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特許7613889活物質、全固体電池および活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】活物質、全固体電池および活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20250107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250107BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/0562
C01B33/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020188134
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077326
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064716(JP,A)
【文献】特開2020-087886(JP,A)
【文献】特開2020-170605(JP,A)
【文献】特開2020-017389(JP,A)
【文献】特開2021-031349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
10/36-10/39
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる活物質であって、
少なくともSiを含有し、
赤外分光スペクトルにおいて、900cm-1以上950cm-1以下における最大ピーク強度をIとし、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度をIとした場合に、
前記Iおよび前記Iが、0.55≦I/I≦1.0、および、0.01≦Iを満たす、活物質。
【請求項2】
前記Iが、0.02≦I≦0.08を満たす、請求項1に記載の活物質。
【請求項3】
全固体電池に用いられる活物質であって、
少なくともSiを含有し、
赤外分光スペクトルにおいて、900cm-1以上950cm-1以下における最大ピーク強度をIとし、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度をIとした場合に、
前記Iおよび前記Iが、0.55≦I/I≦1.0、および、0.01≦Iを満たす、活物質。
【請求項4】
前記Iが、0.02≦I≦0.08を満たす、請求項3に記載の活物質。
【請求項5】
前記活物質が、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有する請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の活物質。
【請求項6】
前記活物質が、一次粒子の内部に空隙を有する、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の活物質。
【請求項7】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記負極層が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の活物質と、固体電解質とを含有する、全固体電池。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の活物質の製造方法であって、
第1前駆体を合成する合成工程と、
前記第1前駆体を、比誘電率が5以上である、有機溶媒または酸で洗浄し、第2前駆体を得る洗浄工程と、
前記第2前駆体を、熱により乾燥し、前記活物質を得る乾燥工程と、
を有する活物質の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒が、ケトンである、請求項8に記載の活物質の製造方法。
【請求項10】
前記合成工程が、
シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有する中間体と、Li系材料とを合金化し、合金化合物を得る合金化処理と、
前記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を形成するLi除去処理と、
を有する、請求項8または請求項9に記載の活物質の製造方法。
【請求項11】
前記Li除去処理において、エタノールを用いて、前記合金化合物から前記Liを除去する、請求項10に記載の活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活物質、全固体電池および活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。また、全固体電池に用いられる活物質として、Si系活物質が知られている。例えば、特許文献1には、負極活物質としてSi及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料を含む負極活物質層を有する硫化物全固体電池用負極が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、原子組成においてSiとOとを含むケイ素酸化物骨格と、ケイ素酸化物骨格に化学的に結合したシリコン系ナノ粒子と、を構成要素として含むケイ素酸化物構造体が開示されている。さらに、特許文献2には、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、820~920cm-1にあるSi-H結合に由来するピーク1の強度(I)と1000~1200cm-1にあるSi-O-Si結合に由来するピークの強度(I)の比(I/I)が、所定の範囲にあることが記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、赤外分光装置によって測定したスペクトルにおいて、3400~3800cm-1にあるシラノール基に由来するピークAの強度と1000~1200cm-1にあるシロキサン結合に由来するピークAの強度の比の値A/Aが0.1以下であるSiO(リチウムイオン二次電池用負極活物質)が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、シリコン酸化物から構成される母粒子と、導電性炭素材料から構成され、前記母粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を有し、赤外分光測定により得られる600cm-1~1400cm-1の赤外吸収スペクトルの最大ピーク強度を1としたときの900cm-1における強度が0.30以上である負極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-142431号公報
