(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体、並びにその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20250107BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20250107BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20250107BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20250107BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C09K11/06 660
H10K50/12
H10K85/30
(21)【出願番号】P 2023554789
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2022077220
(87)【国際公開番号】W WO2022262300
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】202110664363.5
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520154254
【氏名又は名称】江蘇科技大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No.2 Mengxi Road,Zhenjiang,Jiangsu 212003,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】施 超
(72)【発明者】
【氏名】李 秋霞
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/128848(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の錯体Ir3~I
r6、Ir9~Ir16から選択される、
ことを特徴とするビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体。
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【請求項2】
請求項1に記載のビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の製造方法であって、
まず、1,5-シクロオクタジエンイリジウムクロリド二量体、及びビフェニレンをそれぞれ原料として、無水および無酸素条件下で、酸化付加反応を利用してジアニオン性配位子であるビフェニルと金属イリジウムとの配位を行い、最後に、1段前駆体1-aを形成し、次に、トリフルオロメタンスルホン酸銀の作用で塩素原子を除去し、中性配位子であるビピリジンと温和な条件下で互いに反応させ、2段錯体の前駆体1-bを得、その後、高温環境でモノアニオン性配位子である2-フェニルピリジンを加えて、中性イリジウム錯体1-cを得る、ステップ1)と、
その後、ステップ1)で製造されたビフェニルが配位したイリジウム錯体中間体1-cに指向性ブロモ化反応を行い、具体的には、低温でN-ブロモスクシンイミドを利用して、ビフェニルの2つの活性部位をそれぞれジブロモ化及びモノブロモ化に選択的に付し、最後に、ジブロモ化生成物Ir
1
【化35】
及びモノブロモ化生成物Ir
2
【化36】
をそれぞれ得る、ステップ2)と、
最後に、ステップ2)で製造されたジブロモ化生成物Ir1又はモノブロモ化生成物Ir2を用いて、カルバゾール又はジフェニルアミンとBuchwald-Hartwigカップリング反応を直接行って、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体Ir3~Ir6を合成し、又は3,5-ジフェニルフェニルボロン酸とSuzukiカップリング反応を行って、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体Ir9~Ir10を合成し、又はカリウムtert-ブトキシドの作用によりフェノールとエーテル化反応して、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体Ir15~Ir16を合成し、又はビス(ピナコラト)ジボロンと反応して、ジボロン酸エステル含有イリジウム錯体中間体1-d
【化51】
及びボロン酸エステル含有イリジウム錯体中間体1-e
【化52】
をそれぞれ形成し、その後、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン又は1-ブロモ-4-(ベンゼンスルホニル)ベンゼンとSuzukiカップリング反応をそれぞれ行い、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体Ir11~Ir14を合成する、ステップ3)と、を含む、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
有機電子デバイスの製造における、請求項1に記載のビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の使用。
【請求項4】
前記有機電子デバイスは、有機発光ダイオード、有機太陽電池、有機発光電池、有機電界効果トランジスタ、有機レーザー、有機スピントロニクスデバイス、有機センサー、及び有機プラズモン放出ダイオードのうちの1種又は複数種である、
ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体のマトリックス中の質量濃度が3~10wt%である、
ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項6】
請求項1に記載のビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体を含む、
ことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項7】
前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の質量濃度が3~10wt%である、
