IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-走行制御装置 図1
  • 特許-走行制御装置 図2
  • 特許-走行制御装置 図3
  • 特許-走行制御装置 図4
  • 特許-走行制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
B62D6/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021053291
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150613
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【弁理士】
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】国弘 洋司
(72)【発明者】
【氏名】小城 隆博
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 久哉
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162015(JP,A)
【文献】特開平11-096497(JP,A)
【文献】特開2018-012424(JP,A)
【文献】特開2017-218001(JP,A)
【文献】特開2015-140114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両がレーン内で走行するように前記車両の走行を制御するレーン維持制御を継続しつつ運転者の操舵介入によるレーンチェンジを許容する走行制御装置であって、
前記車両が走行しているレーン内に沿った目標軌道を設定する軌道設定部と、
前記車両の横位置を取得する位置取得部と、
前記軌道設定部によって設定された前記目標軌道と前記位置取得部によって取得された前記車両の横位置とに基づいて前記車両の目標舵角を決定する舵角決定部と、
前記舵角決定部によって決定された前記目標舵角に基づいて制御トルクを前記車両の操舵軸に付与するレーン維持制御部と、
を備え、
前記軌道設定部は、前記制御トルクを超えた前記運転者による操舵介入によって前記車両の横位置が変更され、前記車両が前記レーンに隣接する隣接レーンに進入したことに応じて、前記目標軌道を前記隣接レーンに再設定し、
前記舵角決定部は、前記目標軌道が前記隣接レーンに再設定されたことに応じて、徐変関数を用いて前記目標軌道の再設定時における前記目標舵角を変化させることにより、前記車両が前記隣接レーンへ進入した後の前記目標舵角を決定
前記舵角決定部は、前記目標軌道が前記レーン及び隣接レーンに設定されている場合には前記目標舵角に処理フィルタを適用し、
前記舵角決定部は、前記目標軌道が前記隣接レーンに再設定された場合に前記目標舵角に前記処理フィルタを適用しない、
走行制御装置。
【請求項2】
前記徐変関数は、前記車両が前記隣接レーンに進入したタイミングから所定時間経過するまでの期間は単位時間当たりの徐変量が所定値よりも大きく、前記期間の経過後は単位時間あたりの徐変量が前記所定値よりも小さい、請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記舵角決定部は、前記車両が前記隣接レーンに進入する前に前記運転者が操舵介入を終了させた場合には、前記運転者の操舵終了時における前記目標舵角が前記運転者の操舵の終了から時間経過に伴って徐々に徐変前のレーンを追従するための目標角に近づくように決定する請求項1又は2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記レーンから前記隣接レーンへのレーンチェンジ軌跡を生成する軌跡生成部と、
前記車両が前記軌跡生成部によって生成された前記レーンチェンジ軌跡に沿って走行するように前記車両の走行を制御するレーンチェンジ制御部と、
を備え、
前記軌道設定部は、前記レーンチェンジ制御部によるレーンチェンジ中に前記運転者の操舵介入によって前記車両の横位置が変更され、前記車両が前記レーンに隣接する隣接レーンに進入したことに応じて、前記目標軌道を前記隣接レーンに再設定する、請求項1~の何れか一項に記載の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、レーン維持制御及び自動レーンチェンジ制御を実行する装置を開示する。この装置は、レーン維持制御実行中に自動レーンチェンジ制御を行う場合、レーン維持制御を中断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-149179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置にあっては、レーン維持制御がレーンチェンジの度に中断する。このため、レーン維持制御の再開のための操作が増加するおそれがある。このような操作の増加を抑制させるためには、レーン維持制御の機能を継続させた状態で、運転者の手動介入によるレーンチェンジを行うこと、つまり、レーンチェンジにおいて運転者とレーン維持制御システムとの協調による半自動運転を実現させることが考えられる。しかしながら、レーン維持制御を継続させた状態でレーンチェンジを行う場合、追従するレーンが切り替わるタイミングでレーン維持制御システムの目標舵角変化が大きくなり、運転者に違和感を与えるおそれがある。