(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】タッピングトルク性防錆剤及び防錆用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20250107BHJP
C10M 101/04 20060101ALI20250107BHJP
C10M 133/46 20060101ALI20250107BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20250107BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20250107BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
C23F11/00 C
C10M101/04
C10M133/46
C10N30:06
C10N30:12
C10N40:24 Z
(21)【出願番号】P 2024087388
(22)【出願日】2024-05-29
【審査請求日】2024-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390019286
【氏名又は名称】株式会社コクブ
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(74)【代理人】
【識別番号】100121005
【氏名又は名称】幸 芳
(72)【発明者】
【氏名】大場 康弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸弘
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-510939(JP,A)
【文献】国際公開第2023/012889(WO,A1)
【文献】特開平11-019825(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106011878(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106190455(CN,A)
【文献】特開2022-029835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
C10M 101/04
C10M 133/46
C10N 30/06
C10N 30/12
C10N 40/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米油と、さらに、防錆剤とを含有する、防錆用油脂組成物
であって、
前記防錆剤が、イミダゾール系化合物を含む、防錆用油脂組成物。
【請求項2】
前記米油は、オレイン酸及びリノール酸を含み、
前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸100質量部に対して、20~100質量部である、請求項
1に記載の防錆用油脂組成物。
【請求項3】
前記
イミダゾール系化合物の含有量は、前記米油100質量部に対して、0.05~1質量部である、請求項
1に記載の防錆用油脂組成物。
【請求項4】
請求項
1~
3の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物を含有する潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項
1~
3の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物から形成された層を備える金属締結部材。
【請求項6】
請求項
1~
3の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物から形成された層を備えるねじ。
【請求項7】
請求項
1~
3の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物を含むねじ用トップコート剤。
【請求項8】
請求項
1~
3の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物を含む電食防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッピングトルク性防錆剤及び防錆用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ、ボルト、ナット、くぎ等をはじめとする金属締結部材は、建築構造物、自動車等の多くの構造物を製造するために欠かせないものである。これらの金属締結部材のうち、屋外で用いるものは、外気に晒されると、湿気、塩分等が原因で錆が発生し、腐食劣化する。そのため、錆の発生は、これらを用いた構造物の耐久性、耐食性等に大きな影響を与える。
そこで、金属の耐食性を向上させるために、様々な防錆剤が開発されてきている。例えば、防腐剤としては、クロメート、6価クロム等の防錆剤が知られている。
【0003】
しかしながら、近年の環境問題から、より環境に優しい、製品開発への要望が高まってきている。特に、安全性が高い、植物等の天然物由来の物質を使用する要望が高まってきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、柿渋等のタンニンを含む防錆剤が記載されている。しかしながら、タンニンを含む防錆剤では、耐久性能に問題点があることが記載されている。近年、さらに、SDGs等の観点からも、このような環境に優しい植物由来の原料を用いた製品の開発の加速が期待されている。
【0005】
ところで、上記の建築構造物等に用いられる金属締結部材であるねじのうち、例えば、タッピングねじは、タップを使ったねじ切り、及び、ナット等のめねじが不要であって、下穴を開けておけば使用できるので、効率が良く、作業が簡単であることから、一般的に用いられている。
しかしながら、このようなタッピングねじは、相手部材に自らめねじを切りながら締結できるねじであるが、めねじ形成時にトルク(回転力)が必要となり、作業者の疲労が蓄積する等の問題があった。
更に、電動ドライバーツールで作業するため、ねじ頭の駆動部(リセス)に傷がつき、ねじの金属表面のめっき等のコーティングが剥がれることから、どうしてもその表面から錆が生じてしまうという問題点があった。
そこで、タッピングトルク性が良好であり、かつ、防錆性能に優れたねじの開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、防錆性能を有するだけでなく、優れたタッピングトルク性を付与させることができるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物の提供を目的とする。
さらに、本発明は、環境に優しいタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物の提供も目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、防錆性能を有するだけでなく、優れたタッピングトルク性を付与させることができるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物を開発すべく鋭意検討した結果、米油、又は、米油と防錆剤とを組み合わせることによって、上記目的が達成できることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
米油を含有する、タッピングトルク性防錆剤。
項2.
項1に記載のタッピングトルク性防錆剤と、さらに、防錆剤とを含有する、防錆用油脂組成物。
項3.
前記防錆剤が、含窒素化合物、脂肪酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、又は、柿渋を含む、項2に記載の防錆用油脂組成物。
項4.
前記米油は、オレイン酸及びリノール酸を含み、
前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸100質量部に対して、20~100質量部である、項2に記載の防錆用油脂組成物。
項5.
前記防錆剤が、含窒素化合物である、項3に記載の防錆用油脂組成物。
項6.
前記含窒素化合物は、アゾール系化合物である、項5に記載の防錆用油脂組成物。
項7.
前記含窒素化合物の含有量は、前記米油100質量部に対して、0.05~1質量部である、項5に記載の防錆用油脂組成物。
項8.
項1に記載のタッピングトルク性防錆剤又は項2~7の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物を含有する潤滑油組成物。
項9.
項1に記載のタッピングトルク性防錆剤又は項2~7の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物から形成された層を備える金属締結部材。
項10.
項1に記載のタッピングトルク性防錆剤又は項2~7の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物から形成された層を備えるねじ。
項11.
項1に記載のタッピングトルク性防錆剤又は項2~7の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物を含むねじ用トップコート剤。
項12.
