(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】車両衝突回避支援装置及び車両衝突回避支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20250107BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20250107BHJP
B60W 30/095 20120101ALI20250107BHJP
【FI】
G08G1/16 D
G08G1/16 C
B60W30/09
B60W30/095
(21)【出願番号】P 2021156442
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】泉 祐介
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156253(JP,A)
【文献】特開2018-156290(JP,A)
【文献】特開2014-139756(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0113665(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
B60W 30/09
B60W 30/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が旋回しているときに前記自車両の旋回経路を予測すると共に、前記自車両の前方の物標の移動経路を予測し、
前記旋回経路と前記移動経路とが交差する点における
衝突角度であって、前記移動経路に
直交するラインから
前記自車両の走行方向が乖離する量
である衝突角度
を取得し、
前記衝突角度が所定衝突角度閾値以上であるとの禁止条件が成立しているときには、前記物標に前記自車両が衝突する可能性があるとの衝突条件が成立しても、前記自車両と前記物標との衝突を回避するための衝突回避制御を実行せず、
前記禁止条件が成立していないときには、前記衝突条件が成立した場合、前記衝突回避制御を実行する、
ように構成された制御装置を備えた車両衝突回避支援装置において、
前記制御装置は、
前記自車両の旋回中、前記自車両が旋回を開始してからその旋回中心周りに旋回した角度を自車旋回角度として取得し、
前記自車旋回角度が大きいときには、前記自車旋回角度が小さいときに比べ、前記所定衝突角度閾値を小さい値に設定する、
ように構成されている、
車両衝突回避支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両衝突回避支援装置において、
前記制御装置は、前記自車両のヨーレートに基づいて前記自車両の旋回経路を予測するように構成されている、
車両衝突回避支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両衝突回避支援装置において、
前記制御装置は、前記自車両が前記物標の移動経路に到達するまでに要すると予測される時間を予測到達時間として取得すると共に、前記自車両が前記物標の移動経路に到達したときの前記自車両に対する前記物標の位置を物標位置として取得するように構成されており、
前記衝突条件は、前記予測到達時間が所定予測到達時間以下であり且つ前記物標位置が前記自車両の幅の範囲内の位置であるときに成立する、
車両衝突回避支援装置。
【請求項4】
自車両が旋回しているときに前記自車両の旋回経路を予測すると共に、前記自車両の前方の物標の移動経路を予測し、
前記旋回経路と前記移動経路とが交差する点における
衝突角度であって、前記移動経路に
直交するラインから
前記自車両の走行方向が乖離する量
である衝突角度
を取得し、
前記衝突角度が所定衝突角度閾値以上であるとの禁止条件が成立しているときには、前記物標に前記自車両が衝突する可能性があるとの衝突条件が成立しても、前記自車両と前記物標との衝突を回避するための衝突回避制御を実行せず、
前記禁止条件が成立していないときには、前記衝突条件が成立した場合、前記衝突回避制御を実行する、
ように構成された車両衝突回避支援プログラムにおいて、
前記自車両の旋回中、前記自車両が旋回を開始してからその旋回中心周りに旋回した角度を自車旋回角度として取得し、
前記自車旋回角度が大きいときには、前記自車旋回角度が小さいときに比べ、前記所定衝突角度閾値を小さい値に設定する、
ように構成されている、
車両衝突回避支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突回避支援装置及び車両衝突回避支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自車両の前方の車両や人等の物体(物標)に自車両が衝突することを回避するための衝突回避制御を実行する車両衝突回避支援装置が知られている。車両衝突回避支援装置は、レーダやカメラ等により取得される情報に基づいて自車両の前方の物標の存在を検知し、その検知した物標に自車両が衝突する可能性があると判定した場合に自車両を自律的に停止させる等の衝突回避制御を実行するようになっている。
【0003】
又、自車両が交差点等で右折するときにその交差点を直進して通過しようとする対向車に自車両が衝突することを回避するために衝突回避制御を実行する車両衝突回避支援装置も知られている。この車両衝突回避支援装置は、自車両が右折するときに走行する経路を予測し、その予測した経路(予測旋回経路)に基づいて交差点を直進して通過する対向車に自車両が衝突するか否かの判定(衝突判定)を行うようになっているが、予測旋回経路を用いて衝突判定を行うと、自車両が右折した先の道路の対向車線に停止している対向車を通る予測旋回経路が予測されることがあり、そのため、その対向車と自車両とが衝突すると判定されて衝突回避制御が実行されてしまうことがある。しかしながら、実際には、自車両は、通常の右折を行うのであれば、右折先の道路の対向車に衝突することはない。従って、そうした衝突回避制御の実行は、不要なものであったことになる。
【0004】
そこで、自車両が交差点等で右折するときに右折後半においては、衝突回避制御を実行しないようにされた車両衝突回避支援装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
自車両が交差点等で右折するときに右折先の道路に横断歩道が設けられており、その横断歩道を人が渡っていることがあるが、右折後半においては衝突回避制御を実行しないようにされた上記車両衝突回避支援装置によると、横断歩道を渡っている人(歩行者)に自車両が衝突してしまう場合であっても、衝突回避制御が実行されず、不都合である。このことは、自車両が交差点等で左折する場面にも、等しく当てはまる。
【0007】
本発明の目的は、右折又は左折時の不要な衝突回避制御の実行を回避することができる車両衝突回避支援装置及び車両衝突回避支援プログラムを提供することにある。
【0008】
