(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】運転支援装置及び方法、並びに、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20250107BHJP
B60W 30/16 20200101ALI20250107BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20250107BHJP
B60W 40/072 20120101ALI20250107BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20250107BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250107BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/16
B60W40/04
B60W40/072
B60W40/068
G08G1/16 E
B60T7/12 F
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2021045825
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】沖田 敏宣
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雄基
(72)【発明者】
【氏名】増井 洋平
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-310110(JP,A)
【文献】特開平11-222055(JP,A)
【文献】特開平10-315937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0156602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
G08G 1/00 ~ 1/16
B60T 7/12 ~ 8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させる運転支援装置であって、
前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる制御手段と、
前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記推定手段により、前記自車両の挙動が不安定になると推定され
た場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させ
、
前記推定手段は、前記自車両の前方に、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる曲率を有する所定のカーブが存在するか否かを判定し、
前記自車両の前方に、前記所定のカーブが存在する場合に、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定する
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記自車両の運動状態を検出するセンサにより、前記自車両が
、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる所定の旋回状態にあるか否かを判定し、
前記自車両が前記所定の旋回状態にある場合に、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記自車両が走行している道路の路面の摩擦係数が
、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる所定値以下であるか否かを判定
し、
前記摩擦係数が前記所定値以下である場合に、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させ、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる運転支援装置における運転支援方法であって、
前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定工程と、
前記推定工程において、前記自車両の挙動が不安定になると推定され
た場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させる制御工程と、
を含み、
前記推定工程では、
前記自車両の前方に、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる曲率を有する所定のカーブが存在するか否かが判定され、
前記自車両の前方に、前記所定のカーブが存在する場合に、前記推定工程において、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定される
ことを特徴とする運転支援方法。
【請求項5】
前記推定工程では、前記自車両の運動状態を検出するセンサにより、前記自車両が
、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる所定の旋回状態にあるか否かが判定され、
前記自車両が前記所定の旋回状態にある場合に、前記推定工程において、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定される
ことを特徴とする請求項4に記載の運転支援方法。
【請求項6】
前記推定工程
では、前記自車両が走行している道路の路面の摩擦係数が
、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる所定値以下であるか否か
、が判定され、
前記
摩擦係数が前記所定値以下である場合に、前記推定工程において、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定される
