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特許7614093容易に加工可能な熱安定性リン含有難燃性材料の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】容易に加工可能な熱安定性リン含有難燃性材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/12 20060101AFI20250107BHJP
   C08K 5/5317 20060101ALI20250107BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C09K21/12
C08K5/5317
C08L101/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021536002
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 US2019067221
(87)【国際公開番号】W WO2020132095
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】62/782,907
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505006666
【氏名又は名称】ランクセス・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア・ユエ・リ
(72)【発明者】
【氏名】チンリアン・ヘ
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527683(JP,A)
【文献】米国特許第05543544(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0378671(US,A1)
【文献】特開2006-001876(JP,A)
【文献】特表2013-536159(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00273014(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/111717(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0031805(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00-21/14
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定性リン含有難燃性材料を調製するための方法であって、
i)混合物の質量に対して過半の質量の、200℃より高い沸点を有する1種又は複数の高沸点で水混和性の酸安定性溶媒であって、スルホラン及びジメチルスルホンからなる群から選択される酸安定性溶媒、
ii)式(I):
【化1】
(式中、Rはメチル基であり、pは3であり、Mは、アルミニウムであり、yは3であり、したがってM(+)y(式中、(+)yは、カチオンに形式的に付与された電荷を表す)はアルミニウムカチオンである)
のホスホン酸塩、及び
(iii) 水、
を含む混合物を、200℃以上の反応温度に加熱して、前記の溶媒中に分散された難燃性材料の粒子を含むスラリーを製造し、さらに、
前記のスラリーから難燃性材料の粒子を単離して、難燃性材料の粉末を製造する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記混合物を200℃以上の温度で加熱する工程の前に、
a)式(I)の塩を、固体又は液体の形態で用意する工程と、
b)a)で用意された式(I)の塩を、前記1種又は複数の酸安定性溶媒及び水スラリーを形成するのに十分な条件下及び時間で合わせることによって混合物を調製する工程と
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)の塩を、水性溶媒中の溶液として用意する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物を調製する工程が、30℃~160℃の範囲の1つ又は複数の温度で行われる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物を、220℃~400℃の範囲の反応温度まで加熱する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉末又は粒子の中央粒径が、ISO 13320に従ってレーザー回折によって測定して、100μm以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記中央粒径が、20μm~80μmである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
(i’) 請求項1~7のいずれか一項に記載した方法を使用して難燃性材料を調製する工程、及び(ii’) (i’)で得られた難燃性材料をポリマー基材に組み込む工程、を含む難燃性ポリマー組成物の製造方法であって、難燃性材料の量が難燃性ポリマー組成物の総質量に対して1~50質量%である、製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー基材が、ポリオレフィンホモポリマー若しくはコポリマー、ゴム、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレンポリマー若しくはコポリマー、ポリカーボネート、アクリルポリマー、ポリアミド、又はポリアセタールのうちの1種又は複数を含む、請求項に記載の難燃性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー基材が、スチレンポリマー若しくはコポリマー、ポリオレフィンホモポリマー若しくはコポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリルポリマー、エポキシ樹脂、ポリアミド、又はポリウレタンのうちの1種又は複数を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ポリマー基材が、ポリアルキレンテレフタレート、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、エポキシ樹脂、又はポリアミドを含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー基材が、ガラス充填ポリアルキレンテレフタレート、ガラス強化エポキシ樹脂、又はガラス充填ポリアミドを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー基材がポリフタルアミドを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ポリマー基材が、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド4T、又はポリアミド9Tを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ポリマー基材が、ポリアミドMXD,6、ポリアミド12,T、ポリアミド10,T、ポリアミド6,T/6,6、ポリアミド6,T/D,T、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/6,T、又はポリアミド6,T/6,Iを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ポリマー基材が、ポリフェニレンエーテル/スチレン樹脂ブレンド、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル/ABSブレンド、メタクリロニトリル/ABSブレンド、α-メチルスチレン含有ABS、ポリエステル/ABS、ポリカーボネート/ABS、耐衝撃性改良ポリエステル、又は耐衝撃性改良ポリスチレンを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記のポリマー基材及び難燃性材料を含む混合物に、ハロゲン化難燃剤、アルキル又はアリールホスフィンオキシド、アルキル又はアリールポリホスフィンオキシド、アルキル又はアリールホスフェート、アルキル又はアリールホスホネート、アルキル又はアリールホスフィネート、アルキル又はアリールホスフィン酸の塩、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、シロキサン、ポリシロキサン、ポリフェニレンエーテル、メラミン、メラミン誘導体、メラミン縮合生成物、メラミン塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属ホウ酸塩、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属亜リン酸塩、金属次亜リン酸塩、金属ケイ酸塩、及び混合金属塩から選択される1種又は複数の追加の化合物を更に添加する、請求項8~16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記1種又は複数の追加の化合物が、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、亜リン酸水素アルミニウム、ベンジルホスフィンオキシド、ポリベンジルホスフィンオキシド、メラム、メレム、メロン、メラミンホスフェート、メラミン金属ホスフェート、メラミンシアヌレート、メラミンボレート、タルク、クレイ、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、中空管としてのアルミノケイ酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸ホウ素、モリブデン酸カルシウム、剥離バーミキュライト、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、リン酸亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミニウム三水和物、シリカ、酸化スズ、酸化アンチモン(III及びV)、酸化アンチモン(III及びV)水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化亜鉛水和物、酸化ジルコニウム、及び水酸化ジルコニウムからなる群から選択される、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記1種又は複数の追加の化合物が、アルミニウムトリス(ジメチルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジプロピルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジブチルホスフィネート)、メチレンジフェニルホスフィンオキシド置換ポリアリールエーテル、キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、1,2-ビス-(9,10-ジヒドロ-9-オキシ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド)エタン、4,4'-ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)-1,1'-ビフェニル、メラム、メレム、メロン、及びジメラミン亜鉛ピロホスフェートからなる群から選択される、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記のポリマー基材及び難燃性材料を含む混合物に、ハイドロタルサイトクレイ、金属ホウ酸塩、金属酸化物、及び金属水酸化物からなる群から選択される1種又は複数の化合物を更に添加する、請求項に記載の製造方法。