本発明に係る車両衝突回避支援装置は、制御装置を備えている。該制御装置は、自車両が旋回しているときに前記自車両の旋回経路を予測すると共に、前記自車両の前方の物標の移動経路を予測し、前記旋回経路と前記移動経路とが交差する点における衝突角度であって、前記移動経路に直交するラインから前記自車両の走行方向が乖離する量である衝突角度を取得するように構成されている。更に、前記制御装置は、前記衝突角度が所定衝突角度閾値以上であるとの禁止条件が成立しているときには、前記物標に前記自車両が衝突する可能性があるとの衝突条件が成立しても、前記自車両と前記物標との衝突を回避するための衝突回避制御を実行せず、前記禁止条件が成立していないときには、前記衝突条件が成立した場合、前記衝突回避制御を実行するように構成されている。
【0009】
そして、前記制御装置は、前記自車両の旋回中、前記自車両が旋回を開始してからその旋回中心周りに旋回した角度を自車旋回角度として取得し、前記自車旋回角度が大きいときには、前記自車旋回角度が小さいときに比べ、前記所定衝突角度閾値を小さい値に設定するように構成されている。
【0010】
自車両が交差点等で右折する場合、一般に、自車両の舵角は、右折の開始からその中盤までは、徐々に大きくなり、右折中盤を越えると、徐々に小さくなり、右折の完了時には、ゼロになる。従って、一般に、自車両が右折時に実際に走行する経路の旋回半径は、右折の開始からその中盤までは、徐々に小さくなり、右折中盤を越えると、徐々に大きくなり、右折の完了以降、無限大となる。即ち、右折の完了以降は、自車両は、直進する。
【0011】
ここで、自車両が右折先の道路を横断する人等の物標と衝突するとした場合、自車両は、右折を完了して直進し始める直前又はそれ以降にそうした物標に衝突するので、自車両と物標とが衝突するときに自車両の走行方向と物標の移動方向とがなす角度は、概ね、90°である。従って、一般に、自車両が右折中盤にさしかかるまでは、自車両の走行方向と物標の移動方向とがなす角度は、90°から比較的大きく乖離した値をとるが、自車両の旋回が進むにつれて、徐々に90°に近づき、最終的に、自車両と物標とが衝突するときには、90°近辺の値になる。
【0012】
従って、自車両の右折中盤までは、予測旋回経路に基づいて取得される衝突角度が比較的大きくても、その予測旋回経路に基づいて衝突条件が成立したと判定された場合、実際に自車両が物標に衝突する可能性は高い。しかしながら、自車両の右折中盤以降は、予測旋回経路に基づいて取得される衝突角度が比較的大きい場合、その予測旋回経路に基づいて衝突条件が成立したと判定されても、実際に自車両が物標に衝突する可能性は低い。このことは、自車両が交差点等で左折する場面にも、等しく当てはまる。
【0013】
本発明によれば、衝突角度が所定衝突角度閾値以上であるとの禁止条件が成立しているときには、衝突条件が成立しても、衝突回避制御が実行されず、しかも、所定衝突角度閾値は、自車旋回角度が大きいときには、自車旋回角度が小さいときに比べ、小さい値に設定される。従って、自車両の右折中盤までは、予測された自車両の旋回経路に基づいて取得される衝突角度が比較的大きくても、その予測された旋回経路に基づいて衝突条件が成立したと判定された場合、衝突回避制御が実行されるが、自車両の右折中盤以降は、予測された自車両の旋回経路に基づいて取得される衝突角度が比較的大きい場合、その予測された旋回経路に基づいて衝突条件が成立したと判定されても、衝突回避制御は、実行されない。このため、右折又は左折時の不要な衝突回避制御の実行を回避することができる。
【0014】
尚、本発明に係る車両衝突回避支援装置において、前記制御装置は、前記自車両のヨーレートに基づいて前記自車両の旋回経路を予測するように構成され得る。
【0015】
本発明によれば、ヨーレートセンサ等のセンサから取得可能な自車両のヨーレートに基づいて自車両の旋回経路を予測することができる。
【0016】
又、本発明に係る車両衝突回避支援装置において、前記制御装置は、前記自車両が前記物標の移動経路に到達するまでに要すると予測される時間を予測到達時間として取得すると共に、前記自車両が前記物標の移動経路に到達したときの前記自車両に対する前記物標の位置を物標位置として取得するように構成され得る。この場合、前記衝突条件は、前記予測到達時間が所定予測到達時間以下であり且つ前記物標位置が前記自車両の幅の範囲内の位置であるときに成立する。
【0017】
本発明によれば、自車両が物標の移動経路に到達するまでに要すると予測される時間(予測到達時間)と自車両が物標の移動経路に到達したときの自車両に対する物標の位置(物標位置)とに基づいて物標に自車両が衝突するか否か(衝突条件が成立しているか否か)が判定される。このため、自車両と物標との衝突をより精度良く判定することができる。
【0018】
又、本発明に係る車両衝突回避支援プログラムは、自車両が旋回しているときに前記自車両の旋回経路を予測すると共に、前記自車両の前方の物標の移動経路を予測し、前記旋回経路と前記移動経路とが交差する点における衝突角度であって、前記移動経路に直交するラインから前記自車両の走行方向が乖離する量である衝突角度を取得するように構成されている。更に、本発明に係る車両衝突回避支援プログラムは、前記衝突角度が所定衝突角度閾値以上であるとの禁止条件が成立しているときには、前記物標に前記自車両が衝突する可能性があるとの衝突条件が成立しても、前記自車両と前記物標との衝突を回避するための衝突回避制御を実行せず、前記禁止条件が成立していないときには、前記衝突条件が成立した場合、前記衝突回避制御を実行するように構成されている。
【0019】
そして、本発明に係る車両衝突回避支援プログラムは、前記自車両の旋回中、前記自車両が旋回を開始してからその旋回中心周りに旋回した角度を自車旋回角度として取得し、前記自車旋回角度が大きいときには、前記自車旋回角度が小さいときに比べ、前記所定衝突角度閾値を小さい値に設定するように構成されている。
【0020】
本発明によれば、先に述べた理由と同じ理由から、右折又は左折時の不要な衝突回避制御の実行を回避することができる。
【0021】
本発明の構成要素は、図面を参照しつつ後述する本発明の実施形態に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置及びその車両衝突回避支援装置が搭載された車両(自車両)を示した図である。
【
図2】
図2は、自車両が交差点を右折している場面を示した図である。
【
図3】
図3は、自車両が交差点を左折している場面を示した図である。
【
図4】
図4は、自車座標系における物標速度等を示した図である。
【
図6】
図6は、自車両が右折するときの実際の旋回経路を示した図である。
【
図7】
図7は、自車両が右折を開始した直後の予測旋回経路と実際の旋回経路とを示した図である。
【
図8】
図8は、自車両が右折を開始した後、右折の中盤にさしかかったときの予測旋回経路と実際の旋回経路とを示した図である。
【
図9】
図9は、自車両が右折を開始した後、右折の中盤にさしかかったときの予測旋回経路と実際の旋回経路とを示した図である。
【
図10】
図10は、自車両が右折するときの実際の旋回経路を示した図である。
【
図11】
図11は、自車両が左折を開始した直後の予測旋回経路と実際の旋回経路とを示した図である。
【
図12】
図12は、自車両が左折を開始した直後の予測旋回経路と実際の旋回経路とを示した図である。
【
図13】
図13は、自車両が左折を開始した後、左折の中盤にさしかかったときの予測旋回経路と実際の旋回経路とを示した図である。
【
図14】
