(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】三軸荷重検出装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/1627 20200101AFI20250107BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G01L5/1627
G01L5/00 103D
G01L5/00 103E
(21)【出願番号】P 2021065353
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴 恵太
(72)【発明者】
【氏名】安木 佑介
(72)【発明者】
【氏名】両角 由貴夫
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-236498(JP,A)
【文献】特開昭63-78034(JP,A)
【文献】特開2020-3275(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0200629(US,A1)
【文献】特開2018-87780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26、
5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と、固定部材によって前記第一部材に固定される第二部材と、の間に介在され、前記第一部材側に配置される環状の第一平板と、前記第二部材側に配置されて前記第一平板と対向する環状の第二平板と、前記第一平板と前記第二平板とを連結する三個以上の連結部と、を備え、前記第一部材と前記第二部材との間に荷重が作用した場合に前記三個以上の連結部が直交三軸方向において前記荷重の各分力の大きさに応じた歪変形量で弾性変形するように構成された環状体と、
前記三個以上の連結部のうちの三個以上にそれぞれ取り付けられ、前記第一部材と前記第二部材との間に荷重が作用した場合に、それぞれ前記環状体の軸方向と平行な方向の力を検出する三個以上の検出器と、
前記三個以上の検出器が接続され、前記三個以上の検出器のそれぞれの力検出方向に見た位置を示す二次元データ及びそれぞれの検出結果を示すデータを組み合わせて三次元データに変換し、すべての前記三次元データによって求まる1つの平面の平面パラメータを算出し、前記平面パラメータ
で規定される法線ベクトルを用いて直交三軸方向の三分力
を算出するデータ処理装置と、
を有する三軸荷重検出装置。
【請求項2】
前記検出器は、前記連結部に対して前記環状体の外周側に配置されて前記連結部の側面に取り付けられている、請求項1記載の三軸荷重検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三軸荷重検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、分力測定装置に関する技術が開示されている。簡単に説明すると、この分力測定装置は、被測定物の変形を検出する複数の変形検出器と、変形と分力との非線形関係に関するデータを保存する記憶装置と、変形検出器の検出出力及び記憶装置に保存された非線形関係データに基づき被測定物に作用する分力の大きさを求める演算装置と、を備える。そして、このような分力測定装置によれば、被測定物に作用する未知な荷重の分力を正確に求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術では、各変形検出器の検出結果を統合するステップを経ずに別々に三分力を求めており、変形検出器の検出値と記憶装置に保存されたデータとを比較して適用する線形領域を選択しなければならない。このため、簡易な仕組みで検出精度を高める点において改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、簡易な仕組みで検出精度を高めることが可能な三軸荷重検出装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の三軸荷重検出装置は、第一部材と、固定部材によって前記第一部材に固定される第二部材と、の間に介在され、前記第一部材側に配置される環状の第一平板と、前記第二部材側に配置されて前記第一平板と対向する環状の第二平板と、前記第一平板と前記第二平板とを連結する三個以上の連結部と、を備え、前記第一部材と前記第二部材との間に荷重が作用した場合に前記三個以上の連結部が直交三軸方向において前記荷重の各分力の大きさに応じた歪変形量で弾性変形するように構成された環状体と、前記三個以上の連結部のうちの三個以上にそれぞれ取り付けられ、前記第一部材と前記第二部材との間に荷重が作用した場合に、それぞれ前記環状体の軸方向と平行な方向の力を検出する三個以上の検出器と、前記三個以上の検出器が接続され、前記三個以上の検出器のそれぞれの力検出方向に見た位置を示す二次元データ及びそれぞれの検出結果を示すデータを組み合わせて三次元データに変換し、すべての前記三次元データによって求まる1つの平面の平面パラメータを算出し、前記平面パラメータで規定される法線ベクトルを用いて直交三軸方向の三分力を算出するデータ処理装置と、を有する。
