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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】電動トラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60L 1/00 20060101AFI20250107BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250107BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250107BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20250107BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20250107BHJP
   A01B 61/02 20060101ALI20250107BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B60L1/00 L
B60L50/60
B60L15/20 J
B60L3/00 S
B60L58/10
A01B61/02
H02J7/00 P
H02J7/00 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021177483
(22)【出願日】2021-10-29
(65)【公開番号】P2023066721
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】高橋 努
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】大役寺 泰平
(72)【発明者】
【氏名】黒田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】上原 大
(72)【発明者】
【氏名】石田 博康
(72)【発明者】
【氏名】宮本 知彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】木村 優
(72)【発明者】
【氏名】平田 大介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友大
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-153728(JP,A)
【文献】特開2010-248870(JP,A)
【文献】特開2018-161030(JP,A)
【文献】特開2013-150560(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0070134(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
A01B 51/00-61/04
A01B 63/14-67/00
A01B 71/00-79/02
H02J 7/00- 7/12
H02J 7/34- 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体が備える油圧装置に作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動モータであるポンプ用モータと、
前記走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータであるPTO用モータと、
前記ポンプ用モータ及び前記PTO用モータに電力を供給する共通のバッテリーと、
前記ポンプ用モータ及び前記PTO用モータに対する電力の分配を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記ポンプ用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記PTO用モータに供給される電力を減少させることを特徴とする電動トラクタ。
【請求項2】
走行機体が備える油圧装置に作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動モータであるポンプ用モータと、
前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである走行用モータと、
前記ポンプ用モータ及び前記走行用モータに電力を供給する共通のバッテリーと、
前記ポンプ用モータ及び前記走行用モータに対する電力の分配を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記ポンプ用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記走行用モータに供給される電力を減少させることを特徴とする電動トラクタ。
【請求項3】
走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータであるPTO用モータと、
前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである走行用モータと、
前記PTO用モータ及び前記走行用モータに電力を供給する共通のバッテリーと、
前記PTO用モータ及び前記走行用モータに対する電力の分配を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記PTO用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記走行用モータに供給される電力を減少させることを特徴とする電動トラクタ。
