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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20250107BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20250107BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250107BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250107BHJP
   C08L 23/02 20250101ALI20250107BHJP
   C08L 23/26 20250101ALI20250107BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B7/06
B32B27/00 L
B32B27/32 E
B65D65/40 D
C08L23/02
C08L23/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021051602
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149440
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 真保
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223752(JP,A)
【文献】特開2017-030218(JP,A)
【文献】特開2008-080626(JP,A)
【文献】特開2014-196438(JP,A)
【文献】特開2002-187997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14
B65D65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂とシリル化ポリオレフィン樹脂とを含む離型層(A)と、基材層(B)とを含む少なくとも2層からなる多層フィルムであって、
前記シリル化ポリオレフィン樹脂は、片末端及び/又は両末端に不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂と、シロキサンコポリマーを反応させた重合体であり、
前記の片末端及び/又は両末端に不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が5,000g/mol以上100,000g/mol以下であり、
前記離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂が、シリル化ポリプロピレン樹脂であり、
基材層(B)に曲げ弾性率が400~2000MPaの熱可塑性樹脂を含む、多層フィルム。
【請求項2】
前記離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率が、1~50質量%である、請求項に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記離型層(A)に含まれるポリオレフィン樹脂がポリプロピレン樹脂である、請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記離型層(A)に含まれるポリオレフィン樹脂がプロピレン-エチレン共重合体である、請求項1~のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記基材層(B)に含まれる熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂である、請求項1~のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
厚さが10~500μmである、請求項1~のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の多層フィルムからなる、食品包装用フィルム。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の多層フィルムからなる、産業用離型フィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の多層フィルムからなる、液晶保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装用フィルム、産業用離型フィルム及び液晶保護フィルムとして好適に使用できる、離型性を有した多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂は、優れた成形性、機械強度、透明性、耐薬品性等を有しており、様々な分野で使用されている。特に、ポリプロピレン樹脂は、耐熱性や剛性が必要とされる用途にも幅広く使用されている。
【0003】
近年、食品ロスを減らす目的で、内容物残りが少ない食品包装用フィルムが求められている。一方、当該フィルムには印刷適正も求められることから、これらの特性を共に満たすフィルムとして、多層フィルムが用いられる。
多層フィルムの離型層にはシリコーンオイルや脂肪酸アマイド等の低分子量離型剤が用いられるが、低分子量成分が経時でブリードし、食品に移行するという課題がある。
