(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】管状医療用具搬送装置、及び、管状医療用具搬送装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/966 20130101AFI20250107BHJP
【FI】
A61F2/966
(21)【出願番号】P 2022541126
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020595
(87)【国際公開番号】W WO2022030085
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2020131676
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一博
(72)【発明者】
【氏名】市村 想生
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-501779(JP,A)
【文献】特開平11-313893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0215131(US,A1)
【文献】国際公開第2019/009433(WO,A1)
【文献】特開2018-015064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/966
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具と、
熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体と、を有する管状医療用具搬送装置の製造方法であって、
前記管状医療用具の少なくとも一部が前記管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1と、
前記管状医療用具が、前記形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されるステップS2と、を有
し、
前記ステップS1と前記ステップS2は、この順で実施されることを特徴とする管状医療用具搬送装置の製造方法。
【請求項2】
前記ステップS2において、前記管状チューブ体は、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却される請求項1に記載の管状医療用具搬送装置の製造方法。
【請求項3】
前記管状医療用具の少なくとも一部が前記管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1よりも後であって、
前記管状医療用具が、前記形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されるステップS2よりも前に、
前記管状医療用具及び前記管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3を有する請求項1または2に記載の管状医療用具搬送装置の製造方法。
【請求項4】
前記管状医療用具の少なくとも一部が、前記管状チューブ体の内壁に当接した状態で収納されている請求項1~3のいずれか一項に記載の管状医療用具搬送装置の製造方法。
【請求項5】
前記形状記憶合金はニッケル-チタン合金である請求項1~4のいずれか一項に記載の管状医療用具搬送装置の製造方法。
【請求項6】
前記管状医療用具は自己拡張型ステントである請求項1~5のいずれか一項に記載の管状医療用具搬送装置の製造方法。
【請求項7】
形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具が、熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体の管腔内に収納されている管状医療用具搬送装置であって、
50℃温水下で測定された前記管状医療用具と前記管状チューブ体との間の摺動荷重(以下、「50℃温水下の摺動荷重」と記載する)、及び、25℃温水下で測定された前記管状医療用具と前記管状チューブ体との間の摺動荷重(以下、「25℃温水下の摺動荷重」と記載する)が、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とする管状医療用具搬送装置。
(1)摺動荷重の増加率[%]=(50℃温水下の摺動荷重[N]-25℃温水下の摺動荷重[N])/25℃温水下の摺動荷重[N]×100≦30[%]
【請求項8】
前記摺動荷重の増加率は0[%]より大きい請求項7に記載の管状医療用具搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状医療用具を体内に搬送する管状医療用具搬送装置、及び、その管状医療用具搬送装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年行われている管状医療用具搬送装置を用いた治療は、胆管や膵管等の消化管、腸骨動脈等の血管等の生体内管腔が狭窄または閉塞することにより生じる様々な疾患に対する治療法のひとつとして用いられている。例えば、手首、肘、太ももなどに小さな穴を開け、管状医療用具搬送装置を動脈に挿入し、動脈の中をたどって病変部に到達させる。病変部において管状チューブ体内に収められている管状医療用具を拡張させることで、病変部の治療が行われる。当該方法は、低侵襲で患者の負担も少ないため、医療現場では積極的に活用されている治療法の1つである。
【0003】
ただし、従来の管状医療用具搬送装置は、滅菌処理後や、保存期間中に比較的剛性の強い管状医療用具が比較的柔軟な管状チューブ体にめり込むという現象が生じやすいものであった。管状医療用具が管状チューブ体にめり込んでいる状態で管状医療用具の展開を実施した場合、管状医療用具を展開させる際に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摩擦力が大きくなる。このため、管状医療用具搬送装置自体の破損や、管状医療用具の展開不良などを引き起こす可能性があるという問題があった。
【0004】