【請求項4】
走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータであるPTO用モータと、
前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである走行用モータと、
前記PTO用モータ及び前記走行用モータに電力を供給する共通のバッテリーと、
前記PTO用モータ及び前記走行用モータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記走行用モータの回転速度を減少させ、これに連動して前記PTO用モータの回転速度を減少させることを特徴とする電動トラクタ。
【請求項5】
走行機体が備える油圧装置に作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動モータであるポンプ用モータと、
前記走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータであるPTO用モータと、
前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである走行用モータと、
前記ポンプ用モータ、前記PTO用モータ、及び前記走行用モータに電力を供給する共通のバッテリーと、
前記ポンプ用モータ、前記PTO用モータ、及び前記走行用モータに対する電力の分配を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記ポンプ用モータ、前記PTO用モータ、及び前記走行用モータのうち、前記走行用モータに供給される電力を最も優先して減少させ、
前記走行用モータに供給される電力を減少させた後も、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記制御部は、前記ポンプ用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記PTO用モータに供給される電力を減少させることを特徴とする電動トラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通のバッテリーから複数の電動モータに電力を分配して供給する電動トラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電動トラクタを開示する。このトラクタは、走行用の電動モータと、作業用の電動モータと、バッテリと、を備える。走行用の電動モータは、車輪を駆動する。作業用の電動モータは、ロータリ耕耘装置を駆動する。バッテリは、各モータに電力を供給する。作業用の電動モータの回転数は、作業用回転数検出センサによって検出される。トラクタは、走行速度制御手段であるとともに、作業動力制御手段でもある作動制御部を備える。この作動制御部は、作業用の電動モータの回転数の検出値が設定値より下がったことを検知すると、それに応じて走行用モータの回転数が下がるように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-150560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータの消費電力の合計がバッテリーの供給電力を上回ると、バッテリーの負担が増加し、劣化が進行する原因となる。この点、特許文献1では、バッテリーの負担を軽減するための複数の電動モータの制御の関係について開示されていない。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、作業性を良好に維持しながらバッテリーを過負荷から保護することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の電動トラクタが提供される。即ち、この電動トラクタは、油圧ポンプと、ポンプ用モータと、PTO用モータと、バッテリーと、制御部と、を備える。前記油圧ポンプは、走行機体が備える油圧装置に作動油を供給する。前記ポンプ用モータは、前記油圧ポンプを駆動する電動モータである。前記PTO用モータは、前記走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータである。前記バッテリーは、前記ポンプ用モータ及び前記PTO用モータで共通であり、これらのモータに電力を供給する。前記制御部は、前記ポンプ用モータ及び前記PTO用モータに対する電力の分配を制御する。前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記ポンプ用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記PTO用モータに供給される電力を減少させる。
【0008】
これにより、油圧機器の動作が不安定になるのを防止しながら、バッテリーの過負荷を防止することができる。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の電動トラクタが提供される。即ち、この電動トラクタは、油圧ポンプと、ポンプ用モータと、走行用モータと、バッテリーと、制御部と、を備える。前記油圧ポンプは、走行機体が備える油圧装置に作動油を供給する。前記ポンプ用モータは、前記油圧ポンプを駆動する電動モータである。前記走行用モータは、前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである。前記バッテリーは、前記ポンプ用モータ及び前記走行用モータで共通であり、これらのモータに電力を供給する。前記制御部は、前記ポンプ用モータ及び前記走行用モータに対する電力の分配を制御する。前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記ポンプ用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記走行用モータに供給される電力を減少させる。
