(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】火災検出システム及び火災検出方法
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20250107BHJP
G08B 17/12 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G08B17/00 C
G08B17/12 A
(21)【出願番号】P 2020170526
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020133171
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088105(JP,A)
【文献】特開2020-106875(JP,A)
【文献】特開2019-191902(JP,A)
【文献】特開2020-094916(JP,A)
【文献】特開2013-072834(JP,A)
【文献】特開2007-048225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域の観測対象
を観測して観測データを収集し、当該観測データに所定の火災判断処理を実行し
て第1火災判断結果
を取得する炎検出装置と、
前記観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行し
て第2火災判断結果
を算出する防災受信盤と、
を備え、
前記炎検出装置による前記第1火災判断結果と前記防災受信盤による前記第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする火災検出システム。
【請求項2】
監視領域からの光の放射を観測して
観測データを収集し
、当該観測データに所定の火災判断処理を実行し
て第1火災判断結果
を取得する炎検出装置と、
前記観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行し
て第2火災判断結果
を算出する防災受信盤と、
を備え、
前記炎検出装置は、前記第1火災判断結果と前記防災受信盤による前記第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする火災検出システム。
【請求項3】
炎検出装置及び当該炎検出装置を接続した防災受信盤を備えた火災検出システムであって、
監視領域からの光の放射を観測する観測部と、
前記観測部で観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して第1火災判断結果を取得する第1処理部と、
前記観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して第2火災判断結果を算出する第2処理部と、
前記第1火災判断結果と前記第2火災判断結果とに基づいて、前記監視領域の火災を検出する火災検出部と、
を備え、
前記観測部、前記第1処理部及び前記火災検出部は、前記炎検出装置に設けられ、
前記第2処理部は、前記防災受信盤に設けられたことを特徴とする火災検出システム。
【請求項4】
請求項3記載の火災検出システムに於いて、
前記第2火災判断結果は、火災でない場合の0から火災である場合の1の範囲の値となることを特徴とする火災検出システム。
【請求項5】
請求項4記載の火災検出システムに於いて、
前記第2処理部は、
前記観測データを入力して前記第2火災判断結果を出力する機械学習部を備え、
前記機械学習部は、
少なくとも前記第2火災判断結果が0となる場合を正解とする通常監視時の前記観測データを予め学習データとして入力して機械学習し、
前記機械学習後に新たに観測された前記観測データを入力して前記第2火災判断結果を出力する、
ことを特徴とする火災検出システム。
【請求項6】
請求項3乃至5の何れかに記載の火災検出システムに於いて、
前記観測部は、
前記火災に伴い炎から放射された第1波長帯域の光の第1観測データと、
前記第1波長帯域以外の光の第2観測データと、
を収集し、
前記第1処理部は、前記第1観測データ及び第2観測データに基づいて、前記第1火災判断結果を取得し、
前記第2処理部は、前記第1観測データ及び第2観測データに基づいて、前記第2火災判断結果を算出する、
ことを特徴とする火災検出システム。
【請求項7】
請求項3乃至5の何れかに記載の火災検出システムに於いて、
前記観測部は、
前記火災に伴い炎から放射された第1波長帯域の光の第1観測データと、
前記第1波長帯域以外の光の第2観測データと、
を収集し、
前記第1処理部は、前記第1観測データの所定期間ごとの第1積分値と、当該第1積分値と前記第2観測データの所定期間ごとの第2積分値との比率に基づいて、前記第1火災判断結果を取得し、
前記第2処理部は、前記第1処理部で生成された前記第1積分値と前記比率に基づいて、前記第2火災判断結果を算出する、
ことを特徴とする火災検出システム。
【請求項8】
請求項3乃至7の何れかに記載の火災検出システムに於いて、
前記火災検出部は、前記第1火災判断結果が所定条件を満たし、且つ、前記第2火災判断結果が所定値以上又は前記所定値を超えた場合に、火災検出とする、
ことを特徴とする火災検出システム。
【請求項9】
請求項8記載の火災検出システムに於いて、
前記火災検出部は、
前記第1火災判断結果が前記所定条件を満たし、且つ、前記第2火災判断結果が前記所定値未満若しくは前記所定値以下の場合、又は、
前記第1火災判断結果が前記所定条件を満たさず、且つ、前記第2火災判断結果が前記所定値以上若しくは前記所定値を超えた場合に、火災予兆検出とする、
ことを特徴とする火災検出システム。
【請求項10】
請求項3乃至9の何れかに記載の火炎検出システムにおいて、
前記炎検出装置は、前記監視領域の火災を検出した場合に、火災検出信号を前記防災受信盤へ送信し、
前記防災受信盤は、前記火災検出信号を受信した場合に、火災警報を出力することを特徴とする火災検出システム。
【請求項11】
炎検出装置により、監視領域の観測対象
を観測して観測データを収集し、当該観測データに所定の火災判断処理を実行し
て第1火災判断結果
を取得し、
防災受信盤により、前記観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行し
て第2火災判断結果
を算出し、
前記第1火災判断結果と前記第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする火災検出方法。
【請求項12】
炎検出装置により、監視領域からの光の放射を観測して
観測データを収集し
、当該観測データに所定の火災判断処理を実行し
て第1火災判断結果
を取得し、
防災受信盤により、前記観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行し
て第2火災判断結果
を算出し、
前記炎検出装置により、前記第1火災判断結果と前記防災受信盤による前記第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする火災検出方法。
【請求項13】
観測部、第1処理部及び火災検出部が設けられた炎検出装置、及び当該炎検出装置を接続して第2処理部が設けられた防災受信盤による火災検出方法であって、
観測部により、監視領域からの光の放射を観測し、
第1処理部により、前記観測部で観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して第1火災判断結果を取得し、
