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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】機械構造部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20250107BHJP
   C21D 9/32 20060101ALI20250107BHJP
   B21H 3/04 20060101ALI20250107BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20250107BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D9/32 A
B21H3/04 Z
C22C38/00 301Z
C22C38/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024520382
(86)(22)【出願日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2023016551
(87)【国際公開番号】W WO2023218974
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2022077202
(32)【優先日】2022-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 猛志
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-119518(JP,A)
【文献】特開2015-42897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00 - 9/44
B21H 3/04
B23P 15/14
B23P 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項11】
前記焼入れ工程の前に、
前記材料鋼材と略同一の形状及び組成を有する調質試験材を用いて焼入れを実施した後に、
前記材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとの関係に基づいて選択された加熱温度で、前記焼入れ後の調質試験材に対して焼き戻しを実施する調質試験工程を有し、
前記調質試験工程は、前記焼き戻し後の調質試験材がソルバイト組織となるとともに、前記素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)となり、前記素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内となるように、焼き入れ加熱条件と焼き戻し加熱条件とを選択する工程であり、
前記焼入れ工程は、前記調質試験工程において選択された焼入れ加熱条件を用いて実施され、
前記焼き戻し工程は、前記調質試験工程において選択された焼き戻し加熱条件を用いて実施されることを特徴とする、請求項8に記載の機械構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な精度を必要とする機械構造部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鋼材を加工して製品を製造する場合、切削性、研削性、靱性、耐摩耗性などを向上させるために、鋼材に熱処理(焼き入れ・焼き戻し)による調質が施される。また、必要に応じて焼きなまし等の熱処理を実施し、被削性や加工性を向上させる。
この理由としては、すでに公知であるが、比較的均一な形状を有する丸棒材を材料として加工する場合に、一般的熱処理条件で焼入れ及び焼き戻し(調質)を実施しても、硬さ及び組織を均一にすることが困難であるからである。
【0003】
近時、精密機械等のさらなる高性能化への要求に対して、ボールねじ軸、ねじ軸、ギヤ等の鋼製品の分野においても、精度及び性能を向上させるための検討が進められている。特に、転造によりねじ溝を加工する方法は、生産性が優れており、製造コストを低減することができるため、転造加工を用いて優れた寸法精度を有するねじ軸を得ることができる製造方法についての要求が高まっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ねじ溝を転造加工により形成したボールねじ軸の製造方法が提案されている。上記特許文献1に記載の製造方法は、丸棒材を調質して硬さをHRC25~HRC35とした後、その外周面を焼きなまししてHRC23以下とし、転造加工によりねじ溝を加工して、この溝の表面を高周波焼入れにより硬化処理する方法である。これにより、加工性を低下することなく、熱処理後の曲がりやねじ溝のリード誤差、またピッチ誤差の少ないボールねじ軸を製造することができることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、焼準を施した素材鋼の外周面にねじ溝を転造し、さらに表面に窒化処理又は浸硫窒化処理を施すねじ軸の製造方法が開示されている。上記特許文献2には、高温加熱、急冷、変態を伴う焼入れ処理を施すことなくねじ軸の表面に表面硬化層を形成することができるため、ボールねじや滑りねじの精度品質、耐久性を向上させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2003-119518号公報
【文献】日本国特開2013-92212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近時、より一層の寸法精度の向上が要求されており、上記特許文献1又は2に記載の製造方法を用いても、所望の加工精度を得ることができないことがある。
また、上記特許文献1に記載の焼きなまし工程や、上記特許文献2に記載の窒化処理工程又は浸硫窒化処理工程等を実施すると、製造工程が複雑になるとともに、工程数及び処理時間が増加し、生産性が低下する。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を提供することを目的とする。
また、本発明は、生産性が優れているとともに、製造時における工具の摩耗を抑制し、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を製造することができる機械構造部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記[1]又は[2]の構成により達成される。
[1]塑性加工により溝及び歯が形成されており、前記歯の表面に硬化層を有する機械構造部材において、
ソルバイト組織を有し、
前記硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、前記ロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内であることを特徴とする、機械構造部材。
[2]上記[1]に記載の機械構造部材を製造する製造方法であって、
材料鋼材を調質し、ソルバイト組織を有するとともに、表面から所定の厚さを除く素材部におけるロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、前記素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内である調質材を得る調質工程と、
前記調質材における前記溝及び歯を形成する面に対して塑性加工を施す塑性加工工程と、を有し、
前記調質工程と前記塑性加工工程との間に、焼きなまし及び焼鈍のいずれも実施しないことを特徴とする、機械構造部材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を提供することができる。