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の運転支援方法。
【請求項7】
自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させる運転支援装置のコンピュータを、
前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる制御手段と、
前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定手段と、
として機能させ、
前記制御手段は、前記推定手段により、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させ
、
前記推定手段は、前記自車両の前方に、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる曲率を有する所定のカーブが存在するか否かを判定し、
前記自車両の前方に、前記所定のカーブが存在する場合に、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定する
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置及び方法、並びに、コンピュータプログラムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、自車両と先行車両との車間距離を制御する装置であって、先行車両の割込事象又は目標車間距離の切替事象が生じたときに、運転者が感じる衝突危険度を算出し、該算出された衝突危険度が高いほど、躍度(即ち、ジャーク)を大きくして自車両を減速させる装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、衝突危険度が比較的高いことのみにより比較的大きい躍度が設定された結果、自車両が急減速すると、自車両の挙動が不安定になる可能性がある。つまり、特許文献1に記載の技術には改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、自車両の挙動が不安定になることを抑制しつつ、自車両を適切に減速させることができる運転支援装置及び方法、並びに、コンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る運転支援装置は、自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させる運転支援装置であって、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる制御手段と、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定手段と、を備え、前記制御手段は、前記推定手段により、前記自車両の挙動が不安定になると推定された場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させ、前記推定手段は、前記自車両の前方に、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる曲率を有する所定のカーブが存在するか否かを判定し、前記自車両の前方に、前記所定のカーブが存在する場合に、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定する。
【0007】
本発明の一態様に係る運転支援方法は、自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させ、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる運転支援装置における運転支援方法であって、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定工程と、前記推定工程において、前記自車両の挙動が不安定になると推定された場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させる制御工程と、を含み、前記推定工程では、前記自車両の前方に、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる曲率を有する所定のカーブが存在するか否かが判定され、前記自車両の前方に、前記所定のカーブが存在する場合に、前記推定工程において、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定される。
【0008】
本発明の一態様に係るコンピュータプログラムは、自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させる運転支援装置のコンピュータを、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる制御手段と、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定手段と、として機能させ、前記制御手段は、前記推定手段により、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させ、前記推定手段は、前記自車両の前方に、前記自車両に制動力が加わった場合に前記自車両の挙動が不安定になる曲率を有する所定のカーブが存在するか否かを判定し、前記自車両の前方に、前記所定のカーブが存在する場合に、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になると推定する。
【発明の効果】
【0009】