ことを特徴とする請求項6に記載の有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新材料の技術分野に属し、具体的には、ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体、並びにその製造方法と使用に関し、特に、有機発光ダイオードにおける使用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)は、有機半導体材料の合成の多様性、低い製造コスト、優れた光学的特性及び電気的特性により、光電デバイス(例えばフラットパネルディスプレイと照明)における応用が期待できる。有機発光ダイオードの発光効率を向上させるために、蛍光や燐光をベースとした様々な発光材料系が開発されており、蛍光材料を用いた有機発光ダイオードは、信頼性が高いという特徴があるものの、励起子が一重項励起状態と三重項励起状態を発生する確率の比が1:3であるため、電界励起下での内部電界発光量子効率が25%に制限されている。
【0003】
1999年、米国南カリフォルニア大学のThomson教授とプリンストン大学のForrest教授は、N,N-ジカルバゾールビフェニル(CBP)にトリス(2-フェニルピリジン)イリジウムIr(ppy)3をドープして、緑色エレクトロルミネッセンスデバイスを作製することに成功し、錯体燐光材料が注目を集めた。重金属の導入により、分子のスピン軌道結合を高め、燐光の寿命を短縮し、分子の項間交差を強化し、燐光を順調に発光させ、現在、燐光OLEDの内部量子効率はすでに約100%に達した。
【0004】
それにかかわらず、ほとんどの中性燐光イリジウム錯体材料は、3つのモノアニオン性二座配位子(例えば、Ir(ppy)3構造型、ppyはモノアニオン性配位子)で構成されているが、3つの電荷配位子(中性配位子、モノアニオン性配位子、及びジアニオン性配位子)で構成される中性燐光イリジウム錯体は少なく、特にビフェニル含有ジアニオン性配位子で構成されるイリジウム錯体は、合成が困難であるため、開発されるものが少ない。ビフェニルは2つの強電界配位の炭素原子を持つため、錯体の安定性をある程度高めることができ、また錯体のスピン軌道結合効果(SOC)を高めることができる。しかし、このような錯体の安定性及び光学特性を更に向上させるために、このビフェニル配位子に一定の機能化修飾を行ってビフェニル誘導体配位子を形成する必要があり、具体的には、ビフェニルの活性部位に電子効果(電子吸引、電子供与)、剛性を持つ各種の機能性基を導入することができ、一方、このビフェニル配位子に有効な機能化修飾を行うことには大きな課題である。
【0005】
ビフェニル誘導体配位子を含有するイリジウム錯体材料の開発は、このようなイリジウム錯体材料の特性をさらに向上させ、材料の選択範囲を広げるために急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術の欠点に対して、本発明の目的は、ビフェニル誘導体配位子を含有するイリジウム錯体を提供することであり、具体的には、まず、ビフェニルが配位したイリジウム錯体中間体を製造し、次に、ビフェニルの2つの活性部位のそれぞれにモノブロモ化及びジブロモ化を低温で選択的に行い、その後、さまざまな電子効果(電子吸引、電子供与)、剛性を持つ一連の機能性基(カルバゾール、ジフェニルアミン、アクリジン、1,3-ジフェニルベンゼン、4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、4-ベンゼンスルホン酸ベンゼン又はフェノキシ)を導入することによって、新規なビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体材料のシリーズを製造した。このような錯体に含まれるビフェニル誘導体配位子は強電場効果を持つ2つの配位炭素原子を有するだけではなく、さまざまな電子効果(電子吸引、電子供与)、剛性を持つ機能性基も導入されているので、化合物の安定性、発光特性及び対応するデバイスの性能を効果的に向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式が(I)又は(II)構造で示される、ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体を提供する。
【化1】
【化2】
(式中、R
1は、臭素、カルバゾール、ジフェニルアミン、アクリジン、3,5-ジフェニルベンゼン、4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、4-ベンゼンスルホン酸ベンゼン、又はフェノキシから選択される1種又は複数種である。)
前記中性イリジウム錯体は、下記錯体Ir1~Ir16から選択される。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0008】
本発明の形態は、前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の製造方法であって、
まず、1,5-シクロオクタジエンイリジウムクロリド二量体、及びビフェニレンをそれぞれ原料として、無水および無酸素条件下で、酸化付加反応を利用してジアニオン性配位子であるビフェニルと金属イリジウムとの配位を行い、最後に、1段前駆体1-aを形成し、次に、トリフルオロメタンスルホン酸銀の作用で塩素原子を除去し、高い配位能力および剛性をもつ中性配位子であるビピリジンと温和な条件下で互いに反応させ、2段錯体の前駆体1-bを得、その後、高温環境で配位能力のより高いモノアニオン性配位子である2-フェニルピリジンを加えて、配位作用の弱いシクロオクタジエン配位子を置換し、3種類の電荷配位子で構成される中性イリジウム錯体1-cを形成する、ステップ1)と、
その後、ステップ1)で製造されたビフェニルが配位したイリジウム錯体中間体1-cにブロモ化反応を行い、具体的には、低温(氷浴)でN-ブロモスクシンイミド(NBS)を利用して、ビフェニルの2つの活性部位をそれぞれジブロモ化及びモノブロモ化に選択的に付し、最後に、ジブロモ化生成物Ir2及びモノブロモ化生成物Ir1をそれぞれ得るステップ2)であって、なお、副生成物の生成を少なくするために、該反応温度及びNBS溶液の滴下速度を制御することにより、モノアニオン性配位子である2-フェニルピリジンにおけるベンゼン環の活性部位のブロモ化を減少するステップ2)と、
最後に、ステップ2)で製造されたジブロモ化生成物(Ir1)又はモノブロモ化生成物(Ir2)を用いて、カルバゾール、ジフェニルアミン又はアクリジンなどとBuchwald-Hartwigカップリング反応を直接行って、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体(Ir3~Ir8)を合成し、又は3,5-ジフェニルフェニルボロン酸とSuzukiカップリング反応を行って、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体(Ir9~Ir10)を合成し、又はカリウムtert-ブトキシドの作用によりフェノールとエーテル化反応して、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体(Ir15~Ir16)を合成し、又はビス(ピナコラト)ジボロンとジボロン酸エステル含有イリジウム錯体中間体1-d及び1-eをそれぞれ形成し、その後、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン又は1-ブロモ-4-(ベンゼンスルホニル)ベンゼンとSuzukiカップリング反応をそれぞれ行い、対応するビフェニル誘導体が配位したイリジウム錯体(Ir11~Ir14)を合成する、ステップ3)と、を含む製造方法も含む。