【0007】
なお、「すべての前記三次元データによって求まる1つの平面」とは、すべての前記三次元データの点を通る平面が存在する場合にはそのような平面をいい、すべての前記三次元データの点を通る平面が存在しない場合にはすべての前記三次元データの点を通るような面に近似する1つの平面をいう。
【0008】
上記構成によれば、環状体は、第一部材と、固定部材によって第一部材に固定される第二部材と、の間に介在され、環状の第一平板と環状の第二平板と三個以上の連結部とを備えている。環状の第一平板は第一部材側に配置され、環状の第二平板は第二部材側に配置されて第一平板と対向し、三個以上の連結部は第一平板と第二平板とを連結する。そして、環状体は、第一部材と第二部材との間に荷重が作用した場合に三個以上の連結部が直交三軸方向において前記荷重の各分力の大きさに応じた歪変形量で弾性変形する。また、三個以上の連結部のうちの三個以上にはそれぞれ検出器が取り付けられており、検出器は計三個以上設けられている。これら三個以上の検出器は、第一部材と第二部材との間に荷重が作用した場合に、それぞれ環状体の軸方向と平行な方向の力を検出する。
【0009】
ここで、前記三個以上の検出器はデータ処理装置に接続されている。データ処理装置は、三個以上の検出器のそれぞれの力検出方向に見た位置を示す二次元データ及びそれぞれの検出結果を示すデータを組み合わせて三次元データに変換し、すべての三次元データによって求まる1つの平面の平面パラメータを算出し、算出した平面パラメータで規定される法線ベクトルを用いて直交三軸方向の三分力を算出する。このように、すべての検出器の検出に関する情報を統合して平面パラメータで規定される法線ベクトルに落とし込むことによって、簡易な仕組みで検出精度を高めることが可能になる。
【0010】
請求項2に記載する本発明の三軸荷重検出装置は、請求項1記載の構成において、前記検出器は、前記連結部に対して前記環状体の外周側に配置されて前記連結部の側面に取り付けられている。
【0011】
上記構成によれば、環状体において相対的に変形量が大きくなる部位に検出器が設けられているので、検出器による検出を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の三軸荷重検出装置によれば、簡易な仕組みで検出精度を高めることが可能になるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る三軸荷重検出装置の全体構成を簡略化して示す全体構成図である。
【
図2】
図1の三軸荷重検出装置の一部である環状体が第一部材と第二部材との間に介在されている状態を示す側面図である。
【
図3】検出器が取り付けられた環状体を示す斜視図である。
【
図4】
図2の4-4線に沿って切断した状態の環状体及び検出器を示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は
図1のデータ処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5(B)は
図5(A)のデータ処理装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】三軸荷重検出装置によって三軸方向の三分力を検出する場合の処理のおおまかな流れを示すフロー図である。
【
図7】データ処理装置による三軸荷重演算処理の流れの一例を示すフロー図である。
【
図8】
図8(A)は三次元座標上において四個の検出器の出力を平面に写像した状態等を示す図である。
図8(B)は三次元座標上における法線ベクトルとその俯角、仰角及び方位角との関係を示す図である。
【
図9】
図9(A)は軸力に加えて右側からの横力が入った場合のイメージ図である。
図9(B)は
図9(A)の場合の推定平面等を示すイメージ図である。
【
図10】
図10(A)は軸力に加えて右斜め後方側からの横力が入った場合のイメージ図である。
図10(B)は
図10(A)の場合の推定平面等を示すイメージ図である。
【
図11】三軸荷重検出装置の計測対象の一例を模式的に示す断面図である。
【
図12】三軸荷重検出装置が適用される例を示す模式的な側面図である。検出器の図示は省略する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る三軸荷重検出装置について
図1~
図12を用いて説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る三軸荷重検出装置10の全体構成が簡略化された状態で示されている。
図1において図中左側は縦断面図で示されている。
図1に示されるように、三軸荷重検出装置10は、環状体20、検出器30、アンプ38、及びデータ処理装置40を備える。
【0015】