図14は、衝突角度と自車旋回角度と衝突回避制御を実行しない領域との関係を示した図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置について説明する。
図1に示したように、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置10は、自車両100に搭載されている。以下の説明において、自車両100の運転者を「運転者DR」と表記する。
【0024】
<ECU>
車両衝突回避支援装置10は、制御装置としてのECU90を備えている。ECUは、エレクトロニックコントロールユニットの略称である。ECU90は、マイクロコンピュータを主要部として備える。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェース等を含む。CPUは、ROMに格納されたインストラクション又はプログラム又はルーチンを実行することにより、各種機能を実現するようになっている。
【0025】
<駆動装置等>
自車両100には、駆動装置21、制動装置22及び操舵装置23が搭載されている。
【0026】
<駆動装置>
駆動装置21は、自車両100を走行させるために自車両100に付加される駆動トルク(駆動力)を出力する装置であり、例えば、内燃機関及びモータ等である。駆動装置21は、ECU90に電気的に接続されている。ECU90は、駆動装置21の作動を制御することにより駆動装置21から出力される駆動トルクを制御することができる。
【0027】
<制動装置>
制動装置22は、自車両100を制動するために自車両100に付加される制動トルク(制動力)を出力する装置であり、例えば、ブレーキ装置である。制動装置22は、ECU90に電気的に接続されている。ECU90は、制動装置22の作動を制御することにより制動装置22から出力される制動トルクを制御することができる。
【0028】
<操舵装置>
操舵装置23は、自車両100を操舵するために自車両100に付加される操舵トルク(操舵力)を出力する装置であり、例えば、パワーステアリング装置である。操舵装置23は、ECU90に電気的に接続されている。ECU90は、操舵装置23の作動を制御することにより操舵装置23から出力される操舵トルクを制御することができる。
【0029】
<センサ等>
更に、自車両100には、アクセルペダル31、アクセルペダル操作量センサ32、ブレーキペダル33、ブレーキペダル操作量センサ34、ハンドル35、ステアリングシャフト36、操舵角センサ37、操舵トルクセンサ38、車両運動量検出装置50及び周辺情報検出装置60が搭載されている。
【0030】
<アクセルペダル操作量センサ>
アクセルペダル操作量センサ32は、アクセルペダル31の操作量を検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。アクセルペダル操作量センサ32は、検出したアクセルペダル31の操作量の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてアクセルペダル31の操作量をアクセルペダル操作量APとして取得する。ECU90は、後述する衝突回避制御を実行する場合を除き、アクセルペダル操作量AP及び自車両100の走行速度(自車速)に基づいて要求駆動トルク(要求駆動力)を演算により取得する。要求駆動トルクは、駆動装置21に出力が要求されている駆動トルクである。ECU90は、要求駆動トルクが出力されるように駆動装置21の作動を制御する。
【0031】
<ブレーキペダル操作量センサ>
ブレーキペダル操作量センサ34は、ブレーキペダル33の操作量を検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。ブレーキペダル操作量センサ34は、検出したブレーキペダル33の操作量の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてブレーキペダル33の操作量をブレーキペダル操作量BPとして取得する。ECU90は、後述する衝突回避制御を実行する場合を除き、ブレーキペダル操作量BPに基づいて要求制動トルク(要求制動力)を演算により取得する。要求制動トルクは、制動装置22に出力が要求されている制動トルクである。ECU90は、要求制動トルクが出力されるように制動装置22の作動を制御する。
【0032】
<操舵角センサ>
操舵角センサ37は、中立位置に対するステアリングシャフト36の回転角度を検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。操舵角センサ37は、検出したステアリングシャフト36の回転角度の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてステアリングシャフト36の回転角度を操舵角θとして取得する。本例において、ECU90は、ハンドル35が時計回りに回転操作されてステアリングシャフト36が時計回りに回転された場合、正の値の操舵角θを取得し、ハンドル35が反時計回りに回転操作されてステアリングシャフト36が反時計回りに回転された場合、負の値の操舵角θを取得する。尚、ハンドル35が中立位置にあり、従って、ステアリングシャフト36が中立位置にある場合、ECU90が取得する操舵角θは、ゼロである。
【0033】
<操舵トルクセンサ>
操舵トルクセンサ38は、運転者DRがハンドル35を介してステアリングシャフト36に入力したトルクを検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。操舵トルクセンサ38は、検出したトルクの情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて運転者DRがハンドル35を介してステアリングシャフト36に入力したトルク(ドライバー入力トルクTQdr)を取得する。
【0034】
<車両運動量検出装置>
車両運動量検出装置50は、自車両100の運動量を検出する装置であり、本例においては、車速検出装置51、縦加速度センサ52、横加速度センサ53及びヨーレートセンサ54を備えている。
【0035】
<車速検出装置>
車速検出装置51は、自車両100の走行速度(自車速)を検出する装置であり、例えば、車輪速センサである。車速検出装置51は、ECU90に電気的に接続されている。車速検出装置51は、検出した自車両100の車速の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100の走行速度を自車速Vegoとして取得する。
【0036】
ECU90は、操舵角θ、ドライバー入力トルクTQdr及び自車速Vegoに基づいて要求操舵トルクを演算により取得する。要求操舵トルクは、操舵装置23に出力が要求されている操舵トルクである。ECU90は、要求操舵トルクが操舵装置23から出力されるように操舵装置23の作動を制御する。
【0037】
<縦加速度センサ>
縦加速度センサ52は、自車両100の前後方向における自車両100の加速度を検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。縦加速度センサ52は、検出した加速度の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100の前後方向における自車両100の加速度を縦加速度Gxとして取得する。
