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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】車両制御システム及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250107BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20250107BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W50/14
B62D113:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021106871
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023005140
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 康佑
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116453(WO,A1)
【文献】特開2019-127237(JP,A)
【文献】特開2019-182303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 50/14
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアバイワイヤ方式の車両を制御する車両制御システムであって、
1又は複数のプロセッサを備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
前記車両の運転を支援する運転支援制御と、
前記運転支援制御による前記車両の転舵と連動して操舵反力成分をハンドルに付与する連動反力制御と
を実行するように構成され、
システム転舵角は、前記運転支援制御によって要求される目標転舵角であり、
運転支援方向は、前記運転支援制御による前記車両の転舵方向であり、
前記連動反力制御は、前記ハンドルの操舵角と前記システム転舵角の大きさに依存することなく、前記運転支援方向と同じ方向に前記ハンドルを動かすフィードフォワード反力制御を含む
車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムであって、
前記フィードフォワード反力制御は、
前記運転支援方向の情報を取得する運転支援方向取得処理と、
前記運転支援方向と同じ方向に前記ハンドルを動かす操舵反力成分を前記ハンドルに付与する処理と
を含む
車両制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御システムであって、
前記運転支援方向取得処理は、
前記運転支援制御によって要求される目標転舵角であるシステム転舵角を取得する処理と、
前記システム転舵角に基づいて前記運転支援方向を判定する処理と
を含む
車両制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御システムであって、
前記運転支援方向取得処理は、前記システム転舵角を微分することによってシステム転舵角速度を算出し、前記システム転舵角速度に基づいて前記運転支援方向を判定する処理を含む
車両制御システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両制御システムであって、
前記フィードフォワード反力制御による操舵反力成分は、前記ハンドルに連結されたステアリングシャフトに作用する静摩擦力よりも大きい値に設定される
車両制御システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両制御システムであって、
前記連動反力制御は、更に、フィードバック反力制御を含み、
前記フィードバック反力制御は、
前記ハンドルの前記操舵角に応じた目標転舵角であるドライバ転舵角を取得する処理と、
前記運転支援制御によって要求される目標転舵角であるシステム転舵角を取得する処理と、
前記ドライバ転舵角と前記システム転舵角との間の差分を減少させる方向の操舵反力成分を前記ハンドルに付与する処理と
を含む
車両制御システム。
【請求項7】
ステアバイワイヤ方式の車両を制御する車両制御方法であって、
前記車両の運転を支援する運転支援制御と、
前記運転支援制御による前記車両の転舵と連動して操舵反力成分をハンドルに付与する連動反力制御と