【0009】
本発明の形態は、有機電子デバイスの製造における前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の使用をさらに含む。
【0010】
前記有機電子デバイスは、有機発光ダイオード、有機太陽電池、有機発光電池、有機電界効果トランジスタ、有機レーザー、有機スピントロニクスデバイス、有機センサー、及び有機プラズモン放出ダイオードのうちの1種又は複数種である。
【0011】
前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体のマトリックス中の質量濃度が3~10wt%である。
【0012】
本発明の形態は、前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体を含む前記有機電子デバイスをさらに含む。
【0013】
前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の質量濃度が、3~10wt%である。
【0014】
本発明の形態は、有機電子デバイスの製造における、前記ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体の使用をさらに含む。
【0015】
前記有機電子デバイスは、有機発光ダイオード(OLED)、有機太陽電池(OPV)、有機発光電池(OLEEC)、有機電界効果トランジスタ(OFET)、有機光電界効果トランジスタ、有機レーザー、有機スピントロニクスデバイス、有機センサー、及び有機プラズモン放出ダイオード(Organic Plasmon Emitting Diode)である。
【発明の効果】
【0016】
有益な効果
従来技術と比べて、本発明は、下記利点を有する。本発明で製造された新規イリジウム錯体に含まれるビフェニル誘導体配位子は強電場効果を持つ2つの配位炭素原子を有するだけではなく、さまざまな電子効果(電子吸引、電子供与)、剛性を持つ機能性基も導入されているので、化合物の安定性、発光特性及び対応するデバイスの性能を効果的に向上させることができる。本発明は、本発明に係るビフェニル誘導体が配位した中性金属イリジウム錯体を含む有機電子デバイス、特に有機発光ダイオード、並びに、表示及び照明技術におけるその使用にも関する。デバイス構造を最適化し、該ビフェニル誘導体が配位した中性金属イリジウム錯体のマトリックス中の濃度を変更することにより、最良なデバイス性能が得られ、高効率、高輝度、高安定性のOLEDデバイスを実現することが容易になり、フルカラー表示や照明用途に利用可能な優れた材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir1のX線単結晶構造である。
【
図2】ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir2のX線単結晶構造である。
【
図3】ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir3のX線単結晶構造である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施例1 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir1の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir1の合成経路
【化19】
中間体1-aの合成
乾燥した二つ口フラスコに1,5-シクロオクタジエンイリジウムクロリド二量体(0.44g、0.66mmol)、ビフェニレン(0.2g、1.31mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、乾燥ジクロロメタン5mLを加え、90
oCで2時間撹拌して反応させ、室温に冷却し、吸引ろ過し、ろ過ケーキをジクロロメタンで洗浄し、黄色固体0.57gを得て、収率は85%であった。
中間体1-bの合成
乾燥シュレンク管に1-a(0.10g、0.1mmol)、ビピリジン(0.03g、0.2mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(0.06g、0.22mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下で乾燥ジクロロメタン25mLを加え、室温で2時間撹拌し、吸引ろ過し、ろ液を1mLまで濃縮させ、その後、大量の石油エーテルを加えて固体を析出させ、吸引ろ過し、乾燥し、黄色固体0.56gを得て、収率は75%であった。
中間体1-cの合成
乾燥した二つ口フラスコに1-b(0.08g、0.1mmol)、2-フェニルピリジン(0.02g、0.12mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でエタノール10mLを加え、95
oCで撹拌して24時間還流反応し、室温に冷却し、有機相を濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:3をカラムに通し、黄色固体0.03gを得て、収率は40%であった。
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir1の合成
乾燥一つ口フラスコに1-c(0.03g、0.05mmol)を入れて、ジクロロメタン15mlを加えて、完全に溶解させるまで撹拌し、その後、氷浴(0
oC)でN-ブロモスクシンイミドNBS(0.02g、0.11mmol)を含むジクロロメタン溶液10mLを反応フラスコにゆっくりと1滴ずつ滴下した。混合物を室温で15時間撹拌した。反応終了後、水を加えて抽出し、有機相を濃縮し真空濃縮し、その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによりジクロロメタン:石油エーテル=2:1をカラムに通して目的の生成物を精製し、赤茶色固体0.02gを得て、収率は60%であった。