上述した、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを防ぐことができる装置として、外側シースの外層と内層の間に補強層を設けた自己拡張型ステント用送給装置が知られている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の自己拡張型ステント用送給装置は、外側シースの外層と内層の間に補強層が設けられることで自己拡張型ステントが外側シースにめり込むことを抑制することができるものである。このため、補強層を設ける分外側シースの直径が大きくなり、自己拡張型ステント用送給装置の細径化が困難であった。低侵襲な治療のためには搬送装置の細径化が重要であるため、このような補強層を用いることなく、自己拡張型ステントが外側シースにめり込むことを抑制し、展開時の摺動荷重を減少させることが可能な搬送装置の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを抑制することができ、管状医療用具展開時の摺動荷重を低く抑えることができる、新たな管状医療用具搬送装置、及び、管状医療用具搬送装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決できた本発明の管状医療用具搬送装置の製造方法とは、形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具と、熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体と、を有する管状医療用具搬送装置の製造方法であって、管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1と、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されるステップS2と、を有することを特徴とするものである。管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されることで、形状記憶合金の少なくとも一部はマルテンサイト相変態することができると考えられる。これにより、管状医療用具は低応力でも容易に変形することができる状態となるため、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
【0009】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法の上記ステップS2において、管状チューブ体は、上記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却されることが好ましい。
【0010】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法において、管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1よりも後であって、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されるステップS2よりも前に、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3を有することが好ましい。
【0011】
上記管状医療用具の少なくとも一部が、上記管状チューブ体の内壁に当接した状態で収納されていることが好ましい。
【0012】
上記形状記憶合金はニッケル-チタン合金であることが好ましい。
【0013】
上記管状医療用具は自己拡張型ステントであることが好ましい。
【0014】
上記課題を解決できた本発明の管状医療用具搬送装置とは、形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具が、熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体の管腔内に収納されている管状医療用具搬送装置であって、50℃温水下で測定された管状医療用具と管状チューブ体との間の摺動荷重(以下、「50℃温水下の摺動荷重」と記載する)、及び、25℃温水下で測定された管状医療用具と管状チューブ体との間の摺動荷重(以下、「25℃温水下の摺動荷重」と記載する)が、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とするものである。これにより、管状医療用具搬送装置を室温よりも温度が高い体内で用いる際にも、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
(1)摺動荷重の増加率[%]=(50℃温水下の摺動荷重[N]-25℃温水下の摺動荷重[N])/25℃温水下の摺動荷重[N]×100≦30[%]
【0015】
上記管状医療用具搬送装置における上記摺動荷重の増加率は0[%]より大きいものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の管状医療用具搬送装置、及び、本発明の管状医療用具搬送装置の製造方法で作られた管状医療用具搬送装置は、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを抑制することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置の一例を示す一部断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置の一例を示す一部断面図である。
【
図3】管状医療用具搬送装置における摺動荷重の測定方法を示す一部断面図である。
【
図4】比較例4~7、比較例8~11、比較例12~15、実施例4~7、実施例8~11、実施例12~15の37℃温水下の摺動荷重[N]を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に関して、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定されることはなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。各図において、便宜上、ハッチングや符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図を参照するものとする。また、図面における種々部品の寸法は、本発明の特徴を理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0019】
まず、本発明の管状医療用具搬送装置の製造方法について説明する。本発明の管状医療用具搬送装置の製造方法とは、形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具と、熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体と、を有する管状医療用具搬送装置の製造方法であって、管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1と、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されるステップS2と、を有することを特徴とするものである。
【0020】
管状医療用具は、形状記憶合金を含む素材で構成される。形状記憶合金とは変形を加えた後、それをある温度以上に加熱すると、変形を加える前の元の形状に戻ろうとする力(以下、「ラディアルフォース」と記載することがある)が働くようになる合金のことを言う。管状医療用具の一部が形状記憶合金で構成されているもの、管状医療用具全体が形状記憶合金で構成されているものなどにすることができる。
【0021】
管状医療用具は、管状体であり、その形状は円筒形状であると好ましい。
【0022】
管状医療用具の大きさは、病変部における血管の内径及びその長さに合わせて適宜設定されればよい。