を含み、
システム転舵角は、前記運転支援制御によって要求される目標転舵角であり、
運転支援方向は、前記運転支援制御による前記車両の転舵方向であり、
前記連動反力制御は、前記ハンドルの操舵角と前記システム転舵角の大きさに依存することなく、前記運転支援方向と同じ方向に前記ハンドルを動かすフィードフォワード反力制御を含む
車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアバイワイヤ(Steer-By-Wire)方式の車両を制御する技術に関する。特に、本開示は、車両の運転を支援する運転支援制御の機能を備えるステアバイワイヤ方式の車両を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ステアバイワイヤ方式の車両の操舵制御装置を開示している。操舵制御装置は、フィードバック軸力とフィードフォワード軸力とに基づいて操舵反力を算出し、操舵反力をステアリングホイールに付与する。フィードバック軸力は、路面反力に相当し、ステアリングホイールの操作量に応じて転舵を行う転舵アクチュエータの転舵電流に基づいて算出される。一方、フィードフォワード軸力は、ダンピング成分等に相当し、ステアリングホイールの操舵角に基づいて算出される。車両の車線逸脱を防止する車線維持支援の作動中には、フィードバック軸力を用いることなく、フィードフォーワード軸力に基づいて操舵反力が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5994868号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアバイワイヤ方式の車両が、車両の運転を支援する運転支援制御の機能も備える場合について考える。例えば、運転支援制御は、ドライバによる操舵操作によらず、自動的に車両の転舵を行う。その場合、意図しない車両挙動に対してドライバが違和感を抱く可能性がある。
【0005】
本開示の1つの目的は、ステアバイワイヤ方式の車両において、運転支援制御による車両転舵方向をドライバに伝達することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点は、ステアバイワイヤ方式の車両を制御する車両制御システムに関連する。
車両制御システムは、1又は複数のプロセッサを備える。
1又は複数のプロセッサは、
車両の運転を支援する運転支援制御と、
運転支援制御による車両の転舵と連動して操舵反力成分をハンドルに付与する連動反力制御と
を実行するように構成される。
運転支援方向は、運転支援制御による車両の転舵方向である。
連動反力制御は、ハンドルの操舵角に依存することなく、運転支援方向と同じ方向にハンドルを動かすフィードフォワード反力制御を含む。
【0007】
第2の観点は、ステアバイワイヤ方式の車両を制御する車両制御方法に関連する。
車両制御方法は、
車両の運転を支援する運転支援制御と、
運転支援制御による車両の転舵と連動して操舵反力成分をハンドルに付与する連動反力制御と
を含む。
運転支援方向は、運転支援制御による車両の転舵方向である。
連動反力制御は、ハンドルの操舵角に依存することなく、運転支援方向と同じ方向にハンドルを動かすフィードフォワード反力制御を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、運転支援制御による車両の転舵と連動して操舵反力成分をハンドルに付与する連動反力制御が行われる。連動反力制御は、ハンドルの操舵角に依存することなく、運転支援方向(運転支援制御による車両転舵方向)と同じ方向にハンドルを動かすフィードフォワード反力制御を含む。このフィードフォワード反力制御によって、運転支援方向を効果的にドライバに伝達することが可能となる。これにより、ドライバが感じる違和感が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る車両及び車両制御システムの構成例を示す概略図である。
図2】実施の形態に係る車両制御システムの制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】運転支援制御の一例であるリスク回避制御を説明するための概念図である。
図4】運転支援制御の他の例である車線維持支援制御を説明するための概念図である。
図5】運転支援制御の更に他の例である車線逸脱抑制制御を説明するための概念図である。
図6】実施の形態に係る連動反力制御の一例を説明するためのブロック図である。