第2処理部により、前記観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して第2火災判断結果を算出し、
火災検出部により、前記第1火災判断結果と前記第2火災判断結果とに基づいて、前記監視領域の火災を検出する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項14】
請求項13記載の火災検出方法に於いて、
前記第2火災判断結果は、火災でない場合の0から火災である場合の1の範囲の値となることを特徴とする火災検出方法。
【請求項15】
請求項14記載の火災検出方法に於いて、
前記第2処理部は、
前記観測データを入力して前記第2火災判断結果を出力する機械学習部を備え、
前記機械学習部により、
少なくとも前記第2火災判断結果が0となる場合を正解とする通常監視時の前記観測データを予め学習データとして入力して機械学習し、
前記機械学習後に新たに観測された前記観測データを入力して前記第2火災判断結果を出力する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項16】
請求項13乃至15の何れかに記載の火災検出方法に於いて、
前記観測部により、
前記火災に伴い炎から放射された第1波長帯域の光の第1観測データと、
前記第1波長帯域以外の光の第2観測データと、
を収集し、
前記第1処理部により、前記第1観測データ及び第2観測データに基づいて、前記第1火災判断結果を取得し、
前記第2処理部により、前記第1観測データ及び第2観測データに基づいて、前記第2火災判断結果を算出する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項17】
請求項13乃至15の何れかに記載の火災検出方法に於いて、
前記観測部により、
前記火災に伴い炎から放射された第1波長帯域の光の第1観測データと、
前記第1波長帯域以外の光の第2観測データと、
を収集し、
前記第1処理部により、前記第1観測データの所定期間ごとの第1積分値と、当該第1積分値と前記第2観測データの所定期間ごとの第2積分値との比率に基づいて、前記第1火災判断結果を取得し、
前記第2処理部により、前記第1積分値と前記比率に基づいて、前記第2火災判断結果を算出する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項18】
請求項13乃至17の何れかに記載の火災検出方法に於いて、
前記火災検出部は、
前記第1火災判断結果が所定条件を満たし、且つ、前記第2火災判断結果が所定値以上又は前記所定値を超えた場合に、火災検出とする、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項19】
請求項18記載の火災検出方法に於いて、
前記火災検出部は、
前記第1火災判断結果が前記所定条件を満たし、且つ、前記第2火災判断結果が前記所定値未満若しくは前記所定値以下の場合、又は、
前記第1火災判断結果が前記所定条件を満たさず、且つ、前記第2火災判断結果が前記所定値以上若しくは前記所定値を超えた場合に、火災予兆検出とする、
ことを特徴とする火災検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視領域の観測対象を観測して火災を検出する火災検出システム及び火災検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
監視領域の観測対象を観測して火災を検出する火災検出システムとしては、例えば、自動車用道路トンネル内から放射される光を観測し、炎に特有の光が発生したと判断した場合に火災を検出する炎検出装置がある。
【0003】
このような炎検出装置は、監視領域からの光の放射を観測しており、火災発生に伴い炎から放射される光(赤外線エネルギー)を観測して火災を検出する(特許文献1~3)。例えば、2波長式の炎検出装置は、炎から放射されるCO2共鳴放射波長帯域である4.5μm付近の光と、CO2共鳴放射帯域以外の例えば5.0μm付近の光を観測し、この二つの波長帯域の光の観測データの相対比が炎の発生を示す値であって、且つ、CO2共鳴放射帯域の光の観測波形が炎特有のちらつき周波数成分を有する場合に火災と判断し、例えば、防災受信盤に火災信号を送信して火災警報動作を行わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-246962号公報
【文献】特開2016-128796号公報
【文献】特開2018-169893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トンネル内に設置されている炎検出装置は、通常時にも、道路を通行する車両のヘッドライト、緊急車両の点滅又は明滅する警告灯、トンネル内の照明器具、トンネル出入り口側に設置された場合の太陽光、保守点検に伴う作業者(人体)等からの様々な波長や強度の光の放射を受けているが、これらの外乱光と火災に伴う炎から放射される光を識別するための識別機能が設けられており、火災(ここでは火災炎)識別性能を高めるようにしている。
【0006】
また、このような識別機能を含め、火災検出システムが正常に動作しているか否かを例えば自己診断し、正常でないと診断された場合には、故障や機能障害を示す信号を出力して防災受信盤から報知するといったことも行われている。
【0007】
しかしながら、正常と診断された状態でも、火災炎から放射される光に類似した外乱光を火災と判断し、防災受信盤から非火災報が出力される可能性を完全に排除することは困難であった。
【0008】
このような場合、それが非火災報であることが確認されるまでは、警報表示板設備等により進入禁止警報を行って車両のトンネル通行を禁止し、管理担当者が現場(火災と判断した炎検出装置の設置場所)に出向いて確認する必要があり、トンネル通行を再開するまでに手間と時間がかかり、交通渋滞を招くなどの影響が小さくない。
【0009】
このような「非火災報」の他に、炎検出装置の内部的要因によって火災と誤判断される等の誤動作が生じて、火災でないにも関わらず火災警報が出力される「誤報」があり、誤報についても非火災報と同様の影響がある。
【0010】
誤報の原因としては、例えば、炎検出装置を構成する電気回路の部品故障や劣化に伴い発生する電気的な自発ノイズがある。また、炎検出装置に付随する配線不良や絶縁劣化等に伴う、疑火災信号の発生も報告されている。炎検出装置の自己診断時には、このような故障や劣化、不良についても診断されるが、所定周期で実施される診断の間隔期間において回路故障や劣化に至る場合、つまり前回の診断で正常であって次の診断を行うまでの期間中に回路故障や劣化に至った場合には、これに伴う自発ノイズが受光回路に波及する場合、光の入力信号として処理されて、炎から放射された光と誤認する場合がある。
【0011】
なお、以降の説明においては便宜的に非火災報と誤報とを区別せず、両者をあわせて「非火災報」とする場合がある。
【0012】
本発明は、従来に比べて火災識別性能を高めた火災検出システム及び火災検出方法を提供し、非火災報や誤報を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(火災検出システム1)
本発明は、火災検出システムであって、