本開示は、レーン維持制御を継続しながら運転者の手動介入によるレーンチェンジを行う場合に、目標舵角変化を抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る走行制御装置は、車両がレーン内で走行するように車両の走行を制御するレーン維持制御を継続しつつ運転者の操舵介入によるレーンチェンジを許容する走行制御装置であって、車両が走行しているレーン内に沿った目標軌道を設定する軌道設定部と、車両の横位置を取得する位置取得部と、軌道設定部によって設定された目標軌道と位置取得部によって取得された車両の横位置とに基づいて車両の目標舵角を決定する舵角決定部と、舵角決定部によって決定された目標舵角に基づいて制御トルクを車両の操舵軸に付与するレーン維持制御部と、を備え、軌道設定部は、制御トルクを超えた運転者による操舵介入によって車両の横位置が変更され、車両がレーンに隣接する隣接レーンに進入したことに応じて、目標軌道を隣接レーンに再設定し、舵角決定部は、目標軌道が隣接レーンに再設定されたことに応じて、徐変関数を用いて目標軌道の再設定時における目標舵角を変化させることにより、車両が隣接レーンへ進入した後の目標舵角を決定する。
【0006】
この装置においては、制御トルクを超えた運転者による操舵介入によって車両の横位置が変更され、車両がレーンに隣接する隣接レーンに進入したことに応じて、目標軌道が隣接レーンに再設定される。そして、目標軌道が隣接レーンに再設定されたことに応じて、徐変関数を用いて目標軌道の再設定時における目標舵角を変化させることにより、車両が隣接レーンへ進入した後の目標舵角が決定される。このように、この装置は、目標軌道が切り替わった場合に、目標軌道と車両の横位置とに基づいて目標舵角を決定するのではなく、目標軌道の再設定時における目標舵角から徐々に変化するように隣接レーンにおける目標舵角を決定できる。よって、この装置は、レーン維持制御を継続しながら運転者の手動介入によるレーンチェンジを行う場合に、目標軌道と車両の横位置とに基づいて目標舵角を決定する場合と比べて、目標舵角変化を抑制することができる。
【0007】
一実施形態においては、徐変関数は、車両が隣接レーンに進入したタイミングから所定時間経過するまでの期間は単位時間当たりの徐変量が所定値よりも大きく、期間の経過後は単位時間あたりの徐変量が所定値よりも小さくしてもよい。一実施形態においては、舵角決定部は、目標軌道がレーン及び隣接レーンに設定されている場合には目標舵角に処理フィルタを適用し、舵角決定部は、目標軌道が隣接レーンに再設定された場合に目標舵角に処理フィルタを適用しなくてもよい。さらに、舵角決定部は、車両が隣接レーンへ進入した後の徐変中に、再度レーンに戻ったことに応じて、目標軌道をレーンに再設定する徐変中の目標舵角から処理を実施してもよい。
【0008】
一実施形態においては、舵角決定部は、車両が隣接レーンに進入する前に運転者が操舵介入を終了させた場合には、運転者の操舵終了時における目標舵角が運転者の操舵の終了から時間経過に伴って徐々に徐変前のレーンを追従するための目標角(レーンが直線形状の場合は略零、レーンがカーブ形状の場合は旋回に必要な舵角)に近づくように変更してもよい。このように構成された装置は、車両が隣接レーンに進入する前に運転者がハンドルから手を離したときに目標舵角が急激に変化することを回避できる。そして、手離し後において目標舵角がスムーズに収束している最中に車両が隣接レーンに進入した場合には、目標軌道の再設定時における目標舵角から徐々に変化するように隣接レーンにおける目標舵角が決定される。よって、この装置は、車両が隣接レーンに進入する前に運転者がハンドルから手を離した場合であっても、目標舵角変化を抑制することができる。
【0009】
一実施形態においては、走行制御装置は、レーンから隣接レーンへのレーンチェンジ軌跡を生成する軌跡生成部と、車両が軌跡生成部によって生成されたレーンチェンジ軌跡に沿って走行するように車両の走行を制御するレーンチェンジ制御部と、を備え、軌道設定部は、レーンチェンジ制御部によるレーンチェンジ中に運転者の操舵介入によって車両の横位置が変更され、車両がレーンに隣接する隣接レーンに進入したことに応じて、目標軌道を隣接レーンに再設定してもよい。このように構成することで、自動レーンチェンジ機能によるレーンチェンジ中において運転者の操舵介入によって車両が隣接レーンに進入した場合には、目標軌道の再設定時における目標舵角から徐々に変化するように隣接レーンにおける目標舵角が決定される。よって、この装置は、自動レーンチェンジ機能によるレーンチェンジ中において運転者の操舵介入によって車両が隣接レーンに進入した場合であっても、目標舵角変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、レーン維持制御を継続しながら運転者の手動介入によるレーンチェンジを行う場合に、目標舵角変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る走行制御装置を含む車両の一例の機能ブロック図である。
図2】(A)はレーンチェンジのシーンの一例を示す図、(B)は方向指示器の状態のタイムチャート、(C)は操舵トルクのタイムチャート、(D)は横位置偏差のタイムチャート、(E)は目標軌道の設定にかかるタイムチャート、(F)は目標軌道と車両の横位置との偏差の不連続性を検出したタイムチャート、(G)は目標舵角の徐変期間を示すタイムチャート、(H)は目標舵角のタイムチャートである。