【0010】
これにより、油圧機器の動作が不安定になるのを防止しながら、バッテリーの過負荷を防止することができる。また、バッテリーの過負荷を、走行機体の速度が減少することでオペレータに早期に知らせることができる。
【0011】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成の電動トラクタが提供される。即ち、この電動トラクタは、PTO用モータと、走行用モータと、バッテリーと、制御部と、を備える。前記PTO用モータは、走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータである。前記走行用モータは、前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである。前記バッテリーは、前記PTO用モータ及び前記走行用モータで共通であり、これらのモータに電力を供給する。前記制御部は、前記PTO用モータ及び前記走行用モータに対する電力の分配を制御する。前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記PTO用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記走行用モータに供給される電力を減少させる。
【0012】
これにより、負荷減少がある程度確実に見込める走行減速を優先して行うことで、バッテリーの過負荷を素早く確実に解消することができる。
【0013】
本発明の第4の観点によれば、以下の構成の電動トラクタが提供される。即ち、電動トラクタは、PTO用モータと、走行用モータと、バッテリーと、制御部と、を備える。前記PTO用モータは、走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータである。前記走行用モータは、前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである。前記バッテリーは、前記PTO用モータ及び前記走行用モータで共通であり、これらのモータに電力を供給する。前記制御部は、前記PTO用モータ及び前記走行用モータを制御する。前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記走行用モータの回転速度を減少させ、これに連動して前記PTO用モータの回転速度を減少させる。
【0014】
これにより、過負荷の検出により走行速度が減速した場合でも、作業ピッチの乱れを抑制することができる。
【0015】
本発明の第5の観点によれば、以下の構成の電動トラクタが提供される。即ち、電動トラクタは、油圧ポンプと、ポンプ用モータと、PTO用モータと、走行用モータと、バッテリーと、制御部と、を備える。前記油圧ポンプは、走行機体が備える油圧装置に作動油を供給する。前記ポンプ用モータは、前記油圧ポンプを駆動する電動モータである。前記PTO用モータは、前記走行機体が備えるPTO軸を駆動する電動モータである。前記走行用モータは、前記走行機体を走行させるために駆動する電動モータである。前記バッテリーは、前記ポンプ用モータ、前記PTO用モータ、及び前記走行用モータで共通であり、これらのモータに電力を供給する。前記制御部は、前記ポンプ用モータ、前記PTO用モータ、及び前記走行用モータに対する電力の分配を制御する。前記制御部は、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記ポンプ用モータ、前記PTO用モータ、及び前記走行用モータのうち、前記走行用モータに供給される電力を最も優先して減少させる。前記走行用モータに供給される電力を減少させた後も、前記バッテリーの過負荷状態が検知された場合に、前記制御部は、前記ポンプ用モータに供給される電力を減少させるよりも優先して、前記PTO用モータに供給される電力を減少させる。
【0016】
これにより、油圧機器の動作の安定性を確保しながら、バッテリーの過負荷を防止することができる。負荷減少がある程度確実に見込める走行減速をPTO減速よりも優先して行うことで、バッテリーの過負荷を素早く確実に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る電動トラクタの全体的な構成を示すブロック図。
図2】第1バッテリーに過負荷が発生した場合の本実施形態の制御を説明するグラフ。
図3】電気駆動コントローラにおいて行われる処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動トラクタ1の全体的な構成を示すブロック図である。図2は、第1バッテリー21に過負荷が発生した場合の本実施形態の制御を説明するグラフである。図3は、電気駆動コントローラ61において行われる処理を説明するフローチャートである。
【0019】
図1に示す電動トラクタ1は、農業用のトラクタとして構成されている。電動トラクタ1は、圃場を走行可能な車体部としての走行機体2を備える。
【0020】
走行機体2には、作業機3を連結することができる。作業機3としては、例えば、耕耘機(管理機)、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等がある。必要に応じて、様々な種類の作業機3を走行機体2に装着することができる。
【0021】
走行機体2の前部は、左右1対の前輪4で支持され、走行機体2の後部は、左右1対の後輪5で支持されている。
