(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
B29C 70/68 20060101AFI20250107BHJP
B29C 65/56 20060101ALI20250107BHJP
B29C 70/02 20060101ALI20250107BHJP
B29B 15/08 20060101ALI20250107BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
B29C70/68
B29C65/56
B29C70/02
B29B15/08
B29K105:06
(21)【出願番号】P 2021150655
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020155638
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 博幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】唐木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功一
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-017400(JP,A)
【文献】特開2004-298357(JP,A)
【文献】特開2011-002069(JP,A)
【文献】特開平03-272828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00 - 63/48
B29C 65/00 - 65/82
B29C 70/00 - 70/88
B29B 15/08
B29K 105/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材としての樹脂及び前記樹脂中に繊維を含む本体部と、
前記本体部において、ナノ材料が添加された前記繊維により構成され、他の部材と締結により固定するための締結部を含む第一領域と、
前記本体部において前記第一領域の周囲に設けられ、前記第一領域よりも前記ナノ材料が添加された前記繊維が少ない第二領域と、
を有
し、
前記第一領域と前記第二領域との境界部付近における前記第二領域では、前記ナノ材料が添加された前記繊維と前記ナノ材料が添加されていない前記繊維とが混在し、
前記第二領域において前記境界部から離れた場所では、前記ナノ材料が添加されていない前記繊維により構成されている、複合部材。
【請求項2】
前記第一領域と前記第二領域との境界部は、締結方向に対して傾斜している請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記締結部における前記第一領域の厚さは、前記本体部の厚さの半分以上を占める請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記第一領域の外縁は、前記締結部において締結されるボルトの径をDとすると、1.5Dから5Dの範囲にある請求項1~3の何れか1項に記載の複合部材。
【請求項5】
前記ナノ材料は天然素材由来である請求項1~
4の何れか1項に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂中に繊維を含む複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、別部品を取り付ける締結部の繊維体積率を高くし、かつ該締結部への樹脂の含浸を抑制することで、ボルト孔を予め穿設しなくても容易にボルト締めすることを可能とする繊維強化樹脂部材が開示されている。当該繊維強化樹脂部材において、繊維密度の高い締結部に樹脂を含浸させれば、締結部の劣化及び変形が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のような繊維強化樹脂部材では、繊維密度を高くすることにより、樹脂を含浸しても繊維間に樹脂が行き渡らない場合が生じ得る。すなわち、他の部材との締結部において、繊維密度を高くした結果、かえって繊維間の結合強度が弱くなり、締結部の劣化及び変形を引き起こす可能性がある。
【0005】
本発明は、締結部の劣化及び変形が抑制される複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の複合部材は、母材としての樹脂及び前記樹脂中に繊維を含む本体部と、前記本体部において、ナノ材料が添加された前記繊維により構成され、他の部材と締結により固定するための締結部を含む第一領域と、前記本体部において前記第一領域の周囲に設けられ、前記第一領域よりも前記ナノ材料が添加された前記繊維が少ない第二領域と、を有している。
【0007】