【0023】
上記管状医療用具の種類は特に限定されないが、例えば、ステント、ステントグラフト、プロテーゼ弁、バルーンなどが挙げられる。管状医療用具としては、ステントを好ましく用いることができる。
【0024】
上記ステントの形状は特に限定されず、例えば、1本の線状の形状記憶合金を含む素材からなるコイル状のステント、形状記憶合金を含む素材からなるチューブをレーザーによって切り抜いて加工したステント、形状記憶合金を含む素材からなる線状の部材をレーザーによって溶接して組み立てたステント、形状記憶合金を含む素材からなる複数の線状の部材を織って形成したステントなどが挙げられる。
【0025】
上記形状記憶合金として、銅-アルミニウム-ニッケル合金、銅-亜鉛-アルミニウム合金などを利用することができるが、上記形状記憶合金はニッケル-チタン合金を含んでいることが好ましく、上記形状記憶合金はニッケル-チタン合金であることがより好ましい。形状記憶合金のなかでも、ニッケル-チタン合金を使用することで、強度や耐疲労性、耐食性を高めることができる。なお、管状医療用具を形成する際には、上記の形状記憶合金の中から1種類を選択して用いてもよいし、複数の種類の形状記憶合金を選択して用いてもよい。例えば、複数の種類の形状記憶合金を混合した材料によって管状医療用具が形成されることができる。他にも、一の形状記憶合金によって管状医療用具の一部が形成され、他の一の形状記憶合金によって管状医療用具の残りの部分が形成される構成とすることもできる。
【0026】
上記管状チューブ体は、熱可塑性樹脂を含む素材で構成される。熱可塑性樹脂は、ある温度以上に加熱することによって軟化して可塑性を示し、ある温度以下に冷却することによって固化する(ガラス転移温度)性質をもつ樹脂のことをいう。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂などが挙げられる。管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低下させるため、上記管状チューブ体は、オレフィン樹脂もしくはフッ素樹脂を含んでいることが好ましく、なかでも、摩擦係数が低いことが知られているポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含んでいることが好ましい。なお、管状チューブ体を形成する際には、上記の熱可塑性樹脂の中から1種類を選択して用いてもよいし、複数の種類の熱可塑性樹脂を選択して用いてもよい。例えば、複数の種類の熱可塑性樹脂を混合した素材によって管状チューブ体が形成されることができ、複数の種類の熱可塑性樹脂を混合したアロイによって管状チューブ体が形成されることもできる。他にも、一の熱可塑性樹脂によって管状チューブ体の一部が形成され、他の一の熱可塑性樹脂によって管状チューブ体の残りの部分が形成される構成とすることもできる。なお、熱可塑性樹脂以外の合成樹脂と熱可塑性樹脂を混合した素材によって管状チューブ体が形成されてもよい。
【0027】
上記管状チューブ体は、管状体であり、その形状は円筒形状であると好ましい。なお、管状チューブ体は一層であってもよいし、複数の層を有していてもよい。複数の層を有する場合は、各層が異なる素材で構成され、各層の硬度が異なるものであってもよい。例えば、管状医療用具搬送装置の操作性を上げる観点から、管状チューブ体の内側の層の硬度よりも外側の層の硬度を低くしてもよい。また、管状医療用具搬送装置の耐久性を上げる観点から、管状チューブ体の内側の層の硬度よりも外側の層の硬度を高くしてもよい。上記管状チューブ体が複数の層を有する場合は、例えば、外側の層を構成する素材としてナイロン12と半芳香族ポリアミドのアロイを使用し、内側の層を構成する素材としてPTFEを用いることが好ましい。このような構成とすることで、管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低下させることができ、管状医療用具搬送装置の耐久性を高めることができる。
【0028】
上記管状チューブ体の大きさは、上記管状医療用具の大きさや、病変部の大きさ、通過する血管の大きさ等を考慮して適宜設定されればよい。
【0029】
上記管状チューブ体は、公知の方法で成形されればよく、例えば、押出成形などの方法を用いることができる。
【0030】
図1及び
図2は、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置の一例を示す一部断面図である。
図1は管状チューブ体内に管状医療用具が収納されている状態を表している。
図2は、管状チューブ体の管腔から管状医療用具が押し出されている様子を表している。
【0031】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置100は、管状医療用具110と管状チューブ体120とを有する。上記管状チューブ体120は、操作者の手元側である近位部と、操作者の手元とは反対側、即ち、患者側である遠位部を有する。操作者の手元側半分が近位部、操作者の手元とは反対側半分が遠位部である。
【0032】
上記管状チューブ体120の近位端には、使用者が操作するための操作部130を有することが好ましく、操作部130の形状は、使用者が操作する際に把持しやすい形状にすることが好ましい。
【0033】
上記管状医療用具搬送装置100は、管状チューブ体120の管腔内に延在する内部シャフト140を有し、上記内部シャフト140には管状医療用具110を押し出すプッシャー部材141を有することが好ましい。例えば、プッシャー部材141は管状医療用具110よりも近位側に配置される構成とすることができる。プッシャー部材141の形状は中空円柱状であり、その外径は管状チューブ体120の内径よりも小さく、管状チューブ体120に収納された状態の管状医療用具110の内径以上にすることができる。内部シャフト140の一端は管状チューブ体120の遠位側端部から露出している構成とすることで、内部シャフト140の内腔に配置したガイドワイヤを管状医療用具搬送装置100より先行して進めることが可能となる。また、例えば、内部シャフト140の他端は、上記操作部130に取り付けられ、そこにガイドワイヤ挿入用のポートを備えた構成とすることができる。
【0034】
図2に示すように、上記管状医療用具搬送装置100は、操作部130とプッシャー部材141を有し、上記操作部130が使用者によって操作されることで管状医療用具110を管状チューブ体120内から押し出す構成とすることができる。この場合、例えば、使用者が操作部130に取り付けられたサムホイール131を操作することによって管状チューブ体120を近位側へと移動させる。この時に管状医療用具110がプッシャー部材141に突き当たることで管状チューブ体120のみが近位側へと移動する。これにより、管状医療用具110が管状チューブ体120の遠位端から展開され、病変部へと静置する構成とすることができる。
【0035】
上記操作部130には、管状チューブ体120内における内部シャフト140やプッシャー部材141の位置を調整するためのサムホイール131やボタン、レバーなどを設けてもよい。