【請求項21】
金属ホウ酸塩、金属酸化物及び金属水酸化物の金属が亜鉛又はカルシウムである、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
ポリマーの難燃性を改善するための方法であって、
i)混合物の質量に対して過半の質量の、スルホラン及びジメチルスルホンからなる群から選択されるスルホン類、
ii)式(I):
【化2】
(式中、Rはメチル基であり、pは3であり、Mはアルミニウムであり、yは3であり、したがってM(+)y(式中、(+)yは、カチオンに形式的に付与された電荷を表す)はアルミニウムカチオンである)
のホスホン酸塩、及び
(iii) 水、
を含む混合物を、200℃以上の反応温度に加熱して、難燃性材料を形成する工程と;
難燃性材料を溶媒から分離して、難燃性材料を、粉末として又は小粒子の形態で得る工程と;
難燃性材料とポリマーとを合わせる工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月20日出願の米国特許仮出願第62/782,907号に対する優先権の利益を主張し、当仮出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
高い熱安定性を有するリン含有難燃剤材料を調製するための改良された方法であって、1種又は複数のホスホン酸塩を、高沸点で水混和性の酸不活性溶媒中で高温にて加熱する工程を含み、難燃性材料を直接、すなわち、粉砕、造粒、又は他のそのような物理的加工を要さずに又は必要とせずに、粉末又は小粒子の形態で製造する、方法が開示される。
【背景技術】
【0003】
ポリマー、例としてポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、及び他の熱可塑性又は熱硬化性ポリマー樹脂は、リン含有化合物、ハロゲン含有化合物、又はそれらの混合物を組み込むことにより、多くの場合難燃性を高める。例えば、米国特許第3,689,602号は、プラスチック用の難燃性添加剤としてハロゲン化リン酸エステルを開示している。
【0004】
一部のポリマーは、例えば、200℃、225℃、250℃、275℃以上の高温で加工される。多くの公知の難燃剤は、揮発性が高すぎ、熱安定性が不十分で、加工に悪影響を及ぼす等の理由で、これらの条件下では好適ではない。一部のリン酸エステル等のある特定の有機リン系難燃性化合物は、それらが加えられるポリマーの機械的特性に悪影響を与え得る可塑化効果を呈する。一部のホスフェート類等の化合物は、加水分解に対して比較的不安定であり、種々のリン酸化合物の望ましくない形成をもたらす場合がある。
【0005】
多くのリン含有酸の塩は公知の難燃性添加剤であり、例えば熱可塑性ポリマーに有用である。米国特許第3,894,986号は、ホスホン酸のアルカリ塩、すなわち、式(X)(式中、Rはアルキルである)の化合物から調製された塩、例えば、エタンホスホン酸のモノナトリウム塩又はアルカンホスホン酸のモノメチルエステルのナトリウム塩を含有する難燃性熱可塑性ポリエステルを開示している。米国特許第4,972,011号は、アルキルホスホン酸のアルミニウム塩又はアルカンホスホン酸のモノアルキルエステル、すなわち式(Xa)(式中、Rは、例えば、アルキル又は1つ又は複数のハロ又はヒドロキシ基で置換されているアルキルであり、R'は水素、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルである)の化合物の塩を開示している。
【0006】
【化1】
【0007】
米国特許出願公開第2006/0138391号は、難燃剤として、式(X)の化合物から形成される塩を開示し、その塩は多種多様な金属のいずれかを含有し得る。米国特許出願公開第2006/0138391号に実際に例示されている唯一の塩は、メチルメチルホスホン酸のアルミニウム塩、すなわち、R及びR1がメチルである上記式(Xa)の化合物のアルミニウム塩であった。
【0008】
DE3833977は、高圧及び120℃~200℃の高温の水中での、ジメチルメチルホスホネート及び金属酸化物又は水酸化物の反応から調製される式(Xa)の化合物から調製される金属塩を開示しており、オートクレーブ内で190℃までの温度で高圧下にて水溶液中で行われる反応が例示されている。これらの塩とアミンとの付加物、例としてエチレンジアミンとメラミンとの付加物、及び熱可塑性プラスチックにおける難燃剤としての付加物の使用も開示されている。
【0009】
ホスフィン酸の塩、すなわち、R1及びR2が、アルキル又は炭素系芳香族である式(II)の化合物も、熱可塑性ポリマー用の公知の難燃性添加剤である。
【0010】
【化2】
【0011】
MがMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Li、Na、K又はプロトン化窒素塩基から選択される塩が公知である。例えば、米国特許第5,780,534号及び同第6,013,707号は、式(II)のホスフィン酸カルシウム及びホスフィン酸アルミニウム、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、n-プロピルメチルホスフィン酸、n-プロピルエチルホスフィン酸、ジ-n-プロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸、又はジフェニルホスフィン酸、のカルシウム塩及びアルミニウム塩が、ポリエステルにおいて特に有効であることを開示している。
【0012】
多くの難燃剤系と同様に、リン含有酸誘導体の性能は、他の難燃剤、相乗剤、及び補助剤の存在によって強化することができる。米国特許第6,472,448号は、オキサアルキル化アルキルホスホン酸とポリリン酸アンモニウムとの組み合わせが難燃剤として存在する難燃性硬質ポリウレタン発泡体を開示している。
【0013】
米国特許第6,365,071号は、熱可塑性ポリマー、例えばエンジニアリングプラスチック、特にポリエステルのための相乗的難燃剤の組み合わせであって、A)上記式(II)のホスフィン酸塩、例えば、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、及びメチルプロピルホスフィン酸アルミニウム、並びにB)窒素化合物、例として、アラントイン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、シアヌル酸尿素、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート、を含む、難燃剤の組み合わせを開示している。
【0014】
米国特許第6,255,371号は、A)上記式(II)のホスフィン酸塩、例えば、Mがカルシウム、マグネシウム、アルミニウム及び/又は亜鉛であるジエチルホスフィネート、及びB)メラミンの縮合又は反応生成物、例えば、メラミンポリホスフェート、メラムポリホスフェート、及びメレムポリホスフェート、を含む、難燃剤の組み合わせを開示している。
【0015】
米国特許第6,547,992号は、ホスフィン酸塩と、窒素を含有しない少量の無機及び/又はミネラル化合物とを含む、熱可塑性ポリマーのための難燃剤の組み合わせを開示している。WO2012/045414は、A)上記式(II)(式中、MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Li、Na、K又はプロトン化窒素塩基から選択される)のホスフィン酸塩;及びB)亜リン酸の金属塩;及び他の任意選択の成分、を含む難燃剤組成物を開示している。
【0016】
上記で、例えば、米国特許第6,365,071号及び同第6,255,371号で引用したホスフィン酸塩は、熱安定性であり、加工中にポリマーを分解せず、ポリマー組成物の調製プロセスに影響を与えないと言われている。ホスフィン酸塩は、熱可塑性ポリマーの通常の調製及び加工条件下では揮発性ではない。しかし、これらの材料は、すべてのポリマー系における使用に必ずしも好適であるわけではなく、加工の問題を引き起こしたり、ある特定のポリマーに必要な難燃剤の有効性を欠いたりする場合がある。
【0017】
ホスホン酸塩、特にホスホン酸金属塩は、熱安定性であると報告されている。しかし、米国特許出願公開第2007/0029532号において開示されているように、ポリエステル及びポリアミドの加工の際に遭遇する温度でのホスホン酸塩の分解は周知であり、加工中のポリマーを損傷し、エンジニアリング熱可塑性材料として「使用できない脆性の組成物」のみを提供する。
【0018】
また、米国特許第5,053,148号には、ホスホン酸塩(ホスホネート)(phosphonate)とも呼ばれるホスホン酸(phosphonic acid)塩の熱転換に関する教示が含まれており、すなわち、金属ホスホン酸塩又は金属ホスホン酸塩前駆体を200℃より高い温度、典型的には200℃よりはるかに高い温度に加熱すると、材料が扱いにくい不溶性の発泡体を形成する。発泡体は、電気絶縁材料及び/又は断熱材料として使用することができる。米国特許5,053,148号ではまた、芳香族ポリエステル、ポリエーテル等の熱可塑性材料の存在下で金属ホスホン酸塩又は金属ホスホン酸塩前駆体を加熱することによってこの発泡体を形成すると、ホスホン酸塩又はホスホン酸塩前駆体の熱転換によって引き起こされるポリマーの分解により、多孔質ポリマー組成物が生成されることも、開示されている。米国特許出願公開第2007/0029532号にも米国特許5,053,148号にも、塩転換生成物の化学的構成についての考察も、最初に塩を熱転換し、次にその転換生成物をポリマー組成物に組み込むという提案も含まれていない。
