(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
H02H 3/16 20060101AFI20250107BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H02H3/16 A
H02H7/18
(21)【出願番号】P 2021029776
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 幸義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良介
(72)【発明者】
【氏名】嘉藤 智幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 徹
(72)【発明者】
【氏名】松田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岩永 岳人
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 初希
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-030116(JP,A)
【文献】特開2019-041468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/16
H02H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次側蓄電池を備えた1次系統と2次側蓄電池を備えた2次系統との間に系統分離リレーが備えられた電源システムであって、
前記各系統のうちの少なくとも一方に電流変化があったことを検出可能な電流検出手段と、
前記電流検出手段によって電流変化があったことが検出された際にその電流変化の勾配が所定の閾値以上であった場合、または、前記電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際にその電流の絶対値が所定の閾値以上であった場合に、地絡が発生したと判定する地絡判定部と、
前記地絡判定部によって地絡が発生したと判定された場合に、前記系統分離リレーの切り離しを行わせる制御部と、
を備え、
前記電流検出手段は、前記1次系統と前記2次系統との間での電流の流れの向きを検出する電流センサを含んでおり、
前記電流の流れの向きが前記1次系統から前記2次系統に向かう流れである場合において前記2次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流変化の勾配の閾値と、前記電流の流れの向きが前記2次系統から前記1次系統に向かう流れである場合において前記1次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流変化の勾配の閾値とを、互いに異なる値として設定し、且つ、
前記電流の流れの向きが前記1次系統から前記2次系統に向かう流れである場合において前記2次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流の絶対値の閾値と、前記電流の流れの向きが前記2次系統から前記1次系統に向かう流れである場合において前記1次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流の絶対値の閾値とを、互いに異なる値として設定することを特徴とする電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源システムに係る。特に、本発明は、電源の冗長を必要とする電源システムにおける信頼性を向上させるための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、車両等に搭載される電源システムとして電源の冗長を必要とするものが知られている。この種の電源システムは、1次側蓄電池を備えた1次系統と、2次側蓄電池を備えた2次系統とを備えており、各系統から電気負荷に対する電力の供給が可能に構成されている。
【0003】
また、この特許文献1に開示されている電源システムにあっては、1次系統の電圧または2次系統の電圧の低下を検知した場合に、各系統間のリレーの切り離し(遮断)を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている電源システムにあっては、1次系統の電圧または2次系統の電圧の低下を検知した場合にリレーの切り離しを行うようにしているため、正常時であるにも拘わらずオルタネータリップルや誘導ノイズに起因して電圧の変動が発生した場合に地絡であると誤判定してしまってリレーを切り離してしまう頻度が多くなる可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、誤判定によるリレーの切り離しを抑制することができる電源システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、1次側蓄電池を備えた1次系統と2次側蓄電池を備えた2次系統との間に系統分離リレーが備えられた電源システムを前提とする。