また、本発明によれば、製造時における工具の摩耗を抑制し、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を製造することができる機械構造部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)~(c)は、特許文献1から示唆される製造方法によりボールねじ軸を製造した場合の、鋼材の変化を示す模式図である。
図2図2(a)~(c)は、特許文献1から示唆される熱処理条件によりボールねじ軸を製造した場合の鋼材の変化を示す模式図である。
図3図3は、調質後のS45C材の硬さと位置との関係を示すグラフ図である。
図4図4は、縦軸を硬さとし、横軸を調質材の長手方向に直交する断面における表層面の位置とした場合の、本実施形態における調質材の硬さと位置との関係を示すグラフ図である。
図5図5は、本実施形態における硬さの測定位置を説明するための試験材を示す模式的断面図である。
図6図6は、縦軸をロックウェル硬さとし、横軸を焼き戻し温度とした場合の、S45C材の焼き戻し温度と硬さとの関係を示すグラフ図である。
図7図7は、硬さの測定位置を説明するための三角ねじ軸を示す模式図である。
図8図8は、発明例No.1の焼入れ及び焼き戻し条件について示す模式図である。
図9図9は、縦軸をロックウェル硬さとし、横軸を調質材の長手方向に直交する断面における表層面の位置とした場合の、発明例No.1及び比較例No.1の硬さと位置との関係を示すグラフ図である。
図10図10は、転造後の発明例No.1及び比較例No.1の金属組織を撮影した顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、加工精度を向上させることができる機械構造部材及びその製造方法について、従来の製造方法を考察しつつ、種々検討を行った。
特許文献1によると、調質部を残し、表面を焼きなまし(軟化)の熱処理を施せば、転造及び高周波焼入れを実施しても、ねじ精度を向上させることができるとされている。すなわち、特許文献1には、(A-1)焼入れ及び(A-2)焼き戻し(調質)、(B)焼きなまし、(C)高周波焼入れ、を実施することが示唆されている。
【0013】
ここで、上記特許文献1に示唆される製造方法を使用し、JIS G4051:2016(機械構造用炭素鋼鋼材)に記載されたS55C鋼材の組成に基づいてボールねじ軸を製造した場合の組織の様子について、以下に説明する。なお、S55C鋼材の主な組成はC:0.52~0.58(質量%)であり、Si、Mn、P及びSもJIS G4051に記載の含有量と同等として考えた場合に、この鋼材の熱処理条件は、例えば以下のようになる。
【0014】
(A-1)焼入れ;800~850℃ 水冷 硬さ(ロックウェルCスケール硬さ)HRC 60~
(A-2)焼き戻し;550~650℃ 急冷 硬さHRC 30前後
(B)焼きなまし;790℃ 炉冷 硬さHRC 0~8.5
なお、(B)焼きなましによる硬さであるHRC0~8.5は、ブリネル硬さ149~192HBからの換算値である。
【0015】
ここで、(A-1)、(A-2)及び(B)の工程による鋼材の変化について、図面を参照して、さらに具体的に説明する。
図1(a)~(c)は、特許文献1から示唆される製造方法によりボールねじ軸を製造した場合の鋼材の変化を示す模式図である。また、図2(a)~(c)は、特許文献1から示唆される熱処理条件によりボールねじ軸を製造した場合の鋼材の変化を示す模式図である。
【0016】
(A-1)焼入れでは、丸棒材をA3変態点+30~50℃まで加熱し、γ鉄(ガンマ鉄:オーステナイト面心立方晶)にした後、急冷却(焼入れ)することで、非常に硬くて脆い組織であるマルテンサイト(体心立方晶(正方))とする。
(A-2)焼き戻しでは、マルテンサイトになった非常に硬くて脆い組織を、焼き戻し温度まで熱した後、冷却することで、硬さが若干低下して靱性が得られる。
上記(A-1)及び(A-2)により、図1(a)に示すように、丸棒材1が調質されて、素材全体の硬さがHRC25~35の範囲に設定された調質部11が形成される。
【0017】
(B)焼きなまし(焼鈍)では、調質された鋼材をオーステナイト組織(790℃)の状態で十分保持した後、炉中で徐冷する。これにより、図1(b)に示すように、表面に硬さがHRC23以下である軟化層12が形成される。
そして、ピーリング加工、センタレス研削、転造加工を行った後、表面を高周波焼入れすることにより、図1(c)に示すように、HRC55~62の範囲に硬化処理された硬化層13が形成される。
【0018】
なお、一般的に、焼きなましの目的は、加工による内部残留応力を取り除き、組織を軟化させ、展延性を向上させることである。すなわち、焼きなましによって金属組織の格子欠陥が減少し、再結晶が行われるため、残留応力も減少し、軟化する。
【0019】
したがって、従来の焼きなまし熱処理温度及び上記従来の製造方法を用いてねじ軸を製造すると、実際には調質部11が残存しないことも考えられる。
具体的には、図2(a)に示すように、焼入れ及び焼き戻しにより、丸棒材2が調質されて、調質部11が形成されるが、図2(b)に示すように、焼きなましにより、丸棒材1の径方向の中心の部分まで軟化層12となってしまう。この焼きなましは、高温で保持されるため、硬度が例えば0~9(HRC)まで低下する。そして、ピーリング加工、センタレス研削、転造加工を行った後、表面を高周波焼入れすることにより、図2(c)に示すように、最表面に高周波焼入れにより硬化した硬化層13が形成されるとともに、軟化層12と表面の硬化層13との間に、さらに高周波焼入れによる硬化層14が形成される。
本発明者は、上記従来の製造方法を一般的な熱処理条件で実施した場合に、ねじ軸の中心の部分に軟化層12が存在し、これが転造加工及び高周波焼入れの工程において、ねじ軸の歪みとなって、寸法精度の低下を引き起こすのではないかとの考えに至った。
【0020】
そこで、本発明者は、変形を抑制することができ、高精度で優れた品質を有する三角ねじの製造方法について、さらに鋭意検討を行った。
まず、本発明者は、鋼材メーカから入手する磨き棒(引き抜き棒:Coil to Bar)を用いてねじを製造する場合に、寸法精度が低下する原因について検討した。
【0021】
磨き棒を入手する際には、一般的には、ねじ素材の一部を範囲指定して、磨き棒の硬さを鋼材メーカに指示している。しかし、磨き棒は、表面層側が硬化しており、芯部に近づくにつれて硬度が低下する。このため、磨き棒の表面は指定した硬さになるが、芯部の硬さは不明であり、入手した状態での磨き棒では、要求される精度を得ることができなかった。
【0022】
図3は、コイル材に対してコイル引き抜きを実施した後、調質したS45C材(日本製鉄株式会社製)の硬さと位置との関係を示すグラフ図である。測定したS45C材の直径は16mmである。図3に示すグラフ図において、S45C材の長手方向に直交する断面における直径の一端部を0mmとし、他端部を16mmとしている。なお、本明細書において、ねじ、ねじ素材、調質材等の長手方向とはねじ軸が延びる方向をいう。
上記コイル引き抜き後に調質したS45C材に対して硬さを測定した結果、表面から所定の厚さ(例えば、3mm)の領域を除いた素材部のうち、図3に示す3mm及び13mmの位置で表される表面部と、6mm~10mmの範囲で表される芯部とでは、芯部の方が12(HRC)程度低い値を示し、U曲線を描くグラフとなる。
【0023】
このように、硬さを指定すれば、入手されるS45C調質材の硬さは、一般的にはその指定範囲内であると認識されるが、実際には表面部と芯部との硬さの違いは大きいものとなる。
【0024】
また、鋼材メーカから入手する磨き棒(Coil to Bar)には、鋼材メーカにおいてコイル材を直線状の棒材に戻す工程が存在するため、この工程により、硬さのばらつきが発生する。すなわち、コイル状の材料をローラで徐々に線状に加工していく工程において、捻じれや折れ曲りを有する材料を直線状にするため、伸ばされたり圧縮されたりする箇所が混在し、これが、硬さのばらつきの原因となる。