【0019】
米国特許第9,534,108号;同第9,745,449号;同第9,752,009号;同第9,752,011号;同第9,758,640号;及び同第9,765,204号では、一般に他の材料が存在しない状態で、ホスホン酸塩を十分に高い温度で加熱すると、ホスホン酸塩が、より熱安定性の、ポリマー基材に組み込まれたときに優れた難燃活性を呈する別の材料に熱転換することが開示されている。熱転換された材料は、高温、例えば240℃、250℃、260℃、270℃又はそれ以上でポリマー組成物中で加工された場合、高温でも劣化せず、ポリマーの劣化も引き起こさず、このことは、難燃活性を呈するが、加工中にポリマーを劣化させることが多い、以前から知られているホスホン酸塩に対して大きな利点である。熱転換された材料は、実験式(IV):
【0020】
【化3】
【0021】
(式中、Rは、アルキル又はアリールであり、Mは、金属であり、qは1~7の数、例えば1、2又は3であり、rは0~5の数、例えば0、1又は2、多くの場合0又は1であり、yは1~7、例えば1~4の数であり、nは1又は2であり、但し、2(q)+r=n(y)である)
によって表される1種又は複数の化合物及びその錯体脱水生成物を含むと記載されている。無機配位化合物と同様に、実験式(IV)の化合物は、生成物が、配位ポリマー、錯塩、ある特定の原子価を共有している塩等を含むことができるように理想化されているということも開示されている。
【0022】
米国特許第9,745,449号等の材料は、加工中にポリマー特性の劣化を引き起こさない効果的な難燃剤であるが、この材料は、一般に、ポリマー組成物に組み込む前に、粉砕又は他のそのような物理的加工を要する固体塊としてこの発明の方法に従って形成される。更に、当技術分野で例示されている方法のスケールアップの結果には一貫性がない傾向があり、実行間の再現性、例えば変換収率及び物理的特性を達成するのが困難な場合がある。
【0023】
式(VI)のリン酸塩及びその誘導体は、好適な条件下で、式(V)のピロリン酸の塩に熱変換することができる。米国特許第4,859,466号は、式(V)のピロホスホン酸塩が殺菌活性を有することを開示しており、米国特許出願公開第2016/0032076号は、難燃剤としてのそれらの使用を開示している。
【0024】
【化4】
【0025】
ピロホスホン酸塩は、リン酸塩を単独で、又はジフェニルメタンの存在下で加熱することによって調製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】米国特許第3,689,602号
【文献】米国特許第4,972,011号
【文献】米国特許出願公開第2006/0138391号
【文献】DE3833977
【文献】米国特許第5,780,534号
【文献】米国特許第6,013,707号
【文献】米国特許第6,472,448号
【文献】米国特許第6,365,071号
【文献】米国特許第6,255,371号
【文献】米国特許第6,547,992号
【文献】WO2012/045414
【文献】米国特許出願公開第2007/0029532号
【文献】米国特許第5,053,148号
【文献】米国特許第9,534,108号
【文献】米国特許第9,745,449号
【文献】米国特許第9,752,009号
【文献】米国特許第9,752,011号
【文献】米国特許第9,758,640号
【文献】米国特許第9,765,204号
【文献】米国特許第4,859,466号
【文献】米国特許出願公開第2016/0032076号
【文献】米国特許出願公開第2006/0138391号
【文献】米国特許出願公開第2015/0031805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
少なくとも米国特許第9,534,108号、同9,745,449号等の熱転換された難燃剤の調製、取り扱い、及びバッチ再現性における改善が、なおも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本開示は、熱重量分析(TGA)において、350℃より高くかつ例えば、最高で400℃、450℃、又はそれ以上の温度で、<5%、例えば、<3%又は<1%の質量損失を呈する、熱安定性難燃性材料を作製するための改善された方法を提供する。
【0029】
本開示の方法は、金属ホスホン酸塩をより熱安定性の難燃性材料に熱変換するための、既存の方法のいくつかの欠点を改善する。例えば、本方法は、物理的形態及び取り扱い特性が改善された難燃性材料を提供し、一方で特にスケールアップにおける再現性も改善する。この開示から、当業者には他の利点が明らかであろう。
【0030】
本開示の一実施形態は、粉末又は小粒子の形態で難燃性材料を提供する方法であって、i)200℃、220℃、240℃、又は260℃を超える沸点(bp)を有する、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒、例えばスルホン溶媒と、ii)式(I):
【0031】
【化5】
【0032】
(式中、RはH、アルキル、アリール、アルキルアリール又はアリールアルキル基であり、pは2~7の数、例えば2~4、例えば2、3又は4であり、Mは、金属であり、yは2~7の数、例えば2~4、例えば2、3又は4、多くの場合、2又は3であり、したがってM(+)y(式中、(+)yは、カチオンに形式的に付与された電荷を表す)は金属カチオンである)
の1種又は複数のホスホン酸塩との混合物を、200℃以上、一般に220℃以上、例えば250℃以上の温度、例えば約220℃~約400℃、又は約240℃~約360℃の範囲の温度、で加熱して、難燃性材料を直接、すなわち、粉砕、造粒等を要さず又は必要とせずに、粉末又は小粒子として製造する工程、を含む、方法である。本出願で開示されている方法に従って、難燃性材料を粉末又は小粒子として「直接」製造することにより、難燃性生成物の単離(例えば、難燃性生成物を、残留溶媒から分離する)等の反応生成物の後処理が可能になり、後処理には例えば、濾過、洗浄、乾燥等による反応生成物の加工が含まれることを理解すべきである。
【0033】
高沸点で水混和性の酸安定性溶媒が、例えば、bpが200℃を超える、例えば、約220℃以上、約240℃以上、約260℃以上、又は約280℃以上のスルホンである場合、良好な結果が得られる。このような溶媒の非限定的な例としては、bpが285℃のスルホラン、及びジメチルスルホンが挙げられる。
【0034】
典型的には、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒成分i)は、加熱される溶媒/ホスホン酸塩混合物中の主要成分であり、すなわち、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒は、溶媒/ホスホン酸塩混合物の51質量%以上であり、例えば、溶媒濃度は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってもよい。例えば、i)高沸点で水混和性の酸安定性溶媒と、ii)ホスホン酸塩との混合物において、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒は、i)及びii)の総質量に対して約60~99質量%、65~98質量%、又は70~98質量%存在し得る。
【0035】
本開示の難燃剤を製造する反応は、副生成物として水を放出し、これは、多くの場合脱水反応と呼ばれる。本開示による溶媒は、反応に熱もまた伝達し、生成物が形成されるときに出発物質及び生成物を懸濁させることに加えて、水混和性でもあり、本開示による溶媒は、反応中に水が生成されると水を吸収し、及び/又は水溶液中のホスホン酸塩との効率的な混合に役立つ場合があると考えられている。
【0036】
熱安定性難燃剤を、粉末又は小粒子として直接(粉砕等なしに)得る本方法は、本発明の方法とは対照的に、一般に他の材料の非存在下でホスホン酸塩を加熱することにより、熱安定性難燃性材料を硬質固体塊として製造する、既存の製造方法、例えば9,745,449等に記載されている方法に対して重要な改善を提供する。
【0037】
本開示の別の実施形態は、上記の方法から得られる難燃性材料を提供し、難燃性材料は、粉末又は小粒子の集合体である。粉末又は小粒子の集合体は、ISO 13320に従ってレーザー回折によって測定して、例えば、約100μm以下、例として、約80μm以下、又は約60μm以下の中央粒径(d50)を有してもよい。例えば、粉末又は小粒子の集合体は、約1μm~約100μm、約10μm~約90μm、約20μm~約80μm、又は約20μm~約60μmの中央粒径(d50)を有してもよい。粉末又は小粒子の集合体は、粉砕又は同様の物理的加工を要さずに、本明細書に記載の反応生成物から得られる。
【0038】
別の実施形態では、難燃性ポリマー組成物は、
a)熱硬化性又は熱可塑性ポリマー、例えば熱可塑性ポリマーと、
b)難燃性ポリマー組成物の総質量に対して、1質量%~50質量%の上記難燃性材料と、
c)任意選択で、他の難燃剤又は難燃性相乗剤と
を含む。
【0039】
別の実施形態は、難燃性ポリマー組成物を調製する方法であって、式(I)の1種又は複数の金属ホスホン酸塩を、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒中で、ホスホン酸塩を上記のような本開示のより熱安定性の難燃性材料に化学的に転換する条件下で加熱する工程と、次に、このようにして調製された熱安定性難燃剤を、例えば溶融加工によってポリマー樹脂に組み込む工程とを含む、方法を提供する。例えば、難燃剤は、ブレンド、押出、繊維又はフィルム形成等によって溶融ポリマーに導入することができる。
【0040】
さらなる実施形態では、難燃性材料は、粉末又は小粒子の形態であり、実験式(IV)
【0041】
【化6】
【0042】
(式中、RはH、アルキル、アリール、アルキルアリール又はアリールアルキル基であり、qは1~7の数、例えば1、2又は3であり、rは0~5の数、例えば0、1又は2、多くの場合0又は1であり、Mは、金属であり、yは2~7の数、例えば2~4、例えば2、3又は4、多くの場合、2又は3であり、したがってM(+)y (式中、(+)yは、カチオンに形式的に付与された電荷を表す)は金属カチオンであり、nは1又は2であり、但し、2(q)+r=n(y)である)
の化合物又は化合物の混合物を含む。難燃性材料は、ISO 13320に従ってレーザー回折によって測定して、例えば、約100μm以下、例として、約80μm以下、又は約60μm以下の中央粒径(d50)を有してもよい。例えば、粉末又は小粒子の集合体は、約1μm~約100μm、約10μm~約90μm、約20μm~約80μm、又は約20μm~約60μmの中央粒径(d50)を有してもよい。一部の実施形態では、難燃性材料は、実験式(IV)の化合物又は化合物の混合物から本質的になる。