【0038】
<横加速度センサ>
横加速度センサ53は、自車両100の幅方向における自車両100の加速度を検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。横加速度センサ53は、検出した加速度の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100の幅方向における自車両100の加速度を横加速度Gyとして取得する。
【0039】
<ヨーレートセンサ>
ヨーレートセンサ54は、自車両100のヨーレートを検出するセンサであり、ECU90に電気的に接続されている。ヨーレートセンサ54は、検出したヨーレートの情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100のヨーレートを自車ヨーレートωとして取得する。
【0040】
<周辺情報検出装置>
周辺情報検出装置60は、自車両100の周辺の情報を検出する装置であり、本例においては、電波センサ61及び画像センサ62を備えている。電波センサ61は、例えば、レーダセンサ(ミリ波レーダ等)である。画像センサ62は、例えば、カメラである。尚、周辺情報検出装置60は、超音波センサ(クリアランスソナー)等の音波センサやレーザーレーダ(LiDAR)等の光センサを備えていてもよい。
【0041】
<電波センサ>
電波センサ61は、ECU90に電気的に接続されている。電波センサ61は、電波を発信すると共に、車両や人等の物体で反射した電波(反射波)を受信する。電波センサ61は、発信した電波及び受信した電波(反射波)に係る情報(検知結果)をECU90に送信する。別の言い方をすると、電波センサ61は、自車両100の周辺に存在する物体を検知し、その検知した物体(物標)に係る情報(検知結果)をECU90に送信する。ECU90は、その情報(電波情報)に基づいて自車両100の周辺に存在する物体(物標)に係る情報(周辺検出情報INF_S)を取得することができる。
【0042】
<画像センサ>
画像センサ62も、ECU90に電気的に接続されている。画像センサ62は、自車両100の周辺を撮像し、撮像した画像に係る情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報(画像情報)に基づいて自車両100の周辺に関する情報(周辺検出情報INF_S)を取得することができる。
【0043】
<車両衝突回避支援装置の作動の概要>
次に、車両衝突回避支援装置10の作動の概要について説明する。
【0044】
車両衝突回避支援装置10は、駆動装置21及び制動装置22の作動を制御する制御として、自車両100が旋回している場合において自車両100の操舵状態に関する所定条件(後述する衝突回避禁止条件)が成立していないときには、自車両100の前方に存在する物標に自車両100が衝突する可能性があるとの衝突条件が成立した場合、自車両100と物標との衝突を回避するための衝突回避制御を実行し、自車両100が旋回している場合において上記所定条件が成立しているときには、衝突条件が成立しても、衝突回避制御を実行しないようになっている。尚、本例においては、車両衝突回避支援装置10は、衝突回避制御を実行しない場合には、通常走行制御を実行するようになっている。
【0045】
<通常走行制御>
通常走行制御は、運転者DRのアクセルペダル操作及びブレーキペダル操作に応じて駆動装置21及び制動装置22の作動を制御する制御である。具体的には、通常走行制御は、アクセルペダル操作量APがゼロよりも大きい場合、そのアクセルペダル操作量APに基づいて設定される要求駆動トルク(要求駆動力)が駆動装置21から出力されるように駆動装置21の作動を制御し、ブレーキペダル操作量BPがゼロよりも大きい場合、そのブレーキペダル操作量BPに基づいて取得される要求制動トルク(要求制動力)が制動装置22から出力されるように制動装置22の作動を制御する制御である。
【0046】
<衝突回避制御>
一方、衝突回避制御は、自車両100が交差点等において右折又は左折しているときに右折先の道路又は左折先の道路(特に、その道路に設置されている横断歩道)を横断している歩行者等の物標に旋回中の自車両100が衝突することを回避するために、運転者DRのアクセルペダル操作又はブレーキペダル操作とは関係なく、自車両100を強制的に制動して物標に衝突する前に停止させる制御である。以下、衝突回避制御について、より具体的に説明する。
【0047】
車両衝突回避支援装置10は、その作動中、操舵角θに基づいて自車両100が旋回しているか否かを判定している。車両衝突回避支援装置10は、操舵角θがゼロよりも大きい場合、自車両100が右旋回していると判定し、操舵角θがゼロよりも小さい場合、自車両100が左旋回していると判定する。車両衝突回避支援装置10は、操舵角θがゼロよりも大きい場合、及び、操舵角θがゼロよりも小さい場合、自車両100が旋回していると判定し、自車旋回条件C1が成立していると判定する。
【0048】
又、車両衝突回避支援装置10は、その作動中、周辺検出情報INF_Sに基づいて自車両100の前方の物標を検知するための処理(物標検出処理)を行っている。
【0049】
例えば、
図2に示したように、自車両100が交差点300で右折しているときに自車両100の前方の横断歩道を歩行している人(歩行者201)が存在する場合、車両衝突回避支援装置10は、物標検出処理によりその歩行者201を物標として検出する。又、
図3に示したように、自車両100が交差点300で左折しているときに自車両100の前方の横断歩道を歩行している人(歩行者201)が存在する場合、車両衝突回避支援装置10は、物標検出処理によりその歩行者201を物標として検出する。
【0050】
車両衝突回避支援装置10は、自車旋回条件C1が成立しているとき(即ち、自車両100の旋回中)に自車両100の前方に物標を検知すると、自車両100がその検知した物標(検知物標200)に衝突するか否かの判定(衝突判定)を行う。この衝突判定は、以下のようにして行われる。
【0051】
まず、車両衝突回避支援装置10は、周辺検出情報INF_Sに基づいて検知物標200の現時刻tnowの移動速度を物標対地速度Vtgtとして取得し、その物標対地速度Vtgtに基づいて下式1及び下式2に従った演算により物標対地速度X成分Vtgt_x及び物標対地速度Y成分Vtgt_yを取得する。
【0052】
Vtgt_x=Vtgt・sinθ …(1)
Vtgt_y=Vtgt・cosθ …(2)
【0053】
物標対地速度X成分Vtgt_xは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの物標対地速度VtgtのX軸成分であり、物標対地速度Y成分Vtgt_yは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの物標対地速度VtgtのY軸成分である。
【0054】
自車座標系CSは、
図4に示したように、自車基準点100Rを原点とし、自車両100の幅方向をX軸とし、自車両100の前後方向をY軸とする座標系である。自車基準点100Rは、自車両100の幅方向において自車両100の前端縁100Fの中央の点である。又、