【0022】
走行機体2の後部には、トランスミッション装置6が配置されている。トランスミッション装置6の内部には、例えば歯車列からなる変速機構が配置されている。トランスミッション装置6は、後述の走行用モータ41から入力された動力を変速する。トランスミッション装置6において変速された動力は、前輪4及び後輪5に伝達される。
【0023】
電動トラクタ1の適宜の位置には、走行用モータ41と、ポンプ用モータ42と、PTO用モータ43と、が配置されている。
【0024】
走行用モータ41は、後輪5及び前輪4を回転させるための駆動力を発生する。走行用モータ41の出力軸は、トランスミッション装置6の入力軸と連結される。
【0025】
ポンプ用モータ42は、油圧ポンプ7を駆動する。油圧ポンプ7は、各種の油圧装置に作動油を供給するための装置であり、走行機体2の適宜の位置に配置されている。
【0026】
油圧ポンプ7が作動油を供給する対象としての油圧装置は任意であるが、例えば、図略の昇降アクチュエータを挙げることができる。昇降アクチュエータは、走行機体2に装着されている作業機3の高さ及び姿勢を調整するために、走行機体2の後部に設けられている。このほかにも、油圧ポンプ7は、例えば、図略の油圧ステアリング装置に作動油を供給するために用いられても良い。
【0027】
PTO用モータ43は、PTO軸8を駆動する。PTO軸8は、作業機3が走行機体2に連結された状態で、当該作業機3の入力軸と連結可能である。PTO用モータ43は、PTO軸8を介して作業機3を駆動することができる。
【0028】
走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43は、何れも電動モータとして構成されている。これらのモータは、例えば永久磁石形同期電動機(PMモータ)として構成することができるが、これに限定されない。
【0029】
走行機体2は、第1バッテリー(バッテリー)21と、第2バッテリー22と、BMSユニット26と、DC/DCコンバータ27と、走行用インバータ46と、ポンプ用インバータ47と、PTO用インバータ48と、を備える。
【0030】
第1バッテリー21は、高圧用のバッテリーである。第1バッテリー21は、走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43に電力を供給する。
【0031】
走行機体2には、BMSユニット(バッテリー管理装置)26が設けられている。BMSとは、バッテリー管理システムの略称である。BMSユニット26はコンピュータとして構成されており、第1バッテリー21の電圧、温度等を監視して、異常を検知する機能を有する。BMSユニット26は、後述の電気駆動コントローラ61に電気的に接続されている。
【0032】
第2バッテリー22は、補機用のバッテリーであり、その出力電圧は第1バッテリー21よりも低い。第2バッテリー22は、補機類28に電力を供給する。補機類28としては様々に考えられるが、例えば、冷却ファンの電動モータ、及び、冷却水を循環させるポンプの電動モータ等が考えられる。
【0033】
DC/DCコンバータ27は、第1バッテリー21の高電圧を、第2バッテリー22の充電のために、より低い電圧に変換する。
【0034】
第1バッテリー21及び第2バッテリー22の構成は任意であり、例えばリチウムイオン2次電池とすることができる。
【0035】
走行用インバータ46、ポンプ用インバータ47、及びPTO用インバータ48は、対応する3つの電動モータにそれぞれ電気的に接続されている。3つのインバータは何れも、共通の第1バッテリー21に電気的に接続されている。これらのインバータは、第1バッテリー21の電圧を昇圧して、走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43に供給する。
【0036】
走行機体2は、電気駆動コントローラ(制御部)61を備える。走行用インバータ46、ポンプ用インバータ47、及びPTO用インバータ48は、それぞれ電気駆動コントローラ61に電気的に接続されている。
【0037】
電気駆動コントローラ61は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。電気駆動コントローラ61は、3つのインバータを介して、3つの伝動モータのそれぞれの動作を制御する。電気駆動コントローラ61は電動モータのそれぞれの回転速度を制御するが、一般的に、電動モータの回転速度は消費電力に密接に関連している。従って、電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21から走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43への電力の分配を、3つのインバータを介して実質的に制御しているということができる。
【0038】
電気駆動コントローラ61は、更に、各部の温度及び負荷を監視し、必要に応じてそれぞれの電動モータの制限運転を自動的に行う。
【0039】
電動トラクタ1は、複数の操作部材51と、複数の操作センサ52と、を備える。
【0040】
操作部材51は、オペレータが操作可能なレバー、ペダル、ダイアル、スイッチ、タッチパネル等の部材である。本実施形態では、操作部材51として何れも公知のものが用いられているので、簡単に説明する。一例として、操作部材51は、ステアリングハンドルと、走行変速レバーと、リバーサレバーと、走行モードスイッチと、PTO変速レバーと、ドラフトレバーと、作業機昇降レバーと、を備える。
【0041】