図3】実施形態に係る走行制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4】(A)はレーンチェンジのシーンの一例を示す図、(B)は方向指示器の状態のタイムチャート、(C)は操舵トルクのタイムチャート、(D)は横位置偏差のタイムチャート、(E)は目標軌道の設定にかかるタイムチャート、(F)は目標軌道と車両の横位置との偏差の不連続性を検出したタイムチャート、(G)は目標舵角の徐変期間を示すタイムチャート、(H)は目標舵角のタイムチャートである。
図5】実施形態に係る走行制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、例示的な実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0013】
(車両及び走行制御装置の構成)
図1は、実施形態に係る車両制御装置を含む車両の一例の機能ブロック図である。図1に示されるように、走行制御装置1は、バス、タクシー、又は一般的な乗用車などの車両2に搭載される。走行制御装置1は、車両2がレーン内で走行するように車両2の走行を制御する。具体的には、走行制御装置1は、車両2の操舵軸に制御トルクを付与して車両2がレーン内で走行するように、車両2の走行を制御する。そして、走行制御装置1は、レーン維持制御を継続しつつ運転者の操舵介入によるレーンチェンジを許容する。例えば、制御トルクを付与した状態で、運転者は制御トルクよりも大きい入力トルクで運転操作を行い、車両2の走行するレーンに隣接する隣接レーンへ車両を移動させることができる。つまり、走行制御装置1は、レーン維持制御下において運転者と協調して車両2を走行させることができる。
【0014】
車両2は、外部センサ3、内部センサ4、ECU(Electronic ControlUnit)5、HMI(Human Machine Interface)6、及び、アクチュエータ7を備える。
【0015】
外部センサ3は、車両2の外部環境の情報を検出する検出器である。外部環境とは、車両2の周辺の物体の位置、物体の状況などである。外部センサ3の検出結果には、車両2が走行する車道の前方の物体の位置、形状、色などが含まれる。物体には、車両、歩行者、信号機、路面ペイントなどが含まれる。外部センサ3は、一例としてカメラである。
【0016】
カメラは、車両2の外部状況を撮像する撮像機器である。カメラは、一例として車両2のフロントガラスの裏側に設けられる。カメラは、車両2の外部状況に関する撮像情報を取得する。カメラは、単眼カメラであってもよく、ステレオカメラであってもよい。ステレオカメラは、両眼視差を再現するように配置された二つの撮像部を有する。ステレオカメラの撮像情報には、奥行き方向の情報も含まれる。
【0017】
外部センサ3は、カメラに限定されず、レーダセンサなどであってもよい。レーダセンサは、電波(例えばミリ波)又は光を利用して車両2の周辺の物体を検出する検出器である。レーダセンサには、例えば、ミリ波レーダ又はライダー(LIDAR:Laser Imaging Detection and Ranging)が含まれる。レーダセンサは、電波又は光を車両2の周辺に送信し、物体で反射された電波又は光を受信することで物体を検出する。
【0018】
内部センサ4は、車両2の走行状態を検出する検出器である。内部センサ4は、舵角センサを含む。舵角センサは、車両2の操舵軸の回転量を検出する検出器である。内部センサ4は、車速センサ、加速度センサ及びヨーレートセンサを含んでもよい。車速センサは、車両2の速度を検出する検出器である。車速センサとしては、例えば、車両2の車輪又は車輪と一体に回転するドライブシャフトなどに対して設けられ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサが用いられる。加速度センサは、車両2の加速度を検出する検出器である。加速度センサは、車両2の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサと、車両2の加速度を検出する横加速度センサとを含んでもよい。ヨーレートセンサは、車両2の重心の鉛直軸周りのヨーレート(回転角速度)を検出する検出器である。ヨーレートセンサとしては、例えばジャイロセンサを用いることができる。
【0019】
ECU5は、車両2の走行を制御する。ECU5は、CPU(CentralProcessing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、CAN(Controller AreaNetwork)通信回路などを有する電子制御ユニットである。ECU5は、例えばCAN通信回路を用いて通信するネットワークに接続され、上述した車両2の構成要素と通信可能に接続される。ECU5は、例えば、CPUが出力する信号に基づいて、CAN通信回路を動作させてデータを入出力し、データをRAMに記憶し、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムを実行することで、後述する機能を実現する。ECU5は、複数の電子制御ユニットから構成されてもよい。
【0020】