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir1の単結晶は、溶媒としてのエタノールを用いてそのジクロロメタン溶液にゆっくりと拡散させたものであり、その構造が
図1に示される。
【0019】
実施例2 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir2の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir2の合成経路
【化20】
乾燥した一つ口フラスコに1-c(0.03g、0.05mmol)を入れて、ジクロロメタン15mlを加え、完全に溶解させるまで撹拌し、その後、氷浴(0
oC)でN-ブロモスクシンイミドNBS(0.01g、0.55mmol)を含むジクロロメタン溶液10mLを反応フラスコにゆっくりと1滴ずつ滴下した。混合物を室温で15時間撹拌した。反応終了後、水を加えて抽出し、有機相を濃縮し真空濃縮し、その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによりジクロロメタン:石油エーテル=2:1をカラムに通して目的の生成物を精製し、赤茶色固体0.02gを得て、収率は65%であった。
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir2の単結晶も、溶媒としてのエタノールを用いてそのジクロロメタン溶液にゆっくりと拡散させたものであり、その構造が
図2に示される。
【0020】
実施例3 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir3の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir3の合成経路
【化21】
乾燥した二つ口フラスコにIr1(0.08g、0.1mmol)、カルバゾール(0.05g、0.3mmol)、リン酸カリウム(0.64g、3mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン(0.3mL、0.1g/mL)、Pd(OAc)
2(0.01g、0.04mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、p-キシレン20mLを加え、24時間撹拌して還流反応し、室温に冷却し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.04gを得て、収率は40%であった。
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir3の単結晶も、溶媒としてのエタノールを用いてそのジクロロメタン溶液にゆっくりと拡散させたものであり、その構造が
図3に示される。
【0021】
実施例4 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir4の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir4の合成経路
【化22】
乾燥した二つ口フラスコにIr2(0.07g、0.1mmol)、カルバゾール(0.03g、0.15mmol)、リン酸カリウム(0.32g、1.5mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン(0.3mL、0.1g/mL)、Pd(OAc)
2(0.01g、0.04mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、p-キシレン20mLを加え、24時間撹拌して還流反応し、室温に冷却し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.04gを得て、収率は45%であった。
【0022】
実施例5 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir5の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir5の合成経路
【化23】
乾燥した二つ口フラスコにIr1(0.08g、0.1mmol)、ジフェニルアミン(0.05g、0.3mmol)、リン酸カリウム(0.64g、3mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン(0.3mL、0.1g/mL)、Pd(OAc)
2(0.01g、0.04mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、p-キシレン20mLを加え、24時間撹拌して還流反応し、室温に冷却し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.03gを得て、収率は35%であった。
【0023】
実施例6 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir6の合成
【化24】
乾燥した二つ口フラスコにIr2(0.07g、0.1mmol)、ジフェニルアミン(0.03g、0.15mmol)、リン酸カリウム(0.32g、1.5mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン(0.3mL、0.1g/mL)、Pd(OAc)
2(0.01g、0.04mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、p-キシレン20mLを加え、24時間撹拌して還流反応し、室温に冷却し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.03gを得て、収率は40%であった。
【0024】
実施例7 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir7の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir7の合成経路
【化25】
乾燥した二つ口フラスコにIr1(0.08g、0.1mmol)、アクリジン(0.06g、0.3mmol)、リン酸カリウム(0.64g、3mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン(0.3mL、0.1g/mL)、Pd(OAc)
2(0.01g、0.04mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、p-キシレン20mLを加え、24時間撹拌して還流反応し、室温に冷却し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.04gを得て、収率は42%であった。
【0025】