三軸荷重検出装置10の環状体20は、第一部材100と、固定部材としてのボルト90によって第一部材100に固定される第二部材102と、の間に介在され、ボルト90による締結によって共締めされる。なお、ボルト90は、軸部90Aと頭部90Bとを備えると共に軸部90Aに雄ネジ部90A1が形成されている。また、第一部材100には、ボルト90の軸部90Aが挿入されるボルト穴100Aが形成されると共に、このボルト穴100Aには、雄ネジ部90A1が螺合する雌ネジ部(図示省略)が形成されている。さらに、第二部材102には、ボルト90の軸部90Aが挿通されるボルト挿通孔102Aが貫通形成されている。
【0016】
ここで、三軸荷重検出装置10の計測対象について
図11を参照しながら簡単に説明する。
図11に示されるように、第一部材100と第二部材102とがボルト90によって締結された場合、ボルト締結力90Fにより、第一部材100と第二部材102との間に力101Fが作用する。第一部材100と第二部材102との間の力101Fの向き及び大きさは種々変わり得る。本実施形態の三軸荷重検出装置10(
図1参照)の測定対象は、第一部材100と第二部材102との間に作用する力101Fである。なお、
図12に模式的に示されるように、第一部材100と第二部材102とが複数のボルト90で固定されている場合、ボルト90毎に環状体20(簡略化して図示)を配置してそれぞれについて三軸荷重を検出することも可能である。
【0017】
図2には、環状体20が第一部材100と第二部材102との間に介在されている状態が側面図で示されている。
図2では、環状体20を見易くするために、ボルト90(
図1参照)の図示を省略している。環状体20は、ワッシャ状の部材として把握することもできる。
図3には、検出器30が取り付けられた環状体20が斜視図で示され、
図4には、
図2の4-4線に沿って切断した状態の環状体20及び検出器30が水平断面図で示されている。
【0018】
図2~
図4に示されるように、環状体20は、薄型の構造体とされ、第一部材100側に配置される環状の第一平板22と、第二部材102側に配置されて第一平板22と対向する環状の第二平板24と、第一平板22と第二平板24とを連結する八個の連結部26と、を備える。環状体20の内周側の中空部分には、ボルト90の軸部90A(いずれも
図1参照)が挿通される。
【0019】
図4に示されるように、八個の連結部26は、環状体20の周方向に沿って等間隔に並ぶように配置されている。すなわち、八個の連結部26は、環状体20の左右方向の中心線CL1を対称軸として左右対称でかつ環状体20の前後方向の中心線CL2を対称軸として前後対称となるように配置されている。なお、環状体20における左右方向及び前後方向は、説明の便宜上定めた方向である。環状体20は、八個の連結部26の水平断面積に比例した強度となっており、八個の連結部26によって強度をコントロールしている。環状体20は、
図2に示される第一部材100と第二部材102との間に荷重が作用した場合に八個の連結部26が直交三軸方向において前記荷重の各分力の大きさに応じた歪変形量で弾性変形するように構成されている。
【0020】
図4に示されるように、検出器30は、八個の連結部26のうちの一例として四個にそれぞれ取り付けられる。四個の検出器30は、八個の連結部26に対して一つ置きとなるように前後左右に設けられており、軸力推定の精度を上げるために環状体20の中心軸を取り囲むように配置されている。なお、前後左右の検出器30について区別して説明するときは、前側のものについて符号の末尾に「F」を付し、後側のものについて符号の末尾に「Z」を付し、左側のものについて符号の末尾に「L」を付し、右側のものについて符号の末尾に「R」を付すこととする。検出器30は、連結部26に対して環状体20の外周側に配置されて連結部26の側面26Aに取り付けられている。
【0021】
検出器30は、例えば変形に応じて電気抵抗が変化するひずみゲージ(金属抵抗体)とされ、測定対象のひずみを電気信号に変換して出力する素子とされる。検出器30は、
図1に示される第一部材100と第二部材102との間に荷重が作用した場合に、それぞれ環状体20の軸方向と平行な方向の力を検出するように配置されている。なお、本実施形態では、環状体20と検出器30とで構成される構成体を便宜上センサ体12という。このセンサ体12は、三軸荷重センサ本体として把握することができる。センサ体12は、所定以上の感度を得るために、ひずみ易くする必要がある。なお、連結部26によって強度を調整する構成を採ると、製作し易く、検出器30及びその接続部品(端子台)も実装し易い。
【0022】
計四個の検出器30は、すべて配線36によってアンプ38に接続され、このアンプ38を介してデータ処理装置40に接続されている。アンプ38は、検出器30からの電気信号を増幅してデータ処理装置40側に出力する。また、アンプ38は、バイアスリセットを行う。データ処理装置40は、四個の検出器30の出力を統合する機能等を有する。データ処理装置40には、PC(パソコン)、マイコン等の各種コンピュータを適用できる。
【0023】
図5(A)には、データ処理装置40のハードウェア構成の一例がブロック図で示されている。