項1に記載のタッピングトルク性防錆剤又は項2~7の何れか一項に記載の防錆用油脂組成物を含む電食防止剤。
【0010】
なお、本発明のうち、調製工程で規定された物の発明の場合は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防錆性能を有するだけでなく、優れたタッピングトルク性を付与させることができるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物を提供できる。
さらに、本発明によれば、環境に優しいタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物の提供もできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例2の防錆用油脂組成物を使用した耐食性(防錆性)試験終了後のねじの写真である。
【
図2】
図2は、比較例8の防錆用油脂組成物を使用した耐食性(防錆性)試験終了後のねじの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物、及び、それらの調製方法について詳細に説明する。さらには、前記タッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物を含有する潤滑油組成物、前記タッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物から形成された層を備える金属締結部材、前記タッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物から形成された層を備えるねじ、前記タッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物を含むねじ用トップコート剤、及び前記タッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物を含む電食防止剤について、下記に説明する。
【0014】
タッピングトルク性防錆剤
本発明のタッピングトルク性防錆剤は、米油を含んでいる。
【0015】
本発明に用いる米油とは、米糠より得られる油脂をいう。米油の中でも、γ-オリザノールを比較的多く含むものは米胚芽油と呼ばれる。ここで、米油には、米胚芽油も含まれる。
米油は、特に限定はなく、例えば、築野食品工業株式会社製の商品名「米サラダ油」、築野食品工業株式会社製の商品名「ライスオイル」等が挙げられる。
【0016】
米油には、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、パルミチン酸等の、常温で液体の脂肪酸が含まれている。
【0017】
オレイン酸は、不飽和脂肪酸であって、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7CООHで表される、炭素数:二重結合数が18:1(n-9)のω-9脂肪酸である。オレイン酸は、融点が13.4℃である。
リノール酸は、不飽和脂肪酸であって、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6CООHで表される、炭素数:二重結合数が18:2(n-6)のω-6脂肪酸である。リノール酸は、融点が-5℃である。
α-リノレン酸は、不飽和脂肪酸であって、CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6CООHで表される、炭素数:二重結合数が18:3(n-3)のω-3脂肪酸である。α-リノレン酸は、融点が-11℃である。
パルミチン酸は、飽和脂肪酸であって、CH3(CH2)14CООHで表される、炭素数:二重結合数が16:0の脂肪酸である。パルミチン酸は、融点が62.9℃である。
【0018】
米油には、脂肪酸以外にも、ビタミンE(トコフェロール)、トコトリエノール、γ-オリザノール等が含まれている。米油の脂肪酸は、通常、オレイン酸が約44%(40~45%)、リノール酸が約36%(35~40%)、α-リノレン酸が約1.2%(1~2%)、及び、パルミチン酸が約17%(15~20%)含まれている。したがって、本発明においては、米油に代えて、オレイン酸を40~45%、リノール酸を35~40%、α-リノレン酸を1~2%及び、パルミチン酸を15~20%を含有する油脂組成物を用いてもよい。
【0019】
米油は、γ-オリザノールを含有するものが好ましい。
米油のγ-オリザノール含有量は、特に限定はなく、例えば、米油100質量部に対して、0.01質量%以上含有することが好ましく、0.05質量%以上含有することがより好ましく、0.1質量%以上含有することがさらに好ましく、0.3質量%含有することが特に好ましい。
【0020】
本発明で用いる米油は、米糠から得られる油だけでなく、植物油等から米油に含まれる脂肪酸の比率に合わせたものを用いることもできる。
また、米油は、新しい油(新油)だけでなく、リサイクルした米油(以下、リサイクル米油等という。)を用いることもできる。
米油は、オレイン酸及びリノール酸を含むものが好ましい。
米油中のリノール酸の含有量は、オレイン酸100質量部に対して、通常20~100質量部であり、好ましくは50~90質量部であり、より好ましくは80~85質量部である。
米油中のα-リノレン酸の含有量は、オレイン酸100質量部に対して、通常1~5質量部であり、好ましくは1.5~4質量部であり、より好ましくは2~3質量部である。
米油中のパルミチン酸の含有量は、オレイン酸100質量部に対して、通常10~60質量部であり、好ましくは20~50質量部であり、より好ましくは30~40質量部である。
米油としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0021】
タッピングトルク性は、数値が小さいことが良いとされている。本発明のタッピングトルク性防錆剤をねじに用いて、トルクアナライザー(株式会社アトニック製、製品名:20N・mトルクアナライザー)で測定した場合、4mm径のドリルねじの最大トルクは、5.0N・m未満が好ましく、4.8N・m未満がより好ましく、4.7N・m未満が特に好ましい。
【0022】
本発明のタッピングトルク性防錆剤は、さらにその他の成分を配合することができる。ここで、その他の成分を配合したタッピングトルク性防錆剤は、防錆用油脂組成物と言い換えることができる。
【0023】
防錆用油脂組成物
本発明の防錆用油脂組成物は、上述したタッピングトルク性防錆剤と、さらに、防錆剤とを含んでいる。
前記タッピングトルク性防錆剤は、米油を含んでいる。当該米油は、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0024】
防錆剤
防錆剤としては、公知の防錆剤であれば特に限定はなく、例えば、含窒素化合物、脂肪酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、柿渋等が挙げられる。中でも、米油に溶解する油溶性防錆剤が好ましい。防錆剤のHLBとしては、特に限定はないが、5~17が好ましく、6~10がより好ましい。
【0025】
含窒素化合物
含窒素化合物は、少なくとも1つの窒素原子を含む化合物であれば特に限定はない。含窒素化合物としては、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-エチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、N-(3-アミノプロピル)イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-(ヘプタデセニル)-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-1-エタノール(コーテック社製のVpCI(登録商標。以下、省略する。)