【文献】特開2019-119638号公報
【文献】特開2011-108635号公報
【文献】国際公開第2014/119238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Siは理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、Siは、充放電時の体積変化が大きい。そのため、Siを用いた電極層は、充放電時の体積変化が大きい。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、充放電時の電極層の体積変化を抑制可能な活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示においては、全固体電池に用いられる活物質であって、少なくともSiを含有し、赤外分光スペクトルにおいて、900cm-1以上950cm-1以下における最大ピーク強度をIとし、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度をIとした場合に、上記Iおよび上記Iが、0.55≦I/I≦1.0、および、0.01≦Iを満たす、活物質を提供する。
【0009】
本開示によれば、I/Iの値が所定の範囲にあり、さらに、Iの値も所定の範囲にあることから、充放電時の電極層の体積変化を抑制可能な活物質とすることができる。
【0010】
上記開示においては、上記Iが、0.02≦I≦0.08を満たしてもよい。
【0011】
また、本開示においては、全固体電池に用いられる活物質であって、少なくともSiを含有し、赤外分光スペクトルにおいて、900cm-1以上950cm-1以下における最大ピーク強度をIとし、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度をIとした場合に、上記Iおよび上記Iが、0.55≦I/I≦1.0、および、0.01≦Iを満たす、活物質を提供する。
【0012】
本開示によれば、I/Iの値が所定の範囲にあり、さらに、Iの値も所定の範囲にあることから、充放電時の電極層の体積変化を抑制可能な活物質とすることができる。
【0013】
上記開示においては、上記Iが、0.02≦I≦0.08を満たしてもよい。
【0014】
上記開示においては、上記活物質が、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有していてもよい。
【0015】
上記開示においては、上記活物質が、一次粒子の内部に空隙を有していてもよい。
【0016】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記負極層が、上述した活物質と、固体電解質とを含有する、全固体電池を提供する。
【0017】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電時の負極層の体積変化を抑制可能な全固体電池とすることができる。
【0018】
また、本開示においては、上述した活物質の製造方法であって、第1前駆体を合成する合成工程と、上記第1前駆体を、比誘電率が5以上である、有機溶媒または酸で洗浄し、第2前駆体を得る洗浄工程と、上記第2前駆体を、熱により乾燥し、上記活物質を得る乾燥工程と、を有する活物質の製造方法を提供する。
【0019】
本開示によれば、第1前駆体を比誘電率が高い有機溶媒または酸で洗浄し、その後、乾燥することにより、充放電時の電極層の体積変化を抑制可能な活物質を得ることができる。
【0020】
上記開示においては、上記有機溶媒が、ケトンであってもよい。
【0021】
上記開示においては、上記合成工程が、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有する中間体と、Li系材料とを合金化し、合金化合物を得る合金化処理と、上記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を形成するLi除去処理と、を有していてもよい。
【0022】
上記開示では、上記Li除去処理において、エタノールを用いて、上記合金化合物から上記Liを除去してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示においては、充放電時の電極層の体積変化を抑制可能な活物質を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】Siの結晶相を説明する概略斜視図である。
図2】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図3】本開示における活物質の製造方法を例示するフローチャートである。
図4】本開示における第1前駆体の合成方法を例示するフローチャートである。
図5】実施例1、2および比較例1~3で得られた活物質に対するIR測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示における活物質、全固体電池および活物質の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
A.活物質
本開示における活物質は、全固体電池に用いられる活物質であって、少なくともSiを含有し、赤外分光スペクトルにおいて、900cm-1以上950cm-1以下における最大ピーク強度をIとし、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度をIとした場合に、0.55≦I/I≦1.0を満たす。Iは、0.01≦Iを満たしていてもよい。同様に、Iは、0.01≦Iを満たしていてもよい。
【0027】
本開示によれば、I/Iの値が所定の範囲にあり、さらに、IまたはIの値も所定の範囲にあることから、充放電時の電極層の体積変化を抑制可能な活物質とすることができる。上述したように、Siは理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、Siは、充放電時の体積変化が大きい。充放電時の体積変化が大きいと、耐久性低下、拘束治具の大型化によるエネルギー密度低下等の悪影響を生じる。Si粒子そのものの体積変化が大きいことが最大の問題であるため、Si粒子の利用量を制限することで、電極層の体積変化を抑制する場合が多い。しかしながら、Si粒子の利用量を制限すると、エネルギー密度化の向上を図ることが難しい。
【0028】