監視領域の観測対象の観測データに所定の火災判断処理を実行して取得した第1火災判断結果と、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して算出した第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする。
【0014】
ここで、「観測データ」とは、監視領域の観測対象の観測により得られた観測値信号(アナログ信号)を、所定周波数でサンプリングしてA/D変換した所定時間ごとの時系列データを意味する。また、「火災判断処理」とは、火災と判断する所定条件を満たすか満たさないかを判断するためのアルゴリズム(実質的にはコンピュータのプログラム)であり、「第1火災判断結果」は、その判断結果である。
【0015】
また、「機械学習処理に基づく火災判断処理」とは、火災らしさの度合が高いか低いかを予測するためのアルゴリズム(実質的にはコンピュータのプログラム)であり、「第2火災判断結果」は、その予測結果を定量的に表して評価し、これに基づき火災判断した結果である。ここで、「機械学習」とは、入力と出力の両方を含むデータセットから構築した数学モデルに、未知のデータを入力して出力を予測することであり、本発明の「機械学習処理」に対応させると、予め収集した観測データと当該予め収集した観測データによる第2火災判断結果の両方を含む学習データから構築(学習)した数学モデル(学習モデル部)に、新たな観測データを入力して、当該新たな観測データに対応する火災らしさの度合いの予測結果を導いて、これに基づく第2火災判断結果を得ることである。本実施形態における機械学習については、後で詳細に説明する。
【0016】
(火災検出システム2)
また、本発明は、火災検出システムであって、
監視領域からの光の放射を観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して取得した第1火災判断結果と、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して算出した第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする。
【0017】
(火災検出システム3)
また、本発明は、火災検出システムであって、
監視領域からの光の放射を観測する観測部と、
観測部で観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して第1火災判断結果を取得する第1処理部と、
観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して第2火災判断結果を算出する第2処理部と、
第1火災判断結果と第2火災判断結果とに基づいて、監視領域の火災を検出する火災検出部と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
(第2火災判断結果)
第2火災判断結果は、火災でない場合の0から火災である場合の1の範囲の値となる。すなわち、火災のときの観測データによる第2火災判断結果が1(又は100%)、火災でないときの観測データによる第2火災判断結果が0(又は0%)であり、観測データに応じて第2火災判断結果は0から1(又は0%から100%)の範囲をとる。
【0019】
(機械学習)
第2処理部は、
観測データを入力して第2火災判断結果を出力する機械学習部を備え、
機械学習部は、
少なくとも第2火災判断結果が0となる場合を正解(教師)とする通常監視時の観測データを予め学習データとして入力して機械学習し、
機械学習後に新たに観測された観測データを入力して第2火災判断結果を出力する。
【0020】
(第1観測データと第2観測データに基づく火災判断1)
観測部は、
火災に伴い炎から放射される第1波長帯域の光の第1観測データと、
第1波長帯域以外の光の第2観測データと、
を収集し、
第1処理部は、第1観測データ及び第2観測データに基づいて、第1火災判断結果を取得し、
第2処理部は、第1観測データ及び第2観測データに基づいて、第2火災判断結果を算出する。
【0021】
(第1観測データと第2観測データに基づく火災判断2)
観測部は、
火災に伴い炎から放射された第1波長帯域の光の第1観測データと、
第1波長帯域以外の光の第2観測データと、
を収集し、
第1処理部は、第1観測データの所定期間ごとの第1積分値と、当該第1積分値と第2観測データの所定期間ごとの第2積分値との比率に基づいて、第1火災判断結果を取得し、
第2処理部は、第1処理部で生成された第1積分値と比率に基づいて、第2火災判断結果を算出する。
【0022】
(火災検出)
火災検出部は、第1火災判断結果が所定条件を満たし、且つ、第2火災判断結果が所定値以上又は所定値を超えた場合に、火災検出とする。
【0023】
(火災予兆検出)
火災検出部は、
第1火災判断結果が所定条件を満たし、且つ、第2火災判断結果が所定値未満若しくは所定値以下の場合、又は、
第1火災判断結果が所定条件を満たさず、且つ、第2火災判断結果が所定値以上若しくは所定値を超えた場合に、
火災予兆検出とする。
【0024】
(火災検出システムの配置)
また、本発明の火災検出システムは、
観測部、第1処理部及び火災検出部が設けられた炎検出装置と、
炎検出装置を接続し、第2処理部が設けられた防災受信盤と、
を備えたことを特徴とする。
【0025】
(火災検出方法1)
本発明は、火災検出方法であって、
監視領域の観測対象の観測データに所定の火災判断処理を実行して取得した第1火災判断結果と、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して算出した第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする。
【0026】
(火災検出方法2)
本発明は、火災検出方法であって、
監視領域からの光の放射を観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して取得した第1火災判断結果と、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して算出した第2火災判断結果とに基づいて、火災を検出することを特徴とする。
【0027】
(火災検出方法3)
また、本発明は、火災検出方法であって、
観測部により、監視領域からの光の放射を観測し、
第1処理部により、観測部で観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して第1火災判断結果を取得し、
第2処理部により、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して第2火災判断結果を算出し、
火災検出部により、第1火災判断結果と第2火災判断結果とに基づいて、監視領域の火災を検出する、
ことを特徴とする。それ以外の特徴は、火災検出装置の場合と同様となる。
【発明の効果】
【0028】
(火災検出システムの効果)
本発明の火災検出システムによれば、監視領域からの光の放射を観測して収集した観測データに所定の火災判断処理を実行して取得した第1火災判断結果と、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して算出した第2火災判断結果とに基づいて火災を検出することで、従来に比べて火災識別性能を高めることができ、火災でないにも関わらず火災と判断して報知する非火災報の問題を未然に防止可能とする。
【0029】
(第2火災判断結果の効果)
また、第2火災判断結果は、火災でない場合の0から火災である場合の1の範囲の値となることから、火災らしさ(火災発生の確からしさ)の度合を定数的に把握して確実な火災の検出を可能とする。