一方、保護フィルムやテープ基材等の産業用離型フィルムにおいても、経時のブリードによる低分子量成分の被着物への移行や、性能悪化が課題となっている。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1では、末端不飽和ポリプロピレン樹脂と特定の構造を有するシロキサンコポリマーとをヒドロシリル化によって反応させたシリル化ポリプロピレン樹脂が開示されており、当該樹脂をポリプロピレン樹脂に少量添加することにより、ポリプロピレン樹脂本来のヒートシール性を維持しつつ、撥水/撥油性や離型性を向上できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、シリル化ポリオレフィン樹脂を含む単層又は多層の包装材について開示されており、多層フィルムを構成する離型可能な層(身離れ性を有する層)と基材層にはポリプロピレン樹脂を使用してもよい旨の記載がある。
【0006】
さらに、特許文献3では、シリル化ポリオレフィン樹脂と熱可塑性樹脂からなる成形体や多層フィルムについて開示されており、当該成形体は藻類を簡易に除去できる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-179344号公報
【文献】特開2014-177541号公報
【文献】特開2019-127582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には、シリル化ポリプロピレン樹脂を用いた多層フィルムの効果については開示されておらず、不明な点が多い。また、特許文献2には、より高い性能を発揮できる層構成やポリプロピレン樹脂の種類については、何ら記載も示唆もされていない。さらにまた、特許文献3に記載の多層フィルムを構成する離型層として開示されているのは実質的にシリル化ポリエチレン樹脂と低密度ポリエチレン樹脂のブレンド物のみである。低密度ポリエチレンは剛性が低いため、離型性に劣る懸念がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものである。即ち、本発明は、優れた離型性、印刷適性、ヒートシール性を有する多層フィルム、食品包装用フィルム、産業用離型フィルム及び液晶保護フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材層に特定の弾性率の熱可塑性樹脂を含むことで離型性が大幅に向上することを見出した。また、多層構成とすることで、印刷適性とヒートシール性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0011】
[1]ポリオレフィン樹脂とシリル化ポリオレフィン樹脂とを含む離型層(A)と、基材層(B)とを含む少なくとも2層からなる多層フィルムであって、基材層(B)に曲げ弾性率が400~2000MPaの熱可塑性樹脂を含む、多層フィルム。
[2]前記離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂が、シリル化ポリプロピレン樹脂である、[1]に記載の多層フィルム。
[3]前記離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率が、1~50質量%である、[1]又は[2]に記載の多層フィルム。
【0012】
[4]前記離型層(A)に含まれるポリオレフィン樹脂がポリプロピレン樹脂である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の多層フィルム。
[5]前記離型層(A)に含まれるポリオレフィン樹脂がプロピレン-エチレン共重合体である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の多層フィルム。
[6]前記基材層(B)に含まれる熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【0013】
[7]厚さが10~500μmである、[1]~[6]のいずれか一項に記載の多層フィルム。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載の多層フィルムからなる、食品包装用フィルム。
[9][1]~[7]のいずれか一項に記載の多層フィルムからなる、産業用離型フィルム。
[10][1]~[7]のいずれか一項に記載の多層フィルムからなる、液晶保護フィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多層フィルム、食品包装用フィルム、産業用離型フィルム及び液晶保護フィルムは、上記構成を有するため、ポリオレフィン樹脂本来の透明性、撥水性、剛性、強度、印刷適性、ヒートシール性を維持したまま、シリコーン樹脂特有の離型性、防汚性、撥油性、低摩擦性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0016】
本発明の多層フィルムは、離型層(A)と、基材層(B)とを含む少なくとも2層からなる。
【0017】
<離型層(A)>
本発明の離型層(A)は、ポリオレフィン樹脂とシリル化ポリオレフィン樹脂を含む。離型層(A)にポリオレフィン樹脂を含むことにより、本発明の多層フィルムはヒートシール性に優れる。また、離型層(A)にシリル化ポリオレフィン樹脂を含むことにより、本発明の多層フィルムは離型性に優れる。
【0018】
離型層(A)に含まれるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アルキルアクリレート共重合、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体が挙げられる。