そして、この電源システムは、前記各系統のうちの少なくとも一方に電流変化があったことを検出可能な電流検出手段と、前記電流検出手段によって電流変化があったことが検出された際にその電流変化の勾配が所定の閾値以上であった場合、または、前記電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際にその電流の絶対値が所定の閾値以上であった場合に、地絡が発生したと判定する地絡判定部と、前記地絡判定部によって地絡が発生したと判定された場合に、前記系統分離リレーの切り離しを行わせる制御部とを備え、前記電流検出手段は、前記1次系統と前記2次系統との間での電流の流れの向きを検出する電流センサを含んでおり、前記電流の流れの向きが前記1次系統から前記2次系統に向かう流れである場合において前記2次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流変化の勾配の閾値と、前記電流の流れの向きが前記2次系統から前記1次系統に向かう流れである場合において前記1次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流変化の勾配の閾値とを、互いに異なる値として設定し、且つ、前記電流の流れの向きが前記1次系統から前記2次系統に向かう流れである場合において前記2次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流の絶対値の閾値と、前記電流の流れの向きが前記2次系統から前記1次系統に向かう流れである場合において前記1次系統に地絡が発生していることを判定するための前記電流の絶対値の閾値とを、互いに異なる値として設定することを特徴とする。
【0008】
なお、ここでいう「電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際」とは、電流変化があったことが検出されたものの、その電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際と、電流変化があったことが検出されなかった際の両方を含む概念である。
【0009】
前記の特定事項により、1次系統または2次系統において電流変化があり、その電流変化の勾配が所定の閾値以上であった場合には地絡が発生したと判定されて系統分離リレーの切り離しが行われる。この閾値は、突入電流の変化の勾配よりも大きな勾配として設定されている。このため、突入電流による電流変化の場合、当該電流変化の勾配は前記閾値未満となり、系統分離リレーが切り離されることはない。このようにして、電流変化の勾配によって、地絡が発生していること(異常時)と、突入電流に起因する変化であること(正常時)とを早期に判別することができ、誤判定による系統分離リレーの切り離し(誤遮断)を抑制することができる。
【0010】
また、電流変化の勾配が所定の閾値未満であったとしても電流の絶対値が所定の閾値以上であった場合には地絡が発生したと判定されて系統分離リレーの切り離しが行われる。この閾値は、突入電流における電流の絶対値よりも大きな値として設定されている。このため、突入電流による電流変化の場合、当該電流の絶対値は前記閾値未満となり、系統分離リレーが切り離されることはない。従って、前述した電流変化の勾配を利用した判定では、地絡が発生していることと突入電流とを判別できない場合(電流変化が緩やかな場合)であっても、電流の絶対値を利用した判定によって、地絡が発生していること(異常時)と、突入電流に起因する変化であること(正常時)とを正確に判別することができ、誤判定による系統分離リレーの切り離しを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、1次系統と2次系統との間に系統分離リレーが備えられた電源システムにおいて、1次系統または2次系統に電流変化があり、その電流変化の勾配が所定の閾値以上であった場合、または、電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際にその電流の絶対値が所定の閾値以上であった場合に、地絡が発生したと判定して系統分離リレーの切り離しを行うようにしている。これにより、地絡が発生していること(異常時)と、突入電流に起因する変化であること(正常時)とを正確に判別することができ、誤判定による系統分離リレーの切り離しを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る電源システムの構成を示す電気ブロック図である。
【
図2】MOS-FETの切り離し制御の手順を示すフローチャート図である。
【
図3】地絡に起因する電流変化および突入電流の電流変化と、地絡判定勾配閾値との関係の一例を示す図である。
【
図4】地絡に起因する電流変化および突入電流の電流変化と、地絡判定電流閾値との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、所謂Maas(Mobility as a Service)車両に搭載された電源システムとして本発明を適用した場合について説明する。なお、本発明に係る電源システムはその他の種類の車両や車両以外の装置(電源の冗長を必要とする電源システムを備えた装置)に対しても適用が可能である。
【0014】
-電源システムの構成-