図5(A)に示されるように、データ処理装置40は、CPU41、ROM42、RAM43、ストレージ44、ユーザインタフェース(
図5(A)では「ユーザI/F」と略す)45及び通信インタフェース(
図5(A)では「通信I/F」と略す)46を有する。各構成は、バス49を介して相互に通信可能に接続されている。
【0024】
CPU41は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU41は、ROM42又はストレージ44からプログラムを読み出し、RAM43を作業領域としてプログラムを実行する。そして、CPU41は、ROM42又はストレージ44に記録されているプログラムにしたがって、各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM42又はストレージ44には、三軸荷重検出用プログラムが記憶されている。
【0025】
ROM42は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM43は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ44は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを記憶する。本実施形態では、ROM42又はストレージ44には、一例として、四個の検出器30L、30R、30F、30Zのそれぞれの力検出方向に見た位置(X座標位置及びY座標位置)を示す二次元データ、横力校正値(1/Ф0)、軸力校正値(1/C0)等が記憶されている。
【0026】
ユーザインタフェース45は、ユーザがデータ処理装置40を使用する際のインタフェースである。ユーザインタフェース45には、一例として、ユーザによるタッチ操作を可能とするタッチパネルを備えた液晶ディスプレイが適用される。通信インタフェース46は、データ処理装置40が他の機器と通信するためのインタフェースである。
【0027】
上記の三軸荷重検出用プログラムを実行する際に、データ処理装置40は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。データ処理装置40が実現する機能構成について説明する。
【0028】
図5(B)には、データ処理装置40の機能構成の一例がブロック図で示されている。
図5(B)に示されるように、データ処理装置40は、機能構成として、受信部401、演算部402及び表示部403を有する。各機能構成は、CPU41がROM42又はストレージ44に記憶された三軸荷重検出用プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0029】
受信部401は、検出器30で検出されてアンプ38で電気信号が増幅された検出器30での検出結果を示すデータを受信する。演算部402は、四個の検出器30L、30R、30F、30Zのそれぞれの力検出方向に見た位置を示す二次元データ及びそれぞれの検出結果を示すデータを組み合わせて三次元データに変換し、すべての三次元データによって求まる1つの平面の平面パラメータを算出し、前記平面パラメータから直交三軸方向の三分力に換算する(詳細後述)。表示部403は、演算部402が算出した各種算出結果等を表示する。
【0030】
次に、
図1に示される三軸荷重検出装置10の作用について説明する。
【0031】
図6には、三軸荷重検出装置10によって三軸方向の三分力を検出する場合の処理のおおまかな流れがフロー図で示されている。最初にこのフロー図に沿って概説する。
【0032】
まず、第一部材100と第二部材102との間に環状体20が介在された状態でボルト90が第一部材100に締め付けられて第一部材100と第二部材102との間に荷重が作用すると(合力が印加されると)、各検出器30L、30R、30F、30Zは、それぞれ環状体20の軸方向と平行な方向の力を検出して検出値を出力する(ステップS101)。出力された検出値の電気信号は、アンプ38によって増幅され、データ処理装置40に受信される。これにより、データ処理装置40は、検出位置毎の検出値の情報、すなわち検出情報を取得する(ステップS102)。
【0033】
次に、データ処理装置40は、検出器30L、30R、30F、30Zのそれぞれの力検出方向に見た位置を示す二次元データ及びそれぞれの検出結果を示すデータを組み合わせて各検出器30L、30R、30F、30Zの出力をベクトル化する(ステップS103)。そして、データ処理装置40は、それらのベクトル化したデータから最小二乗法によって求まる1つの平面の平面パラメータを算出する(ステップS104)。このステップS104は、検出器30L、30R、30F、30Zの各検出結果を統合するステップといえる。
【0034】