本発明者は、上記のように硬さのばらつきを有する材料を用いて、実際にねじ転造を実施し、歯形、歯筋及びねじピッチの精度を測定すると、歯車試験機でエラーとなり測定困難となることを見出した。
【0025】
そこで、本発明者は、塑性加工、特に転造加工前の鋼材において、金属組織及び硬さのばらつきを著しく低減することができれば、加工精度を向上させることができると考え、鋼材の調質条件について検討を行った。
【0026】
例えば、一般的な焼入れ温度で鋼材を加熱しても、表面から冷却が開始されるため、芯部の硬さは著しく低くなり、表面の硬さは高くなる。また、鋼材の芯部まで加熱されずに冷却された場合には、芯部及び表面の硬さの差はさらに顕著になる。
一方、表面の硬さを低下させるため、焼き戻し温度を、例えば570℃と高くすると、芯部の硬さが更に下がってしまい、硬さ及び組織を均一化することは困難であった。
【0027】
以上のような検討の結果、本発明者は、焼入れ後の鋼材において、硬さのばらつきが少ないこと、及び均一なマルテンサイト組織が形成される条件を選択するとともに、焼き戻し後の硬さの目標値を定めて、焼き戻し温度を決定することにより、高精度な機械構造部材を得ることができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0029】
[機械構造部材の製造方法]
本実施形態は、後述する機械構造部材を製造するための製造方法であり、材料鋼材を調質し、所定の特性を有する調質材を得る調質工程と、調質材の表面から、所定の厚さを除去して素材を得る表面除去工程と、素材における溝及び歯を形成する面に対して塑性加工を施す塑性加工工程と、を有する。なお、調質工程と塑性加工工程との間に、焼きなまし及び焼鈍のいずれも実施しない。
以下、第1の実施形態として、機械構造部材の製造方法を具体的に説明し、第2の実施形態として、機械構造部材のうち、特に三角ねじを製造する場合の製造方法について、より具体的に説明する。
【0030】
<第1の実施形態>
(調質工程)
調質工程は、材料鋼材を調質し、ソルバイト組織を有するとともに、表面から所定の厚さを除く素材部におけるロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内である調質材を得る工程である。
調質工程とは、一般的に、焼入れ工程及び焼き戻し工程を表し、材料鋼材の硬さを調整することができる工程である。
【0031】
なお、本願明細書において、「ロックウェル硬さ」とは、JIS Z 2244:2009に記載のビッカース硬さ試験に準拠して測定された値を換算したものである。
【0032】
本実施形態において、焼入れ工程では、材料鋼材を所定の温度まで加熱して、保持した後に冷却する。この焼入れ工程における加熱温度及び保持時間は、焼入れ工程後の材料鋼材の組織が均一なマルテンサイト単相組織となり、結晶粒が粗大化しないような条件を選択することが好ましい。
【0033】
均一なマルテンサイト単相組織とは、表面から中心まで組織の粒径が揃っており、フェライトとマルテンサイト等の混合組織ではなく、完全にオーステナイト組織がマルテンサイト変態している状態を表す。ただし、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、X線回折法等で組織を定量測定した場合に、必ずしもマルテンサイト組織のみで100面積%である必要はなく、不可避的に不純物としてのフェライト等が残存していてもよい。
これを確認することにより、焼入れ時において、炉内が均熱化し、材料鋼材の中心部まで温度が上昇して、材料鋼材が完全にオーステナイト組織となったと判断することができる。
【0034】
焼入れ後の材料鋼材の組織及び硬さのばらつきを上記範囲にするための、焼入れ時の温度及び時間等の条件は、使用する材料鋼材の組成や、炉の種類によっても異なる。例えば、焼入れ温度については、鋼の状態図に基づき、含有する炭素量によって、A3変態温度以上の温度に炉を設定し、ワークの中心の部分まで十分に加熱することにより、材料鋼材を完全なオーステナイト組織とすることができる。
【0035】
材料鋼材を完全にオーステナイト組織にした後、急冷すると、マルテンサイト変態を十分に進行させることができる。冷却する方法は特に限定されないが、水冷却、オイル冷却等を使用することができる。
油による冷却は、マルテンサイト粗大化組織が形成されることを抑制し、焼入れ後の試験材の脆弱化及び焼き割れの発生を防止することができる。
一方、水により冷却すると、焼入れ後の材料鋼材の表面に水蒸気の気泡が多く付着し、この気泡による断熱作用によって、急冷できずに硬さにばらつきが発生することがある。したがって、一般的には、オイル冷却を採用することが望ましい。
【0036】
なお、冷却後にマルテンサイト変態が十分に進行していない場合には、急冷した後に、サブゼロ処理等により更に低温保持をして、マルテンサイト変態を進行させる手段も採用することができる。ただし、冷却設備や工程が複雑になり、製造コストが増大するため、通常の冷却方法によりマルテンサイト変態を進行させることが好ましい。
特に、本実施形態においては、焼入れ後の材料鋼材の素材部におけるロックウェル硬さのばらつきを減少させることも重要な要素であるため、硬さのばらつきが発生しにくいオイル冷却を選択することが好ましい。
【0037】
また、焼入れ工程における他の条件として、一度に焼入れ処理する数が増加すると、一般的に、焼入れ温度及び冷却条件を均一化することが困難になるため、焼入れ処理の数についても、調整することが好ましい。
【0038】
焼入れ工程の条件(加熱温度及び加熱時間)を決定する具体的な方法として、使用する材料鋼材と略同一の形状及び組成を有する試験材を用いて、この試験材に対して種々の条件で焼入れする焼き入れ試験工程を実施する方法が挙げられる。すなわち、焼き入れ試験工程として、調質工程の前に、種々の条件で焼入れを実施した試験材について組織を観察し、試験材の組織が均一なマルテンサイト単相組織であるかどうかを確認し、均一なマルテンサイト単相組織となった焼入れ加熱条件を選択する。本実施形態においては、後述のとおり、焼き戻し工程後の素材部におけるロックウェル硬さ及びばらつきが所望の範囲となるように焼き戻し工程の条件を選択する。ただし、焼き戻し工程後に硬さ及びばらつきを上記所望の範囲にするためには、焼入れ工程後においても、素材部におけるロックウェル硬さのばらつきを測定し、ばらつきが6(HRC)以内となるような焼入れ加熱条件を選択することが好ましい。
【0039】
上記焼入れ工程の後に、上述のとおり、焼き戻し工程を実施し、得られる調質材を均一な微小組織であるソルバイト組織(ソルバイト相当の微小な均一組織を含む)にする。ソルバイト組織にした調質材は、塑性加工に必要な延性や機械強度を有するため、この焼き戻し工程により、加工精度を向上させることができる。
【0040】
また、この焼き戻し工程により、素材部のロックウェル硬さを13~28(HRC)とするとともに、素材部におけるロックウェル硬さのばらつきを6(HRC)以内とする。
焼き戻し工程により得られる調質材の素材部のロックウェル硬さが、13(HRC)未満であると、塑性加工が困難になる。一方、素材部のロックウェル硬さが28(HRC)を超えると、表面除去後の素材の表面が硬くなり、加工は可能であるが、工具であるダイスの寿命が著しく低下する。さらに、ロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)を超えると、ねじ加工精度が低下する。
したがって、焼き戻し工程後の調質材における素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)になるとともに、そのばらつきが6(HRC)以内となるように、焼き戻し工程を実施するものとする。
【0041】
