(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】気体旋回剪断装置、及び、微細気泡発生装置
(51)【国際特許分類】
B01F 25/10 20220101AFI20250107BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20250107BHJP
B01F 23/20 20220101ALI20250107BHJP
B01F 23/232 20220101ALI20250107BHJP
B01F 25/60 20220101ALI20250107BHJP
B01F 25/40 20220101ALI20250107BHJP
【FI】
B01F25/10
B01F25/50
B01F23/20
B01F23/232
B01F25/60
B01F25/40
(21)【出願番号】P 2022037050
(22)【出願日】2022-03-10
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】593093858
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング関西株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100166958
【氏名又は名称】堀 喜代造
(72)【発明者】
【氏名】松浦 司
(72)【発明者】
【氏名】秦 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西内 悠祐
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-272719(JP,A)
【文献】特開2022-022321(JP,A)
【文献】特開2011-088079(JP,A)
【文献】特開2011-088045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00 - 25/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内周面を有する筒状部材と、
前記筒状部材の軸線方向における一端側を閉塞する第1端壁部材と、
前記筒状部材の軸線方向における他端側を閉塞する第2端壁部材と、
前記筒状部材、前記第1端壁部材、及び、前記第2端壁部材によって区画される流体旋回室と、を備え、
気液混合流体を前記流体旋回室内に導入する流体導入孔が、前記筒状部材の軸線方向における第2端壁部材寄りの位置に、前記筒状部材を貫通して形成され、
前記第2端壁部材を貫通する流体吐出孔が前記筒状部材の内周面の中心軸線に沿って形成され、
前記流体導入孔には流体導入管が連通され、
前記流体導入管は、前記筒状部材の軸方向視で前記筒状部材の内周面の接線方向に沿って形成されるとともに、前記筒状部材の側方視で前記筒状部材から半径方向外側に離れるに従って前記第2端壁部材の側に向かって傾斜して形成される、気体旋回剪断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の気体旋回剪断装置と、
前記気体旋回剪断装置における前記流体導入孔と接続され、気液混合流体を作る渦流ポンプと、
前記気体旋回剪断装置における前記流体吐出孔と接続され、前記気体旋回剪断装置によって気体が微細化された流体を分散排出する分散器と、
前記分散器を液体内に浸漬させる液体貯留槽と、を備える、微細気泡発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノレベルの微細気泡を発生させるための気体旋回剪断装置、及び、それを用いた微細気泡発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円筒状の容器内で強い旋回液流を起こして気泡を微小化する、旋回液流式の気泡発生装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1には、気泡発生装置における円筒容器の内面に螺旋状溝を形成し、さらに流体導入孔の傾斜角度と螺旋状溝の傾斜角度を揃えることにより、微細気泡を効率的に製造する構成が記載されている。しかし、上記の構成では円筒容器内における内周側と外周側との流速差を充分に確保することができないため、微細気泡の発生効率を充分に高めることができなかった。
