(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20250107BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20250107BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20250107BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20250107BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20250107BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20250107BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20250107BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20250107BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W20/15
B60W20/00 900
B60W10/00 102
B60W10/06
B60W10/10
F02D29/02 321B
(21)【出願番号】P 2021009902
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛英
(72)【発明者】
【氏名】貝吹 雅一
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-95161(JP,A)
【文献】特開2003-200758(JP,A)
【文献】特開2005-162081(JP,A)
【文献】特開2012-166575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547,
B60W 10/00-20/50,
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動力源としてのエンジン及び回転電機と、前記エンジンと前記回転電機との間の動力伝達経路を断接するクラッチと、前記走行用駆動力源の動力を駆動輪へ伝達するトルクコンバータと、を備える車両の、制御装置であって、
前記クラッチを係合させて前記回転電機によりクランキングし、前記クラッチの同期前に前記エンジンに燃料を噴射してその燃焼が継続可能になったら一旦前記クラッチを解放し、その後に前記クラッチを再度係合する早期点火始動方式、及び、前記クラッチを係合させて前記回転電機によりエンジン回転速度を上昇させ、前記クラッチの同期後に前記エンジンに燃料を噴射し点火して前記エンジンを始動させる押しがけ始動方式から、前記エンジンの始動制御の方式を選択する場合に、前記回転電機の回転速度と前記トルクコンバータに入力されるシステム軸トルクと前記トルクコンバータのタービン回転速度との、前記エンジンの始動制御の方式を選択する時点での値に基づいて前記エンジンの始動制御として
前記早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合に生じる始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを予測し、
前記始動ショックが前記所定の許容範囲内であると予測した場合には、前記エンジンの始動制御として前記早期点火始動方式を選択し、
前記始動ショックが前記所定の許容範囲外であると予測した場合には、前記エンジンの始動制御として
前記押しがけ始動方式を選択する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、クラッチを介してそのエンジンと連結する回転電機、及びその回転電機に連結するトルクコンバータを備えた車両の、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用駆動力源としてのエンジン及び回転電機と、そのエンジンとその回転電機との間の動力伝達経路を断接するクラッチと、走行用駆動力源の動力を駆動輪へ伝達するトルクコンバータと、を備える車両の、制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。特許文献1には、エンジンの始動制御の方式として、クラッチを係合させて回転電機によりクランキングし、クラッチの同期前にエンジンに燃料を噴射し点火してその燃焼が継続可能になったら一旦クラッチを解放し、その後にクラッチを再度係合する早期点火始動方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転電機を走行用駆動力源とした車両の走行中において、例えば回転電機の回転速度が低い場合に早期点火始動方式でエンジン始動を行うと、クラッチを解放する前にエンジン回転速度がクラッチの同期回転速度まで変化させられてしまい、エンジンのイナーシャがクラッチを介して回転電機のロータ軸に伝達されることによって許容範囲を超えた始動ショックが発生する可能性がある。そのため、そのような始動ショックが発生する可能性がある場合には、押しがけ始動方式でエンジン始動を行う方が望ましい。押しがけ始動方式とは、クラッチを係合させて回転電機によりエンジン回転速度を上昇させ、クラッチの同期後にエンジンに燃料を噴射し点火してエンジンを始動させるエンジン始動制御の方式である。しかし、押しがけ始動方式は、早期点火始動方式に比較して、始動ショックが低減される反面、始動応答性が劣る。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジン始動に伴って発生する始動ショックを抑制しつつエンジン始動の応答性の向上を図ることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、走行用駆動力源としてのエンジン及び回転電機と、前記エンジンと前記回転電機との間の動力伝達経路を断接するクラッチと、前記走行用駆動力源の動力を駆動輪へ伝達するトルクコンバータと、を備える車両の、制御装置であって、(a)前記クラッチを係合させて前記回転電機によりクランキングし、前記クラッチの同期前に前記エンジンに燃料を噴射してその燃焼が継続可能になったら一旦前記クラッチを解放し、その後に前記クラッチを再度係合する早期点火始動方式、及び、前記クラッチを係合させて前記回転電機によりエンジン回転速度を上昇させ、前記クラッチの同期後に前記エンジンに燃料を噴射し点火して前記エンジンを始動させる押しがけ始動方式から、前記エンジンの始動制御の方式を選択する場合に、前記回転電機の回転速度と前記トルクコンバータに入力されるシステム軸トルクと前記トルクコンバータのタービン回転速度との、前記エンジンの始動制御の方式を選択する時点での値に基づいて前記エンジンの始動制御として前記早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合に生じる始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを予測し、(b)前記始動ショックが前記所定の許容範囲内であると予測した場合には