請求項1に記載の複合部材は、樹脂中に繊維を含んでおり、本体部に設けられた締結部において他の部材と締結される。また、当該複合部材の本体部は、締結部を有する第一領域と、第一領域の周囲に設けられた第二領域を有している。この第一領域に含まれる繊維には、第二領域に含まれる繊維よりも多くのナノ材料が添加されていることから、締結部におけるナノ材料の密度は周辺部よりも高い。そのため、当該複合部材によれば、繊維間の結合強度を確保でき、締結部の劣化及び変形を抑制することができる。
【0008】
請求項2に記載の複合部材は、請求項1に記載の複合部材において、前記第一領域と前記第二領域との境界部は、締結方向に対して傾斜している。
【0009】
請求項2に記載の複合部材によれば、ナノ材料の添加度合が異なる二つの領域同士の接着面積を確保することができ、両領域の境界における接合強度が確保される。
【0010】
請求項3に記載の複合部材は、請求項1又は2に記載の複合部材において、前記締結部における前記第一領域の厚さは、前記本体部の厚さの半分以上を占める。
【0011】
請求項3に記載の複合部材によれば、第一領域の厚さの下限を本体部の厚さの半分とすることにより、コストの高いナノ材料の使用量を抑えつつ、締結部の劣化及び変形を抑制することができる。
【0012】
請求項4に記載の複合部材は、請求項1~3の何れか1項に記載の複合部材において、前記第一領域の外縁は、前記締結部において締結されるボルトの径をDとすると、1.5Dから5Dの範囲にある。
【0013】
請求項4に記載の複合部材によれば、第一領域の範囲をボルトの径の1.5倍から5倍の範囲に設定することにより、コストの高いナノ材料の使用量を抑えつつ、締結部の劣化及び変形を抑制することができる。
【0014】
請求項5に記載の複合部材は、請求項1~4の何れか1項に記載の複合部材において、前記第一領域と前記第二領域との境界部付近における前記第二領域では、前記ナノ材料が添加された前記繊維と前記ナノ材料が添加されていない前記繊維とが混在し、前記第二領域において前記境界部から離れた場所では、前記ナノ材料が添加されていない前記繊維により構成されている。
【0015】
請求項5に記載の複合部材によれば、第一領域と第二領域との境界部におけるナノ材料の添加度合の急激な変化を抑制することにより、境界部における剥離を抑制することができる。
【0016】
請求項6に記載の複合部材は、請求項1~5の何れか1項に記載の複合部材において、前記ナノ材料は天然素材由来である。
【0017】
請求項6に記載の複合部材によれば、ナノ材料としてカーボンナノチューブを使用する場合と比べて、コストの増加を抑えることができ、さらに、カーボンニュートラルを実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、締結部の繊維密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態のパネル及びリインフォースの平面図である。
【
図2】第1の実施形態のパネル及びリインフォースの接合部分の断面図である。
【
図3】第2の実施形態のパネル及びリインフォースの接合部分の断面図である。
【
図4】第3の実施形態のパネル及びリインフォースの接合部分の断面図である。
【
図5】第4の実施形態のパネル及びリインフォースの接合部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
図1及び
図2には、本実施形態のパネル10と、パネル10が固定されているリインフォース30と、が図示されている。リインフォース30は、他の部材の一例である。複合部材としてのパネル10は、炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)により構成される本体部12を含んでいる。本体部12は、ボルト42が挿通される挿通孔14Aを有しており、ボルト42がナット44と螺合されることにより、締結力が及ぶ部分が締結部14として構成される。ここで、締結力が及ぶ部分とは、挿通孔14Aの周辺部であって、少なくともボルト42の頭部が接する範囲を含む。
【0021】
図2に示されるように、パネル10の本体部12は、締結部14を含む第一領域12Aと、第一領域の周囲に設けられた第二領域12Bと、を有している。本実施形態において、第一領域12Aと第二領域12Bとの境界である境界部12Cは、ボルト42の締結方向、すなわち軸方向に対して傾斜している。詳しくは、本体部12の下方から上方に向かうにつれて、挿通孔14Aから遠ざかる方向に傾斜している。
【0022】
また、パネル10は、母材としての樹脂20と、樹脂20中に含まれる繊維である炭素繊維22とを含む。なお、