次に、データ処理装置40は、平面パラメータで規定される法線ベクトルの方位角により横力の角度を算出し(ステップS105A)、平面パラメータで規定される法線ベクトルの斜度により(より具体的には仰俯角の正接により)横力のノルムを算出し(ステップS105B)、平面パラメータで規定される法線ベクトルのZ方向のオフセット量より軸力を算出する(ステップS105C)。次に、データ処理装置40は、ステップS105Aで算出した横力の角度及びステップS105Bで算出した横力のノルムを変換して横力X,Yを算出する(ステップS106)。これらの算出については詳細後述する。これらの算出後、データ処理装置40は、ステップS105C及びステップS106の算出結果に基づいて、三分力(軸力及び横力X,Y)を表示する。
【0035】
次に、
図5(A)に示されるデータ処理装置40による三軸荷重演算処理の流れについて、
図7~
図10を参照しながら説明する。
【0036】
図7には、データ処理装置40による三軸荷重演算処理の流れの一例が示されている。この
図7について説明する前に、
図8~
図10について簡単に説明する。
図8(A)には、三次元座標上において四個の検出器30L、30R、30F、30Zの出力(検出位置情報及び検出値情報)を平面(推定平面EP)に写像した状態等が示されている。なお、
図8(A)において、符号rは、推定平面EPに垂直な法線ベクトルである。法線ベクトルrは、平面パラメータで規定され、法線ベクトルrの方向は、入力荷重(三軸荷重の合力)の方向に略等しい。
図8(B)には、三次元座標上における法線ベクトルrとその俯角、仰角及び方位角との関係が図示されている。
図9(A)は軸力に加えて右側からの横力が入った場合のイメージ図であり、
図9(B)は
図9(A)の場合の推定平面EP等を示すイメージ図である。
図10(A)は軸力に加えて右斜め後方側からの横力が入った場合のイメージ図であり、
図10(B)は
図10(A)の場合の推定平面EP等を示すイメージ図である。なお、
図9(B)及び
図10(B)はあくまでも参考用のイメージ図であり、
図9(B)と
図10(B)とを比べると検出器30の位置が一部違う位置に見えるが、実際には検出器30の力検出方向に見た位置は変わらないものと考える。
【0037】
図7に示されるデータ処理装置40による三軸荷重演算処理は、三軸荷重検出用処理の一部である。
図5(A)に示されるCPU41がROM42又はストレージ44から三軸荷重検出用プログラムを読み出して、RAM43に展開して実行することにより、三軸荷重演算処理を含む三軸荷重検出用処理が行なわれる。なお、
図7では、検出器30がN個あるものとして図示している。本実施形態の場合は、N=4である。
【0038】
まず、CPU41は、各検出器(30L、30R、30F、30Z)のそれぞれの検出結果を示すデータ(検出値情報)を取得し(ステップS201)、各検出器(30L、30R、30F、30Z)のそれぞれの力検出方向に見た位置を示す二次元データ(検出位置情報)を取得する(ステップS202)。ステップS201及びステップS202は、
図6のステップS102に相当する。
【0039】
次に、CPU41は、ステップS201及びステップS202で取得したデータを組み合わせて三次元データに変換し(
図6のステップS103の処理をし)、すべての前記三次元データから最小二乗法によって求まる1つの平面(推定平面EP)の平面パラメータを算出する(ステップS203)。ステップS203は、
図6のステップS104に相当する。
【0040】
ここで、
図7のステップS203及びその前提となる処理について説明する。検出器の力検出方向に見た位置を(x
i,y
i)とし、その位置での検出器の検出結果を(z
i)とした場合、ここでは、変換される三次元データを(x
i,y
i,z
i)としている。一方、本実施形態の構成では、作用する各分力と、検出器を構成するひずみゲージ(抵抗体)の出力値との関係が線形性を十分に備えるようなハード特性となっており、入力荷重に対する環状体20の変形の挙動も線形性がある。このため、上記のように取得した検出に関する情報を三次元座標上の点として捉えた場合、ボルト90の締結による荷重がどのように作用した場合でも、変換された複数の三次元データは基本的に単一の平面(ないしは略平面)を構成するようになっている。
【0041】
そして、本実施形態では、最小二乗法によって平面を求めることで、実測の際のノイズの影響を低減することができ、ボルト90で締結した場合の推定印加合力が先の平面の形で得られる(最尤平面の推定)。
【0042】
計算式について補足説明する。位置座標(xi,yi,zi)を含む平面の方程式は、ax+by+c=zで表すことができる。ここで、a、b、cは平面パラメータである。この平面パラメータa,b,cを求める際に一例として最小二乗法を用いる。その場合の最小化関数は以下の数式1で表すことができる。
【0043】
【0044】
また、上記の数式1から以下の数式2を導出することができる。
【0045】
【0046】
さらに、上記の数式2より、逆行列を用いた演算によってCPU41は平面パラメータa,b,cを求める(ステップS203)。また、ステップS203で求められた平面パラメータa,b,cを用いて、横力X、横力Y、及び軸力を算出する方法は、以下の通りである。
【0047】
CPU41は、平面パラメータa,b,cのうちのa,bに基づいて、