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、円筒容器内における内周側と外周側との流速差を確保することにより、微細気泡の発生効率を向上させることが可能となる、気体旋回剪断装置、及び、微細気泡発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下では、上記課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
本発明に係る気体旋回剪断装置は、円筒状の内周面を有する筒状部材と、前記筒状部材の軸線方向における一端側を閉塞する第1端壁部材と、前記筒状部材の軸線方向における他端側を閉塞する第2端壁部材と、前記筒状部材、前記第1端壁部材、及び、前記第2端壁部材によって区画される流体旋回室と、を備え、気液混合流体を前記流体旋回室内に導入する流体導入孔が、前記筒状部材の軸線方向における第2端壁部材寄りの位置に、前記筒状部材を貫通して形成され、前記第2端壁部材を貫通する流体吐出孔が前記筒状部材の内周面の中心軸線に沿って形成され、前記流体導入孔には流体導入管が連通され、前記流体導入管は、前記筒状部材の軸方向視で前記筒状部材の内周面の接線方向に沿って形成されるとともに、前記筒状部材の側方視で前記筒状部材から半径方向外側に離れるに従って前記第2端壁部材の側に向かって傾斜して形成される。
【0008】
また、本発明に係る微細気泡発生装置は、上記の気体旋回剪断装置と、前記気体旋回剪断装置における前記流体導入孔と接続され、気液混合流体を作る渦流ポンプと、前記気体旋回剪断装置における前記流体吐出孔と接続され、前記気体旋回剪断装置によって気体が微細化された流体を分散排出する分散器と、前記分散器を液体内に浸漬させる液体貯留槽と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る気体旋回剪断装置、及び、微細気泡発生装置によれば、円筒容器内における内周側と外周側との流速差を確保することにより、微細気泡の発生効率を向上させることが可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図6】流体の流れを示す気体旋回剪断装置の正面断面図。
【
図7】流体の流れを示す気体旋回剪断装置の側面断面図。
【
図8】(a)及び(b)流体の流速分布を示す気体旋回剪断装置及び比較例の側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、
図1を用いて、本発明の一実施形態に係る微細気泡発生装置(以下、単に「発生装置」と記載する)10について説明する。発生装置10は、気液混合流体を作るための渦流ポンプ12と、渦流ポンプ12で作られた気液混合流体を受け入れて気液混合流体中に含まれる気体をナノレベルで微細化するための気体旋回剪断装置(以下、単に「剪断装置」と記載する)14と、剪断装置14によって気体が微細化された流体を分散して放出するための分散器16と、を有している。分散器16は、液体貯留槽36内の液体内に浸漬されており、微細化された気泡を液体貯留槽36内の液体Lに分散して放出する。また、液体貯留槽36の液体はパイプ38を介して渦流ポンプ12に供給される。
【0012】
渦流ポンプ12は、ハウジング20と、ハウジング20内に収納されて回転駆動されるインペラー22とを有する。ハウジング20には、液体吸引孔24と、気体吸引孔26と、吐出孔28と、が設けられている。液体吸引孔24は、パイプ38に接続されて、液体貯留槽36内から吸引された液体をハウジング20の内側に案内する。気体吸引孔26は、液体吸引孔24に連通されて、液体吸引孔24内を流れる液体内に気体を案内する。
【0013】
ハウジング20内に吸引された液体及び気体は、インペラー22の回転により混合されて気液混合流体となって吐出孔28から吐出される。吐出孔28は、液体吸引孔24よりも直径が小さく形成されることにより、剪断装置14への流体吐出速度が大きくなるように構成される。
【0014】
気体吸引孔26には、パイプ30が接続されており、パイプ30にはソレノイドバルブ32が取り付けられている。渦流ポンプ12を駆動するときには、ソレノイドバルブ32は閉じた状態にされ、ポンプ始動後、一定時間(例えば60秒)が経ってから開放される。これは、ポンプ内に吸引される気体によるポンプ内でのキャビテーション発生をできるだけ少なくするためである。
【0015】
剪断装置14は、
図2から