-369、HLB:6.3)等のイミダゾール系化合物、1,4-ジメチルピラゾール等のピラゾール系化合物物、メルカプトベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物、ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物等のアゾール系化合物;キレスト株式会社製のDTPA、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のジアミン化合物;酸化パラフィンのアミン塩(キレスライトBS)、キレスライトZ-7);モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノn-プロパノールアミン、ジ(n-プロパノール)アミン、トリ(n-プロパノール)アミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-メチルジイソプロパノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N-オクチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、2-(2-アミノエチル)エタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール等の中-高pKa、低-中揮発性、親水性のアルカノールアミン;ジシクロヘキシルアミン、2-(ジエチルアミノ)エチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジ-(2-エチルヘキシルアミン)、トリス-(2-エチルヘキシル)アミン、N-メチルモルホリン、モルホリン、オクタメチレンジアミン、n-オクチルアミン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,6-ヘキアメチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、トリデシルアミン(異性体混合物)、ジトリデシルアミン(異性体混合物)、ベンジルアミン、ピロリジン、2,2'-ジモルホリノジエチルエーテル、3-メトキシプロピルアミン、ポリエーテルアミンD2000、ポリエーテルアミンD230等の中-高pKa、中-高揮発性、疎水性のアルキルアミン類;3-ブチン-2-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、4-エチル-1-オクチン-3-オール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、プロパルギルアルコール等のアセチレンアルコール類;アミート(登録商標。以下、省略する。)102(花王株式会社製、HLB:6.3)、アミート105(HLB:9.8)、アミート105A等のポリオキシエチレンラウリルアミン;アミート302(HLB:5.1)、アミート308(HLB:12.1)、アミート320(HLB:15.4)等のポリオキシエチレンステアリルアミン;等のアルキルアミンエチレンオキシド付加物(酸化エチレン付加脂肪アミンともいう。)等のアミン化合物が挙げられる。中でも、含窒素化合物として好ましくはアゾール系化合物であり、より好ましくはイミダゾール系化合物であり、特に好ましくは分子量300以上のイミダゾール化合物である。
【0026】
含窒素化合物のHLBとしては、特に限定はないが、5~17が好ましく、6~10がより好ましい。
含窒素化合物の含有量としては、特に限定はなく、例えば、米油100質量部に対して、通常0.05~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.5~2質量部である。
含窒素化合物としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0027】
脂肪酸エステル化合物
脂肪酸エステル化合物とは、脂肪酸とアルコールが反応してできる化合物のことであり、脂肪酸エステル基を有する有機化合物であれば特に限定はなく、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製、製品名:ポエムО-80V)、グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製、製品名:ポエムG-002)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビトール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステルが挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート等のソルビタン脂肪酸モノエステル;ソルビタンジラウレート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレート等のソルビタン脂肪酸ジエステル;ソルビタントリラウレート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレート等のソルビタン脂肪酸トリエステル等が挙げられる。脂肪酸エステル化合物のHLBとしては、特に限定はないが、5~17が好ましく、6~10がより好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノグリセライド又はアセチル化モノグリセライドのようなグリセリン脂肪酸モノエステル、有機酸モノグリセライドのようなグリセリン脂肪酸ジエステル、モノ・ジグリセライドのようなグリセリン脂肪酸モノ・ジエステル、中鎖脂肪酸トリグリセライドのようなグリセリン脂肪酸トリエステル等が挙げられる。
【0028】
グリセリン脂肪酸モノエステルの具体例としては、例えば、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノ-12-ヒドロキシステアレート、グリセリンモノアラキジエート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノオレート等が挙げられる。
【0029】
グリセリン脂肪酸ジエステルの具体例としては、例えば、グリセリンジカプリレート、グリセリンジカプレート、グリセリンジラウレート、グリセリンジミリステート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジオレート等が挙げられる。
【0030】
グリセリン脂肪酸モノ・ジエステルの具体例としては、例えば、グリセリンモノ・ジステアレート、グリセリンモノ・ジベヘネート、グリセリンモノ・ジオレート等が挙げられる。
【0031】
グリセリン脂肪酸トリエステルの具体例としては、例えば、グリセリントリカプリレート、グリセリントリカプレート、グリセリントリラウレート等が挙げられる。
【0032】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリン脂肪酸エステル、テトラグリセリン脂肪酸エステル、ペンタグリセリン脂肪酸エステル、ヘキサグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0033】
ジグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノカプレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレートのようなジグリセリン脂肪酸モノエステル;ジグリセリンジラウレート、ジグリセリンジミリステート、ジグリセリンジパルミテート、ジグリセリンジステアレート、ジグリセリンジオレートのようなジグリセリン脂肪酸ジエステル等が挙げられる。
【0034】
テトラグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、テトラグリセリンモノラウレート、テトラグリセリンモノミリステート、テトラグリセリンモノパルミテート、テトラグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンモノオレートのようなテトラグリセリン脂肪酸モノエステル、テトラグリセリントリラウレート、テトラグリセリントリミリステート、テトラグリセリントリパルミテート、テトラグリセリントリステアレート、テトラグリセリントリオレートのようなテトラグリセリン脂肪酸トリエステル、テトラグリセリンペンタラウレート、テトラグリセリンペンタミリステート、テトラグリセリンペンタパルミテート、テトラグリセリンペンタステアレート、テトラグリセリンペンタオレートのようなテトラグリセリン脂肪酸ペンタエステル等が挙げられる。
【0035】
ペンタグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ペンタグリセリンモノラウレート、ペンタグリセリンモノミリステート、ペンタグリセリンモノパルミテート、ペンタグリセリンモノステアレート、ペンタグリセリンモノオレートのようなペンタグリセリン脂肪酸モノエステル、ペンタグリセリンジステアレートのようなペンタグリセリン脂肪酸ジエステル、ペンタグリセリントリステアレートのようなペンタグリセリン脂肪酸トリエステル、ペンタグリセリンヘキサステアレートのようなペンタグリセリン脂肪酸ヘキサエステル等が挙げられる。
【0036】
ヘキサグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ヘキサグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノミリステート、ヘキサグリセリンモノパルミテート、ヘキサグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノオレートのようなヘキサグリセリン脂肪酸モノエステル、ヘキサグリセリントリステアレートのようなヘキサグリセリン脂肪酸トリエステル、ヘキサグリセリンペンタステアレート、ヘキサグリセリンペンタオレートのようなヘキサグリセリン脂肪酸ペンタエステル等が挙げられる。
【0037】
デカグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノパルミテート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレートのようなデカグリセリン脂肪酸モノエステル、デカグリセリンジステアレートのようなデカグリセリン脂肪酸ジエステル、デカグリセリントリステアレートのようなデカグリセリン脂肪酸トリエステル、デカグリセリンペンタステアレート、デカグリセリンペンタオレートのようなデカグリセリンペンタエステル、デカグリセリンデカステアレート、デカグリセリンデカオレートのようなデカグリセリンデカエステル等が挙げられる。
【0038】
中でも、脂肪酸エステル化合物として好ましくは、水酸基を1つ又は2つ有する脂肪酸エステルであり、より好ましくはソルビタン脂肪酸エステルであり、特に好ましくはソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルである。ここでいう、脂肪酸エステル化合物は、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤の効果があってもよい。
【0039】
脂肪酸エステル化合物の含有量としては、特に限定はなく、例えば、米油100質量部に対して、通常0.05~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.5~2質量部である。
脂肪酸エステル化合物としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0040】
リン酸エステル化合物
リン酸エステル化合物としては、リン酸エステル基を有する化合物であれば特に限定はなく、例えば、ヒマシ油の酸性リン酸エステル(キレスライトP-21A、キレスト株式会社製)、ヒマシ油の酸性リン酸エステルカルシウム塩(キレスライトP-21C、キレスト株式会社製)、リン酸エステル(キレスライトP-18C、キレスト株式会社製)等のリン酸エステル化合物等が挙げられる。中でも、リン酸エステル化合物が好ましい。
【0041】
リン酸エステル化合物の含有量としては、特に限定はなく、例えば、米油100質量部に対して、通常0.05~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.5~2質量部である。
リン酸エステル化合物としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0042】
柿渋
柿渋としては、特に限定はなく、例えば、市販の柿渋を用いることができる。例えば、市販の柿渋は、タンニン(株式会社大杉型紙工業製「柿渋」)、タンニン酸(富士化学工業株式会社製「タンニン酸AL」)溶液、柿渋タンニンエキス(リリース科学工業株式会社製、植物系天然抽出物)等が挙げられる。
柿渋の含有量としては、特に限定はなく、例えば、米油100質量部に対して、通常0.05~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.5~2質量部である。
柿渋としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0043】
上記以外の油溶性防錆剤としては、例えば、石油スルホン酸系除湿浸透防錆剤(Cebo EP-10、東洋薬化学工業株式会社製)、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のスルホン酸系防錆剤、アルケニルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0044】
米油以外の油脂
本発明の防錆用油脂組成物には、米油及び防錆剤以外にも、さらに、米油以外の油脂を配合することができる。米油以外の油脂として、例えば、米油以外の植物油脂、鉱物油等が挙げられる。
【0045】
米油以外の植物油脂としては、特に限定はなく、例えば、ヤシ油、キャノーラ油、綿実油、椿油、大豆油、オリーブ油等が挙げられる。
米油以外の植物油脂としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0046】
鉱物油としては、例えば、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
鉱物油としては、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0047】
任意成分
本発明の防錆用油脂組成物(主剤)には、さらに、界面活性剤、顔料、シランカップリング剤、含窒素化合物以外の防錆剤、潤滑剤、その他の添加剤等が含有されてもいてもよい。
【0048】
界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。なお、ここでいう界面活性剤には、前記防錆剤に記載した化合物と重複する場合は防錆剤の定義に含まれる。
【0049】
カチオン界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、アルキル(炭素数8~24)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(炭素数8~24)ジメチルアンモニウム塩、アルキル(炭素数8~24)ピリジニウム塩、アルキル(炭素数8~24)ジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。アミドアミン型界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノエチルアミド、パルミチン酸ジエチルアミノエチルアミド、パルミチン酸ジメチルアミノエチルアミド、ミリスチン酸ジエチルアミノエチルアミド、ミリスチン酸ジメチルアミノエチルアミド、ベヘニン酸ジエチルアミノエチルアミド、ベヘニン酸ジメチルアミノエチルアミド、イソステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、イソステアリン酸ジメチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、パルミチン酸ジエチルアミノプロピルアミド、パルミチン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ミリスチン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ミリスチン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ベヘニン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ベヘニン酸ジメチルアミノプロピルアミド、イソステアリン酸ジエチルアミノプロピルアミド、イソステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド等が挙げられる。
【0050】
アニオン界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、アルキル(炭素数8~24)硫酸塩、アルキル(炭素数8~24)エーテル硫酸塩、アルキル(炭素数8~24)ベンゼンスルホン酸塩、ジアルキル(炭素数8~24)スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~24)エーテルスルホコハク酸塩、アルキル(炭素数8~24)リン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~24)エーテルリン酸塩、アシル(炭素数8~24)化タウリン塩、アシル(炭素数8~24)化メチルタウリン塩、アシル(炭素数8~24)化アラニン塩、アシル(炭素数8~24)化N-メチル-β-アラニン塩、アシル(炭素数8~24)化グルタミン酸塩、アシル(炭素数8~24)化イセチオン酸塩、アシル(炭素数8~24)化サルコシン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、エーテルカルボン酸塩、長鎖(炭素数8~24)カルボン酸塩、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノエタノールアミド硫酸塩等が挙げられる。これらの中で、好ましいアニオン界面活性剤として、アルキル(炭素数8~24)硫酸塩、アルキル(炭素数8~24)エーテル硫酸塩、アルキル(炭素数8~24)スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~24)エーテルスルホコハク酸塩、アルキル(炭素数8~24)リン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~24)エーテルリン酸塩、アシル(炭素数8~24)化タウリン塩、アシル(炭素数8~24)化メチルタウリン塩、アシル(炭素数8~24)化サルコシン酸塩、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノエタノールアミド硫酸塩アルキルポリオキシアルキレン硫酸エステル塩、動植物油の硫酸化物ナトリウム塩等が挙げられる。
【0051】