HMI6は、車両2の乗員(運転者含む)と、ECU5によって実現されるシステムとのインターフェイスである。HMI6は、一例として、情報を表示可能であり、かつ、乗員の操作入力を受け付け可能なタッチディスプレイなどを含む。
【0021】
アクチュエータ7は、車両2の走行制御を実行する装置である。アクチュエータ7は、エンジンアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及び操舵アクチュエータを少なくとも含む。エンジンアクチュエータは、運転操作又はECU5の制御信号に応じてエンジンに対する空気の供給量を変更(例えばスロットル開度を変更)することで、車両2の駆動力を制御する。なお、エンジンアクチュエータは、車両2がハイブリッド車又は電気自動車である場合には、動力源としてのモータの駆動力を制御する。
【0022】
ブレーキアクチュエータは、ECU5からの制御信号に応じてブレーキシステムを制御し、車両2の車輪へ付与する制動力を制御する。ブレーキシステムとしては、例えば、液圧ブレーキシステムを用いることができる。なお、ブレーキアクチュエータは、車両2が回生ブレーキシステムを備えている場合、液圧ブレーキシステム及び回生ブレーキシステムの両方を制御してもよい。操舵アクチュエータは、電動パワーステアリングシステムのうち操舵トルクを制御するアシストモータの駆動を、ECU5からの制御信号に応じて制御する。これにより、操舵アクチュエータは、車両2の操舵トルクを制御する。
【0023】
(ECUの各機能)
走行制御装置1は、機能的な構成として、軌道設定部10、位置取得部11、舵角決定部12、レーン維持制御部13、軌跡生成部14、及び、レーンチェンジ制御部15を備える。なお、車両2が自動レーンチェンジ機能を有さない場合には、走行制御装置1は、レーンチェンジ制御部15を備えなくてもよい。走行制御装置1の機能の説明は、図2の(A)~(H)を参照しながら説明する。図2の(A)は、レーンチェンジのシーンの一例を示す図である。
【0024】
図2の(A)においては、車両2は、片側二車線の道路を走行している。図2の(A)に示されるように、車両2は、レーン維持機能を発揮しながら第一レーンL1を走行している。車両2の運転者は、第一レーンL1に隣接する第二レーンL2へレーンチェンジするために、方向指示器を時刻t1にONする。そして、運転者は時刻t2からハンドルを操作して、制御トルクを超えた入力トルクによって車両2が第二レーンに近づくように車両2の横位置を変更する。そして、時刻t3で車両2が第一レーンL1と第二レーンL2との境界線VLを跨ぎ、第二レーンL2に進入する。そして、運転者は、時刻t4でハンドルから手を離し、その後、方向指示器をOFFする。このとき、車両2は、第二レーンL2の中央に位置し、レーン維持機能を発揮しながら第二レーンL2内を走行する。
【0025】
上述した運転者の動作に関連するタイムチャートが図2の(B)及び(C)である。図2の(B)は方向指示器の状態のタイムチャート、図2の(C)は操舵トルクのタイムチャートである。操舵トルクは、例えば、車両2の操舵軸に設けられたトルクセンサによって検出される。ハンドル左回転が正の値、ハンドル右回転が負の値である。図2の(B)及び(C)に示されるように、方向指示器は、運転者がハンドルを握って操舵を開示した時刻t2よりも前の時刻t1にONとされ、運転者がハンドルから手を離した時刻t4の後にOFFされる。図2の(C)に示されるように、運転者がハンドルに力を加えている間、操舵トルクが検出される。
【0026】
軌道設定部10は、車両2が走行しているレーン内に沿った目標軌道を設定する。目標軌道とは、レーン維持制御部13が目標とする軌道であり、例えば車両2が走行しているレーンの中央位置を通るように設けられる。軌道設定部10は、外部センサ3によって検出されたレーン境界線の位置を取得し、目標軌道を設定する。例えば、車両2が第一レーンL1を走行している場合には、軌道設定部10は、第一レーンL1の中央位置に第一軌道TL1を設定する。
【0027】
位置取得部11は、車両2の横位置を取得する。位置取得部11は、外部センサ3によって検出されたレーン境界線の位置を取得し、車両2が走行しているレーンにおける横方向の位置を取得する。
【0028】
舵角決定部12は、軌道設定部10によって設定された目標軌道と位置取得部11によって取得された車両2の横位置とに基づいて車両2の目標舵角θtgtを決定する。目標舵角θtgtは、レーン維持制御部13によってアシストモータを駆動させるための制御パラメータである。舵角決定部12は、例えば、軌道設定部10によって設定された第一軌道TL1と車両2の横位置とに偏差がある場合には、偏差を打ち消すための舵角を目標舵角θtgtとする。
【0029】
レーン維持制御部13は、舵角決定部12によって決定された目標舵角θtgtに基づいて制御トルクを車両2の操舵軸に付与する。制御トルクの大きさは、目標舵角θtgtに応じて大きくなるように設定されてもよいし、一定値としてもよい。目標軌道と車両2の横位置との偏差を打ち消すように目標舵角が設定され、目標舵角となるように制御トルクが印加されることにより、例えば第一レーンL1を走行している車両2は、第一軌道TL1に沿って走行するため、車両2が第一レーンL1内を自動走行することになる。このように、軌道設定部10、位置取得部11、舵角決定部12、及び、レーン維持制御部13が協働することで、レーン維持機能が実現される。
【0030】