そこで、本発明者等は、これまで、Si粒子の体積変化を小さくするために、Si粒子の内部に空隙を設けたり、クラスレートSi粒子を用いたりすることを検討してきた。一方、本発明者等は、電極層の体積変化が大きくなる要因として、電極層内におけるSi粒子の凝集が寄与しているとの知見を得た。そこで、Si粒子の表面に存在する官能基および化合物に着目し、Si粒子の表面状態を制御すること(具体的には、Si粒子の表面の極性を高くすること)により、Si粒子の凝集を抑制し、電極層の体積変化を小さくすることを見出した。Si粒子の凝集を抑制できる理由は、Si粒子の表面の極性を高くすることで、一般的に極性が高い固体電解質との親和性が良好になり、電極層の作製時に、Si粒子が均一に分散されたためであると推測される。Si粒子が均一に分散され、Si粒子および固体電解質の接触面積が増えることで、電極層における充放電反応が均一化し、その結果、電極層の体積変化を抑制できたと推定される。
【0029】
本開示における活物質は、赤外分光スペクトル(IRスペクトル)において、I/Iが所定の範囲内にある。Iは、900cm-1以上950cm-1以下における最大ピーク強度であり、通常、活物質の表面に存在するSi-R(Rは、CH等の疎水性官能基)に由来するピークである。なお、850cm-1以上880cm-1以下の範囲に、CO 2-に由来する大きなピークが現れる場合がある。仮に、CO 2-のピークが高波数側にシフトした場合であっても、IはCO 2-に由来する大きなピークの強度には該当しない。また、Iは、850cm-1以上950cm-1以下におけるSi-Rに由来するピークの強度であってもよい。
【0030】
は、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度であり、通常、活物質の表面に存在するSi-O-Siに由来するピークである。なお、Si-O-Siに由来するピークは、通常、ブロードなピークであるため、明確なピークが確認されない可能性がある。そのような場合を考慮すると、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大ピーク強度は、1000cm-1以上1100cm-1以下における最大強度として扱うことができる。
【0031】
本開示において、I/Iの値は、通常、0.55以上であり、0.60以上であってもよく、0.65以上であってもよい。一方、I/Iの値は、通常、1.0以下であり、0.95以下であってもよい。また、Iは、通常、0.01以上であり、0.02以上であってもよく、0.03以上であってもよい。一方、Iは、例えば0.08以下であり、0.06以下であってもよい。また、Iは、通常、0.01以上であり、0.02以上であってもよく、0.03以上であってもよい。一方、Iは、例えば0.08以下であり、0.06以下であってもよい。本開示における赤外分光スペクトル(IRスペクトル)は、ATR法(全反射測定法)により得られるスペクトルである。また、IRスペクトルにおける強度は吸光度を意味する。
【0032】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有することが好ましい。また、活物質は、上記結晶相のいずれかを主相として有することが好ましい。「主相として有する」とは、上記結晶相に属するピークが、X線回折測定で観察されるピークの中で、最も回折強度が大きいピークであることをいう。
【0033】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよい。図1(a)に示すように、シリコンクラスレートII型の結晶相では、複数のSi元素により、五角形または六角形を含む多面体(ケージ)が形成されている。この多面体は、Liイオン等の金属イオンを包摂できる空間を内部に有する。この空間に金属イオンが挿入されることで、充放電による体積変化を抑制できる。特に全固体電池では、充放電による体積変化を抑制するために、一般的に、高い拘束圧を付与する必要があるが、本開示における活物質を用いることで、拘束圧の低減を図ることができ、結果として、拘束治具の大型化を抑制することができる。
【0034】
シリコンクラスレートII型の結晶相は、通常、空間群(Fd-3m)に属する。シリコンクラスレートII型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.09°、21.00°、26.51°、31.72°、36.26°、53.01°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0035】
シリコンクラスレートII型の結晶相において、2θ=20.09°±0.50°に位置するピークをピークAとし、2θ=31.72°±0.50°に位置するピークをピークBとする。また、ピークAの強度をIとし、ピークBの強度をIとする。一方、2θ=22°~23°における最大強度をIとする。2θ=22°~23°には、通常、Siに関連する結晶相のピークが現れない範囲であるため、基準として用いることができる。
【0036】
/Iの値は、1よりも大きいことが好ましい。I/Iの値が1以下である場合は、シリコンクラスレートII型の結晶相が実質的に形成されていないと判断できる。I/Iの値は、例えば2以上であり、5以上であってもよく、7以上であってもよい。一方、I/Iの値の上限は、特に限定されない(例えばI/Iの値が1000以上になる場合もある)。
【0037】
/Iの値は、1よりも大きいことが好ましい。I/Iの値が1以下である場合は、シリコンクラスレートII型の結晶相が実質的に形成されていないと判断できる。I/Iの値は、例えば2以上であり、5以上であってもよい。一方、I/Iの値の上限は、特に限定されない(例えばI/Iの値が1000以上になる場合もある)。
【0038】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、後述するダイヤモンド型のSi結晶相を有しなくてもよい。「結晶相を有していない」ことは、X線回折測定において、その結晶相のピークが確認されないことにより、確認できる。また、本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、後述するシリコンクラスレートI型の結晶相を有しなくてもよい。
【0039】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートI型の結晶相を有していてもよい。図1(b)に示すように、シリコンクラスレートI型の結晶相では、シリコンクラスレートII型と同様に、複数のSi元素により、五角形または六角形を含む多面体(ケージ)が形成されているため、充放電による体積変化を抑制できる。
【0040】
シリコンクラスレートI型の結晶相は、通常、空間群(Pm-3n)に属する。シリコンクラスレートI型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=19.44°、21.32°、30.33°、31.60°、32.82°、36.29°、52.39°、55.49°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0041】