【0043】
式Iの金属ホスホン酸塩は、金属ホスホン酸塩を高沸点で水混和性の酸安定性溶媒中で加熱することにより、加工柔軟性を備えたより熱安定性の難燃性材料に、均一に変換することができることが見出された。本方法は、以前の方法よりも、難燃剤の収率及び品質においてより均一性があるものを提供する。更に、本方法の生成物は、粉末又は微細粒子固体として直接得られ、従来技術の方法を使用して得られた固体塊とは対照的に、使用前に粉砕、造粒、又は他のそのような物理的加工を必要としない。
【0044】
前述の概要は、特許請求された発明の範囲を、いかなる方法でも制限することを意図するものではない。加えて、前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも、例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求される本発明を制限するものではないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本開示の実施例1に従って製造された例示的な難燃性材料の熱重量分析(TGA)の結果を示すグラフである。
図2】実施例1の例示的な難燃剤の粒径分布を示すグラフである。
図3】実施例1の例示的な難燃剤の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図4】本開示の実施例2に従って製造された例示的な難燃性材料のTGAの結果を示すグラフである。
図5】本開示の比較例3に従って製造された、難燃性材料のTGAの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
特に明記しない限り、本出願中の「a」又は「an」は「1つ(種)又は複数」を意味する。
【0047】
本方法では、
(i)式I
【0048】
【化7】
【0049】
(式中、RはH、アルキル、アリール、アルキルアリール又はアリールアルキル基であり、pは2~7の数、例えば2~4、例えば2、3又は4であり、Mは、金属であり、yは2~7の数、例えば2~4、例えば2、3又は4、多くの場合、2又は3であり、したがってM(+)y(式中、(+)yは、カチオンに形式的に付与された電荷を表す)は金属カチオンである)
のホスホン酸塩と、
(ii)高沸点で水混和性の酸安定性溶媒であって、式Iのホスホン酸塩及び高沸点で水混和性の酸安定性溶媒の混合質量に対して、混合物の51~99質量%、例えば混合物の約60~99質量%、65~98質量%、又は70~98質量%である、溶媒と
の混合物を、典型的には200℃を超える、例として、220℃以上(例えば、250℃以上)の脱水温度、例えば、約220℃~約400℃、又は約240℃~約360℃の範囲の温度まで加熱して、本開示の難燃剤を粉末又は小粒子として、一般に流動性粉末又は流動性小粒子として提供する。
【0050】
式(I)において、yが2であるM(+)yは、Mg++、Ca++、又はZn++等のジカチオンを表し、yが3であるM(+)yは、Al+++等のトリカチオンを表す。無機配位化合物と同様に、式は理想化されており、出発物質及び生成物は、配位ポリマー又は錯塩(例えば、ある特定の原子価を共有している塩、例として、2つの金属カチオン間で単一の酸素アニオンを共有している塩等)を、含んでもよい。典型的には、出発塩は、電荷均衡がとれている、すなわち、式(I)(式中、p=yであり、例えば、M(+)yがAl+++である場合、pは3である、等)の化合物である。
【0051】
式(I)のホスホン酸塩及びそれらの調製方法は当技術分野において公知であり、一部は、難燃剤、例えば、トリス-[メチルホスホン酸]アルミニウム塩として公知である。本明細書で出発物質として使用されるホスホン酸塩は、米国特許第9,745,449号及び同9,752,009号等において難燃剤の作製に使用される出発物質として見出すことができる。
【0052】
塩を、一般に他の材料の非存在下で加熱する当技術分野の方法とは対照的に、本開示では、ホスホン酸塩を、本明細書に記載の脱水媒体としての高沸点で水混和性の酸安定性溶媒と混合しながら、脱水温度に供する。脱水反応により水が生成され、この水は本開示の溶媒と適合し、円滑な反応を促進するのに役立つ場合がある。溶媒の水混和性及び酸安定性は、ホスホン酸塩が水性溶媒中の溶液として加えられる場合、混合を促進するのに役立つ可能性もある。
【0053】
本方法の脱水段階で使用される溶媒は、脱水反応条件下で安定でなければならない。脱水反応は高温で行われ、例えば反応温度は、多くの場合、220℃、230℃、240℃又は250℃を超える、例えば約220℃~約400℃、又は約240℃~約360℃、例えば240~290若しくは300℃の温度である。
【0054】
本開示の水混和性の酸安定性溶媒は、高沸点を有し、例えば、bpが200℃を超える、例として、約220℃以上、約240℃以上、約260℃以上、約270℃以上、又は約280℃以上、例えば、約220℃~約360℃、又は約230℃~約350℃である。高沸点、酸安定性、及び水混和性という3つの基準すべてを満たす例示的な溶媒としては、スルホン類が挙げられる。一部の実施形態では、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒は、式R1R2SO2(式中、R1及びR2は、C1~6炭化水素基、例えばC1~3炭化水素基から独立して選択されるか、又はR1及びR2は、Sと一緒になって2、3、4、又は5個の炭素原子を有する環を形成し、この環は非置換又はC1~3アルキル置換であり得る)のスルホンを含む。一部の実施形態では、R1及びR2は、Sと一緒になって、ジ、トリ、テトラ、又はペンタメチレン環を形成する。一部の実施形態では、R1及びR2は、C1~6アルキルから独立して選択される。一部の実施形態では、R1又はR2は、C1~6アルキルであり、そのもう一方は、C1~3アルキルである。一部の実施形態では、R1及びR2は、C1~3アルキルから独立して選択される。アルキル基は分岐鎖状であっても直鎖状であってもよい。一部の実施形態では、R1及びR2は、両方ともメチル、両方ともエチル、又は両方ともプロピルである。他の実施形態では、R1又はR2は、メチルであり、そのもう一方は、エチル又はプロピルである。他の実施形態では、R1又はR2は、エチルであり、そのもう一方は、プロピルである。一部の実施形態では、スルホンはスルホランである。
【0055】
本開示によれば、式(I)のホスホン酸塩を、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒と合わせ、本明細書に記載の脱水温度まで加熱し、本開示の難燃性材料を、粉末又は小粒子の形態で製造する。一般に、ホスホン酸塩を、懸濁液又はスラリー、例として均質な懸濁液又はスラリーを形成するのに十分な条件下で、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒と混合する。例えば、一部の実施形態では、ホスホン酸塩(すなわち、式(I)のホスホン酸塩)を、高温にて高沸点で酸安定性の水混和性溶媒と混合又は合わせて、懸濁液又はスラリーを形成し、その後、混合物を、本明細書に記載の脱水温度に供する。加熱は、時間の経過とともに1つ又は複数の高温にまで徐々に上昇させることができ、及び/又は穏やかな真空下等の真空条件下で行われ得るが、そのようである必要はない。高温は、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒の融点に依存する場合がある。例えば、いくつかの有用な高沸点で酸安定性の水混和性溶媒は、室温では固体であるが、高温では液体溶媒に変換される場合がある。一般に、高温は室温より高く、例えば、25、30、35、40、45、又は50℃より高く、例として、約30℃~約160℃、約60℃~約160℃、約40℃~約130℃、約80℃~約120℃、約40℃~約100℃、又は約50℃~約90℃、である。一部の実施形態では、高温は、100℃未満、例として上記に開示された温度範囲のいずれかであるが、100℃未満である。混合物を加熱し、2以上の高温に維持することができる。例えば、混合物を一定時間高温に加熱し、その後、1つ又は複数の他の高温に加熱又は冷却することができる。例えば、混合物を、約60℃~約140℃の範囲の高温に加熱することができ、例として、一定時間、約80℃~約120℃、その後、さらなる時間、約140℃~約160℃の範囲の高温にすることができる。
【0056】
ホスホン酸塩と、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒との混合は、1つ又は複数の高温で、任意選択で真空条件下にて、時間の経過とともに、例えば、約5分以上、約10分以上、約30分以上、約1時間以上、約3時間以上、約4時間以上、約6時間以上、約8時間以上、約12時間以上、約24時間以上、約36時間以上、若しくは約48時間以上、又はそれらの間の任意の範囲で行われる。例えば、その時間は、約30分~約72時間、約1時間~約48時間、又は約2時間~約36時間であり得る。この間に、望ましくない揮発性物質を除去し、混合物から一定量の水を除去又は蒸留することができる。一般に、得られた混合物は、懸濁液又はスラリー、例として均質な懸濁液又はスラリーを形成する。ホスホン酸塩を、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒と混合するための温度、圧力(例えば、真空条件)、撹拌速度、時間等の条件は相互に関連しており、これらの条件を、懸濁液又はスラリーの形成をもたらすように、例として、均質な懸濁液又はスラリーを達成するように調整することができることが、当業者には明らかであろう。
【0057】
一部の実施形態では、懸濁液又はスラリーの形成後(例えば、スラリー又は懸濁液は、ホスホン酸塩と、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒との高温での混合後、例えば、約10分、約30分、約1時間、約2時間、約4時間、又は約6時間後に現れ得る)、懸濁液又はスラリーを、本明細書に記載の高温等で一定時間撹拌する。一部の実施形態では、懸濁液又はスラリーを撹拌する高温は、混合物を加熱して懸濁液又はスラリーを形成する高温から低下している。一部の実施形態では、懸濁液又はスラリーを、約30℃~約95℃又は約40℃~約80℃の範囲の高温で撹拌する。一部の実施形態では、懸濁液又はスラリーを、約1分以上、約10分以上、約30分以上、約1時間以上、約4時間以上、約12時間以上、約24時間以上、約36時間以上、約48時間以上、又はそれらの間の任意の範囲の間、撹拌する。
【0058】