図7】実施の形態に係る連動反力制御の他の例を説明するためのブロック図である。
図8】実施の形態に係る運転支援方向取得部の第1の例を示すブロック図である。
図9】実施の形態に係る連動反力制御のフィードフォワード反力制御の一例を説明するためのタイミングチャートである。
図10】実施の形態に係る運転支援方向取得部の第2の例を示すブロック図である。
図11】実施の形態の変形例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0011】
1.車両制御システム
図1は、本実施の形態に係る車両1及び車両制御システム10の構成例を示す概略図である。車両1は、車輪2及びハンドル(ステアリングホイール)3を備えている。ハンドル3は、車両1のドライバが操舵操作に用いる操作部材である。ステアリングシャフト4は、ハンドル3に連結されており、ハンドル3と共に回転する。車両1はステアバイワイヤ方式の車両であり、車輪2とハンドル3(ステアリングシャフト4)は機械的に切り離されている。
【0012】
車両制御システム10は、ステアバイワイヤ方式の車両1を制御する。車両制御システム10は、転舵装置20、反力装置30、運転環境情報取得装置40、及び制御装置100を備えている。
【0013】
転舵装置20は、車輪2を転舵する。転舵装置20は、車輪2を転舵するための転舵アクチュエータ21を含んでいる。例えば、転舵アクチュエータ21は、転舵モータである。転舵モータのロータは、減速機22を介して転舵軸23に連結されている。転舵軸23は、車輪2に連結されている。転舵モータが回転すると、その回転運動は転舵軸23の直線運動に変換され、それにより車輪2が転舵される。すなわち、転舵モータの作動により、車輪2を転舵することができる。転舵アクチュエータ21の動作は、制御装置100によって制御される。
【0014】
反力装置30は、ハンドル3に対して操舵反力(反力トルク)を付与する。反力装置30は、ハンドル3に操舵反力を付与するための反力アクチュエータ31を含んでいる。例えば、反力アクチュエータ31は、反力モータである。反力モータのロータは、減速機32を介してステアリングシャフト4につながっている。反力モータを作動させることにより、ステアリングシャフト4ひいてはハンドル3に操舵反力を付与することができる。反力アクチュエータ31の動作は、制御装置100によって制御される。
【0015】
運転環境情報取得装置40は、車両1の運転環境を示す運転環境情報ENVを取得する。運転環境情報取得装置40は、車両状態センサ50、認識センサ60、等を含んでいる。
【0016】
車両状態センサ50は、車両1の状態を検出する。車両状態センサ50は、操舵角センサ51、操舵トルクセンサ52、回転角センサ53、回転角センサ54、転舵電流センサ55、車速センサ56、等を含んでいる。操舵角センサ51は、ハンドル3の操舵角θs(ハンドル角)を検出する。操舵トルクセンサ52は、ステアリングシャフト4に印加される操舵トルクTsを検出する。回転角センサ53は、反力アクチュエータ31(反力モータ)の回転角Φを検出する。回転角センサ54は、転舵アクチュエータ21(転舵モータ)の回転角を検出する。転舵モータの回転角は、車輪2の転舵角(実転舵角δa)に相当する。よって、回転角センサ54は、車輪2の実転舵角δaを検出していると言うこともできる。転舵電流センサ55は、転舵アクチュエータ21を駆動する転舵電流Imを検出する。車速センサ56は、車両1の速度である車速Vを検出する。その他、車両状態センサ50は、ヨーレートセンサや加速度センサを含んでいてもよい。
【0017】
認識センサ60は、車両1の周辺の状況を認識(検出)する。認識センサ60としては、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。
【0018】
運転環境情報取得装置40は、車両1の位置を取得する位置センサを含んでいてもよい。位置センサとしては、GPS(Global Positioning System)センサが例示される。運転環境情報取得装置40は、地図情報を取得してもよい。
【0019】
運転環境情報ENVは、車両状態情報及び周辺状況情報を含んでいる。車両状態情報は、車両状態センサ50によって検出される車両状態を示す。周辺状況情報は、認識センサ60による認識結果を示す。例えば、周辺状況情報は、カメラによって撮像される画像を含む。周辺状況情報は、車両1の周辺の物体に関する物体情報を含んでいてもよい。車両1の周辺の物体としては、歩行者、他車両(先行車両、駐車車両、等)、標識、白線、路側構造物、等が例示される。物体情報は、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す。運転環境情報ENVは、更に、車両1の位置情報、地図情報、等を含んでいてもよい。