図2においては、炭素繊維22の延在方向が図面の表裏に延びる一方向に設定されているが、この限りではなく、炭素繊維22は、層毎に延在方向を変えてもよいし、縦横に織られた織物状にしてもよい(他の実施形態も同様である)。ここで、第一領域12Aにおける炭素繊維22は、その表面にナノ材料であるカーボンナノチューブ24が添加されている。なお、炭素繊維22にカーボンナノチューブ24が添加されている状態は、炭素繊維22の表面にカーボンナノチューブ24が付着されている態様のみならず、炭素繊維22の表面及びその周囲にカーボンナノチューブ24が分散して存在する態様を含む。一方、第二領域12Bにおける炭素繊維22には、カーボンナノチューブ24が添加されていない。
【0023】
なお、第一領域12Aよりもカーボンナノチューブ24が添加された炭素繊維22の重量比が少なければ、第二領域12Bにおける炭素繊維22にカーボンナノチューブ24が添加されていてもよい。
【0024】
本実施形態のパネル10は、炭素繊維22に樹脂20を含浸させたプリプレグを積層した後、プレスにより成型することで製造することができる。ここで、第一領域12Aを構成するプリプレグにおける炭素繊維22は、その表面に予めカーボンナノチューブ24が添加されている。また、締結部14付近では、カーボンナノチューブ24を有するプリプレグを挿通孔14Aの径方向にずらしながら積層することで、傾斜した境界部12Cを形成することができる。
【0025】
なお、パネル10の本体部12は、本体部12の形状とされた炭素繊維22の成型体に液状の樹脂を含浸させる製法、SMC(Sheet Molding Compound)をプレス成型する製法、により製造してもよい。
【0026】
以上、本実施形態では、第一領域12Aに含まれる炭素繊維22にはカーボンナノチューブ24が添加されており、第二領域12Bに含まれる炭素繊維22にはカーボンナノチューブ24が添加されていない。そのため、締結部14におけるカーボンナノチューブ24の密度は締結部14の周辺部よりも高い。
【0027】
例えば、特開2019-59871号公報に開示されるように、炭素繊維強化樹脂において、炭素繊維の表面にカーボンナノチューブを設けることで、母材の樹脂に対する剥離強度が向上し、機械的強度が向上することが知られている。そのため、本実施形態のように、締結力が及ぶ締結部14付近において、表面にカーボンナノチューブ24が添加された炭素繊維22を使用することにより、炭素繊維22の密度を増さなくても本体部12の機械的強度を向上させることができる。これにより、締結部14の劣化及び変形を抑制することができる。
【0028】
また、炭素繊維22の密度を増さなくても本体部12の機械的強度を向上させることができるため、上述した樹脂20を含浸させる製法によりパネル10を製造する場合には、樹脂20の含浸不足が抑制される。さらに、本実施形態は、挿通孔14Aに金属カラー等を設けて締結部14の劣化及び変形を抑制する場合に比べて、金属カラー等の追加の部品や製造時の追加の工数が不要となるため、コスト面で有利である。
【0029】
一方、カーボンナノチューブ24に代表されるナノ材料は一般的に高価であり、ナノ材料を部品全体に使用した場合、コストの面から用途が限られるという課題がある。これに対して、本実施形態は、締結部14を含む第一領域12Aにのみカーボンナノチューブ24を添加したので、本体部12全体にカーボンナノチューブ24を使用する場合に比して、製造コストが抑制される。
【0030】
また、炭素繊維強化樹脂において、機械的強度の異なる複数の領域がある場合、領域同士の境界部において接合強度を確保することが難しい。これに対し、本実施形態のパネル10では、第一領域12Aと第二領域12Bとの境界である境界部12Cは、ボルト42の締結方向である軸方向に対して傾斜している。そのため、本実施形態によれば、境界部12Cが締結方向に沿って垂直に形成される場合に比べて、第一領域12Aと第二領域12Bとの接着面積を確保することができ、両者の接合強度が確保される。
【0031】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態と第一領域12A及び第二領域12Bの配置が異なる。以下、第1の実施形態との相違点について説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については、第1の実施形態と同一の符号を付しており、詳細な説明については省略する。
【0032】
図3に示されるように、本実施形態では、挿通孔14Aが第一領域12A及び第二領域12Bに跨るように配置されており、締結部14は第一領域12A及び第二領域12Bの双方に含まれている。そして、本体部12の厚さ方向に対する第一領域12Aが配置される範囲が、本体部12の厚さで規定されている。具体的に、締結部14における第一領域12Aの厚さt1、t2は本体部12の厚さTの8割~9割の範囲内に設定されている。なお、
図3において、第一領域12Aの厚さt1は、締結部14の径方向内側の厚さであり、第一領域12Aの厚さt2は、締結部14の径方向外側の厚さである。