ステアリングハンドルは、前輪4の切れ角を変更するための操作部材である。走行変速レバーは、電動トラクタ1の走行速度を変更するための操作部材である。リバーサレバーは、電動トラクタ1の前進/後進を切り換えるための操作部材である。走行モードスイッチは、例えば、後輪5のみの2輪駆動と、後輪5及び前輪4による4輪駆動と、を切り換えるための操作部材である。PTO変速レバーは、PTO軸8の回転速度を変更するための操作部材である。ドラフトレバーは、牽引負荷に応じて作業機3の高さを自動的に変更することで所定の牽引力を維持するドラフトコントロール制御を行う場合に、牽引力を指示するための操作部材である。作業機昇降レバーは、作業機3の高さを変更するための操作部材である。
【0042】
操作センサ52は、例えば、ポテンショメータ、スイッチ、光センサ、タッチパネルセンサ等として構成されている。操作センサ52は、オペレータが操作部材51に対して行った操作を検出することができる。操作センサ52は、後述のトラクタ側コントローラ62に電気的に接続されている。
【0043】
走行機体2は、トラクタ側コントローラ62を備える。トラクタ側コントローラ62は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。
【0044】
トラクタ側コントローラ62と電気駆動コントローラ61とは電気的に接続されており、制御信号の送受信をすることができる。本実施形態ではCAN通信によって制御信号のやり取りが実現されているが、通信は他の方式で行われても良い。
【0045】
トラクタ側コントローラ62から電気駆動コントローラ61へ送信する信号としては、例えば、走行機体2の走行速度指令値、PTO軸8の回転速度指令値、走行用モータ41及びPTO用モータ43のトルク指令値を挙げることができる。このほかにも、例えば、上述の走行モード、リバーサレバーの操作位置、制御ゲイン、油圧弁の解放レベル等を、トラクタ側コントローラ62から電気駆動コントローラ61へ送信することができる。
【0046】
電気駆動コントローラ61からトラクタ側コントローラ62へ送信する信号としては、例えば、走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43の回転速度及びトルクの実際の値を挙げることができる。このほかにも、例えば、第1バッテリー21の充電率、第1バッテリー21の出力許容値までの余裕度、モータスリップ率等を、電気駆動コントローラ61からトラクタ側コントローラ62へ送信することができる。
【0047】
電動トラクタ1は更に、メータ装置53及び油圧コントローラ54を備える。
【0048】
メータ装置53は、電動トラクタ1の状態、例えば車速等を、オペレータが視認可能に表示することができる。メータ装置53は、トラクタ側コントローラ62に電気的に接続されている。
【0049】
油圧コントローラ54は、例えば上記の昇降アクチュエータの動作を、図略の電磁バルブを介して制御することができる。
【0050】
続いて、電気駆動コントローラ61が行う制御について、図2を参照して説明する。なお、図2のグラフは説明のために概念的に示したものであり、それぞれの電動モータが厳密に当該グラフのように制御されるとは限らない。
【0051】
作業機3(例えば、耕耘機)を走行機体2に装着した電動トラクタ1が、走行しながら作業を行う場合を考える。第1バッテリー21からの電力が走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43に供給され、3つのモータは同時に駆動される。
【0052】
通常は、図2のグラフの(a)で示すように、第1バッテリー21から3つのモータに供給される電力の合計は、第1バッテリー21の出力許容値を上回ることはない。
【0053】
例えば電動トラクタ1が固い圃場に差し掛かると、耕耘抵抗が増大するので、作業機3を駆動するPTO用モータ43の負荷が増大する。この結果、図2の(b)で示すように、全体の出力が、第1バッテリー21の出力許容値を上回った場合を考える。
【0054】
ここで、第1バッテリー21への負荷を抑制するために、電気駆動コントローラ61は、走行用モータ41、ポンプ用モータ42、及びPTO用モータ43の全てに対して減速指令を出すこともできる。この構成によっても、第1バッテリー21の供給電力を減少させることができる。しかし、ポンプ用モータ42の作動油圧が低下すれば、各種油圧機器の動作が不安定になってしまう。
【0055】
そこで、本実施形態の電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21の供給電力が所定の閾値を上回った場合は、ポンプ用モータ42の速度よりも優先して、走行用モータ41又はPTO用モータ43を減速させるように構成されている。
【0056】
具体的には、電気駆動コントローラ61は、図2(b)のように過負荷が検出された場合は、走行用モータ41だけを直ちに適宜減速させる制御を行う。これにより、走行用モータ41の消費電力が図2(c)のように減少し、この結果、全体の出力も減少する。
【0057】
走行用モータ41だけを減速した図2(c)の状態では、(a)と(b)において保たれていた、走行用モータ41の回転速度とPTO用モータ43の回転速度の関係が変化してしまう。耕耘した土の粒度が安定しないのは好ましくないので、本実施形態の電気駆動コントローラ61は、図2(c)の状態とした後、直ちに、減速後の走行速度に対応する速度までPTO用モータ43を減速させる制御を行う。
【0058】
この結果、図2(d)のように、走行用モータ41及びPTO用モータ43の出力がリバランスされる。この結果、第1バッテリー21の負荷が過大にならず、かつ安定した作業品質を得ることができる。
【0059】
図2の(a)~(d)を通じて、ポンプ用モータ42の出力は一定に維持されている。これにより、油圧機器を安定して確実に動作させることができる。