【0020】
制御装置100は、車両1を制御する。制御装置100は、1又は複数のプロセッサ110(以下、単にプロセッサ110と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置120(以下、単に記憶装置120と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ110は、各種処理を実行する。例えば、プロセッサ110は、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置120は、プロセッサ110による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置120としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。制御装置100は、1又は複数のECU(Electronic Control Unit)を含んでいてもよい。
【0021】
プロセッサ110がコンピュータプログラムである制御プログラムを実行することにより、制御装置100による各種処理が実現される。制御プログラムは、記憶装置120に格納される。あるいは、制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0022】
制御装置100(プロセッサ110)は、運転環境情報取得装置40から運転環境情報ENVを取得する。運転環境情報ENVは、記憶装置120に格納される。
【0023】
図2は、制御装置100の機能構成を示すブロック図である。制御装置100は、機能ブロックとして、転舵制御部200、反力制御部300、及び運転支援制御部400を含んでいる。これら機能ブロックは、制御プログラムを実行するプロセッサ110と記憶装置120の協働により実現される。尚、転舵制御部200、反力制御部300、及び運転支援制御部400は、それぞれ別の制御装置により実現されてもよい。その場合、それぞれの制御装置は、互いに通信可能に接続され、必要な情報を互いにやりとりする。
【0024】
以下、転舵制御部200、反力制御部300、及び運転支援制御部400のそれぞれについて詳しく説明する。
【0025】
2.転舵制御
転舵制御部200は、車輪2を転舵する「転舵制御」を行う。より詳細には、転舵制御部200は、転舵装置20の転舵アクチュエータ21を制御することによって、車輪2を転舵する。
【0026】
転舵制御部200は、ドライバによるハンドル3の操舵操作に応答して転舵制御を行う。例えば、転舵制御部200は、操舵角θs及び車速Vに基づいて目標転舵角δtを算出する。操舵角θsは、操舵角センサ51によって検出される。あるいは、操舵角θsは、回転角センサ53によって検出される回転角Φから算出されてもよい。車速Vは、車速センサ56によって検出される。転舵制御部200は、目標転舵角δtに従って車輪2を転舵する。車輪2の実転舵角δaは、回転角センサ54によって検出される。転舵制御部200は、実転舵角δaが目標転舵角δtに追従するように、転舵アクチュエータ21を制御する。より詳細には、転舵制御部200は、車輪2の目標転舵角δtと実転舵角δaとの偏差に基づいて、転舵アクチュエータ21を駆動するための制御信号を生成する。転舵アクチュエータ21は制御信号に従って駆動され、それにより車輪2が転舵される。尚、このときに転舵アクチュエータ21を駆動する電流が転舵電流Imである。
【0027】
また、転舵制御部200は、後に説明される運転支援制御部400からの要求に従って転舵制御を行う。この場合、転舵制御部200は、運転支援制御部400から目標制御量を取得し、その目標制御量に従って転舵制御を行う。
【0028】
3.反力制御
反力制御部300は、ハンドル3に操舵反力(反力トルク)を付与する「反力制御」を行う。より詳細には、反力制御部300は、反力装置30の反力アクチュエータ31を制御することによって、操舵反力をハンドル3に付与する。
【0029】
反力制御部300は、ドライバによるハンドル3の操舵操作に応答して反力制御を行う。例えば、反力制御部300は、操舵角θs及び車速Vに基づいて、車輪2にかかるセルフアライニングトルクに相当する目標操舵反力(ばね成分)を算出する。目標操舵反力は、更に、操舵速度(dθs/dt)に応じたダンピング成分を含んでいてもよい。そして、反力制御部300は、目標操舵反力が発生するように反力アクチュエータ31を制御する。より詳細には、反力制御部300は、目標操舵反力に基づいて、反力アクチュエータ31を駆動するための制御信号を生成する。反力アクチュエータ31は制御信号に従って駆動され、それにより操舵反力が発生する。