ノニオン界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、シリコーン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのホルマリン縮合物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ソルビタン高級脂肪酸エステル系界面活性剤;ポリオキシエチレンアリールエーテル;ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)フェニルフェニルエーテル;ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)ベンジルフェニルエーテル;ポリオキシプロピレン(モノ、ジ又はトリ)ベンジルフェニルエーテル;ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)スチリルフェニルエーテル;ポリオキシプロピレン(モノ、ジ又はトリ)スチリルフェニルエーテル;ポリオキシエチレン(モノ、ジ又はトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマー;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー;アルキルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテル;アルキルフェニルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテル;ポリオキシエチレンビスフェニルエーテル;ポリオキシエチレン樹脂酸エステル;グリセロール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物;ヒマシ油エチレンオキサイド付加物;硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物;アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物;ポリオキシエチレン脂肪酸アミド;アルキルフェノキシポリエトキシエタノール及びポリオキシエチレンロジンエステル;アセチレングリコール又はそのエチレンオキサイド付加物、アセチレンアルコール又はそのエチレンオキサイド付加物等のアセチレン系界面活性剤等が挙げられる。
【0052】
前記シリコーン系界面活性剤としては、商品名KF-640(ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン;信越化学工業株式会社製)、商品名DyneAmic(STERE CHEMICAL社製)、商品名KINETIC(ポリアルキレンモディファイドポリメチルシロキサン非イオン性界面活性剤;STERE CHEMICAL社製)、Silwet L-77(シリコンポリアルキレンオキサイドモディファイドメチルポリシロキサン;Witco社製)、商品名SLIPPA(シリコンポリアルキレンオキサイドモディファイドメチルポリシロキサンと直鎖アルコール界面活性剤の混合物;INTERAGRO社製)等が挙げられる。これらシリコーン系界面活性剤は、防錆用油脂組成物中に少量添加される消泡剤用途のシリコーンとは区別される。
【0053】
前記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、商品名アルソープ30(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル30%含有;住友化学株式会社製)、商品名Agral 30(ICI社製)、商品名Agral 90(ICI社製)、商品名Agral PLUS(ICI社製)、商品名ARKOPAL N-100(ヘキスト社製)、商品名CITOWETT(BASF社製)、商品名Genapol X-60、商品名クサリノー(登録商標)(日本農薬株式会社製)、商品名ノイゲン(登録商標、以下、省略する。) EA110(第一工業製薬株式会社製)、商品名ミックスパワー(登録商標)(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル40%及びポリオキシエチレンアルキルエーテル40%;トモノアグリカ株式会社製)等が挙げられる。
【0054】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、商品名ノイゲンTDS-70(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、第一工業製薬株式会社製)、商品名ニューカルゲン(登録商標)R-100(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、竹本油脂株式会社製)等が挙げられる。
【0055】
前記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、例えば、商品名ラミゲン(登録商標)ES-70(第一工業製薬株式会社製)、商品名EMULAN(登録商標) PS700(BASF社製)、商品名パンガードKS-20(三井東圧農薬株式会社製)、商品名スプレースチッカー(日本農薬株式会社製)、商品名D-3605(竹本油脂株式会社製)、商品名D-230(竹本油脂株式会社製)、商品名D-233 N(竹本油脂株式会社製)、商品名ノイゲンET-120E(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
前記ソルビタン高級脂肪酸エステル系界面活性剤としては、例えば、商品名アプローチ(登録商標)BI(ポリオキシエチレンへキシタン脂肪酸エステル50%含有;花王株式会社製)、商品名TWEEN(登録商標)20(脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル;和光純薬株式会社製)等が挙げられる。
【0057】
さらに、本発明では、商品名グラミンS(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル15%、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル5%及びポリナフチルメタンスルホン酸ナトリウム4%含有;三共アグロ株式会社製)等の、ノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤との混合物も使用することができる。
【0058】
両性界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤等が挙げられる。ベタイン型界面活性剤としては、例えば、アルキル(炭素数8~24)アミドプロピルベタイン、アルキル(炭素数8~24)カルボキシベタイン、アルキル(炭素数8~24)スルホベタイン、アルキル(炭素数8~24)ヒドロキシスルホベタイン、アルキル(炭素数8~24)アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、アルキル(炭素数8~24)ヒドロキシホスホベタイン、アルキル(炭素数8~24)アミノカルボン酸塩、アルキル(炭素数8~24)アンホ酢酸ナトリウム、アルキル(炭素数8~24)アミンオキシド、3級窒素、及び4級窒素を含むアルキル(炭素数8~24)リン酸エステル等が挙げられる。
【0059】
本発明の防錆用油脂組成物が界面活性剤を含有する場合、本発明の防錆用油脂組成物における界面活性剤の含有量は、組成物全体を100質量%として、通常0.05~30質量%であり、好ましくは0.5~28質量%であり、より好ましくは1~25質量%である。
界面活性剤は、1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0060】
顔料としては、体質顔料、着色顔料、防錆顔料のうちの1種のみが用いられてもよく、又は、2種以上を用いてもよい。
【0061】
体質顔料としては、特に限定はなく、例えば、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ケイ酸、ケイ酸塩、酸化アルミニウム水和物、硫酸カルシウム、石膏、雲母状酸化鉄(MIO)、ガラスフレーク、スゾライト・マイカ、クラライト・マイカ等が挙げられる。
【0062】
着色顔料としては、特に限定はなく、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、鉛白、黒鉛、硫化亜鉛、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化クロム、黄色ニッケルチタン、黄色クロムチタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ウルトラマリンブルー、キナクリドン類、アゾ系赤・黄色顔料等が挙げられる。
【0063】
防錆顔料としては、特に限定はなく、例えば、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、亜鉛末(Zn)、リン酸亜鉛、アルミ粉(Al)等が挙げられる。
【0064】