当該運転支援装置及び方法、並びに、コンピュータプログラムでは、自車両と先行車両との相対関係に加えて、自車両の挙動安定性についても考慮されている。このため、当該運転支援装置及び方法、並びに、コンピュータプログラムによれば、自車両の減速に起因して自車両の挙動が不安定になることを抑制しつつ、自車両を適切に減速させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る運転支援装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】実施形態に係るコンピュータの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
運転支援装置に係る実施形態について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1において、実施形態に係る運転支援装置100は、車両1(図示せず)に搭載されているものとする。運転支援装置100は、車両1を、該車両1の進路前方を走行している他車両である先行車両に追従するように走行させることができる。つまり、運転支援装置100は、追従型のACC(Adaptive Cruise Control)を実行可能に構成されている。運転支援装置100は、追従型のACCの実行中に、車両1と先行車両との相対関係に応じて、例えば車両1と先行車両との車間距離を制御するために、例えば車両1の制動装置30を用いて車両1を自動的に減速させる減速支援制御を実施可能に構成されている。
【0012】
尚、本実施形態では、追従型のACCの実行中に減速支援制御が実施される態様を一例として挙げるが、これに限定されるものではない。
【0013】
運転支援装置100は、上記減速支援制御を実現するために、その内部に論理的に実現される処理ブロックとして又は物理的に実現される処理回路として、外界環境認識部11、先行車情報演算部12、安定挙動判定部13、必要減速度演算部14、警報実施判定部15、ジャーク抑制実施判定部16、加速度制御部17及び終了判定部18を備えて構成されている。
【0014】
ここで、車両1が備えるセンサ20は、例えばレーダ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、カメラ等の車両1の外界を認識するためのセンサと、例えば速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等の車両1の運動状態を検出するためのセンサとを含んでいる。
【0015】
外界環境認識部11は、センサ20に含まれる車両1の外界を認識するためのセンサによる測定結果を取得する。また、外界環境認識部11は、例えばITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)情報を取得してもよい。外界環境認識部11は、例えば車車間通信により、車両1の周辺を走行している他車両から情報を取得してもよい。
【0016】
外界環境認識部11は、上記取得された測定結果やITS情報等に基づいて、車両1の外界環境を認識する。外界環境としては、例えば他車両や障害物等の物体、気温や降雨量等の気象条件、白線や路面温度等の路面に係る情報、等が挙げられる。尚、外界環境の認識方法については、既存の各種態様を適用可能であるので、その詳細についての説明は省略する。
【0017】
先行車情報演算部12は、外界環境認識部11により、先行車両(即ち、車両1の進路前方を走行している他車両)が認識された場合に、該先行車両に係る先行車情報を演算する。
【0018】
具体的には、先行車情報演算部12は、例えば信頼度を、先行車情報として演算してもよい。ここで、「信頼度」は、先行車両が存在している確からしさを示す指標であってよい。このような信頼度は、例えば、(i)先行車両が、センサ20に含まれる複数種類のセンサにより検出されているか否か、(ii)先行車両が、センサ20に含まれる少なくとも一つのセンサにより継続的に検出されているか否か、(iii)先行車両が、継続的に上述の減速支援制御の制御対象となっているか否か、等の判定結果に基づいて演算されてよい。
【0019】
或いは、「信頼度」は、先行車両が、車両1が走行している車線と同一の車線に存在している確からしさを示す指標であってよい。このような信頼度は、例えば、(i)外界環境認識部11の認識結果等から予測される先行車両の位置と車両1の予測進路との比較結果や、(ii)外界環境認識部11により認識された白線(言い換えれば、車線を規定する区画線)内に先行車両が存在しているか否かの判定結果、等に基づいて演算されてよい。
【0020】
安定挙動判定部13は、外界環境認識部11の認識結果(例えば白線、路面温度等)、センサ20に含まれる車両1の運動状態を検出するためのセンサの測定結果(例えば速度、ヨーレート、加速度等)、路面の推定摩擦係数、等に基づいて、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に、車両1の挙動が不安定になるか否かを判定する。
【0021】
例えば、車両1の制動及び旋回の少なくとも一方に伴い、車両1の横方向のグリップ力が路面摩擦力を上回ると、車両1の挙動が不安定になる。特に、車両1の制動及び旋回が同時に行われると、車両1の挙動が不安定になりやすい。
【0022】
安定挙動判定部13は、例えば「車両1に係る旋回状態量が第1所定値以上である」という第1の条件が成立したときに、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定になると判定してよい。尚、旋回状態量は、車両1のヨーレート、横加速度、旋回曲率(即ち、ヨーレートを速度で除した値)等に基づいて推定可能である。旋回状態量の推定方法については、既存の各種態様を適用可能であるので、その詳細についての説明は省略する。
【0023】
安定挙動判定部13は、例えば「路面の推定摩擦係数が第2所定値以下である、及び/又は、路面温度が第3所定値以下である」という第2の条件が成立したときに、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定になると判定してよい。
【0024】