【0030】
(機械学習の効果)
第2処理部は、観測データを入力して第2火災判断結果を出力する機械学習部を備え、機械学習部は、少なくとも第2火災判断結果が0となる場合を正解(教師)とする通常監視時の観測データを予め学習データとして入力して機械学習し、機械学習後に新たに観測された観測データを入力して第2火災判断結果を出力することで、第2火災判断結果を算出するための条件等を人為的に考え出して決定する必要がなく、機械学習によって未知の観測データであっても高い精度で第2火災判断結果を出力することができる。この学習データは、炎検出装置が実際に設置された環境での観測データであることから、一般的な現象とは異なる設置場所特有の現象が存在する場合には、設置場所に特化した、更に高い精度で第2火災判断結果を算出することができる。
【0031】
また、機械学習は、学習データとして、第2火災判断結果が1となる場合を正解とする「火災時の観測データ」と、第2火災判断結果が0となる場合を正解とする「通常監視時の観測データ」を予め入力して機械学習を行うものであるが、火災の発生頻度は極めて少なく例外的なものであることから、「火災時の観測データ」は、学習データとしての収集が困難である。一方、「通常監視時の観測データ」は、火災が発生していない通常監視時に観測される観測データであり、火災検出システムの運用を通じて簡単且つ容易に大量の学習データとして収集することできる。このため、大量に収集できる「通常監視時の観測データ」を学習データとして機械学習することで、観測データを入力して第2火災判断結果を出力する学習機械部の精度を高めることができる。
【0032】
(第1観測データと第2観測データに基づく火災判断1の効果)
また、火災検出システムは、火災に伴い炎から放射される第1波長帯域の光の第1観測データと、第1波長帯域以外の光の第2観測データとを収集し、第1観測データ及び第2観測データに基づいて、第1火災判断結果を取得すると共に、第2火災判断結果を算出することで、例えば、トンネル内に設置されて火災を検出する場合、道路を通行する車両のヘッドライト、緊急車両の点滅又は明滅する警告灯、トンネル内の照明器具、トンネル出入り口側に設置された場合の太陽光、保守点検に伴う作業者(人体)等の様々な炎以外から放射される光を観測しても、火災検出と判断することがなく、従来に比べて火災識別性能を高めることができ、火災でないにも関わらず火災警報が出力されて、非火災報であることを確認するまでトンネルの通行を禁止するといった事態の発生を未然に防止可能とする。
【0033】
(第1観測データと第2観測データに基づく火災判断2の効果)
また、火災検出システムは、火災に伴い炎から放射される第1波長帯域の光の第1観測データと、第1波長帯域以外の光の第2観測データとを収集し、第1観測データの所定期間ごとの第1積分値と、当該第1積分値と第2観測データの所定期間ごとの第2積分値との比率に基づいて、第1火災判断結果を取得すると共に、第1処理部で生成された第1積分値と比率に基づいて第2火災判断結果を算出することで、前述した「第1観測データと第2観測データに基づく火災判断1の効果」に加え、機械学習を行う第2処理部に対するに入力数を低減し(ベクトル次元数を低減し)、機械学習部の構成を簡単にし、演算処理の負担を低減可能とする。
【0034】
(火災検出の効果)
また、火災検出部は、第1火災判断結果が所定条件を満たし、且つ、第2火災判断結果が所定値以上又は所定値を超えた場合に、火災検出とすることで、より確実な精度の高い火災の検出を可能とする。
【0035】
(火災予兆検出の効果)
火災検出部は、第1火災判断結果が所定条件を満たし、且つ、第2火災判断結果が所定値未満若しくは所定値以下の場合、又は、第1火災判断結果が所定条件を満たさず、且つ、第2火災判断結果が所定値以上若しくは所定値を超えた場合は、火災か否かを確定できないことから、この場合は、例えば、火災予兆検出とし、火災注意を報知、例えば、防災受信盤から火災注意警報を出力することで、関係者に現場確認を促すなどして対処を可能とする。
【0036】
(火災検出システムの配置による効果)
また、本発明の火災検出システムは、観測部、第1処理部及び火災検出部が設けられた炎検出装置と、炎検出装置を接続し、第2処理部が設けられた防災受信盤と、を備えたことで、炎検出装置の構成を簡素化できる。すなわち、第2処理部の学習制御部や学習データ記憶部は、学習後の通常監視時には必須ではないため(学習モデル部は必須)、設置スペースに余裕のある防災受信盤に配置することで、従来の炎検出装置の構成を大幅に変更することなく、本発明を実施することができる。
【0037】
(火災検出方法の効果)
また、本発明の火災検出方法にあっては、前述した火災検出システムと同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】火災検出システムの実施形態の具体的内容を示した説明図である。
【
図2】
図1の観測部及び第2処理部の、より詳細な機能構成を示した説明図である。
【
図3】通常監視時に観測される第1観測値と第2観測値を比較した一例を示したタイムチャートである。
【
図4】火災時に観測される第1観測値と第2観測値を比較した一例を示したタイムチャートである。
【
図5】火災検出システムの他の実施形態の具体的内容を示した説明図である。
【
図6】
図5の観測部及び第2処理部の、より詳細な機能構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明に係る火災検出システム及び火災検出方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、この発明が限定されるものではない。
【0040】
[実施形態の基本的な概念]
実施形態は、概略的に、火災検出システム及び火災検出方法に関するものである。ここで「火災検出システム」とは、監視領域の観測対象(後述)を観測し、これに基づき火災を検出して、例えば、防災受信盤へ火災検出信号を出力する手段であり、例えば、火災検知器、火災感知器、火災警報器等を含む概念である。火災検出システムに含まれるこれらは、炎からの光を観測して火災を検出する炎検出装置(例えば炎検知器)、煙を観測して火災を検出する煙検出装置(例えば煙検知器)、熱(具体的には、例えば温度)を観測して火災を検出する熱検出装置(例えば熱検知器)、ガス(具体的には、例えばガス濃度)を観測して火災を検出するガス検出装置(例えばガス検知器)等がある。
【0041】
ここで「監視領域」とは、火災検出システムにより監視の対象とする領域であり、一定の広がりをもった屋外や屋内の空間であり、例えば、トンネル等の構造物の内部、建物の部屋、廊下、階段等の領域を含む概念である。
【0042】
また、「観測対象」とは、火災検出システムが監視領域において観測する対象であり、火災検出システムはこの観測データに基づいて火災を検出する。観測対象は例えば、火災の物理化学現象に伴い発生するものであって、具体的な例としては光や煙、温度、ガス等がある。そして、例えば火災の炎に伴って光が放射されることによって光の観測データが変化すること(具体的には、例えば監視領域から放射される赤外線強度が変化すること)、火災の燃焼に伴って煙が発生することによって煙の観測データが変化すること(具体的には、例えば煙の濃度が変化すること)、或いは、燃焼により熱が発生することによって熱の観測データが変化すること(具体的には、例えば温度が変化すること)、また燃焼に伴ってガスが発生することによってガスの観測データが変化すること(具体的には、例えばガス濃度が変化すること)等に基づいて火災が検出される。