シランカップリング剤は、有機ポリマー(硬化樹脂等)に対して反応性及び/又は親和性を示す有機官能基と、無機系材料(防錆用油脂組成物に含有される顔料等)に対して反応性及び/又は親和性を示す有機官能基とを併せ持つ化合物である。
【0065】
本発明においては、シランカップリング剤として、1種又は2種以上のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤は、主剤の総質量に対して、0.5~5質量%の割合で用いられることが好ましい。
【0066】
潤滑剤としては、例えば、グリースを使用することができる。このグリースの組成は、基油には鉱物油、合成油、又は、両者の混合油を、増ちょう剤にはウレア系のものをそれぞれ使用し、極圧添加剤として二硫化モリブデン、二硫化タングステン、メラミンシアヌレート、グラファイト、窒化ホウ素等を添加し、さらにモリブデンジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、亜鉛ジチオホスホネート、硫黄系添加剤、リン系添加剤、油性剤、分散剤、酸化防止剤を添加している。
【0067】
その他の添加剤としては、特に限定はなく、例えば、併用樹脂、タレ止め・沈降防止剤、色分れ防止剤、消泡・ワキ防止剤、レベリング剤、ツヤ消し剤、溶剤等が挙げられる。
【0068】
併用樹脂としては、特に限定はなく、例えば、石油系樹脂(キシレン樹脂等)、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0069】
タレ止め・沈降防止剤としては、特に限定はなく、当該分野において通常用いられるものを用いることができ、例えば、商品名で「ディスパロン(登録商標)6700」(脂肪族ビスアマイド揺変剤、楠本化成株式会社製)等を好ましく用いることができる。
【0070】
溶剤としては、特に限定はなく、弱溶剤等が挙げられる。
弱溶剤とは、脂肪族炭化水素系溶剤であり、ミネラルスピリット、ターペン等に代表されるような、高引火点、高沸点、及び、低有害性であるものをいう。より具体的な弱溶剤としては、ミネラルスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペン、イソパラフィン、ソルベント灯油、芳香族ナフサ、VM&Pナフサ、ソルベントナフサ等が挙げられる。
【0071】
弱溶剤の市販品としては、いずれも商品名で「ソルベッソ(登録商標)100」、「ソルベッソ(登録商標)150」、「ソルベッソ(登録商標)200」(いずれもエクソンモービル社製)、いずれも商品名で「スワゾール(登録商標)310」、「スワゾール(登録商標)1000」、「スワゾール(登録商標)1500」(いずれもコスモ石油株式会社製)等が挙げられる。この他、単成分溶剤としてはn-ブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソノナン、n-デカン、n-ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
【0072】
溶剤を含む場合、その溶剤の含有量としては、主剤の総質量に対して、通常、5~50質量%である。
【0073】
本発明の防錆用油脂組成物をねじに用いて、トルクアナライザー(株式会社アトニック製、製品名:20N・mトルクアナライザー)で測定した場合、4mm径のドリルねじの最大トルクは、5.0N・m未満が好ましく、4.8N・m未満がより好ましく、4.7N・m未満が特に好ましい。
【0074】
防錆用油脂組成物の調製方法
本発明の防錆用油脂組成物の調製(製造)方法としては、特に限定はなく、特別の方法を必要とせず、当業者において通常用いられる方法を使用することができる。例えば、本発明の防錆用油脂組成物の調製方法は、タッピングトルク性防錆剤(米油)と防錆剤(含窒素化合物、脂肪酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、又は、柿渋)とを混合する工程を備える。なお、防錆用油脂組成物が、タッピングトルク性防錆剤と防錆剤のみを含むものを主剤ということもある。
また、防錆用油脂組成物が主剤以外の任意成分(添加剤等)を含む場合、その調製方法としては、特に限定はなく、例えば、タッピングトルク性防錆剤と防錆剤と、さらに必要に応じて、上述した添加剤等のその他の成分を、例えば、ディスパー、ボールミル、S.G.ミル、ロールミル等の分散機で混合及び分散することにより調製する方法等が挙げられる。
【0075】
用途
本発明におけるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物は、金属の表面に対して用いられるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物である。
本発明におけるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物は、例えば、潤滑油組成物、電食防止剤、ねじ用トップコート剤等に用いることができる。
また、本発明のタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物から形成された層を備える金属締結部材、中でも、タッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物から形成された層を備えるねじは、防錆性能を有するだけでなく、優れたタッピングトルク性を有する。本発明のタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物、及び、本発明のタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物から形成された層を備える金属締結部材は、環境に優しい製品である。
なお、それぞれの物の発明は、これら用途において、公知の添加剤(任意成分)を配合することができる。
【0076】
コーティング方法(塗装方法)
本発明におけるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物のコーティング方法(塗装方法)は、ディッピング、刷毛、ローラー、スプレー等の一般的な方法により行うことができる。
本発明におけるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物は、典型的には、遠心分離乾燥で発生する余剰な部分もフィルター濾過により再使用が可能である。
【0077】
被塗物
被塗物(本発明におけるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物がコーティング(塗装)される対象物)としては、防錆を必要とする鋼材(金属)であれば特に限定されるものではなく、例えば、ボルト・ナット、ねじ、くぎ、リベット等の連結部材のほか、建築材料(建材);電気部品;自動車、鉄道、船舶用の構造部材等の各種材料が挙げられる。
【0078】
被塗物の表面は、予めブラスト処理されたものであってもよく、錆止め塗装、ショップ塗装、有機又は無機ジンクプライマー塗装が施されたものであってもよい。
【0079】
金属締結部材
金属締結部材の種類は、金属(合金及び金属間化合物も含む。)であれば、その材質、形状、大きさ、目的等は制限されない。
【0080】
材質としては、例えば、鉄、銅、チタン、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム等の金属のほか、鋼、ステンレス鋼、真鍮、チタン系合金、アルミニウム系合金、ニッケル系合金、マグネシウム系合金等の合金が挙げられる。
【0081】
また、めっき処理、化成処理、溶射処理、塗装、アルミニウム合金等の陽極酸化皮膜、エッチング、CVD又はPVD等の表面処理(金属皮膜による表面処理)が施されたものであっても良い。特に、本発明では、防錆めっきされた製品も好適に用いることができる。このような防錆めっき製品としては、例えば、亜鉛めっき製品、鉄系、ニッケル系、スズ系、クロム系等の合金めっき製品が代表例として挙げられる。また、亜鉛めっき系製品は、光沢クロメート(ユニクロ)、有色クロメート、黒色クロメート、緑色クロメート、3価クロメート等のクロメート処理された製品、又は、亜鉛めっき下地処理にアルミニウム合金粉末塗装等のトップコートを付与したような2層以上の多層表面処理された製品であってもよい。
【0082】
この他にも6価クロムを含まない表面処理、例えば、亜鉛めっきに6価クロムフリーの皮膜処理された表面処理又は塗装系の表面処理を施されたものでもよい。
【0083】
クロム系ステンレスねじの代表的な処理としては、パシぺート処理等が挙げられる。
【0084】
パシぺート処理とは、防錆処理のことである。例えば、ねじに、硝酸系の酸化剤を処理(パシぺート処理)することで、防錆性能を向上させた酸化層(不動態被膜)が形成される。
【0085】
ねじ
ねじは、らせん状の溝があるものであれば特に限定はない。ここで、「ねじ」は、らせん状の溝があるねじ全般の総称である。ボルト及びビスもねじの一種であり、本発明では、ボルト及びビスも「ねじ」に含まれる。
ねじの固定方法は、ねじ単体で締め付ける方法、又は、ねじとナットで挟み込む方法のいずれでもよい。