、前記エンジンの始動制御として前記早期点火始動方式を選択し、(c)前記始動ショックが前記所定の許容範囲外であると予測した場合には、前記エンジンの始動制御として前記押しがけ始動方式を選択することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両の制御装置によれば、(a)早期点火始動方式及び押しがけ始動方式から、前記エンジンの始動制御の方式が選択される場合に、前記回転電機の回転速度と前記トルクコンバータに入力されるシステム軸トルクと前記トルクコンバータのタービン回転速度との、前記エンジンの始動制御の方式が選択される時点での値に基づいて前記エンジンの始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合に生じる始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かが予測され、(b)前記始動ショックが前記所定の許容範囲内であると予測された場合には、前記エンジンの始動制御として前記早期点火始動方式が選択され、(c)前記始動ショックが前記所定の許容範囲外であると予測された場合には、前記エンジンの始動制御として押しがけ始動方式が選択される。早期点火始動方式によるエンジン始動により発生する始動ショックが所定の許容範囲内であると予測される場合には、早期点火始動方式が選択され、所定の許容範囲外であると予測される場合には、押しがけ始動方式が選択される。これにより、エンジンの始動に伴って発生する始動ショックを抑制しつつエンジン始動の応答性の向上を図ることができる。
【0008】
第2発明の車両の制御装置によれば、第1発明において、前記始動ショックが前記所定の許容範囲内であるか否かの予測は、前記エンジンの始動制御として前記早期点火始動方式が実行されたと仮定された場合において前記クラッチの同期タイミングにおける前記回転電機の回転速度及び前記システム軸トルクのいずれかが同期時車両状態値として算出された後、算出された前記同期時車両状態値を予め定められた判定値と比較されることにより行われる。このように、クラッチの同期タイミングでの回転電機の回転速度やシステム軸トルクが算出され、算出された回転電機の回転速度やシステム軸トルクと、始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを予測するために予め定められた判定値と、が比較される。この比較によってエンジン始動により発生する始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かが予測され、その予測に応じて始動ショックの抑制とエンジン始動の応答性とを両立させたエンジンの始動制御の方式が選択される。
【0009】
第3発明の車両の制御装置によれば、第2発明において、前記同期時車両状態値が前記クラッチの同期タイミングにおける前記システム軸トルクである場合、前記クラッチの同期タイミングにおける前記クラッチの伝達トルク容量の予測値に応じて前記判定値が切り替えられる。クラッチの同期タイミングでのクラッチの伝達トルク容量に応じて、クラッチが外乱として伝達するエンジントルクの大きさが変わる。そのため、クラッチの伝達トルク容量に応じて始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを予測するための判定値が切り替えられることで、始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かの予測の正確性が向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1に係る電子制御装置を搭載した車両の概略構成図であるとともに、車両における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
【
図2】モータ走行モードとハイブリッド走行モードとの切り替えに用いられるEV/EHV領域マップの一例を示す図である。
【
図3】
図1に示す電子制御装置により早期点火始動方式でエンジンの始動制御が実行されたと仮定した場合におけるタイムチャートの一例である。
【
図4】早期点火始動方式によるエンジンの始動に伴って発生する始動ショックと、回転電機の回転速度と、の関係について説明する図である。
【
図5】
図1に示す電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。
【
図6】本発明の実施例2に係る電子制御装置により早期点火始動方式でエンジンの始動制御が実行されたと仮定した場合におけるタイムチャートの一例である。
【
図7】本発明の実施例2に係る電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。
【
図8】本発明の実施例3に係る電子制御装置の制御機能を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の各実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の実施例1に係る電子制御装置80を搭載した車両10の概略構成図であるとともに、車両10における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。なお、
図1において括弧内に記された符号は、後述する実施例2,3についてのものである。
【0013】
車両10は、走行用駆動力源として機能するエンジン14及び回転電機MGを備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置12は、非回転部材としてのトランスミッションケース20内において、エンジン14側から順番に、クラッチK0、トルクコンバータ16、及び自動変速機18等を備える。また、動力伝達装置12は、自動変速機18の出力回転軸である変速機出力軸24に連結されたプロペラシャフト26、そのプロペラシャフト26に連結されたディファレンシャルギヤ28、そのディファレンシャルギヤ28に連結された一対の車軸30等を備える。このように構成された動力伝達装置12は、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の車両10に好適に用いられる。動力伝達装置12においてクラッチK0が係合(以下、特に区別しない場合には完全係合を意味するものとする。)された場合には、エンジン14の動力(以下、特に区別しない場合にはトルクや力も同義である。)は、エンジン14に連結されたエンジン連結軸32から、クラッチK0、トルクコンバータ16、自動変速機18、プロペラシャフト26、ディファレンシャルギヤ28、及び一対の車軸30等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達される。このように、動力伝達装置12は、エンジン14から駆動輪34までの動力伝達経路を構成する。
【0014】
エンジン14は、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関である。エンジン14は、エンジン回転速度Ne[rpm]が低回転の段階から点火して自力回転させることが可能であり、例えば気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射型の内燃機関である。
