてもよい。その場合には、計測信号から2種類以上の特性値を推定するためのモデルパラメータを生成することができる。生成されたモデルパラメータを用いることで、従来は困難または不可能だった計測信号から2種類以上の特性値を実用的な精度で推定することができる。2種類以上の特性値には、例えば、散乱体密度と計測系の分解能が含まれてもよい。
【0103】
この構成により、1通りの特性値ごとに複数の学習セット間で共通となるように複数種類の特性値に基づく計測信号が生成され、生成された計測信号から算出される推定値が目的値に近似するようにモデルパラメータを定めることができる。そのため、定めたモデルパラメータを用いることで、目的値とは別個の種類の特性値の変動に対して頑健に、計測信号から数理モデルに従って目的値を算出することができる。例えば、特性値が試料の散乱体密度であり、複数種類の特性値のパラメータが計測信号の強度または信号雑音比を含む場合には、強度または信号雑音比の変動に依存せずに試料の散乱体密度を推定することができる。散乱体密度の一例として試料とする生体組織の細胞核密度を、計測信号を用いてより正確に推定することができる。よって、病理研究や診断において人為的な判断における負荷や誤判定を低減することができる。
【0104】
学習データ生成部116は、複数種類の特性値の少なくとも1種類(例えば、散乱体密度)に基づいて試料の組織構造(例えば、設定された散乱体密度で散乱体が分布する組織構造)を定め、定めた組織構造に基づいて試料への入射波に対する計測信号を生成してもよい。
【0105】
この構成により、設定された特性値を用いて定めた組織構造に基づいて計測信号が生成されるため、条件の異なる組織構造の特性を定量的に指示して多様な計測信号を生成することができる。
【0106】
また、学習データ生成部116は、乱数を用いて複数種類それぞれの所定の値域の範囲内となるように特性値を定めてもよい。この構成により、乱雑に分布した複数種類の特性値を多数の特性値セットにわたり効率的に生成することができる。また、人為的に定めた複数種類の特性値よりも、それらの分布の偏りを低減することができる。そのため、より高精度に目的値を算出可能とするモデルパラメータが得られる。
【0107】
また、複数種類の特性値は、試料の計測系における空間分解能、収差係数または波長分散に係る分散係数を含んでもよい。これにより、計測系自体または計測対象とする試料に依存する空間分解能、収差係数または波長分散の変動に起因する特性値の推定精度の低下を低減または解消することができる。
【0108】
また、数理モデルは入力される計測信号の観測点ごとの信号値を最初の中間層に出力する入力層と、複数の中間層と、最後の中間層から入力される出力値に基づく推定値を出力する出力層と、を備えるニューラルネットワークを備える。複数の中間層は、直前の層から入力される入力値に対して畳み込み処理を行って得られる演算値を次の層に出力する1以上の畳み込み層を複数回繰り返して重ねて構成されてもよい。この構成により、階層を重ねるごとに目的値の変動に寄与する特徴が入力される計測信号から抽出されるので、目的値の推定精度を向上することができる。また、出力層を含む少なくとも1以上の最後の層は、直前の層から入力される複数個の入力値の全てに対して、前記入力値の数よりも少ないセット数のパラメータセットをそれぞれ用いて畳み込み処理を行って得られる演算値を出力する全結合層であってもよい。このように、直前の層から与えられた特性値に対して有意に影響を与える成分を漏れなく考慮しながら自由度を低減して、最終的に特性値を導くことができる。
【0109】
計測信号処理装置100は、計測信号に対して前記数理モデルに基づいて前記モデルパラメータを用いて前記目的値の推定値を算出する特性推定部120を備えてもよい。この構成により、自装置で取得したモデルパラメータを用いて、入力される計測信号から目的値の推定値を高精度で算出することができる。
【0110】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0111】
例えば、計測信号処理装置100は、OCTシステム1の一部として実現されてもよいし、光学系とは独立した単一の機器であってもよい。その場合、計測信号処理装置100の制御部110において計測系制御部112が省略されてもよい。計測信号取得部114は、光学系に限られず、データ蓄積装置、PCなど、他の機器から計測信号を取得してもよい。
【0112】
また、計測信号処理装置100では、表示部150と操作部160を備えていてもよいし、それらの一方または両方が省略されてもよい。
計測信号処理装置100において特性推定部120と出力処理部122の一方または両方が省略されてもよい。特性推定部120が省略される場合、モデル学習部118は、算出したモデルパラメータを、データ蓄積装置、PC、他の計測信号処理装置など、他の機器に出力してもよい。出力先とする機器は、特性推定部120と同様の機能、つまり、計測信号に対して計測信号処理装置100から取得したモデルパラメータを用いて所定の数理モデルに従って特性値を算出する機能を有してもよい。
【0113】
上述の説明では、学習データ生成部116が、組織構造を示す情報として、観測領域内を散乱体が特性値として与えられる散乱体密度で確率的に乱雑に分布している状況を示す散乱体分布f(x,y,z)を生成することを例示したが、これには限られない。学習データ生成部116は、他の機器から試料の組織構造を示す組織構造情報を取得してもよいし、その組織構造情報には、複数通りの組織構造と、それぞれの組織構造が有する特性(例えば、SPUV、ENSなど)を示す既知の特性値が含まれてもよい。組織構造情報を取得する場合には、学習データ生成部116は、試料の組織構造を定めることを要せず、これらの組織構造と特性値が特性値セットの一部として用いられてもよい。組織構造は、散乱体が観測領域内で規則的に配列されたもの、例えば、所定の周期で空間的に配列される格子であってもよい。また、個々の散乱体による散乱強度または散乱断面積が組織構造に係る特性値として特性値セットに含まれてもよい。
【0114】
数理モデルとしてCNNを用いる場合を例にしたが、これには限られない。数理モデルは、他の種類のニューラルネットワーク、例えば、再帰型ニューラルネットワーク、確率型ニューラルネットワーク、などであってもよい。計測信号と目的値との関係を取得できれば、他の種類の数理モデル、例えば、ランダムフォーレスト、重回帰モデルであってもよい。重回帰モデルは、入力値とする計測信号と出力値とする目的値との関係が線形もしくは線形に近似できる関係にあれば好適である。
また、CNNにおける活性化関数は、正規化線形ユニットに限られず、シグモイド関数(Sigmoid Function)、ソフトマックス関数(Softmax Function)などのいずれが用いられてもよい。モデル誤差の指標は、MSEに限られず、交差エントロピー(Cross Entropy)などが用いられてもよい。
【0115】
また、上述した実施形態における計測信号処理装置100の一部、または全部を、LSI(Large Scale integration)等の集積回路として実現してもよい。計測信号処理装置100の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1…OCTシステム、10…光源、20…ビームスプリッタ、30a、30b、50a、50b…コリメータ、40…参照鏡、60a、60b…ガルバノミラー、70…分光器、100…計測信号処理装置、110…制御部、112…計測系制御部、114…計測信号取得部、116…学習データ生成部、118…モデル学習部、120…特性推定部、122…出力処理部、130…記憶部、140…入出力部、150…表示部、160…操作部
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