【0060】
このように、本実施形態では、走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43の出力が第1バッテリー21にとって過負荷となっている場合は、走行用モータ41が先ず減速される。従って、電動トラクタ1を運転するオペレータに、作業の過負荷を、走行速度の減速によってわかり易く知らせることができる。また、本実施形態では先行して走行車速だけが減少するが、これは過渡的なものであり、すぐにPTO用モータ43が減速して走行車速に追従する。このように車速とPTO速度が協調して制御されるので、オペレータの細かい調整操作が不要になる。
【0061】
上記では、PTO用モータ43の負荷が増大して第1バッテリー21が過負荷になった場合について説明したが、ポンプ用モータ42の負荷が増大して第1バッテリー21が過負荷になった場合も、実質的に同様の制御が行われる。
【0062】
次に、電気駆動コントローラ61が行う制御について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0063】
図3の処理が開始されると、電気駆動コントローラ61は、トラクタ側コントローラ62から受信した指令に基づく速度で走行用モータ41、ポンプ用モータ42、及びPTO用モータ43を駆動するように、走行用インバータ46、ポンプ用インバータ47、及びPTO用インバータ48を制御する(ステップS101)。
【0064】
次に、電気駆動コントローラ61は、走行用モータ41、ポンプ用モータ42、及びPTO用モータ43の出力を検出して、合計値を求める。各モータの出力を得る方法としては、各モータに流れる電流値を電流センサによって検出することもできるし、出力軸等にトルクセンサを設けて検出することもできる。
【0065】
電気駆動コントローラ61は、3つのモータの出力の合計値が所定値を超過しているか否かを判断する(ステップS102)。出力の合計値が所定値を超過していなければ、処理はステップS101に戻る。
【0066】
ステップS102の判断で、3つのモータの出力の合計値が所定値を超過している場合は、電気駆動コントローラ61は、出力の合計値を監視しながら、走行用インバータ46を制御して走行用モータ41を減速していく(ステップS103)。走行用モータ41の減速は、3つのモータの出力の合計値が所定値以下になるまで継続される。即ち、3つのモータの出力の合計値と、所定値と、の差に相当する分だけ、走行用モータ41が減速することになる。
【0067】
走行用モータ41の減速が完了すると、電気駆動コントローラ61はPTO用インバータ48を制御して、PTO用モータ43の速度を減少させる(ステップS104)。PTO用モータ43の減速は、走行用モータ41の速度がステップS103の制御によって減速した分に比例するように行われる。これにより、電動トラクタ1の作業ピッチ(言い換えれば、耕耘ピッチ)の乱れを素早く元に戻すことができる。
【0068】
走行用モータ41の回転速度は、例えば、単に電気駆動コントローラ61から走行用モータ41への指令に基づいて取得することができる。また、例えばトランスミッション装置6を構成する図略の伝動軸の何れかに回転センサを設け、この回転センサの検出に基づいて、走行用モータ41の回転速度を取得することもできる。ステップS103の前後で走行用モータ41の回転速度を取得することで、ステップS103において走行用モータ41がどれだけ減速したかを得ることができる。
【0069】
ポンプ用モータ42に関しては、電気駆動コントローラ61は、ステップS101と同様の速度を維持するようにポンプ用インバータ47を制御する(ステップS105)。
【0070】
次に、電気駆動コントローラ61は、いったん減少させた走行用モータ41及びPTO用モータ43の速度を徐々に戻すことを試みる(ステップS106)。即ち、ステップS103及びステップS104の処理により、3つのモータの出力の合計値は、ステップS102の所定値よりも、ある程度余裕をもって下回ると考えられる。また、ステップS102で検出された大きな負荷が短時間で収まった場合、当該負荷の減少分も余裕となる。電気駆動コントローラ61は、3つのモータの出力の合計値を監視しながら、上記の余裕分を解消する形で、走行用モータ41及びPTO用モータ43の速度を増加させていく。走行用モータ41及びPTO用モータ43の速度が単位時間あたりに増加する大きさは、両モータの回転速度のバランスが維持されるように適宜定められる。ステップS106の処理は、3つのモータの出力の合計がステップS102の所定値に到達するか、走行用モータ41及びPTO用モータ43の速度が元の指令値に到達するまで行われる。
【0071】
電気駆動コントローラ61は、所定時間が経過するまで、ステップS106の処理を反復しながら待機する(ステップS107)。この所定時間は、走行速度のハンチング防止を考慮して、適宜の長さに定められる。
【0072】
その後、電気駆動コントローラ61は、ステップS101で説明した元の指令値で走行用モータ41、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43が動作可能か否かを判定する(ステップS108)。この判断は、現在の走行用モータ41及びPTO用モータ43の速度が既に元の指令値に到達しているか否か、及び、現在の3つのモータの出力の合計値がステップS102の所定値に対して十分に余裕をもって下回っているか否かを調べることにより行うことができる。
【0073】
ステップS108の判断で、元の指令値で各モータが動作可能と判定した場合は、処理はステップS101に戻る。元の指令値で各モータが動作不能と判定した場合は、エラーを発生してオペレータに報知する(ステップS109)。