実施例8 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir8の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir8の合成経路
【化26】
乾燥した二つ口フラスコにIr2(0.07g、0.1mmol)、アクリジン(0.03g、0.15mmol)、リン酸カリウム(0.32g、1.5mmol)、トリ-t-ブチルホスフィン(0.3mL、0.1g/mL)、Pd(OAc)
2(0.01g、0.04mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、p-キシレン20mLを加え、24時間撹拌して還流反応し、室温に冷却し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.04gを得て、収率は45%であった。
【0026】
実施例9 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir9の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir9の合成経路
【化27】
乾燥した二つ口フラスコにIr1(0.08g、0.1mmol)、3,5-ジフェニルフェニルボロン酸(0.08g、0.3mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.02g、0.02mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でK
2CO
3溶液(2M、10mL)、1,4-ジオキサン(20mL)を加え、24時間撹拌して還流反応し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.07gを得て、収率は60%であった。
【0027】
実施例10 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir10の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir10の合成経路
【化28】
乾燥した二つ口フラスコにIr2(0.07g、0.1mmol)、3,5-ジフェニルフェニルボロン酸(0.04g、0.15mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.01g、0.01mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でK
2CO
3溶液(2M、10mL)、1,4-ジオキサン(20mL)を加え、24時間撹拌して還流反応し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.06gを得て、収率は65%であった。
【0028】
合成実施例11 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir11の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir11の合成経路
【化29】
中間体1-dの合成
乾燥した二つ口フラスコにIr1(0.40g、0.5mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(0.38g、1.5 mmol)、Pd(dppf)
2Cl
2(0.02g、0.03mmol)、KOAc(1g、10mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、ジオキサン30mLを加え、その後、遮光の条件で24時間加熱還流し、室温に冷却し、水を加えて、酢酸エチルで抽出し、濃縮し、その後、ジクロロメタン:石油エーテル=1:3をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.29gを得て、収率は65%であった。
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir11の合成
乾燥した二つ口フラスコに1-d(0.09g、0.1mmol)、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(0.05g、0.2mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.02g、0.02mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でK
2CO
3溶液(2M、10mL)、1,4-ジオキサン(20mL)を加え、48時間撹拌して還流反応し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:3をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.07gを得て、収率は65%であった。
【0029】
実施例12 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir12の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir12の合成経路
【化30】
中間体1-eの合成
乾燥した二つ口フラスコにIr2(0.73g、1mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(0.38g、1.5 mmol)、Pd(dppf)
2Cl
2(0.02g、0.03mmol)、KOAc(1g、10mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、ジオキサン30mLを加え、その後、遮光の条件で24時間加熱還流し、室温に冷却し、水を加えて、酢酸エチルで抽出し、濃縮し、その後、ジクロロメタン:石油エーテル=1:3をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.55gを得て、収率は70%であった。
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir12の合成
乾燥した二つ口フラスコに1-e(0.16g、0.2mmol)、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(0.05g、0.2mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.02g、0.02mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でK