本開示における活物質は、ダイヤモンド型のSi結晶相を有していてもよい。図1(c)に示すように、通常のSiは、ダイヤモンド型の結晶相を有する。ダイヤモンド型のSi結晶相では、複数のSi元素により、四面体が形成されている。四面体は、Liイオン等の金属イオンを包摂できる空間を内部に有しないため、充放電による体積変化を抑制しにくい。その反面、シリコンクラスレートに比べて、製造コストが低いという利点がある。
【0042】
ダイヤモンド型のSi結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=28.44°、47.31°、56.10°、69.17°、76.37°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0043】
本開示における活物質は、少なくともSiを含有する。活物質は、少なくともSiを含有し、Siのみを含有していてもよく、他の元素をさらに含有していてもよい。他の元素としては、例えば、Li、Na等の金属元素が挙げられる。なお、活物質の表面に存在する官能基または化合物に含まれる元素(例えばO、C、H)は考慮しないものとする。また、活物質は、SiO骨格を有していてもよく、有していなくてもよい。また、例えば、活物質がシリコンクラスレートII型の結晶相を有する場合、その組成は、NaSi136(0≦x≦20)で表されることが好ましい。xは、0であってもよく、0より大きくてもよい。一方、xは、10以下であってもよく、5以下であってもよい。活物質の組成は、例えば、EDX、XRD、XRF、ICP、原子吸光法により求めることができる。
【0044】
本開示における活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。活物質は、一次粒子であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。一次粒子の平均粒径は、例えば50nm以上であり、100nm以上であってもよく、150nm以上であってもよい。一方、一次粒子の平均粒径は、例えば3000nm以下であり、1500nm以下であってもよく、1000nm以下であってもよい。また、二次粒子の平均粒径は、例えば1μm以上であり、2μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。一方、二次粒子の平均粒径は、例えば60μm以下であり、40μm以下であってもよい。なお、平均粒径は、例えばSEMによる観察によって求めることができる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。
【0045】
本開示における活物質は、一次粒子の内部に空隙を有することが好ましい。充放電時の体積変化をより小さくできるからである。特に、活物質は、細孔直径が100nm以下である微小な空隙を多く有していることが好ましい。プレスによる空隙の潰れを抑制することができるからである。細孔直径が100nm以下である空隙の空隙量は、例えば0.05cc/g以上であり、0.07cc/g以上であってもよく、0.10cc/g以上であってもよい。一方、上記空隙量は、例えば0.15cc/g以下である。空隙量は、例えば、水銀ポロシメーター測定、BET測定、ガス吸着法、3D-SEM、3D-TEMにより求めることができる。
【0046】
本開示における活物質が、一次粒子の内部に空隙を有する場合、その空隙率は、例えば4%以上であり、10%以上であってもよい。また、上記空隙率は、例えば40%以下であり、20%以下であってもよい。空隙率は例えば以下のような手順で求めることができる。まず、活物質を含む電極層に対して、イオンミリング加工により断面出しを行う。そして断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して粒子の写真を取得する。得られた写真から画像解析ソフトを用いシリコン部および空隙部を峻別して、2値化する。シリコン部と空隙部の面積を求め、以下の式から空隙率(%)を算出する。
空隙率(%)=100×(空隙部面積)/((シリコン部面積)+(空隙部面積))
【0047】
具体的な画像解析および空隙率の算出は、以下のように行うことができる。画像解析ソフトとしては、例えばFiji ImageJ bundled with Java 1.8.0_172(以下、Fiji)を用いる。同一視野の二次電子像と反射電子像を合成して、RGBカラー画像化する。そして、ピクセルごとのノイズを除去するために、得られたRGB画像をFijiにおける機能「Median(フィルタサイズ=2)」によってぼかす。次に、Fijiにおける機能「Weka Machine Learning」により、上記ノイズが除去された画像における任意の複数の領域を人がシリコン部または空隙部にそれぞれ指定して、シリコン部および空隙部を峻別する教師データを作成する。そして、作成された教師データに基づき、Fiji内で、機械によりシリコン部と空隙部との判別を行い、シリコン部および空隙部の面積比を算出する。
【0048】
RGBカラー画像化について、二次電子像と反射電子像はともにグレースケールで表わされているため、例えば、二次電子像の各ピクセルにおける明るさxをRed値に、反射電子像も同様に明るさyをGreen値に割り付ける。これにより、例えばピクセルごとに、R=x、G=y、B=(x+y)/2としてRGB画像化する。
【0049】
上記「Weka Machine Learning」における詳細な条件を以下に示す。Training features(機械学習において教師データを作成する際に、機械に着目させる画像の数値的特徴)として、Gaussian blur、Hessian、Membrane projections、Mean、Maximum、Anisotropic diffusion、Sobel filter、Difference of gaussians、Variance、Minimum、Medianを選択する。また、その他のパラメータとしては、Membrane thicknessを3、Membrane patch sizeを19、Minimum sigmaを1.0、Maximum sigmaを16.0に設定する。
【0050】
本開示における活物質は、通常、全固体電池に用いられる。本開示における活物質は、負極活物質であってもよく、正極活物質であってもよいが、前者が好ましい。本開示においては、上述した活物質を有する電極層(負極層または正極層)、および、その電極層を有する全固体電池を提供することもできる。活物質の製造方法としては、例えば、後述する「C.活物質の製造方法」に記載する製造方法が挙げられる。
【0051】
B.全固体電池
図2は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図2に示す全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5とを有する。本開示においては、負極層2が、上述した活物質と、固体電解質とを含有する。