図4から判るように、自車座標系CSにおいて、原点(自車基準点100R)の右側又は右方向の値は、正の値をとり、原点(自車基準点100R)の左側又は左方向の値は、負の値をとる。
【0055】
更に、車両衝突回避支援装置10は、現時刻tnowの自車速Vegoに基づいて下式3及び下式4に従った演算により自車速X成分Vego_x及び自車速Y成分Vego_yを取得する。
【0056】
Vego_x=0 …(3)
Vego_y=-Vego …(4)
【0057】
自車速X成分Vego_xは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの自車速VegoのX軸成分であり、自車速Y成分Vego_yは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの自車速VegoのY軸成分である。
【0058】
更に、車両衝突回避支援装置10は、周辺検出情報INF_Sに基づいて現時刻tnowの物標X座標Xtgt及び物標Y座標Ytgtを取得し、それら物標X座標Xtgt及び物標Y座標Ytgtに基づいて下式5及び下式6に従った演算により物標方位角度α及び物標距離dを取得する。
【0059】
α=atan2(Xtgt,Ytgt) …(5)
d=√(Xtgt2+Ytgt2) …(6)
【0060】
物標X座標Xtgtは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの検知物標200のX座標である。従って、物標X座標Xtgtは、現時刻tnowの自車基準点100Rを基準として自車両100の幅方向における現時刻tnowの検知物標200の位置を表している。
【0061】
物標Y座標Ytgtは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける検知物標200のY座標である。従って、物標Y座標Ytgtは、現時刻tnowの自車基準点100Rを基準として自車両100の前後方向における現時刻tnowの検知物標200の位置を表している。
【0062】
物標方位角度αは、現時刻tnowの自車座標系CSにおいて、現時刻tnowの自車基準点100Rと現時刻tnowの検知物標200とを結ぶラインとY軸とがなす角度である。従って、物標方位角度αは、現時刻tnowの自車基準点100Rに対する現時刻tnowの検知物標200の方位を表している。
【0063】
物標距離dは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの自車基準点100Rと現時刻tnowの検知物標200との間の距離である。従って、物標距離dは、現時刻tnowの自車基準点100Rと現時刻tnowの検知物標200との間の距離を表している。
【0064】
そして、車両衝突回避支援装置10は、取得した現時刻tnowの物標距離d及び現時刻tnowの自車ヨーレートωに基づいて下式7に従った演算により物標対地周速度Vtgt_cirを取得する。
【0065】
Vtgt_cir=-d・ω …(7)
【0066】
物標対地周速度Vtgt_cirは、現時刻tnowの自車基準点100Rを中心とした円弧に沿って現時刻tnowの検知物標200が移動する現時刻tnowの速度である。
【0067】
更に、車両衝突回避支援装置10は、取得した現時刻tnowの物標対地周速度Vtgt_cir及び現時刻tnowの物標方位角度αに基づいて下式8及び下式9に従った演算により物標対地周速度X成分Vtgt_cir_x及び物標対地周速度Y成分Vtgt_cir_yを取得する。
【0068】
Vtgt_cir_x=Vtgt_cir・cosα …(8)
Vtgt_cir_y=-Vtgt_cir・sinα …(9)
【0069】
物標対地周速度X成分Vtgt_cir_xは、現時刻tnowの自車座標系CSおける現時刻tnowの物標対地周速度Vtgt_cirのX軸成分であり、物標対地周速度Y成分Vtgt_cir_yは、現時刻tnowの自車座標系CSおける現時刻tnowの物標対地周速度Vtgt_cirのY軸成分である。
【0070】
そして、車両衝突回避支援装置10は、取得した物標対地速度X成分Vtgt_x、自車速X成分Vego_x及び物標対地周速度X成分Vtgt_cir_xに基づいて下式10に従った演算により物標相対速度X成分Vtgt_rel_xを取得すると共に、取得した物標対地速度Y成分Vtgt_y、自車速Y成分Vego_y及び物標対地周速度Y成分Vtgt_cir_yに基づいて下式11に従った演算により物標相対速度Y成分Vtgt_rel_yを取得する。
【0071】
Vtgt_rel_x=Vtgt_x+Vego_x+Vtgt_cir_x …(10)
Vtgt_rel_y=Vtgt_y+Vego_y+Vtgt_cir_y …(11)
【0072】
物標相対速度X成分Vtgt_rel_xは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの検知物標200の速度のX軸成分である。従って、物標相対速度X成分Vtgt_rel_xは、自車両100の幅方向における現時刻tnowの自車基準点100Rに対する現時刻tnowの検知物標200の相対速度である。
【0073】
物標相対速度Y成分Vtgt_rel_yは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnowの検知物標200の速度のY軸成分である。従って、物標相対速度Y成分Vtgt_rel_yは、自車両100の前後方向における現時刻tnowの自車基準点100Rに対する現時刻tnowの検知物標200の相対速度である。
【0074】
更に、車両衝突回避支援装置10は、取得した物標相対速度X成分Vtgt_rel_x及び物標相対速度Y成分Vtgt_rel_yに基づいて下式12に従った演算により物標交差角度θtgtを取得する。
【0075】
θtgt=atan2(Vtgt_rel_x,Vtgt_rel_y) …(12)
【0076】
物標交差角度θtgtは、現時刻tnowの自車座標系CSにおいて、現時刻tnowの検知物標200の速度ベクトルと現時刻tnowの自車両100の速度ベクトルとがなす角度である。
【0077】
更に、車両衝突回避支援装置10は、取得した物標相対速度X成分Vtgt_rel_x及び物標相対速度Y成分Vtgt_rel_yに基づいて下式13に従った演算により物標相対速度Vtgt_relを取得する。
【0078】
Vtgt_rel=√(Vtgt_rel_x2+Vtgt_rel_y2) …(13)
【0079】
物標相対速度Vtgt_relは、現時刻tnowの自車座標系CSおける現時刻tnowの検知物標200の速度(相対速度)である。従って、物標相対速度Vtgt_relは、現時刻tnowの自車基準点100Rに対する現時刻tnowの検知物標200の速度(相対速度)である。
【0080】
<予測旋回経路>