【0036】
上記では、管状医療用具搬送装置100が操作部130とプッシャー部材141を有する構成とすることで管状医療用具110を病変部に静置する構成を記載したが、管状チューブ体120から管状医療用具110を出して病変部に静置するための構成は上記構成に限られず、公知の方法を用いることができる。
【0037】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法は、管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1を有する。ステップS1において、上記管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されていればよく、管状医療用具の全体が管状チューブ体の管腔内に収納されていてもよい。
【0038】
上記管状医療用具は、上記管状チューブ体の遠位部に収納されていることが好ましい。管状医療用具搬送装置は患者の血管内を通って病変部まで到達する。その後、使用者が手元で操作部を操作することによって管状チューブ体の管腔内に存在する管状医療用具が管状チューブ体から出され、管状医療用具が病変部に配置される。上記構成とすることにより、管状医療用具の移動距離を短くすることができ、管状チューブ体と管状医療用具との間で生じる摺動荷重の発生時間を短くすることができるため、管状医療用具搬送装置の使用者は管状医療用具を病変部に配置しやすくなるうえ、摩擦による管状医療用具の破損や管状医療用具の展開不良を防ぐことができる。
【0039】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法は、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されるステップS2を有する。マルテンサイト相とは、金属において低温で現れる結晶構造を指し、当該結晶構造では外界から加えられる力に弱く比較的変形しやすいが、外界から加えられていた力が除かれると、元の形状に戻ることができる結晶構造のことをいう。これに対して、高温で現れる結晶構造をオーステナイト相と呼ぶ。オーステナイト相は、比較的強度が高く、超弾性効果が発現する。マルテンサイト相変態開始温度とは、一般的には、低温で呈されるマルテンサイト相が現れ始める温度のことを言うが、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃の温度であってもマルテンサイト相は部分的に現れ始めると考えられる。
【0040】
管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されるステップS2は、マルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に設定された庫内又は液体窒素内に管状医療用具を入れることで実施することができる。ステップS2では、管状医療用具が形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度になるまで冷却すればよい。マルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に設定された庫内又は液体窒素内に管状医療用具を1分以上入れることが好ましく、3分以上入れることがより好ましく、5分以上入れることがさらに好ましい。マルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に設定された庫内又は液体窒素内に管状医療用具を入れておく時間の上限については、例えば、24時間以下、12時間以下、8時間以下、4時間以下、3時間以下などにすることができる。
【0041】
管状医療用具が冷却されるステップS2では、管状医療用具が、管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却される。ステップS2における冷却温度については、管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+5℃以下とすることがより好ましく、管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+3℃以下とすることがさらに好ましい。ステップS2における冷却温度を管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度以下としても構わない。
【0042】
ステップS2においては、管状医療用具が、管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されればよいが、当該ステップS2において、管状チューブ体についても管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されていることが好ましい。この場合、管状医療用具と管状チューブ体が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に冷却されるステップS2は、マルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に設定された庫内又は液体窒素内に管状チューブ体と管状医療用具を入れることで実施することができる。ステップS2では、管状医療用具と管状チューブ体が形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度になるまで冷却すればよい。マルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に設定された庫内又は液体窒素内に管状医療用具と管状チューブ体を1分以上入れることが好ましく、3分以上入れることがより好ましく、5分以上入れることがさらに好ましい。マルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度に設定された庫内又は液体窒素内に管状医療用具と管状チューブ体を入れておく時間の上限については、例えば、24時間以下、12時間以下、8時間以下、4時間以下、3時間以下などにすることができる。このステップS2における冷却温度については、管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+5℃以下とすることがより好ましく、管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+3℃以下とすることがさらに好ましい。ステップS2における冷却温度を管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度以下としても構わない。
【0043】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法は、製造後に比較的剛性の強い管状医療用具が比較的柔軟な管状チューブ体にめり込むという現象を起こりにくくすることで、展開時に生じる摺動荷重を低減するためのものであるため、ステップS1とステップS2は、この順で実施されることが好ましい。