【0052】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電時の負極層の体積変化を抑制可能な全固体電池とすることができる。
【0053】
1.負極層
負極層は、少なくとも負極活物質および固体電解質を含有する層である。また、負極層は、必要に応じて、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0054】
負極活物質については、上記「A.活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。負極層における負極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。負極活物質の割合が少なすぎると、十分なエネルギー密度が得られない可能性がある。一方、負極活物質の割合は、例えば80重量%以下であり、70重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよい。負極活物質の割合が多すぎると、相対的に、負極層におけるイオン伝導性および電子伝導性が低下する可能性がある。
【0055】
負極層は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。固体電解質としては、例えば、後述する「3.固体電解質層」に記載する固体電解質が挙げられる。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。
【0056】
負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。本開示における負極層は、通常、全固体電池に用いられる。
【0057】
2.正極層
正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極層は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0058】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0059】
酸化物活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。酸化物活物質と、固体電解質(特に硫化物固体電解質)との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbOが挙げられる。コート層の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。また、正極活物質として、例えばLiSを用いることもできる。
【0060】
正極層に用いられる固体電解質、導電材およびバインダーについては、上記「1.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0061】
3.固体電解質層
固体電解質層は、正極層および負極層の間に形成される層であり、固体電解質を少なくとも含有する。
【0062】
固体電解質としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P-GeSが挙げられる。
【0063】
固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0064】
4.その他の構成
本開示における全固体電池は、正極層の集電を行う正極集電体、および、負極層の集電を行う負極集電体を有することが好ましい。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。
【0065】
本開示における全固体電池は、正極層、固体電解質層および負極層に対して、厚さ方向に沿って拘束圧を付与する拘束治具をさらに有していてもよい。拘束治具を用いることで、良好なイオン伝導パスおよび電子伝導パスを形成できる。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0066】
5.全固体電池
本開示における全固体電池の種類は特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン電池である。また、本開示における全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。
【0067】
本開示における全固体電池は、単電池であってもよく、積層電池であってもよい。積層電池は、モノポーラ型積層電池(並列接続型の積層電池)であってもよく、バイポーラ型積層電池(直列接続型の積層電池)であってもよい。全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型が挙げられる。
【0068】
C.活物質の製造方法
図3は、本開示における活物質の製造方法を例示するフローチャートである。図3に示す製造方法では、まず第1前駆体を合成する。次に、第1前駆体を、比誘電率が5以上である、有機溶媒または酸で洗浄し、第2前駆体を得る。次に、第2前駆体を、熱により乾燥し、目的とする活物質を得る。図4は、本開示における第1前駆体の合成方法を例示するフローチャートである。図4では、NaおよびSiを含有し、少なくともジントル相を有するジントル化合物を作製し、ジントル化合物からNaを除去することで、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する中間体を得る。次に、中間体およびLi系材料を、所定の割合にて合金化し、合金化合物を得る(合金化処理)。次に、合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を形成する(Li除去処理)。これにより、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する第1前駆体が得られる。
【0069】
本開示によれば、第1前駆体を比誘電率が高い有機溶媒または酸で洗浄し、その後、乾燥することにより、充放電時の負極層の体積変化を抑制可能な活物質を得ることができる。活物質の表面に、例えば、COH(OH基を有する化合物)、CHCOONa、CHCOOLiが存在すると、その後の乾燥工程で、活物質の表面に、Si-R(Rは、CH等の疎水性官能基)が形成され、活物質の表面の極性が低くなると推測される。Si-Rが多いとIは大きくなる。これに対して、本開示においては、活物質の表面を、比誘電率が高い有機溶媒または酸で処理することで、COH等を除去できる。そのため、乾燥工程を行っても、Si-Rの割合を少なくできる。その結果、極性の高いSi-O-Siの割合を多くでき、電極層の作製時に、活物質が凝集することを抑制できる。
【0070】
1.合成工程