【0015】
トルクコンバータ16は、回転電機MG(及びエンジン14)と駆動輪34との間の動力伝達経路に設けられている。トルクコンバータ16は、入力側回転部材であるポンプ翼車16aに入力された動力を流体を介して伝達することで出力側回転部材であるタービン翼車16bから出力する流体式伝動装置である。ポンプ翼車16aは、クラッチK0を介してエンジン連結軸32と連結されているとともに、直接的に回転電機MGと連結されている。タービン翼車16bは、自動変速機18の入力回転軸である変速機入力軸36と直接的に連結されている。
【0016】
トルクコンバータ16は、ポンプ翼車16aとタービン翼車16bとの間を直結する公知のロックアップクラッチ38を備える。ロックアップクラッチ38は、エンジン14及び回転電機MGと駆動輪34との間の動力伝達経路を機械的に直結した状態とすることが可能である。ポンプ翼車16aにはオイルポンプ22が連結されている。オイルポンプ22は、エンジン14及び回転電機MGの少なくとも一方によって回転駆動されることにより、自動変速機18の変速制御やクラッチK0の断接制御(伝達トルク容量制御)などを実行するための作動油圧を発生する機械式のオイルポンプである。ロックアップクラッチ38は、オイルポンプ22が発生する油圧を元圧とし車両10に設けられた油圧制御回路50によって断接制御される。例えば、エンジン14の始動制御開始直後においてエンジン回転速度Neが低回転である場合には、ロックアップクラッチ38は、エンジン14の脈動が駆動輪34に伝達されないように切断される。
【0017】
回転電機MGは、例えば電気エネルギーから機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的なエネルギーから電気エネルギーを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。回転電機MGは、エンジン14の代替として、或いはそのエンジン14と共に、走行用の動力を発生させる走行用駆動力源として機能する。回転電機MGは、エンジン14により発生させられた動力や駆動輪34から入力される被駆動力から回生により電気エネルギーを発生させ、その電気エネルギーをインバータ52を介して蓄電装置54に蓄積する等の作動を行う。回転電機MGは、クラッチK0とトルクコンバータ16との間の動力伝達経路に連結されており(すなわち回転電機MGのロータ軸40はクラッチK0及びポンプ翼車16aに連結されており)、回転電機MGとポンプ翼車16aとの間では、相互に動力が伝達される。したがって、回転電機MGは、クラッチK0を介することなく自動変速機18の変速機入力軸36と動力伝達可能に連結されている。
【0018】
クラッチK0は、エンジン14と回転電機MGとの間の動力伝達経路を断接するクラッチである。クラッチK0は、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置であり、オイルポンプ22が発生する油圧を元圧とし油圧制御回路50によって断接制御される。その断接制御においては、例えば油圧制御回路50内のリニヤソレノイドバルブ等の調圧により、クラッチK0の伝達トルク容量(クラッチK0の係合力)Tc[Nm]が変化させられる。クラッチK0の係合状態では、エンジン連結軸32を介してポンプ翼車16aとエンジン14とが一体的に回転させられる。一方で、クラッチK0の解放状態では、エンジン14とポンプ翼車16aとの間の動力伝達が遮断される。すなわち、クラッチK0を解放することでエンジン14と駆動輪34とが切り離される。回転電機MGはポンプ翼車16aに連結されているので、クラッチK0は、エンジン14と回転電機MGとの間の動力伝達経路に設けられて、その動力伝達経路を断接するクラッチとしても機能する。
【0019】
自動変速機18は、エンジン14及び回転電機MGと駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成し、走行用駆動力源(エンジン14及び回転電機MG)からの動力を駆動輪34へ伝達する変速機である。自動変速機18は、例えば変速比(ギヤ比)γ(=変速機入力回転速度Nin/変速機出力回転速度Nout)が異なる複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる公知の遊星歯車式多段変速機、或いは変速比γが無段階に連続的に変化させられる公知の無段変速機などである。自動変速機18では、例えば油圧アクチュエータが油圧制御回路50によって制御されることにより、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて所定の変速比γとされる。
【0020】
車両10は、車両10の制御装置である電子制御装置80を備える。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン14の始動制御を含む出力制御、回転電機MGの回生制御を含む回転電機MGの駆動制御、自動変速機18の変速制御、クラッチK0の断接制御、ロックアップクラッチ38の断接制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や回転電機制御用や油圧制御用等に分けて構成される。なお、電子制御装置80は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0021】
電子制御装置80には、各種センサ(例えばエンジン回転速度センサ56、タービン回転速度センサ58、出力軸回転速度センサ60、MG回転速度センサ62、アクセル開度センサ64、スロットルセンサ66、バッテリセンサ68など)による検出値に基づく各種信号(例えばエンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Ne[rpm]、タービン回転速度Nt[rpm]すなわち変速機入力軸36の回転速度である変速機入力回転速度Nin[rpm]、車速Vに対応する変速機出力軸24の回転速度である変速機出力回転速度Nout[rpm]、回転電機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg[rpm]、運転者による車両10に対する駆動要求量に対応するアクセル開度θacc、電子スロットル弁のスロットル弁開度θth、蓄電装置54の充電状態値(充電容量に対する実際に蓄電されている充電量の比)SOC[%]など)が、それぞれ入力される。
【0022】
電子制御装置80からは、例えばエンジン14の出力制御のためのエンジン制御信号Se、回転電機MGの作動を制御するためのMG制御信号Smg、クラッチK0やロックアップクラッチ38や自動変速機18の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路50に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるための油圧制御信号Spなどが、スロットルアクチュエータや燃料噴射装置等のエンジン制御装置、インバータ52、油圧制御回路50などへそれぞれ出力される。
【0023】
図2は、モータ走行モードとハイブリッド走行モードとの切り替えに用いられるEV/EHV領域マップの一例を示す図である。