【0044】
上記のように、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されることで、形状記憶合金の少なくとも一部分はマルテンサイト相変態することができると考えられる。これにより、管状医療用具は低応力でも容易に変形することができる状態となるため、ラディアルフォースの発現を抑制することができ、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
【0045】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法の上記ステップS2において、管状チューブ体は、上記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却されることが好ましい。管状医療用具が収納された状態の管状チューブ体が、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で冷却されることで、熱可塑性樹脂は硬化して弾性率が低下する。これにより、管状チューブ体に対して外力が加わったとしても変形しにくい状態となるため、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
【0046】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法において、滅菌するステップを有することが好ましい。滅菌とは、増殖性を持つあらゆる微生物を殺滅又は除去する状態を実現するための作用や操作をいう。滅菌の手法としては公知のものを使用すればよいが、例えば、ガス滅菌、電子線滅菌、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)や乾熱滅菌などの加熱滅菌、放射線滅菌などから選択すればよい。上記滅菌するステップは、管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1よりも後であって、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されるステップS2よりも前に行われることが好ましい。
【0047】
上記管状医療用具搬送装置の製造方法において、管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1よりも後であって、管状医療用具が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されるステップS2よりも前に、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3を有することが好ましい。
【0048】
上記ステップS3では、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌される。より詳細には、管状医療用具及び管状チューブ体はEOG滅菌や電子線滅菌などの方法によって滅菌されることができるが、その滅菌するステップにおいて加熱滅菌される工程が含まれることが好ましい。ステップS1、ステップS3、ステップS2は、この順で行うことが好ましい。管状チューブ体はガラス転移温度以上に加熱されることによって軟化し、管状医療用具はオーステナイト相変態終了温度以上に加熱されることで超弾性効果がより強くなる。このため、加熱滅菌後の管状医療用具のめり込みが顕著となり、管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重は上昇してしまう。しかし、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌後に管状医療用具に含まれている形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下の温度で冷却されることで、管状医療用具に含まれる形状記憶合金の少なくとも一部はマルテンサイト相変態することができると考えられる。これにより、管状医療用具は低応力でも容易に変形することができる状態となるため、ラディアルフォースの発現を抑制することができる。このため、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。管状チューブ体がガラス転移温度以下に冷却される場合は、管状チューブ体の硬度が増すことによって相乗効果が生まれ、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
【0049】
上記ステップS3で加熱滅菌する温度については菌を死滅させることができる温度であればよく、適宜設定すればよいが、加熱滅菌する温度の下限は、例えば、40℃以上、45℃以上、50℃以上などにすることができる。加熱滅菌する温度の上限は、例えば、130℃以下、120℃以下、110℃以下などにすることができる。
【0050】
上記管状医療用具の少なくとも一部が、上記管状チューブ体の内壁に当接した状態で収納されていることが好ましい。管状医療用具の少なくとも一部が管状チューブ体の内壁に当接している構造とすることは、当該部分は管状医療用具と管状チューブ体との間に他の部材が配置されない構造となることを意味しており、当該部分の細径化を行いやすくすることができる。
【0051】
上記管状医療用具として用いられるステントは、拡張機構に基づいて一般に、バルーンの外表面にステントを装着して病変部まで搬送し、病変部でバルーンによってステントを拡張するバルーン拡張型ステントと、ステントの拡張を制御するシース部材を有する管状チューブ体に装填して病変部へと搬送し、病変部で前記シース部材を取り外すことによって自ら拡張する自己拡張型ステントに分類できる。
【0052】
管状医療用具搬送装置の製造方法は、上記管状医療用具は自己拡張型ステントである場合に好適に用いることができる。自己拡張型ステントは、管状医療用具搬送装置からリリースされると同時に拡張するものである。管状医療用具が自己拡張型ステントの場合は、管状医療用具が展開しようとする力が管状チューブ体に対して常に働くため、管状チューブ体の内壁面に管状医療用具がめり込みやすい。しかし、当該製造方法を実施することによって、管状医療用具に含まれる形状記憶合金の少なくとも一部はマルテンサイト相変態を開始することができると考えられる。管状医療用具の少なくとも一部がマルテンサイト相変態することにより、管状チューブ体に働く力が抑制されると考えられる。このため、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
【0053】
上記自己拡張型ステントは、例えば、ニッケル-チタン合金製の円筒状のパイプにレーザーカットを施したものを拡径し、熱処理し、所望の形状を形成し、最終的に電解研磨することで製作することができる。
【0054】