焼き戻しにより、素材部のロックウェル硬さ及びそのばらつきを上記のように制御するためには、焼き戻し工程における加熱温度は、使用する材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとのグラフに基づき、調整されることが好ましい。材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとのグラフは、公知のものを入手してもよいし、使用する材料鋼材について、種々の温度で焼き戻しを行い、その後の硬さを測定することにより、グラフを作成してもよい。
【0042】
なお、焼入れ工程の条件を決定する方法と同様に、焼き戻し工程においても、その加熱条件を決定する具体的な方法として、焼入れ後の試験材を用いて、この試験材に対して種々の条件で焼き戻しを実施する方法が挙げられる。
すなわち、焼き戻し試験工程として、種々の条件で焼き戻しを実施した試験材について、組織を観察するとともに、硬さのばらつきを測定する。そして、ソルバイト組織となるとともに、試験材の素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内となるような焼き戻し加熱条件を選択する。これにより、実際の焼き戻し工程は、上記焼き戻し試験工程において選択された焼き戻し加熱条件を用いて実施することができる。
なお、試験材の素材部のロックウェル硬さは、20~26(HRC)であることが好ましい。また、ロックウェル硬さのばらつきは、2(HRC)以内であることが好ましく、1(HRC)以内であることがより好ましい。
【0043】
焼き戻し試験工程後の硬さのばらつきは、素材部の表層面における任意の位置Aから、これに対向する表層面における位置Bまでの直線部について測定することが好ましく、この直線部の硬さを、縦軸を硬さとして横軸を位置としたグラフにプロットすることにより、位置による硬さの変化を調査することができる。本実施形態においては、測定により得られた値の最大値と最小値との差が6(HRC)以内である場合に、硬さのばらつきが6(HRC)以内であるとみなすことができる。
【0044】
なお、材料鋼材の種類によっては、焼入れ後の硬さは、焼き戻し後の硬さに影響を与えることがあるため、焼き戻し温度と硬さとのグラフに基づいて、焼き戻し温度を決定するのみでなく、最終的な焼き戻し加熱条件は、焼入れ後の試験材の硬さ試験の測定結果も考慮して決定することが好ましい。
詳細は後述するが、焼入れ後の硬さは、材料鋼材に含有される炭素量によって変化する。したがって、焼入れ後の硬さが臨界硬さ以上であると、最低限焼入れが実施されていることを判断することができる。
【0045】
例えば、焼入れ試験後の試験材における芯部の硬さの測定結果が、臨界硬さ以上であるが、低い場合には、焼き戻し試験後の試験材の硬さが、所望の範囲より低くなってしまう可能性がある。したがって、グラフ(後述する図6)で導き出された温度よりも、焼き戻し温度を低温側に設定し、焼き戻し後の調質材の硬さが硬くなるように、焼き戻し加熱条件を設定することが好ましい。
一方、焼入れ試験後の試験材における硬さの測定結果が、素材部全体において硬くなっている場合には、焼き戻し試験後の試験材の硬さが、所望の範囲より高くなってしまう可能性がある。したがって、グラフで導き出された温度よりも、焼き戻し温度を高温側に設定し、焼き戻し後の調質材の硬さが低下するように、焼き戻し加熱条件を設定することが好ましい。
【0046】
ただし、芯部の硬さの測定結果が、臨界硬さよりも低い場合には、材料鋼材の芯部まで焼入れが実施されていない(芯部まで加熱温度に到達していない)か、又は炉内の温度がばらついていることが想定される。したがって、焼入れ時の加熱温度を上昇させるか、均熱条件を長くする等の加熱条件を見直すことが好ましい。
【0047】
また、焼入れ試験後の試験材の硬さの測定及び組織の観察は、省略することができる。この場合には、焼入れ工程の前に、材料鋼材と略同一の形状及び組成を有する調質試験材を用いて焼入れを実施した後、材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとの関係に基づいて選択された加熱温度で、焼入れ後の調質試験材に対して焼き戻しを実施する調質試験工程を実施することが好ましい。
この調質試験工程は、焼き戻し後の調質試験材の組織がソルバイト組織となるとともに、素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)であって、ロックウェル硬さのばらつき6(HRC)以内となるように、焼き入れ加熱条件及び焼き戻し加熱条件を選択する工程である。
したがって、実際の焼入れ工程は、調質試験工程において選択された焼入れ加熱条件を用いて実施され、焼き戻し工程は、調質試験工程において選択された焼き戻し加熱条件を用いて実施されることが好ましい。
【0048】
調質試験工程において、焼入れ後の調質試験材に対して焼き戻しを実施した結果、ソルバイト組織が形成されていなかった場合には、焼入れ後に完全にマルテンサイト変態していない可能性があるため、例えば、焼入れ工程の加熱条件及び冷却条件を見直すものとする。
また、硬さやそのばらつきが所望の範囲内となっていない場合には、焼入れ及び焼き戻しの温度が適切でないか、芯部まで完全に焼入れが実施されていない可能性があるため、焼入れ及び焼き戻し工程の加熱条件等を見直すものとする。
【0049】
(表面除去工程)
上記調質工程の後、調質材の硬さは、ある位置から表面に近づくにしたがって、急激に上昇する。したがって、一般的に、塑性加工により機械構造部材の溝及び歯を形成する場合には、調質材における表面から、所定の厚さを除去(切削及び研削)して素材を得た後、塑性加工を施す。この塑性加工により、調質材をその側方から見た調質材の表面形状は、複数の溝、及び各溝の間の歯が形成されている。ここで、材料鋼材としてS45C材を選択した場合の除去する厚さについて、以下に説明する。
【0050】
図4は、縦軸を硬さとし、横軸を調質材の長手方向に直交する断面における表層面の位置とした場合の、調質材の硬さと位置との関係を示すグラフ図である。図4においては、硬さを表面近傍まで測定している。なお、図4に示す調質材は、焼入れ工程における加熱温度を890℃、均一に炉内を熱する均熱時間を30分とし、さらに、焼き戻し工程における加熱温度を500℃、保持時間を120分間とした後に冷却したものであり、これによってソルバイト組織が得られる。
【0051】
図4に示すように、調質材の硬さは、表面から約1.0mmの深さの位置から、表面に近づくに従って硬さが急激に上昇している。
したがって、本実施形態においては、調質工程の後、表面から所定の厚さまでの領域、すなわち、調質材における硬さが急激に上昇している部分を少なくとも含む領域を除去するものとする。本実施形態においては、例えば、表面から3.0mmの厚さの領域を除去して素材を得る。その結果、素材部全体の硬さを13~28(HRC)にすることができるとともに、硬さのばらつきを6(HRC)以内とすることができる。
【0052】
図4においては、硬さが急激に上昇している領域は、調質材の表面から約1.0mmであるため、除去する領域は、少なくとも硬さが急激に上昇している領域(表面から約1.0mmまでの領域)が含まれていればよく、さらに表面から2.0~3.0mm程度の深さまで除去することが好ましい。
図4に示すように、調質材の表面から3.0mmの深さまで除去すると、塑性加工前の素材部の硬さは、中心付近で少し低く、表面付近で少し高くなるものの、素材部の径方向において略均一な硬さとなる。
【0053】
なお、本実施形態においては、表面除去工程を実施したが、この表面除去工程は必ずしも必要な工程ではない。例えば、上記調質工程の後に、得られた調質材の組織がソルバイト組織であり、調質材全体のロックウェル硬さが13~28(HRC)であって、ロックウェル硬さのばらつき6(HRC)以内となっていれば、表面除去工程は省略することができる。この場合は、歩留まりをより一層向上させることができる。