【0033】
本実施形態のような構造を有する締結部14では、第一領域12Aの厚さt1、t2を本体部12の厚さTの半分以上とすることで、機械的強度を確保することができる。そのため、本実施形態のパネル10によれば、本体部12の厚さ方向における第一領域12Aを減らすことにより、コストの高いカーボンナノチューブ24の使用量を抑えつつ、締結部14の劣化及び変形を抑制することができる。その他、本実施形態では、第1の実施形態と同様の効果を有する。
【0034】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、第1及び第2の実施形態と第一領域12A及び第二領域12Bの配置が異なる。以下、第1の実施形態との相違点について説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については、第1の実施形態と同一の符号を付しており、その詳細な説明については省略する。
【0035】
図4に示されるように、本実施形態では、挿通孔14Aが第一領域12Aに配置されているものの、締結部14は第一領域12A及び第二領域12Bの双方に含まれている。そして、本体部12の幅方向に対する第一領域12Aが配置される範囲が、ボルト42の径で規定されている。具体的に、締結部14における第一領域12Aの外縁の外径dはボルト42の径をDとすると、1.5Dから5Dの範囲に設定されている。
【0036】
本実施形態のような構造を有する締結部14では、第一領域12Aの外径dをボルト42の径Dの1.5倍から5倍の範囲に設定することで、機械的強度を確保することができる。そのため、本実施形態のパネル10によれば、本体部12の幅方向における第一領域12Aを減らすことにより、コストの高いカーボンナノチューブ24の使用量を抑えつつ、締結部の劣化及び変形を抑制することができる。その他、本実施形態では、第1の実施形態と同様の効果を有する。
【0037】
[第4の実施形態]
第4の実施形態は、第1の実施形態と第一領域12A及び第二領域12Bの境界部12C付近の構造が異なる。以下、第1の実施形態との相違点について説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については、第1の実施形態と同一の符号を付しており、その詳細な説明については省略する。
【0038】
図5に示されるように、本実施形態では、境界部12C付近の第二領域12Bでは、カーボンナノチューブ24が添加された炭素繊維22とカーボンナノチューブ24が添加されていない炭素繊維22とが混在している。また、第二領域12Bにおいて境界部12Cから離れた場所では、カーボンナノチューブ24が添加された炭素繊維22は存在しない。
【0039】
本実施形態によれば、第一領域12Aと第二領域12Bとの境界である境界部12Cにおけるカーボンナノチューブ24の添加度合の急激な変化を抑制することにより、境界部12Cにおける剥離を抑制することができる。
【0040】
[第5の実施形態]
上記第4の実施形態では、ナノ材料としてカーボンナノチューブを使用したが、第5の実施形態では、ナノ材料として天然素材由来のセルロースナノファイバーを使用している。なお、ナノ材料の素材以外の構造については、第4の実施形態と同様につき、詳細な説明は割愛する。
【0041】
本実施形態においても、第4の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、セルロースナノファイバーもカーボンナノチューブと同様に高価な材料であるが、セルロースナノファイバーの場合も、カーボンナノチューブと同様、添加量が少なくて済む。そのため、本実施形態によれば、パネル10のコスト増を抑えることができる。また、セルロースナノファイバーは植物由来の天然素材である。すなわち、植物の成長過程で光合成により二酸化炭素が吸収されるため、ナノ材料としてセルロースナノファイバーを使用することで、いわゆるカーボンニュートラルを実現することができる。
【0042】
なお、第1~第3の実施形態においても、カーボンナノチューブに代えてセルロースナノファイバーを使用してもよい。この場合も、各実施形態の効果に加えて、コスト増の抑制及びカーボンニュートラルの実現を図ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について、表1及び表2を用いて説明する。なお、各表における「CNT」に表記はカーボンナノチューブの略称を示し、「CNF」はセルロースナノファイバーの略称を指す。
【0044】
【0045】
表1は、実施例1~実施例5の構造及び効果をまとめた表である。実施例1は
図2に示す第1の実施形態と同様の構造である。実施例2は
図3に示す第2の実施形態と同様の構造であって、締結部14における第一領域12Aの厚さが本体部12の5割に設定されている。実施例3は