図5に示すように、円筒状の内周面を有する筒状部材40と、筒状部材40の軸線方向における一端側を閉塞する第1端壁部材42と、筒状部材40の軸線方向における他端側を閉塞する第2端壁部材44と、を備える。また、剪断装置14は、筒状部材40、第1端壁部材42、及び、第2端壁部材44によって区画される流体旋回室46を備える。
【0016】
筒状部材40の側面には、気液混合流体を流体旋回室46の内部に、流体旋回室46の内側面の接線方向に導入する流体導入孔48が形成される。流体導入孔48は、筒状部材40の軸線方向における第2端壁部材44寄りの位置に、筒状部材40を貫通して形成される。また、第2端壁部材44には、第2端壁部材44を貫通する流体吐出孔50が筒状部材40の内周面の中心軸線に沿って形成される。
【0017】
筒状部材40の外周面には、流体導入孔48に連通された流体導入管49が取り付けられ、流体導入管49は渦流ポンプ12の吐出孔28から延びるパイプに接続される。
図3及び
図5に示す如く、流体導入管49は、筒状部材40の軸方向視で筒状部材40の内周面の接線方向に沿って形成される。
【0018】
また、
図4に示す如く、流体導入管49は、筒状部材40の側方視で筒状部材40から半径方向外側に離れるに従って第2端壁部材44の側に向かって傾斜して(本実施形態においては流体導入管49と筒状部材40の側面との角度が75度となるように)形成される。さらに、第2端壁部材44には流体吐出孔50に連通された流体吐出管51が取り付けられており、流体吐出管51は分散器16との間に延びるパイプに接続される。
【0019】
分散器16は、円筒状の内周面を有する筒状部材60と、筒状部材60の両端を閉じる端壁部材62とを有し、筒状部材60の軸線方向の中心部分に剪断装置14の流体吐出孔50に連通された流体入口64と、筒状部材の軸線に沿って端壁部材を貫通して設けられた流体出口66とを有する。
【0020】
剪断装置14の流体吐出孔50から吐出された流体は、分散器16の流体入口64から分散器16内に流入し、旋回しながら軸線方向両側に分かれて、流体出口66から液体貯槽内の液体内に分散放出される。
【0021】
発生装置10を作動させるには、渦流ポンプ12を駆動し、液体貯留槽内の液体を吸引し、渦流ポンプ12、剪断装置14、分散器16そして液体貯留槽36を循環する液体の流れを生じさせる。
【0022】
渦流ポンプ12が駆動されてから一定時間後、例えば60秒後にソレノイドバルブ32が開かれ、空気がパイプ30を通って吸引され、ポンプのハウジング内には気液が混合した流体が導入される。ポンプのハウジング内に導入された気液混合流体は、インペラーの作用によってハウジング内の内周面に沿って駆動されて吐出孔28を介して吐出されるが、その間に、流体内の気体は流体内に生じる乱流による剪断力を受けて微細化が行なわれる。
【0023】
吐出孔28からの気液混合流体は、剪断装置14の流体旋回室46内に導入され、流体旋回室46内で旋回流とされ、強力な剪断力を受けて、内部の気体が更に微細化される。この剪断装置14内での強力な剪断力は多くの気体がナノレベルまで微細化されることを可能とする。
【0024】
剪断装置14から吐出された気液混合流体は、分散器16によって再度旋回流とされながら液体貯留槽36内に放出される。このため、この分散器においても気泡の微細化は行なわれる。
【0025】
本実施形態においては、液体は液体貯留槽から渦流ポンプ12、剪断装置14、分散器16を通って循環するが、渦流ポンプ12への液体の供給は液体貯留槽36とは別のところから供給しても良い。ただ、図示の例のように循環式にすることにより、気体の微細化が繰り返し行なわれることになるので、より微細な気泡を得ることが可能となる。
【0026】
上記の如く、本実施形態に係る剪断装置14において、流体導入管49は筒状部材40の軸方向視で筒状部材40の内周面の接線方向に沿って形成される。これにより、
図6中の矢印に示す如く、流体旋回室46の内部に導入された気液混合流体は流体旋回室46内を旋回しながら流動する。
【0027】
また、流体導入管49は、筒状部材40の側方視で筒状部材40から半径方向外側に離れるに従って第2端壁部材44の側に向かって傾斜して形成される。これにより、
図7中の矢印に示す如く、流体旋回室46の内部に導入された気液混合流体は流体旋回室46内の外周部分を旋回しながら第1端壁部材42に向かって流動する。そして、第1端壁部材42に当たった気液混合流体は流体旋回室46内の軸心部分を第2端壁部材44に向かって流動し、流体吐出孔50及び流体吐出管51から吐出される。