【0024】
車両10は、例えばモータ走行領域(EV領域)とハイブリッド走行領域(EHV領域)とを有する予め定められた関係(EV/EHV領域マップ)から、実際の車速V及び駆動要求量(アクセル開度θacc等)で示される車両状態に基づいて走行モードが切り替えられる。車両状態がEV領域にある場合には、走行モードをモータ走行モードとし、回転電機MGのみを走行用駆動力源として走行するモータ走行が行われる。車両状態がEHV領域にある場合には、走行モードをハイブリッド走行モードとし、少なくともエンジン14を走行用駆動力源として走行するハイブリッド走行が行われる。
【0025】
例えば、運転者によりアクセルペダルが踏み増しされてアクセル開度θaccが増加し車両状態がEV領域からEHV領域に移動した場合には、エンジン14が始動されて走行モードがハイブリッド走行モードとされる。車両10のエンジン始動方式には、早期点火始動方式と、押しがけ始動方式と、がある。
【0026】
早期点火始動方式は、クラッチK0を係合させて回転電機MGによりクランキングし、クラッチK0の同期前にエンジン14に燃料を噴射し点火してその燃焼が継続可能になったら一旦クラッチK0を解放し、その後にクラッチK0を再度係合する方式である。早期点火始動方式では、エンジン回転速度Neが低回転の段階で圧縮TDC(Top Dead Center;上死点)付近で燃料が噴射され点火されてエンジン14が始動させられる。押しがけ始動方式は、クラッチK0を係合させて回転電機MGによりエンジン回転速度Neを上昇させ、クラッチK0の同期後にエンジン14に燃料を噴射し点火して始動させる方式である。押しがけ始動方式に比較して、早期点火始動方式は、エンジン14の燃焼トルク(エンジントルクTe)がエンジン14の始動に用いられるため、回転電機MGがクランキングするアシストトルクを小さくでき、また始動応答性が良い。アシストトルクとは、回転電機MGがクランキングする場合にエンジン14に伝達するトルクであって、エンジン14の始動制御時におけるクラッチK0の伝達トルク容量(クラッチK0の係合力)Tcと同じ大きさである。なお、ここにいうエンジン14の「始動」とは、単にエンジン14が完爆して(運転を開始して)自立運転可能になるまでのことの他に、クラッチK0が完全係合されるまでのエンジン始動に関わる一連の制御作動のことでもある。
【0027】
図3は、
図1に示す電子制御装置80により早期点火始動方式でエンジン14の始動制御が実行されたと仮定した場合におけるタイムチャートの一例である。なお、
図3中に示すK0油圧は、クラッチK0の断接状態を制御する油圧であって、クラッチK0の油圧アクチュエータに供給される油圧である。
【0028】
車両10が回転電機MGのみを走行用駆動力源として走行するモータ走行中において、例えば運転者によるアクセルペダルの踏み増しによりアクセル開度θaccが増加させられる場合がある。例えば、アクセルペダルが踏み込まれていない状態(アクセル開度θacc=0)から踏み込まれた状態(アクセル開度θacc>0)へと変化させられた場合である。
【0029】
時刻t0において、アクセル開度θaccの増加により早期点火始動方式によるエンジン14の始動制御が開始される。増加したアクセル開度θaccは、エンジン14の始動制御開始後も始動制御完了まで一定に維持されている。始動制御完了時点とは、早期点火始動方式において一旦解放されたクラッチK0がその後に再度係合された時である。エンジン14の始動制御の開始によりK0油圧の指示圧は、時刻t0以降にパッククリアランスを急速に詰めるパック詰めのために一旦高い油圧とされた後、クラッチK0を係合状態とする油圧とされる。K0油圧の指示圧に応じてK0油圧の実圧が上昇する。
【0030】
クラッチK0の係合により、時刻t1から回転電機MGによりエンジン14がクランキングされてエンジン14に燃料が噴射され点火されてエンジン回転速度Neが上昇する。エンジン14の燃焼が継続可能になった時刻t2においてクラッチK0を解放させるK0油圧の指示圧が出力される。K0油圧の指示圧は、時刻t2以降に一旦零値とされた後、パック詰めがされ且つ解放状態とする油圧(>0)とされる。K0油圧の指示圧に応じてK0油圧の実圧が下降する。
【0031】
時刻t4において、再びクラッチK0を係合状態とするためにK0油圧の指示圧が緩やかに上昇させられ、その指示圧に応じてK0油圧の実圧が上昇する。K0油圧の実圧の上昇により、例えばクラッチK0が半係合状態(スリップ係合状態)を経て完全係合状態とされることで、エンジン14と回転電機MGとが連結されてエンジン14の始動制御が完了する。これにより、車両10は、エンジン14及び回転電機MGを走行用駆動力源として走行するハイブリッド走行とされる。
【0032】
ところで、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmgとが同じとなる時刻t3において、K0油圧の実圧が十分に低下していない(すなわちクラッチK0が解放状態となっていない)と、エンジン14のイナーシャがクラッチK0を介して回転電機MGのロータ軸40に伝達されることによって車両10に所定の許容範囲を超えた始動ショックが発生する場合がある。
【0033】
図4は、早期点火始動方式によるエンジン14の始動に伴って発生する始動ショックと、MG回転速度Nmgと、の関係について説明する図である。
図4では、エンジン14の始動制御開始時点におけるMG回転速度Nmgが異なる3つのケースについて図示されている。
【0034】
クラッチK0の伝達トルク容量Tcは、K0油圧の実圧に応じて
図4に示すように変化する。クラッチK0の係合により、時刻t1から回転電機MGによりエンジン14がクランキングされてエンジン14に燃料が噴射され点火されてエンジン回転速度Neが上昇する。
【0035】
エンジン14の始動制御開始時点におけるMG回転速度Nmgが最も低いケース1の場合には、時刻t3aにおいてクラッチK0が同期する。クラッチK0が同期するタイミング(以下、「同期タイミング」と記す。)では、MG回転速度Nmgは、回転速度値Nmg1[rpm]である。「クラッチK0が同期」とは、クラッチK0が断接制御する動力伝達経路の一方側のエンジン連結軸32の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、他方側のMG回転速度Nmgと、が同じになることである。クラッチK0が同期するタイミングとは、クラッチK0が同期する時点のことである。
【0036】
エンジン14の始動制御開始時点におけるMG回転速度Nmgが最も高いケース3の場合には、時刻t3cにおいてクラッチK0が同期する。同期タイミングでは、MG回転速度Nmgは、回転速度値Nmg3[rpm]である。
【0037】
エンジン14の始動制御開始時点におけるMG回転速度Nmgがケース1とケース3との間であるケース2の場合には、時刻t3b(t3a<t3b<t3c)においてクラッチK0が同期する。同期タイミングでは、MG回転速度Nmgは、回転速度値Nmg2[rpm]である。
【0038】