図9(B)及び
図10(B)に示される法線ベクトルrの仰俯角の正接により、横力のノルムの校正係数Фを算出する(ステップS204)。そして、CPU41は、
図7に示されるように、ステップS204で算出した横力のノルムの校正係数Фに横力校正値1/Ф
0を乗算することで、横力のノルムFを算出する(ステップS205)。ステップS204及びステップS205は、
図6のステップS105Bに相当する。
【0048】
図7のステップS206において、CPU41は、平面パラメータa,b,cのうちのa,bに基づいて、
図8(B)及び
図10(B)に示される法線ベクトルrの方位角によって、横力の入力角度θを算出する。
図7のステップS206は、
図6のステップS105Aに相当する。
【0049】
図7のステップS207において、CPU41は、平面パラメータa,b,cのうちのc(
図9(B)及び
図10(B)に示される法線ベクトルrのZ方向(
図8(B)参照)のオフセット量)を軸力の校正係数とし、この軸力の校正係数に軸力校正値1/C
0を乗算することで、軸力を算出する。ステップS207は、
図6のステップS105Cに相当する。
【0050】
図7のステップS208において、CPU41は、ステップS205で算出した横力のノルムF及びステップS206で算出した横力の入力角度θに基づいて横力Xを算出する。また、ステップS209において、CPU41は、ステップS205で算出した横力のノルムF及びステップS206で算出した横力の入力角度θに基づいて横力Yを算出する。
【0051】
以上のように、本実施形態では、各検出器(30L、30R、30F、30Z)の検出位置毎の検出値の情報を平面パラメータ(別の言い方をすれば平面パラメータで規定される1つの法線ベクトル)に統合したうえで、横力X、横力Y、及び軸力が算出される。これによって、簡易な仕組みで検出精度を高めることが可能になる。
【0052】
また、本実施形態では、
図1~
図4に示されるように、検出器30は、連結部26に対して環状体20の外周側に配置されて連結部26の側面26Aに取り付けられている。このように、環状体20において相対的に変形量が大きくなる部位に検出器30が設けられているので、検出器30による検出を効率良く行うことができる。
【0053】
以上説明したように、
図1等に示される本実施形態の三軸荷重検出装置10によれば、簡易な仕組みで検出精度を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態では、
図9(B)及び
図10(B)に示されるように、推定平面EP(尤もらしい一つの面)で入力された力を表現することができる。よって、このような推定平面EPをユーザI/F(
図5(A)参照)を用いて表示すれば(可視化すれば)、ユーザは、入力された力をイメージとして捉えることができる。また、推定平面EPを連続的に表示すれば、経時的に変化する荷重の変動をもイメージとして捉えることができる。
【0055】
なお、上記実施形態では、
図4等に示されるように、環状体20の連結部26が八個設けられているが、環状体(20)に設けられる連結部(26)の数は三個以上であれば八個以外の数であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、検出器30は、八個の連結部26のうちの四個にそれぞれ取り付けられているが、検出器(30)は、三個以上の連結部(26)のうちの三個以上にそれぞれ取り付けられていればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、検出器30は、連結部26に対して環状体20の外周側に配置されて連結部26の側面26Aに取り付けられており、このような構成が好ましいが、検出器(30)が連結部(26)に対して環状体(20)の外周側以外の側面等に取り付けられる構成も採り得る。
【0058】
また、上記実施形態で
図5(A)に示されるCPU41がソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した各処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、各処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0059】
また、上記実施形態で説明したプログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0060】
なお、上記実施形態及び上述の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
【0061】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10 三軸荷重検出装置
20 環状体
22 第一平板
24 第二平板
26 連結部
26A 連結部の側面
30 検出器
40 データ処理装置
90 ボルト(固定部材)
100 第一部材
102 第二部材
EP 推定平面(平面)