ねじとナットで挟み込む方法で使用されるねじとしては、例えば、ボルト等が挙げられる。
ねじ単体で締め付ける方法で使用されるねじとしては、例えば、ドリルねじ、タッピングねじ、小ねじ、テーパーねじ等が挙げられる。
ドリルねじとは、鉄骨造の建築物、板金加工製品等で主に用いられているねじである。このドリルねじは、ねじの先端に金属板へ穴をあけることが可能なドリルが付属しており、ドリルねじ一本で穴あけからねじ穴作成、ねじ締めまでを行うことができる。
タッピングねじは、ねじ立てドリル等で下穴を開けておけば、ねじ自身で独立してねじ立てができる。よって、おねじを受け入れるための円筒状の穴の内表面に溝を切ってあるめねじが、ねじを使用したい部材にない場合でも、ねじ単独での使用が可能である。このタッピングねじには、ねじの先端部がとがっているもの、ねじ軸部分に溝が切られているもの等、沢山の種類があり、この部分で相手部材を切り込みながら締め付けることができる。
また、ねじは、電動ドリル等でねじの頭部に、傷をつけたねじであってもよい。本発明におけるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物は、傷をつけたねじに対しても、優れたタッピングトルク性及び防錆性を有する。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0087】
(1)タッピングトルク性防錆剤の検討試験
<実施例1>
米油(築野食品工業株式会社製、製品名:米サラダ油)20gを準備し、タッピングトルク性防錆剤1(油脂1)とした。なお、米油には、オレイン酸が42%、リノール酸が36%、及び、パルミチン酸が16%含まれているものを用いた。
それとは別に、ステンレス製のねじ(株式会社コクブ製、SUS410 ドリルねじにパシぺート処理(サカモト工業株式会社)したねじを準備した。
ビーカー(45mm×78mm)に、上記タッピングトルク性防錆剤1を入れて、35℃に加熱した油脂を得た。それに上記のねじ10本を入れて、10分間浸漬処理した。その後、ねじをかごに取り上げた。
膜厚調整のため、取り出したねじを加温しながら、遠心分離乾燥槽(木田精工株式会社製、製品名:手動式WAX装置)を用いて、遠心分離乾燥し、タッピングトルク性防錆剤1から形成された層(平均膜厚33μm)を有するねじ1を得た。
なお、平均膜厚は、特に限定はないが、通常、1μm~100μmの範囲であり、好ましくは10μm~75μmの範囲であり、より好ましくは25μm~50μmの範囲である。
【0088】
<比較例1>
米油を、ヤシ油(比較油脂1)に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較油脂1から形成された層(平均膜厚30μm)を有する比較ねじ1を得た。
【0089】
<比較例2>
米油を、キャノーラ油(比較油脂2)に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較油脂2から形成された層(平均膜厚33μm)を有する比較ねじ2を得た。
【0090】
<比較例3>
米油を、綿実油(比較油脂3)に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較油脂3から形成された層(平均膜厚36μm)を有する比較ねじ3を得た。
【0091】
<比較例4>
米油を、椿油(比較油脂4)に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較油脂4から形成された層(平均膜厚32μm)を有する比較ねじ4を得た。
【0092】
<比較例5>
米油を、大豆油(比較油脂5)に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較油脂5から形成された層(平均膜厚30μm)を有する比較ねじ5を得た。
【0093】
<比較例6>
米油を、オリーブ油(比較油脂6)に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、比較油脂6から形成された層(平均膜厚33μm)を有する比較ねじ6を得た。
【0094】
試験例1(耐食性試験)
耐食性試験は、特許第4471897号に記載されている、関西ねじ協同組合による建築構造物の屋根、外壁等を締結するねじ等のファスナー金物の耐用年数を予測するための曝露腐食寿命加速予測試験(FCK試験法)を用いて行った。
【0095】
具体的には、複合サイクル試験機SYP-90(スガ試験機)を用い、金属部材に対し、下記の工程(a)及び工程(b);
(a)空気中30~60℃の雰囲気下、0.5wt%NaCl及び0.1wt%CaCl2を含む水溶液(pH=4)を16時間にわたり前記部材に噴霧する工程、
(b)空気中30~60℃の雰囲気下、前記部材を8時間放置する工程、
からなる組合せを繰り返し行う方法である。
なお、下記試験例1では、上記工程(a)と工程(b)を1サイクルとして、それを繰り返し、10サイクル又は15サイクル試験する。ここで、10サイクル行ったものをFCK試験法A、15サイクル行ったものをFCK試験法Bとした。
【0096】
FCK試験法は、屋外曝露試験との相関性が高い結果が得られるとされている。例えば、このFCK試験法で加速試験し、15サイクルで赤錆が発生するねじは、大阪では66ヶ月後、御前崎では12ヶ月後に赤錆が発生すると推定できる。
【0097】
<各ねじにおける頭部の赤錆状態の評価>
上記実施例1及び比較例1~6で得られたねじを各10本準備した。
準備したねじ各10本を、それぞれ試験例1に記載したFCK試験法A(10サイクル)を用いて耐食性試験を行い、各ねじにおける頭部の赤錆状態を下記の3段階で評価した。
0:赤錆なし
1:赤錆発生面積が50%未満
2:赤錆発生面積が50%以上
【0098】
<耐食性試験の評価>
上記耐食性試験で得られたねじ10本について、ねじ頭部の赤錆状態の点数を合計し、その合計値を求めた。そして、その合計値を下記の評価基準で5段階評価した。
5:5未満
4:5以上6未満
3:6以上11未満
2:11以上16未満
1:16以上
【0099】
試験例2(タッピングトルク性試験;最大トルク)
実施例1及び比較例1~6で得られたドリルねじを用いて、厚み2.3mmのC型鋼板(下穴なし)に対して下穴を開け、更にタップを立て、ねじ山を形成し、貫通するまでのタッピングトルク値を計測した。
具体的には、相手部材(C型鋼板)を固定し、トルクアナライザー(株式会社アトニック製、製品名:20N・mトルクアナライザー)を用い、タッピング時の最大トルク(N・m)を計測した。タッピングトルク性を、下記のとおり、最大トルクの値で、5段階評価した。
【0100】
<タッピングトルク性試験の評価>
5:4.7N・m未満
4:4.7N・m以上4.8N・m未満
3:4.8N・m以上5.0N・m未満
2:5.0N・m以上5.1N・m未満
1:5.1N・m以上
【0101】
実施例1及び比較例1~6で得られたねじを用いて、上記試験例1の耐食性試験のうち、FCK試験法A(10サイクル)と試験例2(タッピングトルク性試験)を行った。そして、これら試験例1(耐食性試験)及び試験例2(タッピングトルク性試験)の評価点の合計点を算出し、以下の基準にしたがって総合評価した。
<総合評価>
〇:6以上
×:6未満
【0102】
それらの結果を、下記表1に示す。
【0103】
【0104】
<結果>
米油を含有するタッピングトルク性防錆剤は、その他の植物油脂(ヤシ油、キャノーラ油、綿実油、椿油、大豆油、及び、オリーブ油)に比べて、耐食性試験及びタッピングトルク性試験の両試験の評価が共に高く、総合評価が優れていた。
【0105】
(2)タッピングトルク性防錆剤と防錆剤とを混合した防錆油脂組成物:タッピングトルク性防錆剤(油脂)の種類の検討
<実施例2>
米油(築野食品工業株式会社製、製品名:米サラダ油)20gと、含窒素化合物(コーテック社製、製品名:VpCI-369)10gとを、室温で混合し、防錆用油脂組成物2を調製した。なお、米油には、オレイン酸が42%、リノール酸が36%、及び、パルミチン酸が16%含まれているものを用いた。
ステンレス製のねじ(株式会社コクブ製、SUS410 ドリルねじにパシぺート処理(サカモト工業株式会社)したねじを得た。
ビーカー(45mm×78mm)に防錆用油脂組成物2を入れて、35℃に加熱した油脂組成物を得た。それに上記のねじ10本を入れて、10分間浸漬処理した。その後、ねじをかごに取り上げた。
膜厚調整のため、取り出したねじを加温しながら、遠心分離乾燥槽(木田精工株式会社製、製品名:手動式WAX装置)を用いて、遠心分離乾燥し、防錆用油脂組成物2から形成された層(平均膜厚33μm)を有するねじ2を得た。
なお、平均膜厚は、特に限定はないが、通常、1μm~100μmの範囲であり、好ましくは10μm~75μmの範囲であり、より好ましくは25μm~50μmの範囲である。
【0106】
<比較例7>
米油を、ヤシ油に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物7を調製した。そして、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物7から形成された層(平均膜厚30μm)を有する比較ねじ7を得た。