同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが高いほど、エンジン回転速度NeがMG回転速度Nmgと同じ回転速度まで上昇するのに要する期間が長くなる、すなわちエンジン14の始動制御の開始からクラッチK0が同期するまでの期間が長くなる。したがって、同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが高いほど、同期タイミングにおけるクラッチK0を一旦解放させるK0油圧の実圧が低くなりやすく、同期タイミングにおける伝達トルク容量Tcが小さくなりやすい。一方、同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが低いほど、同期タイミングにおけるクラッチK0を一旦解放させるK0油圧の実圧が低くなりにくく、同期タイミングにおける伝達トルク容量Tcが大きくなりやすい。
【0039】
クラッチK0が同期したことでクラッチK0は、エンジントルクTeを外乱として回転電機MGのロータ軸40に伝達してしまう。同期タイミングにおける伝達トルク容量Tcが大きいと、クラッチK0が伝達するエンジントルクTeが大きくなり始動ショックが所定の許容範囲外となりやすく、同期タイミングにおける伝達トルク容量Tcが小さいと、クラッチK0が伝達するエンジントルクTeが小さくなり始動ショックが所定の許容範囲内となりやすい。
【0040】
ここで、ケース2のように同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが回転速度値Nmg2である場合において、同期タイミングでのクラッチK0の伝達トルク容量Tcが始動ショックを許容できる上限値であるとする。ケース1の場合には、早期点火始動方式によるエンジン14の始動に伴う始動ショックが所定の許容範囲外となる。そのため、ケース1となる場合には、エンジン14の始動制御の実行は、押しがけ始動制御が適している。ケース3の場合には、早期点火始動方式によるエンジン14の始動に伴う始動ショックが所定の許容範囲内となる。そのため、ケース3となる場合には、エンジン14の始動制御は、早期点火始動方式が適している。すなわち、同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが回転速度値Nmg2以上である場合には、早期点火始動方式によるエンジン14の始動に伴う始動ショックが所定の許容範囲内となり、同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが回転速度値Nmg2未満である場合には、早期点火始動方式によるエンジン14の始動に伴う始動ショックが所定の許容範囲外となる。
【0041】
図1に戻り、電子制御装置80は、予測部82、始動方式選択部84、及び始動制御部86を機能的に備える。
【0042】
予測部82は、MG回転速度Nmgとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいて、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合におけるクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgを同期時車両状態値として算出する(すなわち予測する)。本明細書に記載する「現在」とは、エンジン14の始動制御の方式を選択する時点のことである。システム軸トルクTsysは、車両10の駆動装置(エンジン14、クラッチK0、及び回転電機MGを含む)全体に対する走行用駆動トルクのロータ軸40上での要求量であって、例えばトルクコンバータ16に入力される入力トルクの目標値に相当するものであり、
図1に示す駆動装置の一部を成すエンジン14、クラッチK0、及び回転電機MGにより駆動輪34(トルクコンバータ16)へ出力される駆動トルクの目標値である。例えば、システム軸トルクTsysは、アクセル開度θaccや車速Vに基づいて駆動輪34における出力トルクの目標値を算出し、伝達損失、補機負荷、自動変速機18の変速比γ、蓄電装置54の充電状態値SOC(換言すれば蓄電装置54の充放電要求量)等を考慮してその算出された目標値をロータ軸40上でのトルクに換算することで求められる。
【0043】
例えば、MG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの現在のすなわちエンジン14の始動方式が選択される時点での値と、クラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度(予測値)Nmgと、の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに、MG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの現在の値を適用することでクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgを算出する(予測する)。エンジン14の始動制御の開始からクラッチK0の同期タイミングまでのK0油圧の制御が予め定められているのでクラッチK0の作動状態(伝達トルク容量Tcの状態を含む)の制御は予め定められており、MG回転速度Nmgとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいてクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが算出可能である。
【0044】
始動方式選択部84は、予測部82により予測された同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg[rpm]以上であるか否かを判定する。所定のMG回転速度判定値Nmg_jdgは、早期点火始動方式によりエンジン14の始動制御が実行された場合における始動ショックが所定の許容範囲内であることを判定する(予測する)ために実験的に或いは設計的に予め定められた判定値である。例えば、前述の
図4における回転速度値Nmg2である。予測された同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg以上であると判定した場合には、始動方式選択部84は、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式を選択する。予測された同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg未満であると判定した場合には、始動方式選択部84は、エンジン14の始動制御として押しがけ始動方式を選択する。
【0045】
始動方式選択部84により早期点火始動方式が選択された場合には、始動制御部86は、早期点火始動方式によるエンジン14の始動制御を実行する。始動方式選択部84により押しがけ始動方式が選択された場合には、始動制御部86は、押しがけ始動方式によるエンジン14の始動制御を実行する。
【0046】
図5は、
図1に示す電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。例えば、車両10がモータ走行中においてエンジン14の始動制御を実行することが決定されると、
図5のフローチャートが実行される。
【0047】