安定挙動判定部13は、例えば「車両1の予定進路前方に第4所定値以上の曲率を有するカーブが存在する」という第3の条件が成立したときに、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定になると判定してよい。
【0025】
安定挙動判定部13は、上記第1乃至第3の条件のうち一つの条件が成立したときに、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定になると判定してもよい。或いは、安定意挙動判定部13は、上記第1乃至第3の条件のうち複数の条件が成立したときに、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定になると判定してもよい。
【0026】
必要減速度演算部14は、上述の減速支援制御により車両1を減速させる場合に、車両1と先行車両との相対関係(例えば相対位置、相対速度等)に応じて、必要な減速度を演算する。必要減速度は、例えば、車両1と先行車両との相対位置から求められる車間距離の範囲内で、車両1と先行車両との相対速度をゼロにするための減速度とすればよい。必要減速度演算部14は更に、車両1の減速度を、該演算された減速度まで、所定のジャークで変化させた場合に、車両1と先行車両との衝突を回避できるか否かを判定する。
【0027】
警報実施判定部15は、例えば、車両1と先行車両との相対的な位置関係や、必要減速度演算部14により演算された減速度の大きさ、等に基づいて、警報を発するか否かを判定する。
【0028】
ジャーク抑制実施判定部16は、先行車情報演算部12により演算された先行車情報の一例としての信頼度、安定挙動判定部13の判定結果、必要減速度演算部14の判定結果、の少なくとも一つに基づいて、ジャーク抑制を緩和できるか否かを判定する。
【0029】
ここで「ジャーク抑制」について説明する。上述の減速支援制御では、ジャーク(言い換えれば、加加速度)に制限が設けられている。従って、減速支援制御により車両1が減速される場合の減速度(即ち、負の加速度)の時間当たりの変動が抑制される。このように、ジャークに制限を設けることを、本実施形態では「ジャーク抑制」と称する。ジャーク抑制を実施することにより、例えば、車両1の挙動の安定性を向上したり、車両1の乗員が違和感を覚えることを抑制したりすることができる。ジャーク抑制を緩和するとは、ジャークに設けられた制限を緩和する又はなくすことを意味する。
【0030】
加速度制御部17は、例えば車両1の制動装置30や、エンジンの制御装置(図示せず)等の車両1の挙動を実際に変更する一又は複数の構成要素に対して、実現すべき物理量(例えば制動力、出力トルク、エンジン回転数等)を示す情報を送信する。
【0031】
尚、車両1が運転支援装置100に加えて、車両1の加減速に係る制御を行う他のシステムを搭載している場合であって、運転支援装置100と他のシステムとの調停を行う調停部が車両1に存在する場合、加速度制御部17は、該調停部に対して、上述の減速支援制御が要求する減速度を示す情報を送信してもよい。この場合、調停部が、車両1の挙動を実際に変更する一又は複数の構成要素に対して、実現すべき物理量を示す情報を送信してもよい。
【0032】
終了判定部18は、上述の減速支援制御が実施中に、外界環境認識部11の外界環境認識部11の認識結果等から推定される車両1と先行車両との相対関係に基づいて、減速支援制御を終了するか否かを判定する。
【0033】
次に、運転支援装置100の動作について、
図2のフローチャートを参照して説明を加える。
【0034】
図2において、外界環境認識部11は、外界環境を認識する(ステップS101)。次に、先行車情報演算部12は、外界環境認識部11の認識結果に基づいて、先行車情報を演算する(ステップS102)。
【0035】
ステップS102の処理と並行して又は相前後して、安定挙動判定部13は、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に、車両1の挙動が不安定になるか否かを判定する(ステップS103)。ステップS102の処理の後、必要減速度演算部14は、車両1と先行車両との相対関係に応じて必要な減速度を演算する(ステップS104)。このとき、必要減速度演算部14は、車両1の減速度を、該演算された減速度まで、ジャーク抑制を実施して(即ち、ジャークに制限を設けた状態で)ジャークを変化させた場合に、車両1と先行車両との衝突を回避できるか否かを判定する。次に、警報実施判定部15は、警報を発するか否かを判定する(ステップS105)。
【0036】
次に、ジャーク抑制実施判定部16は、先行車情報演算部12により演算された先行車情報の一例としての信頼度、安定挙動判定部13の判定結果、必要減速度演算部14の判定結果、の少なくとも一つに基づいて、ジャーク抑制の緩和が可能か否かを判定する(ステップS106)。
【0037】
ステップS106の処理において、ジャーク抑制の緩和が可能と判定された場合(ステップS106:Yes)、ジャーク抑制実施判定部16は、ジャーク抑制を実施せずに、ジャーク抑制が緩和されたジャークを示す信号を、加速度制御部17に送信する(ステップS107)。ここで、ジャーク抑制の緩和が可能と判定される場合として、例えば信頼度が比較的高く、且つ、ジャーク抑制を実施して車両1と先行車両との衝突を回避することが難しい場合や、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定にならないと判定された場合、が挙げられる。
【0038】
ステップS106の処理において、ジャーク抑制の緩和が可能ではないと判定された場合(ステップS106:No)、ジャーク抑制実施判定部16は、ジャーク抑制を実施して、抑制されたジャークを示す信号を、加速度制御部17に送信する(ステップS108)。ジャーク抑制の緩和が可能ではないと判定される場合として、例えば信頼度が比較的高く、且つ、ジャーク抑制を実施して車両1と先行車両との衝突を回避することができる場合や、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に車両1の挙動が不安定になると判定された場合、が挙げられる。