【0043】
火災検出システムは、一例として、炎検出装置とこれを接続した防災受信盤で構成された防災システムであり、観測部、第1処理部、第2処理部及び火災検出部を備える。例えば、観測部は、炎検出装置内に配置され、第1処理部と第2処理部は、システム内の何処に配置されても良いが、実施形態では、第1処理部が炎検出装置内に、第2処理部が防災受信盤内に配置される。
【0044】
また、火災検出システムは、一例として、道路トンネル内の監視領域における火災を検出するものであって、トンネル防災システムの構成要素である。つまり、トンネル防災システム(トンネル防災設備)は、本願の火災検出システムを含むシステムである。
【0045】
「観測部」とは、監視領域からの光の放射を観測するものである。ここで「監視領域からの光の放射」とは、例えば、火災に伴い炎から放射される光を含む概念であり、炎以外に、例えば、通行車両のヘッドライト、緊急車両の点滅又は明滅する警告灯、トンネル内の照明器具、トンネル出入り口側に設置された場合の太陽光、保守点検に伴う作業者(人体)等の様々な波長や強さの異なる光の放射を含む概念である。
【0046】
また「光の放射を観測する」とは、例えば、炎から放射された炎特有の第1波長帯域の光を観測して第1観測値と、炎特有の第1波長帯域以外の第2波長帯域の光を観測して第2観測値を収集し、それぞれ所定周波数でサンプリングしてA/D変換することで、所定時間ごとの時系列データとなる第1観測データと第2観測データを生成するものである。以下の説明では、アナログ信号となる第1観測値と第2観測値を小文字のx1,x2として示し、第1観測データと第2観測データを大文字のX1,X2として示す。
【0047】
また、「第1処理部」とは、観測部で観測して収集した観測データに基づいて、火災か否かを判断するものであり、本実施形態では、観測データに所定の火災判断処理を実行して取得した第1火災判断結果から、火災か否かを判断するものである。
【0048】
また、「第2処理部」とは、観測部で観測して収集した観測データに基づいて、火災らしさの度合を定量的に算出するものであり、本実施形態では、観測データに所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行して算出した第2火災判断結果から、火災らしさの度合を定量的に判断するものである。ここで、火災のときの観測データに基づく第2火災判断結果は1(又は100%)、火災でないときの観測データに基づく第2火災判断結果は0(又は0%)であり、観測データに応じて第2火災判断結果は0から1(又は0%から100%)の範囲をとる。
【0049】
第2処理部は、本実施形態では、観測値を入力して2値分類を行うことで、第2火災判断結果を算出して出力する機械学習部であり、学習する機械(コンピュータ等)のことである。ここで「機械学習部」とは、事前に与えられた教師ありの学習データ(入力に対し正解となる出力が分っているデータ)から、入力と出力の関係を学習した学習モデル部を生成し、学習後に、未知のデータを学習モデル部に入力して出力を推定するアルゴリズムであり、例えば、公知の多層(深層)ニューラルネットワーク(DNN)、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン(SVC)等を含む概念である。
【0050】
本実施形態において、機械学習部は、学習データとして、第2火災判断結果が1となる場合を正解(教師)とする「火災時の観測データ」と、第2火災判断結果が0となる場合を正解(教師)とする「通常監視時の観測データ」とを予め学習データとして収集して機械学習しており、機械学習後に新たに観測された観測データを入力して第2火災判断結果を出力するものである。
【0051】
ここで、学習データの一つである「火災時の観測データ」とは、監視領域で火災が発生し、第1処理部が「火災である」と判断したときに観測された観測データであり、火災の発生頻度は極めて小さく略ゼロといえることから、学習データとして収集することは困難又はできないといえる。これに対し、学習データの他の一つとなる「通常監視時の観測データ」とは、火災が発生していない通常監視時に、第1処理部が「火災でない」と判断しているときに観測された観測データであり、簡単且つ容易に大量に収集することができ、本実施形態は、この「通常監視時の観測データ」により機械学習することで、観測データを入力して第2火災判断結果を出力する機械学習部の精度を高めている。
【0052】
また、火災検出システムは、第1処理部による第1火災判断結果と、第2処理部による第2火災判断結果とに基づき、火災を検出するものであり、本実施形態では、第1火災判断結果が所定条件を満たし(火災であるとの判断)、且つ、第2火災判断結果が所定値以上又は所定値を超えたときに、火災検出とする。また、第1火災判断結果が所定条件を満たし(火災であるとの判断)、且つ、第2火災判断結果が所定値未満若しくは所定値以下のとき、又は、第1火災判断結果が所定条件を満たさず(火災でないとの判断)、且つ、第2火災判断結果が所定値以上若しくは所定値を超えたのときは、例えば、火災予兆検出とする、というものである。
【0053】
また、火災検出システムの他の実施形態にあっては、第1処理部は、第1観測データの所定期間ごとの第1積分値と、当該第1積分値と第2観測データの所定期間ごとの第2積分値との比率に基づいて、第1火災判断結果を取得し、第2処理部は、第1処理部で生成された第1積分値と比率に基づいて、第2火災判断結果を算出するものである。
【0054】
以下、具体的な実施形態を説明する。以下に示す実施形態では、「監視領域」が「トンネルの内部空間」であり、「火災検出システム」の観測部、第1処理部及び火災検出部は「炎検出装置」に、第2処理部は防災受信盤に備わり、「監視領域からの光の放射を観測した観測データ」が「火災に伴い炎から放射された第1波長帯域の光の第1観測データ」と「第1波長帯域以外の第2波長帯域の光の第2観測データ」であり、「第2処理部の機械学習部」が「多層ニューラルネットワーク」である場合について説明する。
【0055】
[実施形態の具体的内容]
次に、実施形態の具体的内容について説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a.火災検出システム
b.観測部
c.第1処理部
d.第2処理部
d1.機械学習部
d2.学習モデル部
d3.学習制御部
d4.学習データの収集
d5.機械学習
d6.火災検出部
e.火災検出システムの他の実施形態
e1.第2処理部
e2.機械学習部
e3.学習モデル部
e4.学習制御部
e5.学習データの収集
e6.機械学習
e7.入力数の低減による効果
e8.火災検出部
f.本発明の変形例
【0056】
[a.火災検出システム]
まず、火災検出システムの実施形態について、より詳細に説明する。
図1に示すように、火災検出システム10(10-1)は、観測部12、第1処理部14、第2処理部16及び火災検出部18で構成される。
【0057】
[b.観測部]
観測部12は、監視領域である、例えば、トンネル内部空間からの光の放射を観測して観測データを出力するものであり、その構成や機能は任意であるが、本実施形態では、火災に伴う炎から放射される4.5μm付近の第1波長帯域の光を観測して第1観測データX1を出力し、また、炎以外の第2波長帯域、例えば、5.0μm付近の光を観測して第2観測データX2を出力する。
【0058】
更に、詳細に説明すると、観測部12は、本実施形態では