ホスホン酸塩は、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒と合わせた時点で、液体媒体又は固体形態(例えば、粉末)であり得る。例えば、一部の実施形態では、ホスホン酸塩は、水性液体中にある(例えば、水性液体中に溶解又は部分的に溶解している)。例えば、式Iの塩の水溶液を、高沸点で酸安定性の水混和性溶媒と混合してもよい。
【0059】
一部の実施形態では、水性溶媒を、ホスホン酸塩と高沸点で酸安定性の水混和性溶媒との混合物に加えて、例えば懸濁液又はスラリーの形成中のゲル化を回避し、又はゲル形成が発生した場合は、ゲル化を妨害することが望ましい場合がある。式(I)の塩に金属カチオンを供給するある特定の金属含有出発物質(すなわち、ホスホン酸塩のある特定の金属化合物前駆体)を使用すると、ゲル化の可能性が高くなる場合もあると考えられる。混合プロセス中に、必要/所望であれば、水性溶媒の添加を繰り返すことができる。
【0060】
更に、一部の実施形態では、シーディング材料を(任意選択で水性溶媒に加えて、又は水性溶媒なしで)、ホスホン酸塩と高沸点で酸安定性の水混和性溶媒との混合物に加えて、懸濁液又はスラリー、例えば均質なスラリーの形成を加速することが望ましい可能性がある。スラリー形成の時間を短縮することはまた、上述したようにゲルの形成を低下させるのに役立つ場合がある。混合プロセス中に、必要/所望であればシーディング材料の添加を(任意選択で水性溶媒に加えて、又は水性溶媒なしで)、繰り返すことができる。一部の実施形態では、シーディング材料は、不活性フィラーを含み、これは、脱水反応に対して不活性であり、所望の粒径の任意の材料であり得る。シリカ、アルミナ、タルク、及び二酸化チタンは、好適な不活性フィラーの非限定的な例である。一部の実施形態では、シーディング材料は、本開示の方法に従って製造される難燃性材料(及び任意選択で不活性フィラー)、例として、本明細書に記載の式(IV)の難燃性材料、及び/又は米国特許第9,745,449号等に従う難燃性材料を含む。シーディング材料は、ISO 13320に従ってレーザー回折によって測定して、例えば、約100μm以下、例として、約80μm以下、又は約60μm以下の中央粒径(d50)を有してもよい。例えば、シーディング材料は、約1μm~約100μm、約10μm~約90μm、約20μm~約80μm、又は約20μm~約60μmの中央粒径(d50)を有してもよい。
【0061】
一実施形態では、塩化アルミニウム六水和物出発物質から調製されたトリス-[メチルホスホン酸]アルミニウム塩の水溶液と、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒としてのスルホランとを、約80℃~約140℃、例として約100℃~約125℃の範囲の高温で、任意選択で穏やかな真空下で混合して、シーディング材料を混合物に加える。一部の実施形態では、例えば、混合物又はその一部がゲル様のコンシステンシーを形成する場合、水性溶媒も混合物に加える。一部の実施形態では、例えば、約2~6時間の加熱後、混合物を、約100℃~約160℃、例として、約120℃~約160℃、又は約140℃~約160℃の範囲のさらなる高温に加熱する。一部の実施形態では、懸濁液又はスラリーの形成後、例えば、約1~2時間後、温度を、続いて本明細書に記載のように、懸濁液又はスラリーを撹拌するために、より低い高温に下げる。次に、得られた混合物を、本明細書に記載のように、しばらくの間(例えば、約2時間~約6時間)脱水温度(例えば、約240℃~約360℃)に加熱する。
【0062】
別の実施形態では、アルミニウムイソプロポキシド出発物質から調製されたトリス-[メチルホスホン酸]アルミニウム塩の水溶液と、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒としてのスルホランとを、約60℃~約100℃、例として約80℃~約95℃の範囲の高温で、任意選択で穏やかな真空下で混合する。一部の実施形態では、塩の水溶液及びスルホランを、高温で約2時間~約6時間の範囲の時間混合する。懸濁液又はスラリーの形成後、得られた混合物を、本明細書に記載のように、しばらくの間(例えば、約2時間~約6時間)脱水温度(例えば、約240℃~約360℃)に加熱する。
【0063】
式(I)のホスホン酸塩は公知であり、それらを調製するための種々の方法が当技術分野に記載されている。例えば、式(I)のホスホン酸塩を、米国特許出願公開第2006/0138391号、米国特許出願公開第2015/0031805号、及び当技術分野の他の場所に開示されている塩から選択することができる。一部の実施形態では、式(I)の塩は、RがH、C1~12アルキル、C6~10アリール、C7~18アルキルアリール又はC7~18アリールアルキル基であり、前記基が、米国特許出願公開第2006/0138391号に記載されるように更に置換されるが、多くの場合、Rは非置換C1~12アルキル、C6~10アリール、C7~18アルキルアリール又はC7~18アリールアルキルである、化合物を含む。例えば、Rは、置換又は非置換、多くの場合非置換の、C1~6アルキル、C6アリール、C7~10アルキルアリール、又はC7~12アリールアルキル、例えば、C1~4アルキルであってもよい。
【0064】
本開示は、いかなる特定の金属カチオンM(+)yにも限定されない。好適な金属の例としては、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、Ge、B、Al、Si、Ti、Cu、Fe、Sn、及びSbが挙げられる。一部の実施形態では、Mは、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、B、Al、Si、Ti、Fe、Sn、及びSbから選択される。一部の実施形態では、Mは、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、B、Al、Fe、Sn、及びSbから選択される。一部の実施形態では、Mは、Al、Fe、Zn、及びCaから選択される。
【0065】
アルキルとしてのRは、指定された炭素数を有する直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、例えば、非分岐鎖アルキル、例として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、及び分岐鎖アルキル、例として、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、エチルヘキシル、t-オクチル等を含む。例えば、アルキルとしてのRは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチルであってもよく、多くの場合、Rは、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピル、例えばメチルである。
【0066】
多くの場合、Rがアリールである場合、Rはフェニル又はナフチル、例えば、フェニルである。アルキルアリールとしてのRの例には、1つ又は複数のアルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル等から選択される基で置換されたフェニルが含まれる。アリールアルキルとしてのRの例には、例えば、ベンジル、フェネチル、スチリル、クミル、フェンプロピル等が含まれる。
【0067】
一部の実施形態では、Rは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、フェニル又はベンジル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はフェニル、例として、メチル、エチル、プロピル又はイソプロピル、例えば、メチルである。
【0068】
一部の実施形態では、ホスホン酸塩は、RがH、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル又はフェニルであり、MがAl、Fe、Zn又はCaであり、pが2又は3である、式(I)の化合物である。一部の実施形態では、Rは、H、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルであり、p=3であり、MはAl又はFeであり;他の実施形態では、RはH、メチル、エチル、プロピル又はイソプロピルであり、p=2であり、MはZn又はCa、例えば、Caである。
【0069】
上記のように、式(I)の2種以上のホスホン酸塩を、異なるR及び/又はMを伴って使用することができる。一部の実施形態では、少なくとも1つのRは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル及びフェニルから選択され、少なくとも1つのMは、Al、Fe、Zn及びCaから選択される。一部の実施形態では、各Rは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル及びフェニルから選択され、各Mは、Al、Fe、Zn及びCaから選択される。
【0070】
式(I)のホスホン酸塩を本発明の難燃剤に変換するのにかかる時間は、例えば、出発ホスホン酸塩の化学構造、反応の温度等を含む、様々な要因に応じて変化する。
【0071】
式(I)のホスホン酸塩の本開示の難燃性材料への良好な変換は、塩と高沸点で水混和性の酸安定性溶媒との混合物を本明細書に記載の脱水温度、典型的には、200℃以上、一般に220℃以上、例えば250℃以上の温度、例えば約220℃~約400℃、又は約240℃~約360℃の範囲の温度で、20時間以下、例として12時間以下の時間で加熱することによって得られる。一般に、式(I)のホスホン酸塩と、高沸点で水混和性の酸安定性溶媒との混合物は、約200℃(例えば、約220℃)~約400℃の温度で、約1分~約20時間、例として、約30分~約12時間、約1時間~約8時間、又は約2時間~約6時間で加熱する。一例では、混合物を、約220℃~約400℃で約1時間~約12時間、又は約1時間~約8時間加熱する。別の例では、混合物を、約240℃~約360℃で約1時間~約6時間、又は約2時間~約6時間加熱する。状況次第では、例として、より高い温度(例えば、約250℃~約400℃又は400℃より高い温度)で、及び/又は反応容器又は環境により出発材料への熱伝達が非常に効率的になる場合、加熱は、分又は秒のオーダーで、例えば、1時間未満、30分未満、15分未満、6分未満、1分未満、又は30秒未満で行われ得る。
【0072】
理論に拘束されることを望まないが、本開示の方法によって得られる難燃性材料は、実験式(IV):
【0073】
【化8】
【0074】
(式中、Rは、上記のH、アルキル、アリール、アルキルアリール又はアリールアルキルであり、Mは、上記の金属であり、qは1~7の数、例えば1、2又は3であり、rは0~5の数、例えば0、1又は2、多くの場合0又は1であり、yは2~7、例えば2~4の数であり、nは1又は2であり、但し、2(q)+r=n(y)である)