そして、車両衝突回避支援装置10は、自車両100が走行すると予測される経路を予測旋回経路RTegoとして取得する。具体的には、車両衝突回避支援装置10は、現時刻tnowの自車速Vego及び現時刻tnowの自車ヨーレートωに基づいて下式14に従った演算により旋回半径Rを取得し、その旋回半径R及び現時刻tnowの自車ヨーレートωに基づいて下式15に従った演算により現時刻tnow以降の各時刻tにおける自車基準点100RのX座標を予測自車X座標Xego_calとして取得すると共に、旋回半径R及び現時刻tnowの自車ヨーレートωに基づいて下式16に従った演算により現時刻tnow以降の各時刻tにおける自車基準点100RのY座標を予測自車Y座標Yego_calとして取得する。
【0081】
R=Vego/ω …(14)
Xego_cal=R-R・cosωt …(15)
Yego_cal=R・sinωt …(16)
【0082】
現時刻tnow以降の各時刻tは、現時刻tnowからそれぞれ所定の時間(演算周期Δt)の整数倍後の時刻である。
【0083】
予測自車X座標Xego_calは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnow以降の時刻tの自車両100のX座標である。従って、予測自車X座標Xego_calは、現時刻tnowの自車基準点100Rを基準とした自車両100の幅方向における現時刻tnow以降の時刻tの自車基準点100Rの位置を表している。
【0084】
予測自車Y座標Yego_calは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnow以降の時刻tの自車両100のY座標である。従って、予測自車Y座標Yego_calは、現時刻tnowの自車基準点100Rを基準として自車両100の前後方向における現時刻tnow以降の時刻tの自車基準点100Rの位置を表している。
【0085】
車両衝突回避支援装置10は、取得した予測自車X座標Xego_cal及び予測自車Y座標Yego_calで規定される座標点それぞれを結んだラインを予測旋回経路RTegoとして取得する。
【0086】
<予測移動経路>
更に、車両衝突回避支援装置10は、検知物標200が移動すると予測される経路を予測移動経路RTtgtとして取得する。具体的には、車両衝突回避支援装置10は、現時刻tnowの物標対地速度Vtgt、物標交差角度θtgt及び物標X座標Xtgtに基づいて下式17に従った演算により現時刻tnow以降の各時刻tの検知物標200のX座標を予測物標X座標Xtgt_calとして取得すると共に、現時刻tnowの物標対地速度Vtgt、物標交差角度θtgt及び物標Y座標Ytgtに基づいて下式18に従った演算により現時刻tnow以降の各時刻tの検知物標200のY座標を予測物標Y座標Ytgt_calとして取得する。
【0087】
Xtgt_cal=Vtgt・t・sinθ+Xtgt …(17)
Ytgt_cal=Vtgt・t・cosθ+Ytgt …(18)
【0088】
予測物標X座標Xtgt_calは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnow以降の時刻tの検知物標200のX座標である。従って、予測物標X座標Xtgt_calは、現時刻tnowの自車基準点100Rを基準とした自車両100の幅方向における現時刻tnow以降の時刻tの検知物標200の位置を表している。
【0089】
予測物標Y座標Ytgt_calは、現時刻tnowの自車座標系CSにおける現時刻tnow以降の時刻tの検知物標200のY座標である。従って、予測物標Y座標Ytgt_calは、現時刻tnowの自車基準点100Rを基準とした自車両100の前後方向における現時刻tnow以降の時刻tの検知物標200の位置を表している。
【0090】
車両衝突回避支援装置10は、取得した予測物標X座標Xtgt_cal及び予測物標Y座標Ytgt_calで規定される座標点それぞれを結んだラインを予測移動経路RTtgtとして取得する。
【0091】
そして、車両衝突回避支援装置10は、現時刻tnowの自車座標系CSにおいて、予測旋回経路RTegoと予測移動経路RTtgtとが交わる場合、以下の処理を行って自車両100が検知物標200に衝突するか否かを判定する。
【0092】
即ち、車両衝突回避支援装置10は、予測到達時間TTCを演算により取得する。予測到達時間TTCは、自車両100が現時刻tnowの状態を維持したまま走行したしたときに自車基準点100Rが予測移動経路RTtgtに到達するまでに要する時間である。車両衝突回避支援装置10は、例えば、自車両100が予測移動経路RTtgtに到達するまでに走行する距離を現時刻tnowの自車速Vegoで除算することにより、予測到達時間TTCを算出する。
【0093】
そして、車両衝突回避支援装置10は、取得した予測到達時間TTCが所定予測到達時間TTCthまで短くなったか否かを判定する。
【0094】
予測到達時間TTCが所定予測到達時間TTCthまで短くなった場合、車両衝突回避支援装置10は、物標相対速度Vtgt_rel、物標交差角度θtgt、物標X座標Xtgt、物標Y座標Ytgt、旋回半径R及び現時刻tnowの自車ヨーレートωに基づいて下式19及び下式20に従った演算により現時刻tnow以降の各時刻tのX軸方向物標距離dtgt_x及びY軸方向物標距離dtgt_yを取得する。
【0095】
dtgt_x=(Vtgt・t・sinθ+Xtgt-(R-R・cosωt))・cosωt-(Vtgt・t・cosθ+Ytgt-R・sinωt)・sinωt …(19)
dtgt_y=(Vtgt・t・sinθ+Xtgt-(R-R・cosωt))・sinωt+(Vtgt・t・cosθ+Ytgt-R・sinωt)・cosωt …(20)
【0096】
X軸方向物標距離dtgt_xは、時刻tの自車座標系CSにおいて、その時刻tの検知物標200とその時刻tの自車基準点100Rとの間のX軸方向の距離である。従って、X軸方向物標距離dtgt_xは、時刻tの検知物標200と時刻tの自車基準点100Rとの間の自車両100の幅方向の距離を表している。
【0097】
Y軸方向物標距離dtgt_yは、時刻tの自車座標系CSにおいて、その時刻tの検知物標200とその時刻tの自車基準点100Rとの間のY軸方向の距離である。従って、Y軸方向物標距離dtgt_yは、時刻tの検知物標200と時刻tの自車基準点100Rとの間の自車両100の前後方向の距離を表している。
【0098】
そして、車両衝突回避支援装置10は、予測旋回経路RTegoが予測移動経路RTtgtと交わる点(交差地点Pcross)に自車基準点100Rが到達した時点の検知物標200の位置(物標位置)を予測する。別の言い方をすると、車両衝突回避支援装置10は、自車基準点100Rが予測移動経路RTtgtに到達した時点の自車基準点100Rに対する検知物標200の位置を予測する。そして、車両衝突回避支援装置10は、予測した検知物標200の位置が衝突範囲RGcol内の位置であるか否かを判定する。
図5に示したように、衝突範囲RGcolは、交差地点Pcrossから予測移動経路RTtgtに沿って一方の方向に所定距離dthの地点Pleftと交差地点Pcrossから予測移動経路RTtgtに沿って他方の方向に所定距離dthの地点Prightとの間の範囲である。又、所定距離dthは、自車両100の車幅の二分の一に設定されている。
【0099】