予測部82の機能に対応するステップS10において、MG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの、現在の値に基づいて、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合におけるクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが算出される(すなわち予測される)。そしてステップS20が実行される。
【0048】
始動方式選択部84の機能に対応するステップS20において、ステップS10で予測されたMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg以上であるか否かが判定される。ステップS20の判定が肯定された場合には、ステップS30が実行される。ステップS20の判定が否定された場合には、ステップS50が実行される。
【0049】
始動方式選択部84の機能に対応するステップS30において、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が選択される。そしてステップS40が実行される。
【0050】
始動制御部86の機能に対応するステップS40において、早期点火始動方式によりエンジン14の始動が実行される。そしてリターンとなる。
【0051】
始動方式選択部84の機能に対応するステップS50において、エンジン14の始動制御として押しがけ始動方式が選択される。そしてステップS60が実行される。
【0052】
始動制御部86の機能に対応するステップS60において、押しがけ始動方式によりエンジン14の始動が実行される。そしてリターンとなる。
【0053】
本実施例によれば、(a)エンジン14の始動制御の方式が選択される場合に、MG回転速度Nmgとトルクコンバータ16に入力されるシステム軸トルクTsysとトルクコンバータ16のタービン回転速度Ntとの、エンジン14の始動制御の方式が選択される時点での値に基づいてエンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合にクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが同期時車両状態値として算出された後、算出された同期時車両状態値であるMG回転速度Nmgが予め定められた所定のMG回転速度判定値Nmg_jdgと比較されることにより始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かが予測され、(b)始動ショックが所定の許容範囲内であると予測された場合には、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が選択され、(c)始動ショックが所定の許容範囲外であると予測された場合には、エンジン14の始動制御として押しがけ始動方式が選択される。早期点火始動方式によるエンジン始動により発生する始動ショックが所定の許容範囲内であると予測される場合には、早期点火始動方式が選択され、所定の許容範囲外であると予測される場合には、押しがけ始動方式が選択される。これにより、エンジン14の始動に伴って発生する始動ショックを抑制しつつエンジン始動の応答性の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0054】
ここから、本発明に係る実施例2について説明する。
【0055】
本実施例における車両110の構成は、前述の実施例1における車両10の構成と略同じであるが、電子制御装置80の替わりに電子制御装置180となっている点が異なる(
図1参照)。
【0056】
図6は、本発明の実施例2に係る電子制御装置180により早期点火始動方式でエンジン14の始動制御が実行されたと仮定した場合におけるタイムチャートの一例である。
図6は、前述の実施例1における
図3に対応するものである。
【0057】
図6は、前述の実施例1における
図3のタイムチャートと略同じであるが、
図3では増加したアクセル開度θaccがエンジン14の始動制御開始後も始動制御完了まで一定に維持されていたものが、
図6ではエンジン14の始動制御完了前にアクセル開度θaccが零値とされている点が異なる。そのため、
図3と異なる部分を中心に説明することとし、
図3と実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0058】
車両110が回転電機MGのみを走行用駆動力源として走行するモータ走行中において、例えば運転者によるアクセルペダルの踏み増しによりアクセル開度θaccが増加させられる。時刻t0において、アクセル開度θaccの増加により早期点火始動方式によるエンジン14の始動制御が開始される。増加したアクセル開度θaccは、エンジン14の始動制御開始後に予め定められた所定期間T1だけ維持された後に零値とされるものとする。所定期間T1は、例えば運転者によりアクセルペダルが踏み増しされた後にアクセル開度θaccが零値となるように踏み戻されると予め設定された期間である。システム軸トルクTsysは、所定期間T1に応じてその指令値が算出され、この指令値に応じてシステム軸トルクTsysの実値が予測可能である。
【0059】
所定期間T1が予め設定されていることを前提に、例えばMG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの現在のすなわちエンジン14の始動方式が選択される時点での値と、クラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度(予測値)Nmgと、の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに、MG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの現在の値を適用することでクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが算出可能である。
【0060】
電子制御装置180は、前述の実施例1における電子制御装置80の構成と略同じであるが、予測部82の替わりに予測部182となっている点が異なる(
図1参照)。そのため、本実施例では、前述の実施例1と異なる部分を中心に説明することとし、前述の実施例1と機能において実質的に共通する部分の説明を適宜省略する。
【0061】
予測部182は、所定期間T1が予め設定されていることを前提に、MG回転速度Nmgとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいて、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合におけるクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgを同期時車両状態値として算出する(すなわち予測する)。
【0062】