【0030】
また、反力制御部300は、後に説明される運転支援制御部400からの要求に従って反力制御を行ってもよい。更に、反力制御部300は、運転支援制御部400による運転支援制御と連動(連携)して反力制御を行ってもよい。運転支援制御と連動した反力制御については、後に詳しく説明される。
【0031】
4.運転支援制御
運転支援制御部400は、車両1の運転を支援する「運転支援制御」を行う。運転支援制御は、ドライバによる運転操作によらず、自動的に車両1の走行を制御する。本実施の形態では、特に、操舵に関連する運転支援制御について考える。そのような運転支援制御としては、自動運転制御、リスク回避制御、車線維持支援制御(LTA: Lane Tracing Assist)、車線逸脱抑制制御(LDA: Lane Departure Alert)、等が例示される。
【0032】
自動運転制御は、車両1の自動運転を制御する。具体的には、運転支援制御部400は、運転環境情報ENVに基づいて、車両1の走行プランを生成する。走行プランは、現在の走行車線を維持する、車線変更を行う、右左折を行う、障害物を回避する、等が例示される。更に、運転支援制御部400は、運転環境情報ENVに基づいて、車両1が走行プランに従って走行するために必要な目標トラジェクトリTRJを生成する。目標トラジェクトリTRJは、目標位置及び目標速度を含んでいる。そして、運転支援制御部400は、車両1が目標トラジェクトリTRJに追従するように車両走行制御を行う。
【0033】
より詳細には、運転支援制御部400は、車両1と目標トラジェクトリTRJとの間の偏差(横偏差、ヨー角偏差、速度偏差)を算出し、その偏差を減少させるために必要な目標制御量を算出する。目標制御量としては、目標転舵角、目標ヨーレート、目標速度、目標加速度、目標減速度、目標電流、等が挙げられる。運転支援制御部400は、目標制御量に従って車両走行制御を行う。車両走行制御は、転舵制御、加速制御、及び減速制御を含む。転舵制御は、上述の転舵制御部200を介して行われる。加速制御及び減速制御は、車両1の駆動装置及び制動装置(図示されない)を制御することにより行われる。
【0034】
図3は、リスク回避制御を説明するための概念図である。リスク回避制御は、車両1の前方の物体との衝突リスクを低減するための運転支援制御である。回避対象の物体としては、歩行者、自転車、二輪車、動物、他車両、等が例示される。運転支援制御部400は、運転環境情報ENVに含まれる周辺状況情報(物体情報)に基づいて、車両1の前方の物体を認識する。例えば、認識した物体との衝突リスクが閾値を超えた場合、運転支援制御部400は、リスク回避制御を行う。具体的には、運転支援制御部400は、物体との横距離を確保するために、物体から離れる方向に移動する目標トラジェクトリTRJを生成する。そして、運転支援制御部400は、車両1が目標トラジェクトリTRJに追従するように車両走行制御を行う。ここでの車両走行制御は、転舵制御と減速制御のうち少なくとも一方を含む。転舵制御は、上述の転舵制御部200を介して行われる。
【0035】
図4は、車線維持支援制御を説明するための概念図である。車線維持支援制御は、車両1が車線中央LCに沿って走行することを支援する運転支援制御である。車線は、左右の車線境界LBに挟まれた範囲である。車線境界LBとしては、白線(区画線)、縁石、等が例示される。車線中央LCは、車線の中心線である。運転支援制御部400は、運転環境情報ENVに含まれる周辺状況情報に基づいて、車線境界LB及び車線中央LCを認識する。車両1が車線中央LCから逸脱した場合、運転支援制御部400は、車線維持支援制御を行う。具体的には、運転支援制御部400は、車両1が車線中央LCに戻るように転舵制御を行う。転舵制御は、上述の転舵制御部200を介して行われる。
【0036】
図5は、車線逸脱抑制制御を説明するための概念図である。車線逸脱抑制制御は、車両1が走行車線から逸脱することを抑制するための運転支援制御である。運転支援制御部400は、運転環境情報ENVに含まれる周辺状況情報に基づいて、車線境界LBを認識する。車両1と車線境界LBとの距離が所定の閾値未満となった場合、運転支援制御部400は、車線逸脱抑制制御を行う。具体的には、運転支援制御部400は、車線逸脱の可能性をドライバに伝える。例えば、運転支援制御部400は、ハンドル振動機構(図示されない)を制御して、ハンドル3を振動させる。運転支援制御部400は、表示及び/あるいは音声を通して警告を出力してもよい。また、運転支援制御部400は、車両1が車線中央LCの方に移動するように転舵制御を行ってもよい。転舵制御は、上述の転舵制御部200を介して行われる。