本例においては、車両衝突回避支援装置10は、予測した検知物標200の位置が衝突範囲RGcol内の位置であるか否かの判定として、Y軸方向物標距離dtgt_yがゼロとなる時刻tにおけるX軸方向物標距離dtgt_xが所定距離dth以下であるか否かを判定する。
【0100】
車両衝突回避支援装置10は、検知物標200の位置が衝突範囲RGcol内の位置である場合、自車両100が検知物標200に衝突すると判定し、衝突条件C2が成立したと判定する。本例においては、車両衝突回避支援装置10は、Y軸方向物標距離dtgt_yがゼロとなる時刻tにおけるX軸方向物標距離dtgt_xが所定距離dth以下である場合、自車両100が検知物標200に衝突すると判定する。
【0101】
車両衝突回避支援装置10は、Y軸方向物標距離dtgt_yがゼロとなる時刻tにおけるX軸方向物標距離dtgt_xが所定距離dth以下である場合、衝突条件C2が成立したと判定する。即ち、車両衝突回避支援装置10は、予測到達時間TTCが所定予測到達時間TTCth以下であり且つY軸方向物標距離dtgt_yがゼロとなる時刻tにおけるX軸方向物標距離dtgt_xが所定距離dth以下である場合、衝突条件C2が成立したと判定する。車両衝突回避支援装置10は、衝突条件C2が成立したと判定すると、後述する衝突回避禁止条件C3が成立していない場合、衝突回避制御を開始する。
【0102】
車両衝突回避支援装置10は、衝突回避制御を開始すると、自車両100に付加される駆動力がゼロ以下となるように駆動装置21の作動を制御しつつ、自車両100に所定制動力が付加されるように制動装置22の作動を制御する。所定制動力は、自車両100を予測移動経路RTtgtの手前で停止させることができる値に設定される。
【0103】
<衝突回避禁止条件>
ところで、自車両100が右折する場合、自車両100の舵角は、右折の開始からその中盤までは、徐々に大きくなり、右折中盤を越えると、徐々に小さくなり、右折の完了時には、ゼロになる。従って、一般に、自車両100が右折時に実際に走行する経路(実旋回経路RTact)の旋回半径は、右折の開始から中盤までは、徐々に小さくなり、右折中盤を越えると、徐々に大きくなり、右折の完了以降、無限大となる。即ち、右折の完了以降、自車両100は、直進する。従って、自車両100の右折の完了以降の実旋回経路RTactは、
図6に示したような直線の経路となる。
【0104】
一方、上述したように、本例においては、車両衝突回避支援装置10は、現時刻tnowの自車ヨーレートωを利用して予測旋回経路RTegoを取得するので、例えば、自車両100が右折の中盤にさしかかるまでに取得される予測旋回経路RTegoは、
図7に示したように、右折先の道路の領域において、実旋回経路RTactの左側を通る経路となり、実旋回経路RTactからずれる傾向がある。又、自車両100が右折の中盤にさしかかったときに取得される予測旋回経路RTegoは、
図8及び
図9に示したように、右折先の道路の領域において実旋回経路RTactの右側を通る経路となり、実旋回経路RTactからずれる傾向がある。
【0105】
すると、
図7に示したように、右折先の道路の領域において予測旋回経路RTegoが実旋回経路RTactの左側を通る経路となっていると、右折先の道路の歩道にいる人202について、衝突条件C2が成立しても、実際には、適切な右折が行われる限り、自車両100は、その人202に衝突することはない。こうした場面で衝突回避制御が実行されると、衝突回避制御の不要な実行を行ったことになる。
【0106】
又、
図8に示したように、右折先の道路の領域において予測旋回経路RTegoが実旋回経路RTactの右側を通る経路となっていると、右折先の道路に設けられている横断歩道を渡っている歩行者203について、衝突条件C2が成立しても、実際には、自車両100は、その歩行者203の脇を通過することがある。更には、
図9に示したように、右折先の道路の領域において予測旋回経路RTegoが実旋回経路RTactの右側を通る経路となっていると、右折先の道路の対向車線で停止している対向車204について、衝突条件C2が成立することがあるが、実際には、適切な右折が行われる限り、自車両100は、その対向車204に衝突することはない。こうした場面で衝突回避制御が実行されると、衝突回避制御の不要な実行を行ったことになる。
【0107】
同様に、自車両100が左折する場合、自車両100の舵角は、左折の開始から中盤までは、徐々に大きくなり、左折中盤を越えると、徐々に小さくなり、左折の完了時には、ゼロになる。従って、一般に、自車両100が左折時に実際に走行する経路(実旋回経路RTact)の旋回半径は、左折の開始から中盤までは、徐々に小さくなり、左折中盤を越えると、徐々に大きくなり、左折の完了以降、無限大になる。即ち、左折の完了以降、自車両100は、直進する。従って、自車両100の左折の完了以降の実旋回経路RTactは、
図10に示したような直線の経路となる。
【0108】
一方、上述したように、本例においては、車両衝突回避支援装置10は、現時刻tnowの自車ヨーレートωを利用して予測旋回経路RTegoを取得するので、例えば、自車両100が左折の中盤にさしかかるまでに取得される予測旋回経路RTegoは、
図11及び
図12に示したように、左折先の道路の領域において、実旋回経路RTactの右側を通る経路となり、実旋回経路RTactからずれる傾向がある。又、自車両100が左折の中盤にさしかかったときに取得される予測旋回経路RTegoは、
図13に示したように、左折先の道路の領域において実旋回経路RTactの左側を通る経路となり、実旋回経路RTactからずれる傾向がある。
【0109】
すると、
図11に示したように、左折先の道路の領域において予測旋回経路RTegoが実旋回経路RTactの右側を通る経路となっていると、左折先の道路に設けられている横断歩道を渡っている歩行者205について、衝突条件C2が成立しても、実際には、自車両100は、その歩行者205の脇を通過することがある。更には、
図12に示したように、左折先の道路の領域において予測旋回経路RTegoが実旋回経路RTactの右側を通る経路となっていると、左折先の道路の対向車線で停止している対向車206について、衝突条件C2が成立することがあるが、実際には、適切な左折が行われる限り、自車両100は、その対向車206に衝突することはない。こうした場面で衝突回避制御が実行されると、衝突回避制御の不要な実行を行ったことになる。
【0110】
又、
図13に示したように、左折先の道路の領域において予測旋回経路RTegoが実旋回経路RTactの左側を通る経路となっていると、左折先の道路の歩道にいる人207について、衝突条件C2が成立しても、実際には、適切な左折が行われる限り、自車両100は、その人207に衝突することはない。こうした場面で衝突回避制御が実行されると、衝突回避制御の不要な実行を行ったことになる。
【0111】
ここで、自車両100が右折先の道路を横断する人(歩行者)と衝突するとした場合、自車両100は、右折を完了して直進し始める直前又はそれ以降にそうした歩行者に衝突するので、自車両100とその歩行者とが衝突するときの自車両100の走行方向と歩行者の移動方向とがなす角度は、概ね、90°である。従って、一般に、自車両100が右折中盤にさしかかるまでは、自車両100の走行方向と歩行者の移動方向とがなす角度は、90°から比較的大きく乖離した値をとるが、自車両100の旋回が進むにつれて、徐々に90°に近づき、最終的に、自車両100とその歩行者とが衝突するときには、90°近辺の値になる。