図1は本実施形態に係る電源システム1の構成を示す電気ブロック図である。この
図1に示すように、電源システム1は、1次系統(主系統)Aと2次系統(冗長系統)Bとが2つのMOS-FET(系統分離リレー、半導体スイッチ)50,60によって分離可能な構成とされている。
【0015】
具体的に、電源システム1は、1次側蓄電池20、2次側蓄電池30、2つのMOS-FET50,60、図示しない各種の電気負荷および発電機等を備えている。
【0016】
1次側蓄電池20は例えばリチウム蓄電池である。この場合、1次側蓄電池20の正極活物質には、リチウムを含む酸化物(リチウム金属複合酸化物)が用いられており、具体例としては、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4等が挙げられる。1次側蓄電池20の正極活物質としてはこれらに限定されるものではない。1次側蓄電池20の負極活物質には、カーボンやグラファイト、チタン酸リチウム(例えばLixTiO2)、SiまたはSuを含有する合金等が用いられている。1次側蓄電池20の負極活物質としてはこれらに限定されるものではない。1次側蓄電池20の電解液には有機電解液が用いられている。そして、これらの電極から構成された複数の電池セルが直列接続されて1次側蓄電池20は構成されている。
【0017】
2次側蓄電池30は例えば鉛蓄電池である。この場合、2次側蓄電池30の正極活物質には二酸化鉛(PbO2)、負極活物質には鉛(Pb)、電解液には硫酸(H2SO4)がそれぞれ用いられる。2次側蓄電池30の正極活物質、負極活物質、電解液としてはこれらに限定されるものではない。そして、これらの電極から構成された複数の電池セルが直列接続されて2次側蓄電池30は構成されている。
【0018】
両蓄電池20,30は並列接続されているため、図示しない発電機から充電される際には、MOS-FET50,60をオン作動させていれば、端子電圧の低い側の蓄電池へ発電機の起電流が流れ込むことになる。一方、図示しない電気負荷へ電力供給(放電)する際には、非発電時にMOS-FET50,60をオン作動させていれば、端子電圧の高い側の蓄電池から電気負荷へ放電されることになる。
【0019】
MOS-FET50,60は、1次側蓄電池20と2次側蓄電池30との間に配置されており、1次系統Aと2次系統Bとの通電(オン)と遮断(オフ)とを切り替える開閉手段として機能する。
【0020】
また、MOS-FET50,60は、その内部構造上において整流手段を有している。すなわち、MOS-FET50,60の内部回路は、半導体スイッチ部52,62と寄生ダイオード51,61とを並列接続した回路と等価な構成とされている。なお、半導体スイッチ部52,62のゲートへの入力信号は電子制御装置(ECU80)により制御される。つまり、MOS-FET50,60のオン作動(通電作動)とオフ作動(遮断作動、切り離し動作)とは、ECU80により切り替えられるよう制御される。このような構成により、MOS-FET50,60をオン作動させた状態では、例えば2次系統Bの突入電流を1次系統Aの1次側蓄電池20から持ち出すことが可能となる。これにより、蓄電デバイスの性能要件が緩和でき、小容量化や蓄電池の種類の選択肢を増やすことができる。
【0021】
2つのMOS-FET50,60は、寄生ダイオード51,61が互いに逆向きになるように直列に接続されている。そのため、2つのMOS-FET50,60をオフ作動させた場合において、寄生ダイオード51,61を通じて電流が流れることを完全に遮断できるようになっている。
【0022】
前記電気負荷としては、カーナビゲーション装置、オーディオ装置、ヘッドライト、空調装置等が挙げられる。発電機で発電した電力は、各種電気負荷へ供給されるとともに、1次側蓄電池20および2次側蓄電池30へ供給される。発電機で発電されていない時には、1次側蓄電池20および2次側蓄電池30から電気負荷へ電力供給される。1次側蓄電池20および2次側蓄電池30から電気負荷への放電量、および、発電機から1次側蓄電池20および2次側蓄電池30への充電量は、SOC(State of charge)が過充放電とならない範囲となるよう設定電圧を調整するとともにMOS-FET50,60の作動を制御することで調整される。
【0023】
各蓄電池20,30の正極側には電流センサ(電流検出手段)91,92がそれぞれ配設されている。これら電流センサ91,92は、各蓄電池20,30それぞれにおける電流値を検出する。そして、これら電流センサ91,92は、ECU80に信号線81,82によって接続されており、検出した電流情報をECU80に出力するようになっている。
【0024】
また、各MOS-FET50,60同士の間には電流センサ(電流検出手段)93が配設されている。この電流センサ93は、1次系統Aと2次系統Bとの間での電流(リレー電流)の値および流れの向きを検出する。そして、この電流センサ93は、ECU80に信号線83によって接続されており、検出した電流情報をECU80に出力するようになっている。
【0025】