これらの中では、剛性が高く、離型性を付与できる観点から、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0019】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、及びこれらの酸変性物が挙げられる。
プロピレンと共重合するαオレフィンとしては、例えば、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1が挙げられる。これらはランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよいし、混合物でもよい。
これらの中では、離型層(A)に優れたヒートシール性を付与できることから、一般的にランダムPPと呼ばれるプロピレン-エチレン共重合体が好ましい。
ポリプロピレン樹脂の重合触媒としては、チーグラーナッタ触媒、メタロセン触媒のどちらでもよい。
【0020】
離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂は、片末端及び/又は両末端に不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂と、シロキサンコポリマーを反応させた重合体である。
シリル化ポリオレフィン樹脂としては、例えば、特開2017-179344号公報に記載の方法により、白金触媒を使用したヒドロシリル化で製造可能なシリル化ポリプロピレン樹脂;特開2014-177541号公報に記載の方法により製造可能なシリル化ポリエチレン樹脂が挙げられる。
これらの中では、離型性や耐熱性、透明性等のバランスに優れるシリル化ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0021】
片末端及び/又は両末端に不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂の不飽和末端としては、反応性の観点からビニル基、ビニレン基、ビニリデン基が好ましく、ビニル基、ビニリデン基がより好ましく、ビニリデン基が更に好ましい。
【0022】
片末端及び/又は両末端に不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は5,000~100,000g/molが好ましく、10,000~80,000g/molがより好ましく、15,000~70,000g/molが更に好ましく、20,000~60,000g/molが特に好ましく、30,000~50,000g/molが最も好ましい。
不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であれば、十分な反応性を維持したまま、前記シリル化ポリプロピレン樹脂は成形性に優れる。
【0023】
片末端及び/又は両末端に不飽和結合を有するポリオレフィン樹脂は、公知の技術を用いて製造してもよいし、市販品を用いてもよい。
市販品としては、三洋化成社製ビスコール330-P(重量平均分子量:40,000g/mol)、330-PSK(重量平均分子量:40,000g/mol)、440-P(重量平均分子量:30,000g/mol)、550-P(重量平均分子量:15,000g/mol)、660-P(重量平均分子量:8,000g/mol)等が挙げられる。
【0024】
離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、4質量%以上が特に好ましく、5質量%以上が最も好ましい。
離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率が1質量%以上であれば、本発明の多層フィルムは離型性に優れる。
【0025】
一方、離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、35質量%以下が特に好ましく、30質量%以下が最も好ましい。
離型層(A)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率が50質量%以下であれば、本発明の多層フィルムはポリオレフィン樹脂フィルムとしての強度を維持することができる。
【0026】
離型層(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分を含んでもよい。
他の樹脂成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、脂肪族ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルイミドサルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリアミドイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、液晶ポリマー、及びこれらの共重合体、これらの混合物が挙げられる。
【0027】
離型層(A)に他の樹脂成分を含む場合、その含有率は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
離型層(A)に含まれる他の樹脂成分の含有率が上記範囲内であれば、本発明の多層フィルム本来の効果を損なうことなく、耐熱性や剛性、離型性、低摩耗性、遮光性、耐候性、透明性、ガスバリア性等の性能を適宜付与できる。
【0028】
<基材層(B)>
本発明の基材層(B)は、曲げ弾性率が400~2000MPaの熱可塑性樹脂を含む。
曲げ弾性率の下限は450MPa以上が好ましく、500MPa以上がより好ましく、550MPa以上が更に好ましく、600MPa以上が特に好ましい。
曲げ弾性率が400MPa以上であれば、本発明の多層フィルムに十分な剛性を付与することができ、離型性が十分なものとなる。