【0112】
従って、自車両100が旋回し始めた後、旋回が終了するまでの間、自車両100の走行方向と歩行者の移動方向とがなす角度が
図14に符号AREAで示した領域にあるときに、衝突回避制御の実行を禁止すれば、不要な衝突回避制御の実行を防止することができる。尚、
図14に示したグラフにおいて、横軸は、衝突角度θcolであり、縦軸は、自車旋回角度θegoである。
【0113】
そこで、車両衝突回避支援装置10は、自車旋回条件C1が成立した場合、
図15に示したように、交差地点Pcrossにおける自車両100の走行方向(予測走行方向Dego)を取得し、その予測走行方向Degoと予測移動経路RTtgtに対して垂直に交わるライン(直交ラインLper)とがなす角度を衝突角度θcolとして取得する。尚、
図15の(A)は、自車両100が右折を開始してから右折中盤にさしかかるまでに概して取得される衝突角度θcolを示しており、
図15の(B)は、自車両100の右折中盤以降に概して取得される衝突角度θcolを示している。
【0114】
車両衝突回避支援装置10は、自車旋回条件C1が成立している間(即ち、自車両100の旋回中)、衝突角度θcolが所定の値(衝突角度閾値θcol_th)以上であるか否かを判定する。又、車両衝突回避支援装置10は、自車旋回条件C1が成立している間(即ち、自車両100の旋回中)、自車旋回角度θegoに応じて衝突角度閾値θcol_thを変更する。
【0115】
具体的には、車両衝突回避支援装置10は、自車ヨーレートω及び演算周期Δtに基づいて下式21から自車旋回角度θegoを演算する。
【0116】
θego=Σω・Δt …(21)
【0117】
尚、車両衝突回避支援装置10は、自車速Vego、演算周期Δt及び自車両100の加速度aに基づいて下式22から演算周期Δtの間に自車両100が走行する距離(単位走行距離L)を算出し、その単位走行距離L及び旋回半径Rに基づいて下式23から自車旋回角度θegoを演算してもよい。
【0118】
L=Vego・Δt-(a・Δt)2/2 …(22)
θego=ΣL/R …(23)
【0119】
そして、車両衝突回避支援装置10は、自車旋回角度θegoが大きくなるにつれて衝突角度閾値θcol_thを小さい値に設定する。本例においては、車両衝突回避支援装置10は、自車旋回角度θegoがゼロであるときには、ゼロよりも大きい初期値を衝突角度閾値θcol_thとして設定し、自車旋回角度θegoが90°であるときには、ゼロ又はゼロよりも若干大きい値を衝突角度閾値θcol_thとして設定する。
【0120】
そして、車両衝突回避支援装置10は、衝突角度θcolが衝突角度閾値θcol_th以上である場合、衝突回避禁止条件C3が成立していると判定する。
【0121】
衝突回避禁止条件C3が成立している場合、車両衝突回避支援装置10は、衝突条件C2が成立しても、衝突回避制御を実行しない。勿論、衝突回避禁止条件C3が成立していないときに衝突条件C2が成立すれば、車両衝突回避支援装置10は、衝突回避制御を実行する。
【0122】
<効果>
以上が車両衝突回避支援装置10の作動の概要である。車両衝突回避支援装置10によれば、自車旋回角度θegoに応じて衝突角度閾値θcol_thが変更される。このため、自車両100の右折又は左折時の不要な衝突回避制御の実行を回避することができる。
【0123】
<変形例1>
尚、車両衝突回避支援装置10は、衝突角度θcolが衝突角度閾値θcol_th以上である場合、衝突回避制御を実行しないのではなく、所定予測到達時間TTCthを小さい値に設定するように構成されてもよい。これによっても、自車両100の右折又は左折時の不要な衝突回避制御の実行を回避することができる。
【0124】
<変形例2>
又、車両衝突回避支援装置10は、予測移動経路RTtgtを演算する対象となる検知物標を物標対地速度Vtgtがゼロよりも大きく且つ所定速度以下である検知物標200に限定するように構成されてもよい。即ち、車両衝突回避支援装置10は、物標対地速度Vtgtがゼロよりも大きく且つ所定速度以下である検知物標200のみを衝突回避制御の対象とするように構成されてもよい。
【0125】
<車両衝突回避支援装置の具体的な作動>
次に、車両衝突回避支援装置10の具体的な作動の一例について説明する。車両衝突回避支援装置10のECU90のCPUは、
図16に示したルーチンを所定演算周期で実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図16に示したルーチンのステップ1600から処理を開始し、その処理をステップ1605に進め、自車旋回条件C1が成立しているか否かを判定する。
【0126】
CPUは、ステップ1605にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1610に進め、衝突条件C2が成立しているか否かを判定する。
【0127】
CPUは、ステップ1610にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1615に進め、自車旋回角度θegoを演算する。ここでの自車旋回角度θegoは、自車旋回条件C1が成立したときから現時点までの自車旋回角度θegoである。
【0128】
次いで、CPUは、処理をステップ1620に進め、ステップ1615にて演算した自車旋回角度θegoに基づいて衝突角度閾値θcol_thを設定する。
【0129】
次いで、CPUは、処理をステップ1625に進め、衝突角度θcolを演算する。次いで、CPUは、処理をステップ1630に進め、ステップ1625で取得した衝突角度θcol及びステップ1620で設定した衝突角度閾値θcol_thに基づいて衝突回避禁止条件C3が成立しているか否かを判定する。
【0130】
CPUは、ステップ1630にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1695に直接進め、衝突回避制御を実行せずに、本ルーチンを一旦終了する。
【0131】
一方、CPUは、ステップ1630にて「No」と判定した場合、処理をステップ1635に進め、衝突回避制御を実行する。次いで、CPUは、処理をステップ1695に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0132】
又、CPUは、ステップ1605にて「No」と判定した場合、又は、ステップ1610にて「No」と判定した場合、処理をステップ1695に直接進め、本ルーチンを一旦終了する。この場合、衝突回避制御は実行されない。
【0133】
以上が車両衝突回避支援装置10の具体的な作動の一例である。
【0134】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【符号の説明】
【0135】
10…車両衝突回避支援装置、21…駆動装置、22…制動装置、35…ハンドル、37…操舵角センサ、51…車速検出装置、54…ヨーレートセンサ、60…周辺情報検出装置、61…電波センサ、62…画像センサ、90…ECU、100…自車両、200…検知物標