【0037】
5.運転支援制御と反力制御との協調
次に、運転支援制御と反力制御との協調について考える。例えば、運転支援制御による車両1の転舵と連動(連携)して反力制御が行われる場合について考える。運転支援制御による車両1の転舵と連動して行われる反力制御を、以下、「連動反力制御」と呼ぶ。
【0038】
連動反力制御は、運転支援制御が作動しているときに、運転支援制御による車両1(車輪2)の転舵と連動してハンドル3を動かすことを目的としている。そのために、連動反力制御は、運転支援制御による車両1の転舵にハンドル3を追従させるための操舵反力成分をハンドル3に付与する。ハンドル3が回転することにより、ドライバは、運転支援制御による狙いの転舵方向を知ることができる。つまり、連動反力制御によって、運転支援制御による車両1の転舵方向をドライバに伝達(通知)することが可能となる。
【0039】
以下、本実施の形態に係る連動反力制御について更に詳しく説明する。
【0040】
5-1.フィードバック反力制御
図6は、本実施の形態に係る連動反力制御の一例を説明するためのブロック図である。反力制御部300は、連動反力制御部310を含んでいる。連動反力制御部310は、連動反力制御のための操舵反力成分を生成するための目標制御量CON_Cを算出する。
【0041】
図6に示される例では、連動反力制御部310は、フィードバック反力制御部310_FBを含んでいる。フィードバック反力制御部310_FBは、ドライバ転舵角取得部320、差分算出部330、及び制御量算出部340を含んでいる。
【0042】
ドライバ転舵角取得部320は、車両状態情報に含まれるハンドル3の操舵角θs(ハンドル角)を取得する。更に、ドライバ転舵角取得部320は、可変ギヤ比等に基づいて、ハンドル3の操舵角θsに応じた目標転舵角δtを算出する。この目標転舵角δtの算出は、上述の転舵制御部200によるものと同様である。便宜上、ハンドル3の操舵角θsに応じた目標転舵角δtを、以下、「ドライバ転舵角δx」と呼ぶ。
【0043】
一方、「システム転舵角δy」は、運転支援制御によって要求される目標転舵角δtである。システム転舵角δyは、上述の通り、運転支援制御部400によって決定される。連動反力制御部310は、運転支援制御部400によって決定されるシステム転舵角δyを取得する。
【0044】
差分算出部330は、ドライバ転舵角δxとシステム転舵角δyとの間の差分(偏差)を算出する。
【0045】
制御量算出部340は、ドライバ転舵角δxとシステム転舵角δyとの間の差分を減少させる方向の操舵反力成分を生成するための目標制御量CON_Cを算出する。例えば、制御量算出部340は、その差分が大きくなるにつれて操舵反力成分が増加するように、目標制御量CON_Cを算出する。
【0046】
尚、反力制御部300は、連動反力制御による目標制御量CON_Cを他の種類の反力制御による目標制御量と組み合わせることにより、最終的な目標制御量を算出する。そして、反力制御部300は、最終的な目標制御量に従って反力装置30の反力アクチュエータ31を制御し、反力制御を行う。
【0047】
このように、図6に示される連動反力制御(フィードバック反力制御)は、運転支援制御による車両1の転舵にハンドル3を追従させる操舵反力成分をハンドル3に付与する。ハンドル3が回転することにより、ドライバは、運転支援制御による狙いの転舵方向を知ることができる。
【0048】
但し、運転支援制御が車両1の転舵を行っても、それがハンドル3の回転に反映されない状況も考えられる。例えば、運転支援制御によって要求されるシステム転舵角δyの変化が微小である場合について考える。ハンドル3を回転させようとするとき、ハンドル3に連結されたステアリングシャフト4には静摩擦力が作用する。そのような静摩擦力は、例えば、ステアリングコラム内のギア等の部品によって発生する。システム転舵角δyの変化が微小であり、連動反力制御による目標制御量CON_Cが微小である場合、ハンドル3に付与される操舵反力が静摩擦力を超えず、ハンドル3が回転しない可能性がある。仮に、制御量算出部340において目標制御量CON_Cを算出する際のゲインを高く設定すると、ドライバが操舵意図を持ってハンドル3を操舵する際に、そのドライバ操舵を妨げる方向に強い操舵反力がかかってしまう。そのようなドライバ操舵を妨げる操舵反力制御に対してドライバは違和感を感じるため、ゲインの設定には限界がある。また、ステアバイワイヤ方式の車両1では、クイックなギヤ比設定のため、車輪2の転舵角に対してハンドル3の操舵角θsが小さくなる傾向がある。従って、システム転舵角δyの変化が微小である場合、車輪2の実転舵角δaがシステム転舵角δyに追従して変化しても、ハンドル3の方は回転しない可能性がある。ハンドル3が回転することなく車両挙動のみが発生する場合、ドライバは、ハンドル3と車両挙動との一体感の不足に対して違和感を抱く可能性がある。