2CO
3溶液(2M、10mL)、1,4-ジオキサン(20mL)を加え、48時間撹拌して還流反応し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:3をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.12gを得て、収率は68%であった。
【0030】
実施例13 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir13の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir13の合成経路
【化31】
乾燥した二つ口フラスコに1-d(0.09g、0.1mmol)、1-ブロモ-4-(ベンゼンスルホニル)ベンゼン(0.06g、0.2mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.02g、0.02mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でK
2CO
3溶液(2M、10mL)、1,4-ジオキサン(20mL)を加え、24時間撹拌して還流反応し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:3をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.07gを得て、収率は68%であった。
【0031】
実施例14 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir14の合成
【化32】
乾燥した二つ口フラスコに1-e(0.16g、0.2mmol)、1-ブロモ-4-(ベンゼンスルホニル)ベンゼン(0.06g、0.2mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.02g、0.02mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でK
2CO
3溶液(2M、10mL)、1,4-ジオキサン(20mL)を加え、24時間撹拌して還流反応し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:3をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.13gを得て、収率は75%であった。
【0032】
実施例15 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir15の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir15の合成経路
【化33】
乾燥した二つ口フラスコにIr1(0.08g、0.1mmol)、フェノール(0.03g、0.3mmol)、及びカリウムtert-ブトキシド(0.07g、0.6mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でジメチルスルホキシドDMSO(20mL)を加え、50
oCで12時間撹拌して反応させ、水を加えて、酢酸エチルで複数回抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:4をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.05gを得て、収率は60%であった。
【0033】
実施例16 ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir16の合成
ビフェニル誘導体が配位した中性イリジウム錯体Ir16の合成経路
【化34】
乾燥した二つ口フラスコにIr2(0.15g、0.2mmol)、フェノール(0.03g、0.3mmol)、及びカリウムtert-ブトキシド(0.07g、0.6mmol)を入れて、真空吸引して窒素を充填することを3回繰り返し、その後、窒素気流下でジメチルスルホキシドDMSO(20mL)を加え、50
oCで12時間撹拌して反応させ、水を加えて、酢酸エチルで複数回抽出し、水洗して濃縮し、酢酸エチル:石油エーテル=1:5をカラムに通して精製を行い、茶色固体0.10gを得て、収率は70%であった。
【0034】
実施例17 OLEDデバイスの製造及び特徴評価
ITO/PEDOT:PSS(40nm)/EML(80nm)/TPBi(30nm)/LiF(1nm)/Al(120nm)/陰極を持つOLEDデバイスを製造するステップは以下のとおりである。
(i)5% Decon90洗浄液の水溶液を用いて30分間超音波処理した後、脱イオン水で超音波洗浄を複数回行い、その後、イソプロパノールで超音波洗浄し、窒素を吹き付けて干した。酸素プラズマで5分間処理して、ITO表面をクリーニングし、ITO電極の仕事関数を向上させる。
(ii)酸素プラズマで処理したITOガラス基板上にPEDOT:PSS溶液をスピンコーティングし、40nmの薄膜を得て、スピンコーティング終了後、空気中、150℃で20分間アニーリングした。PEDOT:PSSは、PEDOTとPSSの2種の物質からなる高分子ポリマーの水溶液であり、PEDOTは3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマーのポリマーであり、PSSは、ポリスチレンスルホン酸塩である。
(iii)まず、PVK、PBD、錯体(Ir1~Ir16)を物質の質量比が60~67:30:3~10となるようにトルエンに溶解し、この溶液を窒素グローブボックス中でスピンコーティングして、80nm薄膜を得た後、120℃で10分間アニーリングした。PVKは、ポリエチレンカルバゾールの略語、PBDは、2-(4-t-ブチルフェニル)-5-ビフェニルオキサジアゾールの略語である。
(iv)スピンコーティングしたデバイスを真空蒸着室に入れて、30nm TPBi、1nm LiF及び100nmアルミニウムをこの順に蒸着し、発光デバイスを製造した。TPBiは、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼンの略語である。該OLEDデバイスの電流・電圧・輝度(JVL)特性は特徴評価デバイスにより特徴評価され、また、効率や外部量子効率などの重要なパラメータが記録された。検出したところ、OLEDの最大外部量子効率(EQE)は12%であった。
具体的には、以下のとおりである。
【表1】
【0035】
更なる最適化、例えばデバイス構造の最適化、正孔輸送材料(HTM)、電子輸送材料(ETM)及びホスト材料の組み合わせの最適化により、デバイスの性能、特に効率、駆動電圧がさらに向上し、寿命がさらに延長される。