図4に示す第3の実施形態と同様の構造であって、締結部14における第一領域12Aの面積がボルト42の1.2倍となるように設定されている。実施例4は
図5に示す第4の実施形態と同様の構造であって、境界部12C付近においてカーボンナノチューブ24が混在している。実施例5は、実施例4と同様の構造であって、カーボンナノチューブ24に代えてセルロースナノファイバーを使用している。
【0046】
各実施例によれば、締結部においてカーボンナノチューブ24又はセルロースナノファイバーを含むことにより、ボルト42締結後100日後であっても接合強度を確保することができ、かつコストを低減することができる。なお、実施例2については、締結部14の厚さ方向にカーボンナノチューブ24を含まない第二領域12Bが含まれるため、他の実施例と比べて、接合強度は低いものの、カーボンナノチューブ24の使用量が低減した分、コストは有利である。
【0047】
【0048】
表2は、比較例1~比較例6の構造及び効果をまとめた表である。比較例1は樹脂20中に炭素繊維22を含んでおらず、挿通孔14Aに金属カラーを設けた例である。比較例2はカーボンナノチューブ24を添加していない炭素繊維22により本体部12を形成した例である。比較例3は、炭素繊維22を含まず、カーボンナノチューブ24を含有させた樹脂20により本体部12全体を形成した例である。比較例4~比較例6は、カーボンナノチューブ24を添加した炭素繊維22を本体部12全体で使用した例である。
【0049】
比較例1によれば、金属カラーを挿通孔14Aに接着する等で工数が増すため、各実施例に比べてコスト面で不利である。比較例2によれば、炭素繊維22の密度を増したもののカーボンナノチューブ24を含んでおらず、ボルト42を締結してから100日後の接合強度が低下するため、ボルト42が緩む。これは、締結部14においてクリープが発生していることによる。比較例3によれば、炭素繊維22を含んでいない場合であっても接合強度をある程度確保することができる。ただし、カーボンナノチューブ24の含有量が多いため、コスト面では最も不利である。比較例4~比較例6は、本体部12全体にカーボンナノチューブ24を含むため、接合強度をある程度確保することができるものの、各実施例に比べてコスト面では不利となる。
【0050】
以上、各実施例によれば、各比較例に比べてコストを上げることなく接合強度を確保することが出る。つまり、締結部14の劣化及び変形が抑制される。
【0051】
[備考]
上記各実施形態では、複合部材としてのパネル10が炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)により構成される例を説明したが、この限りではない。例えば、ガラス繊維強化樹脂材(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)により、パネル10を製造してもよい。
【0052】
なお、上記第1~第4の実施形態では(
図2~
図5においては)、炭素繊維22の表面にカーボンナノチューブ24が付着されている態様を図示しているが、これに限らず、炭素繊維22の表面及びその周囲にカーボンナノチューブ24が分散して存在してもよい。この場合、第一領域12Aでは炭素繊維22同士の間にもカーボンナノチューブ24が存在する。第5の実施形態のように、ナノ材料としてカーボンナノチューブに代えてセルロースナノファイバーを適用する場合においても同様にセルロースナノファイバーを分散させてもよい。
【0053】
また、第1~第4の実施形態では、ナノ材料としてカーボンナノチューブ24を使用した。さらに、第5の実施形態では、ナノ材料としてセルロースナノファイバーを使用した。しかし、この限りではなく、例えば、フラーレン等の他のナノ材料を使用してもよい。
【0054】
上記の第2~第4の実施形態は、それぞれ組み合わせて構成してもよい。例えば、第2又は第3の実施形態の境界部12C付近において、カーボンナノチューブ24が添加された炭素繊維22とカーボンナノチューブ24が添加されていない炭素繊維22とを混在させてもよい。なお、ナノ材料としてカーボンナノチューブに代えてセルロースナノファイバーを適用する場合においても各実施形態の態様を組み合わせてもよい。
【0055】
本発明は、車両の構造部品の接合に好適である。例えば、隔壁とリインフォースとの接合に適用することができる。本発明を車両の構造部品に適用した場合、締結部14における強度が確保され、締結部14の劣化及び変形が抑制されるため、車体の捻り剛性は増加する。
【符号の説明】
【0056】
10 パネル(複合部材)
12 本体部
12A 第一領域
12B 第二領域
12C 境界部
14 締結部
20 樹脂
22 炭素繊維(繊維)
24 カーボンナノチューブ(ナノ材料)
30 リインフォース(他の部材)
42 ボルト