図2に示すように、トンネル内に設置された炎検出装置20に設けられている。観測部12は、透光性窓25、第1観測部12a、第2観測部12b及び観測データ生成部13を備える。
【0059】
第1観測部12aは、センサ部22aにより、トンネル空間から放射された光の中から、光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)した、炎に特有な第1波長帯域(4.5μm付近)の光を受光して電気信号に変換し、増幅処理部24aにより増幅等の所定の処理を施して第1観測値x1とし、観測データ生成部13へ出力する。
【0060】
第2観測部12bは、センサ部22bにより、トンネル空間から放射された光の中から、光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)した、第1波長帯域とは異なる第2波長帯域(例えば、5.0μm付近)の光を受光して電気信号に変換し、増幅処理部24bにより増幅等の所定の処理を施して第2観測値x2とし、観測データ生成部13へ出力する。なお、増幅処理部24a,24bには、プリアンプ、炎のゆらぎ周波数を含む所定の周波数帯域を選択通過させる周波数フィルタ及びメインアンプ等が設けられている。
【0061】
図3は、通常監視時に観測される第1観測値x1と第2観測値x2を比較した一例であり、それぞれ時系列データとして観測する所定の単位時間T、例えば、T=2秒間についての中点レベルに対する観測値の波形変化を示している。火災が発生していない通常監視時には、第1波長帯域の光学波長バンドパスフィルタを透過する炎特有の光の量は少ないことから、第1観測値x1の振幅変化は小さい。一方、第2波長帯域の光学波長バンドパスフィルタを透過する炎以外の要因による光の量は相対的に多いことから、第2観測値x2の振幅変化は、第1観測値x1に比べて大きくなっている。
【0062】
図4は、火災時に観測される第1観測値x1と第2観測値x2を比較した一例であり、第1波長帯域の光学波長バンドパスフィルタを透過する炎特有の光の量は多いことから、第1観測値x1の振幅変化は大きい。一方、第2波長帯域の光学波長バンドパスフィルタを透過する炎以外の要因による光の量は相対的に少ないことから、第2観測値x2の振幅変化は、第1観測値x1に比べて小さくなっている。
【0063】
観測データ生成部13は、第1観測部12aと第2観測部12bから出力されたアナログ信号である第1観測値x1と第2観測値x2を、所定の単位時間、例えば、
図3又は
図4に示したように、T=2秒ごとに所定のサンプリング周波数、例えば、128HzでサンプリングしてA/D変換することで、256点の時系列データとし、これを第1観測データX1と第2観測データX2として読み込んで記憶するものである。以下の説明では、「第1観測データX1」及び「第2観測データX2」は、この「256点の時系列データ」を意味する。
【0064】
[c.第1処理部]
第1処理部14は、観測データ生成部13に記憶されたT=2秒ごとの時系列データである第1観測データX1と第2観測データX2に所定の火災判断処理を実行し、第1火災判断結果E1を取得して火災検出部18に出力するものであり、その構成及び機能は任意であるが、本実施形態では、
図2に示すように、炎検出装置20に設けられ、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路で構成される。
【0065】
なお、観測部12に設けた観測データ生成部13は、第1処理部14に設けても良く、この場合、第2処理部16は第1処理部14から第1観測データX1と第2観測データX2を取得することになる。また、第1処理部14での火災判断処理に設定する火災判断条件は任意であるが、例えば、以下のような2段階の火災判断条件が設定される。
【0066】
第1段階の火災判断条件は、例えば、第1観測データX1の積分値σX1が所定の閾値以上又はこの閾値を上回った場合に、第1観測データX1の積分値σX1と第2観測データX2の積分値σX2との相対比(σX1/σX2)を算出し、この相対比が所定の閾値を超えた場合に、第1段階の火災判断条件を充足したとして、次の第2段階に進む。
【0067】
第2段階の火災判断条件は、第1観測データX1を高速フーリエ変換(FFT)して分析し、例えば、4Hz以下の低周波側成分(相対強度)の積分値σFLと4Hzを超え且つ8Hz以下の高周波側成分(相対強度)の積分値σFHとの相対比(σFL/σFH)を算出する。この相対化が所定の閾値以上又はこの閾値を上回った場合に、第2段階の火災判断条件を充足したとして、火災と判断し、第1火災判断結果E1=1を出力する。また、第1処理部14は、第1段階又は第2段階の火災判断条件を充足しない場合には、火災でないと判断し、第1火災判断結果E1=0を出力する。
【0068】
[d.第2処理部]
第2処理部16は、観測データ生成部13に記憶されたT=2秒ごとの時系列データである第1観測データX1と第2観測データX2に所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行し、第2火災判断結果E2を算出して火災検出部18に出力するものであり、その構成及び機能は任意であるが、本実施形態では、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路で構成され、例えば、
図2の第2処理部16に示すように、炎検出装置20側ではなく防災受信盤40側に設けられ、機械学習部26を備えている。
【0069】
(d1.機械学習部)
機械学習部26は、観測データ(ここでは、第1観測データX1と第2観測データX2)を入力して第2火災判断結果E2を出力するものであり、その機能、構成、種類は任意であるが、本実施形態では、学習モデル部28、学習制御部30及び学習データ記憶部32で構成される。
【0070】
(d2.学習モデル部)
学習モデル部28は、教師ありの学習データ(入力に対し出力が正解となるデータ)により機械学習されたものであり、その構成及び機能は任意であるが、例えば、2値分類を行う多層ニューラルネットワークとする。2値分類の多層ニューラルネットワークは、公知のように、入力層、複数の中間層、出力層で構成され、出力層の活性化関数として、例えば、シグモイド関数が使用されている。本実施形態では、火災である度合Y1と火災でない度合Y2を分類する2値分類の多層ニューラルネットワークとする。
【0071】
学習済みの学習モデル部28は、観測部12で観測された単位時間ごとの第1観測データX1(X11,X12,・・・・X1n)と、第2観測データX2(X21,X22,・・・X2n)を並列に入力し、火災である度合Y1と火災でない度合Y2を算出し、火災である度合Y1を第2火災判断結果E2として出力する。第2火災判断結果E2は、火災が発生してないとき(通常監視時)を最小値0とし、火災が発生しているときを最大値1とする0~1の範囲の値をとる。
【0072】
(d3.学習制御部)
学習制御部30は、教師ありの学習データを用いて学習モデル部28を機械学習させるものであり、その機能及び構成は任意であるが、本実施形態では、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路で構成され、学習データを収集する機能と学習モデル部28を機械学習させる機能を備えている。
【0073】
(d4.学習データの収集)
学習制御部30は、火災時に、第1観測データX1及び第2観測データX2を収集し、火災時の火災である度合の正解をY1=1とし、火災でない度合の正解をY2=0とする教師データ(Y1,Y2)=(1,0)を組み合わせた第1学習データ、例えば、