始動方式選択部84は、予測部182により予測された同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg以上であるか否かを判定する。予測された同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg以上であると判定した場合には、始動方式選択部84は、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式を選択する。予測された同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが所定のMG回転速度判定値Nmg_jdg未満であると判定した場合には、始動方式選択部84は、エンジン14の始動制御として押しがけ始動方式を選択する。
【0063】
始動方式選択部84により早期点火始動方式が選択された場合には、始動制御部86は、早期点火始動方式によるエンジン14の始動制御を実行する。始動方式選択部84により押しがけ始動方式が選択された場合には、始動制御部86は、押しがけ始動方式によるエンジン14の始動制御を実行する。
【0064】
図7は、本実施例に係る電子制御装置180の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。
図7のフローチャートは、前述の実施例1における
図5のフローチャートと略同じであるが、ステップS10の替わりにステップS110となっている点が異なる。そのため、
図5のフローチャートのステップと機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0065】
予測部182の機能に対応するステップS110において、例えば運転者によりアクセルペダルが踏み増しされてエンジン14の始動を行うことが決定された時点から所定期間T1経過後にアクセルペダルが踏み戻しされることを前提に、MG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの、現在の値に基づいて、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合におけるクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが算出される(すなわち予測される)。そしてステップS20が実行される。ステップS20以降は、
図5のフローチャートの各ステップと同じ内容が実行される。
【0066】
本実施例によれば、アクセル開度θaccの増加によりエンジン14の始動制御が開始され、その始動制御開始から所定期間T1経過後にアクセル開度θaccが零値にされる場合であっても、早期点火始動方式によるエンジン始動により発生する始動ショックが所定の許容範囲内であると予測される場合には、早期点火始動方式が選択され、所定の許容範囲外であると予測される場合には、押しがけ始動方式が選択される。これにより、エンジン14の始動に伴って発生する始動ショックを抑制しつつエンジン始動の応答性の向上を図ることができる。なお、実際には早期点火始動方式によるエンジン始動制御が開始された後であって所定期間T1経過前にアクセル開度θaccが零値にされる場合もあり得る。そのような場合には、始動応答性が低下するが、電子制御装置180は、クラッチK0を解放させるK0油圧(解放圧)を下げるように変更することで始動ショックを低減することが可能である。また、所定期間T1を短い期間に予め設定しておくことで早期点火始動方式よりも押しがけ始動方式が選択されやすいようにしておき、早期点火始動方式によるエンジン始動に伴う始動ショックを発生しにくくすることも可能である。
【実施例3】
【0067】
ここから、本発明に係る実施例3について説明する。
【0068】
本実施例における車両210の構成は、前述の実施例1における車両10の構成と略同じであるが、電子制御装置80の替わりに電子制御装置280となっている点が異なる(
図1参照)。
【0069】
図8は、本発明の実施例3に係る電子制御装置280の制御機能を説明する図である。電子制御装置280は、前述の実施例1における電子制御装置80の構成と略同じであるが、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合において、クラッチK0の同期タイミングにおける同期時車両状態値として予測されるのがMG回転速度Nmgではなくシステム軸トルクTsysである点と、その予測されたシステム軸トルクTsysと所定の軸トルク判定値Tsys_jdgとが比較されてエンジン14の始動制御の方式が選択される点と、が異なる。
図8は、実施例1における
図1で示された機能ブロック図ではなく、エンジン14の始動制御の方式を選択する場合の論理の進め方を表したロジック図の一例である。
【0070】
エンジン14の始動制御の方式を選択する場合には、まず、MG回転速度Nmgとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいて、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合におけるクラッチK0の同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcが算出される(すなわち予測される)。また、MG回転速度Nmgとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいて、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合におけるクラッチK0の同期タイミングにおけるシステム軸トルク(予測値)Tsysが同期時車両状態値として算出される(すなわち予測される)。
【0071】
同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcが大きいほど、早期点火始動方式における始動ショックが大きくなりやすい。例えば、電子制御装置280は、同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcが所定トルク容量以下である場合に所定の軸トルク判定値Tsys_jdgを出力するシステム軸トルクマップMAP1と、同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcが所定トルク容量を超過している場合に所定の軸トルク判定値Tsys_jdgを出力するシステム軸トルクマップMAP2と、を有する。所定トルク容量は、実験的に或いは設計的に予め定められたトルク値であって、所定の軸トルク判定値Tsys_jdgを出力するのに用いるマップをシステム軸トルクマップMAP1とするかシステム軸トルクマップMAP2とするかを選択するために定められたものである。
【0072】
所定の軸トルク判定値Tsys_jdgは、早期点火始動方式によりエンジン14の始動制御が実行された場合における始動ショックが所定の許容範囲内であることを判定する(予測する)ために実験的に或いは設計的に予め定められた判定値である。システム軸トルクマップMAP1及びシステム軸トルクマップMAP2は、いずれもMG回転速度Nmg、システム軸トルクTsys、及びタービン回転速度Ntの現在の値と、所定の軸トルク判定値Tsys_jdgと、の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップである。システム軸トルクマップMAP1が出力する所定の軸トルク判定値Tsys_jdgに比較して、システム軸トルクマップMAP2が出力する所定の軸トルク判定値Tsys_jdgの方が大きくされている。したがって、同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcが小さい場合に比較して、同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcが大きい場合には、所定の軸トルク判定値Tsys_jdgが大きい値に切り替えられる。