ここまで、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置の製造方法を説明した。次に、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置について説明する。
【0055】
本発明の管状医療用具搬送装置は、形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具が、熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体の管腔内に収納されている管状医療用具搬送装置であって、50℃温水下で測定された管状医療用具と管状チューブ体との間の摺動荷重(以下、「50℃温水下の摺動荷重」と記載する)、及び、25℃温水下で測定された管状医療用具と管状チューブ体との間の摺動荷重(以下、「25℃温水下の摺動荷重」と記載する)が、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とするものである。これにより、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを緩和することができ、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
(1)摺動荷重の増加率[%]=(50℃温水下の摺動荷重[N]-25℃温水下の摺動荷重[N])/25℃温水下の摺動荷重[N]×100≦30[%]
【0056】
以下では、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置を製造し、管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を実際に測定した結果(実施例1~3)、及び、従来の方法で製造した管状医療用具の管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重について測定を行った結果(比較例1~3)を示す。
【0057】
下記表1の実施例1~3の管状医療用具搬送装置は、上記管状医療用具搬送装置の製造方法に記載されている方法で製造されている。より詳細には、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3、管状医療用具及び管状チューブ体が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+3℃の温度で冷却されるステップS2がこの順で実施されているもので、冷却されるステップS2が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。なお、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+3℃の温度は、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度-67℃の温度である。
【0058】
下記表1の比較例1~3の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3がこの順で実施されているものである。当該比較例においては、管状医療用具及び管状チューブ体が冷却されるステップS2は実施されておらず、加熱滅菌されるステップS3が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。
【0059】
なお、実施例1~3と比較例1~3の管状医療用具搬送装置の製造に用いられている管状医療用具は形状記憶合金としてニッケル-チタン合金を含む素材からなるチューブをレーザーによって切り抜いて加工した自己拡張型ステントであって、管状チューブ体の管腔内に収納する前の直径は10mm、管状医療用具の長さは100mmである。管状チューブ体はナイロン12によって構成される外層と、PTFEによって構成される内層を有する。この管状チューブ体の内径は1.61mm、外径は1.81mmである。PTFEによって構成される内層の厚みは15μmである。また、管状医療用具である自己拡張型ステントの形状についても実施例と比較例は同じである。実施例1~3と比較例1~3の管状医療用具に含まれる形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度は-35℃である。実施例1~3と比較例1~3の管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は35℃である。加熱滅菌されるステップS3では、温度60℃、湿度60%で30時間、EOG滅菌を行った。
【0060】
下記の表1では、実施例1~3の管状医療用具搬送装置及び比較例1~3の管状医療用具搬送装置において管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重[N]を25℃温水下で測定した結果(以下、「25℃温水下の摺動荷重」と記載することがある)、及び、実施例1~3の管状医療用具搬送装置及び比較例1~3の管状医療用具搬送装置において管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重[N]を50℃温水下で測定した結果(以下、「50℃温水下の摺動荷重」と記載することがある)を示している。さらに、25℃温水下で測定した摺動荷重と50℃温水下で測定した摺動荷重の変化量[N](50℃温水下の摺動荷重[N]-25℃温水下の摺動荷重[N])、及び、25℃温水下で測定した摺動荷重と50℃温水下で測定した摺動荷重の摺動荷重の増加率[%]((50℃温水下の摺動荷重[N]-25℃温水下の摺動荷重[N])/25℃温水下の摺動荷重[N]×100)を示している。
【0061】
次に、摺動荷重の測定方法について、
図3を用いて説明する。まず、管状チューブ体20の管腔内に管状医療用具10が収納された状態の試料1を準備する。管状チューブ体20の一端を引張荷重を測定する装置40に固定し、管状医療用具10を支持するための支持部材30を管状チューブ体20の管腔内に配置する。支持部材30の一端には中空円柱状のプッシャー部材31が備えられ、支持部材30に備えられたプッシャー部材31によって管状チューブ体20の管腔内に存在する管状医療用具10が押し出される構成となっている。支持部材30の他端は管状チューブ体20の外に露出した状態で引張荷重を測定する装置40に固定される。この状態で引張荷重を測定する装置40によって、支持部材30の位置を固定した状態で管状チューブ体20を50mm/minの速度で引っ張ったときのS-S曲線を得る。本明細書内では、このS-S曲線のピークを摺動荷重[N]と定義する。
【0062】
25℃温水下の摺動荷重は、管状医療用具と管状チューブ体が25℃に調整された温水の中に浸漬された状態で測定して得られた荷重である。
【0063】
50℃温水下の摺動荷重は、管状医療用具と管状チューブ体が50℃に調整された温水の中に浸漬された状態で測定して得られた荷重である。
【0064】
【0065】