【0039】
ステップS107及びS108の処理において、ジャーク抑制実施判定部16から加速度制御部17に送信される信号により示されるジャークは、今回車両1を減速させるときのジャークであってもよいし、ジャークの制限値であってもよい。ジャーク抑制実施判定部16から加速度制御部17に、ジャークの制限値を示す情報が送信される場合、加速度制御部17は、該制限値を超えない範囲で、加速度を任意に設定可能である。
【0040】
加速度制御部17は、ジャーク抑制実施判定部16から送信された情報により示されるジャークに基づいて、加速度を制御して車両1を減速させる(ステップS109)。その後、終了判定部18により減速支援制御を終了すると判定された場合に、
図2に示す動作は終了される。
【0041】
(技術的効果)
車両1が、追従型のACCにより、先行車両に追従して走行しているときに、先行車両が減速した場合、運転支援装置100は、車両1が先行車両に接近しすぎないように車両1を減速する。運転支援装置100による車両1の減速は、運転者の意思とは関係なく自動的に行われる。このため、運転支援装置100による車両1の減速に起因して、運転者が違和感を覚えないようにジャークが抑制される。
【0042】
例えば、先行車両が急減速(言い換えれば、急制動)した場合や、車両1と先行車両との間に他車両が割り込んできた場合、抑制されたジャークで、車両1と先行車両又は他車両との衝突を回避できたとしても、車両1が先行車両又は他車両に接近することにより、運転者が不安や違和感を覚える可能性がある。尚、割り込んできた他車両は、新たな先行車両とみなすことができるので、上記他車両は「先行車両」の概念に含めることができる。
【0043】
そこで、必要に応じてジャークを抑制せずに車両1を減速するように構成することが考えられる。しかしながら、ジャークを抑制せずに、車両1に比較的大きい制動力が付与されると、例えば路面状態等によっては車両1の挙動が不安定になる可能性がある。これに対して、運転支援装置100では、車両1と先行車両又は他車両との相対関係に加えて、車両1の挙動安定性についても考慮されている。このため、運転支援装置100によれば、減速支援制御に起因して車両1の挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0044】
減速支援制御に係るジャークを抑制することは、車両1の乗り心地を向上するものではあるが、車両1が先行車両に接近することに起因して乗員が不安を覚える可能性がある。他方で、減速支援制御に係るジャークを抑制しないことは、車両1の安全性を向上するものではあるが、減速支援制御による車両1の減速に起因して乗員が違和感を覚える可能性がある。運転支援装置100は、車両1と先行車両との相対関係や、車両1の挙動等に基づいて、ジャーク抑制と該抑制の緩和とを切り換えることによって、車両1の安全性の向上と、乗員の安心感の向上との両立を図ることができる。
【0045】
<コンピュータプログラム>
コンピュータプログラムに係る実施形態について
図3を参照して説明する。
図3は、実施形態に係るコンピュータの構成を示すブロック図である。
【0046】
図3において、コンピュータ50は、CPU(Central Processing Unit)51、RAM52、HDD(Hard Disk Drive)53及びI/O54を備えて構成されている。CPU51、RAM52、HDD53及びI/O54は、バス55により相互に接続されている。HDD53には、本実施形態に係るコンピュータプログラム531が予め格納されている。
【0047】
コンピュータプログラム531によるCPU51の処理について説明する。CPU51は、センサ20に含まれる車両1の外界を認識するためのセンサによる測定結果を取得する。そして、CPU51は、車両1の外界環境を認識する。外界環境の認識により先行車両が認識された場合、CPU51は、先行車両に係る先行車情報(例えば、信頼度)を演算する。CPU51は、外界環境の認識と並行して又は相前後して、車両1に比較的大きな制動力が加わった場合に、車両1の挙動が不安定になるか否かを判定する。
【0048】
CPU51は、車両1と先行車両との相対関係に応じて必要な減速度を演算する。このとき、CPU51は、車両1の減速度を、上記演算された減速度まで、ジャーク抑制を実施してジャークを変化させた場合に、車両1と先行車両との衝突を回避できるか否かを判定する。そして、CPU51は、警報を発するか否かを判定する。
【0049】
CPU51は、(i)先行車情報の一例としての信頼度、(ii)車両1の挙動が不安定になるか否かの判定結果、(iii)ジャーク抑制を実施してジャークを変化させた場合に、車両1と先行車両との衝突を回避できるか否かの判定結果、の少なくとも一つに基づいて、ジャーク抑制の緩和が可能か否かを判定する。
【0050】
ジャーク抑制の緩和が可能と判定された場合、CPU51は、ジャーク抑制を実施せずに、ジャーク抑制が緩和されたジャークに基づいて、加速度を制御して車両1を減速させる。他方、ジャーク抑制の緩和が可能ではないと判定された場合、CPU51は、ジャーク抑制を実施して、抑制されたジャークに基づいて、加速度を制御して車両1を減速させる。
【0051】
尚、コンピュータ50が、例えば、コンピュータプログラム531を格納するCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の光ディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ、等の記録媒体から、コンピュータプログラム531を読み込むことにより、HDD53にコンピュータプログラム531が格納されてよい。或いは、コンピュータ50が、例えばインターネット等のネットワークを介して、コンピュータプログラム531をダウンロードすることにより、HDD53にコンピュータプログラム531が格納されてよい。
【0052】