によって表される化合物又は化合物の混合物を含むと考えられている。当然、R基及びMの同一性は、出発物質として使用される式(I)の塩においてR及びMとして使用される基をよく反映している。前述のように無機配位化合物と同様に、式(IV)は実験的であり、配位ポリマー及び錯塩(例えば、ある特定の原子価を共有している塩)を含む。
【0075】
実験式(IV)によって表される化合物又は化合物の混合物を含む難燃性材料は、粉砕、造粒、又は他のそのような物理的加工を要さずに、粉末又は小粒子の形態で製造される。このような難燃性材料は、一般に、ISO 13320に従ってレーザー回折によって測定して、約100μm以下、例として、約80μm以下、又は約60μm以下の中央粒径(d50)を有する。例えば、粉末又は小粒子は、約1μm~約100μm、約10μm~約90μm、約20μm~約80μm、又は約20μm~約60μmの中央粒径(d50)を有してもよい。
【0076】
上記のように、1つのR基及び1つの金属が存在する式(I)の単一の化合物から出発する場合であっても、化合物の混合物は、多くの場合、本明細書に記載の実験式(IV)に従って形成される。一部の実施形態では、難燃性材料を、R及び/又はMの複数の値が存在するホスホン酸塩の混合物から調製し、複数のR基及び/又は金属を含む実験式(IV)による化合物の混合物を製造する。一部の実施形態では、本開示の難燃性材料は、本明細書に記載の方法に従う2種以上の難燃性材料を別々に得て、これらの2種以上の難燃性材料を一緒に混合して、得られる難燃剤が、R及び/又はMに複数の値を有する実験式(IV)による化合物の混合物を含むように調製される。米国特許第9,752,011号は、異なるR基及び/又は金属が存在するホスホン酸塩の混合物を調製するための技術の開示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
本開示の難燃剤は、当技術分野において公知である様々な他の難燃剤、相乗剤又は難燃補助剤と共に使用することができる。例えば、難燃剤は、
カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、シロキサン、ポリシロキサン。ポリフェニレンエーテル(PPE)、ホスフィンオキシド及びポリホスフィンオキシド、例えば、ベンジルホスフィンオキシド、ポリベンジルホスフィンオキシド等;
メラミン、メラミン誘導体及びメラミン縮合生成物、メラミン塩、例としてメラミンシアヌレート、メラミンホウ酸塩、メラミンリン酸塩、メラミン金属リン酸塩、メラム、メレム、メロン等;
クレイ、金属塩、例として水酸化物、酸化物、酸化物水和物、ホウ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ケイ酸塩、混合金属塩等を含む無機化合物、例えばタルク及び他のケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、中空管としてのアルミノケイ酸塩(DRAGONITE)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、HALLOYSITE若しくはリン酸ホウ素、モリブデン酸カルシウム、剥離バーミキュライト、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛、及びホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛(KEMGARD 911A/B)、リン酸亜鉛(KEMGARD 981)、酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)、アルミニウム三水和物、シリカ、酸化スズ、酸化アンチモン(III及びV)及び酸化アンチモン水和物、酸化チタン及び酸化亜鉛若しくは酸化亜鉛水和物、酸化ジルコニウム及び/又は水酸化ジルコニウム等から選択される1種又は複数の材料とともに配合することができる。
【0078】
特に明記しない限り、本出願の文脈において、「リン酸塩(ホスフェート)」という用語は「リン酸塩」における、例として、金属リン酸塩、メラミンリン酸塩、メラミン金属リン酸塩、における成分として使用される場合、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、又はリン酸縮合生成物アニオン若しくはポリアニオンを指す。
【0079】
同様に、特に明記しない限り、本出願の文脈において、「亜リン酸塩(ホスファイト)」という用語は、「亜リン酸塩」における、例として金属亜リン酸塩における成分として使用される場合、亜リン酸塩又は亜リン酸水素塩を指す。
【0080】
本出願の難燃剤を、他の難燃剤、例として、ハロゲン化難燃剤、アルキル又はアリールホスフィンオキシド難燃剤、アルキル又はアリールホスフェート難燃剤、アルキル又はアリールホスホネート、アルキル又はアリールホスフィネート、及びアルキル又はアリールホスフィン酸の塩と配合することもできる。一部の実施形態では、難燃剤は、本開示による難燃性材料と式(II)のホスフィン酸塩(例えば、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート))
【0081】
【化9】
【0082】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、本明細書に記載のRによる基であってもよく、Mは本明細書に記載の金属(例えば、Al又はCa)であり、nは2~7の数、例えば2~4、多くの場合、2又は3である)
との混合物を含む。
【0083】
したがって、多くの実施形態では、本開示による難燃性ポリマー組成物は、(a)ポリマー、(b)本開示の難燃剤、及び(c)1種若しくは複数の追加の難燃剤及び/又は1種若しくは複数の相乗剤又は難燃補助剤を含む。
【0084】
例えば、一部の実施形態では、難燃性ポリマー組成物は、1種又は複数の追加の難燃剤、例えば、ハロゲン化難燃剤、ホスフィンオキシド難燃剤、アルキル若しくはアリールホスホネート、又はアルキル若しくはアリールホスフィネートの塩、例えば、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、例として、アルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)を含む。
【0085】
一部の実施形態では、難燃性ポリマー組成物は、1種若しくは複数の相乗剤又は難燃補助剤、例えば、メラミン、メラミン誘導体及びメラミン縮合生成物、メラミン塩、ホスフィンオキシド及びポリホスフィンオキシド、金属塩、例として水酸化物、酸化物、酸化物水和物、ホウ酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、ケイ酸塩等、例えば亜リン酸水素アルミニウム、メレム又はメラミン金属リン酸塩、例えば、金属がアルミニウム、マグネシウム又は亜鉛を含むメラミン金属リン酸塩、を含む。特定の実施形態では、1種又は複数の追加の難燃剤、相乗剤又は難燃補助剤は、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、亜リン酸水素アルミニウム、メチレンジフェニルホスフィンオキシド置換ポリアリールエーテル、キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、4,4'-ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)-1,1'-ビフェニル、エチレンビス-1,2-ビス-(9,10-ジヒドロ-9-オキシ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド)エタン、メレム、メラム、メロン、又はジメラミン亜鉛ピロホスフェート、を含む。
【0086】
ある特定の実施形態は、ハロゲンを含まないポリマー組成物を提供する。そのような実施形態では、ハロゲン含有難燃剤又は相乗剤は可能な限り除外される。
【0087】
本開示の難燃性材料は、例えば、追加の難燃剤、相乗剤及び/又は補助剤の総質量に対する本発明の難燃剤の質量が、100:1~1:100の範囲で、追加の難燃剤、相乗剤又は補助剤と合わせることができる。一部の実施形態では、本開示の難燃性材料は、追加の難燃剤、相乗剤及び/又は補助剤の総質量に対する本発明の難燃剤の質量が10:1~1:10の範囲で、例えば、7:1~1:7、6:1~1:6、4:1~1:4、3:1~1:3、2:1~1:2の範囲の質量比で、存在する。本発明の難燃剤は、多くの場合、そのような組み合わせにおける主要成分であり、例えば、追加の難燃剤、相乗剤及び/又は補助剤の総質量に対する本発明の難燃性材料の質量比は、10:1~1.2:1又は7:1~2:1であるが、本発明の材料は、混合物の微量の成分、例えば、1:10~1:1.2の比率又は1:7~1:2の比率であってもよい。
【0088】
本発明の熱安定性難燃剤は、ポリマーを分解したりポリマーの物理的性質に悪影響を与えたりすることなく、高温で熱可塑性ポリマー、例として高温ポリアミド及びポリテレフタレートエステルに配合することができ、難燃活性は優れている。本発明の難燃剤は、他の相乗剤及び従来のポリマー添加剤とともに、他のポリマーに使用することができる。
【0089】
本開示の難燃性組成物のポリマーは、当技術分野において公知の任意のポリマー、例として、ポリオレフィンホモポリマー及びコポリマー、ゴム、ポリアルキレンテレフタレートを含むポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレンポリマー及びコポリマー、ポリカーボネート、アクリルポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、及び生分解性ポリマー、であってもよい。異なるポリマーの混合物、例として、ポリフェニレンエーテル/スチレン樹脂ブレンド、ポリ塩化ビニル/アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、又は他の耐衝撃性改良ポリマー、例として、メタクリロニトリル及びα-メチルスチレン含有ABS、及びポリエステル/ABS若しくはポリカーボネート/ABS、及びポリエステル若しくはポリスチレン+いくつかの他の耐衝撃性改良剤も使用することができる。そのようなポリマーは市販されており、或いは当技術分野において周知の手段によって作製される。
【0090】
本開示の難燃剤は、高温で加工及び/又は使用される熱可塑性ポリマー、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル等を含むスチレンポリマーにおいて、特に有用である。