表1に示されているように、実施例1~3の管状医療用具搬送装置の50℃温水下の摺動荷重は7.28~8.09[N]であるのに対して、比較例1~3の管状医療用具搬送装置の50℃温水下の摺動荷重は7.97~9.75[N]である。これにより、実施例1~3の管状医療用具搬送装置は、比較例1~3の管状医療用具搬送装置よりも、管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる傾向にあることが示されている。
【0066】
また、実施例1~3の管状医療用具搬送装置の摺動荷重の増加率の最小値は、23.0[%]であるのに対して、比較例1~3の管状医療用具搬送装置の摺動荷重の増加率の最大値は55.1[%]である。これにより、実施例1~3の管状医療用具搬送装置は、比較例1~3の管状医療用具搬送装置と比較して、最大で摺動荷重の増加率を、32.1[%]低く抑えることができることが示されている。
【0067】
さらに、管状医療用具搬送装置の摺動荷重の増加率は、実施例1で28.2[%]、実施例2で27.2[%]、実施例3で23.0[%]であるのに対して、比較例1で46.2[%]、比較例2で55.1[%]、比較例3で34.6[%]である。このように、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置は、形状記憶合金を含む素材で構成されている管状医療用具が、熱可塑性樹脂を含む素材で構成されている管状チューブ体の管腔内に収納されている管状医療用具搬送装置であって、50℃温水下の摺動荷重、及び、25℃温水下の摺動荷重が、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とするものである。これにより、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができる。
(1)摺動荷重の増加率[%]=(50℃温水下の摺動荷重[N]-25℃温水下の摺動荷重[N])/25℃温水下の摺動荷重[N]×100≦30[%]
【0068】
上記摺動荷重の増加率は0[%]より大きいものとすることができ、5[%]以上、10[%]以上などであってもよい。なお、摺動荷重の増加率[%]は小さければ小さいほど好ましい。
【0069】
以下では、加熱滅菌されるステップS3と冷却するステップS2をどちらも行っていない管状医療用具搬送装置の管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を人体の体温により近い条件の37℃温水下で測定を行った結果(比較例4~7)、及び、従来の方法で製造した管状医療用具搬送装置の管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を人体の体温により近い条件の37℃温水下で測定を行った結果(比較例8~15)、及び、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置を製造し、管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を人体の体温により近い条件の37℃温水下で測定した結果(実施例4~15)を示す。
【0070】
下記表2の比較例4~7の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1のみが実施されているものである。比較例4~7においては、管状医療用具及び管状チューブ体が冷却されるステップS2は実施されておらず、加熱滅菌されるステップS3も行われていない。ステップS1の終了後は常温(25℃)で保管されていたものである。
【0071】
下記表2の比較例8~11の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3がこの順で実施されているものである。当該比較例においては、管状医療用具及び管状チューブ体が冷却されるステップS2は実施されておらず、加熱滅菌されるステップS3が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。
【0072】
下記表2の比較例12~15の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3、管状医療用具及び管状チューブ体が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+39℃の温度で冷却されるステップS2がこの順で実施されているもので、冷却されるステップS2が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。なお、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+39℃の温度は、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度-31℃の温度である。
【0073】
下記表2の実施例4~7の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3、管状医療用具及び管状チューブ体が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+3℃の温度で冷却されるステップS2がこの順で実施されているもので、冷却されるステップS2が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。なお、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+3℃の温度は、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度-67℃の温度である。
【0074】
下記表2の実施例8~11の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3、管状医療用具及び管状チューブ体が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度-45℃の温度で冷却されるステップS2がこの順で実施されているもので、冷却されるステップS2が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。なお、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度-45℃の温度は、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度-115℃の温度である。
【0075】
下記表2の実施例12~15の管状医療用具搬送装置は、管状医療用具全体が管状チューブ体の管腔内に収納されるステップS1、管状医療用具及び管状チューブ体が加熱滅菌されるステップS3、管状医療用具及び管状チューブ体が、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度-161℃の温度で冷却されるステップS2がこの順で実施されているもので、冷却されるステップS2が行われた後は常温(25℃)で保管されていたものである。なお、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度-161℃の温度は、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度-231℃の温度である。