【0029】
一方、曲げ弾性率の上限は1900MPa以下が好ましく、1800MPa以下がより好ましく、1700MPa以下が更に好ましく、1600MPa以下が特に好ましい。
曲げ弾性率が2000MPa以下であれば、しなやかで扱いやすいフィルムとなる。
【0030】
基材層(B)に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、脂肪族ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルイミドサルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリアミドイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、液晶ポリマー、及びこれらの共重合体、これらの混合物が挙げられる。
これらの中では、剛性や印刷適性に優れ、且つ、離型層(A)を構成するポリオレフィン樹脂やシリル化ポリオレフィン樹脂との接着性が良好であり、特に接着層を介さずに多層フィルムが得られることから、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アルキルアクリレート共重合、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体が挙げられる。
これらの中では、剛性が高く、離型性を付与できる観点からポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0032】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、及びこれらの酸変性物が挙げられる。
プロピレンと共重合するαオレフィンとしては、例えば、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1が挙げられる。これらはランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよいし、混合物でもよい。
これらの中では、基材層(B)に高い剛性を付与できることから、一般的にホモPPと呼ばれるプロピレン単独重合体が好ましい。
ポリプロピレン樹脂の重合触媒としては、チーグラーナッタ触媒、メタロセン触媒のどちらでもよい。
【0033】
基材層(B)は、基材層(B)全体の50質量%以上がポリプロピレン樹脂であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
基材層(B)を構成する成分の内、ポリプロピレン樹脂が占める割合が上記範囲内であれば、本発明の多層フィルムは離型性や印刷適性、透明性に優れる。
【0034】
基材層(B)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率は1質量%以下であることが好ましく、含まれていないことがより好ましい。
基材層(B)に含まれるシリル化ポリオレフィン樹脂の含有率が1質量%以下であれば、本発明の多層フィルムは印刷適性に優れる。
【0035】
基材層(B)は1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
基材層が2層以上の場合は、基材層を構成する各層の曲げ弾性率と各層の層比を掛け合わせた値の合計値が400~2000MPaとなればよい。
【0036】
<多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、離型層(A)と基材層(B)とをそれぞれ最外層に配する少なくとも2層からなる。
離型層(A)にポリオレフィン樹脂とシリル化ポリオレフィン樹脂を含むことで、離型性とヒートシール性を両立することができる。
また、基材層(B)に特定の曲げ弾性率の熱可塑性樹脂を含むことで、剛性を担保し、離型性を向上することができる。基材層(B)は、2層以上の多層構成であってもよい。
【0037】
多層フィルムは離型層(A)と基材層(B)をそれぞれ最外層に配していればよく、例えば、(A)/(B)の二層構成、その他の層(C)を含む(A)/(C)/(B)の三層構成、その他の層(C)及び(D)を含む(A)/(C)/(D)/(B)の四層構成、(A)/(C)/(D)/(C)/(B)の五層構成、その他の層(C)、(D)及び(E)を含む(A)/(C)/(D)/(E)/(B)の五層構成が挙げられる。
また、基材層(B)は(B1)/(B2)等の2層構成あるいはそれ以上の層構成であってもよい。その他の層としては、例えば、耐熱層、導電層、帯電防止層、保護層、支持層、耐候層、遮熱層、調光層、着色層、接着層、イージーピール層が挙げられる。
【0038】
多層フィルムの厚さの下限値は10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましく、25μm以上が特に好ましく、30μm以上が最も好ましい。
多層フィルムの厚さが上記下限値以上であれば、フィルムに十分な剛性を付与することができ、離型性に優れる。
【0039】
一方、多層フィルムの厚さの上限値は500μm以下が好ましく、450μm以下がより好ましく、400μm以下が更に好ましく、350μm以下が特に好ましく、300μm以下が最も好ましい。
多層フィルムの厚さが上記上限値以下であれば、透明性に優れる。
【0040】
本発明の多層フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の各種添加剤を含んでもよい。
【0041】
<製造方法>
本発明の多層フィルムは、一般の成形法、例えば、押出成形、圧空成形、プレス成形によって製造することができる。それぞれの成形方法において、装置及び加工条件は特に限定されるものではない。