【0054】
(塑性加工工程)
本実施形態においては、上記表面除去工程により、表面から約3.0mmの深さまでの領域が除去されて、直径が約10mmの調質材(素材)が得られる。そして、素材における溝及び歯を形成する面に対して、所望の形状の溝及び歯を形成するための塑性加工を施す。塑性加工後のねじ歯先(軸の外径側)の硬さは、約33(HRC)となり、ねじ歯底(谷底付近)の硬さは、約27(HRC)となる。すなわち、塑性加工後のねじ軸の歯底から0~0.5mmの位置までの領域は、塑性加工により硬化しているが、この領域を除く部分では、塑性加工前の素材部の硬さと同様の硬さのまま維持される。
【0055】
上述のとおり、調質後の調質材の組織及び硬さが所望の範囲であって、表面除去工程を実施しない場合に、上記塑性加工工程では、調質後の調質材における溝及び歯を形成する面に対して塑性加工を施すことになる。このような場合であっても、塑性加工後のねじ歯先の硬さ、及びねじ歯底の硬さは上記と同様になり、塑性加工により硬化した領域を除く部分では、塑性加工前の調質材の硬さと同様の硬さのまま維持される。
【0056】
なお、本実施形態においては、上記調質工程により硬さが略均一に調整されているとともに、表面は塑性加工に好適な硬さとなっているため、調質工程と塑性加工工程との間に、焼きなまし及び焼鈍のいずれも実施する必要がない。
以上の工程により、本実施形態に係る機械構造部材を得ることができる。
【0057】
本実施形態に係る機械構造部材の製造方法によると、塑性加工により溝を形成する前の素材の硬さが、塑性加工に好適な組織及び硬さであるとともに、表面から深部に至るまでの硬さのばらつきが6(HRC)以内と少ない。したがって、工具の摩耗を抑制することができるとともに、塑性加工による変形を抑制することができ、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を得ることができる。
また、本実施形態に係る製造方法によると、表面除去工程の前の調質材の直径の50%以上を、ばらつきの少ない略均一な硬さとすることができるため、表面除去工程を実施する場合に、除去する深さを浅くすることができ、歩留まりを向上させることができる。
さらに、本実施形態においては、焼きなまし及び焼鈍を実施する必要がないため、生産性を向上させることができ、製造コストを低減することができる。なお、溝及び歯を形成する塑性加工工程を実施する際に、素材の硬さ及び硬さのばらつきが上記範囲であるとともに、ソルバイト組織(ソルバイト相当の微細な均一組織を含む)となっていれば、調質工程と塑性加工工程との間に、焼きなまし等の工程を実施してもよい。
【0058】
なお、上述のとおり、本実施形態は、塑性加工により溝を形成するための材料鋼材を調質するものであるが、特に、インフィード転造加工により溝を形成する場合に好適である。
インフィード転造は、ワークとねじとが平行であり、ワークが軸方向に延びず、ねじが形成される径方向にのみ変形することが要求される。本実施形態に係る製造方法によると、素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、比較的硬い状態に調質するため、インフィード転造時に、ワークが軸方向に延びることを防止することができ、優れた加工精度を有する機械構造部材を容易に得ることができる。したがって、本実施形態に係る方法により得られた調質材を用いてインフィード転造すると、歩留まりを向上させることができ、製造コストを低減することができる。
【0059】
<第2の実施形態>
第2の実施形態として、三角ねじの製造方法について具体的に説明する。なお、以下に示す第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の部分については、同一の名称で表すとともに、各工程における詳細な説明は一部省略する。
【0060】
(調質工程)
材料鋼材として、S45C丸棒材(φ16mm)を準備し、調質工程を実施する。
まず、焼入れ工程を実施するが、焼入れ工程における加熱温度については、S45C材の炭素量(0.42~0.48質量%)及び状態図に基づき、A3変態点である約780℃以上であり、炭素固溶相の上限温度である911℃よりも低い温度で設定することができる。
本実施形態においては、焼入れ工程における加熱温度を、例えば890℃とする。また、炉内の温度分布を改善するため、均一に炉内を熱する均熱時間を30分とし、その後の保持時間を180分とする。その後、オイル冷却することにより、焼入れ工程後の材料鋼材の組織及び硬さを所定の範囲に調整することができる。
【0061】
なお、炉内の温度は、炉の形状及び容積等によっては、均一とすることが困難な場合がある。したがって、均熱時間及び保持時間は、ヒータの置き方、ワークの置き方や、炉の容量を考慮して設定することが好ましく、必要とされる所定の温度で、芯部まで加熱されるように設定すればよい。
【0062】
ここで、焼入れ工程の条件を決定する具体的な方法として、第1の実施形態と同様に、使用する材料鋼材(S45C材)と略同一の形状及び組成を有する試験材を用いて、この試験材に対して種々の条件で焼入れを実施する焼き入れ試験工程を行う方法が挙げられる。具体的には、種々の条件での焼入れを実施した試験材について組織を観察し、均一なマルテンサイト単相組織であるかどうかを確認することにより、実際の焼入れ工程における加熱条件を決定することができる。
【0063】
図5は、本実施形態における硬さの測定位置を説明するための試験材を示す模式的断面図である。試験材21の長手方向に直交する断面Sにおいて、表面から所定の厚さtまでの領域を除く素材部Cについて、硬さを測定する。具体的には、素材部Cの表層面における任意の位置Aから、これに対向する位置Bまでの直径部(直線部)Dについて測定することが好ましい。この直線部の硬さをプロットしたものが、図4に示すグラフ図となる。ただし、本実施形態において、所定の厚さtを3mmとしており、素材部とは、図4における3mm~13mmの領域を表す。
【0064】
焼入れ工程後に、焼き戻し工程を実施する。焼き戻し工程の加熱温度は、S45C材の焼き戻し温度と硬さとのグラフに基づいて決定する。
図6は、縦軸をロックウェル硬さとし、横軸を焼き戻し温度とした場合の、S45C材の焼き戻し温度と硬さとの関係を概念的に示すグラフ図である。本実施形態においては、焼き戻し工程後における調質材の素材部の硬さが13~28(HRC)となる温度を狙うため、グラフのみから焼き戻しの加熱条件を読み取る場合には、例えば、約640℃以下の温度での焼き戻しにより、素材部の硬さを上記範囲にすることができる。
【0065】
ただし、図6は、S45C材の焼き戻し温度と硬さとの関係を表す概念図であって、このような挙動は一般的に知られているが、実際の関係は、炉の種類、調質を実施する季節及びバッチサイズ、ワークの長さ及び形状等によって、種々に異なるものとなる。したがって、実際に焼き戻しを行う条件と同一条件で作成したグラフを参考にし、焼入れ後の材料鋼材の硬さも考慮して、実際の焼き戻し温度を決定することが好ましい。具体的には、焼入れ加熱条件を決定した試験材を使用し、グラフから得られる焼き戻し温度を基準として、この温度よりも高く、又は低く調整して、焼き戻しを実施し、得られた調質材の素材部の硬さを測定することにより、最適な焼き戻し温度を調整することができ、必要とされる所定の温度で、芯部まで加熱されるように調整すればよい。
なお、文献により種々のデータがあるが、S45C材の場合に、一般的に719~727℃の温度でA1変態点となり、焼きなまし相当になる。したがって、焼き戻し温度の上限値は、材料鋼材のA1変態点よりも低い温度で設定する必要がある。
【0066】
本実施形態においては、焼き戻し条件を例えば、500℃の温度で120分間保持した後、冷却する。これによりソルバイト組織が得られる。
なお、焼入れ工程及び焼き戻し工程における加熱を大気中で実施すると、材料鋼材に含有される炭素(C)と、大気中の酸素(O)や水蒸気とが反応することにより、脱炭層が発生して、割れの原因となることがある。