【0074】
以上に説明したように、本実施形態の電動トラクタ1は、油圧ポンプ7と、ポンプ用モータ42と、PTO用モータ43と、第1バッテリー21と、電気駆動コントローラ61と、を備える。油圧ポンプ7は、走行機体2が備える油圧装置に作動油を供給する。ポンプ用モータ42は、油圧ポンプ7を駆動する電動モータである。PTO用モータ43は、走行機体2が備えるPTO軸8を駆動する電動モータである。第1バッテリー21は、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43で共通であり、これらのモータに電力を供給する。電気駆動コントローラ61は、ポンプ用モータ42及びPTO用モータ43に対する電力の分配を制御する。電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21の過負荷状態が検知された場合に、ポンプ用モータ42に供給される電力を減少させるよりも優先して、PTO用モータ43に供給される電力を減少させる。
【0075】
これにより、油圧機器の動作が不安定になるのを防止しながら、第1バッテリー21の過負荷を防止することができる。
【0076】
また、本実施形態の電動トラクタ1は、走行用モータ41を備える。走行用モータ41は、走行機体2を走行させるために駆動する電動モータである。第1バッテリー21は、ポンプ用モータ42及び走行用モータ41で共通であり、これらのモータに電力を供給する。電気駆動コントローラ61は、ポンプ用モータ42及び走行用モータ41に対する電力の分配を制御する。電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21の過負荷状態が検知された場合に、ポンプ用モータ42に供給される電力を減少させるよりも優先して、走行用モータ41に供給される電力を減少させる。
【0077】
これにより、油圧機器の動作が不安定になるのを防止しながら、第1バッテリー21の過負荷を防止することができる。また、第1バッテリー21の過負荷を、走行機体2の速度が減少することでオペレータに早期に知らせることができる。
【0078】
本実施形態の電動トラクタ1において、電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21の過負荷状態が検知された場合に、PTO用モータ43に供給される電力を減少させるよりも優先して、走行用モータ41に供給される電力を減少させる。
【0079】
これにより、負荷減少がある程度確実に見込める走行減速を優先して行うことで、第1バッテリー21の過負荷を素早く確実に解消することができる。
【0080】
本実施形態の電動トラクタ1において、電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21の過負荷状態が検知された場合に、走行用モータ41の回転速度を減少させ、これに連動してPTO用モータ43の回転速度を減少させる。
【0081】
これにより、過負荷の検出により走行速度が減速した場合でも、作業ピッチの乱れを抑制することができる。
【0082】
本実施形態の電動トラクタ1において、電気駆動コントローラ61は、第1バッテリー21の過負荷状態が検知された場合に、ポンプ用モータ42、PTO用モータ43、及び走行用モータ41のうち、走行用モータ41に供給される電力を最も優先して減少させる。走行用モータ41に供給される電力を減少させた後も、第1バッテリー21の過負荷状態が検知された場合、電気駆動コントローラ61は、ポンプ用モータ42に供給される電力を減少させるよりも優先して、PTO用モータ43に供給される電力を減少させる。
【0083】
これにより、油圧機器の動作の安定性を確保しながら、第1バッテリー21の過負荷を防止することができる。負荷減少がある程度確実に見込める走行減速をPTO減速よりも優先して行うことで、第1バッテリー21の過負荷を素早く確実に解消することができる。
【0084】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0085】
上記の実施形態においては、電力供給の優先順位として、第1順位がポンプ用モータ42、第2順位がPTO用モータ43、第3順位が走行用モータ41となっている。しかしながら、例えば、第2順位が走行用モータ41、第3順位がPTO用モータ43であっても良い。
【0086】
図3のステップS104に示すPTO用モータ43の減速は、ステップS103の走行用モータ41の減速と同時並行的に行われても良い。
【0087】
ステップS104のPTO用モータ43の速度の調整を自動的に行わず、オペレータに手動操作で行わせても良い。
【0088】
図3の処理が、電気駆動コントローラ61に代えてトラクタ側コントローラ62側で行われても良い。
【0089】
第1バッテリー21の過負荷が検知され、ステップS103において走行用モータ41の回転速度をゼロにしても、各モータの出力合計が所定値を超過して過負荷状態である場合は、PTO用モータ43の回転速度を直ちに減速させることが好ましい。例えば、山あいの圃場において土中に大きな石塊があるようなときは、走行機体2が停止しても、PTO用モータ43のPTO用モータ43への負荷が相当に大きい場合もある。また、更に、PTO用モータ43の回転速度をゼロにしても各モータの出力合計が所定値を超過して過負荷状態である場合は、ポンプ用モータ42の回転速度を減速させるように制御しても良い。
【符号の説明】
【0090】
1 電動トラクタ
2 走行機体
7 油圧ポンプ
8 PTO軸
21 第1バッテリー(バッテリー)
41 走行用モータ
42 ポンプ用モータ
43 PTO用モータ
61 電気駆動コントローラ(制御部)
図1
図2
図3