上述した軌道設定部10、位置取得部11、舵角決定部12、及び、レーン維持制御部13の動作に関連するタイムチャートが図2の(D)~(H)である。図2の(D)は横位置偏差のタイムチャート、図2の(E)は目標軌道の設定にかかるタイムチャート、図2の(F)は目標軌道と車両の横位置との偏差の不連続性を検出したタイムチャート、図2の(G)は目標舵角の徐変期間を示すタイムチャート、図2の(H)は目標舵角のタイムチャートである。
【0031】
図2の(D)は、目標軌道と車両2の横位置との偏差のタイムチャートであり、車両2からみて目標軌道の左方向(図中上方向)への偏差を負、車両2からみて目標軌道の右方向(図中下方向)への偏差を正としている。時刻t2において運転者の操舵が開始されると、車両2は、目標軌道である第一軌道TL1から離れ、第二レーンL2に近づく方向に移動する。このため、図2の(D)に示されるように、第一軌道TL1と車両2の横位置との偏差の絶対値は、時刻t2から徐々に大きくなる(第一軌道TL1と車両2の横位置との偏差は負の方向に大きくなる)。
【0032】
図2の(H)は、舵角決定部12によって決定される目標舵角のタイムチャートである。目標舵角θtgtは、ハンドル左回転が正の値、ハンドル右回転が負の値である。時刻t2から第一軌道TL1と車両2の横位置との偏差が負の方向に徐々に増加し、それに伴って、図2の(H)に示されるように、時刻t2から目標舵角θtgtは、運転者の操舵とは逆回転となる負の舵角に設定される。これにより、レーン維持制御部13は、車両2が目標舵角θtgtとなるように制御トルクを操舵軸に付与する。つまり、運転者のハンドル操作とは逆方向の制御トルクがハンドルに加わることになり、運転者は制御トルクを超える入力をハンドルに加えることで、徐々に車両2が第二レーンL2に近づくように移動する。このように、運転者はハンドルに負荷を感じた状態で車両2を操作しており、図2の(C)に示されるように、操舵トルクは時刻t2から左回転方向(正の方向)に検出される。なお、時刻t2から時刻t3までの目標舵角の大きさは、第一軌道TL1と車両2の横位置との偏差から得られる目標舵角に所定係数(例えば0.1~0.9)を乗算することで得られる。これにより、運転者の操舵に対して目標舵角が控えめに設定され、運転者が手を離したときに、運転者がハンドルから手を離したタイミングの目標舵角に近づけるように滑らかに目標舵角に変更することができるので、車両2の挙動が安定する。
【0033】
運転者の操作により、時刻t3において車両2は、第一レーンL1から第二レーンL2に進入する。このとき、車両2の走行しているレーンが変更になるため、軌道設定部10は、第二レーンL2の中央位置に第二軌道TL2を目標軌道として再設定する。図2の(E)に示されるように、車両2が第一レーンL1から第二レーンL2に移動したタイミング(時刻t3)において、目標軌道が第一軌道TL1から第二軌道TL2へと再設定される。軌道設定部10は、例えば、外部センサ3の検出結果に基づいて車両2が第一レーンL1から第二レーンL2に移動したタイミングを認識し、当該タイミングで目標軌道を第二軌道TL2に再設定する。このように、軌道設定部10は、制御トルクを超えた運転者による操舵介入によって車両2の横位置が変更され、車両2がレーンに隣接する隣接レーンに進入したことに応じて、目標軌道を隣接レーンに再設定する。
【0034】
車両2が第一レーンL1から第二レーンL2に進入したタイミング(時刻t3)において目標軌道が第一軌道TL1から第二軌道TL2へ切り替わるため、図2の(D)に示されるように、目標軌道と車両2の横位置との偏差が急激に変化する。舵角決定部12は、目標軌道と車両2の横位置との偏差をプロットし、偏差の変化の絶対値が所定値以上である場合には、不連続に変化したと判定する。図2の(F)は、閾値以上の横位置偏差の変化を不連続な変化として検出したタイムチャートである。図2の(F)に示されるように、車両2が第一レーンL1から第二レーンL2に進入したタイミング(時刻t3)において目標軌道と車両2の横位置との偏差の不連続な変化が検出される。
【0035】
上述したとおり、舵角決定部12は、図2の(D)に示される横位置偏差を打ち消すように目標舵角を設定する。このため、時刻t3において目標軌道と車両2の横位置との偏差の正負が逆転することにより、図2の(H)に示されるように、時刻t3において目標舵角θlatが目標舵角に設定されることになる。そして、図2の(H)中において破線で示される目標舵角が設定されることになる。この場合、制御トルクが逆方向に印加されるため、図2の(C)中において破線で示されるように、操舵トルクも急激に正負が逆転し、運転者の操舵に大きく影響を与えることになる。
【0036】
このため、舵角決定部12は、図2の(F)に示される目標軌道と車両2の横位置との偏差の不連続な変化を検出した場合、そのタイミングの目標舵角θholdを記憶する。つまり、舵角決定部12は、目標軌道の再設定時における目標舵角θholdを記憶する。そして、舵角決定部12は、記憶された目標舵角θholdを徐変関数を用いて変化させることにより、車両2が第二レーンL2へ進入した後の目標舵角θtgtを決定する。徐変関数は、急激な変化を抑制し、徐々に値を変化させる関数であり、一例として指数関数である。あるいは、徐変関数は、前回値との差分に基づいて動作するレートリミッタであってもよい。また、レートリミッタは、徐変開始初期は徐変量を大きく、所定時間後は徐変量を小さくするように動作してもよい。以下では、徐変関数として指数関数を用いる場合を例示する。舵角決定部12は、以下の数式(1)に基づいて、時刻t3以降の目標舵角θtgtを決定する。