(Y1,Y2)(X1,X2)=(1,0)(X1,X2)
と表記する第1学習データを生成し、学習データ記憶部32に記憶する。しかしながら、トンネル内での火災の発生は極めて例外的なもので略ゼロということができ、このため第1学習データは現実的に収集することが困難か、できない場合が多い。
【0074】
また、学習制御部30は、火災が発生していない通常監視時に、第1観測データX1及び第2観測データX2を収集し、通常監視時の火災である度合の正解をY1=0とし、火災でない度合の正解をY2=1とする教師データ(Y1,Y2)=(0,1)を組み合わせた第2学習データ、例えば、
(Y1,Y2)(X1,X2)=(0,1)(X1,X2)
と表記する第2学習データを生成し、学習データ記憶部32に記憶する。この第2学習データは、通常監視時に簡単且つ大量に収集することができ、本実施形態では、学習データとは、実質的に第2学習データを意味することになる。
【0075】
学習制御部30による学習データ(第2学習データ)の収集は、火災検出システム10(10-1)の運用を開始してから所定期間、例えば、1~3ケ月間、望ましくは1年間を学習データ収集期間として行う。第2処理部16が、第1処理部14と同様に、例えば、単位時間T=2秒間の第1観測データX1と第2観測データX2を128Hzでサンプリングして読み込んでいたとすると、1日(24時間)で43,200個、1ケ月(30日)で1,296,000個といった大量の学習データ(第2学習データ)を収集することができる。
【0076】
(d5.機械学習)
学習制御部30は、学習データ収集期間が経過したら、学習データ記憶部32から学習データ(第2学習データ)を読出して学習モデル部28の機械学習を行う。この機械学習の方法は任意であるが、例えば、学習制御部30は、利用者の操作に基づき、学習モデル部28を構成する多層ニューラルネットワークの入力層のノード数(例えば、256ノード)、中間層の段数とノード数、出力層のノード数(例えば、2ノード)等の構造や各ノードの重み等を設定する。続いて、学習データ(第2学習データ)を読み出し、学習モデル部28の入力に第1及び第2観測データ(X1,X2)をセットすると共に出力(Y1,Y2)に正解(0,1)をセットし、公知のバックプロパゲーション法により機械学習させる。
【0077】
機械学習の手順は任意であるが、例えば、次の手順となる。
(ア)学習データを訓練データと検証データに分ける。訓練データを7~8割とし、残りの2~3割を検証データとする。
(イ)訓練データを複数ブロック、例えば、1万データのブロックに分ける。
(ウ)検証データを複数ブロック、例えば、1千データのブロックに分ける。
(エ)訓練データをブロック単位に読み出し、学習モデル部28にセットして機械学習させる。
(オ)検証データをブロック単位に読み出し、学習済みの学習モデル部28に入力して正解率を求める検証を行う。なお、正解率とは、検証データを入力して出力された火災でない度合Y2の平均値である。
(カ)正解率が増加する限り、(エ)(オ)を繰り返す。繰り返し中に正解率が飽和するか、減少し始めたら、過学習として学習を終了する。なお、正解率が所定値、例えば、80%未満の場合は、精度が低すぎることから、学習モデル部28を再構築して最初からやりなおすことになる。
【0078】
また、
図2に示した学習制御部30の機能は、第2処理部16から分離した別のコンピュータ装置やサーバ等に、専用の機械学習ツールの機能として設け、機械学習ツールで前述と同様にして学習モデル部28の機械学習を行い、学習済みの学習モデル部28を第2処理部16に実装(配置)するようにしてもよい。
【0079】
(d6.火災検出部)
火災検出部18は、第1処理部14による第1火災判断結果E1と、第2処理部16による第2火災判断結果E2に基づき、火災を検出するものであり、一例として、第1処理部14による第1火災判断結果E1が、火災を判断する所定条件を満たし(火災と判断され)、且つ、第2処理部16による第2火災判断結果E2が所定値、例えば、0.6以上のとき、火災検出とし、火災検出信号E3を防災受信盤40(例えば制御部42)へ送信する。火災検出信号E3を受信した防災受信盤40(例えば警報部44)は、火災警報を出力して報知すると共に、警報表示板設備などにより進入禁止警報を行って車両のトンネル通行を禁止し、管理担当者が現場に出向いて火災を確認して対処することになる。
【0080】
また、火災検出部18は、
(1)第1処理部14による第1火災判断結果E1が所定条件を満たし、且つ、第2処理部16による第2火災判断結果E2が所定値、例えば、0.6未満のとき、又は、
(2)第1処理部14による第1火災判断結果E1が所定条件を満たし、且つ、第2処理部16による第2火災判断結果E2が所定値、例えば、0.6以上のとき、
火災予兆検出とし、火災予兆検出信号E4を防災受信盤(例えば制御部42)へ送信する。火災予兆検出信号E4を受信した防災受信盤40(例えば警報部44)は、火災注意警報を出力して注意を喚起し、管理担当者が現場に出向いて火災を確認して対処することを可能とする。
【0081】
[e.火災検出システムの他の実施形態]
図5は本発明の火災検出システムの他の実施形態を示した説明図であり、
図6は
図5の観測部及び第2処理部の、より詳細な機能構成を示した説明図である。
【0082】
本実施形態の火災検出システム10(10-2)は、観測部12、第1処理部14、第2処理部16及び火災検出部18で構成される。観測部12、第1処理部14及び火災検出部18は、基本的に
図1の実施形態と同様であるが、第2処理部16に、第1処理部14で求めている第1観測データX1の積分値(第1積分値)σX1と、この積分値σX1と第2観測データX2の積分値(第2積分値)σX2との相対比(σX1/σX2)を入力している点が、
図1の実施形態と相違する。
【0083】
(e1.第2処理部)
第2処理部16は、第1処理部14で生成された第1観測データX1の積分値σX1と、積分値σX1と第2観測データX2の積分値σX2との相対比(σX1/σX2)を入力して所定の機械学習処理に基づく火災判断処理を実行し、第2火災判断結果E2を算出して火災検出部18に出力するものであり、例えば、
図6の第2処理部16に示すように、機械学習部26を備えている。
【0084】
(e2.機械学習部)
機械学習部26は、第1及び第2観測データX1,X2に基づく積分値σX1と相対比(σX1/σX2)を入力して第2火災判断結果E2を出力するものであり、その機能、構成、種類は任意であるが、
図2と同様に、学習モデル部28、学習制御部30及び学習データ記憶部32で構成される。
【0085】
(e3.学習モデル部)
学習モデル部28は、教師ありの学習データ(入力に対し出力が正解となるデータ)により機械学習されたものであり、その構成及び機能は任意であるが、例えば、2値分類を行う多層ニューラルネットワークとする。2値分類の多層ニューラルネットワークは、公知のように、入力層、複数の中間層、出力層で構成され、出力層の活性化関数として、例えば、シグモイド関数が使用されている。本実施形態では、火災である度合Y1と火災でない度合Y2を分類する2値分類の多層ニューラルネットワークとする。
【0086】
学習済みの学習モデル部28は、観測部12で観測された単位時間ごとの第1及び第2観測データX1,X2から求めた積分値σX1と相対比(σX1/σX2)を並列に入力し、火災である度合Y1と火災でない度合Y2を算出し、火災である度合Y1を第2火災判断結果E2として出力する。第2火災判断結果E2は、火災が発生してないとき(通常監視時)を最小値0とし、火災が発生しているときを最大値1とする0~1の範囲の値をとる。