【0049】
そこで、本実施の形態に係る連動反力制御は、以下に説明されるような「フィードフォワード反力制御」を含んでいてもよい。
【0050】
5-2.フィードフォワード反力制御
図7は、本実施の形態に係る連動反力制御の他の例を説明するためのブロック図である。連動反力制御部310は、上述のフィードバック反力制御部310_FBに加えて、フィードフォワード反力制御部310_FFと加算部370を含んでいる。
【0051】
上述の通り、フィードバック反力制御部310_FBは、ハンドル3の操舵角θsに応じたドライバ転舵角δxを算出し、ドライバ転舵角δxとシステム転舵角δyとの差分に基づいて連動反力制御のための目標制御量CON_Cを算出する。このフィードバック反力制御部310_FBによって算出される目標制御量CON_Cを、便宜上、「FB目標制御量CON_FB」と呼ぶ。
【0052】
一方、フィードフォワード反力制御部310_FFは、ハンドル3の操舵角θsに依存することなく、連動反力制御のための目標制御量CON_Cを算出する。このフィードフォワード反力制御部310_FFによって算出される目標制御量CON_Cを、便宜上、「FF目標制御量CON_FF」と呼ぶ。
【0053】
加算部370は、FB目標制御量CON_FBとFF目標制御量CON_FFを足し合わせることによって、連動反力制御のための目標制御量CON_Cを算出する。
【0054】
より詳細には、フィードフォワード反力制御部310_FFは、運転支援方向取得部350と制御量算出部360を含んでいる。
【0055】
運転支援方向取得部350は、運転支援方向Daの情報を取得する処理を行う。運転支援方向Daとは、運転支援制御による車両1(車輪2)の転舵方向である。つまり、運転支援方向Daは、左方向あるいは右方向である。運転支援方向Daは、数値で表されてもよい。例えば、Da=1が左方向と右方向の一方を表し、Da=-1が他方を表す。運転支援方向取得部350による運転支援方向取得処理の例は、後述される。
【0056】
制御量算出部360は、運転支援方向Daに基づいてFF目標制御量CON_FFを算出する。具体的には、制御量算出部360は、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3を動かす操舵反力成分を生成するためのFF目標制御量CON_FFを算出する。ここで、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3を動かす操舵反力成分(絶対値)は、ハンドル3に連結されたステアリングシャフト4に作用する静摩擦力よりも大きい値に設定される。静摩擦力は、計測やシミュレーションを通して事前に把握される。静摩擦力よりも大きい操舵反力成分は、一定値であってもよい。
【0057】
以上に説明されたように、フィードフォワード反力制御部310_FFは、ハンドル3の操舵角θsに依存することなく、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3を動かすフィードフォワード反力制御を行う。このフィードフォワード反力制御によって、運転支援方向Daを効果的にドライバに伝達(通知)することが可能となる。運転支援制御によって要求されるシステム転舵角δyの変化が微小である場合であっても、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3を動かしやすい。よって、ドライバが感じる違和感を軽減することが可能となる。
【0058】
5-3.運転支援方向取得処理の例
5-3-1.第1の例
図8は、運転支援方向取得部350の第1の例を示すブロック図である。運転支援方向取得部350は、運転支援制御部400からシステム転舵角δyを取得し、そのシステム転舵角δyに基づいて運転支援方向Daを判定する。より詳細には、運転支援方向取得部350は、微分部351と符号変換部352を含んでいる。
【0059】