コンピュータプログラム531によれば、上述した運転支援装置100と同様に、車両1と先行車両との相対関係や、車両1の挙動等に基づいて、ジャーク抑制と該抑制の緩和とを切り換えることによって、車両1の安全性の向上と、乗員の安心感の向上との両立を図ることができる。
【0053】
以上に説明した実施形態から導き出される発明の態様を以下に説明する。
【0054】
発明の一態様に係る運転支援装置は、自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させる運転支援装置であって、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる制御手段と、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定手段と、を備え、前記制御手段は、前記推定手段により、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させるというものである。
【0055】
上述の実施形態においては「安定挙動判定部13」、「ジャーク抑制実施判定部16」及び「加速度制御部17」が「制御手段」の一例に相当し、「外界環境認識部11」が「推定手段」の一例に相当し、「制動装置30」が「減速手段」の一例に相当する。上述の実施形態において「ジャーク抑制が実施されているときのジャーク」が「第1変化量」の一例に相当し、「ジャーク抑制が実施されていないときのジャーク」が「第2変化量」の一例に相当する。
【0056】
当該運転支援装置では、前記推定手段は、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定することの少なくとも一部として、前記自車両の運動状態を検出するセンサにより、前記自車両が所定の旋回状態にあるか否かを判定してよく、前記制御手段は、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合としての、前記自車両が前記所定の旋回状態にあると判定された場合に、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させてよい。
【0057】
当該運転支援装置では、前記推定手段が、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定することには、前記自車両が走行している道路の路面の状況を推定することが含まれてよく、前記推定手段は、(i)前記路面の状況としての前記路面の摩擦係数が所定値以下であるか否か、(ii)所定の気象状況であるか否か、(iii)前記自車両の前方にカーブが存在するか否か、のいずれかに基づいて、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを判定してよい。
【0058】
発明の一態様に係る運転支援方法は、自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させ、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる運転支援装置における運転支援方法であって、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定工程と、前記推定工程において、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させる制御工程と、を含むというものである。
【0059】
当該運転支援方法において、前記推定工程では、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定することとして、前記自車両の運動状態を検出するセンサにより、前記自車両が所定の旋回状態にあるか否かが判定されてよく、前記制御工程では、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合としての、前記自車両が前記所定の旋回状態にあると判定された場合に、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させてよい。
【0060】
当該運転支援方法において、前記推定工程は、前記自車両が走行している道路の路面の状況を推定することを含んでよく、前記推定工程は、(i)前記路面の状況としての前記路面の摩擦係数が所定値以下であるか否か、(ii)所定の気象状況であるか否か、(iii)前記自車両の前方にカーブが存在するか否か、のいずれかに基づいて、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを判定してよい。
【0061】
発明の一態様に係るコンピュータプログラムは、自車両と、前記自車両の前方を走行している先行車両との相対関係に応じて、前記自車両の減速手段を用いて前記自車両を自動的に減速させる運転支援装置のコンピュータを、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記自車両の減速度を、第1変化量又は前記第1変化量より大きい第2変化量で変化させる制御手段と、前記減速手段による減速で前記自車両の挙動が不安定になることを推定する推定手段と、として機能させ、前記制御手段は、前記推定手段により、前記自車両の挙動が不安定になると推定される場合、前記自車両を自動的に減速させるときに、前記減速度を前記第1変化量で変化させるというものである。
【0062】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う運転支援装置及び方法、並びに、コンピュータプログラムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0063】
1…車両、11…外界環境認識部、12…先行車情報演算部、13…安定挙動判定部、14…必要減速度演算部、15…警報実施判定部、16…ジャーク抑制実施判定部、17…加速度制御部、18…終了判定部、20…センサ、30…制動装置、100…運転支援装置