素材表面脱炭、フェライト脱炭は幾つもの要因から発生する。過熱により、材料鋼材の表面層から中心部に向かって、炭素と大気中の酸素や水蒸気との反応が進み、炭素が抜けた脱炭層が形成される。また、脱炭層は、上記焼き戻し工程における熱処理中の炉内雰囲気によっても形成される。材料鋼材の表面に錆又は黒皮(酸化鉄)が形成されている場合や、傷等が形成されている場合には、さらに酸化鉄内の酸素と炭素とが反応して、COとなることにより脱炭し、割れ等の瑕疵に繋がる。このような脱炭は、焼入れ温度に近くなれば、より早く開始される。したがって、焼入れ工程及び焼き戻し工程における加熱時の雰囲気は、炭素と酸素との結合を防止するため、不活性雰囲気とすることが好ましく、コスト等を考慮するとN雰囲気とすることがより好ましい。
【0067】
また、本実施形態においては、焼入れ工程の前に、材料鋼材(ワーク)を所望の長さに切断している。このように、ワークを切断した後に焼入れを実施すると、表面積が増加するため、焼入れ時のワーク温度のばらつきを低減することができ、その結果、熱処理による硬さのばらつきを低減することができる。また、切断されていることにより、冷却速度が上がるため、十分な硬さを得やすくなる。したがって、特に、インフィード転造に好適となる。切断により得られる材料鋼材の長さは特に限定されないが、例えば、ワークの直径に対して、3倍~13倍程度の長さに切断することができる。
なお、長尺のままワークを調質した後に切断すると、熱処理のムラができやすくなる。これは、長尺のワークの長手方向の端部のみ先に冷却されることや、冷却速度が遅いために、十分な硬さが得られにくいことが、原因として挙げられる。
【0068】
(表面除去工程)
上記調質工程の後、調質材における表面から、例えば3.0mmの厚さの領域を除去して調質材(素材)を得る。その結果、表面除去工程により得られた素材の全体の硬さは、図4における3.0~13.0mmの範囲で示されるように、約18.0~23.5(HRC)の範囲に収まり、硬さのばらつきを約5.5(HRC)とすることができる。
【0069】
なお、上記第1の実施形態と同様に、上記調質工程により得られた調質材の組織及び硬さが所望の範囲であれば、表面除去工程は省略することができ、これにより、歩留まりをより一層向上させることができる。
【0070】
(塑性加工工程)
次に、表面除去工程により得られた素材に対して、焼きなまし及び焼鈍を実施することなく、素材の周面に、例えば、インフィード転造により溝及び歯を形成することにより、三角ねじ軸を製造することができる。
【0071】
本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、表面除去工程を実施しない場合には、上記塑性加工工程において、調質後の調質材の周面に塑性加工を施せばよい。
【0072】
本実施形態に係る製造方法により得られる三角ねじについて、用途限定はしないが、種々の送りねじ機構で使うことができ、例えばステアリングホイールの前後位置または上下位置を調節するための送りねじ機構で使うことができる。
【0073】
なお、本発明に係る製造方法は、三角ねじの製造方法に限定されず、塑性加工により溝が形成されるものであって、高精度で優れた品質が要求される種々の形状の機械構造部材に適用することができる。
また、上記実施形態では、直径が16mmである三角ねじの場合について説明したが、本発明は、機械構造部材の直径は特に限定されず、例えば、直径が24mm以下の機械構造部材に好適に使用することができる。なお、直径が24mmより大きい機械構造部材では、直径が大きくなるにしたがって、剛性が上昇するため、素材部におけるロックウェル硬さのばらつきは大きくなる。この場合には、例えば、塑性加工により形成された溝の底部のロックウェル硬さと、機械構造部材の半径の1/2の部分のロックウェル硬さとの差が6(HRC)以下であると、高精度で優れた品質の機械構造部材を得ることができる。
機械構造部材としては、三角ねじ軸に代表されるねじ軸の他に、ラック、ギヤ等が挙げられ、より具体的には、ボールスクリュー、台形ねじ軸、インボリュートギヤ、トロコイドギヤ、円弧ギヤ、セレーション等の製造方法として、本発明を適用することができる。
【0074】
次に、本発明の実施形態に係る機械構造部材について、詳細に説明する。
【0075】
[機械構造部材]
本実施形態に係る機械構造部材は、塑性加工により溝が形成され、側方から見た場合に長手方向に隣り合う複数の溝の間には、歯が形成されている。また、歯の表面、すなわち、歯底、フランク面及び刃先の表面に硬化層を有する。さらに、この機械構造部材は、ソルバイト組織を有し、硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、このロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内である。
【0076】
なお、硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さは、14(HRC)以上であることが好ましく、16(HRC)以上であることがより好ましく、17(HRC)以上であることがさらに好ましく、18(HRC)以上であることが特に好ましい。また、硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さは、26(HRC)以下であることが好ましく、25(HRC)以下であることがより好ましく、24(HRC)以下であることがさらに好ましく、23.5(HRC)以下であることが特に好ましい。
【0077】
また、上記異なる任意の複数の測定点におけるロックウェル硬さを比較した場合に、最大値と最小値との差は、5.5(HRC)以内であることが好ましく、5.0(HRC)以内であることがより好ましく、4.5(HRC)以内であることがさらに好ましく、4.0(HRC)以内であることが特に好ましい。
【0078】
本実施形態に係る機械構造部材は、上記機械構造部材の製造方法により得られたものであるため、高精度で優れた品質を得ることができる。また、本実施形態に係る機械構造部材は、塑性加工により溝及び歯を形成する前の素材の組織が、ソルバイト組織であるとともに、硬さ及びばらつきが所定の範囲に調整されている。したがって、機械構造部材の組織もソルバイト組織を有し、ロックウェル硬さ及びそのばらつきが上記規定の範囲内となっており、特に、硬さのばらつきについて、従来の機械構造部材と比較して、特徴的な性質を有するものとなっている。
【0079】
以下、機械構造部材として、三角ねじを例に挙げて、ロックウェル硬さの測定位置を説明する。
図7は、硬さの測定位置を説明するための三角ねじ軸を示す模式図である。なお、図7は、三角ねじ軸の軸方向に平行な方向の側面と、軸方向に直交する方向の断面とを表している。
図7に示すように、三角ねじ軸31は、インフィード転造により溝32が形成され、これにより、長手方向に隣り合う複数の各溝32の間に歯33が形成されたものである。インフィード転造のみならず、塑性加工により溝32及び歯33を形成した場合には、加工された領域(歯の表面)に硬化層31aが形成されるため、本実施形態においては、歯底径d1を直径とする領域からさらに硬化層31aを除く領域Pについて、ロックウェル硬さ及びそのばらつきを規定する。なお、領域Pとは、Pの内側の領域をいう。
【0080】
具体的には、領域Pの表層面における任意の位置aから、これに対向する位置bまでの直径部(直線部)dに対して、ロックウェル硬さを測定することが好ましい。
なお、三角ねじ軸31の場合に、その歯丈をh(mm)、歯底径(谷径)をd1(mm)、歯先径をd2(mm)、領域Pの直径部の長さをd(mm)としたとき、歯先径d2と歯底径d1との関係は、下記数式(1)により表される。また、領域Pの直径部dと歯底径d1との関係は、例えば下記数式(2)により表される。
【0081】