θtgt = θlat +(θhold - θlat)・e-at (1)
これにより、図2の(H)に示されるように、目標舵角θtgtは滑らかに徐変される。そして、図2の(C)に示されるように、操舵トルクの急激な変化が抑制される。指数関数を用いる場合、レーン切り替わり直後は目標舵角θtgtの変化が大きく、その後、目標舵角θtgtの変化が鈍化するようになる。つまり、車両2が隣接レーンに進入したタイミングから所定時間経過するまでの期間(レーン切り替わり直後の期間)は、単位時間当たりの徐変量が所定値よりも大きく、レーン切り替わり直後の期間の経過後は単位時間あたりの徐変量が所定値よりも小さくなる。所定値は、予め設定される舵角である。レーン切り替わり直後において目標舵角θtgtの変化を大きくすることにより、元のレーンへ戻ることを制限することができ、かつ、レーン切り替わりがインフォメーションとして運転者に伝えることもできる。その後、目標舵角θtgtを穏やかに徐変することにより車両挙動が穏やかになる。なお、図2の(G)は、上述した徐変関数を用いて目標舵角θtgtを決定する期間を示している。徐変期間は、例えば目標舵角θtgtと徐変前のレーンを追従するための目標角(目標値)との差分が所定値以下となったタイミングで終了する。
【0037】
軌跡生成部14は、車両2が走行しているレーンから隣接レーンへのレーンチェンジ軌跡を生成する。軌跡生成部14は、外部センサ3の検出結果に基づいてレーンチェンジ軌跡を生成する。レーンチェンジ制御部15は、車両2が軌跡生成部14によって生成されたレーンチェンジ軌跡に沿って走行するように車両2の走行を制御する。軌跡生成部14及びレーンチェンジ制御部15は、自動レーンチェンジ機能を実現する構成要素である。レーンチェンジ制御部15は、運転者の操舵介入によって車両2の横位置が変化した場合、車両2の横位置とレーンチェンジ軌跡との偏差が小さくなるように車両2の操舵軸を制御する。つまり、レーンチェンジ制御部15は、レーンチェンジ制御下において運転者と協調して車両2を走行させることができる。
【0038】
レーンチェンジ制御下において、運転者の操舵介入がなされた状態で、車両2が走行しているレーンから隣接レーンへ進入した場合、図2の(A)~(H)で説明された状況と同一となる。つまり、目標舵角θtgtの徐変処理は、レーンチェンジ制御下であるか否かに関わらず実行される。
【0039】
(走行制御装置の動作)
図3は、実施形態に係る走行制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。図3に示されるフローチャートは、例えば車両2に備わるレーン維持機能の開始ボタンがONされたタイミングで、走行制御装置1によって実行される。
【0040】
図3に示されるように、走行制御装置1は、ステップS10として、運転者の自動レーンチェンジの意図を取得する。走行制御装置1は、例えば、HMI6などを介して行われる自動レーンチェンジ提案に対して、方向指示器のON操作又はHMI6における承認操作を受け付ける。
【0041】
続いて、走行制御装置1は、ステップS12として、自動レーンチェンジを実行するか否かを判定する。例えば自動レーンチェンジ提案に対する方向指示器のON操作又はHMI6における承認操作がある場合には、走行制御装置1は、自動レーンチェンジを実行すると判定し(ステップS12:YES)、自動レーンチェンジを実行する(ステップS14)。自動レーンチェンジ提案に対する運転者の承認がない場合には、走行制御装置1は、自動レーンチェンジを実行しない(ステップS12:NO)。
【0042】
続いて、走行制御装置1は、ステップS16として、運転者の操舵によるレーンチェンジ意図を取得する。走行制御装置1は、運転者の操舵状態を取得する。そして、走行制御装置1は、運転者が隣接レーンに近づく操舵をしている場合には、運転者の操舵によるレーンチェンジ意図があると判定する(ステップS18:YES)。走行制御装置1は、運転者が隣接レーンに近づく操舵をしていない場合には、運転者の操舵によるレーンチェンジ意図がないと判定する(ステップS18:NO)。
【0043】
運転者の操舵によるレーンチェンジ意図があると判定した場合(ステップS18:YES)、走行制御装置1は、ステップS20として切り替え処理を実行する。走行制御装置1は、レーンを跨ぐタイミングである場合には目標軌道を切り替え、レーンを跨ぐタイミングでない場合には目標軌道を切り替えない(図2の(E)参照)。続いて、走行制御装置1は、ステップS22として、目標軌道と車両2の横位置との偏差を検出する(図2の(D)参照)。
【0044】
続いて、走行制御装置1は、ステップS24として、レーン切り替わりを検出したか否かを判定する。走行制御装置1は、ステップS22で取得された目標軌道と車両2の横位置との偏差が所定値以上でない場合、走行制御装置1はレーン切り替わりを検出していないと判定する(ステップS24:NO)。走行制御装置1は、ステップS22で取得された目標軌道と車両2の横位置との偏差が所定値以上である場合、走行制御装置1はレーン切り替わりを検出したと判定する(ステップS24:YES、図2の(F)参照)。
【0045】
レーン切り替わりを検出したと判定された場合(ステップS24:YES)、走行制御装置1は、ステップS26として目標舵角の徐変処理を実行する。走行制御装置1は、例えば上述した数式(1)を用いて目標舵角が徐々に変化するように決定する(図2の(H)参照)。