本開示における合成工程は、第1前駆体を合成する工程である。第1前駆体は、洗浄工程前の活物質に該当する。第1前駆体は、少なくともSiを含有し、Siのみを含有していてもよく、他の元素をさらに含有していてもよい。他の元素については、上記「A.活物質」に記載した内容と同様である。また、第1前駆体は、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有することが好ましい。また、第1前駆体は、上記結晶相のいずれかを主相として有することが好ましい。
【0071】
第1前駆体の合成方法は、特に限定されないが、例えば、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有する中間体と、Li系材料とを合金化し、合金化合物を得る合金化処理と、上記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を形成するLi除去処理と、を有する方法であってもよい。
【0072】
(1)中間体
中間体は、シリコンクラスレートII型の結晶相、シリコンクラスレートI型の結晶相、および、ダイヤモンド型のSi結晶相の少なくとも一つを有することが好ましい。また、第1前駆体は、上記結晶相のいずれかを主相として有することが好ましい。例えば、ダイヤモンド型のSi結晶相を有する中間体として、市販のSi粒子を用いることができる。一方、シリコンクラスレートII型の結晶相、または、シリコンクラスレートI型の結晶相を有する中間体は、例えば、NaおよびSiを含有し、少なくともジントル相を有するジントル化合物から、上記Naを除去する方法により得ることができる。Naを除去する条件を調整することで、シリコンクラスレートII型の結晶相、および、シリコンクラスレートI型の結晶相の割合を調整することができる。以下、シリコンクラスレートII型の結晶相、または、シリコンクラスレートI型の結晶相を有する中間体の準備方法について、説明する。
【0073】
(i)ジントル作製
ジントル化合物は、ジントル(Zintl)相を有する。ジントル相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=16.10°、16.56°、17.64°、20.16°、27.96°、33.60°、35.68°、40.22°、41.14°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよい。ジントル化合物は、ジントル(Zintl)相を主相として有することが好ましい。ジントル化合物は、シリコンクラスレートI型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。また、ジントル化合物は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0074】
ジントル化合物の組成は、特に限定されないが、NaSi136の組成(121≦z≦151)で表されることが好ましい。zは、126以上であってもよく、131以上であってもよい。一方、zは、141以下であってもよい。
【0075】
ジントル化合物は、例えば、Na(単体)およびSi(単体)を含有する原料混合物に対して熱処理を行うことで得ることができる。Na(単体)およびSi(単体)の割合は、特に限定されないが、Si(単体)1モル部に対して、Na(単体)は、例えば0.8モル部以上であり、1モル部以上であってもよい。一方、Si(単体)1モル部に対して、Na(単体)は、例えば1.5モル部以下であり、1.3モル部以下であってもよい。
【0076】
熱処理温度は、例えば、500℃以上、1000℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。特に、約700℃(例えば650℃以上、750℃以下)および約20時間(例えば15時間以上、25時間以下)の条件で熱処理を行うことが好ましい。
【0077】
(ii)Na除去
ジントル化合物からNaを除去する方法としては、例えば、熱処理が挙げられる。熱処理温度は、例えば280℃以上であり、300℃以上であってもよい。一方、熱処理温度は、例えば500℃以下である。熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。熱処理は、常圧雰囲気で行ってもよく、減圧雰囲気で行ってもよい。後者の場合、熱処理時の圧力は、例えば10Pa以下であり、1Pa以下であってもよく、0.1Pa以下であってもよい。また、熱処理は、Ar雰囲気等の不活性雰囲気で行ってもよい。
【0078】
(iii)中間体
上述した方法により得られる中間体の組成は、特に限定されないが、NaSi136(0≦y≦24)で表されることが好ましい。yは、0であってもよく、0より大きくてもよい。一方、yは、20以下であってもよく、10以下であってもよい。
【0079】
(2)合金化処理
本開示における合金化処理は、上記中間体とLi系材料とを合金化し、合金化合物を得る処理である。
【0080】
Li系材料は、中間体と合金化可能な材料であれば特に限定されず、Li単体であってもよく、Li合金であってもよい。Li合金は、Liを主成分とする合金であることが好ましい。中間体と合金化しやすいからである。中間体およびLi系材料を合金化する方法としては、例えば、両者を混合する方法および両者を熱処理する方法が挙げられる。
【0081】
合金化工程では、中間体およびLi系材料を、中間体に含まれるSiに対するLi系材料に含まれるLiのモル比(Li/Si)を所定の範囲にして合金化することが好ましい。Li/Siは、例えば0.5以上であり、0.75以上であってもよく、1以上であってもよい。Li/Siが小さすぎると、一次粒子の内部に空隙が形成されない可能性がある。一方、Li/Siは、例えば3以下であり、2.5以下であってもよく、2以下であってもよい。Li/Siが大きすぎると、所望の結晶相を維持できない可能性がある。Liとの合金化により、Siの結晶性は低下する傾向にあるため、Li/Siを制御することが好ましい。
【0082】
(3)Li除去処理
本開示におけるLi除去処理は、上記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を形成する工程である。合金化合物に含まれるLi(高度に分散されたLi)を除去することで、ナノサイズ(ナノオーダー)の空隙を形成することができる。
【0083】