微分部351は、システム転舵角δyを取得し、システム転舵角δyを微分することによってシステム転舵角速度ωyを算出する。
【0060】
符号変換部352は、システム転舵角速度ωyが正値であれば+1を出力し、システム転舵角速度ωyが負値であれば-1を出力する。この符号変換部352の出力が、運転支援方向Daとして用いられる。Da=1が左方向と右方向の一方を表し、Da=-1が他方を表す。
【0061】
制御量算出部360は、運転支援方向Daに所定のゲインを掛けることにより、FF目標制御量CON_FFを算出する。
【0062】
図9は、フィードフォワード反力制御の一例を説明するためのタイミングチャートである。図9には、システム転舵角δy、システム転舵角速度ωy、運転支援方向Da(あるいはFF目標制御量CON_FF)、ハンドル3の操舵角θs、及びシステム操舵角θyのそれぞれの時間変化が示されている。システム操舵角θyは、システム転舵角δyを操舵角に換算した値である。図9に示されるように、システム転舵角δy(システム操舵角θy)の変化の方向に操舵角θsも変化する。すなわち、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3が動く。これにより、ドライバは、運転支援制御による狙いの運転支援方向Daを知ることができる。
【0063】
尚、運転支援方向Daの判定において、システム転舵角δyの代わりに、システム転舵角δyを操舵角に換算したシステム操舵角θyが用いられてもよい。この場合であっても、運転支援方向取得部350が、システム転舵角δyに基づいて運転支援方向Daを判定することに変わりはない。
【0064】
第1の例によれば、システム転舵角δyに基づいて運転支援方向Daの切り替わりを速やかに判定することが可能となる。
【0065】
5-3-2.第2の例
図10は、運転支援方向取得部350の第2の例を示すブロック図である。第2の例において、運転支援方向Daは、運転支援制御部400から運転支援方向取得部350に通知される。つまり、運転支援方向取得部350は、運転支援制御部400から運転支援方向Daの情報を直接取得する。運転支援制御部400は、自身が決定した目標トラジェクトリTRJ(図3参照)に基づいて、近い将来の運転支援方向Daを認識することができる。
【0066】
5-4.変形例
図11に示されるように、運転支援方向Daの切り替わり時、制御量算出部360は、FF目標制御量CON_FFを徐々に変化させてもよい。これにより、運転支援方向Daの切り替わり時に操舵反力が急変することが防止される。
【0067】
連動反力制御部310は、フィードバック反力制御部310_FBを含まず、フィードフォワード反力制御部310_FFだけを含んでいてもよい。
【0068】
5-5.効果
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、運転支援制御による車両1の転舵と連動して操舵反力成分をハンドル3に付与する連動反力制御が行われる。連動反力制御は、ハンドル3の操舵角θsに依存することなく、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3を動かすフィードフォワード反力制御を含む。このフィードフォワード反力制御によって、運転支援方向Daを効果的にドライバに伝達(通知)することが可能となる。運転支援制御によって要求されるシステム転舵角δyの変化が微小である場合であっても、運転支援方向Daと同じ方向にハンドル3を動かしやすい。ハンドル3が回転することにより、ドライバは、運転支援方向Da、すなわち、運転支援制御による狙いの転舵方向を知ることができる。これにより、ドライバが感じる違和感を軽減することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 車両
2 車輪
3 ハンドル
10 車両制御システム
20 転舵装置
30 反力装置
40 運転環境情報取得装置
50 車両状態センサ
60 認識センサ
100 制御装置
110 プロセッサ
120 記憶装置
200 転舵制御部
300 反力制御部
310 連動反力制御部
310_FB フィードバック反力制御部
310_FF フィードフォワード反力制御部
320 ドライバ転舵角取得部
330 差分算出部
340 制御量算出部
350 運転支援方向取得部
360 制御量算出部
370 加算部
400 運転支援制御部
Da 運転支援方向
δx ドライバ転舵角
δy システム転舵角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11