【0046】
ステップS26が終了した場合、走行制御装置1は、ステップS28として徐変された目標舵角θtgtに基づいて舵角の制御を行う。これにより、レーンを跨いだタイミングで操舵トルクが変化し違和感が生じることを回避できる。
【0047】
運転者の操舵によるレーンチェンジ意図がないと判定された場合(ステップS18:NO)、走行制御装置1は、ステップS28として徐変されていない目標舵角θtgtに基づいて舵角の制御を行う。つまり、自動レーンチェンジが実行されている場合(ステップS14)には、徐変されていない目標舵角θtgtに基づいてシステム主体で自動レーンチェンジが継続して実行され、自動レーンチェンジが実行されていない場合には、徐変されていない目標舵角θtgtに基づいてレーン維持制御が実行される。
【0048】
走行制御装置1はレーン切り替わりを検出していないと判定された場合(ステップS24:NO)、走行制御装置1は、ステップS28として徐変されていない目標舵角θtgtに基づいて舵角の制御を行う。つまり、運転者はハンドルを操舵しているものの、車両2が第一レーンL1と第二レーンL2との境界線VLを跨いでいないため、徐変されていない目標舵角θtgtに基づいてレーン維持制御が実行される。
【0049】
舵角制御が終了すると、図3に示されるフローチャートは終了する。フローチャートが終了すると、終了条件が満たされるまで、再度、ステップS10から処理が実行される。終了条件は、例えばレーン維持制御の終了ボタンがONされた場合などである。図3に示されるフローチャートが実行されることにより、自動レーンチェンジ中においてレーンを跨ぐ前に手動で舵角が調整された場合、又は、自動レーンチェンジを選択せずに手動で舵角が調整されてレーンチェンジが行われる場合に、レーンを跨ぐ際に発生する目標舵角変化を抑制することができる。
【0050】
(走行制御装置の他の動作)
次に、運転者の操舵によるレーンチェンジ中に、運転者がハンドルから手を離し、その後、自動レーンチェンジ機能または慣性によって車両2がレーンを跨ぐ運転シーンにおける走行制御装置1の動作を説明する。
【0051】
図4の(A)は、レーンチェンジのシーンの一例を示す図であり、図2の(A)と同一である。図4の(B)は方向指示器の状態のタイムチャート、図4の(C)は操舵トルクのタイムチャートである。図2の(A)~(C)との違いは、車両2がレーンを跨ぐ前の時刻t21において運転者がハンドルから手を離す点である。これにより、図4の(C)に示されるように、時刻t21のタイミングで操舵トルクが略零になる。
【0052】
図4の(D)は横位置偏差のタイムチャート、図4の(E)は目標軌道の設定にかかるタイムチャート、図4の(F)は目標軌道と車両の横位置との偏差の不連続性を検出したタイムチャート、図4(G)は目標舵角の徐変期間を示すタイムチャート、図4の(H)は目標舵角のタイムチャートである。上述したとおり、運転者との協調運転をする場合、目標舵角の大きさは、運転者がハンドルから手を離すことを想定して控えめに設定される。例えば、図4の(H)に示されるように、ハンドルを掴んだタイミング(時刻t2)からハンドルを離すタイミング(時刻t21)まで、目標軌道と車両2の横位置との偏差に基づいて決定された目標舵角に所定の係数を乗算し、目標舵角θtgtを小さく設定する。そして、舵角決定部12は、運転者の操舵終了時である時刻t21における目標舵角が運転者の操舵の終了から時間経過に伴って徐々に徐変前のレーンを追従するための目標角に近づくように決定する。これにより、図4の(H)に示されるように、目標舵角が時刻t21のタイミングで、目標軌道と車両2の横位置との偏差に基づいて決定された目標舵角θdrvに切り替わることを回避できる。そして、時刻t21から目標舵角θtgtは滑らかに収束する。図4の(D)~(F)に示されるように、図2の(D)~(F)と同様に時刻t3において車両2が第一レーンL1から第二レーンL2へ進入し、目標軌道が第一軌道TL1から第二軌道TL2へと切り替わる。
【0053】
ここで、時刻t3における目標軌道と車両2の横位置との偏差に基づいて目標舵角θtgtを決定すると、図2の(H)と同様に目標舵角はθlatとなる。θholdは、運転者がハンドルを手放ししたタイミングから小さく設定されているため、θlatをそのまま数式(1)に適用すると、オーバーシュート量が大きくなり、緩やかな車両挙動とならないおそれがある。このため、θlatに補正係数C(例えば0.1~0.5)を乗算して、θlatを小さく補正したθtgt1を用いてもよい。あるいは、徐変進捗率をa、操舵時目標比率をbとすると、以下の数式(2)でθtgt1を算出してもよい。
θtgt1 = θlat × C × (1-(1-a)・(1-b)) (2)
上述したθtgt1を用いて、徐変期間中の目標舵角は以下の数式(3)で示される。
θtgt = θtgt1 +(θhold - θtgt1)・e-at (3)
これにより、図4の(H)に示されるように、目標舵角θtgtは滑らかに徐変される。なお、徐変進捗率は、運転者操作時において目標舵角へ徐変する場合に用いられる。徐変進捗率は、徐変開始が0、徐変完了が1となり、今現在徐変がどの程度進んでいるかを示す値である。操舵時目標比率は、運転者操作時の目標角ゲインを、通常時(オーバーシュートを抑制していないとき)の目標角ゲインで除算した値であり、通常時に対するドライバ操作時のゲインの比率を示す値である。