ECU80は、物理的には、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果等の各種データを記憶するRAM、および、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM等により構成されている。また、このECU80は、一定以上の瞬停耐量を有するものとなっており、印加電圧が動作保証電圧を下回った状態でも所定時間はリセットしないものとなっている。そして、前述した物理的な構成によって、ECU80は、地絡判定部84および制御部85といった各種機能部を実現している。
【0026】
地絡判定部84は、各電流センサ91,92,93が検出した電流情報を取得し、電流変化があったことが検出された際には、その電流変化の勾配(単位時間当たりにおける電流値の変化量)が所定の閾値(地絡判定勾配閾値)以上であるか否かを判定する。この閾値は、突入電流の変化の勾配よりも大きな勾配として予め実験やシミュレーションによって設定されている。そして、この電流変化の勾配が所定の閾値以上である場合には、地絡が発生したと判定する。この電流変化の勾配に基づく地絡の有無の判定は、蓄電池端に電気抵抗の小さい金属が適用されている場合における地絡の有無の判定を想定したものである。
【0027】
また、地絡判定部84は、その電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際にその電流の絶対値が所定の閾値(地絡判定電流閾値)以上であるか否かを判定する。この閾値は、突入電流における電流の絶対値よりも大きな値として予め実験やシミュレーションによって設定されている。また、この閾値は、前述した地絡判定勾配閾値や前記瞬停耐量に基づきECU80がリセットしない値として設定されている。そして、この電流の絶対値が所定の閾値以上である場合にも、地絡が発生したと判定する。この電流の絶対値に基づく地絡の有無の判定は、電気負荷端に電気抵抗の大きい金属が適用されている場合(緩やかに電圧が低下する場合)における地絡の有無を判定するためのものである。
【0028】
制御部85は、地絡判定部84によって地絡が発生したと判定された場合に、各MOS-FET50,60の切り離しを行わせるように、各MOS-FET50,60に対して切り離し指令信号を出力する。これにより各MOS-FET50,60が切り離され、1次系統Aと2次系統Bとの間での電流が遮断され、電流の異常伝搬が防止されることになる。
【0029】
-MOS-FETの切り離し制御-
次に、前述の如く構成された電源システム1におけるMOS-FET50,60の切り離し制御について説明する。
図2は、MOS-FET50,60の切り離し制御の手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは、車両のIGスイッチのON操作等によって電源システム1が稼働した状態で所定時間毎に繰り返して実施される。
【0030】
先ず、ステップS1において各電流センサ91,92,93によって検出されている電流に変化があったか否かを判定する。
【0031】
電流に変化がなく、ステップS1でNO判定された場合には、ステップS8に移る。一方、電流に変化があり、ステップS1でYES判定された場合には、ステップS2に移る。ステップS2では、電流センサ91,92,93によって検出されている電流情報に基づき、電流の流れる向きを判定する。具体的には、電流の流れる向きが1次系統Aから2次系統Bに向かう流れであるか否かを判定する。
【0032】
電流の流れる向きが1次系統Aから2次系統Bに向かう流れであり、ステップS2でYES判定された場合には、ステップS3に移る。この場合、2次系統Bに地絡が発生している可能性がある状況となっている。ステップS3では、地絡の発生であることを判定するための電流変化の勾配の閾値(地絡判定勾配閾値)di1と、地絡の発生であることを判定するための電流の絶対値の閾値(地絡判定電流閾値)I1とを設定する。
【0033】
一方、電流の流れる向きが2次系統Bから1次系統Aに向かう流れであり、ステップS2でNO判定された場合には、ステップS4に移る。この場合、1次系統Aに地絡が発生している可能性がある状況となっている。ステップS4では、地絡の発生であることを判定するための電流変化の勾配の閾値(地絡判定勾配閾値)di2と、地絡の発生であることを判定するための電流の絶対値の閾値(地絡判定電流閾値)I2とを設定する。
【0034】
このようにして各閾値を設定した後、ステップS5に移り、電流センサ91,92,93で検出された電流変化の勾配(単位時間当たりの電流変化量:di/dt)を算出する。
【0035】
その後、ステップS6に移り、電流変化の勾配(di/dt)が、前記設定された電流変化の勾配の閾値以上となっているか否かを判定する。つまり、電流の流れる向きが1次系統Aから2次系統Bに向かう流れであった場合には、電流変化の勾配の閾値di1と、検出された電流変化の勾配(di/dt)とを比較する。一方、電流の流れる向きが2次系統Bから1次系統Aに向かう流れであった場合には、電流変化の勾配の閾値di2と、検出された電流変化の勾配(di/dt)とを比較する。
【0036】
そして、電流変化の勾配(di/dt)が、前記設定された電流変化の勾配の閾値以上となっており、ステップS6でYES判定された場合には、ステップS7に移り、各MOS-FET50,60に対して切り離し指令信号が出力され、各MOS-FET50,60の切り離しを行わせる。
【0037】