【0076】
なお、比較例4~7、比較例8~15、実施例4~15の管状医療用具搬送装置の製造に用いられている管状医療用具は、形状記憶合金としてニッケル-チタン合金を含む素材から構成されるチューブをレーザーによって切り抜いて加工した自己拡張型ステントであって、管状チューブ体の管腔内に収納する前の管状医療用具の直径は10mm、管状医療用具の長さは100mmである。管状チューブ体はナイロン12によって構成される外層と、PTFEによって構成される内層とを有する。この管状チューブ体の内径は1.61mm、外径は1.81mmである。PTFEによって構成される内層の厚みは15μmである。また、管状医療用具である自己拡張型ステントの形状についても実施例と比較例は同じである。管状医療用具に含まれる形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度は-35℃である。管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は35℃である。加熱滅菌されるステップS3では、温度60℃、湿度60%で30時間、EOG滅菌を行った。
【0077】
表2では、比較例4~7、比較例8~15、実施例4~15の管状医療用具搬送装置において、管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重[N]を、37℃温水下でそれぞれ測定した結果(以下、「37℃温水下の摺動荷重」と記載することがある)、及び、比較例4~7、比較例8~11、比較例12~15、実施例4~7、実施例8~11、実施例12~15における37℃温水下の摺動荷重の平均を示している。また、
図4では、比較例4~7、比較例8~11、比較例12~15、実施例4~7、実施例8~11、実施例12~15における37℃温水下の摺動荷重[N]を棒グラフで示した。
【0078】
【0079】
表2及び
図4の比較例4~7で示すように、加熱滅菌するステップS3を行っていない管状医療用具搬送装置の37℃温水下の摺動荷重の平均は、5.91Nである。比較例8~11で示すように、加熱滅菌するステップS3を実施した後に冷却するステップS2を実施しない場合は、管状医療用具搬送装置の37℃温水下の摺動荷重の平均が6.97Nにまで増加している。また、比較例12~15で示すように、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度+39℃の温度、熱可塑性樹脂のガラス転移温度-31℃の温度に冷却するステップを実施するのみでは、37℃温水下の摺動荷重の平均は6.97Nのままであることが示されている。
【0080】
しかしながら、マルテンサイト相変態開始温度+3℃の温度、ガラス転移温度-67℃の温度に冷却するステップを実施した場合の37℃温水下の摺動荷重の平均は6.25Nで、加熱滅菌するステップを行っていない比較例4~7の37℃温水下の摺動荷重の平均(5.91N)の値付近まで減少していることが示されている。このように、冷却するステップS2における冷却温度をマルテンサイト相変態開始温度+3℃程度にすれば、37℃温水下の摺動荷重を加熱滅菌前の37℃温水下の摺動荷重の平均値付近まで低減させることができる。
【0081】
また、マルテンサイト相変態開始温度-45℃の温度、ガラス転移温度-115℃の温度に冷却するステップを実施した実施例8~11の37℃温水下の摺動荷重の平均は5.73Nである。さらに、マルテンサイト相変態開始温度-161℃の温度、ガラス転移温度-231℃の温度に冷却するステップを実施した実施例12~15の37℃温水下の摺動荷重の平均は5.39Nである。このように、冷却するステップS2における冷却温度をマルテンサイト相変態開始温度-45℃程度にすれば、37℃温水下の摺動荷重を加熱滅菌前よりも低くすることができる。
【0082】
さらに、実施例4~7、実施例8~11、実施例12~15により、冷却するステップにおける冷却温度を下げれば下げるほど、管状チューブ体と管状医療用具との間で生じる摺動荷重を低くすることが可能であることも示されている。特に、形状記憶合金のマルテンサイト相変態開始温度-161℃の温度であって、管状チューブ体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度-231℃の温度に冷却する場合(実施例12~15)は、形状記憶合金の殆どがマルテンサイト相に変態することができるため、摺動荷重を低下させやすくすることができる。
【0083】
上記のように、加熱滅菌するステップを行ったことで増加した管状医療用具と管状チューブ体との間の37℃温水下の摺動荷重は、加熱滅菌するステップを実施した後にマルテンサイト相変態開始温度+7℃以下で冷却するステップを実施することによって減少させることができることが示されている(実施例4~7、実施例8~11、実施例12~15)。
【0084】
また、37℃という温度は、人体の体温に近い温度である。上記の結果から、本発明の実施の形態に係る管状医療用具搬送装置は、人体の血管内に挿入された後でも、従来の方法で製造された管状医療用具搬送装置(比較例8~11)よりも摺動荷重を低くすることができるものであることが示された。
【0085】
さらに、加熱滅菌後に冷却するステップを行った実施例8~11の摺動荷重の平均及び加熱滅菌後に冷却するステップを行った実施例12~15の摺動荷重の平均は、加熱滅菌するステップを行っていない比較例4~7の摺動荷重の平均よりも低いものであった。このことから、加熱滅菌以外の滅菌方法を使用した場合であっても、ステップ1のあとで冷却するステップS2を実施することで、摺動荷重を低下させることができると考えられる。
【0086】
上記のように、本発明の管状医療用具搬送装置は、室温よりも温度が高い体内で用いる際にも、管状医療用具展開時に管状医療用具と管状チューブ体との間で生じる摺動荷重を低く抑えることができるものである。
【0087】
以上の通り、本発明の管状医療用具搬送装置、及び、管状医療用具搬送装置の製造方法は、管状チューブ体への管状医療用具のめり込みを抑制することができ、管状医療用具展開時の摺動荷重を低く抑えることができるものである。
【0088】
本願は、2020年8月3日に出願された日本国特許出願第2020-131676号に基づく優先権の利益を主張するものである。2020年8月3日に出願された日本国特許出願第2020-131676号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0089】
1: 試料
10: 管状医療用具
20: 管状チューブ体
30: 支持部材
31: プッシャー部材
40: 引張荷重を測定する装置
100:管状医療用具搬送装置
110:管状医療用具
120:管状チューブ体
130:操作部
131:サムホイール
140:内部シャフト
141:プッシャー部材