合金化合物からLiを除去する方法としては、例えば、合金化合物にLi抽出材を反応させる方法が挙げられる。Li抽出材は、例えば液体である。Li抽出材としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール等の1級アルコール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール等の2級アルコール、tert-ブチルアルコール等の3級アルコール、フェノール等のフェノール類、1,2-エタンジオール、1,3-ブタンジオール等のグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル、b-D-グルコピラノース等のピラノース類、エリトロフラノース等のフラノース類、グルコース類、フルクトース類等の多糖類が挙げられる。Li抽出材は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールおよび1-ヘキサノールの少なくとも一種であることが好ましい。特に、Li抽出材は、少なくともエタノールを含有することが好ましい。また、Li抽出材として、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸等の酸を用いてもよい。本開示においては、2種以上のLi抽出材を用いてもよい。この場合、2種以上のLi抽出材を混合して用いてもよく、別々に用いてもよい(Li除去として2段階以上の処理を行ってもよい)。
【0084】
Li抽出材は、水分量が少ないことが好ましい。水分量が多すぎると、合金化合物が劣化する場合がある。Li抽出材に含まれる水分量は、例えば100ppm以下であり、10ppm以下であってもよい。合金化合物に対するLi抽出材の重量割合は、例えば5以上であり、10以上であってもよく、15以上であってもよい。一方、上記重量割合は、例えば500以下であり、250以下であってもよい。
【0085】
合金化合物にLi抽出材を反応させる方法は、特に限定されない。合金化合物に、Li抽出材を直接接触させてもよく、合金化合物を分散させた分散液に、Li抽出材を接触させてもよい。分散媒としては、例えば、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、2-エチルヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ヘキセン、ヘプテン等の不飽和炭化水素、1,3,5-トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、イソアミルエーテル、ジフェニルエーテル、メチルフェニルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。分散媒の比誘電率は、例えば3.08以下であり、3.00以下であってもよい。一方、分散媒の比誘電率は、例えば1.50以上であり、1.70以上であってもよい。比誘電率は、例えば、JIS C 2565に記載の方法(空洞共振器法等)により測定することができる。
【0086】
2.洗浄工程
本開示における洗浄工程は、上記第1前駆体を、比誘電率が5以上である、有機溶媒または酸で洗浄し、第2前駆体を得る工程である。第2前駆体は、洗浄工程後、乾燥工程前の活物質に相当する。また、第2前駆体および第1前駆体は、通常、同じ結晶相を有する。
【0087】
有機溶媒または酸の比誘電率(25℃)は、通常、5以上であり、10以上であってもよく、15以上であってもよい。有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン、エタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテルが挙げられる。また、有機溶媒として、芳香族炭化水素を用いてもよい。一方、酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。
【0088】
第1前駆体を有機溶媒で洗浄する方法としては、例えば、第1前駆体を有機溶媒に浸漬させる方法が挙げられる。この際、超音波処理を行ってもよい。また、第1前駆体に有機溶媒を噴霧することで、洗浄してもよい。洗浄時間は、特に限定されないが、例えば10分間以上、10時間以下である。第2前駆体は、赤外分光スペクトルにおいて、2800cm-1以上3500cm-1以下に-OHに由来するピークを有していてもよい。
【0089】
3.乾燥工程
本開示における乾燥工程は、上記第2前駆体を、熱により乾燥し、上記活物質を得る工程である。乾燥工程は、第2前駆体から有機溶媒または酸を除去する工程である。また、例えば、第2前駆体がNaを含有する場合、乾燥工程において、第2前駆体からNaを除去してもよく、除去しなくてもよい。
【0090】
乾燥温度は、例えば280℃以上であり、300℃以上であってもよい。一方、乾燥温度は、例えば500℃以下である。乾燥時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。乾燥は、常圧雰囲気で行ってもよく、減圧雰囲気で行ってもよい。後者の場合、乾燥時の圧力は、例えば10Pa以下であり、1Pa以下であってもよく、0.1Pa以下であってもよい。また、乾燥は、Ar雰囲気等の不活性雰囲気で行ってもよい。また、乾燥方法としては、例えば、焼成炉を用いる方法が挙げられる。
【0091】
4.活物質
上記工程により得られる活物質については、上記「A.活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0092】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0093】
[実施例1]
(活物質の合成)
Si粒子およびNa粒子を、モル比が1:1になるように混合し、るつぼに投入し、Ar雰囲気下で密閉し、700℃で加熱し、NaSi(ジントル化合物)を合成した。その後、真空下(約1Pa)、340℃で加熱することでNaを除去し、中間体を得た。得られた中間体と、Li金属とを、Li/Si=1のモル比で秤量し、Ar雰囲気において乳鉢で混合し、合金化合物を得た。得られた合金化合物を、Ar雰囲気においてエタノールと反応させることで、一次粒子の内部に空隙を形成し、第1前駆体を得た。なお、合金化合物およびエタノールの割合は、重量比で、合金化合物:エタノール=12:400とした。
【0094】
次に、得られた第1前駆体の洗浄を行った。具体的には、アセトンに浸漬させ、超音波装置(SND製US-3KS)を用いて、超音波処理を30分間行い、第2前駆体を得た。その後、焼成炉を用いて、430℃、6時間の条件で乾燥し、活物質を得た。
【0095】
(負極の作製)
ポリプロピレン製容器に、得られた活物質、硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、導電材(VGCF)、PVDF系バインダーを5重量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液、および、酪酸ブチルを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。アプリケーターを使用してブレード法にて、負極集電体(Cu箔、UACJ製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を得た。
【0096】
(正極の作製)