【0028】
このように、本実施形態に係る剪断装置14においては、流体導入管49を第2端壁部材44寄りの位置に、第2端壁部材44の側に向かって傾斜させて構成している。これにより、流体旋回室46の内部で外周部分を旋回しながら第1端壁部材42に向かう気液混合流体の流れ(第一の流れ)と、第1端壁部材42に当たって第2端壁部材44に向かう気液混合流体の流れ(第二の流れ)との流速差(反対方向に向かう流速の和)を大きくすることができる。
【0029】
剪断装置14における流速差について、本願出願人が行ったシミュレーションの結果を、
図8を用いて説明する。今回のシミュレーションにおいては、吐出流量は25~32L/min、吐出圧力は0.60~0.65MPaとして、実機テストで測定した値に近いものを使用した。
【0030】
図8(a)は本実施形態に係る剪断装置14について行ったシミュレーション結果である。
図8(b)は比較例として、流体導入管を傾斜させない従来の形状の剪断装置で行ったシミュレーション結果である。
図8(a)に示す如く、本実施形態に係る剪断装置14によれば、流体旋回室46の内部において、外周部分の流速が軸心部分の流速と比較して顕著に大きな結果となった。また、
図8(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係る剪断装置14は、従来の形状の剪断装置と比較して流体旋回室46内の流速差を大きくすることができた。
【0031】
このように、本実施形態に係る剪断装置14においては、流体導入管49を第2端壁部材44寄りの位置に形成することにより、
図7に示す如く、第一の流れと第二の流れとの流速差を大きくするとともに、二つの流れが交わる距離を大きく形成することができる。これにより、流体旋回室46内で気液混合流体が受ける剪断力をより強くするとともに、剪断力を受ける時間を長くすることができる。
【0032】
本実施形態に係る剪断装置14においては、上記の如く流体旋回室46内の流速差を大きくすることにより、気液混合流体が受ける剪断力を強くしている。また、本実施形態に係る剪断装置14においては、気液混合流体が剪断力を受ける時間を長くしている。これにより、流体旋回室46内における微細気泡の発生効率を向上させることができる。
【0033】
また、本願出願人は、本実施形態に係る剪断装置14と、従来形状の剪断装置と、のそれぞれでウルトラファインバブル水(微細気泡を多く含んだ水)を生成し、その洗浄性能を比較した。具体的に、NaClを固着させた2枚のステンレス板を1mmの隙間で平行に固定したものを撹拌機に取付け、生成水の中で一定の回転数で洗浄を行った。洗浄率が100%になるまでの時間を比較した場合、本実施形態は従来形状と比較して洗浄時間を約44%短縮させることができた。また、洗浄速度に差が出やすい洗浄開始から10秒以降の洗浄速度は、本実施形態は2.02%/secに対し、従来技術は0.83%/secであった。即ち、本実施形態は従来形状と比較して洗浄速度を高めることができた。
【0034】
また、本願出願人は、本実施形態に係る剪断装置14と、従来形状の剪断装置と、のそれぞれでウルトラファインバブル水を生成し、その内部に含まれる微細気泡の個数を比較した。最頻径である75nm付近の微細気泡の個数については、本実施形態は従来形状と比較して約1.8倍の微細気泡を生成することができた。また、微細気泡の総数については、本実施形態は従来形状と比較して約1.6倍の微細気泡を生成することができた。
【0035】
上記の如く、本実施形態に係る剪断装置14、及び、発生装置10は、従来形状と比較して、微細気泡の発生効率を高めることができる。このため、発生装置10を用いて生成したウルトラファインバブル水は、従来形状と比較して洗浄力を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
10 発生装置(微細気泡発生装置)
12 渦流ポンプ
14 剪断装置(気体旋回剪断装置)
16 分散器 20 ハウジング
22 インペラー 24 液体吸引孔
26 気体吸引孔 28 吐出孔
30 パイプ 32 ソレノイドバルブ
36 液体貯留槽 38 パイプ
40 筒状部材 42 第1端壁部材
44 第2端壁部材 46 流体旋回室
48 流体導入孔 49 流体導入管
50 流体吐出孔 51 流体吐出管
60 筒体 64 流体入口
66 流体出口 L 液体