【0091】
例えば、ポリマーは、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ビニル系樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、又はポリウレタンであってもよい。ポリマーは、熱可塑性又は熱硬化性樹脂であってもよく、例えばガラス強化等の強化がされていてもよい。複数のポリマー樹脂が存在してもよい。特定の実施形態では、ポリマーは、エンジニアリングポリマー、例えば、熱可塑性又は強化熱可塑性ポリマー、例えば、ガラス強化熱可塑性ポリマー、例として、任意選択でガラス充填ポリエステル、エポキシ樹脂又はポリアミド、例えば、ガラス充填ポリエステル、例として、ガラス充填ポリアルキレンテレフタレート、又はガラス充填ポリアミド、である。
【0092】
ポリエステル系樹脂としては、例えばジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合、及びヒドロキシカルボン酸又はラクトン成分の重縮合によって得られるホモポリエステル及びコポリエステル、芳香族飽和ポリエステル系樹脂、例としてポリブチレンテレフタレート又はポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0093】
ポリアミド(PA)系樹脂としては、ジアミンとジカルボン酸由来のポリアミド;必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸との組み合わせにおける、アミノカルボン酸から得られるポリアミド;並びに必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸との組み合わせにおける、ラクタム由来のポリアミド;が挙げられる。ポリアミドには、少なくとも2種類の異なるポリアミド構成成分由来のコポリアミドも含まれる。ポリアミド系樹脂の例としては、脂肪族ポリアミド、例としてPA46、PA6、PA66、PA610、PA612、PA11、及びPA12、芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸及び/又はイソフタル酸と、脂肪族ジアミン、例えばヘキサメチレンジアミン又はノナメチレンジアミンから得られるポリアミド;並びに、芳香族と脂肪族の両方のジカルボン酸、例えばテレフタル酸及びアジピン酸の両方と、脂肪族ジアミン、例えばヘキサメチレンジアミン及びその他から得られるポリアミドが挙げられる。これらのポリアミドは、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。一部の実施形態では、ポリマーは、ポリフタルアミドを含む。
【0094】
少なくとも280℃の融点を有するポリアミドは、成形物品の製造を可能にする、例えば、電気及び電子産業用の成形組成物の製造に広く使用されており、高温での優れた寸法安定性と非常に優れた難燃特性を備えている。このタイプの成形組成物は、例えば電子産業において、いわゆる表面実装技術、SMTによってプリント回路基板に実装される部品を製造するために必要とされている。この用途では、これらの部品は、寸法変化なしで短期間、最高270℃の温度に耐える必要がある。
【0095】
このような高温ポリアミドには、ポリアミド4,6等のアルキルジアミン及び二酸から製造されるある特定のポリアミドが含まれるが、多くの高温ポリアミドは芳香族及び半芳香族ポリアミド、すなわち、芳香族基を含有するモノマーから誘導されるホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、又は高級ポリマーである。単一の芳香族若しくは半芳香族ポリアミドを使用してもよく、又は芳香族及び/又は半芳香族ポリアミドのブレンドを使用する。上記のポリアミド及びポリアミドのブレンドを、脂肪族ポリアミドを含む他のポリマーとブレンドすることも可能である。
【0096】
これらの高温芳香族又は半芳香族ポリアミドの例としては、ポリアミド4T、ポリ(m-キシリレンアジパミド)(ポリアミドMXD,6)、ポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド12,T)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド10,T)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド9,T)、ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/6,6)、ヘキサメチレンテレフタルアミド/2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/D,T);ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,6/6,T/6,l);ポリ(カプロラクタム-ヘキサメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド6/6,T);ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミド(6,T/6,I)コポリマー等、が挙げられる。
【0097】
したがって、本開示のある特定の実施形態は、高温、例えば280℃以上、300℃以上、一部の実施形態では320℃以上、例えば280~340℃で溶融するポリアミド、例としてポリアミド4,6並びに上記の芳香族及び半芳香族ポリアミドを含む組成物、高温ポリアミド及び本開示の難燃性材料を含む物品、組成物の調製方法、及び物品の成形方法、に関する。
【0098】
本明細書に記載されるように、多くの実施形態では、難燃性ポリマー組成物は、(a)ポリマー、(b)本開示の難燃剤、及び(c)1種若しくは複数の追加の難燃剤及び/又は1種若しくは複数の相乗剤又は難燃補助剤を含む。したがって、難燃剤(b)は単独でポリマー系において優れた活性を呈するが、(c)他の難燃剤、相乗剤及び補助剤から選択される1種又は複数の化合物と組み合わせて使用してもよい。化合物(c)の例としては、ハロゲン化難燃剤、アルキル又はアリールホスフィンオキシド、アルキル又はアリールポリホスフィンオキシド、アルキル又はアリールホスフェート、アルキル又はアリールホスホネート、アルキル又はアリールホスフィネート、アルキル又はアリールホスフィン酸の塩、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、シロキサン、ポリシロキサン、ポリフェニレンエーテル、メラミン、メラミン誘導体、メラミン縮合生成物、メラミン塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属ホウ酸塩、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属亜リン酸塩、金属次亜リン酸塩、金属ケイ酸塩、及び混合金属塩、が挙げられる。例えば、1種又は複数の化合物(c)は、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、亜リン酸水素アルミニウム、ベンジルホスフィンオキシド、ポリベンジルホスフィンオキシド、メラム、メレム、メロン、メラミンホスフェート、メラミン金属ホスフェート、メラミンシアヌレート、メラミンボレート、タルク、クレイ、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、中空管としてのアルミノケイ酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸ホウ素、モリブデン酸カルシウム、剥離バーミキュライト、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、リン酸亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミニウム三水和物、シリカ、酸化スズ、酸化アンチモン(III及びV)、酸化アンチモン(III及びV)水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化亜鉛水和物、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、から選択してもよい。例えば、1種又は複数の化合物(c)は、アルミニウムトリス(ジメチルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジプロピルホスフィネート)、アルミニウムトリス(ジブチルホスフィネート)、メチレンジフェニルホスフィンオキシド置換ポリアリールエーテル、キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、1,2-ビス-(9,10-ジヒドロ-9-オキシ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド)エタン、4,4'-ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)-1,1'-ビフェニル、メラム、メレム、メロン、及びジメラミン亜鉛ピロホスフェート、から選択してもよい。
【0099】
一部の実施形態では、難燃性ポリマー組成物は、ハイドロタルサイトクレイ、金属ホウ酸塩、金属酸化物、及び金属水酸化物、例として、金属が亜鉛若しくはカルシウムである、金属ホウ酸塩、金属酸化物、又は金属水酸化物から選択される1種又は複数の化合物を含む。
【0100】
ポリマー組成物中の本発明の難燃剤の濃度は、もちろん、最終ポリマー組成物に見られる難燃剤、ポリマー、及び他の成分の正確な化学組成に依存する。例えば、本発明の難燃剤は、ポリマー配合物の唯一の難燃剤成分として使用される場合、最終組成物の総質量の1~50質量%、例えば1~30質量%の濃度で存在し得る。典型的には、唯一の難燃剤として使用される場合、本発明の材料が少なくとも2%、例えば3%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上存在する。多くの実施形態では、本発明の難燃剤は、最大45%の量で存在するが、他の実施形態において、本発明の難燃剤の量は、ポリマー組成物の40%以下、例えば、35%以下である。他の難燃剤又は難燃性相乗剤と組み合わせて使用する場合、必要な本発明の材料を少なくすることができる。
【0101】
任意の公知の配合技術を使用して、本開示の難燃性ポリマー組成物を調製することができ、例えば、難燃剤は、ブレンド、押出、繊維又はフィルム形成等によって溶融ポリマーに導入することができる。場合によっては、難燃剤を、ポリマーの形成又は硬化時にポリマーに導入し、例えば、難燃剤は、架橋前のポリウレタンプレポリマーに加えてもよく、又は、ポリアミド形成前のポリアミン又はアルキル-ポリカルボキシル化合物若しくは硬化前のエポキシ混合物に加えてもよい。