ポリプロピレン製容器に、正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3、平均粒径6μm)、硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、導電材(VGCF)、PVDF系バインダーを5重量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液、および、酪酸ブチルを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振とうさせた。アプリケーターを使用してブレード法にて、正極集電体(Al箔、昭和電工製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極を得た。なお、正極の面積は、負極の面積よりも小さくした。
【0097】
(固体電解質層の作製)
ポリプロピレン製容器に、硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、ブチレンラバー系バインダーを5重量%の割合で含有するヘプタン溶液、および、ヘプタンを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。アプリケーターを使用してブレード法にて、剥離シート(Al箔)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、剥離シートおよび固体電解質層を有する転写部材を得た。
【0098】
(全固体電池の作製)
正極における正極層上に、接合用の固体電解質層を配置し、ロールプレス機にセットし、20kN/cm(約710MPa)、165℃でプレスした。これにより、第1積層体を得た。
【0099】
次に、負極をロールプレス機にセットし、20kN/cm(約630MPa)、25℃でプレスした。その後、負極層側から順に、接合用の固体電解質層および転写部材を配置した。この際、接合用の固体電解質層と、転写部材における固体電解質層とが対向するように配置した。得られた積層体を平面一軸プレス機にセットし、100MPa、25℃で、10秒間仮プレスした。その後、固体電解質層から剥離シートを剥がした。これにより、第2積層体を得た。
【0100】
次に、第1積層体における接合用の固体電解質層と、第2積層体における固体電解質層と、を対向するように配置し、平面一軸プレス機にセットし、200MPa、135℃、1分間プレスした。これにより、全固体電池を得た。
【0101】
[実施例2]
合金化合物およびエタノールの割合を、重量比で、合金化合物:エタノール=1:150に変更したこと以外は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を用いて、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0102】
[比較例1、2]
第1前駆体の洗浄を行わなかったこと以外は、実施例1、2と同様にして活物質を得た。得られた活物質を用いて、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0103】
[比較例3]
市販のSi粒子(ダイヤモンド型のSi粒子)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0104】
[評価]
(IR測定)
実施例1、2および比較例1~3で得られた活物質に対して、赤外分光(IR)測定を行った。IR測定は、一回反射ATR法(ATRアクセサリ:SpectraTech製Thunderdome)、DTGS検出器、波数分解能4cm-1、積算回数128回の条件で行った。その結果を表1および図5に示す。
【0105】
(拘束圧増加量の測定)
実施例1、2および比較例1~3で得られた全固体電池に対して充電を行い、拘束圧増加量を測定した。試験条件は、拘束圧(定寸)5MPa、充電0.1C、カット電圧4.55Vとし、4.55Vでの拘束圧を測定し、充電前の状態からの拘束圧増加量を求めた。その結果を表1に示す。なお、表1における拘束圧増加量の結果は、比較例1の結果を100とした場合の相対値である。
【0106】
(XRD測定)
実施例1、2および比較例1、2で得られた活物質に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。その結果、実施例1、2および比較例1、2で得られた活物質は、結晶相の中で、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有することが確認された。
【0107】
また、シリコンクラスレートII型の結晶相における、2θ=20.09°付近に位置するピークAの強度をIとし、2θ=31.72°付近に位置するピークBの強度をIとした。また、2θ=22°~23°における最大強度をIとし、I/IおよびI/Iを求めた。その結果を表1に示す。
【0108】
(空隙量の測定)
実施例1、2および比較例1、2で得られた活物質の空隙量(細孔直径が100nm以下である空隙の空隙量)を求めた。空隙量の測定には、水銀ポロシメーターを用いた。測定装置はPore Master 60-GT(Quanta Chrome Co.)を用い、40Å~4,000,000Åの範囲で行った。解析はWashburn法を用いた。その結果を表1に示す。
【0109】
(SEM測定)
実施例1、2および比較例1、2で得られた活物質に対して、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)測定を行った。その結果、実施例1、2および比較例1、2で得られた活物質は、一次粒子の内部に、ナノサイズの空隙が形成されていることが確認された。
【0110】
【表1】
【0111】
表1および図5に示すように、実施例1、2では、比較例1、2に比べて、I/Iの値が大きく、拘束圧増加量が顕著に小さいことが確認された。具体的に、実施例1、2では、比較例1に比べて拘束圧増加量が70%以上も低減された。これは、Si粒子の表面の極性が高いことで、一般的に極性が高い固体電解質との親和性が良好になり、負極層の作製時に、Si粒子が均一に分散されたためであると推測される。また、Si粒子が均一に分散され、Si粒子および固体電解質の接触面積が増えることで、負極層における充放電反応が均一化し、その結果、負極の体積変化を抑制できたと推定される。一方、比較例3では、I/Iの値は大きいものの、IおよびIの値が小さく、拘束圧力増加量も大きかった。
【0112】
また、実施例1、2および比較例1、2では、I/Iの値およびI/Iの値が、ともに1より大きく、シリコンクラスレートII型の結晶相が形成されていることが確認された。一方、比較例3では、I/Iの値が1以下であり、シリコンクラスレートII型の結晶相は形成されていなかった。
【符号の説明】
【0113】
1 …正極層
2 …負極層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5