【0054】
図4に示されるタイムチャートにかかる走行制御装置1の動作は、図5に示される。図5は、実施形態に係る走行制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。図5に示されるフローチャートは、例えば車両2に備わるレーン維持機能の開始ボタンがONされたタイミングで、走行制御装置1によって実行される。
【0055】
図5に示されるように、走行制御装置1は、ステップS100として、レーンチェンジ処理を行う。レーンチェンジ処理は、図3のステップS10~S14までと同一である。
【0056】
図5に示されるように、走行制御装置1は、ステップS100として、レーンチェンジ処理を行う。レーンチェンジ処理は、図3のステップS10~S14の処理と同一である。続いて、走行制御装置1は、ステップS102として、目標舵角の徐変処理を行う。目標舵角の徐変処理は、図3のステップS16~S26の処理と同一である。
【0057】
続いて、走行制御装置1は、ステップS104として、レーン切り替わり前に運転者がハンドルから手を離したか否かを判定する。走行制御装置1は、例えば操舵トルクの大きさに基づいてレーン切り替わり前に運転者がハンドルから手を離したか否かを判定する。
【0058】
レーン切り替わり前に運転者がハンドルから手を離したと判定された場合(ステップS104:YES)、走行制御装置1は、手放し後の目標舵角をスムーズに徐変前のレーンを追従するための目標角に収束するように変更する。続くステップS20A~S28Aの処理は、図3のステップS20~S28の処理と同一である。図5に示されるフローチャートが終了すると、終了条件が満たされるまで、再度、ステップS100から処理が実行される。終了条件は、例えばレーン維持制御の終了ボタンがONされた場合などである。図5に示されるフローチャートが実行されることにより、自動レーンチェンジ中においてレーンを跨ぐ前に手動で舵角が調整され、かつ運転者がハンドルを手放した場合、又は、自動レーンチェンジを選択せずに手動で舵角が調整され、かつ運転者がハンドルを手放した状態でレーンチェンジが行われる場合に、レーンを跨ぐ際に発生する目標舵角変化を抑制することができる。
【0059】
(実施形態のまとめ)
走行制御装置1においては、制御トルクを超えた運転者による操舵介入によって車両2の横位置が変更され、車両2が第一レーンL1に隣接する第二レーンL2に進入したことに応じて、目標軌道が第二レーンL2に再設定される。そして、目標軌道が第二レーンL2に再設定されたことに応じて、徐変関数を用いて目標軌道の再設定時における目標舵角θtgtを変化させることにより、車両2が第二レーンL2へ進入した後の目標舵角θtgtが決定される。このように、走行制御装置1は、目標軌道が切り替わった場合に、目標軌道と車両2の横位置とに基づいて目標舵角を決定するのではなく、目標軌道の再設定時における目標舵角θtgtから徐々に変化するように第二レーンL2における目標舵角θtgtを決定できる。よって、走行制御装置1は、レーン維持制御を継続しながら運転者の手動介入によるレーンチェンジを行う場合に、目標軌道と車両2の横位置とに基づいて目標舵角を決定する場合と比べて、目標舵角変化を抑制することができる。
【0060】
走行制御装置1は、車両2が第二レーンL2に進入する前に運転者がハンドルから手を離したときに目標舵角が急激に変化することを回避できる。そして、手離し後において目標舵角がスムーズに収束している最中に車両2が第二レーンL2に進入した場合には、目標軌道の再設定時における目標舵角θholdから徐々に変化するように隣接レーンにおける目標舵角が決定される。よって、走行制御装置1は、車両2が第二レーンL2に進入する前に運転者がハンドルから手を離した場合であっても、目標舵角変化を抑制することができる。
【0061】
走行制御装置1においては、自動レーンチェンジ機能によるレーンチェンジ中において運転者の操舵介入によって車両2が隣接レーンに進入した場合には、目標軌道の再設定時における目標舵角から徐々に変化するように第二レーンL2における目標舵角が決定される。よって、走行制御装置1は、自動レーンチェンジ機能によるレーンチェンジ中において運転者の操舵介入によって車両2が第二レーンL2に進入した場合であっても、目標舵角変化を抑制することができる。
【0062】
(変形例)
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0063】
上記実施形態において、数式(1)に示されるように、不連続前の目標舵角θholdと不連続後の目標舵角θlatとの差分が、目標舵角θtgtに影響を与える。目標舵角にローパスフィルタなどの処理フィルタが目標舵角に適用されている場合、差分が正確に算出されないおそれがある。また、ローパスフィルタが適用されることにより応答性が低下する場合がある。このため、数式(1)に適用する場合には、目標舵角に適用しているローパスフィルタを解除して目標舵角を決定することにより、滑らかな目標舵角θtgtを得ることができる。このようなフィルタ解錠は、目標軌道が隣接レーンに再設定されたことに応じて一時的に実行される。
【符号の説明】
【0064】
1…走行制御装置、2…車両、10…軌道設定部、11…位置取得部、12…舵角決定部、13…レーン維持制御部、14…軌跡生成部、15…レーンチェンジ制御部。
図1
図2
図3
図4
図5