【0073】
同期タイミングにおけるシステム軸トルクTsysと、システム軸トルクマップMAP1及びシステム軸トルクマップMAP2のいずれかから出力された判定値である所定の軸トルク判定値Tsys_jdgと、が比較され、算出された同期タイミングにおけるシステム軸トルクTsysが所定の軸トルク判定値Tsys_jdgよりも大きい場合には早期点火始動方式が選択されるすなわち早期点火始動方式が許可される。一方、算出された同期タイミングにおけるシステム軸トルクTsysが所定の軸トルク判定値Tsys_jdgよりも小さい場合には押しがけ始動方式が選択されるすなわち早期点火始動方式が不許可とされる。システム軸トルクマップMAP1及びシステム軸トルクマップMAP2のいずれかから出力される判定値である所定の軸トルク判定値Tsys_jdgは、早期点火始動方式における始動ショックを所定の許容範囲内とする実験的に或いは設計的に予め定められたシステム軸トルクTsysのトルク下限値である。言い換えれば、システム軸トルクマップMAP1及びシステム軸トルクマップMAP2は、そのような所定の軸トルク判定値Tsys_jdgと同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcとが実験的に或いは設計的に予め定められたマップである。
【0074】
本実施例によれば、(a)エンジン14の始動制御の方式が選択される場合に、MG回転速度Nmgとトルクコンバータ16に入力されるシステム軸トルクTsysとトルクコンバータ16のタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいてエンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合にクラッチK0の同期タイミングにおけるシステム軸トルクTsysが同期時車両状態値として算出された後、算出された同期時車両状態値であるシステム軸トルクTsysが予め定められた所定の軸トルク判定値Tsys_jdgと比較されることにより始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かが予測され、(b)始動ショックが所定の許容範囲内であると予測された場合には、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が選択され、(c)始動ショックが所定の許容範囲外であると予測された場合には、エンジン14の始動制御として押しがけ始動方式が選択される。早期点火始動方式によるエンジン始動により発生する始動ショックが所定の許容範囲内であると予測される場合には、早期点火始動方式が選択され、所定の許容範囲外であると予測される場合には、押しがけ始動方式が選択される。これにより、エンジン14の始動に伴って発生する始動ショックを抑制しつつエンジン始動の応答性の向上を図ることができる。
【0075】
本実施例によれば、クラッチK0の同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcの予測値に応じて所定の軸トルク判定値Tsys_jdgが切り替えられる。クラッチK0の同期タイミングでのクラッチK0の伝達トルク容量Tcに応じて、クラッチK0が外乱として伝達するエンジントルクTeの大きさが変わる。そのため、クラッチK0の伝達トルク容量Tcに応じて始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを予測するための判定値が切り替えられることで、始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かの予測の正確性が向上させられる。
【0076】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0077】
前述の実施例1,2では、エンジン14の始動制御の方式が選択される場合に、MG回転速度Nmgとトルクコンバータ16に入力されるシステム軸トルクTsysとトルクコンバータ16のタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいてエンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合にクラッチK0の同期タイミングにおけるMG回転速度Nmgが同期時車両状態値として算出される態様であったが、この態様に限らない。例えば、前述の実施例3と同様に、エンジン14の始動制御の方式が選択される場合に、MG回転速度Nmgとトルクコンバータ16に入力されるシステム軸トルクTsysとトルクコンバータ16のタービン回転速度Ntとの、現在の値に基づいてエンジン14の始動制御として早期点火始動方式が実行されたと仮定した場合にクラッチK0の同期タイミングにおけるシステム軸トルクTsysが同期時車両状態値として算出される態様であってもよい。この態様の場合には、(a)算出された同期時車両状態値であるシステム軸トルクTsysが予め定められた所定の軸トルク判定値Tsys_jdgと比較されることにより始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かが予測され、(b)始動ショックが所定の許容範囲内であると予測された場合には、エンジン14の始動制御として早期点火始動方式が選択され、(c)始動ショックが所定の許容範囲外であると予測された場合には、エンジン14の始動制御として押しがけ始動方式が選択される。この場合における所定の軸トルク判定値Tsys_jdgは、早期点火始動方式によりエンジン14の始動制御が実行された場合における始動ショックが所定の許容範囲内であることを判定するために実験的に或いは設計的に予め定められた判定値である。
【0078】
前述の実施例3では、始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを判定するための所定の軸トルク判定値Tsys_jdgがクラッチK0の同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcの予測値に応じて切り替えられる態様であったが、この態様に限らない。例えば、実施例1,2において、始動ショックが所定の許容範囲内であるか否かを判定するための所定のMG回転速度判定値Nmg_jdgがクラッチK0の同期タイミングにおけるクラッチK0の伝達トルク容量Tcの予測値に応じて切り替えられる態様であっても良い。
【0079】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0080】
10、110、210:車両
14:エンジン(走行用駆動力源)
16:トルクコンバータ
34:駆動輪
80、180、280:電子制御装置(制御装置)
K0:クラッチ
MG:回転電機(走行用駆動力源)
Nmg:MG回転速度(回転電機の回転速度)
Nt:タービン回転速度
Tsys:システム軸トルク