【0102】
難燃性ポリマー組成物は、多くの場合、当技術分野で頻繁に遭遇する一般的な安定剤又は他の添加剤、例として、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、紫外線吸収剤、亜リン酸塩、ホスホナイト、脂肪酸のアルカリ金属塩、ハイドロタルサイト、金属酸化物、ホウ酸塩、エポキシ化大豆油、ヒドロキシルアミン、第三級アミンオキシド、ラクトン、第三級アミンオキシドの熱反応生成物、チオ相乗剤、塩基性補助安定剤、例えばメラミン、メレム等、ポリビニルピロリドン、ジシアンジアミド、シアヌル酸トリアリル、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、アミン、ポリアミド、ポリウレタン、ハイドロタルサイト、高級脂肪酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、例えばステアリン酸Ca、ステアロイル乳酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸Zn、オクタン酸Zn、ステアリン酸Mg、リシノール酸Na、及びパルミチン酸K、ピロカテコール酸アンチモン、又はピロカテコール酸亜鉛、造核剤、透明化剤等、のうちの1種又は複数を含む。
【0103】
他の添加剤、例えば、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、顔料、染料、蛍光増白剤、他の防炎剤、帯電防止剤、発泡剤、ドリップ防止剤、例えば、PTFE等も存在し得る。
【0104】
任意選択で、ポリマーは、フィラー及び強化剤、例えば、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、ガラス繊維、タルク、カオリン、マイカ、硫酸バリウム、金属酸化物及び水酸化物、カーボンブラック及びグラファイトを含んでもよい。そのようなフィラー及び強化剤は、フィラー又は強化剤が、最終組成物の質量に対して50質量%を超える濃度で存在する配合を含み、多くの場合比較的高濃度で存在する。より典型的には、フィラー及び強化剤は、全ポリマー組成物の質量に対して、約5~約50質量%、例えば、約10~約40質量%又は約15~約30質量%存在する。
【0105】
一部の実施形態では、本開示のポリマー組成物を、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、シロキサン、ポリシロキサン、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミノケイ酸塩中空管(Dragonite)、ハロイサイト、リン酸ホウ素、モリブデン酸カルシウム、剥離バーミキュライト、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛(Kemgard 911A/B)、リン酸亜鉛(Kemgard 981)等;2、4、12、13、14、15族(半)金属の水酸化物、酸化物、及び酸化物水和物、例えば、酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)、アルミニウム三水和物、シリカ、ケイ酸塩、酸化スズ、酸化アンチモン(III及びV)及び酸化アンチモン水和物、酸化チタン及び酸化亜鉛又は酸化亜鉛水和物、酸化ジルコニウム及び/又は水酸化ジルコニウム等;メラミン及び尿素系樹脂、例としてメラミンシアヌレート、メラミンボレート、メラミンポリホスフェート、メラミンピロホスフェート、ポリフェニレンエーテル(PPE)等;並びに例えば、ハイドロタルサイト、ベーマイト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト、ウォラストナイト、ナノクレイ又は有機修飾ナノクレイ等を含むクレイから選択される1種又は複数の材料とともに配合することができる。
【0106】
さらなる非限定的な開示は、以下の実施例で提供されている。
【実施例
【0107】
(実施例1)
三塩化アルミニウム六水和物とメチルホスホン酸(MPA)から調製した400gのトリス-[メチルホスホン酸]アルミニウム塩を含有する水溶液を、2.5kgのスルホランとともに反応フラスコに加えた。穏やかな真空下で反応混合物を撹拌し、加熱して徐々に温度を上昇させた。温度が上昇すると水が除去された。
【0108】
反応混合物から約400mLの水を蒸留したとき、ポット温度は95℃であり、ゲル様の物質が反応容器の壁に堆積した。中央粒径(d50)が100μm未満のシーディング材料約0.1グラムを、200mLの水とともに加えると、ゲル状の物質が壁から消失した。ゲル形成のさらなるエピソードを、シーディング材料及び水を更に加えることで改善した。加熱を約4時間続け、その間に温度は約120℃まで上昇し、所望のスラリーが形成され始め、その時点で真空を除去した。加熱を続け、ポット温度を160℃に上昇させ、次に160℃で2時間保持して均質なスラリー形成を完了させた。次に、ポット温度を60℃に下げ、均質なスラリーを60℃で36時間撹拌した。
【0109】
次に、反応混合物を徐々に250℃まで加熱し、その温度で3時間保持して、白色の微粒子の懸濁液を製造した。反応混合物を60℃に冷却し、濾過し、固体をIPA(500mL×3)で洗浄して、白色の粉末及び淡黄色の濾液を得た。31P NMRにより、濾液中にリン化合物は検出されなかった。次に、固体を160℃で1時間乾燥させて、370グラムの白色の粉末として生成物を得た(収率99%)。粉末を、325メッシュスクリーンを通して速やかに篩にかけ(1日で87%を篩にかけた)、この粉末は、自由流動性で非フラフ状の(non-fluffy)物理的外観を有していた。N2で実施された熱重量分析(TGA)は、生成物が>400°Cまで熱安定性であることを示した(図1)。元素分析(ICP-OES)は、以下の通りであった:31.0%P、9.0%Al。生成物のBET表面積は約2.5~2.6m2/gであり、嵩密度は0.53g/mLであった。生成物の粒径分布及びSEM画像を、図2及び図3にそれぞれ示す。
【0110】
(実施例2)
MPA及びアルミニウムイソプロポキシドから調製したトリス-[メチルホスホン酸]アルミニウム塩の水溶液を、15グラムのアルミニウム塩あたり100グラムのスルホランの質量比で、スルホランとともに、オーバーヘッド撹拌機、添加漏斗、及びディーンスタークトラップ付きのビグリューカラムを装備した4つ口の5L丸底フラスコに加えた。
【0111】
反応混合物を窒素下、90℃で4時間撹拌して、均質な白色の懸濁液を得た。次に、反応混合物を徐々に250℃まで加熱し、250℃で3時間保持した。次に、オフホワイトの懸濁液を60℃に冷却し、スルホランを濾別し、固体をイソプロパノール(500mL×3)で洗浄した。次に、固体を160℃のオーブン内で1時間乾燥させて、92%の収率で白色の粉末(142g)として生成物を得た。N2で実施されたTGAは、生成物が>400°Cまで熱安定性であることを示した(図4)。元素分析(ICP-OES)は、以下の通りであった:26.7%P、8.5%Al。
【0112】
比較例3
予め秤量した1Lの樹脂ケトルに、282.3gのエチルホスホン酸(EPA)及び157mLの脱イオンH2Oを充填した。反応器を氷浴に置き、漸増量の固体Al(O-iPr)3を、合計174.7gのAl(O-iPr)3となるように、撹拌しながらEPA溶液に加えた。添加後、氷浴を用いて約15分間、ポット温度を20℃以下に維持し、15分の時点で氷浴を除去し、ポットを室温まで温めた。アルミニウムイソプロポキシドが見えなくなるまで(少なくとも5時間)、混合物を撹拌した。乳白色の混合物が形成され、蒸留ヘッド及びポンプを使用して濃縮した。濃縮混合物を1Lビーカーに注ぎ、100°Cに設定可能なオーブン内に入れ、8時間かけて160°Cに加熱し、8時間保持した。温度を2時間かけて230℃に上昇させ、6時間保持した。得られた生成物は固体塊として形成され、これを室温に冷却した。固形塊を乳鉢と乳棒を用いて粗く粉砕し、1時間かけて再び230℃まで熱処理して、4時間保持した。生成物を再粉砕し、276.4g(96.2%)の収量で乾燥容器に移した。N2で実施されたTGAは、生成物が>350°Cまで熱安定性であることを示した(図5)。
【0113】
(実施例4)
本開示に従って製造された材料の難燃活性は優れており、材料をポリマー組成物に配合するのに問題は観察されなかった。0.8mmでのUL-94等級V-0を、
A)30質量%のガラス繊維、13.7質量%のFR 1/2、及び10%のメレムを含むポリアミド66組成物;
及び
B)25質量%のガラス繊維、及び16.7質量%のFR 1/2を含むポリフタルアミド組成物
について測定し、ここで、FR 1/2は、ある一連の試験において実施例1に従って調製された難燃性材料、及び別々の一連の試験において実施例2に従って調製された難燃性材料を表す。
【0114】
特に、以下の表1に示すように、ポリマー組成物を調製し、UL94試験下で難燃活性を評価した。表1にて示したように、ある特定の組成物はまた、相乗剤としてメレム(メラミン縮合生成物)を含んでいた。56.3部のナイロン66、30部のガラス、13.7部の難燃剤FR 1/2、及び10部のメレムを含有する配合物1及び2を、265℃で配合し、280°Cでそれぞれ1/16"及び1/32"のバーに成形することによって作製した。58.3部のポリフタルアミド、25部のガラス、及び16.7部の難燃剤FR 1/2を含有する配合物3を、320~330℃で配合し、320~330°Cで1/32"のバーに成形することによって作製した。配合物をUL94に従って評価し、結果を表1に示す。
【0115】
結果は、実施例1及び実施例2に従って製造された難燃剤が、異なる試料厚さで、それぞれ最高のUL-94垂直燃焼試験等級、V-0を達成したことを示した(一方、難燃剤を含有しないポリマー組成物(配合物4)は、UL94試験に不合格であった)。
配合物3からの結果はまた、実施例1及び実施例2に従って製造された難燃剤が、それぞれガラス充填半芳香族ナイロンにおいて、1/32"で最高のUL-94垂直燃焼試験等級、V-0を達成したことを示した。
【0116】
【表1】
【0117】
本発明の特定の実施形態を図示し説明したが、本開示の明細書及び実施を考慮すれば、特許請求された本発明の範囲から逸脱することなく種々の修正及び変更を行うことができることは当業者には明らかであろう。したがって、本明細書及び実施例は、単に例示として考慮されることを意図しており、本発明の真の範囲は、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物によって示されている。
図1
図2
図3
図4
図5