図3は、地絡に起因する電流変化(図中の実線を参照)および突入電流の電流変化(図中の破線を参照)と、地絡判定勾配閾値(図中の一点鎖線を参照)との関係の一例を示す図である。この
図3は、地絡に起因する電流変化の勾配が比較的大きい場合を示している。この
図3に示すように、地絡に起因する電流変化の勾配は、突入電流の電流変化の勾配よりも大きい。そして、前記閾値を、これら電流変化の勾配同士の中間の値に設定しておくことで、電流変化の勾配が閾値以上となっておればステップS6でYES判定され、ステップS7において各MOS-FET50,60の切り離しが行われることになる。これにより、1次系統Aと2次系統Bとの間での電流が遮断され、電流の異常伝搬が防止されることになる。
【0038】
一方、電流変化の勾配が、前記設定された電流変化の勾配の閾値未満であり、ステップS6でNO判定された場合には、ステップS8に移る。このステップS8では、検出された電流の絶対値が、前記設定された電流の絶対値の閾値以上となっているか否かを判定する。つまり、電流の流れる向きが1次系統Aから2次系統Bに向かう流れであった場合には、電流の絶対値の閾値I1と、検出された電流の絶対値とを比較する。一方、電流の流れる向きが2次系統Bから1次系統Aに向かう流れであった場合には、電流の絶対値の閾値I2と、検出された電流の絶対値とを比較する。
【0039】
そして、検出された電流の絶対値が、前記設定された電流の絶対値の閾値以上となっており、ステップS8でYES判定された場合には、ステップS7に移り、各MOS-FET50,60に対して切り離し指令信号が出力され、各MOS-FET50,60の切り離しを行わせる。
【0040】
図4は、地絡に起因する電流変化(図中の実線を参照)および突入電流の電流変化(図中の破線を参照)と、地絡判定電流閾値(図中の一点鎖線を参照)との関係の一例を示す図である。この
図4は、地絡に起因する電流変化の勾配が比較的小さい場合であって、前述した電流変化の勾配を利用した判定では、地絡が発生していることと突入電流とを判別することが難しい場合を示している。この
図4に示すように、地絡に起因する電流の絶対値は、突入電流の絶対値よりも大きい。そして、前記閾値を、これら電流の絶対値同士の中間の値に設定しておくことで、電流の絶対値が閾値以上となっておればステップS8でYES判定され、ステップS7において各MOS-FET50,60の切り離しが行われることになる。これにより、1次系統Aと2次系統Bとの間での電流が遮断され、電流の異常伝搬が防止されることになる。
【0041】
一方、検出された電流の絶対値が、前記設定された電流の絶対値の閾値未満であり、ステップS8でNO判定された場合には、ステップS9に移り、各MOS-FET50,60に対して切り離し指令信号を出力せず、各MOS-FET50,60の接続状態を維持する。
【0042】
以上の動作が繰り返される。
【0043】
-実施形態の効果-
以上説明したように本実施形態では、1次系統Aと2次系統Bとの間にMOS-FET50,60が備えられた電源システム1において、1次系統Aまたは2次系統Bに電流変化があり、その電流変化の勾配が所定の閾値以上であった場合、または、電流変化の勾配が所定の閾値未満であった際にその電流の絶対値が所定の閾値以上であった場合に、地絡が発生したと判定してMOS-FET50,60の切り離しを行うようにしている。これにより、地絡が発生していることと突入電流とを判別することができ、誤判定によるMOS-FET50,60の切り離しを抑制することができる。その結果、例えば2次側蓄電池30の充放電回数を削減でき、当該2次側蓄電池30の長寿命化を図ることができる。
【0044】
また、前記特許文献1では、電源システムにインダクタンスを必要としていたが、本実施形態では、MOS-FET50,60を適用したことによりインダクタンスを備えさせる必要がない。このため、電源システム1全体の構成の簡素化(小型軽量化)およびコストの低廉化を図ることができる。
【0045】
-他の実施形態-
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0047】
また、前述した電流の方向による閾値の設定は、電流センサ91,92,93によって検出される方向に加えて更に他の条件による場合分けを行ってもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、地絡判定勾配閾値を固定値としていたが、電流センサ91,92,93で検出された電流変化の勾配が大きい場合には、この地絡判定勾配閾値を小さくするように切り替えてもよい。これにより地絡が発生していること(異常時)と、突入電流に起因する変化であること(正常時)とをいっそう早期に判別することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、電源の冗長を必要とする車両搭載の電源システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 電源システム
20 1次側蓄電池
30 2次側蓄電池
50,60 MOS-FET(系統分離リレー)
80 ECU
84 地絡判定部
85 制御部
91,92,93 電流センサ(電流検出手段)
A 1次系統
B 2次系統