d1=d2-2h ・・・ (1)
d=0.88d1 ・・・ (2)
【0082】
本実施形態において、ロックウェル硬さを測定する場合には、上述のとおり、硬化層31aを除く領域Pの直径部dを対象とするが、例えば、三角ねじ軸31の中心から(0.88d1/2)までの領域を領域Pとして、その直径部dを対象とすることもできる。
【0083】
本発明に係る機械構造部材としては、上記三角ねじ軸に限定されず、ボールスクリュー、台形ねじ軸、インボリュートギヤ、トロコイドギヤ、円弧ギヤ、セレーション等の種々の機械構造部材を対象としている。このような種々の形状の場合には、硬さのばらつきが発生しやすい複数の測定点を選定することがより好ましい。いずれの場合であっても、硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さは13~28(HRC)の範囲に含まれるとともに、ロックウェル硬さのばらつきは6(HRC)以内とする。また、硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さの好ましい範囲、及びロックウェル硬さのばらつきの好ましい範囲は、上記のとおりである。
【実施例
【0084】
以下、本実施形態に係る機械構造部材及びその製造方法の発明例及び比較例について説明する。
【0085】
[機械構造部材(三角ねじ軸)の製造]
(焼入れ工程)
S45C鋼材を準備し、バッチ炉内において、下記表1に示す焼き入れ温度及び時間で焼入れを実施した。
【0086】
(焼き戻し工程)
その後、図6の焼き戻し温度と硬さとの関係を示すグラフに基づいて、ロックウェル硬さが13~28(HRC)となるように、焼き戻しの加熱温度を設定して、焼き戻しを実施し、調質材を得た。
図6に基づき、焼き戻しの加熱温度を設定する場合に、焼き戻し後のロックウェル硬さを23(HRC)とするためには、焼き戻しの温度を、例えば500℃にすればよい。これにより、焼き戻し後に約23(HRC)の硬さが得られ、素材部における中心と表面の硬さのばらつきを小さくすることができるとともに、ソルバイト組織を得ることができ、粒子径を安定化することができる。
【0087】
一例として、発明例No.1の焼入れ及び焼き戻し条件について、図8に示す。
図8に示すように、発明例No.1は、焼入れ工程として、炉内の温度分布を一定にするため、890℃まで加熱し、30分の均熱処理を実施した後、同温度で180分間保持し、オイル冷却した。その後、焼き戻し工程として、N雰囲気において500℃まで加熱し、120分間保持した後に冷却した。
なお、表1に示す発明例No.2は、焼入れ工程として、860℃の温度で90分間保持した後、焼き戻し工程として、大気雰囲気において620℃の温度まで加熱し、120分間保持した後に冷却した。また、発明例No.3については、860℃の温度で90分間保持した後、焼き戻し工程として、大気雰囲気において650℃の温度まで加熱し、120分間保持した後に冷却した。
【0088】
一方、比較例No.1の調質材は、鋼材メーカにより、S45C鋼材に対する通常の調質条件で調質が行われた後、丸ダイスで引き抜くことにより、棒材の直径を調整するとともに、表面を硬化させたものである。
発明例No.1及び比較例No.1について、調質工程後の調質材における素材部のロックウェル硬さを測定した結果を図9に示す。
【0089】
その後、各調質材に対して、表面から3.0mmの厚さの領域を除去した後、インフィード転造加工を実施し、三角ねじ軸を製造した。
【0090】
[三角ねじ軸の評価]
得られた三角ねじ軸において、転造による硬化層を除く領域Pにおける直径部dに対して、ロックウェル硬さを測定するとともに、硬さのばらつきを算出した。また、ねじ溝の振れを測定し、加工精度を評価した。
ねじ溝の振れは、例えば、ねじ軸(ワーク)の両先端部を支持した状態で、球状の測定子をねじ溝のフランク面に当接させ、測定子がねじ軸の全リード分を移動する間における、測定子のねじ軸径方向の変位量を測定することにより得ることができ、これにより、加工精度を評価することができる。なお、上記測定方法によってねじ溝の振れを測定する場合に、数リード分を測定してもよいし、ねじ軸を一回転のみ回転させて、1リード分における振れを測定してもよい。数リード分又は1リード分の振れを測定する場合には、ねじ軸の両先端部分における不完全ねじ部を除き、ねじ軸の有効範囲における長手方向中央部分で測定することが好ましい。
【0091】
ロックウェル硬さの測定結果及び加工精度について、下記表1に併せて示す。本実施例において、加工精度については、測定子の変位量の最大値及び最小値、ばらつき(最大値と最小値との差)並びに振れ平均値(変位量の平均値)を算出した。また、調質後(表面除去工程前)の発明例No.1及び比較例No.1の金属組織を撮影した顕微鏡写真を図10に示す。なお、図10に示す顕微鏡写真は、ナイタールを用いてエッチング処理した後に撮影したものである。
【0092】
【表1】
【0093】
図9及び表1に示すように、発明例No.1は、材料鋼材の中心まで十分に焼入れが施され、直径部における硬さの範囲及びそのばらつきが小さくなるように焼き戻しを実施している。したがって、調質後の素材部が均一なソルバイト組織となり、また、素材部におけるロックウェル硬さが18.0~23.5(HRC)の範囲であり、硬さのばらつきが6(HRC)以内であった。その結果、インフィード転造加工により得られたねじ軸は、ねじ軸の振れが少なく、優れた加工精度を有するものとなった。
【0094】
また、発明例No.2及び3についても、材料鋼材の中心まで十分に焼入れが実施されたとともに、直径部における硬さ及びそのばらつきが小さくなるように焼き戻しを実施しているため、硬さの範囲は発明例No.1よりも低いが、硬さのばらつきが6(HRC)以内となった。
なお、図6に示すロックウェル硬さと焼き戻し温度の関係によると、焼き戻しの温度を650℃とした場合には、ロックウェル硬さが13(HRC)未満となる。しかし、上述のとおり、ロックウェル硬さは、他の種々の条件により変化するため、620℃の温度で焼き戻しを実施した発明例No.2のロックウェル硬さは、16.0~20.0(HRC)となり、650℃の温度で焼き戻しを実施した発明例No.3のロックウェル硬さは、13.0~17.0(HRC)となり、いずれも所望の範囲となった。したがって、比較例No.1と比較して、いずれもねじ加工精度が良好であった。
【0095】
一方、比較例No.1は、ねじ軸の中心から表面側に近づくに従って、硬さが急激に高くなり、ロックウェル硬さ及びばらつきが本発明で規定する範囲から外れたものとなった。したがって、ねじ溝の振れ平均値及びばらつきが大きく、加工精度が低いものとなった。
【0096】
また、図10に示すように、発明例No.1は、全体的にソルバイト組織となっていた。また、表面から約0.2mmの深さの位置まで、微細な結晶粒が形成されているので、転造後もソルバイト組織が残っていることが確認された。なお、表面除去工程により、図10中に示す領域を除去するが、発明例No.1は、除去する領域を少なくすることができる。
これに対して、比較例No.1は、表面に微細な層があるものの、表面と芯部との粒径が安定していない。そのため、図9に示す硬さのカーブが略フラットにならず、はっきりとしたU字状になっている。また、組織も均一とは言い難い。したがって、硬さのカーブを略フラットになるまで表面除去しようとすると、除去する厚さを厚くする必要があり、製造コストが上昇する。
【0097】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0098】
(1)塑性加工により溝及び歯が形成されており、前記歯の表面に硬化層を有する機械構造部材において、
ソルバイト組織を有し、
前記硬化層を除く領域におけるロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、前記ロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内であることを特徴とする、機械構造部材。