【0107】
<比較例8>
米油を、キャノーラ油に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物8を調製した。そして、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物8から形成された層(平均膜厚33μm)を有する比較ねじ8を得た。
【0108】
<比較例9>
米油を、綿実油に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物9を調製した。そして、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物9から形成された層(平均膜厚36μm)を有する比較ねじ9を得た。
【0109】
<比較例10>
米油を、椿油に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物10を調製した。そして、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物10から形成された層(平均膜厚32μm)を有する比較ねじ10を得た。
【0110】
<比較例11>
米油を、大豆油に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物11を調製した。そして、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物11から形成された層(平均膜厚30μm)を有する比較ねじ11を得た。
【0111】
<比較例12>
米油を、オリーブ油に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物12を調製した。そして、実施例2と同様の方法で、比較油脂組成物12から形成された層(平均膜厚33μm)を有する比較ねじ12を得た。
【0112】
上記実施例2及び比較例7~12で得られたねじを用いて、上記試試験例1の耐食性試験のうち、FCK試験法A(10サイクル)と試験例2(タッピングトルク性試験)を行った。そして、これら試験例1(耐食性試験)及び試験例2(タッピングトルク性試験)の評価点の合計点を算出し、以下の基準にしたがって総合評価した。
<総合評価>
◎:10以上
〇:8を超えて10未満
△:6を超えて8以下
×:6以下
【0113】
それらの結果を下記表2に示す。
また、実施例2で得られたねじの耐食性試験後のねじの写真を
図1に示した。比較例8で得られたねじの耐食性試験後のねじの写真を
図2に示した。
【0114】
【0115】
<結果>
米油を含有するタッピングトルク性防錆剤と防錆剤とを含む実施例2の防錆用油脂組成物は、米油以外の植物油脂と防錆剤とを含む比較例7~12の比較油脂組成物に比べて、耐食性試験及びタッピングトルク性試験の総合評価が優れていた。
【0116】
(3)タッピングトルク性防錆剤と防錆剤とを混合した防錆油脂組成物:防錆剤の種類の検討
<実施例3>
試料の材質を、ハードテック(株式会社コクブ製、ステンレスねじ)に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、米油を含有するタッピングトルク性防錆剤及び含窒素化合物を含有する防錆用油脂組成物2から形成された層を有するねじ3を得た。
【0117】
<実施例4>
含窒素化合物を、脂肪酸エステル化合物1(理研ビタミン株式会社製、製品名:ポエムО-80V(ソルビタン脂肪酸エステル)、HLB約4.9)0.1gに代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物4を調製した。そして、実施例3と同様の方法で、防錆用油脂組成物4から形成された層を有するねじ4を得た。
【0118】
<実施例5>
含窒素化合物を、脂肪酸エステル化合物2(理研ビタミン株式会社製、製品名:ポエムG-002(グリセリン脂肪酸エステル))0.1gに代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物5を調製した。そして、実施例3と同様の方法で、防錆用油脂組成物5から形成された層を有するねじ5を得た。
【0119】
<実施例6>
含窒素化合物を、リン酸エステル化合物(キレスト株式会社製、製品名:キレスライトP-18C)1.0gに代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物6を調製した。そして、実施例3と同様の方法で、防錆用油脂組成物6から形成された層を有するねじ6を得た。
【0120】
<実施例7>
含窒素化合物を、柿渋に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物7を調製した。そして、実施例3と同様の方法で、防錆用油脂組成物7から形成された層を有するねじ7を得た。
【0121】
上記実施例3~7で得られたねじを用いて、上記試験例1の耐食性試験のうち、FCK試験法B(15サイクル)と試験例2(タッピングトルク性試験)を行った。そして、これら試験例1(耐食性試験)及び試験例2(タッピングトルク性試験)の評価点の合計点を算出した。それらの結果を下記表3に示す。
【0122】
【0123】
<結果>
米油を含むタッピングトルク性防錆剤、及び、防錆剤を含む実施例3~7の防錆用油脂組成物は、いずれも耐食性試験及びタッピングトルク性試験の評価が高かった。その中でも、米油を含むタッピングトルク性防錆剤、及び、防錆剤として含窒素化合物を含む実施例3の防錆用油脂組成物が、耐食性試験及びタッピングトルク性試験の評価点の合計点が一番高かった。
【0124】
(4)傷をつけたねじに対する試験
<実施例8>
ハードテック(株式会社コクブ製、SUS410系ステンレスねじ)に対して、実施例2と同様の方法で、米油を含有するタッピングトルク性防錆剤及び含窒素化合物を含有する防錆用油脂組成物2から形成された層を有するねじ8を得た。そして、ねじの輸送中に起こりうる振動又は外力による共ずれを想定し、ねじ用小箱(80×130×110)に容積の約30%のねじを入れ、約3分間180回シェイクして振動を与え、傷をつけたねじ8を得た。
【0125】
<実施例9>
含窒素化合物を、脂肪酸エステル化合物1(理研ビタミン株式会社製、製品名:ポエムО-80V(ソルビタン脂肪酸エステル)、HLB4.3)0.1gに代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物4を調製した。そして、実施例8と同様の方法で、防錆用油脂組成物4から形成された層を有する、傷をつけたねじ9を得た。
【0126】
<実施例10>
含窒素化合物を、脂肪酸エステル化合物2(理研ビタミン株式会社製、製品名:ポエムG-002(グリセリン脂肪酸エステル)、HLB7.0)0.1gに代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物5を調製した。そして、実施例8と同様の方法で、防錆用油脂組成物5から形成された層を有する、傷をつけたねじ10を得た。
【0127】
<実施例11>
含窒素化合物を、リン酸エステル化合物(キレスト株式会社製、製品名:キレスライトP-18C)1.0gに代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物6を調製した。そして、実施例8と同様の方法で、防錆用油脂組成物6から形成された層を有する、傷をつけたねじ11を得た。
【0128】
<実施例12>
含窒素化合物を、柿渋に代えた以外は、実施例2と同様の方法で、防錆用油脂組成物7を調製した。そして、実施例8と同様の方法で、防錆用油脂組成物7から形成された層を有する、傷をつけたねじ12を得た。
【0129】
実施例8~12で得られた、傷つけたねじを用いて、上記試験例1の耐食性試験のうち、FCK試験法B(15サイクル)と試験例2(タッピングトルク性試験)を行った。そして、これら試験例1(耐食性試験)及び試験例2(タッピングトルク性試験)の評価点の合計点を算出した。それらの結果を下記表4に示す。
【0130】
【0131】
<結果>
米油を含むタッピングトルク性防錆剤、及び、防錆剤を含む実施例8~12の防錆用油脂組成物は、いずれも傷つけたねじに対する耐食性試験及びタッピングトルク性試験の評価が高かった。その中でも、実施例8の米油を含むタッピングトルク性防錆剤、及び、含窒素化合物を含む防錆用油脂組成物は、傷つけたねじに対する耐食性試験及びタッピングトルク性試験の評価点の合計点が一番高く、耐食性試験の後でもねじに劣化が見られなかった。
【要約】
【課題】本発明は、防錆性能を有するだけでなく、優れたタッピングトルク性を付与させることができるタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物の提供を目的とする。さらに、本発明は、環境に優しいタッピングトルク性防錆剤又は防錆用油脂組成物の提供も目的としている。
【解決手段】本発明は、米油を含有する、タッピングトルク性防錆剤に関する。また、本発明は、前記タッピングトルク性防錆剤と、さらに、防錆剤とを含有する、防錆用油脂組成物に関する。
【選択図】なし