【0087】
(e4.学習制御部)
学習制御部30は、教師ありの学習データを用いて学習モデル部28を機械学習させるものであり、その機能及び構成は任意であるが、本実施形態では、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路で構成され、学習データを収集する機能と学習モデル部28を機械学習させる機能を備えている。
【0088】
(e5.学習データの収集)
学習制御部30は、火災時に、第1及び第2観測データX1,X2に基づき求めた積分値σX1と相対比(σX1/σX2)を収集し、火災時の火災である度合の正解をY1=1とし、火災でない度合の正解をY2=0とする教師データ(Y1,Y2)=(1,0)を組み合わせた第1学習データ、例えば、
(Y1,Y2)(σX1,σX1/σX2)=(1,0)(σX1,σX1/σX2)
と表記する第1学習データを生成し、学習データ記憶部32に記憶する。しかしながら、トンネル内での火災の発生は極めて例外的なもので略ゼロということができ、このため第1学習データは現実的に収集することが困難か、できない場合が多い。
【0089】
また、学習制御部30は、火災が発生していない通常監視時に、第1及び第2観測データX1,X2に基づき求めた積分値σX1と相対比(σX1/σX2)を収集し、通常監視時の火災である度合の正解をY1=0とし、火災でない度合の正解をY2=1とする教師データ(Y1,Y2)=(0,1)を組み合わせた第2学習データ、例えば、
(Y1,Y2)(σX1,σX1/σX2)=(0,1)(σX1,σX1/σX2)
と表記する第2学習データを生成し、学習データ記憶部32に記憶する。この第2学習データは、通常監視時に簡単且つ大量に収集することができ、本実施形態では、学習データとは、実質的に第2学習データを意味することになる。
【0090】
(e6.機械学習)
学習制御部30は、学習データ収集期間が経過したら、学習データ記憶部32から学習データ(第2学習データ)を読出して学習モデル部28の機械学習を行う。この機械学習の方法は任意であるが、例えば、学習制御部30は、利用者の操作に基づき、学習モデル部28を構成する多層ニューラルネットワークの入力層のノード数(例えば、256ノード)、中間層の段数とノード数、出力層のノード数(例えば、2ノード)等の構造や各ノードの重み等を設定する。続いて、学習データ(第2学習データ)を読み出し、学習モデル部28の入力に積分値σX1と相対比(σX1/σX2)をセットすると共に出力(Y1,Y2)に正解(0,1)をセットし、公知のバックプロパゲーション法により機械学習させる。機械学習の手順は任意であるが、
図2の実施形態に示したと同様になる。
【0091】
(e7:入力数の低減による効果)
ここで、
図2の実施形態にあっては、学習モデル部28に、第1観測データX1と第2観測データX2からなる256点の観測値を並列に入力することで、256次元のベクトル入力を処理しているが、
図6の実施形態にあっては、学習モデル部28に、積分値σX1と相対比(σX1/σX2)からなる2点の特徴値を並列に入力して2次元のベクトル入力に低減することで、機械学習部26の構成及び演算処理を、学習制御部30の演算処理を含め、大幅に低減している。
【0092】
(e8.火災検出部)
火災検出部18は、第1処理部14による第1火災判断結果E1と、第2処理部16による第2火災判断結果E2に基づき、
図2の実施形態と同様にして、火災を検出するものである。
【0093】
[f.本発明の変形例]
本発明に係る火災検出システム及び火災検出方法の変形となる実施形態について、詳細に説明する。
【0094】
(3波長方式の第1処理部)
上記の観測部12は、いわゆる2波長方式を例にとっているが、いわゆる3波長方式としても良い。この場合、観測部12は、炎特有の第1波長帯域(4.5μm付近)の光の第1観測値x1と、第1波長帯域以外の第2波長帯域(例えば、5.0μm付近)の光の第2観測値x2の検出に加え、第1波長帯域及び第2波長帯域以外の第3波長帯域(例えば、2.3μm付近)の光の第3観測値x3を観測する。
【0095】
観測部12を3波長方式とした場合、第1処理部14での火災判断処理は、火災判断条件を3段階に設定して火災を判断する。第1段階の火災判断条件は、前述した2波長方式の第1段階の火災判断条件と同じになる。第2段階の火災判断条件は、第1観測データX1と第3観測データX3との積分値の相対比(σX1/σX3)を算出し、この相対比が所定の閾値を超えた場合に、第2段階の火災判断条件を充足したとして次の第3段階に進む。第3段階の火災判断条件は、前述した2波長方式の第2段階の火災判断条件と同じになる。
【0096】
また、観測部12を3波長方式とした場合、第2処理部16での機械学習処理は、学習機械部26を、第1観測データX1、第2データX2及び第3観測データX3を入力して火災である度合Y1と火災でない度合Y2を算出するように構成し、火災時の第1学習データと通常監視時の第2学習データを収集して機械学習し、その後に、新たに観測された観測データX1,X2,X3を入力して火災である度合Y1と火災でない度合Y2を分類し、火災である度合Y1を第2火災判断結果E2として出力するようにする。
【0097】
また、観測部12を3波長方式とした場合の他の実施形態として、第2処理部16での機械学習処理は、学習機械部26を、第1観測データX1の積分値σX1、積分値σx1と第2データX2の積分値σX2との相対比(σX1/σX2)、及び、積分値σx1と第3データX3の積分値σX3との相対比(σX1/σX3)を入力して火災である度合Y1と火災でない度合Y2を算出するように構成し、火災時の第1学習データと通常監視時の第2学習データを収集して機械学習し、その後に、新たに観測された観測データX1,X2,X3を入力して火災である度合Y1と火災でない度合Y2を分類し、火災である度合Y1を第2火災判断結果E2として出力するようにする。
【0098】
(機械学習部)
上記の実施形態で第2処理部16の機械学習部26は、火災である度合Y1を第2火災判断結果E2として火災検出部18へ出力しているが、これに代えて火災でない度合Y2を第2火災判断結果E2として出力してもよい。この場合、火災検出部18は、第1処理部14が火災と判断する所定条件を満たし(火災と判断し)、且つ、第2処理部16による第2火災判断結果E2が所定値、例えば、0.4以下のときに、火災検出とするようにする。
【0099】
(火災報知設備)
上記の実施形態は、トンネル防災設備を例にとるものであったが、これに限定されず、任意であり、例えば、受信機に感知器を接続して火災を監視する火災報知設備に適用してもよい。火災報知設備における本実施形態の火災検出システムは、例えば、炎検出装置を監視領域となる建物の部屋等に設置してもよく、または、屋外に設置して放火等を監視するようにしてもよい。
【0100】
(その他)
また、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0101】
10(10-1),10(10-2):火災検出システム
12:観測部
12a:第1観測部
12b:第2観測部
13:観測データ生成部
14:第1処理部
16:第2処理部
18:火災検出部
20:炎検出装置
22a,22b:センサ部
24a,24b:増幅処理部
25:透光性窓
26:機械学習部
28:学習モデル部
30:学習制御部
32:学習データ記憶部
40:防災受信盤
42:制御部
44:警報部