この構成によれば、高精度で優れた品質を得ることができる。
【0099】
(2)インフィード転造により前記溝及び歯が形成されていることを特徴とする、(1)に記載の機械構造部材。
この構成によれば、溝の加工精度を向上させることができる。
【0100】
(3)ねじ軸、ラック、ギヤ及びセレーションから選択される1種であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の機械構造部材。
この構成によれば、特に、ねじ軸、ラック、ギヤ及びセレーションにおいて、加工精度をより一層向上させることができる。
【0101】
(4)前記ロックウェル硬さのばらつきは、前記硬化層を除く領域のうち、表層面における任意の位置aから、これに対向する位置bまでの直線部に対して、ロックウェル硬さを測定した場合の最大値と最小値との差を表したものであり、
前記直線部のロックウェル硬さの前記最大値と最小値との差が6(HRC)以内であり、
前記最大値及び前記最小値は、いずれも13~28(HRC)の範囲に含まれることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載の機械構造部材。
この構成によれば、より一層高精度で優れた品質を得ることができる。
【0102】
(5)ねじ溝が形成された三角ねじ軸であり、
前記ロックウェル硬さのばらつきは、前記三角ねじ軸の前記硬化層を除く領域において、表層面における任意の位置aから、軸に直交する方向で対向する位置bまでの直径部に対して、ロックウェル硬さを測定した場合の最大値と最小値との差を表したものであり、
前記直径部のロックウェル硬さの前記最大値と最小値との差が6(HRC)以内であり、
前記最大値及び前記最小値は、いずれも13~28(HRC)の範囲に含まれることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の機械構造部材。
この構成によれば、三角ねじ軸のねじ精度を向上させることができる。
【0103】
(6)(1)~(5)のいずれか1つに記載の機械構造部材を製造する製造方法であって、
材料鋼材を調質し、ソルバイト組織を有するとともに、表面から所定の厚さを除く素材部におけるロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、前記素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内である調質材を得る調質工程と、
前記調質材における前記溝及び歯を形成する面に対して塑性加工を施す塑性加工工程と、を有し、
前記調質工程と前記塑性加工工程との間に、焼きなまし及び焼鈍のいずれも実施しないことを特徴とする、機械構造部材の製造方法。
この構成によれば、生産性が優れているとともに、製造コストを低減することができ、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を製造することができる。
【0104】
(7)前記塑性加工は、インフィード転造加工であることを特徴とする、(6)に記載の機械構造部材の製造方法。
この構成によれば、優れた加工精度を有する溝を容易に形成することができる。
【0105】
(8)前記調質工程は、
前記材料鋼材を加熱した後に冷却する焼入れ工程と、
前記焼入れ工程後の前記材料鋼材を加熱して冷却することにより、ソルバイト組織とする焼き戻し工程と、を有し、
前記焼入れ工程後の前記材料鋼材がマルテンサイト単相組織を有するように、前記焼入れ工程における加熱温度及び保持時間が調整され、
前記焼き戻し工程において、前記材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとの関係に基づき、前記素材部のロックウェル硬さを13~28(HRC)とするとともに、前記素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内となるように、前記焼き戻しの加熱温度が調整されることを特徴とする、(6)又は(7)に記載の機械構造部材の製造方法。
この構成によれば、より一層生産性が優れているとともに、製造コストを低減することができ、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を製造することができる。
【0106】
(9)前記調質工程の前に、
前記材料鋼材と略同一の形状及び組成を有する試験材を用いて焼入れを実施し、焼入れ後の試験材について組織を観察し、前記組織がマルテンサイト単相組織となる焼入れ加熱条件を選択する焼入れ試験工程を有し、
前記焼き入れ工程は、前記焼入れ試験工程において選択された焼入れ加熱条件を用いて実施されることを特徴とする、(6)~(8)のいずれか1つに記載の機械構造部材の製造方法。
この構成によれば、より一層生産性が優れているとともに、製造コストを低減することができ、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を製造することができる。
【0107】
(10)前記焼入れ試験工程と、前記焼き戻し工程との間に、
前記焼入れ試験工程後の試験材に対して、前記材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとの関係に基づいて選択された加熱温度で焼き戻しを実施し、前記試験材がソルバイト組織となるとともに、前記試験材の素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)であり、前記試験材の素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内となる焼き戻し加熱条件を選択する焼き戻し試験工程を有し、
前記焼き戻し工程は、前記焼き戻し試験工程において選択された焼き戻し加熱条件を用いて実施されることを特徴とする、(9)に記載の機械構造部材の製造方法。
この構成によれば、より一層生産性が優れているとともに、製造コストを低減することができ、高精度で優れた品質を有する機械構造部材を製造することができる。
【0108】
(11)前記焼入れ工程の前に、
前記材料鋼材と略同一の形状及び組成を有する調質試験材を用いて焼入れを実施した後に、
前記材料鋼材に固有の焼き戻し温度と硬さとの関係に基づいて選択された加熱温度で、前記焼入れ後の調質試験材に対して焼き戻しを実施する調質試験工程を有し、
前記調質試験工程は、前記焼き戻し後の調質試験材がソルバイト組織となるとともに、前記素材部のロックウェル硬さが13~28(HRC)となり、前記素材部におけるロックウェル硬さのばらつきが6(HRC)以内となるように、焼き入れ加熱条件と焼き戻し加熱条件とを選択する工程であり、
前記焼入れ工程は、前記調質試験工程において選択された焼入れ加熱条件を用いて実施され、
前記焼き戻し工程は、前記調質試験工程において選択された焼き戻し加熱条件を用いて実施されることを特徴とする、(8)に記載の機械構造部材の製造方法。
この構成によれば、焼入れ条件のみを決定するための試験を実施することなく、焼入れ加熱条件と焼き戻し加熱条件を決定することができる。
【0109】
以上、各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0110】
なお、本出願は、2022年5月9日出願の日本特許出願(特願2022-077202)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0111】
1,2 丸棒材
11 調質部
12 軟化層
13,14,31a 硬化層
21 試験材
31 三角ねじ軸
32 溝
33 歯
C 素材部
D 直径部
図1
図2
図3
図4
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図10