【0042】
多層フィルムは、フィルムの構成材料を、無延伸又は延伸して得ることができる。この場合、例えば、各構成材料を溶融混練した後、押出成形し、冷却することにより製造できる。
溶融混練には、単軸又は二軸押出機等の公知の混練機を用いることができる。
溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、生産性等の観点から、160℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。また、樹脂の分解を防ぐという観点から、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、220℃以下が更に好ましい。
【0043】
多層フィルムの製造には、各層の樹脂組成物を積層して積層する共押出法、各層をフィルム状に形成し、これをラミネートする押出ラミネート法、各層をフィルム状に形成し、これらを熱圧着する熱圧着法のいずれを用いて成形してもよいが、生産性の観点から、共押出法で成形することが好ましい。
共押出法には、口金で各層の樹脂組成物が合流するマルチマニホールド法、フィードブロックで合流するフィードブロック法等があり、どちらを採用してもよいが、厚さ精度に優れるマルチマニホールド法を用いることが好ましい。
【0044】
Tダイ法を用いる場合、キャストロールの温度は、キャストロールに密着する樹脂によって適宜調整する必要があるものの、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。
キャストロールの温度が上記下限値以上であれば、フィルムとキャストロールとの密着性が良好であり、外観や厚さ精度が良好なフィルムが得られる。
一方、上限値としては100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
キャストロールの温度が上記上限値以下であれば、キャストロールへのフィルムの貼り付きを抑制でき、外観や厚さ精度が良好なフィルムが得られる。
【0045】
インフレーション成形の場合、ブロー比は通常1.1~10倍の範囲であり、物性の観点から1.3~5倍の範囲が好ましく、1.5~4倍の範囲がより好ましい。
また、空冷インフレーション法、水冷インフレーション法のどちらでもよく、ブローの方向は上向き、下向きのどちらでもよい。
一般的に、空冷インフレーション法は生産性に優れる。一方、水冷インフレーション法は、フィルムを急冷できるため透明性や厚み精度に優れる。目的に応じて必要な設備を選択することができる。
【0046】
カレンダー成形の場合、ロール設定温度は樹脂組成物の流動特性やロール剥離性、製膜速度等によって適宣調整されるが、好ましくは160~250℃、より好ましくは180~220℃である。
カレンダー成形時のロール設定温度がかかる範囲であれば、樹脂の分解を抑制しつつ成形性を十分に確保することができる。
【0047】
<用途・使用態様>
本発明の多層フィルムは、離型性、ヒートシール性、印刷適性に優れるため、食品包装用フィルム、産業用離型フィルム、液晶保護フィルムとして好適に使用できる。
【実施例
【0048】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0049】
[物性]
<離型性>
布粘着テープ<LS>No.123(ニチバン(株)製)を15mm幅×100mm長さにカットして、多層フィルムの離型層(A)側に貼り付け、23℃×50%RHの環境下で一時間保持した後、23℃×50%RH、200mm/分の条件で、引張試験機を用いて剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。
【0050】
<印刷適性>
多層フィルムの基材層(B)側に「ペンてるペンENN50」(ぺんてる(株)製)で線を引き、インクの弾き具合を評価した。きれいに書けるものを「〇」、インクを弾いてきれいに書くことができないものを「×」とした。
【0051】
<ヒートシール温度>
多層フィルムの離型層(A)側を向き合わせて重ね、10mm幅、2N、1秒間の条件で100℃から10℃ずつ温度を上げていきながら、ヒートシールを行なった。
その後、23℃×50%RH、200mm/分の条件で、引張試験機を用いて剥離試験を行ない、フィルム同士の界面が剥がれずに破断した時の温度をヒートシール温度とした。
【0052】
<シリル化ポリプロピレン樹脂の製造>
[原料]
・末端不飽和結合ポリプロピレン樹脂(三洋化成(株)製、ビスコール 330-PSK、重量平均分子量=40,000g/mol、数平均分子量=12,000g/mol、ビニリデン末端反応基比率=0.08mmol/g)
・メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサンコポリマー(Nusil Technology社製、XL1-116、数平均分子量=6,610g/mol、SiH反応基置換比率=0.9mmol/g)
・触媒:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン複合体(Gelest社製、SIP6831.2)
【0053】
(製造例1)
メカニカルスターラー付き4つ口フラスコに、末端不飽和結合ポリプロピレン樹脂(25g、反応基=2.0mmol)、メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサンコポリマー(7.22g、反応基=6.5mmol)と、トルエンを156mL加え、15分間窒素バブリングした。その後、103℃まで昇温し、均一に撹拌した後に、白金触媒(4.9μL)を投入し、103℃で5時間撹拌した。
【0054】
その後、撹拌しながら80℃まで反応溶液を冷却し、ポリマーが析出するまでイソプロパノール(270mL)を添加した。析出したポリマーは濾過により回収し、イソプロパノール(200mL)で洗浄した。得られたポリマーは70℃で減圧乾燥した。最終的な収量は29.3gであった。
H-NMR測定の結果、末端ビニリデン基が消失したことを確認した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定より、数平均分子量が24,000g/molまで増大したことを確認しており、これらの結果を合わせてヒドロシリル化反応が進行し、シリコーンとポリプロピレンが結合したことが明らかとなった。
【0055】
<離型層(A)>
[原料]
(a)-1:プロピレン-エチレン共重合体(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP FW4B、曲げ弾性率=700MPa)
(a)-2:シリル化ポリプロピレン(製造例1で作製)
(a)-3:直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックC6 SF8402、曲げ弾性率=340MPa)
(a)-4:プロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP FY6、曲げ弾性率=1500MPa)
【0056】
<基材層(B)>
[原料]
(b)-1:プロピレン-エチレン共重合体(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP FW4B、曲げ弾性率=700MPa)
(b)-3:直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックC6 SF8402、曲げ弾性率=340MPa)
(b)-4:プロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP FY6、曲げ弾性率=1500MPa)
【0057】
<実施例1>
単軸押出機を三台有する、3種3層押出設備を用いた。押出温度は全層200℃とした。最内層に[(a)-1]:[(a)-2]=90:10の割合となるようにブレンドして投入し、中間層と最外層に(b)-1を投入した。
押出機回転数と引取速度を調整することで、実質的に離型層(A)/基材層(B)=10μm/40μmの2種2層構成の多層フィルムを得た。得られたフィルムについて、各種評価を行なった。結果を表1に示す。
【0058】
<実施例2>
中間層に(b)-4を用い、実質的に3種3層構成のフィルムとしたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを得た。結果を表1に示す。
尚、基材層(B)は中間層(B1)/最外層(B2)=30/10μm(層比=75/25)の2層からなり、それぞれを構成する樹脂成分の曲げ弾性率は1500MPaと700MPaであることから、これらを掛け合わせた値の合計値は1300MPaである。
【0059】
<実施例3>
最内層の配合を[(a)-1]:[(a)-2]=80:20としたこと以外は、実施例2と同様にして多層フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例4>
最内層の配合を[(a)-2]:[(a)-4]=10:90としたこと以外は、実施例2と同様にして多層フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例1>
最内層の配合を[(a)-2]:[(a)-3]=10:90、中間層と最外層を(b)-3とし、実質的に離型層(A)/基材層(B)=10μm/40μmの2種2層構成の多層フィルムとしたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0062】
<比較例2>
フィルムの材料として(a)-1を用い、(a)-1の単層フィルム(厚さ50μm)としたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0063】
<比較例3>
フィルムの材料として[(a)-1]:[(a)-2]=90:10を用い、[(a)-1]:[(a)-2]=90:10の単層フィルム(厚さ50μm)としたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、本発明に該当する実施例1~4のフィルムは、離型層(A)にシリル化ポリプロピレン樹脂を含んでおり、更に基材層(B)に最適な弾性率を有するポリプロピレン樹脂を含んでいるため、離型性に優れることがわかった。また、最外層をポリプロピレン樹脂とすることで、印刷適性にも優れることがわかった。
さらに、実施例1~3のフィルムは、離型層(A)にプロピレン-エチレン共重合体を用いているため、低温でのヒートシール性も有しており、包装材料として適していることがわかった。
【0066】
一方、比較例1のフィルムは、基材層(B)に直鎖状低密度ポリエチレンを用いており、この材料の曲げ弾性率が340MPaと低いことから、印刷適性やヒートシール性には優れるものの、離型性が十分ではないことがわかった。
さらに、比較例2のフィルムは、実質的にプロピレン-エチレン共重合体の単層フィルムであり、シリル化ポリプロピレン樹脂を含んでいないため、離型性が十分ではなかった。
また、比較例3のフィルムは、実質的にプロピレン-エチレン共重合体とシリル化ポリプロピレン樹脂のブレンド物の単層フィルムであり、離型性やヒートシール性には優れるものの、印刷適性が十分ではなかった。